馴奴(じゅんど)七

〜微熱依存〜


 

 



前編

初体験の冷え性対策





「岬さん、ちょっといい?」
「ん? どうしたの、栗原さん?」

 ひとりの女子生徒に声をかけられて、友達と楽しそうにおしゃべりをしていた女子が首を傾げる。
 
「この間の健康アンケート、岬さんだけまだ出てないのよ」
「えー、いいじゃん。あんなアンケートどうせ大した意味ないわよー」

 クリッと大きな目を丸くして、あっけらかんと答える少女。
 明るい茶色の前髪を下ろして、軽くカールさせたショートボブの髪がふわっと揺れる。
 くるんと巻いた長い睫毛に、目許のラインもばっちり決めて人なつっこい笑みを浮かべていた。

「そんなことないわ。あのアンケートは保健室の先生が生徒の体調を把握するための大事な資料になるのよ」
「栗原さんってホント真面目だよねー。あんなアンケートでどうやって私たちの体調なんか把握できるのよ」
「でも……」
「だいいち、私もうアンケート用紙なんか持ってないしね」
「もう……」

 その言葉に話しかけてきた生徒、栗原由佳(くりはら ゆか)は呆れて首を振るしかなかった。

 彼女、岬愛莉(みさき あいり)はいつもそんな感じだった。
 ニコニコと愛想よく笑っていて誰とでも親しげにしているけど、ちょっとルーズなところがある。
 先生に注意されない程度にメイクをして学校に来ているところも今時の女の子らしいのだが、由佳は昔から彼女が苦手だった。
 もちろん、以前のおどおどとして人とあまり話すことのなかった頃の由佳とは、あまりにも性格が違いすぎていたこともある。
 そんな由佳の性格がすっかり明るくなって、クラスの中でも目立つようになった今でも愛莉とはあまり話すことはなかった。
 基本的に真面目な性格の彼女には、何事にもマイペースで適当な愛莉の性格は好きになれなかった。






* * *







 放課後。

「じゃあねー、また明日!」

 教室の前で、愛莉は部活に行く子たちと手を振って別れる。
 その日は、仲のいい友達はみんな部活がある日だった。



「痛っ……」

 ひとりで帰ろうと廊下を歩いていた愛莉が、突然顔を顰めてこめかみを押さえる。

 それは、このところ彼女を悩ませていた偏頭痛のせいだった。
 それも、重度の冷え性由来の。

 ずっと前から冷え性だという自覚はあったのだが、去年の初め頃からそれがひどくなっていって、今では真夏でも手足の先が冷たく感じるほどだった。
 そればかりか、首が凝って頭が重く感じたり、今みたいに突発的にひどい頭痛に襲われるようにもなっていた。

「もうー、ホントに鬱陶しいんだから……」

 特に薬を飲まなくても、偏頭痛は少しの時間が経てば治まっていく。
 しかし、だからといって気が晴れるわけでもない。

(……一度病院に行った方がいいのかなぁ?)

 愛莉がそんなことを考えながら階段を降りていったときだった。

(あれは……たしか保健室の……)

 階段の下にいる、白衣を着た背の高い男。
 それがこの学校の保健医だということは知っていたが名前が出てこない。
 去年この学校に赴任してきたばかりで、たしかお寺みたいな名前だったことだけは覚えていた。
 とにかく、男だというだけでその保健医は男子からの人気がなかった。
 そうでなくても、かなり痩せていて目つきが鋭いために女子からも敬遠されていたのだが。

 普段は保健室にいるはずなのに、どうしてこんなところにいるのか。

(ひょっとして、あのアンケートを回収しにきたの?)

