黄金の日々


 

 

第1部 第8話 3


 フローレンスの街、フラウデンブルグ伯爵の屋敷。

「お父様、ただいま戻りました」
「おかえり、ジュスティーナ」

 読んでいた本から視線を上げ、屋敷に戻ってきた愛娘を見て、現在の当主であるオットーは目を細める。

「どうだったね?」
「はい、ダニエル様からも、ありがたく身につけさせていただきます、と。お父様にくれぐれもよろしくとおっしゃっておられました」
「そうかね。それは良かった」
「それと……」
「ん?どうしたんだね、ジュスティーナ?」
「少し、怒られてしまいました。勤めの最中に来てはいけないと」
「はっはっは。私が言ったとおりだっただろう。彼は真面目な男だからね」

 オットーは白髪の目立つ頭を掻きながら、いかにもおかしそうに笑う。
 彼には男子が無く、歳をとってから授かった一人娘のジュスティーナを溺愛していた。
 フラウデンブルグ伯爵家とは遠縁にあたる家の次男であるダニエルをジュスティーナの婿に迎えようと考えたのも彼だった。
 真面目で優しい性格のダニエルのことを彼は気に入っていた。
 そのダニエルと自分の一人娘を娶せて、ゆくゆくは彼にフラウデンブルグの家門を継がせようとも思っていた。

「それでは、わたくし、着替えてまいりますね」
「うんうん」

 年頃の娘らしい恥じらいを見せて自分の部屋へと下がるジュスティーナの後ろ姿を見送ると、オットーは読みかけていた本へと視線を戻す。




 少しして、不意に、コトン、という音がしてオットーは再び顔を上げる。

「ヘルムートか?」

 オットーは、執事が入ってきたのかと思ってその名を呼ぶ。
 だが、何の返事も返ってこない。

 一瞬、気のせいかとも思ったが、やはり気になって本を置くと立ち上がり、音のした方へと歩いていく。
 ドアを開けると、そこに執事のヘルムートが倒れていた。

「ヘルムート!どうしたんだ、ヘルムート!う……」

 急いでヘルムートを助け起こそうとしたオットーも、目眩がしたかと思うと意識を失ってその場に昏倒する。



「これでどうですか、おじさま?」
「上出来だ。見事なものだな」

 陰から姿を現したのは、もとの姿に戻ったシトリーとリディア、そして、猫から人型に戻ったエミリアの3人。
 エルフリーデは、シトリーたちを屋敷まで案内した後、すでに騎士団の方に戻っていた。

「これで全員か?」
「はい。彼女以外はみんな眠らせました」

 無邪気な笑顔を浮かべて、リディアは凶悪な報告を告げる。

「よし。じゃあこいつらを動かすとするか。起きないだろうな、こいつら?」
「大丈夫。ただ眠らせただけじゃないから。わたしが魔法を解くまで目を覚まさないわ」
「そうか。じゃあ、明日、夜が明ける前にこいつらに掛けた魔法を解いておいてくれ。ついでに記憶の操作もな」
「はい」
「じゃあ、こいつらをどかすぞ。よし、おまえも手伝え、エミリア」
「はいはい〜」
「おじさま、外で眠らせている御者と馬丁はどうします?」
「ああ、あそこなら外からも見えないし放っておいてもいいだろう。こいつらはここに倒れられるとすぐにあの娘に見つかるからな」

 シトリーたちは、倒れているふたりの男を引きずるようにして居間の中に運び込む。

「うんしょ、と。このメイドちゃんはどうするの?」
「ああ。そこに一緒に寝かせておけ」

 エミリアが、両脇を抱えて引きずってきたメイドを、オットーたちの横に転がせる。



 と、その時。

「マルグレーテ。ちょっと来てちょうだい」

 廊下の向こうからジュスティーナの声が聞こえた。

「いよいよだな。さあ、身を隠すぞ」

 薄笑いを浮かべたシトリーが目配せすると、リディアが頷いて呪文を唱える。
 すると、3人の姿がふっと見えなくなった。





 一方、こちらはジュスティーナ。

 自分の部屋に戻り、外套を脱ぐと衣装棚に掛ける。
 外套の下に着ていたのは、まるでパーティーに出席するときのような華々しいドレス姿。
 久しぶりにダニエルと会うのが嬉しくて、ついめかし込んでしまった。
 改めて姿見に映った自分の姿を見てみると、その気合いの入った着飾りぶりに、思わず自分でも笑ってしまう。
 細かなレースの付いた春らしいピンクのドレスに、肘まである絹のドレスグローブ、花をあしらった髪留めに真珠のネックレス。
 本当に、このまま宮殿での舞踏会にでも行くような格好だ。

 ジュスティーナはドレスグローブを外すと、そっと胸に抱く。
 ダニエルに見送られて馬車に乗り込むときに手を握られた温もりがまだそこに残っているように感じられた。
 それを大事そうに机の上に置くと、アクセサリーを外してドレスを脱いでいく。

 そして、室内用のベージュ色のイブニングドレスを衣装棚から手に取って身につける。

「マルグレーテ。ちょっと来てちょうだい」

 ケアのために脱いだドレスを渡そうと、メイドの名を呼ぶ。
 しかし、いつもなら呼べばすぐ来るはずのメイドのマルグレーテが、今日は姿を見せない。

「マルグレーテ?どうしたの、マルグレーテ?」

 ドアを開けてもう一度呼ぶが、返事は返ってこない。
 いや、それどころかまるで誰もいないかのように屋敷の中全体がしんと静まり返っている。

「どうしたのかしら?」

 不審に思ったジュスティーナは、部屋を出ると居間の方に歩いていく。

「マルグレーテ?いないの?……あっ!」

 居間に入ったジュスティーナは、そこに倒れている父親と執事、メイドの姿を見つけて立ちつくした。
 だが、すぐに我に返ると慌てて駆け寄る。

「お父様!どうなさったの、お父様!?それにマルグレーテもっ、ヘルムートまで!」

 父親の体を抱き起こして揺さぶっても、何の反応もない。

「お父様!ねえ、起きて下さい!お父様!」
「ご心配なく。父君方にはちょっと眠ってもらっているだけですよ」

 必死になって父親に声を掛けていると、背後から男の声がした。
 振り返ると、黒髪に金色の瞳の男が薄笑いを浮かべて立っていた。

「だ、誰ですか、あなたは!?」

 ジュスティーナは怯えた表情で立ち上がり、誰何する。

「いや失礼。僕の名はシトリーと言います」

 その男はそう名乗ると、丁寧に頭を下げた。
 ジュスティーナには、その態度がかえって不気味だった。

「ど、どうしてこんなことを!?さては、賊ね!」
「いえいえ。ちょっとあなたに用があってね。邪魔になるので家の方には眠っていただいたのです」
「わたくしに用が?いったいどういうことなのっ?」
「確か、あなたはダニエルくんの許婚ですね」
「ダニエル様がどうしたというのです!?」
「いえ。君は知らないかもしれないが、ダニエルくんは実は僕に仕えているんだよ。彼の主人としてはその許婚のことも知っておかないといけないと思いましてね」
「ば、馬鹿なことをおっしゃらないで!ダニエル様はこの国の騎士で、あの方がお仕えしているのはクラウディア様なのよ!」

 ダニエルの名を出されてジュスティーナは気色ばむ。
 この、得体の知れない男の言動に言いしれぬ恐怖を感じるが、それでも気丈に言い返した。

「いや、間違いなくダニエルくんは僕に仕えているんですよ。だから、その許婚である君にとっても僕は主人というわけです」
「冗談もほどほどになさい。あなたがわたくしの主人なんてことがあるわけありませんわ!」
「冗談ではありませんよ。僕が君の主人である証拠に、君は僕の言葉に逆らうことができませんから」

 そう言いながら、相変わらずにやにやと薄ら笑いを浮かべている男。
 だが、その時、男の金色の瞳が輝いたように見えた。

「な、なにを馬鹿なことを……」

 危険な予感に、ジュスティーナは後ずさろうとする。

「さあ、こっちへ来るんだ、ジュスティーナ」

 いきなり、男の口調がさっきまでの丁寧な物言いから変化した。

「ええっ?ど、どうして!?」

 足が勝手に男の方に踏み出し、ジュスティーナは驚愕して目を見開いた。
 彼女の意志とは関係なく、体が勝手に動き、シトリーと名乗ったその男にゆっくりと近づいていく。

「どうしてこんな!?わたくしにいったい何をしたのです!?」
「言ったはずだよ、僕は君の主人だって。だから、君は僕の命じたとおりにしてしまうんだ」
「ばかなっ、そんなはずが!」

