旧校舎の除虫


 

 




 今は使われていない旧校舎の教室で、不特定の女生徒に対して催眠術でいかがわしい行為を働く男子生徒がいる。

 ――それが、数々の証拠から瀬口愛菜の導き出した結論だった。



 事の起こりは、1か月前まで遡る。

 幼少のみぎりから好奇心が旺盛な愛菜は、面白い事件を求めて放課後の校内をパトロールするのが日課だった。
 もちろん、パトロールするだけでそうそう事件に出くわすほど世の中は都合よくできていない。そんなものはドラマの中の世界だけだと愛菜も承知しているため、パトロールというのは半ば名目であり、実態は単なる散歩のようなものだ。
 いつの間にやら当初の目的のことなどすっかり忘れ、土を押しのけて顔を出す土筆に春の訪れを感じたり、燕の巣を見つけては雛鳥の成長記録を付けるのが楽しみと化していた。(ちなみに燕の巣は残念ながら1か月で撤去された)

 そんなある日のこと。
 ふと思い立ち、愛菜は普段生徒が通らない旧校舎まで足を運んでみた。
 愛菜の通う学校の旧校舎は、鬱蒼と茂る雑木林に囲まれた木造の校舎だ。
 鉄筋コンクリート造の新校舎が建てられたために使われなくなった旧校舎は、かつてはヤンキーや小学生がたまり場にしていたこともあったらしいが、今では訪れる人もほとんどいない。
 虫が多いから、というのがその理由だ。最近の都会育ちの若者にとって、カナブンやバッタなどは無害であるとはいえ、近寄りたい対象ではなかった。
 
 幸いにも、もともと自然と触れ合うのが好きな愛菜にとって、そういった虫は苦手ではない。
 別段具体的な何かを期待したわけではなかったが、あまり人が寄り付かない旧校舎ならば、普段とは違う発見があるかもしれない。
 そんな軽い思いから旧校舎に近づいたことが、すべての始まりだった。


「ん……くっ……」

 何の気なしに旧校舎の周囲を回っているさ中、微かにその音が耳に届いたとき、最初は単なる小枝のざわめきかとも思った。
 音の発信源を探り、カーテンの閉ざされた旧校舎の窓に近寄ると、今度はその正体が愛菜の耳にもはっきりと分かった。

「くぅ……はぁっ……」

 男女の押し殺すような息遣いと、ギシギシと木造の床が軋む音が、小枝の擦れる音に混じって小さくあたりに響く。
 まさか、と思いわずかに開いたカーテンの隙間から目を凝らして覗き込み、愛菜はあっという声を飲み込んだ。
 旧校舎の、もはや使われていない教室の中で、女子生徒が机に体を押し付けるようにしながら、男子生徒に後ろから腰を打ち付けられている。
 女子のスカートは腰までめくれ上がり、下着は右足首に絡まっていた。それが何を意味しているのかは、実際に経験したことがない愛菜でも流石に分かる。
 窓に背を向けるような体勢だったため、顔までは分からなかったが、女子生徒が着用しているスカーフがちらりと愛菜の目に留まった。

(赤……ってことは、私と同じ2年生だよね?)

 この学校は、学年ごとにスカーフ及びネクタイの色分けがなされており、1年は緑、2年は赤、3年は青の着用が義務付けられている。
 顔を覚えるのが苦手な愛菜にとって、一目で相手が先輩か後輩かを見分けられるこの制度は有難かった。
 
 考えてみれば、滅多に人が寄り付かない旧校舎が、そういった目的のために使用されているのは特段不思議なことではない。
 繁華街などのホテルを利用しようとすれば補導のリスクがあることに加え、生徒のほとんどが実家暮らしであることを考慮すると、人に見つからずにコトに及ぶ場所という意味ではうってつけのスポットと言えた。
 
 そんなことを考えながら教室の中の様子を伺っていると、二人の腰が刻むリズムが徐々に早まっていく。どうやら行為はそろそろ終わりを迎えるところのようだ。
 
「っ、出る……っ!」
「ひぅ……っ!」

 最後に大きく腰を押し付けるようにしながら、男子生徒が声を漏らし、強く女子生徒にしがみ付く。女子生徒の方も短い喘ぎ声をあげ、びくりと腰を震わせる。実際に目の当たりにするのは愛菜も初めてだが、絶頂を迎えたのだろう。
 思わず見入ってしまった愛菜だったが、行為が一通り終わったことでふと我に返った。これではまるで出歯亀ではないか。確かに自分は面白い事件を求めて旧校舎まで足を運んだが、人様のセックスを盗み見る趣味は断じてない。
 とりあえず、ここでの件は見なかったことにして校舎に戻ろうとした時、男子の声が耳に入った。

「よし、それじゃあ……『眠って』」

 肩で息をしている女子生徒がその言葉を囁きかけられた瞬間、全身の力が抜けたようにがくりと机の上に倒れ込んだ。男子生徒はその様子を意に介する様子もなく、女子の耳に口を寄せて何やら繰り返し囁きかけている。
 その内容は声が小さくて愛菜の位置からは聞き取れなかったが、やがて男子は立ち上がると、「ぱん」と大きく手を叩いた。

「……」

 その音に反応して、女子生徒がぴくりと反応し、もたれかかっていた机から身を起こすと、ぼんやりとした表情のまま乱れた服装を整える。
 そして、機械的な動きで足首に絡まったままの下着を脱ぐと、何の躊躇いもなく男子生徒に手渡し、そのままふらふらと教室を後にした。

