黄金の日々


 

 

第1部 第8話 4


 また……あの夢だ……。

 気がつけば、フレデガンドはまたあの空間にいた。
 目の前でマクシミリアンとエルフリーデが抱き合って口づけを交わしていた。
 そればかりではない。この日はエルフリーデの服が大きくはだけ、露わになった胸をマクシミリアンがわし掴みにしている。

 どうして?なんで、まだこんな夢を見るの?

 昨日はマクシミリアンと夕食を共にして楽しい時を過ごし、久しぶりに晴れやかな気分で眠りに就くことができた。
 今までのことは全部思い過ごしだと、夢のことも少し神経質になっていたせいだと思ったのに。

 それなのに、どうして?

 戸惑い、困惑するフレデガンドの前で、長い口づけを終えるとマクシミリアンがエルフリーデの乳房に口を寄せた。
 大きく首を仰け反らせるエルフリーデ。そのうなじが、ぶるぶると小さく震えている。
 音のない、静かな空間なのに、切なげに喘ぐ声がこちらにまで聞こえてくるようだ。
 そして、マクシミリアンの手がゆっくりとエルフリーデの股間へと伸びていく。

 いやっ、やめてっ!これ以上はもう見せないでっ!

 叫んでも叫んでも、その声はふたりには届かない。
 それどころか、目を閉じることを顔を覆うこともできず、ただ真っ直ぐにふたりの姿を見つめるしかない。
 開いたままのその目から、ぼろぼろと涙が溢れ始める。

 目の前では、マクシミリアンがズボンの上からエルフリーデの股間を指でなぞっていた。
 また、エルフリーデが首を仰け反らせ、細かく震える喉の動きから、大きな喘ぎ声をあげているように見える。
 そして、マクシミリアンの指がズボンの紐にかかり、ゆっくりと解いていく。

 やめてっ、やめてえええええええっ!





「そんなのいやああっ!……はっ?」

 夢の中で絶叫した瞬間にフレデガンドは目が覚めた。

「またあんな夢を。どうして?」

 ベッドから起きあがった彼女の頬を伝う、冷たい感触。

「これは?私、泣いていたの?」

 確かに夢の中でフレデガンドはぼろぼろと涙を流していた。
 そして、現実の自分も眠りながら同じように涙を流していたのだ。

 どうしてまだこんな夢を見るの?
 すべては私の思い過ごしではなかったの?
 だったら、もうあんな夢は見ないはずなのに、どうして?

「いったい、この夢は何を意味しているというの?」

 夢で見た光景を思い出すと、また涙が溢れてくる。
 しばらくの間、フレデガンドはシーツを顔に押しつけ、声を殺して泣き続けていた。





* * *






 フローレンスの街、貴族や騎士の屋敷の並ぶ一角。

 屋敷の庭で、ひとりの女性が洗濯物を干していた。
 蒼みのかかった黒髪を編み上げ、落ち着いた雰囲気の美人だ。
 彼女は、王国騎士団副長ユリウスの妻、ベアトリーチェ。
 ユリウスの家は、代々騎士の家柄だが、この屋敷にはユリウスとベアトリーチェの夫妻とユリウスの従者、そしてまだ若いメイドのルチアしかいない。
 それは、ユリウスの家が質素、質実を家訓としているためである。
 だから、家の中のことは全て彼女とルチアのふたりだけで切り盛りしていた。ベアトリーチェも、この家の女主人だからといって、家事を全て召使いに任せるようなことはなかった。
 実際、ベアトリーチェは細かなところまで気配りのできる良くできた妻として知られ、メイドのルチアも明るくて気だてのいい働き者で、家事の一切をふたりで片付けることができた。



「それでは、市場へ行って参りますね、奥様」

 ラベンダー色のおかっぱの髪に、カチューシャを付けたルチアがバスケットを下げて出てきた。

「気をつけるのよ、ルチア」
「はい、奥様」

 ルチアが、チャームポイントの人懐っこい笑顔を満面に浮かべて頭を下げる。
 この時間、すでに夫のユリウスは従者を連れて勤めへと出ていた。
 こちらも微笑みを浮かべてルチアを見送ると、ベアトリーチェは再び洗濯物を干し始めた。





 一方のルチアは、屋敷を出て市場への道を歩いていく。

「そこのきみ、ちょっといいかな?」

 人通りのない路地にさしかかったとき、背後から不意に声をかけられた。

「はい。なんでしょうか?」

 ルチアは、何の警戒心もなく振り返る。
 そこには、ひとりの男が立っていた。
 黒髪で、やや細めの体格。特に不審なところはない。
 ただひとつの点を除けば。
 それは、男の瞳が金色であったことだ。

 不意に、その瞳が強く輝いたようにルチアには思えた。

「う、ああ……」

 ルチアは男の瞳を見つめたまま動けなくなった。
 そして、その表情は緩み、とろんとして瞳に靄がかかったように光が消えていく。

「僕と一緒に来てくれないか?」
「はい……」

 男の言葉に、ぼんやりと答えると、ルチアはふらふらと男の後についていった。





 人目のない裏通りを歩く一組の男女。
 男についていく女の足どりはふらつき、おぼつかない様子だ。
 無論、先を行く黒髪の男はシトリー、後をついていくラベンダーの髪のメイドはユリウスの家のメイド、ルチアだ。
 シトリーが、露地の奥にある木戸を入っていくとルチアもふらりとその後を追う。

 木戸の中は、ベッドやテーブルなどの最低限の家具があるだけの簡素な部屋。
 今、この部屋の主はシトリーが暗示をかけて、外に出てしばらく帰ってこないようにしていた。
 中に入ると、すぐに木戸を閉めてシトリーはルチアと向き合う。
 その瞳は霞み、ぼんやりとシトリーの方を見ている。

 やはり、この程度の精神力の相手なら操るのは簡単だな。

 ジュスティーナの時も思ったが、このくらいの抵抗力の人間なら瞳に力を込めただけで簡単に操れるし、このところ、力を使った際に感じる疲労感もほんとんどない。
 確かに、シトリーの調子自体は日によって違うが、調子の良くないときでも普通に人間を操るのは苦にならない。
 それだけに、リディアやピュラの抵抗力がいかに人間離れしているかわかる。そして、おそらくそれはクラウディアもそうだろう。

 虚ろな表情で突っ立ているルチアを前に、そんなことを考えるシトリー。
 だが、すぐに思考を切り替えて目の前の少女へ暗示をかけることに集中する。

「う、うああ……」

 シトリーが視線に力を込めると、ルチアがびくっ、と体を震わせた。
 瞳孔をぶるぶると小刻みに揺らし、少し苦しげに呻きながら、それでもシトリーの目から視線を逸らさず凝視している。

「いいかい。きみは僕に対してどんな抵抗もできない。逆らうことも、逃げることもね」
「私は、あなたに対して、どんな抵抗もできません。逆らうことも、逃げることも、できません」

 ルチアは虚ろな目でシトリーを見つめたまま、その言葉をゆっくりと繰り返す。

「そして、僕に触れられるとそれがどこでもきみは気持ちよくなってしまう」
「あなたに触られると、それがどこでも、私は気持ちよくなってしまいます」
「そして、僕に触られる部分が大きくなればなるほど快感が高まって、僕に対する好意を持ってしまう」
「あなたに触られる部分が大きくなればなるほど、快感が高まって、あなたに対して好意を持ってしまいます」
「僕への好意が高まると、きみは僕の言葉に従うだけで快感に感じてしまうようになる」
「はい。あなたへの好意が高まると、私はあなたの言葉に従うだけで、快感に感じるようになります」

 ルチアは、ゆっくりとシトリーの言葉を繰り返し、その暗示を心の奥深くに染み渡らせていく。
 それだけの暗示を仕込むと、シトリーは彼女の心をいったん解放する。

「あ、あれ?私?あ、あなたは?」

 ルチアはきょろきょろと周りを見回し、視線がシトリーの姿を捉える。

「いったい私に何の用が……て、どうして私こんな所に!?たしか、市場に行く途中だったのに?」

 自分がなぜここにいるのかわからないルチアは、部屋の中を見回し、そしてもう一度シトリーを見る。

「あなたね!いったい私に何をしたの!?」

 怯えたようにシトリーに訊ねてくる。

「その前に自己紹介といこうか。僕の名はシトリー。きみの名前は?」
「ふざけないで、自己紹介なんて!私の名前はルチアよっ。……え?ど、どうして?私ったらどうして素直に名乗ってるの!?」

 自分でも訳のわからないうちに名前を名乗り、戸惑っているルチアに向かってシトリーは一歩踏み出す。

「いやっ、こっちに来ないで!」

 ルチアは、すっかり怯えて後ずさろうとするが、足が動かない。

「なんで!?いやっ、やめて、こっちに来ないでっ!あ、あああっ!」

 逃げようとしても逃げることができないでいるルチアにゆっくりとシトリーが近づいていき、その手をつかむ。

「いああああっ!なんなのっ、これは!?」

 思わず叫んだその声は、恐怖のためというにはあまりにも艶のある声だった。

 なに、このびりびりくる感じ?
 なにかおかしいわ、こんなの!

 相手の手が触れた瞬間に感じた異常な感覚にルチアは戸惑う。

「いったい私に何をしたの!?」
「なにをって、腕を掴んだだけじゃないか」
「うそよっ!あなたが私の体に何かしたんだわ!」
「何を言うんだい?ほら、何もしていないじゃないか」

 シトリーがルチアの手を離してさらに一歩踏み出すと、その顔が再び恐怖に怯えた表情になる。

「いやっ、こっちに来ないで!」
「僕は何もしやしないよ」
「うそっ!逃げたくても私の足が動かない!きっとあなたが変なことをしたのよ」
「変なことってなんだい?」
「怪しげな術か魔法を使ったんでしょう!きっとそうよ!」
「僕が?まさか?」

 シトリーが手を伸ばしてルチアの腕を掴むと、ぐいと引き寄せてその体を抱きしめた。

「ああっ!いあああああああっ!」

 さっき、腕を掴まれたときと同じ、じんと痺れるような感覚の、さらに強烈なものを男と体を重ねているところ全体に感じ、それが体の中を駆け巡る。
 しかも、強く抱きしめられていると、その感覚はずっと途絶えることがなく、体の芯から熱くなってくるような錯覚に陥る。

 でも、何で?この感じ、嫌じゃない……。

 初めて会った男に抱かれて、体が火照るように熱くなるこの感覚に全く不快なものを感じない。
 それどころか、むしろ心地よいとすら思えてくる。

 こうされていると、なんだか暖かくて、すごく安心できる。

 こうして抱きしめられていると、さっきまでの恐怖や不安がきれいに流れ去っていくようだ。

 あれ?どうして私、この人のことを怖いと思っていたのかしら?

