フローレンスの街。魔導院、王都特務室。 王都特務室は、都で発生する様々な事件や犯罪、特に、魔法や魔物、精霊などの関わる案件を解決するための部門である。今の世界でいえば、警察のような役割を担っている。 魔法王国と呼ばれるだけあって、このフローレンスの都には魔法絡みの事件がしばしば発生する。魔導院内で行われている実験などの失敗といった事故に対応する部署は別にあるが、魔導院の外、都で起きた事件全般は王都特務室が一手に引き受けている。 時に、召喚した魔物や精霊が暴走するなどの派手な事件も発生するが、そんなのはごく稀で、彼ら特務室の人間が主に対処しているのは、魔導師や、魔導師くずれの人間が引き起こす犯罪などである。 この、王都特務室に配属される魔導師の条件は、感知、探査系はもちろん、攻撃や防御、そして移動などといった広い分野の魔法に通じていること。そして、白兵戦に長けていることである。 組織的な犯罪の場合は、騎士団などと連携することもあるが、ほとんどの案件は特務室のみで対応している。任務の性質上、戦闘を行うことも多く、また、調査などで単独行動することも多いので、個人の戦闘能力も重視される、魔導院の中では特殊な部署といえる。 王都特務室は、事件が起きてからの対処だけではなく、普段は、問題の発生を早期に発見すべく、不自然な魔力が発生していないか、もしくは精霊の働きに異常がないかの観察に当たるのも任務であった。 「うむ、またか」 王都特務室室長・ガイウスの深刻そうな声に、赤毛をポニーテールに結びあげた若い女魔導師が机から顔を上げる。 彼女の名はレオナ、今年で26歳。王都特務室の配属になって5年、ここのメンバーの中では、そろそろ中堅といったところである。 身のこなしが素早く、体術にも優れる彼女は、魔術においても、詠唱の際の印や身振りを破棄し、呪文だけで魔法を発動させるのを得意としていた。戦闘を行いながら魔法を使うことができる彼女は、王都特務室の任務にはうってつけの人材といって良い。 また、持ち前の勘の鋭さで、これまでも事件の解決に大きな役割を果たしたことがしばしばあった。何より、室長のガイウスを含めて13名のメンバーの中の紅一点である彼女は、街中での捜査や聞き込みには欠かせない要員であった。 「どうかなさったのですか、室長?」 「ああ。この2ヶ月程の間、都の中で、何度か正体不明の魔力が感知されている」 そう言ってガイウスが差し出した書類には、十数行程の数字の列が並んでいた。 だが、その情報なら、レオナも知っていた。 その数字の、前半部分の数字は日付、後半部分の数字は感知された魔力の強さを表している。 「これは、魔導師が関係しているのではないのですか?」 「いや、それが、この魔力の属性をはっきりと感知することができないんだよ。魔導師が魔法を使ったのならそれとすぐにわかるはずだ。確かに、一見それほど強力な魔力でもないが、そもそも属性をはっきり把握できないこと自体が異常だ」 「そうですね……」 相づちを打ちながらレオナは書類を覗き込む。 もちろん、データを見ても、ガイウスに把握できない魔力の属性がレオナにわかるはずはない。 「この魔力は、悪意のあるものなのでしょうか?」 「いや、それすらもわからない。だが、そのような魔力が感知されていることが問題であるといえるだろうな」 そこまで言って、ガイウスはしばし考え込む。 「しかし、さほど強力ではないとはいえ、このくらいの大きさの魔力なら、ピュラ様なら感知されているはずなのだが。今に至るまで、調査などの指示がこちらにないのはいったいどういうことなのか……」 「室長?」 「うむ、やはりこれはピュラ様に報告しないと」 ガイウスはそう言うと、書類を手に立ち上がった。 「ちょっと、ピュラ様のところまで行って来る」 特務室に所属する、レオナを含めて総勢12名の魔導師たちに一声かけると、ガイウスは部屋を出ていく。 その時点では、その後ろ姿を見送る誰もが、それ程重大なことだとは思っていなかった。 都の各地に配置されている魔力監視用の宝石に不審な魔力が度々感知されているのは、特務室の誰もが把握していた。しかし、その魔力の強さも、今のところ、過去の重大事件と比べても直ちに厳戒態勢をとらなければならない程のレベルではなかった。 確かに魔力の属性が特定できないのも異常ではあったが、とはいえ、この、感知された正体不明の魔力の大きさは、彼らの手に負えないといったものではない。 おそらくは、魔導院に属さない在野の魔導師が新たな魔法の実験でもしているのか。もちろん、それが犯罪に絡んでいることは充分に考えられる。 もしくは、魔力の発生源に何らかのフィルターをかけて擬装しているのか。今回の魔力の反応から、その可能性の方が高いといえるだろう。 魔力の発生源にフィルターをかけることは、一般の魔導師には禁じられている。それを許されているのは魔導院の幹部だけだ。だが、その様な場合は特務室に連絡が入ることになっている。今回はその連絡がないので、おそらく、何者かが勝手にそれを行っているということになる。それはもちろん犯罪行為になるので、調査すべき対象にはなる。 実際、今回も感知されやすい場所の特定などの作業はすでに進められていた。後は、上からの指示さえあれば実地で調査をして、怪しい場所の特定ができれば直ちに捜査に入ることができる。その態勢は整っていた。 このように、いつでも動けるよう準備は整っていたので、特務室のメンバーは特に慌てたり、危機感を持っているわけではなかった。普段通りの、特務室の任務の範囲内であったからだ。 レオナも、それがそんなに重大なことだとは考えもしなかった。もちろん、充分に警戒すべき事ではあったのだが。 もちろん、彼らの誰ひとりとして、魔力にフィルターをかけて彼らを惑わせているのが魔導長たるピュラ自身であることを知らない。 魔導院。ピュラの執務室。 秘書官からの連絡を受けて、ピュラは王都特務室室長・ガイウスを執務室に迎え入れる。 「どうしたの、ガイウス?何か問題でも起きたのかしら?」 「はい。少し報告しておきたいことがありまして」 「ひょっとして、このところ都で確認されている、発生源も属性も不明の魔力のこと?」 「ご存知でしたか」 ガイウスは、やはり、と頷く。 「ええ。それはもちろんよ。私もこの魔力については内密に調査していました」 「で、ピュラ様にはその正体はおわかりになられたのですか?」 「いいえ。この魔力を何者が発しているのかは正確にはまだわかっていないわ」 「ならば、特務室の方でも至急調査を開始いたしましょうか?」 「そうね。ただ、この事案は少しデリケートな問題のように思えるの」 「と、言いますと?」 「私の感知したものは、多くが教会の方での反応なのよ」 「はい、確かにこちらでも教会方面から不審な魔力が数回感知されていることは把握しておりますが」 「先日、大主教が辞任なさったのはあなたも知っているわね」 「はい。詳細は知っておりませんが、なんでも教会で起きた一連の不祥事の責任をとったと」 「その通りよ。詳しくは言えないけど、教会で起きた一連の事件とこの魔力は関係があると私は睨んでいるの」 「それは、つまり?」 「ええ。魔法を使って問題を起こし、大主教を追い落とした者が教会にいるということよ」 「それでは、現在の大主教代理が?」 「いいえ。大主教代理のシンシアは、大主教直々の指名だからそれは考えられないでしょう。ただし、大主教を失脚に追い込んだ者は教会の内部にいまだ潜んでいて、さらなる事件を起こす可能性があるでしょうね」 「そこまでわかっていながら、ピュラ様はなぜ手を打たれないのです?」 「いくら魔導院でも、確固たる証拠も無しに、おおっぴらに教会に捜査に入ることはできないわ。慎重を期する必要があるのよ」 「む、確かにそれもそうですな」 「まずは、いったい何者がその様なことをしているのかを割り出さなくてはいけないわ」 「はっ。では、特務室でも観察の強化と調査、得られた情報の分析を進めることにいたしましょうか?」 「そうね、お願いするわ。でも、充分気を付けなさい。相手は巧妙に教会の中に潜り込んでいるのよ。こちらが動いてるのに気付かれると面倒なことになるかもしれないわ。くれぐれも慎重にね」 「かしこまりました。それでは失礼いたします」 ガイウスは、ピュラに一礼すると執務室から出ていく。 部屋に残されたピュラは、しばし何か考えている様子であったが、すぐに教会にいる主に向かって念話を送る。 (ピュラか?どうした?) (先ほど、魔導院の王都特務室室長のガイウスが私の所に来まして) (王都特務室?なんだ、それは?) (この都で、魔導師や妖魔、悪魔、精霊など、魔力の絡む事件が発生した場合、それに対処するための魔導院の部署です) (なに?で、そいつはなんと言ってきたんだ?) (このところ、都で感知されている不審な魔力に関する報告を) (それは、つまり?) (シトリー様が力を使ったときに漏れた魔力が感知されたのです) (ということは、僕たちのことがばれたということか?) (いいえ。シトリー様には私が呪印を施しています。あれは、都の結界の中でシトリー様たちが行動できるように、魔力溢れ出るのを押さえるためのもの。力を使ったときに多少こぼれたのでしょうが、結界にも引っ掛からない程度の量です。都の各所に配置されている魔力探知のための宝石に反応したようですが、その量は練達の魔導師でないと直接には感知できないくらいでしょう。それに、私の呪印には魔力の属性を隠す働きもありますので、直ちにシトリー様のことがわかるということはありません) (なるほど。で、それに対しておまえはどう対応したんだ?) (はい。先日の教会での不祥事に絡めて、その内部に不審な動きがあるということにしておきました) (ほう?) (特務室で把握しているものを魔導長である私が感知できないというのは不自然ですし、それに対して何らの対応を指示しないのもかえって不審に思われるかと思いまして。