 口では抵抗しても、まるで体は自分のものではないかのように、足を動かすのを止めることができない。
 ゆっくりと、だが確実に男の方に向かって、一歩ずつ足を踏み出してしまう。
 そして、ついにジュスティーナは男のすぐ目の前に立った。

「さあ、顔をよく見せてごらん」

 男の言葉に、ジュスティーナは精一杯顔を背けて抗う。

「こっちを真っ直ぐ見るんだ、ジュスティーナ!」
「くっ、ううう!」

 だが、男に命令されると、やはり自分の思いとは関係なくゆっくりと首が前を向き、正面から男の顔を見つめる。

「うん。なかなか可愛らしい顔をしてるじゃないか」

 ジュスティーナの顔をしばらく見つめた後でそう言うと、男は満足そうな笑みを浮かべる。

「じゃあ、僕を主人と認めた証に、口づけをするんだ」
「ふ、ふざけないで!……いやっ、どうして!?んっ、んむむっ!」

 必死に抗おうとするが、ジュスティーナの体は背伸びをするようにして男の頭を抱えると、その唇に自分の唇を重ねた。

 どうして?どうなってしまったの?こんなことしたくないのに、体が勝手に?
 こんな、接吻なんてダニエル様ともまだ数えるほどしかしたことないのに。

「んむむむっ、んんっ!むむーっ!」

 自分の行動に、ただ戸惑うばかりのジュスティーナ。
 この男が何かしたのだとはわかっていても、自分ではどうしようもない。
 すると、いきなり口の中に舌を挿し込まれて、その目が大きく見開かれる。

「んんっ!んむむっ、んぐっ、むむむむっ!」

 いやだ、わたくしの口の中で舌が動いて、気持ち悪い……。

 大きく開いたままの彼女の目に涙が浮かぶ。

「んむむっ。んふっ!はぁはぁ……」

 そして、ようやく長い接吻から解放される。
 気持ち悪そうに顔を顰め、喘いでいる口の端から男と自分の唾液が混じったものがぽたぽたと床に滴り落ちる。

「こ、こんなことをして、許されると思っていますの?」

 ジュスティーナは、ようやく、きっ、と顔を上げて男を睨み付ける。
 だが男はその視線を真っ直ぐに受けとめながら平然と言い放つ。

「そうだね。まだ許すわけにはいかないね」
「何を言っているの!許すわけにはいかないのはわたくしの方ですわ!」

 馬鹿にされた気がして、語気を荒げるジュスティーナ。
 だが、男はいっこうに平気な顔だ。

「さあ、まだ終わっていないよ。口づけしなければいけない場所がもうひとつあるだろう」
「な、なにを言ってるの!?」
「ほら、跪いて僕のズボンをずらすんだ」
「そ、そんなことわたくしがするはずが!あ、ああ!?」

 どれだけ拒んでも、体が言うことを聞かない。
 男の足許に跪くと、紐を解いてズボンをずり下ろしていく。

「あ、ああ、これは……」

 彼女の目の前に現れたのは、赤黒く醜悪な肉の竿。

「さあ、そこに口づけをするのが僕を主人と認める証だ」
「できるわけがないわ!こ、こんな汚らわしいものにっ!」
「汚らわしい?男には誰にでも付いているものだよ。そう、君の許婚のダニエルにもね」
「そ、それでもっ!他の男の人とこんなっ!」
「ああ。僕は君の主人なんだから何も問題はないよ」
「誰もあなたを主人とは……」
「さあ、そこに口づけをするんだ、ジュスティーナ」

 彼女の言葉を遮って男が命令する。
 すると、ゆっくりと自分の顔が目の前の醜怪なものへと近づいていく。

「いや、だめ……。そんな」

 ジュスティーナの鼻腔を、今まで嗅いだことがない嫌な臭いが刺激してきた。
 近づいただけでもその臭いに顔を背けたくなるのに、その思いとは裏腹に顔はどんどんそっちに近づいていく。

 そして。

「ん、ちゅ……」

 ジュスティーナは、手まで添えてその赤黒い肉棒を捧げると、その先に口を付けた。

 いや、気持ち悪い……。

 ぎゅっと目を瞑っても、唇に触れるその感触と、間近に感じる臭気から逃れられない。

「さあ、もっと大きく開けて口の中に含むんだ」
「んっ、んぐっ」

 男に命令されると、ジュスティーナは抗う術もなく口を開けて肉棒をその中に包み込む。

 うう、臭いわ。それに、嫌な味……。

 口の中に充満する臭いと、舌に触れるその味に思わず顔を顰める。
 しかし、どんなにあがいてもそれから口を離すことができない。

「さあ、口に含んだままもっと舌を使って」
「んぐ、ん、んむ、んふ」

 口の中で舌が動き始めた。
 おかしな味が口の中に広がり、舌が触れると、それがどくんどくんと脈打つのを感じる。

 嫌だ、気持ち悪いわ。こんなの、気持ち悪くてすごく嫌なのに、止められない。

「んむ。んふ、ん、んぐ、んむむ」

 口の中で、それがどんどん膨らんでいくのを感じる。
 いま、ジュスティーナの心を占めているのは、嫌悪感と屈辱のみ。

 いや、誰か助けて!お父様っ!ダニエル様!

 心の中で助けを呼んでも、誰も来るはずがないのはわかっていた。
 あまりの屈辱に、自分が惨めに思えて、悔しさと悲しさがこみ上げてくる。
 固く閉じたその目から涙が溢れてきて、ぼろぼろとこぼれ落ちた。

「目を開けてこちらを見るんだ、ジュスティーナ」

 不意に、男の声が降りかかる。
 その声には抗えず、肉棒を口に含んだまま上目遣いに男の顔を見上げる。
 だが、相変わらず涙を流し続けたままだ。

「なんだ。泣いているのか?」

 それに気遣うどころか、男は楽しげに訪ねてくる。

 あたり前ですわ。無理矢理こんなことをさせられて。わたくし、わたくし……。

 恨めしげな視線で見上げるジュスティーナの目から、止め処なく涙がこぼれ落ちていく。

「それじゃあ主人に忠誠を誓う態度とは言えないな」

 そう言って男は肩をすくめる。

 あたりまえよ。誰もあなたを主人とは認めていないのに。

 そう思っても、男のそれを口に咥えたままでは言葉にならない。

「仕方ないな」

 ぼそりと呟くと、男の瞳が再び輝いた。
 そして、ゆっくりとその口が開く。

「ジュスティーナ。おまえはいま口に咥えているものをとても美味しく感じてしまう」

 そんなわけがあるはずが……え?ど、どうして?

 突然、自分の中のものが、それまでの不快な味ではなく、むしろ美味しく感じられてジュスティーナは狼狽える。

 なんで?美味しい……。ど、どうしてこんな?

 戸惑うジュスティーナの様子を確かめるように、男がゆっくりと言葉を続けていく。

「おまえはそれが大好物だ。それをしゃぶっているとどんどん気持ちよくなっていく」
「ん、んふ、んむむっ!」

 肉棒を咥えたままで男を見上げていたジュスティーナの体がビクンと震えた。
 そして、肉棒に触れるその舌の動きが次第に積極的になっていく。

 なにっ?なんなの、これは!?