 この、シトリーと名乗った男に抱かれていることが、とても好ましいことに思えてくる。
 今さっきまで、相手のことを恐ろしいと思っていたはずなのに、なぜそう思っていたのかがわからない。

「あ……」

 思わず男の顔を間近に見上げた瞬間、ルチアは胸がどきりと高鳴って言葉を失ってしまう。
 茫然としてその顔を見つめていると、男がニッコリと笑って顔を近づけてきた。

 思わず目を閉じたルチアの唇に柔らかい感触が触れる。

「ん、んんん……」

 相手とキスしているその心地よさに、思わずうっとりとしてしまう。

 ああ、なんて心地よくて、幸せな気持ち。

 ルチアの心が、暖かい幸福感で満たされていく。

 だめ、私、どうしようもなくこの人が好き……。

 いつしか、ルチアは自分から相手を抱きしめていた。

「んむ、んふ、むむ」

 自分の口の中に舌が入ってくる。でも、嫌な気持ちは全然しない。

 ああ、シトリー、大好きよ。

 心の底から好きな相手と抱き合って口づけを交わすこの幸福感と心地よさ。
 胸の内で、ルチアは相手の名を呼ぶ。
 それだけで、体がじわりじわりと熱くなっていく。 

「んふ、ん。……え?どうして?」

 いきなり、シトリーがルチアから唇を離してその体を突き放した。
 わけもわからずに立ちつくしたまま、シトリーの顔色を窺うルチア。

「だってきみは僕に近づかれるのが嫌なんだろ?」
「そっ、それはっ!」
「僕がきみに何かおかしなことをしたと、さっききみは言ったじゃないか」
「違うのっ!」

 シトリーに意地悪くそう言われて、ルチアは涙ぐんで叫ぶ。

「何が違うんだい?」
「それは、初めて会ったばかりであなたのことをよく知らなかったからちょっと戸惑っていただけ」
「ふうん。じゃあ、今は僕のことをよく知っているというんだね?」
「そ、それは」

 シトリーに問い質されて、ルチアは言葉に詰まる。
 よく考えてみたら、自分はシトリーという名前以外、一切相手のことを知らない。

「なんだ、答えられないのか?」

 意地の悪い笑みを浮かべて、ルチアを見つめているシトリー。
 黙ったまま何も言えないでいると、その顔が急に険しくなった。

「つまり、きみは嘘つきというわけだ」
「ごめんなさい!」

 謝罪の言葉がルチアの口をついて出た。

「本当にごめんなさい。謝るからっ、だからっ、だからお願い、赦して、シトリー」

 ルチアは必死で懇願する。
 この人のことが大好きで、絶対に嫌われたくない。心の底からそう思えた。

「でもね、きみの態度に僕はいたく傷つけられてしまったんだよ」
「ごんなさい、ごめんなさい、シトリー」
「それだ。馴れ馴れしく呼び捨てにして、いったい何様のつもりなんだ?」
「え……?」

 それきり、ルチアは言葉が続かない。
 確かに、シトリーの言うとおりだった。
 しかし、だからといって、彼のことをどう呼んでいいのかわからない。

「私、いったい、どうしたらいいの」

 ルチアの目から、ぽろぽろと涙がこぼれ落ちる。
 このままだと、自分は彼に赦してもらえない。それが本当に怖くて、悲しかった。

「そうだな。じゃあ、僕のことをシトリー様と呼んで、僕の言うことに何でも従うんだったら赦してやらないこともないかな」
「わかった、シトリー様って呼ぶわっ!何でも言うことを聞くから!」

 縋る思いでルチアは咄嗟にそう言う。
 いや、実際、それで赦してもらえるのなら安いものだとすら思った
 シトリーの言うことを聞くのに何の不満もなかった。

「わかった、だと?」
「い、いいえ!わかりました!シトリー様の言うことに従わせていただきます!」

 ルチアは慌ててそう言い直す。
 シトリーが腕を組んでなにやら思案しているのを息を呑んで見つめる。
 そして、ようやくシトリーが口を開いた。

「じゃあ、証拠を見せてもらおうかな。ルチア、服の紐を解いて胸をはだけて僕に見せるんだ」
「は、はい、シトリー様」

 その命令に一瞬面食らうが、シトリーの心を繋ぎ止めるのに必死のルチアは、すぐに服の紐を解き始める。
 そして、胸をはだけさせると、顔を真っ赤にしてシトリーの顔を窺う。

「こ、これでいかがでしょうか?」

 恥ずかしそうに頬を紅潮させ、少し上目遣いに伺いを立てるルチア。
 だが、彼女が赤くなっているのは恥ずかしいからではなかった。

 シトリー様の命令に従ってると、なんだか胸がドキドキして気持ちいい……。

 いつしか、シトリーの言うとおりに行動するだけで、気持ちが高ぶってくる自分がいた。

「じゃあ、両手で自分の胸を掴んで揉んでみせろ」
「は、はい……」

 シトリーが命令すると、ルチアは形の整った自分の両の乳房を掴み、ゆっくりと揉み始める。

「ん、ああっ、あんっ、むふううう」

 自分で自分の胸を揉みしだきながら、ルチアは熱っぽい吐息を漏らす。

「なんだ、気持ちいいのか?」
「はい、気持ちいいです」
「何が気持ちいいんだ?言ってみろ」
「シトリー様に命令されて、自分のおっぱいを揉むのが気持ちいいです」

 恥ずかしげもなくルチアは即答する。
 シトリーの命令に答えているその目が次第にとろんとしてくる。
 命令されて返事を返すことすらも、ルチアには心地よく感じられた。

「なんだ、おまえは変態なんだな」
「はいぃ、私は変態です」

 自分の言葉に逆らわないルチアの様子に、シトリーが蔑むような笑みを浮かべる。

「そうか、変態なのか。じゃあ、今度はショーツを脱いで自分で嗅いでみろ」
「はい」

 もう、彼女にとってそれくらい何でもなかった。
 スカートをたくし上げてショーツに手をかけると、自分の鼻先に持っていく。

「んふうううう、ふう、むふううううう」

 そして、ショーツを鼻に押し当てて、2回に分けて鼻で大きく息を吸うとうっとりとした表情を浮かべた。

 ああ、シトリー様に命令されて、ショーツの臭いを嗅ぐのも、とっても気持ちいい……。

 そうやって、シトリーに命令されたとおりに行動することを繰り返すうちに、ルチアはその言葉に従うことの快感を心の奥深くに刷り込まれていく。
 恍惚としてショーツの臭いを嗅いでいるルチアの足を、とろりとした汁が滴り落ちて行くのが見えた。

 その様子を見てシトリーは内心にやつくが、表情には出さない。

「じゃあ、今度は座ってももを開くんだ」
「はい」

 ルチアは、夢見るような瞳で床に座り込むと、ももを大きく広げた。
 その体勢で上目遣いに見つめてくる睫毛がふるふると震え、時々、むふうう、と熱い息を吐く。

「よし、おまえの恥ずかしい部分を僕によく見せるんだ」
「はい」

 ルチアは大きく股を開いた姿勢のまま、片手でスカートの裾を持ち上げ、もう片方の指で自分の秘肉を開くようにしてシトリーに見せつける。

「んんっ、んふう、あ、んんっ!」

 シトリーの言葉に従って恥ずかしい姿勢をしているだけで、つま先から脳天まで蕩けそうになる。
 その快感に甘い喘ぎを漏らすたびに、ぐしょぐしょに濡れた裂け目からぶしゅ、と愛液が噴き出ていた。

「本当に変態な牝だな」
「はいいっ!私はシトリー様に命令されて、自分のいやらしいところを見せて感じてしまう変態な牝なんですううぅ」

 自分の陰部をさらけ出したまま、完全に蕩けきった瞳をシトリーに向けているルチア。
 その裂け目に向かって、シトリーがにやつきながら手を伸ばした。

「はうっ、んああああああっ!」

 無造作に指を突っ込まれて、ルチアが舌を出して喘ぐ。

「はあっ、あううっ、ふあっ、ああっ!」

 突っ込んだ指でその中を掻き回してやると、ルチアの体がびくびくと跳ねる。
 その顔には、いやらしい悦びに満ちた嬉しげな笑みを浮かべていた。

「気持ちいいか?」
「はいいいっ!シトリー様にいやらしいところをぐちゃぐちゃに掻き回されて、とっても気持ちいいですうぅ!」

 まるで、甘えてくる子犬のように舌をだらんと出しただらしない表情で何度も大きく頷くルチア。

「うん、よくわかった。赦してやろう、ルチア」
「あああ……。ありがとうございます、シトリー様」

 シトリーが納得したように指を引き抜くと、裂け目を押し開いて見せている体勢のまま、その顔に満面の喜色が浮かぶ。

「だが、この続きは後だ。これから新しい命令をする。ちょっと長いから心して聞くんだぞ」
「はい、シトリー様」
「命令通りにちゃんとできたら、最高の舞台でおまえの相手をしてやる」
「はいっ、私、なんでもします!」

 大きく足を広げて秘部を相手に晒しているその体勢を維持したまま、ルチアは大きく頷く。
 そして、その恥ずかしい姿勢で、うっとりとした表情を浮かべたまま、シトリーの長い説明に耳を傾けていた。





* * *






「ルチアったら、帰りが遅いわね。どうしたのかしら?」

 ここは、ユリウスの屋敷。
 ベアトリーチェが、なかなか帰ってこないメイドの身を案じていた。
 ルチアが市場へ出かけたのはまだ朝のうちだった。
 それが、もう昼過ぎだというのに彼女はまだ帰ってこない。
 ルチアは仕事をさぼって遊びほうけたりするような娘ではない。
 そのことがわかっているだけに余計に心配になってくる。


 その時、玄関の扉が開く音がした。


「遅かったわね、ルチア。いったい何が……」

 立ち上がったベアトリーチェの言葉がそこで途切れる。
 ルチアの後から見知らぬ若い男が入ってきたからだ。 

「そちらの方はどなたかしら?」

 ベアトリーチェにはその男の顔に見覚えはなかった。
 そんな者を屋敷の中に連れ込むなど、ルチアがそんなことをするはずがない。
 不審に思って訊ねると、ルチアは屈託のない笑顔を浮かべた。

「はい。この方はシトリー様です、奥様」
「シトリー様?」

 その名前にも全く覚えがない。
 首を傾げているベアトリーチェとは対照的に、ルチアはにこにこと満面の笑みを浮かべている。
 何がどうなっているのかわけがわからないまま、彼女はもう一度男を見る。
 すらっとした長身に黒い髪、そして、なにより印象的なのはその金色の瞳だった。
 すると、その瞳が輝いたように思えた。
 一瞬、気のせいかと思ったベアトリーチェの背筋を、ぞくりとする感覚が走る。

