黄金の日々


 

 



第2部 第7話 進撃開始







 そして、ヘルウェティアの軍団を含めた魔界の軍勢がフローレンスを出立して10日後。
 シトリーたちが世界樹の森の近くまで来ると、遠目に見てもそれとわかるほどに世界樹の葉は茶色く色褪せ、天地創造から間もない頃から生きてきた伝説の樹も枯れつつあるのが一目瞭然だった。




「お帰りなさいませ、シトリー様、フィオナ様。それに皆様も、お待ちしてました」

 森の外では、イリスをはじめとするエルフの巫女たちとメリッサが出迎えに来ていた。
 先頭を進んできたアナトとシトリーの後ろからフィオナが進み出てくると、集まっている弟子たちの顔を見回す。

「みんな、出迎えご苦労様」

 その言葉にイリスたちが頷くのを見て、フィオナはシトリーたちの方を振り向く。

「それでは、皆様は少しそこで待っていてください。すぐに道を開けますから」

 そう言うと、フィオナは弟子たちと共に森の正面に立って手を木々に向かってかざし、目を閉じて意識を手中し始めた。

 すると、ザザザ……と音を立てて森の木々が動き始めた。



 フィオナたちが、重い扉を開く時のように前に突き出した両腕を少しずつ開いていくと、森の木が、まるで触手のように根を這わせてゆっくりと、しかし確実に動いて道を開けていく。



 半刻もすると、オーガーやジャイアントの巨大な体躯でも楽に通れるほどに大きな、樹木のトンネルが森の中に現れていた。

「みな様、お待たせしました。改めて、世界樹の森にようこそおいでになりました」

 シトリーたちの方を振り向いてそう告げたフィオナは、肩で息をしていて、疲労の色を隠せないでいた。

「おい、大丈夫か、フィオナ?」
「はい、これくらいなら大丈夫です。長時間意識を集中していたために少し疲れた程度ですから」
「そういうものなのか?」
「ええ。基本的に私たちエルフの使う術は、精霊たちと意識を通わして使役するものなのでそれなりの素養と修練は必要ですが、特別な魔力は必要ありませんから。ただ、こうやって長時間にわたって精霊を使役するときにはその意識に呑まれないようにするために集中し続ける必要がありますので。でも、本当にもう大丈夫です。さあ、では参りましょう」
「ああ」

 フィオナに促されて、シトリーたちに率いられた軍勢は世界樹の森へと入っていく。

「……それにしても、これだけの木々を動かすとは見事なものね」

 森の中心部へと続く樹木のトンネルを見上げながら、アナトが感嘆の声を上げた。

「お褒めにあずかり光栄です。ですが、これはかつてこの森に入ってくる者を阻んでいた樹木の結界の応用のようなものですから、ある程度の術者が揃っていればさして困難な業ではありません」
「なるほどね。それで、このトンネルはどこまで続いてるのかしら?」
「はい、世界樹の下にある私たちエルフの里までです」
「ふうん……。ねえ、このトンネルって、作ることのできる場所は決まってるの?」
「いえ……。もしかして、アナト様は出口のことをおっしゃっているのですか?」
「ええ。察しがいいわね」
「もちろん、私もモイーシア側の出口は世界樹の森のなるべく北寄り、クカスの砦を臨むことができる場所にしようと思っていました」
「さすがね。そうしてくれると助かるわ」

 いかにも興味深そうに木々のトンネルを見回すアナトの質問に答えながら、フィオナは一行を先導していく。

「とりあえず、皆様には里に着くと野営を張っていただいて、私たちはここに残っていた皆に今回の作戦の説明をすることにします。その際に、作戦の細かいところまで詰めておこうと思いますのでアナト様とシトリー様にも聞いていただきたく思います。それに、シンシアさんや協力してくる魔導師部隊を率いてくださる方にも同席していただけるでしょうか?」
「ああ、それなら大丈夫と思うけど。シトリーはどう?」
「ああ、僕も大丈夫ですよ。それに、シンシアも自分から出席するんじゃないですかね」

