花の帝国


 

 



 自動車進入禁止のアーケード街。神洲薬師商店街まで辿り着いた孝典と琴子は、クリーニング屋さんに礼を告げて白いバンから降りた。小さな店が立ち並ぶ商店街の前を練り歩いているのは裸の女性たちの行列。ムカデ競争のように前の人の腰に両手を当てて、顔をお尻にくっつけている。その人のお尻にも後ろの人の顔が。皆で後ろから舌を伸ばしてクンニリングスをしながら一歩ずつ前に進んでいるようだ。足音と舌が液体を這いずる音、そして漏れる吐息を全身から吐きながら前進する肌色のムカデだった。

「孝典、こっちよっ」

 琴子が上空を指さしながら、孝典の手を引く。

「うわっ。・・・何あれ?」

 アーケードの無い、横断歩道を横切る時に孝典も気がついた。渦を逆流して巻き出るように散布されるトランシアの綿毛。その厚い雲の切れ間に見えるのは、路地裏の一角から、くねるようにして天に伸びていく、一本の大木だった。見る間に蔦が枝になり太い幹をかたちづくっていく。四方に伸びる小枝は葉をつけ、花を咲かせていた。

「・・・ジャックと豆の木?」

 孝典と琴子は、不安そうに顔を見合わせた。ボキャブラリーが足りない2人なのか、それ以上の言葉が出てこない。少し後ずさりし始めた孝典に気がついて、琴子が掴んでいる手首を捩じり上げた。

「ちょっとご主人様! あそこに千沙が捕まえられてるんでしょっ。私たちの大臣を取り戻すんでしょ。しっかりしてよ。」

「イッ、イテテッ。わ・・・わかった。わかったけど・・・。ちょっと一本だけ電話させて。野暮用を思い出したんだ。」

「言い訳すんなっ!」

 琴子が孝典の手首を両手で掴むと、天を衝くような大木がどんどん成長していく、路地裏の一角へと、ご主人様を引きずって進んでいく。孝典は未練がましく、もう片方の手でスマホを弄っていた。

 蔦の絡まる、寂れたコーヒーショップ。小さな敷地にテラス席を設けた、潰れる寸前のような住居一体型の洋風の喫茶店が、今は巨大な木の根元になっていた。孝典はこの喫茶店にはかすかな見覚えがある。この店の前にある路地。古本屋や中古DVD屋の軒先で、ゴザを引いて花の種を売っていた植村さんと出会ったのだ。

「こんな近くで、植村さんは暮らしてたんだ・・・。」

 思わず孝典は呟いた。天井が抜けた洋風の建物は、なおも太く高くなる木の、幹の中にメリメリと飲み込まれつつあった。しかし入口の部分だけは、木のウロのようにポッカリと穴を開けている。

「きっとこの中に、千沙が・・・。入りましょ。」

 琴子の表情は真剣そのもの。一旦撤退して作戦を十分に練ろうか、という案も孝典の頭を一瞬よぎったけれど、とても言い出せる雰囲気ではなかった。周囲を見回すと、さっき目にした「クンニ・ムカデ行列」が喫茶店の大木を中心にするように円を何重にも描き始めている。空にはトランシアの綿毛の雲が、同じ反時計回りに渦を作っている。そしてその渦に導かれるように、木は反時計回りにぐるぐると巻きつきながらさらに天高く伸びていく。既に先端ははるか上空、孝典たちの肉眼では見えなくなっていた。

「う・・・・うん。行こうか。」

 木のウロの入口から、意を決した孝典と琴子が足を踏み入れる。2人が入った後ろで、入口が成長する幹に飲み込まれてグニャリと閉じて無くなった。大木の内部は、外から考えられないほど広い。さっきまでは20坪ほどの敷地に収まっていた木の中のはずなのに、なぜかそこは体育館ほどの広さがあった。内壁は木の幹が樹液を上に運んで脈動している。そこに絡まる別の植物の蔦、葉、花。生命の蠢く気配があたり一面に満ちていた。意外なほど明るい光が照らすその地面には、裸の女の人たちが数十人から百人ほども、10人ほどが絡み合って、樹液や蜜でベトベトになりながら、組んず解れつの集団レズプレイに興じている。その後ろに何十人もの美女たちが裸のまま正座して床に敷いた紙に何かを必死に書き出していた。その女の人たちの5メートルほども上に、桟敷席みたいに枝が作った席がある。そこに座るのは植村さん? あるいは植村さんの父親ほどの年齢のヨボヨボの老人がいた。枝と蔦が作る玉座に座っているのか、蔦や木と一体化しているのか、蔦で雁字搦めになって孝典と琴子を見下ろしていた。そしてその前、中空に縛られるようにしてぶら下がっているのは、蔓で巻かれた香村千沙。裸の彼女を守るように、蔓が肌に這っていた。千沙の眼には表情が無い。遠くを見るように孝典の方角を見晴るかした。