「え?ええ、なに……?」

 まるで、高熱で悪寒が走った時のように体の芯から震えてくるように思える。
 だが、この感じは悪寒とは少し違う。
 体が熱っぽいのは同じだが、不快感は全くない。
 それでもベアトリーチェは男の目から視線をそらせることができないでいる。

 そして、また。

「ああっ、ひぃっ」

 間違いではない、男の瞳が強く光った。
 そして、さらに体が熱くなる。
 火照った体を持て余したように全身がぶるぶると震え、膝ががくがくと笑っている。

「いや、なんなの、これは?」

 自分の体に起きていることに戸惑い、狼狽えるベアトリーチェ。
 だが、その戸惑いの理由は、それが不愉快な感覚ではないことにあった。
 彼女にはその感覚に覚えがあった。
 それは、そう、夫と体を重ねるときの火照るような快感と同じ……。

「どうされたのですかぁ、奥様ぁ」

 ルチアが、その身を案じるように近づいてくる。
 いや、ベアトリーチェのことを心配しているのではない。
 いつもは明るくはきはきした物言いの彼女が、囁くように甘ったるい声を出し、そして、心配そうな表情どころか楽しそうに笑みすら浮かべていた。
 しかも、その笑顔の妖しいまでの淫靡さときたら……。

「ル、ルチア?」
「はい?なんでしょうか、奥様ぁ」
「ふあああっ!」

 ルチアが囁きながら耳に息を吹きかけてきた。
 それだけなのに、耳から首筋まで燃えるような快感に思わず甘い声をあげてしまう。
 あまりの快感に膝から力が抜けそうになる。

「あらぁ?もしかして、感じてらっしゃるんですかぁ?」
「やめてっ!やめなさい、ルチア!」
「うふふ、奥様ったら、可愛らしいですよぉ」
「ひっ、いああああっ!」

 ルチアにぺろりと首筋を舐められて、ベアトリーチェはその場にへたり込んでしまう。

「おやおや、これはまたいやらしい奥様だな」

 その時、それまで黙って見ていた男が口を開いた。
 ベアトリーチェがはっとして見上げると、ルチアがシトリー様と呼ぶその男は腕を組み、嘲るような笑みを浮かべてこちらを見下ろしていた。

「どうせ、亭主が邪教討伐で留守にしている間、そのいやらしい体を持て余していたんだろう」
「そんなことはないわっ、うああっ、ル、ルチア!」
「ルチア、おまえの女主人が体を火照らせておいでだ。せいぜい慰めてやれ」
「はい、シトリー様。んふ、奥様ぁ、えろ、れる」
「いあああああっ!やめっ、やめてっ、ルチア!」

 自分の家のメイドに、首から耳たぶまで舐め回されるベアトリーチェ。
 首を反らせて喘ぐ彼女の額から首筋まで汗に濡れて、その滑らかな肌が光っている。

「うふ、シトリー様の命令なんですもの、やめるわけにはいきませんよぉ。ほらぁ、ここなんかどうですぅ?」
「ふあああああっ!いやあああっ!」

 ルチアがドレスの上からつんと勃った乳首を摘んだ。
 すると、ベアトリーチェが大きく身をよじらせる

「それにぃ、シトリー様に命令されるのって、とぉっても気持ちいいんですよぉ」
「いあああああっ!」

 ベアトリーチェの乳首を摘んだまま、指先でこりこりと弄ぶ。
 ルチアは、酒に酔ったように頬を赤く染め、とろんと潤んだ瞳をして、実に楽しそうな表情をしていた。

「おやぁ、奥様ぁ。もしかして濡らしていらっしゃるんですかぁ?」

 そのスカートの中に手を突っ込んで、ルチアが悪戯っぽく微笑む。

「いやっ、それは違うのっ、ルチアっ!ああああっ!」

 いきなり、スカートをたぐられて、ベアトリーチェは慌てて股を閉じようとするが、一瞬早くルチアの手がその中に滑り込んだ。

「うふふ、奥様ぁ、なにが違うんですかぁ?こんなにショーツがぐしょぐしょになってるじゃないですかぁ」
「それはっ、いああっ、ひあああっ!」

 まるで、玩具を見つけた子供のように目を輝かせて、ルチアがショーツの上から割れ目に沿って指を這わせた。
 すると、ベアトリーチェの体がビクッと跳ね上がる。

「本当にいやらしいんですねぇ、奥様ぁ」
「あああっ、やっ、あうっ、ふあっ、いああああっ!」

 ルチアの愛撫に首を反らせて喘ぎ、何度も体を震わせるベアトリーチェ。
 体が弛緩してきたのか、必死に閉じようとしていたふとももから力が抜けていくのがわかる。
 その上体も、ルチアに寄りかかるようにぐったりとしてきた。

「じゃあ、もっとよく見てもらいましょうねぇ」

 ルチアがベアトリーチェのふとももに手をかけて大きく広げさせていく。
 はぁはぁと大きく息をしたまま、ベアトリーチェはそのなすがままに任せていた。
 腰の上までスカートをめくり上げられ、大きくももを広げた体勢でルチアに愛撫されている。
 ぐっしょりと濡れたショーツは丸見えになり、早くも床に小さな水たまりができていた。

「ああ、すごい、こんなに堅くなってますよぉ」
「ひああああああっ!」

 ショーツの上からクリトリスを指でつつくと、ベアトリーチェの体が大きく仰け反った。

「気持ちいいんですね?すごぉい、お豆みたい」
「いああああっ、ああっ、あっ、うああああああああああっ!」

 ルチアがショーツの中に手を入れて直接肉芽を摘むと、体を仰け反らせたままベアトリーチェが叫んだ。
 その体がビクンビクンと数回跳ねたかと思うと、そのままぐったりとなる。
 床にできた水たまりが、みるみる大きくなっていく。

「あらぁ、イっっちゃったんですかぁ?本当にいやらしいんですねぇ」
「はぁ、はぁ、ち、違うわ。私は、そんないやらしい女では。んん……」
「もう、強情ですねぇ、奥様はあぁ。どうしたしますぅ、シトリー様ぁ?」

 ルチアがわざと唇を尖らせてシトリーの顔を窺ってくる。

「そうだな、おまえの女主人はまだ自分に素直になることができないようだ。仕方ない、ルチア、おまえが手本を見せてやれ、女としてのあるべき姿をな」
「はい、かしこまりたぁ」

 満面に蕩けた笑みを浮かべると、ルチアは立ち上がってショーツを脱ぎ始める。

「うふふ、奥様ぁ、本当はぁ、私も奥様のいやらしい姿に感じちゃってたんですよぉ」

 そう言って、ルチアが投げ捨てたショーツは、べしゃ、と湿った音を立てて重たげに床に落ちた。
 そして、ルチアはスカートをたくし上げて床に座り込むと大きく股を広げる。

「奥様ぁ、見えますかぁ?私のいやらしいおまんこ、こぉんなにぐしょぐしょになってぇ、ほら、ひくひくしてますよぉ」

 股を広げ、指で秘唇をかき分けるようにしてベアトリーチェに見せつけるルチア。
 その言葉の通り、そこからは蜜が溢れ出し、肉襞が小さく震えているのがわかる。

「もう、熱くて熱くて、じんじんしちゃうんですぅ。ほらぁ、ここも、乳首の先まで堅くなってぇ、服と擦れて、痛いけど気持ちいいんですぅ」

 片手を自分の秘部に当て、もう片方の手で服の上から胸を掴んで、ルチアは体をくねらせている。

「ル、ルチア……」

 茫然としてルチアの痴態を見つめるベアトリーチェ。
 ずっとメイドとしてこの家で働いてきた彼女のことを、ベアトリーチェはよく知っている。
 真面目で気だてのいい働き者で、とても人前でそんなことをするような娘ではない。

「シトリー様ぁ、シトリー様も見えますかぁ?ルチアのぐしょぐしょまんこ。ほらぁ、こうするとぉ、くうんんんんんんんっ!」

 ルチアが指でクリトリスを摘むと、上体を後に倒して弓なりなり、ぶしゅっ、と愛液を吹き出す。

「ああ、よく見えるよ、ルチア。おまえは本当にいやらしい変態だな」
「はぁ、はぁ。はいぃ、ルチアは奥様とシトリー様におまんこを見せて感じちゃう変態ですうぅ」

 一度絶頂に達したルチアは首を持ち上げて、潤んだ瞳でベアトリーチェとシトリーの顔を交互に見る。

「や、やめなさい、ルチア……」

 ベアトリーチェがルチアの痴態を止めようとする。
 だが、時おり切なげなため息を吐き、ふとももをモゾモゾと擦り合わせているのをシトリーは見逃さない。

「どうしてですかぁ?こんなに気持ちいいのにやめることなんかでませんよぉ。え?あ、シトリー様ぁ……」

 シトリーが近寄って、ルチアの両膝を掴んでいた。

「よくできたな、ルチア。おまえは立派に手本を示したから、褒美に僕のを挿れてやろう」

 見れば、シトリーはすでにズボンを脱ぎ、屹立した肉棒を見せつけるように立っていた。

「ああっ!下さい!シトリー様のおちんちん、ルチアのぐしょ濡れまんこの中に入れてくださいいぃ!」

 瞳を輝かし、身を乗り出さんばかりにしてルチアが挿入をねだる。
 シトリーは笑みを浮かべたまま頷くと、ルチアの両ももを抱えるようにして肉棒をその秘裂に押し当てると、一気にその中に突き挿した。

「んはああああっ!シトリー様の堅くて大きいおちんちんがおまんこの中に入って、気持ちいいですううううっ!」

 肉棒を深々と突き挿されて、ルチアが、再び体を大きく仰け反らせて歓喜の声をあげた。

「ああっ、ふああっ、あふうっ、いいっ、いいれすうぅ!」

 シトリーが腰を動かし始めると、ルチアはだらけきった表情で舌を出して喘ぐ。

「ルチアのっ、いやらしいおまんこをっ、シトリー様のおちんちんがっ、出たり入ったりしてますうううっ!」
「あ、ああ……ルチア。んっ」

 ベアトリーチェは、言葉を失ったようにふたりの姿を見惚けている。
 だが、はぁはぁと大きく息をしているその胸は上下に揺れ、ももを擦り合わせるだけでは治まらないのか、手を敏感な部分に伸ばしていた。

 その姿をちらっと一瞥すると、シトリーはさらに腰の動きを早くしていく。

「ああっ、ふあああああっ、シトリー様のおちんちんがっ、おまんこの中で擦れて、ふああっ、すごく、気持ちいいれすううっ!」

 快感に瞳を潤ませ、心の底から嬉しそうで、かつ、これ以上はないほどにいやらしい笑みを浮かべて悦び悶えるルチア。
 彼女は純粋に快楽に溺れているだけなのだが、その淫らな姿をベアトリーチェに見せつけることは実に効果的だった。

