黄金の日々


 

 



第2部 第19話 饗宴




 クラウディアの報告にもあったように、テオドーラは現在のイストリア王の妹にあたる。
 成人の後にモイーシア王の妃となった彼女は、両国の同盟の象徴ともいえる存在だった。

 クラウディアの報告によると、どうやらシトリーたちがアルドゥヌムの都を包囲する前にモイーシア王によって逃がされていたらしい。
 モイーシア王と、18才と16才のふたりの王子はアナトが都を破壊したときに死亡していた。
 事前に都を脱出していたテオドーラは気丈にも実家へ帰ることなく、落ち延びた先でモイーシアの民を励まし、悪魔への抵抗運動が沸き起こると王家のシンボルとして担ぎ上げられていたのだった。

 しかし、シトリーはそれ以前にその王妃がなぜ重要なのかがわかっていない。

「モイーシアの王妃を捕らえたのはいいとして、それがどうしたんだ?」
「はい。あのイストリアが用いる全てのバリアーの源になっているのは、都のアフラに安置されている聖なる石です。そして、その聖なる石は、その時のイストリア王家の未婚の女子で聖なる力が最も強い者が巫女姫として管理しています。おそらくは、巫女姫を通じてその聖なる石の力を各地の神官へと送っているのでしょう。つまり、あのバリアーを司っているのはイストリアの巫女姫なのです。そして、現在は今のイストリア王の第二王女であるステファニアが巫女姫を務めているのですが、今から先々代の巫女姫がテオドーラだったのです」
「なんだって? ……なるほど、わかったぞ。つまりその女は、あのバリアーのことならなんでも知っているというわけだな」
「ご明察でございます。テオドーラの話を聞くことができれば、あのバリアーを破るのに役立つのではないかというのがわたくしの考えです」
「とはいえ、その女が簡単に口を割るとも思えないしな。なるほど、それで僕の出番というわけだな?」
「恐れ入りますわ。まさにそのとおりでございます、シトリー様」
「いや、話はわかった。じゃあ、さっそく取りかかるぞ。その女のところに連れて行ってくれ」
「かしこまりました」

 シトリーは直ちに、クラウディアの案内でテオドーラが囚われている部屋へと向かった。






* * *







 テオドーラは、牢獄ではなく城塞内の一室に幽閉されていた。

「さあ、シトリー様、どうぞこちらへ……」
「なるほど、こいつが……」
「はい。この国の王妃、テオドーラですわ。……ご機嫌麗しゅう、テオドーラ様。こちらにいらっしゃるのがシトリー様、わたくしのご主人様ですわ」

 天蓋付きのベッドの上に座り、鎖で片手を柱に繋がれた女性を、まるで友人同士の仲を取り持ちでもするかのようにクラウディアがシトリーに引き合わせる。
 囚われの王妃は、子供を二人産み、40歳を過ぎているはずだというのに、軽くウェーブした淡く輝く金髪を結い上げ、端正に整ったその顔は十分に美しかった。

 しかし、その意志の強そうな目をきつく吊り上げて、テオドーラはクラウディアを睨みつけた。

「クラウディア姫、歴代のヘルウェティアの王の中でも最高の魔導士と謳われた貴女ほどの人が悪魔の手先に堕ちるなんて。亡くなられたご両親が見たらきっとお嘆きになるわ」
「いえ、父も母もきっと褒めてくださるでしょう。よい主に仕えたと。なにしろ、この世界でシトリー様以上のご主人様などおりませんもの」
「クラウディア姫っ、なんということをッ! 目を覚ますのよっ、我が生家であるイストリアと貴女の国ヘルウェティア、この2国は古よりその魔法の業をもってこの地上世界を悪魔どもから護ることを天界から任されていたのではないのですか!?」
「それは、神聖王国と呼ばれて天界との繋がりの深いイストリアはそうかもしれませんが、我がヘルウェティアは天界に対してなにも負うものはありませんわ」

 テオドーラに詰られ、叱責されても、クラウディアは平然としてその言葉を受け流している。
 そんな、生まれた国は異なるがともに古き王国の血筋に生まれたふたりの王女の、火花を散らすような会話を見たシトリーが、割って入ってクラウディアに尋ねた。

「クラウディア、おまえ、こいつのことをよく知ってるみたいだな?」
「はい。もちろん、ヘルウェティアにもイストリアの教会がありましたし、両国とも歴史の古い国ですから。かねてより、王家同士の交流は盛んでした。それに、モイーシアも我が国の隣国ではありますし、この方がモイーシアに嫁いでからも何度もお会いする機会がありましたので」
「なるほどな。では、さっそく本題に入るとするか」
「さようでございますね。……テオドーラ様、わたくしはそんな無駄話をしにあなたのところへ来たのではありません。かつて巫女姫だったあなたに、城にバリアーを張るあの魔法を破る術を聞きに来たんですの」
「なにを馬鹿な……。悪魔の手先になった貴女にそんなことを教えるとでも思っているの?」
「もちろん、素直に話していただけるとは誰も思っておりませんわ。ですから、こうしてシトリー様にお越しいただいたのですよ。……さあ、シトリー様」

 クラウディアに促されて、シトリーがテオドーラの前に立つ。

「テオドーラといったな、僕の名はシトリー。こいつらの主人をやっている悪魔だ」
「では……おまえが国を襲った悪魔どもの首領なのね!」
「うーん、まあそういうことになるのかな? いちおう、戦闘の指揮官は別にいるんだがな。でも、そうしておいた方が話は早いか。まあ、クラウディアが言ったとおり、僕らはあのバリアーに手を焼いててね。あれを破るなり解くなりする方法を教えて欲しいんだが?」
「同じことを言わせないで! 悪魔に話すことなどなにもないわ!」

