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第一章の1



 夢を見た。
 それまでは夢なんか見ることがなかったのに最近とみに見るようになった。
 しかもそれは何度も、何度も同じ夢。
 [そこ]には俺がいた。
 豪華にして絢爛たる衣装を纏った俺がいて眼下には顔にもやのかかった知らない連中がひざまづいていた。
 分かったのはそこにいるものは全てが息づき、その全てにかつてない栄光を約束していたということ。
 自然も、大地も、動物も、そして人も。
 そこにいた全てのモノが中央に立つ俺に向かって跪き、俺はただ虚ろにその全てを見回す―――そんなユメ。


「―――・・・」
 カーテンからは朝日が差し込み、外からはスズメの鳴く声が聞こえていた。
 ベッドから身を起こしオレはまた見たこの夢について考えていた。
 あんな夢を見る思いあたるふしは全くない。
 ああいった映像の出る映画なんて見たこともないし、また、そんなコトをした記憶も当然の如く、ない。
 俺、つまるところ[烏 十字](からす じゅうじ)はごく一般に普通、とつまらなくも安心させられる分類に属する学生だ。
 サラリーマンの父に専業主婦の母、一つ歳下の妹の4人家族、とてもじゃないがあんな映画に出てくるような家柄でもない。
 ただ―――そう思って俺は部屋に立てかけられていたスタンドミラーを見る。
 日本人特有の黒髪に所々ふざけたように金髪がメッシュになって入っていて眼も一見黒の様に見えて実はディープブルー。
 数年前に他界した母方の祖母が英国人の血を引いていたらしく、俺にはその特色が隔世遺伝によって興ったらしい、実際、母親は完全な黒髪黒眼だが、他界した祖母は確かに金髪碧眼のハーフだった。
 ちなみに俺の名前をつけたのも何故か両親でも祖父さんでもなく祖母さんだった。
「ちゃん、お兄ちゃん・・・?」
 気が付くと部屋のドアが開いており、そこからは俺と同じ2階の住人がおずおずと俺を覗いていた。
 烏 雪花(からす せっか)。一つ下の俺の妹だ。
「ん、せっか。おはよう」
「おはよ、もうご飯できてるよ」
 いつもならリビングで俺を待っているのだけれど今日はどうもかってが違うらしい。
 その証拠に雪花は既に制服姿でカバンを持っていた。
「オマエはもういくのか?」
「うん、と、ね?
 今日は日直だからもうそろそろ行かなきゃいけないの」
「そうか、それじゃ俺もおいおい追いつくとするか」
「ごめんね?お兄ちゃん」
 俺の機嫌をうかがうように上目遣いになってみてくる。
「べつに謝るこっちゃない、日直がんばれな」
 笑って送り出す。
 すると雪花も笑って応えた。
「うんっ」
 ぱたぱたと下りていく雪花を横目で見ながら俺は意味もなく嘆息し―――俺はシャツを脱いだ。


「行ってきます」
 メシを早めに食ってカバンをひっ掴むと玄関から飛び出して俺は駆け出す。
 目的はもちろん雪花に追いつくためだ。
 別に意味はない。だけど―――俺は昔から何故か意味のないことほど全力を尽くすという変な習性を持っていた。
 癖なら直せるが―――習性は直せない。
 我ながらヘンな習性を持ったものだと走りながら苦笑する。
 このまま通学路を行けば山頂に神社のある山のふもとを通る。
 だけどそれは遠回りになる。
 遠回りになる原因は単純明快、この道沿いに平行して走っている繁華街の為だ。
 風俗店が多く建ち並び、その上車一台が通るのがやっとという路幅で人々は我が物顔でその道を歩くため有事の際に入ってくる緊急車両以外は入っているのを見たことがない。
 その為、変質者や娼婦、どう考えても堅気ではない方々などが常にたむろしている状況を作り出している。
 今俺が走っている通学路はそんな人気の少ない繁華街を迂回するように作ってある。
 それじゃ―――いくら雪花が歩くのが遅いとはいえ追いつくコトなんか出来やしない。
 だから―――
 俺はいつもなら真っ直ぐに突っ切るべき十字路を右に曲がり小路、つまりそれが近道―――に入る!
 それは普段、雪花と一緒では通れない繁華街の裏道!
 夜明けからしばらくたった今、ほとんど人影はない―――
約300メートルくらい続くこの道さえ抜ければかなりの短縮になる!
俺は一気に駆け抜ける。
 露出度の高い女の写真が貼られた看板や贈答用のフラワーショップ、果てにはランジェリーショップを横目で見ながらその先を目指して走る!
 薄暗い通りに差し込む光がだんだん大きくなる―――よしぬけた、そう思った矢先―――