「千沙・・・。千沙を返せっ。」

 孝典は、自分で自分の出した声の大きさに少し驚いた。いざという大事な場面で声を出そうとすると、いつも細い声が裏返る。そんな男の子だと自分を思い描いていたからだった。大木の内部では音が不思議な反響の仕方をする。帰ってくる声の方がさらに大きくなったりした。自分の声で無くなったような、不安なエコーだった。

「もうすぐだ・・・。もうすぐこの子を君の元へ返せるよ。・・・すまなかったね、孝典君。」

 しわがれた声も何度も反響する。上から降りてくる声は枯れきってカサカサになっていた。けれど耳にした孝典は、この老人、植村さんの、さらにそのお父さんぐらいに見える老人が、植村さん本人なんだと、やっと確信できた。もともと70歳くらいに見えていた植村さんは、今では枯れ木が根腐れしてポロポロと崩れていきそうなほどの、灰色のような顔色と痩せこけた体の老人になれ果てていた。怒りを前面に出して、植村さんに対峙したつもりだった孝典は、その変貌と衰弱ぶりに言葉を失ってしまった。

「しかしこの千沙さんは・・・本当に素晴らしい逸材だったよ。今でも手放すのが惜しいくらいだ・・・。ここにいる女性たちは、千沙君の命令に従って、自分の性癖や妄想を書き出しては、それを前で再現しあっているんだ。もう、この私には必要ないのだけれどね。・・・中南米のブローカー組織から入手する必要もなかった。彼女が出したんだよ。奇跡の種とも言われる、『セルウス・ディシプレ・ジューダ』を。」

 植村さんが震える右手をやっと肩の高さまであげると、その手から伸びる蔓が動いて、吊られている千沙の体がクルリと植村さんの方を向く。蔓のうちの一本が、手のように動いて、愛おしそうに千沙の頭を撫でた。

「本当に、よくやった。偉かったぞ、千沙。」

「はぁっ・・・光栄ですっ・・・・。ご主人様・・・。孝典様。」

 宙吊りになっている裸の千沙が、股間から愛液を迸らせて孝典たちの足元まで降らせる。ボンヤリとした眼差しのままで微笑んで、植村さんに答える。

「千沙っ。そのオジイサンは孝典なんかじゃないわっ。目を覚ましてっ。」

「琴子。」

 いきりたつ琴子を、孝典が制した。千沙の体中に蔓が張り巡らされているが、そのうちの一本が後頭部、うなじのあたりから千沙の体内に入っている。きっとこの蔓が、植村さんの言葉を、彼女の本来のご主人様、孝典のものだと誤解させているんだろう。孝典はそう考えた。孝典のそんな思いを読むように、桟敷席の植村さんは微笑んだ。表情を変えた瞬間に顔の肉が割れて崩れ落ちそうな様子だった。

「孝典君の想像している通り。マザリアの蔓は直接人に働きかけると、実に色んなことが出来るんだよ。私が君にそれを教えてこなかった理由は2つある。こんな時が、君が私の願う通りに帝国を拡大させてくれない時が来た時のための、オプションとしてとっておいたというのが1つ。」

