黄金の日々


 

 



第2部 第5話 "つまみ食い"




「……なんでっ!?体がっ、動かない!?これって……どういうことなのっ!?おまえはいったい、何者なのっ!?」

 世界樹の洞に、甲高い声が響く。

 声の主は、エルフには珍しい赤みを帯びた髪の少女。
 まだ幼さの残る顔立ちに細く尖った耳と、気の強そうな切れ長の目。
 だが、長い髪を留めるサークレットの額の部分には赤い宝石があしらわれていた。
 それは、紛れもなく高位の巫女の証……。
 もちろん、エルフの年齢を人間の尺度で測ることはできないが、それでもその少女の容貌は彼女が他のエルフたちに比べても年少であることを示していた。
 彼女こそは、この世界樹の森でも数百年にひとりの天才と呼ばれ、ゆくゆくはフィオナの後継者として世界樹の巫女になると目されていた少女だった。
 奥歯を食いしばり、濃い銅(あかがね)色の瞳で前方を睨みつけているのが、気の強そうな印象をいっそう強くさせる。

 そして、その視線の先にいるのは黒髪の男、シトリー。
 その、金色の瞳が彼女を射るように輝いていた。

 その傍らで、そんな少女の姿をじっと見つめている人影が他に3つ。
 世界樹の巫女であるフィオナとニナ、そしてもうひとり、メリッサだった。

「……フィオナ様!これは、いったいどういうことなのですかっ!?この男はいったいっ……やっ、なんでっ!?ボッ、ボクの足がっ、勝手にっ!?」

 よろめきながら、彼女は目の前のシトリーの方に歩き始めた。
 傍目にも動揺を隠せないでいることから、それが彼女の意志によるものではないことがわかる。

「くううっ!どうしてこんなっ!?おいっ、おまえっ、ボクに何をしたんだよ!?」

 歯を食いしばって力を振り絞って少女は腕を突き出すと、螺旋を描くように炎が腕の周囲を回って手のひらへと集まっていく。

 すると、それまで少女に呼びかけられても返答することのなかったフィオナが初めて口を開いた。

「シトリー様、この子は見た目は子供ですけど、その実力は私の後継者に相応しいものを持っているんです。それに、この森でも珍しい炎の精霊を自在に操る力を持っていますから、あまり遊ばれると文字通りヤケドをしてしまいますわ。お気を付けくださいませ」

 その言葉に黙って頷いたシトリーが、少女の目を見据える瞳に力を込める。

「ああっ!くああああああああっ!」

 すると、少女の喉から絞り出された鋭い悲鳴と同時に炎が掻き消えた。
 そうなってはもはや為す術はなく、一歩、また一歩と少女はシトリーの方へと近づいていく。

 そして、彼女が目の前まで来るとシトリーはその額に指を当てて、その瞳がさらに輝きを増した。

「ひぐぅっ!ぎぁあああああああっ!」

 彼女の瞳孔が開き、喉が切れるかというほどの絶叫が世界樹の洞に響き渡る。

「くぅうううううっ!なっ、なんて邪悪な気なのっ!?ぐぁあああああああっ!」

 だが、シトリーの力を注ぎ込まれて全身を激しく痙攣させながらも、彼女はまだ己の意識を保っていた。

「なるほど、たいしたものだな。僕の気を直接注がれても自己を保っていられるとは」

 いったん指を離して、シトリーが感心しながら頷く。

 すると、それまでの状況を黙って見守っていたフィオナが嬉しそうに口許を綻ばせた。

「素晴らしいわよ、イリス。やっぱり、私が見込んだだけのことがあるわ」
「フィオナ様!これはいったいどういうことなんですか!?それにこの男の持つ、この、邪な気。こっ、この男は……?」
「この方はシトリー様。私たちのご主人様よ」
「まあ、付け加えるなら悪魔、だけどな」
「……悪魔だって!?それに、ご主人様ってっ!?どういうことなんですかっ、フィオナ様!?」

 フィオナとシトリーの言葉に、イリスと呼ばれたエルフはいっそう戸惑いを見せる。

「あら?そのままの意味よ、イリス。今の私は、この方の下僕なの。……いえ、忠実な牝奴隷と言ってもいいわね」

 穏やかな笑みを浮かべたままで平然と答えるフィオナに、イリスの表情が引き攣る。

「フィオナ様……自分の言っていることがわかっているんですか!?」
「もちろんよ」
「しっかりしてください!フィオナ様がこんな悪魔にたぶらかされるなんて、そんなことがっ!」
「あら?そんなこと言うものではないわ、イリス。だって、あなたもシトリー様にお仕えすることになるんだから」
「なにを言ってるんですかっ!」
「いいえ、きっとそうなるわよ、イリス」
「そんなことない!ボクは、悪魔などには屈しない!お願いだから正気に戻ってください、フィオナ様!ボクたちが力を尽くせば、この悪魔を倒せるはずです!」
「だから、そんなこと言わないの」

 自由にならない体を動かそうと足掻きながら、イリスは必死にフィオナの説得を試みる。
 だが、そんな彼女の首に腕を絡めるとフィオナはその耳許でそっと囁いた。

「あなたは何も心配しなくていいの。私が全部いいようにしてあげるから」
「う……フィオナ、様!」

 その様子を黙って見ていたシトリーが、そこで口を挟んだ。

「ところでフィオナ。こいつに相応の実力があるのはいいが、いったいどうするつもりなんだ?おまえの時みたいに時間はかけていられないぞ。おまえの口ぶりだと、なんか考えるがあるみたいだが?」
「はい。……ニナ、あれをこちらに」
「わかりました」

 その言葉に応じて、フィオナの傍らに控えていたニナが隅の方へ行き、何かを手にして戻ってきた。
 それは、透明で全体は丸く、中央に裂け目が一筋入っていて、そのぱっくりと裂けた中に、やはり透き通った無数の小さな粒が見える、強いて言えば水晶でできたザクロの実といった外見だが、ひとつひとつの粒はサクロのそれよりも小さいように思えた。

 それを見て、今度はメリッサが驚きの声を上げた。

「まあっ!それは愛の実じゃないの!まさか……まだ人間界に存在していたなんて……」
「ええ。おそらく、今でもこの実が残っているのは地上ではこの森だけでしょう」
「……メリッサ。愛の実ってなんだ?」
「それは、言葉で説明するよりも、これからフィオナさんがしようとしていることを見た方が早いと思います」
「む、そうか……」

 メリッサにそう言われては、シトリーも黙って見ているしかない。

 と、ニナから受け取った愛の実を片手に、フィオナがシトリーの正面で身を屈めた。

「それでは、始めますわね。……失礼します、シトリー様」

 そう言うと、フィオナはシトリーの股間のものを引っ張り出してその手に握った。

「……って、おい?」
「フィッ、フィオナ様!?」

 フィオナのとった行動に、イリスが悲鳴に近い声を上げる。

 だが、驚いているのはシトリーも同様だった。
 思わずメリッサの方を見ると、そのままでいいのだとでも言うように、微かに笑みを浮かべて頷き返してきた。
 仕方がないので、そのままフィオナがするのに任せることにした。

 フィオナが、それを握った手を動かしてゆっくりと扱き始める。

「フィオナ様!そんなっ……何してるんですか!?」

 その行動を咎めるイリスの悲鳴が響く。
 だが、フィオナは嬉しそうな笑みを浮かべて手の中のそれを扱くだけで、イリスの言葉には答えようともしない。

「うふふ。もうこんなに膨らんできて、熱くなってきてますわ。ああ……今すぐしゃぶりつきたい……」

 手の中で膨らんできた肉棒を見つめて、うっとりと目を細めるフィオナ。
 自分が握った、その赤黒くそそり立ってきたものを、いかにも愛おしそうに眺めながら、丁寧に根元から先まで手で扱いていく。