 シトリーの話を、テオドーラは毅然として拒絶する。
 神聖王国イストリアの王家出身の誇りと使命感がそうさせるのか、悪魔を前にしても凜とした態度を崩そうとはしなかった。

「まあ、どうせそんなことだろうとは思っていたけどね……」

 端から対話で解決するとは思っていなかったので、シトリーはおもむろにその手から触手を出してテオドーラの中に潜り込ませる。
 ただの人間である彼女にはそれを防ぐ術があろうはずもなく、触手はすんなりとその中に入っていった。

「なっ、なにをするっ…………ひぃっ!」

 自分の体の中に気味の悪い触手が潜り込んできたのを見て、さすがにテオドーラが少し怯えた表情を見せる。
 続けて、魂に触手が絡みついたときの異様な感覚に、小さな悲鳴が上がった。

(いったい、なにをするつもりなの……。いえ、たとえなにをされても、イストリア王家に生まれた者は、決して悪魔に膝を屈してはならないわ。それに、この悪魔は憎むべき仇! 私の夫を殺し、息子を殺し、そして今また、私の故郷に攻め込もうとしている、憎い敵なのよ……)

 魂に絡みつかせた触手から、激しい憎しみが伝わってくる。

「……そんなに僕のことが憎いか?」
「当たり前よっ! おまえは私の嫁いだ国を滅ぼし、家族を奪い、そして、生まれ故郷までも滅ぼそうとしている……憎くないわけがないわ!」
「へえ、でも、それはおかしな話だな。おまえたちの信仰している神は、博く人を愛せとか言ってなかったか?」
「ふざけたことを言わないで! 悪魔を愛せよなどと神はおっしゃっていないわ。悪魔は私たち人間の敵、そして天界の敵、愛の対象になどなり得ない。ましてや、私の愛する者を奪った悪魔など憎いだけよ!」
「ふーん、悪魔は愛の対象ではないのか。だったら、神の奴よりも僕の方が度量が広いな。僕は人間やエルフ、それに悪魔や天使まで愛してやってるんだからな」
「そんなのは詭弁だわ! そもそも、悪魔が愛について語ったりしないで!」

 シトリーが挑発するたびに、触手から伝わってくる憎しみが膨れあがっていく。
 別に悪魔であるシトリーにはそんな憎しみなどどうということはないし、そんな感情など触手を使っていくらでも書き換えることができる。
 しかし、あまり簡単に済ませても面白みが少ないし、ひしひしと伝わってくる負の感情を感じ取っているうちに、それを逆手にとってやろうという遊び心が芽生えてきた。

「別に悪魔が愛を語ってもいいだろうが。それに、愛なんて神が説いているよりもずっと簡単なものなんだぜ」

 そう言うと、触手を通して魂に思念を送り込む。

"目の前の悪魔に反発すればするほど、自分の中でそれとは反対の感情が芽生えていく"

「もしかしたら、悪魔への憎しみが愛情に変わるなんてことがあるかもしれないしな」
「なにを言っているの! おまえに対する憎しみが愛情に変わるなんてことがあるはずがないわ!」

 そう吐き捨てたテオドーラの顔に、わずかに微妙な表情が浮かんだ。

「ん? どうかしたか?」
「なっ、なんでもないわ……」

 シトリーがわざと尋ねるとテオドーラはごまかそうとするが、触手を伝わってくる心の声まではごまかせない。

(今のはなに? 胸が高鳴ったような……いいえ、きっと気のせいよ。そんなこと、あるはずがないもの)

 ごく一瞬だが、魂が震えるほどの高鳴りが伝わってきた。
 その感情に、彼女自身戸惑っている様子だった。

 その反応に手応えを掴んだシトリーは、さらに煽り立てることにした。

「それはそうだな。なにしろ僕はおまえの夫を殺した悪魔だし。……そういえば、破壊された宮殿の瓦礫から見つかったおまえの夫の死体は無惨な状態だったな」
「こっ、この非道な悪魔がっ……ひっ!?」

 テオドーラが罵ろうとして声を荒げた瞬間、触手を絡めた魂が再びドクンと高鳴った。

「まったく、逆らおうなんて考えずにおとなしく僕たちに降っていればよかったのに、馬鹿な王だよ」
「なにを言うのっ! 私たちが悪魔に従うなどということはありえないのよ! ……あっ、ああ」

(ど、どういうことなの? この悪魔を見てると、胸の、高鳴りが止まらない。そんな、どうして?)

 テオドーラの呼吸が次第に乱れてきて、顔が赤くなっていく。
 クラウディアも、明らかに様子がおかしいテオドーラの姿に首を傾げている。
 しかし、そっと目配せするとシトリーが彼女に対してなにをしているのか察したらしかった。
 そして、シトリーに話を合わせはじめる。

「そういえばシトリー様、ふたりの王子の遺体も瓦礫の下から見つかったんですわね?」
「ああ、そうだったな」
「甲冑に身を包んだ姿はふたりともなかなかの騎士ぶりで、惜しいことをしましたわ」
「まあでも、あのまま生きていられても後々災いの種になるだけだしな。処刑する手間が省けたってもんだ」
「おっ、おのれっ、よくも私の息子をっ! …………ひっ!? あうっ、はあっ、はあっ……」

 ふたりの王子の死を話題にした瞬間、テオドーラの憎しみが最大に達した。
 しかし、その感情は瞬間的に裏返り、ある意味それが決定打となった。

「やっ、どうしてっ? そんなっ、はあっ、はああぁっ……」

 テオドーラは顔を真っ赤にしてシトリーを見つめ、息苦しそうにしている。

(そんなはずがないわ。こんなに胸が張り裂けそうなほどに、この悪魔のことが愛おしいだなんて。だって、この悪魔は夫と息子を殺した憎い相手なのに……ううっ!? ど、どうしてっ? 憎まなければならないのに……ああっ!)

