黄金の日々


 

 

第1部 第8話 1


 2週間後。

 シトリーが予想していたのより数日遅れて、騎士団がようやく邪教討伐から王都に戻ってきた。
 討伐に成功した旨は、一足早く早馬で知らされていたため、凱旋ムードの中、騎士団は都に迎え入れられた。
 もちろん、村ひとつを占拠していたとはいえ、その程度の相手に騎士団が遅れをとるとは誰も思ってはいなかったが、やはり勝利は勝利である。
 街角には出店が並び、都はちょっとしたお祭り気分に包まれていた。
 なにより、これで怪しげな邪教の不安は拭い去られ、王国に平穏が訪れる。都の誰もが皆、そう思っていた。ちょうど春めいてきた時期でもあったことから、安堵と喜びが街の中に漂っていた。





 フローレンスの街、王宮。

 そして、ここにも騎士団の帰還を心待ちにしている人物がいた。
 そこは、都の中心部にある王宮の中。

「うれしそうね、フレダ」

 クラウディアが親衛隊長であるフレデガンドに声をかけたのは、午後、騎士団長による復命と任務完了の報告を受けるため、謁見の広間へと向かう長い廊下の途中でのことだった。

「え……。あ、クラウディア様……」

 フレデガンドは、濃い茶色の瞳を伏せ、少し恥ずかしそうにただ頭を下げるだけだ。
 印象的な、深いワインレッドの色の髪が震えるように微かに揺れている。

 かつて、騎士団の副長であった彼女が、これから帰還の報告を行う騎士団長のマクシミリアンのフィアンセであることは周知のことだった。もちろん、それはクラウディアも知っている。
 騎士団が邪教討伐に行っている間、彼女は恋人に会うことができなかった。騎士団の副長であった頃は常にその傍らにいることができたというのに。
 だから、フレデガンドにとって騎士団の帰還が嬉しくなかろうはずがない。

 だが、クラウディアはあからさまにそれを口にするほど無粋でもなかった。
 恥ずかしそうに頬を染め、それでもやはり嬉しさを隠しきれないフレデガンドの姿に、自分も嬉しそうに目を細めて暖かい笑みを注いでいる。
 クラウディアも、彼女のそんな性格を好ましく思っていた。彼女の演武や試合を、クラウディアも何度か見たことがある。戦闘の時のフレデガンドは、険しい表情で、烈火の如く激しい攻撃を浴びせるタイプの戦士だった。彼女の、赤をさらに深くしたような濃いワインレッドの色の髪と、切れ長の目も、一見すると情熱的で激しい性格であるかのような印象を与えている。
 だが、平素は明るく優しい性格で、とてもそのような激しい戦い方をするようには見えない。それどころか、時に、少女のような表情を見せることすらあった。
 そんなフレデガンドを優しく見つめるクラウディアの笑顔は慈愛に満ち、母親のそれを思わせるようであった。
 今年で27歳になるフレデガンドの方がクラウディアよりもずっと年上だというのに、こういう時はクラウディアの方が大人びているようにすら見える。
 それは無論、若年ながら優れた魔導師として夙に知られ、女王として日々の務めを果たしていることから備わった威厳のためでもあろう。

 フレデガンドには、クラウディアのその心遣いが嬉しかった。

 彼女たち親衛隊の、クラウディアへの忠誠心はいたって高かった。クラウディアのことを敬愛し、身を挺してでも守ろうという意識も強い。
 かつて、クラウディアが女王として即位した時に、親衛隊も女性中心に再編成されることとなり、騎士団の副長をしていたフレデガンドが親衛隊長に抜擢された。
 彼女たち親衛隊の任務は、王宮の警護とクラウディアの護衛。1日に数回交替しながら、昼夜を問わず女王の身辺を守り続けている。もちろん、日々の鍛錬も怠らない。
 そんな、身体的にも精神的にも負担の大きな任務に就いている彼女たちに対して、クラウディアは優しくいたわり、労いの言葉を掛け、気さくに話しかけてくれた。
 フレデガンドのことも、フレダ、と愛称で呼び、彼女にとっては畏れ多いことだが、まるで友人のように接してくれていた。

 フレデガンドをはじめとする親衛隊の、クラウディアへの忠誠心の高いゆえんである。



「さあ、行きましょうか」
「はい、クラウディア様」

 クラウディアに促されて、フレデガンドは、緋の敷物を敷いた王宮の廊下を歩きはじめる。





 謁見の間。

「……邪教徒は、自ら教会に火を放ち、最後のひとりにいたるまで玉砕いたしました。教会の焼け跡から、指導者と思われる女の遺体を回収しております。また、数日現地に止まり、周囲の山狩りをして捜索を行いましたが、逃亡した者のいる気配はございませんでした」

 魔導長のピュラや大主教代理のシンシアをはじめ、大臣や高官といった廷臣たちが居並ぶ中、玉座に座るクラウディアに向かって片膝をついた姿勢で報告を続ける、騎士団長のマクシミリアン。
 フレデガンドは、玉座の斜め後ろで直立し、真っ直ぐにマクシミリアンを見下ろしている。
 互いに、胸の内にはこみあげてくる思いもあるであろうが、ふたりともこのような場で私情を露わにするような人間ではない。

「その間、近隣の村にも調査隊を派遣しましたが、邪教が周囲に広まっているということはない様子です。結局、その邪教が指導者の女の興したものなのか、それともどこからか入ってきたものかは確認できませんでしたが、結果として、今回の討伐で邪教徒は全滅したと判断してよいかと思われます」

 と、マクシミリアンは、そう言葉を結ぶ。

「わかりました。苦労をかけましたね、マクシミリアン。冬場の行軍で、あなたもさぞ疲れていることでしょう」
「滅相もございません」

 クラウディアに労いの言葉をかけられ、マクシミリアンは恐縮して頭を垂れる。



 マクシミリアンの人となりは、騎士にしては珍しい磊落な豪傑タイプであった。頬から顎を覆う縮れた髭面であることもそのような印象を強くさせる。
 だが、彼はヘルウェティアでも由緒のある貴族の家門の出身であった。
 それでいながら、若い頃は各国を放浪して回っていたという経歴を持っていた。
 用心棒や、冒険者のようなことをしていたこともあるという、この、武よりも文を尊ぶヘルウェティアの貴族の中では一風変わった人物であった。
 だが、その人柄は決して粗野ではなく、むしろ、庶民たちの生活事情や人情に通じ、気さくに平民と交わるなど、民からの人気はあった。
 長く各地を渡り歩いた後ヘルウェティアに戻り、騎士団に入隊したのであるが、そこからの昇進は早かった。なにより、放浪生活の間に身につけた彼の剣技は図抜けていた。常に実戦を想定した臨機応変な戦い方にかなう者は騎士団の中にはいなかったのだ。
 もとより、名門貴族の出であったこともあり、彼が騎士団長になるまでにそれ程の時間はかからなかった。
 騎士団長になってからも、マクシミリアンは着実に実績を残していた。
 各国を放浪していた頃は少人数で行動することが多く、一軍を率いた経験が不足していたが、そこは放浪時代に培った判断力の早さと持ち前の戦略眼で補っていた。
 それに、小国ながら魔法王国として他国から一目置かれているヘルウェティアでは、大軍を要する軍事行動を起こすことは稀であったし、有事の際には優れた魔導師部隊もいることもあって、戦士としては優れているが将軍タイプではないマクシミリアンでも騎士団長の任務を果たすのには充分であった。

 とはいえ、それはこの国において騎士団が軽視されていたということではない。
 他の大国と比べて規模は小さいものの、ヘルウェティアの騎士団は精強で士気も高かった。
 それも全ては、マクシミリアンが貴族や騎士の家系に限らず広く平民からも人材を募っていたからだ。
 彼は、相手の出自にこだわらず、実力のある者、素質の優れた者、国を守る志の高い者を受け入れてきた。他ならぬフレデガンドやエルフリーデもそうした平民の出身であった。
 もちろん、騎士団の品位を損なわぬよう、採用される人間の人格もある程度は考慮されていたが、個人のプライベートにまでは干渉されることはなかった。なにより、卑怯者や民に狼藉を行う者を蔑む気質が騎士団には根付いていた。
 貴族から平民まで、幅広い身分から人材を集めているにもかかわらず、騎士団の中で派閥を作ることなく、規律のとれた集団としてまとまっているのも、それを束ねるマクシミリアンが貴族の出身でありながら平民の心情にも通じているからであった。



「近日中に、今回の遠征で功のあった者への論功行賞を兼ねて戦勝会を開くことにしましょう。今日のところは皆疲れているでしょうから、ゆっくりと休んで疲れを癒すように」
「はっ」

 クラウディアの言葉に、片膝をつき、身じろぎもせずに頭を垂れて応えるマクシミリアン。
 豪放な性格で知られる彼も、名門貴族の出身とあって、宮廷内の礼儀作法はわきまえている。

「遠征に参加した者たちにも、ご苦労でしたと伝えておいて下さい」
「これはもったいないお言葉。それでは、しかと伝えておきます」

 マクシミリアンもう一度深々と頭を下げると、立ち上がってクラウディアの御前を辞す。

「では、これからは政(まつりごと)の問題です。村を再建させ、周辺の村々の民心を落ち着かせる必要があります。大臣、早急に方針を考えておくように」

 クラウディアの指示に、大臣が頭を下げて応える。

「それと、キエーザの邪教徒は全滅したとはいえ、この邪教がどういったもので、どこから入ってきたものなのか調べる必要があるでしょう。そのために、キエーザのある山岳部に調査官を派遣することにしましょう。行政官に、それと、教会からも人員を、念のために魔導師も同行することにした方がいいでしょうね」

 その指示に、今度はピュラとシンシアが黙って頭を下げる。
 ふたりとも、すでにキエーザの邪教がシトリーの生み出したもので、村人が全滅した今となっては調査しても邪教について知ることができないことはわかっている。だが、そんなことは素振りにも出さず、クラウディアに忠実な魔導長と、大主教代理を装っていた。

「教会と魔導院からの人選は大主教代理と魔導長に一任します。2、3日の内に決めておいて下さい」

 クラウディアは、次々と迅速に指示を出していく。
 その度に、担当の者が頭を下げて了解の意を示す。

「とりあえず、今の段階で私たちにできることはそのくらいね。では、今日の朝議はこれまでといたしましょう」

 その言葉を合図に、全員がクラウディアに深々と頭を下げ、クラウディアが玉座から立ち上がって謁見の間から出ていくのを見送る。
 護衛のフレデガンドも、クラウディアにつき従って広間を出ていく。

 クラウディアを見送ると、廷臣たちも整然と広間から退出を始めた。
 ピュラとシンシアが、他の廷臣に見られないように、密かに笑みを交わす。
 それは自分たちのこと、そして彼女たちの主のことをクラウディアに気付かれていないことを確信している笑みであった。





「フレダ、今日この後のあなたの予定はどうなっているの?」

 国王の執務室への廊下を歩きながら、クラウディアがフレデガンドに訊ねる。

「今日は深夜の交替の時間までクラウディア様の護衛を務めることになっておりますが」
「親衛隊の誰かと代わることはできないのですか?」
「どういうことでしょうか、クラウディア様?」
「いえ、せっかく騎士団が帰ってきたのですから、今日はゆっくりしたらいいのにと思って」

 その言葉に、フレデガンドはまた頬を少し赤らめる。

「それは。お心遣いは感謝いたします。しかし、親衛隊長として、そのような公私混同をするするわけには参りません。自分の任務はきちんと果たさないと部下への示しがつきませんので」

 そう言うと、フレデガンドは謝意を示すように深く頭を下げる。

「……そうですか」
「それに、もう騎士団は都に帰ってきているのですから、彼には……い、いつでも会うことができます。そう、あ、明日にでも」
「それもそうですわね」

 照れたように、言葉に詰まりながらそう言ったフレデガンドの様子に、クラウディアは嬉しそうに目を細める。
 彼女の騎士らしいまっすぐな生真面目さも、乙女のように恥じらいながら、それでも嬉しさを隠せない純真さも、全てがクラウディアには微笑ましく、好感の持てるものであった。

「それでは、しっかり護衛を頼みますよ、フレダ」
「はっ!」

 改めてクラウディアが微笑みかけると、フレデガンドは直立して敬礼する。
 そのまま、クラウディアが執務室に入ると、通常の任務通り部屋の前に立つ。





「ふう、これで邪教騒ぎはとりあえず解決と思っていいのかしら?」

 執務室の中、国王用の、豪華な装飾の付いた椅子の柔らかなクッションに体を沈めて一息つくクラウディア。

 教会の不祥事に謎の魔力反応と、このところ、都では立て続けに問題が発生している。
 思えば、それらの問題の最初は、この邪教騒動だった。
 それ以前は、平穏な日々が続いていたというのに。

 まさか、全ては邪教徒のせい?

