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第二章の6


 あれから2日が経った。なんのことは無い。佐乃との戦いでの負傷が原因だ。
 あの後、やはりというか自業自得というべきか丸一日、意識不明の重体に陥り、遼燕寺家かかりつけの闇医に世話になっていた。

 その後、意識が戻り、千鳥に預けていたストラスの指環に溜まっていた魔力を回復に宛がった後、医者の認識を操作し、指輪によって回復した手段をごく当たりまえのものとした状態で、その状態で診察させた。
 さすがに魔術師じゃない俺が指向性のない魔力を回復に宛がってもあまり効果は薄いらしく、完全回復、とまでは行かなかったが、ストラスの指輪を手にいれた際の宝石達に込められていた魔力を使い切ることによって日常生活ができる程度には回復し、診断の結果も同様に日常生活する分には問題ないだろう、とのことだった。

 とはいえ、この状態での激しい戦闘は闇医、そしてオロバスからも固く止められていた。
「今の大将の中身は米粒で接着してあるようなモンだ。
 過負荷がかかれば容赦なく剥がれ落ちるぜ。なに、明日になればストラスの魔力充填も終わる。
 それが終われば完全回復できるさね。
 指輪はそうさな…戦闘系の指輪以外なら片手で数える程度、くれぐれも同時起動はしちゃいけねェ…てトコだな」
 とはオロバスの弁。要は戦闘禁止令だ。
 仕方ない。ならばここの所、溜まっていた日常分のタスクをこなすことにしよう―――


 見飽きた天井を見ながらなんの気なしに言葉を紡ぐ。
「…佐乃、いるか?」
「は、お館様」
 んっ、と胸元の布団から、下着代わりの簡素な着物…白襦袢を着た佐乃が出てきた。生地は薄いのか下にある柔肌、そして白桃色の双丘の突起が少し透けて見ている。

 そう、あのあと佐乃はこのマンションに来ていた。
 箱入り娘だという所見があったが案の定、そうだった。が、それだけじゃない、佐乃の実家、遼燕寺家そのものが常識外れでかつ、時代錯誤だった。

 そもそもあちらは一人娘の佐乃を学園まで行かせるつもりはなく、最低限の教育で終わらせた後は縁組を行い、どこか名家に婿入りさせて後継ぎを据えるつもりだったらしい。
 今回の件はそんな遼燕寺家にとっても渡りに船だったようで体よく学園を辞めさせて俺を婿にとろうとしてきやがった。

 佐乃は「自分に命がけの勝負して負けた」と伝えたらしく、家人もまさか常識外れのトンデモバトルをいたとは思わず剣の試合をしたと思ったのだろう。マルコシアスの指輪をしていなくても師範代だったという佐乃を倒した逸材を手にいれようと礼もそこそこに俺を婿入りさせてこようとする連中が鬱陶しいので、というよりムカついたので起きたての痛む体を圧してダンタリオンの指環で「嫁入り修行の稽古の為の住み込み」程度に内容を代え、自分から帰らない限り向こうから干渉しないよう思考を変えた。
 場合によっては遼燕寺家そのものをどうにかしてやろうかと思ったが今はそんなことをしている場合じゃない、身体を癒し、他の指環使い達から指環を奪うのが最優先だ。

 それからまたしばらく寝ていたがその間に佐乃の部屋の準備やその他手続きは華南と千歳が終わらせた。と、俺の寝所で寝ずの看病をしていた本人達から話を聞いた。
 こういう時、大人を使えると便利だ。

 あとは―――
「……」
「?どうされました?お館様」
 きょとん、とこちらをまだ眠そうな顔で見上げてくる。
「…なんでもない」

 佐乃の母親に会った。ウチの妹と違って10年後が楽しみになった。
 夫は生きていたが未亡人臭が漂いまくりのイイ女だった。
 いっそ食おうかとも思ったが、辞めた。
 別に情が沸いた訳ではなく、体の調子が整ってから後で奪いに行こうと思った。
 あの人妻は手負いで相手にするにはもったいない。
 とまぁ、大体がこの間にあったことで昨日は懲りずに、というより寝すぎてヒマだったので誰でもいいから呼び寄せて相手をさせていた。たまたま最後に相手にしたのが佐乃だったらしい。
 あれほどセックスに飽きかけていたってのに何もする事がないとこの上ない退屈しのぎになった。

 というのがこの二日間の大体の経緯だったりする。
「お館様、もしかしてまだ傷が…!?」
 不安気に心配してくる佐乃を無視して俺は用件を切り出す。
「だから違うと言うに…なんでもない。じゃないな…オマエにこれを授けておく」
「これは……」
 佐乃の掌にはNo.35、マルコシアスの指環が在った。
「これからはその指輪の力も使って俺の代わりに他の連中を守護してやってくれ」
「守護?お館様…」
 今回の佐乃の一件やあの紅い女の時もそうだったがこれからの戦いは俺だけじゃなく、俺の周囲の人間が巻き込まれるのは明白だ。
 幸い、今まで連れに悪意をもって接近してきた指環使いはいなかったがこれからはそうとも限らない。
「せっかだけじゃなく他の連中も守護しろ。もちろん俺もガードはするが俺は攻勢に出るんでな」

 そこで一旦言葉を切る。
 佐乃なら最後まで話さなくても理解するだろう。
 その証拠に一寸の間をおいて佐乃はこちらに傅いてきた。
「はっ、ご用命承りました。我が命に代えましても―――」
「命はかけるな」
「……え?」
「命には代えるなといった。お前が守るべき連中もお前も命は一つだ。出来る限り生き延びろ」
「ですが……っ」
 それでも不服そうに声をあげる佐乃。
 佐乃にしてみれば主命に対して命を投げ出すことなど当たり前なのだろう。まぁ、オレにとっても当たり前のことだ。原則それでも問題ない。が、かといってかなわない相手に突っ込んだところでそれは猪武者のすることだし何より合理的じゃない。だからとりあえず釘をさしておく。
 それになにより―――
「守れ、とは言ったがお前よりも大事だ、とは言ってはいない」
「おっ、おやかたさま……」
 ぼっと音が聞こえるかと思うくらい一瞬にして顔を赤らめる。
「お前がどうしようもなくなったら俺が直々に出ればいいだけだ。
 だからお前は自分ではどうにもならないようだったら状況の改善と把握を努めて俺の手伝いをすればいい」
 この戦いで何より価値を持つのは情報だ。
 相手の能力さえ分かれば今の自分の手持ちなら大概対処できるだろう。
「は、分かりました。不肖、私、佐乃が全力を以って姫様方の守護を担わせて頂きますっ!」
 そう言ってその場で体を起こし、うやうやしく傅く佐乃。
 それを確認するとベッドから降りた。
 安静にしていなければならないがなにも日常生活を送っていけないというワケではない。言うなればインフルエンザの予防接種を受けた後の状態といったところか、激しい運動をしなければ問題ないとか、ああいう状態だ。
 そんな俺を呼び止めるような声が後ろからかけられる。

「それでっ…あのっ…お館さま…っ」
「ん、なんだ?もう用はないはずだぞ?」
「あの…
 さしでがましいのですが…もしよろしければ朝のお勤めを…」
「……お勤め?」
 朝?お勤め?
 まだ寝ぼけているのか佐乃が何を言っているのか分からない。

「ですからどうか御慈愛を…っ、この佐乃めに…」
 そう言って佐乃の視線が俺の目とある一点を行き来しているのに気付く。
 あぁ、そういうことか。
 視線が注がれていたのは朝勃ちしたオレの肉棒だった。
 時計を見る。まだ朝食には時間がある。佐乃を一回失神させて大丈夫なくらいの時間はある、か。
「昨日アレだけしたのにまだ足りないのか?」
 つーか昨日というよりは朝日が昇るまでヤっていた。
「あ、その、足りないといえば足りな―――なワケでなく、
 ああいったものはその、毎日でも…でなくて!」
 いきなり一人問答を始める佐乃。
 俺はため息をついて目を閉じる。
「冗談だ、俺もちょうど相手が欲しいと思っていたところだ」
「おやかたさま…」
 佐乃が顔を赤くなり、こちらに近づくと同時に 俯いて襦袢の帯紐を解いてこちらに操を開いてくる。
「その、佐乃をかわいがってくださいまし…」
 その古風な言い回しに俺は苦笑し、
「あぁ、朝から激しくするぞ?」
 そう言って佐乃をうつむいて何も言えなくさせる。
「ぁ、ぁの、ぉ願ぃします…」

「……」
 ―――あぁそうそう、ちなみにお前より守れ、と言ったモノ達の方が大事ではない、と言ったが、別にお前が特別大事ってワケでもない、というのを、忘れていたよ。
 俺はそんなコトを考えながら佐乃を抱き寄せた。


「佐乃、さ、こっちに来い」
「は、はいっ」
 小柄な佐乃の身体が俺の腕の中にすっぽりとおさまるとそのままこちらに背を向けさせた状態―――2日前、佐乃を初めて抱いた時のように俺の膝に座らせる。
 襦袢の上からでも形が分かるくらいにしこった佐乃の双山の頂を親指と人差し指で弄ぶ。

