幸せのつきあたり


 

 



第3話 独占






 そして、次の週末。

「おはよう、知佳!」
「あっ!おはよう、サッちゃん!」

 約束していた駅の東口に行くと、知佳はもう先に来て待っていた。

「待った?」
「そうでもないよ。5分くらいかな」

 そんな、待ち合わせのたびに恋人たちの間で幾度となく繰り返されてきただろう会話を交わして歩き始める。

「今日はどこ行こうか?」
「そうだねー、ちょっと気になる服があるんだけど、いい、サッちゃん?」
「うん、じゃあ、まずは買い物だね」

 行き先を決めると、並んで切符を買う。





 その日は、知佳の洋服選びから始まって、ちょっとした雑貨や小物を見て回ったり、お洒落なカフェでお茶をしたりした。

 それは、これまでも知佳と遊びに出たときによくやっていたこと。
 だけど今日のは特別。
 だって、知佳とつきあいはじめて、これが初めてのデートなんだもの。

 だから、帰りの電車の中で寄り添う私と知佳の距離も、今までよりも近く感じる。





「えへへっ!今日は楽しかったね、サッちゃん!」
「うん」

 知佳の部屋まで戻ってくると、荷物を置いて抱き合う。

「知佳……」
「うん、サッちゃん…………。ちゅ、ん……」

 外では人目があって、さすがにあまりいちゃいちゃできなかった分を取り戻すみたいに、きつく抱き合って唇を重ねた。
 そうしていると、トクン、トクンっていう知佳の鼓動が伝わってくる。
 知佳の唇の柔らかくて温かい感触を感じると、すごく幸せな気持ちになれる。

 だけど、今はまだ、そこまでが精いっぱい。
 それに、これだけで十分に幸せだと、その時の私は思っていたのに……。






* * *







 そして、週が明けて学校にいくと。

「あっ!知佳……?」

 知佳の姿を見つけて駆け寄ろうとして、そのまま立ち止まってしまった。

 ひとりの女の子と、知佳が楽しそうに話をしていた。
 同じ専攻の子じゃない。
 私の知らない子だった。

 でも、知佳ったら、すごく楽しそうに笑ってる……。

 子供みたいに無邪気な笑みを浮かべている知佳を見て、胸がズキッと痛んだ。




「……知佳」
「あっ、サッちゃん!……じゃあね、渚!」

 声をかけると、知佳はその子に手を振って私の方に駆け寄ってきた。

「おはよう、サッちゃん!」
「うん、おはよう。……今の子は、うちの専攻の子じゃないよね?」
「え?ああ、渚ちゃんはね、高校の時の同級生なの。同じ大学に入ったのは知ってたけど、学部が違ってたからなかなか会うことがなくて。でね、さっき、すごく久しぶりに会ったから、ついつい長話になっちゃって」
「へえ、そうなんだ……」

 ふたり並んで授業のある棟まで歩きながら、知佳の話に相づちを打つ。

 努めて平静を装っていたけど、私の胸の奥ではドロドロとどす黒い感情が渦巻いていた。

 私の知らない子に向かって、知佳があんな楽しそうな笑顔を見せていた。

 そのことを許せない自分がいた。

 それに、さっきの知佳のあの、子供っぽい、無邪気な笑顔。
 どこかで見たことあるような気が……。

 そうだ。
 初めて知佳に催眠術をかけた時、私のことを先輩だと思わせた時に私に見せた笑顔に近いんだ。

 そうか……あれは、高校生の頃の知佳の表情なんだ。

 私が知ってるのは、大学に入ってからの知佳だけ。
 でも、あの子は私の知らない高校生の頃の知佳を知ってるし、知佳も私の知らない顔をあの子に見せる。

 ……そんなの、許せない。
 知佳は私の恋人なんだから、他の子にあんな笑顔を見せて欲しくない……。

 いやだ……私、あの子に嫉妬しちゃってる……。

 この、胸の奥がチクチクと痛くなってくる感じ。
 同じような胸の痛みを、初めて知佳を催眠術をかけたときにも感じてた。

 それが嫉妬なんだって、はじめて自覚した。
 あの、知佳が昔つきあっていた先輩にも、さっきの子にも、私は嫉妬してしまってる。
 自分がこんなに嫉妬深い人間だったなんて、今まで知らなかった。
 でも、胸の奥で渦巻くこの感情を、自分でも抑えることができない。