 クラウディアの脳裡を、そんな不安がよぎる。
 だが、邪教が占拠したのは都から遠く離れた山岳地帯の一農村だ。
 それが、都で起きた事件と何らかの関係があるという証拠はない。
 教会の不祥事にしても、邪教徒が公に認められた教会の権威を貶め、その影響力を低下させようとするのは、一見理に適っているように見える。
 だが、実際には教会の力を弱めたからといって、必ずしもその邪教が勢力を強めるとは限らない。ましてや、すでに討伐隊が派遣されている状況下でだ。
 それよりも、彼ら邪教徒にとって必要なことは密かに信徒を増やし、勢力を拡大していくことのはずであった。
 もちろん、水面下で布教活動を行っている可能性はある。

 いや、実際に密かに何者かが都で活動しているのは確かだ。

 それは、このところ都の中で感知されている不審な魔力。
 何者かが良からぬ目的で行動していることは、その魔力の属性も発生源も隠していることからも明らかだった。
 だが、魔力を感知させておきながら、そして、もう、最初に感知されてから2ヶ月以上経つというのに、都は表向き平穏なままで、その結果として何が起きているのか、それすらもわからない。
 調査を続けると言っていたピュラからも、芳しい報告はいまだなされていない。

 先生ですらも突き止めることができないなんて、そんなこと、ただの邪教徒にできるわけはないわ。

 自分の師であるピュラの実力は、弟子である自分が一番よくわかっている。そのピュラをすら欺くほどの敵がただ者ではないことはクラウディアにも容易に想像できた。
 その、ピュラ自身が、もう以前の彼女ではなく、悪魔の手先と堕していることにまではさすがに想像が及ばなかった。

「やはり、まだまだ警戒が必要ね」

 濃紺の瞳を曇らせて、クラウディアは物憂げにため息を吐く。
 はたして、これらの事件それぞれが、ひとつの糸で繋がっているのかどうかはわからない。
 だが、目的はわからないが、何者かが、それも、かなりの力を持った者が都に潜んで蠢いているのは確かに感じられる。
 クラウディアは、警戒を怠るなと告げたピュラの言葉を胸の中でかみしめる。

 窓の外はよく晴れ、もう、春の穏やかな日射しが射し込んでいるというのに、クラウディアの心はもやもやとしてなかなか晴れることはなかった。





* * *






 そして、その日の夕刻にエルフリーデが教会を訪ねてきた。

 名目上は、幼なじみであり、今回の邪教騒動の被害者であるアンナを見舞うため。
 だが、実際には、キエーザから救出され、保護されている村の子供として教会に潜んでいる少女に討伐の報告をするため。

 アンナの部屋に入ってきたエルフリーデを見て、シトリーは思わず笑みを浮かべる。
 任務ではなく、プライベートで来ているので、甲冑は身につけていない。腰に剣こそ提げているが、その服装は、トネリコの枝と龍をあしらった騎士団の紋章の刺繍された青色のチュニックに鞣した皮のズボン、それに黒革のブーツという、騎士団の平服のいでたちだ。
 だが、シトリーがにやついた理由はそこではない。
 エルフリーデの瞳に、悪魔のように冷ややかな光が宿っているのを認めたからだ。
 それは、シトリーのそれと同じ、そして時おりアンナやリディアが見せるのと同じ、人を陥れ、悪魔の手先へと堕とし、時には、相手を壊すことも厭わない、そして、主の意に従わない者は、たとえ無抵抗の者でも容赦なく斬り捨てることのできる者の持つ冷酷な視線。
 その瞳を見れば、報告を聞かずともエルフリーデがシトリーの命じたとおりに行動し、真に悪魔の手先となったことはすぐにわかる。

 それに、討伐隊が邪教徒を全滅させ、生存者はいないという報告は、その日の昼過ぎに王宮でマクシミリアンによってなされている。
 そしてその情報は、やはり王宮でその報告を聞いていたシンシアによってすでにシトリーのもとに届けられていた。

「邪教徒どもは全滅して生き残りはいないそうだな」
「はい」
「で、何人斬った?」
「8人です」

 シトリーの問いに、エルフリーデは口の端にうっすらと笑みを浮かべ、こともなげにそう答える。
 それは、普通の人間が見たら、思わずぞっとするほどに冷ややかな笑み。端正な顔の口許を妖しく歪め、それでいて実に楽しげな表情をしている。

「ふっ、上出来だ」

 シトリーも口許を歪めてにやつく。

 斬った人数の多寡は問題ではない。
 人を斬ったことを、笑みすら浮かべて告げているその事実が重要だった。
 それも、斬った相手は戦士でもなんでもないただの村人。しかも、シトリーの命令したとおりだとしたら、おそらく逃げている相手をだ。
 そんなことは、以前の彼女なら絶対にできなかったであろう。そう、騎士としての矜持にかけても。
 しかし、今、エルフリーデの瞳には、かつて、アンナを助けるためにキエーザの教会に突入したときのような、正義に燃える真っ直ぐな光も、シトリーたちに陵辱され、快楽の刻印を体に刻みつけられて心をほとんど折られながらも、子供じみた意地と面子だけで抵抗する素振りを見せていた時の屈折した感情も見られない。
 シトリーはそこに、悪魔の僕としての冷酷さと、自分への服従心を読みとっていた。

「これでおまえも晴れて僕の下僕になったわけだ」
「はい」

 以前の彼女なら、あからさまにそう言われるとムキになって否定していただろう。
 だが、今は違う。むしろ、誇らしげに胸を張り、嬉しげに頬を上気させて大きく首を縦に振った。

「おめでとう、エル」
「ありがとう、アンナ」

 背後から掛けられた祝福に、顔を赤らめ、少しはにかみながら応えるエルフリーデ。
 自分の肩に掛かったアンナの手に自分の手を重ね、恥ずかしそうな仕草で上目遣いに親友の顔を見つめている。

「ああ、そう言えばエルフリーデ」
「はい、何でしょうか?」
「おまえは洞窟の中でアンナに誓約を立てたそうだな、アンナのことを守ると」
「は、はい……」

 それは、かつて、エルフリーデがアンナを連れてキエーザの教会から逃げたとき、森の中の洞窟でアンナに立てた誓約のこと。
 彼女にとって、その誓約はごく自然に出たものだった。幼なじみのアンナを守ることは、自分にとって当然の行為であったからだ。

「その誓約を僕にもやってみせるんだ。僕への服従の誓約を」

 ベッドに腰掛けて腕を組んだ少女が、にやつきながらエルフリーデの顔を見上げている。

「はい、かしこまりました」

 素直にそう答えて立ち上がると、エルフリーデは剣を鞘から抜き放つ。
 そして、少女の前に跪くと、剣の柄を相手に、そして、切っ先を自分の喉に向けた。

「私、エルフリーデ・ノルトハウゼンは、シトレア様の下僕として絶対の忠誠を誓い、その命に従うことを誓います」

 何の躊躇いもなく、悪魔への服従の誓約を立てるエルフリーデ。
 いでたちも凛々しい女騎士が、少女の前で膝をついて忠誠を誓う姿は、まるで物語の中から切り取った一枚の絵のような光景であった。
 もっとも、その少女が悪魔であるということを除けば、の話であるが。
 そして、彼女が忠誠を誓った相手は、素直にその誓約を受け入れてはくれなかった。

「なるほど、おまえが忠誠を誓うのはシトレアだけなんだな」
「は、はい?」

 主の言うことの意味がわからず、エルフリーデは怪訝そうな表情を浮かべる。

「おまえは、僕の本来の姿、シトリーには従わないということか」

 意地の悪い笑みを浮かべて、少女は試すような視線を投げかけている。

「あっ、いいえ!シトリー様にも絶対の忠誠を誓います!私はシトリー様の下僕としてその命に従います!」

 慌てて誓約の言葉を言い直すと、エルフリーデは剣を捧げ持ったまま頭を下げる。

「もし、この誓約を受け入れていただけないのでしたら、どうぞ、この剣で私の喉を突いて下さい」

 そう言って、エルフリーデは喉元に剣の切っ先を当てた。
 思い詰めた表情でシトリーを見上げるその額を、汗が一筋流れ落ちる。

「なるほど、誓約する相手に己の生殺与奪を委ねるということか」

 その言葉に、剣を喉元に当てたまま、小さく頷くエルフリーデ。
 シトリーは、その姿をしばらくじっと見ていたが、やがて、ふっ、と口許を綻ばせる。

「いいだろう。確か、誓約を受け入れるときはこうするんだったな」

 エルフリーデが捧げ持っていた剣の柄を握ると、シトリーは刃を寝かせてエルフリーデの肩をポンポンと軽く叩いた。

「ありがとうございます」

 ようやく安堵の表情を浮かべると、エルフリーデは立ち上がって返された剣を鞘に収める。

「そういえば、おまえとは約束があったな」
「約束、ですか?」
「僕の言った任務を果たし、晴れて僕の下僕になったら、この姿でおまえの相手をしてやるって」
「あっ、それは!私、下僕の身でなんて大それた事を!あの時の私はきっとどうかしていたんです。……申し訳ございません」

 顔を真っ赤にして何度も頭を下げるエルフリーデ。
 しかし、潤んだ視線をちらちらとシトリーに向け、体をもじもじとさせている様子は、あの時シトリーに求めた褒美が、今でも彼女の本心であると告げている。

「ふ、殊勝なことだな。だが、約束は約束だ」
「よ、よろしいのですか?」
「ああ。今日は僕のことをおまえの好きにしていいぞ」

 少女は、挑発的な笑みを浮かべて肩をすくめる。
 シトリーにとって、この程度のことは別に何ともない。
 むしろ、下僕が淫らになっていくのは歓迎すべき事だ。

「本当ですか!?」
「ああ」

 喜色を満面に浮かべるエルフリーデ。
 だが、すぐに妖しく挑みかかるような表情で剣を置くと、シトリーの方に歩み寄ってくる。

「それでは、失礼します。シトレア様」
「ああ、いつでもいいぞ」

 エルフリーデの手が、少女の体へと伸びる。
 そして、服の上から、そのささやかな胸のふくらみの頂に触れたとき。

「いいいっ!?」

 全身が痺れるような快感に、少女の体がビクンと跳ねる。

「うれしい、感じて下さっているのですね」
「あ、いやっ!それはっ!あうっ!?」

 少女の全身を包み込むように抱きつくと、エルフリーデは舌をその首筋に這わせてきた。
 すると、またぞくりと快感が走り、シトリーは思わず甘ったるい声をあげる。

 なんだこれは……?そうかっ、あいつだな!

 一瞬戸惑ったが、シトリーには思い当たるものがあった。

(へへへっ、感度良好でしょ!あたしの仕事は完璧なんだから!)

 シトリーの脳裡に、そう言って舌を出すエミリアの顔が浮かぶ。

 エミリアのやつ……。僕があいつの感度を操作したからって、今さらその仕返しかよ!

 エミリアが、シトリーを少女の姿にするときに、ついでに体を感じやすくしたのだということはすぐにわかった。
 それにすぐに気付かなかったのは不覚ではあるが、考えてみれば、教会の女どもを相手にしているときは、股間のものを女たちにしゃぶらせ、それで犯すだけで、自分の体を愛撫させてはいない。

「ああ、本当に可愛らしいです、シトレア様」
「ちょ、ちょっと待て!」

 その声が聞こえているのかいないのか、エルフリーデはうっとりとした表情で少女の服を脱がせていく。

「素晴らしいです、シトレア様。こんなに可愛らしい体に、こんなに逞しいものが付いているなんて」

 着ている物を全て脱がされた少女の股間のものは、今さっきの愛撫で、すでにだいぶ大きくなっていた。

「ああ、シトレア様……」

 エルフリーデが、潤んだ瞳で肉棒を眺めながら、ゆっくりと手を伸ばしていく。

 まあいい、そこならいつも教会の女どもに触らせているから問題はない。

 シトリーが、そう安堵したのも束の間のことであった。
 エルフリーデが手を伸ばした先にあったのは、案に相違して、肉棒ではなくてその下だった。

「あっ!?いああああっ!」

 エルフリーデの指が自分の中に入ってくる感覚。
 そして、コリッとしたものを摘まれる感触と共に、一瞬、目の前が真っ白になった。

「シトレア様、本当に素晴らしいです。男の子のものだけではなくて、女の子のものも付いているなんて」
「あう!おいっ、こらっ!あっ、うあああっ!」

 エルフリーデが妖しい笑みを浮かべて指先を動かす度に、全身が痺れて息が詰まりそうになる。

 あ、あのバカ!