 孝典は拳を握りしめた。植村さんを信じ切って魔道植物の栽培をしてきたのに、当の植村さんは、奥の手を隠していた。

「ふぅ・・・。そしてもう1つの理由は、そうした行為がマザリアの宿主本体に、多大な負担をかけるからだよ。」

 虚ろな目で、植村さんは孝典を見下ろしていた。

「孝典君。・・・君は私が一体、何歳の老人だと思ってる? ・・・・老いぼれのわりには、ネットもうまく使いこなしていただろう? ・・・僕は、今年で36歳だ。」

 横で琴子が息を飲む音が聞こえた。

「若い頃に事情があって、マザリアの力を酷使してね。老化がずいぶん早まってしまった。そしてここ数日、千沙君を制御させてもらって、他の種も促成栽培させて・・・。さすがの私も疲れたよ。・・・・でも、それが報われた。千沙君が、ジューダの種を出したんだ。見たいかい? 有史以来、数回しか確認されていない、存在すらも疑われた魔道植物。・・・・もう見ているよ。君たちを今包んでいる、天に伸びる世界樹。これがジューダ。世界の摂理を裏切って逸脱する、奇跡の種だ。」

 植村さんが左手も震わせながら上にあげて、両手のひらを上に向けた。何かを求めるように、両手を突き出す。反対側の幹の内壁が、脈動して、ゆっくりと盛り上がっていく。太い枝が一本伸びていく。蔓が巻いて、枝の中腹がうず高くなると、一つの芽が顔を出す。芽がどんどん膨らんで、花の蕾をかたちづくっていった。

「どんな願いでも、叶えてくれるジューダの種。千沙君が新種の採取に取り組んでいる間にふと、一度正気を取り戻させてみたんだ。自分が主人のために働いているのではなく、裏切り行為を働いていたと気づいた時の千沙君。忠実なディシプレが最も追い込まれた時、周りには大量のペルベルタ、ロボタ、セルウス、ディシプレ、ドーラ、ピュピレ、エミサリア、ヴィゴラ、アマータ、シニューラ、アミガ、プリエスタがいた。偶然もあったと思う。そして千沙さんの素質もあっただろう。追い込まれた香村千沙君が弾き出したのが、このセルウス・ディシプレ・ジューダだったんだ。見てくれ、捧げものと引き換えに、どんな願いでも叶うんだ。奇跡が起こるんだ。僕が永遠に失ったはずのものが・・・・今ここに、戻るんだよ。」

 植村さんの言葉に力がこもっていく。ひび割れだらけの顔と体が、みるみるうちに瑞々しさを取り戻し、若返っていった。100歳を超えたようだった老いさらばえた肉体が、孝典と出会った頃の姿へ、そしてそれも通りこして髪が黒々と長く伸び始めて、肌が潤いを得て張っていく。やがてそこには思慮深そうな、学究肌の雰囲気をまとった、長髪の美青年が立っていた。そしてその青年が両手を伸ばす先で、赤い花の蕾がどんどんと大きくなる。人の大きさを超えた時に、蕾が反時計回りに捻れながら回りだす。花弁が膨らみながら開いていく。花柱が見えてくると、孝典は呆然と見上げることしか出来なかった。花柱は肌色で、人の形をしていた。体育座りのように自分の体を抱える、美しい女児の姿。目を閉じているが、その子供はどこか、若さを取り戻した植村さんの顔つきに似ていた。

「姉さん・・・生き返って、僕のもとへ戻ってくれ。僕の愛に応えてくれ。」

 .植村さんが両手を力強く突き出す。花は植村さんの手に近づきながら、花弁を広げていく。


 バキバキッ・・・・メリメリメリメリッ。

 無作法な破壊音がしたのは、孝典と琴子の背後、木のウロの入口があったあたりだった。鉄製の斧を持って木の中に侵入してきたのは、縦縞の制服を着た、ファミリーレストランの店員さんだった。目を真ん丸に見開いているが、可愛らしい顔は完全な無表情。沢口マドカさんが斧を振るって、世界樹の中へと押し入ってきた。

「沢口マドカ、止まりなさい。私たちの邪魔をしないで。」

 同じく無表情の、千沙が宙吊りのまま指示をする。マザリアの指示を代行することが出来るディシプレの言葉に、本来だったら従うはずのドーラ。マドカさんは斧を捨てると真顔でダッシュを始めた。止まらない。