 それに……そうだわ!
 高校の同級生だったら、知佳の様子や記憶がおかしいのに気づかれるかもしれない。
 ああやって、知佳が昔の友達に何度も会っていたら、私がやったことがばれるかもしれないじゃないの!
 ううん、周りが気づくだけじゃなくて、知佳自身、何かおかしいのに気づいてしまうかもしれない。
 もし、そんなことになったら……。

 不意に、そんな不安が浮かび上がってきた。
 いや、それは当然考えてなくちゃいけないことだったのに。
 私は、知佳に好きになってもらいたい一心で、知佳が高校の頃の友達と会ったり、帰省したときのことなんか考えていなかった。
 もし、自分の記憶と、周囲の記憶が違うことがわかったら……。
 知佳がそれに気づいたら、私が怪しまれてしまうんじゃないかしら……。

 いったん思考がマイナスの方向に向かうと、不安がどんどん湧き上がってくる。

 ……どうしよう?
 いったい、どうしたらいいの?

「今度、サッちゃんにも渚ちゃんのこと紹介してあげるね」
「う、うん……」

 知佳の話に返事を返しながら、私は必死に考えていた。

 本当のことを知られたら、知佳に嫌われてしまうかもしれない。
 そんなのいやだ……。
 知佳に嫌われたくない。知佳を失うのは絶対にいや。
 そうよ。
 知佳は私のものなんだから、私だけのものなんだから……。
 だから、他の誰にも渡さない。
 そのためには……。



「サッちゃん?どうかしたの、サッちゃん?」
「……え?」

 気がつくと、知佳が心配そうに私の顔を覗き込んでいた。

「なんか、真剣な顔して考え込んでるみたいだったけど、どうしたの?」
「ううん、なんでもないわ」

 怪しまれないように、慌てて笑顔を作ってみせる。
 でも、頭の中ではどうしたらいいかずっと考えていた。








 そして、一日かけて私が出した結論は……。








「”自分の中の鍵を開けて、知佳”」

 授業が終わって、私の部屋に遊びに来た知佳に合い言葉を言うと、その瞳から光が失せる。
 その状態になると、知佳は心の鍵を開いて、私の言葉を何でも受け容れるようになる。

 ぼんやりとした表情で座っている知佳に、私はさっき考えついた暗示をかけていく。

「知佳は今、とても寂しい場所にいるよ」
「……ええ?」
「ほら、周りを見ても暗くて何も見えない、寂しいところ」
「……えっ?……ここは……どこ?」

 知佳の虚ろな目が、キョロキョロと周りを見回して、心細そうに呟く。
 目の前にいる私も、見慣れた私の部屋も、その目には映っていないみたいに。

「ここは、真っ暗で、他に誰もいなくて、知佳はとても心細く感じるの」
「う……ううっ……やだ、やだよ……どこなの……ここは……?」

 耳許で囁くと、知佳の表情が不安そうに歪んでいく。
 きょろきょろと、焦点の合っていない視線を周囲に泳がせながら。

「いやっ……誰かいないの?ねえ……?」
「ほら、呼んでも誰もいないよ。知佳はひとりぼっちなんだから」
「誰か返事をしてよ……。ねえ……サッちゃん……どこにいるの?こんなの嫌だよ……寂しいよ……サッちゃん……」

 すぐ側に私がいるというのに、まるで私の姿が見えていないように心細そうに知佳が私の名前を呼んだから、胸がきゅうって締めつけられる思いがする。

「探してもサッちゃんはいないよ」
「……本当に誰もいないの?こんなのやだよ……こんなの……暗くて……怖くて……心細いよ……」

 今にも泣き出しそうに、目にいっぱいに涙を溜めて知佳はその場に蹲る。
 知佳は今、真っ暗な中に自分がひとりぼっちでいると思っている。
 そんな姿を見ると今すぐ抱きしめてあげたいけど、まだ、そうするわけにはいかない。