 テオドーラは、無理矢理シトリーへの憎しみを掻き立てようとしては、それが正反対の感情へと変わっていくのを止められないでいた。
 その心の中はいまや、憎しみを愛情に変換するマッチポンプ状態となっていた。

「どうした?  苦しそうだぞ。気分でも悪いのか?」
「そ、そんなことないわ。……やっ、触らないでっ! ひぅううっ!?」

 シトリーが、触手を出していない方の手を頬に当てると、テオドーラがビクッと体を強ばらせた。

(やだ、こんな悪魔に触れられたくないのに……でも、触れて欲しい……)

「そうかそうか、触れて欲しくないのか。だったら、悪魔としてはもっと触ってやるべきだな」
「えっ? ……いやっ、やめてっ! ……はううっ!?」

 今度は服の上からその胸を掴むと、口では拒絶しておきながら悩ましげに身を捩る。

「やめてって言ってるわりには気持ちよさそうじゃないか。もしかして感じてるのか?」
「そんなことっ、感じてなんかないわっ! ……はうっ、あぁんっ!」

 わざと尋ねてくるシトリーの問いを否定するが、それが全て裏目に出てしまい、テオドーラは傍目にも感じているとわかる甘い吐息を洩らす。

「感じてないとか言って、でも、ここだってこんなに濡れてるじゃないか」
「いやあぁああっ! そこだけはやめてっ……いやっ、いやなのにっ!?」

 胸をまさぐっていた手を下の方に下ろしていくと、テオドーラのそこは服の上からでもはっきりわかるくらいに湿っていた。

「まあ、おまえも子供を産んでるわけだから、男を知らない体じゃないしな。そういう、いやらしい気持ちはあるよな?」
「そんなっ……そんないやらしい気持ちなんかっ……うっ、はぅううううっ!」

 シトリーの言葉に首を横に振りながら、テオドーラは恥ずかしそうに前屈みになる。

 もちろん彼は、自分の言葉に反発するたびに、言ったことと反対の感情がわき上がっていることは全て把握していた。
 シトリーに触れられて彼女が感じていることも、そして、こみ上げてくる欲情を抑えきれなくなっていることも。
 それがわかっていて、シトリーは最後の問いを放つ。

「まあ無理するなって。しばらく男に抱かれてないから、そのいやらしい体を持て余してるんだろ? おまえ、僕とセックスがしたいんじゃないのか?」
「だ、誰がおまえとセックスをしたいなどと……はうっ!? いや、違うっ、違うのにっ……はぁああんっ! だ、だいいち、わ、私の体はいやらしくなんかっ……んっ、んんんんんっ! 」

(そんな……私、悪魔に抱かれたいだなんて……そんなことしたらいけないことよ。……ああ、でも、したい……この悪魔とセックスしたい。だって、この悪魔のことがこんなに愛おしいし、いやらしい気持ちがこみ上げてきて、止まらないの)

 テオドーラの魂から伝わってくる心の声から、シトリーへの反発がどんどん小さくなっていき、反対にシトリーを求める感情が大きくなっていく。

 そこでシトリーは、新たな思念をその魂に送り込んだ。

"この悪魔の前では嘘をつけない。自分が心の中で思ったことを、そのまま言ってしまう"

 その上で、もう一度テオドーラに尋ねる。

「はっきり言ってしまえよ。僕とセックスしたいんだろ?」
「したい、したいわ。あなたとセックスしたいの。……あっ! あぁ、はぁあああぁ……」

 自分の口ではっきり言ってしまった後で、一瞬だけしまったというような表情をしたが、続けて出てきたのは悩ましげな吐息だった。
 その視線がわずかに泳ぎ、そして、力なく項垂れる。

「でも僕は憎い仇なんだぜ?」
「そうよ、あなたの言うとおりよ。でも、しかたがないの。憎い仇のはずなのに、愛おしいの。あなたのことがこんなに愛おしいんだから」

 狂おしげな視線をシトリーに投げかけて、テオドーラは諦めたように首を振る。

「だったら、僕のものになる覚悟はあるのか?」
「ええ。もう、そうするしかないわ。……だってこんなに胸が痛くて苦しいんですもの。だから私、あなたのものになるわ」
「そうか、それなら、おまえを抱いてやってもいいんだぞ」
「本当に!?」
「ああ。ただし、あのバリアーを消す方法を教えてくれたらな」
「それは、さすがに……」

 シトリーの出した条件には、さすがにテオドーラも口ごもってしまう。
 だが、それも強い拒絶には見えない。
 せいぜい、一度は断ったというポーズを見せて、自分に言い訳がしたいという程度のものだろう。

「そうか、だったら別にそれでもいいさ。僕には相手をしなければいけない義務はないんだし、おまえのことを放っておいてこのまま戻ってもいいんだしな」
「待って!」
「どうした?」
「言うわ! あなたが望むならなんでも話すわ! だから、お願いだから行かないで」

 完全に足許を見られていたと言えばそれまでだが、シトリーが少しばかり素気ない態度を見せただけでテオドーラはあっけなく折れてしまった。
 今にも泣き出しそうな顔で、必死にシトリーの服の裾を掴んでくる。

