黄金の日々


 

 



第2部 第13話 護りの光と、折れない心





 ――翌日。

「姉さま……」

 あの森を見下ろして、アーヤは唇を噛む。

 あの後、部隊に合流した彼女は、直ちに数人の仲間と共にあの森に引き返した。
 だが、そこに姉はいなかった。

 地面に散らばる矢と切り裂かれた蔓草、そして、点々と残る血の跡がそこで確かに戦闘があったことを示していたが、姉の姿は姿形もなかった。

 遺体がないということは捕らわれて連れ去られた可能性が高く、少なくともサラが生きていると思われる点だけは救いであった。
 しかし、彼女が自分の妹を庇って囚われの身になったという事実に変わりはなく、それがアーヤの心に重くのしかかっていた。

「姉さま……私の……私のせいで……」

 涙が溢れそうになるのを必死に堪え、血が滲むほどに唇を強く噛みしめる。




「あまり自分を責めるな、アーヤ」
「……隊長」

 振り向くと、隊長のアブディエルと副隊長のイェキエルが立っていた。

「あの時の敵の動き、今思えば、明らかにおまえたちふたりを狙っていた」
「私たちを?」

 アブディエルの言葉に、アーヤがハッと息を呑む。
 一方、イェキエルは納得した表情で頷いていた。

「やはり、隊長も敵はこちらを分断させて戦力を削るのが目的だと思っていましたか」
「ああ。戦ってみても明らかだが、昨日の敵の大半はまだ飛ぶことに慣れてない、急造の戦力だ」
「ということは、昨日の敵は……」
「おそらく、人間に何らかの術で翼を持たせたのだろう。おそらくは、人間と悪魔の融合……禁術ともいうべき忌まわしき方法でな」
「そんな……悪魔どもめ、なんとおぞましいことを……」

 アブディエルの推測に、イェキエルがあからさまに嫌悪の表情を浮かべる。

「今回のことは、敵がああいう形で戦力を増強してくることを予想していなかった俺のミスだ。だが、昨日のあれで向こうの狙いが少しはわかった。奴らはこちらの手勢を分断させて各個撃破することを狙っていると見て間違いない。戦闘中に少人数をこちらの部隊から引き離して叩く。まさに、サラとアーヤがやられたようにな」
「そんな……」
「しかし、それは裏を返せば、こちらが固まって対処していれば、それを破ることは向こうの戦力の熟練度では難しいということだろう。おそらく、今後もあらゆる手でこちらの分断を図ってくるだろうが、次からは同じ手に乗らない。ニップルを守るシャルティエル隊とも連絡をとって、200名ほど増援が送られることになっている。そうなれば、またこちらが優位になるはずだ。敵がこのまま籠もっているのなら、包囲を続けて周辺の人間が立ち上がるのを待つ方が効果的だと思ったのだが、敵が出てくるのなら、そこを直接叩く」
「そうですね」

 アブディエルの話に、イェキエルが同意する。
 しかし、その傍らで表情を曇らせているのは……。

「大丈夫。サラはきっと無事だ。いざとなったら、俺がサラを助けに行く」
「はい、隊長……」

 そう励まされても、アーヤの表情が晴れることはなかった。






* * *







 一方こちらは、ラドミール城塞。

 昨日のサラとのやりとりの後、シトリーがクラウディアとピュラ、そしてメリッサに命じて作らせたものが出来上がったのは昼過ぎになってからだった。

「なるほど、見るからにそれっぽいな……」

 クラウディアの手にしたアンフォラから杯に注がれたそれは、仄かな赤みを帯びていて、ピンクと言えば聞こえはいいが、光の当たる角度によっては毒々しい錆色にも見えるドロリと白濁した液体だった。

「こいつの材料は?」
「インクブスの精液にサキュバスの愛液を混ぜたものをベースにして、人の精神や肉体を狂わせる魔界の植物の樹液や果汁を配合し、最後に愛の実をすり潰したものを加えました」
「う……そいつは効きそうだな」
「はい、並の人間の女なら、小さな杯で一口飲ませただけで淫魔のように男を求めるようになります。それに合わせて、体の方も淫らな感覚が増長させられる効果もあります」
「とうことは、実験したんだな?」
「それは、いい加減なものを供するわけにはいきませんから。ただ、あの天使にどこまで通用するかは未知数です」
「まあ、それは使ってみてからだな。というか、効くにしてもどう効くかってところかな」