「ふあああっ、シトリー様のおちんちんがっ、子宮にごつごつって、当たってますううっ、あっ、あああっ」
「ああ、ルチア。んっ、ああっ、はああ……」

 ふたりの姿をじっと見つめているベアトリーチェは、いつしか自分の秘裂に指を入れて自分を慰め始めていた。
 シトリーは、その様子を横目で眺めながらほくそ笑む。 
 事前に彼女の肉欲を高めていたとはいえ、いとも簡単に快楽に魅入られてしまったようだ。
 夫が邪教討伐で不在の間、溜まっていたものがあるだろうとは思っていたが、想像以上の効果だ。
 この分なら、すぐに堕ちてくれるだろう。

 一方で、ルチアの乱れ具合もどんどん激しくなっていく。
 自分で腰を持ち上げるようにして体をくねらせ、肉棒をぐんぐんと締め付けてくる。

「はあああっ、しゅごいっ、きもちいいれすっ、あふううんっ、ああっ、シトリーさまあああぁ!」
「よし、そろそろ中に出してやるぞ、ルチア」
「はいいいいいぃ!くらさいいぃ!シトリーさまのっ、あついせーえきっ、ルチアのなかにっ、いっぱい、そそいでくらさいいいいっ!」

 ルチアが、もう完全に呂律の回らない声で、射精をねだってくる。
 その顔には、悦びと射精への期待しか浮かんでいない。

「ふあああっ、シトリーさまのおちんちんがっ、わらしのなかで、びゅくびゅくって!ふわあっ、はやくっ、はやくあついのくらさいいぃ!」
「くっ、いくぞっ!」
「あああああっ、きてっ、あっ、ああっ、きてる!しとりーさまのあついせーえきっ、わらしのなかにいっぱいっ、でてますうううっ!ふあっ、イっちゃうっ!わらしっ、イっちゃいますううううっ!」

 シトリーが精を放つと、ルチアの手が宙を掻き抱いたかと思うと、体を弓なりに反り返らせた。

「あっ、うああっ、しゅごいっ、いっぱいっ、あついのがっ、わらしのなかにっ、ひあっ、らめっ、またっ、またイっちゃいますうううううううううっ!」

 反らせた体を固めたまま、びくっ、びくっと何度も体を跳ねさせて、ルチアは2度目の絶頂に達する。
 そのまま、シトリーの精液を全て受けとめると、ようやくその体から力が抜けた。

「ううっ、ひっ、あふっ、ふああっ、わらしのなか、しとりーさまのせーえきでみたされて、ふああ、きもちよくて、あふう、しあわせれすうぅ」

 ぐったりとしたまま、大きく息をしながらルチアが潤んだ瞳を投げかけてくる。

「よかったぞ、ルチア。おまえは変態牝奴隷の鑑だな」
「はいいいぃ。わらしはぁ、シトリー様のぉ、淫乱な変態牝奴隷れすううぅ」

 うっとりとした顔でシトリーを見つめながら、笑顔で返事をするルチア。
 シトリーは、その頭を撫でて立ち上がると、ベアトリーチェの方に歩いていく。

「んっ、あ?ああ?」

 驚いたようにシトリーを見上げるベアトリーチェ。
 シトリーは蔑んだ表情を作って言い放つ。

「なんだ、自分で慰めていたのか?口ではいやらしくないと言いながら、はしたない女だな」
「ああっ、いやっ、これは!」

 ベアトリーチェは慌てて否定するが、まだ手は自分の敏感な部分を触ったままだ。

「そんな格好でどんな言い訳をするつもりだ?」
「そんな、これはっ、ああっ!」

 再び、その、シトリーという男の瞳が輝いたような気がして、視線を逸らすことができない。
 それに、男に見られたまま自慰をするのを止めることも。
 
「さすがルチアの女主人だけあって、なかなかの変態ぶりだな」
「いや、そんなことはっ、ああっ」

 男の目を見つめたまま、自分で肉襞の奥を弄り続けるベアトリーチェ。
 それに、人に見られて恥ずかしい思いをしながらこんなに愛撫しているのに、体の火照りは全く収まらない。
 それどころか、ますます体が熱くなってきて、息苦しくすら思えてくる。

「ほら、おまえもこれが欲しいんじゃないのか?」

 ようやくその目から視線を逸らすことができたかと思うと、目の前に男の肉棒がぶら下がっていた。

「あ、ああ……」

 ベアトリーチェは、魅入られたように肉棒を見つめている。

「どうした?欲しいのか、欲しくないのか?」
「い、や……。主人以外の、男の人のが、欲しい、わけが……」

 息を弾ませながら、途切れ途切れに言うベアトリーチェ。
 言葉では否定しているが、食い入るように肉棒を見つめたままだ。
 へたり込み、大きく開いた股間からは、まるでお漏らしでもしたかのように水たまりが広がっていた。
 そんな彼女を見ていると、心は言葉と反対なのは明らかだ。

 実際、ベアトリーチェの体の火照りは極限にまで達しようとしていた。もう、自分ではそれを鎮められそうにないほどに。
 この体の火照りを鎮め、満足させることができるのは、今、目の前にある男のそれだけ。

「そうか、欲しくないのか。じゃあ、もう一度ルチアに挿れてやるとするか」

 男は、あっさりと踵を返すと、ルチアの方に歩いていく素振りを見せる。

「待って!」

 それを、ベアトリーチェが慌てて呼び止めた。

「ん?どうしたんだ?」
「お願いします」
「お願い?何をお願いするんだい?」

 男が、意地の悪い言葉を返してくる。

「あの……。あなたの、それを、私の中に入れて下さい」

 少し躊躇した後、ベアトリーチェは恥ずかしそうに言う。

「それ、じゃわからないな。さっきルチアが言うのをきいていただろう。同じようにおねだりするんだ」
「あ、あなた様、シトリー、様の、お、おちん、ちんを、私の、お、お、おまんこ、に、入れてください」

 顔を真っ赤にして、途切れ途切れにだが、それでもベアトリーチェははっきりと挿入をねだる言葉を口にする。
 それほどまでに、彼女の体の火照りは高まり、乳首は勃ち、アソコはじんじんと熱くなって、もう我慢ができなかった。

「ふん、60点といったところだが、まあいいだろう。望み通りにしてやる」
「あ、ああっ、ありがとうございます!」

 彼女には、もう恥も外聞もなかった。
 シトリーが彼女の両足を持ち上げて体を寄せてくると、期待に胸が高まってくる。

「じゃあ、望み通りそのいやらしい体にたっぷりとくれてやる」

 そう言うと、シトリーが無造作に肉棒を突き入れてきた。

「あふううっ、はあああああああっ!」

 一瞬体を固まらせて、ベアトリーチェが艶のある声をあげた。
 いままでさんざん焦らされた体が、悦びに打ち震えているのが自分でもわかった。

「すっ、すごいいいっ!奥までっ、入ってるのおおおっ!ああっ、いいっ、いいいいっ!」

 シトリーが腰を動かし始めると、ベアトリーチェもすぐにそれに合わせて体を揺する始めた。

「んんんっ、くはああっ!すごいっ、中で擦れてるのっ!あっ、あああっ!」

 ベアトリーチェが腕を伸ばして首に手を絡めてきたので、シトリーもその体を抱き起こして、胡座の上に彼女を抱きかかえる体勢になる。

「まったく、本当にいやらしい女だな。亭主がいるというのに、他の男に犯されてそんなに嬉しいのか?」
「ああ、ああっ!ごめんなさいっ、あなたっ!でもっ、大きくて堅くてっ、とてもいいのおおおっ!」

 口では夫への謝罪を口にしながら、ベアトリーチェは恍惚とした表情を浮かべて自分から腰を上下させている。
 実際、彼女の中はシトリーの肉棒をしっとりと迎え入れていた。
 若いルチアほどの締め付けはないが、ねっとりと襞が肉棒にまとわりつき、熟れた人妻らしい快感をもたらしてくる。

「ほら、ここなんかどうだ?」
「あああっ、そこっ、乳首っ感じてしまうのっ!」

 シトリーがドレスの胸をはだけさせてその乳首を掴むと、ベアトリーチェの首がバネ仕掛けのように反る。

「なんていやらしい体なんだ。乳房が手に吸いついてくるじゃないか」

 その豊かな胸を揉むと、ルチアのような張りはないが、むっちりとした感触で、まるで手に吸いついてくるようにすら思える。

「はああっ、そんなっ、恥ずかしいことっ、言わないで!あっ、あああっ、でもっ、気持ちいいっ!はんっ、んんっ、んむむっ、んっ、んんっ!」

 からかってやると、涙目で首を振る。だが、その表情には恥じらいよりも快楽を求める欲望の方が色濃くうかがえる。
 それどころか、シトリーが顔を近づけていくと、ベアトリーチェの方からその唇に吸いついてきた。
 そのまま、シトリーの首に絡めていた腕でぎゅっとその頭を掻き抱いて激しく体を跳ねさせる。

「んむっ、んっ、んっ、んふうっ、んんっ、むっ、んんっ!」

 シトリーの唇を吸いながら、狂ったように体を上下させているベアトリーチェ。
 ぱんっ、ぱんっ、と音を立てて弾むその体からは汗が湯気のように立ち昇り、あたりに淫靡な香りが立ちこめていく。

「んんっ!くはっ、んはああああっ、あっ、あああっ!そんな奥までっ、ふあっ、そんなに激しくされるとっ、私っ、もうだめえっ!」

 シトリーがその尻を抱えるようにして、さらに大きく腰が動くように手伝ってやる。
 すつと、ベアトリーチェは吸っていた唇から苦しげに口を離して大きく息を吐き、シトリーでしがみついて耳元で喘ぐ。

「いあああっ、だめっ、そんなにされるとっ、感じすぎてっ、欲しくなっちゃううううっ!」
「ふ、何が欲しいんだ?」
「ふああっ、あっ、せっ、精液っ!熱いのがっ、欲しいのっ!」

 シトリーの問いに、切なげな声で答えが返ってくる。

「いいのか、中に出しても?」
「うううっ、だめっ、だめだけどっ、我慢できないのっ、私の中にっ、熱い精液いっぱい欲しいのおおおおっ!」

 彼女の中で、夫以外の男に中出しされる罪悪感よりも、体の求める快楽を満たす欲求の方が上回っているようだった。
 いったん持ち上げた体を勢いよく下ろすたびにがくがくと首が揺れる。
 肉棒が奥深く入ると、下腹部に力を入れてその熟れた肉壺をぎゅっと締めて刺激してくる。
 その中では、熱を持った肉襞が生き物のようにぬめぬめと蠢いて肉棒を刺激していた。

「あっ、あふんっ、お願いっ、出してええっ!でないとっ、おかしくなりそうっ、あっ、ふああああっ!」
「そこまで言われたら仕方ないな。中に出してやろう」
「ああっ、お願いっ、しますっ!あふっ、ああっ、あひいっ!」