「はぁっ、んっ……!あぁっ!くふぅっ!」

 一晩中、玩んだ身体からは既につん、と性臭がし既に発情しきっているのか普段は道着に包まれている白肌はあます事なく桜色に火照っており、直接触れ合っていない部分からも熱気が伝わってきた。
 こちらを見る眼は潤んで口は無意識にだろう、綻んでいた。
 分かりやすく言うなら―――発情してる。

「ふあぁっ…おやかたさまぁ…」

 俺を求められる喜びに呻く。
 どうやら俺が寝ていた二日間の事が効いているらしい。
 俺が意識を取り戻すまで佐乃はこの部屋にやってくることを雪花から許してもらえなかった。
 それどころか強く責められたらしい。
 そこに事情を知る華南のとりなしがあり、というより使っていない部屋の一室を都合してもらったらしく、そこで俺が意識を取り戻すまで明かりも点けず正座して待っていた。と華南が言っていた。
 そんな針の筵の中、俺が意識を取り戻して実家からここに住まわせることにした。
 佐乃にとっては頼れるのは華南と俺しか頼るものはいない上に華南とはそれほど面識も無い。
 必然と俺に対する依存度が増す。というワケだ。

「にしても…」
 小柄な体躯に不釣り合いな巨乳が視界を邪魔して見えにくいが佐乃の女性器からは昨晩、俺がさんざん注ぎ込んだハズの白濁液が姿を消し、透明な粘液が股間の周りを覆っていた。
「昨日、あれだけ飲み込んだのにここはもう綺麗なんだな。
 どうした?シャワーで洗い流しでもしたのか?」
 俺の寝室には普通の風呂とは別に備え付けのジェットバスがあり、ここが高級マンションであることを物語っている。ちなみに行為の際はこちらを使っており、使っている回数の方もこちらが多かったりする。

「あぁあぅ…そ、それは…」

 恥ずかしがって眼をそらす。
 だが、文字通り身体ごと俺に身を任せている以上、言い逃れることはできない。

「言え」

 顎を肩において耳元で囁く。

「〜〜〜っ、その…お館様が寝てる間に、その…お、おな、にぃを…」

「したのか」
「ぁ…はぃ…お館様を見て匂いを嗅ぐだけで…からだが熱くなって…」
「匂いだけか?」
「ぃぇ…その…身体とか、寝顔とか、その…精液の味、とか、お館様の全部で、です」
 待て、いま佐乃のオカズに…
「…舐めたのか、オマエ」
「…はぃ…お館様のあの匂いを嗅ぐだけで切なくて切なくて…気がついたら…その…」
 自分の痴態を余すことなく口にし、恥辱を快楽に換えてしまう身体は敏感に反応し、蜜液は溢れる量を増し、佐乃の股間を伝い落ち、俺のあぐらをかいた足とその中のシーツはおもらしをしたかのように濡れきっていた。
 …そうだな…

 ふと、面白そうなことを考えつく。
「…そうか、つまりオマエは自分の主人をネタに自慰行為にふけっていた、そういう事だな?」

「ぃ…いえ、そんな…」

 びくっ、と身体を震わせる。
「事実だ。ところで、そんな従者が赦されると思うか?」

「も、申し訳ありませんっ!ゆ…許されるわけありませ、ん…っ!」

 乳首を少し強く摘まれ、俺の腕の中でみじろく。
「だよなぁ?赦されない。罰が必要だな?」

「…ぁ、はいぃ…佐乃に…卑しい佐乃に罰を…罰を与えて下さいぃ…あぁ…っ」

 被虐されることを想像しただけで身体を打ち奮わせ、牝の笑みが佐乃の顔に浮かぶ。
「あぁ、分かった。
 だが、その前にシャワーだ。今からヤったんじゃシャワー浴びる時間なんか無いぞ」

「匂い…ですか?」

「一晩中ここにいたからマヒしてるだろうがかなり匂うぞ」

「そう、なんですか?」

「あぁ、ほら、風呂まで連れてってやる」
 そう言うと俺はそのままの格好で―――子供におしっこをさせるような格好で佐乃を持ち上げる。筋肉質な上に不釣り合いな持ち物をもっているせいか見かけによらず重い、かと思いきや軽い。

「〜〜〜っ」

 恥ずかしそうになにか言いたそうにするがそれも黙って受け入れようとする。
 …そういや佐乃に対して恥辱は修行の一つとして耐えるようにしてあったんだっけな。
 これはこれでオモシロい。
 心や顔では歯を食いしばって耐えてはいるが身体、特に下半身はまるで言うじょとを聞いてくれて無いかのようにこの態勢にはしたなく反応し、尻穴を伝い俺の足に落ちる液の量が増えている。
 浴室前の洗面台には大きなミラーがあり、足を拡げられ、あられもなく自分の濡れてヒクついた自分の蜜壺を見せつけられると焦ったように手足をばたつかせる。が、俺はびくともしない。
「おっ、お館さま…っ、はやく…っ!」
 だが、俺は足を止める。
「どうした?佐乃」
「あぅあぅぁぅ…は…はずかしぃです…っ」
 顔に手を当て、これ以上ないくらいに恥ずかしそうな表情をあげる。
「でも、佐乃はこれがいいんじゃないのか?洗面台にはしたない液が垂れてるじゃないか」
「〜〜〜〜っ!」
 オレに抱えられてから、いや、洗面台に来てから、鏡の前に立ってから佐乃の秘裂から垂れる恥液の量は増していた。
「ほら、よく見ろ。オマエのここは喜んでいるみたいだなぁ…?」
 そう言って鏡によく映るよう足を更に広げ、くぱぁ、と佐乃の淫唇を糸を引いて開かせる。

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ」

 声にならない声をあげて首を振る。
 声にあげないならあげないでいい。ここで立っている目的は他にある。
 それはここに立って2分ほど、突然現れる。
 ぶるっと腕の中で佐乃が震え出す。
「お…おやかたさまぁ…あ…あのぅ…」
「なんだ?」
「あの…いったん下ろしていただけませんでしょうかぁ…っ」
「なんでだ?」
「あ…あの…その…」
 足をもじもじと揺らしながら顔がすぐ近くにある俺にも聞こえないくらい小さな声でなにか言う。
「なにを言ったか聞こえない。佐乃はここが気に入ってるようだしな。もうしばらくこうしていよう」
「っ!ですからその…っ」
 どうしても言えないらしい。
 佐乃にとってはそちらの方が恥ずかしい、か。
 そしてそれから30秒後。
「…と…トイレ…」
 ぼそっと、ようやく俺に聞こえる声で訴えかけてきた。
「おやかたさま…その、トイレに行かせて下さいぃ…っ」
 もはや涙目になってこちらを見上げて訴えかけてくる。かなり我慢が限界に近いようだ。
 そう、オレの部屋は空調が効いていて暑くも寒くもない。それは浴室前でも同じ事。
 だが、そんな温まった空気に慣れた身体が宙ぶらりんのままで頻繁に水が使用され、冷えた洗面所の空気に当てられればどうなるかは自明の理。
「トイレ、か?」
 こくんこくん、と頭を縦に振っては愛液がぽたぽたと洗面台のくぼみを外れて飛び散る。
「それは―――小さい方か?大きい方か?」
「―――っっっ!!!」
 よもやこんなことまで聞かれるとは思っていなかったのだろう。
 真っ青になる佐乃。
 だが、それは表情だけ。
 そう―――鏡に写った佐乃の股間からは更に恥液が湧き出ている。
 何もいえない佐乃。だが、待っていても事態が悪化するのは明白、しばらくしない内に再び佐乃が声をあげる。
 目じりには涙がたまっている。
「ち、ちぃさぃほぅですぅ…」
「小さい方?」
「ご…後生です…っ、ぉ…ぉしっこ…オシッコに行かせてくださいぃ…」
 もう半泣きで訴える。
 だが、自覚はないだろうが佐乃の陰唇はまるで自分からヒクついて膣中が見え隠れしている。
「ガマンできないのか?じゃあ、ここでしろ。ちゃんとオレに抱えられておもらしするする姿を見るんだ。これも―――修行だ」
「こ…これも修行…っ!い、いや、だめッ!ダメなのに…あぁ…修行だから恥ずかしいのに耐え…あっ!だめっ!おやかたさまの前でおもらし…おもらし…だめっ!だめっ!ダメなのに…あっあっあっ、おしっこっオシッコ出るううぅぅぅっっ!!」

