黄金の日々


 

 



第2部 第4話 堕ちていく森





 世界樹の森で、シトリーがフィオナを下僕にした、同じ頃。

 ここ、ヘルウェティアの都フローレンスでは......。





「アナト様、飲み物をお持ちしました」

 アナトの部屋に入って机にグラスを置くと、アンナは手にしたポットを傾ける。

 フローレンスにアナトが到着してからは、なりゆきでアンナがその饗応役を務めていた。

 まあ、クラウディアやピュラ、シンシアといった面々は何かと多忙だし、リディアの性格はもともとそういう役目には向いていない。
 フレデガンドやエルフリーデといった武人はアナトと話は合うかもしれないだろうが、武骨な彼女たちに身の回りの世話までさせるわけにはいかない。
 本来なら、アナトと面識があるエミリアとニーナがするべきなのだが、ふたりとも尻込みする始末で、もちろんマハは論外だ。
 そして、もともとアナトとの連絡役をしていたメリッサは、シトリーの元にいて不在ときている。
 そんなわけで、器用になんでもこなせるアンナに白羽の矢が立ったというわけだ。




「......ありがとう、アンナさん」

 グラスを手に取り、注がれたほの赤い液体をひとくち啜る。
 爽やかな酸味と、すぅっと清涼感のある香りが口の中に広がっていく。

「ん......美味しいわ、これ」
「ありがとうございます」
「あなたが作ったの?」
「はい。ローズヒップをベースに、レモンバームとキャットニップとカモマイルをブレンドしたお茶です。作り方は、昔、シンシア様に教わったんですけど」
「ふうん......」

 感心したようにアンナ特別製のハーブティーをもうひとくち飲み、アナトはアンナの顔を見る。

「......ああ、本当に美味しいわ。ありがとう、アンナさん」

 穏やかな笑みを湛えていて、威圧するような感じはないのだが、その、黒目の大きな、悪魔らしからぬ澄んだ瞳で見つめられると恥ずかしくなってつい顔を伏せてしまうアンナだった。

 仮にもアナトは、自分の主であるシトリーの上官ではあるし、話に聞いたところでは実力の上でも格でもかなり上位の悪魔だとのことなので、どうか自分のことは呼び捨てにして欲しいとはじめの頃にアンナは頼んだのだが、アナトは「それが自分の流儀だから」と、柔らかな言い方で押し切ってアンナのことを、さん付けで呼んでいた。
 普段からの温かい態度や、今、自分に向けている優しげな笑みを見ていると、彼女が悪魔だとはアンナにはとても信じられなかった。
 もっとも、彼女の悪魔としての実力を知っているのは、シトリーをはじめ、エミリア、ニーナ、メリッサ、マハといった、魔界から来た面々くらいなものだろう。

 じっと見つめられて、頬を赤く染めて羞じらっているアンナの姿に、アナトは可笑しそうに目を細める。

「ふふふっ、可愛らしいわね、アンナさんは」
「そんな......アナト様の方がおきれいです」

 俯き加減ではにかみながら、やっとそれだけ答えるアンナ。
 穏やかなアナトの微笑みが、やけに眩しく感じられてまともに見ていられないとでもいう様子だった。

 実際、透き通るような白い肌に金髪、ガラス玉のような濃緑の瞳のアンナと、小麦色の肌に黒髪、黒い瞳のアナトは、タイプが全く異なるが、いずれも美人であるのは言を俟たない。
 ただ、二十歳そこそこで、まだ少女の雰囲気を残しているアンナと、数千年を超える時を経て生きてきた悪魔にして、かつては戦いと愛の女神であったアナトとでは、全身から漂わせている色気の格が違っていた。

 もじもじしているアンナの仕草に、アナトは、ふっ、と頬を緩める。

「でも、本当に可愛いわよ。やっぱり、彼の趣味っていいのよね」
「彼って......シトリー様のことですか?」
「そうよ。あの子、本当に面食いだから、ここのみんなも美人揃いだし。それに、彼の趣味ってけっこう私とも合うのよねぇ」
「あの......アナト様はシトリー様を昔からご存じなんですよね?」
「そうだけど、どうかしたのかしら?」
「あ、いえ......シトリー様をあの子だなんて、やっぱり、アナト様はすごい方なんですね」
「あら?気を悪くしちゃった?あなたのご主人様を子供扱いしちゃって」
「いえっ、そうではないんです。ただ......その頃のシトリー様って、どんな感じだったんですか?」
「それは、生意気だったわよ、昔っから。彼って、頭はいいし力もあるんだけど、あの頃は、なんて言うか、生きていくのが下手って感じかしら?」
「そうだったんですか......」

 初めて聞く、昔のシトリーの話に、アンナはいつしか興味津々といった様子で耳を傾けていた。

「あの頃に比べたらだいぶいい顔になってきたわよね、今は。まあ、魔界のお偉いさんに言わせたら、適当で、何事にもやる気がないように映ってるでしょうけど、そういういう風に周囲を欺いてやり過ごしてるだけで、内心では野心を燃やしてるって感じね。たぶん、彼のことをよく知ってないと気づかないと思うけど」
「へえ......」
「とはいえ、まだまだ甘ちゃんね、彼は。悪魔としても、男としても」
「ええっ!?」

 そこでアナトは、もうひとくちお茶を啜る。

 シトリーのことを甘ちゃんだと言われると、さすがにアンナも驚きを隠せなかった。
 彼女にとってシトリーは偉大な悪魔であり、絶対的な主である。
 それに、男としても理想的だった。
 普段アンナに接する時も、そして、ベッドの上でも。

 もちろん、それはアンナがシトリーへの崇拝に近い忠誠心と愛情を植え付けられているからだったのだが。
 だいいち、もともとがただの人間に過ぎない彼女はかつてシトリーによって完全に屈服させられ、その魔の気を己の身に受けた。
 そんな彼女が、シトリーこそが絶対至尊であるという想いを抱くのも致し方のないことではあった。
 だから、悪魔としてはアナトの方がシトリーよりは格上だということを頭の中では理解できても、感情面では、シトリーよりも上の立場の者がいるということを受け容れがたい思いもあった。
 そもそも、シトリーとアナトの間にかつてどんなことがあったのかをアンナは知らない。

 驚きながらも、複雑な表情を浮かべているアンナの気持ちを知ってか知らずか、アナトは悠然と茶飲み話を続ける。

「まあ、彼って堕天使だものね。なにかと複雑なものがあるみたいよ、天界から堕ちてきた子たちって」
「......そうなんですか?」
「あら?そういうところはエミリアに訊いたらいいじゃない?彼女も堕天使だし、なにより、シトリーとの付き合いは彼女が一番古いはずよ」
「でも、エミリアさんが昔の話をしてるのって聞いたことないです」
「ふーん......」