 一瞬、栗原が言っていたアンケートのことが脳裏に浮かぶ。
 しかし、あんなアンケート程度で保健医が自分で回収に来るなんてことは考えにくかった。





 階段を降りた愛莉が、軽く会釈をして保健医とすれ違おうとした瞬間のことだった。

 いきなり、何かが自分の前に突き出された。
 続けて、鋭い声が自分の体を貫いたように感じた。

「ほら、きみはこれから目が離せなくなる」
「……っ!?」

 目の前でカチッ、カチッと淡いピンクの光が点滅している。
 混乱した頭で、それがペンライトだとすぐにはわからなかった。

 そこに、続けてその鋭い声がまた聞こえてきた。

「さあ、この光をじっと見つめて。この光を見ていると、なにも考えられなくなるし、声も出せないよ」
「う……」

 その声の言うように、ペンライトから目が離せない。
 それだけではなくて、愛莉は短く呻いたきりなにも言えなくなっていた。
 まるで息が詰まったみたいに、いや、実際には呼吸はできているが声が出てこない。
 それに頭の中は混乱したまま、思考が同じところをぐるぐると回っているみたいになってなにも考えられなかった。

「この光だけを見つめて。きみはなにも考えずにこの光だけを見つめていればいいんだから」

 ゆっくりと点滅するピンクの光を見つめる愛莉の頭に、その声が染み込んでくる。

「さあ、じっとこれを見つめて。離れないようについて行こうね」

 声がそう言うと、目の前に突きつけられたペンライトがすっと遠のいていく。
 それを追いかけるように、愛莉はふらふらと歩みを進める。
 なにも考えられないまま、体だけが相手の言うとおりに動いていた。

 そして彼女が連れてこられたのは、階段の裏側にある狭いスペース。
 階段と下駄箱の陰になって、周りからは死角になっている場所だった。

 そこで愛莉と向かい合うと、保健医はまたその目の前でペンライトを静止させる。

「さあ、この光を見て。なにも考えずにじっと見つめて。この光を見つめていたら、きみはなにも考えなくていいんだ。ただこうして光を見つめているだけで気持ちが楽になってくるよ」

 身じろぎもせずにライトの先を見つめる愛莉に向かって、保健医が囁くように言葉を続ける。

「ほーら、心も体も楽になって、すごーくいい気持ちだ」

 保険医の声に重なっているかのように、愛莉の目から光がなくなっていく。
 そして、焦点の合わないその瞳に対して口許は微笑むように緩んでいた。

「この光を見つめているとすごくいい気持ちになって、体から力が抜けていくよ。ほーら……」

 そう言ってペンライトを軽く引くと、それを追いかけるように愛莉の体がぐらつく。
 それを、保健医が受け止めた。

 保健医に自分の体を預けて寄りかからせたままで、それでも愛莉は目の前にかざされたライトをぼんやりと見つめていた。

「今、すごく気持ちいいよね?」
「……はい」

 保健医の囁く言葉に、愛莉がぼそりと返事をかえす。

「今、こうしてるとなんでも気持ちよく感じるよ。こうやってこの声を聞いてるのも気持ちいい」
「……はい」

 短く返事をした愛莉の顔にどこか虚ろな、緩んだ笑みが浮かぶ。

「だから、この声の言うことを聞くのも気持ちよくて、この声の言うことには従ってしまうよ」
「……はい」
「それと、もう一度目の前でこのライトをかざされたらきみはまたこの気持ちいい状態になるよ、いいね?」
「……はい」
「それじゃあ、とりあえず体を起こして僕の後についてきて」
「……はい」

 かけられた言葉に頷くと、愛莉は保健医に寄りかかった体勢から体を起こす。

 そして、虚ろな目で前を行く白衣を見つめたまま、おぼつかない足どりで歩きはじめたのだった。






* * *







 そしてその保健医、竜泉寺岳夫(りゅうせんじ たけお)が、愛莉を連れて保健室に戻ってきた。

「あっ、どこに行ってたんですか、先生? ……あら?」

 当たり前のように竜泉寺を出迎えた栗原由佳が、その後について入ってきた愛莉に気づいて怪訝そうな表情を浮かべる。

「先生、彼女は……」
「おまえのクラスの岬愛莉さんだろ?」
「ええ」
「たしか、あのアンケートを出してないのは彼女だったね。だから、この機会に直接『健康調査』をすることにしたのさ」

 意味深な笑みを浮かべて、竜泉寺がそう告げる。
 それだけで察しがついたのか、由佳も悪戯っぽい笑みを浮かべた。

「そうだったんですか。それで、岬さんはもう催眠状態に?」
「ああ。それなりに深くはかかってるけど、もう少ししっかりかけておこうと思ってね。……さあ、その椅子に座って」
「……はい」