 プシャアアアアアァァァァァ

 ゴポゴポと洗面台に黄色い液体が飲み込まれていく。

「ぃやぁ…とまれっ…止まって…欲しいのにぃ…っ!
 出ちゃ…出ちゃ…えっ、なっなにか来るっ!あっ、あっ、あっ、あああぁっ!」

 ミラーに透明な液体がふりかかる。

「ぁぁぁ…なんてはしたないマネをぉ…っ、あんなにはしたないのに気持ちよくなってぇ…ッ」
 息も絶え絶えに懺悔するが今の絶頂で力は入らないらしい。

 俺はそのまま佐乃を抱えて浴室に着くと、絶頂後の余韻にふけっている佐乃を風呂椅子の上に乗せ、シャワーを手に取り少し温めの設定にしてお湯を出し、佐乃の真上から浴びせる。

「んっ!ぷはっ!お…っ、おやかたさまっ!」

 絶頂後の余韻から戻って来るなり声をあげてくる。
「ん?なんだ?」

「体を流すのは私の役目…っ!」

「安心しろ、オレを洗うのはオマエにやってもらう。その前にお前を軽く濡らさないとな」
 そう言ってボディタオルにソープを付けると無造作に佐乃の身体を擦り、泡立てる。

「んっ、ふぅ…っ、ふぅんっ…っ」

 火照った身体に冷たいソープを付けられ、声をあげる。
 その上、出来上がっていた身体がただ洗うだけでは届かない所への刺激を求め、もじもじと刺激のを求める場所を自分の身体を洗うタオルに触れさせようとするものの、俺の手はそんな佐乃の感部に近づくだけ近づいて触れるかと思い、佐乃の期待が最高に高まる瞬間に手を逃す。

「んっ、ふぁっ、んんん…んくぅんっ!」

 もどかしそうな声をあげるが俺の手は決して佐乃の求める場所には届かない。
 自慰行為を咎められている以上、俺の前で自分で自分の性器を弄ることもできない。

「お…やかたっ…さまぁ…」

 そろそろ限界なのだろう、残った力で声を振り絞って俺に助けを求める。
 言っただろう、コレは罰だと。
 すっ、と俺は手を引いて佐乃を立たせる。

「あ…っ?」

「さ、その身体でオレを洗え」

「…っ!はいっ」

 もどかしさから開放されたような声をあげ、俺の体を自分の身体を使って洗い出す。柔肌が吸い付くように俺の肌を擦りあげて洗い上げていく。
「んしょっんしょ!」
 だが―――

「な…んで…?」

 佐乃の身体は俺の身体を擦りあげていく。
 が、泡のついていない部分、つまりは佐乃の最も俺に密着させたい部分が俺に触れさせることが出来ない。
「泡のついていない部分を触れさせる必要はないだろう?」

「そ…そんな…っ!」 

 そう、洗っている最中、泡のついていない場所は触れることのないようにした。
 だから佐乃が触れているのは手や腹部や、それに大腿部に乳首以外の胸部になる。
 恥辱では罰にならない佐乃にはこういう事のほうが効果的だろう。
 実際、佐乃の方も我慢の限界に達したのか満足に動けていない。

「お…おやかたさまぁ…っ」
 佐乃が情けない声をあげて俺に許しを乞う。
 …仕方ない、ま、罰ってのも半分方便だったしな。
 
「―――佐乃、どこがもどかしい?」

「…っ、そ、その…ぉ、ぉっぱぃですっ」

「それだけか?どこが、一番、触れたいんだ?」

「ち…乳首ですぅ…」

 佐乃が初めて具体的な局部を口にし、それが浴室に響き渡る。すると―――

「ひぁうっ!」

 完全に出来上がり、硬くなった佐乃の乳首が初めてオレに触れる。
 触れさせたくても触れさせられなかった場所が触れ、佐乃の期待はいっぺんに盛り上がる。
 そして、再び佐乃が更なる期待を持って触れさせようとするものの、狙いが定まらず、双丘が触れることはなかった。

「お…おやかたさま…?」

「…」
 二度はいわない。

「…ち、ちくびっ」

 くにゅんっ

「ふぁあっ!」

 どうやら仕組みを理解したらしい。
 そう、もし佐乃が俺にそこを当てたいというのならこの浴室に響き渡るくらいの音量でその場所を言わなきゃいけない。
 しかも制約はまだある。

「乳首、ちくびっちくびっ…っ、ちくび…あ、あれ…?」

「あぁ、同じ言葉は5回までしか使えないぞ」
 バカの一つ覚えで連呼してもそれじゃ面白くもなんともない。
 ボルテージが上がったらそれもいいかもしれないが何しろこちらは佐乃の身体を洗っただけだ。
「勘違いするな。オマエは罰としてオレが気持ちよくなる為に洗っているんだ。
 オマエのオナニーに付き合う趣味はない」

「は…はぃ…」

 しゅん、とするがそれでも身体を擦り付けるのを止めようとはしない。
 少しは俺に対して奉仕しようとする気はあるようだ。

「…代わりに、似た様な単語でも使えるぞ。

 ほら、分かったらそのエロ乳首でもなんでも使ってオレを洗え」

「…っ!はっはいっ!え…えろ乳首を使…っひうぅっ!」

 言った側から擦り付けてくる。

「あぁぁ…お館さまに佐乃のえろ乳首がぶつかって…はあぁ…っ」

 感極まってうわ言のように呟く。
 そしてひとしきり落ち着いたのかようやく佐乃の視線が俺のモノを捉える。
 一晩中、いや、一日中誰かの膣中に突っ込まれていた俺のイチモツは湯を流しただけでは抑えられないくらいに混ざり合った淫液の香りを漂わせていた。
 それどころかシャンプーなどの香料のせいでかえってその臭いが顕著に匂う。
 佐乃がそんな俺の肉棒に顔を近づけると口が閉じられ、呼吸が鼻主体のものになると、スイッチが更に一段強くなったようにそれまで意思を強く感じさせていた表情が蕩けて行く。
 本人は悟られまいとしているようだがこの状況でそれはない。
 そんな痴態に本人も気付いているのだろう。臭いを嗅いで発情し、それを知られるという更なる痴態にぞくぞくっと何も触れていないのにビクつく。

「そっそれでは失礼し…」

 だが、俺はそれを許さない。
「待った。
 手を差し延べて奉仕しようとする佐乃を止める。代わりに―――
「壺洗い、って知ってる…ワケないか。佐乃、そこは自分のを使ってオレのを洗え」
 もちろん、佐乃の秘部には泡はついていない。一見、無茶な命令だが佐乃に拒否権は、ない。

「はいぃ…お、おやかたさまのおチンポを佐乃の卑しいおマンコで洗わせて戴きますぅっ」

 そう言って風呂場に響く自分の淫語にびくんっ、と反応しながら佐乃が自分から愛液まみれのヴァギナに俺のチンポを埋めて行く。

「はっ、んん…っ、くぅんっ!はっ、はっ、はぁっ」


 ぐにゅううぅぅぅっ

 佐乃の膣道は狭く蕩けるような熱をもって侵入して行く俺をきゅうっと歓迎してくる。

 ぬっ…ちゅぅっ…くぽっ……んちゅうぅっ…

「お、おやかたさまぁっ、おやかたさま…っ」

「ほら、挿れるのが目的じゃないだろう?さっさと洗え」

「はっはいぃ…」

 応えるように佐乃は自分の腰を回し、力が入らなくなりかけているヒザを折り曲げして抽挿を繰り返す。

 ぬちゅっ、ちゅぱんっ、ちゅぶっ、ぐにゅうぅっ!

「はっ、ふぅんっ、はっ、んんんっ!」

「佐乃…また俺を使ってオナニーか?」

「ちっちがっ違いますぅ…っ!、お、おやかたさまのおっ、おチンポを佐乃の恥ずかしいマンコで洗わせて頂いていますぅっ!」

「だったらもっと激しくしろ。泡が出てないじゃないか」

「はっはいぃ…っ!」

じゅぽっ!じゅぽじゅぽっ!じゅぽじゅぷじゅぷぅっ!

「きうぅっ、ひあっ、ふぅん…っ、はっは…っ、んっ!くぅぁっ!」

 激しさが格段に増し、接合部が卑猥な音を立てながらだんだんと泡立っていく。

 ちゅぷっ、じゅぼっ、ちゅぶっ、ぐちゅぅ…っ!