(どう?あたしの仕事?一粒で二度美味しいってね)

 脳裡に浮かぶエミリアの笑顔に向かって悪態をつきながら、シトリーは快感に身をよじらせる。

「ああ、シトレア様の女の子の部分を摘むと、男の子の部分もこんなに大きくなって」 
「あっ、いやっ、それはだなっ!ああっ!」

 クリトリスを指先で摘まれると、体が弾けるように跳ねる。
 与え続けられる快感に素直に反応して、肉棒も破裂せんばかりに膨れ上がっていた。

 こういうときには、本人の意思とは関係なく体は勝手に反応してしまうらしい。
 エルフリーデの容赦のない責めに、シトリーの目からは涙が溢れてきて、喉から洩れる声は甲高く切なげなものになっている。

「うふふ、そんなに顔を真っ赤にして、潤んだ瞳で見つめて、本当に可愛い」

 そう言う本人も、相当感情が高ぶっているのか、頬を上気させ、潤んだ瞳がふるふると揺れていた。
 裸の少女を抱きかかえて、執拗に愛撫を続けるエルフリーデ。
 だが、はたから見ると、頬を赤く染めて涙目で喘いでいる少女の方も、快感に悶えているようにしか見えない。

 シトリーにしてみれば、この状況が嫌なら魔力を込めて変身を解けばいいだけのことだ。
 だが、今日は自分のことを好きにしていいと言った手前もある。
 いや、そんな、エルフリーデに対する約束以前に、ここで変身を解くのは、なによりエミリアに負けたようで癪だった。

「シトレア様の男の子のものの先がぴくぴくって。それに、女の子のところもこんなにぐしょぐしょに」
「あっ、こらっ!はげしっ、すぎるっ!うあああっ!」

 エルフリーデの手の動きが激しさを増していき、絶え間なく送り込まれる快感に意識が飛びそうになる。

 くうっ!ずっと快感が続く分、女の体ってのはたちが悪い!

 今までさんざんそれを利用して女を堕としてきたことは棚に上げて、シトリーは内心で毒づく。

「イキそうなのですね、シトレア様。どうぞ、イッててください」
「いああっ!ああああああああっ!」

 エルフリーデが肉芽を強く摘むのと同時に、もう片方の手で肉棒を掴んで扱いた瞬間、視界が真っ白に弾けた。
 破裂しそうなほどに屹立した肉棒の先から、大量の白濁液が噴き出してエルフリーデに降り注ぐ。
 ようやく抱きかかえられていた体を解放され、シトリーはぐったりとベッドの上に横になった。

「いけない、服を汚してしまったわ」

 口ではそう言いながらも、全く嫌そうな素振りは見せずに服に付いた白濁液を指ですくっては口に運んでいるエルフリーデ。

「ああ。シトレア様の味がします」

 そうやって、精液の付いた指を口に含んで、うっとりと目を細めている。
 服や髪に付いた白濁液をひとしきり舐め終わると、今度は立ち上がって自分の服を脱ぎ始めた。

「まだまだ、これからですよ。シトレア様」

 裸になると、エルフリーデは艶然と微笑んでシトリーに歩み寄ってくる。

「ちょっと待て!」

 そのまま、覆いかぶさらんばかりの勢いで迫ってきたエルフリーデを少女が押し止めた。

「どうされたのですか?」

 せっかくの楽しみを途中で妨げられて、エルフリーデが不安と不満の入り交じった表情を見せる。

「いや、もうひとつおまえに褒美をやろうと思ってな」
「もうひとつ、ですか?」

 まだはぁはぁと大きく息をしながら、シトリーが指を1本突き立てると、エルフリーデは怪訝そうに首を傾げる。

「そうだ。おまえにいいものをくれてやる」
「なんでしょうか?」
「いいから、ちょっと体を屈めろ」
「は、はい」

 要領を得ないながらも、言われるままに体を屈めるエルフリーデ。
 少女は、その額へと指を伸ばす。

「あ……」

 額に当てた指先に力を込めると、エルフリーデは小さくブルッと体を震わせる。
 そして、目を見開いたままその体が固まった。

「いいか、これから言うことは、僕がこの姿の時でももとの姿に戻っても有効だ。おまえの体は、これから言うとおりになる」
「はい、シトレア様の時も、シトリー様の時も、私の体はそのとおりになります」

 そう言うと、エルフリーデは焦点の合わない瞳でぼんやりとシトリーを見上げている。

「おまえの体は、僕に触れられるととても感じて、気持ちよくなってしまう」
「はい、私の体は、シトレア様に触れられるととても感じて、気持ちよくなってしまいます」

 エルフリーデは、抑揚のない口調でぼそぼそとシトリーの言葉を繰り返していく。

 シトリーが視線を上げると、エルフリーデの頭越しにアンナと目が合った。
 アンナは椅子に座り、そのダークグリーンの瞳を輝かせながら親友に淫らな暗示が仕込まれていくのを眺めている。
 シトリーも、目だけで笑みを返す。
 そして、再びエルフリーデの方に視線を向けると言葉を続ける。

「特におまえの好きなのはこれだ。僕のこれが入ってくると、気持ちよくなりすぎて他のことは考えられなくなってしまう」

 シトリーが視線を下に向けると、エルフリーデも顔を下に向け、その虚ろな瞳が少女の股間の肉棒を捕らえる。

「はい、私はシトレア様のおちんちんが入ってくると、気持ちよすぎて何も考えられなくなってしまいます」

 そう言ったエルフリーデが、ふっ、と呆けたような笑みを浮かべる。
 その様子を確認して、シトリーは、さらに指先に力を込めて、エルフリーデの体の感度を高めていく。

「あっ、ふあああっ!」

 大きく見開かれたその瞳がぶるぶると震え、叫ぶような鋭い声が上がる。

 ふう、とりあえずはこれでいいか。

 シトリーは、いったん込めていた力を抜く。だが、まだ指先はエルフリーデの額に当てたままだ。
 もう、エルフリーデの自分への忠誠心は問題はない。
 とりあえず、その体の感度さえ高めておけば、今の自分の体でも、主導権を相手に渡すことはないだろう。
 要は、体を元に戻すまでこっちが耐えられればいい。
 どのみち、早々にエミリアを呼び出して体の感度は普通に戻させる。もちろん、それなりのお仕置きもするつもりだが。

 だが、実はエルフリーデへの褒美はこれではない。

 シトリーは大きく息を吐くと、もう一度指先に力を込める。

「ああ、うああ……」

 再び、短く叫んでエルフリーデが体を強ばらせる。

「いいか、エルフリーデ。次に僕の精をその体に受けたときに、おまえは生まれ変わる、真に悪魔の下僕としてな」
「あ、ああ……」

 体に送り込まれる魔力が大きすぎて、エルフリーデは言葉を発することすらできない様子だ。

 今やっていることは、要はアンナに力を与えた時にしたのと同じことだ。
 悪魔の精を大量に体内に受け入れた人間は、遅かれ早かれ、体内の魔の気の影響を受けて体に何らかの変化を生じる。
 シトリーは、その変化のきっかけを作っているにすぎない。
 ただ、アンナの時はさらに魔力を使ってその能力の方向を操作したが、今回はそれはしていない。
 だが、それでもその個人の特性に従って、魔の気の影響を受けた変化が生じるはずだ。
 どのみち、戦士であるエルフリーデにはいくら魔力を使っても、アンナのように人を操ったりするような能力が発現する可能性は少ない。
 だったら、そのまま、どのように影響を受けるのか観察するのも一興だ。

「あ、うあ……」

 シトリーがようやく力を抜いて指を離すと、エルフリーデの体が力なく床に崩れ落ちる。

「ん、ああ、あ?私?」

 だが、すぐに体を起こすと、何があったのかわからないといった様子で周りを見回している。

「どうした、エルフリーデ?続きをするんじゃないのか?」
「あ、シトレア様」

 裸のままで自分をベッドの上から見下ろしている少女の姿を認めて、やっと今まで自分が何をしていたか思い出した様子だ。

「さあ、続きをやるんだろう?」
「あ、はい……」

 エルフリーデはゆっくりとシトリーの方に這い寄ってくる。
 だが、不意に動きを止めて、不思議そうに少女を見上げた。

「あの、シトレア様」
「ん?なんだ?」
「もうひとつのご褒美は、いついただけるのですか?」
「ああ。それならもうやったぞ」
「ええ?」

 きょとんとした表情を浮かべるエルフリーデ。
 もらった物が落ちていないか、きょろきょろと周囲を見回す。

「ふっ、そうじゃない。ちょっとこっちに上がってみろ」
「あ、はい」

 何が、そうじゃない、のかはわからないが、エルフリーデは、とりあえず言われるままにベッドに上がって少女に体を寄せる。
 その胸に向かって少女が手を伸ばし、乳房を無造作に掴んだ。

「ふあっ、いああああっ!?」

 自分の体に走った快感の大きさに驚いて、エルフリーデは思わず悲鳴を上げて体を跳び退かせる。
 そのまま、吃驚した表情でシトリーの方を見つめている。

「シトレア様、こ、これは?」
「これがもうひとつの褒美だ。おまえの体を作り替えた。僕に触られると、これまでの数倍も気持ちよくなるようにな」
「ええっ?」
「どうだ?そんないやらしい体にされた気持ちは?」
「そ、それは……」

 驚きに見開かれていた目をさらに丸くさせるエルフリーデ。
 きっと、以前の彼女なら、たとえ体は快楽に堕ちていたとしても、これ以上の屈辱はないとでも言わんばかりにムキになって怒っていたことだろう。
 だが、悪魔の下僕になることを意固地になって拒んでいたかつての彼女は今はもういない。ましてや、正義感に燃える女騎士の姿はその欠片も見られない。

「それは、素晴らしいです、シトレア様」

 エルフリーデは、淫靡な笑みを満面に浮かべると、少女の体を思い切り抱きしめた。

「あっ、あはあああっ!本当にっ、気持ちいいですっ、シトレア様!」
「うわっ、エルフリーデ、おいっ!あっ、いあああっ!」

 少女の顔に胸を押しつけて大きく揺すり、それだけで得られる快感に喘ぐエルフリーデ。
 息苦しさに抗議の声をあげようとしたシトリーも、自分の乳首がエルフリーデの体と擦れる時の快感に思わず甘い声を洩らしてしまう。

 くうっ!どうにかして主導権を握らないとまずいな。

「ああっ!くはあああああああっ!」

 シトリーは、なんとか舌を伸ばして、自分の顔に押しつけられている柔らかい胸に押し当てた。
 その刺激に、堪らずに体を仰け反らせた隙にその乳首に吸いつく。

「いいいいいっ!ふあああああっ!そこはっ、刺激が強すぎますううううっ!」
「ぎゃふっ!」

 エルフリーデが髪をばさばさと振り乱しながら抱く腕に力を込めたものだから、まるで袋がへしゃげたような苦しげな呻き声が少女の口から洩れる。

「ふああああっ!なんて可愛らしくて、なんて気持ちいいのっ、シトレア様ああっ!」
「ぐむむむむむ……」

 エルフリーデの胸の中でもみくちゃにされて、シトリーは息ができずにもがいている。
 仕込まれた暗示のせいで、普通の女ならとっくによがり狂うほどの快感に襲われているはずだというのに、エルフリーデは、少女をぎゅうと抱きしめて離さない。
 いや、確かに彼女はよがり、身悶えさせていた。
 それを上回るほどのシトレアへの執着心と、騎士として日頃鍛えている体がそうさせていると言うべきか。

