僕の変性期


 

 

第6話


 駅の西口前にある、レコードショップに掲げられた大画面テレビ。その下のプロモーション用のブースに、今日はなぜか素人っぽい中学生の男の子が上がっていた。それでも周囲は黒山の人だかりになっている。まるでアイドルグループの新譜発表会のように、若い女の子たちの比率が非常に高いギャラリー。今日、ブースを使って3枚目のシングルを紹介する予定だった、売り出し中のアイドル、藤瀬紗也花は様子がおかしいことに気がついて、キョロキョロとマネージャーを探している。しかし、マネージャーの大塚さんは、壇上に紗也花とこの男の子を置いて、人ごみの中に紛れ込んでしまっている。

「えー、あー、あー。只今マイクのテスト中。・・・ははっ、これ一回やってみたかんだ。紗也花ちゃん、テレビで見たことありますよ。心配しないで、僕の進行に任せてくださいね。」

 学生服を着た中学生にそんなことを言われても、紗也花の不安が消えるはずは・・・なかったはずなのだが、彼が無音で口をモゴモゴと動かすと、紗也花は両手で大事そうにマイクを持ちながら、「ハーイッ」と、とびきりの笑顔で答えてしまった。とにかく彼の言うとおりにパフォーマンスを行えば、CDの売り上げもぐっと上がりそうな気がしてきた。紗也花はいつもと男女の比率が逆転しているような観衆に対しても、笑顔で応じる。しかし、彼女の期待に反して、スピーカーから流れてきたのは紗也花の新曲のポップなイントロではなくて、ミディアムテンポのヒップホップのような曲だった。重いビート音に、不思議と体が勝手に縦ユレする。

「今日は、予定を変更して、アイドル藤瀬紗也花から、ヒップホップアイドルに生まれ変わった、紗也花ちゃんの再デビューをご紹介しましょう。即興でどんどん歌っちゃう、フリースタイルです。紗也花のオッパイ・ラップ、行ってみよう!」

 若干古い感じのする前振りだったが、紗也花の笑顔が凍りついて、2、3歩、後ずさる。

(えっ・・・どういうこと?・・・ラップなんて、そんな、急に歌えるわけ・・・)

 うろたえる彼女、しかし、頭の奥でシャリシャリと金属音のような音が小さく聞こえると、彼女の頭の中はグルグルと乱暴にシェイクされたような気分になった。一瞬の眩暈がおさまると、彼女の表情に笑顔が戻る。リズムに乗って闊歩するように、ステージの中央に躍り出た。

(そうだった、私はワン・アンド・オンリーのオッパイ・ラッパーなんだから、ラップなんてリズムにノッて、その場で作っちゃうわ。等身大の自分のことを、包み隠さずに語るのが、ヒップホップだったと思うわ・・・、ちょっと、アダルトな雰囲気も盛り込んで・・・)

 観客を両手で煽って、リズムに合わせて手拍子をさせる紗也花。衣装のジャケットを放り投げると、ピンクのチューブトップを、下に身に着けたサポーターごとたくし上げてしまう。ステージ上でオッパイを放り出してしまった紗也花。コアな男性ファンが悲鳴を上げた。それでも彼女は自信満々でオッパイを揺らしながらマイクを口に近づける。

「紗也花のオッパイ見てください!紗也花のオッパイおっきいよ。
 中学ぐらいから、大きくなって、今では立派なCカップ。
 右より左のがちょっと大きい。右の乳首の下にはホクロ。
 これまで触らせてあげたのは、これまでの3人の彼氏だけ。
 紗也花のオッパイ見てください!紗也花のオッパイおっきいよー!」

 根っからの紗也花ファンの男性たちは、頭を抱えて地に伏している。「ルックスは抜群だけど、性格は凄く奥手で男性と付き合った経験もないため、もっと積極的な性格になるために芸能界に入ってきた、期待の新人アイドル」という公式プロフィール。それを思いっきり裏切る告白を、生乳丸出しの彼女にされてしまった親衛隊たちは、男泣きに泣いていた。その他の男たちは大喜び。ステージ上の生の紗也花と大画面に大写しになっている巨大紗也花オッパイとを交互に見比べながら指笛や手拍子で盛り上げる。女の子たちは、何が嬉しいのか、笑顔で紗也花の動きを真似しながら、リズムに乗っていた。両手を高く上げて、下を指差し、オッパイを強調するポーズ。学生もOLも店員さんも自由な子達も、みんなオッパイ・ラッパーを憧れの表情で見ながら真似ている。

