グビリ


 

 



第2話



「イオナ様、朝でございます」

 イオナはそんな声で目覚めた。
 人の声で起こされた事など何年ぶりだろうか。

「ああ…」

 イオナは体を起こすと、昨夜の事を思い返した。

 結局昨夜は三度も体を重ね、いつ眠りについたかも覚えていない。

 イオナはクヒャトリヤを見た。

 起こす前に身だしなみを整えて来たらしい。垢にまみれた体は見る影も無く、服装も正装に着替えられている。
 貴族だと言えば誰もが信じそうな風貌だな、とイオナは思った。

 そもそも何故、先日はあれ程までに汚らしい身なりをしていたのか。
 気にはなったが、いざ質問をしようとすると妙な胸騒ぎを感じてしまい言いだせない。
 いくらか逡巡し、結局言い正す事を諦める事にした。

 代わりに労いの言葉をかける事にした。

「ご苦労。私を起こす前に身だしなみを整えるとは感心だな。」

 イオナはベッドから降りると、そのままクローゼットへ向かった。

「どこへ行かれるおつもりですか?」

 クヒャトリヤが尋ねた。

「剣の鍛錬に行く。これをせねば目が覚めん」

 イオナが当然だ、という様な顔で言うと、クヒャトリヤは渋い顔をしつつ言った。

「あの…。私としては御勧め致しかねます」

「何故だ?理由を言ってみろ」

「何と言いますか…。そのお体で行かれるのですか?」

 はっとしてイオナは自分の体を見た。

 髪には乾いた精液がこびりついているし、体はクヒャトリヤの垢まみれである。

「私としては、まずは湯浴みに行かれるべきかと…」

 イオナは赤面した。

「お前のせいだろう!」



 湯浴みから戻るとイオナは急いで甲冑に着替え始めた。結局体を洗い流し、髪を濡れた布巾で拭く事しか出来なかった。

 今日は剣の鍛錬は無理そうだな…。

 そう思いつつ、イオナは壁にかけてある自身の甲冑を手に取り、並べ始める。


 イオナは自分の甲冑が嫌いだった。

 あまりにも煌びやかで、無駄が多すぎるのだ。

 腰に巻く謎のスカーフや、兜に施された女神の意匠。
 致命的なのは脚部で、太ももが丸見えになっている。急所を隠していないのだ。

 今更ながら寒気がする様な代物だが、わざわざ王族お抱えの職人達がイオナの体型に合わせて作った特注品である。


 これは聖アリエステス王国は歴史的に見ても戦の数が少なく、鎧の形骸化が進んだ結果とも言える。

 もっとも、金属に対し装飾や加工を施す技術は順調に成長し、全身余す所無く何かしらの文様があるのだが。


 ちなみに男の甲冑は真逆で、全身を覆うプレートアーマーである。

 顔すら見えない為、視認で男の兵士の個人を判別する事は不可能に近く、主に兜に彫られた文様で判別する事になる。


 イオナが着替えをしていると、突然扉をノックされた。

「イオナ様」

 クヒャトリヤだ。

「入れ」

 下着姿ではあるが、今更隠す事も無い。

 扉を開け、クヒャトリヤが部屋に入る。
 手に何かしらのメモの様な物を持っている様であった。

「先日、お体のサイズを調べさせて頂きました」

「ああ。それがどうした」

「イオナ様の鎧のサイズを調べさせて頂いた所、少し小さすぎる様です。最近、窮屈に感じてはいませんか」

「そうだな…。確かに思うことはある」

 最近やや胸部が圧迫されている気はしていたが、特に気にする程の物ではないと考えていた。

 近衛隊長に就任してから三年は経つが、その間特に仕立て直した事は無かった。

「後日サイズの調整をさせて頂きますので、取り急ぎ今日は下着を着けずに装着して下さい」

「なっ」

 それでは変態ではないか、とイオナが言おうとした時、

 グビリ、という音がした。

「窮屈な鎧では有事の際に身動きが取りづらくなります。イオナ様の御職務は一瞬の行動の遅れ、判断の誤りで国の命運が変わってしまわれる様な物で御座いましょう。」

 クヒャトリヤの一言ずつ言い聞かせるような説明を聞き、確かにそうだ、とイオナは納得してしまう。

 近衛兵は国全体を支える職務であると言ってもいいのだ。
 下着の一枚や二枚にこだわり、末代まで恥じる様な失態を犯してしまっては困る。

 イオナは下着を脱ぎ、裸体に嵌めるような形で、そのまま甲冑を身に着け始めた。

 ひやりとした感触がイオナの体に伝わった。



 クヒャトリヤと一緒に食堂へ向かうと、既に多数の兵士で一杯だった。

 近衛隊長ともなると、わざわざ他の兵士と食を供にする必要は無い。適当に給仕の兵士にでも命令して部屋に持って来させれば良い。

 だが、職務中はほとんどの兵士が兜を被ってしまう為、食の際でも無ければ顔を見る事が無い。
 醜悪な男の兵士の顔など見たくも無いが、顔を見ずに何日も無機質な兜を被った兵士達に命令し続けていると、まるで人ではない何かに対して指示している様に感じる事がある。
 さすがにイオナも人間である為、そういった感覚は好きではなかった。