 だから、もう少し我慢してね、知佳……。

 私は、知佳の耳許に顔を寄せて囁き続けた。

「それだけじゃないよ。ほら、地面がドロドロになって、知佳の体が沈んでいくよ」
「……え?いや……なに……これ?いやあっ……!?」

 知佳が悲鳴を上げて腰を浮かせた。
 きっと、自分の体がドロドロのぬかるみの中に沈み始めたように感じているんだ。

「ほら、体がゆっくりと地面に沈んでいくよ。ドロドロで、気持ち悪くて、すごく怖いよね」
「やっ……やだっ、誰か……助けてっ……」
「ほら、どんどん沈んでいくよ。もう腰まで沈んじゃった。すごく冷たくて、怖いよね」
「いやぁ!いやぁっ……」

 何かにすがろうとするように、知佳が腕を伸ばしてもがく。
 大きく見開かれた虚ろな目から、涙が溢れてきていた。

「ほら、もう胸まで沈んじゃったよ。誰もいない、こんな寂しいところで、知佳はひとりで沈んでいっちゃうの」
「いやっ……いやぁっ……誰か……誰か、助けて……」
「もうすぐ顔まで沈んじゃうよ。息ができなくって、すごく苦しいよね」
「んっぷ……んぐっ……助けて……助けてぇ……サッちゃん、助けて……!」

 まるで、溺れているみたいに息苦しそうな表情でもがいている知佳が、精いっぱいに腕を伸ばす。
 顔を歪めてぼろぼろ涙をこぼしながら、必死に助けを求めている。
 それも、私を呼んで。

 ……今だ!

 必死に伸ばしたその手を、私はしっかりと握りしめた。

「うん、今助けるよ、知佳」
「……サッちゃん?」

 知佳の視線が、私の方を捉える。
 その瞳は焦点を結ばずにぼんやりとしたままだけど、たしかに私を見ていた。

 私は、さっきまでと口調を変えて、普段どおりの話し方で、優しく話しかける。

「そうだよ、私だよ。助けに来たからね、知佳」
「……サッちゃん!サッちゃん!」

 泣きじゃくりながら、知佳が私の腕にしがみついてくる。

「うん、うん……。もう大丈夫だよ、知佳。もう、なにも怖いことも、危ないこともないからね」
「えぐっ……ありがとう、サッちゃん……」
「だから、もう安心だよね」
「うん……うん……」

 優しく抱きしめて囁いてあげると、ようやく知佳は落ち着きを取り戻していく。

「だから、もっと気持ちを楽にして、知佳」
「うん……」
「ほら、あれをやろう。私がカウントダウンすると、すごく気持ちが楽になるからね」
「うん……」
「じゃあ、いい?……10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、0」
「ん……」

 私がカウントダウンをすると、腕の中で知佳の体がぐったりとなる。

「ね、もう安心だよね?」
「うん……」
「じゃあ、もう一度やろう。そうしたら、もっと安心して、楽になるから」
「うん……」
「……10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、0」

 私が0まで数えると、知佳の体から完全に力が抜けた。
 さっきまでしゃくり上げていたのに、安心したように私に体を預けている。
 その様子を見て、私はまた話し方を変える。

「ね。こうしてるとすごく気持ちが楽で、安心できるよね」
「うん……」
「そうだよね。サッちゃんがいると、知佳はすごく安心できるの」
「うん……」
「でもね、サッちゃんがいないと、知佳はまたあの暗くて寂しいところに行って、心細い思いをするかもしれない」
「そんな……」
「サッちゃんがいないと、またあの暗いところで、ひとりで沈んでいっちゃうかもしれない」
「いや……そんなの、いや……」
「でも、安心して。サッちゃんが知佳を助けてくれるから」
「サッちゃんが……あたしを……助けてくれる……」
「そう。サッちゃんだけが知佳を助けてくれるの」
「サッちゃんだけが……あたしを……助けてくれる……」
「だから知佳は、サッちゃんがいないとダメなの」
「あたしは……サッちゃんがいないと……ダメなの……」