 狼狽えながらも、自ら舌を動かしてしゃぶっているジュスティーナ。
 それをしゃぶっていると、心地よくて、気分がほわんとしてきて、そして、体が熱くなってくる。

 んん、体がじんじんと熱くなってくる。なにかしら、この気持ち……ああ、そうだわ。気持ち、いい。
 こんなのおかしいのに。でもどうして?ああ、男の人のものをしゃぶってると、たまらなく、気持ちよくなってくる。

 どんどん高まってくる気持ちよさに、戸惑いが追いつかない。
 気がつけば、自分から熱心に肉棒をしゃぶり続けていた。

「本当にそれが好きなんだな。さあ、おまえの思うままにしゃぶっていいぞ」
「んふ、むふううう。あ、あふ、じゅ、ちゅるる、じゅるるる」

 男の声に解き放たれたように、ずっと咥え込んでいた口を開いて息継ぎをすると、舌を伸ばして熱っぽく肉棒に絡めていく。
 口を開いた拍子に、だらだらと涎が垂れるが、全く構う様子はない。

「あふ、じゅる、んむ、おいひい。こんなの、おかしいのに、おいひいわ。んふ、れろ」

 いつの間にか、その目からは涙が止まり、うっとりとした表情になっていた。

「んむ、どうひて?こんなの、だめなのに。あふ、んふ、くちゅ、ちゅるるる」
「だめじゃないさ。これはダニエルのためなんだから」
「ダニエル、さまの、ため?」

 一瞬、肉棒から口を離して、ジュスティーナは怪訝そうに見上げてくる。

「ああ。おまえはダニエルの許婚なんだから。いずれ彼とこういうことをすることになる。その時に彼を喜ばせなくてはならない。今のうちに練習して上手くなっておかないと、こういうのが下手だとダニエルを失望させることになるぞ」
「そ、そんなの、嫌です」

 嫌だ。ダニエル様を失望させるなんて、そんなの嫌。
 わたくし、いったいどうしたらいいの?

 男の言った、ダニエルを失望させる、という言葉がジュスティーナの心に突き刺さった。
 そこへ、男が、ふっ、と微笑んで口を開く。

「それが嫌なら、もっと練習するんだ」
「ふ、ふぁい……。ぴちゃ、ぺろ、ん、あむ」

 肉棒をしゃぶっている快感に飲みこまれて、自分がその男に辱められているということすら忘れてしまったのか、ジュスティーナは言われるままに再び肉棒を咥え込む。

 ああ。男の人をもっと喜ばせないと。
 でないと、ダニエル様のことも喜ばせてあげることができない。

 肉棒に意識を集中して、ジュスティーナはそれに舌を絡め、咥え、精一杯気持ちよくしようと努める。
 いまや、彼女の心の中は、ダニエルのために、男を喜ばせるにはどうしたらいいか考えるので一杯になっていた。

 それにしても、男の人のものがこんなに美味しいなんて知らなかった。
 それに、こうやってしゃぶっていると、わたくしもとっても気持ちいい……。

 もう、ジュスティーナはそれをしゃぶり続けることしか考えられない。
 そうしていると、しゃぶっているものの先からとろっとした透明な汁が滲み出てきた。

「んふ、んむ、あふ。……あ、さきっほから、とろりとお汁が……。ぴちゃ、ぺろろ……ん、このお汁、おいしい」
「もっとしゃぶって、男を喜ばせることができたら、それよりももっとたくさん汁が出てくるからな。そうしたらおまえももっと気持ちよくなれる」
「んふ、欲しい、もっとたくさんお汁、欲しいです」

 肉棒の先から出てくる汁を舌ですくい取り、もっと出してもらいたいと上目遣いにねだっている。
 その表情は、先ほどまで涙を流して嫌がっていた人間のものとはとても思えない。

「じゅる、ぺろ、ん、んむ……あ?」

 自分の額に何か当たった感触に顔を上げると、男が自分の額に指を当てていた。

「ジュスティーナ。もうすぐ、今おまえがしゃぶっているものからたっぷりと汁が出てくる。それを飲むと、おまえとても気持ちよくなる。そして、おまえは僕の下僕になるんだ」
「あ、あああ……はい」

 男の瞳が再び輝き、額の、その指が当たっている部分が熱く感じられる。
 ジュスティーナは、大きく目を開いて体をぶるっと震わせた。

「よし。じゃあ続けるんだ」
「はい」

 男が指を離すと、ジュスティーナは再び肉棒を咥える。

「ん、あふ。ああ、こんなにいっぱい溢れてきた。えろ、じゅるる、んむ、んく」

 亀頭の先から溢れてきた汁を舌ですくい取ると、また肉棒を口の中に頬張る。
 もう、それは彼女の小さな口には収まりきらないほどに大きくなっていた。

「んぐっ、んふ、じゅぼっ。あふ、もっと、もっといっぱい、ください。んむ、ちゅぽ、んく」

 時おり、とろんとした視線をシトリーに向けながら、ジュスティーナは美味しそうに肉棒をしゃぶっている。
 だいぶ慣れたのか、はじめと比べて、肉棒をしゃぶる舌使いがだいぶ上手くなっていた。

「んっく、うっ、じゅる、んふっ。あ、おくちのなかで、びゅくびゅくって。んむ、むふう、ん、ちゅぽっ」
「さあ、そろそろ出すぞ、ジュスティーナ」
「ふぁ、ふぁい、くらふぁい。ちゅぽ、じゅぽ、んふ、じゅるっ!んんんっ!わらしのからだも、あつくて、きもひいい!」

 肉棒をしゃぶりながら、ジュスティーナが体をビクビクと震わせはじめる。
 まるで、火がついたように体が火照って熱い。

 ほしい、この方のお汁が、いっぱい。あ、でもこの人は?
 わたくし、どうしてこうしているのかしら?ああ、そうよ、ダニエル様のため。
 この方はダニエル様のご主人様で、だから、わたくしもこの方にお仕えしなくては。
 つまり、この方はわたくしのご主人様。
 ご主人様に、もっと気持ちよくなっていただかないと。
 ああ、体が熱い。
 はやく、ご主人様のお汁が欲しい。

 熱にうなされたような頭の中で、ジュスティーナの思考がどんどん変化していく。
 今、自分は仕えるべき主人に奉仕しているのだ、と。

「んぐっ、しゅぼっ、ちゅ、ぐぐっ、じゅぼっ」
「く、出すぞ、ジュスティーナ」
「んぐっ、ぐぐぐぐっ!」

 男に頭を押さえつけられて、喉深くに肉棒を咥え込む。
 すると、その先から熱いものが迸り出てきたのを感じた。

「ぐふっ、えほっ、んぐぐぐぐっ!んくっ、んむむっ!んぐっ、こくっ」

 何度も咽せそうになりながら、ジュスティーナは必死の思いで肉棒を咥え込み、その熱い汁を飲み込んでいく。

「んふ、えほっ、けほっ!ごほごほっ!……ふああ、ああ、おいしい」

 ようやく肉棒から口を離して少し咽せるジュスティーナ。
 だが、すぐに恍惚とした表情で見上げてくる。
 その唇からこぼれて滴り落ちた乳白色の液体が、同じ色のドレスに小さな染みをつくっていた。

 男が、その目を真っ直ぐに見つめて訊ねる。

「ジュスティーナ、僕はおまえの何だ」
「あなた様、シトリー様は、わたくしがお仕えするべきご主人様です」

 そう答えるジュスティーナの瞳には、もう迷いも躊躇いも見られない。

「つまり、おまえは僕の何だ?」
「はい。わたくしはシトリー様の下僕です」
「よし。上出来だ」

 自分の主人、シトリーに頭を撫でられて、ジュスティーナは嬉しそうに顔を蕩けさせる。

「よし、ジュスティーナ。では、次の練習だ」
「次の、ですか?」
「そうだ。おまえは今、男を喜ばせる練習をしていたんだろう」
「はい。そうです」
「今、口で男を喜ばせる練習をしただろう。だったら、次はどうするんだ?おまえも子供じゃないからわかるだろう」
「お口の、次は……」

 考えている彼女の目の前で、まだ逞しさを失っていない肉棒がゆらゆらと揺れている。
 それをぼんやりと見つめた後、はっとして主の顔を見上げた。

「次は、わたくしの体で男の人を喜ばせる練習ですね」
「正解だ。よくできたな」
「ああ。シトリー様のものを、わたくしの体で……」

 肉棒に手を伸ばしてうっとりとした表情を浮かべるジュスティーナ。

「でも、おまえにはダニエルという許婚がいるからな。いくら僕がおまえたちの主人でも、おまえの処女を奪うわけにはいかないだろう」
「ええ?それでは」

 シトリーの言葉に、ジュスティーナは悲しそうな顔をする。

「心配するな。その代わりに男を喜ばせる練習ができる場所があるぞ」
「それは、どこですか?」
「ここだ」
「あっ、あああっ」

 シトリーは、へたり込んでいるジュスティーナの体の向きを変えると四つん這いにさせる。
 そして、ドレスの裾をまくり上げると、後ろの穴に無造作に指を突っ込む。

「ああああっ、シトリー様?」
「おまえにはこっちにも穴があるだろうが。女はここでも男を喜ばせることができる」
「ええ?お尻の、穴でですか?」

 四つ這いのまま、恥ずかしそうに顔だけをこちらに向けてくる。

「ああ。こっちの穴なら、おまえの処女を奪うことなくおまえが男を喜ばせる練習させることができる。僕は優しい主人だからな。おまえの処女はダニエルのためにとっておいてやろう」
「あ、ああ。ありがとうございます」