「ふふ……逞しいですわ、シトリー様。では、少し滑りをよくさせますね。……れる、ぺちょ、ん……じゅむっ」
「やめてっ!そんなことをするのはやめてっ!フィオナ様は世界樹の巫女なんですよ!ボクたち、誇り高きエルフの指導者なんですよ!それなのにっ、そんなっ、そんなことをっ!?」

 喚き散らすイリスの声など、もうフィオナの耳には届いていないかのようだった。
 手は動かしたままで肉棒に向かって舌を伸ばすと、そこに唾液を絡ませるように舐りあげる。
 そうすると、フィオナの手元から湿った音が響き始めた。

「こうすると、動きが滑らかに……。ああ、手の中でトクントクンって脈打って……」

 フィオナの手の動きが早くなっていくにつれて、クチュ、クチュ……という音が大きくなっていく。

「フィオナ様……もうやめてっ!フィオナ様はその悪魔にたぶらかされてるんです!目を覚ましてくださいっ、フィオナ様……」
「そうね、この方にたぶらかされているのは確かかもしれないわね。でもね、私の心はもうすっかりシトリー様の虜なの。それに、私の気は確かよ、イリス。私は、自分で考えて、自分の判断でこうしているんだから。ふふふ……ああ、こんなに堅くて、熱くて、大きくなって……ああ、先から少し出てきましたね……」

 大きく膨れあがったものを眺めて、フィオナは嬉しそうに表情を緩める。
 彼女の手の中で、肉棒がピクッと震えて、その先から滲み出た透明な汁が水玉を作った。

「さあ、もっとです、シトリー様。そして、どうぞここにたっぷり出してください」

 片方の手で握っていた愛の実を肉棒の前に差し出して、もう片方の手で肉棒を扱く動きをさらに速くしていく。

「もう、もう出そうなのですね、シトリー様。……ああっ、ああああっ!」

 ビュビュッと、肉棒の先からから大量の精液が噴き出して、フィオナが感嘆の声を上げた。
 白く濁った液体が、フィオナの手にした愛の実に降り注いでいく。

 すると、愛の実が見る見るうちに色を変えはじめた。
 無色透明から、赤葡萄酒のような深く濃い赤へと。

「これが、愛の実の真の姿です、シトリー様」

 立ち上がって、シトリーの目の前まで愛の実を持ち上げてそう言うと、フィオナはそれを真っ二つに割り、そこから粒をひとつ摘まんで自分の口の中に放り込んだ。
 そして、ゆっくりとイリスの方に向き直った。

「フィオナ様?……くっ!」

 うっすらと笑みを浮かべているフィオナの様子にただならぬものを感じたのか、イリスは体をよじって逃れようとする。
 だが、上体がわずかに揺れただけで逃げることは叶わなかった。

「いったいなにをっ!?……んぐっ!?むむぅっ!」

 逃さないようにイリスの頭を抱え込むと、フィオナはその唇を奪った。

「んむむむむっ!ぐむむっ、むむっ!……んぐぐぐっ!?」
「んふ、ん……むん、ん、れるっ、んむむぅ……」
「ぐむむむむぅーっ!んぐっ、んむっ!」

 口の中に舌までねじ込まれて、イリスが目を白黒させる。
 だが、フィオナはいっこうにかまうことなくイリスの唇を貪り、その中を舌でかき回し、唾液を流し込む。

「んふう……ん、れるうぅ、んくむうぅ……」
「んぐぐぐっ、ぐむっ!……んっ、んぐっ、こくっ!」

 息が続かないほどに長くねっとりとした口づけの果てに、耐えかねたようにイリスの喉が鳴ってフィオナの唾液を飲み込んだ。
 それを確かめたように、ようやくフィオナが唇を離す。

「はぁっ、はぁっ……フィオナ様、今、ボクに……なにを……し…た……の…………」

 荒く息をしながらフィオナを問い詰めようとしたイリスの顔が、酒に酔ったように赤く染まっていく。
 同時に、その瞳にも急速に靄がかかっていった。

「……シトリー様、もう、この子の体を自由にしてもいいですよ」
「む、わかった」

 フィオナに言われてシトリーがその体を戒めていた力を解くと、イリスはその場にペタリと座り込んだ。
 開いたままの目からは光が失われ、ぼんやりと前を見てはいるものの、瞳は完全に霞んでいて何も映っていない。
 胸が軽く上下していることから息をしていることはわかるが、人形のように何の反応もなかった。

「これが、愛の実の効果です、シトリー様」

 それまで、黙って状況を見守っていたメリッサが、そこでようやく口を開いた。

「愛の実は、男の精液、もしくは女の愛液を浴びることで赤く色を変えます。その、赤く染まった愛の実の粒を飲み込ませることでその効果は発揮されるのです。この実を飲んだ者は、いったん意識が朦朧となり、人形のような状態になります。ただ、その状態はあくまでも待機状態のようなものです」
「待機状態?」
「はい。意識をほとんど失った人形のような状態で、愛の実に注がれた精の持ち主を待っている状態なのです。その状態で愛の実に精を注いだ当人と交わることで、その者の体内の愛の実が体内に入ってきた精液、もしくは愛液と混ざってその相手への愛情が確立され、固定されます。他の、どの感情にも勝るものとして」
「なるほどな……」

 メリッサの説明を聞いて、シトリーは感心したように頷くしかなかった。
 なにしろ、彼自身、愛の実を見るのは初めてのことなのだから。

 だが、不意にニヤリと皮肉な笑みを浮かべた。

「それにしても、随分と粒の多い実だな。これで愛の実と言われても……。まったく、何人の相手をしたらいいんだ?これだけの相手に愛されるってのは、よほどの絶倫じゃないと無理だろうな」
「ええ。ですから、この愛の実は地上では早くから主に教会によって処分されてきたようです。倫理にもとる、ふしだらなものとして」

 と、これはメリッサに代わってフィオナが答える。

「たしかに。愛の実というよりかは悪魔の実と呼んだ方がいい代物だな」
「はい。ですから、そういう訳で人間界では早くに愛の実は絶滅してしまい、外界から閉ざされたこの世界樹の森でわずかに残っていたのです」
「それだけでなく、現在では魔界でも愛の実はほとんど見られなくなっています。私自身、この実を直に見るのはおそらく二百年ぶりなくらいですから」

 フィオナの説明を、今度はメリッサが補足した。

「で、要するに、僕がこいつを犯せばこいつは僕を愛するようになるという訳か」
「はい、すでに準備は整っています。意識はほとんどなくとも、イリスはシトリー様に犯されるのを待ち受けていると申しましょうか。……それに、この子の中にシトリー様の精を注いであげればよいのですから、必ずしもすぐに犯さなくともいいのですよ」
「というと?」
「それは……言葉で説明するよりも、実際に試された方がよくわかると思います。さあ、少しイリスの方に近づいて見てくださいませ」
「ああ……」

 フィオナの言葉に促されるままにシトリーがイリスの方に近づくと、それまでぼんやりと宙を見ていたイリスがピクッと反応した。

 フンフンと、まるで犬のように匂いを嗅いで、シトリーの方に顔を向ける。
 そのまま、イリスの方から四つん這いになって歩み寄ってきてシトリーに顔を寄せた。

 シトリーが黙って見ていると、イリスはくんくんと鼻を鳴らしながらその股間に顔を近づけて、すーん、と大きく息を吸う。

 その様子を愛おしそうに見ていたフィオナが、口元を綻ばせてシトリーに話しかけた。

「どうぞ、シトリー様の逞しいものをその子に見せてあげてくださいませ」
「ん?ああ……」

 シトリーが、いったん収めていた肉棒をさらけ出すと、イリスの瞳がぼんやりとそれを捉えた。
 そして、たった今フィオナの手で射精したばかりでヌラッと光っているその先っぽをはむっと口に咥えた。