それに、特務室としても、確たる証拠も無しに教会に直接捜査の手を伸ばすことはできないので、その方が時間稼ぎになると思います) (なるほど) (その上で、後はシトリー様の判断を仰ごうと連絡した次第です) (そうか、わかった。……ピュラ、今夜、リディアを連れてこっちに来てくれないか。今後の対応について話がしたい) (リディアを、ですか?) (ああ。僕にひとつ考えがある。詳しいことはまた夜に話す) (かしこましました) シトリーとの念話を終え、首を傾げるピュラ。 だが、すぐに机上の水晶玉に向かい、リディアを呼び出す。 一方、こちらは王都特務室。 「ふむ、しかし……」 部屋に戻ってきたガイウスは、自分の席に座って考え込む。 「ピュラ様は気付いておられないのか、それとも、何か意図があって、あえて触れられなかったのか?」 感知された魔力のデータを見ながら、ひとり呟くガイウス。 「レオナ、ちょっとこっちへ来てくれ」 しばし考えた後、ガイウスは頭を上げてレオナを招き寄せた。 「なんでしょうか、室長?」 「うむ、今、ピュラ様のところに行って、この魔力に関して話をしてきたんだが」 「それで、いかがでした?」 「ピュラ様は、教会内部において、魔法を使ってよからぬ策謀を巡らしている者がいると考えておいでだ」 「教会内部で?」 「ああ。確かに、教会方面で不審な魔力が数回感知されているのは事実だ。それと共に、明らかに、魔導師の魔法によるものと見られる魔力反応も何度か観測されている」 そこまで言うと、ガイウスは腕を組んで再び考え込む。 彼は知る由もないが、教会で感知された魔導師の魔法反応は、リディアの幻術によるものだ。 だが、センサー程度の宝石の反応からでは、そこまではわからない。 詳細を把握するには、実際に調査することが必要だが、ことが教会の内部の問題ではそれもままならない。 それと、ガイウスが気になるのは、さっきピュラが触れなかったもうひとつの事実。 教会で魔力が感知されているのはピュラの言う通りだが、それとは別に、スラムの方からも正体不明の魔力が感知されていたのだ。それも、早朝の時間帯に集中して。 「レオナ。明日、朝早くにスラムに行ってくれないか?」 「え?スラムにですか?」 「ああ。そこでちょっと調査してくれないか?」 「しかし、ピュラ様は教会に問題があると仰ったのでは?」 「その通りだ。だが、我々が教会に踏み込んで捜査をするわけにもいかないだろう」 「確かに。それもそうですね」 「それとは別に、スラムでも度々正体のわからない魔力が感知されている。1ヶ月ほど前から半月の間に計6回。それも、朝早い時間に限ってだ。それに関してはピュラ様は何も仰っておられなかった。ピュラ様が気付いていないのか、それとも、何らかの理由であえて触れなかったのかはわからないが、こちらでも調べておく必要があるだろう」 「そういうことでしたら、了解しました」 「うん、頼むぞ。ああ、それとレオナ」 「なんでしょうか?」 「もし、スラムを調べて教会の問題と繋がるようだったら、事は慎重を要するぞ。ピュラ様の考えておられる通りだったら、その、教会内部で暗躍している者に我々が動いていることを知られてはならない。そのことだけは気を付けてくれ」 「はい」 口許を引き締めて頭を下げると、レオナは自分の机に戻る。 ガイウスは、書類を手にとって感知された魔力のデータを入念にチェックする。 彼の胸に、もやもやとした違和感と、言いようのない不安が去来していた。 先ほどピュラと交わした会話に、何か腑に落ちないものを感じていた。 スラムで感知された魔力について一切触れなかったこともそうだが、ピュラが、この不審な魔力のことを知っていたことも。 いや、ピュラがそれを感知していたことには何の不思議もない。ただ、それと知っていながら、これまで特務室に何の指示もなかったことがやはり不自然であった。 ともかくは、こちらでスラムを調べてからだな。 感知されている魔力自体はさほど強いものではない。だが、ピュラの言うように教会内の権力争いのような政治的な問題になると少々厄介だ。 「室長、私は今日はこれであがらせていただきます。明日の朝は、直接スラムへ向かおうと思っていますが」 考え込んでいるガイウスに、レオナが声をかける。 「ああ、頼む。ここに来るのはその後で構わない」 「それでは失礼します」 「気を付けろよ」 「はい」 礼をして特務室を出ていくレオナの後ろ姿を見送ると、ガイウスは再び書類に目を向ける。 もう、外は日が傾き、だいぶ薄暗くなり始める時間になっていた。 同日、夜。教会、アンナの部屋。 「ん、んふ、じゅる、ちゅぽっ、あふ」 下級聖職者の衣を着た淡い茶色の髪の女が、前屈みに体を曲げて、少女の股間に屹立した肉棒を熱心にしゃぶっている。 「ちゅぼ、じゅぼっ、ちゅぱ、んっ、じゅぽっ」 「そうよ。そうやって頭を大きく動かすのよ」 女の傍らに身を屈め、耳元で囁く金髪の女聖職者。アンナだ。 そして、そんな彼女たちの姿を、立ったまま、目を細めて眺めているのは、現在の大主教代理であるシンシア。 「んっ、んぐっ、んむむっ、じゅっ、んふうっ!」 うっとりと目を閉じて、肉棒をしゃぶり続けている女。 四つん這いになるような体勢でつんと突き上げた尻が、まるで男でも誘うかのようになまめかしく揺れている。 アンナの部屋で少女の肉棒をしゃぶるのはこれで2度目だというのに、身も心も、もうすっかり快楽に委ねている様子だ。 「うん。そろそろいいかしらね」 「んっ、じゅるっ。……はい、アンナさん」 女が肉棒から口を離すと、シンシアが助け起こして、手際よく服を脱がしていく。 そして、生まれたままの姿になった女の体は、上気してほのかに赤く染まり、ふとももから床まで、流れ出た蜜がぬらりと光る筋を描いていた。 「じゃあ、早く邪教の毒を吸い出して浄化しましょうね」 「は、はい、シンシア様」 女は頷くと、両側をシンシアとアンナに支えられて、少女のももを跨ぐようにして立つ。 そのまま、ふたりに手助けされながら体を沈め、いきり立つ肉棒を自らの体の中に収めていく。 「んっ、んんんっ、んはあっ!」 体を大きく仰け反らせた女の口から、苦しげな、それでいて心地よさげな声があがる。 「ああっ、んっ、んんっ、あんっ、あんっ」 「ふふっ、上手よ、その調子」 すぐに自分から大きく体を揺すり始めた女の姿を見て、シンシアが笑顔で囁く。 「んんっ、はいいっ、シンシア様!あんっ、あああっ!」 頬を赤く染め、涙で潤んだ瞳をシンシアに向けて返事をすると、女はさらに大きく腰を動かす。 これは、このところ毎夜繰り広げられている光景。 最初は、シンシアの時と同じように、少女にかけられた邪教の呪いを解くための行為として始められる。 そして、次第に女たちは快楽漬けにされていく。 こうして、アンナとシンシアの『指導』のもと、こうやって教会の女性聖職者が次々と快楽の虜にされていたのだった。 「あっ、はああっ、あっ、あんっ、んんっ」 「そう、そうよ。もう少しで邪教の毒を絞り出すことができるわ」 「んっ、ああっ、はんっ、んんっ、あんっ!」 「さあ、もっと大きく腰を動かして。そう、そうやって」 「ああああっ!あんっ、はんっ、ああっ、あんっ、んんっ!」 シンシアとアンナの声が届いているのか、女はぎゅっと目を閉じて、大きく開けた口から快感の喘ぎ声を漏らしながら必死で腰を振り続けている。 やがて、女の体が海老反りに反り返って固まった。 「ああああっ、んあああああああああっ!」 そのまま、少女の体にしがみついてぐったりとした女を見下ろし、アンナとシンシアが目を見合わせて微笑みを交わす。 「ん、ふあああぁ……」 力なく少女に寄りかかっている女の口から、幸せそうに蕩けた吐息が漏れる。 「よくできたわね。これで今日の浄解は終わりよ」 「んん、ふぁいぃ、シンシアさまぁ……」 トロンとした瞳で見上げてくる女に、シンシアが服を着せていく。 シンシアに付き添われて女がアンナの部屋を出ていった後。 (シトリー様) (ピュラか?どこにいる?) (部屋のすぐ外です。申しつけの通り、リディアも一緒です) (よし、入ってくれ) 短く念話を交わすと、部屋のドアが開く。だが、そこには誰もいない。 すぐに、部屋のドアが閉じられると、魔法で姿と気配を隠していたピュラとリディアがその姿を露わにする。 「ご苦労、ピュラ。もう一度状況を説明してもらおうか。まずは王都特務室についてだ」 「はい。王都特務室は、魔力や精霊の暴走や、強力な妖魔の出現、重大な魔術の失敗などの魔法絡みの事件や事故、あるいは魔導師の絡む犯罪事件に対応する部署です。平時は、事件の早期発見のために、都の各所に配置された、魔力に反応する特殊な宝石を通じて魔力や精霊力のバランスを監視しています」 「で、それにこちらの発した魔力が感知されていたということか」 「そうです。ただ、シトリー様たちには、都に張られた結界の中で活動できるように私が呪印を施しています。ですから、魔力が感知されるとしたらシトリー様が力を使ったときにわずかに溢れ出た魔力が反応したのだと思います。ただ、それも呪印によって溢れる魔力の量はかなり押さえられているので、生身の魔導師なら、余程能力のある者でないと感知できない程度です。特務室の者も、宝石に反応があったから気付いたまでのことで、彼ら自身では感知できていないでしょう。それに、呪印の効果で魔力の発生源が特定できず、その属性を把握できなくしてあるので、魔力を発したのがシトリー様であることは彼らにはわかっておりません」 少女の問いに、淡々と返答するピュラ。 「なるほど」 「ただ、都の中で魔力の発生源を特定できないようにすることは特殊な事情を除いて禁じられていますので、そのこと自体が、特務室が対処すべきケースと言えるでしょう。本来なら、私の指示で直ちに調査に動かなければならないはずなのです」 「それで、特務室の室長がおまえのところまで来たというわけか」 「そういうことです」 「そして、おまえはそれを教会内部の陰謀のためだということにしたんだな?」 