 また、自らイオナに世間話などをしてくる者も居ない為、この様な場での会話に耳を傾ける事は、イオナにとって貴重な情報収集の機会でもあった。

「ど、どうぞ」

 給仕の当番である兵士から、料理が載せられた膳を受け取ると、クヒャトリヤと供に席へ着く。
 イオナは常に座る席を決めている為、どれだけ混んでいようがその周囲の席はぽっかりと空間が出来る。

「ん?何だこれは」

 良く見ると、イオナの膳にだけ、小さな小皿が乗っていた。

 小皿には半透明のやや白っぽい液体の様な物が入っている。

 それを見たクヒャトリヤが応えた。

「それはザーメンという調味料ですね。滋養強壮の薬としても用いられております。ドレッシングの様にかけられるとよろしいかと」

「ザーメン…聞いた事が無いな」

「これは東の国で作られる薬ですからね」

 東の国。その名の通り聖アリエステス王国の東に位置する国であった。

 国同士の距離は近いものの、間に流れの速い川がある為に、交流が出来る様になってからまだ20年と経っていない。
 その為、未だ謎が多く、魔法の薬や魔術が存在するとまで言われている。
 尤も、実際はこの様な調味料程度の物である事が多いのだが。

「ふむ、東の国の物であれば知らないのも無理は無いな。…しかし、何故これが私の膳にだけ置かれているのだ」

「それはもちろん兵士からの労いでしょう。ザーメンを口にすると一日疲れを覚える事が無いとも言われます」

「そうか、ならばありがたく頂く事にしよう」


 イオナがザーメンの入った小皿を手に取ろうとした時。


 グビリ、という音がした。


「ただ、ザーメンは精力剤としても用いられておりまして、娼婦が飲んでしまうと日に5回は達しないと体が満足しないのだとか」

「娼婦?ああ…他国のゴミの様な風習か」

 聖アリエステス国には風俗の習慣は無い。
 だが、いわゆる男尊女卑の風習が根強く残る国では、女性が金銭を得る為に体を売ると聞いた事がある。

「これは大変失礼致しました。東の国では未だに文化として残っているそうで。つい人の受け売りのまま話してしまいました」

「そうか、あの国もまだまだ土人の集まりなのだな」

「その様ですね。ああ、そういえば以前聞いた事のある話ですが…」

 外国の話や国の歴史、噂話。クヒャトリヤは次から次へと話を繰り出して来た。

 どの様な人生を送って来たのかは知らないが、とにかく話の引き出しの多い男の様であった。

 やはりイオナがこういった男と親しく話しているのが珍しいのか、何人かの兵士が訝しそうな目で見ていたものの、ついつい聞き入ってしまう。


 イオナはザーメンを大皿の料理に振りかけると、クヒャトリヤの話に耳を傾けつつ食べ始めた。



「本日は午後より月初めの式典が行われます。午前は特に予定は入っておりません」

 必ずしも月初である必要は無いが、月が変わると王族は民衆の前に姿を現さなければならない。
 もちろんイオナも警護を行う。

「ああ、わかった」

 食堂を出ると、クヒャトリヤと別れ、イオナは執務室へ向かった。

 執務室に入る。

 山の様な報告書の中に、特徴的な金髪の頭が見えた。

「おはよう、アシュリー」

「おはようございます。イオナ隊長」

 アシュリー近衛副隊長はイオナにとって最も頼れる部下であった。

 今日の様に執務室に赴く時間があるのは珍しい方で、大体は式典や貴族の警護で一日が終わる。

 そういった際、日々の雑務はアシュリーに任せる形となるのだが、仕事でミスをした事はイオナが覚えている限り一度としてない。

 女王にとっての宰相はこの様なものなのだろうな、とイオナは思った。


 そして何より容姿が良い。中性的な顔立ちや意志の強そうな青い瞳から、イオナは自身と通じる美しさを感じていた。

 イオナは個人の能力はもちろんの事、容姿という点も非常に重視している。

 極端な話、以前まで自身の世話係であったフィオであっても、容姿がイオナの目に適わなければ話しかける事すら許さなかったであろう。
 悩みを打ち明けるなど以ての外だ。


 どれだけ勤勉で能力が高くても、女性で無ければある程度までしか出世する事が出来ず。

 更に容姿が良くなければ頂上へは登り詰める事が出来ない。

 聖アリエステスという国では疑問さえ抱く事の無い常識であった。



 反面、イオナはクヒャトリヤという男を世話係として認めてしまっている自身について理解出来ないでいた。

 あの様な醜悪な人間を自分の側に置くなどありえない話だが、先日の会話を思い返すと仕方が無い事の様にも思える。

 そして、事実信頼の様な感情も抱いてしまっている。

 今までの常識と、クヒャトリヤを許している事の矛盾。
 そして、昨夜三度も行ってしまった行為。


 その時だった。

「っ…!」

「どうしたのですが、隊長」