 アンナの言葉に、アナトは少し考えた後で意味深な微笑みを浮かべた。

「どうかなさったんですか、アナト様?」
「ううん、なんでもないわ。......でも、まあ、そういうものかもね」
「なにが、ですか?」
「堕天使にとっては、天界にいた頃の思い出なんかあまり話したくないんじゃないかなってこと。シトリーも、エミリアも」
「そういうものでしょうか?」
「まあ、これは私の想像だけどね」
「でも、見てみたかったです。シトリー様の天使姿。さぞ神々しかったでしょうね」
「ふふふっ!」

 無邪気なアンナの言葉に、アナトはつい吹き出してしまっていた。

「私、もしかして......おかしなことを言ってしまいましたか、アナト様?」
「まあね。魔界に堕ちた相手に、天使時代の姿を見たいって言うのもね。しかも、悪魔をつかまえて神々しいだなんて」
「でも、本当にそうだと思います。シトリー様は、私にとって神も同然、いえ、それ以上のお方なんですから」
「ふふふっ!アンナさんったら、本当に可愛らしいわっ。......まあ、そのうち見ることができるかもしれないわね」
「......えっ?」
「彼の......シトリーの天使時代の姿。まあ、まるっきり天使の頃と同じってわけにはいかないでしょうけど、これからは戦いも本格化するでしょうし、彼も戦わざるを得ない状況がきっと来るわ」
「シトリー様が、戦う時......」
「ええ。その時には、きっとその姿を見せてくれるわよ」
「それは......楽しみですけど......。シトリー様が戦われるのは少し心配です......」
「まあっ、アンナさんは本当に下僕の鑑ね!」

 気遣わしげに表情を曇らせているアンナの姿に、アナトはまたクスクスと吹き出してしまう。
 一瞬、憮然とした顔をしたものの、アンナはすぐにまた沈んだ表情になる。

「でも......それは当然だと思います。自ら戦うとシトリー様がお怪我をなさるのではないかと心配で......でも、私には他のみんなのように魔法を使うことも、自分で剣を取って戦うこともでませんから......」
「そんなに心配することはないわ。今はあんな感じで、口では自信が無いようなことを言うけど、仮にもかつては天使だったんだから相当の実力はあるはずよ。あまり心配するのは、かえって彼の実力を軽く見てるということになるわよ」
「あっ、いえ、別に私はそんなつもりで言ったわけでは......」
「わかっているわよ。うん、本当によくわかったわ、アンナさんが、下僕としてご主人様のことをどれだけ想っているのかがね。......本当に可愛らしいわ、アンナさん」
「......えっ?」

 すっ......とアナトがアンナに顔を寄せた。
 そして、その深みのある光を湛えた黒い瞳でアンナを間近に見つめる。
 その、宝石のような瞳を、アンナは息をつめて見つめ返していた。

 そのまま、数十秒が過ぎて......。

「あ、あの......アナト様?」
「ん?どうしたの?」
「わ、私はこれで......。また、ご用があったらお呼びください......」

 顔を真っ赤に染めて立ち上がると、礼をしてそそくさと部屋を出て行くアンナ。
 その後ろ姿を、微笑を浮かべてアナトは見送っていた。






* * *







 そして、こちらは世界樹の森。



「ねぇ、フィオナ様が私を呼んでるってどういうことなの?メル?」

 リルは、メルの後について行きながらもう一度訊ねてみた。

「うん、なんかね、私たちにやって欲しいことがあるみたいなのよ」

 自分と同じ、ポニーテールに結った淡い緑色の髪がファサッと揺れて、メルがこっちに振り向く。
 明るい茶色の瞳に、どこか楽しげな色を浮かべてクスッと笑うと、メルはリルの手を取った。

「ねっ、早く行こ!」
「ちょっと、メルったら!」

 くいっと手を引かれて少しよろめきながら、リルはメルの後について世界樹の方に向かう。

 リルとメルの双子の姉妹は、この森でも屈指の弓の使い手だった。
 特に、物陰に隠れて音を立てずに獲物を狙い射る技術では、射撃自慢のエルフの男たちもふたりには敵わない。

 さらに、ふたりが得意とする技がもうひとつあった。
 それは、暗い闇夜でも対象を射貫く能力。
 もともと、エルフは夜目が利く種族ではあるがリルとメルのそれは特に図抜けていた。
 ふたりにかかれば、夜の森を飛び回るムササビやフクロウを仕留めるのはわけのないことだった。
 それどころか、闇の中でジネズミを追いかけるクロテンの眉間すら容易く射貫いてみせたこともあった。

 あの、魔界との大戦が近いというフィオナの演説があって以来、ふたりは矢の製作や弓の手入れ、そして後輩の指導などで忙しくしていた。
 そして、昨日メルがフィオナに呼ばれたかと思うと、今日は自分が呼び出されたのだ。

 もちろん、リルもメルもフィオナと話をする機会はこれまで何度もあった。
 フィオナ自身が、森の皆に気軽に声をかける指導者であったし、時に厳しく叱り、そして時には優しく見守ってくれる、リルたち若いエルフにとっては母親のような存在だった。

 だが、リルは今回の呼び出しに奇妙な違和感を覚えていた。
 こんな時期にフィオナが自分たちを呼び出すのだから、用件は大戦の準備に関することだと思うのに、リルの手を引くメルの様子はやけに楽しげで緊張感がない。

 ......いや。

 昨日メルが呼び出された時には、その理由がわからずに少し緊張した面持ちで出向いていったというのに。
 それが、帰ってきた時にはうって変わって嬉しそうな顔になっていた。
 それなのに、何か良いことがあったのかとリルが訊いても、なんでもないよと笑っているだけだった。
 そして、今日のこの呼び出し。

「リル?」
「......」
「ねぇ、リル?どうしたの?」
「えっ?あ、い、いや、ちょっとね」
「もう!リルったらぼんやりしちゃって!ほら、入るわよ。......失礼します、フィオナ様」

 リルの手を引っ張って、メルが世界樹の洞に入っていく。





 その中は、なぜか灯りも点けておらず、一瞬、目の前が暗くなる。
 だが、この程度の暗さなど、彼女にとって暗いうちには入らない。
 すぐに目が慣れて、中に、数人の人影がいるのが見えた。

 その、彼女の持ち前の夜目の良さがかえって仇になった。

 闇の中に、金色の光がふたつ。
 まるで、夜の森を蠢く獣の双眸のようにキラキラと輝きを放っていて、いやが上にもそちらに視線が釘付けになる。

 そして、その金色の光と目が合った瞬間、ガツンと頭を殴られたような気がした。
 まるで、魂を貫かれたかのような衝撃に息ができなくなる。

「......ぅうっ!?」

 短く呻いて、そのままリルの意識は深い闇の中に沈んでいったのだった。










 程なくして、洞の中に灯りが点された。

 薄暗い中に浮かび上がったのは、ぼんやりと突っ立っているリルの姿。
 何を映しているのかわからない、その虚ろな視線の先に輝く金色の瞳。
 その瞳の持ち主、シトリーの口の端がクッと歪む。