「はい。実際に、教会から数回魔力の反応があったのは事実ですし、特務室といえども、教会の許可も確かな証拠も無しにその内部に捜査に入るわけにはいきません。その分、時間を稼ぐことができますし、その間に対応策を考えることができると判断しましたので」 「うん。その判断には問題はないだろう。ところで、特務室には何人の魔導師がいるんだ?」 「室長のガイウス以下、13名です」 「13名か。リディア、ちょっと聞きたいことがあるんだが?」 「えっ、は、はい?」 いきなり自分に話を振られ、リディアは慌てて返事をする。 「おまえの精神世界の中に連れていける人間は、1回にひとりだけなのか?」 「あ、いいえ」 「何人ぐらい連れていける」 「それは、やったことがないからわからないですけど……。あそこは広いから、100人くらいは入れそうです」 「13人だとどうだ?」 「うん、それならきっと大丈夫」 頭の中でシミュレーションするように首を傾げながら頷くリディア。 「じゃあ、いいか、リディア。これから僕の言う通りのことをやって欲しいんだが」 真剣な表情でもう一度頷いたリディアに向かって、少女姿のシトリーは説明を始める。 「どうだい?できそうかな?」 「どうだろう?初めてやることだから……」 シトリーの説明を聞いて、リディアは不安そうな表情を浮かべる。 「シ、シトリー様、それはつまりっ?」 シトリーの説明を横で聞いていたピュラが驚いたように口を挟んでくる。 「ああ。リディアに記憶と認識の操作をさせる。リディアの精神世界では、そこに連れ込んだ相手の肉体はもちろん、物質的な物ならほぼ完全に操作できる。イメージした物を産み出すことすら可能だ。だが、リディアの能力はそれだけに止まるものではないと思う。その力を伸ばしていけば、まだまだ、新たなことが出来る可能性を秘めている。その手始めとしてあの世界に連れ込んだ相手の記憶と認識を操作させる。いや、もうリディアにはそれができるだけの実力が備わっていると僕は思うんだけどね」 そこまで言うと、少女はリディアの目を見据えた。 「わかった。わたし、やってみる」 「うん、いい返事だよ、リディア」 真っ直ぐに見つめ返して頷いたリディアに、シトリーは表情を綻ばせる。 「早速明日やってもらおうか。ピュラ、おまえにも一役買ってもらうからな」 「はい」 「それじゃあ、リディア、もう少し近くに来い。具体的にどういう風にやるか詳しく説明してやる」 リディアが近寄ると、少女が声をひそめて説明を始める。 その言葉を真剣な顔で聞きながら、何度も頷くリディア。 シトリーの指導が終わった頃には、夜もだいぶ更けようとする頃になっていた。 翌日、スラム。 朝早く、フードを目深に被った人影が、スラムの路地裏に姿を現した。 ゆったりとしたローブを身につけているので体格はよくわからないが、背はそれ程高くない。 その人影は、路地の奥の木戸を叩く。 トントントン、と3回叩き、少し間をおいて、トン、と1回。 それを2回繰り返す。 しばらくすると、軋んだ音を立てて木戸が開く。 そして、人影は、音もなく木戸の中に消えていった。 「これはこれは、こんな朝早くにどうしたんですかい、レオナの姉御?」 中に入って、フードを取った下から現れたのは、ポニーテールに結った赤毛の女。魔導院王都特務室のレオナだった。 今、レオナが身につけているのは、魔導師の黒く滑らかな生地のローブではなく、薄汚れたカーキ色のもの。 「うん、ちょっと聞きたいことがあってね」 そう言うと、レオナは数枚の銀貨を掴んで、出迎えた男に握らせた。 彼は、レオナがしばしば使っている情報屋だった。 勘が良く、目端の利く彼は、様々なスラムの情報に通じていて、犯罪捜査の時に役立つ情報を提供したことも度々あった。 「へっへっへ、いつもありがとうございやす、姉御。で、なんですかい、聞きたいことってのは?」 「1ヶ月ほど前から、そうね、10日前までかしら、その間に、ここで何か変わったことはなかった?ちょうど今くらいの時間帯に?」 「1ヶ月前から10日前までの間ですかい?そうだなぁ、そういや、ここにいる娼婦の何人かの様子がおかしいんですがね」 「娼婦の様子がおかしい?」 「ええ、なんかやばい事になったというか、まあ、多分仕事をした相手が悪かったんでしょうけどね。ただ、それとなく聞いてみても、誰も何があったのか喋ろうとしないんでさ」 「それは、口止めされているの?」 「そうに違いありませんや、そんな空気がプンプンしてますぜ。脅されたか、金を掴まされたかは知りませんがね」 「で、その、様子がおかしい娼婦は何人くらいいる?」 「えーと、そうでやすね。だいたい、6人くらいってとこでさ」 「6人か……」 レオナは、指を唇に当てて考え込む。 確か、スラムで正体不明の魔力が感知されていたのは6回。数は合うというわけね。 「ああ、それと姉御」 情報屋の声に、レオナは我に返る。 「ん?なにかしら?」 「それと関係するかどうかはわかりませんがね、確か同じ頃に、女の子を連れた教会の女を何度かこの辺りで見かけたことがありやしたね。それも、そう、ちょうどこのくらいの時間でさ」 「教会の女?」 「ええ。まあ、教会から説教しに来る奴は時々いるんで別に珍しくもないんですが、こんなに朝早い時間なのと、小さな女の子を連れているのは初めてなんで覚えてるんで。たしか、女の方は、目の覚めるような金髪で、女の子の方は黒髪だったかな」 「黒髪の女の子を連れた金髪の女ね……。ありがとう。ところで、様子がおかしいっていう娼婦はわかるわよね?」 「もちろんでさ。でも、会っても話してくれるかどうかはわかりませんぜ」 「構わないわ。とにかく教えてちょうだい」 そう言うと、レオナはさらに数枚の銀貨を掴まされる。 「姉御にそこまで言われちゃ教えないわけにはいきませんや。いいでしょう、お教えしやす」 「ありがとう。助かるわ」 その6人の娼婦の名前と容姿、住んでいる場所を聞き出すと、レオナは再び目深にフードを被り、木戸を出ていく。 「あんたなんかに話すことはないって言ってんだろ!さあ、帰った帰った」 娼婦が不機嫌そうな顔でレオナを追い払う。 情報屋に教えられた娼婦にひとりずつ当たっている途中のことだった。 すでに、最初のひとりには門前払いを喰らわされていた。 「ほんの少しだけでいいんです」 戸口まで出てきた相手に、必死に食い下がるレオナ。 「少しって言われても、話すわけにはいかないんだよ!」 「そこをなんとか、お願いします」 「まったく、しつこいね。なんなんだいあんた!?ほんとにこのところツイてないよ。教会から来た変な女もいたし」 「教会から?それは、もしかして、女の子を連れた金髪の女性ですか?」 「……ああ、そうだよ」 「それで、その女性は何をしに来たんですか?」 「さあね、覚えてないよ。だいいち、あたしは教会の奴の説教なんざまじめに聞いたことはないんだから。さあ、もう話すことはないよっ!」 「あっ、もう少し!」 レオナの目の前で、ピシャリとドアが閉じられる。 結局、何があったのかは聞くことはできなかった。 ただ、彼女は、早朝にスラムで目撃されていた、女の子を連れた金髪の女と会っていた。 これで、繋がったといえるのかしら? とにかく、他の娼婦にも話を聞いてみないと……。 レオナは、思案しながら次の娼婦のもとに向かう。 「だから、話すことはないんだよ!」 「だったら、せめてひとつだけ教えてくれませんかっ?黒髪の女の子を連れた、金髪の女性聖職者に会いませんでしたか?」 「なんだい、いきなり?どうしてそれを知ってるんだい、あんた?」 「会ったんですね!それで、その女性はなんと言っていましたか?」 「忘れたよ、そんなこと。あの後大変だったんだから、あんな変な女のことなんざ覚えちゃいないよ。さあ、あたしは眠いんだ、もう帰っておくれ!」 そして、女はドアを閉じる。 結局、その朝、会って話をすることができた娼婦はふたりだけだった。 そして、そのふたりとも、自分の身に何があったのかは話すことはなかった。 ただ、そのどちらも、黒髪の女の子を連れた金髪の女性聖職者と会っていた。 ふたりとも、その女性聖職者と何があったのか覚えていないと言った。 やっぱり何か関係があるんだわ。 できれば、全員から確認を取りたかったけど……。 たったふたりからしか話を聞けなかったのは残念ではあるが、レオナの勘が、様子がおかしいという娼婦と、女の子を連れた金髪の女、そしてスラムで感知された不審な魔力に、何らかの関係があると告げていた。 どうやら、その金髪の女性聖職者について調べないといけないわね。 その、金髪の女が目撃されたのは、不審な魔力が度々感知された半月ほどの間だけのようだ。 だとすると、スラムでその女を見つけることは期待できないだろう。 室長に、教会への対応は慎重を期すように言われているけど。 レオナは、少し思い詰めたような表情で考え込む。 ややあって、意を決したように面を上げると、スラムの外れに向かって歩きはじめる。 そして、細い路地の奥に向かうと、一度周囲を見回し、木戸を開けて中に入る。 中は、ベッドと机、そして衣装棚がひとつあるだけの簡素な部屋だった。 ここは、レオナが捜査のための拠点としている隠れ家。 王都特務室の魔導師は、長時間に渡る捜査に当たるときのために、各自がこういったアジトをひとつは街中に持っていた。 レオナは、衣装棚の中からひとそろいの衣服を取り出すと、薄汚れたローブを脱いでいく。 少しして着替え終わったレオナが身につけているのは、小さな前掛けの付いた丈のあるスカートに、地味な色のブラウスという、一見、ただの町娘風の格好。 そして、棚の中からバスケットをとりだして腕に下げる。すると、そこにいるのは、どう見てもこれから市場に買い出しにでも行く町娘か、どこかの屋敷の召使いといった佇まいだ。 衣装棚に付いている姿見の前でもう一度軽く身なりを整えると、薄笑いを浮かべて頷き、レオナは再び街へと出ていく。 半刻後、教会。 