 アナトと馬首を並べて進みながらシトリーも軽く相槌を打つ。



 そうやって、この後の予定を話し合いながら進むうちに樹木のトンネルを抜けて、一行は世界樹のエルフの里に到着したのだった。






* * *







 ――数日後。
 深夜、モイーシア、クカスの砦。

 このクカスの砦は、モイーシアやヘルウェティアといった国々の北方に連なる大山脈からの侵入を防ぐ関門であった。

 山脈の谷間を走る、ヘルウェティアからモイーシアにいたる街道の出口に高く堅固な城壁を築きあげ、その両側は切り立った崖と接しており、完全に街道を塞ぐ形になっていた。
 この辺りの山脈の斜面はいずれも、登るのも降りるのも困難な急峻な地形になっており、ヘルウェティアから街道を通ってくる者はもちろん、北方の蛮族もモイーシアに入るにはいったん街道に出てからクカスを通過せねばならない。
 そのため、砦には常に大規模な守備隊が駐屯しており防衛態勢には抜かりがなかった。
 ただでさえ、山岳地帯を抜ける街道が細く険しい道ということもあって、力ずくでこれを抜くのはいかに大軍をもってしても不可能であろうと言われていた。

 ただ、シンシアの分析したとおりその防御は北方に対するもので、見張り塔もほとんどが北を向いたものばかりであった。
 それを油断と呼ぶには、あまりにも酷であったろう。
 なにしろ、北方は砦のある場所以外は越えるのも険しい山々が連なり、さらに西側の国境地帯には、これまで人が越えてきたことのない世界樹の森が広がっていたのだから、この、砦の南側をモイーシアの民が完全に安全地帯だと思い込んでいたのも致し方なかった。





 その日は折しも新月で、星の煌めきのみが夜空に散らばるだけの暗い夜であった。

 真夜中とはいえ、城壁の上だけでなく城壁の下にも街道を照らすように松明が煌々と焚かれ、北の街道に異常がないか見張りの兵士たちが夜を徹して監視していた。
 なにしろ、各地で蛮族の蜂起が起き、同時に魔界の軍勢が侵入して来ている昨今の情勢において、いまだ外敵の侵入を許してないのはモイーシアと、その東に隣接する神聖王国イストリアのみとなっていた。

 彼らモイーシアの兵たちにとっても、魔法王国と謳われた西隣のヘルウェティアが悪魔の手に堕ちたことは一大事であった。
 そう遠くない時期に、ヘルウェティアから魔界の軍勢が押し寄せてくるだろうというのは彼らも予想していた。
 ただ、いくらヘルウェティアといえども世界樹の森を越えてくることは考え難く、その侵攻には必ずやこの北の街道を通ってくることが想定されていたため、クカスの砦はいつその時が来るかという緊張感に包まれていた。
 それゆえ、砦の防衛のために都からも増援が派遣されており、夜間の見張りも強化されていた。

 ただ、いかんせんその警戒もほとんどが北の街道のみに向けられていた。
 おそらく、砦の南側にももう少し警戒の目を向けていたならば、その夜、世界樹の森から出てきて近づいてくる一隊に気づく者もあったかもしれないのだが。

 その、闇の中を静かに進んできた集団は砦のすぐ近くまで来て止まり、次の瞬間、ふっとその姿は掻き消えたのだった。






 そして、ここは城壁の上。

 突然、ザアアアアアッと一陣の狂風が吹き抜けたかと思うと、周囲を照らしていた松明の炎を掻き消した。

「なんだなんだ?今の風は?」
「まったく、こんな月のない夜に灯りが消えちまったらなにも見えやしないぜ。おい、早く火をおこして松明を点けろ」
「わかった……うっ!?」
「おい?どうした?……ぐ!?」

 松明に火を点けようとした兵士と、その傍らに立っていた兵士が短い呻き声を上げて立て続けに倒れる。

 そこに近寄ってくる、ふたつの影。
 人間には真っ暗にしか感じられない闇の中で、体に矢が刺さったままで倒れている兵士がピクリとも動かないのを確かめ、互いに頷き合う耳先の尖ったポニーテールの輪郭。
 メルとリルの姉妹だった。

 そして、ふたりの影は再び闇の中に消えていく。



「……うぐっ!?」
「……なっ!?」

 松明の消えた城壁の上の、あちこちで矢が風を切る鋭い音がしたかと思うと、続けて小さな呻き声が上がる。
 おそらく、彼らにはなにが起きたのかすら理解できなかったに違いない。
 なにしろ、ただの人間の目には一寸先も見えない闇の中で襲われたのだから。
 その上、放たれた矢にはニナが用意した即効性の毒が塗ってあった。
 姿の見えない敵の放つ矢に、見張りの兵士は次々と倒れていったのだった。




