剣道場の囁き ”晶”


 

 





「あーきらっ」
「あれ、霞? どうしたの」

 突然の声に振り向くとそこには霞が立っていた。
 その姿に気が引き締まる。霞が話しかけてくる時に疑ってかかる自分が嫌になる。

「で、なに?」

 む、と警戒しながら霞に言う。霞もそれを分かっているのかにっこりと笑って返してきた。

「さすが、晶。話が早くて助かるわー」
「まあ、あんたが来る時は絶対に何かあるからね。で、なに?」

 はぁ。
 まあ、あんたとは深いからね。

「新しく喫茶店ができたのよ。そこのパフェが美味しいらしくてね」
「・・・あんた。あたしが辛党なの知ってていってるよね」
「ええ、もちろん。たしか、今日は剣道部は休みなのよね、剣道部期待の星さん」

 にっこり。
 いつもの嫌みを虫も殺さないような笑みに込めて霞は笑う。
 逃げ道もしっかりと塞がれていて、この誘いは受けるしかなかった。
 はあ。

「わかったよ。行きゃーいいんでしょ、行きゃー、優等生の生徒会長様」

 むかつく。
 嫌みを当然でしょって顔で流しやがった。
 あたしはさっさと前を歩いていく霞の後を追っていった。


 その喫茶店は新しくできたわりにあまり込み入ってはいなかった。

「あれ、並ぶ必要があるのかと思ったけど、すんなり入れたね」
「きっとまだ話が伝わっていないのよ。チラシとか見たことないもの。でも、きっとすぐに行列のできる店になるわ。運が良かったわね」

 にこやかな笑みを浮かべるウェイトレスに案内され、あたし達はテーブルに着く。
 メニューを開き数秒後、注文をする。

「コーヒー、ブラックで」
「私はパフェで」

 注文の確認をして、ウェイトレスは下がっていった。
 何とはなしに店内を見回す。木造を思わせる店内。わざとしているのか所々古っぽくしていて、柔らかく温かい感じが良く出ている。
 そして、静かな店内。霞が見つけてくる店はいつもいい店なのだが、その分客の数も多い。だが、ここはそれらとは違い、客が少なく静かな雰囲気だった。

「気に入った?」

 その声に前を見ると霞がにっこりと微笑んでいた。

「ああ、今のところの雰囲気はね。ここはこれくらいの人数があってるよ」

 そう言った時、注文した物が届いた。
 嬉しそうにパフェを食べ、そして、顔を綻ばせる霞。
 なにがそんなにいいんだろうね。
 そんな霞をみて、そう思わずにはいられなかった。

「んー、おいしー」
「それがそんなに美味しいものかねぇ・・・」

 ずずとコーヒーを啜る。甘い物がだめはあたしには霞の気持ちが分からなかった。

「美味しいよ。こんな美味しい物を楽しめないなんて、晶は潤いが足りないんじゃない?」
「はいはい。どうせあたしはしわがれた子ですよ。そんなものより煎餅のほうが大好きだもの」

 そう、そんな物よりお煎餅の方がよっぽどいい。
 だけど、一般的な女の子はそっちの方がいいんだろうなぁ。

「ところでさ、そんな晶に勧めたい物があるんだけど」
「ん、なに?」
「催眠術」
「え?」

 唐突に切り出す霞。そして、その切り出された物にあたしは唖然とする。
 催眠術? 何で突然。しかも今更。

「ほら、晶、剣道部じゃない。試合前とかにそうやって集中力を高めておけば、試合でも良い結果が得られるわよ」
「・・・・あんた。それ本気で言ってる?」

 うわ、本気だ。
 霞は知らないのか。あたしが催眠術っていうか自律神経法を使ってる事。
 
「え? ええ。言っとくけど、催眠術は魔法とか妙な能力じゃないわよ。ちゃんとかが・・・」
「ちゃんと科学に基づいた、心理療法の技術。でしょ?」

 そんなあたしの思考を知るわけもなく霞は喋っていく。慌てて説明しようとしている霞の姿は珍しく、面白いからその言葉を途中で取り上げてしまった。
 あ、溜め息ついた。気付かれたな。

「・・・なんだ、知ってたの」
「ええ、あんたも言った通り、催眠術はメンタルトレーニングに使えるからね。集中力を高めるのに使わせてもらってるよ。それより、あんた。そんな事できたんだ?」
「うん、最近習ったのよ。それでちょっと試してみたくなってね」