 シトリーが言ったその言葉の意味を、クラウディアもピュラも図りかねている様子だった。

「いや、まあこればっかりはやってみないと僕にもわからないというか、僕の思ったとおりになってくれたらいいんだけどな」
「はあ……」
「とにかく、3人ともご苦労だったな。特にピュラとクラウディアはうちの飛行部隊を作るときからほとんど休みなしだったし、今日のところはゆっくり休んでおけ。おまえたちには魔法でここの防衛の補助もしてもらわなきゃいけないしな」
「そんな、もったいないお言葉ですわ」
「でも、シトリー様のおっしゃる通りかもしれません。たしかに、ずっと根気のいる作業が続いていたので少し疲れが溜まっているようですし、お言葉に甘えて休息を取らせていただきます」
「ああ、そうしてくれ」

 労いの声をかけられて、クラウディアとピュラが恐縮しながら自室へと戻っていく。
 そして、その場にはシトリーとメリッサが残った。

「おまえも休んでいいんだぞ」
「いえ、私がやったことといえば今回の媚薬作りとあの天使を捕らえることだけで、あのふたりのように働き詰めだったわけではありませんから。それに、その薬の効果のほども確かめたいですし、シトリー様があの天使をどのようにするのかも興味がありますから」
「そうか。だったらついて来い」
「はい」

 メリッサを従えて、シトリーは地下の洞窟の奥にある牢獄へと向かう。







「おい、起きてるか?」
「……来たわね」

 ひと声かけると、両手両足を鎖に繋がれた状態ながら、サラは毅然と頭を上げてシトリーを睨みつけてきた。
 と、シトリーの傍らに立つメリッサが口を開いた。

「まあ、そんなに怖い顔をして。せっかくの美人が台無しよ」
「貴様っ!」

 その、明らかにからかっていると取れる発言に、サラの怒号が響く。
 しかし、メリッサはむしろ楽しげに声をあげて笑っていた。

「ふふふっ、その元気がいつまで続くかしら? ……ああ、早く見たいわ、あなたがシトリー様の下僕になるところを」
「言ったはずだ。私は悪魔の下僕になどならないと!」
「さあ、どうかしらね? ……シトリー様」
「そうだな。そろそろ始めるとするか」

 目配せしてきたメリッサに頷き返すと、シトリーはサラに歩み寄る。

「ちょっとこいつの顔を上に向けて押さえつけていてくれ」
「かしこまりました」
「……っ! なにをするつもりだ!?」
「いいからあなたはおとなしくしてなさい」

 メリッサがサラの頭を抑えてぐいっと上を向かせると、シトリーと協力して口を大きく開かせる。

「……がっ!? がはっ!」
「ほら、吐き出すなよ」
「……あ゛っ! ……ぐぅっ!」

 サラの口に例の媚薬を注ぎ込み、今度は無理矢理閉じさせる。
 そして、シトリーがその鼻を摘まんで塞いだ。

「……んぐっ! ぐっ、ぐぐぐっ!」

 サラは激しく頭を振って抵抗するが、両手両足を鎖で戒められている上にふたりがかりで押さえつけられては振りほどくこともできない。

「ぐむむむ……がっ! ごぼっ、がぼっ、んぐっ! ……かはっ、げほっ!」

 窒息寸前のところでわざと口を押さえた手を緩めると、反射的にサラが息を吸い込む。
 気管に流れ込んできた媚薬に咽せて、白濁した飛沫が散る。
 そのまま咳き込んで媚薬のかなりの量が零れてしまったが、それでも、シトリーの目論見通りにある程度の量を飲み込んでしまっていた。