「ふぅぅっ、おやかたさまちんぽ、ちんぽっ、チンポぉ…っ!」

「……」

「あ…っ!」

 そこで俺はワザと佐乃の蜜壺からペニスを抜く。
 と、佐乃は勢いで挿れようとするが身体がそれを許可しない。
 慌てて呂律が回らなくなりかけてるその口で淫語を紡ぐ。

「〜〜〜らっらめですぅっ、えろまんこっ!さののっ!ふくぅっ!エロまんこに…っ!おチンポッ、太チンポっ、お館さまチンポっ、佐乃のチビまんこに入れて下さいっ!」

 まるで自分に言い聞かせるように言いながら自分で俺の肉棒を求めるように股間を押し付け、埋もれさせていき、俺が再び奥の壁をずんっと突いて肉棒を引き抜くと再び自分の秘語を浴室に響かせ、再び押し付けてくる。
 しかも、佐乃が淫語を口にする度にただでさえ狭い膣道がきゅんっと締まり、俺の挿入をより強引なモノにし、大和撫子体質…マゾ体質がさらにそれを求め俺の形に抉られていく。
 
「お…っ、やかたしゃまぁのっ、かたちにぃ…っっ、拡げられてえぇっ!」

「ほらっ、なにがっ、どんなかたちにっ、なってるんだっ!」

「さのっ、さののっ!佐乃のおマンコですぅっ!佐乃のしっ、しきゅうこぉっ、しきゅっこぉに…っ、ごりっ、ごりごりってぇ…っ♪」

 佐乃の顔が悦びに満ち、いつの間にか自分の感じたい場所を自動的に言うようになっている。

「……―――」
 つぷっと俺の指が佐乃のまだ使われてない穴に触れる。

「んふぅあっ!そっそこは…っ。おやかたさまぁっ、かんにんですっっ!」

 感じながらも焦ったような声でこちらを止めようとする。
「そこじゃ分からない。ほら、どこ、だ?」

「…おぅ…んっ!おシリですぅっ!ふぉあああっ!」

 言うが早いか今までで一番大きい声で喘ぐ。
「ダメだって言ってる割にはこっちはオレの事を嫌ってないようだぜ?」
 そう言って佐乃のアナルに入ってる人指し指の第一関節を折り曲げると佐乃の未開発の処女穴がヒクついて指を離さないように締め付けてくる。

「ふおぉっ!だっダメですっ、そんなの汚いぃ…っ」

「気にしない。まぁ、イヤだって言うんだったら―――」
 すっ、と離す。
 
「あ…っ」

 物欲しげな声をあげる。
「どうした?止めて欲しいのか?」
 はっ、として首を振ってみせる。

「いっ、いえっ、そんなことは…っ」

「そうか、じゃあ、続けて洗ってくれ」

「は…はいっ」

 そう言って再び自分の肉壺への抽挿を再開する。
 が、しばらくすると挿入できなくなり、佐乃の硬くなった部分が触れなくなってくる。
 俺が一度、佐乃の子宮口を突くとどんなに締め付けてきても強引に引き抜いていた為だ。
 その上、圧倒的にコッチ関係のボキャブラリーが足りてないのだ。ムリもない。

「ふぅ…っ、くぅんっ」

 もどかしそうな声をあげながらもなんとか身体を擦りあげてくる…が、考え付く限りの淫語をあられもなく喘ぎ、既に昂まりきった体が冷める事を決して赦してくれない。
 だが、クリトリスも秘裂も乳首も思いつく限りの言葉をこの風呂中に響かせてしまった。
 
 残るは…
 ごくり、と佐乃が唾を飲む。
 そう、残るは未だ俺に貫かれていない肛門のみになる。
 佐乃に肛虐への不安が募る…が、さっきの俺の指の挿入が楔になってその不安を打ち消していた。
 あの時、佐乃の口はダメだと言っていたがしっかり感じて悦んでいた。
 しかも、自分からではなく、俺から弄ってきた上に、こちらも性器になると俺に教えられた。

(ここでもキモチよく…なれるんだ…って、いかんいかんっ、何を考えているんだ私は…っ!
 …だけどお館さまはこちらを弄って不浄の場所なのに…気にしないって…ああぁ…)
 
 思わず緩みそうになった口を思い直してきゅっと引き締める。が、それだけで火照った身体は許してはくれない。無意識に綻んでしまう。
 更なる快楽を、更なる恥辱を身体が、心が欲しがってしまう。

「お…っ、おやかたさま…っ」

「なんだ?」

「その…後ろの穴でも…き、嫌いになったり…」

「好きにしろ」
 もう少し焦らしたいがこの後のことを考えるとそろそろタイムリミットだ。

「そ、それでは…その…しょっ処女を…っ、佐乃の後ろの処女を…貰って下さいぃ…っ」

 困ったように眉をひそめながらも嬉し恥ずかしそうにそう言ってつぷっ、と俺の肉棒と自分のアナルにキスをさせ、そのまま埋めていく。

「ふぁっ、ほぅ…っおおおぉぉぉ…っ!」

 ほとんど開発していない佐乃の処女肛に俺の反りたった肉塔が吸い込まれていく。
 互いの愛液に濡れて挿入そのものは問題ないものの、初めての異物の挿入に佐乃のアナルは痛いくらいに締め付けながら蠕動し、動かなくてもしっかりとこちらの射精を促してくる。

「はっ…ふぅ、ふぅ…っ、んふぁ…っ!どっ、どうですかはぁ…っ!?」

 アスモデウスの力を使用した前穴と違って肛門はまだ調整はしていない。
 なのに前穴や昂ぶり敏感になった身体の触覚がムリヤリ苦痛を快感に変えてしまう。

「あぁ…初めてにしては気持ちイイぞ」

「よ…よかったぁ…っ」

 ここまでやっておきながら佐乃の心から流れてくるのは安堵だった。
 尻穴という不浄の穴を使うこと、そしてそこに主である俺の肉棒を入れること、そこで快感を得ることに背徳感を抱いていたらしい。
 だが、それも俺に問題ないといわれ、その後ろめたいキモチと穴という穴の処女を俺に捧げたという事実が綯い交ぜになって新しい情感を身体の芯から快感を産み出す。

「こ…こんな所で…っ、キモチよくなっては…っ、らめなのにひぃ…はあぁっ!」

 ずんっずんっ、と際限なく埋めこめる肛虐の特性を活かし、俺のモノを根元まで打ち込むとそのまま佐乃の身体を揺らす。

「ふぁっほおあああああああぁぁぁっっ、ずんっってぇ…っ、ずんっってくるうぅ…っ!」

「ほら、感じてないでさっさとオマエのケツマンコでオレを洗え」

「は…はひぃ…っ、佐乃の…さのの処女のけ…ケツまんこでお館さまのおチンポを…っ、洗わせて戴きますう…っ!」

じゅぼっ、ちゅぶっ、ぐちゅぅっ、ぬちゅんっ!

「はあぁっ!けつまんこっ、ケツマンコぉ…っ、しょっ、しょじょなのにひっ!キモチイイですぅッ!」
 浴室に佐乃のあられもない喘ぎ声が響き渡る。
 だが、佐乃の理性は既に半分トんでいて逆に自分の奏でる淫語の響きを聴く度に自分の性器を収縮させ、オレの肉棒を亀頭のエラが肛門に引っかかると今度は逃げ出さないよう、抜ける再び根元までしっかり締まりきったアナルを押し広げさせていく。

 ぬちゅぅっ!にちゅっっ、ぬちっ、ちゅぬぅっ、ぬりゅう、ずっ、ぬぅっ、にちぃっっ!

「そろそろイくぞっ、どこに出して欲しいっ!?」

「けつまんこっ、ケツマンコにぃ…っ、ふぁ…っ、佐乃のはぢめてのけつまんこにおやかたさまの熱いおチンポみぅくっ、ざーめんっ!どぴゅどぴゅってぇ…っ!中出ししてくだしゃいぃっっ!!」

「くっ!」

「いっ!ふぁあああああああああああああああっ!」

 びゅくんっ!びゅくっ、びゅーっ!びゅくっびゅくっ、どくっ、どくどくっ!どぷうっ!

 佐乃のアナルが俺の形にまで締まりきった状態で蠕動し、ペニスとその中に流れるものを欲しがるように擦りあげる!

「でっ、出て…っ!おやかさまのちんぽみるくっ、ケツまんこでてるぅぅぅぅっ!!
 はあぁっ…っ」

 そう叫ぶと佐乃は糸が切れたように脱力し、風呂床に倒れる。
「ふぅ、ふぅっ、と…、どーすんだ、コレ…」
 そう言って肛門からだらしなく精液を流して失神した佐乃を見て俺は頭を掻いた。

「っ……おやかたさま?」
「起きたか」
 失神した佐乃が起きたのは湯船に浸かった俺の腕の中だった。
 あの後、浴室の床の上にくてっと倒れた佐乃の身体をなんとか起こし、そのまま下半身周りを軽く洗い、俺も自分のことを洗って浴槽に浸かっていた。
 ちなみに乳が湯に浮かぶのを初めて見た。
「ぁっ、ぁっ、ぁっ…ぉ…お尻で…っ、あぁ…私はなんてはしたないマネを…」
 さっきまでイタしたことを反芻して佐乃が真っ赤になってぶくぶくと顔を半分湯に沈める。
 が、そんなことを意に介さず俺は口を開く。そう、そろそろ時間だ。
「それよりも、もう時間がない、なるべく早めにあがれ」
 それだけ言い残すと俺は浴槽から上がった―――