 まずい、これは本当にまずい。

 シトリーは、どうにかこうにか自分に抱きついてきているエルフリーデの背後に手を回し、合図を送る。
 もちろんそれはエルフリーデに対してではない。
 この部屋にいるもうひとりの相手に対してだ。

「はううっ!」

 いきなり、背後から耳元に息を吹きかけられてエルフリーデが短く喘ぐ。

「ア、アンナ?そういうのは後にしてくれないか。私は今シトレア様と……」
「わかってるわよ、エル。でも、エルとシトレア様が楽しんでるのを見てたら、私も我慢できなくなっちゃった」
「し、しかし」
「ね、お願い。私も一緒に楽しんじゃだめ?」
「アンナ……」

 アンナにそう言われて、エルフリーデに断ることができるはずがなかった。
 潤んだ瞳をアンナに向けて、黙ったままこくりと頷く。

「ありがとう、エル」
「アンナ。ひああっ、あふうっ!」

 少女が、飛びこむように抱きついてきて、アンナの方に気を取られていたエルフリーデの胸にしゃぶりついた。

「んはあっ、ああっ、シトレア様っ!」
「うふふ、エルったらもう」

 体を大きく仰け反らせたエルフリーデを背後からアンナが抱き留める。

「そんなに気持ちいいの、エル?ん、あむ」
「ふあっ、あ、アンナ!ああああっ!」

 アンナに耳たぶを甘噛みされ、少女には舌で胸をちろちろと刺激されて、エルフリーデは大きく体をよじらせて喘ぐ。

「んむ。エル、もっと気持ちよくなっていいのよ」

 耳元で囁きながらアンナがエルフリーデの秘裂へと手を伸ばす。
 その胸を舌で愛撫しているシトリーも、もう片方の乳首を指先で摘んだ。

「ひくうううっ、あっ、やあっ、そんなっ、シトレア様もアンナも、はげしすぎいいっ!」

 指を敏感な部分に挿し入れられて、エルフリーデの体がビクビクッと跳ねた。
 顔を真っ赤にしてぎゅっと固く目を閉じ、舌を出して喘いでいる。

 アンナのやつ、力を使ったな。

 派手に身悶えさせているエルフリーデの様子に、シトリーはそう確信する。
 ただでさえシトリーからの愛撫への感度を高められているところに、アンナの言葉でさらに快感を高められてはひとたまりもないだろう。

 この調子だと、すぐに終わりそうだな。

 一気に逆転した形勢に、ようやく安堵するシトリー。
 それでもエルフリーデの乳首に吸いつくのは止めない。

 まったく、下僕に褒美ひとつやるのに、なにドタバタしてるんだか。
 ……エミリアめ、ただじゃおかないからな。

 エルフリーデへの愛撫を続けながら、内心舌打ちをするシトリー。
 と、その時。

「ふあああああっ!あっ、もうっ、もうわたしいいいぃっ!」

 エルフリーデの叫び声が周囲を切り裂く。
 大きく目を見開いてぐいと反らせた体を固まらせた、その瞳孔が小刻みに震えていた。

「もう、本当にかわいいんだから」
「んああああああああっ!ああっ!あ……?」

 前後からシトリーとアンナに責め立てられていたエルフリーデの瞳から、一瞬、光が消えた。

「うふふ、イっちゃったの、エル?」
「ふあ、あ、アンナ?」
「でも、まだまだよ、エル。これからシトレア様のおちんちんを挿れてもらわないといけないんですもの」
「え?あ、ああ……」

 朦朧としたまま、アンナの囁きに耳を傾けていたエルフリーデの視線が、ぼんやりと目の前の少女の股間を捉える。
 一度、彼女自身の手によって射精させられたそれには、少し萎れ、先程までの逞しさは残ってなかった。

「あ、欲しい、シトレア様のおちんちん、欲しい」

 トロンとした瞳で肉棒を見つめたまま、エルフリーデがゆっくりと手を伸ばしてくる。

 ふう、これでようやく終わりだな。

 一瞬、シトリーは気を緩める。
 だが。

「くああああっ!ま、またかよ!あ、あああっ!」

 エルフリーデの手が伸びてきた先は、またもやそ肉棒の下にある裂け目に隠れた肉芽だった。

「うああああっ!なっ、どうしてっ!?」
「欲しい、もっと大きくて逞しいおちんちんが、欲しいんです」

 片手で少女のクリトリスを弾きながら、もう片方の腕を体にかけて自分の方にぐいっと引き寄せる。
 その力は、とても一度達した女のものとは思えない。

「くあああああっ!ああうっ!こ、これでっ!」

 シトリーもエルフリーデの股間へと手を伸ばして、それとすぐにわかるくらい膨れ上がった肉芽を弾く。

「んくうううううううううっ!はああっ、きもちっ、いいですううううっ!」
「くはあああああっ!」

 快感に悶えた弾みで、エルフリーデがクリトリスを摘む手に力が入り、シトリーも大ダメージを受ける。

「うああああっ!あ?」

 一瞬、目の前で火花が散り、意識が霞む感覚に襲われたシトリーの体が、不意に解放された。
 快感に眩んだ頭がはっきりしてくると、瞳を潤ませてこちらを覗き込んでいるエルフリーデと目が合った。

「シトレア様のおちんちん、こんなに大きくなりましたよ」

 そう言うと、頬を紅潮させて、そっと肉棒を撫でる。
 その口から、ふううぅ、と熱っぽい吐息が漏れた。

「お願いします。可愛らしいシトレア様の、逞しいおちんちんを、私の、いやらしい割れ目に、いれて下さい」

 別に、そうするように命令もしてないのに、自分からしなを作ってねだってくるエルフリーデ。
 シトリーの肉棒を愛おしそうに撫でながら、淫らに腰をくねらせている。

「まったく、どこでそういうのを覚えたんだ?」
「だって、私、こんなにいやらしい体にされて。いいえ、もうずっと前から。そう、シトリー様に犯されて、快感を教え込まれて、身も心もいやらしくされてしまっていたんです」

 エルフリーデは、少し俯いて、恥ずかしそうにそう告白する。
 彼女が快感に溺れ、自分から快楽を求めるようになっていたのはシトリーも気付いていた。
 その上で、意地を張る子供のように口先だけでシトリーに屈服していない振りをしていてことも。
 それが今は、はっきりとシトリーを主人と認め、自分の淫らさをさらけ出している。
 熱のこもった瞳でシトリーを見つめるエルフリーデ。
 今日、部屋に入ってきたときに湛えていた冷酷な光はすっかり溶け去っていた。

 その潤んだ瞳は、淫乱な牝そのもの。
 いや、恋する乙女の輝きが混じっている分たちが悪い。

「ね、お願いします、シトレア様」
「ああ。いいぞ」
「ありがとうございます!ん、ああっ!」

 ぱっと表情を輝かせて肉棒を握ると、自分の秘裂に宛い、抱き合う格好でゆっくりと腰を動かして肉棒を飲み込んでいく。

「あああっ!シトレア様のおちんちんが、私の中に入って!ひあっ、いあああああああっ!」

 そのまま、ひしと少女の体を抱きしめて体をひくひくと痙攣させる。

「ひああああっ!ど、どうしてっ、こ、こんなに気持ちいいのっ!ふあっ、ふあああああ!」

 挿入されただけで意識が飛びそうになるほどの快感の強さに戸惑いながら、エルフリーデは少女を抱く腕にさらに力を込める。
 もちろん、エルフリーデがそんなに感じてしまっているのは、シトリーがそう暗示を掛けたからだが。

「ぐうっ!」

 少女の口から、また苦しそうな呻き声がこぼれる。

 やっぱり、この姿のままだと、体格差はどうしようもないな。

 もともとが、騎士として日々鍛錬を積んでいるエルフリーデの体は筋肉質で、力もアンナやシンシアと比べるとはるかに強い。
 キエーザの村から都への道中、彼女をさんざんいたぶったが、その時、やはり絶頂に達した彼女に強く抱きしめられたことがあった。
 それでも、本来の姿でならば、いくら彼女が体を鍛えているとはいっても、シトリーの方が体格は大きいし、特に問題ではなかった。
 だが、さすがに少女の姿のままではその体格の違いはいかんともしがたく、エルフリーデに翻弄されてしまう。

「んっ、ふあああっ!あっ、ああっ、愛しい、シトレア様!」

 少女の体を抱きしめたまま、エルフリーデが腰をゆっくりと動かし始める。

「んはああああっ!シトレア様のおちんちんがっ、わたしの中に入って!くあああっ!気持ちよくてっ、そのことしか考えられないいいいっ!」
「うわあっ!」

 いきなり少女の体を押し倒すと、その上に馬乗りになる。

「ああ、シトレア様……。ふあああっ!愛しい、わたしのっ、ご主人さまあああぁっ!」

 熱っぽい視線で少女を見下ろしていたかと思うと、エルフリーデは激しく腰をくねらせ始める。
 主への愛情を口にしながら淫らに腰を揺する姿は、まさに牝奴隷そのもの。

「どうだ、満足か?」
「はいいいいっ!わたしのっ、中がっ、シトレア様のおちんちんで満たされてっ、わたしっ、本当に幸せですううううっ!」

 シトリーにとっても、きつく抱きしめられているよりも、この体勢の方が楽だった。
 この体位なら、感覚は股間のものに集中している。それだけなら、エミリアの悪戯の影響も少ない。
 もう、エルフリーデはすっかり肉棒の虜だ。他のことは考えられなくなっている。

 ……はずだった。

「いいっ!?」

 仰向けになった自分と、その上に乗ったエルフリーデのふとももとの間に、何か忍び込んで来る感覚。

 なに?これは尻の方に?……いや!

「いああああああっ!」

 全身に、痺れるような快感が走った。
 間違いない。さっきもさんざん同じ快感を味わわされた。
 自分の体の、女の子である部分が、熱く、じんじんと痺れる。

「あっ、ふあああああっ!こうするとっ、シトレア様のおちんちんがっ、わたしの中でっ、びくびくって!あうっ、んあああああっ!」
「あううっ、こ、こらっ、あっ、いああああっ!」

 ゆっくりと腰を回すように動かしながら、股間に潜り込ませた手でエルフリーデが少女の割れ目の中の豆を弄る。

 くううううっ!な、なんとかしないと!

 シトリーは、エルフリーデの乳房を掴んでよがらせようと腕を伸ばす。
 だが、その手は空しく宙を泳ぐ。

「くっ、しまった!ああっ、うあああああああっ!」

 そう。シトリーが本来の姿なら、手を伸ばせば騎乗位になって乱れる相手の胸を鷲掴みにできる。
 だが、今の姿では、女にしては長身のエルフリーデの胸まで手が届かない。
 しかも、タイミング悪くエルフリーデに肉芽を摘まれて、一瞬、目の前で光が弾ける。

「あああっ、シトレア様、ふああああっ!」
「あ、あああ、ふああ」

 両腕の力が抜けて、自分に馬乗りになったエルフリーデのももの上にぺたりと落ちる。

 ううう、このままじゃ、こっちが保たない。
 ……て、ん?ふともも?

 我に返ったシトリーが指先に神経を集中させて、エルフリーデの下腹部を探る。
 自分と繋がっている裂け目の中、肉棒の少し上のあたり……。
 
 あった!これだ!