 満足そうにステージの片隅で様子を見守る拓海。ステージ脇に目をやると、女の子たちの中で、一人だけ園池澪だけが、嬉しそうにしていなかった。冷めた目つきで拓海をニラミつけている。拓海が悪戯っぽい笑みを浮かべて、口を動かし始めると、澪は青ざめた顔で、両手で「やめてーっ」と抵抗を示す。しかしその澪も、拓海が口を動かし終えた時には、急に周りの女の子以上にノリノリの様子で、両手と頭をブンブンと振り回し始めた。ノリすぎた澪は、だんだんステージに近づいていく。

(わーっ、拓海のバカーッ。私まで、オッパイ・ラッパーになっちゃったじゃない・・。こんな、ことしたら・・・、お嫁に行けな・・・。でも、・・・我慢できないよーぉっ)

 髪を振り乱してリズムに乗りながらステージに乱入した澪を、不思議と止めるスタッフがいない。制服姿の美少女がリボンもシャツも、白い清楚なブラジャーも観客席に放り投げるのを、みんな拍手と指笛で迎え入れてしまった。

「澪のオッパイも見てみなさい!紗也花ちゃんよりちっちゃいけれど、
 乳首は綺麗なピンクでしょ?最近、急に、揉まれすぎてて、最近微妙に成長中。
 一人でオッパイ触る時には、乳首の周りを優しく撫でるの。
 感度もなかなか良好です。将来とっても美乳になりそう!」

「美咲のオッパイも見てみてねぇ。白くてとってもやらかいです。
 さっきぃ、沢山揉まれちゃってぇ、赤くなってて、ちょっと可哀想。
 それでも気持ち、よかったの。リョウ君、美咲を許してねぇ。
 乳輪小さい豆乳首って、リョウ君、笑うの。酷いでしょ。
 一人の時は、寂しい時は、リョウ君を思って、触るのにっ!」

 澪が飛び入りでステージに上がりこむと、負けじと、とっても可愛くてなぜか全身ベトベトした全裸の美人も乱入して歌う。二人とも字余りになったり言葉足らずになったりする素人ラップが、妙に男心をくすぐる「私生活暴露パフォーマンス」だ。スタッフたちは止めるどころか、彼女たちに嬉々としてマイクを手渡す。観客も見る間に上着を脱ぎ捨て下着も剥ぎ取って、音楽に酔ったように体をクネらせている。みんなが飛び跳ねるたびに、抑えを失った200近いオッパイたちが、それぞれ勝手な方向にブルンブルンと暴れている。

 百香さんというゴージャスなルックスの銀行員さんが、新しくステージに上がりこみ、今日何人のお客さんにサービスで揉ませたとか、乳首が立った時に大きくなりすぎるのがコンプレックスだとか、リズムにのせて主張している。どうやら拓海は、街で目についた、お気に入りの美人や美少女を集めてステージに上げているようだ。澪は紗也花の後ろでバックダンサーのように踊りながら、まだ自分の可憐な胸を隠すことも出来ずに万歳のポーズで両肩を揺すっている。首から上が少し自由になっていたので、拓海の方を向いて、怒った顔を見せた。声を出さないまま、「アンタ、おぼえてなさいよ」と口を動かす。

 しかし文句を言っている途中に、隣から肩を叩く邪魔が入る。さっき「美咲」と名乗っていた、お人形さんのように綺麗な顔立ちのお姉さんが、優しそうな笑顔で、リズムに乗りながら、澪のオッパイを下から揉み上げていく。男に触られるのとは全然違う、柔和で繊細なタッチ。リズムに合わせて頷きながら澪の胸を揉む美咲さん。澪は「あ・・、ハァ。」とちょっと困った笑顔を返しながら、止むを得なく彼女の胸を揉み返した。紗也花ちゃんと百香さんも向かい合って足をピョコピョコ跳ねながら、お互いの胸を揉み合って頷きあってる。ラッパー同士がリスペクトを交わしているのかもしれない。澪も照れ笑いを浮かべながらも、美咲さんとリズムに合わせて胸をモミモミと悪戯しあう。このお姉さんは、最高に愛くるしい女性なのに、全身がムァッと嫌な匂いのする粘液でベタついているのはどうしてだろう?