 アシュリーは突然立ち上がったイオナに対し、怪訝そうな顔でそう言った。

「…いや、何でも無い。…そうだな、少し城内を警備してくる」

「…はい。承知しました」

「最近は城内を見回れなかったものでな。たまには抜き打ちで兵士の怠慢ぶりを注意せねばならん」

「あはは、それは恐ろしいですね。行ってらっしゃいませ」

 アシュリーに見送られると、イオナは部屋を出た。



 イオナは早足で廊下を歩いていた。

「はぁ…。はぁ…」

 イオナは決して城内の見回りをしようと考えてはいなかった。

 先ほど脳裏でクヒャトリヤとの行為を思い浮かべた途端、急に体が疼きだしたのだ。

 昨夜、初めて男の物を受け入れた瞬間の、心が満たされた様な感覚。それが急激な渇望としてイオナを襲った。


 一体どうしたというのか。

 イオナが自分の心の中で問いてみると、今朝食堂で交わしたある会話が頭に浮かんだ。


『ザーメンは精力剤としても用いられておりまして、娼婦が飲んでしまうと日に5回は達しないと体が満足しないんだとか』

 まさか、あのザーメンのせいなのか。
 自分は娼婦ではない、イオナはそう言い聞かせたが、しかしこの発情の原因はこれ以外に考えられなかった。


 口淫の際に、薄明かりで見えたクヒャトリヤの陰茎。イオナの脳裏はその光景ですぐに頭でいっぱいになった。

 満たされたい。またアレが欲しい。

 イオナは自分が無意識の内に舌を動かしている事に気付いた。まるで咥内の物を舐めるかの様に。


 自分は娼婦などではない!

 そう自分に再度言い聞かせても、脳裏には昨夜の自分の発言が浮かび上がってくる。


『ああっ、もっと、もっとだ。んっ、んっ、んんっ!クヒャトリヤ、もっと深く突いてくれ!』

「ちっ」

 イオナは思わず舌打ちした。


 こんな馬鹿げた話があってたまるか。

 自分は先日まで男を知らなかったのだ。今日を耐え切ればそれで仕舞い。ただそれだけの話だ。

 イオナは自分に言い聞かせつつも、無意識のうちに人気の無い所を探し求めていた。



 城内は大まかにではあるが、城、王宮、教会、広場に分ける事が出来、それを城壁によって囲われている形となっている。

 城自体は上から見ると、アルファベットのUをやや横に広げた様な形となっている。そして城に抱かれる様な形で王宮がすっぽりと中央に収まっている。

 何故この様な形をしているかと言うと、民衆に広く声を届ける為である。
 王宮の最上階は大きく開けており、式典等の際にはそこで女王や王女が演説をする事がある。

 その際、U字の城の壁に声が反響し、遠くまで声が届くという仕組みだ。


 城から少し上に広場があり、その左手にやや小規模ではあるが教会が立っている。

 つまり、城の前面に主要な施設が集中している為に、背面、つまりU字の外側の警備は手薄である。

 U字の最下部には兵士の詰め所や城の裏口がある為難しいが、両側面には何も無く、またやや城が湾曲している事もあり、遠くから見られる心配もない。


 右側の城と城壁の間。


 警備には予め巡回する順序が決められている。今から行けば30分程度は誰も居ない時間が出来るはずであった。


 しかし…

 そこへ行く為にはどうしても広場を通り抜けねばならなかった。多数の市民が居る広場に。
 広場を迂回して避けると大幅に時間がかかってしまう上に、警備中の兵士と顔を合わせてしまう危険性がある。
 どちらの選択であってもイオナには過酷な試練となる。


 イオナは既に限界を迎えかけていた。

 先ほどから何度か意識が飛ぶ事があった。
 意識が飛んだ後は全く体の制御が効かず、自分が何をしているのかも分からない。

 無意識のうちに鎧のすき間から秘所に手を入れそうになっていた事もあった。
 しかし、イオナの体型に合わせて作られた甲冑は、まるで貞操帯の様に指を通さなかった。

 広場には多数の市民が居るが、大人は女性しか居ない事が幸いした。
 もしも男が居れば、意識が飛んだ瞬間に男に跨がりだすかもしれない。

 イオナは広場を歩き始めた。

 いつもの事であるが、そばを通るだけで誰もがイオナの方を向く。
 誰もが浮かべる羨望と畏怖の眼差し。怠慢を嫌うイオナは職務中に市民と会話をする事は決して無い。
 それを知っている市民は挨拶すらかける事はしない。それが今は幸いした。

 歯を食いしばり、出来る限り平静を装いつつ歩く。

 広場の中央にある噴水の横を通りかかった時だった。

「あ、イオナ様だ!」

 急に幼い子供特有の甲高い声に呼び止められた。
 普段であれば無視をするだけであるが、今回は勝手が違った。

 イオナの周囲を子供達が取り囲み始めた為だ。

「みんなー、イオナ様をつかまえろー」

 恐らくリーダーであると思わしき子供が、舌足らずな声で叫んだ。

 日頃から無視をし続けていた為に、子供ながらに考えた作戦らしい。

 なぜ今日に限って!