ぐいっ

「―――な!?」
 完全な死角から何かに足をつかまれる!
「うおっ!」
 予期しない引っ掛かりに俺は前進するエネルギーを止めることができず―――
「ちぃっ!」
 とっさに身体をひねって道の横に積み上げられたダンボールの山に突っ込む!
 中が空洞になっている軽い音の落下音が立て続けにおき、一方、俺は―――
「っツゥ・・・」
 意識を失わずに、そこにいた。
 とっさに下敷きになったダンボールの山は全てにおいてまっとうなカタチをしているものはなく―――俺が素直にコンクリートの上に倒れていたらどうなっていたかを容易に想像させてくれた。
 そして、俺のバランスを崩させる原因になった―――つかまれたもの。
 それが 俺の視線の先の何かの―――手だった。
 その延長線上に在ったのは長い髪の毛をした―――行き倒れ。だろうか、そんなモノが横たわっていた。
 他に心当たりになるものはないのかとあたりを見回した限りそれ以外のモノは俺の足を掴むことなんて出来そうになかった。
 顔を見る―――長い金髪に、
「・・・・・・・・・」
 こちらを見る目はきれいな目をしていた。
 髪は染めたモノじゃなく、祖母さんと同じように地毛から金色のモノだと見て取って分かった。
 さらに冷静になって考える。
 そんなオンナが行き倒れている、ということはどう考えてもキナ臭い匂いしかしない。
 その上ここは繁華街。下手すりゃ893まで顔を出しかねない。
 そんなモノに関わりあいにのはゴメンなんだが―――そんな考え事をしていると下方、行き倒れから声がした。
「お・・・お腹減ったわ・・・
 た・・・食べ物・・・ない・・・?」
「・・・・・・・・・」
「お・・・お願いよう・・・
 こ、ここ数日・・・まともに何も食べてなくて・・・」
 流暢な日本語、そして驚嘆すべきはその声―――それは高い男の声だった。


 はぐっはぐっ。ずるるるる ずるるるるるっ。
 あれから20分、俺の今日の弁当を何の躊躇もなく食いだした―――女・・・もとい、オカマ。
 さっきの流暢な日本語といい、今俺の前で器用に端を使っていることといい、コイツも祖母さんと同じような日本育ちなんだろう。
 俺はそう思いながらジト目でオカマを見る―――とオカマは最後まで取っておいたウメボシを器用に箸でつまみ―――しばらくしてこれまた器用に種を吐き出した。
「ふぃ〜ゴチソウ様でした」
 そう言って手を顔の前で合わせて拝むオカマ。
「・・・で?
 アンタ一体こんなところでナニやってたんだよ?」
 さっき俺にしたことをツっこんだが笑ってすませようとしやがった。
 まぁ、あれくらいしなきゃ俺もそのまま走りすぎていたので俺もその件に関しては必要以上につっこまないことにした。
 それよりもなんでこんなところに行き倒れていたのか、そっちの方が俺には気になった。
「何であんたにそんなこと教えなきゃいけないのよ?」
 ・・・こんクソオカマ・・・
「慰謝料に弁当代、この場で払えるのか?」
「ここしばらくここで露店を開いていたんだけどねぇ、ぜんぜん売れなくて困ってたのよ」
 手のひらを返したような解説に俺は納得した。
「露店、ねぇ」
 外国人が街中で露店を開いてアクセサリーを売っているなんてざらな光景だ。
 だけどそれも大体2、3人でグループを組んで販売するのが通常でピンで露店を開いているのは―――あまり見かけない。
「で、売れなくて行き倒れてたってか」
「そうなのよ。ホント困ったわぁ」
「それだけ流暢に日本語が話せるんだったら日本語学校にでも行けよ。
 いくらだって雇ってくれるだろ」
「住所と査証がないから定職に就けないのよ」
「・・・・・・・・・」
 何つーか、世も末だ。
「で?ナニ売ってたんだ?
 もし俺が気に入ったら買ってやるよ」
 さしもの俺も人がいいというかなんというか、いつもなら2,3発顔面にケリをブチ込んでそのままおさらばするんだけどな。
「ホント!?買ってくれるのっ!?
 さすがニポンジンお金持ちネー」
「・・・いーからさっさと品物を出せ、俺の気が変わる前に」
 どこからか丸サングラスを取り出してもみ手をしながらシャチョサンシャチョサン詰め寄ってくるオカマの両肩を全力で押し戻して俺は不機嫌に吐き出した。
「んもう、この国は子供までせっかちねぇ・・・」
「ほっとけ」
 そう言って指をずい、と出してくるオカマ。
「・・・オレは商品を出せっつったんだが」
「出してるじゃない」
「冗談なら、もういくぞ?」
「この手についた真鍮製の指輪でございます、お坊ちゃま。
 っていっても正確にはこれと同じような指輪達なんだけど」
 そう言われてよく指輪を見てみる。
 何の装飾も付いていないオモチャのような指輪だ。
 ただ、環内にはロットナンバーだろうか、ギリシャ数字、環外には少し平面状になった場所があり、そこに何か円形とそれに絡み合うような模様が描かれていた。
 それだけ、それだけだった。
「・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・マジか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・マジよ?」
 半眼になって互いに言葉をやり取りするオレとオカマ。
「真鍮製の指輪なんか買うどころかもらったっところで嬉かないんだけどな」
「まぁまぁ、そんなコト言わずに」
「第一、露店でいくらで売ってたんだよ?」
「そうねぇ・・・ざっと1億ってトコかしら」
「・・・・冗談か?」
 たったコレだけの真鍮を1億で買うなんざ正気の沙汰じゃない。       
 そもそも、オレはそんな金、持つどころか見たこともない。
「なに言ってんの、本気よ。
 あまりの額にみかじめ料取りに来た893もビビッてみかじめ取らずに励ましていったくらいなんだから」
 俺は二の句が告げなかった。
 一体、どこのどいつが露店で売られている真鍮製の薄汚れた指輪を1億で買っていくって言うんだ。
 それに893はこう思ったハズだ。
 まぁ、春先になるとこういうのもでてくるよな、関わらない方が身のためだ、と。
「ま、私の業界じゃ一億って言っても安い方なんだけどワケあって同業者に売るわけには行かないのよ。
 どう?お兄さん、一個千円にまけるから買ってくれない?」
 ・・・まるで深夜の通販番組だ。いや、それでもこんな値段の下げ方は普通、しない。
 そもそも消費税にすら満たない。
「・・・・・・・・・アンタなぁ」
 誰がそんなモン買うか、そう言ってやろうと思ったが明日もこの近辺で行き倒れになられるのもさすがに気持ち悪いものがある。
 俺はズボンの右後ろポケットから財布を取り出した。
 こちらも限界いっぱいまで遊んでいたもんだから今日渡された今月の小遣い、詰まるところ、見慣れない女が描かれた五千円札しかなかった。
「・・・なぁ、お釣りってあるのか?」
「あったら行き倒れると思う?」
「・・・・・・・・・」
 あぁ、これさえあれば近所の50円ゲーセンで映画にもなった名作の横スクロールアクションRPGゲームが100回できるのに・・・
 俺は再びオカマを見た。
「?」
 よく見ると薄汚れている。
 だが、浮浪者特有のどギツい匂いはなかった。もしあったら俺は近寄っていない。
 なのでこいつはまだ浮浪者といっても上等な生活を送っているのだろう。
 といっても下の下の上だが。
 俺の顔を覚えた相手がこれ以上落ちるのは俺の沽券に関わってくるだろう。
 それに普段、興味を示そうともしない相手に久しぶりに会った。
 行き倒れなんざ無視していたが俺とあまり変わらない年恰好で行き倒れしていたこのオカマには興味を抱いた。
 そして―――同業者なら一億円でも安いという安っぽい真鍮製の指輪。
 物の価値として真鍮は贔屓目に見ても高価な物じゃない。
 今、提示されている千円だって法外な値段だ。
 ―――だが、何かしらプレミアの付くモノだとしたら。
 一億のプレミアとはどんなモノなのか。
 興味がないといえばウソになった。
 どうせゲーセンで使っても後には何も残らないんだ。
 もし騙されたとしても指輪が残るしオカマもしばらくは生き延びられる。なら、
「じゃ、釣銭がないんで五個くれ」
 俺は半ば自暴自棄になりながらお札を差し出した。
 するとオカマも驚いたように、
「五個も!?
 んー・・・私が言い出したんだから文句はないんだけど―――」
 と、なんか知らないがごね出した。
「別にイヤならいいぞ、気持ちよく行き倒れてくたばってくれ」
 俺の知らないところでな。
「あーウソ、ウソよ!五個も買ってくれてありがとう!
 オニイサンおまけにも一つつけちゃうわ!」
 ・・・向こうも向こうでなんかヤケになって涙目の笑顔で接客してきた。
「・・・なんかなぁ」
「さ!それじゃこのトランクの中から選んで頂戴」
 そう言ってオカマは30センチ平方位のダイヤルロック式のジェラルミンケースを開いた。
 中には衝撃保護用の紅いマットがしかれており、そこには一列で八つ、それが九段の計71個の指輪が埋もれていた。
 71個というのは俺の計算間違いじゃない。そもそも学力低下が叫ばれているとはいえ、掛け算の八段を言えない高校生なんかじゃない。
 何故か一箇所だけ、欠けた様な隙間があったのだ。
「ここの隙間は売れたのか?」
「違うわ、私もそれが欲しかったんだけどそこの指輪の所有者は別にいたのよ」
「ふぅん」
 オレは生返事で再びケースに目をやった。
 真鍮製の指輪は何の変哲もない指輪のように輝いていた。
 指輪のリングの大きさは全て同じでそれぞれに一箇所だけ円形状に平面になっている場所があった。
 これが他の指輪だったら宝石が乗っているのだろうが、この指輪たちにはそんな上等な物が乗っているハズもなく、何か模様のようなものが描かれていた。その模様も似ているのだが、それぞれ異なる形で同じ模様のモノは一つもなかった。
 そこへ―――