「いぎいいいいいいいいいっ!くはあああああああっ!」

 指先に当たった、コリッとしたものを無我夢中で摘むと、エルフリーデがももをぎゅっと閉じて体を反らせた。
 あごを突き出すようにして、大きく喘ぎ、体をびくんびくんと震わせる。

 だが、快感に体をひくつかせているのはシトリーも同じだった。
 エルフリーデの体が肉棒をきつく締め付け、指が少女のクリトリスを強く摘む。

「ぐあああっ、んくうううっ!」

 全身を痺れに犯され、目の前がチカチカと眩む。
 それでも、ここぞとばかりに指先に摘んだ肉芽をひねる。

「いあああああああっ!だめええええっ!おかしくなるううううっ!」
「うくううううううううううっ!」

 ふたり、繋がった部分の上と下、それぞれの肉芽を荒々しく指先で捏ねて、バネ仕掛けのように体を跳ねさせる。
 そして、ほぼ同時に限界に達する。

「くううううううううっ!」
「ふあああああああっ!来るうううっ!シトレア様のおちんちんからっ、熱いのがっ、来ますうううううううっ!」

 精を発する側と受けとめる側、両方とも体を弓なりに反り返らせる。

「ふあっ、あああっ、あふっ、ああっ、ふうううっ。あ……」

 目を見開き、体を小刻みに震わせていたエルフリーデの体が、糸が切れたように崩れ落ちる。

 ふう、やっと終わった。

 意識を失ってぐったりとしているエルフリーデの姿を、涙目で眺めるシトリー。
 頬を上気させ、荒い息の下、その小さな胸の膨らみが大きく上下している。
 気を失ってこそいないが、シトリーの方も確実にノックアウト寸前だった。

 エミリアのやつが余計なことをしていたとはいえ、もう絶対にこの姿でこいつの相手はしてやるもんか。

 ぼんやりと、シトリーはそんなことを考える。
 この姿だと、エルフリーデが相手では体格の差で主導権が握れない。
 なによりも、この、少女の姿へのエルフリーデの並はずれた執着心が鬱陶しい。

「く、くう」

 シトリーは、起きあがろうとしたが、たった今の激しい行為のせいで、まだ体に力が入らない。

「大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だ」

 アンナに抱き起こされて、壁を背にしてようやく座ることができた。
 それでもまだ、肩で大きく息をしている。

 そうやって、呼吸を整えているシトリーの目の前で、倒れていたエルフリーデの体が、びくっ、と震えた。

「あがっ!あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!」

 そのまま、かっ、と目を見開いてのたうち回り始めた。

「熱いっ!からだがっ、あづいいいいいいいいっ!」

 そのまま、ベッドから転げ落ちても、なおも体をびくびくと跳ねさせながら床の上を転げ回っている。
 床の上を転げ回るエルフリーデの全身はほのかな桃色に染まり、よほど体温が上がっているのか湯気が上がっているように見える。

「あ゛あ゛あ゛っ!ぐあああああああっ!」

 今度は、体をきゅっと弓のように反り返らせたまま、ブリッジの様な姿勢でそのまま固まってしまう。 
 その裸体のいたるところで、筋肉がピクピクと痙攣して震えていた。
 そして、時おり、皮膚の表面を蚯蚓のような筋が幾筋も走る。

「エ、エル?これは、いったい?」
「問題はない。エルフリーデの中に注がれた僕の魔の気がこいつの体と反応しているだけだ」

 驚いてこちらを窺うアンナに、シトリーは事も無げに答える。

 やはり、肉体の方に反応が現れるか。

 シトリーは、あくまでも冷静に観察を続ける。
 具体的にどうなるかはまだわからないが、エルフリーデの身体が魔の気の影響を受けているのは間違いない。
 騎士で、そもそも魔術系の素質のない彼女には、当然の反応といえるだろう。

「ぐっ、ぐあああああああーっ!あ……」

 ひときわ大きな叫び声をあげたかと思うと、そのまま体が床に落ちてぐったりとなる。

「エル!大丈夫、エル!?」
「ア、アンナ?うう……。い、今のは?わ、私はいったい?」

 アンナが慌てて助け起こすと、エルフリーデがうっすらと目を開いてぼんやりとその顔を見上げる。

「おまえの中に注がれた僕の魔の気が、おまえの体と反応したんだ」
「シトレア様、の?」
「今のだけじゃないぞ。これまでも、おまえの中にはさんざん精を放ってきたからな。おまえの体には相当な量の魔の気が溜まっていたはずだ。それがおまえの体に変化をもたらしたんだ」
「私の体に、変化を?」

 シトリーにそう言われて、いったい何が変わったのか確かめるように自分の体をしげしげと見ているエルフリーデ。
 だが、どこが変わったのかわからないといった風に首を傾げる。

 シトリーも、エルフリーデのどこが変わったのかをはかりかねていた。
 一見したところ、その体はさっきまでと全く変わらない。もちろん、リディアのように髪の色や目の色が変化しているということもない。
 もとより、魔の遺伝子を受けていない彼女にそのような変化が生じるとは思っていないが、ここまで違った点がないと、何があったのか判断する術がない。

「さあ、とりあえず服を着て、エル」
「ああ、ありがとう」

 まだふらつきながらも立ち上がると、エルフリーデはアンナから手渡された服を身につけていく。
 ゆっくりと服を着ていくその姿を、シトリーは冷静に観察する。

「あ、あれ?」

 服を着終わって、自分の剣を手にしたエルフリーデが首を傾げた。

「どうした?」
「あ、いえ。私の剣はこんなに軽かったかと……」

 なるほど。そういうことか。

 不思議そうに自分の剣を見つめている様子を見て、シトリーがにやりと口の端を吊り上げる。
 そして、トン、とベッドから降りると、机の方に歩いていく。

「シトレア様?……はっ!」

 シトリーは、机の上に置いてあった林檎を手に取ると、振り向き様にエルフリーデに向かって投げつける。

 咄嗟に、剣を持っていない方の手で林檎を受けとめた瞬間、その手の中で林檎が粉々に砕け散った。

「こ、これは!?」
「……すごい。片手で林檎を」

 呆然として自分の手の中に残った林檎の破片を見つめるエルフリーデ。
 アンナも、目を丸くして口に手を当て、驚きを隠せない表情だ。

「つまり、そういうことだ。おまえの体は僕の魔の気と反応して、身体能力が格段に上昇している。おそらく、通常の人間のレベルははるかに超えているくらいにな」
「身体能力が?」
「今、おまえも自分自身の目で見ただろう。片手で林檎を砕くなんて芸当はそう簡単にできるもんじゃない。それも、今、おまえはそんなに力を入れていなかったはずだ。違うか?」
「その、とおりです」
「軽く握っただけでそれだ。もう、おまえの体は人間よりかは、僕たち悪魔に近いといってもいいくらいだろうな」
「悪魔に……」

 そう呟いたエルフリーデの表情は、ショックを受けたというよりも、むしろうっとりとしているようにすら見えた。

「今の反応を見た限りでは、筋力だけじゃなく、反応速度も上がっているようだな。おそらく、瞬発力もだろう。まあ、身体能力がどれだけ上がっているかはもう少しよく見てみないとわからないだろうな」
「はい」
「とりあえず、当面の間は力の入れ具合を半分以下にしておくんだな。でないと日常生活に支障をきたすし、周囲にも怪しまれるぞ」
「わかりました」
「それと、体の変化に慣れて力加減ができるようになるまで、おまえの相手はしてやらないから」
「ええ!?」

 今日、一番ショックを受けた顔をするエルフリーデ。

「そんな顔をするな。別にもう抱いてやらないといっているわけじゃないんだ。その腕力で思い切り抱きつかれたら、こっちはいくつ命があっても足りやしない」
「は、はい。……わかりました」

 ま、この姿のままじゃ、軽く抱きしめられただけでアウトな気もするけど。
 どのみち、今度こいつの相手をするときには事前に暗示を仕込んで筋力にストッパーをかけないとだめだろうな。

「だから、そんなに悄げるな。与えられた任務を果たしたら、ちゃんと褒美はくれてやる」
「はい。でも、私は何をすれば?」
「そうだな。確か、親衛隊に女の隊長がいただろう?」
「フレデガンド様のことですか?」
「ああ。そいつは騎士団長のフィアンセだと言っていたな」
「そのとおりですが」
「よし、決めた。おまえはなんとかして騎士団長にとりいるんだ」
「マクシミリアン様に?」

 唐突にそう言われて、エルフリーデはきょとんとして聞き返す。

「ああ。どんな手を使ってもいい。とにかく騎士団長に気に入られるようにするんだ」
「しかし、マクシミリアン様は相手を実力で評価される方です。媚びへつらってとりいることのできる人ではありません」
「実力ならあるじゃないか、今のおまえには」

 シトリーは、くっくっ、と喉を鳴らして笑う。

「え?あっ!」
「今のおまえの身体能力なら、人間を相手にひけを取ることはないはずだ。その気になればいくらでも高い評価を得られるんじゃないか?」
「そ、それは……」
「ただし、さっきも言ったがくれぐれも力加減には気を遣うようにな。並の騎士相手なら流す程度でも充分なはずだ」
「はい。充分に気をつけます」
「とにかく、おまえは団長に気に入られるように務めればいい。後の仕込みはこっちでやる」
「わかりました。それでは、今日はこれで失礼いたします」

 エルフリーデは、一礼すると部屋を出ていく。




「ふううぅ……」
「ああっ!」

 ドアが閉められると、シトリーはそのままよろめいて床にへたり込む。
 アンナが、慌てて駆け寄ってくる。

「だ、大丈夫ですか?」
「ああ。ちょっと下半身に力が入らないだけだ。まったく、エルフリーデのやつ、思い切りやりやがって」
「ごめんなさい。エルの代わりに私が謝りますから」
「いや、確かにあいつも調子に乗っていたが、それよりもエミリアだ」
「ええ?エミリアさんが何か?」
「くそ、あいつ、明日になったら呼び出して説教ものだ」
「あの?いったい何が?」
「こっちの話だ。それよりこっちはへとへとだ、今日はもう寝る」
「あっ、それなら体をきれいにお拭きしますね」

 アンナが、棚から清潔な布を取りだしていそいそと少女の体を拭き始める。

 さてと、次の狙いは女の親衛隊長だな。立場上、クラウディアの近くにいられるだろうし。
 それと並行して騎士団の切り崩しも進めるか。

 シトリーは、アンナが体を拭くのに任せて、この後の段取りを考える。

 とりあえずは、明日エミリアと一緒にニーナも呼び出すか。
 騎士団の奴らは、リディアとピュラに例の方法でやらせて……。

「ふああぁ」

 思案に耽っていたシトリーは、眠気に襲われて大きな欠伸をする。

「まあ、本当に眠たそうですね」
「ああ。もういいか?」
「はい。すっかりきれいにしました」
「じゃあ、もう寝るぞ」
「どうぞ、お先に寝ていて下さい。私は部屋の掃除をしないと。エルが林檎を潰したから床がベトベトで」
「そうか」

 それだけ言うと、シトリーは毛布を被る。
 笑顔で頭を下げると、アンナは床を拭き始めた。





* * *






 翌日。
 騎士団の隊舎。訓練場。

「はっ!」

 鋭い気合いと共に、剣と剣のぶつかる金属音が響く。

「せいっ!」

 再び、鋭く踏み込んで打ち込んでいく女騎士、エルフリーデだ。その、栗色の髪が宙を舞っている。

 ふむ、これは。

 強烈な一撃を、自分の剣をつかっていなしながら、マクシミリアンは内心舌を巻く。

 踏み込みのスピードといい、打ち込みの力強さといい、申し分なしだ。
 やはり、ここ数ヶ月の間の経験が大きなプラスになっているみたいだな。

 マクシミリアンは以前から彼女には戦士としての優れた素質があると見込んでいた。
 実際に彼女は、1対1の戦闘でなら、騎士団の中でも剣の腕は立つ方だった。平民出身の、それも、別に親が戦士であったわけでもないのに、だ。
 彼女は並々ならぬ正義感と努力とで騎士団への入隊を果たし、マクシミリアンの目に留まるまでになった。
 生真面目な性格で、訓練でも手抜きをすることはなく、日々の訓練の後にひとりで残って練習していることも彼は知っていた。
 ただ、真面目すぎて融通が利かないことが欠点といえば欠点だが、経験を積ませることによってそれは補えると考えていた。

 だから、山岳部のキエーザという村で邪教がはびこっているという噂が入ってきたとき、エルフリーデをその調査隊のリーダーに抜擢したのだ。
 キエーザに向かった彼女は、邪教徒に囚われていた村の司祭を救出した。だが、その代償として15人の部下を失うことになった。
 その責任を最も痛感していたのは彼女自身であろう。
 そう思ったマクシミリアンは、編成された邪教討伐隊に彼女を同行させることにした。
 そして、キエーザの村で彼女は落ち着いた判断を見せ、裏口ではあったが邪教徒の逃亡を阻止する任務を見事に果たして見せた。
 マクシミリアンは、そこに彼女の成長を見たと思った。

 そして、この日、邪教討伐から帰還したばかりだというのに、訓練場でひとり黙々と剣を振るっているエルフリーデの姿を見つけ、マクシミリアン自ら手合わせの相手を申し出たのだ。