 ぼんやりとした表情で頷くと、愛莉は竜泉寺が指さした椅子に腰をかける。
 そして、竜泉寺は白衣のポケットからペンライトを取り出した。

「へぇ、今回はそれを使ったんですか。ということは、凝視法ですね?」
「うん、ま、それプラス驚愕法もかな。最近のペンライトはなかなかにバリエーションが豊富でね。LEDを使っていて昔のものに比べて色も格段に種類が多いし、これなんか1本で20種類の色に切り替えができるタイプだそうだ。それに点滅の早さも何種類かパターンがあるしな。ライトの色や点滅速度の違いで催眠導入への効果に違いが出るかどうか、一度徹底的に試してみたいね」

 興味津々で訊ねてくる由佳にそう説明すると、竜泉寺は愛莉の目の前でペンライトを点けた。

 すると、ピンクに点滅する光を見つめる愛莉の表情が心地よさそうに緩んでいく。

「先生、これは?」
「ああ、すでに彼女にはもう一度このライトを見ると気持ちよくなるって暗示をかけてあるからね」
「じゃあ、一番いいところはもう見逃したんですね」
「そう言うなよ。このくらいのことは今のおまえならすぐにできるさ。それよりも始めるぞ。彼女の側に立って、倒れそうになったら支えてやってくれないか」
「はい、わかりました」

 竜泉寺の言葉に笑顔で返事をすると、由佳は丸椅子に座る愛莉の背後に立った。
 そして、真面目に授業を受けているときのように表情を引き締めると、それから竜泉寺がすることを見逃すまいとじっと目を凝らす。

「この光を見てるとすごく気持ちいいよね?」
「……はい」
「じゃあ、この光をじっと見つめて……追いかけるように。そうしたら、もっともっと気持ちよくなれるよ」

 そう言うと、竜泉寺はゆっくりと弧を描くようにペンライトを揺らし始める。
 それを追いかけるように、愛莉の視線も動いていく。
 ぼんやりと虚ろな瞳をライトの先端に向け、だらしなく弛緩した笑みを浮かべたままで。

「ほーら、気持ちいい……。ゆらゆら揺れるこの光を見ていると、心も体もふわふわと浮かんでいるみたいにとても気持ちよくなるよ」
「……はい」

 竜泉寺の声に、愛莉は力の無い声で返事をする。
 その両腕はだらりと降ろされて、ペンライトの動きに合わせて体をゆらゆらと揺らしはじめていた。

「すごーく気持ちいいよね。ほら、このライトが止まると全身の力が抜けて、きみは一番気持ちがいいところに行くことができるよ」

 そう言って、竜泉寺がペンライトの動きをぴたっと止めた。
 それと同時に愛莉の体から力が抜けて倒れそうになるのを、由佳が受け止める。
 由佳に体を預ける姿勢になっても、愛莉の視線は点滅するピンクの光に向けられていた。

「今、きみは今まで感じたことがないほどに気持ちいいところにいるね?」
「……はい」
「だから、きみをこんなに気持ちのいいところに連れてきてくれたこの声の言うことなら、どんなことでもその言うことをきいてしまうよ」
「……はい」

 ペンライトの先を見つめ、緩みきった笑みを浮かべて愛莉は竜泉寺の言葉にひとつひとつ頷いていく。

「それじゃあ、いくつか質問に答えてくれるかな」
「……はい」
「今、自分の体のことで気になっていることとか、悩んでいることはなにかあるかい?」
「私……冷え性がひどくて……それですごく困ってて……」

 竜泉寺の質問に、愛莉は抑揚のない、途切れ途切れの言葉で答えはじめる。

「へえ。それは、最近になってからのことかな?」
「……だいぶ前から冷え性だとは思ってたけど……去年からひどくなってきて……一年中手足の先が冷たくって……最近はいつも頭が重く感じて……ときどきひどい頭痛もします」
「なるほどね。……よし、じゃあこうしよう。さっき、階段の下で保健室の先生と会ったことは全部忘れるんだ」
「さっき……保健室の先生と会ったことは……全部忘れる。……はい」
「今日きみは、その冷え性のことで相談するために自分から保健室に来たんだ。いいね?」
「私は……冷え性のことで相談するために……自分から保健室に来た。……はい」