 ステージ上にはアイドル、銀行員さん、電器屋さん、薬剤師さん、歯科助手さん、ギャル、子ギャル、女子高生、女子大生、OLさんと、さまざまなタイプの、ビジュアル的はそれぞれに秀でた人たちが上がりこんで、代わる代わる自分の胸についての自慢やコンプレックス、秘密や楽しみ方などを、たどたどしいラップでリズムに乗せて、それでも楽しそうに主張していく。夕暮れ時の、帰宅時で駅から出てきた人たちが、どんどん集まってくる。
 上司にこってりシボられたらしく、少しションボリした表情で、下半身裸で「ロボット歩き」のまま改札口を出てきた新人OLさんも、鼻の穴に指を突っ込んだまま、バス停に並ぼうとしていたお嬢様女子高生も、みんな今日あった嫌なことを忘れるような笑顔で、ステージ近くに服を脱ぎ捨てながら駆け寄ってくる。

 スピーカーの曲が変調して、DJプレイのようなパートに移る。大音量の中、頭の中でシャリシャリと音が聞こえると、ステージ上の美女、美少女たちは迷わずスカートを一気に捲り上げたり、ズボンを床に叩きつける。大きく足を開くと、気持ち腰を落として、股間に手を当てると、手のひらで激しく擦りだす。

 キュッキュッ、キュキュキュー! キュワキュッキュー!

 レコードが擦られる、「スクラッチ」の効果音に合わせて、笑顔の女性たちが股間をスクラッチ。観客の女性たちも見様見真似で動きを合わせてみる。股間が完全にパイパンのようにツルツルになっている女性たちもチラホラ見える。後ろを向いてお尻を突き上げ、バックスクラッチに挑戦している女の子もいるようだ。ステージ上の歯科助手さんはスクラッチの音がなるたびに股間を擦るが、その後、律儀なまでに毎回必ず、自分の手の匂いを確認している。知性派美人の薬剤師さんは、ちょっと痛そうに、ちょっと気持ちよさそうに、周りの女の人たちよりも激しめに自分の股間を苛めながら、涎をたらして喜んでいる。

「わ、わたし、知らなかった〜。」

 澪の隣で、ブリッジのような姿勢でスクラッチしている美咲さんが、感動したような声を出す。

「音楽って、こんなに気持ちいいものなんだね〜。リョウ君にも教えてあげないと・・。」

 美咲さんがスクラッチをするたびに、すでに少し赤く腫れている股間の辺りから、恥ずかしい汁がしぶきをあげる。澪はなんと答えていいのかわからくて、曖昧に微笑んでみた。

 DJプレイが終わると、爆発音で曲が終わる。そこでエクスタシーに達した女性がステージの上にも下にも大勢いたようだ。

 百香さんという美人の銀行員さんは、大股開きで腰を浮かせたまま、ステージ上でお漏らしまでしてしまっていた。どうやら人並み以上に感じやすい体質の彼女は、途中で何回もイってしまったのに、効果音が鳴り続ける間、手がスクラッチを止めてくれなかったらしい・・・。笑顔のまま失神している彼女が運び出される間、ステージ上の女性たちはお互いのオッパイ・ラッパーとしての健闘を称えあった。スタッフがバスタオルを配ってくれるので、いつの間にか完全に全裸になっていた自分たちの体に、お風呂上りのように白いタオルを巻きつけるステージ上のパフォーマーたち。