 これは、行軍中も鍛錬を怠らなかったようだな。

 もともと、彼女の身のこなしの速さには定評があった。
 だが、今日の彼女は、半年前の訓練で手合わせしたときと比べて、動きの切れの鋭さと力強さが格段に上がっていた。マクシミリアンが本気を出さないと一本取られそうなほどに。
 しかも、エルフリーデの方はそれでもまだ余裕を残しているような雰囲気だ。

 短期間でこれほど上達するとは。なるほど、努力は裏切らないということか。

 もちろん、彼はエルフリーデの身体能力が飛躍的にアップしていることなど知らない。

「はあっ!」
「おっと」

 打ち込んできた剣を、マクシミリアンは体を入れ換えながら受け流す。

 やるな。だが、まだまだ攻撃が正直で直線的すぎる。もっとも、こればっかりは場数を踏まないと無理か。

「やっ!」
「これでっ!」
「あっ……」

 鋭く踏み込んで突いてきた剣を体を深く沈めてかわすと、その低い姿勢から反対に突きを放ち、エルフリーデの喉元で寸止めする。

「……参りました」
「攻撃が真っ直ぐすぎるぞ、エルフリーデ。確かにスピードも力強さも見違えるほどに伸びているが、パターンを読まれたらかわすことも受け流すことも簡単だからな」
「はい」
「どうだ、まだやるか?」
「お願いします」

 そう言うと、エルフリーデは再び剣を構える。

「よし、いい根性だ。じゃあ、始めるぞ」

 マクシミリアンも、そう答えて剣を構えた。
 彼女が、力を半分以下に押さえていることなど、彼は知る由もない。



 その後、マクシミリアンはエルフリーデからさらに3本立て続けに取った。
 そして、5本目の勝負。

 なかなか決着がつかないまま、一進一退の攻防が続き、思わぬ長丁場に、マクシミリアンの呼吸も少し荒くなっていた。だが、エルフリーデはそれ程息が上がっているようには見えない。

 スタミナも申し分ないか。たいしたもんだ、ここまでやるとはな。これは、騎士団の中で試合をすると面白いかもしれないな。

 相手の攻撃を受け流しながら、マクシミリアンは胸の内で唸る。
 指揮官としての才能はともかく、少なくとも、今の時点で彼女の剣士としての力は騎士団の中でもトップクラスであることは間違いない。

 そして、戦いの決着は意外にあっけなくついた。

「くっ!」

 石畳の床の隙間に足を取られて、マクシミリアンがわずかにバランスを崩した。
 その隙を見逃さずに、電光石火の早さでエルフリーデが踏み込んでくる。

 かわすことも受けとめることもできないマクシミリアンの目の前で、剣先がぴたっ、と止まった。

「参った。おまえの勝ちだ」
「え、でも、今のは団長が足を取られて……」
「バカ、どんな形でも勝ちは勝ちだろうが。屋外での戦闘ならもっと足場は悪い。こんなのは理由にならんさ」

 マクシミリアンは笑顔を浮かべ、エルフリーデの頭を、ぽん、と叩く。

「あ、ありがとうございます!」
「おいおいおい、なんだよ、いったい?」

 いきなり、エルフリーデに抱きつかれて、マクシミリアンは目を白黒させる。

「え?ああっ、も、申し訳ございません!初めて団長から一本とれたので、つい嬉しくなってしまって」

 抱きついていた手を離し、エルフリーデは顔を真っ赤にして何度も頭を下げる。

「いや、いいんだいいんだ。それにしても、真面目一辺倒なやつだと思っていたが、そういう可愛らしいところもあるんじゃないか」
「もう、ひどいです、団長!」
「いや、はっはっは」

 照れ隠しに胸をポンと突かれてよろめきながら楽しそうに笑うマクシミリアン。

 と、その時。

「あら、なんだか賑やかね、マックス」

 声のした方に目を向けると、腰に剣を差した、ワインレッドの髪の女性が立っていた。

「フレダ!」
「フレデガンド様!」
「久しぶりね、エルフリーデ。いったい何の騒ぎ?」
「はい!今、団長に手合わせをして頂いていたのですが、初めて団長から一本を取ることができたんです」
「へえ、マックスから一本取ったの?すごいじゃない」
「まあ、5本やってひとつだけどな。そうだ!おまえもこいつとひと勝負してみないか、フレダ?」
「今から?」
「ああ。昔、おまえはよくこいつの訓練を見てやっていたじゃないか。ひとつ愛弟子の成長を確認してやれ」

 マクシミリアンの言うとおり、エルフリーデが騎士団に入隊したての頃、彼女に付きっきりで戦い方を教えていたのはフレデガンドだった。
 その後、フレデガンドが騎士団の副長になってからも、なにかと彼女には目をかけていたのだ。
 実際、フレデガンドが親衛隊長に抜擢されて、親衛隊を女性中心に編成し直すことが決まったとき、彼女がエルフリーデを引き抜くのではないかとマクシミリアンは思っていた。
 だが、彼女はそうしなかった。
 公平な視点から、エルフリーデには親衛隊としてクラウディアの護衛を務めるだけの実力はないと判断したのだ。
 実際、その頃のエルフリーデは、真面目で意欲はあったが、その実力は今ほど目立ったものではなかった。

 だから、フレデガンドをエルフリーデと手合わせさせようとしたマクシミリアンの言葉は半分本音だった。
 妹のように可愛がり、面倒を見ていたエルフリーデの成長はフレデガンドにとっても気になるであろうと思っていたからだ。
 後の半分は、純粋に今の時点でどちらが強いか見てみたいためだった。
 もちろん、マクシミリアンもフレデガンドの実力はよく知っている。だが、今日エルフリーデと対戦してみて、ふたりを手合わせさせてみたら、かなりいい勝負になるのではないかと思ったのだ。

「そう。で、エルフリーデ、あなたはどうなの?」
「お、お願いします、副長!」
「もう、私は今じゃ騎士団の人間じゃないのよ」
「あっ、すみません、親衛隊長!」

 昔の癖で、うっかり副長と呼んでしまい、慌てて頭を下げるエルフリーデの姿を見ながら、フレデガンドはどこか嬉しそうに目を細める。

「本当にあなたは変わらないわね、エルフリーデ」
「でも、腕の方は見違えるほどだぞ。俺が本気を出さなきゃならんほどにな」
「そう、マックスにそこまで言わせるとは大したものね。いいわ、手合わせ願おうかしら」
「お願いします!」

 もう一度頭を下げたエルフリーデに笑顔を返すと、フレデガンドはマクシミリアンと入れ替わるように訓練場の中央へと歩いていく。
 そして、向かい合うようにして立つと、鞘から剣を抜き放つ。

「準備はいい?」
「はい!」

 剣を構えると、フレデガンドはマクシミリアンに目配せした。

「いいか、おまえら。それでは、はじめ!」
「たあっ!」

 合図と同時に、エルフリーデが一気に間合いを詰めていく。

「くっ!」

 最初の一撃を剣で受けとめたフレデガンドの手に、鈍い痺れが残る。

 本当に、腕を上げたわね。

 今の間合いを詰めてきた踏み込みの速さといい、打撃の強さといい、彼女が知っているエルフリーデとは見違えるようであった。
 事前にマクシミリアンが一本取られたと聞いて身構えていなければ、油断して今の一撃で決まっていたかもしれないと思えるほどだ。

「はっ、はあっ!」
「くううっ!」

 畳みかけるように、打ち下ろされる剣の一撃一撃が、己の剣で受けとめるフレデガンドの腕に痛みを伴うほどの痺れをもたらす。

 この打撃の重さ、相当体を鍛えたのね。

 エルフリーデの攻撃を受けとめながら、フレデガンドは胸が熱くなる。
 あの、戦士としてはヒヨコも同然だったエルフリーデが、こんなに強烈な攻撃をしてくるとは、感慨もひとしおだった。

 でも、やっぱりまだまだね。攻撃が直線的すぎるわ。

「行くわよ!」

 エルフリーデの攻撃の軌道を読んで体をかわすと、フレデガンドは攻勢に転じる。

「はっ、はあっ、そらっ、はあっ!」

 彼女の持ち味である、流れるような連続攻撃を、エルフリーデはすべて剣で受けとめる。

 なるほど。本当に上手くなったわね、エルフリーデ。

 心の底では感動しながらも、フレデガンドは攻撃の手を緩めない。
 並の相手ならこの連続攻撃で勝負は決まってしまうが、その真の目的はそこではない。
 この攻撃の狙いのひとつは、息をつかせぬ連続攻撃で相手に反撃の隙を作らせないこと。
 さらには防戦一方にさせることで、こちらのペースに引き込み、相手のリズムを崩す。
 そして、自分に有利な状況で戦いを進め、決定的な状況に相手を引きずり込む。

「そりゃあっ!」

 フレデガンドが、上段から強烈な打ち込みを見舞った。
 だが、これまでよりも振りの大きいその攻撃を、エルフリーデは一歩下がって簡単に避ける。
 しかし、それもフレデガンドの計算の内だった。
 それまで、フレデガンドの連続攻撃に後手後手に回っていた相手は、それを反撃の好機だと考える。
 この隙を逃さすまいと、相手の攻撃も自然と大きくなる。
 振り下ろしてくる相手の剣を下段から跳ね上げて、防御ががら空きになったところへ必殺の一撃を打ち込む。それが、彼女の得意とする攻撃パターンだった。

「はあああっ!」

 彼女の狙い通り、エルフリーデは剣を大きく振り上げて踏み込んできた。

 かかったわね。

 フレデガンドは、狙ったとおりに振り下ろされてくる剣に向かって、下段から自分の剣を打ち上げる。
 だが。

「なっ?」

 相手の剣を跳ね上げようとしたフレデガンドの剣は、そのままエルフリーデによって打ち伏せられる。
 戦斧を扱う相手の攻撃をも跳ね上げたことのある彼女の得意技が、こんなにあっさりと破られたのは初めてだった。

「くっ、うう!」

 自分の剣を押さえつけているエルフリーデの剣をなんとかして押しのけようとするが、相手の力が強くて、万力で押さえているかのようにびくともしない。

「はっ!」
「ああっ!」

 さらに、フレデガンドの剣を自分の剣で巻き込むようにしてエルフリーデが手首を返すと、反動で弾き飛ばされた剣がフレデガンドの手から離れる。
 乾いた金属音を立てて転がる自分の剣を呆然と見つめるフレデガンド。
 だが、すぐにひとつため息を吐くと、エルフリーデを抱き寄せる。

「完敗だわ、エルフリーデ」
「え?」
「本当に、強くなったわね」
「フレダ、お姉さま……」
「ふふっ、あなたにそう呼ばれるのは何年ぶりかしら」

 久しぶりに聞いた、その、まだ、彼女が騎士団の副長になる前の呼び方にフレデガンドは口許を綻ばせる。

「おーい、手加減してないか、フレダ」
「してるわけないじゃない。この子が強くなったのよ。ね、エルフリーデ」
「あ、ありがとうございます!」
「ま、俺の指導がよろしいってことだ」
「なに言ってるのよ、この子は努力家だもの。きっと強くなると信じてたわ」
「おいおい、そんなこと言って親衛隊に引き抜こうとしてるんじゃないだろうな。だめだぜ、こいつはうちのホープなんだからな」
「ホ、ホープだなんてっ、そんなっ、とんでもないです!団長!フレデガンド様!きょ、今日は本当にありがとうございました!」

 真っ赤な顔で礼をすると、エルフリーデは駆け足で訓練場を出ていく。

「ふふ、可愛らしい。あの子のああいうところは全然変わってないわね」
「まったく、真面目で真っ直ぐすぎるのがあいつの悪い所なんだよな。もっと遊びを覚えると戦士としての幅が広がるんだけどな」
「また出た、マックスの持論が。でもね、男はそれでいいかもしれないけど、女の子はあのくらい真面目な方がいいのよ」
「そんなものか?」
「そうそう」

 その姿が訓練場から出ていった後も、体を寄せ合って、暖かい眼差しをその方向に向けて和やかに会話するマクシミリアンとフレデガンド。
 フレデガンドは、エルフリーデの性格はよく知ってた。真面目すぎるせいであまり表面には出さないが、純真で可愛らしい一面があることも。

 そして、ふたりは笑顔で見つめ合う。その姿は、久しぶりにあった恋人同士以外の何者でもなかった。
 そんなふたりには、エルフリーデが悪魔の下僕になっていることも、自分たちがその悪魔のターゲットになっていることもわかるはずがなかった。





* * *






 同日、夕方。
 アンナの部屋に、ピュラ、リディア、ニーナ、エミリアが姿を見せる。

「なんか、姿を見るのは久しぶりだな、ニーナ」
「そうですよ〜。もう出番がないかと思って魔界に戻るところだったんですから〜」
「うん、おまえのその腰砕けになりそうな軽口も久しぶりに聞くな」
「ところで、なんなんですか〜、わたしに用事って〜?」
「そうそう。それに、どしたの、今日はシトレアちゃんじゃなくてもとの格好じゃん?」

 いつも通りに軽口を叩くエミリアを、ギロリとシトリーが睨む?