「! やばっ……!」

 結局一部始終を見てしまった愛菜は慌てて窓から目を離す。
 隠れないと。このままこの場所にいれば、旧校舎から出てきた女子生徒に見つかってしまう。愛菜は、慌ててその場を離れた。

 愛菜が茂みに身を隠してほどなくすると、旧校舎の玄関から先ほどの女生徒が姿を現す。
 だが、やはり様子がおかしい。何を考えているのか分からないぼんやりとした表情で、どこか遠くを見ながらふらふらと歩みを進め、女子生徒は校舎の方へと姿を消した。

 恐らく、そろそろ男子生徒の方も出てくるだろう。あまりこの場所に長居していては見つかってしまうかもしれない。愛菜は茂みの中から抜け出し、制服についた土を払うとその場を離れた。
 念のため誰かに尾行されていないか確認しながら自分の家に戻る。自室に辿りついてからも、愛菜の心臓はばくばくと高鳴っていた。

「さ、さっきのって……何?」

 特殊なプレイ、という線も考えたが、それにしてもあの女子生徒の様子は異常だと言わざるを得なかった。もしかしたら、自分はとんでもない現場に遭遇してしまったのかもしれない。
 もちろん、あれが合意の上ならば(公序良俗に反することを除けば)何の問題もない。
 だが、事態はもしかしたらもっと深刻なのかもしれない。愛菜は、そんな予感がしてならなかった。



 ――その日から、旧校舎に足しげく通い詰めることが愛奈の日課になった。

 予想通り、旧校舎の教室の中では週に2〜3日程度の頻度で男子と女子による如何わしい行為が行われていた。
 だが、そこから先は、愛菜の予想を遥かに超えた驚くべきものだった。

 愛菜は物陰に隠れ、旧校舎に出入りする人物をチェックした。
 男子生徒の方は、恐らく常に同一人物だろう。名前も知らない、取り立てて特徴のない男子生徒。問題は女子の方だ。
 
 剣道部員に始まり、水泳部員に放送部員。果ては生徒会長どころか、養護教諭や生徒指導官に至るまで、錚々たる顔ぶれの女性が、代わる代わる旧校舎に出入りしては、その中で男子生徒と性行為に及んでいたのだ。

 さらに言えばその内容も、愛菜が知る通常の性行為の手順とは明らかに様子が異なっていた。
 
 教室に訪れた時の女性の反応は様々だ。

 なぜ自分がここに足を運んだのか分からず困惑する女子。何かに追われるように旧校舎に逃げ込む女子。あるいはまるで男子生徒を追い詰めるかのように勇んで教室に飛び込む女子。

 だが、そんな女子に対して男子生徒が何か囁きかけると、誰もが瞬時に、あるいは徐々に、立ったままぼんやりとした表情で動かなくなる。そして、男子がその耳元に対していくつかの指示を出すと、再び女子が意識を取り戻したように動き始める。その反応も千差万別だった。

 心ここにあらずと言った面持ちで機械的に制服を脱ぐ。
 
 まるで最愛の恋人のようにうっとりとした表情で男子のズボンに指を這わせる。

 屈辱に顔を歪ませながらも見せつけるようにいやらしいポーズをとる。

 納得のいかない表情で、男子の指示通りに股間の一物を咥える。

 高らかに勝ち誇りながら、男子の上に跨って自ら精液を搾り取るために腰を振る。

「こ、これって……どういうこと?」
 
 目の前で次々と繰り広げられる、あまりにも自分の理解を超えた女子たちの痴態。呆然とする愛菜の脳裏に、一つの突拍子もない仮説が浮かんだ。

 催眠術。

 あの男子生徒が女子たちに次々と催眠状態に落とし、自分の思い通りに操っている。にわかには信じがたいが、そうとでも考えない限り、一連の出来事を説明することはできなかった。

 ――それが、1か月かけて愛菜がたどり着いた結論であった。



「……でも、一体どうすればいいってのよ……」

 愛菜は自宅で頭を抱えていた。自分の仮説が事実であるならば、女子たちは望まぬ性的凌辱を受けていることになる。
 だが、そう断言するだけの根拠もなかった。当事者の女子たちに直接話を聞くことも考えたが、もし自分の仮説が当たっていた場合、本人たちは一連の出来事を覚えてすらいないだろう。
 いや、それどころか完全に男子生徒に洗脳されていた場合、その場で捕まって自分も同じように凌辱されることすら考えられる。

 ――こうなったら、警察に通報しよう。

 明らかに、事態は愛菜の手に余るものだった。無責任な手かも知れないが、事件の解決は専門家に任せるべきだ。
 だが、そのためには十分な確信が持てるだけの証拠を揃える必要がある。警察まで動かしておいて、愛菜の勘違いだったとしたら目も当てられない。いや、そもそも自分一人の憶測で通報したところで、警察が動いてくれるかどうかも怪しい。

 男子生徒が催眠術をかけている一部始終をビデオカメラなどで抑えることができれば、動かぬ証拠となるだろう。
 大きな問題は、校舎の外からでは男子生徒が女子に何を囁きかけているかまでは音が拾えないことだ。
 
「……やるしか、ないか……」

 虎穴に入らずんば虎子を得ず。
 愛菜は自前のハンディカメラを握りしめると、覚悟を決めるように呟いた。



 翌日。

 愛菜は、物陰に隠れて旧校舎の周囲の様子を伺っていた。
 
 暫く待ってみたが、女子が旧校舎の方に近づいてくる様子はない。仕掛けるならば今がチャンスだ。
 愛菜は誰にも見られていないことを確認しながら人気のない旧校舎に忍び込んだ。