 メルとリルをはじめとするエルフの射手たちが、城壁の上を制圧していた頃。

「おい、城壁の松明が消えたぞ」
「ああ、さっきものすごい風が吹いたからな」
「それにしても、これだけある松明が全部一度にか?」
「たしかに……。それに、灯りを点け直すのも遅いよな……」
「もしかして、何かあったのか?」

 城壁よりさらに高い位置にある見張り塔でも、城壁の異変に気づいていた。

「とにかく、将軍に報告を」
「ああ……うわっ、なんだ!?」

 異変の報告のために詰所から出ようとした兵士が扉を開けると、猛烈な風が吹き込んできた。
 いや、それは風と呼ぶにはあまりにも凶暴で、詰所の中のランタンが一瞬で破壊されたほどの衝撃だった。
 そのまま、さらに速さと鋭さを増した風は、かまいたちとなって灯りの消えた詰所の中を暴れ回る。

「うわあぁ……!」
「ぐわっ……!」

 真っ暗な、しかもさして広くない詰所の中で、為す術もなくかまいたちに切り刻まれる兵士たちの悲鳴が上がる。
 詰所の中にいた、20人の兵士が沈黙するのにさして時間はかからなかった。

 そして、空気を切り裂く風の響きしか聞こえなくなった部屋の入り口に……。

「さてと、ここは片付いたかしら?」

 そこに姿を現したのはフィオナだった。
 詰所の中に息をしている者がいないのを確認すると、窓から周囲を見回す。

「どうやら他もうまくいってるみたいね」

 彼女が今いるのも含めて、砦に6つある見張り塔の灯りが全て消えているのを見て小さく呟くフィオナ。

「後は、砦の中の宿直と、眠っている者たちだけね……」

 事前に頭の中にたたき込んでおいた砦の図面を思い浮かべながら、フィオナは静かに螺旋階段を降りていった。





 そして、砦の中においても城壁の見張りと同じことが繰り返された。

 要所要所に配置された詰所や見張り所では、フィオナの弟子たちが操る風の精霊によって灯りを消され、視界を奪われたところに容赦なくエルフたちの毒矢と精霊魔法が襲いかかった。
 並の人間なら身動きもままならない闇の中でも、自在に音もなく動ける彼女たちは、どんな手練れのアサシンよりもたやすく闇討ちを遂行することができた。
 なにより、彼女たちはシトリーのためならどんなに冷酷で卑怯な戦い方も厭わなかった。

 そしてそれは、砦の将兵たちが眠っている大部屋においていっそう際立っていた。

 暗闇の中、エルフの娘たちに手引きされた魔導師が部屋の中に毒霧の魔法を放ってドアを閉め、魔法で鍵を掛ける。
 それを、隣の部屋でまた繰り返す。
 結局、その夜砦で眠りについていた者で、再び目を覚ます者はいなかったのだった。



 そして……。



 ――ここは、この砦の守備を任されている将軍の寝室。

「……ん?」

 彼が妙な胸騒ぎを覚えて目を覚ましたのも、偶然ではなかった。
 このような時期に北方防衛の要を任されるほどの男である。決して凡庸な人物ではなかった。
 常に危険と隣り合わせの生活のため、非常時にはいつでも対処できるように浅い睡眠をとる習慣が身についていた。
 それになにより、歴戦の勇者としての勘が彼の目を覚まさせたといっていい。

 まずはベッドから身を起こして、枕元に置いていたランプに火を点ける。

 その時だった。

「あら?起きちゃったの?」

 声のした方を見ると、部屋の入り口に赤みを帯びた髪の少女が立っていた。
 まだ幼さの残る顔立ちだが、髪から覗く尖った耳は、最近ではめっきり見なくなったエルフのものだ。