「え?え?ど、どしたの?」
「おまえには言いたいことが山ほどあるがとりあえず後回しだ。ニーナ、早速だがおまえに仕事だ。これから指定する相手に夢を見させてやってくれ。夢の内容も僕から指示する」
「はいはい〜」
「ターゲットはフレデガンド。この国の親衛隊長だ。で、夢の内容だが……」

 シトリーが、フレデガンドに見せる夢の内容を説明しているのを、ニーナはふんふんと何度も頷きながら聞いている。

「……という具合だが、いいか?」
「はい、了解しました〜」

 そう返事をしてシトリーを見上げたニーナは、のほほんとした口調とは裏腹にぞっとするほどに妖しい笑みを浮かべていた。
 その瞳に冷ややかな光を湛えて舌なめずりした、その唇が滑って光っている。

「では、次の狙いは親衛隊なのですね?」

 黙ってシトリーの話を聞いていたピュラがおもむろに口を開いた。

「ああ。それと並行して騎士団も堕としていく。地下牢の獣たちを使うぞ、ピュラ」
「わかりました。ターゲットは、やはり騎士団長のマクシミリアンですか?彼は夜、盛り場で飲んでいる姿をよく見かけられるそうですし、きっとこちらの思惑にはまってくれるかと思いますが」
「いや、そいつは別な使い道があるからいい。手に入れたいのは集団としての騎士団だからな、別に個人にこだわってはいない」
「しかし、マクシミリアンは戦士としても能力が高いし、こちら側に付けておけば役に立つかと」
「ふ、優れた戦士ならもう手に入れてある。それこそ、並の人間では太刀打ちもできないやつをな」
「それは?」
「エルフリーデだ」
「エルフリーデ?彼女が?」
「ああ。まあ、あいつの力がどれほどのものかはいずれわかるさ。それよりも、今後のことを考えると数としての戦力も欲しいし、最終ターゲットはクラウディアだとしても、騎士団を放っておくわけにもいかないだろう」
「わかりました。シトリー様がそうおっしゃるのなら。それで、方法はこれまで通りでよろしいのですか?」
「ああ。魔導院や教会の男どもを手なずけるのもそれで上手くいっているんだろう?」
「はい。もう半数以上はこちらの手の内です」
「じゃあ、騎士団の連中も同じ要領でやればいい。できるな、リディア?」
「はいっ。任せといて、おじさま」

 シトリーに向かって、リディアがはきはきと返事をする。

「とりあえずはそんなところか。ターゲットにする相手の人選はエルフリーデに任せるとして。……で、エミリア」

 再び、シトリーがエミリアを睨み付ける。

「え?え?なに?なんなの、怖い目しちゃって?」
「おまえ、僕の体に細工してただろ?」
「さ、細工なんてっ!あ、あれはサービスよっ!シトリーにも女の子の気持ちをわかってもらおうと思って!」
「黙れ!」
「うわわわっ!本気で怒ってる!?ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」

 慌てて手を合わせて何度も何度も頭を下げるエミリア。

「本当に、謝るから!このとおり!ね、シトリー!……あ、ああ」

 シトリーと目が合ったエミリアが、大きく目を見開いて体を固まらせる。

「え…あ、や、やめて、そんな……お願い……シトリー……」

 小刻みに体を震わせながら、エミリアは懇願する。だが、でれでもシトリーの目から視線を逸らすことはできない。

「さあ、イクんだ、エミリア」
「あっ、やあっ!今イッちゃうと!いっ、いああああああああああっ!」

 シトリーの言葉に、ガクガクと体を跳ねさせるエミリア。
 ぺたりとへたり込んだ股のあたりから、みるみる水たまりが広がっていく。

「なんだ、漏らしてしまったのか」
「ううう、だから嫌だったのにいいいいぃ!」
「ていうか、僕の視線と言葉だけで感じてイッてしまうほど深く暗示が仕込んであるのを知ってて、なんであんな悪戯をするんだよ」
「だって、別に死ぬわけじゃないし、いいじゃない気持ちよくなるくらい」
「バカ。相手がエルフリーデだぞ。あっちの世界に行きかけるところだったじゃないか」
「でもでもっ、せっかくあんなに可愛らしい姿にしたんだし、シトリーも気持ちよくなった方が絵面的にもいいかなと」
「何が絵面だ。別に見てたわけでもなし」
「いやいやっ、想像しただけでもドキドキするじゃない。シトレアちゃんとエルちゃんの乱れ姿」
「もういい」
「えっ、ああっ、またっ!いああああああっ!」

 エミリアの体が、またビクンと弓なりになる。

「そうだな、今度は自分でやってみせろ」
「自分でっ?あっ、ああっ!」

 エミリアの手がゆっくりと、自分の股間と、そして胸へと動く。

「ひあああっ、うああっ!」

 床に転がったままで、自分の手で敏感な部分を弄り続けるエミリア。
 指を裂け目の中に入れて動かす度に、尻尾がピクピクと跳ねている。
 
「それだけじゃあ、まだまだ足りないだろう」
「えっ、えええ?こっ、今度はなにっ!?」

 自分の意志に反して激しくオナニーしながら、エミリアが怯えた視線を上げる。

「アンナとピュラとリディアに触られたら、おまえはものすごく感じてしまう。ただし、どんなに感じてもイクことはできない」
「ちょ、ちょっと!なによそれっ!あっ、いああっ!」
「というわけだ。おまえら、こいつを徹底的に気持ちよくしてやれ」
「いいんですか?」
「構わん。少々やりすぎたくらいじゃこいつは壊れないから存分にやってくれ」
「そういうことでしたら」

 まだ少し不安げな表情のアンナを先頭に3人がエミリアに近寄り、その体に手を伸ばす。

「いいいいっ!触られただけで、そんなああああっ!」
「きゃ!エミリアさんったらそんなに暴れないで」

 手を触れただけで、弾かれたように体を大きく跳ね上げるエミリアに驚くリディア。
 それでも、おそるおそるその体に手を伸ばす。

「ひあああっ!」
「これだけでそんなに気持ちいいんですね」

 感心したようにリディアはエミリアの体に手を滑らせていく。

 一方、ピュラの方はより積極的だった。

「ふふふ、これはこの間のお返しですよ」

 妖艶な笑みを浮かべながら、指をエミリアのアナルへと挿し込んだ。

「ひくううううっ!いやああっ!そこぉ、感じちゃうううううっ!」
「あら、エミリアさんもここが感じちゃうんですね」
「そっ、そうじゃなくってえっ!これはっ、シトリーがっ!あうっ、いああああああっ!」

 喘ぎながら抗議するエミリアには構うことなく、ピュラはもう一本指を挿し入れる。
 すると、またエミリアの体がぎゅっと弓なりに反れる。

「もう、人の部屋であんまり暴れたらだめですよ。ん、ちゅ」
「んぐぐっ!むぐぐぐぐっ!」

 アンナがエミリアの頭を抱え込むようにしてその口を吸う。
 くぐもった呻き声がその喉から洩れ、大きく見開いた目には涙がいっぱいに溜まっている。
 その猫耳が、ビクビクと痙攣するように震えていた。

「ん、んん、んふ」
「んむむっ、ぷふぁっ!ひあああっ、お願いいいっ、もうやめてえええっ!」
「やめろって言っても、気持ちいいんだろ」
「いいいいっ!気もちっ、いいけどっ!せめてっ、イカせてええええええっ!体もっ、頭もっ、熱くなりすぎてっ、おかしくなっちゃううううっ!」

 そう涙目で叫び、エミリアは訴えてくる。
 ピュラとアンナが、不安そうにシトリーの顔色を窺う。

「ああ。まだ全然大丈夫。そのくらいじゃまだまだ壊れないから」
「うううっ!ひいいいいっ!このっ、悪魔あああああああっ!」
「ああ、悪魔だけどそれが何か?」
「あああっ!いぎいいいいいいっ!」

 アンナたちが体を密着させてきて、それだけで目を剥いて喘ぐエミリア。それでも、自分の手で胸を弄るのを止めようとしない。

「だいたい、おまえが変な悪戯するのが悪いんだろ」

 そう突き放すシトリーは、腕をくいっと引っ張られる。

「なんだ、ニーナ?」
「あの〜、エミリアを見てたら、わたしも疼いてきちゃって〜」

 そう言って見上げてきたニーナの目はもうすっかり潤み、頬を上気させて、発情しているのがありありとわかる。

「ねえ、お願いします〜、シトリーさまぁ〜」

 そうねだってくるニーナの赤く細い舌が、物欲しげにチロチロと唇を舐め回している。

「本当は褒美は仕事の後なんだけどな」
「そこをなんとか〜、お仕事はちゃんとしますから〜」

 そうしている間も、ニーナの口から熱い吐息が漏れ、黒い瞳が次第に赤く輝き始める。夢魔や淫魔が完全に発情した証拠だ。
 考えてみれば、長い間ニーナの相手はしていないし、ここまで発情してしまったらそう簡単に収まりそうにない。

「ふう、仕方ないな」
「ありがとうございます〜!ん、はむ」

 許可を得て、ニーナはシトリーの肉棒を露わにすると嬉々としてしゃぶりつく。

「んふ、あむ、んん、ぴちゃ。ああ、ひさしぶりのシトリーさまのおひんひん、美味しいれすぅ〜」

 ピチャピチャと音を立てながら、丁寧に肉棒を舐め回すニーナ。

「よく考えたら、おまえのエネルギー源って、人に夢を見させたときに生まれる感情や欲望だし、これから仕事しながら栄養補給できるんだから別に褒美は要らないんじゃないのか?
「んむ、あふ。そんなこと言わないでください〜。シトリー様の精液は別腹なんです〜。あむ、んふ、ちゅ、じゅるっ」

 いったん肉棒から口を離してそう言うと、再び美味そうに肉棒をしゃぶり始める。

「なんだよ、別腹って」

 そう呟きながら、シトリーはニーナのローズピンクの髪をかき揚げながら、頭を股間に押しつける。

「んぐっ、くっ、んっく、くくっ!」

 一瞬、苦しげに呻いたが、すぐにニーナは前後に大きく頭を振り始めた。






 40分後。

「ふやああああ〜!イイっ、イイれすうぅ〜!シトリーさまのおちんちんが、わたしの奥にゴツンゴツンって当たってますうううぅ〜」

 シトリーに抱きかかえられて、ニーナが髪を振り乱しながら体を大きく揺する。

「ひああああ〜!イクうううぅ〜!わたしぃ、もうイキそうれすうううぅ〜!」

 シトリーの頭を抱えるニーナの腕に力が入り、体が大きく反り返った。
 背中から生えた蝙蝠の翼がばさっと広がって小さく震えている。

「んああああああああぁ〜!くっ、くらさいいいいぃ〜!シトリーさまの精液、ニーナの中にいっぱい出してくらさいいいい〜!」

 その言葉に応えるように、シトリーはぐっとニーナの体を抱き寄せて思い切り腰を突き上げた。

「ふわああああああああぁ!来てる〜、きてますううううぅ〜!シトリーさまの熱い精液が、いっぱいきてますううううううぅ〜!」

 絶頂に体をぎゅっと硬直させて精液を受けとめると、ぐったりとシトリーに体を預けて大きく喘いでいる。

「ふああ。きもち、よかったれすううぅ〜、シトリーさまぁ〜」

 トロンと蕩けた瞳で、ニーナはシトリーを見つめている。

 すると。

「あの、シトリー様」

 頃合いを見計らっていたのか、ピュラが声をかけてきた。

「ん?なんだ?」
「それが、エミリアさんなんですが」

 その言葉に、シトリーがエミリアの方を見る。

「い゛っ、がっ、あ、ああ、あ、ぐっ……」

 その口から洩れているのは、もう喘ぎ声というにはあまりに断片的な音声の羅列。
 口の端からは涎をだらだらと垂らし、大きく見開かれた目からは涙が流れ、髪の毛をベトベトに濡らしていた。
 瞳孔は開ききってぼんやりと霞み、完全に焦点が合っていない。
 アンナたちが触れると、短い呻きと共にビクッ、とわずかに体を震わせて反応するが、足はぐったりと投げ出されたままだ。
 だが、それでも両手は自分の胸と秘裂を弄るのを止めていない。もっとも、その動きもだいぶ鈍くはなっていたが。