                       「さぁ、選びなさい」

「!―――・・・」
 さっきまで陽気に話していたオカマ等は全く別物の声が、した。
 ふり返れない、ふり返ることができない。
 だが、わかる。
 俺の後ろにはさっきとは別物の、オレ達とは違う「なにか」が、いる。
 [それ]は選べと言う。
 ―――何を?俺は思わず尋ねようとしていた。
 だが、今この場において言葉を放つ事は許されない。
 そして、オカマの言葉にはまるで指輪以外の何かを選択するような韻が含まれているように俺には思えた。
 オレはおそるおそる指輪に触れる。
 指輪は熱くも冷たくもなく、ただただそこにあった。
 在るだけで特異なモノに思えた。
「――――――・・・」
 俺は思わずつばを飲んだ。
 何故かは分からない。
 だが―――何かを感じた。
 そして―――選ぶ。己の命ずるままに。
 計六つ、まるで俺に吸い付くように選ばれた―――指輪。
「・・・そう、それが貴方の―――」
オカマはどこか遠いものを見るかのように俺を眺めていた。
 そして十秒も立たない内に再びそれまでの雰囲気を取り戻し、ケースを閉じ、掛け声とともにその場にたった。
 それと共に周囲の空気が溶けていくのが分かった。
 オカマは何事もなかったように声をあげた。
「さて、と。
 それじゃ行くわ、毎度あり〜」
「あ、ちょっ―――」
「…なぁに?」
 オカマは振り向かない。
「あ―――」
 特にとりたててこれ以上話すことなんてなかった。
 なかったのに―――声をかけてしまった。
「用がないなら行くわよ」
「―――名前」
「?」
「せっかく出会ったんだ。名前くらい教えてくれ。
 ―――俺の名前は烏 十字」
「・・・・」
 オカマは依然として向こうを向いたままだったが、笑ったのが何故か分かった。
「クロス=クロウ、か」
 普通、俺の名前を英語にする、といっても苗字と名前を入れ替えるだけならジュージ=カラスになる。
 なのにオカマは何故か俺の名前を苗字と名前を入れ替えた上で英語に訳した。
「?」
 俺はそんなコトをすることに意味を見出せなかったが目の前のオカマには十分すぎるほどの意味があったようだ。
「奇遇ね、私も似たような名前よ」
 振り向いて―――口を開いた。
「私は―――クリス=クロウ」
「―――」
 一文字―――違い、か。
「それじゃ元気でね、ジュージ」
 そう言ってオカマは歩き出す。
 俺は時計を見た。11時。
 こりゃ完全に遅刻だ。
 再びオカマを見る―――と、目の前の空間には誰もいなかった。
 そしてオレはそのことを平然と当たり前のように受け入れていた。
 誰もいない空間に独白する。
「―――じゃあな、クリス」
 俺も学校へ向かい―――駆け出した。