さてと、外から眺めているだけなら気付かれることはないと思うけど。 教会の正門の前までに来たレオナは、さりげなく中の方を窺う。 さすがに、中に入るのはまずいわよね。 立ち止まっていると怪しまれるおそれがあるので、ゆっくりと歩きながら中の方に神経を集中する。 そのまま、教会の外壁に沿うように歩いていく。 だが、今の時間帯、門の中には人影は見えない。 やっぱり、すぐに探している相手を見つけることができるなんて、そんな都合のいい話はないか。 歩きながらレオナは考え続ける。 この王国の教会の本部だけあって、その外周を回るだけでもそれなりの時間がかかる。 そもそも、教会の人間を装っているという可能性もあるのよね。 でも、教会で不審な魔力が感知されているのも事実。 ピュラ様が室長に告げたという、教会内部での陰謀が本当かどうかはまだわからないけど。 だいいち、それを調べるのが本来の特務室の任務のはずよ。 「あっ!」 その時、考えを整理しながら歩いていたレオナの足が止まった。 ちょうど、教会の裏門まで来たときのことだ。 開いた裏門から、芝生の庭が見える。 その、芝生の上に座っているのは、黒髪の女の子と、聖職者の服を着た金髪の女。 見つけたわ! 思いがけず探していた相手を見つけた事に興奮して、我を忘れて金髪の女を眺めているレオナ。 すると、金髪の女の顔が自分の方を向いた。 まずい! レオナはできるだけ何気ない様子を装うと、努めてゆっくりとその場を離れる。 大丈夫。この格好ですもの、私が魔導師とは気付かれていないはずよ。 緊張で高鳴る胸を抑えながら、レオナは教会から立ち去っていく。 とにかく、スラムで目撃された金髪の女は間違いなく教会にいる。 今日は、それがわかっただけでよしとしましょう。 その後、魔導師のローブに着替えたレオナが魔導院へと向かう頃には、もう昼近い時間になっていた。 時間は少し戻って、まだレオナがスラムで聞き込みをしていた頃。 ここ、魔導院王都特務室では、レオナを除く12名のメンバーがすでに揃い、その日も都の監視をはじめとする各々の仕事に取りかかっていた。 その時、不意に部屋のドアが開いた。 「これは、ピュラ様、いったいどうなされたのですか?」 入ってきた人物を見て、ガイウスが立ち上がって出迎える。 特務室に入ってきたのは、魔導長のピュラだった。 そして、その後ろに付き従っているのは、グレーの髪の、まだ少女と言ってもいい年齢の魔導師。 ガイウスを始め、特務室のメンバーは、その少女のことは知っていた。 彼女は、現在のヘルウェティアの女王であるクラウディアと共に、ピュラの高弟として知られる天才魔導師、リディア。 ただ、ほとんど人と話をしたことがないという彼女の人となりを知っている者は、特務室のメンバーの中にはいなかった。 なぜ、ピュラとリディアがここに来たのかわからないでいる特務室の面々を前に、ピュラはただ微笑むばかり。 しかし、その時。 特務室のメンバーは、目も眩むような光に包まれた。 「ん?ここは?」 自分たちを包み囲んでいた光が収まり、周囲を見回す特務室の面々。 気付けば、彼らは何もない茫漠とした空間に立ちつくしていた。 「なんだ、ここは?」 互いに目を合わせてざわつく特務室のメンバー。 対象を自分の精神世界に連れ込むリディアの能力は、ピュラとクラウディアしか知らないものであった。 すぐに、彼らは自分たちの前に立つ灰色の髪の少女に気付く。 それは、彼らも知っているはずの、ピュラの高弟である魔導師リディア。 だが、今目の前いる少女は、さっき彼らが見た彼女の姿よりも少し幼く見えた。 それは、シトリーがリディアの精神世界の中で、彼女の成長をそこで止めていたためなのだが、そんなことは彼らにはわかるはずもない。 「やっ、これは!?」 その場にいた全員が、自分たちの体の自由が利かないことに戸惑いの声をあげる。 「ふふふっ、だめですよ、みなさん。そのまま動かないでくださいね」 目の前の少女は、無邪気な笑みを浮かべると、目を閉じて何か集中している様子だ。 「ええっ?」 彼らの目の前で、少女の灰色の髪が紫に染まり、耳の先が鋭く尖っていく。 「なっ!?」 その様子に、特務室のメンバーは息を呑む。 そして、再び目を開いた少女の瞳は、金色に輝いていた。 (さあ、私の目を見て。あなたはわたしの目を見るとどんどん気持ちよくなって何も考えられなくなる) 全員の頭の中に言葉が響く。まるで、直接言葉が伝わってくるような気がした。 「あ、ああ……」 次第に、特務室のメンバーの表情が緩んでいく。皆、一様にだらしなく口を開き、目の光が消えて虚ろになっていた。 (そう、気持ちを楽にして。そうしているととっても気持ちいい。ほら、もう何も考えられない) だらりと腕を下げ、呆けた様な表情で立ちつくしている特務室の面々。 その様子に、紫の髪に金色の瞳の少女、魔族状態のリディアはその様子に笑みを浮かべる。 (この声を聞いているととっても気持ちいいの) その、頭の中に響いてくる声が、心の中にまで染み込んでくるようだ。 全員、呆けたように表情を緩ませて突っ立ったまま。 (この声は気持ちいいから、すっと心の中に入ってきて、その言葉の言ったとおりになってしまうの。いい?) 「はい……」 ぼんやりとした笑みを浮かべたままで頷く一堂。 その反応に手応えを掴んだようにうっすらと微笑むと、リディアは再び目を閉じ、彼らの時間を2ヶ月ほど遡らせる。 (ほら、ここは王都特務室よ。今、何か気になっていることがあるんじゃない?構わないから言ってごらんなさい) 「都のセンサーが、発生源のわからない不審な魔力を感知しました……」 ガイウスが、虚ろな表情のままで口を開く。 (そう。それで?) 「魔力の発生源を隠す行為は禁じられています。特務室としては見逃すわけにはいきません……」 抑揚のない口調で話を続けるガイウス。 (それは何の問題もないわ。だって、当たり前のことなんですもの) 「当たり前の、こと……?」 (そうよ。考えてもごらんなさい。ここは魔法王国ヘルウェティアの都なのよ。いろんな魔力の反応があって当然じゃないの。もちろん、その中には発生源のわからないものもあるに決まってるわ) 「それも、そうですね……」 (だから、何も気にする必要はないの) 「はい……」 ガイウスを筆頭に、力なく首を縦に振る特務室のメンバー。 彼らはもはや、頭の中に染み渡るその声に抗ったり、疑念を持ったりすることはできなくなっていた。 そんな彼らの様子を確かめると、リディアは少しずつ彼らの時間を進めていく。 (ほら、また発生源のわからない魔力が感知されたでしょ) 「はい……」 (ほら、また) 「はい……」 (ね。都で発生源のわからない魔力を感知するのはごく普通のことなの。だから、なにも気にしなくていいのよ) 「はい……」 ぼんやりと返事をする一堂を見回して、リディアは笑みを浮かべて何度も頷く。 (いい子ね、みんな。じゃあ、私が合図したらみんな眠りなさい。そして、ここに来たことは忘れて、すっきりした気持ちで目が覚めるの) 「はい……」 (目が覚めたら、あなたたちは、その魔力について不審に思っていたことも、その魔力について考えたり行動したことは全て忘れてしまうの。そして、その発生源のわからない魔力のことは全然気にならなくなる。だって、それはごくごく当たり前のことなんですもの) 「はい……」 (じゃあ、みんな眠りなさい) リディアの合図で、全員その場に倒れ伏す。 それを確認すると、リディアは集中を解き、大きく息を吐く。 すると、紫だった髪の色がさっと褪せて灰色になり、開いた瞳の色も青い色に戻っていた。 そして、リディアはもう一度目を閉じると、全員を自分の精神世界から現実へと戻す。 「ガイウス?どうしたの、ガイウス?」 体を揺さぶられてガイウスが目を覚ますと、心配そうにピュラが見下ろしていた。 「これは……ピュラ様……?」 「いったいどうしたの?特務室の全員が眠っているなんて。何者かに攻撃でもされたというの?」 「あ、いえ、そのようなことはないと思いますが」 ガイウスは、不思議そうに部屋の中を見回す。 今起こされたガイウス以外のメンバーは皆自分の机に突っ伏して眠っていた。 どう見ても不自然な状況なのに、なぜそういうことになったのか思い出せない。 「本当に何もないの?特務室が攻撃されるなんて由々しき事態なのよ」 彼らに操作を施したのは彼女たちだというのに、そんなことは表情にも出さずにピュラは尋ねる。 「ええ。大丈夫です」 「そう、それならいいんだけど」 そう言いながらも、まだ気がかりな風を装うピュラ。 「本当に何もないの?最近取りかかっていた事件とかはないの?」 「いいえ、このところ大きな問題はないですから」 「そうなの。……あら、これは何かしら?」 不意に、ピュラがガイウスの机の上に置いてあった書類に目を留める。 「ああ、これは都で観測された魔力のデータです」 「そうなの。で、何か問題でもあるの?」 「いいえ、全く。いつも通りで、何の問題もありません」 「そう。ならいいんだけど、くれぐれも気を付けるのよ、この王都特務室は都の防備の要なんですから」 「はい」 「それでは、失礼したわね」 身を翻すと、ピュラは入ってきたときと同じようにリディアを従えて部屋を出ていく。 ガイウスの位置からは、ドアを閉める瞬間、ピュラがリディアと妖しげな笑みを交わしたのは見えなかった。 ふたりが出ていった後、ガイウスは机の上の書類を眺める。 そこにあるのは、都で反応があった魔力の日付と強さを示す数字が書かれている。 本当に、何でもない、ごく当たり前のデータだ なぜ、この書類がさも意味ありげに机の一番上に置かれていたのか、それすらもわからない。 ガイウスは、首を傾げながら立ち上がると、いまだ机に伏せっている他のメンバーを起こしにかかる。 その日、レオナが王都特務室に顔を出したのは、もう昼も過ぎた頃だった。 「ん?どうしたんだ、レオナ?何の連絡も無しにこんな遅く出てくるなんて?」 怪訝そうな表情でレオナに声をかけるガイウス。 