「マドカ止まって・・・。皆、あの女の人を止めなさい。」

 千沙が声を強めて指示を出す。ヘビ玉のように絡み合ってまぐわっていたお姉さんたち、全裸で正座して一心不乱に作文をしていたお姉さんたちが一斉に立ち上がり、マドカさんを止めようと立ちふさがる。そのお姉さんたちの肩を飛び越えて、マドカさんは一直線に駆け抜けると木の内壁に飛びついて、スルスルとよじ登る。

「さっき、仕事中のマドカさんにメールで指示したんだ。香村千沙帝国宰相を取り戻せ。取り戻すまで誰の言葉も耳に入れるなって。」

 孝典が琴子に伝える。キュートでスタイル抜群のマドカさんには、最近シゲルがことあるごとに悪戯している気配があったので、数日中にキツイお灸をすえてやろうと、格闘家や運動選手たちの能力をエミサリアで複写してあった。千沙奪還までは誰の言葉も聞かない、自動アスリートモードになっているマドカさんを、止めることは至難の業。意識が途絶えるドーラだけに出来る、ディシプレへの対抗策だと、孝典が無い知恵を絞って呼び出したのだった。

「ナイス、皇帝陛下。」

 一言残した琴子が、瞬発力を見せつけて駆ける。マドカさんを引きずり下ろそうとしているお姉さんたちに飛びついて、後ろから羽交い絞めにする。孝典も慌てて琴子を追いかけて、裸のお姉さんたちに抱き着いて押し倒す。感触は最高だった。

「世界樹、マドカを振り落として。みんな、協力して邪魔者を押さえつけなさい。」

 木の内壁が蠕動して、幹を揺らし枝を振って、マドカさんを妨害する。蔦が四方から伸びて、ファミレスの制服に巻きついた。その隙間を縫って、マドカさんが枝から枝へ飛び移る。制服や下着がビリビリと剥ぎ取られるのも意に介さずに、ファミレスの店員さんはサーカスのように軽業を見せる。

「いっけー。マドカさんっ! ・・・キャッ、何するのよっ」

「うわっ・・・ムギュー。」

 琴子と孝典が、何十人もの裸の美女たちに押し倒される。孝典たちは「邪魔者」と見なされたらしい。激しく抵抗する琴子にヴィゴラの花粉らしき粉が振りかけられた。嫌がる琴子だが、両手両足を抑えられて、制服のシャツを前からビリビリに破られ、ブラもずらされてオッパイを吸われると、弱々しい声を出し始める。

「やっ・・・止めなさいってば。・・・・うふんっ・・・ヴィゴラの花粉は・・・卑怯よぅ。」

 発情した猫みたいな声で喘ぎながら、琴子はお姉さまたちの愛撫に悶え始める。孝典は花粉など振りまかれる必要もなく、裸の美女たちの四方八方からの全身マッサージに身を委ねていた。悔しそうな表情をしているが、若干口元が緩んでいる。

「うっ・・・ウォッ・・・こんな巨乳なんかに・・・・。ムフフッ。凄い。」

 いつの間にか孝典のアソコは、のしかかる裸のお姉さんたちのうち、1人の膣内にズッポリと咥え込まれていた。それに気がつかないくらい、全身くまなく性的な刺激を受ける。美女たちの陰毛で、舌で、髪で体中をくすぐられるような柔らかい快感と、時折訪れる、吸い上げられるような刺激、甘噛みの痛覚、鼻腔から肺まで充満してくるシャンプーや香水、濃厚な雌の匂い。すべて渾然一体となって孝典を飲み込もうとする美女たちの奉仕。樹液や花粉も絡まって、全員で一つの餡かけ料理にでも揚がっていくような気分だった。

 繰り返し樹液を噴いて滑りやすくなった木の内壁を、ほぼ全裸になっても登り続ける沢口マドカ。世界樹に細かな指示を出して妨害する千沙。美女たちの愛撫に耐えながらも悶え狂う琴子。心底満喫しているような孝典。そういった雑音が一切気にならないかのように、長髪の美青年は両手を突き出して、広がりゆく花弁の上に立ち上がって目を開いた美少女を求めていた。美少女は、茎が喉のように動いて養分を送り込むたびに、発育し、成長していく。植村青年と同じくらいの年齢か、それを少し上回るほどの美女へと熟していく。目を開けたその女性は植村青年を見とめて微笑みを浮かべる。彼女も片手を伸ばそうとする。