「あの、大丈夫なんでしょうか」

 ピュラが、シトリーの顔を窺いながら不安げに言う。

 ふん、まだ限界を振り切れるまではもう少しあるんだがな。

 シトリーは、エミリアの姿を一瞥してそう判断する。

 だいいちこいつはそんなに柔にはできてないしな。
 まあ、でもいい頃合いか。

「大丈夫だ。まだ壊れちゃいない。でも、お仕置きにはもう充分だろうな」

 そこでいったん言葉を切ると、シトリーはエミリアを解放する言葉を口にする。

「よし、もうイッていいぞ、エミリア」
「あがっ、あっ、ああっ、ひぎいいいいいいいいいいいいっ!」

 その言葉に絶頂に達することをようやく許されるエミリア。
 もう、全身を反らせる力が残っていないのか、がくっと頭を反らせて絶叫する。
 ぐったりとして開かれたままの股間の裂け目から、ぶしゅうううっ、と大量の潮を噴く。

「あぎいいいいいいいいっ!」

 ずっと続いている絶頂に、エミリアは力なく体を震わせ続ける。

「いぎっ、あがっ、ふあああああああっ!」

 ビクッと体が震えるたびに、秘裂から噴水のように潮を噴きだしている。
 しかし、その長い絶頂もようやく果てたのか、白目を剥いてピクリとも動かなくなった。

「本当に、大丈夫なんですか?」

 その様子をずっと見つめていたアンナも、驚いた様子で訊ねてくる。

「大丈夫だ。まあ、すぐには目を覚まさないだろうけどな」
「あれだけの絶頂って、どんな感じなんでしょうね。なんだか、怖いような、経験したいような」
「まあ、おまえたちには無理だな。こうなる前に完全に壊れてしまうぞ」
「そ、そうですか」
「ところで、おじさま」
「ん、なんだ、リディア?」
「エミリアさんが起きなかったら、誰がおじさまをシトレアちゃんの姿にするんですか?」

 リディアに冷静に指摘されて、シトリーは返答に詰まる。

「む……。まあ、明日の朝までにはこいつも気が付くだろう。もう、教会の中、特にこの部屋の中ならこの姿でいても問題が起きるおそれはないしな」

 そう言ってシトリーはため息を吐いた。
 その様子にピュラが、苦笑しながら口を開く。

「じゃあ、エミリアさんはここに置いていきますね」
「ああ。こいつは猫に姿を変えれば怪しまれずに移動できるからな」
「そうですね」
「じゃあ、騎士団の連中を堕とす手筈はまたエルフリーデから話を聞いて追って伝える。女親衛隊長に夢を見させることはすぐにでも始めてくれ、ニーナ」
「はい〜、了解です〜」

 ピュラ、リディア、ニーナはシトリーに頭を下げる。ピュラが呪文を唱えると、3人の姿がふっと掻き消えた。




「さ、今日もお掃除しないといけませんね」

 3人の姿が消えると、そう言ってアンナが棚から布を何枚も取り出す。
 エミリアがぐったりと横たわっている周囲は、大量の愛液と尿で大きな水たまりになっていた。

「すまん。ちょっとやりすぎた」
「よろしいんですよ。私も楽しかったですし」
「楽しかったか?」
「ええ。何となくですけど、シトリー様はエミリアさんを壊すようなことはしないと思ってたんですよ」
「まあ、こいつの力はまだ必要だしな」
「そういうのとはちょっと違うんですけどね」
「なんだ?」
「まあ、女の勘といいますか、とにかくそんな気がしたんです」

 そう言ってアンナは笑顔を見せる。

「なに言ってるんだ、おまえ?」
「だから、勘ですよ、勘」

 ベッドに座ったまま首を傾げるシトリー。
 濃緑の瞳に笑みを湛えながら、アンナは床を拭き続けていた。





* * *






 あれ?ここは?

 目を開くと、フレデガンドは何もない空間にいた。

 ここは、どこなの?どうして、こんな?

 周囲を見回しても、ここがどこかわからない。
 それどころか、あまりに何もないせいで、上下左右の感覚すら狂ってくる。
 一歩踏み出そうとしても、足下の感触が頼りなくて思わず足が竦んでしまう。
 不安から、思わず腰に手を遣るが、いつもそこにあるはずの剣がない。

 なに?なんなの、これはっ!?

 頭では理解できない状況に、フレデガンドはパニックになりかける。
 すると、それまで真っ暗だった中に、小さく光るものが浮かび上がった。

 あれは、なに?

 フレデガンドは目をこらすが、そこに何があるのか、小さすぎてよくわからない。
 しかし、次第にその光るものが大きくなってきた。

 あれは?人?それもふたり?

 その光に包まれた人影が近づいてきているのか、自分の方が近づいているのかはわからない。
 とにかく、その人影が大きくなって、ようやく誰か判別ができた。

 あれは?マックスとエルフリーデ!?

 自分のよく知る人間の姿を認めて、フレデガンドは思わず声をあげる。
 だが、その声は辺りに響かない。
 いや、声が出たのかどうかすらも定かではなかった。
 それに、目の前のふたりは、彼女の存在に気付いてすらいない様子だった。
 その、フレデガンドの目の前で、エルフリーデが両腕を伸ばしてマクシミリアンの首を抱く。
 マクシミリアンの方もエルフリーデの腰に手をかけて抱き寄せた。

 なに?何をしているの、マックス!?

 フレデガンドの見ている前で、マクシミリアンがエルフリーデに顔を近づけていく。
 エルフリーデも、目を閉じてそれを迎え入れる。

 いやっ!何をしてるの!?そんなこと、やめて!

 本当なら、大声を上げて飛び出して行きたい。
 しかし、それ以上からだが動かないし、声も出ない。
 まるで、フレデガンドの存在などないかのように濃厚な口づけを交わすマクシミリアンとエルフリーデ。

 いやっ!やめてっ、そんなの!だめよ、マックス!

 フレデガンドの目からはらはらと涙がこぼれ落ちた。
 しかし、そんな彼女には構わずに、マクシミリアンの手が、エルフリーデの服の紐に伸びる。

 やめて!それ以上はっ、もうやめてええええええっ!

 フレデガンドは思い切り叫ぶ。だが、彼女の声はその空間には響かない。







「はっ!……夢?」

 目を覚ますと、そこは、宮殿に隣接する親衛隊の隊舎。自分のベッドの上だった。
 もう、窓から眩しい日の光が射し込んでいる。
 フレデガンドは、さっき見たのが夢だとわかり安堵する。

 そうよね。あんなの、夢に決まってるわ。
 マックスがあんなことするわけないもの。それに、エルフリーデもそんな子じゃない。

 そうやって、心を落ち着けようとする。
 しかし、なぜかもやもやしたものが晴れない。

 まだ、交替の時間には少し余裕はあるわね。
 クラウディアの護衛の交替まで、少し時間の余裕があることを確認すると、フレデガンドは急いで身支度を整える。





 隊舎を出ると、フレデガンドは宮殿の横から続く小道に入る。

 この道は、途中宮殿の周りを囲む茂みの中を抜けることになるが、騎士団の厩舎裏へと抜けることができる近道だった。
 ここを通れば、護衛の交替時間までに騎士団の隊舎まで行って戻ってくることができる。

 その日見た夢の不安に衝き動かされて小道を急ぐフレデガンド。
 ようやく、小道を抜けて厩舎の建物が見えた時、彼女の足が止まった。

 あれは、マックスとエルフリーデ?

 厩舎の陰に、ふたりの男女がいた。
 こちらに背を向けている女騎士の栗色の髪。
 見間違えるはずもない、エルフリーデだ。
 そして、エルフリーデの陰になってよくわからないが、相手の背格好はマクシミリアンによく似ている。

 そんな、まさか。

 夢の中で見たふたりの姿を思い出すエルフリーデ。
 ふたりに歩み寄りたいが、踏み出すことができない。
 そして、夢の中と同じようにエルフリーデの腕が相手の首にかかり、顔を近づけていく。

 そ、そんなこと、あるはずがっ!

 目の前で、フィアンセが自分以外の女と口づけを交わしている。
 今すぐ飛び出してふたりを引き離したかったが、それができない。

 いや、いやよ、マックス。

 まるで、夢の中と同じように、ふたりに向かって行くことがフレデガンドにはできなかった。
 ここで今、自分が出ていったら全てが終わる。そんな気がして、怖くて踏み出せない。

「くっ!」

 フレデガンドは小さく舌打ちすると、向きを変えて王宮の方に帰っていく。
 たった今、自分の目の前で起きたことに、怒りと苛立ち、そして不安が胸の中で渦巻いている。
 そして、何もできずに逃げ出した自分に無性に腹が立っていた。
 しかし、いくら腹を立てても、あの場から何もできずに逃げ去ったことは否定しようがない。
 本当なら、あの場に飛び出ていってふたりを引き離し、マクシミリアンを張り倒してやりたかった。
 だが、それをするとマクシミリアンを失うことになるかもしれない。それが、心底怖かった。

 フレデガンドは、黙りこくったまま王宮へと歩き続けた。





 そして、こちらは騎士団の厩舎裏。

「ねえ、今の見た、エルちん?さっきのあの人の顔、もの凄い表情してたわよ。あのまま殴りかかってきたらどうしようかと思っちゃった」

 騎士団長マクシミリアンの口から出てきた、らしからぬ言葉。
 その話し方は、エミリアのそれそのもの。

「私の向きで見えるわけがないだろうが。それと、何度言ったらわかる。私のことをおかしな名前で呼ぶな」
「じゃあ、エルっち」
「貴様。確かにシトリー様の下僕としてはおまえの方が先輩だが、これ以上私を愚弄するとどうなるか覚悟しておけ」

 そう言うと、エルフリーデは腰の剣に手をかける。

「わーった!わかったから、少し落ち着こうね、エルフリーデちゃん!」
「くっ、本当ならちゃん付けでも不愉快なんだぞ」
「もう。それくらい勘弁してよ。エルフリーデちゃんったら、なんかあたしに当たりがきつくない?」
「自分の言動を反省するんだな。メリッサさんのように品位のある行動と礼儀のある話し方をしていれば自然と敬われるものだ」
「それはメリッサが特別なのよ。だいいち、悪魔に品位とか礼儀とか説くのが無茶な話なのよね」
「おまえの態度はそれ以前の問題だ。……ん?どうした?」

 よろめいたエミリア、いや、見た目はマクシミリアンだが、の体をエルフリーデが支えてやる。

「ん、ちょっと昨日シトリーにお仕置きくらってかなり痛めつけられてね。まだ少しふらふらするのよね」
「それでそのくらい軽口がたたければ充分だろう。もう少しお仕置きされた方がよかったのではないか?」
「ああもう!ほんっとにエルフリーデちゃんたら、シトリーやアンナちゃんとあたしとで全然態度が違うのよね」
「人徳の差だ」
「シトリーに人徳なんかあるわけないでしょ!」
「貴様、シトリー様を愚弄するのか」
「うわっ!違う違う!違うから剣を抜かないで!」
「冗談だ」
「いや、それ、冗談になってないから」
「それにしても、なぜシトリー様はこのようなことを私たちにさせるのだろうか?」
「さあ。シトリーのやる事って、あたしたちには意図がわからないことがよくあるのよね。まあ、でもそのうち説明してくれるでしょ」
「そうか」
「とにかく、シトリーの言うとおりにしとけば間違いはないって」
「それもそうだな」

 そう呟いて剣を鞘に収めるエルフリーデ。
 そのまま、ふたりしてフレデガンドが立ち去った方向を見つめる。

「それでは、私はそろそろ隊舎に戻る」
「そうね。あたしもシトリーに報告してくる」

 そう言うと、エミリアは体を翻して黒猫の姿になる。
 そして、ふたりはそれぞれの方角へと歩き去っていった。

 
 


 

 

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