「なんだ、おまえは?」
「なんだって言われても、ボクたちはこの砦を貰いに来たんだけどね」

 彼の質問に、無邪気な笑みすら浮かべて答える少女。
 だが、彼女の漂わせている雰囲気には冷酷なものすら感じられた。

「くっ!貴様、魔界の手先か!?」
「やだなぁ、魔界の手先だなんて。ボクは、シトリー様の下僕だよ」
「シトリーだと?」
「そう。世界で一番素敵なボクのご主人様。そして、偉大な悪魔なんだよ」

 そう言った少女のうっとりした表情は、どこか狂気を思わせるものだった。
 危険を感じた彼は、傍らの剣を手にして鞘から抜き放つ。

「きゃあっ!そんなもの出したら危ないよ、おじさん!」

 それを見た少女は、いかにも大袈裟に驚いて見せる。
 だが、言葉とは裏腹にその表情には微塵も緊張感は浮かんでいない。
 それどころか、クスッと悪戯っぽい笑みすら浮かべていた。

「もう、そんなことするんならこうだよ。……えいっ!」

 少女が指先をこちらに向けると、ランプから伸びた炎が剣に取り付き、蛇のようにとぐろを巻きながら彼の腕まで駆け上がっていく。

「なっ、うわああああっ!」

 咄嗟に剣を手放したものの時すでに遅く、炎は彼の全身に巻き付いてその服に燃え移った。
 それを見ていた少女が楽しそうにパチンと指を鳴らすと、炎が一気に彼を包み込んだ。

「ぐあっ、ぐああああああーっ!」

 全身を焼かれてもがき苦しんでいた将軍は、そのまま倒れ込んで動かなくなった。

「あらら?もう終わりなの、おじさん、まだ何もしてないじゃない?……て、わっ、わわわ!?」

 ニヤニヤしながらその様子を眺めていた少女だが、炎が寝具に燃え移ったのを見て急に慌て出す。

「ちょっ、ちょっと待ってよ!わっ、わっ、どうしよ!?……きゃっ!?」

 と、燃え広がる炎に慌てふためいている少女の耳許を冷たいものが掠めた。

「……え?これは?」
「まったく、炎の精霊を使うのはいいけど、もう少し状況を考えなさい、イリス」

 大量の水が勢いよく降り注いで炎を消していくのを呆然と眺めていた少女の背後から、呆れたような女性の声がした。

「……フィオナ様」

 振り向くと、そこにはフィオナが立っていた。
 前に向かってかざした彼女の手からは、勢いよく水が放たれて炎を消していく。
 やがて、火が完全に消えたのを確認してからようやくフィオナは腕を降ろした。

「もう。せっかくシトリー様が砦を無傷で落とそうとしているのに、燃えてしまったら全部台無しじゃないの」
「……はい、ごめんなさい、フィオナ様」
「だいいち、あなたはもう少し水の精霊を操る練習をした方がいいわよ」
「……はい」

 精霊使いの師としての厳しい表情を見せて叱責するフィオナの言葉に、少女――イリスは項垂れるしかなかった。

 と、すっかり反省している様子の弟子の姿にフィオナがふっ、と表情を緩める。

「とにかく、彼がここの司令官のようね」

 黒焦げの死体を一瞥したフィオナの顔には、敗者への憐れみといった色は全く見えない。
 むしろ、任務を遂行できた感慨深げな表情を浮かべていた。

「あの、フィオナ様……他はどうなってますか?」
「もう、ここで最後。後は全部始末が終わってるわ」
「じゃあ……」
「ええ。これでこの砦は私たちの、いえ、シトリー様のものよ」
「よかったぁ。……でも、難攻不落の砦って言われてたからもっと手強いと思ってたのに、本当にボクたちだけで落としちゃいましたね」
「もう、あなたはすぐそうやって調子に乗るんだから。過信は油断を生むだけよ。今回の夜襲だって、砦の図面を用意してくれていたシンシアさんたちや、砦の中まで私たちを運んでくれた魔導師の皆さんの力があったから成功したのよ。それを忘れたらいけないわ」
「はい、フィオナ様」
「それでは、シトリー様に連絡しましょうか。お願いね、イリス」
「はい!」

 元気よく返事を返すと、イリスは城壁に登る階段の方へと駆けていく。




 程なくして、砦の城壁からイリスの打ち上げた火柱が上がるのを見て、世界樹の森の出口で待機していたシトリーたちの軍勢が動き出す。
 それを、フィオナたちが城門を開けて迎え入れた。