 未だ苦悩する佐乃を伴ってダイニングに下りると従僕達が朝餉の準備を完了させていた。
 …気のせいか雰囲気が刺々しい。

「おはよう、お兄ちゃん」
「あぁ…」
 華南と千歳を除いて俺にだけ挨拶してくる。隣の佐乃は意識にないという風に。
 …あぁ、そうか。

「オマエ等、紹介する。
 1年の遼燕寺 佐乃。先日からここで住み込むことになった」
 俺の紹介にちょこん、とばつが悪そうに佐乃がお辞儀をする。
「お兄ちゃん…」
 雪花が何か言いたそうにする。
 心を読まずとも言いたい事は分かる。俺が生死を彷徨ったのは誰でもない。俺の隣にいる少女が叩っ斬ってくれたおかげだ。本人も黙っていればいいのにそれを馬鹿正直に教えてしまっている。
 …決して安静にしていなければならない状況で朝からシていたからではない、と思いたい。

「関係ない。誰だ、とは言わないがこの中にいる何人かとも似たような事は前にもあった。
 今回はたまたまオレがヘマしてここまでこうなっただけだ。これからもあるから心積もりだけはしとけ」
 一通り言うと心当たりがあった華南とみなぎを見る。
 と、鋭いヒールで蹴りを浴びせてきた華南は少し困ったように微笑んで、イスでブン殴ってきたみなぎはあからさまにあっちを向いて目をそらした。
「…ま、そんなワケだ。
 すぐに、とは言わないが出来る限りとっとと仲良くしろ。ちなみに……見苦しいマネはするなよ?したら―――追い出すぞ」
 機嫌が悪そうに言い含める。
 ここにいる大半は俺が心を読めることを感じ取っている。これで釘は刺さったハズだ。
 あからさまな脅しだがあとは時間が解決するだろう。
 ったく、当事者の俺がもうどうでもいいっつってんのになんでいつまでも引きずってんだか。

「ほら、とっとと食って学校に行く仕度をしろ。
 準備期間とはいえ車を警察に止められて遅刻なんて洒落にもならない」
「うぅ…っ」
 そう、案の定、千歳は登校中に警察に呼び止められていた。
 おかげで乗っていた生徒共々遅刻して職員会議でこってり絞られたらしい。が、まぁ、最初っから分かってた答えだ。
「お兄ちゃんはどうするの?」
「オレは…少し寄り道してく。どうせ学園に言っても誰も来ない図書館で司書の真似事してるだけだからな」

「―――なら、少し手伝って欲しいんですが」
 声がした方―――リビングの入り口を見るとひかりが剣呑な口調と視線でこちらを見ていた。
「珍しいな、俺のところまで来るなんて」
「べっ、別に貴方に会いにきた訳じゃありませんっ。
 先生に了解を貰わなければならない案件があったのに誰かさんのせいで昨日、貰えず仕舞いだったから貰って発注してから学園に行くことにしたんです」
 歯に衣を着せずに説明をしてくる。
「じゃあ、それに付き合うか?」
 一緒に行く、という単語に先日のショッピング(もどき)を反芻したのだろう、途端、顔が赤くなる。
「…っ、結構です!
 それより…ほっつき歩いてくるなら休んでいる人たちに声かけをお願いします。実際に怪我をしたり病気だった方達にはお見舞いを、自宅学習、もしくはそれに類似した行為をしている方々にはこちらへ来るよう要請をお願いします」
 つまりは指輪を使ってそう仕向けろ、って事か。転んでもタダじゃ起きないこの姿勢には感心する。

「了解。千歳、千鳥、それでいいのか?」
「え、あぁ…うん、十字がそうしてくれるって言うんだったらきっとそれがいいんだと…思う」
「私もここ数日、連絡は貰ってるんですけど見舞いにはいけなかったんでご主人様がそうしてくれるんだったら助かります」
「で、どいつらが休んでるんだ?」
「こちらにまとめてあります」
 そう言ってこっちに一枚のプリントを渡してくる。
「…準備がいいこって。えーと…」
 地区ごとに整頓され、各々の家の地図までプリントアウトされている。
 内容から察するにおそらく上から書かれた順に回っていけば最短ルートで回れるよう作られているに違いない。
 数は8名。そんなに多い数じゃ、ない。
 だが、実際に学園祭の準備において作業する人数、部活組が別れることを考えればこの人数がいるのといないのとでは雲泥の差になる。

「じゃ、私は途中までご主人様と一緒ってコトで♪」
 そう言って調子よく便乗してきたのはくいなだった。
 ちなみにくいなはその広い人脈を使って宣伝に走り回っている。というのは建前で情報収集のかたわら、そういうことをしている、と言った方が正しい。
 本来、そういった仕事は実行委員会の広報の仕事なのだが実際にこの街に貼られている学園祭とウチのクラスのポスターの半数以上はくいながバラ撒いた物なのでひかりも渋い顔をしつつもその働きを認めないワケにはいかなかった。

「はぁ…分かりました。で、貴方はどうしますか?」
「午前中には回り終わるだろ、午後から学校の方の手伝いをする」
「お兄ちゃん、お弁当は?」
「いい、途中でなんか食ってく」
 寝ていたこともあるが最近、ジャンクフードとは無縁の生活を送っていたせいか機会があったら食べたい衝動に駆られていたので渡りに船だ。

「あぁ…あと最近、物騒なんでな。
 せっかに千鳥に千歳、オマエらは佐乃と一緒に登校してくれ」
「…分かりました」
 まだ不満を隠し切れないのか少し間を置いてそれぞれが答える。
 仕方ない。指環使いがどこから狙ってくるとも限らないのだ。
 佐乃はというと、さっきの寝室のやり取りが効いているのか気弱な少女のそれではなく、出会ったころの剣士としての顔になっていた。この状態なら心配は無い、か。

「あ、あと、ひかりとみなぎも。できる限りコイツ等と一緒に登下校してくれ」
 これはあくまでみなぎを護衛につかせる為だ。
 ひかりもそんな俺の言葉に何か感じ取ったらしい。不承不承、わかりました、と応える。

「ご主人様っ、アタシは?」
「オマエは朱鷺乃家に不法侵入した時の二の足を踏まなきゃいい」

 とはいえ、指環使いと接触する確率がズバ抜けて高いのはコイツ―――くいなだ。
 だが、くいなに関しては任務の都合上、常にガードをつけておくような行為が出来ない、というのが正直なところだ。
 なので[闇の王の命令]で本当に危険だと感じたときには手を引くことと、その際、危険が迫ってきたら肉体の生理的限界を超えて活動できるよう細工を施してある。
 まぁ、焼け石に水だが仕方ない。

「じゃ、くいな、30分後にエントランスで待ってろ」
「はいっ!」
「いいなぁ、くいなさん…」
「えっへへー、情報収集はアタシの十八番だからね〜」
 ふぅ…姦しい。
 俺は周囲が喋っている間に食事を終わらせ、いまだ姦しさが抜けない食卓を後にして自分のプライベートルームに向かった。


 エントランスに下りるとそこにくいなはいなかった。
 当然と言えば当然だ。約束の時間まであと15分はある。
「……」
 過度の採光をしないよう設計されたエントランスは初夏の朝日をほとんどカットし、外から吹き抜けてくる風によって涼しさすら感じさせた。
 と、ちょうど外に赤い車がやってくる。
 千歳の車―――VOLVO260だ。

「にしてもVOLVOとはまた渋い…」
 その世界一安全という重厚なフォルムは意外にも金髪の千歳とマッチングしていた。
 なんでも祖父たちが地元、と言っても3人が外国人なのでおそらくは向こうの地元、北欧ということだろう、そこから初期ナンバーの逸品をチョイスして就職祝いとしてプレゼントしてくれたらしい。
 あのメーカー、現在では米国の某メーカーに買収され、タダの高級車メーカーのブランド名になってしまったものの、旧き善き旧世紀、買収される前まで本国、スゥェーデンで生産された車体は過剰と言うべきか、それともユーザーの安全を追及した結果からか、その車体はドアにも厚さ数センチのスウェーデン鋼が仕込まれ、我が国産の軽自動車には軒並み当たり勝ちするというポテンシャルが秘められている。
 代わりにそれによって比例する燃費の悪さと燃料が高い為、自転車で通勤していたがここに来て無料の地下駐車場があるので実家から持ってきたらしい。
 意外に車好きらしく、最近では給料の大半をつぎ込んで内装と内部駆動制御系を無理矢理弄っており、千歳の身長に合った運転席は元より、黒皮張りの座席に最新式のデジタルモニターがつけられている。
 あのクラシックさがいいのに…全くもったいないマネをしている。
 まぁ、それもオトナのオンナ志向だった千歳らしかった…のだが、車内に置かれたヌイグルミがその雰囲気を物の見事にブチ壊しにしている。
 まだ普通のサイズならいいが、本人と同じくらいのジャンボサイズのクマのヌイグルミを休日のショッピングの際、シートベルトをつけて助手席に座らせているという暴挙を発見し、からかって泣かせて周りに責められたのも今になっても苦い思い出に他ならない。
 そのヌイグルミも今では、同乗する娘たちのオモチャにされたり、俺のチョップの練習台になっている。ちなみにチョップをすると泣きそうになる。ので泣くまでやっている。オレ、外道。