 竜泉寺の言う言葉をボソボソと繰り返して、愛莉はコクリと頷いていく。

「保健室の先生はすごくいい人で、きっときみの悩みを解消してくれるよ。だから、保健室の先生の言うことは絶対に聞くんだ」
「保健室の先生はすごくいい人……だから、先生の言うことは絶対に聞く。……はい」
「それと、保健室の先生の言うことやすることはきみの冷え性を治すために必要なことだから、なにを言われてもなにをされても疑ったらいけないよ」
「保健室の先生の言うことやすることは……冷え性を治すために必要なことだから……なにを言われてもなにをされても……疑ったらいけない。……はい」
「それから……そうだ、こうしよう」

 不意に、なにか思いついたように竜泉寺がペンライトをカチャカチャと操作する。
 すると、ピンクだったその光が柔らかオレンジ色に変わった。

「ほら、このライトを見て。温かそうな色をしてるだろ?」
「……はい」
「目の前にこのオレンジ色のライトを見たらいつでも、きみは体が手足の先までポカポカと温かくなってくるよ」
「この……オレンジ色のライトを見たら……体がポカポカと温かくなってくる……はい」

 点滅するオレンジの光を見つめながら、愛莉が頷いた。

「それじゃあ体を起こして」
「……はい」

 竜泉寺の声に、愛莉は体を起こした。
 彼女が自分で座っているのを確かめると、由佳は一歩後ろにさがる。

「3つ数えてパンと手を叩く音がしたらきみは目を覚ますよ。きみは保健室に相談事があって、放課後に自分でここに来たんだ。いいかい?」
「……はい」
「じゃあ……1、2、3」

 3つ数えて、竜泉寺がパチンと手を叩く。
 その音で、それまで虚ろな笑みを浮かべていた愛莉が我に返ったように周りを見回す。

「あ、あれっ? 私……?」
「どうしたの、岬さん?」
「……栗原さん?」

 背後から声をかけてきた由佳を、驚いたように愛莉が見上げる。

「保健室の先生に相談したいことがあるって来たのにぼんやりしちゃって、どうしちゃったの?」
「あっ、そうだ! 私、悩んでることがあって相談に来たんです! ……あっ」

 由佳の言葉でやっと思い出したように前を向いた愛莉が、竜泉寺の顔を見て困ったような表情を浮かべた。

「……岬さん、まさか竜泉寺先生の名前がわからなかったの?」
「あ、うん……ちゃんと覚えてなくて……」

 バツが悪そうに愛想笑いを浮かべる愛莉に、由佳が呆れ顔で肩をすくめる。
 竜泉寺は竜泉寺で、さすがに苦笑を隠せないでいた。

「まあ、保健医の世話にはならないに越したことはないしね。名前を覚えてないくらいの方がいいんじゃないかな。じゃあ、改めて自己紹介しておくよ。僕の名前は竜泉寺岳夫っていうんだ」
「えっと……栗原さんと同じクラスの岬愛莉です。よろしくお願いします」
「うん、よろしく。で、岬さんが相談したいことがあって来たんだよね?」
「あ、そうなんですっ。私、このところ冷え性がひどくて、ずっと気になってたんですよぉ」

 竜泉寺が促すと、愛莉は身を乗り出して話し始める。
 もちろん、自分の相談事の内容をすでに相手が知っているなどとは夢にも思っていない。

「ふむ、冷え性がひどい……と。で、それはいつ頃から?」
「冷え性なのかなーってはけっこう前から思ってたんですけど、去年くらいからなんかひどくなってぇ、ときどき頭がすごく痛くなるし、今だって手や足先は冷たいですよー」
「なるほど。ちょっと、手をこっちに出してみて?」
「え? ……こうですか?」