 難攻不落と言われたクカスの砦は、こうして文字通り一夜にして落ちたのであった。






* * *







 そして翌日。

 前夜の惨劇の跡を兵士たちが片付けているさなか、大広間では主だった幹部たちが作戦会議を開いていた。

「では、今後の方針に関して何か意見のある人はいる?」

 司令官であるアナトの問いかけに、口を開いたのはシンシアだった。

「この国における目標は、都のアルドゥヌムです。ですが、こちらから進撃するのではなく、モイーシア軍をこちらで迎え撃つのが良いかと思います」
「それは、どうしてかしら?」
「はい。それは、攻めてくる敵を迎え撃つ方がこちらが戦場を選択できるからです」
「たしかに、戦術的にはその通りだけど、そうまで言うからにはあなたにはなにか策でもあるわけよね?」
「モイーシアは軍事大国として知られています。魔導師も多少はおりますが、我が国と比べたら微々たるものです。それは向こうも承知しているでしょうから、魔導師はあくまでも補助的な役割に留めて、力勝負に持ち込もうとするでしょう。おそらくは、かの国自慢の重鉄騎兵隊を前面に押し立てて、魔法戦を仕掛けられる前に速攻を仕掛けてくるに違いありません」
「なるほど、それで?」
「我が軍も数の上では勝っていますし、そのままでも勝利を収めることができるでしょうが、精強で知られるモイーシアの軍勢とまともにぶつかったらこちらの被害もおそらく甚大なものになります。そこでいかにこちらの被害を少なくするかですが、幸い、完全に夜襲に成功したことで、敵は我が軍の全容を把握しておりません。ですから、それを利用して伏兵を置こうと思います。このクカスからアルドゥヌムへ至る街道沿いに、両側を森に挟まれた平原があります。そこの森は、通常なら兵を伏せることなど不可能なほどに鬱蒼とした森なのですが、私たちの陣営には木々を操ることができるフィオナさんたちエルフの巫女がおりますので、彼女たちの力があればここに兵を隠すことができます。そこで、敵に気づかれぬように夜のうちにそこに伏兵を配置しておき、中央の平原でモイーシア軍を迎撃します。モイーシアの重鉄騎兵隊は突進力は恐るべきものがありますが、側面や背後からの攻撃には非常に脆い一面があります。そこで敵の圧力に押されたと見せかけて後退し、敵がさらに押し込んでくるところに、森に配置した伏兵がその側面と背後を突いて包囲殲滅するというのが私の考えた作戦です」

 滔々と述べられるシンシアの長い説明を、ひとつひとつ吟味するようにアナトは軽く目を閉じて聞いていた。
 そして、その話が終わると目を開いて確認するようにシンシアに尋ねる。

「たしかに、伏兵による挟撃はいい作戦と思うわ。ただ、問題は向こうがこちらを攻めてくるかどうかね。それについてはなにか確証でもあるの?」
「もちろんです。……このクカスの砦が我々の手に落ちたことはモイーシアにとっては一大事です。しかし、向こうはまだそのことを知らないでしょう。ですから、そのことをこちらから知らせてあげるのです。モイーシアにとって重大な危機が迫っている、と。」
「おいおい、こっちから知らせてやるだって?」

 シンシアの言葉に、シトリーが思わず口を挟む。
 一方で、アナトの方は楽しげな表情を浮かべていた。
 シンシアも、クスッと小さく笑うとシトリーに説明を始める。

「知らせるといっても、別に使者を送るとかそういうものではありません。先ほど私が言った、作戦予定地の平原の先にエネズという町があります。交通の要衝で、この国でも3番目に大きな町です。この町を攻撃すれば、急を告げる知らせが都まで走るでしょう。モイーシアとしても、エネズを抜かれたら都のアルドゥヌムまではめぼしい要塞はないので、全力で救援に来るはずです。それを迎え撃てばいいのです」
「む、そうか……。それにしても、向こうがうまくその平原に誘い込まれてくれるか?」
「それは大丈夫だと思います。私の調べたところでは、エネズの周辺で大軍を展開できる場所はその平原以外にありません。伏兵さえ気づかれないように配置することができたら、敵を間違いなくそこに誘い込むことができるでしょう」
「なるほどな」