「ん……ふん、んむ……ちゅば……」

 咥えたそれを、口の中で舌を転がすようにしてしゃぶっているイリス。
 すると、虚ろなままのその目尻が下がり、表情が緩み始めた。
 子犬のような四つん這いの姿勢で、小さく尻を左右に振りながら口の中の肉棒をしゃぶり続ける。

「んむ、ちゅぼ、じゅっ、はむ、ふむ、んっ、んぐ……」

 ふやけた表情をしたイリスの、肉棒をしゃぶる動きが次第に激しくなっていく。
 どこか虚ろで白痴的な笑みを浮かべ、赤い髪を振り乱して一心不乱に男のものをしゃぶっている少女の姿はまるで淫猥な人形のようで、とても世界樹の巫女の高弟には見えなかった。

「ふ……これはまた……」

 まだあどけなさを残す少女の激しく濃厚なフェラに、シトリーが呆れたように苦笑を浮かべる。
 もちろん、イリスがそんなテクニックなど身につけているはずもないのだが、ほとんど自意識を喪った状態で牝としての本能を剥き出しにした、テクニック無視のフェラが意外と心地よいことに驚き呆れてしまったのだった。

「んっ、んくっ、むふっ、はう、んむっ、んんっ、むふうぅ……」

 シトリーの肉棒を深く咥え込んだまま、時折ピクピクと鼻をひくつかせて深く息を吸う。
 すると、ふにゃりと惚けた笑みを浮かべて、イリスはいっそう激しく肉棒にしゃぶりついていく。

「んっ、んむ、ふむ、んくっ、ぐくっ、じゅるるっ……」
「くっ、これはかなり効くなっ……」

 自ら喉の奥に当たるほど深く肉棒を咥えるイリスのフェラに、シトリーが思わず顔を顰めた。
 肉棒が喉を擦る快感に、いやが上にも射精感を高められる。
 そして、それを感じ取ったかのようにイリスはさらに力強く肉棒を吸い、しゃぶり、深く咥え込む。

「しゅばっ。ちゅむっ、んぐっ、くっ……」
「くっ!出るぞっ!」
「んぐっ……!ぐっ、ぐくっ、はふっ、んんんっ……!」
「どうぞ、その子の口に存分にお出しになってくださいませ、シトリー様」

 イリスの、加減というものを感じさせない激しいフェラに、さすがにシトリーも限界が来た。
 その様子を傍らで見ていたフィオナが、楽しそうに微笑みを浮かべる。

「くううううううっ!」
「ぐむむっ!ぐふううっ、んくっ、ごきゅっ、ぐっ……」

 短く呻いたシトリーの腰がブルルルッと小刻みに震え、イリスの喉から苦しげな呻きがあがった。
 それでも、しっかりと咥え込んだ肉棒は離そうとしない。
 そのまま、こきゅっ、こきゅっと喉を鳴らして注ぎ込まれる精液を飲み下していく。
 すると、虚ろな視線をシトリーに向けるイリスの瞳に、徐々に光が戻ってきた。

「んぐ、ん、ふぁああ……。あ、あれ?ボ、ボク……」

 不意に肉棒から口を離して、ペタンとその場に尻を突いてイリスはシトリーを見上げる。
 その目には、ついさっきまで浮かべていた怒りや恐怖の色はなかった。
 口の端を白濁液で汚し、頬をほの赤く染めた煽情的な表情でシトリーを見つめて、はぁはぁと大きく息をしている。

「やだ……どうして、ボク、こんな……?」

 戸惑いを隠せない様子のその目は、明らかに熱っぽく潤んでいた。

 そんなイリスの姿に、フィオナが微笑みを浮かべて声をかけた。

「どうしたの、イリス?」
「あう……そんな、そんな、ボク……」
「もう。はっきり言いなさい」
「そんな……どうして?この人を見てると、なんでこんなに胸が切なくなってくるの……?」

 ふるふると小さくかぶりを振りながらも、イリスはシトリーから視線を逸らすことができないでいた。

「ふふっ!それはね、あなたがシトリー様のことを好きだからよ、イリス」
「そんな……ボクがこの人のことを好きだなんて、そんなことあるはずが…………ん、むっ!?」

 そのままへたり込んでいるイリスを見下ろしていたシトリーが、ニヤリと悪戯っぽい笑みを浮かべたかと思うと、腰をかがめていきなりその唇を奪った。

「んぐっ、んんっ、んむ……」

 イリスの唇を割って入ってきた舌が、生き物のようにイリスの舌に絡みついてくる。
 ただでさえ初めてのキスなのに、口の中を相手の舌に蹂躙されるような濃厚なディープキス。
 それなのに、不快感は全くなかった。
 それどころか、胸がきゅっと締めつけられて、心臓が高鳴ってくるのを感じる。

「んぐっ、んふ、ん、んんん……」

 長い口づけの間に、強ばっていたイリスの体から力が抜けていくのが傍目にもわかった。
 ペタンとへたり込んだまま倒れそうになるのを、シトリーの腕が支える。
 いきなりキスされた驚きに大きく見開かれていたイリスの涙目は、いつの間にかトロンと緩んでいた。

「んっ、ふぁあああ……」

 ようやく唇を解放されて、大きく息をつくイリス。
 大きく胸を上下させて息を弾ませながら、すぐ間近にあるシトリーの顔を見つめていた。

「どうした?やっぱり僕にキスされるのは嫌か?」
「やっ、そんな……」
「まあ、嫌に決まってるよな。なにしろ僕はおまえの師をたぶらかした、憎むべき悪魔なんだからな」
「それはっ、そうだけど……でもっ、でもっ……」
「うんうん、それ以上は言わなくてもわかってるさ。なかなかかわいい奴だと思ったんだけど、そういうことなら仕方ないよな」
「……待って!」

 つれない素振りを見せて立ち上がろうとするシトリーを、イリスがその足にしがみついて止めた。

「ん?どうした?」
「……ボ、ボクッ、あなたのこと嫌いじゃない。……ううん、それどころか、あなたのこと見てると胸が締めつけられるみたいにきゅってなって、すごく切なくなってくるの!」
「ふうん、それで?」
「ボク……ボク、あなたのことが好きみたいなの……」

 恥も外聞もなくそう訴えたイリスの顔は、今にも泣きそうだった。

「でも、おまえは僕みたいな悪魔には屈しないって言ってよな?力を合わせて僕のことを倒すとも言ってたしな」
「ごっ、ごめんなさい!そのことは謝るから!」
「だいいち、なんでそんな急に僕のことを好きになったんだ?」
「そんなの……ボクにもわからないよ……」
「おまえもフィオナみたいに、僕にたぶらかされたんじゃないかとは思わないのか?」
「そうかもしれない……。でも、もしそうだったとしても、もうボクはこの気持ちをどうにもできない。ボクはあなたのことが好きなの……」

 そう言ってシトリーを見上げるイリスの目から、ポロポロと涙がこぼれ落ちる。

「あなたを見てると、こんなに胸が熱くなるのに。だけど、そんなに素っ気なくされるとすごく悲しくなってきて、ボク、ボク、どうしたらいいのか……」

 イリスの両目から、止めどなく涙が溢れていた。
 今の彼女は、どうしていいのか自分でもわからずに、ただ途方に暮れて泣きじゃくるひとりの少女だった。
 そこには、ほんの少し前までシトリーを睨みつけていた気の強さは微塵も見られない。