「ぐほっ、げほっ……な、なにを飲ませ……」

 苦しそうに咳き込んでいたサラの体が、ほの白い光に包まれ始める。

「また、怪しげな薬を飲ませたのね。でも、無駄よ。どんなものを飲ませても私には効かないわ」
「まあ、それはこちらも織り込み済みなんだけどね……」

 サラの言葉を受け流しつつ、そのふとももの、防具もなく薄手の生地一枚あるだけの部分をそっと撫でる。

「なっ、なにをするっ!?」

 弾かれたように、サラを繋ぎ止める鎖がガシャンと大きな音を立てる。
 肌当ての上から触れられたにしては、明らかに過剰な反応だった。

「なるほど、これは効いてるのか、それともただ単に経験がないだけなのか……」
「やめろっ! やめっ……貴様!」

 興味深そうにサラの反応を確かめながら、その身に着けている鎧を外していく。
 純白の薄い生地がぴったりと覆う肌当てだけの姿になると、かえってそのプロポーションの良さを際立たせる。

「ふうん、これはこれでいいもんだな……」
「やっ! なっ、なにをするっ! この恥知らずがっ!」

 薄い布地の上から形のいい乳房を掴むと、再び怒気を孕んだサラの罵声が響いた。

「……なんかズレてるんだよ、おまえは。昨日も思ったけど、天使に恥知らずって罵られるのは悪魔にとっては褒め言葉だと思うんだけどな」
「また詭弁を弄して! 貴様のような、かつて天使だった者が悪しき心をもって人々を苦しめているのは、私たち天使にとっても恥ずべきことよっ! それを、貴様は涼しい顔をしてっ……」
「だから、僕は別に人々を苦しめているつもりはないって言っただろうが。……サラといったか? おまえもそんなに堅苦しいことばっかり言ってて面白いのか?」
「なにを言っている!? 面白いとか、面白くないとかそういう次元の話ではないわ! 私たち天使は、この世界をおまえたち悪魔から護るのが務め。それを貴様はっ……」
「はぁ……僕はおまえの演説を聞きに来たわけじゃないんだけどな。まあでも、それもそうだよな。自分にそぐわない奴はあいつがみんな追い出しちまったから、堅苦しい奴しか残ってないよな」
「なんのことだ? あいつとは誰のことだ?」
「ああ、おまえたちが神と呼んでいる奴のことさ」
「畏れ多いことをっ。あのお方のことをあいつだなどとっ!」
「はぁ、またこれだ……おまえは知らないだろうが、かつては僕みたいな者にとっても天界はそこそこ居心地がよかったんだぜ。それを、ある時期から神の奴の潔癖症が酷くなってな、天界を追放されたり、居辛くなって自ら出て行ったりして、結局おまえみたいな真面目な優等生しか残らなかったのさ」
「ふん、貴様のような者にはあのお方の理想はわからないわ。どうやら、堕天使になるべくして堕ちた者のようね……」
「だから、おまえらの正義を基準にして語ってくれるなよな。実際、僕とおまえらの間にどれほどの差があるっていうんだよ?」
「くっ……やあっ!? きっ、貴様っ!」

 再び胸を鷲掴みにすると、サラは大きく身をよじらせてシトリーを睨みつける。
 その瞳は、怒りに燃えているものの完全に正気を保っているのがわかる。
 その体も、いまだ淡い光に包まれたままだ。

「なるほどな、薬の効果はないってことか。たいしたもんだな、その能力は」
「だっ、だから言ってるだろう、私にはそんなもの効かないと……くっ! その破廉恥な行為を止めろっ!」
「ふっ……どうやら、こっちの方は効いてるみたいだな」
「なっ、なにをっ!? ……はうっ! だからっ、その手を離せっ!」
「ほら、胸を揉まれただけでそこがそんなに湿ってきてるじゃないか。それはつまり、おまえは胸を揉まれて感じてるってことだ」

 シトリーが指差したサラのそこは、白い布地が透けて見えるほどに濡れていた。
 だが、サラにはその意味するところがわからない。

「感じてる……だと? ……何をだ?」
「女としての、淫らな快感をおまえの体が感じてるってことさ」
「なっ……知らないっ! そんなもの私は知らないっ!」

 ストレートに突きつけられたシトリーの言葉を、サラはムキになって否定する。
 だが、シトリーはむしろ楽しそうに口元を歪めていた。

「もちろん、そんなものを知ってたらおまえは天使失格だったろうな。だけど、だからこそ、それを知らないおまえの体が胸を揉まれただけで女としての部分を濡らしてるってことが、薬が効いていることの証拠になるのさ。この薬はな、心に作用するものと、体に作用するものの2つの効果があるのさ。たしかに心へは効かないみたいだけど、体の方はばっちり効いてるってことだ」
「なっ、なんだとっ! ……はううっ!」
「ほら、こんなに乳首が固くなってるじゃないか。これを感じてるって言わないでなんだと言うんだよ?」
「だからっ、私はそんなのは知らないとっ……あうっ!」