 ちょっと試してみたくなってって・・・
 安全だというのは分かっているけど、それでも一抹の不安がよぎった。

「ちゃんとできるんでしょうね?」
「任せなさいよ。そこは信用してくれて良いわよ」

 ドンと胸を張る霞。
 そんな霞を改めて見返した。
 まあ、霞は基本的に万全でなければやらないか。
 うん。信じてあげよう。っていうか、信じない事には催眠術はかからないやね。

「わかった。ま、あんたは確信がないとそう言う事はやらないからね。ちゃんとやってくれるってのは信頼してる。たまには自分でじゃなくて、誰かにかけてもらうってのもいいかもね」

 それで、今日はここだったんだ。
 もう一度店内を見回す。静かな店内、温かな雰囲気と施術にはいい環境だ。
 納得するとカップをソーサーの上に置き、霞を見た。

「どうせ、ここでやるんでしょ?」
「あはは、やっぱりバレバレか」

 にっこりと笑って、霞も座り直す。
 霞とあたしの視線が絡む。真剣な表情だった。多分、あたしも構えているんじゃないかと思う。
 霞はふぅと息をつくと、静かな声で言った。

「さ、まずはリラックスして・・・」







 ヒュッヒュッヒュッヒュッ

 風を切る音が剣道場に響き渡る。
 夕暮れの武道場に1人、あたしは素振りをしていた。
 そして、今日の事を振り返る。


「あの、綾瀬先輩」

 練習をしていると突然声をかけられた。声をかけてきた子はもじもじと俯き加減に言いにくそうにしている。

「ん、なに?」
「今日はどうしたんですか?」
「え?」
「なんか、今日の綾瀬先輩はぼーっとしてるっていうか、動きが悪いって言うか・・・ときどき隙だらけになるんです」

 ぐさっと来た。が、何か納得できなかった。
 確かに今日は気がつくと目の前に相手がいたという事が何度かあった。その度に慌てて対応するのだが、自分ではそんな風にぼーっとしているようには思えない。
 次の瞬間に目の前にいて、連続した時間の中で相手が凄い速さで動いたような感じがするのだ。

「綾瀬先輩?」
「あ、ごめん。考え込んじゃった。って、こんなのがぼーっとしてるって言われるのか。ありがと、気をつけるよ」

 むうとその現象に関して、考え込んでいるとびびったような顔で声をかけられる。そんなに恐れられているのかあたしは。
 なにはともあれ、雑念は禁物だ。というわけで、これで話を切り上げた。




 バシィッ!!

「い、一本」

 え?
 一本?
 主審を見ると驚いたような顔をしてあたしを見ていた。
 何が起こったのか分からなかった。否、打たれた瞬間は認識していた。ただ、一瞬のうちに竹刀が目の前にあり、避ける暇などなかっただけだ。

「こら! 綾瀬っ!! やる気あるのっ」

 なんで? いつの間に? どうやって?
 あたしの頭の中をぐるぐるといろいろな思考が回り出す。
 先生の声が聞こえる。だけど、混乱から立ち直れないあたしにはその言葉は届かず、右から左へと流れていった。

「綾瀬! お前は練習後素振り三百本やってきなっ」

 先生の大声だけが響き渡っていた。





 ヒュッヒュッヒュッヒュッ

 何度も何度も素振りをする。
 なにか心にまとわりつくような嫌な気持ちを払拭するために。
 どうしてもふりほどけない不安を拭うために。


「綾瀬」

 突然の声。その声に振り向くと、そこにはどこかで見たような男が立っていた。
 たしか、去年同じクラスだったっけ?
 その男はへらへらと笑い、こっちを見ている。それが剣道を、あたしを馬鹿にしているように感じられ、疳に障る。

「なんだお前。部外者は入ってくるな」
「なんだよ、つれないな綾瀬」

 パンッ

 男が手を打ち鳴らす。

『いい晶。晶はこの音を聞くと、3秒間意識がとんで、とんだ事には絶対に気がつかないの』

「っ」

 息をのんだ。
 一瞬ではあり得ない程、あたしと男の距離が狭まっていた。
 なに? このスピードは?