「ごめんなさい、ごめんなさい……今までのこと、全部謝るから…………え?」

 何度も何度も謝りながら泣き崩れるイリスの肩に、ポンと手が置かれた。
 驚いて顔を上げたイリスの瞳に、こちらをじっと見つめるシトリーの顔が映る。

「まあ、そこまで謝られたらしょうがないな」

 さっきまで素っ気なかったシトリーの表情が、ふっと緩んだように見えた。
 そして、その金色の瞳がゆっくりとこちらに近づいてきたかと思うと。

「んっ、んふ……」

 もう一度、シトリーが口づけしてきた。

 唇同士が触れ合う柔らかい感触と、唇の間を割って舌が入ってくる、弾力のある感触。
 さっきと同じく、不快感は全くない。
 胸が締めつけられて、鼓動が早くなってくる。

 と、イリスの目尻に溜まった涙を、シトリーの指がそっと拭った。

「ん……んむ、んっふ……」

 頬に当たる暖かい感触に、思わずイリスは目を閉じた。
 赤みのある髪からピンと突き出た耳の先をふるふると小さく震わせて、そのまま相手のキスに身を委ねる。
 こうやって目を閉じると、シトリーの舌の動きがはっきりと感じられてよりキスに集中できる。
 コリ……クニュ……と口の中を愛撫されるような感触に恍惚となって、ずっとこうしていたくなる。

「んふ……あっ……?」

 しかし、さっきのキスよりもずっと早くその終わりは訪れた。
 不意に唇を離されて、イリスの顔に名残惜しげな色が浮かぶ。

 そんな彼女の心中を見透かしたように、シトリーがニヤリと意地の悪い笑みを浮かべた。

「どうした?もっとやっていたかったのか?」
「うん……。あっ、いや、その……」

 反射的に返事をして、その後で慌てて顔を赤らめるイリス。
 無意識のうちに自分が返した返事の意味に気づいて、もじもじと羞じらっているその姿を見ているシトリーはどこか楽しそうだった。

「そんなに僕のことが好きなのか?」
「う、うん……」

 シトリーの言葉に、イリスは頬を染めながらもはっきりとそう答える。

「だったら、僕のものになるんだ。そうしたら、キスよりももっといいことをしてやる」
「えっ?……あんっ、はうっ!?」

 シトリーの腕が伸びて、生地の薄い長衣の上からイリスの胸の小さなふくらみを掴んだ。
 ただでさえエルフの女は細くて起伏の少ない体格なのに、エルフの中ではまだまだ年齢的にも未発達な胸を掴まれてイリスのあげた声には、悲鳴というにはあまりに甘い響きがこもっていた。

「僕のものになるってことは、この体も僕のものだからね。僕の好きなようにさせてもらうよ」
「やんっ、それはっ……」
「どうした?嫌なのか?」
「あんっ、んっ、んんっ!」

 ぎゅっと胸を揉まれて、イリスは身をよじる。
 こんなことされるのはもちろん初めてで、自分でもそんなことをした経験もないのに、ましてや他人に胸を揉まれるなんて。

 いや、今、自分にこうしてるのは他人ではない。
 自分が好きになった相手だ。
 乳房をぐっと揉まれるたびに、痛いようなくすぐったいような変な感じがするけど、嫌な感じはしない。
 むしろ、シトリーに触られていると思うと、それだけでぞくぞく来て、思わず甘い声が出てしまう。

「どうした?やっぱり僕のものになるのが嫌なのか?」
「い、嫌じゃないけど……。はうんっ、やあっ……!」
「嫌じゃなかったらどうなんだ?」
「そ、それはやっぱり恥ずかしいよ。ボク、こんなこと初めてだし……」
「ふっ、それなら気にするな。これからたっぷりと知ることになるからな」
「やっ!そ、それって……」
「それに、男と女がこういうときにどんなことをするのか全然知らないってわけじゃないだろ?」
「そ、それはぁ……やぁんっ!」

 と、今度は長衣の裾から潜り込んできた手が、イリスの股間の敏感な部分を探り当てた。
 まだ成熟しきっていない、未開発のそこは、さっきからの胸への愛撫とイリスの感情の高ぶりにも拘わらず、申し訳程度に湿っているだけだった。

「あんっ、はんっ、そんなとこ、そんなに触っちゃやだぁ……」

 シトリーの手が動くと、イリスはあられもない声をあげて体をくねらせる。
 しかし、それは感じているせいというよりも、恥ずかしさのせいだった。
 実際、経験のないその体には、初めての愛撫は快感よりもおかしな感覚の方が強かった。
 なんだか、ムズムズするような、くすぐったいような感じ。
 時々、何かビリッと来るものを感じて体が勝手に震える。
 それが快感であることすら、まだ彼女にはわかっていないのだった。

 シトリーの指が動くたびにイリスのそこが少しずつ湿り気を増していくが、それでもまだまだ充分に濡れているとは言えなかった。

「……えっ?」

 不意に、イリスの股間を愛撫する手が止まったかと思うと、目の前にそそり立った肉棒が突き出された。

「これからおまえのそこに、僕のこれを入れるぞ」
「えっ、そ、それが、ボクのアソコに……」

 ゴクリと唾を飲んで、食い入るように肉棒を見つめるイリス。
 赤黒く膨らんでヌメッているそれは、客観的に考えたらグロテスクなはずなのに、見ていても嫌悪感を感じない。
 それどころか、とても愛おしいものに思える。

 でも、こんなに大きいものが本当にボクのアソコに入るの?

 別に、それが入ってくるのが嫌なのではないけど、その大きなものが自分の中に本当に入るのか不安になってくる。

「まあ、おまえたちエルフの体はもともと細くできてるし、初めてだったら相当に痛いことは覚悟しておくんだな」
「そ、そんなぁ……」
「でも、僕はおまえの中にこれを入れたい。もしおまえが本当に僕のことを好きだったら、僕の思いを精一杯受け止めるんだな」
「あなたの思いを……?」

 自分のアソコにその大きいのを入れたいというのが、彼の、シトリーの思い。
 それが自分の中に入ってくるのはやはり怖いし、シトリーもすごく痛いって言っている。
 でも、自分は、シトリーのことを誰よりも好きになってしまった。
 その、愛しい相手の思いを受け止めることを断るなど、イリスにできるはずがなかった。

「わかった、受け止める。ボクはあなたの思いを受け止めるから。……だから、その大っきいのをボクのアソコに入れてちょうだい」
「そうか。じゃあ、もっと足を広げて見せるんだ」
「……うん」

 小さく頷くと、言われたとおりにイリスは足を広げる。
 シトリーの手が、その長衣の裾を捲り上げて下半身を露わにさせると、イリスの両足を軽く持ち上げた。

 恥ずかしさと不安から、イリスはぎゅっと目を瞑る。
 その足を掴むシトリーにも、イリスの体が強ばるのがわかった。

「ほら、もっと力を抜くんだ」
「そんな……だって……」
「そんなにガチガチになってるともっと痛くなるぞ」
「うん……でも、我慢するから。どれだけ痛くてもボク、我慢するから。だから、お願いします……」

 その口から出た言葉は健気だったが、固く目を閉じたイリスの体は怯えているように小さく震えていた。

 しかし、イリスが自分を見ていないのをいいことに、いかにも意地悪く口許をくっと歪めると、シトリーは肉棒の先をイリスの秘裂に押し当てる。
 すると、小さく息を呑んでイリスの体がビクッと身震いした。

「じゃあ、いくぞ」
「う、うん……あううっ!ひぃいいいいいいいいいいっ!」

 シトリーが肉棒を押し込んでいくと、入れ始めたばかりだというのにイリスが悲鳴を上げた。
 まるで背中に棒でも入っているかのように体を突っ張らせて、喉の奥から絞り出すような声は明らかに苦痛の悲鳴だった。