 どこか虚ろな、でも、安心しきった表情で、私の言うことを知佳は繰り返していく。

「サッちゃんだけが、本当に信頼できるの」
「サッちゃんだけが……本当に信頼できる……」
「他の誰よりも、サッちゃんのことは信頼できるの」
「他の誰よりも……サッちゃんのことは信頼できる……」
「知佳はサッちゃんのことを信じてさえいればいいの」
「あたしは……サッちゃんのことを信じてさえいればいい……」
「うん、じゃあ、それを知佳の一番深いところに刻み込んでおくの。サッちゃんのことを信じるのは、知佳にとって絶対なんだから」
「うん……」
「じゃあ、確認するね。もし、サッちゃんが知佳を置いてどこかに行っちゃったら?」
「いや……そんなのいやだよ。あたしは……サッちゃんと一緒にいたいよ……。あたしは……サッちゃんがいないとダメなんだから……」
「うん、そうだよね。でもね、サッちゃんが、知佳に何か悪いことをするとか思わない?」
「思わない……サッちゃんが……そんなことするわけないもの」
「でも、もしサッちゃんが知佳を裏切ったら?」
「そんなことありえないもん……サッちゃんは……絶対にあたしを裏切ったりしないもん……」
「でも、間違いは誰にでもあるでしょ?」
「大丈夫だもん……サッちゃんは間違ったりしないもん……」

 私の言葉に、知佳はムキになったように首を振る。

 これで知佳は完全に私のものだ……。
 知佳は私のことしか見ないし、私のことしか信じない。
 もう知佳は私のことを疑ったりなんて、絶対にしない。

「そうだよね。サッちゃんは絶対に知佳を裏切らないし、知佳は安心してサッちゃんのことを信じていられるんだよね?」
「うん……当たり前じゃない……」
「それじゃあ、合い言葉を言ったら知佳はさっきの怖かったことは忘れて、すっきりした気持ちで目が覚めるよ。知佳は、学校が終わってサッちゃんの部屋に遊びに来たばかり、いいわね?」
「うん……」
「じゃあ……”自分の中の鍵を掛けて、知佳”」

 合い言葉を言うと、知佳の瞳に光が戻って、ぱちぱちっと瞬きをした。

「……あれれ?サッちゃん?」
「どうしたの?知佳?」
「あたし……なんか、夢でも見てたみたいな気がするけど……。覚えてないや、てへへっ」
「なによ、知佳ったら起きたままで寝惚けてんの?」
「なんかぼーっとしちゃってたみたい」
「もう、しっかりしてよね」
「うん、ごめんごめん」

 自分の頭をコンコンと軽く叩きながら、ペロッと舌を出す知佳。
 その様子は、いつもどおりの知佳だった。

 そのまま、しばらくおしゃべりをしていたけど、知佳には普段と特に変わったところはない。





 だけど、それは私がお手洗いに行こうと思って立ち上がったときのことだった。





「……えっ?知佳?」

 私の服の裾を、知佳が固く握りしめていた。

「どこに行くの?サッちゃん?」

 まるで、迷子になった子供のように怯えた表情を浮かべて、知佳が私を見上げていた。
 私の服を掴む、ぎゅっと握った手が小さく震えていた。

「どこって……トイレよ」
「なんだ、トイレかぁ……」

 私の言葉に少し安心したのか、知佳はやっと手を離す。
 でも、まだ心細そうな表情を崩さない。







 そして、結局その日、知佳は自分の部屋に帰らなかった。

 私の部屋に遊びに来て、そのまま泊まっていったことはそれまでも何度かあった。
 だけど、その日の知佳はいつもと違っていた。
 私の側からほとんど離れようとしないし、私がトイレやキッチンの方に立つと、もの凄く不安そうな顔をする。




 それは、お風呂に入る時もそうだった。
 ワンルームマンションのお風呂なんて狭いから、別々に入ろうと言っても知佳は聞かなかった。

 しかたなく、私の体の上に知佳が乗っかるようにして、一緒にお湯に浸かる。
 お湯の中だとそんなに重くないし、女の子同士だから別に恥ずかしくはない。
 だけど、こうやって裸で体を密着させているとやっぱりドキドキしてくる。

 この位置から見ると、洗い髪を軽く結わえた知佳のうなじがよく見える。
 普段は髪を下ろしているからあまり見ることのない知佳のうなじは、これはこれで新鮮な感じがして、ついつい後ろから腕を回して知佳の体を抱きしめると、ピンクに上気したそこにキスしてしまった。