 男子生徒が如何わしい行為を働く教室の場所は把握している。ならば、予めカメラを仕掛けておけば、一部始終をばっちり収めることができるはずだ。
 教室の扉を開けると、木造校舎のかび臭い匂いに混じって、汗と体液の混じった、饐えた臭いが愛菜の嗅覚を刺激する。

「うっ……」

 思わず小さく呻く愛菜。分かっていたこととはいえ、この教室で行われていた行為を否応なく実感させられる。
 早いところ、このカメラを仕掛けてしまおう。幸い、教室の中を見渡す限り、ロッカーや机の中には生徒の私物と思われる教科書や筆記用具などが放置されている。この中に紛れ込ませてしまえば、簡単には見つからないだろう。
 少し考えた末に、教室の中が見渡せる位置にある机の中にハンディカメラをセットし、周囲をノートなどでカムフラージュする。
 これでよし。あとは誰にも見つからないようにここを出て行けば――

「そこで何をしているんだ?」

「なっ――!?」

 不意に背後からかけられた声に思わず愛菜が振り向く。
 教室の出入り口には、見覚えのある人物――一連の騒動の張本人である男子生徒が立っていた。

 やばい。

 見つかった。一番見つかってはいけない相手に。

 他の女子が目の前の男に受けていた凌辱を思い起こし、愛菜の全身から気持ちの悪い汗が瞬時に吹き出し、心拍数が一気に跳ね上がる。

 私も催眠術をかけられたら、同じ目に遭わされる。

 催眠術にかけられたら、終わりだ。

 愛菜はがくがくと震える脚を必死で抑え、努めて強気に振舞いながら男子生徒を睨み付けた。

「い……言っておくけど、あんたが催眠術を使って大勢の女子に如何わしい行為を繰り返してることは、分かってるんだからっ」
 
 自分で発言しながら、声が上ずっているのが分かる。だが、ここで弱気になってはだめだ。
 ここで心が折れてしまえば、恐らく素人の自分など簡単に催眠術にかけられてしまうであろう。

「私、ずっと見てたんだから! か、カメラだって仕掛けておいたんだからね! もし警察に通報されたくなかったら、もう二度と悪さはしないって約束しなさい!」

 虚勢を交えながら、目の前の男子生徒を脅すように語気を強める。本当はカメラは今仕掛けたばかりなので、通報できるだけの証拠など何もない。 
 しかし今は、この場を切り抜けることが重要だ。

 だが、愛菜の期待に反して、目の前の男子生徒は落ち着き払った様子だ。

「随分と強気なんだね……君は、とっくに僕の催眠術にかかってるっていうのに」

「そ、そんなわけっ……!」

 反論しようとした愛菜が、一瞬言葉を詰まらせる。自分が、催眠術に既にかかっている? もし、それが本当だとしたら?

 その隙に畳み掛けるように男子生徒は言葉を続ける。

「だってそうだろう? 君は僕の暗示通りに、『僕に犯されるためにこの教室に来て』、『その様子を撮影してもらうためにカメラまで用意した』んだから。それとも君は、自分が催眠術にかかっていないことを証明できる?」

「あ……ち、違う……私は……」

 違う? 本当に? ぐるぐると愛菜の思考が混乱する。
 何とか自分が催眠術にかかっていないことの証拠を示そうと思ったが、頭が空っぽになったかのように何も思い浮かばない。
 頭が整理できないうちに、男子生徒は続けざまに言葉を紡いでいく。

「僕の方は、証明できるよ。例えば、ほら……『君の足はもう一歩も動かない』し、『僕から目を逸らすこともできない』だろう?」

 ぎしぎしと足元の床を軋ませながら、男子生徒がゆっくりと愛菜に近づく。

 逃げないと。そう頭の中では分かっているにもかかわらず、愛菜の足はまるでぴったりと床に張り付いたように動かない。視線も、真っ直ぐに男子生徒を見つめたまま動かせない。

 いつの間にか、既に男子生徒は愛菜に手を伸ばせば届く距離まで迫っていた。

「どうやら、自分が催眠術にかかっていることを納得してくれたみたいだね」

「い、いや……やめて……」 

 男子生徒は、愛菜の体重を支えるように腰に手を回す。そして、もはや否定することすら諦めたかのように身をよじる愛菜の耳に口を寄せ、とどめの一言を囁いた。

「それじゃあ……『眠れ』」

 愛菜は、ぐったりと男子生徒の腕の中に倒れ込んだ。


「……ふぅ」

 男子生徒は、力なくうなだれる愛菜を椅子に座らせ、小さく息をついた。

「さてと……お前はもう、俺の催眠術にかかっていることを認めた。そうだな?」

「う、ん……」
 
 一拍の間をおいて、力なく頷く愛菜。どうやら、まだ少し引っかかりが残っているようだ。

「それじゃあ、まずはいくつか質問に答えてもらおうか。お前は催眠術にかかっているから、どんな内容でも正直に答える。そうだな?」

「うん、正直に、こたえる……」

「まずは、お前の学年と名前は?」

「2年……瀬口、愛菜……」

「じゃあ、愛菜が今日ここに忍び込んだ理由は?」

「……近くを散歩してたら、あなたが女子に催眠術をかけて犯しているところを、見つけて……証拠を確保して警察に通報するために、カメラを仕掛けに来た……」

 虚ろな目で応える愛菜。男子生徒は、少しの間をおいて、椅子に腰掛けた愛菜の額に軽く手を置いて囁きかけた。

「……なるほどね。よし、じゃあ今度はもう少し愛菜の心の奥深くまで潜ってみようか。
 愛菜は、今、真っ暗な闇の中を歩いているよ……そこはとっても深くて、どこまで続いているのかも分からない……
 でもほら、ずっと遠くの方に小さな光が見える……そっちの方に向かって歩いていこう……
 1,2,3……大丈夫、何も怖くない……ここは君の心の中だから、何も心配することはない……」