「よし、だったらあのバリアーの消し方を話してもらおうか?」
「……イストリア国内の城には、地下に聖なる石の欠片が置いてあって、その石を通じてアフラに安置されている聖なる石の力を受け取っているの。そして、それぞれの城に配置された高位の神官がその力を使ってバリアを張り巡らしているのよ。だから、力のもとになる石の欠片を破壊するか術者となる神官を殺せばバリアーは消えるのよ。他には、全てのバリアーの源となっている、アフラにある聖なる石が破壊されたら、国中のバリアーも全て消えてしまうわ」
「……ということは、いったんあの中に入らないといけないんじゃないのか?」
「そうよ」
「外からあれを消したり破ったりすることはできないのか?」
「それは不可能よ。物理的な攻撃でも魔法によるものでも、あれを破ることはできないわ。私自身、アルドゥヌムのバリアーが破られたことが今でも信じられないというのに」
「それじゃあ、あれに外部から干渉することはできないっていうことか?」
「外側からあのバリアーを解除することができるのは、イストリアの巫女姫だけよ」
「おまえはその巫女姫だったんじゃないのか?」
「無理だわ。聖なる石の力を司る者は処女でなければいけないの。結婚して子供を産んだ時点で、私はその力を失ってしまってるわ」
「つまり、あれを破る方法はないってことか……」

 テオドーラの話を聞き終わって、シトリーは難しい顔をして考え込む。

 だが、傍らに立っていたクラウディアの方があからさまに表情を曇らせて肩を落としていた。
 せっかくシトリーにまで足を運ばせたというのに、完全に空振りとなってしまったことに彼女なりの責任を感じているらしい。

「申し訳ございません、シトリー様。どうやら、無駄足になってしまったみたいで……」
「いや、おまえが謝ることでもないさ」
「それで、彼女はどうしますか? シトリー様のお役には立ちませんでしたが」
「そうだな……」

 クラウディアと話しながら、ちらりとテオドーラの方を見る。
 すると、ふたりの交わした会話の意味しているところを察したテオドーラが、怯えた表情でシトリーにしがみついてきた。

「捨てないで! あなたの言うことならなんでも聞きます。なんでも言うとおりにしますから、だからお願いです。私を見捨てないでくださいませ」

 なりふり構わずシトリーに縋りつくテオドーラの姿に、クラウディアが不快そうに眉を顰める。
 元はといえばこれは彼女の言い出したことでもあり、結果としてそれが無駄足になったことを自分のミスに感じて苛立っていただけに、テオドーラの醜態がなおさら不愉快な様子だった。
 もちろん、本来ならばクラウディアもその程度のことで苛ついたりしないだろうが、日々、分析や実験をいくら重ねてもイストリアのバリアーへの対策が思うようにはかどっていないことが持ち前の冷静さを失わせていた。

「呆れたものですわね。最初はあんなにシトリー様やわたくしを侮辱していたというのに、なんとみっともないなさりようなのかしら」
「ごめんなさい。このとおり謝るわ。だからお願い、許してちょうだい。私にはもうなにも残ってないの! この方に見捨てられたら、もう、私にはなにもないのよ。だから、だからお願いします」

 もはや、テオドーラには恥も外聞もなかった。
 クラウディアに許しを請い、シトリーに向かって頭を下げるその姿には、イストリアの王女に生まれ、モイーシアの妃となった女の威厳などまったく見られない。

「お願いします! なんでもしますから見捨てないでください!」
「とはいえ……ん? これは……使えるかもな」

 必死に縋りついてくるテオドーラに返答しかねていた時、ひとつのアイデアが浮かんだ。

「本当になんでもするんだな?」
「はいっ、します! どんなことでもします!」
「そこまで言うんだったら、見捨てないでやる」
「ああ……ありがとうございます」

 シトリーの言葉に、テオドーラは感激の涙を流して平伏する。
 しかし、納得しかねているのはクラウディアの方だった。

「シトリー様? この女にこれ以上役に立つことがあるというのですか?」
「まあ、こいつにもまだ使い道があるってことだ。……テオドーラ」
「なんでございましょうか?」
「僕の命令したとおりのことをやると、間違いなくおまえの故郷は悪魔に蹂躙されることになるがそれでもいいのか?」
「かまいません」
「おまえの同胞や家族に恨まれ、悪魔と罵られることになるかもしれないぞ」
「それでも、あなたが見捨てないでくださるのでしたら、私はかまいません」

 生まれ育った故郷を売れというシトリーの言葉に、テオドーラは躊躇うことなく即答してきた。

(もう、故郷なんかどうなってもいいわ。この方に捨てられるくらいなら、家族だっていらない。この方に見放されたら、私はもう生きてはいけないのだから……)

 まだ触手を解いていない魂からも、シトリーに捨てられることへの恐怖がひしひしと伝わってくる。

「そこまではっきり言われたらしかたがないな」
「えっ!? あぁあんっ、んっ、あふぅう……」

 ベッドの上に腰を下ろすと、シトリーは背中の大きく開いたドレスの中に手を潜り込ませる。
 脇腹から胸元まで撫でますと、テオドーラは艶めかしい声を上げて体を預けてきた。

「褒美の前払いだ。今ここで抱いてやる」
「ありがとうございます。んっ、はぁああん……」

 テオドーラのドレスの、ホルターネックの布を引っ張り頭から外させると、蒸せるような牝の臭いを立ち昇らせながら胸元がはだける。

「あぁ……どうぞ、私を好きなようになさってくださいませ」

 一度体に火のついた状態でおあずけを食らっていたためか、汗ばんだその肌はほのかに染まり、触れるとむっちりと手に吸いついてくる。 
 少し垂れ気味の胸のふくらみも、エルフリーデやアンナのような張りはないが手のひらに乗せると流れるほどで、年齢の近いピュラやシンシアとも違う、子供を産んだ女特有の柔らかさを持っていた。
 肉付きのよい肢体もむしろ肉感的な色気を感じさせ、整った顔立ちと相俟って十分に熟れた女の魅力を発散していた。