「やんっ、くすぐったいよ、サッちゃん!」

 そう言いながらも、知佳の声は嬉しそうに弾んでいた。
 そして、むしろ背中を押しつけるように体を預けてくる。

「ふふふっ!サッちゃんのおっぱい、柔らかーい」
「もうっ、知佳ったら!」
「きゃはははっ!」

 知佳がぐいぐいと私の胸に背中を押しつけてきて、子供みたいに笑う。
 反対に私がぎゅっと抱きしめると、そのままこっちに頭を凭れさせてきた。

「でもね、こうしてるとすごくホッとするんだよ」

 その言葉通りに、知佳の体から力が抜けていくのがわかる。
 その分、私と知佳の肌の触れあう感触も柔らかくなったように思える。

「体いっぱいにサッちゃんを感じる……。サッちゃんとひとつになったみたい……」
「知佳……」

 安心しきったように体を預けてくる知佳を、優しくそっと抱きしめる。
 本当に、こうしてると私と知佳の境目がなくなっていくみたい。

 温かいお湯の中でこうやって体を密着させているとなんだかふわふわして、このまま深いところまで沈んでいってしまうような錯覚を覚える。

 でも、もう、ひとりじゃない。
 私たちはいつも一緒だ。
 ふたりならどこまでも堕ちていける。
 だから、もう離さないよ、知佳……。






* * *







 お風呂から上がると、ふたり並んでテレビを見ながらもう少しおしゃべりをした。

 そして、当たり前のように一緒にベッドに潜り込む。



「ねえ、エッチしない?」

 そう切り出したのは私の方からだった。

「えっ?」
「私、もっと知佳を感じたい。知佳とひとつになりたい。ふたりでもっといっぱい愛し合いたいの」
「サッちゃん……」

 じっと見つめてそう言うと、恥ずかしそうに頬を赤らめて知佳が視線を逸らせる。
 でも、拒絶する感じじゃない。

「ダメ?」
「……ううん。……いいよ、サッちゃん」

 そう頷いた知佳の、消えちゃいそうな小さい声。
 やっぱり恥ずかしそうにもぞもぞしている。

「でも……あたし、こういうの初めてだから、どうしたらいいのかわからないよ」
「うん、私も初めてだから。でも、大丈夫だよ、きっと」

 そう……私も。
 私だって、女の子同士でこういうことをするのは初めて。
 だけど、きっと大丈夫。

 私は、知佳を抱き寄せると耳許でそっと囁く。

「”自分の中の鍵を開けて、知佳”」
「う……」

 短いうめき声とともに、知佳の体から力が抜けた。

 そのまま、腕の中でぐったりしている知佳に向かって私は囁き続ける。

「知佳はサッちゃんのことが好きでしょ?」
「うん……」
「サッちゃんと一緒にいると幸せでしょ?」
「うん……」
「じゃあ、もっと幸せになれる方法を教えてあげるよ」
「もっと……幸せになれる……方法……」
「そうだよ。知佳が幸せな気持ちになれる、魔法の言葉を決めておこうよ」
「あたしが幸せになれる……魔法の言葉……」
「そうだよ。それはね……サッちゃんにね、”知佳は、ここが感じちゃうの”って言われて体を触られると、どこを触られても知佳はすごく気持ちよくなっちゃうの」
「サッちゃんに……”知佳は、ここが感じちゃうの”って言われて体を触られると……どこを触られても……すごく気持ちよくなっちゃう……」
「それでね、サッちゃんに気持ちよくしてもらうと、知佳はもっともっと幸せに感じるの」
「サッちゃんに気持ちよくしてもらうと……あたしはもっともっと幸せに感じるの……」

 催眠状態にして、私と知佳だけの、魔法の言葉を決める。

 私と一緒にいることで、知佳にはいっぱい幸せを感じて欲しい。
 私と体を重ねて、いっぱい気持ちよくなって欲しい。
 だから、そのための魔法の言葉。

「その魔法の言葉を忘れちゃだめだよ」
「……うん」
「じゃあ……”自分の中の鍵を掛けて、知佳”」
「う……ん……?」

 合い言葉を言うと、知佳が、ふるる、と軽く頭を振った。

「どうしたの、知佳?」
「サッちゃん?……あれ?あたし?」
「なにぼけてるの?始めるわよ」
「え?始めるって、なにを?」
「バカ……エッチしようって、さっき言ったじゃない」
「え?あああっ、そ、そっか、そうだよね!?」
「もうっ、知佳ったら……。ね、まずは、キスしよ」
「う、うん……んっ……」