 男子生徒の囁きを黙って聞いている愛菜。その体から、徐々に力が抜けていく。

「4,5,6……だんだん、光が大きくなってくるよ……それとともに、君の心は気持ちよさに包まれていく……
 7……8……とても暖かい光が、君の周りを包み込んでいく……もっと、もっとこの気持ちよさを感じていたい……
 9……他のことは何も考えなくていいよ……さあ、君の心の奥から聞こえてくるこの声に全てを委ねよう……
 10……ほら、君は今、君の心の一番奥深くにいる……とても明るくて暖かくて、落ち着く場所だ……」

 男子生徒は愛菜の額から手を離した。愛菜は、とても安らかな表情で、規則正しく呼吸をしていた。

 その様子を確認し、男子生徒はポケットから小型のレコーダーを取り出した。
 スイッチを入れると、レコーダーから小鳥のさえずりや木々のざわめき、小川のせせらぎのような音が流れ出す。環境音と呼ばれるものだ。

「君の周りを包んでいる光が、少しずつ晴れて、周りが見えるようになってくる。
 ほら、辺りを見渡してみよう。君の足元には草花が生い茂って、周辺にはいっぱい樹が生えているよ。
 そうだ、ここは森の中だ。辺りには蝶が飛び回って、小鳥の歌声が聞こえてくる。
 とっても爽やかで、良い気持ちだね。ほら、そばにある気に近寄って、手を触れてみよう」

 愛菜が目を閉じたまま、小さく微笑みを浮かべる。
 男子生徒はレコーダーのスイッチを切り替える。

 ブーン……
 
 辺りに、蜂の羽音が流れ始める。

「大変だ! 触った拍子に蜂の巣が落ちてしまったよ。
 ほら、蜂たちが怒って、愛菜に向かって群れを成して飛んでくる。
 スズメバチだ! 刺されたら危ない!」

 びくり、と愛菜の顔が一瞬で強張り、「いや、いや」と小声で叫びながら、何かを振り払うように腕を振る。
 男子生徒は、教室に散らばっている文具の中から一本の鉛筆を拾い上げる。

「周りを蜂に囲まれてしまった、もう愛菜は逃げられない。逃げたいと思っても足が動かないよ。
 ほら、振り払おうとする腕も、蜂に狙われてるよ。ちくん!」

「ひうぅっ!」

 鉛筆の先でちくりと愛菜の左腕の付け根を刺すと、びくりと愛菜が体を震わせ、悲痛な叫び声を上げる。

「これでもう、腕も痛くて動かせない。でも、蜂たちの怒りはまだ全然収まらないみたいだね。周りの巣からも、侵入者を退治するために何百もの蜂が愛菜めがけて飛んでくる。
指一本動けなくなった愛菜の体に、びっしりとスズメバチがまとわりついていくよ。露出した腕や脚、顔にまで。それどころか、服の中にまで侵入してきた。
すぐ耳元で羽音が大きく聞こえてくる。もう愛菜の目の前の光景は、スズメバチの黒と黄色でびっしりだ」

「ひぅ……あ……いやぁ……」

 これから迎える痛みへの恐怖に、愛菜の全身から汗が噴き出す。しかし、先ほどの暗示が効いているため、両腕も垂れ下がったままぴくりとも動かない。

「スズメバチたちがお尻を持ち上げて、鋭い針を愛菜に突き刺そうと構えている……ちくん!」

「ああああっ!」

 完全に無防備になった脇腹を鉛筆で突くと、愛菜の悲鳴が教室に響き渡る。

「まだまだ、スズメバチは何百匹も残っているよ……一匹残らず愛菜に針を刺そうと狙っている。ちくん! ちくん! ちくん! ちくん! ちくん! ちくん! ちくん! ちくん!」

「あっ、ひぃっ! うぁ、やぁっ、ぐぅっ……!」

 太腿、頬、手の甲、首筋、背中、足首、腹、胸。全身のありとあらゆる箇所を鉛筆で刺すたびに、愛菜は両目からぼろぼろと涙をこぼし、全身を大きく痙攣させる。
 しかし、どれほど愛菜が痛々しい反応を示しても、男子生徒は容赦なく執拗に全身をくまなく刺し続けた。暫くの間、愛菜の小さな悲鳴と、椅子がぎしぎしと軋む音が教室内で響き渡る。

 数分後。

 100回も刺し終えた頃、もはや愛菜は悲鳴を上げる事すら叶わず、半開きになった口から涎をたらし、鉛筆でちょんと刺すたびに小さく痙攣するだけの存在となり果てていた。

「ぁ……ぅ……」

 全身は涙と汗でぐっしょりと濡れ、手足は力が抜けてだらりと垂れ下がっている。虚ろになった目は完全に光を失い、あらぬ方向を見つめている。

 その様子を確認した男子生徒はようやくそこで手を止め、レコーダーのスイッチを切った。

「ふぅ……こんなもんでいいか。さてと、愛菜……聞こえる?」

「……ぅ、ん……」

 息も絶え絶えながら、弱弱しい声で返事をする愛菜。

「さてと……今の一連の出来事は、全てお前の心の中だけで起こったことだ。お前が次に目が覚めると、森の風景も、蜂の群れも、全てお前の記憶から消え失せる。
だけど、お前の心の中にはさっきの出来事がトラウマとして植え付けられている。
さっきの蜂に取り囲まれて何度も何度も刺された時のことを思い出してみよう……どんな気分だった?」