 イオナは絶望した。

 子供達はただ取り囲むだけでなく、まるで捕まえる様にイオナの足を掴んできた。

 一人の子供にむき出しになっている太ももを触られる。

「あっ…」

 刺激を求めているイオナの体は、ただそれだけで快感を生じてしまう。
 再び官能の波が強くなる。

「や、やめろ…」

 早くこの場を切り抜けないと、周りの市民に不審に思われてしまう。

 そう考えている側で、また昨夜のクヒャトリヤとの営みが再び脳裏に蘇り、またイオナは意識が途切れ始めた。

 最早これまでか。

 イオナがそう思った時の事だった。
 ふとクヒャトリヤのある言葉が頭に蘇った。


『女性は男性に胸を強く揉まれると、それだけで達してしまうのですよ』


 イオナははっとした。

 いや、まさか、こんな子供に?
 イオナは一瞬でも考えた自分自身に驚いた。

 だが、恐らく可能だ。


 足元にすがりつく子供達を見る。
 確かに何人か男児が居る様だった。今目の前で足を触っている子供も。


 逡巡は一瞬で振り切れた。


 これだけの子供がいれば、壁になって周りから見えないだろう。

 そう判断した瞬間、イオナは素早くしゃがみ、腋の近くにある皮の留め具を外した。

 胸の甲冑の前面が開き、イオナの乳房がこぼれ出る。

 あっけに取られた様に動かなくなった男児の手を取り、思いきり自身の胸を揉ませた。

 その瞬間、イオナに強力な快感の波が襲った。



「ああんっ」


 イオナの口から思わず嬌声が漏れた。




「あの、うちの子供が何かしましたか?」

 後ろから母親らしき者の声が聞こえた。
 イオナははっとした。一瞬だけ意識を失っていた様だ。

「な、なんでもない!」


 イオナは振り返る事無く答えると、急いで胸の甲冑を手で押さえ、足早にその場を去った。

 いや、振り返る事が出来なかったのだ。

 幼年達の前で乳をさらけ出し、あろう事に無理矢理揉ませた。

 国の戦女神とまで言われたイオナは、まるで子供の様に嗚咽を漏らしていた。



 その後は半ば駆け足で外壁へ向かった。

 最中自身に言い聞かせる。

 大丈夫。大丈夫だ。

 噴水の近くであった事が幸いした。自分の嬌声は恐らく周りには聞こえなかったはずだ。

 聞こえたのは子供達だけ。背後からでは鎧を脱いでいた姿は見えないはずだ。



 一度胸を揉まれただけでは足りなかったらしく、右の外壁に着く頃にはまた発作的な発情が始まっていた。

 城の外壁に腰を下ろすと、引き剥がす様に腰の留め具を外す。

 甲冑が外れると共に、むわっとした臭いが広がった。


 イオナは自慰をした事が無い訳では無い。むしろ成人を迎える以前から自然と覚え、それからは定期的に行っていた。

 ただし、浅ましい人間の本能だと自覚しつつ事務的に行っていた。

 淫蕩にふける時は主に女性の事を考える事が多い。それも美しい女性を。

 聖アリエステス王国において女性が女性を慕う事はそれほど珍しい物ではなく、むしろイオナの士官学校時代はその様な考え方の者が多かった様に思う。
 イオナ自身、見知らぬ女性に告白された事は何度もあった。