 知佳の頭を抱いて、その唇を吸う。
 しばらくそうやって唇の感触を楽しんでから、おそるおそる舌先を出すと、知佳の唇が私の舌をちゅっと吸った。

「ん……あふ……。あのね、知佳……」
「んふ……なに?サッちゃん?」
「”知佳は、ここが感じちゃうの”」

 あの言葉を言って、知佳の耳たぶを甘噛みする。

「ひゃうんっ!」

 甘い声を上げて、知佳が体を震わせた。

 次は、耳の裏から首筋を舐めていく。

「それと、ここも。”知佳は、ここが感じちゃうの”。……ぺろっ」
「やんっ!サッちゃぁあん!」

 舌を這わせる動きに合わせて、知佳の体がビクビクッて震えた。
 くすぐったそうだけど、それでいて甘ったるい喘ぎ声が知佳の口から漏れてくる。

 今度は、私が貸してあげた、知佳には少し大きめのTシャツの裾をめくって、その可愛らしいお臍にキスをする。

「ほら、”知佳は、ここが感じちゃうの”。……ちゅっ」
「ひゃうっ!あんっ!」

 そして、Tシャツをもっと捲りあげると、ブラを上側にずらす。

「ほら、ここも。”知佳は、ここが感じちゃうの”。……ちゅっ」

 知佳のその、形のいい胸に吸いついて、もう片方の乳房を掴んで乳首を指先ではじく。
 握った手に吸いつくような、ぷるんとした弾力のある感触が心地いい。

「やあっ、そこぉっ、はぁ、んああああああっ!」

 乳首をチュって吸いながら、もう片方の乳房をふにゃって掴むと、知佳はグッと腰を持ち上げるように体を反らせた。
 そのまま腰を落とすと、今度は大きく息をして喘いでいる。

「ひょっとしてイッちゃった?そんなに感じるの?」
「ううぅ……だってぇ……サッちゃん、すごく上手なんだもん……」
「違うよ。知佳が敏感すぎるのよ」

 本当はそれも違う。
 それは、私がそういう暗示をかけたから。
 私が魔法の言葉を言ってから触ると、どこを触っても知佳は感じてしまう。

 冷静に考えたら、すごくひどいことを私の勝手で知佳にしてしまって、私を好きにさせた。
 それだけでなく、私のものに、私だけのものにした。
 だから、せめて私といることで知佳にはいっぱい幸せになって欲しい。

 それすらも身勝手な考えだというのは、自分でもよくわかってる。
 だけど、私にできることはこれくらいしかないんだから。

「ほら、知佳のここ、こんなに溢れてきちゃってるよ。ショーツがぐっしょぐしょじゃない」

 ズボンをずらしてショーツに手を触れただけでそれとわかるくらいに、知佳のそこはじっとりと濡れていた。
 気のせいか、少し甘酸っぱいような、蒸れたような匂いが漂っている。

「やぁん……そんなこと言われると恥ずかしいよぉ……」
「恥ずかしがらなくてもいいじゃない。私たち、恋人同士なんだから。ほら、”知佳は、ここが感じちゃうの”」
「んはぁあああああっ!」

 魔法の言葉を言って、ショーツの上からワレメをそっと指でなぞると、知佳の体がビクッと跳ねる。
 ただでさえ敏感なところなのに、あの言葉を言って触られるんだから、ものすごく感じてるのに違いない。

「やだ、知佳のクリちゃん、ビンってなって、すごく固そう。もう、えっちなんだから。”ほら、知佳は、ここが感じちゃうの”」
「あふっ、サッちゃん!ひゃうぅううううううううんっ!」

 今度はショーツをちょっとずらして、見るからに赤く膨らんだクリを、魔法の言葉を言ってから指先で軽くつまむ。
 また、知佳の腰がグッと持ち上がってビクビクと震える。
 もう、ショーツは溢れてきたおツユでぐちょぐちょになっていた。