 細かく説明を受けて、シトリーはようやく納得する。
 それを見て、アナトが一同を見渡した。

「じゃあ、作戦はそれで行くとして、最大の問題は敵を正面から引き受ける役割をどの部隊がするかね。シンシアさんの話だと、敵さんはかなり破壊力があるみたいだから、それを受け止めてわざと引いてみせるのはかなり難しい役目になるはずよ」、
「はいっ!はいっ、あたしにっ!ぜひあたしにやらせてくださいませ!」

 アナトの言葉に、真っ先に手を上げたのはマハだった。

「いや、本当にやれるのか?」

 と、シトリーがじとっとした視線を向けても、マハは引き下がらなかった。

「大丈夫です!あたしが人間ごときに引けをとるわけがないじゃありませんか!」
「いや、だから、わざと負けてみせる役なんだぞ。そんなのができる性格じゃないだろうが」
「やってみせます!ここでシトリー様の役に立てなければ、あたしがここにいる意味がないじゃないですか!それに、この1ヶ月うちの部隊をずっと訓練してきたのも、きっとこの日のためです!きっと立派にやり遂げてみせます!ですから、ですからどうかあたしにやらせてください!」
「ああもう、わかったわかった!……こいつはこう言ってますけど、どうします?」

 必死に食い下がるマハの勢いに押されて、シトリーはアナトの判断を仰ぐ。

「そうね。……いい?敵に罠だと悟られないように後退するのは、指揮の行き届いた部隊でないとできないことよ。率いる将の統率力と、部隊の規律が相当に必要とされるわ。それを、ちゃんとやれるかしら?」
「はいっ!この身命に替えましても必ずやって見せます!」
「そう?……わかったわ。それはあなたに任せましょう」
「ははっ!」

 別に、その柄でもない発言にほだされたわけでもないだろうが、最終的にアナトはマハが前線を受け持つ許可を与えた。
 深々と頭を下げるマハを、まだ少し不安げに見ているシトリーだが、それには構わずアナトは話を進めていく。

「では、次はエネズの攻撃と伏兵を森に移すタイミングについてね。この作戦の要点は、いかに敵に気づかれないように伏兵を森に移すかだから、兵の移動には細心の注意が必要よ。たぶん、先にマハの部隊で町を包囲して、周囲を偵察する余裕を敵に与えない方がいいでしょうね……」

 アナトの進行のもと、フレデガンドやエルフリーデたち現場の指揮官の意見も加えながらシンシアの作戦について細かいところを詰めていく。

 結果、マハの部隊が先行してエネズの町を囲み、他の部隊は、主に夜間行軍中心で街道から外れた森林地帯伝いに現地に向かうことが決まったのだった。






* * *







 ――その夜。

「ただいま参上いたしました、シトリー様」

 砦の片付けも終わり、シトリーのために用意された一室を、フィオナ、イリス、ニナ、メル、リルといった、エルフの主立ったメンバーが訪れた。

「ああ、おまえたちもご苦労だったな。今度の夜襲、本当によくやってくれたよ」
「ありがたいお言葉です。シトリー様のお役に立てて私たちも嬉しいですわ」

 労いの言葉に笑顔で返すフィオナと心はひとつだというように、居並ぶ面々も嬉しそうに頷く。
 あるものは崇拝の眼差しを、またあるものは愛しい人に対する情熱的な眼差しを向けて。

「だけど、本当によくおまえたちだけでこのでかい砦を落としたもんだ」
「いえ、シンシアさんや魔導師の皆さんの協力があってのことです。私たちだけではきっと成功しなかったでしょう」