「貴方、あの、失礼ですが、下の毛・・・ないんですか?」

「なんだか、今日急に、サッパリしたくなっちゃって・・・。なんでかな・・・。」

「美咲さんって、今年のミス・朝香学院のあの倉谷美咲さんですよね?お会いできて嬉しいですっ。ところで、なんで体中ベトベトなんですか?」

「あ・・・、どうも。その、今日、恋人が10人以上出来ちゃったから・・・。こうなっちゃってて・・・。はい。」

 アイドル、藤瀬紗也花の周りには、当然のように女性のファンも集まる。一人の半裸の女子高生は、おしとやかそうな外見に似合わず、興奮気味に近づいてきた。

「初めましてっ!私、安達若葉と申しますっ。あの私、紗也花さんのデビュー曲も2曲目も、毎日バスの中で繰り返し聞いてますっ!」

 純真そうなお嬢様女子高生にこうも感激されると、紗也花も、アイドル目指してよかったと思える。握手をしてあげると、両手で紗也花の手を握り締め、ピョンピョンと跳ねた。

「紗也花さん、これからも頑張ってください。今日のこと、ずっと大切な思い出にしますっ!」

 若葉ちゃんと名乗っていた、おしとやかそうな女の子は、別れ際にそう言って自分の鼻に指をやり、ごく自然な仕草でその指を紗也花のおデコにペチョリと押しつけた。

(えっ・・・・なに?)

 女の子走りでステージから跳ねるように去っていく、ファンの子の可憐な後姿。紗也花が額を恐る恐る確認すると、ハナクソがしっかりなすりつけられていた。

(アイドルも・・・、楽じゃない・・・。)

 ステージ上に突っ伏した紗也花は、改めて感じいった。


。。。



「さー、気を取り直して、いってみよう。B面の『おマ○コ・ラップ』、準備はいいかい、紗也花ちゃん?」

 MC気取りがだんだん板についてきた拓海が煽る。若干、元気がなくなっている様子の紗也花だったが、拓海が何か呟くように口を動かすと、弾かれたように元気爆発となって、ステージ上でジャンプを繰り返す。少しだけヤケクソになって飛び跳ねているようにも見えるが、顔はあくまで笑顔だ。

 ステージに上がりこんだパフォーマーたちも、休憩時間に体に巻きつけていた白いバスタオルをフワリと宙に投げて、全裸で大きく手拍子しながら、新しいラップを体で表現する。一緒に歌い踊ろうとステージを進んでいく途中だった澪の腕が、不意に引かれる。拓海が澪を引っ張っていた。

「みんなで楽しむのもいいけど、今日の締めくくりは、二人だけでこっそりエッチしない?」

 全裸でいるのも少し慣れてしまったかのように、園池澪は髪に手をやる。

「質問してどうすんの?どうせ、私に選択権なんて、ないんでしょ?」

「そんな、理屈ばっかり言わないでよ。・・・幼馴染にだって、別に僕たち、選んでなったわけじゃないじゃん。」

「はぁっ?よく聞こえない・・。」

 大音量でラップが流れる、新譜発表ステージ。全裸でマイクに自分たちの女性器の具合をリズミカルに説明している美女たちと、いっせいに色とりどりのパンツを右手でグルグルまわして、同じく全裸で盛り上がる聴衆たち。その光景を後にして、拓海と澪は、ステージ裏で若干幼い、ストレートなセックスを始めた。

「澪ちゃん、このオッパイ、最近揉まれて成長してるって言ってたよね?あと、時々一人で乳首のあたりをって・・、こんなふう?」

「もう、知らないっ・・。アンタが言わせたんでしょ。」

「秘密を正直に、面白くラップして下さいって言っただけだよ。」

 拓海がいつもよりも丁寧に、澪の胸をマッサージのように揉みほぐす。乳首を舐めに頭を近づけると、頭髪から、拓海の家の中の匂いがする。

「知らないってば・・・。アンタ、街の人たち、ちゃんと酷いことにならないように、フォローしときなさいよっ。その、忘れてもらうとか・・・。なかったことにしてもらうとか・・・どうにかならないの?責任持てないでしょ。」

「責任・・・、ちゃんと持つよ。もう子供じゃないんだもん。みんなにも迷惑はかけないよ、そんなには。」

 澪がゆっくりと、深い溜息をつく。どうしてこんなに、困った幼馴染を持ってしまったのだろう?わずか数週間前までは、大人しい男の子だったはずなのに・・・。二人の関係も、すっかり変わってしまった。

「でもまずは、・・・男の責任から取るね。それっ。」

「あっ、馬鹿っ。そこはっ。・・・・もーぉっ!・・あ、・・・アンッ」

 さっきのスクラッチのせいで、恥ずかしい液でまだ潤っている股間を、拓海が舌で攻撃してくる。恥ずかしい液を幼馴染の男子に舐めまわされて、澪は我慢できずに女の声を漏らしてしまう。抵抗したいのだが、彼女の両手は、頭の上で大きな円を作ったまま、固まってしまっている。何をされても、「オールオッケー」というポーズだそうだ・・・。