「またイッちゃったんだ?」
「やぁん……だってぇ……。ひゃうん!」

 くたっとなって大きく喘いでいる知佳のアソコのあたりをペロッと舐めると、またヒクッてその体が跳ねる。

「こんなにおツユ溢れさせて、知佳ったらいやらしいんだから」
「もうっ……サッちゃんの意地悪ぅ。……え?やんっ!?」

 トロンと、夢見るようにとろけた表情をしている知佳のズボンを完全に脱がせると、ショーツに手をかけてそのしなやかな足から抜いていく。

「あんっ……サッちゃん!」

 恥ずかしそうに身震いした知佳にかまわずに、次はシャツを脱がせてブラのホックも外した。

「やだ……恥ずかしいよ、サッちゃん」
「なにが恥ずかしいの?女の子同士なんだから、裸を見せてもなにも恥ずかしくないでしょ」
「で、でもぉ……」
「もう、さっき一緒にお風呂に入って裸を見せ合ったばかりじゃないの」

 頬を赤く染めて、恥ずかしそうに体を縮こまらせている知佳を見ていると、ドキドキと胸が高鳴ってくる。
 でも、いやらしいとか、そういうのとは違う気がする。
 女の子の裸を見て、いやらしいとか感じるのは男の人の感覚なのかな?
 ふるふると小さく震えている知佳の裸を見ても、そんなにいやらしいとは感じない。
 ただ、すごく可愛らしくて、そして純粋に愛おしいと思う。

 そんな知佳を誰にも渡したくない。
 今、目の前にある無垢な体を、ずっと私だけのものにしていたい。
 知佳の肌の感触を、私自身の肌でもっといっぱいに感じたい。

 だから……。

「じゃあ、私も……」

 そう言うと、自分のパジャマも、そして、下着も脱ぎ捨てる。

「”自分の中の鍵を開けて、知佳”」
「あ……」

 お互いに裸になって、私はもう一度知佳を催眠状態にする。

「ほら、体を起こして」
「うん……」

 力のない返事をして、知佳がのろのろと体を起こした。

「足を大きく開いてこっちに見せて」
「でも……恥ずかしい……」
「そんなことないよ。サッちゃんには、どんな姿を見られても知佳は恥ずかしくないんだから」
「サッちゃんには……どんな姿を見られても……恥ずかしくない……」
「そうだよ。だから、足を開いて」
「うん……」

 両膝を立てるようにして、知佳が大きく足を開いていく。

 丸見えになった、さっきイッたばかりのアソコは、仄赤く充血して、トロッとおツユが溢れていた。
 さっきよりもずっといやらしい格好をしているのに、ぼんやりとした視線を私の方に向けている。

「ほら、サッちゃんが見てるよ」
「うん……」
「でも、恥ずかしくないでしょ?」
「うん……」
「ね?知佳はサッちゃんに裸を見られても、大切なところを見られても恥ずかしくないんだから。それだけじゃないよ。こうやってサッちゃんに裸を見つめられると、知佳はすごくエッチな気分になってきちゃうの」
「ん……んん……」

 そういうと、虚ろな目をした知佳が困ったように体をもぞもぞさせ始めた。

「ほら、知佳はどんどんエッチな気分になって、アソコがむずむずしてくるよ」
「んんっ……んうぅ……」
「どうしたの?」
「アソコ……熱くて……むずむずして……。んっ……んんっ……」

 囁きながらじっと見つめている私の前で、知佳が腰をくねらせる。
 顔を赤く染めて、もどかしそうにしているのがいじらしい。

「そうだよね。サッちゃんに裸を見つめられると、エッチな気持ちでいっぱいになっていくよ」
「んん……んんんっ……」

 我慢できない様子で、知佳が軽く腰を浮かせた。
 アソコから、とろとろと止めどなくおツユが溢れているのがわかる。
 そんな姿を見ていると、さっき、そういうのを見ていやらしく感じるのは男の人だけだと思った自分が間違っていたことを悟った。
 知佳のそんな格好がいやらしくて、そして可愛らしく思えて、私の体まで火照ってくる。