 ベアトリーチェは涎をだらだらと垂らしながら、シトリーの首筋にかじりつくようにして必死に腰を動かして射精を待ち受ける。
 シトリーがその体をぐっと抱きしめて下から腰を突き上げ、中に滾った精を解き放った。

「ひいああああああああああっ!すごいいいっ!熱いいいっ、こんなに熱いのっ、ふああああああっ!私っ、溶けるっ、溶けちゃうのおおおおっ!」

 シトリーの腕の中で体を固まらせて、ベアトリーチェが絶頂に達した。
 しがみついている腕をぎゅうっと締め付けて体をびくっと大きく震わせ、最後の一滴まで精液を搾り取ろうとしている。

「ふわああああっ、あっ、あああっ、あふっ、ふうんん……ああっ!」

 甘ったるく喘ぎ、絶頂の余韻に浸るようにびくびくと体を震わせているベアトリーチェの秘裂から肉棒を引き抜くと、短く叫んでその場にぐったりと崩れ落ちる。
 肉棒を引き抜いたそこから、今放ったばかりの白濁した汁がどろりとこぼれ出てきた。

「はぁ、はぁ。ああぁ、んふうううぅ……」

 立ち上がると、シトリーはぐったりと床に体を投げ出し、大きく喘いでいるベアトリーチェを見下ろす。

 しばらくすると、ようやく体が鎮まってきたのか、呼吸がゆっくりとして、瞳に少し光が戻ってきた。
 そのタイミングを見逃さず、シトリーが冷酷に言い放つ。

「まったく、呆れた淫乱女だな。いいのか、亭主がいるのにこんなことをして?」
「あっ、ああ、うあああ」

 一瞬、驚いたようにシトリーに目を向けると狼狽えたように視線が宙を泳ぐ。

「おまえは自分が何をしたのかわかっているのか?」
「あ、ああ……。私、あの人以外の男といやらしいことをして、それも、私からねだって……」
「そうだ。おまえは自分から願って亭主以外の男とセックスをしたんだ。しかも、中出しまでおまえからねだってな」
「あああ、私、私……」
「いいか、おまえのやったことは、不義密通と言うんだぞ」
「うああ、ごめんなさい、ごめんなさい、あなた。私は、うううう」

 体の火照りが去り、少しずつ落ち着きを取り戻すにつれて、自分がやってしまったことの重大さがベアトリーチェを追いつめていく。
 さっき自分は、あんなに完全に快楽に溺れて、淫らな感情に身を任せていた。
 あれはいったい何だったのか。いったん体の火照りが鎮まると、後に残るのは後悔と罪悪感のみ。
 両手をついて俯いたその目から、止め処なく涙が溢れてきた。

「うう、あああ。私、なんてことをしてしまったの。こんなことをして、もう、あなたの妻でいられない」

 ああ、私はあなたの信頼を裏切ってしまった。
 自分からねだってこの人と……。
 私はなんて不貞で、最低な女なの。

 夫のことを考えると、自分の犯した罪の重大さに押しつぶされそうになる。
 絶望に打ちひしがれ、涙を流し続けるベアトリーチェ。

 と、その時。

「じゃあ、おまえが赦される術を僕が教えてやろう」
「ええ?」

 降りかかってきたその声に、思わずシトリーを見上げる。
 視線が合った瞬間、またその瞳が輝いたように思えた。

「あ、あああ」

 目を見開いたまま、ベアトリーチェはシトリーから視線を逸らすことができなくなった。
 そこに、まるで心に染み込むように男の声が響いてくる。

「おまえの亭主が僕に仕えるように説得するんだ。もし、それに成功したらおまえの亭主の主人は僕ということになる。そうなったら何の問題もないじゃないか。亭主の主人に仕え、喜ばせるのはその妻として当然の役割なんだからな」

 道義的には、その論理は完全に破綻している。
 しかし、理屈ではなく、シトリーのその言葉が直接魂に打ち込まれてくるようで、その言葉を疑うことすらできない。

「あ、うああ……」

 大きく目を見開いてシトリーの瞳を見つめたまま、ベアトリーチェはこくりと頷く。
 すると、シトリーの瞳の輝きがようやく収まった。

「おまえが何をすればいいかわかったか?」
「は、はい」
「何をするんだ、はっきりと言ってみろ」
「夫を説得して、あなたに仕えさせることです」

 そうよ、この人が私たち夫婦の主人になって下さったら、私のしたことはあの人への裏切りでも不義密通でもなくなる。
 だって、夫の主人へ奉仕して喜ばせるのはその妻として当然の務めなんですもの。

 たった今仕込まれた暗示が、彼女の精神を支配していた。
 今目の前にいるこの男に仕えるよう夫を説得しさえすれば、自分のしたことの全てが赦される。もちろん、夫を裏切ることにもならない。
 そう考えると、さっきまで絶望の底に沈んでいた気持ちが楽になってくる。

「あ、で、でも」

 シトリーの言葉にはっきりと返事をした後、ベアトリーチェは再び不安に襲われる。

「どうしたんだ?」
「あの人は、代々この国の騎士の家系に生まれたことに誇りを持っています。この国と、そして女王陛下への忠誠心には並々ならぬものがあります。それを、主人を替えるように説得するなんてとても私には……」

 そう言った彼女の瞳に、再び絶望と不安が宿る。

「ああ、そういうことか。それなら、僕の力を貸してやる」

 そう言うと、シトリーはその額に指を当てた。

「う、ああ……」

 ベアトリーチェは一度びくっと小さく震えると、そのまま体を硬直させた。
 そこにシトリーは、いつものように指先に力を込める。

「あっ、ひああああっ、あっ、があっ!」

 目を見開き、瞳孔を震わせてベアトリーチェが呻き声を上げる。
 だが、その苦しみようはただごとではない。
 それもそのはずで、シトリーが彼女の中に流し込んだのは自らの意識の一部。
 アンナやエルフリーデにやったような、その体内に注ぎ込んだ魔の気を活性化させるものや、ジュスティーナのように人を操る力を一時的にほんの僅か貸し与えたものとは根本的に異なる。
 いわば、彼女は精神の中に悪魔の意識を抱え込んでしまったのである。その精神的な負担の大きさは前者の比ではない。

「ふううぅ」

 意識を流し終えると、シトリーは大きく息を吐いて指を離す。

「うああっ、あっ、ああっ!……あ?」

 両手を床について、しばらく呻いていたベアトリーチェの震えが収まり、ぼんやりとシトリーを見上げた。

 どうやら馴染んだようだな。

 虚ろに霞んでいた彼女の瞳の焦点が合ってくるのを見て、シトリーは自分の意識がその精神に定着したことを確認する。

 こっちも大丈夫みたいだな。

 シトリーは、自分の魔力の消耗具合を確かめる。
 相手に自分の意識の一部を流し込むのはシトリーの力の中でも大技の部類に入る。
 近頃、魔力が不安定な状態だったので使うのに少し不安があったが、それほど疲労感はない。
 それはもちろん、ベアトリーチェが特に魔力も抵抗力もないごく普通の人間だからというのもあるだろう。

「あれ、私?」

 彼女は、自分の身に何が起きたのかわかっていない様子だ。
 シトリーは、ベアトリーチェに含めるように言い聞かせる。

「いいか、今夜、亭主が帰ってきたら、おまえから誘いをかけろ。夫婦なんだから簡単だろう」
「は、はあ……」

 シトリーの言葉に、不安そうに首を傾げているベアトリーチェに向かってシトリーは言葉を続ける。

「おまえには僕が力を与えているから心配するな。さっき僕にやって見せたようにしていれば大丈夫だ」
「そっ、そんな!あの人の前であんなことをしたらきっと怪しまれます!」
「ふっ、僕はいいとおもうがな。さっきのおまえの乱れっぷりはなかなか見事だったぞ」
「そっ、そんなこと言われてもっ!夫にあんな姿を見せたら、それこそ説得どころでは……」

 ベアトリーチェの声が次第に小さくなって、顔を真っ赤にして俯いてしまった。
 体をもぞもぞとさせているところを見ると、さっきの高揚感と欲情を思い出しているのかもしれない。
 そこに、やはり夫の前でそんな痴態はさらすことはできないという自制心と恥じらいが入り交じったという様子だ。

「ふ、まあいい。やり方はおまえに任せる。ただ、おまえがさっき自分から僕を求めたように、いやらしい感情が高まると力が発動するようになっている」
「いやらしい感情が、高まると?」
「ああ。つまりおまえが発情しないと夫を説得することは無理ってことだ。だから、せいぜいいやらしく亭主を誘ってやるんだな」
「は、はい……」
「忘れるなよ、亭主を説得して僕に仕えさせることができなかったらおまえは終わりなんだからな」
「は、はいっ。なんとしても主人を説得して見せます」

 さっき仕込んだ暗示はしっかりと効いているようだ。
 夫を説得してシトリーに仕えさせることでしか自分が赦される道はないと信じ込んでいる。

 どのみち、そいつを堕とすのはおまえの仕事じゃないんだけどな。

 シトリーは満足げに頷くと玄関の方に向かう。
 ルチアが、慌てて立ち上がると、シトリーを見送りに玄関までついて来た。





「おじさま」

 屋敷を出たところで、シトリーは声をかけられた。

「リディアか?」
「はい」

 返事と共に姿を現したのはリディアだ。

「適当な場所は見つかったか?」
「うん。屋敷に隣接して、きっと従者のものね、一部屋だけの小屋があったから、そこならちょうどいいと思う」
「そうか、案内しろ」
「うん、こっち」