「はぁああん…………やああっ!」

 ベッドの上に押し倒そうとしたら、ガシャリと音を立てて延びきった鎖に引っ張られたテオドーラが悲鳴をあげた。

「もっ、申し訳ありません。すぐに向きを変えますので」
「そうだな……いや、ちょっと待て」

 慌てて鎖が突っ張らない方向に体を入れ替えようとしたテオドーラを手で制すると、ベッドから降ろして立ち上がらせる。

「そのまま、その柱を掴んで尻をこっちに向けろ」
「はっ、はいっ……はぁああっ!」

 テオドーラが繋がれている天蓋の柱を掴ませて腰をシトリーの方に突き出させ、尻が丸見えになるようにドレスの裾をまくり上げた。

「ふっ、いい格好だな。奴隷の牝豚には相応しいじゃないか」
「はいぃいい……私はあなたの、シトリー様の奴隷の牝豚ですぅ……」

 牝豚と呼ばれても、テオドーラはむしろ嬉しそうに突き上げた尻を揺り動かしている。

「あぁん、シトリーさまああぁ……」

 その、むちっと柔らかな尻肉を掴んだだけで、いっそう嬉しそうに甘えた声が洩れた。

「ふん、ずいぶんと甘ったれた声で鳴くんだな」

 今度は、尻を平手で叩く。

「んっ! はあぁああん」

 すると、やはり悩ましげな吐息と共にくいっと腰がくねった。

「なんだ、これがいいのか?」
「はうっ! あんっ……あぁんっ! はいぃ……シトリー様がなにをなさっても、感じてしまいますうぅ……」

 尻を叩くたびに、テオドーラは甘い喘ぎ後を上げてよがる。
 それどころか、ふとももを伝って愛液が滴り落ち始めた。

「へぇ、本当に感じてるんだな」
「はいぃっ! はんっ……あうっ! はぅんんんんんんっ!」

 白い肌が赤くなるほどに叩いていると、テオドーラがビクビクッと体を震わせ、十分に男を知っているその裂け目から勢いよく潮を吹き出した。

「おいおい、尻を叩かれてイッたっていうのか?」
「はいぃ……軽くイッてしまいましたぁ……」
「ふん、淫乱なだけじゃなくて変態なんだな」
「はいぃ、そうですぅ……。淫乱で変態の牝豚奴隷に、どうかシトリー様の逞しいものを恵んでくださいませぇ……」

 さんざん焦らされて、火照った体の疼きが限界に達していた彼女は、一国の王妃にはあるまじき淫らで卑しい言葉を口にしてでもシトリーの肉棒を欲するまでに至っていた。

「ふっ……いいだろう」
「ああ、シトリーさまぁ……」

 テオドーラは期待に胸を膨らませて腰を突き上げ、挿入を待ち受ける。
 しかしその時、それまで彼女の痴態を眺めながらなにやら考え込んでいたクラウディアの声がそれを止めた。

「お待ちくださいませ、シトリー様」
「ん? どうしたんだ、クラウディア?」
「あん、クラウディア姫、どうしてこんな無体なことをなさるのです? そんなに私のことが許せないのですか?」

 またも寸前でおあずけを食らって、テオドーラが恨みがましそうな視線をクラウディアに向ける。
 クラウディアは、その視線に蔑みの笑みを返しつつ、腰を屈めてテオドーラの頬に手を添えた。

「もちろん、あなたがそんなに卑しくて情けない人だとは思っていもいませんでしたわ。でも、それはもういいでしょう。ただ、シトリー様のものを恵んでもらいたいのなら、わたくしの問いにひとつ答えてからにしてくださるかしら?」
「なにっ!? なんなのっ!? なんでも答えるからっ、早く訊いてちょうだい!」

 狂おしげに声を戦慄かせながら、テオドーラは間髪置かずにクラウディアの言葉に応じる。
 対するクラウディアは冷然たる態度を崩そうとせず、淡々とテオドーラに問いかけた。

「さきほどあなたは、アフラの聖なる石を破壊したらすべてのバリアーが消えると言いましたわね? しかし、あの聖なる石はいかなる武器をも弾き、いかなる魔法も通さないと聞いたことがあります。そのような物をどうやったら破壊できるというのですか?」
「穢れよっ! 確かに、聖なる石にはいかなる攻撃も魔法も通用しないわっ。しかし、強い穢れに触れてしまうとその力を失ってしまうと伝えられているわっ!」

 その問いに対するテオドーラの返答に、躊躇いは全く見られなかった。

「穢れ? それは、例えばどのようなものなのかしら?」
「女の経血や愛液、それに男の精液のことよ。もちろん、聖なる石にそんな物を近づけた者はいないから、確かめたわけではないわっ。しかし、古くからの決まりで、歴代のイストリアの巫女姫は月の物が来ている間は聖なる石に近づいてはならないとされているの。その間、王家の娘で巫女姫に次いで聖なる力が強い者が代行を務めることになっているわ。私も巫女姫を務めている間はそうだったから、だからきっと間違いないわっ!」
「そう……経血や愛液、精液ね……」

 もどかしそうに早口でまくしたてたテオドーラの話を聞いて、クラウディアがまたもや考え込む。
 しかし、気も狂わんばかりのテオドーラの声が、ゆっくり考えることを許さなかった。

「ねえっ、私、あなたの問いにちゃんと答えたわっ! だからもういいでしょっ!? 私はシトリー様のものが欲しくて欲しくてしかたがないのっ!」
「しかたがないわね。……シトリー様、お楽しみのところを邪魔立てして申し訳ございませんでした」
「もういいのか?」
「はい。よろしゅうございます」
「あぁっ、お願いしますっ、シトリー様っ!」