 秘所に手を当て、クリトリスを擦り始める。

 自然と思い浮かべた情景は、王女がクヒャトリヤによって犯される光景であった。

 聖アリエステス王国で最も美しいと言われる女性。
 それが垢にまみれた醜悪な男に蹂躙されていく。
 その光景は思い浮かべるだけで背徳的に感じられた。

 王女も最初は嫌がるが、しかしすぐに求めだす様になる。
 そしてついには蛙の様に股を開き、クヒャトリヤに媚態を示すのだ。

 淫欲に飲まれたイオナには、まるでそれが実際の光景を見たかの様に、脳裏にありありと思い浮かべる事が出来た。

 快感の波が段々と強くなる。

 そして最後にはクヒャトリヤの体にしがみつき、一滴として逃すまいと精を体に受け入れる。

 そこまで夢想した所で、イオナの快楽は最高潮に達した。

「あ、ああんっ!」

 ぷしゃぁぁぁっ。

 イオナの秘所からまるで尿の様に液体が飛び出し、外壁と地面を濡らした。

 初めての潮吹きだった。


「はあ…。はあ…」

 あまりの快感に、すぐには体が動かない。

 淫蕩に溺れた思考の中、ふとイオナは思った。

 そう言えば、キスをまだした事がない。どの様な感覚なのだろうか。

 …あいつに頼めばしてくれるだろうか。
 そうイオナ自身に問うた所で、もちろん分かるはずも無かった。



 左の外壁には教会の前を通る必要がある。

 盛大にオーガズムを迎えた事もあってか、イオナの発情はかなり収まっていた。

 イオナは教会を訪ねる事にした。



「あ、イオナ様ではありませんか。お久しぶりです」

 イオナが教会の前に立つと、早速顔なじみのシスターが出迎えてくれた。

「おお、ユーリエか。元気にしていたか?」

 ユーリエは二十歳をすぎたばかりではあるが、かなり長くこの教会に勤めているシスターだ。

 明るく面倒見も良い為、他のシスターや教会に訪れる信者達からの人気は高い。

「はい、おかげさまで。今日は何か御用でしょうか?」


「実はフィオの事について聞きに来た。最近フィオが教会に来た事はあるか?」

 敬虔なアリエステス教の信者でもあるフィオの事なので、帰郷前に教会へ訪れた可能性がある。イオナはそう考えていた。


「フィオ様…ですか。最近は一度も来ておりません。てっきりお仕事の方がお忙しいのかと思っておりましたが…。フィオ様がどうかされたのですか?」

 イオナは一瞬躊躇したものの、隠し通せる物ではないと考え、結局打ち明ける事にした。

「実はな…」


「ええっ、フィオ様がそんな…」

 さすがのユーリエも言葉に詰まる様であった。しかし、すぐに確信に満ちた顔で言った。

「あれだけイオナ様を慕っていらしたのですから、きっと訳があるに違いありませんわ」

「そう言ってもらえると助かる。もしもフィオについて何か話を聞いたら私に伝えて欲しい」

「もちろんですわ。…あの、フィオ様がおられないという事は、今世話係は誰がなさっているのでしょうか?」

「今は…、何と言うか、そうだな、クヒャトリヤというやつが代わりでいる」

「えっ、クヒャトリヤって、男の方ですよね?」

「なに、知っているのか」

「ええ。3、4ヶ月ほど前から教会には来られていますわ。ただ、一時期は毎日の様に来られていましたが、最近はほとんど来ておりません」

 イオナは驚いた。クヒャトリヤも敬虔なアリエステス教の信者であったというのか。

 実際の所、アリエステス教は女性を崇める宗教である為、あまり男性の信仰は高くない。もしクヒャトリヤの様な男が教会を訪れていれば。かなり目立っていたはずだ。


 ユーリエは続けて、先ほどとはやや小さめの声で言った。

「正直申し上げて驚きですわ。あまりこういうのも良くないのかも知れませんが、その、イオナ様とはあまりにも不釣り合いというか…」

 ユーリエのやや嫌悪を含んだ言い方から、やはりクヒャトリヤという男の、周りからの評価は良くないのだとイオナは感じた。

「私もそう思う。恐らく何かの間違いだろうが。申し訳ないが、くれぐれもこの話は内密にしてくれると助かる。フィオの件も含めて」

「もちろんですわ」

 ユーリエの最も良い所は、人を困らせる様な事は絶対にしない事だ。イオナがフィオの次に信用している人間であった。

「ありがとう。ではな」

「はい。お仕事頑張って下さい」

 イオナはその言葉を聞いて、急に罪悪感に苛まれた。

 思い出してしまったのだ。

 自分は仕事をする訳ではなく、これから外で自慰をしに行くのだと。



 城がそれほど大きい訳では無い事もあってか、城壁と城の外壁の間は、狭い所では人が3、4人通るのがやっとである。

 イオナはそこで腰掛ける事にした。

「ふぅ…」

 腰の留め具を外すと、鎧が外れ、イオナの性器が外気に晒される。


 自分は何とバカな事をしているのだろうか、とイオナは思った。
 今まで職務を一時たりとも放棄した事は無く、それが誇りでもあった。
 近衛隊長として、また聖アリエステス王国の象徴として。どちらも完璧にこなしている自負を持っていた。

 それが自慰をする為に、それも丸一日、周囲を偽ってまで放棄しているのである。イオナはこれ程までに自分を惨めに思う事は無かった。

 しかし一旦発情すると手がつけられないのも事実である。公衆の面前で痴態を晒す訳にも行かない。
 これもやや迂遠ではあるが、職務の一環。イオナはそう割り切り、出来る限り速やかに終わらせる様に勤めると決心した。


 城壁からは微かにではあるが、人の声や町のざわめきが聞こえる。

 ほんの十数メートル先には、今も多数の国民が生活をしているのだろう。


 自分がすぐ近くで痴態を晒している事など想像もしていないだろう、そう考えた途端、何故かイオナはまた体が疼き始めるのを感じた。

 イオナには知る由も無いが、体が露出による快感という物を覚え始めていた。

 以前イオナが湯浴みをしている事を知らず、フィオが浴室の掃除をする為に入って来た事がある。
 フィオは一瞬イオナの裸体を見ただけで顔が真っ赤になり、そのまま逃げる様に出て行ってしまった。あれは可笑しかった。