「メル、さあ、こっちに連れてこい」
「はい、シトリー様!さあ、リル、こっちに来て」

 リルの傍らに立つ、全く同じ顔立ち、同じポニーテールの少女がその手を取る。
 虚ろな表情のリルとは対照的に、その顔には期待に満ちた笑みが浮かんでいた。

 メルに手を引かれて、リルはふらふらと覚束ない足取りでシトリーの方に近づいていく。

 そして、すぐ目の前までリルが来るとシトリーはその額に指を当てた。

「ううっ!うああああああっ!」

 大きく呻いたリルの体が、雷に打たれたように硬直した。
 背筋は反り返り、ピンと伸ばした指先がブルブルと小さく震える。
 その目は大きく見開かれ、苦悶の表情が浮かんでいた。

「あああああっ!あぁ......」

 シトリーが指を離すと、リルの体はその場にぐったりと崩れ落ちる。
 その姿を、微笑みを浮かべて見下ろしているメルにシトリーが声をかけた。

「メル、おまえに決めさせてやる」
「......えっ?」

 首を傾げているメルに、シトリーはニヤリと笑いかける。

「おまえは、こいつを僕のものにさせたいか、メル?」
「はいっ、もちろんですとも!私、リルと一緒にシトリー様にお仕えしたいです!」
「なら、どうやってこいつを僕のものにさせるかをおまえに決めさせてやる。今、こいつはおまえの言った通りになるようにしている。だから、おまえの好きなやり方でこいつを僕のものにさせるんだ」
「私が、ですか?」
「ああ、そうだ」
「そうですね......」

 シトリーが力強く頷くと、メルは頬に指を添えて考え込む。



 そうやって少しの間思案した後で、不意に悪戯っぽい笑みを浮かべた。

「本当に、私のやりたいようにしていいんですね?」
「ああ」
「じゃあ......」

 倒れ込んでいるリルの背後に座り込むと、メルはその上体を抱きかかえる。
 そして、その耳許に口を寄せて囁きはじめた。

「いい?私とリルは双子なんだから、私たちは同じことを感じて、同じことを考えるの」
「......」

 メルの声に、ぐったりと目を閉じたままでリルが微かに頷いた。

「今、私たちは繋がってるの。だから、私が感じてることはリルも感じるし、私が想っていることはリルも想うの。わかった?」

 メルの囁く言葉に、リルはコクリ、コクリと頷く。

「じゃあ、これからリルに私の本当の気持ちを見せてあげる。だから、全てを受け容れてね?」

 そこまで言うと、メルは顔を上げてシトリーを見上げた。

 これからメルのやろうとしていることを察して、シトリーが呆れ顔で苦笑する。

「まったく......。おまえは、自分が楽しみたいだけなんじゃないのか?」
「だって、シトリー様とのセックス、本当に気持ちよくて。私、シトリー様にお仕えして、もっといっぱいシトリー様に気持ちよくして欲しいんです。そして、この気持ちをリルにも教えてあげたいんです」

 そう言ったメルの顔は、真剣そのものだった。

「だめですか、シトリー様?」

 黙っているシトリーをじっと見つめるメルが、表情を曇らせる。
 その瞳が、不安そうに潤んで揺れていた。

 と、不意にシトリーが口許を緩ませた。

「まあ、いいだろう」
「ありがとうございます!シトリー様!」

 一転して、メルの表情が喜色に包まれる。

「で、もういいのか?」
「はい!」

 一度確認すると、シトリーは腰を屈めて抱きかかえられているリルと、そしてメルの額に同時に指を当てた。

「じゃあ、始めるぞ」
「はいっ。......あああっ!」
「......んんんっ!」

 シトリーの瞳が再び輝くと、ふたりの体がビクッと震えた。
 その額から指を離すと、シトリーは一歩後ろに退がる

「これでいいぞ」
「えっ?」
「これでおまえたちふたりは繋がった。これで、おまえの思い通りになる」
「そうなんですか?」
「ああ。すぐ試してみればいいさ。......じゃあ、起こしてやれ」
「はい。......リル、ねえ、リルったら!」

 名前を呼びながら体を揺さぶると、短く呻いてリルがゆっくりと目を開いた。

「んんっ......メル?ええっ?この人は?」

 まず、自分を抱きかかえているメルの顔を見て、次に、自分の正面に立つ男に気づく。
 黒髪に金色の瞳の、見たことのない男。
 それも、エルフではない相手がこの場にいることに戸惑いの表情を浮かべる。

「この方はね、シトリー様よ、リル」

 リルの問いにそう答えて、その耳許でメルはいかにも楽しそうにクスクスと笑う。

「......えっ?シトリー様って?」
「シトリー様は、私のご主人様なの」
「ちょっと!なにを言ってるの!?どういうことなのよっ、メル!?」

 驚いて体を起こして聞き返してくるリルには答えることなく、メルは立ち上がる。
 そして、すぅっ、と男の傍らに体を寄り添わせた。

「......メル?」
「私だけじゃないわ。フィオナ様も、他のみんなもシトリー様のものなのよ」
「そんなっ?......フィオナ様!?」

 リルの見ている前で、フィオナがシトリーという男の、メルが立っているのと反対側に立つ。
 見ると、そこにはニナと、もうひとり、初めて見るエメラルドグリーンの髪の長い女がいた。
 その全員が、妖しいまでに淫靡で、艶めかしい表情を浮かべていた。

「だから、ほら......。ん、ちゅ......」

 すっかり混乱しているリルに微笑みかけると、メルは男に顔を近づけてその唇を吸った。

「メル......っ!」

 あまりのことに、目を丸くしたままリルは言葉を失う。

 だが、それは単に驚いただけだからではなかった。

 メルがその男に口づけした瞬間、ドクンッ、と心臓が飛び出そうなほどに高鳴った。
 思わず息が詰まってしまって、それで言葉が出てこなかった。

 ......今のは、いったいなんなの?