「え?昨日室長に言われたとおり、朝からスラムで聞き取りをしてきたんですが」 「何のことだ?私はそんなことは命じてないぞ」 「そんなっ!このところ都で感知されている不審な魔力のことで、スラムを調べてこいと仰ったではありませんか!」 「このところ感知されている不審な魔力?いったい何のことを言っているんだ?」 「ええっ!?これっ、これです!この、何度も感知されている発生源不明の魔力のことですよ!」 狼狽えながら、レオナはガイウスの机の上の書類を指さす。 「ああ?これがどうかしたのか?何の変哲もない普段通りの観測結果じゃないか」 「そんなわけあるはずが!ほら、これもっ、これもっ、全部正体の分からない不審な魔力じゃないですか!」 「さっきから何を言っているんだ、レオナ。そんなの当たり前のことじゃないか」 「あ、当たり前って……」 「まあ、今日は朝からこっちでも変なことがあったしな。きっと夢でも見ていたんだろう」 「ゆ、夢って、そんな」 そのまま、絶句して立ちつくすレオナ。 特務室の他のメンバーからも、不審そうな視線が自分に浴びせられているのをひしひしと感じる。 「まあ、今日の遅刻のことは不問にするから、早く仕事に戻りなさい」 「……はい」 そう一言だけ返事をすると、レオナは自分の机へと戻る。 だが、胸のわだかまりは晴れない。 いったい、何があったというの? 席についても仕事など手に着くはずもない。 まだ、奇異の目が自分に向けられているのを感じる。 おかしいのはみんなの方なのに……。 背中に他のメンバーの視線を感じながら、仕事に没頭するふりをするレオナ。 特務室全体にも、何とも言いようのない空気が漂っていた。 夕方。 レオナ以外に残っていた最後のひとりがさっき帰宅し、今、ここに残っているのは彼女のみ。 もう、誰も戻ってきそうにないのを確認すると、レオナは自分の席を立つ。 今日のみんなの様子、絶対におかしいわ。 レオナは、呪文を唱えて探査の魔法を発動させる。 魔導院の中であるから、魔力の反応が多数あるのは当然としても、レオナの探している、悪意のあるものは、すくなくとも特務室の中には感知できない。 部屋の中に仕掛けがあるわけではないのね。なら、何者かが侵入してみんなに何かしたんだわ。 そう考えるレオナの額に、うっすらと冷や汗が浮かぶ。 人間の記憶や精神に手を加える魔法は、禁術とされている。いや、禁止されていなかったとしても、人の心を操る魔法など、難しすぎて扱える者は数えるほどしかいないだろう。 それに、王都特務室のメンバーは、常に実戦にあることを想定して選ばれた魔導師ばかりだ。身体的な能力はもちろん、精神力においても秀でた人間が選ばれている。それを、全員の心にこんなにあっさりと手を加えるなんて、それをした者はかなりの強敵だ。 なにか、犯人の手がかりになるようなものは残ってないの? レオナは、特務室の中をくまなく調べ始める。 ん?これは? 結局、何かの道具や薬品といった遺留品は残っていなかったが、床を調べていたレオナは、入り口付近に数本の髪の毛が落ちていたことに気が付いた。 これは、白髪?でも。 その髪の毛は、一見白髪のように見えた。だが、特務室のメンバーには白髪の者はいない。 これがいつからあったのかわからないし、犯人のものではないかもしれないけど……。 だが、レオナの勘が、その髪の毛が怪しいと告げていた。 レオナは、その髪の毛を摘んだまま自分の席に着くと、水晶玉を取り出す。 そして、指先の髪の毛に意識を集中しながら、低い声で呪文の詠唱を始める。 そのまま、10分ほど呪文を唱え続けていても何の変化も起こらない。 やっぱり、たったこれだけの髪の毛で、その持ち主を特定することは無理なの? レオナの脳裡に、諦めがよぎる。 でも、手がかりはこれしかないのよ。 思い直したように姿勢を正すと、縋るような思いで髪の毛に意識を集中し、必死に呪文を唱える。 すると、水晶玉にぼんやりとした映像が浮かび上がった。 レオナが、さらに集中力を高めて呪文を唱えると、次第にその映像の焦点が合ってはっきりとしていく。 「あっ!」 驚いたレオナが声をあげた瞬間、水晶玉の中の映像はふっと掻き消える。 だが、その前に彼女はその姿をはっきりと見ていた。 それは、魔導長であるピュラの高弟で、天才魔導師と呼ばれる灰色の髪の少女。確か、名前はリディアとか言ったはずだ。 レオナは、言葉こそ交わしたことはないが、彼女のことは聞いたことがあった。 そして、その少女が極端に寡黙で、自分の部屋と、魔導長のピュラの所にしか行かないことも魔導院の中では有名な話だった。 だから、本来なら彼女が王都特務室になど来るわけがない。 それなのに、なぜここに彼女の髪の毛が? その、白髪のように見えるグレーの髪を眺めなら、レオナは考え込む。 しばらくすると、意を決したように彼女は立ち上がった。 魔導院、西の第二塔。 外に出ると、日が暮れてすっかり暗くなっていた。 レオナは、塔の入り口へと近づいていく。 確か、彼女の部屋はこの塔の三階にあるはずだわ。 レオナは、下から塔を見上げる。 そのまま、ぐるりと塔の周囲を回ってみても、三階の辺りからは灯りが漏れている気配はない。 どうやら、もう部屋にはいないみたいね。 もし、特務室の皆に何かしたのが彼女だとしたら、正面からぶつかっても尻尾を掴むことはできないだろう。 それどころが、彼女の実力を考えると危険ですらある。 ならば、むしろこの機会に彼女の部屋に忍び込めば、何か手がかりを得ることができるかもしれない。 レオナは、緊張の面持ちで、塔の中へと入っていく。 用心深く階段を上っていって三階に着くと、リディアの部屋の前で、もう一度レオナは人の気配を窺う。 うん、人がいる気配はしないわね。 レオナがドアのノブに手をかけた。 さすがに、ドアには鍵が掛かっている。 特に魔法で施錠はしていない、ごく普通の鍵ね。これなら開けられるわ。 いったんノブから手を離すと、レオナは短い呪文を唱えて鍵を開ける。 そして、充分に注意を払いながらゆっくりとドアを引く。 やはり部屋の中には誰もいない。 もう、すっかり暗くなった部屋の中で、レオナは再び何か呪文を唱えると小さな光球を浮かべる。 その淡い光に照らされて浮かび上がった部屋の中は、いたって簡素だった。 そこにあるのは、入り口から正面の、窓側にある机と椅子が一組と、部屋の両側の壁いっぱいを埋める大きめの書棚。 机の上には、水晶玉がひとつと、大きめの本が一冊、ペン立てに立てられた羽ペンが数本とインク壺。 魔導師の机にある物としては何の変哲もない、よくある道具ばかりだ。 レオナは、ゆっくりと書棚に近づいていく。 棚には、ずらりと魔導書が並んでいた。 特に、幻術系の魔導書が充実していて、中には、非常に高度で難解なものも混じっている。 だが、そこには禁書や、怪しげな本は見受けられない。 書棚には取り立てて怪しいところはないわね。 二面の壁いっぱいの本棚を丁寧に調べると、今度は机の方に向かう。 机の上には特に不審な物は見あたらない。 レオナは、机の引き出しをあける。 その中には、おそらく、魔法の媒体に使うであろう宝石がいくつか入っている。どれも、レオナが一目見てすぐにわかるありふれた物だ。 これは。香炉? レオナは、金属でできた皿のような物を取り出す。 皿の中に、薬草の燃えさしのような物が残っていた。 これは?リンデンリーフね。 燃えさしに顔を近づけると、レオナにも覚えのある香りがした。 魔導師が精神を落ち着かせ、集中力を高めるときによく使う薬草だ。 どれもありふれた物ばかり。これでは彼女が特務室の異変に関与している証拠にならないわね。 困惑した表情で立ちつくすレオナ。 だが、特務室に落ちていた髪の毛の持ち主は、この部屋の主である少女であるのは間違いないことだ。 レオナが王都特務室に配属されてから、特務室で彼女の姿を見たことは一度もない。 だいいち、彼女は魔導院の中でも、ほとんど人と接することのない変わり者で通っている。 彼女が普通に接する相手は、魔導長のピュラと、ピュラのもとで共に学んだ現女王のクラウディアだけだという話だ。 特務室の中にそんな彼女の髪が落ちていた。そして、レオナがいない間に、特務室で何か異変があった。 彼女が特務室での異変に関わっていると考えないことには、どうにも説明はつかない。 絶対、彼女は何かを知っているはずなのに。 そう簡単にはボロを出さないということなのかしら。 それに、彼女が特務室の皆に何かおかしなことをしたとして、彼女が黒幕なのか、それとも、その背後に誰かいるのか。 その黒幕が魔導院の中にいるのか、それとも、今朝教会で見たあの金髪の女が関わっているとでもいうの? 今わかっていることだけでは、そこまではわからない。 それに、魔導院の中に黒幕がいるとしたら、それはいったい誰なのか? まさか、ピュラ様が? リディアの師であり、名目上、実力のある魔導師でありながらどの部署にも属していない彼女の直属の上司にあたる魔導長のピュラの名前が浮かぶ。 まさか、そんなことあり得ないわ。 レオナは、大きく頭を振ってその疑念を振り払う。 もし仮にピュラが黒幕だとしたら、どうしてこんな回りくどいことをする必要があるのか。 特務室を骨抜きにするだけだとしたら、魔導長である彼女ならその気になればどうにでもできるはずだ。 いったいどういうことなの?……あら、これは? 途方に暮れていたレオナは、机の上の魔導書に、1ヶ所だけ栞が挟んであるのに気付いた。 何気なく、その頁を開くレオナ。 字がよく見えるように、浮かべていた光球を魔導書に近づける。 え?これは……人の心を惑わす、黄金の瞳の魔物? その頁に書かれていることに、思わず彼女の目が釘付けになった。 特に、人の心を惑わす、という言葉がレオナの心に引っ掛かる。 思い出されるのは、今日の昼、明らかに様子がおかしかった特務室のメンバーのこと。 間違いないわ。みんなに何かしたのは彼女よ。 レオナは、黙りこくったまま本を閉じると、部屋を出ていく。 