 片方の乳首を指先で摘ままれて、サラが身を捩る。

 彼女自身、自分の体の反応に戸惑いを隠せないでいた。
 触れられていないもう片方の乳首も固くなって、肌当ての布地が擦れると痺れにも似た痛みが走るのを感じていた。
 さっきから胸を揉まれ、乳首を弄られるたびに同じような痺れに似た感覚を感じている。
 それは、これまで経験したことがない、全く未知の感覚だが、悪魔に淫らな行為をされているというのは頭では理解できる。
 そのことは、サラには不快感とおぞましさしかもたらさない。
 しかし、体の奥底から不思議な熱が湧き上がってくるように思えた。

「おいおい、肌当てがふとももの下までグショグショじゃないか」

 サラの体を眺め回していたシトリーが、ニヤリと笑みを浮かべる。
 彼の言うとおりに、肌当ての染みは膝上の近くまで広がっていた。
 それに、形のよい胸も薄い生地越しに輪郭がはっきりわかるほどにその頂点が勃っているのがわかる。

 しかし、サラはそれを認めようとしない。
 いや、自分の体に何が起きているのか理解できなかった。

「だからっ、知らないと言っている!」
「ふーん。だったら、もっとよくわかるようにしてやるさ」
「なんだと!? ……あっ! 貴様っ、何をする!?」

 取り出したナイフで、シトリーはサラの体を覆う薄い生地を裂いていく。

 露わになった、ぼうっとした光に覆われた肌は興奮しているかのようにほの赤く染まっていて、その秘所を隠す銀色の茂みは濡れて光り、溢れてきた愛液がふとももを滴り落ちていた。

「ふっ……いやらしい汁をたっぷりと溢れさせてるじゃないか」
「だからこれはっ、貴様が怪しげな薬を使ったせいでっ!」
「そのために使った薬だからな。昨日の時点でおまえの精神には薬は効かないだろうとは思っていたさ。ただ、おまえを捕らえるときに痺れ薬が効いたのはわかっていたからな。だから、肉体への作用を組み込んだ薬を作らせたのさ。……さてと、じゃあ、薬が効いている状態でその素肌に直に触るとどうなるかな?」
「なんだと? ……やっ、やめろっ! ……あうううっ!」

 再び胸を掴まれたサラの体をあの、痺れるような未知の刺激が駆け巡る。
 それに、自分の肌に直接触れるその手から伝わる熱……。
 人の、いや、悪魔の手はこんなに熱いとは思ってもいなかった。
 それに、その柔らかい感触。

「ふふん、いやらしい胸だな。ねっとりと汗ばんで、手のひらに吸いついてくるみたいだぞ」
「なっ、なにを言ってる!」

 否定しながらも、シトリーがからかい気味にいったその言葉と同じことをサラも感じていた。
 乱暴に揉んでいるように見えながら、その実、繊細で巧みな指使いで、乳房に熱い吸盤が吸いてくるように思える。
 それに、体の芯からこみ上げる熱がどんどん大きくなっていく。

「はうっ……やっ、やめろっ……!」
「そんなこと言っても、気持ちいいんじゃないのか?」
「そんなことがあるわけないだろうが! くっ……悪魔に体を弄ばれるなど、おぞましいに決まっている!」

 それは、サラの本心だった。
 いくら経験も知識もないとはいえ、自分が今されていることの意味くらいはわかる。
 それも、悪魔にそのようなことをされているのが、心底不快でおぞましい。
 それなのに、体が燃えるように熱くなっていくのを止めることができない。