「じゃあ、横になって」
「うん……」
「合い言葉を言うと、さっきのエッチしてたところから目が覚めるよ。……”自分の中の鍵を掛けて、知佳”」
「んん……サッちゃん?」
「ほら、私も脱いじゃった」
「サッちゃん……」

 笑顔を浮かべて知佳を見つめていると、その顔がみるみる赤くなっていって、悩ましげに体をくねらせ始める。
 その白い肌が紅潮して、はぁはぁと大きく息を吐いているのを見て、それだけ知佳が興奮しているのがわかった。
 
「どうしたの?やっぱり恥ずかしい?」
「いや、そうじゃないんだけど……。すごく体が熱くて……あ、アソコがむずむずして、変な気持ちなの……。やだな……あたし、すごくエッチな気持ちになってる。こんなエッチなの……変だよね?嫌だよね?」

 途切れ途切れの言葉の合間に吐く知佳の吐息が、次第に熱く、激しくなっていく。
 でも、さっきから私も体が火照って、吐く息が熱くなってきてるのを感じていた。

「そんなことないよ。エッチな知佳も、すごく可愛らしいよ」
「本当?」
「うん、本当。それに、私も体が熱くて、エッチな気分になってる」
「サッちゃん……」
「だから知佳、いっぱいエッチなことしようよ。そして、いっぱい気持ちよくなろうよ」

 そう言って、私は思い切り知佳を抱きしめた。
 すると、知佳も力強く抱きしめてくる。

「知佳……知佳っ」
「あん!サッちゃん……んんっ!」

 生まれたままの姿で抱き合って、もう一度唇を重ねる。
 おそるおそる舌を伸ばすと、知佳も舌を絡めてきた。

「んむ……ん、あむ……」
「んふう……んっ……」

 温かくて、弾力のある感触を舌に感じる。
 慣れないディープキスに、まだお互い動きがぎこちないけど、こうやって舌を絡め合うキスは、ちょっといけないことをしているみたい。
 唇を吸うだけよりも、ずっと大人のキスをしている気がして、いつものキスよりもずっと興奮してくる。
 思わず、知佳を抱く腕に力が入る。

「むぐ、れろっ……あふぅ……知佳ぁ……」
「ふううぅ……サッちゃん……」

 絡めていた舌を解いて、互いに見つめ合う。
 頬を赤く染めて湯気が出そうなほどに上気している知佳の目は、トロンと蕩けていた。

 でも、それはきっと私もそう……。

 こうやって、知佳と体を密着させて抱き合っているだけで、全身がじんじんと熱くなってくる。
 頭がボーッとなりそうなほどに顔が火照っているのを感じる。

「すごい……私、体いっぱいで知佳を感じてる」
「うん、あたしもサッちゃんをいっぱい感じてるよ」

 滑らかで温かい知佳の肌の感触を、体全体で貪る。

「……あんっ!」
「……んっ!サッちゃん!」

 互いの胸が擦れ合ったときの甘い刺激に、思わず声を上げてしまう。

 ……だけど、それだけじゃない。

「私、知ってるよ。知佳は、ここが感じちゃうの。……あんっ、んふううううっ!」
「ふぁあああああっ、サッちゃぁああああん!」

 合い言葉を言ってから、足を絡めるようにしてアソコとアソコを擦り合わせると、鼻にかかったような喘ぎ声を上げて、私の腕の中で知佳の体がビクンと震える。

 でも、これ、私も感じちゃう。

「ああっ、すごいっ、これっ、すごい感じちゃうの、知佳ぁっ!」
「あっ、あたしもっ、感じすぎちゃう!あんっ、ふわぁああああっ!」

 腰を押しつけながら敏感な部分を擦ると、全身をビリビリと電気が走る。
 それが気持ちよくて、自然と腰が動いてしまう。

「ああっ、知佳っ、知佳ぁっ!」
「サッちゃん!さっちゃぁあんっ!」

 私たちは、互いの名前を呼びながら腰を動かし続ける。
 だんだん頭の中が白くなっていって、気持ちいいことしか考えられなくなっていく。

 そのまま、私たちは互いに互いを求めるように激しく体を重ね続けたのだった。

 
 


 

 

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