 もしも民衆が自分の裸体を見たらどう言った反応を示すのだろうか。

 もちろん実際にしようとは思わないが、男達が無様な争いをし始める様子を考えるだけで少し楽しかった。
 イオナがこの様な所で自慰をしていると知ったら、どれだけの男が駆けつけるだろうか。

 考えてみれば国中の男がイオナを抱く事を夢見つつ、いや死ぬまでに指一本だけでも触れたいと思いつつ生活をしているのだ。

 イオナは自分が王宮の最上階で、国中の男に裸体を披露する様子を想像した。
 国中の百万を超える男達が、イオナの体を一瞬たりとも逃さまいと凝視するのだろう。そして口々に乳首の形がどうであったのだとか、そういった仕様も無い話を交わし、家で自慰をするのだ。

 イオナは快楽の波が高まるのを感じた。

 秘所の形をなぞるかの様に撫で、クリトリスを弄る。
 この秘所の形を生涯想像し続けている男が星の数ほどいるのだ。

 そう考えると自分の自慰という行為はどれだけ罪深い行為なのか。

 最後に爪が陰核を引っ掻いた時、イオナは快感が上り詰める感覚を感じ、そのまま達した。

「あぁぁ!…ん…」

 また嬌声を抑える事が出来なかった。周りに誰も居ないとは言え少し恥ずかしい。

 あと2回。まだ兵士が見回りにくるまで40分以上はある。

 次は何にしようか。

 また秘所に手を当て、快感の波が訪れるのを待っているその時の事だった。



「何をしている」



 突然甲冑を着た兵士が現れた。

「!!」

 イオナは咄嗟に立ち上がり、相手を見た。

 男はかなりの長身だった。

 鎧はフルプレートで顔まで覆われている為、誰であるかは兜の文様でしか判別出来ない。
 ただ、逆に言えば全ての兵士の文様を覚えているイオナにとっては顔が見えているも当然である。

 しかし、男の被っている兜には文様は無かった。

 こいつは一体何者だ。
 仮に兵士に見つかっても脅して口を封じてしまえば良いとイオナは考えていた。
 だが、誰かが分からなければどうしようもない。イオナは冷汗が流れるのを感じた。

 男はゆっくりと、そして嫌味たらしく喋りだした。

「これはこれは。イオナ隊長ではありませんか。ここで何をしていらっしゃったのですか?」

 声も兜越しではくぐもってしまい、誰なのかは分からなかった。

「……」

 ここで何を弁明した所で意味が無い。イオナはただ黙って正体不明の兵士を睨んだ。

 男はイオナが返答をしない様子を見て、嘲笑の声を上げた後、再び喋り始めた。

「ふん。まさか隊長が朝っぱらから、それも職務中に自慰に耽る様な人だとは思っていませんでしたよ」

 弁明の余地もない事実である。イオナは悔しさと羞恥でどうにかなりそうだった。

「こういう時、兵士はどういった罰を受けるのでしたっけ?」

「……」


 怠惰を嫌うイオナは、怠けている兵士に対して辱めに近い懲罰を加えていた。

 問いに答える事など、イオナには到底出来ない。

 男は露骨に失望を露わにした声音で言った。


「そうですか、それでは、今から他の兵士を呼んできましょうか。変質者が居ると言ってね」


「ま、まて!わ、分かった、言えば良いのだろう!」

 男はわざとらしくゆっくりと立ち止まり、イオナの言葉を待った。


「兵士は…兵士は、自分が行った行為を出来る限り事細かに声に出し、反省しなければならない」


「その後にそれに応じた処罰ですね。まあ処罰の内容は私が考えるとして、まずは反省からです」

 イオナは震える声で言った。


「わ、私は…」

「声が小さい!」


「私は!その、情欲に負けっ、あろう事か職務中に、外でっ、じ、自慰をしておりました!」


「それで?気持ち良かったのですか?」


 多数の兵士の前に立たせ、大声で行為を説明させ、嘲笑うかの様に質問を重ねて行く。
 イオナが普段行っているやり方であった。


「はい…。とても気持ち良かったです…」


「そうですか。それは良かったですね。何故自慰をしようとなどと?」


「朝食に摂ったザーメンのせいで、その、体の疼きが止まらなくなった為です」


「あはははは!」

 男はこらえきれずに笑い転げた。


 イオナは顔を赤くさせ怒鳴った。

「何がおかしい!」


「いや、何でもありませんよ。…それで、普段から怠慢に厳しいイオナ隊長が、まさか自慰をする為に職務放棄をしていたと。一兵士である私に何か言うべきではありませんか?」