 パンッ

 次の瞬間にはあたしの目の前にいた。

「ほら、こんなにそそらせる顔をしているのにな」
「っ!!」

 バシッ

 なっ!!
 あたしは顎に添えられているあいつの手を弾き、一気に間合いを開く。そして、敵意を以て、あいつを睨み付けた。
 深く呼吸し、全身へと酸素を行き渡らせる。ぱ、ぱ、と手を開き、そして、しっかりと竹刀の柄を握りしめる。

「怖いなぁ。だめだよ、そんな顔してちゃ」

 パンッ

 するりと目の前に移動してくる。その歩法は凄いと思ったが、合わせられないわけではない。相手の呼吸を読んで、動きを合わせようとする。
 なっ。
 呼吸が合っていなかった。突然、あいつの呼吸が変わっていた。
 それに驚きながらも持てる動きを総動員して、目の前にいる男を突こうとする。
 一瞬の戸惑いが勝敗を分けていた。
 ずむと、あたしの太股にあいつの指が突き立てられる。
 
『太股を突かれると足に力が入らなくなって、立っていられないの』

 ストンッ

「え?」

 目の前の景色が急に変わる。目の前にあった男の顔はズボンへと替わっていた。
 な!?
 突然の出来事。事態を認識しようと辺りを見回した。いつもより低い視線。下を見た時に気が付いた。
 足が動かない!!

 バキィッ!!

「っ!!」

 突然の衝撃にあたしの竹刀が弾き飛ばされる。竹刀のあった辺りにあいつの足が見えた。
 ギリと歯を食いしばり、奴を見上げる。奴はにやにやと口だけで笑っていた。
 それが頭に来た。ぶん殴ってやろうと右手を握りしめ、大きく振りかぶる。
 だが、それが振り回される前にあたしは押し倒されていた。

「やっ」

 マウントポジションを取られ、そして両手を押さえられる。

「放せっ、放せよっ! んむっ」

 両手は頭の上で押さえつけられ、奴の唇があたしの唇を塞いだ。舌が入ってこようものならば思いっきり噛んでやろうと思ったのだが、舌は動かず、その代わりに胸が揉みしだかれた。

「んっ、んんっ!!」

 いやだ! やめろ!!
 ブリッジをして跳ねとばそうとしても足に力は入らず、それならばとおさえこまれている腕をどうにかしようと動かしてみても、所詮は女、あまり動かない。
 奴はそんなあたしの様子に調子に乗ったのか胴着の胸を押し開き、胸を下から揉み上げた。そのまま唇を放し、ニヤリと嫌な笑いを浮かべる。

『キスをされると身体が疼いて仕方なくなってくるよ。晶がどんなにいやがっても身体はとても感じてしまうの」

 ヒクンッ

「っぇ!」

 なっ!?
 なに!?
 突然の感覚。腰の中からズンとした重い感覚が湧きあがった。

「っ!!」

 ズン
 口から声が漏れそうになる。
 そんな・・・感じてる・・・の?
 こんなこと・・・されて・・・

「放せっ! はなっ」

 怖くなった。
 あたしは持てる力を全部使い、奴を引き剥がそうとする。だが、それは無駄だった。

 ひくんっ!

 軽く胸を揉まれただけ。ただそれだけなのに、凄い快感があたしを突き抜け、あたしの中に溜まった力は一気に霧散してしまう。

 ビクンッ!!

 鋭い面を打たれたような、意識を持って行かれそうな鋭い刺激。
 声を出したら負けだ。そう思い、しっかりと口を押さえる。

 シュル

 突然、場違いのように聞こえる衣擦れの音。その音源を見ると、袴の帯が解かれていた。
 まさか。まさか、まさか。
 導かれる答えは一つしかない。慌ててあたしは逃げようとした。だが、足は動かない。
 何とか腕の力だけで逃げようとしたが、そんなほふく前進ではあいつの嗜虐心を満足させるだけだった。
 ずるりとあたしの袴が脱がされる。

「嫌ぁっ!!」

 大声で叫ぶ。誰か気づけと思いを込めて。そして、あたしは何とか逃げようとする。
 だが、足は動かず、手だけでは逃げられない。ほふく前進で逃げようとするあたしの腰ががっしりと引き上げられた。
 奴の身体が絡みつき、あたしの身体に刺激を与える。
 ひくんひくんと身体が悶え、その度にあたしは嫌悪感に満ちていく。
 なんで、どうして。
 その思いがあたしの中を駆けめぐり、そして口から漏れ出ていた。