 俺はあれから少しコンビニで時間をつぶし、昼休みになるのを見越して学校についた。
 休み時間になり、昇降口で外のグラウンドに出て行く連中がカバンを持って入ってきた俺を怪訝な目で見るものの、そのまま外へ出て行く。
「―――・・・」
 俺はそんな視線を無視して三階まで階段を上り、端にある教室、つまりは俺のクラスだ、に向かって歩き―――廊下から見て最奥、教室の後ろにあるドアをスライドさせる。
 教室はオレがいなくともいつも通りに日常を刻んでいた。
 昼下がりに登校した俺を別段珍しくなさそうに受け入れてくれた。
「ちぃーっす」
「遅いぞジュージ、何してたんだよ」
「ちょっとな」
 とりあえずオレは気分が登校途中に悪くなってコンビニで休んでいたとうそぶいて席に着いた。
「からす君、まだ気分が悪いんだったら保健室に行く?」
 俺の席の隣の女子―――朱鷺乃 ひかりが声をかけてきた。
 黒髪の長髪に赤いリボンが良く目立つ。
 この歳になってリボンをするなんざどこか頭が抜けているか何か企んでるのか究極的に世間知らずかってのが俺の所感だ。
 そしてコイツはその後者だった。
 お嬢様で街外れの高級住宅街から車での送迎をしてもらっている。
 性格はみんなに平等。かつ公平で優しい。
 その上―――眉目秀麗。
 詰まるところ、非の打ち所がない人間だ。
「大丈夫よ、カラスはいつだってしぶといんだから」
 そう言って茶化してくるのはこれまた同じく黒髪で長髪の―――御嘉神 千鳥だった。
 今日は通らなかったがいつも通る通学路途中の山門の上にある神社の娘でオレの幼なじみでもある。といっても最近は疎遠がちで互いに顔をあわせれば挨拶を交わす程度だ。
 といっても、腐れ縁なのかどうなのかは知らないが、小、中、高とここまで同じクラスなので話さない日はない。
 休日になったらなったで雪花の付き添いで神社に行くか千鳥が雪花に会いにくるかで結局は毎日のように会うハメにはなっている。
 なってはいるがやっぱり互いに直接話し掛けるなんてことはなかなかない。
 とはいえ、互いに周囲に気を使ってかこうして周りに誰かがいるときにはこうして軽口を言い合う。そんな微妙な関係だ。
「ま、そんなトコだ、大丈夫だから気にしなくていいぜ」
 俺は笑顔で拒絶すると教室の前方から俺を呼ぶ声が聞こえた。
 見ると担任がこんな時間にきた俺を見つけてしまったらしい。
「からす君ー、後で職員室にきてー」
「はい」
 まぁ、担任から呼び出しを受けたが気分が悪くなったとでも行っておけば良いだろう。それを信じさせるくらい俺の普段の素行はよく見せているハズだ。
「さて、と」
 席につき、カバンを開き、ノートを机の中にいれると空になったハズのカバンの中に六つの指環があったのが目についた。
「・・・・・・・・・・・・・」
 こんなものを学校でつけていたら即没収モノだろう。
 ―――まぁ、六つもあるんだから一つくらい没収されても大丈夫か。
 そう思い、中から一つ適当につまみ出し、中指に通す。
「!」
どくんっ
 次の瞬間、何かが体内を走る―――俺は―――脱力し―――
 意識を失った。