「どうした? そんなにももをひくつかせて。もしかして、ここに触れて欲しいのか?」
「だっ、誰がそんなことをっ!? ……よせっ! やめろっ、貴様!」

 シトリーの手が、ゆっくりと股間へと伸びてくる。
 サラは身を捩って逃れようとするが、体を鎖に戒められていてはそれもままならない。

 天使として生を受けて、初めてこんな感覚を味わわせられ、胸を触られるだけで自分の体がどうにかなってしまったのではないかと思うほどだというのに、そこを触られたらどうなってしまうのか……。
 想像もできないだけに、恐怖すら覚えていた。

「……ひいいぃっ!」

 なにかが、裂け目に沿って滑っていく。
 それが、悪魔の指先だというのは見ているからわかるはずなのに、熱せられた鉄棒がそこに当たったように思えた。
 そこに当たった指先の熱と、自分の体の熱がぶつかって爆発したみたいに脳天まで熱くなる。
 何度も何度も、押し寄せる波のようにビリビリしたうねりが押し寄せて、そのたびに視界で火花が弾ける。
 こみ上げる火照りは最高潮に達し、高熱でうなされているように頭の芯まで痺れてくる。

 どうして自分の体がこんな反応を見せているのか、全くわからない。
 これまで誰にも触れさせたことのないところを、女としての大切なところをこんな悪魔に触れられる屈辱とおぞましさに鳥肌が立つほどだというのに。
 心と乖離してしまったかのように体が言うことを聞いてくれない。

「んぁっ! あああああああああっ!」

 自分の股間をまさぐる指がコリッと何かを摘まんだかと思うと、一瞬意識が飛んだように感じた。
 全身の筋肉が強ばって、翼がブルブルと震える。

「すごいな、こんなに溢れさせて。……どうやらイッたみたいだな」
「……イッたですって?」
「ああ。快感が限界を超えたんだな。それだけ気持ちよかったってことだろ」
「ふ、ふざけないで! こんなの気持ちいいわけないわっ!」
「そうか? でも、おまえの体はそう言ってないみたいだけどな……」
「何を言っている……はううううっ!」

 シトリーが、裂け目に潜り込ませた指先を軽くこねくり回しただけで、サラの体が震え、潮のように愛液が迸り出た。

「ほら、こんなに快感を感じてるんじゃないか。認めてしまえよ」
「たとえそうだとしても、それは貴様が妙な薬を使ったからだ。たとえ体を感じさせても、その屈辱は貴様への憎悪に変わるだけだ。私の心は決して貴様などには屈しない」

 きっぱりと言い切ったサラの体は、相変わらず白い光に包まれ、シトリーを睨みつけるその瞳は正気を保っていた。
 しかし、シトリーはむしろ楽しそうに笑みすら浮かべている。

「なるほど、やっぱりたいした効き目だな、この薬は。心は完全に正気で拒絶しているのに、嫌悪と憎しみを抱いてる相手の愛撫で絶頂させられるんだから。……まあいいさ。すぐにおまえの心が折れるとも思っていないし、じっくりやらせてもらうよ」
「ふん、なにをしても無駄だと言っている。私は決して貴様などには決して屈しない。今のうちに私を殺しておいた方が身のためだぞ」
「そうかな? 指だけであんなに派手にイッたんだから、こいつをぶち込まれたらどうなるだろうな?」

 そう言ってシトリーはズボンをずり降ろすと、己の屹立をさらけ出す。
 自分がなにをされようとしているのか悟ったサラの表情が、たちまち怒色に染まっていく。

「貴様ッ! この上さらに私を辱めようというのかっ!?」
「この状況でそれ以外のことをするように思うか?」
「痴れ者めっ、恥を知れ!」
「その台詞は聞き飽きたよ。幸い、おまえのここは準備ができてるみたいだし、遠慮なくやらせてもらうさ」

 そう言うと、シトリーがサラの腰を抱く。
 蜜を垂れ流す割れ目の入り口に肉棒の先が当たり、サラの体がビクッと強ばる。
 次の瞬間、本当に遠慮会釈なしに固いものが突き入れられた。