「くっ、きついな……」

 あまりのきつさに、さすがにシトリーも顔を顰める。

 たしかにイリスのそこは、シトリーがこの森に来てから犯したどのエルフの娘よりも狭く、きつかった。

「はうっ!いたいっ、いたいよぉっ!つぅううううううっ!」

 強く押し返すような抵抗を感じながら、シトリーがなんとか奥まで肉棒を打ち込む。
 初めてであまり濡れてないうえに、もとよりその体には大きすぎる肉棒を奥深くまで挿し入れられて、さすがにイリスも痛みを堪えることができない。
 見れば、固く瞑ったその目尻からはまたもや大粒の涙がこぼれ落ちていた。

「大丈夫か?痛いならやめるぞ?」
「だっ、大丈夫ッ!いっ、痛いけどっ……あなたの思いを受け止めるって約束したから!どんなに痛くても……我慢するって約束したから!……だからっ、大丈夫!」

 歯を食いしばり、脂汗を流しながら途切れ途切れにそう答えるイリス。
 その姿を見ていたシトリーが、またニヤリと笑みを浮かべた。

「うん、殊勝な心がけだな。じゃあ、それに免じて褒美をくれてやろう」
「えっ、ご褒美!?……つうっ!」
「心のガードを解くんだ、イリス」
「……ええっ!?」
「おまえの心のガードを解くんだよ」
「心の……ガード?」

 予想していなかったシトリーの言葉に、イリスは痛みを堪えながら涙目で聞き返してくる。

「ああ、そうだ。おまえたち、エルフの巫女は修行によって、精霊に意識を呑まれないように心を守る術を身につけているだろ」
「うん……」
「それを解くんだ。今の状態でそれができるか?」
「うっ……うん、わかった……」

 シトリーが何をするつもりなのかはわからなかったが、イリスにはその言葉に逆らうという選択肢はなかった。
 素直に応じると、必死に痛みに耐えながら目を瞑る。

「くううっ!……大丈夫。心のガード、解いたから……っ1」

 その言葉を待っていたように、シトリーがイリスの額に手を伸ばした。

「さあ、僕の目を見るんだ、イリス」
「う、うん……はうっ!?うああああああっ!」

 閉じていた目を開くと、金色の瞳から放たれる強く輝く光がイリスを貫いた。
 同時に、額に当てられた指から大量の邪悪な気が流れ込んできて、イリスは思わず悲鳴を上げる。

「あうううう……うあ、ぐああああああ……」

 どんどん流れ込んでくるどす黒い思念のようなものが、一気に心の中を満たしていく。
 この気は、今日世界樹の洞に入ってその金色の瞳と目を合わせた瞬間に感じたものと同じ。
 あの時は、自分の体の自由を瞬時にして奪ったその邪悪な気をおぞましく思ったというのに、今は不思議と不快感はなかった。
 それどころかむしろ、好ましいとすら思えた。

「あう……うう、うああ……ああっ、うふふっ……」

 己の心が邪な思念で染め上げられていくのを感じて、イリスはしばし痛みのことを忘れて恍惚とした笑みすら浮かべていた。
 自分の全てが真っ暗な闇の底に堕ちていく感覚。
 それは、得も言われぬ甘美な感覚だった。

「どうだ?これでおまえの全ては僕のものだ」
「ボクの全てが……あなたのもの……」
「ああ、そうだ。これからは僕が主人でおまえは下僕だ」
「あなたが主人で、ボクが下僕……」
「もちろん、僕に隷従する気がおまえにあるんだったら、だけどな」
「……うん、なる。ボクは……あなたの下僕になるよ……」

 すっかり悪魔の気で満たされたイリスの心には、シトリーの言葉は魅惑の響きに聞こえた。
 まるで、夢見るようにうっとりした表情を浮かべてあっさりとシトリーへの隷従を誓う。

 すると、その様子を黙って見ていたフィオナが近寄ってきて、イリスの耳許でたしなめた。

「だめよ、イリス。自分のご主人様を、あなた、なんて呼んでは」
「……フィオナ様?」
「いいこと?私がこの方をどう呼んでいたか思い出してみなさい。そうでなくても、あなたみたいな賢い子がご主人様の呼び方を知らないはずはないわよね」
「……え?あっ、ああ……」

 フィオナの顔とシトリーの顔を交互に見つめていたイリスが、ハッとした表情を浮かべる。
 そして、シトリーを見上げてその名を呼んだ。

「シトリー様……」
「ん?なんだ?」
「ボク、シトリー様の下僕になります」
「そうか」

 言葉は素っ気なかったが、イリスを見下ろすシトリーが笑みを浮かべたように見えた。
 そして、自分を見つめたまま、その唇が動く。

「どうだ?まだ痛いか、イリス?」
「えっ?……う、うん、まだ……少し痛いです」

 そう言われて、イリスはその痛みのことを思い出した。
 堅い、大きなものが自分のお腹の中を圧迫していて、ズキズキと熱を伴ったような鈍い痛みの波が襲ってきている。
 それでも、さっきは体が裂けるかと思うほどに痛かったのが、だいぶ弱まっているような気がした。

 しかし、それが気のせいであることをイオナはすぐに思い知ることになった。

「じゃあ、こうしたらどうだ?」
「……はうっ!痛いっ……やっぱり痛いですっ!はぅううううっ!」

 自分の中に入っているその堅いものが動く、ゴリッという音が聞こえたような気がした。
 同時に、鋭い痛みが甦ってきてイリスは悲鳴を上げる。

「痛いっ!痛いよっ、シトリー様!」

 堅い塊が引いてはまた入ってくるたびに、ゴリッ、ゴリッとお腹の中を擦っていく。
 いや、正確にはお腹よりももう少し奥まったところから、身を裂くような、火傷したところを擦るような痛みが走る。

 悲鳴を上げながら涙目で見上げると、シトリーのその金色の瞳がまた輝きを増したように思えた。

「本当に痛いのか?痛いというよりかは、ヒリヒリして熱いという感じじゃないのか?」
「あうっ……あっ、それは……」

 シトリーにそう問われて、イリスは一瞬返答に窮した。

 だって、こんなに痛いのに……。
 ……え?本当に痛いの?

 そう、自問自答してみる。
 すると、たしかにそれは痛みよりも熱さの方が強いように思えてきた。
 実際、何かで思い切り擦られるようなヒリヒリとした感覚は、痛みとも熱ともどっちとも取れる気がする。
 いや、むしろ熱いという方が相応しいのかもしれない。
 その、堅くて大きいもの自体が熱を持っているように思えるし、それが自分の中を擦りつけて、さらに摩擦熱が生まれているようだった。

「あっ、熱いっ、熱いですっ、シトリー様!ボクの中、堅いものが擦って、すごく熱いの……」
「それが、気持ちよくはないか?」
「えっ……?」

 シトリーに問われて、イリスは首を傾げる。
 たしかに、それはすごく熱くて、お腹の中の強く擦られているところから、じんわりと痺れるような感覚が広がっていくような感じがする。
 しかしその、痛みにも似たチリチリと痺れる感覚が気持ちいいかと言われると……。