 愛莉が差し出してきた手の冷たさは、さすがに竜泉寺も驚くほどだった。

「うん、これはかなり冷たいね」
「ね、言ったとおりでしょ」
「ここまで手の先が冷たいのは僕もあまり診たことはないね。そりゃ偏頭痛もするはずだよ」
「やっぱり、あの頭がズキズキするのって冷え性のせいなんでよね?」
「ああ。それは血行が悪いために起きる冷え性の代表的な症状だからね。それと、去年あたりから生理痛もひどくなってないかい?」
「あっ! そうです! えぇ〜、それも冷え性のせいだったんですかぁ?」
「間違いないだろうね。もともと冷え性自体が男性よりも明らかに女性の方が多い症状ではあるけど、特に女性の場合は生理痛を伴うことが多いみたいだね。そればかりか症状が重くなると生理不順が多くなって、その時期にはひどい痛みと体のだるさといった体調不良を自覚するみたいだね」
「私、まだそこまではいってないですけど、そういえばこのところずっと生理の時の痛みや体が重たい感じがひどいかなぁって。よく考えたら、そっれって頭痛がするようになったのと同じ頃からかも……」
「冷え性のメカニズムは、全身の血流が悪くなることで引き起こされるんだ。だから、体の末端まで血液が十分に行き届かないせいで、まずは手足の先が冷えてくるんだよ。たとえば、通常の人間は寒いときに手足が冷たくなるのを感じるけど、冷え性の人は血行の悪さで体が冷えてるから寒い時期じゃなくても辛いくらいに手足の先が冷たく感じてしまうし、少々厚着をしたくらいでは冷えが解消されないんだ」
「そうそう、そうなんですよぉ。冬だけじゃなくて、夏でも手足の先が冷たくて、冷房の効いた部屋にはいられないくらいですもん」
「まあ、そうだろうね。今日だってどっちかというと暖かいくらいなのに、これだけ手先が冷えてるくらいだしね」
「だから相談に来たんですよ。これって、どうしたら治るんですかぁ?」

 完全に自分から相談に来たつもりで、愛莉が期待に満ちた視線を向けてくる。
 一方で、竜泉寺は難しそうな表情を浮かべていた。

「さっきも言ったように冷え性は血流の悪化が原因なんだけど、それをもたらす要因は様々なことが挙げられているんだ。例えばストレスもそうなんだけど、それだと男女条件は一緒になるはずだよね。でも冷え性になる割合は男性よりも女性の方が圧倒的に多いんだ。その理由のひとつとして、女性ホルモンのバランスが崩れるためというのがあってね。これをもたらすのが、不規則な生活だって言われてるんだよ」
「……それって、どういうことなんですか?」
「つまり、充分な睡眠時間の確保やバランスのとれた食事といったように、生活習慣を改善していくと冷え性はかなり良くなることが報告されていてね。……岬さんは、ダイエットしたことはあるのかな?」
「はいはい! やります! 私、しょっちゅうダイエットしてるんですよぉ!」
「なるほどね。実は、無理なダイエットがホルモンバランスをおかしくさせて冷え性の原因になっているとも言われてるんだ。特に、女性の方が極端なダイエットをする傾向があるし、若い子の間でも流行ってるだろ? 最近、10代の若い子に冷え性が増えているのはそのせいじゃないかとも言われてるんだ」
「でもぉ、やっぱり体型が崩れるのはいやじゃないですかー」
「でもね、極端なダイエットはそれ自体が生理不順とかの原因になるから僕としては勧められないね。単に体型の維持のためなら、例えば女の子が好きな甘いものを控えるとか炭水化物の量を減らすとかでも充分だから。それで適度な運動をした方がより健康的に体型を維持できるし、実際、バランスのとれた食事と軽い運動は冷え性対策に効果があるとされているんだよ」
「そうなんですか?」
「ああ。冷え性対策の基本は生活習慣の改善だからね。食事もあまり偏ったものにならないように、例えば冷え性には大豆食品や魚といった良質のタンパク質を摂るのがいいとされているけど、それも摂りすぎだと偏ってしまうからね。それと……」