 余談だがそのクマには俺の名前がつけられていたので改名させた。
 一人運転している際に恋人ごっこする位ならまだ許容範囲限界ギリギリだったが、偉ぶって授業中に命令する練習までしていやがったのでヒドい目に合わせた挙句、今度発見したらハンドブレーキを悪趣味な金の男根の張り子にすると脅しつけたら即日で言うことを聞いた。あぁ、人間素直が一番だ。
 それでも俺の名前の一部と思しき文字が使われているがそれくらいは大目に見ている。
 代わりに、千歳の私室に同じヌイグルミを置いてそちらの方には傅いて奉仕の練習をするよう思考を変えた、が、たまたま起こす機会のあった華南曰く、抱き枕になっていたらしい。…まったく、つくづくお子様で手がかかる。
 だが、まぁ、他の大人連中同様、冷めて面白くもない連中になるよりかは何倍もマシだ。
「…にしても、あの内部のミスマッチさえどうにかすればなぁ…」
 半ば呆れて呟くがそこまで強制する気もない。そんなのは自分が免許を取って車を手に入れた際にこだわればいいことだ。
「あ、ご主人さまっ」
 車内からハンディクリーナーを持って降りてくる。
 俺はそのまま制止させ、車内の掃除を続けさせる。
「…今日もそれで行くのか?」
 昨日はそれで遅刻し立ってのに。
「はい!狭い分、遼燕寺さんも打ち解け易くなるかもしれないですし!」
 …成る程、な。
 ま、逆効果になる気がしなくもないがそんなのはやってみなけりゃ分からない、か。
「大変だな、センセイも」
「好きでやってることですから」
「そか」
「はい」
 朝日ながら夏の日差しは強い。セミの鳴き声と赤のボディーがその暑いというイメージを強くする。その赤一面に小洒落て白抜きされた聖人の名前のスペルが日差しの強さに比例して輝いて見えた。
 車の中の助手席に乗ったヌイグルミがこっちを見ている。
 しばらくヌイグルミとにらめっこをしていると千歳が突然、意を決したかのように緊張した声をあげた。
「あの、ご主人様っ」
「ん?」
 運転席から身を乗り出し、どこか怒ったような表情でこちらを見てくる。
「こ、今度、ドライブ行きませんか?その…ふ、ふたりで…」
 …蛇足に本来の要望を混ぜるあたり、なかなか面白い。
「夏休みになったら、な。それまでは教鞭を振るうのに集中しろ」
「はいっ!」
 嬉しそうに笑うとそのままやってきた雪花と千鳥、そして佐乃を乗せて出発していった。

 ひかり達は…学園との送迎用のみなぎの父親の車が無い。
 そういやどっかに発注に寄ってくとか言ってたっけな。どうやら既に先に行ったらしい。
 ま、今日みたいな車での移動なら問題も無いか。

 俺はそのまま赤い車体を見送り、エントランスに戻るとノックも無しに華南の仕事部屋に入室した。
「華南、いるか?」
「あ、ご主人様、お体の具合はいかがですか?」
 華南はというと別段慌てた様子も無く仕事着―――萌黄色のエプロンを装着している最中だった。

「ん、オマエさんが寝ずに看護してくれたお陰でなんとかな。どうだ、ここには慣れたか?」
「そうですねぇ、慣れたと言えば慣れましたし、まだ慣れてない部分も多々あります」
 ま、それが普通、つまりは問題ないということか。
 ふと華南を見るとこちらを向いてくすくすと笑っていた。
「どうした?何かおかしいことでもあったのか?」
「いえ、ただ、幸せだなぁって」
「―――…」
「ここに来るまでは何をされるんだろう、地下牢にでも閉じ込められて顔も知らない連中の相手でもさせられるのかと思ったらご主人様と小さい女の子たちのお世話なんですもの」
「…必要以上に拘束するのは性に合わない、面倒臭いからな。それにオマエの行動は俺のために動くことが前提になっている。それでも幸せだってのか」
「はい」
 マゾだな。
 そう言おうと思ったが止めた。
 場の雰囲気に流された訳じゃない。
 ただ当たり前のことを口にしてもそのまま肯定されていただろうから。

 そんなことよりも俺がここに来た目的を優先することにする。
「ほら、これ持ってろ」
「これは……」
 華南が息を飲むのが分かる。
 その手の上に乗っていたのは真鍮製の指輪だった。
「契約は俺の名の元に行ってある。まぁ、仮契約ってトコだ」
「そんな…受け取れませんっ!」
「勘違いするな。気まぐれでこんな物騒なモンを渡すか」
「……なにか、あるんですか?」
「佐乃にはオマエを含む住人を守れ、と言った。華南、お前にはこのマンション―――城を守って欲しい」
「ここを、守る、ですか?」
「あぁ、お前はここの管理人だからな。一番の適任だ」
「城の番人、ですね?」
「正確には俺達の帰る場所の、だ。ここに固執する必要はない。
 万が一、ここが攻められた時のことを考えたら保険があっても良い位だからな。
 もし他の場所を用意する際、なにか必要になったら言ってこい。必要なモノは全部用意してやる」
「…でも、私が指輪を持ったら……」
「また刃向かうってか?
 安心しろ。狂わせるような連中とは契約させないし、連中はそろいもそろって封印した。今じゃ金庫の中で文句を言ってる。
 その指輪にもリミッターがかけてある。身体能力の上昇と魔除け以外機能しない代わりに魔神の意識は浮上しないようにしてあから安心しろ。
 なにより―――

 歯向かってきたら何度だろうが屈服させて服従させてやる。

 だから、安心して受け取れ。そして、よりいっそう俺のために働け」
「………っ!
 はいっ!わかりました。謹んでお受けします」
 そう言って華南は顔を赤らめて左手の薬指に指環を通した。

 華南の部屋を出て時計を見る。まだくいなが来るには数分ある。
 …さて、と、これで懸案が一つなくなった。
「…助かった、オロバス」
「いやいや、いいってことよ」
 馬面の魔神の立体映像が手のひら上に出現し、いつになく得意気に声をあげる。
 そもそも佐乃と華南に指輪を渡す、というのは瀕死の重傷を負った俺にオロバスが提案してきたからだった。
 そしてそれを可能にしたのは知識による回答に次ぐオロバスのセカンドスキル―――地位付与。
 それによってアスタロスとマルコシアス、2柱と契約したまま仮契約者として二人に指環を渡すことが出来た。

「…なぁ、指環をさせていてもあの二人にダンタリオンは使えるのか?」
「あぁ、契約者はあくまで大将だからね。
 ま、そんなん無くてもアレだけの魔力があれば1、2環くらいなら相手の魔術防壁を突破して使うことが出来るさな。ま、アスタロスみたいな魔除けの効果を持つ指環を除けばに限るが、ね」
「そこまで強くなったのか?」
「というより、大将が元々持っていたものさな。本気になったアレは凄かった。てこたぁね」
「…」
「ちなみに、オレっちの力じゃ一人につき一環しか仮契約させられないからね。
 もっとパワーアップさせたかったら他のヤツに頼んでくれ」

「…なぁ、このスキル、なんで隠匿してた?」
「オレっちの場合、二人が指輪を使うことになっても使用する魔力の半分は大将のモンで大将にも負担が半端じゃなくかかっちまう」
 同時に異なる指輪―――ひいては魔術を使うのに必要な魔力と技量は2環なら2倍じゃない、2乗になるんだと言って続ける。
「しかも大将が嬢ちゃん達に使用させようとする実戦形の指環ってのはどいつもこいつもハイコストな連中ばっかだ。いくら大将の魔力が常人より多いからって二乗三乗の魔力消費は即、命に関わる量になる。
 だから隠してたんだが、な…」
 …アレを、アスモデウスを圧倒するチカラを垣間見たから公開した、か。

「すまないさね、隠してて」
「…別に。
 使えなきゃ言わなくても同じだし、なにより誰にだって隠しておきたいことくらいあるだろう」
 そう、アスモデウスを圧倒したアレに関しては口にするな、と暗に言ってのける。
「オレっちはそれすら分かり合いたいんだがね…。まぁ、大将がそう言うんならそうしよう。
 それより大将、いいのかい?せっかく手にいれた実戦系の指環だってのに」
「ん、あぁ、知ってるか?
 一人の武将が武力10の軍隊よか武力3が3人揃ってる方が強いことの方もあるんだぜ?」
「そんなモンかね」
「それに問題ねェよ。俺にはアイツがいる」
「剣王か?だが今はリミッターをかけて本来の力を微塵も使えなくしてるじゃないかい」
 そう、オロバスに教えてもらった方法でアスモデウスの指輪には奴の意識を浮上させないようアスタロスと同様のリミッターをかけてある。今できることといえば快楽操作くらいで戦闘には使えない。
 そんな揶揄するような物言いに何が不満なんだと問い返す。
「大将、ヤツが何をしたかは知らないができるだけ嵌めていた方がいいと思うぜ。
 分かっているんだろう?その……ヤツさえいればそれこそ他の指環なんて―――」
 陽気で人懐こい魔神が言いよどむ。
「…だから、言ったハズだ。武力が10の武将よりも3が3人いた方が強い場合だってあるって」
「大将…」
「心配すんな。いざとなりゃなりふり構わずリミッターは外す。だが、それまでは奴は開放しない」
「ならいいけどよ…」