「……」

 イオナは意を決し、深く頭を下げた。

「大変…申し訳ありませんでした…」


「ふむ、まあ良いでしょう。次は処罰ですが…」

「まあ男女であればこれが無難な所でしょうか。変態イオナ隊長にとってはご褒美になるかもしれませんが」


 男はそう言うと、腰に纏っている鎧を外し、腰のベルトを外した。
 ズボンを脱ぐと男根が露になる。そしてそのまま足元を指差した。

 既に経験のあるイオナは、それが口淫を促しているのだと理解出来た。


 ふん、クヒャトリヤよりも小さい男が。
 男の男根を心の中で嘲笑う事が、今イオナに出来る精一杯の抵抗であった。


 昨夜クヒャトリヤに教えられた通りに男の足下に跪き、陰茎を口に含むと思い切り息を吸う。
 頬が痩け、唇が大きく前に突き出される。

 その途端男が笑い出した。

「あっはっは。イオナ隊長はやはり変態だ。あっはっはっは」

 お前がしろと命令したくせに。そう思っていてもイオナの心は悔しさで満たされた。
 自分の目から涙が溢れ出すのをイオナは感じた。


 ぎゅむっ。ぎゅむっ。


 イオナはただ何も考えず、頭を動かす事だけに集中する事にした。

「さすが隊長。お上手だ。娼婦の才能がありますよ」

 男から侮蔑の言葉を投げられても、イオナはひたすら絶える事しか出来ない。

 無心で顔を前後に動かす。口を出来る限り締め付け、舌で鬼頭を舐めるのも忘れない。

 クヒャトリヤに対しての時は気付かなかったが、たまに男根が痙攣をしていて、その感覚が早まっているのが分かった。

 それに合わせる様にストロークを少しずつ早めて行く。

 痙攣が一瞬止まったかに思われた瞬間、先から精液が勢いよく飛び出して来た。

 思わず頭を引きそうになったが、昨夜の教えを思い出し咥え続ける。

 どくっ。どくっ。

 一度味わった事のある生臭い味がイオナの咥内に広がる。

 それを全てイオナは飲み干すと、ようやく陰茎から口を離した。

「おや、私は精液を飲めとは行っていませんよ?どうして飲んだのですか?」


 イオナは羞恥を覚えた。

「う、うるさい」


 しかしこれで約束は果たした。
 その一瞬の気のゆるみを突くかの様に、男の手が伸びた。

「おや、イオナ隊長、これは何ですか」

 腋の近くにある鎧の留め具を外され、再び乳房が露になる。

「なっ」

 素早く男はイオナの胸を掴んだ。

 揉まれる。イオナは訪れる快楽の波に備えた。

 ところが、男は少し胸の感触を確かめるかの様に触れただけで、すぐに手を離してしまった。

「な、なんだ」

「いや、何でもありませんよ。ただ折角ですから、最後にイオナ隊長の胸を触っておこうかと思いまして」

 意地悪く男は言う。

 しかし、イオナはそれを聞く余裕は無かった。

 胸を触られた事で再び官能の波が訪れた為だ。
 自分の秘所が再び愛液で満たされて行くのを感じる。

 今度は脳裏に昨夜の行為が浮かぶ事は無かった。

 そう。
 朝から追い求め続けた男根が目の前にあるのだ。


「イオナ隊長、どうされたのですか?私の股間を凝視しておりますが」


 男は明らかに事情を知っている様子で、あえて嫌みたらしく聞いている様だった。


「まあ、今日はこれにて失礼させて頂きますかね。お疲れさまです」

「ま、待ってくれ」

「どうしたのですか?何かして欲しいのでしたらちゃんと言わないと」

「わ、私とセックスをしてくれ」

「セックスなら先ほどしたでしょう。フェラチオも立派なセックスですよ」

「くっ…」

 イオナは耐えるように俯いた。

「もっとはっきり言わないと。ほら、何をして欲しいんですか?」

 イオナに残された理性は一瞬だけ躊躇を産んだが、ただそれだけだった。
 半ば悲鳴を上げるかの様にイオナは言った。

「わ、私の、ま、まんこに、お前のちんこをいれてくれっ」

「あはははは!」

「では、自分は変態であると認めて下さい。浅ましく、淫乱な娼婦の様な女であるとね」

「私はっ、どうしようも無い変態でっ、浅ましい淫乱な売女だっ!だから頼む!」

「頼む?」

 イオナは壁に手を当て、男が挿れやすいように尻を高く上げた。

「お願いします!あなたのちんこをここに挿れて下さい!」

「ふん、最初からそう言えばいいものを」

 悔しい。何故こんな男に媚びなければならないのだ。
 イオナの目から再び涙がこぼれる。

 しかし、そんなイオナの感情も次の瞬間にはかき消された。


 ずぶり。


「ああんっ」

 イオナの口から嬌声が漏れる。

 辺り一面に光が溢れる様に感じた。
 今日一日感じていた渇望。心の虚無感が喜びで満たされる。