 クラウディアがテオドーラにちらっと一瞥をくれて、シトリーに向かって頷く。
 それを合図にショーツをずらすと、その、愛液を垂れ流し続ける淫裂に、ペニスを突き入れた。

「ほおおおっ! ふぉおおおおおおおおおおっ!」

 たったの一突きでテオドーラはアクメに達してしまう。
 しかし、限界を超えて待たされたその肉壺は、1回の絶頂では満足しなかった。
 すぐに、受けいれた肉棒で膣内を拡販するように自分から腰を揺すりはじめる。

「んふぅううううっ、ああっ、素晴らしいですシトリー様っ! なんと逞しくてっ、ふぁああっ、いいっ、すごくいいですわっ!」

 恍惚とした表情を浮かべて、テオドーラは狂ったように腰を降り続ける。
 肉棒を熱く包みこむその中は焦らされすぎたためかギチギチと痙攣し、子供をふたり産んだ熟女のものとは思えないほどにきつく締めつけてきていた。

「おほぉおおおおっ! イクッ、イクイクッ! またイッてしまいますぅううううううっ! ……ふぉおおおっ! ああっ、ありがとうございますっ、シトリー様っ、こんなに気持ちよくしていただいてっ、私は幸せですぅうううううっ!」
「あなた程度の人間がシトリー様の下僕にしてもらえることを感謝するのね。こんなに寛大なシトリー様のお心に報いようと思うのなら、少しでも役に立って見せなさい、テオドーラ」
「ふぉおおおおっ、ああっ、シトリーさまぁあっ! ああっ、もっと、もっとその逞しいもので突いてくださいませっ! んふぅうううっ、ふあっ、イクッ、またイクぅううううっ!」

 最後まで厳しい言葉を投げかけるクラウディアの声などもう届いていないのか、テオドーラはだらしない笑みを浮かべて肉棒を貪り、何度も何度もイキ続けたのだった。






* * *







 ――モイーシアとイストリアの国境、ニップル城。

 ニップルの警護に当たっていたシャルティエル隊の天使が、城へと向かう細い地峡を駆け抜けていく馬車を発見したのは、それから3日後のことだった。
 その馬車を中心に、モイーシアの紋章を付けた騎士が十数騎と、さらには数人の天使も付き添っているのが見える。

 馬車を護る天使の姿に見覚えのあったひとりが、何事があったのかと馬車に近寄って尋ねてきた。

「アブディエル隊の者だな。いったい何があったんだ? この馬車に乗っているのは?」
「私はアブディエル隊長の命によって、悪魔どもへの抵抗運動をしていた人たちの支援に当たっていたエリアナといいます。あの馬車に乗っておられるのは抵抗を指導していたモイーシアの王妃で、イストリア王の妹ぎみでもあらせられるテオドーラ様です。先日、拠点としていた町が魔界軍に急襲されたために、私たちが護衛してここまで逃れて来たのです。急いでください、悪魔どもはすぐそこまで追ってきています」

 対応にあたった、明るい栗色の髪をした天使が答える。

 アブディエル隊の唯一の生き残りであるアーヤが、ミュリエルに連れられていったん天界に戻ってしまったため、部隊が壊滅したことはまだ彼らには伝わっていなかった。
 もちろん、このところ連絡が途絶えていたことを不審には思う者もいたが、まさか仲間の天使が悪魔側についたなどとは夢にも思っていなかった。
 それは、情報が伝わる前に急いで準備を整えて行動に移したシトリーの作戦勝ちともいえる。

 それに、エリアナと名乗った天使の言ったとおり、モイーシア領内から悪魔どもの軍勢が巻き上げる土埃が迫ってくるのが見えた。
 それを見た天使たちは直ちに連絡のために一名を城に向かって送ると、馬車に通行の許可を出す。




 馬車が城に近づくと、天使から説明を受けていたイストリアの騎士が確認を求めてきた。
 護衛の騎士に導かれたイストリアの騎士が馬車の戸を開けて、中の様子を窺う。
 そこに座っていたのは、3人の侍女に付き従われた、まごうことなきテオドーラの姿だった。

 慌てて敬礼をした騎士が城内に合図を送ると、城を覆っていたバリアーにアーチ状の入り口が開いた。
 そして、イストリアの騎士に先導されて、護衛された馬車は中に入っていったのだった。






* * *







 城門を潜り抜けると、馬車は入り口前の馬場に停まった。
 戦時とはいえ現王の妹の帰還とあって、そこには守備隊を指揮する将軍が自ら出迎えに来ていた。
 警護役に天使がついているとあっては、テオドーラが悪魔の追撃から逃れてきたことを疑う者はいなかった。

 それが、彼らにとって命取りとなった。

 テオドーラと侍女たちが馬車から降りると、付き従ってきた騎士たちが一斉に剣を抜いて将軍に斬りかかった。
 さらには、エリアナたち天使がいったん飛び上がって急襲し、入り口を確保する。

 不意を突かれた将軍は、たちまち斬り伏せられてしまった。
 だが、残った守備隊の兵たちはすぐに混乱から立ち直り、剣を抜いて応戦しようとする。

 そこに、火球が炸裂した。

 さらに一撃、また一撃と、兵士たちに向かって次々と攻撃魔法が叩き込まれていく。
 見れば、テオドーラの傍らに立つ侍女たちが呪文を唱え、魔法を撃ち込んでいた。

 最初に火球を叩き込んだのは、青みを帯びた長い髪に濃紺の瞳を持ち、侍女とは思えぬ気品を漂わせているまだ少女ともいえる若い女。
 それは、髪を結い上げて侍女の衣装を身につけているために雰囲気はいつもと異なっているが、紛れもなくクラウディアその人だった。
 シトリーは彼女が自ら乗り込む必要はないと言ったのだが、テオドーラの働きを自分の目で確認すると言い張ってこの作戦に参加したのだった。