外に出るとドアを閉じ、魔法を使って元通り鍵を掛ける。 そして、来たときと同じように、静かに階段を降りていった。 レオナが、リディアの部屋を調べていた、その同じ頃。 「なんだ、エミリアもついてきたのか」 教会のアンナの部屋に姿を現したのは、ピュラとリディア、そして、1匹の黒猫。 「なによー、私が来たら迷惑なの?」 「いや、別に迷惑だとは言ってない」 いつものように、挨拶代わりに軽口を叩くエミリアとシトリー。 「で、どうだったんだ、ピュラ?」 「はい」 少女姿のシトリーに促されて、ピュラが朝の首尾について報告を始める。 「なるほど、何も問題はないと、そう言ったか」 「はい。どうやら、記憶と認識の操作は上手くいったようです」 「そうか、よくやったな、リディア。えらいぞ」 「は、はい」 頭を撫でられて、リディアが照れたように頬を赤らめる。 シトリーが彼女にそんなことをさせたのは、リディアの能力にまだ伸びしろがあると考えたからだ。 今のリディアなら、記憶や認識の操作は簡単にできるだろうとシトリーは踏んでいた。 それどころか、彼女の能力が開花したら、人の精神をかなり自由に操れるようになるのではないかとすら思っていた。 なぜ、そこまでしてシトリーがリディアの能力を伸ばそうとしているのかは、これまでの苦い経験のせいであった。 アンナやシンシアのような、さして特別な魔力や霊力のない聖職者や、エルフリーデのような騎士、あるいは街の娼婦などには簡単にシトリーの能力が通用した。 だが、ピュラやリディアのような魔導師にはかなり手こずった。いや、そのままではシトリーの能力は通用しなかったといっていい。 ピュラの時には、エミリアがすでにピュラの体を乗っ取っていたからこそ最終的に堕とすことができた。 リディアの時には、ピュラの魔法で立場を逆転させていたから、ある意味、リディア自身の能力を使って堕としたといっていい。それも、リディアがあくまもでシトリーの能力を弾き返すので、年齢退行させて教育し直すという手間の掛かる方法を採らなければならなかった。 それ程までに、この国の魔導師の精神力と抵抗力は強靱だった。 シトリー自身、その点に関しては己の見通しの甘さと、能力の未熟さを認めざるを得なかった。 だから、今後のために、リディアの能力を伸ばし、自分の補助をさせる目論見であった。 もちろん、シトリーが見据えているのは、最終ターゲットである、この国の女王、クラウディア。 彼女自身が優れた魔導師である以上、ピュラやリディアのように、そのままではシトリーの力を跳ね返す可能性が高い。 それに、古から伝わるこの国の王家の人間であるクラウディアは、リディアのように人ならざるものの血を受け継いでいるかもしれない。そうなると、ますます手強い相手といえるだろう。 そのために、それまでにリディアにはぜひとも力を伸ばしておいてもらう必要がある。 それともうひとつ、まだ誰にも話していないが、このところ、シトリーは力を使うときの疲労感が以前よりも大きくなっていると感じていた。 そんなことは今までになかったこと。だが、シトリーには心当たりがあった。 「あの、そこで、ちょっと気になることが」 ピュラに話しかけられて、シトリーは我に返る。 「どうした、ピュラ?」 「実は、今朝、特務室には12人しかいなかったのです」 「12人?確か特務室のメンバーは総勢13人だと言っていたな?」 「はい。おそらく、彼女は非番だったのか、それとも何らかの任務に就いていたのか……」 「彼女?そいつは女か?」 「はい。彼女の名前はレオナ。容姿は、こんな感じです」 ピュラが呪文を唱えると、魔導師のローブを身につけ、赤毛をポニーテールに結った若い女の幻像が部屋の中に浮かび上がる。 「あっ!この人は!?」 その幻像に反応したのはアンナだった。 「なんだ、アンナ、何か知っているのか?」 「ええ。今朝、気分転換に、ふたりで裏庭の芝生に出たじゃないですか」 シトリーの方に向き直ってアンナ話し始める。 「ああ」 「その時に、裏門の向こうからこの女の人が私の方をじっと見ていたんです」 「なんだと?」 「間違いありません。魔導師のローブではなく、普通の町娘と同じ格好でしたが、絶対にこの人です」 アンナは幻像を指さしながら少し興奮したように言う。 それには、さすがに少し驚いた表情を見せるシトリー。 「ああ、それだから」 そう声をあげたのはピュラだ。 「だから、今朝、彼女は特務室にいなかったのね」 得心がいった様子で頷くピュラ。 「問題は、なぜそいつがアンナのことを見ていたかっていうことだ」 「それは、一昨日、私が特務室室長のガイウスに向かって教会に不穏な動きがあると言っていますし。あの後すぐにガイウスが彼女に調査を命じたとしたとすると……」 「それにしても、すぐにアンナに目を付けるのか?」 「確かに」 そう言ったまま考え込むピュラ。 さすがに、レオナがスラムで聞き込みをしていたことまではシトリーにもピュラにもわからない。 「もし、そんな短時間でアンナが怪しいことを掴んだのなら、なかなか侮れない相手だぞ」 「しかし、アンナが怪しいという確証を得たのなら、もっと目立った動きがあってもおかしくないのですが」 「まあ、その女がどこまで嗅ぎ付けているのかはわかないがな。だが、このまま動き回られても面倒だぞ」 「そうですね。早々に手を打たないと」 「もし、明日そいつが魔導院に姿を現したら監視の目を緩めるな。リディア、おまえは、どのくらい離れた相手まで精神世界に連れ込めるんだ?」 「ええと、10歩、いや、12、3歩くいらいかな?」 シトリーの問いかけに、首を傾げながら答えるリディア。 「12、3歩か。それほど距離はないな。やっぱりだいぶ近づかないと無理だな」 「どうしたんですか?」 「いや、遠距離から一気に精神世界に引きずり込めたら楽だと思ったんだけどな」 「ごめんなさい」 表情を曇らせるリディア。だがシトリーは穏やかな口調で続ける。 「気にするな。隙を見て捕らえてからじっくりやればいいだけの話だ。それに、おまえにはまた新しいことをやってもらいたいしな」 「新しいこと?」 その言葉に、リディアがきょとんとした顔で聞き返してきた。 そんなリディアの様子に、少女は、ふふっと小さく笑う。 「つまり、おまえの力はまだまだ伸びるってことだ。どうするのか、詳しいことはまたその時説明するさ。ところで、ピュラ。」 不意に、真剣な表情で少女がピュラの方を向く。 「なんでしょうか?」 「僕たちが力を使ったときに溢れた魔力をおまえは感知できていたわけだな?」 「はい」 「だったら、今回の特務室みたいに、他の者が気付く可能性は考えなかったのか?」 「あっ、そ、それは……」 「怠慢だな、ピュラ」 「も、申し訳ありません」 「言ったはずだ、僕の役に立てば褒美をやると。だが、今回はお仕置きだな」 「お、お仕置きですか?」 「ああ、役に立たない下僕は再教育だ」 怯えた様子を見せるピュラに、冷たく言い放つ少女。だが、その目は微かに笑っていた。 そして、いきなり服を脱ぐと、少女の姿からもとの姿に戻る。 「ええ?シトリー様?」 「まあ、今日はエミリアもいるしな。さあ、ピュラ、僕に奉仕して見せるんだ。おまえの弟子に、僕の下僕であることがどういうことか見せてやるんだよ」 ベッドに腰掛けて腕を組み、にやつきながらピュラの顔を眺めているシトリー。 ピュラは、そんなシトリーの顔とリディアの顔を、戸惑った様子で交互に眺めている。 「わかりました、シトリー様。ご奉仕させていただきます」 しばらくそうしていたが、ようやくそう言うと、ピュラはシトリーの足下に跪く。 そのまま体を前に屈めると、シトリーの股間に顔を近づけていく。 しかし、いきなりシトリーは体を引き、ピュラの頭に手を当てて押し止める。 「え?どうしてですか、シトリー様?」 「ここはだめだ。お仕置きだと言っただろう。ここ以外でやってみせろ」 「は、はい。かしこまりました」 ピュラは、床に手をついて四つ這いになると、舌を伸ばしてそのつま先にしゃぶりつく。 「ぴちゃ、ぴちゃ、んふ、ちゅぱ」 湿った音を立てて足の指を舐めているピュラの姿を、シトリーは薄ら笑いを浮かべて見下ろしている。 「んふ、んむ、くちゅ、んちゅ、んむ、ちゅぱっ、むふう」 目を閉じたまま、親指を口に含んでじっくりと舐っているピュラ。早くも、その頬はほのかに赤く染まり、熱い吐息が漏れ始めている。 ひとしきり足の指を舐め回した後、今度は足首からすねに向かって舌を這わせていく。 「ぴちゃ、ぴちゃっ、えろ、ぺろろっ」 ぴちゃぴちゃと音を立てながら、赤い舌がちろちろと肌の上を滑るように動いていく。 そして、時おり上目遣いにシトリーを見上げるピュラの紫紺の瞳はすっかり潤んでいた。 ピュラの舌の動きに合わせて伝わる、くすぐったいような刺激。 だが、それよりも、獣のような姿勢で頬を赤く染め、瞳を潤ませてシトリーの足を舐めているピュラの姿を眺めている方が刺激的に思える。 「ぴちゃ、ぺろろ、ぺろ、ちゅば、ぴちゃっ」 ピュラも、自分の行為に興奮してきたのか、上気した頬を真っ赤に染めて、ローブの襟元から湯気が立ち上り始めていた。 「ぺろろろ、ぺろっ、えろろっ、ぴちゃっ」 舌を伸ばしたまま、赤紫の髪をばさばさと振って頭を大きく動かすと、シトリーの反応を窺うように潤んだ瞳を向けてくる。 シトリーがにやつきながら頷くと、ピュラはふやけた笑顔を浮かべて、再びその足に舌を這わす。 その様は、もはやヘルウェティアの魔導長ではなく、さかりのついた獣そのもの。そこにいるのは淫乱な悪魔の下僕であった。 「んふ、ぴちゃ、えろ、ふにゃあ、えろろ」 彼女自身そう感じているのか、それとも、かつて一度猫化したのがフラッシュバックしているのか、時々猫のような鳴き声を交えている。 「あ、ああ、ピュラさま……」 そんな師の姿を立ちつくしたままで眺めているリディア。 だが、その表情にはショックの色はない。 むしろ、その頬は紅潮し、もぞもぞと足を摺り合わせるようにしている。 