 不意に、竜泉寺は棚の引き出しを開けてなにかをゴソゴソと探し始める。
 そして、小袋をひとつ取り出した。

「……ああ、有った有った。これを持っていきなさい」
「これ……お薬ですか?」
「いや、ただのビタミンEのサプリメントさ。ビタミンEは血流の流れを良くするから、冷え性には効果があるとされていてね。まあ、こういったビタミンもナッツ類や青魚といった形で食事で摂れればベストなんだけど、どうしても不足しがちだからね。まあ、おまじないだと思って、そこに書いてある数を食後に飲んでみるといいよ」
「はい、わかりましたぁ」
「とにかく、冷え性に対しては今も言ったようにバランスのとれた食事に充分な睡眠時間の確保が基本で、他に家でできることは、ぬるめのお風呂にじっくりゆっくり入る、そして、お風呂から上がったら全身のストレッチ運動をして体が冷えきらないうちに寝る。それを毎日続けるだけで症状が軽くなったという報告もあるからね」
「毎日……それで、どのくらいで効果が出てくるんですか?」
「冷え性の改善は1日2日じゃ無理だからね。気長に根気よく取り組むことだよ」
「でもぉ……」

 竜泉寺の説明に、内心の不満と不安を表すように愛莉が唇を尖らせる。

「それは、冷え性を根本的に治すには、そういった日々の努力の積み重ねによって体質を改善させるしかないからね。ただ、現時点できみを悩ませているひどい体の冷えをすぐに緩和させる方法がないわけじゃないよ」
「ええっ!? それってなんなんですか?」
「そうだね……例えば、こんな方法があるんだ」

 そう言うと、竜泉寺は白衣のポケットからあのペンライトを取り出した。
 それを愛莉の目の前にかざしてスイッチを入れると、柔らかいオレンジの光が点滅を始める。

「ほら、この光を見て。……こうやってこの光を見つめてると体が温かくなるような感じがしないかい?」
「あ、そういえば……なんだか手足の先がポカポカしてくるみたい」

 じっとペンライトを見つめていた愛莉が驚いたような声を上げる。

「あっ。すごーい! 体がすごくあったかくなって、これ、ちょっと気持ちいいかも」
「どうだい? 冷えが気にならなくなるだろ?」
「はい!」
「こういう、一定のリズムで点滅する暖色系のライトをじっと見つめるとね、自律神経に働きかけて体を温める効果があるんだ」
「へえぇ……そうなんだぁ」

 竜泉寺の言葉に、愛莉が感嘆の声を上げる。
 本当は暗示で仕込まれているだけなのに、そのもっともらしい説明に愛莉が感心しきりなのが可笑しかったのか、その背後に立っていた由佳がクスリと笑う。
 愛莉の方はそんなことには気づくこともなく、竜泉寺の説明に頷きながら点滅するする光を見つめていた。

「すごい、ポカポカしてすごく気持ちいいなぁ。こんなに温かかったら冷え性なんか気にならないかも。あ、でも、私の家にこんなペンライトなんか無いしなぁ……」
「だったら、他の方法もあるにはあるんだけどね」
「本当ですか?」
「ああ。このライトよりももっと体を温かくする方法がね」
「えっ!? それってどんな方法なんですか?」
「じゃあ、ちょっと失礼するけど、いいかな?」
「え? ……きゃっ!」

 竜泉寺がいきなりスカートの裾を捲ってその中に手を入れてきたものだから、愛莉が驚きの声をあげた。
 ほとんど条件反射で腰を浮かせかけた愛莉の肩を、由佳が両手で押さえて椅子に座らせる。

「ダメよ、岬さん。竜泉寺先生は岬さんの冷え性を治そうとしてるんだから」
「え……あ、うん、そうだよね。ごめん、ちょっとビックリしただけ」
「ごめんごめん。驚かせてしまったかな?」
「あ、いえ、大丈夫です」
「うん、まあいきなりこんなことされたら誰だって驚くよね。でも、この方法は本当に効果があるんだから」

 そう言うと竜泉寺はショーツの下に指を潜り込ませ、股間の裂け目をそっとなぞった。

「ひゃうっ!?」

 小さな悲鳴にも似た声をあげて、愛莉が体をピクンと震わせる。

「最初は変な感じがすると思うけど我慢するんだよ」
「はっ、ひゃいっ……んっ、はううっ!」
「もう、あんまり動いたらダメだって」

 竜泉寺の指が動くと愛莉は反射的に腰を引こうとするのを、由佳が背後から抱き留める。

「先生は岬さんのためにやってくれてるんだから、我慢しないと」
「栗原さん……うん。……ひゃうんっ!」

 耳許で囁く由佳に頷き返した愛莉の体がまた小さく跳ねる。

 中に入るか入らないかの微妙な加減で、竜泉寺の指がその柔らかな割れ目に沿って動いていく。
 ゆっくりとしたその指先になぞられると、ビリビリするような刺激が駆け抜けていく。
 後ろから由佳の腕に抱かれたまま、愛莉はブルルッと小刻みに体を震わせていた。