「くぅっ! っつううううううううっ!」

 はじめに感じたのは、痛みと熱。
 さっき、指で触れられたときに熱した鉄棒みたいだと思ったが、それよりもはるかに熱く感じる。
 赤熱した焼き鏝で、自分の体を真っ二つに裂かれるような熱い痛み。
 熱く太いものが、肉を引き裂きながら自分の中に入ってくる。
 ふとももを滴る愛液に赤いものが混じっていることが、天使にも破瓜の血が流れることを物語っていた。

「くぅうううううっ! ……はぁ……はうっ!」
「どうだ? 奥まで入ったぞ?」

 歯を食いしばって痛みに耐えているサラに、シトリーの楽しげな声が降りかかってくる。

「くっ……悪魔にこの身を汚されるなど……屈辱以外のなにもでも……ないっ……」
「そうか? だったら、もっと屈辱に打ち震えさせてやるとするか」
「くっ、殺せっ! 貴様のような悪魔に凌辱されるくらいならっ、死んだ方がましだっ!」
「誰が殺すもんか。こんなに面白い獲物なんかそうそうないからな。ほら、いくぞ!」
「……はうううううっ!? ああっ、はうっ! くぁあああっ!」

 抵抗もむなしく自分の中に打ち込まれた、その熱く太いものが動き始める。
 屈辱に叫ぶサラだが、その体に、自分でも信じられない変化が起き始めていた。
 不思議なことに、さっきまでの体が裂けているのかと思うほどだった痛みが急速に退いていく。
 その代わりに増していくのは、痺れるような刺激。
 腹の中でそれが擦れると、あの、自分の体がどうにかなってしまったのかと思わせ、目の前を真っ白に弾けさせた痺れを感じる。
 同時に、熱いうねりがこみ上げてくる。
 そのどちらも、さっきまでの比ではなかった。
 体を溶かし、思考が麻痺するほどそうなほどの圧倒的な熱と痺れが、サラを翻弄する。

「だめっ! こんなのっ、激しすぎるっ!」
「だからいいんじゃないか」
「だめぇっ! こんなのっ、わたしっ、またっ!」

 早くも視界に火花が散り始め、悪魔が絶頂と言った、あの意識が飛ぶような感覚が来そうなことを悟ったサラが、抗うように頭を振る。
 だが、いかに足掻いてもあっけなくその時は訪れた。

「ああっ、いやっ、くるぅっ! くぅぁあああああああああっ!」

 絶叫と共に、サラの体を戒める鎖をガシャガシャと激しく音を立てる。
 本人の意志とは関係なく大きく広げられた翼が鎖と擦れ、千切れた羽毛が宙に舞う。
 悪魔に犯されて、サラは望まぬ2度目の絶頂に達してしまっていた。






* * *







「……あうっ、はうううっ! うあっ、あ゛へっ、ひああああああっ!」

 シトリーに凌辱されながら、サラの口から意味を為さない声が漏れる。
 見開かれたその目は焦点が合って折らず、ほとんど意識がない様子だった。
 しかし、それでもその体は淡い光に包まれており、その力が失われていないことを示していた。

「あ゛う゛っ! いぁああああああああああっ……」

 その日だけで15度目の絶頂を迎えたサラの体が痙攣したかと思うと、糸が切れたようにがっくりと崩れる。

「ふん、気絶したか」

 相手が完全に気を失ったのを確かめて、シトリーがようやくその体を離す。
 力なく、四肢を戒める鎖に吊された状態のサラの体はピクリとも動かない。

 しばらくそのまま様子を見ていると、サラの体を覆う光が消えた。

 それを見て、シトリーが手のひらから触手を伸ばす。
 しかし、触手が触れようとすると再びサラの体が光に包まれた。

「なるほど、薬が切れただけか……」

 光が消えたのはサラの能力が切れたためではなく、媚薬の効果が切れたためだと理解したシトリーは、触手を伸ばしたまましばらく思案する。






「メリッサ、ちょっとニーナを呼んできてくれ」
「はい……それはよろしいのですが……」

 しばらく考えていた後で、様子をずっと見守っていたメリッサにニーナを呼びにやらせようとした。
 そのことには素直に応じたものの、メリッサはどこか申し訳なさそうな、浮かない顔をしている。