「ちょっとっ・・・邪魔しないでっ」

 ついに宙吊りの司令官が悲鳴を上げる。枝から枝。蔦から蔦へと飛び移って、マドカさんが千沙の体を吊っている蔦に飛びついたからだった。マドカの軽業を妨害しようと必死で指示を出してきた千沙だったが、反射神経、運動能力の勝負ではマドカさんにかなわなかった。やめろという指示も耳に入らず、蔦にガブリと齧りついて、歯で噛み切ろうとするマドカさん。千沙の体が頼りなげに傾いた。

「あ・・・ち、千沙が落ちちゃうっ。・・・それに、今、千沙が正気を取り戻したら、世界樹が不安定に・・・。」

 全身に受ける美女たちの蕩けるような愛撫の最中、悦楽の波をかいくぐって孝典が声を上げる。隣でこれまたお姉さま方にテクニックを駆使されて、涎を出して喘いでいた全裸の琴子が、全身の力を振り絞って体を転がし、お姉さんたちを振り切る。

 ブチンッ

 ちょうどその時、蔦にぶら下がったマドカさんが、千沙の体を吊っていた蔦を歯で噛み切ってしまう。孝典が止めようとも、マドカさんの勢いは抑えようがなかった。千沙奪還の使命しか頭にない、身体能力抜群の人形でしかないからだ。

 そのマドカさんの真ん丸に見開いた、ガラス玉のような瞳を見つめて、悔しそうに千沙が悲鳴を上げる。空中に投げ出された千沙の体。後頭部に入り込んでいた蔓も断ち切れて、香村千沙の自由落下が始まった。3階ほどの高さもある場所から、裸の少女が落ちてくる。孝典の目に映る全てが、ビデオのコマ送りのようになった。頭が下になって落ちてくる、孝典の召使いにしてブレーン。帝国宰相。地面に激突する瞬間に、孝典は両目を手で覆った。

 それでも、不吉な激突音はしない。全裸の千沙の体を、落下地点にギリギリ駆け込んだ、全裸の琴子がガッチリとキャッチして、雄々しく立っていた。

「ナイスッ! 琴子サイコーッ!」

 孝典がガッツポーズで叫ぶ。その孝典の言葉を止めようとして口を開けた琴子が、白目を剥いて股間から潮を吹いた。千沙の体もろとも、腰からがっくりと崩れ落ちる、失神した琴子。結局千沙の体は、地面に顔から落ちてしまった。

「あ・・・しまった・・・。思わず褒めちゃった。」

 慌てて駆け寄った孝典。琴子は今までに受けたお姉さまたちの愛撫とヴィゴラの発情花粉、そして孝典からの大声でのお褒めの言葉のせいで、ヒューズが飛ぶほどのエクスタシーに直撃されたらしく、笑顔のまま白目を剥いて涎を垂らしている。股間からは潮だけでなく、ほのかなアンモニア臭。失禁してしまったらしい。頬をペチペチ叩いても、意識は戻ってこない様子だた。千沙はというと、琴子にキャッチしてもらったものの、そこから地べたに放り出されて、顔からぶつかって気絶している。左右の鼻の穴から血が出ていた。千沙を抱きかかえた孝典は、また嫌な予感を感じて見上げる。

「・・・あ・・・あれ? ・・私また・・・裸に・・・。何? ・・・ここはどこ? ・・・高い〜。死ぬ〜っ!」

 蔓にぶら下がっていたマドカさんは、千沙を抱きかかえた孝典が見上げるのと目が合った瞬間に、千沙奪還完了と認識してしまった。正気を取り戻したファミレスの店員さんは、中空で蔦にぶら下がっている全裸の自分に気がついて、わけがわからずに泣き始めてしまう。びーびー泣いているマドカさんをぶら下げて、蔓は無情に振り子のように揺れるだけだった。