 まだ、心臓がドクドクと早鳴っている。
 それがなぜなのか、自分でもわからない。

 ただ、自分の目の前では......。

「んふ、んちゅ、あふっ......んっ、れろ......」

 メルが、相手の頭を抱きかかえるようにして、長く、情熱的な接吻を交わしていた。
 その口に吸いついたまま、メルがちらりと横目でこちらを見る。
 そして、目尻を緩めると、少し口を離して舌を伸ばし、見せつけるように絡ませた。

 ぴちゃぴちゃと、わざと湿った音を立てるようにして舌を絡ませ合っているメル。
 赤い舌が、意志を持った生き物のように蠢き、絡み合う。
 今の彼女は、生まれた時からいつも一緒にいたリルが見たことのない、いやらしい表情を浮かべて男と口づけを交わしていた。
 しかも、メルはその、シトリーという男が自分の主人だと言った。そればかりか、森の指導者で世界樹の巫女であるフィオナにとってもそうだと。
 それだけでも信じ難いことなのに、メルの姿を見ていると心臓が割れ鐘のように高鳴って、胸の奥が熱くなってくる。
 自分でも理由がわからないが、そんなメルの姿に視線が釘付けになって、目を逸らすことができない。

 リルの見ている前で、男の手が服の上からメルの胸を掴んだ。

「......んんっ、んふう!」
「ふあああっ!?」

 同時に、ふたつの声が上がった。

 口づけを交わしたまま、くぐもった声を上げて身をよじるメルと、床に座り込んでビクッと体を震わせるリル。

 なんなの?これは、どういうことなの?
 私の体に何が起こっているというの?

 メルが胸を掴まれたのを見た瞬間、胸が締めつけられるように感じた。
 いや、実際に今も自分の胸を揉まれているように感じられて、ゾクゾクと背筋を痺れるものが走るのを感じている。

「......あんっ!ああっ、シトリー様!」
「やっ!?今度は、なに!?んっ、んふうううっ!」

 メルの身につけている、森の中でも動きやすい裾の短いチュニックの中に男の手が入っていく。
 次の瞬間、リルの下半身で熱いものが弾けた。

「んっ、ふあぁんっ、シトリーさまぁ!」
「んんんっ!やっ、どうしてっ!?」

 チュニックの中で男の手が動くと、首を反らせてメルが喘ぐ。
 同時に、リルの体をビリビリと衝撃が駆け抜けていく。
 触られてもいないのに、アソコの入り口の辺りを掻き回されているような感覚に戸惑いを隠せない。

「あんっ!シトリー様っ、いやらしい私をもっと可愛がってください!あふっ、んふうううっ!」
「そんなっ、なに言ってるの、メル!?んくうううううっ!」

 男に抱きつき、その愛撫に身を任せて体をくねらせているメル。
 その膝が、ガクガクと小刻みに震えはじめていた。
 それは、彼女自身が口にしているように、いやらしいとしか言いようのない姿だった。
 彼女がそんなにいやらしいなんて、俄には信じられない。
 しかし、そんな姿を見せつけられると信じないわけにはいかない。
 それどころか、自分の体が熱くなって、アソコが疼いてくるのを感じていた。
 自分でも変だと思うのに、止めることができない。
 必死に口を押さえて、漏れ出ようとする声を抑えようとするが、もう押さえ込むことができない。
 男の手の動きが次第に激しくなっていくにつれ、メルの喘ぎもどんどん大きくなっていく。

「ああっ!シトリー様!私っ、もうっ、もうっ!ふぁあああああああああああっ!」
「ふああっ!?んんっ!?んふうううぅあああああああっ!」

 メルが男にしがみついて絶叫する。

 同時に、リルの中でも痺れるような刺激が弾けた。
 熱いうねりがこみ上げてきて、体がきゅうっと硬直する。
 知らず知らずのうちに、リルはメルと同じように喉を震わせて絶叫していた。
 ふたりとも、背筋をピンと反らせて、ヒクヒクと体が小刻みに震えていた。

「あぁぁ......シトリーさまぁあ......」
「んんん......んふうぅ......」

 ほぼ同時に、メルとリルの体から力が抜ける。

「えっ......?」

 そのまま倒れ込みそうになったリルの体を、そっと抱く者があった。

「......フィオナ様?」

 自分を優しく抱きかかえていたのは、フィオナだった。
 こちらを覗き込んで微笑んでいるその笑みは、いつも森のみんなを見守っていたのと同じ笑顔に見えた。

 だけど、何かが違う。
 そうは思うのだが、何が違うのか......。
 頭の中がふわふわして、まるで夢の中にいるみたいだった。
 体にも、力が入らない。
 初めての激しい絶頂の後の脱力感で、リルの思考はすっかり鈍っていた。

「ほら、リル。ちゃんとメルを見ないとだめよ」

 そう言われるままに、フィオナの指さす方を見る。

 そこでは、メルが両膝をついて男の股間に手をやっていた。
 うっとりした表情で、愛おしそうにその手を動かしている。

「......メル?」

 一瞬、リルには彼女のしていることがよくわからなかった。

 だが、メルの手の中で、みるみるそそり立っていくものは、間違いなく男のそれだった。
 その、ヌメッと光る先に、メルがそっと舌を這わせる。

「メルッ!......ううっ!」

 驚いてメルを制止しようとして叫んだリルが、またもや胸が締めつけられる感覚に小さく呻く。
 男のモノを舐めるなんて、汚らわしいし、破廉恥極まりない行為のはずなのに、見ていると胸がドキドキと高鳴ってくる自分がいた。

 やだ、どうしちゃったの、私?
 なんでこんなに......?
 だいいち、メルったらそんな......そんないやらしいこと......。

「んっ、んんっ!」

 チロチロと、手の中の肉棒を舐め回しているメルの姿を見ていると、胸がきゅうっとなる。

 そんなリルをちらりと一瞥すると、メルは男を見上げて口を開いた。

「シトリー様......シトリー様のおちんちん、こんなに逞しくなって......。お願いです、シトリー様のおちんちんを、どうか私に入れてください......」

 ほんのりと頬を染めて、熱い吐息を吐きながらメルが男にねだる。

「いいだろう。ほら......来い、メル」

 男がその場に腰を下ろすと、メルはその両肩に手をかけて立ち、そのまま、ゆっくりと腰を落としていく。

「ダメよっ、メル!......んっ!」

 メルのしようとしていることを止めようとして、またもや呻き声をあげるリル。
 体が熱くて、アソコが疼いて胸が切なくなる。
 それを止めなければいけないと思う自分と、期待と羨望を感じている自分がいて、どうしていいのかわからなくなってくる。

 そんな彼女にかまうことなく、メルは男のモノを自分のアソコに宛がう。
 そして、そのまま腰を沈めて、一気に自分の体内に飲み込んでいく。

「あふっ、ああっ、シトリーさまぁあああああああ!」
「はううっ!?んふぅうううううううううっ!」

 またもや、同時にふたつの声があがった。

 男に抱きついて、顎を上げて喘いでいるメルと、フィオナに支えられて、体を弓なりにさせているリル。

 さっき感じたのと同じ、ジンジンと痺れる刺激が全身を駆け巡っていた。
 いや、さっきのよりも、今度の方がずっと深くて、熱い。
 自分の奥まで貫かれているように感じる。