 クラウディアたちの魔法で傷ついた兵士は、続けて襲いかかってきた騎士によって瞬く間に打ち倒される。

 占領した城から回収したモイーシア騎士団の甲冑に身を包んで変装しているが、彼らもヘルウェティアの騎士であった。
 その全員が、エルフリーデとフレデガンドが自分たちは翼が隠せないためにカムフラージュができないからその代わりにと、翼を得なかったメンバーの中から手練れを選りすぐって作戦に参加させた者たちだ。



「みんな急いで! 目標はこの城の地下室よ。そこにいる神官たちを殺すか、聖なる石の欠片を破壊したら私たちの勝ちよ!」

 テオドーラの号令の下、一同は建物の中へと駆け込んでいった。






 それから少しして、城を覆っていた光の障壁が忽然と消え失せた。
 すでに城の見える位置まで迫っていた魔界の軍勢が、まるでバリアーが消えるのがわかっていたかのように城へと続く地峡に殺到する。

 わけがわからないのは、シャルティエル隊の天使たちである。

「どういうことだ?」
「わからん。とにかく、悪魔どもを城に近づけるな!」

 なぜバリアーが消えたのかはわからないが、非常事態であることを察して魔界軍の侵攻を阻止しようとする。
 しかし、その横槍を突いて、彼らの想像を越す人数の飛行部隊が襲いかかってきた。

「なんだと!?」
「どうしておまえたちが俺たちをっ!?」

 襲いかかってきた魔界軍の中に、味方であるはずの天使が大量に混じっていたことが混乱に拍車をかけた。
 その中に、先日、支援要請に応えてアブディエル隊に向かった僚友の姿もあったのだから、彼らが動揺するのも当然である。

 城へとなだれ込んでいく魔界の地上部隊を阻む間こそあれ、瞬く間にシャルティエル隊は壊滅した。
 そして、それから半刻も経たずしてニップルの城は悪魔の手に落ちたのだった。






* * *







 ――その夜。

 大広間でひとり、今後の方針について考えを巡らせていたシトリーのところに、下僕たちが集まってきた。
 エミリアやアナトといった悪魔たちに、クラウディア、ピュラ、シンシアをはじめとする人間の女たち、フィオナやイリス、リルにメルたちエルフの娘、そして、サラを先頭にした天使たち。
 種族は違えど、いずれも劣らぬ美人ばかりが松明に照らされた広間を埋め尽くしている。

「ん? どうした、おまえたち?」
「シトリー様、これよりいよいよイストリアの領内に攻め込むことになります。シトリー様に刃向かう愚かな人間どもとの戦いも、最終局面に入るということなのですね」

 顔を上げて下僕たちを見回すシトリーの前に、まず進み出てきたのはクラウディアだった。

「あたしも天界にいた頃にイストリアとの連絡役をしたことがあるけど、けっこう厄介そうな国だよ。そのうえ、これから天界からの反撃もきっともっと激しくなるだろうしね」

 そう言いながら、エミリアがシトリー座っている椅子の傍らまで来る。

「ご安心ください、シトリー様。天使どもがシトリー様の行く手を阻もうというのなら、私たちが皆殺しにしてやります」

 瞳に冷酷な光を湛えたサラが、進み出てきて跪く。

「とはいえ、天界の軍勢を侮るわけにはいかないわ。神だってこのまま黙っているはずがないものね。それに、あのバリアーを破る方法だって見つかっていないし、課題はまだ山積してるってところね。今回は上手くバリアーの中に入り込めたけど、もう同じ手は通用しないと思った方がいいわよ」

 と、アナトが冷静に状況を分析しながら近づき、シトリーを挟んでエミリアとは反対側に立つ。

 それを受けて、今度はピュラが進み出る。

「あのバリアーは、必ずや私とクラウディア様で破る方法を見つけて見せます」
「それに、天使との戦いなら、私たちもおりますゆえ」
「確かに私たちは、空中での戦いではサラやマハ殿には及びませんが全力を尽くしますので」

 続けて進み出たエルフリーデとフレデガンドが、己が主に向かって騎士の礼をとる。

 そして、フィオナ、イリス、リル、メルらエルフの面々が続いた。

「私たちも、微力ではありますが力を尽くさせていただきますわ」
「ボクもですっ、シトリー様!」
「私たちもっ! ね、メル」
「うんっ! リル!」



 人間やエルフはもちろん、悪魔や、天使さえもが自分にかしずき、崇めるような視線を向けている。
 広間を埋める下僕たちの姿を見ていると、これまで感じたことのない高揚感が湧き上がってきた。



「えっ!?」
「きゃっ!?」

 両脇に立つアナトとエミリアの腰に腕を回して抱き寄せる。
 そのまま、服の上からその胸に手を伸ばした。

「あぁんっ! シトリーったら!」
「そうよ、いきなりどうしたっていうの?」
「ああ、実にいい気分だと思ってな。僕にすべてを捧げる者たちがこうしてかしずいているのを見ると、気分が昂ぶってくる」
「もう、戦いはまだまだこれからだっていうのに。……でも、あなたが私たちの主らしくなるのは悪い傾向じゃないわね。……はうっ!?」