「それよりも、だ。どうなんだ?指輪を渡したあの二人が俺に再び刃向かうなんて事はあると思うか?」
「今のままなら無いさね。嬢ちゃん達は大将への想い、要は従属と忠誠と愛情を完全に重ねている。できるだけ娘っ子達の要望に沿って誘導していったのが大きいさな」
「―――そうか、あの二人は試験的にそっち方面のダンタリオンの精神操作は行っちゃいないんで少々どうなるか見物なんだがな…」
「むしろ、異相の公爵の力を使い出した頃じゃなきゃ他の娘っ子達みたいにあそこまで順応させられなかっただろうさ。
 今の大将は文字通りダンタリオンの力で相手の全てを支配できる域にまで達しちまった。
 あれじゃ人形の国を作ることになる」
「―――っ!」

 人形の国。そう耳にした瞬間、とあるビジョンが流れてきた。
 かつての王、全てを意のままに操りながらも孤独だった独りの魔王。その人間だった頃の記憶。
 相手の全てを理解しながら自分は決して理解されることはなかった。
 なに一つ、誰ひとり、自分以外のものなどなかったのだから。

―――ダンタリオン、そう、ヤツの記憶だ。

「人格を操作しながらしっかりと[本人]の意思の根幹がしっかり残せたのはたんに大将が未熟で奴さんが補助制御していたせいだ。
 だが、今はそうは行かない。今の大将が指環を使えば無意識の内に強制力が意識の大元とかちりと歯車が噛み合っちまう、要は完全に支配しちまうのよ」
「なんでそこまで知っていて、しかもオレに教える」
「契約したろ。
 大将が喚ばずとも一日に一回、俺っちは任意で指輪の外に出てもいい、と。
 そもそも俺っちは戦う力は持っちゃいない、この戦いには全く無用の長物だって言った。なのに大将は俺の指輪を使ってる。こんな嬉しいことはないねぇ」
 噛みしめるように言って馬公子は続ける。
「…………」

 No.55 騎馬公子。オロバス。

―――こいつはそう、要はお人好しなのだ。
 恐らく本人も気づいているだろうが契約内容にしても勝手に出てきても瞬時に還すことはできる。今のところはしていないが。
 ちなみに外出の際、普段は霊体で回遊するだけだがちゃんと物質化し、人間の姿で外出することもある。
 こういったこともあるコイツは他の魔神とは違う。その容姿は限りなく人から掛け離れているにも関わらず、その本質は[魔]というよりも人に近い。
 過去、現在、未来を見通すという人知を超える能力を持つにもかかわらず、自分を使役しようとするモノと共にあろうとする。
 他の魔王達は使役しようとするこちらを使役しようとしてくる。現に華南も佐乃も魔王達の目論みのまま行動し続けた。
 だが、オロバスは違う―――が、こういうバカは嫌いじゃない。
 騙し合いも面白いがさすがに四六時中そんなことをしていれば精神がささくれ立っていく。
 だからこんな軽口や本音を吐露する相手がいてもいい。

「それより、他に使えるヤツとかいないのか?」
「…俺っち、それなりに感動してたんだがなぁ…」
「ぶつくさ言ってないでどうなんだ?いるのか?いないのか?」
「いるっちゃいるが…どんな能力がお望みなんだい?
 さすがに使える、じゃ曖昧すぎて俺っちもわからんさな」
 呆れたような、だがそんな俺の好奇心に好印象を持ったかのようにうきうきした声で答えてきた。
 別に俺も意識していなかったので適当に応えてみる。
「別にオレも期待してたわけじゃないが…そうだな、例えば死者を甦らせる魔神…とか…」
「なんだい大将、屍操術なんかに興味あったのかい?」
「…還すぞ?俺が言ってるのは蘇生術だ。死体に興味なんか、ない」
「はぁ、よかった。てっきり俺っちは大将が心の読み過ぎで人間不信になって死者としか一緒にいたくなく…」

 還した。
 すると焦ったような念話と共に再びオロバスが顕われた。
「冗談っ、冗談だって!
 いやぁ、あまりに魔法使い染みた内容なモンだから俺っちも一応ギャグでお茶を濁すしかなかったってワケよ」
「なんで濁す必要がある」
「あー、ちきしょ。貴重な出現権を使っちまった…。
―――で?もしあるって言ったら、大将、どうするんだい?」
 珍しく、そう、珍しく語調を強くし、俺を試すような口調で魔神が問うてくる。
「…別に。あったらあったでそれなりに便利だと思っただけだ」
「…そうかい。俺は異相の公爵じゃねぇから大将の心なんて読めねぇし、なによりぶきっちょだ。
 だけどそんな俺だからたった一つ言えることがある。

―――過去は変えられない。

 魔法を使って時空を超越しようが殺した人間を生き返らせようが過ちは、罪は償えない」
「…そんなの分かってる」
 どんな魔法を使おうと魂に刻まれた罪と後悔は永劫に消えることはない。過去を変え、今の自分を否定するのは今の自分がその罪から逃れること。それを許さないのは自分に対して罰を与え続け生き続けるモノ達の在り方であり、おそらくそれ故にヒトを踏み外した馬公子の贖罪なのだろう。
 誰にも望まれなくてもその身を地獄と呼ばれる煉獄に置き続ける。
 その覚悟がいかほどのものかは俺には分からない。

「……」
「おっと、いけねぇいけねぇ、湿っぽい話になっちまったな。すまねぇな、大将」
「気にすんな。それよりそろそろ時間だ」
 つい先ほど、くいなのいる階にエレベーターが止まり、既に降りだして来ている。
「ん、わかった。そんじゃまたさね」
「ん」
「あぁ、そういえば…いるぜ」
「なにがだ?」
「だから―――死んだ命を生き返らせることが出来る魔王、だよ」
「っ!」
「んじゃな」
 それだけ言い残してオロバスは消える。

 そう、か…いるのか。
 だが、分かってる。あの騎馬公子がアレだけの含みをこめていったのだ。訓戒だけじゃない。その能力使用条件には何かそれに値するだけの代償が求められるだろう。
 …少し第二図書館に篭もる必要がある―――か…

 思考を張り巡らせていたがすぐにエレベーターのドアから制服姿のくいなが現れた。
「お待たせしましたご主人様!」
 意味も無く元気な声がエントランスに響き渡る。

「さ、私たちも早く行きましょ!」
 そう言ってくいなが俺の腕を取り、そのまま自分の身体に押し付けてきた。
 二の腕がそれほど豊かではないハズのくいなの胸に埋もれる。
 …これじゃ恋人ごっこだ。
 そう思い腕を振りほどこうとしたが、やめた。
 最近、他の連中にかまってばかりでコイツは単独で情報収集させてきた。
 ここらでその働きに報いることにしてもいいだろう。
 なにより俺の腕を掴むくいなの手からは普段のコイツからは考えられない程のおどおどした感覚が伝わってきた。
 ちゃんと躾は行き届いてる。

「…安心しろ。ふり解いたりなんかしない。とっとと白鷺の家にいくぞ」
「えー、午前中は私のワガママに付き合ってくれるんじゃないんですかぁっ?」
 ぶるんぶるんと腕を振って口を尖らせる。
 口ではこんなことを言ってもダメ元で言ってるだけだ。
 本気で言ったらどうなるか位分かってる。
「……」
「あ、ウソウソ、白鷺、白鷺の家ですね!」
「あぁ、そうだ。とっとと歩け。引き摺られて行くつもりか」
「!はいっ」
 そう返事をすると元気よく俺の腕を持ってそのまま歩き出す。

「それにしても白鷺の家ですか…ここは飛ばしてもいいんじゃないですかぁ?」
「オマエらが嫌うほど使えないヤツじゃないぞ」
「それはそうですけど…」
 ひかりが俺に行かせようとしたワケが分かった。

 白鷺 聖人。名前負けしてるイジメられっ子だ。
 その証拠にウチのクラスでもアイツと会話するのは俺くらい、いや、俺だけだ。
 イジメの原因は簡単だ。あまりにもブサイクなので誰からも拒絶されるという典型的な原因から端を発したイジメだ。
 ちなみにイジメに関しては千歳は知っていない。知っていれば止めさせるだろうが陰湿化するだけだ。
 俺は―――知っちゃいるが止めはしなかった。というより、俺の前で見苦しいマネをすればどうなるか見せしめにイジメていた連中を一度ボコって見せたら俺や俺のすぐ側にいる千鳥の周囲ですることは無くなった。
 ちなみに俺の腕を自分の胸に圧しつけて必至にアピールしているコイツは暇つぶしにイジメていた。つーか、結構、タチの悪い方だった。片思いの相手でイジメない俺の前ではいい娘ぶっていたようでやっていなかったが俺は気付いていた。
 まぁ、俺に害があったワケじゃなかったのでどうでもいい。