 シトリーの顔を見上げるジュスティーナの目から大粒の涙がこぼれ落ちる。
 それは、さっき陵辱されて流した悲しみの涙ではなく、感極まって流す喜びの涙。

「あうっ、うあああっ!」

 シトリーが、アナルに突っ込んだ指を掻き回すと、ジュスティーナが苦しそうに喘ぐ。

「どうだ、やれそうか?」
「ううう。ちょっと苦しくて、気持ちが悪いです」
「じゃあ、やめるか?」
「いえっ!やります!やらせてください!」
「よし、じゃあ、まじないをしてやる。僕の目を見ろ」
「はい。……あ、ああ」

 ジュスティーナがシトリーの目を見ると、その目が強く光る。

「ジュスティーナ。おまえの体は男に抱かれるとすぐに気持ちよくなってしまういやらしい体だ。特に、体の穴に男のものを入れられるのがすごく気持ちいい。いいな」
「はい……」

 ジュスティーナが虚ろな返事を返すと、シトリーの目の輝きが収まる。

「よし、ジュスティーナ」
「は、はい!」
「今度はどうだ?」
「はう!ふあああああっ」

 もう一度シトリーが指を掻き回すと、ジュスティーナが明らかにさっきとは違う反応を見せる。

「あああっ!気持ちいい!お尻の穴っ、気持ちいいです!」
「よし、じゃあ、もう大丈夫だな」
「はいぃ。お願いします。シトリー様の太くて大きいのを、わたくしのお尻の中に入れて下さい」

 潤んだ瞳で、ねっとりとした視線を投げかけてきてジュスティーナがねだる。
 我慢できないように、尻を突き上げてきてぷるぷると震わせていた。

「これはこれは。大貴族のお嬢さんだと思ったらとんだ淫乱娘だな」
「そんなこと、おっしゃらないで下さい。わたくしはシトリー様に喜んで欲しいだけなのです。わたくしがこんなことをするのはシトリー様とダニエル様だけなのですから」

 顔を後ろに向けて、泣きそうな表情でジュスティーナは訴えてくる。

「ですから、どうか、お願いします、シトリー様」
「ふん、まあいいだろう」

 シトリーは、その尻を掴むと、ひと思いにそこの穴に肉棒を突き込んだ。

「んんっ、くはああああああっ!」

 床に突いていた両手を突っ張って、ジュスティーナは体を仰け反らせる。

「んくううううう!すごいっ、すごいですっ、シトリー様!あああっ、気持ちっ、いいですうううっ!」

 アナルを犯された初めての快感に、思わず感動の声をあげるジュスティーナ。

 シトリーも、胸の内で思わず唸った。
 ジュスティーナのそこは、入り口はきつく締め付けてくるが、中は温かく包み込んで肉棒を適度に刺激してくる。
 それがたらす快感は、もともとそういう性質なのか、それとも仕込んだ暗示が体質まで変えてしまったのか、すでに開発されきったものであるようにすら感じる。

「どっ、どうですか、シトリー様。気持ち、よろしいでしょうか?はううっ!」
「ああ。ぎゅっと締め付けてくる。申し分ないぞ」
「お褒めいただいてありがとうござい……。あっ、あああっ、くああああっ!」

 シトリーが腰を動かし始めたために、礼を述べている途中で言葉が途切れた。

「ああっ、はあっ、ふああっ、すごくっ、きもちいいですっ!ああっ、ふああっ!」

 腰を打ちつけるたびに、それに合わせてジュスティーナの体もがくがくと揺れる。

「ふああっ!もっと、気持ちよくなってくださいいいっ!そして、もっともっと気持ちよくしてくださいいいいっ!ああっ、あひいいいっ!」
「よしっ、どんどんいくぞっ!」
「はいっ、くはあっ!どうぞっ!あっ、ああっ、んふうっ、くうっ、あっ、あああっ!」

 シトリーの動きに、ジュスティーナの体が激しく揺れる。いや、いつしか彼女は肉棒を迎え入れるように自分から腰を揺らしていた。
 そして、肉棒をぐいぐいと締め付けてくる。

「あああっ、お尻の穴っ、掻き回されて、苦しいけどっ、気持ちいいいいっ!ああっ、はああっ!」
「ああっ。僕も気持ちいいぞ、ジュスティーナ!」
「はああっ、あっ、ああっ、くはあっ、あふう!ああっ、シトリーさまあぁ!」

 その性急に射精を促すような締め付けと、どろどろと肉棒を包み込む快感にシトリーは内心舌を巻いた。
 自然と、腰を打ちつけるリズムが速く、そして動きが大きくなっていく。

「あっ、はあっ、ふあっ、そんなにっ、激しくっ!あっ、ああっ、くうっ、あっ、あっ、あふうううっ!」

 その激しさに狼狽えながらも、ジュスティーナの体はリズムの変化に合わせて肉棒を迎える動きを速くしていく。
 そして、肉棒への締め付けもどんどんきつくなっていき。

「くうっ、もうっ、出そうだ!」
「はひいいっ!どうぞっ、だしてっ、くださいっ!ふあっ、あああっ!」
「だ、出すぞっ!ジュスティーナ!」
「ふあああっ!きますっ!しとりーっ、さまのっ、あついのが、いっぱいっ!ああっ!いああああああああっ!」

 両手を突っ張り棒のようにして尻をシトリーに押しつけ、ジュスティーナが体を硬直させる。

「ふううううううっ!わたくしのお尻の中、シトリー様のもので満たされて、熱くて、ふああ、気持ちいいですぅ」

 突っ張った腕から力が抜け、ジュスティーナの体ががくりと床に崩れ落ちる。
 汗でぐっしょり濡れたその体に薄手のドレスが貼り付き、肌がほのかに染まっているのがうっすらとわかる。





「ちょっと遊びすぎじゃないの、シトリー?」

 まだ喘いでいるジュスティーナをよそにシトリーが目配せをすると、隠れていたエミリアとリディアが姿を現した。

「ええ?あの、シトリー様、この方たちは?」

 突然姿を現したふたりに驚くジュスティーナ。

「気にするな。こいつらも僕の下僕だ」
「ああ、そうでしたか」

 まだ、肩で息をしながらジュスティーナがふたりに頭を下げる。

「それで、これからどうするの、おじさま?」
「場所を移すぞ。次のステージだ。いいな、リディア?」

 シトリーの言葉に、リディアが黙って頷く。

「次のステージ?いったいどういうことですか?」
「今夜は、おまえとダニエルの結婚式だ。僕が立会人になってやる」
「わたくしと、ダニエル様の?」
「どうした?嬉しくないのか?」
「いいえ!嬉しいです、とても!」
「ただな、ちょっと困ったことになってるみたいなんだ」
「なにがあったのですか?」

 シトリーが表情を曇らせると、ジュスティーナも不安そうな表情になる。

「ダニエルのやつ、どうも悪いやつに騙されたみたいで、どうも僕が主人であることを忘れてしまったみたいなんだ」
「そんな!わたくし、いったいどうしたら」
「そこでだ。僕がダニエルの主人だってことを、おまえに説得してほしいんだ」
「やります!シトリー様のような立派なご主人様のことを忘れるなんて、そんなことが許されていいはずがありません!きっと、わたくしがダニエル様を説得してみます」
「ありがとう、ジュスティーナ。おまえは立派な下僕だな。じゃあ、ダニエルを説得する手助けに、僕の力の一部を少しの間貸してあげよう」
「シトリー様の力を?」
「ああ」

 そう言うと、シトリーはジュスティーナの額に指を伸ばして力を送り込む。

「あ、ああっ」

 ジュスティーナが体を震わせると、シトリーはすぐに指を離した。

「……あの、シトリー様、これは?」
「ああ。僕の力を少しおまえに貸した。おまえが処女を失ったとき、その相手はおまえの言葉に逆らえなくなる。おまえは今夜、ダニエルと結ばれる儀式としてダニエルに処女を捧げる。その上で、ダニエルが僕の主人だと説得してくれないか?」
「はい、わかりました。必ずやあの人を説得して見せます」