「……刺されるのはとても痛くて……次にどこを刺されるのか分からなくて、すごく怖かった……
それに、助けてくれる人が誰もいないから不安で……死んじゃいそうな気持ち……もう、二度と味わいたくない……」

「……そうだな。それじゃあ、その気持ちをしっかりと心の中に刻み付けておけ。
そして、これから先お前は蜂の羽音を耳にすると、さっきと同じ不安や恐怖に襲われるようになる。
蜂の音が聞こえなくなるまでの間、どこかに蜂がいると言われたら決して疑わない。
蜂がいると言われた場所には決して近寄らないし、蜂を追い払うことを最優先に考えるようになる。いいな?」

「……うん……」

「それから、そうだな……お前は──」




 ──ぱん。

「ん……あれ? 私……?」

 手を叩く音が耳に入り、愛菜は我に返って、自分が椅子の上に座っていたことに気付く。いつの間に意識を失っていたのか。
 おまけに全身が汗でびっしょりと濡れている。なんだかひどい夢を見ていたような気がする。

「やあ、おはよう愛菜。気分はどうだ?」

「……! あんたはっ!」

 聞き覚えのある声に、思わずがたりと音を立てて椅子から立ち上がる。
 そうだ、自分はこの男子生徒の悪事を暴くためにこの教室にやってきて、そしてカメラを仕掛けていた現場を見つかってしまったのだった。
 その後……そうだ。確か、この男が催眠術をかけようとしてきて──

「ち、近寄らないで!」

 目の前の男子生徒から距離を取って睨み付ける。
 いつの間に自分は椅子に座っていたのか。その間に、この男に何かされたりはしていないだろうか。
 自分の服装を慌てて確認し、とりあえずは脱がされたような様子がないことに胸を撫でおろす。

「随分と嫌われたもんだね。別に、何もしやしないさ」

「嘘よ! 他の女の子たちにも催眠術をかけていやらしいことをしてたくせに!」

「そんな誤解されるなんて心外だな。あれは全部、彼女たちの方から裸になって、僕に犯してほしいってお願いしてきたんだよ」

「そんなバカなことあるわけないでしょ!」

「そうかな? 君もきっと、信じてくれると思うよ……この音を聞けばね」

 カチリ。男子生徒がポケットでボイスレコーダーを操作すると、先ほど流したのと同じ音が教室の中に響く。

 ブーン……

「ひぃっ!? いやっ、蜂!?」

 その音を耳にした途端、まるでスイッチでも入ったかのように愛菜が怯えた声を上げて辺りを見回す。
 何故だか分からないが、昨日までほとんど気にしたことなどなかった蜂の存在が怖くて仕方ないのだ。

「ああ、旧校舎は林の奥にあるからね。たまにこうやって蜂とかが迷い込んでくるんだよ。この様子だと『教室の外はもう蜂でいっぱい』かも知れないな。それに、『大きな声を出すと蜂を刺激してしまう』かもね?」

「ひっ!?」

 逃げられるように扉の近くの位置を確保していた愛菜だったが、男子生徒の言葉を耳にして慌てて扉から飛び退く。そんなことを言われては、もう怖くてこの教室から出ることなどできるはずがない。
 先ほどとは打って変わって怯え切った彼女の姿を、男子生徒は楽しそうに眺めた。

「あと古い木造だから、結構隙間から虫が紛れ込んでくることもあるんだ。……あ! 蜂が今、愛菜のスカートの中に潜り込んだ!」

「やあっ!」

 小さく悲鳴を上げながら、愛菜は慌ててスカートのホックを外す。恥ずかしいとかそんなことを気にしている余裕などない。とにかく蜂を追い払わないと。
 必死でファスナーを下げると何の躊躇いもなくスカートを脱ぎ捨て、男子生徒の方に放り投げる。

 カチリ。レコーダーのスイッチを操作する音とともに、蜂の羽音がぴたりと止む。

「へえ、ライトグリーンのパンツか。よく似合ってるよ」

「え──きゃあ!?」

 指摘を受けて、自分の恰好に気が付いた愛菜は慌てて下半身を隠す。
 なぜ自分はこんな場所でスカートを脱ぎ捨ててしまったのか。取り戻そうと男子生徒に詰め寄る。

「わ、私のスカートを返しなさいよ!」

「酷い言いぐさだな。君が自分でこっちに投げてきたんだけどね……まあいいよ、返してあげる。ほら」

 男子生徒が投げてきたスカートを愛菜がキャッチした瞬間、カチリという音と共に教室に再び蜂の羽音が響き渡る。

「……蜂と一緒で良ければ、だけどね」

「ひっ!」

 スカートを穿こうとしていた愛菜は、音を耳にした瞬間に再びスカートを手放してしまった。蜂が中にいることを想像するだけで、スカートを触っていることすら耐えられないのだ。

 そんな愛菜に対して男子生徒がさらに追い討ちをかける。

「あっと、スカートの中から蜂が出てきて愛菜に飛んで行ったよ。今度はブラウスの隙間に入っちゃったみたい」

「嘘、やだ来ないでっ!」

 完全にパニックに陥った愛菜は、もはや目の前にいる男子生徒の目を気にする余裕もない。ばたばたとまるで何かを追い払うように両腕を振り回しながら、半ば引きちぎるようにブラウスのボタンを乱暴に外していくと、躊躇う素振りすら見せずに大きくブラウスをはだけ、下とお揃いのブラジャーを露わにしながらブラウスを脱ぎ捨ててできる限り遠くに脱ぎ捨てる。