「―――・・・っ」
 一体何が―――
「―――っ!
 な―――!」 
 目を開けるとそこには何もない世界が広がっていた。
 薄暗く、何かもやのようなものが目の前を覆い、足元には広く無機質な灰色の大地が広がっていた。
 ぼやけていた視界がだんだんと晴れていくと何かが目の前にいるのがわかった。
 ―――!
 そこには右手に本を持ったモノが―――いた。
 どこか中性的な服を着た男。女が着てもあの服は映えるだろう。
 するとまるでそんな俺の心を読んだかのように突然目の前の男―――いや、顔が男から女に変わった!
 なんなんだ―――お前は。
 心臓が凍りそうになる。
「そんなにビビらないでよ」
「!」
 そして再び男の顔に変わる。
「安心しろ、他のヤツラと違ってオレはとって喰いやしねェよ」
「―――アンタ誰だ?」
 とてもじゃないがフツウじゃない。
 見知らぬ空間、明らかにマトモじゃない目の前にいるものの言うことは信用できないが―――それでも言葉の分かる、もとい意思疎通の図ることのできる相手ならば―――未知のモノに対する恐怖は限りなく薄れていた。
 そんな俺の心理状況を見透かしたかのように女顔は笑い、次の瞬間には男顔になり、からかうような調子で口を開いた。
「おいおい、それが分かってそれを身につけたんじゃないのかよ」
「それ?」
「指輪だよ」
「これか?なんなんだこれ」
「何も知らないのか。
 ホント―――お前運が良いな。いや、これがオマエの運命、か」
「―――なんだよ、それ」
「―――ふ。
 自覚もない、か。いいね、オマエ」
 まるでバカにするかのようににんまりとする―――[何か]
「まぁ、いいか。
 俺の名前を教えてやる。
 ―――俺の名前はダンタリオン。その真鍮に封印された七十二の魔神の中の一柱だ」
「な―――」
 なんだ、それは。
「ホント何も知らないんか、あの魔女も酷なことをしたな」
「―――まじょ?」
「あぁ、オマエの心と記憶を読ませてもらったがその指輪を売りつけたヤツだ」
「あれ、オカマだろ、女じゃない」
 なら魔法使いだろ、そう言おうとしたが―――
「別に女だから魔女なんじゃない、時代と世相は変わったようだが魔術を道具とし、それによって生きる連中のことだよ。魔術を生業とする魔術師や世界に挑み勝ち得た魔法使いとは一線を画した存在だ。それだけは魔法使いだらけだった俺たちの時代とは変わっていないハズよ」
 懐かしむように自分のことを語るダンタリオンの女顔。
「まぁ、経緯はそんなモノで何はともあれオマエさんは我の宿った指輪を手にした。
 これがどういうことか分かる?」
「―――何かが―――できるようになるのか?」
「そこまでわかりゃ上等だよ」
 と男顔。
「俺の持つ力はココロの操作だ」
「―――ココロの、操作?」
「あぁ、俺はありとあらゆる心を読み、意のままに心を操ることができる」
 そう言って男顔は目を伏せ、自嘲気味に笑った。
「俺はその力を以って王国を支配してきたんだがな、生憎、俺の力は自分の目の前に相対した者にした効果がない。戦争が起きたら王国はとっととつぶされちまったよ」
「まぁ、そんなコト貴方にはどうでもいいわね」
 ・・・ココロの操作―――それは―――
 そう、長距離攻撃、ライフルやミサイル等には通用しないってコトだ。だが現代日本社会においてそんなモノはないに等しい。
 だからやる気になれば―――
「ふふ、そうよ。
 この国の王になることだって出来るわ」
「だからといってもこんな国の王になったところで何のメリットもないだろうがな」
 あぁ、そうだな。
 俺は心の中で語っていた。
 心が読めるんだったら何を思ったところで本音で語るしかない。
 そして―――それにも関わらずオレはいつの間にか歪んだ口から声をだした。
「―――なら俺の世界を創り出せばいいだけだ」
「分かってるな」
 かつての王は言った。
 自分自身の管理の行き届く箱庭。それが―――それこそがこの世界最初で最後のユートピアだよ」
「力の使い方は望めば己ずと分かるはずよ」
「―――他の指輪にも同じような魔神たちが封じられているのか?」
「えぇ、私はおとなしい方だけど会った瞬間、殺しにかかってくるヤツもいるわ。
 だけど、指輪がある限り手は出せない。
 その代わり直接ではなくとも間接的に貴方を破滅させる事なんてワケない連中よ?
 いい?指輪は便利な道具である反面、貴方の命を奪いかねない凶器でもあるの。その事を肝に銘じておきなさい」
「あぁ、肝に銘じ―――オマエに感謝する。
 あと一つ―――」
「なんだ?」
「この力を使う代償はなんだ?」
 しごく最もな質問だった。
 力を使うなら、何か物を使うのならそれは便利であれば便利であるほど代償を払ってしかるべき物のはずだ。
 車なら所有するに必要な手続きと維持費、あと燃料。
 携帯なら燃料の代わりに電池が入る。
 が、これはおおよそ個人で用意できる物じゃない。
 業者や会社を通じて金銭と引き換えにそれを得ている。
 同じようにこの指輪を使う代償、それがなんなのかを俺は教えて欲しかった。
「なるほど―――ね。
 美味い話には必ず裏がある、か。
 なかなか世知辛い生き方送ってきているのね、あなた」
「ほっといてくれ」
「ま、いいわ。
 代償、ね。
「そんなものはいらない、ただ―――俺にもオマエの王国を見せてもらえればそれでいい」
 そしてオレが何か言おうとする前に女顔が、
「貴方のココロ―――とてつもないから―――ね」
「・・・とてつも―――ない?」
「えぇ、限りなく広くて―――それなのにどこか空虚で覘くだけ覘いただけ哀しく―――そしてなんて―――孤独」
「俺たちはそんなオマエの創り上げる王国を見せてもらいたい」
「あぁ、わかった。
 ―――契約しよう」
「―――驚いた。契約なんて言葉―――知ってるの?」
「あぁ、あんた達のような連中とするモノだろう?」
「分かってるな、オマエ」
 あぁ、分かってる。あんた達は―――悪魔と呼ばれるものだろう。
 だから契約しよう。
 アンタに―――俺の創る世界を見せてやる。
「その調子で他の魔神達とも契約してみせることね。それじゃ―――」
 一礼して大仰しく頭を垂れ―――
「我が名は魔王ダンタリオン―――今後ともよろしく」
「あぁ、よろしく頼む」
 俺の手は音を立てて崩れながらダンタリオンと握手を交わした。
 そこで―――意識が薄れていった―――