「あっ、ああんっ、素敵ですっ、シトリーさまぁ!」
「やんっ、ああっ!なんでっ、こんなっ!?ああああああっ!」

 男にしがみついて、メルが跳ねるように腰を動かしはじめる。
 彼女の動きに合わせるように、リルの奥深くを貫く衝撃が伝わってくるように思えた。

「あんっ、はぁああんっ!ああっ、イイですっ!」
「あうっ!なっ!?こんなことがっ!?......はううううううっ!?」

 今、刺激を感じている場所よりもずっと浅い場所に、新たな痺れが走った。

「フィッ、フィオナ様!?んんっ!んふうううううっ!」
「あらまぁ、やっぱり双子だわ。メルのいやらしい姿を見て、こんなに濡らしちゃうなんて、リルもいやらしいのね」

 気づけば、背後から自分を抱きかかえているフィオナが、チュニックの裾をたくし上げてリルのアソコを指で弄っていた。

「そんなっ!やあっ......私はっ、いやらしくなんかっ!」
「でも、リルのここ、こんなにトロトロに溢れてきてるわよ」
「はうううううっ!それっ、ダメですっ、フィオナ様!」
「ダメじゃないでしょ?リルも、メルと一緒。いやらしい子なの」
「違いますぅううっ!私はっ、いやらしくなんかっ!あああっ!」

 アソコの奥と入り口と、同時に強い刺激を感じながら、リルは懸命に頭を振る。

「ほら、それなんかもメルと同じだわ」
「ええっ!?んんんっ!メッ、メルッ!?」

 リルの視線の先には、男にしがみついて、リルと同じように頭を振っているメルの姿があった。

 しかし、バサバサと髪を振り乱して腰を上下させているメルの姿を見ても、不思議と違和感や嫌悪感は感じなかった。
 それどころか、その姿を見ていると体の芯から熱くなってくる。

「シトリーさまぁあああああっ!私のこのいやらしい体をっ、もっと気持ちよくしてください!もっとっ、奥まで突いてっ、くださいいいいい!」

 ああっ......メル......。
 ......はううっ!んっ!
 やだ......なんで、こんなに体が疼くの?
 ......もしかして、私も、いやらしいの?

 メルを見ていると、体が疼いて抑えが利かなくなってくる。
 頭の中がのぼせたように熱くなっておかしくなりそうだ。

 そこに、体の奥を突き上げられるような刺激を感じると。

「はぁんっ!んふぅううううううん!」

 リルの喘ぐ声に、甘く艶のある響きが増していく。

 目の前で、うっとりとした表情を浮かべていやらしく腰をくねらせている、自分と同じポニーテールに、同じ顔の少女。
 それがメルだということはわかっているはずなのに、まるで自分がその男とセックスをしているように錯覚しそうになる。
 思いきりいやらしく乱れている自分を、もうひとりの自分が見ているような感覚。
 それほどまでに、体の疼きと、それを満たす、痺れるような刺激が一致していた。

「ふぁああああああん!ああっ、シトリー様っ!気持ちっ、いいですぅうううう!」
「あああああんっ!気持ちっ、いいっ!」

 ついに、リルがはっきりと快感を口にした。
 頬を染めて目尻を下げ、緩んだ口許から涎を垂らしたその表情は、完全に蕩けきっていた。

「うふふ......。本当にいやらしいのね、リルは」
「はいいいぃ。私、いやらしいですうぅ。......はんっ、ふああああっ!」

 焦点の定まらない視線を泳がせながら、フィオナの言葉に答えるリル。
 もしかしたら、もう、自分が誰と話しているのかもわかっていないのかもしれなかった。
 ただ、視線は目の前のメルと男のセックスだけを見つめていた。
 知らず知らずのうちに、メルの動きに合わせてリルも腰をくねらせる。
 そうしていると、本当に自分がその男とセックスをしているように感じられる。
 本当は入っていない、肉棒の律動が感じられるようだった。
 フィオナに弄られているその秘裂からは、止めどなく蜜が溢れ出ていた。

「ああっ、素敵ですっ、シトリー様!」
「そうか。おまえは本当にこれが好きだな」
「はいぃいいいい!私っ、シトリー様の逞しいおちんぽっ、大好きっ!あんっ、はぁああああああっ!」
「まったく、たいした牝っぷりだ」
「はいっ、はいっ!私は、シトリー様のことが大好きな牝ですっ!シトリー様におまんこ突かれるのが大好きなっ、牝奴隷ですぅううううっ!」

 ......うん、私っ、これっ、大好き!
 そう......この方におまんこ突かれるのが大好きな、牝奴隷......!
 この方?
 そうだわ......。
 この方の名前は......シトリー様。

 いやらしいことしか感じなくなったリルの頭に、メルとシトリーの会話がすぅっと染み込んでくる。
 もう、すっかり自分がシトリーとセックスしている気分になっていた。
 この、お腹の奥を突き上げるような刺激は、シトリーの肉棒に突かれているためだと信じることができた。

「よし。よくできた牝奴隷にはちゃんと褒美をやらないとな」
「はぃいいいいいっ!くださいっ!シトリー様のご褒美っ、私の中にっ、たっぷりくださいいいいいっ!」
「んふぅううううううううううう!?」

 メルの興奮とシンクロしたように、熱い想いが溢れ出てくる。
 いやらしい感覚で心も体も満たされ、自分の奥まで突き上げるシトリーの堅くて大きな肉棒をはっきりと感じられる。
 体が、いっそう敏感になったように快感がどんどん膨らんでいく。

 そして、その時がやってきた。

「ふわあああああああっ!ああっ、シトリー様の熱いのがっ、いっぱいっ、びゅくびゅくって来てます!はうっ、ああっ、んふぅううううううううう!」
「あふぅうううううううううううっ!ああっ、熱いぃいいいいいいいいっ!」

 シトリーにしがみついて体を仰け反らせたメルの体がビクビクと震える。
 同様に、リルも下半身を突き上げるように体を反らせて絶叫していた。
 お腹の中に熱いものを感じて、メルと同じように全身が痙攣する。
 弓なりになって突き上げた股間から、ビュッと飛沫が飛び散った。

 疑似体験のセックスで射精まで感じて、リルはイッてしまったのだった。












「大丈夫、リル?」
「......メル?」

 絶頂の幸せな余韻が、メルの声で妨げられる。
 その視界にメルの姿を認めた瞬間に、さっきまでの夢のような気持ちが思い出される。
 だが同時に、やはり、シトリーとセックスをしていたのはメルだと思い知らされる。