「どうして・・・」
「気持ちいいんだろ? それが綾瀬の本性だよ」

 耳元で囁かれる。それを必死に否定する。
 そんなことない。
 こんな無理矢理やられてなんて・・・

「ほら、わかってんだろ。濡れているのがさ」

 違う。そんなこと!
 深く呼吸をして、力を溜める。溜めた力を爆発させようとした瞬間、敏感なあそこが摘み上げられた。

「あぅっ!」

 全身に針を刺されたような鋭い感覚が脊髄に響き渡り、全身の毛穴が締まっていく。
 一瞬にして、遙かなところへと持ち上げられ、そして奈落へと落とされていく。

「イッたみたいだな。こんな風に無理矢理やられて、まだ入れてもいないってのにな」

 あいつの嘲笑。
 イッた?
 イカされた?
 無理矢理。
 悔しい。
 短い思考がぐるぐると回っていく。
 目の前に見える道場の床が滲んで見えた。

「大丈夫だよ。もっともっと気持ち良くさせてやるから」

 奴はずるりとショーツを腰から引きずりおろす。空気の感覚が股間へと当たり、ぞくっとする。
 え?
 待って。
 まさか・・・

「やぁっ」

 やだっ。
 そんなっ!!
 初めてなのに!!
 その先に起こる事態を想像し、あたしは慌てて逃げ出そうとする。
 だが、それは赦されなかった。
 ぎゅっと左の乳首が潰される。 

「ひんっ」

 一瞬のうちに体中が締まっていく。呼吸が、筋肉が固まっているうちにあたしの腰は押さえられ、いつの間にか出されていた硬く熱いモノが股間へと擦りつけられた。

「ぅくっ、んんっ、ひぅ!」

 ひくんひくんと腰が勝手に蠢く。快感を貪ろうとしている自分の身体を悔しく思う。だが、そんな思いを崩すかのように快感があたしの身体を昂ぶらせていく。
 不意にその感触が消え、別の所へと触れる感触が現れる。
 え? ちょっとまって!?
 そこは!!

「そ、そこっ、ちがっ」

 あいつはズブリとあたしのお尻のなかへと進んでいく。あたしの苦痛などお構いなしにめきめきとあたしの中を押し開いていく。
 初めての恐怖と緊張。それが体中の筋肉を固めていく。そんな中では中へと突き進むなど不可能のはずだった。だが、何故かあいつは進んでくる。あたしの体中の筋肉が固まっている中、なぜか括約筋だけは弛んでいた。

『お尻にちんちんを入れられると、晶は犬の言葉しか喋る事ができなくなるんだよ』

「うっ、わんっ、わんっ」

 え? 
 なに?
 あたし、今なんて言ったの?
 犬?
 あたしは辺りを見回す。だが、何処にも犬の姿など見えなかった。

「わんっ、わんっ!!」
「どうした? この格好でそんな声を出すと犬みたいだな!」
「わんっ!!」

 ズンッと深くあたしの中へと突き込む。その衝撃は激しく、あたしの口から屈辱的な声が漏れだして来る。
 なんで、こんな!!

「わんっ、わんっ、わんっ!」

 大きく背を反らし、大声をあげる。だが、その声はどんなにがんばっても意味のある物へと発音できなかった。

「ほら、自分でもわかっているんだろ? さっきよりもここが濡れてきてるのが」

 そんなあたしを嘲笑うようにあいつが言う。その声に怖気がたった。

 チュプ

 やっ、だっ!
 触れられる感覚に腰が痺れる。あたしの中から出て来た液体が敏感になっている太股を伝って垂れていく。その感覚はゾクゾクと寒気にも似ていた。
 そんな、そんなことないっ!!