 真っ直ぐにシトリーの目を見て答えるジュスティーナに、シトリーは笑顔で頷く。

「うん、頼んだよ。じゃあ、結婚式の場所に行こうか。……リディア」

 その言葉に応えて、リディアが呪文を唱えるとシトリーたち4人の姿が消える。
 
 4人の姿が見えなくなると、魔法で死んだように眠っているオットーたち3人が残されているだけで、屋敷の中はしんと静まり返っていた。





* * *





 夜、ダニエルの屋敷に突然魔導院からの使者が訪ねてきた。

「騎士団のダニエル様ですか?」

 対応に出たダニエルに、急いだ様子で使者が訊いてくる。

「そうですが、いったい何事ですか?」
「本日の夕方、魔導院の前でフラウデンブルグ伯爵家のジュスティーナ様が倒れておいででして」
「なに!?それは本当か!?」
「はい」
「し、しかし、どうして僕の所へ?」
「それが、フラウデンブルグ伯爵のお屋敷には誰も居られない様子で、それでこちらへ報告に参った次第です」
「それで、ジュスティーナは今どうしているんだ?」
「はい。魔導院の方で保護させていただきましたが。フラウデンブルグ伯爵が留守であれば、ダニエル様にお迎えに来ていただくほかはないと」
「わかった。すぐ行く」

 許婚が倒れたとあってはダニエルは平静ではいられない。
 すぐに外出の身支度を整えると、使者の後に続いて屋敷を出る。





 魔導院。

「さ、こちらです、ダニエル様」

 使者に案内されて、ダニエルはひとつの建物の中に入る。

「こちらにジュスティーナ様がいらっしゃいます」

 言われるまま、ダニエルは階段を降りていく。
 気が急いている彼は、倒れていたジュスティーナをわざわざ地下に運んだということを怪しむことすらない。



 階段を降りきって扉を開ける。
 
「うっ!?」

 その中は、噎せ返るような異様な臭いが立ちこめていた。
 それに、どうやらかなりの広さがあるようだが、薄暗くて中の様子がよくわからない。

「ここにジュスティーナがいるのか!?」

 ダニエルは、ゆっくりと中へ進みながら一緒にいるはずの使者に尋ねる。
 が、返事は返ってこない。

 その代わり、何か聞こえる。
 ぴちゃ、くちゅ、という湿った音。

 すると、前方がうっすらと明るくなった。
 ダニエルがそちらの方向に進みながら目を凝らすと……。

「ジュ、ジュスティーナ?」

 ジュスティーナが床に膝をついて、熱心に何かしゃぶっていた。
 そのすぐ前に男が立っている。
 よく見ると、彼女がしゃぶっているのは、男の股間のもの。

 あまりのことに怒ることすら忘れてダニエルは茫然と立ちつくす。

「あ、ダニエル様。いらして下さったのですね」

 すると、ダニエルに気づいたジュスティーナが男のそれから口を離すと、こちらににじり寄ってきた。
 ぼんやりとした灯りの中で見るその顔は、確かに自分のよく知っているジュスティーナだ。
 だが、その笑顔は彼の知る可憐でしとやかなものではなかった。
 目尻は下がり、だらしなく口を開いて、とろんとした笑みを浮かべてこちらに這い寄ってくる。
 そんな彼女の姿など、これまで見たことがなかった。

「……ジュスティーナ。いったい、君はこんな所で何をしているんだ!?」
「もちろん、ダニエル様を気持ちよくして差し上げる練習ですわ。だって、今夜ここでわたくしはダニエル様と結婚式を挙げるんですもの」
「何を、言っているんだ、君は?」
「何をって、そのままですわ。今夜わたくしとダニエル様は結ばれるのです。シトリー様の立ち会いのもとで」
「シトリー様?誰だ、そいつは?」
「ああ。ダニエル様はわからないのでしたね。あちらにおられる方こそシトリー様。わたくしたちがお仕えするべきご主人様ですの」

 そう言って、ジュスティーナはさっきまで、自分が縋り付いて淫らな行為をしていた男の方を見る。
 その視線の先で、男は不敵な笑みを浮かべて立っていた。

「くっ!貴様!ジュスティーナにいったい何をっ……」

 うっとりした表情で男の方を見つめているジュスティーナ。
 そんな許婚の姿を見ていたダニエルの中にふつふつと怒りが滾ってくる。

 今さっき、彼女がその男にしていたことが目蓋の裏に焼きついている。彼女は決して、そのようなことをする女ではない。きっとこの男が彼女に何かしたに決まっていた。
 怒りに駆られ、男を睨み付けて怒鳴るダニエル。
 だが、不意にその言葉が途中で途切れる。
 男は、得体の知れない不気味な笑みを浮かべていた。
 薄暗い中でその瞳が金色に輝いたような気がしたかと思うと、それ以上怒鳴ることができなくなったのだ。

「本当にお忘れになってしまったのですね、ダニエル様。でも、安心して下さい。わたくしがきっと思い出させて差し上げます」

 ダニエルの足下まで来たジュスティーナが、そのズボンの紐を解き始める。

「やめるんだ、ジュスティーナ!……なっ!?」

 自分に縋り付いてきたその体を払いのけようとして、ダニエルは自分の体が動かないことに気づく。
 体が痺れたとか、固まってしまったとかいうのではない。声は出すことはできるのに、体を動かそうとすると、まるで体と心が切り離されたかのように、自分の意志に対して体が全く反応しないのだ。
 己の身に何が起きているのかわからずにダニエルは狼狽えることしかできない。
 だが、ジュスティーナは、動けないでいるダニエルのズボンに手をかけ、易々と下に降ろすとその股間のものを引っぱり出した。

「では、これからダニエル様を気持ちよくして差し上げますね。ん、ぺろ、えろ、んふ」

 ジュスティーナは一度こちらを見上げて、にこりと笑みを浮かべるとそれに舌を伸ばしてきた。

「んっ、くあああっ!」

 自分のものに温かくて滑ったものがまとわりつく感触に、思わずダニエルは呻く。

「んふ、あふ、ぺろ。ほら、もうこんなに大きくなってきましたよ、ダニエル様。うれしい、気持ちよろしいのですね。んむ、えろ、ちゅぱ、んむむ」

 いったん舌を離して次第に膨れ上がってきたそれを嬉しそうに眺めると、今度は大胆に口に含む。

「や、やめるんだ!ジュスティーナ!」
「あふ、むふう。ん、ダニエル様の、おいひいれすよ。あむ、えろ、ちゅる、んふ、んっ、んむっ」

 ダニエルが止めるのも聞かず、ジュスティーナは、すっかり大きくなった肉棒を舐め回している。

 目が慣れてきたのか、ダニエルは、ジュスティーナが着ているドレスが、今日、騎士団に来たときに着ていたものとは違うことに気が付いた。
 隊舎を訪ねて来たときは、確か華やかなピンクのドレスだった。
 それが、今は、明らかに屋内用とわかるベージュのドレス。しかも、そのあちこちにいくつも染みが付いている。

 ドレスを着替えているということは、ジュスティーナは一度自分の屋敷に戻ったのか?
 すると、魔導院の前で倒れたという話は……。

「くううっ、うああ、ジュッ、ジュスティーナ!」
「んふ、ちゅぼっ、じゅぼっ、じゅばっ、ちゅぱっ!」

 いきなり、ジュスティーナが頭を振って肉棒を激しく刺激してきたので、ダニエルは思考を中断させられる。



「おう、羨ましいじゃないか、ダニエル」

 その時、聞き慣れた声が飛び込んできた。

 気がつけば、薄暗かった部屋の中が、いつの間にかすっかり明るくなっていた。
 そして、目に飛び込んできたのは、思い思いの格好で女を抱いているフィロン、ブルーノ、ガイゼリックの3人の姿。

「まったく、そんなに可愛い許婚にそんなことをしてもらうなんて本当に羨ましいね」

 赤毛のポニーテールの女と体を絡ませながらフィロンが茶化すような口調で言う。

「くそっ、今だから言うが癪に障るやつだぜ。ま、こっちはこっちでよろしくやってるがな」

 そう言いながら、巨乳の女の胸に自分の肉棒を挟ませて扱かせているガイゼリック。

「うむ、それが貴族の特権というものなのかな」

 黒髪の少女のももに舌を這わせながら、ブルーノが素っ気なく言う。



「せ、先輩方、どうして?」

 なぜ、彼らがここにいるのか、そして、彼らがいることにどうして今まで気がつかなかったのか、全くわからない。
 ただわかったのは、この部屋に漂っている異様な臭気は、男の精液と女の愛液の臭いの入り交じった強烈な淫臭だということだ。