「―――・・・」
「――――――――――・・・!」
「――――――――――――――・・・・・・ラス君!カラス君!」
「ん、あぁ・・・」
 これは―――朱鷺乃の声、か。
「ちょっと!ジュージ!大丈夫?」
 激しく肩をつかまれそのまま揺らされていた。
「あ、あぁ、大丈夫だ―――ちどり」
 そう言って俺は目を開く―――と、あぁ、と思う。
 いつの間にか―――オレは御嘉神の声に昔のように応えていた。
「ち――ちどりって」
 少し赤くなって御嘉神が狼狽した。
 あ、そうか。今はたしか―――
「あ、あぁ、悪い。御嘉神。
 俺、どのくらい気を失ってた?」
「倒れて3分くらいだけど―――ホント、大丈夫なの?」
「あぁ、もう大丈夫だ」
 御嘉神の腕を退けながらそう言って俺はこちらを囲んでいる連中の見回した。
 何故なら―――
 興味本位で俺の周りを取り囲む連中のそんな心が俺の中に―――とめどなく流れ込んでいたからだ。
 ・・・なるほど、ココロを読むってのはこういうことか・・・
 だが、周囲にいる全員の心を読み取ることができない。
 その共通項を探すべく―――見回す。
 なんだ―――一体、何が―――?
 俺は見回す。
 聞こえる連中の方角は一定している。
 自分の目の前の連中だけ、そしてもう一つ。
 御嘉神が俺から手を話した瞬間に御嘉神の真剣に心配した思考が流れ込まなくなった。
 てコトはまず、俺に接触した人間、そしてもう一つ、周囲にいる連中の思考は―――どうやって流れ込んでいる?
 御嘉神と一緒に俺から手を離した朱鷺乃の思考は未だに俺の中に流れ込んでいる。
 ―――朱鷺乃のいる方角は―――思考が流れ込んでいる連中と同じ方角、なら朱鷺乃は接触以外のもう一つの読み込み、そちらで思考を読まれているとしか思えない。
 周囲を見回した際にも流れ込んでくる思考は変わらなかったことから俺の視界に入るものじゃあ、ない。
「からす君、やっぱり保健室に行ったほうが・・・」
「いや、いいよ、朱鷺乃、ほんとに大丈夫だから
 それより先生の所に行ってくる」
 そう言って俺は俺の周りを囲んだ連中の中に立ち―――
「!」
 流れ込んでくる思考の量が極端に減った。これは―――
 俺は一歩踏み出す。すると俺が予想したヤツの思考が流れ込んできた。
「―――なるほどな」
「?カラス、何か言った?」
「―――いや、なんでもない」
 俺は御嘉神に短く返すと歩き出した。