「ぴちゃ、ぴちゃっ、れろ、ぺろろっ」 そんな弟子の前で、うっとりと目を閉じているピュラの舌は、すでにシトリーのふとももにまで上がってきていた。 すると、いきなりリディアが師と同じように四つん這いになって、もう片方のシトリーの足に舌を伸ばしてきた。 「ぴちゃ、ぺろ、ぺろろっ、んっ」 上目遣いに見上げたリディアの視線が、シトリーの瞳を捕らえた。 「お願い、おじさま。わたしにもご奉仕させて」 そう訴えると、返事も待たずに再びシトリーの足を舐め始める。 「んふ、えろ、ぺろろ、れろっ」 「ちゅば、ちゅぱっ、ぴちゃっ、ぺろっ」 まるで、親子の猫のように体を並べてシトリーの肌に舌を這わせる師弟。 熟れた女の色気を漂わせながら大胆に舌を動かすピュラと、まだ少したどたどしく、それでも一生懸命に舌を伸ばすリディアのまだ幼さの残る表情が好対照だ。 「れろっ、んふう、えろろっ、ぴちゃっ」 「ん、ぴちゃ、ちゅば、ぴちゃ、んふ」 ふたりの舐める位置が次第に上に上がっていく。 「ぴちゃ、ぴちゃっ。……あ」 その時、リディアの頬に股間の肉棒が当たった。 思わず、潤んだ瞳でリディアがシトリーを見上げる。 「うん、いいぞ、リディア。おまえはちゃんと仕事をしたからな」 「はいっ!んっ、ぴちゃ、あふ、えろ、えろろ、ちゅぱっ」 シトリーが許可を与えると、リディアは嬉しそうに肉棒にしゃぶりつく。 「あ、ああ……」 ピュラが、舌を動かすのを止めて、肉棒にしゃぶりついている弟子の姿を物欲しそうに見遣る。 「おまえは我慢するんだ。これはお仕置きなんだからな」 「あ、はい……」 「わかったら奉仕を続けろ」 「はい。えろ、ぺろろ、んふ、ぴちゃっ」 そうたしなめられて、ピュラは、シトリーの腰から脇腹の辺りを舐め始める。 「むふう、ちゅば、ちゅぼ、んふ、あむ、んむう、ちゅる」 「えろろ、ぺろ、ぴちゃ、ぺろっ、ぺろろ」 シトリーの股間に顔を埋め、肉棒にしゃぶりつく灰色の髪の少女と、ももに手をかけて主人の脇腹に舌を這わす熟れきった女。 ふたりとも、頬を上気させ、恍惚とした表情で目を閉じている。 もうだいぶ夜も更けてきた部屋の中に、淫靡で湿った音が響き続ける。 そんなふたりの魔導師の姿を、笑みを浮かべて眺めていたアンナの背後に、黒猫モードから人型に戻ったエミリアがそっと忍び寄った。 エミリアの片手がアンナの股間に、もう片方の手がその口許に伸びる。 「ん?んんっ!?ぐむむむむ!?」 アンナの口を押さえて、エミリアは股間に当てた手に力を込める。 「んんんっ!?んむむむむっ!?」 自分の体に起きた変化に気付いて、目を白黒させるアンナ。 エミリアは、ようやくアンナの股間から手を離し、にやっと笑うと、静かにしろという風に指を立てて口に当てる。 「むむぅっ!ん、はあっ、エミリアさん、いったいこれはどういうこと!?」 ようやく口を解放されて、少し喘ぎながらアンナが抗議するように問い質す。 アンナの手が自分の服の裾をまくり上げると、ショーツを押しのけてその股間から突き立っているのは紛れもなく男の肉棒だった。 「せっかく目の前にこんないいものがあるんだから、あたしたちも楽しまないと、ね」 そう言ってアンナにウィンクすると、エミリアは自分の股間に手を当てて目を閉じる。すると、そこからもアンナと同様に肉棒が現れる。 「じゃあ、あたしが先にいくからね」 エミリアは、シトリーの肌に舌を這わせているピュラの背後に回ると、ローブをたくし上げてその腰を掴み、一気にその秘裂に肉棒を突き入れた。 「んんっ、ふあっ、ふやああああっ!」 いきなり背後から犯されて、ピュラが堪らず体を仰け反らせる。 「むふふ〜。やっぱり、ピュラさんったらもうこんなにぐしょぐしょだよー」 「あっ、ふああああっ、えっ、エミリアさん!?あうっ、あああっ!」 エミリアが、ピュラの腰を掴んだまま、体を前後に動かして、肉棒をピュラの中に打ちつける。 何がなんだかわからないまま、快感の波に飲まれていくピュラ。 そんなエミリアとピュラの姿を見ながら、アンナは自分の股間から生えているものをそっと触ってみる。 自分の股間から生えているそれはガチガチに固く反り立ち、軽く触れただけで痺れるようか快感が走って、アンナは思わず体をびくんと震わせる。 そんなアンナの方に顔を向け、腰を揺すってピュラを犯しながら、エミリアが目配せをした。 アンナも、ようやくその意図を理解したのか、妖しい笑みを浮かべてリディアの背後に立つ。 そして、リディアのローブの裾をたぐると、その裂け目に肉棒を当てる。 「ちゅば……。えっ、な、なに!?」 思いがけない感覚に、思わずシトリーの肉棒をしゃぶるのを中断したリディアに構わず、アンナは股間の肉棒をその中に突き挿す。 「えええっ!?やっ、どうして!?ああっ、ふあああっ!」 いきなり襲いかかってきた快感に、リディアが思わずしゃぶっていた肉棒から口を離す。 この、自分の中に入ってくる感触と快感。それは、決してリディアにも馴染みのないものではない。 だが、この快感をもたらすものは、たった今まで自分がしゃぶっていたそれ以外にはあり得ないはずだった。 シトリーの肉棒をしゃぶるのに熱中していたリディアには、自分の後ろで何が起きていたのかわかるわけがなかった。 だが、戸惑っているのはリディアだけではなかった。 「ああっ、こんなのっ、すっ、すごいいいっ!」 リディアの裂け目に肉棒を突き立てているアンナも、自分の腰をリディアに打ちつけた姿勢のまま上体を仰け反らせる。 その体は小刻みに震え、恍惚とした表情を浮かべていた。 だが、すぐにアンナは腰を前後に動かし始める。 「ああっ、すごいいっ、女の子の中っ、こんなに暖かくて気持ちいいなんてっ!」 「ふあああっ、ああっ、アンナさん!?アンナさんがどうしてっ!?うあああっ!」 「ああんっ!私のおちんちんっ、リディアちゃんの中で擦れてっ、気持ちいいいいっ!」 「やあっ!なんでっ、アンナさんがっ!?ああっ、ふわああっ!」 自分を犯しているのがアンナだということはわかるが、なぜアンナに自分を犯す肉棒が付いているのか全くわからないまま、快感の波に翻弄されるリディア。 しかし、快感の波に飲まれているのはアンナも同様だった。 女の体では経験したことのない快感に、夢中になって腰を振り続ける。 「ふふふっ、まだまだこんなものじゃないわよ〜!」 「はあああっ、あっ、あああっ!エミリアさんっ、あああっ!」 「あんっ、気持ちいいっ!気持ちいいよっ、リディアちゃん!私のおちんちんがっ、リディアちゃんの中っ、出たり入ったりしてるううっ!」 「ふああっ、わたしもっ!ふあああああっ!」 それぞれの繋がった場所から、ぱんっぱんっとリズミカルな音が響き、4人それぞれの艶めかしい声が上がる。 女同士の、有り得べからざる肉欲の宴。 にやにやしながらそれを眺めていたシトリーが、おもむろにエミリアに声をかける。 「おい、そっちじゃないぞエミリア」 「え?そっちじゃないって?」 「今夜、ピュラにはお仕置きなんだからな。もうひとつ穴があるだろう。そっちの方を開発してやれ」 「あ〜、そういうことね!」 エミリアはにやっと笑うと、ピュラの秘裂から肉棒を引き抜く。 「ふああっ、あ……?」 「へへへっ、シトリーがああ言ってるからね」 そして、エミリアは少し場所をずらして、ピュラの尻の方に肉棒を持っていく 「え?えええ!?エミリアさんっ、そっちは違うわっ!」 「うふふふ〜!違わないのよ〜!」 そのまま、ピュラのアヌスに向かってエミリアは肉棒を突き挿した。 「はあっ!おほおおおっ!」 本来、何かを入れるためのものではない場所に、固くて太いものが入ってくる異様な感覚がピュラを襲う。 息苦しいまでの異物感に、目を見開くピュラ。 「んぐっ、ああっ!くっ、苦しいわっ、エミリアさん!」 「我慢するんだ、ピュラ。これはおまえへのお仕置きなんだからな」 「あ、あくうっ!し、シトリー様っ!くはあっ!」 シトリーにそう言われて、歯を食いしばるピュラ。 「はっ、ほおっ、ふうっ、はあっ!」 息苦しさから逃れようとでもいうのか、エミリアの動きに合わせて、ピュラは大きく息を吐く。 その額に、大粒の汗が浮かんでいた。 一方、その隣のふたりはというと。 「ああっ、すごいっ、すごいよっ、リディアちゃんっ!」 「あんっ、はんっ、ふああっ!激しっ、すぎですっ、アンナさぁん!」 リディアに肉棒を突き挿して大きく抽送を繰り返しているアンナ。 その表情は、初めて女を犯す高揚感とその快感にすっかり蕩けていた。そして、蕩けきった顔をしているのは、犯されているリディアも同じ。 「ああっ、はああんっ!やっ、だめっ、私っ、もうイっちゃううっ!」 初めての快感に、早くもアンナの方が限界に達しようとしていた。 「んはああっ!ああっ、やっ、なにっ、この感じっ?あああっ、何か来るううっ!」 「うふふ〜、あたしの仕事は完璧なんだから。ちゃんと射精もできるのよ〜!」 女の身には当然だが、初めての射精感に戸惑うアンナに向かって、ピュラの尻を犯しながら暢気そうにエミリアが答える。 「あっ、あああっ、出るっ、私のおちんちんからっ、ああああっ!」 「ふあああっ!来るうっ、来ますぅっ!アンナさあぁん!」 アンナが体を弓なりに反らせるようにして肉棒をリディアの奥深くに突き挿して、ぶるぶると全身を震わせる。 リディアもそれに合わせるようにして、体を仰け反らせる。 「あああああっ、なにこれええええっ!だめぇ!搾り取られちゃうううううっ!」 「ふああああああっ!来るうううううううっ、熱いいいいいっ!」 ほぼ同時に絶頂に達するアンナとリディア。 ふたりの喘ぎ声がシンクロする。 「んんん、ああ、あ、リディア、ちゃん……」 「んあああ、ふあ、アンナ、さん……」 そのまま、体をぐったりとさせて、潤んだ瞳で見つめ合うふたり。 「それでもう終わりか、リディア?」 シトリーの足にもたれるようにしているリディアに、上から声が降りかかる。 「んん、え、おじさま?あっ!」 