「んふ、しゅぽっ、じゅぽっ、じゅるるっ、ん、ちゅぱっ、あふ」
「くうううっ!ジュスティーナ!」

 肉棒をしゃぶるジュスティーナの動きが、ダニエルに考える余裕を与えない。
 体中の血が股間に集まっているように熱く脈打ち、頭がズキズキしてくる。

「しゅぽっ、ちゅぱっ、ちゅるっ、じゅるるっ、じゅぽっ、んむっ」
「うあああああああっ!だ、だめだっ!」
「んくく!ぐむっ、ぐむむむむむむ!」

 頭の中が真っ白になり、肉棒が弾けるような感覚。
 その先から迸ったものを、ジュスティーナは口一杯に頬張って受けとめる。

「んっく、こく。……はあぁ。ああ、ダニエル様の、美味しくて、思わずお口で最後までしてしまいましたわ」

 そう言って見上げてくるジュスティーナの唇から、涎と、ダニエルの精液が垂れて、ドレスに新たな染みをつくっていく。



「ジュスティーナ……」

 そのまま絶句してしまったダニエルの肉棒を手で掴み、ジュスティーナは微笑みを浮かべる。

「でも、わたくしたち、若いんですから、まだまだ大丈夫ですわね。ほら、ダニエル様のここ。まだこんなに堅くて大きいんですもの」

 そして、ゆっくりと立ち上がった。

「だって、今日はわたくしたちの結婚式なんですもの。ん、む、んん」

 囁くようにそう言うと、ダニエルの唇に口づけして、舌を入れてきた。

「ん、んふ、ふう、んむ」
「むむっ!んっ、んんっ!」

 ダニエルは目を白黒させてその口づけを受け入れる。

「んふ、ぷふぁあ。ねえ、ダニエル様。わたくし、お口とお尻の処女はなくしてしまいましたけど、あそこの処女はちゃんと取ってあるんです。シトリー様がダニエル様のために取っておけとおっしゃって」

 再び、ジュスティーナが耳元で囁く。
 その肩越しに、金色の瞳の男がにやついているのが見える。

「シトリー様は、そういう優しい方なんですよ」

 そう言って、目も眩むばかりの笑みを浮かべるとジュスティーナはドレスの裾をまくった。

「ほら、わたくしのここ。ダニエル様に処女を奪われたくて、さっきからずっとひくひくしてるんです」

 恥ずかしげもなく陰部をさらけ出し、妖しく微笑む。
 ジュスティーナのそこからは、とろとろと蜜が滴り、赤く爛れたような襞がピクッと震えるのがわかる。

「う、ううっ……」

 ダニエルは、何も言えず、露わになったジュスティーナの陰部をただ見つめることしかできない。

「ほらほら、男ならさっさとやっちまえよ」
「そうだぜぇ。エルフリーデのときみたいなのは無しにしろよ」

 フィロンとガイゼリックが囃し立てるように声をかけてくる。
 ブルーノは薄笑いを浮かべてこちらを眺めているだけだ。

 たちこめる淫臭がダニエルの思考力を徐々に奪っていく。
 こめかみの辺りがドクンドクンと脈打って、考えることが億劫になってくる。
 ダニエルはただ、はぁはぁと荒く息をしながらジュスティーナを見つめていた。



「お願いします、ダニエル様」

 そうねだってきたときに浮かべた、今までダニエルが見たことがないような妖しく、そして美しい笑み。
 それが、彼の理性を完全に吹き飛ばした。

「うおおおおおっ!ジュスティーナ!」

 そう叫んで押し倒すと、突き立った肉棒をジュスティーナの秘裂に宛う。

「行くよっ、ジュスティーナ!」
「ええっ、きてっ、きてちょうだい!」
「くっ、うおおおっ!」
「ううっ、くはあああああっ!」

 ダニエルが一気に肉棒を突き入れると、ジュスティーナが歯を食いしばって体を弓なりに反り返らせた。

「はああっ!い、痛い……。これが、初めての痛みなのね。でも、それよりも!」

 ジュスティーナが苦しそうに小さく呻く、だが、すぐにきゅっ、と両足をダニエルの腰に巻き付ける。
 そして、自分から腰を振り始めた。

「あああっ、気持ちいいっ、気持ちいいわっ!」
「ジュスティーナ!ジュスティーナ!」
「ダニエル様!ダニエル様!」

 相手の名を呼びながらダニエルも腰を動かし始め、ふたりは互いに強く腰を打ちつけ合う。

「あっ、ああっ!なんてっ、気持ちいいの!本当に、シトリー様の言ったとおりだわ!」
「何を言うんだ!あ、あの男は!」
「いいえっ、シトリー様は優しくて、本当にいいご主人様なのよっ!わたくしの処女を奪うことなく、ダニエル様を喜ばせる方法を教えて下さったのだから!」
「しっ、しかしっ!」

 ダニエルは、腰を動かしながら男の方を窺う。
 さっきは、得体の知れない不気味な男だと思ったのに、不思議と、今、改めて男の顔を見てみると、最初に感じたその不快な感情は消えていた。

「それにっ、あちらの方たち!あの人たちはっ、ダニエル様の先輩方なんでしょう!あの方たちもっ、シトリー様にお仕えしているんですよ!」
「せっ、先輩方も!?」

 今度は、女たちと体を絡め合っているフィロンたちの方を見た。
 3人とも、にやつきながらダニエルに向かって頷く。

「シトリー様は、本当に素晴らしいお方っ!わたくしたちが仕えるべきご主人様はっ、シトリー様以外にはいないのよ!」

 なぜだかわからないが、ジュスティーナと体を重ね合っていると、すべては彼女の言うとおりだと思えてくる。

「こうやって、わたくしたちがひとつになれる幸せもっ、すべてはシトリー様のおかげなの」

 そう、自分が今ジュスティーナとこうしていられるのも、すべて目の前の男のおかげだ。
 そんな思いがダニエルの中に湧き上がってくる。

「ほら、見て、シトリー様のお顔を。あの、優しくて気品に満ちた笑顔を」
「ああ、シトリー様……」

 無意識のうちに、ダニエルは男のことをそう呼んでいた。

「嬉しいっ!あの方をシトリー様と呼んでくださるのね」
「あっ、ああ……」
「思い出してっ!ダニエル様!あなたは、本当は昔からシトリー様にお仕えしていたのよっ!それをっ、悪い人のせいで忘れていただけ!あなたはシトリー様に忠誠を誓っていたんだから!」

 その言葉でダニエルは思い出した。
 いや、それは事実ではない。実際には、彼はその男に仕えていたことは一度もないのだ。だから、思い出したというのは正確ではない。
 だが、ジュスティーナの言葉で、自分がかつてその男に仕えていたと思い込まされたのだ。
 それが、シトリーが彼女に貸し与えた力の効果。ジュスティーナの処女を奪ったダニエルには、彼女の言葉を疑うことができなくなっていた。
 そして、彼女の言葉が、作り物の過去を思い出させる。

 自分はかつてあの方、シトリー様に仕えていた。
 そして、そのことを今まで忘れてしまっていたのだ。
 だが、それを思い出した今は……。

「そうだっ!僕がお仕えするのはシトリー様ただひとり!」
「そうよっ!わたくしたちはっ、シトリー様にお仕えして、もっともっと幸せになりましょう!」
「ああっ、ジュスティーナ!」
「ダニエル様!」

 ふたりの腰の動きがどんどん激しくなっていき、幸福と快感のうねりに飲み込まれていく。
 そして、文字通りふたりが結ばれる瞬間がやってくる。
 ジュスティーナとダニエルの結婚は、教会で行われる、皆に祝福されるようなものではなかった。
 薄暗い魔導院の地下室で、悪魔の目の前で繰り広げられた、淫靡で狂気に満ちた儀式。
 それも、終幕に近づこうとしていた。

「くうううっ!もう出るよ、ジュスティーナ!」
「出してっ、ダニエル様!そしてっ、ふたり一緒に!ああっ、ああああああっ!」

 ジュスティーナが叫びながらダニエルの体を抱きしめると、腰に絡めた足をぎゅうう、と締め付けた。
 ダニエルも、体を反らせるようにして、肉棒をジュスティーナの中深くに埋める。