「……よくわからないです」
「なんだって?」

 イリスの返事に、今度はシトリーが首を傾げる番だった。
 だが、イリスはイリスで首を傾げたままだ。

「こんな感覚、初めてなんです。中が擦れて熱くて、じんって痺れてきて、なんか変な感じです……」

 その言葉に、シトリーは苦笑いを浮かべるしかなかった。

 フィオナのときもそうだったが、長い期間純潔を保ってきたせいか彼女たちエルフの巫女のそういう感覚への疎さには呆れるほかなかった。
 ことに、イリスのようなまだ成熟しきっていない体には、その、初めての感覚が快感だとわからなくても無理はないのかもしれない。
 ましてや、フィオナのときでさえ最初は愛撫によって絶頂させてそれを快感だと認識させてから陵辱したというのに、今回は愛の実の効果に頼っていきなり犯したのだからなおさらだろう。
 愛の実の助けを得て、イリスの心はすでにシトリーのものになっていたが、体の方は彼のものになるにはあまりにも未開発すぎたのだ。

 と、その様子を眺めていたフィオナがふたたびイリスの耳許に口を寄せて囁いた。

「イリス?あなたはシトリー様のことが好き?」
「……はい、大好きです」
「今ね、あなたの大好きなシトリー様があなたの中に入っているのよ」
「シトリー様が……ボクの中に……」
「そうよ。あなたはシトリー様の逞しいものを女としての大切なところに入れてもらって、そうやって愛されているの」
「こうやって、シトリー様に愛されて……あ、ああっ……」

 フィオナの囁きに耳を傾けていたイリスがうっとりとした表情を浮かべたかと思うと、その体がぶるるっと震えた。

「どうしたの、イリス?」
「シトリー様に愛されてるって思うと、どんどん体が熱くなって、アソコの中を擦られてる、じんじんって痺れるような感じがどんどん広がっていくみたいで、ゾクゾクッて体が震えちゃうんです……」
「それは嫌な感じがする?」
「いいえ……。嫌どころか、こうしていっぱいに大きいのを感じると、シトリー様に愛されてるって実感できて、体が喜んでるみたいで……」
「そう?それが快感なのよ、イリス?」
「これが……?」
「そうよ。好きな人に愛されるときに感じる女の悦びなの。どう?そうやって愛されると気持ちいいでしょ?」
「あ、ああ……はい、はいっ!……あっ、ふああっ!」
「どうしたの?」
「なんか今、ビリビリってきて、目の前が光ったようになって、ふわふわってなって……」
「そう?やっぱり優秀だわ、あなたは。もうそんなに快感を感じるようになったのね」
「あふっ、ふあっ、ああっ、気持ちいい、気持ちいいです、シトリー様ぁ!」

 今やイリスは、はっきりと快感を実感していた。

 そのことは、犯している側のシトリーにも手に取るようにわかった。
 さすがに、もともと細身なうえに初めて男を迎え入れたイリスのそこはかなりきつく、突き入れるたびにギチッと締めつける音が聞こえるかのようだった。
 しかし、ひとたび奥まで押し込むと、そこは初めとは見違えるくらいに熱く解れてきていた。
 そしてなにより、シトリーが抽送を繰り返すたびに溢れ出てくる大量の愛液が、イリスの体が女として目覚め始めたことを示していた。

「ふっ、おまえもやっと女の快感がわかってきたようだな」
「はいっ、気持ちいいです!シトリー様のがいっぱいに入ってきてっ、中を擦るのがすごく気持ちよくてっ!……ああっ、またっ、シトリー様のが大きくなったみたいっ!これっ、すごいですっ!もっと、もっとくださいっ!ボクの中、もっとズボズボ突いてくださいいいっ!」

 イリスの切れ長の目はトロンと潤み、だらしなく開いたその口からは、さらなる快感を求める言葉が迸り出る。
 そのまま少女は大きく股を広げて、その華奢な体を愛する相手のなすがままに任せたのだった。













「ふあああっ、シトリー様の熱いのがっ、またいっぱいにっ!あっ、イクイクッ、ボク、またイッちゃううううううううう……!」

 両足でシトリーの腰を挟み込むようにして体を弓なりに反らせ、一滴残らずその精液を受け止めて絶頂に体を悶えさせるイリス。
 己の主に下僕としてその体を捧げ、人生で初めての絶頂を迎えてもなお体を重ね続けて何度も達した末に、イリスの体はそのままぐったりとなって意識を失ってしまった。

 その一部始終をずっと見ていたフィオナが、シトリーに歩み寄ると悪戯っぽい笑顔を向ける。

「シトリー様も、なんでもご存じなようで知らないことがあるんですね」
「ん?なんのことだ?」
「女は、特にそういう経験のない若い子は、雰囲気や好きな相手への想いに酔うことで、女として目覚めていくんですよ。それを、あんなに理詰めで感じさせようとするなんて、女心がわかってないですわ」
「ふん、何を偉そうに言ってるんだ。おまえだってついこの間まで処女だったじゃないか。だいいち、おまえのときはそんなに優しくしてやった覚えはないけどな」
「あら?私はそういう酷いシトリー様が好きなんですもの。でも、この子はそういう、冷酷なシトリー様の素晴らしさがわかるにはまだまだ子供ですし、それに、せっかく愛の実を使ったんですから、ちゃんと愛情を実感させてあげないと。女の子はそういうのに弱いんですから」
「……自分の弟子を悪魔に捧げておいて、よくそんなことが言えるよな。というか、聞きようによってはおまえの方がよっぽど酷いことを言ってるように聞こえるけどな」
「あら、私はシトリー様のためにと思ってそうしたんですよ。それに、シトリー様の下僕になった方がこの子も幸せだと信じてますから」

 そう言って、幸せそうな笑顔を浮かべて気を失っているイリスに慈母のような眼差しを注ぐと、フィオナはその裸体にそっと長衣をかけてやったのだった。






* * *







 一方その頃、ここ、フローレンスの王宮では……。

「お呼びですか、アナト様?」

 夜、アナトに呼ばれてアンナはその部屋に参上した。

「お茶を淹れてくれるかしら、アンナさん」

 こんな夜中にいったいなんの呼び出しかと訝しむアンナにいつもと変わらぬ涼しげな視線を向けて、アナトがそう言った。

「……?は、はい……」

 あまりにいつも通りの頼みに一瞬首を傾げながらも、アナトにそう頼まれては断るわけにもいかなかった。




 そして、数分後。




「ふう……」

 夜ということもあり、体が冷えないようにとアンナが気を遣った温かいハーブティーを啜って一息つくアナト。

「やっぱりアンナさんの淹れたお茶はおいしいわね」
「ありがとうございます」

 褒められて、恥ずかしそうに頬を赤らめながら頭を下げるアンナを見て、アナトは、ふふっと目を細めた。
 そして、カップに口をつけてもうひとくちハーブティーを啜る。

 そのままハーブティーを飲み干すまで、アナトは特に何も話さずにいた。
 アンナの方も黙ったまま、ハーブティーの入ったポットを持って控えていた。
 だからといって別に雰囲気が重いわけでもなく、和やかでまったりとした沈黙の時間が流れる。

 少ししてから、口を開いたのはアナトの方だった。

「シトリーが世界樹の森に行ってから、もう2週間近く経つわね」
「そうですね。……あの、シトリー様から何か連絡があったんですか?」
「いいえ。何もないわよ」
「……大丈夫でしょうか、シトリー様」
「大丈夫よ、彼ならね」

 不安そうな表情を浮かべるアンナの問いへの返事は、いたって簡潔だった。

「たしかに彼ってプライドが高いから、困ったことがあっても安易に助けを求めてきたりしないでしょうけど。ただね、この任務を引き受けたときの彼の表情……すごくやる気の顔をしていたから。ああいう顔をしているときの彼は、やるべきことを必ずやり遂げるわ」

 そう言ったアナトの言葉は、アンナを元気づけようとしているのか、それとも本当にそう信じているのかよくわからない。
 しかし、穏やかな笑みを浮かべてそう言ったアナトの表情を見ていると、後者のようにアンナには思えた。