「んーと、何から対策すればいいの? ・・・誰か教えて・・・。」

 情けない独り言を漏らすばかりの孝典の腕の中で、美少女が小さく音を出した。

「ん・・・んんん・・・。顔痛い・・・。」

「あっ・・・千沙? ・・・千沙、起きてっ・・・。僕が誰かわかる? ・・・ねぇっ・・・千沙・・・。」

 まつ毛が動いて、知的な眼差しが孝典を射抜く。千沙はしばらく孝典の顔を、間近で見据えていた。

「もうちょっと寝ていたかったけど、起きてって命令されたら、起きるしか、ないでしょ・・・ご主人様。」

 千沙が少し眉をひそめて、皮肉っぽく返事する。冷静な状況判断。いつもの香村千沙だった。

「千沙、ゴメンよ。」

 孝典はいつのまにか千沙の顔に涙をこぼしていた。泣いているような、笑っているような顔。謝罪、安堵、感謝、喜び、色んな感情が入り混じって、変な顔になっていた。

「ゴメンって・・・どれのこと?」

 千沙はあくまで冷静に、自分の鼻から流れる血を指で拭って、孝典に突き出す。そして涼やかな瞳で横でピクピクと痙攣している琴子を見て、まぐわいあっている数十人のお姉さんたちを見て、次に上でビービー泣きながら回転しつつ揺れているマドカさんを見て、最後に大きな花の上で抱き合う男女を見上げる。孝典も一緒に周囲を見回した。一番最初に手をつけなければならなさそうなのは、花の上で女性と抱擁している植村さんだった。

「植村さんっ。千沙は取り返しました。これからどうするつもりですか?」

 見上げて声をあげる孝典に、腕の中の千沙が手をかざした。

「待って。・・・彼はもう、覚悟を決めているみたい。」

 千沙のクールな口調のせいで、孝典の勢いが削がれる。意外な気持ちで千沙を見下ろして、もう一度中空、桟敷席の植村さんを見上げた。

 二十歳前くらいに見える、長髪の美青年になっていた植村さんは、少し年上のよく似た女性と熱い抱擁を交わしながら、孝典を見下ろした。その眼からは特定の表情は読み取れない。複雑な思いを宿したような眼差しで孝典を見据えると、小さく頷いた。深紅の花弁はまた起き上がって、一組の男女を包み込むように、今度は時計回りに巻きついていく。朝顔が昼前に萎んでいくように、花弁が蕾となって2人を隠していく。花はそのまま、首を上げるようにして茎の角度が上がっていく。幹は成長を続けて、花を上へ上へと持ち上げていった。

「誰かー。助けて〜。お母さ〜んっ」

 泣きじゃくっているマドカさんの声だけが木のウロの中で響いている。

「マドカさん、大人しくして、そこから降りてきて。」

 千沙が声をかける。

「はい。マドカは、大人しくここから降ります。」

 さっきまでの号泣が嘘のように、目をパチクリさせた後のマドカさんは、急に静かになって、蔦から手を放すと、空中で3回、宙返りをしてストッと地面に着地した。ドーラとエミサリアが発動すれば、高い場所から飛び降りることなんて、マドカさんにとっては朝飯前のことだった。

「ご主人様・・・、平賀君。急ぎましょう。この木、主を失った後は崩れ去ると思うの。」

「え? ・・・あぁ。うんっ。琴子っ。起きてー。・・・しょうがないなぁ。」

 孝典は慌てて琴子を起こそうと、何度も頬っぺたをペチペチ叩くが、強烈なオルガスムで果てた琴子はまだ目を覚まさない。マドカさんに斧で出入り口を作ってもらい、千沙が美女たち百人足らずを、ひび割れのような音を立てて軋む大木の中から安全に逃がすべく誘導する。孝典は裸の琴子をおんぶして、大木のウロの中から逃げ出した。

「琴子・・・前よりオッパイ大きくなってるよな。」

 逃げる間も不謹慎な感想を思い浮かべながら、皇帝は親衛隊長をおぶって脱出する。木の外に出てみると、喫茶店の敷地に収まる程度の大木は、入る時よりも痩せていて、ゆっくりと縮みながら崩壊を始めていた。枝や葉が散って腐葉土のようになって、上から倒れ落ちる幹を受け止める。天まで上るような高さの木が、綺麗に喫茶店の敷地の中に納まるように崩れていく光景は不思議なものだった。百人近くの裸の集団に見守られながら、天を衝く大木が喫茶店の土地に降り注ぎ、折り重なり、最後は土くれのようになって消滅していった。