 男は腰を前後に振り始めた。

 イオナもそれに合わせて腰を動かす。

 ぱんっ。ぱんっ。

「ああっ!あっ、あっ、良い、良いぞ、もっとだ!」


 先ほどまでの恥辱に耐える表情は見る影も無い。
 幸せそうな笑みを浮かべ、一突きされるたびに嬉しそうに腰をひねる様子は、快楽に溺れた痴女そのものであった。

 ぱんっ。ぱんっ。ぱんっ。

 何度も肉と肉がぶつかり合う音が繰り返される。

 それは少しずつ早められて行き、そして突然止まった。

 最後に男が深く腰を落とした瞬間、イオナの待ち望んでいた瞬間が訪れた。

 どくっ。どくっ。

 膣内に精液を注がれると共に、イオナの体に強大な快楽の波が襲った。

「あああああんっ!」

 一際大きな声で嬌声を上げる。

 今日4度目のオルガスムスであった。




 男は鎧を着直すと、俯いたまま動かないイオナを一瞥し言った。

「ふん。まあこれで今回は見逃して差し上げましょう。これに懲りたら職務放棄は止める事です、淫乱イオナ隊長」


 侮蔑の言葉を投げられてもイオナは俯いたままであった。

 しかし、やがてぼそりと一言、囁く様に呟いた。


「あと一回…」


「なに?」

「あと一回だけなんだ!頼む、もう一度だけ頼む!」

 イオナは必死に男に縋り付いた。
 そして手で無理矢理鎧の留め具を外そうと試み始めた。

「っ!」

 男はイオナを無理矢理引き剥がし、そのまま突き飛ばした。

「このビッチが!一人でしてろ!」

 男は声を荒げ、吐き捨てる様に言うと、そのまま振り返る事無く広場のある方向へ去って行った。


「……」


「はっ、はっ、はっ」

 一人になったイオナは四つん這いになると、精液と愛液にまみれた自分の股間を弄り始めた。

 そこには普段の誇り高さなど微塵も存在しなかった。





 翌日の食堂。

 いつもの喧騒の中、イオナとクヒャトリヤは配給待ちの列に並んでいた。

「しかしまあ、イオナ様もずいぶんと大胆といいますか…」

 一昨日にクヒャトリヤとした、『自慰をした際には教える』という約束を違える事無く、イオナは先日の行為を包み隠さず告白した。

 ただし、話した内容は自分がいつどこで自慰をしたか、という話だけであり、子供や正体不明の兵士との行為は話していない。

「うるさい」

 イオナはそう答える事しか出来なかった。

 先日は5度達した瞬間、ぴたりと発情が治まった。
 汚れた身なりを整えるのは大変ではあったが、無事、残りの執務を問題なくこなす事が出来た。

 しかし、とイオナは思う。

 先日の兵士の正体は未だに不明であった。時間帯などから配属された兵士を調べてみたものの、明らかに背格好の違う小柄な兵士であった。

 一度その兵士に問いつめてみれば良いのかもしれないが、やはり怪しまれる可能性が高い。やぶ蛇になる可能性も考え、イオナはこの件の事をこれ以上探るのは止める事にした。

 そもそも、イオナと性行為をしたと言いふらした所で誰も信じはしまい。



 クヒャトリヤは珍しく悪戯心に満ちた顔で、イオナにしか聞こえない様にして言った。

「いやはや、イオナ様もほんの2日前まで処女であったとは思えない程淫乱になられましたな。目覚ましい成長ぶりです。これはもう私が教える必要は無さそうですな」

「…そ、それは…それは困る…」

「冗談ですよ。恐らく運が悪いと申しますか、ザーメンと体の相性が著しく良かったのでしょう。今日もまた、夜に伺わせて頂きます」

「ほ、本当か!」

 イオナは一瞬顔が綻んだものの、周囲に多数の兵士がいる事を思い出し、すぐに普段の無表情に戻した。



「あ、それよりもだ。昨日は何故来てくれなかったのだ。私は…」

 一晩中待ったのだぞ、と言いかけ、イオナは慌てて口を噤んだ。

「大変申し訳ありませんが、昨日は急務が入ってしまいまして…」

 そうクヒャトリヤが弁明しようとする所で、イオナとクヒャトリヤの順番になった。

「どうぞ」

 料理の乗った膳が手渡される。

 と、イオナはまた先日と同じ半透明の液体が小皿に入れられている事に気付いた。イオナは思わず苦笑した。

「またザーメンか…。こいつには本当に困らされたな」

 さすがに二の轍は踏まない。

 イオナがそう言おうとした時。



 グビリ、という音がした。

「イオナ様、それはザーメンではありません。ただの精液ですよ。ご安心してお召し上がり下さい」

「なんだ、そうなのか」

 精液は2度飲んだ事があるが、何ら問題は無かった。

 イオナは席に着いた後、小皿に入った精液を料理に振りまくと、満足そうに食べ始めた。

 
 
< 続く >


 

 

戻る