 それが、無性に悲しく感じられた。
 シトリーとセックスをしたのが、どうして自分ではなかったのか、それしか考えられない。

「......メルったら、ずるいわ」
「ええっ?」

 リルに、恨みがましそうな表情で睨みつけられてメルが驚いてみせる。
 だが、その目は微かに笑っていた。

「どうしてメルだけがシトリー様とセックスしてっ!本当にずるいわよ!」

 ごくごく自然にメルは、シトリー様、と口にしていた。
 そう呼ぶことに、戸惑いも違和感も感じなかった。
 今日、初めて会ったばかりだというのに、今はその相手を慕う気持ちしかない。
 メルと同じように、自分も可愛がってほしい。
 頭の中はそんな願望でいっぱいになっていた。

「私もっ......私もシトリー様とセックスしたいのに!」

 メルをなじるリルの瞳に、大粒の涙が浮かんでいた。

 さっきまでの快感のうねりから醒めると、シトリーとセックスをしていたのがメルだという現実を突きつけられる。
 メルと同じ顔、同じ髪型、そして、きっと体もそんなに変わらないのに、彼女か感じていたのが本物で、自分が感じた快感と幸福感はまがい物だったような気がして、言いようのない喪失感に襲われる。
 それを満たすのは、自分がシトリーとセックスをすることだけ......。

 しかし、メルの返事はにべもなかった。

「だって、しかたないじゃない。私はシトリー様にお仕えするいやらしい牝奴隷だからシトリー様とセックスするのは当然だけど、リルはそうじゃないんだもの」
「そんなっ!そんなのってひどいじゃないの!」

「ふっ......それくらいにしておけ、メル」

 メルとの会話に割り込んできたその声を聞いた瞬間、胸が弾むのを感じた。
 声のした方を向くと、あの、金色の瞳がこちらを見て微笑んでいた。
 その目で見つめられると、ドキドキして、顔が火照ってくるのを感じる。

「だって、シトリー様、リルがあんまりはっきり言うから、ちょっとからかいたくなったんですよ」
「でも、今日こいつを連れてきたのはそんなことをするためじゃないだろうが。というか、おまえがそういう風にしたいって言ったんだぞ」

 シトリーと親しげに話をしているメルを見ていると、きゅっと胸が締めつけられて、なんだか切なくなってくる。
 そんな彼女の気持ちを見透かしたように、メルはちらりとリルの方を見て意地の悪い笑みを浮かべた。

「それはそうですけど......。でも、さっきのリルったらすごくいやらしいんですもの。私、おかしくて」
「ちょっと!いやらしいのはメルの方じゃないの!」
「で、どうするの?」
「......えっ?」

 いきなり話題を変えられても、なんのことかリルにはわからない。

「だから、今日はリルをシトリー様の奴隷にしてあげようと思ってここに連れてきたんじゃないの」
「そ、そうだったの......?」

 メルの説明を、素直に受け入れている自分がいた。
 もう、リルの頭の中には、当初感じていた違和感は微塵もなかった。

「で、どうするの?シトリー様の奴隷になるの?ならないの?」

 自分と同じ、淡い茶色の瞳に悪戯っぽい光を浮かべて、メルが重ねて訊いてくる。

「なるわっ!私もシトリー様の奴隷になる!」

 即答したリルには、他の選択肢など考えられなかった。
 シトリーの奴隷になれば、自分も可愛がってもらえる。自分の望みが叶えられる。

 それなのに、メルはリルを試すような表情を崩さない。

「そう?だったら自分でシトリー様にお願いするのね。どうか奴隷にしてくださいって」

 そう言って、メルは視線をリルから外してシトリーを見つめる。
 主人に仕える忠実な奴隷の、そしてひとりの男を愛する女の顔そのもので。

 もちろん、そう願うことに、リルにはなんの躊躇いもなかった。
 体を起こしてシトリーの方に向き直ると、真っ直ぐにその顔を見上げる。
 その瞳には、これから仕えるべき主に対する敬愛の念に満ちていた。

 そして、シトリーに向かって恭しく頭を下げる。

「シトリー様......どうか、私をシトリー様の奴隷にしてください」
「本当にいいのか?」
「もちろんです!私も、メルみたいにシトリー様の奴隷になりたいんです!」

 もちろんリルは、心の底からシトリーの奴隷になりたいと願っていた。
 その想いを、精一杯自分の態度と言葉に込めた。

 だから、頭を下げたまま、身じろぎもせずにシトリーの返答を待った。



「......ふん、いいだろう」 



 頭上から降ってきた声に、胸が高鳴るのを感じた。
 おそるおそる、面を上げるリル。
 こっちを見ているシトリーと視線が合う。

「そ、それでは......?」
「ああ。おまえを僕の奴隷にしてやる」

 言い方はぶっきらぼうだったが、リルにとってその言葉は天の声に等しかった。

「ありがとうございます!」

 感激に打ち震えながら、リルは再び深々と頭を下げる。

 と、シトリーが一歩こちらに踏み出してくるのを感じた。

「頭を上げるんだ、リル」
「......は、はい?」

 顔を上げたリルを見下ろして、シトリーが薄笑いを浮かべた。

「じゃあ、これからおまえを僕の奴隷にしてやるから、じっとしてるんだ」
「はい......」

 リルの見上げる前で、シトリーの腕がゆっくりと動き、その指をリルの額に当てた。

「......あうっ!ぐあああああああああっ!」

 シトリーの瞳が輝いたと思った瞬間、どす暗く邪念に満ちた力が流れ込んできてリルは悲鳴をあげた。

「ひぐぅっ!うぐぅうううううううっ!」

 邪悪な思念が駆け巡り、体を、そして心を満たしていく。
 苦痛にリルの目は大きく見開き、全身が小さく痙攣している。

 だが、次第に苦痛が薄れていくのを感じた。

 流れ込んでくる、黒く邪な力の流れは変わらない。
 ただ、それが苦痛ではなくなってきている。

 それどころか、それが心地よくすら感じられる。

「......あぁ。ん......ふぁああ......」

 笑顔すら浮かべて、自分を満たしていく思念に身を委ねるリルの中で、シトリーへの敬慕が崇拝へと昇華していき、絶対の忠誠心が芽生えていく。
 そして、リルはシトリーの奴隷になる真の意味を悟る。
 それは、己の身も心もシトリーに捧げるということ。

 メルがシトリーに向けていた、うっとりと熱のこもった視線。
 それは、身も心もシトリーのものになった者のもの。
 自分もこれでメルと同じように、この方のものになれる

「ああぁん......ん、んんん......」 

 ようやく、シトリーの指がリルの額から離れる。

「これでおまえは僕の奴隷だ、リル」
「はいぃ......私、嬉しいです、シトリーさまぁ......」

 頬を赤らめてシトリーを見上げるリルは、メルやフィオナと同じ、淫靡な笑みを浮かべていた。
 この方こそが自分の全て、この方にお仕えすることは何ものにも代え難い歓び。
 そう考えただけで、自然と笑みがこみ上げてくる。