 だが、そう言った理由で、白鷺も俺に頼ってきて近くにいるようになったが…鬱陶しいので白鷺本人も同様にボコった。
 どうすればいいか身をもって示したのだ。ヤツは馬鹿じゃない。それどころか持っている知識に関しては俺を超えているし、知恵も回る。
 あとはアイツが処理すべき問題。というよりアイツ以外に解決できない。俺からダンタリオンを使って止めさせても意味が無い。ここでイジメが起きなくても今後、俺の見てないどこかで起きるだけだ。

 それにアイツはそれでも学園には来ていたのだが……いきなり学校に来なくなった。それが2週間前。
 理由はなんてことない、交通事故に遭い入院してしまったのだ。だが先日退院し、現在自宅療養中らしい。
 ひかりとしても猫の手も借りたいのだろう。来れるようだったらどうにかしろと言ってきた。
 結構、済ましてはいたがここまでしなければならないのは余裕がない証拠、ま、からかう要素ができるのはいいことだ。

 それから十分後、市街の中のやや大きめの一戸建ての前に来るとチャイムを鳴らした。
「―――はい、どちらさまでしょうか」
 聞き慣れた声。家族じゃない、白鷺本人だろう。
「カラスだ。白鷺か?」
「あ、烏君!」
 そう言うとインターフォンが切れ、戸口のロックが外れ、玄関の扉が開けられた。
「ひさしぶり!今日はどうしたの?」

「―――……っ!」
 俺の後ろでくいなが息を飲むのが分かる。
「…どうしたのってのはこっちのセリフだ、オマエがどうした。全く別人じゃねーか」

 そう、眼前の白鷺 聖人は俺達が知るものと全く別物だったのです。

「ニキビで覆われた上に見るだけでイラついた顔は消えうせ、端整な顔立ちに気弱そうな、だけど陰湿さの混じってない繊細な顔立ちがまず好印象を与えてくれます。
 それにあれほど張っていたお腹がなんとすっきりして、かつてのお腹のおかげで伸びきっていたシャツとの隙間から見える腹筋が見事な谷間を造っているのが見えます。その上、胴より足が長くなっています」

 とまぁ、こんなビフォーアフター、一ヶ月の写真を並べても信じてもらえないに違いない。

 だが間違いない。こいつは白鷺 聖人だ。中身の思考の波長というかクセは俺が知るコイツのものと同じだった。
 白鷺も俺の問いに少し得意げに答えて見せる。

「あぁ、これ?
 交通事故で身体の方はあまり被害は無かったんだけど頭の方がヒドくて顔が分からなくなっちゃってね…どうせだからあの顔から今の顔に変えてもらったんだ」
「…体型まで変わるわけじゃないだろ」
「だね、ここまで変わるのは大変だったよ。
 でも一週間、病院の療養食だったし、退院した後は一念発起してこの顔に合う身体にする様、ダイエットしてたんだ。深夜の通販番組でやってるでしょ?軍隊式ダイエット、ハートマン・ザ・ブートキャンプ」
「オマエ、アレやったのか…」
 よく人格が変わらなかったな…。いや、変わったが予想していたものとは違う。

 HTBC、ハートマン・ザ・ブートキャンプ、米国でも特に有名な軍隊式ダイエットの一つでカウボゥイハットをかぶった現役軍曹が放送コードに触れまくる発言でこっちを叱咤しながら行う苛酷なダイエットだ。
 その効果は実証済みで数多くのトップスター達が短期間で脅威の減量に成功していた。
 だが、それとは裏腹に一週間中、叱咤責めに遭うのは人格に大きな支障が出るらしく、全てのプログラムが終わり、人々の前に再び姿を現した時にはドMになっていたり、キャンプ中使っていたゴムバンドに名前をつけて頬ずりする輩が増えるなど一種の洗脳状態に陥り、一部の都府県ではR指定を受けているキワモノだったりする。

「ま、つじつまは合うけどな…それならもう出られるな?」
「うん!ホントは今から行ってもいいんだけど、制服が着られなくなっちゃったから数日前に注文して今日の午後には届く予定なんだ。それからでいいかな?」
「あぁ、頼んだ」

「うん。…それで、からすくん」
「なんだ?」
「これで…苛められなくなるよね?」
「……さぁな。ま、大丈夫なんじゃねぇの」
 投げやりな返事を返す。だが、向こうはそんな俺の態度に気づくことはなかったらしい。満面の笑みを返してきた。
「うん!ありがとう」
「礼を言われるようなことはしちゃいない。ま、良かったな」
「うん!午後が楽しみだよ!」
 そう言って別れを告げる。

「よし、コレでまず一人、と。と、どうした?」
「…い、い、いいいいい…今の本当にあの白鷺ですかっ!?」
 まるでサギに遭った被害者のような素っ頓狂な声をあげるくいな。
「あぁ、どの白鷺のことを言ってるのかは知らないが、ヤツはオマエの認識してる白鷺と同一人物ってのは間違いないな」
「別人じゃないですか!」
「外見はな。中身は…いや、少し変わっちまったようだな」
「へ?」
 何のことか分からずくいなが間の抜けた声をあげたが気にしない。

 と、あることが閃き、再びひかりが編集したリストを見る…やっぱりな。
「…行くぞ。とりあえず花屋…よりはデパ地下の食い物がいいか。そっちに寄ってからだ」
「へ?どうしたんですか?」
「見舞いだよ見舞い」
「え?見舞いって…コイツ等サボってるんじゃ…」
「残念ながら休んでいる連中で無事なのは多分、リストに入ってない外乃宮だけだ。それ以外は全員病欠…つーよりは怪我で来れない連中だ」

 ちなみにその外乃宮の家へのバスは日に朝夕二本しか出ておらず、日中はタクシーを使わなければならない、その上、同じ市内でも入り組んだ地形に住んでいるので片道1時間以上かかる。
 そもそも彼女は既に自分の所属している5部活を手伝う為に自分と他人のノルマを済ませてしまっているらしいのでひかりもリストに入れていなかった。
 あとは学園祭当日、接客要員として来てもらえればいい、とのことだった。

 そして手持ちのリストに載っている他の連中、といっても全部野郎だがコイツ等は全部ダウンしている。
 なぜ分かるか。
 …決まってる。その犯人がそう告げたからだ。
 そう、俺が見せた見本通りに自分を苛めていた連中を完膚なきまでにボコったバカが心の中でそう告げていた。
 何があったかは分かってる。

 オマエも遭ったんだな。あの魔女に―――…


「コレで最後、と…大変なことになってましたね、ご主人様」
「…あぁ」

 案の定、他の連中は身体、場合によっては精神まで完膚なきまでに壊されかけていた。
 精神の方は何とかヒトとして生活できるようには修復しといたがとてもじゃないが身体の方は学園祭までに復帰するのは難しいだろう。

 だが、おかげでヤツの能力に関してもある程度の推察は出来た。
 あとはいつ仕掛けるか、だ。

 そんなことを考えながら分かれ道に来ると、マシンガントークしていたくいなが突然話を区切って俺に向き直る。
「じゃ、ご主人様はこれからガッコですね」
 成る程。こっからは別行動、か。
「あぁ、そっちは頼んだ。今の所、オマエから入って来る情報が一番頼りになってる」
「…っ!はいっ!
 待っててくださいねっ、面白い情報を掴んできますからっ!」
 ぱぁっ、と笑うとそのまま走って街の喧騒に消えていく。

 実際、みなぎに捕まったくいなはどちらかと言うとこちら側、に近い。
 純情な反面、それ以外のことについて軽い。そんな性格もこういった事には向いているのだろう。
 ただ、言うなれば死亡フラグが立ち易い性格と立ち位置なので取り扱いには注意したい。
 第一、数秒前に言ったセリフが正にソレだ。くれぐれも注意しよう。

 学園―――文化祭の方は…気は進まないがある程度軌道に乗るまで俺も手伝うしかない、か。
 はぁ…メンドくさいな…。
 と、そんなことを考えていると背後から声がかけられた。
「お館様」
「…なんでオマエがいる」
「マルコシアス卿から聞きました。今、お館様は戦闘出来ない状態だと。
 ですから姫達を送り届けた後、ひかり様に場所を教えて頂き、無礼を承知で馳せ参じました」
「…あぁ、要らない世話だ。俺一人ならどうとにでもなる―――…?」
 そう言って、なにか引っかかり、そして…

「―――っ!」

 閃く、マズいっ!学園には今、アイツが向かってる!

 おそらくは、そう、おそらくは大丈夫だろう。だが、今のアイツは何をするか分からないっ!
「急いで学園に戻るぞっ!」
「は…はいっ!」
 なんのことか分からず生返事をする佐乃を置いて道路に身を乗り出すと半ば強引にタクシーを止めた―――

 
 


 

 

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