ジェリー・フィッシュの事件簿もしくはボヤキ


 

 

プロローグ


 例えばここに、手の込んだ帆船の模型があると思ってくれ。暇な金持ちのキャビネットなんかにあるだろ?瓶の中にはいった、えらく手の込んだやつだ。こいつをめちゃめちゃにぶっ壊すのは簡単だ。床に落としてやればいいだけの話だ。こいつの瓶は壊さずに、中の模型だけ壊すのも大して難しくはないだろ? ちょっと気をつけながら瓶を振ってやれば、中だけ壊れるだろうな。だがこの瓶の中にあるお船の一部分でも上手に手を加えて作り変えようとしたら、ちょっとばかり手がかかる。だがそんな作業を、職人技みたいに上手くやっちまうような奴らも、あんた方が考えてる以上に沢山いるんだよ。そんな奴らの加工を、ちゃんと見抜いて元に戻してやる仕事が、どんなに骨の折れるもんか、想像つくかい? それが俺の仕事。いわゆるマインドコントロール管理官ってやつだ。

 管理官なんて言っちまうと、まるで役所で働くような固い仕事を思い浮かべるかもしれないが、そんなもんじゃない。国に雇われてるわけでもないし、正義の味方をやってるわけでもない。職務機密上俺の雇い主に関して喋るつもりは全くないが、少なくとも俺は警察官みたいな仕事をしてるわけじゃあないってことは言っとくべきだろうな。俺は俺なりの判断基準で考えるボーダーラインを平気で越えようとするゴロツキどもを勝手にこらしめてるだけなんだ。

 俺のボーダーライン?そんな箇条書きに読み上げられるようなものはないぜ。その場その場で判断していかないといけないもんだろ。全ての事件はそれぞれに特殊なもんだからな。ま、俺の愚痴をこうして辛抱強く聞いててもらえれば、だんだんあんた方にも俺のボーダーがどのあたりかってのは、おいおいわかってくるはずだ。

 例えば今月俺が調査にあたった二件は、見逃せるものと見逃せないものと、ちょうど正反対のケースだったな。俺が目をつぶっといた事件は・・、事件って言い方が出来るかどうかも疑わしいな。結婚式の披露宴で、新婦がウェディングケーキに思いっきり顔を突っ込んだってだけだ。ケーキに入刀しようとした瞬間、招待客がカメラ構えてるまん前で、花嫁がケーキに顔を突っ込んで、勢い余ってひっくリ返っちまった。大股開きになった花嫁の、ウェディングドレスに不似合いな真っ赤なTバックが丸見えになってたらしい。

 ・・俺も言ってて馬鹿馬鹿しくなるような事件だが、実は一級の操心者の仕業だったんだ、これが。加害者はもう5年以上前、その新婦にふられた時に、そいつの人生の晴れ舞台でちょっとした恥をかくようにそんな暗示をかけていた。酷いやつだと思うかい? 実は俺は、それほど許せん奴とは思わなかったな。5年も10年も持続するような暗示をかけられるような腕の野郎のことだ、その気になればその娘を無理やり従順なペットにすることだって出来たと思わないかい? ところがそいつはそうするかわりにその場は潔くふられて、未来のいつかに発現する悪戯をちょっと仕掛けとくことにしたんだ。ま、結婚式の日にド派手な下着着させて、ケーキまみれの顔と一緒に披露させるのがちょっとした悪戯かどうかはさておいても、それがそいつの自分の美学と技能にもとづいたものだったことは間違いない。世間的にはどう見るかは別として、俺はそういう悪事は見逃すことにしてるんだ。

 逆に俺が追い詰めなきゃならんと思ってる奴はもう一つの事件の加害者だ。「狂牛企画」ってビデオ会社を知ってるかい? いや、知らなくて当然だ。相当なマニアしかしらない、マイナーな変態AV会社らしいぜ。そこの今月の新作に、「スカトロ雌豚・獣姦五連発」って、胸が悪くなるようなタイトルのビデオがあったんだが・・。それに出てたのが、半年前から活動を休止している有名なヴァイオリニストだったんだ。才能もあったし相当な美人だったからクラシックの世界ではなかなか有名だったらしい。そのビデオが発売されてすぐにある筋から連絡があったんで、ビデオは発売中止になった。もっとも裏では出回っちまってるらしいが、そこまで止める気も力も俺にはない。被害者は探し出して保護したが、かなりぶっ壊されてて、修復にはかなり時間がかかりそうだった。彼女の乳首と性器のピアス穴やら、内股に彫ったチンポの刺青やら馬のモノ入れて傷ついたアソコやらの肉体的なダメージと同じで、後先考えずに壊された精神も、完全に元の状態に戻すのは簡単じゃない。彼女がまっとうな暮らしに戻れるまでには、しばらく時間がかかるだろうな。

 実は俺はしばらく、彼女を泳がせといて加害者の接触を待ってみたんだが、犯人は結局、彼女の周囲に近寄りもしてないみたいだ。つまりは極めて刹那的な、通り魔的な気まぐれな操作で、彼女の人生をボロボロにしてほっぽりだしたんだ。彼女の人生だけじゃないぜ。道徳的にどうのこうの言うんじゃない。俺はそういう、衝動に任せた、知性の感じられない暴力が一番嫌いなだけだ。それに世間を騒がされちゃ、俺達だって迷惑だ。その野郎は絶対に見つけ出して、思いっきり後悔させてやる。近いうちにな。

 ・・・ちょっと力みすぎちまったかな。まあ、こういう仕事はクールにこなさなきゃやってられないが、クールなだけじゃあとても続けられないってわけだ。

 ま、楽じゃない仕事ってことだ。マインドコントローラーなんて一括りに言ってみたって、能力、技能、性質、信条、みんな千差万別だ。本当に色んなタイプがいるんだぜ。こないだの奴なんかは特に厄介でな・・・。

 
 



 

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