「ん? どうしたんだ?」
「いえ、私たちの作った薬があまり効いていないようなので……。お役に立てず申し訳ございません」
「いや、そんなことはない。十分に役に立ってくれてるさ」
「しかし、あの薬は本当なら……」
「僕は、最初からそこまで効くとは思ってなかったんだ。まあ、それで効いてくれていれば楽だったんだけど、それはそれで、その程度の相手じゃ歯応えがないとは思わないか?」
「では、シトリー様はこれからいったいどうなさるおつもりなのですか?」
「まあ、そのためにニーナに働いてもらうのさ。というわけで、すぐにあいつを連れてきてくれないか?」
「かしこまりました」

 一礼して、メリッサが牢を出て行く。
 メリッサと会話を交わしていた間も、シトリーはサラの体に触手を絡ませたままだった。





 そのまま、シトリーはメリッサがニーナを連れて戻ってくるまでその状態を維持していた。





「お呼びですか〜、シトリー様?」

 ニーナが牢の中に入ってきて、ようやくメリッサはサラに絡ませていた触手を解く。
 すると、その体を包んでいた光も消え失せる。

「ああ。ちょっと働いてもらいたいことがあってな。おまえの力で、こいつに夢を見させてくれないか」
「夢ですか〜? 全然かまいませんけど、どんな夢にしましょう?」
「それはおまえに任せる。できれば、こいつの感情や欲望をそそらせるようなやつを頼む」
「わかりました〜」

 事情を飲み込めていないニーナの応答には、全く緊張感がない。
 夢魔であるニーナは、相手に夢を見させて、そこから生まれる感情や欲望を喰らって生きている。
 そんな彼女にとって、夢を見させるという行為は文字通り朝飯前のことであるはずだった。

 意識を失ったままのサラの前に立つと、ニーナは濃いピンクの瞳でその姿をじっと見つめる。
 およそ淫魔や夢魔の類は濃淡の差はあれ赤みを帯びた瞳をしているものだが、ニーナのそれはどちらかというと淡く明るい感じで、髪と同じローズピンクをもう少し濃くしたような色をしている。
 それが、不意に鮮やかさを増し、ルビーのような真紅の輝きを放ちはじめた。

 すると、サラの体の周囲に、再び白い光が浮かび上がた。
 しばらくそのままサラを包みこんでいた光が、フッと消え失せる。

「だめです〜。心の中に入ろうとしても、なにかに弾かれるみたいで……心の中には入れなかったら私でも夢を見させるのは無理ですぅ〜」

 そう言って頭を横に振るニーナの瞳からは、さっきの輝きは失せていた。

「やっぱりそうか。まあ、おまえの能力もある意味精神への干渉だからな」

 ある程度予想がついていたシトリーには、別段驚きはなかった。
 そんなふたりのやりとりを見ていたメリッサが、不安そうに口を開く。

「あの、シトリー様、これはいったい?」
「ん? まあ、それがこいつの能力だな。どんな手段であれ、自分の心に干渉したり攻撃したりするものを全て防ぐんだろうな」
「それでは、どうしたらよいのですか?」
「そうだな、とりあえずは、こいつに夢を見させるようニーナに頑張ってもらってとするか」
「でも、そんなことどうやって?」
「そうですよ〜、心に入れないのに、どうやって夢を見させるんですか〜?」
「まあ、やってるうちにこいつの防御が解けるかもしれないだろ。とにかく、朝まで頑張ってやってくれ」
「う〜、シトリー様がそうまでおっしゃるんでしたら……」

 もとより、シトリーに頼まれて断れるわけがなく、ニーナはもう一度サラの方に向き直って意識を集中させる。
 そして、その瞳が真っ赤に輝きはじめるのと同時に、サラの体は白い輝きに包まれた。

「僕の計画がうまくいくかどうかはおまえにかかってるからな。頑張ってくれよ、ニーナ」
「はい〜」

 サラの方に意識を集中させながらも、ニーナはシトリーの言葉に頷き返す。

「で、すまないけどメリッサには見張りと連絡役を頼む。もし、朝までにニーナがこいつに夢を見させることに成功したら、すぐに僕に知らせてくれ」
「かしこまりました」

 傍らに控えているメリッサにそう頼むと、シトリーは牢を後にしたのだった。

 
 


 

 

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