「アナト様は、シトリー様のことを信頼しておられるんですね」
「まあ、彼とのつきあいはそれなりに長いしね。それに、いつもは皮肉屋で、何をするにも面倒くさそうな態度をとってるけど、彼って悪魔にしておくのはもったいないくらい勤勉なのよね。そういうところはさすが元天使といったとこかしら。そういう言い方をされると彼は嫌がるでしょうけど」
「私は、そんなことはないと思いますけど……」
「ふふ、どうかしらね。まあ、そういうわけだから、私たちにできることは、彼が戻ってきたらすぐに軍団を動かせるように準備を整えておくことだけだわ」
「そうですね」
「……とはいえ、ずっとそれに係わっているわけでもないし、ただ待っているだけっていうのも暇なのよねぇ」

 冗談めかした口調でアンナを見つめるアナトは、普段と変わらぬ柔らかな笑みを湛えているように見える。
 しかし、そうやってじっと見つめられると、やはりアンナには気恥ずかしく思えた。

「それでは、私はそろそろ……きゃっ!?」

 一礼して、そそくさとその場を退出しようとしたアンナは、腰砕けになってその場にへたり込んでしまった。

「ア、アナト様……?」

 いつもと同じ、穏やかな表情を浮かべているアナトから、尋常ではない魔力が放たれていることに、ようやくアンナは気づいた。
 シトリーの下僕となって魔の気を注がれ、新たな力に目覚めたとはいえアンナはただの人間である。
 その魔力において、かつて神と崇められていたアナトほどのクラスの悪魔には及ぶべくもない。
 なまじ力を得て魔の気を感じ取ることができるようになっているだけに、アナトの放つ魔の気に体が竦んでしまったのだった。

「い、いったい……ど、どうなさったのですか……?」

 そう尋ねたアンナの顔は血の気が引き、蒼ざめた唇が小さく震えていた。
 それほどまでに、アナトの放つ気に圧倒され、恐怖すら覚えていた。

 だが、アナトは穏やかな笑みを湛えたままでアンナに近づいていき……。

「……んっ!?」

 すっとアナトの顔が間近にきたかと思うと、アンナの唇を奪った。

「ア、アナト様!?んっ!?……はむっ!?んむっ……んっ!?んんんっ!」

 驚いて目を丸くしているアンナの唇をついばむように何度も唇を重ねた後で、アナトが力強く唇を押しつけてくる。
 アナトの鼻から洩れる吐息が肌をくすぐったかと思うと、押しつけられた唇の隙間から、アンナの口の中に舌がするっと潜り込んできた。

「っぐぐ!んむっ、ぐむむっ、んんっ、んむむ!」

 ぬるりと柔らかくて温かい舌が生き物のように動き回り、舌の裏や口蓋の敏感な部分をくすぐっていく。
 口の中の感じやすい場所を熟知していて、徹底的にそこを刺激してくる。

「んふっ、んぐぐぐぐぅーっ!」

 その巧みなキスに、アンナは大きく目を見開いたまま体を震わせた。
 ただのキスのはずなのに、のぼせたように頭の奥がじんじんと熱くなってくる。
 アナトの舌先がアンナの舌の裏に潜り込んできて愛撫するように動くと、むずむずした快感が駆け巡って腰が抜けたように体に力が入らなくなってくる。

 そして、くたっとなったその体を支えるようにアナトがアンナを抱きかかえると、服の上からその胸を掴んだ。

「んんんんんんんっ!」

 唇を塞がれたままで、アンナが体を悶えさせて派手に呻き上げた。
 服の上から触られたというのに、痺れるような快感が背筋を走っていた。
 ただキスをされただけだというのに、魔法にかけられたように体が敏感になっているのを感じていた。

 やだ……どうしてこんなに感じてるの?
 こんなこと、いくらアナト様でもすぐ止めていただかないと……。
 ……んっ!
 だめ、体に力が入らない……。

 アンナはキスと胸への愛撫から逃れようとするが、自分の体が思うように動かない。

 もちろん、アナトは何か特別なことをしているわけではなかった。
 アンナが動けないのはひとえに、アナトの放つ魔の気に体が萎縮しているためと、純粋にアナトのテクニックによるものだった。
 アナトとしても、普段抑えている魔の気の10分の1も出してはいないのだが、それでもアンナの体を竦ませるには充分すぎるほどだったし、女を感じさせる性技の卓越さも図抜けていた。
 かつてアナトが人々に崇められていた頃、戦いの女神と並んで彼女につけられていた、愛の女神というもうひとつの肩書きは伊達ではなかった。

「はんむむむむむぅー!……はうっ!……アッ、アナト様、いったい何をなさるんですか!?」

 ようやく唇を解放されて、アンナは大きく息を吸いながら抗議の声を上げる。
 しかし、そんな咎め立てなど無視するように、アナトの手が服の中に入り込んできた。

「んふうううぅん!ア、アナト様っ……!?」

 アンナの上げた喘ぎ声は、悲鳴に近かった。

 乳首の周りを焦らすように指先でなぞってからそっと摘まむのも、敏感な裂け目の入り口の辺りをじっくりと指先で刺激する動きも、シトリーがするのとは全然違っていた。
 女でなければわからないデリケートな場所を、女性らしい繊細なタッチで刺激してくる。
 その愛撫があまりに的確で、アンナは体の疼きを抑えられないでいた。

 しかし、彼女はあくまでもシトリーの下僕だ。
 その上官とはいえ、他人にその体を許すわけにはいかない。

「アナト様っ!お止めくださいませ!」
「ふふふっ、大丈夫よアンナさん。あなたのご主人様からあなたを奪ったりしないから」

 アンナの悲鳴は、楽しそうなアナトの言葉に遮られる。

「あなたが私の饗応を任せられたのなら、こうやって私の退屈を紛らわせるのも立派な任務よ、アンナさん」
「でもっ、こんなことはっ……!」
「それに、アンナさんって本当にかわいらしいから、私もその気になっちゃうわ」
「そんなっ……アナト様っ!あぁっ!ふぁああああああああっ!」

 アナトが悪戯っぽい笑みを浮かべると秘裂の中に指を2本入れてきて、クチュクチュと小刻みにかき混ぜる。
 その巧みな動きにアンナは一瞬頭の中が真っ白になって、大きな喘ぎ声を上げて体を弓なりに反らせる。
 そこに畳みかけるように、アナトの指の動きが激しくなっていく。

「ふふっ、本当にアンナさんったらかわいいわ。安心して、本当にあなたをシトリーから奪ったりしないから。だから、今はふたりで楽しみましょう」
「ああっ!アナト様!アナト様ぁああああっ……!」

 アナトの愛撫に身をよじりながら、アンナの悲鳴は次第に弱々しくなっていったのだった。













「大丈夫、アンナさん?」
「んん……アナト様ぁ……」

 呼びかけに応じてアナトを見上げたアンナの瞳は、どんよりと曇っていた。
 アナトに何度もイカされて、体がだるく重い。
 それに、この、言いようのない罪悪感。
 不可抗力とはいえ、シトリーのいない間に不実を働いてしまったという思いが彼女を苛んでいた。

「でも、良かったわよ、アンナさん。やっぱり若い子は反応が新鮮でいいわ。またお願いね?」
「いえ……もう、こんなことは二度と……」
「そう?だったら、次は他の子にしようかしら……?」
「……そんなっ!?アナト様っ!」

 冗談めかしたアナトの言葉を聞き咎めてアンナは色をなす。
 軽い口調だが、彼女なら本気でやりかねないと思わせるものがあった。

「でも、あなたが嫌ならしかたないでしょう?」
「ですから……そもそも私はシトリー様の下僕ですし、こんなことは……」
「あら?アンナさんったら悪魔の下僕のくせに随分と堅いことを言うのね。気持ちいいことはもっと積極的に楽しんだらいいのよ。それに、さっきから言ってるでしょ、別にあなたをご主人様から奪ったりはしないって」