 そうやって、竜泉寺がじっくりと時間をかけて愛莉の秘部を弄り続けていると……。




「……んっく! はぁっ、はぁんっ……んっ、ぁあんっ!」

 身を捩っている愛莉の声に艶のある響きが混じり始めた。

「どうだい? まだ変な感じがするかい?」
「いいえっ……ぁんっ!」

 竜泉寺の問いかけに、愛莉は首を横に振って答える。

「もうっ、全然っ、変な感じなんかっ……むしろ……んっ、はぅうんっ!」

 むしろ、気持ちいいくらいという言葉を愛莉は途中で飲み込んでいた。

 さっきの、オレンジの光を見つめていたときの体がポカポカするような心地よさとはなにかが違う。
 でも、今されていることもたしかに気持ちよかった。
 竜泉寺の指が動くたびに、魔法のようにビリビリと甘い電気みたいなものが体を駆け巡って、頭の中がぼうっとしてくる。
 それは本当に気持ちよくて、もっとたくさん感じていたいと思えるほどだった。

「はん……あっ、んんっ、ぁあんっ……」

 いつしか、焦らすような指の動きがもどかしくて愛莉の方からモゾモゾと腰をくねらせ始めていた。
 すると、それを察したのか竜泉寺の指がヌプリと潜り込んできて、アソコの入り口の裏側を引っかけるように擦った。

「あぅんっ! はぅううううんっ!」

 愛莉が瞬間的に腰を浮かせて、腰掛けていた椅子がガタッと音を立てた。
 全身が痺れるような刺激に、頭の中がぐちゃぐちゃに蕩けていきそうになる。

「んっ、はううんっ! あんっ、はぁっ、はぁあああんっ!」

 敏感な場所を指でかき回されて、愛莉は甘い声を上げなら体を悶えさせる。

「どうかな? 体が温まってきただろ?」
「はぁっ、はぁっ……はぁいぃ……そういえばぁっ、すごく、体が熱いですぅう……」

 トロンと瞳を潤ませ、肩で大きく息をしながら竜泉寺の声に答える。
 実際、ペンライトの時とは比べものにならないくらい体が熱く感じた。
 自分の吐息すらも熱くなっているのがわかるほどに。

「このやり方も効果があるだろ?」
「はいいぃ……すごく、体が熱くなって、気持ちいいですぅ……」
「じゃあ、最後の仕上げと行くよ」
「はい……ひゃううぅんっ! はぁんっ、んっ、ああっ、すごいっ、すごぃいいいっ!」

 竜泉寺の指がもう1本潜り込んできて、それぞれが別の生き物のように動き始めた。

 アソコの中をぐちゃぐちゃにかき回されて、甘い痺れが波のように押し寄せてくる。
 燃え上がるほどに体が熱くなり、頭の中でいくつも光が弾けてなにも考えられなくなる。

「あぁあんっ! 熱いっ、すごく熱いよぉっ……あふぅうっ、これすごいっ、あぁんっ、すごいすごいすごいしゅごいのぉおおおっ!」

 竜泉寺の指がアソコの入り口まで戻ってきて赤く充血したクリトリスを摘まんだ瞬間に、愛莉の視界が一面光に覆われてなにも見えなくなる。
 椅子から転げ落ちないように由佳に抱きしめられたまま、絶頂に達したその体がビクビクと大きく震えていた。






 そして……。

「どうかな? 今は僕がしてあげたけど、これなら自分でもできるだろ?」

 まだぐったりと由佳に体を預けたままの愛莉を見下ろしながら、竜泉寺が訊ねてくる。

「……え? あ、ふぁあいぃ……」

 愛莉が、トロンとした瞳を竜泉寺に向ける。
 まだ体がふわふわと浮いているような感じがして、舌がうまく動かない。
 ただ、体はまだすごく熱くて、じっとりと汗ばんでいるのが自分でもわかっていた。