 だが、彼女にとっての災難はこれで終わりではなかった。

「あれ? ブラウスの中にももういないみたいだ。もしかして、愛菜のブラジャーの中に潜り込んじゃったかな? それとも、ショーツの方に入っちゃったかな?」

「いやああああっ!」

 悲痛な叫び声が辺りに響く。一刻も早く蜂の恐怖から解き放たれたい、その一心で愛菜はブラジャーのホックを外し、むしり取るように身体から離す。ぷるん、と弾力のある二つの胸の膨らみと、その先端のピンク色の突起が男子生徒の目の前で解放された。
 もはや、体を隠している余裕すらない。愛菜はそのままショーツに両手をかけると、一気に引きずりおろす。普段は下着に隠された黒い茂みが外気に晒され、つい直前までそこを守っていたはずの最後の砦までもが愛菜自身の手によって教室の隅へと投げ捨てられてしまう。

 カチリ。スイッチの音とともに蜂の羽音が止まると、愛菜は突然正気に戻ったかのように羞恥の悲鳴を上げ、体を両手で隠す。

「い、嫌っ! なんで私教室の中でこんなこと……!」

「くすくす……男子の目の前で裸になるなんて、そんなに僕に見てもらいたかったの?」

「っ……そんなわけないでしょっ! 見ないでよ変態!」

「へえ、自分から脱いでおいてまだそんなことを言うんだ……それなら……」

 再び蜂の羽音が教室の中に響き渡る。

「あれ? まだ蜂が残ってるみたいだね。もしかしたら……ショーツの中にいた蜂が、愛菜のアソコの中に潜り込んじゃったんじゃない? 急いで確認してみないと」

「え、嘘っ、そんな……! ど、どうすれば……」

 一瞬にしてパニックに陥る愛菜。中に蜂が潜り込んでいるかも知れない以上、男子生徒の言う通り確認しないことには不安が収まらない。
 男子生徒の目の前にもかかわらず必死になって大きく足を開き、何とかして自らの秘所の中を覗きこもうとする。

「だ、ダメ、全然見えないっ……!」

 当然、自分の性器の中を自分で見る事などできるはずがない。だが、万が一中に蜂がいた場合、自分は体内から為す術もなく刺されてしまうだろう。
 どうにか確認する方法を考えないと……

 思い悩む愛菜に、一つのアイデアが思い浮かぶ。
 自分の代わりに、他の誰かに確認してもらえばいいのだ。しかし、この教室の中には自分の他には一人しかいない。
 いくらなんでも、多くの女子を毒牙にかけた目の前の男に、自らの性器を晒すなど……

「どうしたの? 早くしないと、中で耐えかねた蜂がどんどん暴れ出すかもしれないよ?」

「ひぅっ!」

 男子生徒の言葉と共に、蜂の羽音が一際大きく響き渡る。

 そうだ、背に腹は代えられない。このまま体内から蜂に刺されてしまうことを考えれば、目の前の男に足を開いた方がましだ。

「……お、お願いっ! 私の、アソコの中を……蜂がいないかどうか、見て!」

 泣きそうな声を挙げながら、目の前の男子生徒に懇願する。しかし男子生徒の方は、冷ややかに愛菜を見下ろす。

「えー、でもさっき見るなって言われたしなぁ……おまけに、変態呼ばわりもされたっけ? 自分から見てほしいって体を見せつける女の子と、一体どっちの方が変態なんだろうね?」

「ご、ごめんなさい! 変態って呼んだのは謝ります! 私の方が変態ですから、どうか、私のアソコの中を確認してください!」

 もはや恥もプライドも全てかなぐり捨て、ぼろぼろと涙を流しながら叫ぶ。

「仕方ないな……でもそのままじゃよく見えないな。机の上に乗って、しっかり奥まで見えるように自分の指で広げて見せてよ」

「は、はい……!」

 促されるがままに机の上に座り、男子生徒に向けて大きく足を広げると、自らの秘所に右手の中指と人差し指をあてがい、中身を見せつけるように大きく広げる。
 あまりの屈辱的な姿勢に目尻に涙が浮かび、頬が紅色に染まるが、刺される恐怖に抗うことはできなかった。
 男子生徒は楽しそうに中を覗きこみ、ピンクに色づいたその内部がひくひくと震える様子を観察する。

「うん、やっぱり中で何かが動いてるみたいだね。くすくす……なんとかして追い出さないと、中で暴れまわって刺されちゃうかも、ね」

「そ、そんな……嘘でしょ!? は、早く……何か掻き出すものを探さないと……!」

 愕然と目を見開く愛菜。だが、自分からは見えない以上、目の前の男子の言葉を信じるほかない。パニックを起こしながら、必死になって蜂を中から追い出す方法を考える。

 自分の指を突っ込む? いや、そんなことをして手を刺されたらかえって危険なだけだ。
 ならば、何か長さのあるものを突っ込んで、中から蜂を掻き出すしかない。そう判断して愛菜は手頃なものはないかと教室の中を見回す。

 チョーク……いや、短すぎる。論外。
 鉛筆……ダメだ。それなりに長いが、細すぎて役に立たない。
 机の脚……先が太くなっているので形状としては悪くないが、女子が持つには重いし、太すぎて入らない。
 三角定規やコンパス……先が尖っているものを出し入れするのは危険すぎる。

 ダメだ。そもそも、女性器の中から蜂を掻き出すのに適した道具など、そうそう簡単に見つかるはずがない。
 だが、見つけられなければここで蜂に刺されて死んでしまうかも知れないのだ。すがるような気持ちで頭を必死で働かせる。