 控えめなフィオナの返事に、その場にいる全員がまた一斉に頷く。

「とは言っても、やっぱりおまえたちの手柄が一番だからな。今夜は褒美として、たっぷりとおまえたちの相手をしてやるよ」

 機嫌良くそう言ったシトリーの言葉に、それまで控えめな態度を崩さなかったイリスたちが小さく歓声をあげた。

 それを見て苦笑を浮かべたフィオナが、シトリーの方に向き直る。

「ありがとうございます、シトリー様。それで、あの……」

 そこまで言ったものの、そのまま言葉が途切れた。
 しかも、恥ずかしそうに頬を染めてもじもじとしている。

「どうした?なんか希望でもあるのか?」
「あ、いえ、はい。……みんな、ごめんなさい。少しだけ私のわがままを通させてちょうだい」

 と、後ろを向いてすまなそうに頭を下げる。
 さすがに、自分たちの指導者だったフィオナにそう言われてはその場の一同も断れない。

「で、なにがしたいんだ、おまえは?」
「はい、あの……シトリー様に、お口でご奉仕したいのですが……」
「ん、なんだ?フェラがしたいだけなのか?」

 フィオナの返事があまりにもなんでもないことなので、シトリーの方が首を傾げてしまった。
 すると、フィオナは座っているシトリーの前に膝をつくとそのズボンをずり下ろして股間のものを剥き出しにさせた。
 そして、四つん這いになって上目遣いにシトリーを見上げる。

「あの……この姿勢でご奉仕させてくださいませ……」

 白い肌を紅潮させて、羞じらいながらフィオナがおねだりしてくる。

「あ、ああ……僕は別に構わないけどな」
「ありがとうございます、シトリー様。……それでは、失礼します。ん、あむ……」

 許可を得て、フィオナは嬉しそうにシトリーの股間に顔を寄せるとまだ膨らんでいないペニスをそっと口に咥えた。
 口の中のそれを唇ではむっ、はむっと甘噛みしては、口に咥えたままでふるふると頭を振る。

「ん……あふ、んん、シトリー様の味がします。んふ、んふふ……あ、少し大きくなって、感じてらっしゃるんですね。私の口の中でこんなに固く、熱くなってきて、ああ、シトリー様……ちろ、ぺろっ……」

 光の加減で金色にも銀色にも見える淡いブロンドの髪を揺らせて夢中でしゃぶっていたフィオナは、いったん口を離すと逞しく膨らんだ肉棒にうっとりと目を細め、今度は舌を伸ばして舐めあげていく。
 まだ首を傾げて、四つん這いになって熱心にフェラチオをするフィオナを見下ろしながらシトリーがその理由を尋ねる。

「おまえ、なんでこの姿勢でフェラがしたかったんだ?」
「あふ……それは、以前イリスがこうやってシトリー様にご奉仕していた姿が本当に可愛らしくて……ぴちゃ、れるっ……それで、私もこうやってこの姿勢でシトリー様にご奉仕したくなったの。んふ、ちゅぱ……」
「やっ!?フィオナ様ったらなに言ってるの!?ボ、ボク、そんなの知らないよ!」

 フィオナの言葉をイリスが慌てて否定するが、愛の実を飲まされたときに確かに彼女がその姿勢で激しいフェラをしたのを思い出してシトリーも思わず苦笑する。
 あの時のイリスの姿を、フィオナはよほど気に入っていた様子だった。
 当のフィオナも、イリスの方にちらっと視線を投げかけると、くすっと楽しそうな声を上げた。

「もちろん、あなたはあの時のことを覚えていないでしょうね……れろ、ちゅむ……。でも、あの時のあなたは小さな子犬みたいで、本当に可愛らしくて、そしてすごくいやらしかったのよ。ほら、こんな感じで……ん、はーむっ」

 そう言って口いっぱいに肉棒を頬張ると、フィオナはうっとりと目を閉じてくいっ、くいっとその華奢な腰を振る。
 左右に揺れるその尻に、嬉しそうに振られる尻尾が付いているような錯覚すら覚える動きだった。

「そんなっ!?ボクは、ボクは……」
「たしかにそうだったな。あの時のイリスは本当に子犬みたいな格好で、夢中になって僕のをしゃぶってたよな」
「やだっ!シトリー様まで!?」

 からかわれて真っ赤になっているイリスを眺めながら、クックックと低く笑うと、シトリーはおもむろに腕を伸ばしてフィオナの額に指を当てた。

「そんなにその姿勢で楽しみたいんだったら、こんなのはどうだ?」
「え、シトリー様?あっ、あああああっ!」

 シトリーの瞳が輝きを増して、フィオナが悲鳴をあげる。

 そして、それが収まった時に彼女の口から出てきたのは……。

「わ、わん?……っ!?」

 犬の鳴き声のような声を上げて、フィオナ自身驚いたように目を丸くする。
 そんな彼女に、シトリーは悪戯っぽくウィンクしてみせた。

「おまえの口からは犬の鳴き真似しか出ないようにしたのさ。その方が雰囲気出るだろ?それと、舌と口の感度を少し良くしてみたけど、どうだ、気に入ったか?」
「……わんっ、わんっ!……ぴちゃ、れるっ!?れろっ、ぴちゅ、ちゅぱっ、ぺろっ……」