「今度から、手足が冷えてるなと感じたときには自分でやってみるといいよ。体を温めるコツは、僕がやったみたいにじっくりゆっくりとやることだね」
「わかりましたぁ……」
「それじゃ、さっき僕が言ったことを守って、また何かあったらここに相談しに来たらいいから」
「はい……」

 竜泉寺の言葉にコクリと頷くと、愛莉は甘く切なげな吐息をひとつ吐いたのだった。






 そして……。

「大丈夫、岬さん? ふらついたりしない」

 ようやく落ち着ついてきた愛莉を起き上がらせると、由佳が乱れた制服を整えてやる。
 まだ頬をほのかに上気させてはいるが、立ち上がった愛莉の足どりはしっかりしていた。

「うん……大丈夫」
「そう、じゃあ、これ、あなたの鞄」
「あっ、ありがと」
「それじゃあ、私はまだ保健委員の仕事があるから」

 愛莉に鞄を手渡して、由佳が出口へと送っていく。

「じゃ、また明日ね」
「うん、また明日」

 保健室の外で由佳に手を振って、愛莉は家路についたのだった。






* * *






 そして、保健室では。

「私、ちょっとビックリしちゃいました」

 愛莉の見送りから戻ってきた由佳がポンとベッドに腰掛けると悪戯っぽい笑みを浮かべる。

「ん、なにがだ?」
「だって、先生ったら岬さんの冷え性の相談にちゃんと答えてるんですもの」
「おいおい勘弁してくれよ。これでも僕はれっきとした保健医だからね」
「でも、ここに来るのって、部活でちょっと怪我した子が手当を受けに来るくらいじゃないですか。それも滅多に来ないし。私、先生がこうやってちゃんと体のことの相談に乗ってるのって初めて見ましたよ」
「まいったな。とはいえ、学生があまり近づかないから僕だって好きなことができるんじゃないか。まあ、それはそれとして、実際に冷え性は女性に多くて3人にひとりは冷え性持ちだって言われてるし、最近は若い子でも冷え性に悩むケースが多いからね。基本的なことくらいは押さえてるさ」
「へえ。そうなんですか? 私は手足の冷えなんか全然感じないですけどね」
「そりゃ3人にひとりってことは、反対に3人にふたりはそうじゃないってことだからな。女だからってみんながみんな冷え性なわけじゃないさ」
「あ、そうですよね。……それに、私は先生といつもセックスしてますから、それで運動もしてますもんね」
「おいおい、セックスは適度な運動かよ」
「でも、さっき岬さんにやってたような冷え性対策だったら私も大歓迎ですよ」
「いや、おまえね……」

 誘うような流し目で微笑まれて、竜泉寺はポリポリと頭を掻く。
 そんな竜泉寺の姿に、由佳がクスッと声をあげて笑う。

「でも、岬さんはあれで終わりってわけじゃないですよね」
「そりゃもちろんさ。まあ、この後は彼女次第でどうするか考えるけどね」
「楽しみですね、先生」
「なんでおまえが楽しんでるんだよ」
「だって、先生の実験を間近で見られるのはすごく楽しみなんですもん」

 そう言った由佳は口許に笑みを浮かべてはいるものの、視線は真っ直ぐに竜泉寺を見つめていた。
 その表情はさながら、師の行いを余さず見逃すまいとする弟子を思わせた。

「だから、あれくらいなら今のおまえにもできるって言っただろ」
「でも、やっぱり本を読んでるだけじゃわからないこともありますしね。こうやって先生が実践してることを見るのが一番勉強になりますよ」
「たしかにおまえが勉強熱心なのは認めるし、僕としても頼もしいがね」

 竜泉寺に褒められて、由佳の顔に子供のように無邪気な笑みが弾ける。
 しかしすぐに表情を一変させると、妖しいまでに色気たっぷりの視線を竜泉寺に絡ませる。

「それで、今度は私を温めてくれませんか、先生」
「まったく、結局そうなるんだな」
「だってぇ、岬さんにあんなことしてるの見せつけられたら私だって疼いてきちゃいますよぉ」
「ああ、わかったわかった」
「あんっ……」

 苦笑いを浮かべると、竜泉寺は最高の人形でもある愛弟子をベッドに押し倒した。

 
 


 

 

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