「失礼します」
 そう言って俺は職員室のドアを開けた。
「からす君―――」
 職員室にくるのなんざこの学年になって初めてだったモンだから担任の席が分からなかったが室内を見回している内に担任の物とおぼしき声がかけられ、声のした方を見てみると―――いた。
 といっても本人は他の先生の机にある書類やファイルにさえぎられ、振り上げられた手だけしか見えない。だから特徴的だという意見が大半を占めるのだが。
 俺は横並びになった机群を声、ドアから一番遠い列を見回す―――と、いた。
 身長140センチ付近の童顔の超ミニマム教師がそこに、いた。
「どうも、おはようございます、海鵜先生」
「こら、今はこんにちは、よ、からす君」
 国語の先生らしく、言葉づかいを正してきた、が、どんなにキツそうな口調でも声が高いため、子供が大人ぶっているようにしか見えないし聞こえない。
 海鵜 千歳(うみう ちとせ)。去年、教師なったばかりの新人で1年のときも俺の担任だった教師だ。
 名前とは裏腹にその百分の一にすら満ちていないんじゃないかと思わせる童顔とままごとに使う人形のようにきれいに切りそろえられた長い黒髪はみんなが持つ[教師]というイメージを見た瞬間に粉砕するどころか何もなかったようにしてしまう位のダメージを与える。
 しかも本人はこの悪ガキですらないクソガキ共しかいない時代に一昔前の教師物のドラマを夢見て教師になったという、いわば天然モノだ。
 ちなみに自分の身長にコンプレックスを抱いているいるらしく、去年、それでからかったら泣かせちまって周りから白い目で見られたバカがいた。
 ・・・俺のことだけど。
 俺は先生に近づくと壁を背にして先生に話し掛けた。
「こんにちはだとですますがないんで気が引けちゃうんですよ」
「ならもっと早く学校にくること!って何か理由があったの?」
「――――――・・・」
 俺は黙った。
 気分が悪くなって少し公園で休んでいました。そういえば済むと思っていたが―――流れ込んできた思考を読んでそうもいかないことを知った。
 ―――誰か俺がクリスと話していたのを見かけた奴が―――いた。
 しかも面白い脚色をしてくれている。
 確かにあのオカマははたから見りゃ上等な部類のブロンド美人だ。だから美人と話し合っていたってのは認めよう。
 ―――だがな、一体どこのどいつが誰があのオカマと抱き合ってたってんだ。
 ―――どうりで俺が倒れたときに周囲の連中の心が好奇心で満たされていたわけだ。
 一体どこのバカがそんなコトを口走ったんだか―――と、脳裏にある人物の影がよぎった。
 あぁ、そういえばそんなコトを言い出しそうなバカが一匹だけいたっけな。
「―――くん、からす君、聞いているの?
 何で遅くなったの?」
 気付くと桜先生はこちらを見上げていた。
「え、あぁ、はい―――聞いてますよ」
「それならいいんだけど―――ん?」
 あ、やべ。
 ちょうど先生の目の前に指輪を付けた手を差し出してしまった。
 といってもただ手を前に出しただけなのだが。背が低すぎるため、それだけで先生の目の前に突き出した事になった。
俺は急いで両手を後ろにまわす。
「からす君・・・今、手に―――」
「先生、何のことですか」
「からす君、いいから手を見せなさい」
これが取り上げられるってのか?冗談じゃない。
こんな便利なもの、取り上げられてたまるか。
俺はムキになって後ろを見ようとする先生に逃がすかのように手を反対側、つまり壁につけ―――逃がそうとする。
―――こんな事どうでもいいだろ!もっと他にすべきことがあるんじゃないのか!
そう思いながら俺は今手にあった指輪のことで頭がいっぱいになった先生を見る。
すると―――先生の思考に、変化が、訪れた。
「・・・そう、そうよね、それよりも何で遅れたのかを聞かなくちゃいけないのよね」
 !今の俺の思考に反応した―――?
 いや、違う。今の俺の思考に先生の心が―――塗りつぶされた?
「じゃあ、からす君、聞くけど、あなたが通学時間中に繁華街でその・・・やらしそうな・・・女性と話し込んでいるのを見たっていう人がいたの。
 それって本当なの?」
 幼い顔を赤くして見上げてくる先生。
 ただでさえ童顔なのにこんな顔をされると自分が幼女にいけないことをしているように感じる。・・・なんかなぁ・・・
「そんなワケないですよ」
 あれはオカマに絡まれていたなんだから。
「もしかして―――オカマに絡まれたりとか?」
「!」
 間違いない!
 俺の思考が先生の心、いや、思考そのものを塗り替えている。
 なら何が鍵だ?
 考え出せ―――さっき俺は心を読み込むための媒介を何だとした?
 そしてそれは今、どういう状態にある?
 俺は指輪の位置を確かめる―――
「!」
 あることが閃き、俺は先生の思考を[塗り替え]てみる。
 オレが遅れるなんていうのはきっと人助けややむをえない事情が会ったんだ、この子は子供っぽいところはあるけれど悪い事はしないはずだ、と。
「そうね、からす君がそんな所にいたとしても人助けかなにかしていたんだろうし、この件に関しては不問にします」
「――――――」
 確信した。
 この能力は相手か相手の出すある物に触れるかすると自然とその思考が俺に入ってくるようになる。
 そして指輪でその対象に触れ、強制的に思考を送り込むと相手の思考、心を―――塗りつぶすことができるのか。
 ―――なるほどな。これが心の操作、か。
 そこで俺はあるイタズラを思いついた。
「あ、先生、なにか落ちてますよ?」
 俺は屈みこみ、先生の[あるもの]を掌握し思考を送り込む!
 すると―――
「か、からす君、何が落ちた―――の―――」
 そこには、恥ずかしそうに不釣合いなタイトスカートを他の教員には見つからないようにして捲り上げている先生―――いや、千歳がいた。
 黒いパンストの中にあったのは白、白のパンティ。
 しかも普通のお子様がしている物ではなくレースで装飾された透け透けの大人の下着だった。
 外見との倒錯感に俺の欲望が疼く。
 そして、心の中にそれを反映するかのようなオトナの女性への変身願望が伺えた。
 そりゃそうだ。本人としては今の容姿をコンプレックスに抱かないわけはない。
 意識の深層に在るのは大人っぽい行為に対する欲求。
 分かりやすく言えば自分の付き合ってきた男共から子供を相手にしているのと同じ処遇を受けてきた上に同じ理由で抱かれなかったらしい。
 とことん外見相応のマセた連中が抱えているのと同じ悩みだな。
 俺は口をゆがめるとそのままその願望を利用する。
 掌握した手に新たな思考を送り込む。と言ってもこれはもとからあった思考の強化、それほど強い強化じゃない。もっとも、ある程度の細工は織りこんだ。
 ―――教え子に性的なことを教えるのも教師の務めだ、と。
 もちろん方便、だが自分の願望とそれに伴う義務感の一石二鳥、どうなるかは明白だ。
「っ!
 ―――・・・」
 びくっ、千歳が震え頬を赤くし口に手を当て思案顔になり俺をつま先からてっぺんまで観察―――いや「値踏み」する。とりわけ凝視されたのは顔と―――股間。
 その二点を眺めるときだけ何故か耳まで赤くなり―――そうすること約3分間、ようやく答えが出たらしい。
「いい?からす君、少し席を外しますから先生の席に座って待っていなさい」
 そう周囲に聞こえるよう言うと千歳は椅子から降り、教員用の机の下にもぐりこむ。
 そしてオレが椅子に腰掛けると同時に制服のズボンのジッパーを下ろしオレの肉棒を取りだし口付けた。
 どうやら御眼鏡に叶ったらしい。
「せ、先生?」
 俺は何も分からない男子のフリをして不安げに千歳を見下す。
 千歳はそんな俺の声に静かにするように、と目で訴えてそのまま俺のモノをまじまじと好奇の視線で観察する。
 無理もない、男のコレを見るのも経験はないのだろうから。
「ふわ、おおきぃ・・・」
 オレにしか聞こえない声を上げる。
 そして―――
「ん・・・っ」
 一番敏感なそこに口をつけてくる。そして―――
「んっあむっ、ちゅぱっ、んむぅ・・・」
 本や友達から得た知識を元に俺のモノを咥えようとしたものの亀頭しか口に入れられず、そのまま舐め続けてくる。だが―――
「―――・・・・・・・・・」
 上目遣いでこちらを見上げるちとせを俺冷たくは見下していた。
 それに気付いてちとせが不安げな顔になる。
「そんなんじゃ―――ぜんぜん気持ちよくならない、まるで子供のお遊びだな」
「っ―――!そ、そんな―――」
 一番聞きたくなかった俺の言葉に顔をゆがめる千歳。
 ちなみにウソだ。
 いくら俺でも一番感じる亀頭ばかりを責められれば感じないワケがない。
 しかも千歳の様な外見を持つ相手に性行為をさせるという背徳感もあいまって俺の怒張はかなり昂ぶってる。
 だが―――あえて表層には出さないよう我慢した。
 主導権を握るのは俺だけでいい。
「教えてやろうか?ちとせ」
「お、教えるって―――」
「男がどうすれば喜ぶかを、だよ。
 別にイヤならいい、これでオシマイだ」
「あ―――っ・・・・・・
 お、お願い、からすくん、おしえて」
 恥ずかしそうにこちらを見上げてくる千歳。だが俺はそんなちとせを―――拒絶する。
「イヤだね」
「えっ!?」
「仮にもモノを教わろうとする相手、しかもこんなコトをする相手にからすくん、とはずいぶんと横柄だな。―――なぁ、せんせい」
「――――――っ!
 わ、わかりました・・・どうぞちとせに男性を悦ばせる方法を教えてください―――」