「うー、わん、わんっ!! わんわんっ!!」

 どんなに叫んでも犬の言葉しか喉からは出てこない。
 ぶんぶんと首を横に振る。それしかあたしに残された方法はなかった。
 なんで、あたし、こんな事やってるんだろう・・・。
 そんなあたしが非常に惨めに思えてくる。悔しさに閉じた口に力を込める。

「そうか、やっぱり、わかってるんだな。気持ちいいんだろ? ほらイッちまえよ」
「わんっ!?」

 鋭い刺激と柔らかな快楽が叩きつけられる。
 なっ、んでっ!! こんなっ!!
 傷口を触られたような直線的な刺激があたしの中を駆けめぐる。電気を流されたかのように筋肉が勝手に収縮していく。

「わんっ、わんっ、わんっ!!」

 いっ! やっ!!
 身体が勝手に動いていく。あいつが後ろから突き上げる度、あたしの口からは音が漏れ、あたしの中が締まっていく。
 ジリジリと痺れにも似た感覚が、あたしの頭を包み始めていた。

「いいぞ、締まってくるようになったじゃないか。無理矢理やられて、それでなお感じるなんて淫乱な上に変態だな。わんわんなんて言ってよ!!」

 そんなわけっ!!
 そう言いたかった。だが、その時、その感覚が割って入った。

 ビクンッ!!!

「わんっ!!!」

 果てしない感覚。それは今まで入っていた氷水の中から引き上げられ、−40℃の強風でも浴びせられたかのようなとんでもない刺激だった。
 ぎりぎりと体中の筋肉が一斉に収縮する。全身が固まって呼吸ができないどころか、心臓が一瞬止まったかのようにも感じられた。
 すぐ後に体中の力が抜ける。そして、そのままあたしは床へと崩れ落ちた。
 ねっちょりとする液体、先程からあたしが垂れ流し続けていた粘性の高い液体の上に倒れる。
 全身が酸素を欲している。体中の筋肉が疲労を訴え、指一本動かす事もできない。奴はそんなあたしを貫いていた棒を引き抜くと、そのままあたしを仰向けへと転がした。
 あたしは怒りと憎しみを力に込めて、開くのがやっとの眼で奴を見る。その貌はやはりあたしを嘲っていた。

「またイッたな。綾瀬は本当に淫乱だ」
「ふざけないで・・・。あんた、あたしになにしたのよ」

 なんで・・・こんな・・・
 今は指一本動かせない身体を思い返す。

「なにって、お前を犯しているだけだろ? 俺はそれしかしてないし、それで感じるのはお前が淫乱だからだろ?」
「そんなわけないでしょ。じゃあなんで、あんな・・・あんな・・・」

 そんな答えで納得できるわけがない。足から力が抜けた事、感じすぎる身体。そしてさっきの犬の鳴き声。その全てが異常だと告げている。

「じゃあ、これはなんなんだよ?」

 そう言って、あいつはあたしの股間へと手を伸ばす。

「ひぐぅっ!」

 一瞬で絶頂へと引き上げられた。
 なんで・・・あたし・・・淫乱なの・・・?
 その疑問は頭の中でぐるぐると回っていた。

「ほら、これだけでこんなに感じて。本当は嫌じゃないんだろ? 淫乱の証拠さ」
「違う・・・違うの・・・」

 違う・・・こんなの・・・違う・・・
 あたし、淫乱なんかじゃない・・・・
 気が付いたら頭を振っていた。
 そんなあたしに、あいつがのしかかってくる。
 え・・・?
 ちょっと・・まって・・・まさか・・・

「淫乱な綾瀬にプレゼントをやる。喜べよ」
「いやぁっ」

 その言葉に意味を知る。逃げようとしてもすでに遅く、あいつの腰は進んできた。

「ぎぁああっ!!」

 激しい痛みに大声を上げる。傷口をぐりぐりするなんて目じゃなかった。
 そんなあたしをいたわる事なんてなく、あいつは身体を動かしてくる。
 あ・・・え・・・なんで・・・?
 ずきずきと感じる痛みがじわじわと変わっていく。先程のような快感があたしを包み込んできた。

「どうだ、俺のは? とても気持ちいいだろ?」
「そんなわけ・・・ないでしょ・・・どきなさいよ」

 ブルブルと快感に震える身体を抑え、何とか減らず口をたたく。だが、さっきのと合わせて、すでに負けかけている。

「身体は正直だぜ。ほら、どんどん締め付けてくる。自分でも分かってるんだろ?」

 あいつの言葉にふるふると頭を振る。だが、それももはや虚勢だった
 ビクン!!
 身体が跳ねるのを無理矢理抑える。
 ビクン!!
 一突き毎に虚勢が崩されていく。
 だめだ・・・このままじゃ・・・・
 のしかかってくるあいつを押し返そうと両腕に力を込める。
 ビクン!!
 だが、両腕に力は入らなかった。逆に押しつぶされていく。