「植村さん、どこに行っちゃったの?」
 呆然と立ち尽くしながら、独り言のように呟く孝典に、千沙が答える。

「わからない・・・。ここではないどこか。たぶん、若くして死んでしまったお姉さんと、永遠の愛を育むことが出来る世界に、旅立っていったんだと思う。」

「マドカさんが・・・、僕が、妨害したせいかな? あの時に僕らが千沙を奪い返さなかったら、植村さんは生き返ったお姉さんと、この世界で暮して行けたのかな?」

「それもわからない。わかるのは、あの人がこうなることを、覚悟してたみたいってことだけかな? 世界樹は、願いをかなえるけれどその代わりに何かが捧げられなければならないって言ってたし・・・。」

「んんっ・・・」

 孝典の肩にかかっていた髪が、カサカサと動く。琴子が目を覚ましたのだった。心配そうに見つめる孝典と千沙を見て、琴子はため息をつきながらもむくれる。

「私の知らない間に、解決したってこと?」

 膨れる琴子の前髪が降りていることに気がついた孝典は、振り返って琴子に、オデコをちゃんと出すように指示を出す。密かなコンプレックスを刺激する、ご主人様の意地悪な指示に従いつつも、琴子は孝典の肩をつねった。

 意識は回復したが、まだ腰が抜けたままの琴子をおんぶして、孝典が商店街を引き返す。途中で裸のお姉さんたちのために、衣料品店の服を貸してもらったり、破格の値段で売ってもらったりする。古い商店街の在庫にはあまりイケてる服は多くない。琴子や千沙にやっとまわってきた服は、黒のレギンスと、「風神・雷神」をデカデカとプリントしたLLサイズのTシャツだけだった。マドカさんは「商売繁盛」と書かれたピチピチのTシャツ1枚を身に着けて職場に戻る。またチーフにお説教されると、ベソをかきながらファミレスへ向かうマドカさんの後ろ姿。Tシャツの裾から丸いお尻がチラチラと見えてしまっていた。

「結局・・・私、あんまり役に立たなかったな。活躍ばっかしてる、千沙が羨ましいよ。」

 孝典の耳元で、千沙が呟く。千沙が大人っぽいため息をついて笑った。

「琴子、本当にわかってないの? 私は、大した活躍もしないでもいつも皇帝陛下の寵愛を一身に受けている、貴方が羨ましくて仕方がないわ。将軍閣下。」

 2人の掛け合いを聞きながら、孝典は照れ臭そうに口を開く。

「いやー。2人とも実に最高の・・フガッ」

 また気を抜いて褒め称えそうになった孝典を、2人の召使いが慌てて口を押え、脇腹を小突く。夕暮れの商店街を、3人はトボトボ歩いた。思いがけずアーケードの端で待っててくれたクリーニング屋さんのバンに乗せてもらって、3人は町中の異常な光景を、一つずつ、出来る限りのケアとフォローをしていった。家に着いた頃には、すっかり日は落ち、夜になっていた。

 千沙を数日ぶりに帰宅させ、やっと腰に力が入るようになった琴子もバンから降ろして家に帰す。孝典は自宅に帰り、カルピスを飲んで一服すると。一晩かけて今後のことを考えた。PCに書き込みされたこれまでの栽培日記と植村さんからのアドバイスを一つ一つ、丁寧に読み込んだ。夜明けまで起きていた孝典は、ノートを開くと、冬の日光を頼りに文章を書いていく。自分がタカノリア帝国皇帝の座から退位するということ、帝国を宰相の指示のもとに平和裏に解消していくための書き送りを、丁寧に連ねていった。


。。。



 3月20日(水)

 実は僕。春休みを利用して、電車を乗り継いで神洲薬師商店街に行ったのは、プラモデルを買うためだけじゃなかったんです。3年前に、天まで上るような木が生えたっていう噂がある神洲薬師商店街に行けば、何か面白いことでもあるんじゃないか。僕のつまらない日常を一変させてくれるような、凄い出来事にでも出会えるんじゃないかって思って、一人ぼっちで街をぶらついていたんです。だから、ガーデナーさんに会えたのは、偶然フリーマーケットに出くわしたっていうだけじゃなくて、僕が探し求めていたのかもしれないです。

 せっかくの春休みですけど、僕は4月から市立青梅坂中学校の1年生になるだけ。学区が同じイジメっ子や、当たりのキツい女子たちと小学校から上がるだけです。面白くない小学校生活が、パッとしない中学校生活に変わるだけ。そう思うと、フリマで売ってもらった、キラキラ点滅する種だけが、今の僕にとっても希望の種です。これってどんな芽を出すんですか?