 苦笑いを浮かべつつも、シトリーを頼もしそうに見つめるアナト。
 それは、ごくごく普段通りのシトリーに対する話し方だった。

 しかし、シトリーが咎めるようにアナトの乳房を掴む手に力を込めた。

「おまえ、誰に向かって口をきいている? 僕はおまえのなんだ?」
「えっ……?」

 いつもとは違うきつい口調に、アナトが一瞬驚いた表情を浮かべる。
 しかし、すぐに嬉しそうに目を細めた。

「……申し訳ございません、ご主人様」
「ああ、それでいい」
「それで、ご主人様。今夜はこのまま、私たちにお恵みをくださるのですか?」
「あぁん……あたしも、体が疼いてきて我慢できないよぉ……」

 アナトとエミリアが、愛撫に身を委ねてシトリーに体を預けてくる。

「そうだな。戦いの最中とはいえ、今夜おまえたちの相手をしてやる余裕くらいはあるだろう」
「お願いします、ご主人様……んっ、あふぅううう……」
「あたしも……あたし、これからもずっと、シトリーの側にいるから、ね……あんっ!」
「それでは、私も可愛がってくださいませ」
「シトリー様、わたくしにもどうかお恵みを……」
「私にもお願いします……」
「ああ、シトリー様……」

 快感に身を捩っているアナトとエミリアの姿を見て、サラやクラウディアをはじめ他の者たちも皆シトリーを中心に集まり、身に着けているものを脱ぎ始める。




 そして……




「あんっ、ああっ、来るっ、あたしっ、またイッちゃうっ!」

 椅子に腰掛けたシトリーに跨がって、エミリアが喘ぎ声をあげる。
 すでに何度も絶頂させられているせいか、シトリーに抱きついて腰を揺する動きもだいぶ鈍くなっていた。
 しかもその体には、シトリーの触手が1本潜り込んでいる。



 しかし、触手はそれだけではなく……。



「ん……はぅうう……」

 足許には、エミリアの前にシトリーの相手をしてやはり繰り返しイカされ続けたアナトがぐったりと横たわっている。
 その体にも、触手が1本挿し込まれていた。

 さらには……。

「ああ、シトリー様……どうか、次は私にそのおちんぽを入れてくださいませ……」
「わたくしにも……どうかおねがいいたします……」
「シトリーさま……ああぁん……シトリーさまぁ……」
「やはり、シトリー様は最高のご主人様です……」
「シトリー様……私、体が疼いて、もう……」
「ああんっ、フレダお姉様っ……!」
「ふふふっ……私たちの番が来るのが楽しみね、イリス……」
「フィオナさまぁ……ボク、もう我慢できないよぉ……」

 淫蕩な表情を浮かべ、悩ましげな吐息を吐いて両側からシトリーにしな垂れかかるサラとクラウディアや、後ろからシトリーに抱きついて胸を押しつけているニーナ、やはりシトリーに体を寄せてその首筋に舌を這わせるメリッサ。
 床の上では、体の火照りを持て余したフレデガンドとエルフリーデ、フィオナとイリスが体を重ね合い、互いの秘所に舌を伸ばしていた。
 その、ひとりひとりの体に1本ずつ触手が潜り込んでいる。

「ふぁああああああっ! あたしっ、ホントにもうダメっ、イクッ、イッちゃうぅうううううううっ!」
「ああ、イッていいぞ。そして、おまえたちもな」

 エミリアが絶頂した瞬間、触手を通じてそれを他の9人の魂に直接送り込む。

「ふぉおおっ! ぉおおおおおおおっ!」
「こんなすごいのっ! ……ふぁああっ、イクッ! イクイクイクぅううううううっ!」
「わたくしもっ……ああっ、イッてしまいますぅううううううううっ!」
「エミリアったら、またそんな激しくイッて! ああっ、んふぅううううううっ!」
「しゅごいぃいいっ、しゅごいのっ、触手アクメ気持ちいいですぅううううううっ!」
「はぁああああああんっ! あんっ……エルったら、こんなに潮を噴いて……」
「フレダお姉様こそっ……んっ、はぅうううううううっ!」
「いいっ、すごくっ、気持ちいいですシトリーさまぁあああああっ!」
「ふわぁああああああっ! こんなのっ、しゅごしゅぎてっ、シトリー様にしてもらう前にボク、おかしくなっちゃうよぉおおおおっ!」

 広間に、エミリアを含む10人の嬌声が響き渡る。
 それぞれが、あるいは体を仰け反らせ、あるいはシトリーにしがみついて体を小さく震わせ、秘裂から愛液を迸らせる。

「ああっ……あ…………」
「んんっ! んふぅうううう…………」

 そのまま、アナトとエミリアは完全に気を失ってしまう。

「次は、そうだな……サラ、おまえの相手をしてやろう」
「はいぃ……ありがとうございます……」

 ずるずると崩れ落ちるようにして床に横たわったエミリアの体をそっと脇に退けると、サラが期待に頬を上気させてシトリーに跨がる。

「んっ! んほぉおおおおおっ! ああっ、シトリー様のおちんぽがっ、おまんこの中でいっぱいになってなってますぅうううううっ!」

 腰を沈めて歓喜の声を上げたサラが、すぐに貪るように腰を振り始める。

「さてと、こっちの相手は誰にするかな?」
「シトリー様! どうか私にっ!」
「私にっ、私にお願いします!」
「あたしだってもう我慢の限界でさぁっ!」

 気絶したアナトとエミリアから触手を抜くと、アンナやエリアナ、マハといった、まだ触手も入れてもらってない者たちが我先にせがんでくる。
 シトリーを取り囲む女たちは、一様に淫靡な光を瞳に宿し、期待に満ちた表情を浮かべていた。
 興奮で汗ばんだ肌が、薄暗い部屋の中でヌラヌラと妖しく光っている。

 この、愛欲と快感の饗宴はまだ始まったばかり。
 悦びに満ちた女たちの声は、いつ果てるともしれず広間に響き続けたのだった。

 
 


 

 

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