「ああっ、ふああああああああっ!」
「くうううううっ!」
「ああああああっ!ダニエル様の熱いので、満たされて、あ、あああ……」

 ふたりは、抱き合ったまま体の力を抜いて大きく喘いでいる。



「うん。ふたりの結婚は、僕がしかと見届けたよ」

 ゆっくりと近づいてくる足音と共に、上から声が振ってきた。
 ダニエルとジュスティーナは慌てて起きあがると、跪いて頭を下げる。

「これは、みっともないお姿をお見せして申し訳ございません。なにとぞご容赦のほどを」

 頭を垂れたまま、ダニエルは許しを乞う。

「いや、いいんだいいんだ。僕は堅苦しいのは嫌いだしね。それに、こういうのはいつ見てもいいものだよ」
「ありがたいお言葉。いたみ入ります。シトリー様」
「僕のことをシトリー様と呼んでくれるのかい?」
「私がお仕えする方は、シトリー様をおいて他にありません。何なりとご命令を」
「ありがとう、ダニエル。では、時が来たら存分に働いてもらうよ。その時のために今は腕を磨いておきたまえ」
「はっ」
「ジュスティーナ。ダニエルをしっかりと支えてあげるんだよ」
「はい。もちろんでございます」

 そう答えて笑みを見せたジュスティーナの頭を撫でるふりをして、シトリーは彼女に貸した力を取り戻す。
 若いふたりは、服のはだけた格好のまま、シトリーの前に跪いて恭しく頭を下げている。
 こうして、騎士団のメンバーがまたひとりシトリーの手先に堕ちたのだった。





* * *





 これは、また夢?

 フレデガンドは、自分の置かれた状況から、また夢を見ていると気づく。

 このところ、寝るたびにこの夢を見る。
 もう、この空間には慣れてしまった。
 だが、何度同じ夢を見ても慣れないのは目の前で繰り広げられているその光景。

 マクシミリアンとエルフリーデが熱い抱擁を交わし、濃厚な口づけをしている。

 それを、自分は動くこともできず、ただ見ているしかできない。
 それに、夢を見るたびにふたりの行為は少しずつエスカレートしているようだった。
 フレデガンドの目の前で、エルフリーデの服の紐を解き、マクシミリアンが中に手を入れてその胸を揉みしだいていた。

 やめて、そんなもの私に見せないで!

 涙をぼろぼろと流して叫んでも、ふたりにはその声は届かない。
 そして、エルフリーデがマクシミリアンに足を絡ませたかと思うと、股間を相手に擦り付けるように動かし始める。

 いやっ、それ以上はやめてっ!お願い!

 声にならない叫びが、空しく虚空に響く。






 王宮。

 やつれたわね、フレダ。

 護衛のためにやってきたフレデガンドの姿を見て、クラウディアは表情を曇らせる。
 相変わらずフレデガンドは表情が沈みがちで元気がない、それに、この3日の間に目の下には隈ができ、見た目にも少しやつれたように思える。
 沈んだ雰囲気を漂わせ、睫毛を伏せて立っている姿は傍目に見ても痛々しい。

 彼女のこんな姿はとても見ていられないわ。

「ねえ。フレダ」
「……クラウディア様?何かご用でしょうか?」
「何があったのか、私には聞かせてくれるかしら?」
「何の、ことでしょうか?」
「あなたのことが心配なの。一昨日から様子がおかしいわ。何もないと黙ったままそうやって俯いているし、こちらの話にも上の空だし」
「ご心配には及びません。何もありませんから……」
「嘘をおっしゃい!何もない風にはとても見えませんわ。それに、少しやつれたみたい。もしかしたら、寝ていないんじゃないの?」
「いえ、よく眠れております」
「しかし!目の下に隈がくっきりと!」
「そうですね。少し疲れているのかもしれません。でも、大丈夫です。本当にたいしたことはありませんから」
「フレダ……」

 そこまでだった。
 そう頑なに拒絶されてしまうと、クラウディアにはそれ以上踏み込むことができない。
 フレデガンドの様子には、思い悩んでいる気配こそあれ、脅される、もしくは何らかの他の手段で話すことができないという雰囲気は感じられない。
 彼女が話そうとしないのは、それがおそらく、人前で話すのが憚られることであるからなのだろう。
 それは、金銭や仕事上の問題ではなく、きっと、人間関係、それもフォーマルなものではなく、プライベートな。多分、家族か、もしくは、恋愛に関すること。
 クラウディアの直感が頭の中でそう告げていた。
 だが、そうだとすると余計に、安易に踏み込んでいくことが許されない気がした。

 それでも、なんとかしてあげたい。
 せめて、ゆっくりと休むなり考えるなりする時間を与えてやりたい。
 もしくは、本人にとっては辛いことになるかもしれないが、もし事がふたりの問題なら、彼とふたりで考える時間なりを。

「フレダ、今日は控えの者と交替してもう帰りなさい」
「クラウディア様?」
「今日は帰って、ゆっくり体を休めなさい」
「そんな!大丈夫です!それは少し疲れが溜まっているかもしれませんが、慣れていますから!」
「親衛隊の者が疲れを溜めていて、もしもの時に務めを全うできると思うの?」
「そ、それはっ」
「いい。これは命令よ。今日は交替してもう帰りなさい、フレダ」
「クラウディア様……」
「そして、体をゆっくり休めて、いつもの明るく元気なあなたに戻ってちょうだい」

 まだ何か言いたげに、悲しげな表情で黙りこくっていたフレデガンドが、諦めたように面を上げた。

「……かしこまりました、クラウディア様。ご心配おかけして申し訳ございません。そして、ありがとうございます」

 フレデガンドは深々と頭を下げると、詰め所に控えている親衛隊のメンバーに交替を告げて宮殿から退出する。



 だが、彼女の足取りは重たかった。
 クラウディアの心遣いは嬉しかったし、心配をかけてしまったことは心底申し訳なく思う。
 だが、こんなことを彼女に相談するわけにはいかない。
 自分の恋人と、後輩との三角関係なんて、そんなことを。
 それも、そうと決まったわけではないのだ。
 フレデガンドは、そこに踏み込んで白黒はっきりつける勇気すら持てていない。
 ただ、夢でふたりの姿を見て、そして、街でちらっとそれらしき姿を見て、言いようのない不安に襲われているだけだ。

 そう、それに、戻ってもきっと眠れない。眠ったら、また、あの夢を見てしまう……。
 どうすればいいの?どうすれば?ねぇ……マックス。

 足取りも重く、フレデガンドは歩みを進める。
 その足取りは、親衛隊の隊舎ではなく、自然と騎士団の訓練場へと向かっていた。





「おい、聞いたか?エルフリーデの話」

 騎士団の隊舎に近づいたとき、建物の陰から聞こえた声にフレデガンドの足が止まった。
 声のした方に静かに近づいて耳を側立てる。

「ああ、聞いたぜ。何でも団長補佐になるんだってな」
「やはり、一昨日の10人抜きが効いたんだろうな」

 そっと覗いてみると、彼女も騎士団時代からよく知っているフィロン、ブルーノ、ガイゼリックの3人が座り込んで話をしていた。

「でもよ。なんで副長じゃなくて団長補佐なんだ?あいつ、副長にも勝ったじゃねえか」
「バカ言え。訓練での試合で負けたからって副長を降格できるわけないだろうが」
「そのとおりだ、それに、副長は団長が動けないときに代わって指揮を執ったり、隊を分けたときに片方の隊の指揮官として行動する必要がある。ただ強いというだけで務まる役職ではない」
「そういうこった。エルフリーデに隊の指揮が執れるかっての。まあそれになんだ。副長と違って団長補佐は常に団長の側にいなきゃいけないしな。やっぱり、いい女は側に置いときたいってのが人情ってもんだ」
「でもよ、団長にはフレデガンドがいるじゃねえか?」
「ま、フレダの姉御も、親衛隊長ってのは重職で何かと忙しいしな。そっれにやっぱりあれだ。女ってのは若い方がいいもんだぜ」
「くっくっく、違えねえや」

 ……くっ!