「ふっ、可愛いやつだ」

 シトリーの手が、リルの顎を、くいっ、と持ち上げる。
 嬉しそうに目を細めて、リルはシトリーを見つめていた。

「よし、おまえが僕のものになった記念に、これからおまえの相手をしてやるか」
「えっ?」
「おまえも見てただろう?さっき、メルが僕の相手をしてたのを」
「......あっ!」

 さっきの、シトリーとメルのセックスの光景を思い出して、リルの胸が弾んだ。
 あれを、自分もしてもらえる。これで本当に満たされる。
 あまりに嬉しくて、言葉を発するのも忘れていた。

「どうした?して欲しくないのか?」
「あっ、いえ!欲しいです!シトリー様に、して欲しいです!」

 慌てて返事をすると、シトリーはニヤリと笑って、リルの傍らにいたメルに声をかけた。

「メル、ちょっとこっちに顔を寄せろ」
「え、私ですか?......あうっ!?」

 メルとリルの額にポンと指を当てると、シトリーの瞳が短く輝く。
 少し驚いたように、ふたりが同時に悲鳴を上げた。

「はうううっ!」
「ううっ!......シトリー様、今のは?」
「うん。もっと遊んでみようと思ってね。さっきと逆に繋いだのさ......さてと、じゃあ、始めるとするか、リル」
「は、はい!」
「さっき、メルがしていたことを見ていたから、どうしたらいいかわかるよな?」
「......はい」

 シトリーの方ににじり寄ると、その股間のものを引っ張り出して、さっきメルがしていたように手のひらで包み込む。
 リルの手の中のそれはさっきメルの中に出したからか、少しくにゃりとしていた。
 それをそっと握ったまま、手を動かしてみる。
 扱くというよりも、優しく撫でるように。
 そうしていると、手の中のそれが次第に堅くなってくるのがわかる。

「あ、あぁ......」
「どうした?もう少し力を入れてもいいんだぞ」
「は、はい......」

 少しだけ力を込めて握ると、堅くなったそれがトクントクンと脈動するのを感じる。

「ふあぁ......すごい......」

 手からはみ出すほどに膨らんでいき、ドクドクと熱く脈打っている肉棒を見て、リルが感嘆の声をあげる。
 見ているだけで胸が高鳴って、どうしようもなくなってくる。
 我慢できなくて、リルはその先に舌を伸ばした。

「ん、れる、ちろ......」

 口の中に、なんとも形容のしがたい味と臭いが広がる。
 それは、今までリルが経験したことのないものだった。
 どちらかというと、不味い部類に入るだろう。
 とにかく、おかしな味だ。

 でも、嫌な感じはしない。
 これが、自分の仕える主人の味だと思うと、むしろ好ましく思える。

 シトリー様の......ご主人様の味と臭いをしっかり覚えないと......。

「ぺろ......あふ、ん、れろっ......んっ、ちゅるっ......」

 夢中になって扱きながら舌を這わせていると、肉棒の先からトロリとした汁がこぼれてきた。
 それを舌先ですくい取る。

「ちゅるっ、あふ、れろ、んっ、ちゅるるっ......」

 染み出てくる透明で粘液質の汁を舌先で絡め取るのに集中していると、口の中がネトネトになってくる。
 口いっぱいに臭いと味が広がっていく。

「れろっ、ちゅる......んふうっ......」

 熱心にしゃぶりながら、リルは体が火照ってくるのを感じていた。
 じわじわと、芯から体が熱くなってくる。



「うんんっ!いやぁ、リルったらいやらしいよぉ......」

 リルの姿を眺めていたメルが、ブルブルッと体を震わせた。

「んふうぅん......なんか、リルを見てたら私までヘンな気持ちになっちゃうよ......」

 頬を染めて、メルがふとももを擦り合わせている。

 それは、リルも同じだった。
 こうしているとどんどん体が熱くなって、アソコが疼いてくる。
 自然と、モゾモゾと腰がくねってしまう。

 そうかぁ......私のアソコ、シトリー様のを入れて欲しくて仕方がないんだぁ......。

 自分の体が、今握っている肉棒を求めているのを感じる。
 でも、こうやってしゃぶるっているのも気持ちよくて、止めるのが忍びない。
 どうしたらいいのか自分でもわからなくて、肉棒に舌を這わせながらシトリーを見上げる。 

「どうしたんだ、リル?」
「ん......ふわぁい......私のアソコ、シトリー様のが欲しくて、疼いてるんですけど......でも、シトリー様のおちんちん、美味しくてもっとしゃぶっていたくて、自分でもどうしていいかわからないんです」

 潤んだ瞳でシトリーを見上げ、ふとももをモゾモゾさせながらリルが答える。

「ふっ、まったくいやらしい奴だな」
「あふ......ん、もうしわけ、ありませぇん......」
「でも、おまえ、どう見ても我慢できそうじゃないぞ」
「ふぁい......もう、アソコが疼いて疼いて、どうしようもないんです」
「仕方のないやつだな。じゃあ、まずそっちを満足させてやる」
「え?......あんっ!」

 肩に手をかけて、シトリーがリルを押し倒す。
 仰向けになったリルの下着を脱がせ、両足を手にとって大きく広げさせる。
 露わになったリルの裂け目は充血してぱっくりと開き、ヒクヒクとしながら蜜を垂れ流していた。