 考えるんだ、きっと何かあるはず……ちょうど、アソコにフィットするサイズで、蜂を掻き出せるような返しがついていて、できれば出し入れしやすい形状のもの……。

 そんなことを考えているときに、ふと男子生徒のズボン、その股間部分が目に入る。
 愛菜が性器の中をたっぷりと広げて見せつけたためか、彼のズボンは大きく盛り上がり、その下に存在する男性器の形を否応なく想起させる。

「あ……!」

 そうだ。何故思い浮かばなかったのだろう。
 一つだけ、愛菜の探し求めている条件を全て満たすものが目の前にあるではないか。

 あそこに突っ込むのに最適な太さと長さを持ち。
 まるで蜂を掻き出すために存在するとしか思えないような返しが先端にあり。
 普段は柔らかいが、状況に応じて好きなように硬くすることが可能なものが。

 目の前の男子生徒のペニスを自分に挿入すれば、恐らく蜂を掻き出すことが……

 そんな考えが頭をよぎるが、慌てて愛菜はぶんぶんと頭を振る。

 自分はいったい何を考えている?
 蜂を膣内から追い出すために、目の前の男とセックスするだなんて、正気の沙汰とは思えない。
 ましてや、相手は恋人ですらない。それどころか、許しがたい連続レイプ犯なのだ。
 そんな相手に対して、自分の性器にペニスを突き刺すことを要求するなんて……

 愛菜が逡巡していると、不意に、蜂の羽音が一際大きくなる。

「ほら、蜂が中で暴れまわり始めたんじゃない? ……もしかしたら、今にも中から愛菜を刺そうと狙ってるのかもね」

「ああっ、いやっ、いやぁ……!」

 子供のように泣きじゃくりながら、他に蜂を追い出せるものがないかと思考をフル回転させる。だが、いくら考えたところで、ペニスを自分のアソコに突っ込む以外の選択肢は全く浮かばない。

 自分の命がかかっているのだ。四の五の言っている場合ではない。

 ぼろぼろと涙を流しながら、愛菜は大きく足を広げた状態で、目の前の男子生徒に対して必死に声を絞り出す。

「お、お願い……! 今すぐに、私のアソコに、おちんちんを突っ込んで……!」

「ええっ? 何を言ってるのさ。『僕に犯されることを自分から願うなんてあるわけない』ってさっき言ったのは誰だっけ?」

「ご、ごめんなさい! さっき、ひどい疑いをかけたことは謝ります……!」

「ふーん……でもさ、後になってビデオの映像とかを持ち出して、『僕に無理やりレイプされた』とか言いがかりをつけられても困るんだよね? 誰がどう見ても君の方から誘ってきたって分かるように、もっと具体的にお願いしてくれる?」

「……っ! お、お願い、します……! 私のいやらしいオマンコを、あなたのペニスでめちゃくちゃに犯して下さいっ……!」

 涼しげな表情で要求する男子生徒に対して、涙声になりながらも、言われるがままに思いつく限りの言葉で懇願する愛菜。もはや二人の立場は完全に逆転していた。
 愛菜のお願いを耳にして、ようやく男子生徒は満足したように自らのズボンに手をかけて、下ろしていく。
 愛菜の言葉に興奮したためか、ズボンの下から現れたそれは、既に大きく張り詰め、まるで溜め込まれた欲望を解放したがっているかのようにどくどくと脈を打っていた。

「ふふ、そこまでお願いされたら仕方ないな……望み通り、いっぱい犯してあげるよ」

「っく……ありがとう、ございます……っ」

 震える声で感謝の声を上げる愛菜。本来ならこんな男に犯されるなど死んでも御免だが、今は緊急事態なのだ。
 これだけ大きなペニスを使えば、自分の膣内から蜂を掻き出すことも容易いだろう。

 前戯も何もなく、愛菜の女性器の入り口に男子生徒のペニスが押し付けられ、力任せに挿入されていく。

「ぅぁっ……っくぅっ! や……」

 乱暴に押し広げられる痛みに思わず『やめて』と口走りそうになるのを愛菜は唇を噛み締めて思いとどまる。今は痛みなど気にしている場合ではないのだ。
 とにかく、奥まで挿入しなければ。痛みを堪えるために机の縁を必死に掴み、少しでも挿入しやすいように足を大きく広げる。

 その甲斐あってか、徐々にペニスは奥へと侵入していき、やがてすっぽりと愛菜の性器の中に収まった。

「ふぅっ、ふぅっ……つ、次は、早く抜いて……っ!」

 愛菜は自分の股間を観察しながら、自らも腰を動かしてペニスを引き抜いていく。
 結合部からは血液と二人の粘膜が入り混じった体液がいやらしく滴り落ちていくのが見える。だが、肝心の蜂は見当たらない。
 挿入の仕方が足りなかったのか、あるいは引き抜くときの角度が悪かったのか。原因は分からないが、一度の試行で成功しなかった以上、うまくいくまで何度も挿入と引き抜きを繰り返すしかない。

「お、お願いっ! 今度は、もっと激しく突っ込んでっ! 何回も何回も、繰り返し奥まで突いてっ!」

 叫びながら愛菜は、必死にペニスを膣内に加えこむために腰を激しく前後させる。
 蜂を捕えられる確率を僅かでも上げるために、少しでも奥まで挿入し、膣の内壁とペニスができる限り密着するように。
 机がリズミカルにきしむ音と、ぐしゅぐしゅと肉体が擦れ合ういやらしい音が教室の中に響き渡る。