「や・・・嫌なのに・・・・嫌なのに・・・・くんっ・・・こんな・・・んんっ・・・どうして・・・・」

 信じられない快感があたしの中を暴れていく。呼吸が乱れ、限界まで全力疾走したかのように体中が酸素を欲している。
 何でこんな・・・・嫌なはずなのに・・・

「だから、いってるだろ。綾瀬が淫乱なんだって」
「ひぅっ!」

 あいつの言葉があたしを崩す。確かに快感を感じていた。

「ほら、気持ち良くなってるだろ。俺も大分気持ち良くなってきてる。だから、このまま綾瀬の中に出してやるよ」

 え?
 まって・・・
 それって・・・

「やっ、だめぇ。やめてっ、中はっ」

 だめ! 中に出すなんてっ!!
 子供がっ!! 子供ができちゃうっ!!
 こいつを引き剥がさないととんでもない事になる。
 そう思っているのに、身体が言う事を聞かない。
 なんで・・・・こんな・・・!!
 腕だけでは引き剥がす事ができない。

「やめてよぉ、なかはっ、子供がッ!!」
「できるかもね。それもまた面白いかもよ」
「ひぐぅっ!!」

 あたしの言葉を面白がりながらあいつは腰を動かす。
 その度にあたしの身体は痺れていき、あたしの思考が削られていく。
 や!
 いや!
 やめて!
 もうあたしの中には中に出すのは止めて欲しいということしかなかった。

「ほら、あとすこしだ!!」
「やぁっ、やめてっ、外に、外にっ!!」

 ぶんぶんと頭を振る。必死に叫ぶが、その叫びはまったく聞き入れられる事はなかった。

「イクぞっ!!」
「っ!! ああああああああっ!!!!」

 ほとんど動けないあたしの奥深くに突き入れられる。そして、その先から飛び出る感触。
 で、でてる!!
 その感触があたしの中で大きく暴れ、あたしを途方もない域へと飛ばしていった。
 がくっと力が抜けていく。
 出されたんだ・・・・あたしの中に・・・
 やだ・・・赤ちゃんが・・・できちゃう・・・

「っく、赤ちゃんが・・・できちゃうよぉ・・・」
「気持ち良かったんだろ? それでいいじゃねえか」

 いい? だって?
 いいわけない。今だけよければそれでいいなんて、絶対に思えない。
 大体にして、無理矢理やられていいわけがない!!

「赦さない・・・あんた絶対に赦さない!! 殺してやるっ!!」
「じゃあやってみれば?」

 そう言って、あいつはあたしの竹刀を投げてくる。
 ガシャンと派手な音を立て、竹刀はあたしの前に転がった。

「ほら、もう足も動くだろ。やってみろよ」

 言われて確かめる。確かに動かす事もできるが、それ以上に疲労が大きい。足にあまり力が入らなかった。
 竹刀を手に取り、それを杖代わりに立つ。こんな事をしなければならないあたしとこんな風にしたあいつを悔しく思う。
 ガクガクと膝が笑う。
 すっと目を閉じて体中の状況を確認すると、敵意と共に目を開いた。
 一撃。
 そう心に決めて、空気を取り込む。虚勢ではあるが膝の震えはなく、一撃だけなら問題はない。
 ダン!!
 憎しみを込めて、一気に踏み込む。一瞬にして間合いに入り込むと、あたしは初めて防具なしの相手に全力で突きを出した。
 もしも、これが当たったら喉を潰していただろう。それほどの一撃だった。

『そうそう、晶は彼を傷つける事はできないんだよ』

 だが、その切先はあいつに届かず、その喉元でぴたりと止まっていた。
 え?

「な・・・んで・・・」

 呆然と呟いていた。
 あと数cmというところまで届いているのに、それ以上進まない。
 力を最大限に使っている。竹が軋む音が鳴るくらいに柄を強く握る。だが、どう足掻いても竹刀を押し出すことができない。
 あと少し、目の前にあいつがいるのに!!
 あと一歩、あと5cmの距離を埋めることができなかった。
 くぅ・・・・。
 力が抜けて、竹刀を落とす。今度こそ全ての力を使い切った。
 ガシャンと派手な音が鳴る。あたしは膝をつき、四つん這いになった。