「ライブを抜け出して、恋人とエッチ。憧れのシチュエーションだったんだ。」

 顔を上げた拓海が、澪の首筋にキスをする。さっきのステージ上でのオッパイ丸出し、アドリブでのラップ披露。公開オナニー。あまりのことの連続に、澪の体も頭も、興奮しきっていた。

「もう・・・・・・・・・・・・・、優しくしてよ・・・。」

 口でのキスを求めてきた拓海に対して、澪はゆっくりと目を閉じた。下からも拓海のモノが澪の中に入ってきた。力を抜いて全部受け入れた瞬間に、両手の丸もほどけた。


。。。



「ね・・・、澪ちゃん。俺、変性期、終わったんだけど、どうしてまだ一緒に付き合ってくれてるの?」

 まだ違和感のある、以前よりも低くて太い声で、蜂屋拓海が聞く。隣を歩いているの園池澪はウンザリした顔で答える。

「そんなの決まってんでしょ!アンタ、さんざん私をオモチャにして、熱々カップルみたいに3週間も一緒に登下校させてたでしょうがっ!その後すぐ私が別の人と一緒に歩いてたら、軽薄な女みたいに、皆に見られるじゃない。それとも、この先、私に一人で登校しろっていうの?そしたらそれはそれで、なんだか、別れた寂しい女みたいに見られるじゃない。しばらくはこうしてるしかないのっ。なんでそういうところ、わかんないかなあ?鈍感なのよ、拓海は。」

 一つ聞くと、二十は返ってくる。澪の勢いにまた閉口しながらも、拓海は悪い気分ではない。結局のところ、幼馴染みと付き合っているのは、色々楽でもある。

「それに、来週末はダブルデートだっていうから、我慢してあげてるんじゃない。美咲さんとリョウさんは、私たちが本物のカップルだって信じきってるんだから・・・。ま、あんたもリョウさんみたいな優しくて誠実な男に慣れるんだったら、この先も付き合ってあげてもいいけどね・・・。ほら、ダラダラ歩かないっ!遅刻するよ。」

 澪が数歩、先を急ぐ。

「俺や澪が大学生になる頃って言ったら・・・、4年ぐらい後?・・・その頃、俺らはどうなってるんだろうね・・・。」

 ぼんやりと、学生鞄を両手で枕のように頭の後ろに抱えて歩く拓海。澪は歩くのが遅い拓海にまた、文句を言おうとしたが・・・。

「でもその前に、2年半ぐらい後かな?もう一波乱あるかもね?」

 拓海がおかしなことを言い始めるので、澪は立ち止まる。

「何言ってんの?波乱ってどういうことよ。」

「宇宙(そら)って俺の、従兄弟。俺の2歳下でしょ?
 ・・・覚えてる? 隣町の蜂屋宇宙。」

 澪は思わず手に持っていた鞄を地面に落としてしまった。子供の頃、何度か一緒に遊んだ記憶が蘇る。確か拓海のお父さんの、弟さんの子供の宇宙君。泣き虫だったあの頃の宇宙君。そういえば、陸ニィにイジメられ、泣いていた宇宙君をかばったことも、何度かあったはず。あの宇宙君も・・・、あと2年ちょっとで、・・・声変わり?

「嘘・・・。ひょっとして・・・変性期?」

「くるんじゃない?それが陸ニィと、俺の楽しみでもあり、不安でもある。」

「ちなみに・・・、女の人のこととか、興味は?」

「そりゃあるっしょ。男の子だもん。あ、そう言えば、こないだの正月会った時は、澪のこと、元気かどうか訊いてたよ。どうやら憧れのお姉ちゃんだったみたいだね。」

「うーーーそーーーーよーーーーーっ!!」

 両手で頭を抱えると、近くの木々から鳥たちが慌てて飛びたつほどの絶叫をした後で、落とした鞄のことも気にせず、全力で駆け出した澪。慌てて鞄を二つ持って、後を追う拓海。走る二人に追い越された同級生たちは、「腐れ縁カップル」と評判の二人の後姿を、苦笑しながら見送るのだった。

 
 
< おしまい >


 

 

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