 説明を受けて、嬉しそうに目を細めて大きくふたつ鳴き声をあげると、フィオナは再び肉棒に舌を這わせる。
 一瞬、舌から走ったいつもと違う強い快感に驚いた顔をしたが、すぐに表情を緩めると、先ほどまでよりもずっと熱心に肉棒をしゃぶり始めた。

 すると、やはり驚いた様子で彼女とシトリーを交互に眺めていたイリスたちが、一斉にシトリーに駆け寄ってきた。

「シトリー様!ボクにもフィオナ様と同じことをしてください!」
「私も!」
「私にも!」
「私も子犬みたいになってシトリー様にご奉仕したいです!」
「おいおい……参ったな、これは」

 エルフの娘たちに取り囲まれてねだられ、シトリーは呆れたように苦笑いを浮かべた。



 そして、その数分後。



「んふ、ぺろ、れろ……」
「ぴちゃっ、ぴちゃっ……」
「ぺろろっ、ちろっ……」

 真ん中にフィオナを挟むように、メルとリルの双子がポニーテールを揺らして、3人で仲良く肉棒に舌を伸ばす。

「えるっ、れろぉ……」
「んふ、ぴちゃ……」

 イリスとニナは、両側からシトリーにしなだれかかってその首筋や胸に舌を這わせていた。
 シトリーの手が伸びて、イリスの股間とニナの胸を指先で愛撫する。

 すると……。

「きゃうぅううん……」
「くーん、くふぅうううん……」

 ぴくぴくっとその尖った耳先を震わせて、ふたりの口から甘えるような鳴き声が洩れる。

 そんな姿を、シトリーはニヤニヤしながら眺めていた。

「どうだ?楽しいか、おまえたち?」
「……わんっ!」

 シトリーの言葉に、全員が元気のいい鳴き声で応える。

 そんな、愛らしくも美しい子犬たちの淫らな宴は夜遅くまで続いたのだった。













 そして、その同じ頃。

 ここ、アナトの部屋では……。

「アナト様!もう……もうこんなことはおやめください!」

 アナトに呼ばれてしかたなく部屋を訪れたアンナは、熱い接吻の後にそのままベッドに押し倒された。

「あら?どうして?」
「どうしてって……もう、シトリー様も戻ってこられましたし……」
「あら?それがどうかしたの?」
「ですが、私はシトリー様が戻ってこられるまでという約束で!」
「でもね、やっぱり退屈を持て余すのはしかたがないのよね」
「そんなっ!もう敵国への侵攻も始まっているのですから、そちらに専念なさらないと!」
「それは、司令官としての仕事はちゃんとするわよ。でも、こんな時でも息抜きは必要よ」

 そう言うと、アナトの手がすすっとアンナの服の裾から潜り込んでいく。

「アナト様!……あうっ、やあぁっ!」

 その行動を咎めようとしたアンナの言葉は、アナトの指先がリズミカルに動き始めるとすぐに悲鳴へと変わった。

「それに、シトリーもきっと今頃は可愛い下僕たちにご褒美をあげてるんじゃないの?大変よね、下僕の人数が増えると、あなたの分が減るでしょ。あなただって体を持て余してるんじゃないの?」
「わっ、私はそんなことはありません!私はただシトリー様にお仕えすることができれば満足ですから!」
「ふふふっ!本当にアンナさんは真面目よね。でもね、私はそうじゃないのよ」
「そんな!困ります、アナト様!」
「そう?じゃあ、他の子に手を出そうかしら?」
「それも困ります!」
「だったら、難しいことを考えずにもっと楽しみましょう、アンナさん」
「アナト様!……ああっ、ああああああーっ!」

 精一杯のアンナの抗議も、ここでの一番の実権を持つアナトの前には虚しく、悲鳴はやがて喘ぎ声へと変わっていく。

 自分の下僕にアナトが手を出していることを、シトリーはまだ知らなかった。

 
 


 

 

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