「わかったか。お前は俺を傷つける事はできないんだ」
「あたしに・・・あたしに何をしたのよ」

 あいつの声が聞こえてくる。
 その全てを知っているという感じの声にあたしは聞き返していた。

「俺は、なにもしてない。あ、いや、ちがうか。俺はお前を犯しただけだ」
「ふざけないで! そんなわけないでしょっ!! こんな・・・・こんな・・・」

 犯しただけ!?
 それだけであんな風になるわけないじゃない!!
 あんな・・・犬みたいに・・・
 それに・・・・あんなに・・・・感じて・・・・た。
 さっきのあたしを思い出し、ぎゅっと身体をかき抱いた。

「本当に俺は何もしてないぞ。俺はな」

 え?
 俺は?
 その意味を理解するより早く、その声は聞こえてきた。

「そうよ、晶。だって何かしたのは私だもの」

 え?
 人がいる。
 どうして?
 聞きなれた声。
 なんでここにいるの?
 交遊の広くないあたしの唯一といっていいくらいの友人。
 どうして―――
 顔を持ち上げた先に霞がいた。

「あ・・・・あ・・・・・」

 どうして霞がここにいるの?
 いつから?
 あっ、はだっ
 咄嗟に身体を縮こまらせる。
 見られた―――

「違う・・・これは違うのよ・・・霞」
「何が違うの? 晶」

 霞はにっこりと笑う。それはいつもと変わらない霞の笑顔だった。
 笑顔のまま霞はこちらへと歩いてくる。
 なんで笑っていられるの?

「隠さなくても大丈夫よ。だって、私ずっと見てたから。晶が乱れていく姿。犬みたいにわんわんって言ってる姿」

 霞がどんどん近づいてくる。
 訳の分からない恐れにあたしは知らず下がっていた。
 目の前ですっと霞はしゃがみ込み、座り込んでいるあたしの横から覗き込む。

「そして、晶がイッちゃうところ」
「な・・・な・・・」

 見られた―――
 あんな姿を・・・見られた。
 霞に・・・見られた。
 見られた―――
 ふわっと視界が覆われて、霞の匂いがふんわりと鼻孔をくすぐる。

「そんなに怯えなくても大丈夫。だって、晶をそんな風にしたのは私だもの」
「え、霞・・・?」

 え・・・どういう・・・事?
 理解できない。
 意味を求めて霞を見るが、その貌は笑顔のままでその言葉が何を意味しているのか何も示さない。

「何を・・・言ってるの?」
「だから、私が晶をそんな風にしたって言ってるのよ。この間、催眠術をかけた時にね」
「なんで・・・」
「なんで? だって、この人の望んだ事ですもの」

 え!?
 目の前の光景が信じられない。霞の言葉が信じられない。霞の行動が信じられない。
 うそ・・・舌を入れてる・・・。
 目の前の光景が霞の言葉を真実として伝えてくる。

「な・・・・な・・・・」

 頬を真っ赤に染めて、霞は見上げる。その瞳はとろんとして、その貌はほうっとしていた。

「か、霞・・・・」
「どうした? またやりたくなったか?」

 あいつがにやにやしながら見下ろしてくる。その隣で霞があたしを見ていた。
 え・・・・霞・・・まさか・・・
 頭の中で嫌な考えが紡がれる。が、それをすぐに否定した。
 そんな訳はない。あたしの知る霞は友達を裏切るような事は絶対にしない。

「あ、あんたっ。霞に何をしたのよっ!!」
「俺の好きにしただけだ。俺の好きなようにな」
「な・・・・」

 好きに・・・?
 好きにって・・・
 そこに霞の意思はないの!?
 ちらりと霞を見る。とろんとした表情。そこに霞の意思はあるのか?
 少なくとも、今まであたしが見た事のない貌だった。

「赦さない・・・。あんた、絶対に赦さない」
「で、どうするんだ? さっき傷つける事ができないのは証明済みだろ?」

 勝ち誇ったようにあいつは言う。
 だが、それはあたしがお前を傷つけられないという事だ。それならそれでやりようはいくらでもある。
 さっきの霞の行動のおかげで休む暇もできた。
 軽く手を握る。普段の感覚が戻ってきているのを確認した。

「警察と学校に言ってやる。そうすればお前ももう終わりよ!!」

 だんと一気に立ち上がり、霞の手を取り、一気に引き寄せる。そのまま出口へと振り向き、一気に逃げようとした。
 が、それは成せなかった。がくんと身体が引っ張られる。驚いて振り向くと、霞が逆に引っ張っていた。