 物陰からこっそり聞いていたフレデガンドは、唇を噛むと気づかれないようにその場を離れ、建物に入っていく。



「行ったか?」
「みたいだな」
「まあ、せいぜい悩んでくれや、姉御」

 それまで、何でもない雑談という雰囲気で話していた3人は、フレデガンドが立ち去ると、にやりと目を見合わせたのだった。






 騎士団の訓練場、控え室。

 中央に大きなテーブルの置いてある長方形の部屋の壁に、剣、槍、斧、槌など、様々な形状の武器がずらりと並んでいる。
 石造りの壁の所々に半円形に突き出た柱には、無数の傷が付いていた。

 フレデガンドは、その中のひとつにそっと触れる。
 その、柱の傷は、彼女がまだ騎士団に入隊して間もない頃に初めて任務で失敗したときに悔しさから剣を打ちつけてつけたものだ。
 あの時、柱に当たるくらいなら実力を付けて取り返せとマクシミリアンに叱られたことを思い出す。
 剣の跡がくっきりと浮かぶその線をなぞりながら、フレデガンドの表情に寂しげな笑みが浮かぶ。



「おらおら!まだ攻撃が正直すぎるぞ!もっと変化をつけろ!」
「はいっ!」

 訓練場の方から、マクシミリアンの声と、剣撃の音が聞こえてきた。
 入り口から覗くと、そこではマクシミリアンがエルフリーデと手合わせをしていた。
 その姿を見て、フレデガンドの胸がきゅっ、と痛む。
 さっき、あの3人が話していたことが頭の中をよぎっていた。



「マックス」
「おお、来てたのか」
「フレデガンド様!」

 ひと段落ついた頃合いを見計らって声をかけると、ふたりは剣を収めて彼女の方に歩み寄ってくる。

「精が出るのね」
「まあな。こいつが毎日こつこつ練習しているのを見ると、ついつい相手をしてやりたくなってな」
「そう……」

 その、何気ない言葉が思いの外深く胸に突き刺さる。
 だが、表情を曇らせて俯いたフレデガンドに思いもかけない言葉が降ってきた。

「そうだ、フレダ。今度、おまえが1日休みの日はあるか?」
「休みの日?そうね、6日後に休みが……あ、確かその前の日は夕方で交替だから丸1日半くらいはゆっくりできるけど?」
「おおっ、そりゃいい」
「なんなの、いったい?」
「ああ。ほら、この間は結局、飯を食うしかできなかったからな。あれだ、ふたりでゆっくりと過ごしたいと思ってな」

 屈託なくそう言った、マクシミリアンの口調も表情も、いつもふたりで会うときと全く変わらない。
 
「バ、バカ!人前でそんなこと!」

 顔を赤くしてマクシミリアンの肩をはたきながら、数日ぶりに心が和む気がした。
 彼の様子からは、エルフリーデと何かあったような雰囲気は全く感じられない。
 
 そうよ、ふたりの関係に何かあったのなら、彼女の前でわざわざそんなことを言うわけがないわ。
 さっきフィロンたちが言っていたのはたちの悪い噂話に決まってる。
 あいつらったら、昔からあんな下世話な話が好きだったもの。

 そう考えると、少しずつ気持ちが軽くなってくる。

「いいんですよ、フレデガンド様、団長とフレデガンド様は婚約者同士なんですし、休みの日にふたりで過ごすのくらい当たり前じゃないですか」
「もうっ、エルフリーデまで!」

 真っ赤になって照れながら、フレデガンドは安堵する。
 もし、エルフリーデが夢の中でマクシミリアンとやっているようなことを本当にしていたら、目の前でそう言われて、彼女が笑顔でいられるはずがない。
 フレデガンドは、彼女がこんな時に演技ができるほどに器用な性格ではないことはよく知っていた。

「それでは、私は邪魔なようですのでこれで失礼しますね。団長、今日はありがとうございました。」

 そう言って頭を下げるとエルフリーデ小走りで立ち去っていく。

「まったく、妙な気を使いやがって」

 苦笑いを浮かべてマクシミリアンがエルフリーデの後ろ姿を見送る。

「で、どうなんだ、フレダ?」
「え?」
「おまえ、俺の話を聞いていたのか?だから、5日後だろ。おまえが夕方まで仕事で次の日休みなら、その日に晩飯でも食って、そのままゆっくりしようって言ってるだろうが」
「あ、ああ。私はもちろん大丈夫よ。でも、騎士団の方はいいの?」
「まあな。邪教討伐から戻ったばっかりだし、今なら思い通りに休めるってな」
「またそんないい加減なこと言って」
「それに、ユリウスに任せた方が隊務がしっかりはかどるってもんだ。ま、小うるさいユリウスに仕切られたら他のやつらは迷惑だろうがな」
「まあっ!ユリウスが聞いたら怒るわよ」

 口に手を当てて、声をあげて笑うフレデガンド。
 本当に、腹の底から笑えるのは随分と久しぶりのような気がする。

「ところでフレダ、今日は仕事は休みなのか?」
「え?うん、ちょっとね」
「それにおまえ、なんかやつれてるみたいだし」
「そ、そう?」
「そんなに親衛隊長ってのは大変なのか?」
「いやっ、そんなことないわよ。光の加減じゃない」
「そうか?」
「そうよ。全然元気。本当にいい気分なんだから」

 それは、彼女の素直な気持ちだった。
 この3日間、彼女の心に影を落としていたものがすっかり晴れて、本当に清々しい。

 今までのことは、全て思い過ごし。
 夢のことも、彼が邪教討伐に行っている間、ずっと会えなかったからちょっとナイーブになっていただけ。

 目の前の恋人の笑顔を見ていると、今まで思い悩んでいた自分がばかばかしく思えてくる。

「で、今日はこれから何もないんだな?」
「ええ」
「じゃあ、一緒に飯でも食うか」
「うん」

 フレデガンドはマクシミリアンに体を寄せて頷く。
 その肩にマクシミリアンがふわりと腕をかけた。
 そして、ふたり並んで訓練場から出ていく。







 その日の夜。

 教会、アンナの部屋。

「なるほど、5日後ね」
「はい。その日の夕方までクラウディア様の警護を務めて、その後からとのことです」

 エルフリーデの報告を受けて、シトリーはしばしの間考え込む。

「ニーナ、おまえに任せた仕事の方はどうだ?」
「はい〜、ばっちりですよ〜。あのお姉さん、毎日夢の中でぼろぼろ泣いちゃって〜」
「そうか。じゃあ、今日のことでそいつはさぞ安心してるだろうな」
「ええ〜。そこで気持ちが緩んだところで、また夢の中でガツンですよ〜。きっと精神的にこたえるでしょうね〜。まあ、どのみち夢の中じゃあのお姉さんの感情はわたしの思うままですから〜」

 ニーナが、非情な内容をのほほんとした口調で告げる。
 今のやり取りでシトリーの腹が決まった。

「よし、決めた。その日に決行するぞ」
「いよいよですか」
「ああ。ターゲットは騎士団長マクシミリアンと親衛隊長のフレデガンド。実行するのは僕と、ニーナ、メリッサと、そうだなエミリアも必要だな」
「はい〜」
「かしこまりました」
「今回はあたちたち悪魔の出番ね」

 その場にいた、悪魔組の面々がそれぞれに返事をする。
 その中で、少し不満そうな顔のエルフリーデ。

「あの、私は何をすれば?」
「ああ。おまえはどちらかというと後始末の方で必要だな」
「……そうですか」
「ああもう、仕事がないからっていちいち萎れるな。それよりもだ、それまでにこいつだけは抑えとかなくてはいけないという奴は他にいるか?」
「それはやはり副長のユリウス様かと」
「なるほど、ナンバー2ね。で、そいつは独身か?」
「いえ。結婚しています。ただ、まだ子供はいないようですが」
「ふんふん。で、そいつの家はわかるか?」
「はい。貴族や騎士の屋敷のある一角です。もっとも、あの方は質素を旨としておられますから、そう大きな屋敷ではありませんし、家人も少ないと聞きます」
「よし。じゃあ、明日はそいつを狙おう。いよいよ大詰めだからな、気を抜くなよ」

 シトリーの言葉に、その場にいた全員が大きく頷く。

「ニーナは当日まで、親衛隊長の女にじっくりと夢を見させてやれ」
「はい〜、かしこまりました〜」

 ニーナが、軽く頭を下げると舌なめずりをする。
 その、細く赤い舌が、ちろと妖しく蠢いていた。

 
 


 

 

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