 そう言われても、とてもアンナには納得のいくものではなかった。
 彼女がアナトを拒んでいるのは倫理観とかそういう問題ではなくて、自分の唯一の主であるシトリーに独占されたい、他の誰にも体を許したくないという思いからであったのだから。

 しかし、そんな彼女の気持ちなど知らないという様子で思案顔をするアナト。

「まあ、アンナさんがそんなに嫌なら、やっぱり他の子にするのもいいわね。あの青い髪の女王様もかわいらしいしね……」
「ですからっ、お止めください、アナト様!」
「あら?でも、あなたは嫌なんでしょ?だったら、シトリーが帰ってくるまで退屈じゃない。それに、せっかくここにはこんなに美人が揃ってるんだし、少しくらい味見させてもらってもいいじゃない」

 アンナの言葉にも、アナトはまったく悪びれる素振りも見せない。
 と、アンナが思い詰めた表情でくっと唇を強く噛んだ。

「……シトリー様が帰ってこられるまででよろしいんですか?」
「え?」
「シトリー様が帰ってこられるまでの間、私がアナト様のお相手をすればよろしいんですね?」
「まあ、そうねぇ……。シトリーが帰ってきたら忙しくなって、退屈してる余裕はないでしょうし」
「でしたら……その間、私がアナト様のお相手を務めさせていただきます。アナト様の身辺のお世話をさせていただくのが私の役目ですし」

 少し震える声でそう言ったアンナの強ばった表情を見て、アナトはぷっと吹き出した。

「本当にあなたって真面目でお堅いわね。もうちょっと楽しんでもらえたら私も嬉しいんだけど。でも、そういう真面目な子をいじめてあげるのも楽しいしね。いいわ、アンナさん、これからもあなたで楽しませてもらうわよ。なにしろ、あなたの方からの申し出ですしね」
「はい……。それでは、今日のところはこれで失礼させていただきます……」

 こういう流れになってしまっては、そう答えるしか他になかった。
 そのまま一礼すると、アンナはアナトの部屋を出て行った。












 私が……私さえ我慢したらそれで収まることなんだから……。
 それが、アナト様のお世話を仰せつかった私の役割なんだし。
 シトリー様が戻ってこられるまで、それまでの辛抱よ……。

 アナトの部屋を退出しても、廊下を歩いていくアンナの足取りは重たかった。
 割り切ったつもりではいても、気が重いことには変わりはない。

「……あら?アンナちゃん?」

不意に名前を呼ばれて顔を上げると、そこにエミリアが立っていた。

「あ、エミリアさん……」
「どうしたの、こんな時間に?」
「はい、アナト様に呼ばれて、ちょっとお茶を淹れに……」
「へ?こんな夜中に?大変ねぇ、アンナちゃんも」
「いえ、それが私の役目ですから。……それでは、私ももう休みますので、失礼しますね」
「うん、おやすみ、アンナちゃん」
「おやすみなさい、エミリアさん」

 エミリアとおやすみの挨拶を交わすと、自分の部屋の方に戻っていくアンナ。

「……アンナちゃん、なんか元気ないわね。どうかしたのかしら?」

 その後ろ姿を、エミリアはきょとんと首を傾げて見送っていたのだった。






* * *







 自分が不在の間に、アナトが下僕のつまみ食いをしていることなどシトリーが露も知るはずはなく……。

 ここ、世界樹の森にシトリーが来てからほぼ1ヶ月経ったある日。

 フィオナから、今後の方針について重大な報告があるとのことで、森のエルフ全員が集められていた。
 しかし、全員に集合がかけられたはずなのに、事前に告げられていた時間になっても、その場にいるのはほとんどが男ばかりだった。

「おい?女たちはどうした?」
「いや、俺にもわからんが……」
「これは、フィオナ様に報告しに行った方がいいんじゃないか?」

 ざわざわと、そのことに気づいた者のざわめきが広がっていく。

 そのうちの何人かが、フィオナを呼びに行こうとした次の瞬間。

「うわぁっ!」
「ぐわっ!」
「なっ、なんだっ!……ぐふっ!」

 男たちの頭上から放たれた矢が、雨霰と降り注いでいく。

「ぐわああああっ!」
「あ、あれはっ……!がはっ!」
「そんなっ!いったいどうしてっ!?」

 次々と放たれる矢に男たちが倒れていく中、数人の者が目にしたのは、この場を取り囲むように木の上から矢を放っている森の娘たちだった。
 そこには、リルとメルの双子の姉妹をはじめ腕に覚えのあるエルフの女たちが大木の枝の上に立ち、巧みに弓を操って目にも止まらぬ速さで矢を放ち続けていた。

「どうしておまえたちがっ!ぐああああっ!」

 次から次へと、ハリネズミのような姿になって倒れていく森の男たち。
 残っている者も、全員が深手を負って立っているのがやっとという時に、ようやく降り注ぐ矢が止まる。

 それと同時に、その場にフィオナが姿を現した。
 それも、男たちが見たこともない、黒髪の男を連れて。

 かろうじて立っている男が、痛みに顔を歪めながらフィオナに問い糾した。

「フィ……フィオナ様、これは、いったい……?」
「私たち、世界樹の森のエルフは、このたびの魔界と天界との大戦に、魔界側につくことになりました」
「……なっ!?」

 フィオナの発した宣言に、立っているわずかな男たちは一様に驚きを隠せない様子だった。

「つきましては、あなたたちには用はないので始末せよとのシトリー様のご命令がありましたので」
「シトリー様……ですと!?」
「ええ。こちらにおわすのがシトリー様。この方面の魔界の軍勢の一軍を任せられているお方で、私はもちろん、この場にいるこの娘たち全員のご主人様です」
「ちっ、血迷われたかっ、フィオナ様!このような悪魔ごときの軍門に降るなどっ……ぐはっ!」

 フィオナの手から放たれた風の刃に切り裂かれて、言葉の途中で男の体は真っ二つになる。
 その骸を眺めるフィオナ表情は、冷酷そのものだった。

「シトリー様をこのような悪魔ごときなどと……無礼にもほどがありますわ」

 そう吐き捨てると、残っている男たちに一瞥をくれる。

「そ、そんな……フィオナ様……」
「い、いったいどうして……」
「物わかりの悪い人たちですね。私たちはシトリー様の下僕だと言ったでしょう。……さあ、おまえたち、この者たちにとどめを刺しなさい」

 フィオナの指示で、娘たちが生き残っている男たちにとどめを刺していく。
 彼女たちは良心の呵責を全く感じている様子はなく、むしろ嬉しげな笑みすら浮かべていた。

 全て片付け終わると、フィオナが清々しい笑みを浮かべてシトリーの方に向き直った。

「これで終わりましたよ、シトリー様。森の境の警備に当たっている者たちへは、イリスをはじめ私の弟子たちを向かわせましたから、今日中には片が付くでしょう」
「そうか。なら、全部片付いたら一度ヘルウェティアに戻るぞ。フィオナ、おまえはこの森の代表として僕についてこい。ここは、メリッサとイリスたちに任せておけばいいだろう」
「はい、シトリー様」

 シトリーの言葉に、従順に頭を下げるフィオナ。
 嬉しそうな笑みを浮かべ、恭しく頭を下げているその姿は、主の役に立った下僕の喜びを全身で表してた。



 そして翌日、シトリーとフィオナのふたりはフローレンスに向かって出発したのだった。

 
 


 

 

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