 リディアに案内されて、シトリーはユリウスの屋敷の敷地の中の小屋に入る。



「うん、これだけのスペースで、ベッドもあれば申し分ないな」

 その中は一部屋だけで、それほど広くはないが、テーブルと椅子が一組と、ベッドもあるのが有り難い。

「おじさま、どうしてこんな回りくどいことをするの?」

 小屋のドアを閉めると、リディアが納得しかねたように問いかけてきた。

「ん?どういうことだ、リディア?」
「だって、男の人を直接操っちゃえばいいんじゃないの?」

 どうやら、リディアには男を堕とすために、シトリーがまずその恋人や妻を堕としているのが不思議で仕方がないらしい。

「まあ、ただ男を操っても面白くないしな」
「そんな、面白いかどうかの問題なの?」
「半分冗談だ。ま、半分は本気なんだがね。というのも、実際のところ、いきなり相手を操ろうとしても、僕の力では相手の意志とは関係なく肉体を操るか、相手の思考や感情を全て奪い去って僕の命令通りに動くようにさせるのがせいぜいだ。単に肉体を操るだけでは力を解くと元に戻ってしまうし、相手の精神をがんじがらめに縛りつけても、こちらが命令しないと動けない木偶人形になるだけで、自分で考えることも、判断することもできやしない。そんなのに細かい仕事を任すことはできるわけがないだろう」
「ああ、そうかぁ。そうよね……」
「相手を役に立つ手駒にするには、そいつが自分の意志で僕に絶対の服従をするように仕向ける必要がある。相手は自分の意志で僕に身も心も全て捧げ、僕を絶対の主人と認め、僕の言葉には逆らえない。それでこそ、僕の命令を聞いて、かつ、自分の能力を最大限に発揮することができる下僕になる。そこで、どうやって僕を絶対の主人だと認めさせるかだが、そのためには、暗示を仕込んだりして相手の心に隙を作る必要があるんだ」
「心に、隙を?」
「ああ。どんな方法でもいい、相手の心を挫き、打ち砕き、壊してでもそこに歪みを生じさせて、そこに僕の存在を絶対的なものとして打ち込んでいく。ただし、人間の心を砕き、壊す方法はいくらでもあるが、やりすぎると完全に自我が崩壊して使い物にならなくなる」
「あ、それならちょっとわかるわ。わたしが失敗したときはみんなそうなるもの」
「そうだろう。でも、僕がおまえにやらせている方法が一番手っ取り早いんだ。人は欲望や快楽に流された時に心に隙が生じやすくなる。そして、完全に快楽の虜になってしまうと、それを与えてくれる相手はそいつにとって絶対の存在になるんだ」
「あ、そうなんだ。勉強になるわ、おじさま」

 幼い頃からシトリーが自分のことを見守ってくれていたという記憶を植え付けられ、また、自らの魔族の因子ゆえに、自分が悪魔の仲間であると完全に思い込んでいるリディアには、自分がシトリーの操作を受けたという自覚が全くない。
 だから、シトリーの話をまるで他人事のように聞いている。
 むしろ、自分が人を操るときの参考にしようと真剣な表情で頷いてすらいた。

「だから、僕にとっては女の方が快楽の虜にさせやすいし、ま、その方がやってて面白いしね。反対に男相手じゃ面白くないし、快楽の虜にさせるのも難しい」
「あ、そうか。そういう意味だったのね」
「そうさ。だから、男たちを堕とすのには、あの地下牢の獣たちを使ったんだ。しかし、然るべき相手がいて、しかも身持ちの堅い奴はなかなかその手に乗ってくれない。それなら、いっそのことその相手の女を僕が堕としてそいつを利用した方が手っ取り早いんだ」
「なるほど、それでおじさまはこういうことをしていたのね」
「そういうことだ。じゃあ、話は終わりだ。僕はちょっと行ってくるぞ。従者が戻ってきたら、そいつの始末はおまえに任せる」
「うん、わかった」

 長い講釈が終わり、リディアにそう一声かけると、シトリーはベッドに横たわった。
 そして、目を閉じると、精神をベアトリーチェに送り込んだ自分の意識へと飛ばす。

 ベッドの上で、死んだように横たわるシトリー。
 それをリディアが黙ったまま見守っていた。






 ここはベアトリーチェの体内。

 よし、うまくいったな。

 シトリーは、ベアトリーチェの中に入り込んだことを確認した。
 こうすれば、いわば相手に憑依したのと同じこともできる。
 だが、それをするのはもっと後からだ。

 ん?ここだな。

 シトリーの精神は、子宮を見つけだすとその中へと潜り込む。
 そして、今しがたたっぷりと注ぎ込んだ魔の気をかき集める。
 そして、それを包み込むとそこに意識を集中させた。



 一方、こちらは屋敷の中。

「ああっ」

 びくっ、と体を震わせてベアトリーチェはテーブルに手をつく。

「どうされたのですか、奥様?」

 心配して声をかけてきたルチアの話し方には、さっきまでのような淫らな響きはない。
 見た目には、いつもの彼女と何ら変わりないように振る舞っている。

「いえ、何でもないわ。ちょっと目眩がしただけ」

 そう答えるベアトリーチェは、今の瞬間、自分の中にシトリーの精神が入り込んだことに気づいていない。
 それどころか、自分に貸し与えられた力がどういうものかも聞かされていなかった。
 ただ、ユリウスが帰ってきたら、彼がシトリーを主人と認めるように自分が説得しなければならないこと、そして、そのためにはユリウスを誘わなければならないことだけはわかっている。しかも、自分がいやらしく発情した状態で、だ。

 自分の夫をシトリーに仕えさせなければ、今日自分がしたことは赦されざる不義密通になってしまうという強迫観念に押しつぶされそうになる。
 果たして、自分が夫を説得することができるのか、ベアトリーチェの中に不安ばかりが募っていった。





* * *






 夕方。

「お帰りなさいませ、旦那様」

 帰ってきたユリウスを玄関でルチアが出迎える。

「おかえりなさい、あなた」
「ああ、ただいま」
「今、お食事の用意をしますね」
「うむ」

 ベアトリーチェも夫を迎えると、ルチアとふたりで夕食の準備を整える。
 そこまでは、普段と何も変わらない夕刻の光景だった。

 用意ができると、ベアトリーチェはユリウスと夫婦ふたりで夕食の席に着く。







「それでは、お皿をお下げしますね」

 食事が終わった頃合いを見計らって、ルチアが食器を下げに来る。

「あ、よろしいですよ、奥様。私がしますから」

 立ち上がって手伝おうとしたベアトリーチェを制するルチア。
 その時、一瞬、彼女に向かってウィンクをした。
 その瞬間、ルチアは昼に見せた、悪戯っ子のような、それでいて淫らな表情になっていた。
 だが、ユリウスに気づかれないようにすぐにいつも通りの表情に戻ると、皿を下げていく。

 そして、部屋の中にはまたベアトリーチェとユリウスだけが残された。

 今よ、今こそこの人を説得しなければ。
 でも、そうするには……。

 説得を成功させるには、いやらしい感情を高ぶらせなくてはならない。
 だが、やはりこの謹厳実直な夫の前で痴態を晒すのは躊躇われた。

「あ、あの、あなた」
「ん、どうしたんだ?」

 何気なく、いつも通りの会話を装って話を切り出す。

「私、あなたが邪教討伐に行っている間、本当に心配してました」
「ああ、それは私もすまないと思っている。だが、騎士の家に嫁いできた以上、仕方のないことだと思ってくれ」
「はい。それに、今回は無事に戻ってきてくれましたから。私、嬉しいんです。あなたの無事な姿を見て、本当に安しているんです」
「ありがとう、ベアトリーチェ」

 いつもは真面目なユリウスが、柔らかい表情を見せる。
 その、優しい眼差しには、彼の、妻への愛情が感じられた。

「でも、私、あなたが留守の間とても寂しかったんです。夜、ひとりで寝ているときもずっとあなたのことを考えていたんです」

 少しずつ、ベアトリーチェは話題を本題へと近づけていく。

「あなたがいない間、毎晩、ひとりであなたのことを想っていると、私……」

 そう、前にこの人と体を重ねたのは邪教討伐の前だから、もう2ヶ月以上も前のことだわ。
 あ、んんっ……。

 夫と床を共にしたときのことを考えると、切ない気持ちが溢れ、体がほのかに熱くなってくる。

「おまえに寂しい思いをさせたことは本当にすまない、しかしだな」
「だったら!お願いです!」

 精一杯の声でユリウスの言葉を遮り、その顔を見つめたベアトリーチェの頬を涙が伝った。
 それは、演技ではなく、どうしようもなく切なくなって本当に涙が溢れてきたのだ。
 本来、説得のためのはずだったのだが、自分の体が本当に夫の体を求めてしまっていた。

「でないと、私、私……」

 涙を流しながら体をもじもじとさせるベアトリーチェ。
 ユリウスを求めて、体が火照って来るのを止めることができない。





 ん、これは?始まったか?

 ベアトリーチェの子宮に潜り込んでいたシトリーは、周囲の変化に気づいた。
 彼女の火照りは、すぐにその子宮まで伝わってきたのだ。

 うん、こっちも準備ができたな。

 シトリーは、自分か包み込んでいた魔の気を確かめる。
 彼女の中に潜り込んでから、ずっと集中して練りに練っていた魔の気は、真っ黒く禍々しい闇の種となっていた。
 それは、人間の中に埋め込めば、正義や秩序といった性質を餌にどんどん増殖し、その者の属性を闇と混沌へと替えていく。
 もちろん、シトリーはこれからそれをユリウスの中に植え込むつもりだ。

 彼女の子宮に潜り込んでから、シトリーはこの闇の種を練り上げるのに専念し、集中してきた。
 そして、彼女がユリウスの説得を始めたら、自らそれを相手に植え込む。
 最初から、シトリーは彼女がユリウスを説得できるとは思っていない。
 まだ若いダニエルとは違い、経験豊富で、それでいて真面目で高潔、正義感溢れる騎士が、その妻の口先だけで悪魔の手先になるはずがない。
 それなら、その正義に満ちた精神を蝕み、闇に染めさせるしかない。これは、そのためにシトリーが考えた手段だった。
 ただ、闇の種を練っている間はベアトリーチェの意識を支配できないし、外で何が起こっているのかもわからない。
 それでも、こうして彼女の体が火照ってくると、その変化は子宮にも伝わってくる。
 シトリーが、ことさらにベアトリーチェに発情するよう意識させたのは、その変化によって彼女がユリウスの説得を始めたタイミングを知るためだったのだ。

 じゃあ、そろそろ上がるとするか。

 シトリーは、子宮から出ると、ベアトリーチェの精神を乗っ取りにかかる。





「あっ、うあああっ!」
「どうしたんだ!ベアトリーチェ!?」

 それまで涙を流していたベアトリーチェがおかしな叫び声を上げ、その体がびくびくっと跳ねた。
 そのただならぬ様子に、ユリウスが慌てて抱え起こそうとした、その時のこと。

「んぐっ、んぐぐぐぐっ!」

 ベアトリーチェが、女のものとは思えない強い力で抱きついてきて、いきなり口づけをしてきた。
 その刹那、ユリウスは妻の瞳が金色に光ったように思えた。
 それに、この、背筋がざわつく感覚。

「ぐむっ、むむむっ!」

 何か、得体の知れないものが自分の中に入ってくる。
 そんな気がして、どうにかして妻の体を離そうとするが、しっかりと抱きつかれてそれができない。

「ぐううううっ!」

 自分の心の中に、どす黒いものが染み込んでいくように思えて、ユリウスは呻く。

「うううっ、くはあ、はあっ!ベ、ベアトリーチェ!?」

 ようやく、口づけから解放されたユリウスは一瞬自分の目を疑う。
 愛する妻の顔に、見知らぬ黒髪の男の顔が重なっているような錯覚を覚えたからだ。
 改めて見つめ直すと、そこにあるのは見慣れた妻の顔。
 だが、その目は金色に輝いていた。