「あぁ......シトリーさまぁ......」

 目の前で揺れる屹立した肉棒を、劣情の炎を瞳に浮かべて見つめるリル。
 その口から、はあぁ、と熱い吐息が漏れる。

「じゃあ、始めるぞ。いいか?」
「はい、はいっ......お願いします!......あんっ、はあああっ!」

 希望に満ちた表情で何度も頷くリルの秘裂に、堅く熱いものが当たり、肉を押し分けて入って来る。
 入り口付近の敏感な部分を思いきり擦られて、リルの頭が反り返った。

「はううううっ......くっ、つうっ!......あっ、あああああああっ!」

 アソコの中をゴリゴリと擦りながら入ってきたそれが、何かをプツッと突き破ったように感じた。
 一瞬、鈍い痛みを感じたが、それ以上に強い快感がこみ上げてくる。

 と、傍らにいたメルがガクリと膝を落とした。

「あふううううううううっ!?......やっ!?どうしてっ!?」

 ブルブルと体を震わせて、驚いたような声を上げる。

「だから言っただろ。さっきとは逆に繋いだって。今度は、リルの感じた快感がおまえに伝わるようになってるんだ」

 事もなげにそう言うと、シトリーは深々とリルの中に肉棒を沈めた。

「んふぅうううううううううううっ!」
「ふぁあああああああああっ!」

 悲鳴にも似た喘ぎ声が、同時にふたつあがった。

 肉棒で奥まで突かれて、リルの背筋が弓なりに反る。
 同様に、メルもその場に倒れ込んで体を硬直させる。

「あうっ、うあああっ、あっ、ああああああっ!」
「ひあああああっ!あうんっ、やあっ!こんなのっ!?」

 シトリーが腰を動かし始めると、すぐに強烈な快感のうねりに飲み込まれる。
 熱い塊が、いったんアソコの入り口付近まで戻っていくと、男を知ったばかりで、まだぎゅうぎゅうに狭い中を擦りながら押し入ってくる。
 そして、奥の方をざらっと擦って、突き当たりににズンと当たる。
 そうされると、全身が燃えるんじゃないかと思うくらいに体が熱くなって、指先まで痺れるような刺激が体中を駆け巡る。
 それに、その堅い塊が出入りする動きが次第に滑らかになっていっているのが自分でもわかる。
 気持ちよくて、自分のアソコからいっぱいに溢れてきて滑りがよくなっているのに違いなかった。

「はううっ、あっ、あんっ、あふぅうん!」
「やあっ、こんなのっ!......リルったらっ、初めてなのにっ、いやらしすぎるよぉおおおっ!」
「もちろん、リルの体は快感を強く感じるようにしてあるさ。僕の奴隷らしい、いやらしい体にな」
「ふぁああああああっ!ああっ、素晴らしいですっ、シトリー様!」

 シトリーに突かれるたびに、体を反らせながら、リルは夢見心地で叫んでいた。

 この、体中にビリビリ響く快感。
 これこそが、自分が求めていたもの。
 さっきのはまがい物で、終わるとすぐに醒めてしまったけど、これは違う。
 今、自分の中に、確かにシトリーのものが入ってきている。
 その安心感、この幸福感、そして、圧倒的な快感。 

「あああっ、んくっ、ふぁああああっ!」

 無意識のうちに、リルはシトリーの腰に足を絡めていた。
 そうすると、下腹部に力が入って、より確かにシトリーのものを感じられる。
 よりきつく擦られて、脳天まで突き上げるほどの快感を感じる。

「はぁっ、ああっ、シトリー様!シトリーさまぁっ!あんっ、はあっ、はああああっ!」
「はうっ、あんっ!リルッ、激しすぎっ!それだめえっ!ああああああっ!」

 身悶えしていたメルが、悲鳴を上げながらきゅうっ、と反り返る。

 だが、リルにはその声ももう聞こえていなかった。
 すっかり緩んだその目は白目がちになり、恍惚とした笑みを浮かべて快感に身を任せている。

 何度も何度も擦られて、アソコの中が痺れて感覚がなくなっていく。
 いや、厳密には快感以外の感覚を感じなくなっているといった方がよかった。
 自分の中に入っている、その堅いものははっきりと感じる。
 その、堅くて熱いものと自分のアソコが、無限装置のように快感を生み出していく。
 体がふわふわして、快感の海に漂っているみたいだった。
 もう、気持ちの良いことしか感じられないし、考えられない。

「はううううううっ!あうっ、ああっ、リルッ!もうイクのねっ!ああっ、私もイクッ!あああああっ!」

 メルの体が、ビクビクッと何度も震えていた。
 彼女がイキそうだということはつまり、リルも絶頂が近いということ。

「ああああああっ!あ゛う゛っ!ふぁあああああっ!」

 リルが、体を持ち上げるように背中を反らせた。
 その態勢のままで、全身がビクッと跳ねる。

 それに合わせて、膣全体が痙攣して咥え込んだ肉棒を締めつける。
 次の瞬間、熱いものがリルの中で弾けた。

「くふぅううううううううううううううう!」
「ふあああっ!イクッ!私もっ、いっくぅううううううううう!」

 絶叫と共に、リルとメルの体がいったん大きく跳ねて固まる。

「はうううぅ......ううっ、んっ!ああっ、あふぅうううううぅ......」

 アソコの中に熱いものが満たされていき、永遠に続くかと思うような絶頂の中、リルの意識は真っ白に塗り込められていく。

「んふぅうううう......はうっ!やんっ、まだ、イッてるよぉ......んっ、ああああっ!あんっ、あうっ、んふうううぅ......んんんっ!はあぁ......」

 意識を失ったまま、まだビクビクと体を震わせているリルの横で、同じように何度も体をひくつかせていたメルも、最後に一度大きく体を跳ねさせるとそのままぐったりとなる。






* * *






 世界樹の洞の中で、仲良く並んで気を失っているポニーテールの少女。

 シトリーとフィオナが、笑みを浮かべながらふたりを見下ろしていた。

「終わりましたか、シトリー様?」
「ああ。それにしてもエルフというのはつくづく変わった種族だな。おまえみたいに僕の力に抗う者もいれば、こいつらのようにあっけなく受け入れる者もいる」
「それは......全てのエルフが精霊を操れるわけでもありませんし。それに、その素質があっても長い修練を積まなければ、そこまで精神を鍛えることはできません。そういう意味では、この子たちは普通の娘ですから」
「なるほどな」
「でも、この姉妹の弓矢の才能はこの森でも屈指の腕前です。この子たちを中心に射手の精鋭を組めば、きっとシトリー様のお役に立ちますわ」
「ふむ......」
「でも、シトリー様。次からは私の弟子たちが相手です。私が言うのもなんですが、あの子たちの力は相当のものです。特に、私の後継者候補の数名は、私に準ずる力を持っています。隙を見せて反撃に出られたら、私とメリッサさんのふたりがかりでも抑え込むのに手こずるかもしれません」
「ああ。用心しておこう」

 次の標的を攻略すべく、真剣な顔で会話をしているふたりの足元で、小さい呻き声が上がり、メルとリルがゆっくりと目を開いた。

「ふあぁ......あ、シトリーさまぁ......」
「んんっ......やだ、私も気を失ってたんですね......」

 シトリーの姿を認めて、潤んだ視線を投げかけてくるリルと、バツが悪そうに頬を赤らめるメル。

「どうだ?僕の奴隷になった気分は?」
「私......とっても幸せです。私の全てが、シトリー様のものになったんだって、実感できます」
「なら、僕の言うことにはなんでも従うか?」
「はい、もちろんです」
「たとえそれが、おまえにとって大切な者たちを裏切り、この森を破滅させるものだとしても?」
「はい、それがシトリー様のご命令とあらば......。それに、森の皆など今の私にとって何ほどの価値もありません。私には、シトリー様よりも大切な方なんかいませんから」

 森の者たちを裏切れというシトリーの言葉に躊躇いなく応じたリルは、いっそ清々しいまでに澄み切った笑みを浮かべていた。

 
 


 

 

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