「だめよ。そんな事しちゃ」
「霞っ・・・」
「さ、『眠りなさい、晶』・・・」

 霞に抱きしめられる。静かな声で囁かれた。
 え・・・
 静かな霞の声。
 あ・・・・
 それがあたしの中へと染み込んでくる。
 か・・す・・み・・
 そして、あたしの意識は闇の中へと溶け込んでいった。





 う・・・
 闇の中から投げ出されたあたしは頬に冷たく、硬い感触を感じていた。
 夢・・・?
 床の上に横になっていた身体を起こし、辺りを見回す。霞の姿もあの男の姿も見あたらなかったが、床の水溜まりに乱れた胴着、そして離れた場所に落ちている袴が夢という可能性を否定した。
 オレンジ色に染まっていた道場は闇に包まれはじめていた。
 あたしは急いで着替えて、職員室へと急ぐ。
 職員室には先生がいる。先生に言えばあいつもイチコロだろう。
 管理棟に入り、職員室の扉を勢いよく―――開けなかった。
 なっ・・・・!
 扉にかけた手が固まり、動かす事ができない。そう、さっきあいつに突きを入れられなかったように。
 く・・・動け! 動け動け動け動け動け!!
 動きなさいよ!!
 いつまでも動かない手。それは先程も証明済みだ。
 くそ・・・くそ!!
 あたしは諦めて武道場へと戻り、濡れ雑巾で自らの愛液を拭く。
 ギュッギュッとねっとりした液体を拭っていく。こんなものが誰かの目に触れるのかと思うと、自然に手に力が入った。
 なんで・・・こんなことしてんだろ・・・
 その問いはぐるぐるとあたしの中を回っていく。
 なんで・・・こんな・・・
 なんで・・・
 そして、その問いに対する答えはすぐに、そして明確に現れた。
 あいつの・・
 あいつのせいだ・・・
 優越感に浸ったような顔が浮かぶ。その顔に憎しみと怒りを燃やした。
 胴着から制服へと着替える。
 道場に鍵をかけて、再び職員室へと歩いていく。
 すると、さっきはあれほど頑張っても開かなかったあの扉は当然のように開いた。
 
「素振りは終わった? 結構かかってたじゃないか」

 先生!!
 そう叫びたいのに口が開かない。
 急ぎたいのに足はゆっくりとしか進んでいかない。
 先生の前に立つと、あたしを確認せずに聞いてきた。たぶん、たった瞬間にあたしだと気付いたのだろう。
 先生!!
 たっぷり間をおいてあたしを睨むように見ると、すぐにはぁとおおきなため息をついた。

「まあ、いいよ。綾瀬も色々あるだろうしね。でもね、いくら綾瀬がうまくてもちゃんと集中してないと怪我の元だから。それを注意して欲しいのよ」

 助けて!!
 叫びたい。
 だが、あたしの口からはまったく違う言葉が紡がれる。
 
「はい、すみませんでした」

 先生!!
 先生に抱きつきたい。
 だが、あたしの腕は道場の鍵を渡すためだけに動かされる。
 
「うん、じゃあ、かえってよし」

 誰か!!
 辺りの誰かに助けを求めたかった。
 だが、あたしの身体は先生に一礼するとくるりと方向転換し、職員室を出て行った。
 なんで・・・・勝手に・・・
 身体はあたしの思いなんて知った事かと昇降口で靴を履く。
 こんな・・・こんなの・・・
 さっきから頭の中ではあいつに襲われたシーンがぐるぐると蠢いていた。
 さっきの恐怖、さっきの怒りが何重にも襲いかかってくる。
 どうして・・・こんな・・
 視界が滲む。
 鼻水に鼻が詰まり、呼吸は口からになる。
 鼻水を啜るために肩が上がり、啜る音がずずっと鳴る。
 こんな・・・・こんな・・・・こんな・・・

『晶は、今あった事を私達以外の誰にも伝える事ができないんだよ。言う事も、何かに書く事も、身振りで助けを求める事もできないの』



 ちくしょう・・・ちくしょう・・・・ちくしょう・・・・
 頬に伝わる温水の感触。その感触を感じながら、あたしは家に帰った。

 
 
< 了 >


 

 

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