まだ、少し朦朧とした瞳で見上げてくるリディアの華奢な体を、シトリーが軽々と持ち上げる。 「まだまだそんなもんじゃ足りないだろう」 そう言うと、リディア自身のフェラで固くなっていたままの肉棒をその秘裂に挿し入れた。 「あああっ、おじさまっ!ああああああああっ!」 たった今射精されたばかりの中に挿入されて、リディアは体がぐらつきそうになった拍子にシトリーにしがみつく。 「んんっ!んくううううっ!」 シトリーの首に腕を絡めて、ぎゅっと抱きついているリディア。 だが、その勢いで肉棒が一気に奥まで入ってきて、リディアは伸び上がるような体勢になって喘ぐ。 その、固く閉じたまぶたの端に、大粒の涙が光る。 シトリーは、そんなことはお構いなしに、抱え上げたリディアの体を揺すり始めた。 「あっ、ひああっ、あんっ、あうううっ!」 全身を使って体を大きく揺すると、それに合わせてリディアの細い体が跳ね上がる。 膝のバネを使って、抱きかかえたリディアの膣を下から突き上げ、その尻を抱えた腕を揺すってより深く肉棒をたたき込む。 「あんっ、はっ、はあっ、おじさまっ!ああっ、ああんっ!」 その度に、シトリーにしがみついたまま、リディアは甲高い喘ぎ声をあげる。 と、その時。 「はううっ、ふおおおおおおぉ!」 シトリーたちの隣で、獣のような声が上がった。 見れば、さっきまでエミリアにアナルを犯されながら苦しげな様子を見せていたピュラが体を弓なりに反らせていた。 「おほおっ、ふおっ、はあっ、はあああっ!」 そして、四つん這いになったままで尻をぐいと突き上げて、自分から体を動かし始める。 「うふふふ〜!やっと気持ちよくなってきたのね、ピュラさん。ぐいぐい締め付けてくるわよ」 「あはあっ、はあうっ、んふうっ、ふおおっ!」 エミリアの言葉には返事もせずに、ピュラは赤紫の髪を振り乱して突き上げた尻を揺らし続ける。 恍惚として目を閉じ、はぁはぁと大きく喘いでいる様から、すっかり快感に飲まれているのがわかる。 「うふうっ、ほおおっ、ああっ、あはあああっ!」 「あんっ、あっ、やっ、おっ、おじさまっ、あああっ!」 ピュラの低い喘ぎ声と、リディアの甲高い喘ぎ声が、まるで旋律のように絡み合う。 そんなふたりの様子を見ていたアンナが、もぞもぞと足を動かしているのにシトリーは気付く。 また欲情してきたのか、よく見ると、アンナの股間のものが再び持ち上がっていた。 それを見て、シトリーはニヤリと笑顔を浮かべる。 「なんだ、また勃起したのか、アンナ?」 あまりに直接的に言われて、アンナの顔が真っ赤になる。 「あっ、いえっ、そんなことはっ」 慌て否定するが、服を着ていてもそれとわかるくらいに勃っているのを隠すことはできない。 「別に構わないぞ。まだやり足りないんだろ。ほら、こっちに来い」 「え?でも……」 戸惑いながら、リディアへの挿入を続けているシトリーの方に近寄るアンナ。 「挿れるところは1ヶ所とは限らないんだからな」 そう言って、シトリーは含み笑いを浮かべてピュラとエミリアの方を見る。 「あ……」 アンナも、その意味を理解したのか、シトリーにしがみついて喘いでいるリディアの背後に立つ。 それでも、少しの間恥ずかしそうな表情で逡巡していたが、やはり淫らな欲望の方が勝っていた シトリーに向かって一度頷き、彼女らしい、妖艶な笑みを浮かべると服の裾をめくって屹立した肉棒をさらけ出す。 そして、リディアの後ろから、もうひとつの穴に肉棒を宛う。 「ああっ、ふああっ、えっ!?なにっ!?」 いきなり襲ってきた未体験の感覚に、リディアが怯えた様子をみせる。 「えええっ!いやっ、そこは違うのっ!いあああっ、きついいいいっ!」 「あああああっ!私もっ、きついっ!リディアちゃんのお尻の穴がっ、私のおちんちん締め付けてるううっ!」 リディアのアヌスにアンナが肉棒を挿し込むと、ふたりがほぼ同時に頭を反らせて大きく喘ぐ。 「んはあああっ!リディアちゃん、お尻の中まで気持ちいいのおおおっ!」 今日初めて経験した、女を肉棒で犯す快感がよほど気に入ったのか、すぐにアンナは腰を大きく前後に降り始める。 「いああああっ、そんなっ、お尻の穴にいぃ!アンナさんっ!ふああああっ!」 シトリーとアンナに前後から責められて、リディアが髪を振り乱して派手に身をよじらせる。 それまでにさんざん中を掻き回されているうえに、前と後ろと、同時に挿れられているせいもあってか、後ろを犯されるのは初めてにも関わらず、すぐに快感に置き換わっていっている様子だ。 「ひぃああああっ!前と後ろからっ、同時になんてっ!そんなのっ、わらしっ、わらしいいっ!」 さすがに刺激が強烈すぎたのか、たちまちリディアの声がかすれ、呂律が回らなくなっていく。 涙をいっぱいに浮かべたその瞳は、開いてはいるもののどこか遠くを見つめるようにぼんやりとしている。 「あっ、ふああっ、ふあ、ふわああ、はうっ、ふんんん」 意識が飛びかけているのか、リディアは鼻にかかったような力のない喘ぎ声をあげて、虚ろな瞳で体を揺らしている。 「ふおおっ、ほおおおおおおおおおっ!」 今度は低い喘ぎ声が部屋の中に響き渡る。ピュラの声だ。 「んふうううっ、はああっ、ふおおおおおっ!」 四つん這いになっていたピュラの両手は体を支えきれずにくず折れ、頭を床に着けるようにしてなおも尻を突き上げている。 その表情は快感に弛み、涎が床に小さな水たまりを作っていた。 「んんんっ!気持ちいいのね、ピュラさん。ぎゅうぎゅう締め付けてきて、あたしももう限界だよっ!」 背後からピュラを犯しているエミリアの尻尾がぴんと突き立ち、猫耳がピクピクと震えている。 悪魔のエミリアいえども、さすがに限界が近づいているのだろう。 「おほおおおっ!んふうっ、ふおおっ、はああっ!」 だらしなく床に顔をつけたままで喘ぎながらも、それでも突き上げた尻を揺らせて肉棒を貪るピュラ。 リディアもピュラも、瞳からは光が失われ、表情は完全に蕩けて緩んでいる。 この、淫靡極まりない宴にも、そろそろ終わりが近づいてきているのは明らかだった。 そして、その時がやってくる。 「ああああっ!あたしっ、もうだめっ!んんんんんっ!」 「くううううっ!出ちゃうっ!またリディアちゃんに搾り取られちゃうううううっ!」 エミリアとアンナが、ほぼ同時に体を反らせて、ピュラとリディアに向かって思い切り腰を打ちつけた。 シトリーも、黙ったまま腰を突き上げて、リディアの中に精を放つ。 「ふおおおっ!うほおおおおおおおおっ!」 「ひああっ!いああああああああああっ!」 ピュラとリディアも目を大きく見開いて体を硬直させる。 精を放つ方と受けとめる方、4人の女がそれぞれ反らせて固まった体をぶるぶると震わせる。 しばらくそのまま体を硬直させていた後、ピュラの体ががくりと床に崩れ落ち、リディアはぐったりとシトリーに体を預ける。 アンナも下半身の力が抜けたのか、ぺたりと床に座り込んだ。 「すごかったねぇ。どう、アンナちゃん、おちんちんを使った感想は?」 はぁはぁと肩で大きく息をしながら、エミリアがアンナに話しかける。 「んんん、ふうう。本当に、すごかったです。はあぁ、ちょっと、クセに、なりそう」 アンナも大きく喘ぎながら、まだ紅潮した顔をエミリアに向けて途切れ途切れに答える。 「じゃ、それ、そのままにしとく?」 「うーん、でも、これがあるとシトリー様のご褒美がもらえないですからね」 瞳を潤ませ、肩で息をしながらの会話。 ふたりとも、妖しいまでの笑みを浮かべている。 「でも、シトレアちゃんもおちんちん付いてるから、ふたりだといろんな事ができるわよ〜」 「ああ、それもそうですね」 「こら、何を言ってるんだ、おまえら」 ぐったりとしなだれかかっていたリディアをベッドに寝かせて、シトリーが立ち上がる。 「うふふ、冗談ですよ、冗談。ちゃんと元に戻してもらいますから」 「はいはい。でも、また欲しくなったらいつでも言ってよね〜」 軽口をたたき合いながら、エミリアがアンナの股間に手を伸ばして目を閉じた。 すると、その肉棒がみるみる縮んでいく。 「これでよしと。じゃあ、次はシトリーを女の子にしなくちゃね」 アンナの体を元に戻すと、エミリアはシトリーに近寄る。 ピュラとリディアはまだしばらく目覚めそうになかった。 翌朝、魔導院。 「ふあああ。やっぱりまだ少し眠たいわ」 大きなあくびをして、眠たげに目を擦るリディア。 さすがに、昨夜の疲れがまだ抜けきっていない。 目を擦りながら西の第二塔に入ると、階段をゆっくりと上っていく。 「え?」 三階に上がり、自分の部屋のノブに手をかけたとき、眠そうなリディアの表情が一瞬で引き締まった。 ドアに、魔法の気配が微かに残っているのに気付いたからだ。 普通に鍵を掛けて、魔法はかけていないのに? 首を傾げながら、ドアを開けて中に入る。 もちろん、中には誰もいない。いつもと同じ、自分の部屋だ。 だけど、この感じ……。 リディアは、部屋の中に自分以外の誰かが入った空気を敏感に感じ取っていた。 それは、これまでピュラやクラウディア以外の人間とほとんど接することが無く、他人を部屋の中に入れたことがないリディアだからこそわかる、それほどに微かな気配だった。 だれか、ここに来たんだわ。それも魔法で鍵を開けてるところを見ると魔導師ね。 でも、いったい誰が? リディアは、机に近づくと、水晶玉を目の前に置いて呪文を唱え始める。 すると、水晶玉にだんだん映像が浮かび上がってきた。 「あ、これは!?」 水晶玉に映っているのは、部屋の中を探るひとりの人物の姿。 その姿を見てリディアは短く声をあげる。 その、赤毛をポニーテールに結った魔導師の姿には見覚えがあった。 確か、昨日ピュラが幻像で見せた、王都特務室でリディアの操作を受けなかった最後のひとり。 「これは、ピュラ様に報告しなくちゃいけないわね」 リディアはそう呟くと、急いだ様子で部屋を出ていった。
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