 御主人さま

 思わず吹き出しそうになる。
 御主人さまとは―――なかなか面白い事をいってくれる。
「あ、あの、御主人さま―――?」
 怪訝な顔をして問い直す千歳。まぁいい、それはそれで―――アリ、か。
「ん、あぁ。分かった。ちとせ」
「っ!ありがとうございますっ」
 俺が言った途端、顔をほころばせるちとせ。
 それだけコンプレックスがでかかったってコトか―――
 まぁ、こちらもそれだけ利用し甲斐があるってトコだ。
「ほら、それじゃ手を使ってシゴきながらくびれた部分を舐めまわしてくれ」
「は、ふぁい」
 言うが早いかさっそく舌を出して肉棒にしてと手を絡めだすちとせ。
 最初はぎこちなかったものの舌からの唾液が潤滑油となって次第に動きが大胆になっていく。
「あぁ、シゴくのは片手でいい、もう片方で袋のほうを・・・んっ、あぁ、そう、そんなカンジだ」
 今度は我慢する必要はない。とことんちとせを使って気持ちよくなる。
「親指で裏筋―――そう、真ん中に走っているその筋だ、そこをなぞってもう少し緩急をつけて―――そうっそうだ・・・っ!」
 思わず周囲に声が聞こえそうになるが必至のところで押しとどめる。
 そんな俺の反応に気をよくしたのか千歳は俺がうめくように更に動きを激しくしていく。
「そろそろ先を咥えて息を吸いながら舐めまゎっしっ・・・っ」
 要領をえたのか俺が言い切る前に一番最初にやった行為にアレンジを加えて激しくねっとりと舌をこすりあげてくる。
 思わず耐え切れず顔をヒクつかせる。
 熱い迸りが親指でほぐされた筋を駆け上がってくる。
「く―――っ、出すぞっ!のみこめっ!」
 俺は千歳の頭を掴むと自分の都合の言いように動き―――口内の壁に先をこすり合わせ快楽を得る。
 更に大きくなる肉棒に驚く千歳。
 そして―――
「―――・・・ッ!」
 どぴゅっびゅくっびゅるびゅるびゅるっ
「・・・・・・・・・っ!!」
 千歳は初めて自分が吸い出した精液を飲み下しながらさらにそれを得ようと射精する最中の亀頭にこれでもかとざらつく舌をねっとりとこすり合わせてくる。
 それに合わせてせり上げるようキツめにシゴきあげてくる!
「あっ!ぐっ・・・うぅっ!」
 これは―――マズいっ!
 思わずうめくほどに背骨から全身に電流が流れた。
 そして―――
 どくどくどくどくっ
 インターバルを置かずに自分でも信じられないほどの第二射目が絞り出された。
 ちとせはそれに気をよくしたのか顔を赤らめながら出された精液を嚥下していく。
 そこには女の悦びを讃えた千歳の顔があった。


「君、大丈夫?」
 うめき声が聞こえたらしくそれを聞きつけた机の向かい側、隣のクラスの先生が心配して書類の壁の向こうから話し掛けてきた。
「あ、は、はい、大丈夫です。
 ちょっとお腹がすきすぎたみたいです」
 先生が部屋に備え付けられた校長の席の頭上にある時計を見ると―――昼休みも残り5分になっていた。
「それはいけないわね。
 海鵜先生には私から言っておくからそろそろ教室に戻っていいわよ」
「はい、分かりました」
 さて、とできれば続きをしたかったがここらで切り上げるか。 
 俺は掴んだままだった千歳の頭を開放する。
「烏くん、ごめんなさい、遅くなっちゃったみたいね」
 そう言って机の下から声を上げる。背が低いため、書類の積もった前の机からは千歳がいるかどうかは声でしか判別ができないだろう。 
「海鵜先生、ダメですよ、こんなに生徒を待たせたら」
「はい、申し訳ありませんでした」
 そう言いながら千歳の目は俺だけを見ていた。
 明らかに[御主人さま]を見る目。
 だが―――こんなのが周りにバレたらマズい。
 俺は軽く指環を千歳に触れさせた。
 いくつかの細工を行い、最後にここでした事は夢で俺は今日は朝からいたという塗装する。
「烏くんも―――ごめんなさい、戻っていいわよ」
「はい」
 最後に千歳にしか聞こえないような小声で話し掛けた。
「先生、最後に聞きますが、先生に俺が繁華街にいたことを告げたのは―――相良 くいなですか?」
「ええ、そうよ」
 俺の問いかけに本来ならしないであろう返答をする。
 仕掛けの一つとして俺に対してのみ警戒心の壁を取っ払ってみたが―――結構便利なものだな。
「先生、どうもありがとうございました」
「あれ、だけどなんでからす君、夢のことを―――」
 そう困惑する先生を尻目に俺は一礼すると職員室を後にした。
 さて、と。
 次の獲物が決まった、な―――

 
 


 

 

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