 そして、ベアトリーチェが口許を歪めて、今まで見たことがないような冷酷な笑みを浮かべた。

「いったいどうしたというんだ!?ベアトリーチェ?」
「くっくっく」

 妻の口から、低い笑い声がこぼれる。

「ベアトリーチェ?」
「いや失礼。僕の名はシトリー、少しばかりきみの夫人の体を拝借している」
「な、なんだと!?貴様はいったい!?」
「ああ、僕が何者かということかい?それなら簡単だ。いわゆる、悪魔って奴さ」
「悪魔!?貴様っ、ベアトリーチェに取り憑いているというのか!?」
「僕としては一時的に体を借りてるだけのつもりなんだがね。もちろん、この夫人には何ら危害を加えるつもりはないよ」
「現に取り憑いておいて何を言うか!だいいち、悪魔の言うことなど信用できるか!」
「まあ、そうは言ってもきみもすでに僕の手の内なんだけどね」
「なに!?どういうことだ?」
「きみにはこれから悪魔の手先になってもらう」
「馬鹿な!く、そういうことか!妻の体を乗っ取り、それを盾にしてに私がおまえに従うように脅す気だな、卑劣な悪魔め!」
「うん、そういうのとは少し違うんだがね。でも、きみだってそういう手段は好みじゃないのか」
「む、それは確かに……」

 相手の弱みを握り、それをタネにして相手を脅す。ごくごく当たり前の行為だ。
 なにより、こちらに被害が少なく相手を屈服させることができる。
 その弱みが、家族など、相手にごく近い者であればさらに効果的だ。
 自分の家族の命を簡単に見捨てることができる人間などそうはいないのだから。
 その意味で、この悪魔の言っていることは正しい……。

「はっ、私は今なにを考えていたんだ!?」

 今、確かに自分はそのような卑劣で姑息なやり方を当然のことと考え、目の前の悪魔のことを認めようとすらしていた。
 まるで、自分の中に、悪魔のやり口を肯定するもうひとりの自分がいるように。

「く、こんなはずは……。正義のために剣を振るっているはずの私がそんな卑劣なことをっ」
「だけど、正義とか秩序なんてものは取るに足らない、くだらない代物じゃないか」
「その通りだ!……はっ、また、だと?」

 ユリウスは、自分の口から出た言葉に面食らう。
 自分は代々この国に仕える騎士として、正義と秩序のために戦ってきた、そう今まで信じていたはずなのに。
 だが、妻に取り憑いた悪魔の言うとおり、正義や秩序など取るに足りないものだという思いが鎌首をもたげてきていた。

「そ、そんな!陛下と、そしてこの国の民を守るべきなのに……き、貴様の仕業か?」

 自分の中に、なにか暗く歪んだものが湧き上がっている。
 それと共に、自分自身の価値観が書き換えられていくようだ。
 それはきっと、この悪魔が自分に何かしたのに違いない。

「貴様のような悪魔にいいようにされてっ、たまるかっ」

 歯を食いしばってベアトリーチェを、いや、妻の体を乗っ取った悪魔を睨みつけるユリウス。その額を、汗が流れ落ちていく。
 それほどまでに精神を張りつめていなければ、己の中のどす黒い情動に飲み込まれそうだった。

「この国の王と民を守る?そうじゃないだろう」
「なん、だと?」
「戦士の本懐とは、刃向かう者を殺し、破壊の限りを尽くすことではないのか?」
「なっ!?くっ、ぐああっ!」

 ユリウスは、大きく叫んでがくりと膝をついた。
 自分の心を闇が覆っていき、悪魔の言葉が耳に心地よく滑り込んでくる。

「刃向かう者、立ちはだかる者は全て敵、それがたとえ女子供であっても、敵と見なせば容赦なく斬り殺す、それが戦士の務めだろうが」
「ぐ、あ、ああ、そうだ。敵は情け容赦なく殺す、それが何者で、あっても」
「それなのに、ここの王は国を守るためにしか戦士を用いることがなかった。違うか?」
「その、通りだ」

 確かに、ヘルウェティアは魔法王国と呼ばれるだけあって武よりも文を尊ぶ風潮が強い。それに、歴代の王たちは、彼ら自身優れた魔導師であったが、人格的にも、自ら進んで他国を攻めようとする王はいなかった。
 それはつまり、戦士にとって自らの力をふるう機会がほとんど得られないということを意味する。

「敵と戦い、その命を奪うのが戦士の存在意義だというのに、それができないとは、理不尽だと思わないか?」
「ああ。確かにおまえが言うとおりだ」

 いつしか、ユリウスは悪魔の言葉に素直に耳を傾けていた。

「だが、僕は違う。この国の王たちのように戦士に戦いの場を提供しないなどということはない。むしろ、おまえたち戦士に、思う存分戦い、敵を斬り殺させてやる」
「お、おまえが?」

 そう言って見上げた、ユリウスは、はっと息を呑む。
 妻の顔が再び、黒髪に金色の瞳の男の姿に見えたからだ。
 だがそれもすぐに見慣れた妻の顔に戻る。
 ただ、妻が浮かべている笑みは、ユリウスが見たことがないほど冷酷なものであった。

「ああ、僕に仕えれば、おまえの戦士としての欲望を満たすに充分なほどに戦い、敵を殺す任務を与えてやる」
「あ、ああ……」

 悪魔の申し出が、ユリウスにはこの上なく魅力的なものに思える。
 彼の中に埋め込まれた闇の種は、それほどまでに、今まで彼を騎士として支えてきた、正義や秩序といった善なるものを食い尽くし、その心を真っ黒に塗り尽くしていた。

「どうする?このままこの国に仕えて、戦士として満たされない日々を送るのか、それとも、僕を主人と認めて戦いと殺戮に生きるか、どっちを選ぶんだ?」

 目を瞑って、悪魔の言葉を胸の内で反芻するユリウス。
 だが、訊かれずともその返答は自ずから明らかだった。

 少しの間を置いて、閉じていたその目がゆっくりと開いた。

「……わかった。貴殿を我が主と認め、お仕えすることを誓おう」

 そう言ってユリウスは妻の中に宿った悪魔に向かって跪き、臣従の誓約を誓う。

「いいだろう」

 悪魔は、笑みを浮かべるとユリウスに歩み寄り、その額に指を当てた。

「おまえはこれから悪魔の手先となる。いずれ、闇の騎士団を率いて殺戮の限りを尽くすことになるだろう」
「あ、ああ……」

 ユリウスが大きく目を見開き、その言葉を受け入れていく。
 そして、悪魔は指をその額から離して笑みを浮かべる。

「さあ、今から僕はきみの主だユリウス。改めて自己紹介しよう、僕の名はシトリー。僕はおまえを失望させないよ。存分に敵を殺す場を与えてやる」
「はっ、ありがとうございます!私はシトリー様に絶対の忠誠を誓うものであります!」

 恭しく頭を下げてユリウスは忠誠を誓う。

「うん。僕こそ、おまえの妻の体を乗っ取るなんてことをしてすまなかったね。では、彼女の体を返してやるから、彼女にきみが僕に仕えることになったと報告してやるといい」
「はっ!」
「じゃあ、この体をしっかりと受けとめるんだ」

 そう言うと、シトリーの精神はベアトリーチェの体を離れて自分の体へと戻る。
 次の瞬間、ベアトリーチェが意識を失ったように崩れ落ちるのをユリウスが抱き留めた。





* * *






 シトリーが目を覚ますと、そこは、従者の小屋のベッドの上。リディアとエルフリーデが自分のことをじっと見守っていた。
 見回すと、小屋の隅に、おそらくリディアに眠らされたのだろう、ユリウスの従者らしき男が倒れている。

「なんだ、おまえも来たのか、エルフリーデ」
「はい。副長は性格が堅くて正義感の強い人間ですから、やはり心配になりまして」
「ああ。問題はない。万事うまくいった」
「そうですか。それはよかったです」
「じゃあ、僕は改めて主従の名乗りをあげに行って来るから、おまえたちはもう少しそこで待っていてくれ」

 ベッドから降りると、ふたりは小屋に残してシトリーは屋敷へと向かう。



 屋敷のベルを鳴らすと、ルチアが笑顔で扉を開き、出迎えてきた。
 ひとつ頷くと、シトリーはルチアの先導で屋敷の中へと入る。



「シトリー様がお見えになりました」

 部屋の入り口でルチアが告げると、ユリウスとベアトリーチェが慌てて平伏する。

「これは、シトリー様、わざわざおこしいただけるとは」

 頭を下げたまま恐縮した様子のユリウスの態度には、心の底からシトリーに服従していることが窺える。
 一方で、その隣のベアトリーチェは少々狼狽えている様子だった。

「あ、あの、私、シトリー様のお手数をかけさせてしまったようで。なんとお詫びしたらいいのか……」

 彼女には、シトリーが体を乗っ取っていたときの記憶はない。
 ただ、夫から聞かされた話の内容から、夫の説得に実際に当たったのがシトリーだということは理解できているようだ。

「いいんだ。それよりも体を勝手に使わせてもらったよ。悪いことをしたな」
「シトリー様に私の体を使っていただくなど、誠に畏れ多いことでございます」

 ひたすら恐縮するベアトリーチェは、自分の体を乗っ取られたことに対する不快感は全く感じていない様子だった。

「ああ。そう言ってもらえると僕も助かる」

 そう言うと、シトリーはベアトリーチェの頭を撫でる素振りをして、その中に送り込んだ自分の意識を回収した。
 そして今度はユリウスの方を向く。

「ユリウス、僕はもうすぐこの国を手に入れる。その暁にはおまえが存分に働けるようにしてやるつもりだ。せいぜい忠勤を励めよ」
「はっ!」

 平伏したまま、畏まって返事をするユリウス。
 それに満足げな表情を浮かべると、シトリーはベアトリーチェに話しかける。

「ところで、ベアトリーチェ、おまえは満足できたのか?」
「はい?なんのことでしょうか?」

 言っていることの意味がわからず、思わずベアトリーチェが面を上げる。
 目が合った瞬間に、シトリーは視線に力を込めた。

「おまえは、ユリウスが留守にしていた間、寂しい思いをしていたんだろう」
「あ、ああ、はい……」

 一瞬、ベアトリーチェがシトリーの瞳を見つめたまま体を固まらせる。
 
「もっと自分に素直になるんだ。昼にやって見せたようにな」
「昼に、やっていたように……はっ、そ、それは!」

 シトリーが瞳から力を抜くと、夢見るような表情を浮かべていたベアトリーチェは、我に返って狼狽える。

「シトリー様、いくらシトリー様のお言葉でもそれだけはっ」

 躊躇って見せていても、体は正直だった。
 シトリーの力で、昼のように欲情させられたベアトリーチェは、頬を赤く染めて体をもじもじとさせ始めていた。

「あの、シトリー様、妻が何か?」

 会話の流れをつかめないユリウスがシトリーに訊ねてくる。

「ああ、彼女はきみが留守の間、随分と寂しい思いをしていたようだ。それに、体を持て余していたみたいだね」
「シトリー様っ、それはっ!」
「まあいいじゃないか、ベアトリーチェ」