 だが、どれだけ一生懸命腰を振っても、愛菜の性感が徐々に高みへと昇っていくだけで、肝心の蜂は一向に出てこない。

「はぁっ、んっ……まだ、なのぉっ……?」

 気をやってしまわないように意識しながら、愛菜は涙を浮かべながら訴える。
 これだけ施行を重ねているのに出てこないということは、蜂はよほど奥まで入り込んでしまったということなのだろうか。
 それなら、蜂を退治するための別の方法を何か考えた方が良いのかもしれない。だが、この状況で蜂を始末する方法など、すぐに思い浮かぶはずがない。

「あ、愛菜っ……そろそろ、イキそうなんだけど、抜いていい……?」

 男子生徒の声に、ふと雷に打たれたように起死回生の一手が愛奈の脳裏に閃く。

 ──精液。

 そうだ。あれだけ粘り気の強い液体をたっぷりと中に注ぎ込めば、一瞬で蜂の動きを封じ込められるに違いない。それどころか、窒息させることも可能だろう。
 むしろ、この状況で用意できる手段としては、それ以上有効な策は存在しないように思えた。

 自分の中からペニスを抜こうとしている男子生徒を慌てて制止する。

「待って、抜かないでっ! お願いだから……私の中に、あなたの精液をいっぱい注いでっ……!」

「ええっ、でも──」

「お願い! 早く、早く中に出してぇっ!」

 戸惑う男子生徒の様子に耐え兼ね、両足で男子生徒をがっしりと捕えると、半ば強引に腰を振る。
 ここで逃げられるわけにはいかない。とにかく、出来る限り快楽を与えて、一瞬でも早く射精させなければ。

 下半身を強く引き締めながら、膣全体を使って男子生徒のペニスをすっぽりと包み込み、まるで搾り取るかのようにペニスをしごき続ける。

「だ、ダメだよ……そんなに激しく腰を振られたら、もう……うっ、出る、出るっ……!」

 加速的に与えられる刺激によって愛菜の快感が飽和して絶頂に達するのと、ほぼ同時に。

 愛菜の中で男子生徒のペニスが一際大きくびくりと震えたかと思うと、次の瞬間には、内壁に向かって繰り返し粘り気の強い液体が射出される感覚が伝わってくる。

 びゅくっ、びゅくっ。ぼんやりとした思考の中、何度も自分の最奥に熱い精液が迸る感覚に、愛菜は安堵する。これだけたくさん注がれれば、きっと蜂などひとたまりもないことだろう。

 かちり。小さな音とともに、教室内に響き渡っていた蜂の羽音がぴたりと止む。やはり今ので、蜂を完全に始末できたのだ。

「……良かった。本当に、良かった……」

「ふぅ……俺も良かったよ、愛菜。それじゃあ、『眠れ』」

「あ……」

 まるで糸が切れた人形のように愛菜の動きと思考が止まる。

 男子生徒はズボンを穿きなおすと、ぱんぱんと制服の汚れを払った。

「さてと、愛菜……お前はこの旧校舎に来たことで、蜂に刺される恐怖をたっぷりと味わっただけでなく、その蜂を退治するためとはいえ無関係な男子生徒を無理やり犯してしまった。今日の一連の出来事は、思い出したくもないトラウマとして、お前の心の奥底に植え付けられる。
 目を覚ますと、お前はこの旧校舎で何が起きたのかを思い出すことはできない。もし思い出しかけても、その度に心の奥底に封じ込められた蜂への恐怖が呼び覚まされる。
 それだけじゃない。これから先お前はこの旧校舎に近づいたり、俺に関わろうとする度に、蜂に襲われる恐怖の感覚が本能的に蘇ってくる。いいな?」

「はい……」

「それと、そうだな……愛菜は目を覚ましたら自分の恰好に気が付くけれど、落ちている下着に触れようとすると、その中に蜂が潜んでいた恐怖が蘇ってくるよ。それじゃあ、俺がこの部屋を出て扉を閉めたら目を覚ましていいよ」





 扉が閉まる音を耳にし、愛菜は目を覚ました。

「あ……私、ここで一体何を……くしゅん」

 小さくくしゃみをして、自分が何も身に着けていないことに気付く。いや、それだけではない。剥き出しになった自分の股間から、自身の血液と愛液に混じってどろりとした白濁液が足を伝って床へと垂れる。

「う、嘘……私、なんでこんな格好をしているの!? と、とにかく服を着ないと……」

 見回せば、自分が身に着けていたはずの制服や下着は教室の床に散らばっていた。慌ててブラウスやスカートを拾い上げて回る愛菜。
 そして、床に無造作に投げ捨てられたショーツに手を伸ばし……

「〜〜〜っ!?」

 首筋をぞくりとした寒気が走り、慌てて手を引っ込める。何故だか分からないが、落ちているショーツに触れるのが怖くて仕方ないのだ。ショーツを諦めてブラを拾おうとしても同様だった。

「な、なんで……? 一体ここで何があったの……!?」

 何か覚えていることはないかと必死で記憶を手繰るが、自分がこの教室で出会った人物を思い出しそうになった瞬間。

 ブーン……

 頭の片隅で羽音が鳴り響き、愛菜の心の奥底に封じ込められたおぞましい感情を呼び起こす。

「ひっ……いやぁぁっ!」

 何故だか分からないが、愛菜の本能全てが、ここにいてはいけないと警鐘を鳴らす。一刻も早く、この場所から離れないと。
 愛菜は全裸でブラウスとスカートだけを抱えたまま慌ただしく立ち上がり、身なりを整えることすらせずに旧校舎の教室を逃げるように飛び出した。

 
 
< 終わり >


 

 

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