 そう言うと、シトリーはベアトリーチェを見つめる視線にもう一度力を込める。

「僕としてはね、もっとそういうのに素直になって欲しいんだよ。僕の臣下の夫婦仲がいいのは僕にとっても喜ばしいことだしね」
「あ、ああ、シトリー様……」
「ほら、我慢しなくていいんだよ。もっと自分に正直になるんだ」
「ああ、はいぃ……」

 シトリーが見つめると、心のたがが外れたように、ベアトリーチェの表情が一気にとろんと蕩ける。
 そして、ユリウスの方を向くと切なそうなため息をひとつ吐く。

「あなた。さっきも申し上げましたけど、あなたが邪教討伐に行っている間、私は本当に寂しい思いをしていたんです」
「ベアトリーチェ?」
「留守の間、あなたのことを思うと、体が火照ってきて。ほら」

 ベアトリーチェはいきなりユリウスに向けて大きく股を広げると、自分の秘部をさらけ出す。

「ほら、わかりますか、あなた。私、ここにあなたの逞しいものを入れて欲しくて。ほら、こんなに溢れてきてるでしょ」

 ショーツをずらして、溢れてきた蜜にすっかり濡れた襞を指で掻き分けていく。

「んっ、んんっ、お願い、あなた。私、こうしているだけでっ、ああっ」
「これは?シトリー様?」

 愛する妻の思いがけない姿に驚いたユリウスがシトリーの顔を見上げる。

「ああ。彼女には自分の欲望に素直になってもらったんだよ。その方が、悪魔に仕える者としては相応しいだろう?」
「し、しかしこれは?」
「おやおや、きみはまだそんなことを言っているのかい?まさか、品位とか貞操観念とかそんなくだらないことを気にしているんじゃないだろうね?そんなものは正義とかと一緒で、僕たち悪魔には必要のないものだ。きみも悪魔に仕える以上はそんなくだらない価値基準は捨てることだね」
「し、しかし、シトリー様の前で」
「言っただろう、僕の臣下の夫婦仲がいいのは喜ばしいことだって。それに、悪魔に仕えるんだから、僕の目の前で獣のように交わるくらいが相応しいってものだろう」
「は、はあ」
「それに、一度自分の欲望に素直になれば、それがどんなに心地よいものかわかるよ。僕のことは気にしなくていい」

 そう言われて、ユリウスはシトリーと妻の顔を交互に見比べる。

「あなた、シトリー様のおかげで私は自分がこんなにいやらしい女だっいうことがわかったんです。さあ、あなたももっと自分の気持ちに素直になって」

 夫に向かって大きく足を開いて秘裂をいじり、床に小さな水たまりを作りながらベアトリーチェが微笑んだ。
 もう片方の手で、はだけさせた胸を掴んでいる。

 再びユリウスがシトリーの顔を窺ってくる。
 ユリウスの体が、何かに耐えているかのように小刻みに震えていた。
 その背中を押すように、シトリーが大きく頷く。

「さあ、あなた。あなたの逞しいものをこのいやらしいところに早くちょうだい」

 狂おしげな吐息と共に、ベアトリーチェがせがむ。
 
「う、うおおおおおぉ!」

 ついに、獣のような咆哮を上げてユリウスがベアトリーチェに襲いかかった。

「ああっ、そうよっ、あなたっ!早くっ、早く挿れてちょうだい!あっ、ふあああああっ!」

 妻の体にのし掛かるようにして肉棒を突き入れると、ユリウスは腰を動かし始める。

「あっ、ああっ、イイッ、イイわっ!あっ、あんっ!」

 その様子に、小さく笑って踵を返すと、淫らな喘ぎ声を背後に聞きながら出口へと向かう。

「あ、あの、シトリー様ぁ、私は、いったいどうすればよろしいのですか?」

 目の前で繰り広げられる獣のような激しいセックスに当てられたのか、ルチアがすっかり欲情した表情で訊ねてきた。

「そうだな。いずれ僕がこの国を手に入れたら、おまえを侍女として宮殿に取り立ててやろう。だが、今はまだここのメイドだ。だから、とりあえずは今の主人に尽くしてやれ」

 そう言うと、悪戯っぽい笑みを浮かべて顎をしゃくり、体を重ね合わせているふたりを指し示す。

「よろしいんですか?」
「ああ。僕が許す」
「ありがとうございます!」

 ルチアは、淫靡な笑みを浮かべると、小走りにふたりの方に駆け寄っていく。

「旦那様、奥様、ルチアもお手伝いさせていただきますね」
「あ、あああっ、ルチア!そんな、そこはっ!はあああっ!」
「うおおおおっ!」

 すぐに、部屋に響く嬌声が3人に増えた。
 それを耳にしながら、シトリーは部屋を出ていき、リディアとエルフリーデが待つ小屋へと戻っていった。





* * *






 3日後。

 明日は、マクシミリアンがフレデガンドと約束した日である。
 その日の晩、下町の酒場でマクシミリアンが上機嫌で酒を飲んでいた。

 どのみち、明日、フレデガンドは夕方までは王宮の警護に就いている。
 それまでの隊務はいつものものと変わりはない。
 むしろ、彼としたら久しぶりにフィアンセとすごす景気づけに一杯やっておきたい気分であった。

「はっはっは!だからいつも言っているだろうが!いい女をつかまえないと人生大損だぞ!」
「そんなことは団長に言われなくてもわかってますよ」
「フレデガンドはいいぞぉ!美人だし、性格はいいし、なにより腕は立つしな!」
「また団長の惚気話が始まりましたね」
「そりゃフレダの姉御は美人でしょうよ」
「ていうか、団長は結局それが言いたいだけなんでしょうが」
「ははははっ!まあな!」

 騎士団のメンバーに囲まれ、上機嫌で酒を呷るマクシミリアン。
 この場にいる全員が今ではシトリーの手駒になっているのだが、もちろんそんなことに彼は気づかない。

 と、その時。

「いや、楽しそうですね」

 マクシミリアンの向かいの席に、陶製のジョッキをふたつ持ったひとりの男が座ってきた。
 黒髪に黒い瞳の、見慣れない若い男だ。

 その男は椅子に座ると、マクシミリアンに向かってジョッキをひとつ差し出した。

「ん?なんだい、これは?」
「いえ。あんまり楽しそうに飲んでいらっしゃるのでこちらまでいい気持ちになってきたものですから。そのお礼ですよ、僕のおごりです」
「いや、すまないな、初対面なのに」
「いえいえ、いいんですよ、さ、どうぞ」
「じゃあ、有り難くもらっておくか」

 マクシミリアンは男からジョッキを受け取ると一気に飲み干す。
 向かいに座った男も、ほぼ同時にジョッキを飲み干していた。

「おお。いい飲みっぷりじゃないか、青年」
「いえ、ありがとうございます」
「ところで、ここらじゃ見かけない顔だが」
「ああ、僕は商売であちこち旅をしてるんですが、今夜はこちらが賑やかだったものですからちょっとお邪魔させていただいたんです」

 そう言うと、若い男は人懐っこい笑顔を浮かべる。

「そうかいそうかい、お兄さんは旅の商人か。思い出すな、俺も昔はよく旅商人の護衛をしたもんだがな」
「へえ、じゃあ冒険者をしてらっしゃんですか?」
「ああ、若い頃な。最も今じゃ宮仕えだがな」
「宮仕え?」
「おいおい、そこの兄さん、この人はこれでもこの国の騎士団長なんだぜ」
「てめ、これでも、が余計だ!」
「へへっ、すみません」
「あっ、騎士団長様だったんですか!これは失礼しました」

 男が、いきなり立ち上がって頭を深々と下げる。

「ああ、いいんだいいんだ、そんなに畏まるなって。おーい!こっちに2杯持ってきてくんな!」
「あ、いえ、しかし、そんな偉い人に失礼があっては……」
「だから気にするなって!ほら、今度は俺のおごりだ」
「いえ、そんな」
「ほらほら、さっきの飲みっぷりはどうした!」
「それでは」
「そうそう。おう、何度見てもいい飲みっぷりだな。気に入った!」
「ありがとうございます」
「俺は今日は機嫌がいいんだ!まあ、兄さんもつきあいな」
「何かいいことでもあったんですか?」
「野暮なことをきくもんじゃねえよ。男が機嫌がいいっていったらこれに決まってるだろうか」

 そう言うと、マクシミリアンは小指を立てる。

「ああ、なるほど」
「兄さんも俺の女の話を聞いてくかい?」
「あ、はい。聞かせていただきます」
「よしとけよ、兄ちゃん。団長の惚気話は長えぞ!」
「けっ、おまえらは黙っとけってんだ!いいか、兄さん、俺の女ってのがな……」

 茶々を入れてきた部下にマクシミリアンは笑みを浮かべながら怒鳴ると、目の前の男に向かって自分の話を始める。
 今、この場にいる自分の部下が皆、その男の言いなりに動く駒になっていることを彼は知る由もない。
 そして、次々とジョッキを空にしながら、マクシミリアンはフレデガンドの惚気話を続ける。
 男は、人懐っこい笑顔を浮かべたまま、その話を聞き続けた。









「いやー!今日は本当にいい気分だ!」

 夜もとっぷりと更けた頃、すっかりできあがったマクシミリアンは男に肩を担がれてふらふらと歩いていた。
 酒場にいた他のメンバーは、もうすでに帰っている。

「大丈夫ですか、団長さん?」
「なんのっ!大丈夫だっ!これしきの酒くらい」
「足下がふらついてますけど。とにかく、家まで送っていきますね」
「すまないなっ、青年!いやっ、おまえは本当にいい奴だな!」
「いえいえ、そんなことはありませんよ」
「いいや、おまえみたいな好青年はそうはいないぞ!飲みっぷりもいいし、俺はおまえが気に入った!」
「あ、ありがとうございます!」
「だからなっ!もし困ったことがあったら、いつでも言ってくれ!俺にできることならなんでもやってやるぞ!」
「その気持ちだけいただいておきます、と言いたいんですが、実は、お願いがあるんです」
「おうっ、なんだ!?何でも言え!」
「欲しいものがひとつだけあるんですが」
「欲しいもの?そりゃなんだ!?」
「はい、あなたの心です」
「なんだって!?」

 一瞬、言葉の意味がわからなくてマクシミリアンは男の顔を見つめる。
 男は、さっきと同じ人懐っこい笑みを浮かべている。だが、黒かったはずの男の瞳が金色に輝いたように思えた。
 そして、それっきりマクシミリアンは何もわからなくなったのだった。

 
 


 

 

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