 楽しみです、平賀さん。よろしくお願いします。


。。。



<ガーデナーさんからのアドバイス>

 加藤君、書き込みありがとう。君がつまらない日常から逃げ出したがっていることは、目を見ただけでわかりました。種もきっと、君を見て引き寄せあったんだと思います。まずはその種を自分の身近に置いて、芽が出るのを楽しみに待っていてください。心配しなくても、君には素質があると思いますから、きっと楽しい学校生活を満喫すると思いますよ。


。。。



「書き込みがあったよ。加藤ツトム君だって。小学校卒業したっていうにはちょっと小柄で貧弱そうな感じだったけど、その分、鬱屈と溜め込んでるものは多そうな感じだった。種が見えてくれて、嬉しかったな。・・・僕もついに、弟子を持てたんだって感激したよ。退屈なフリマに参加した甲斐があったね。」

「退屈なフリマって、場所取りから準備から、全部、他人にやらせといて、我儘言ってんじゃないですよ。ご主人様。」

「ホント。小柄で貧弱で鬱屈としたもの溜め込んでって、昔の貴方そっくりじゃないですか」

 青梅台学園高等部きっての美少女コンビと名高い、スポーツ美少女の穂波琴子と、秀才香村千沙が、ふくれっ面になって愛撫を続ける。校長室の分厚いカーペットの上、リクライニングチェアに寝そべる、裸の平賀孝典は、2人の学園のアイドルや後輩たち、そして卒業生や新任の女教師たちの、かわるがわるの奉仕を受けながら、気だるい午後にまどろんでいる。

 孝典の前では選りすぐりの美女、美少女が6人。全裸で体をローションでベトベトにしながら、ディルドーに跨って、腰を上下させている。これは皇帝陛下の御前で開かれている余興のクイズ。帝国に新加入した綺麗どころたちの自己紹介の儀式でもある。

「うーん、・・・3番はトランシア? ・・・自分をオナニー猿だと思いこんで、ハッスルしてるんじゃない?」

「ブーッ。不正解。ロボタです。自分をオナニー猿だとトランシアで思いこまされている子っていう演技を、素面のままさせられているだけです。」

「うわっ・・・。演技派なんだねぇー。」

 無邪気にケタケタ笑う皇帝陛下、平賀孝典。横で彼の右腕をオッパイに挟み込んでパイずりしながら、帝国宰相はため息をついた。

「陛下・・・全然女の子を見る目が進歩しないですね。」

「本当よ。高校卒業するまでに、私か千沙かを選ぶっていう約束も、ちゃんと守れるんですか? 陛下。」

 自分のオッパイを持ち上げて乳首で孝典の乳首を突きながら、耳に舌を入れている親衛隊長。琴子は皇帝の進歩のなさに、約束の厳守すら不安になって質問する。

「大丈夫だって。まだ卒業までは時間があるよ。それまで毎日、みっちりグッチョリ、女性の勉強をさせてもらえれば、さすがの僕だって、成長するってば。」

 キーボードのリターンキーを押した後、琴子と千沙、高等部のほのか先生やツカサ先生とのヘビーペッティングに戻った孝典は、美女たちと絡み合い、唾液を交換しあいながら、横目で新人さんたちのハードなオナニーをチラ見して、それぞれが宿している種を想像する、ゲームに興じる。日々の奉仕と余興に加えて、後進の育成という楽しみが孝典には加わった。

 タカノリア帝国を解消して、数か月後に建国した『神聖タカノリア帝国』。密かにジワジワと世界を侵食する方針が功を奏してか、ここ数年、順調に繁栄を続けている。新たにマザリアとなる新米庭師さんは、孝典の強力な部下になるのか、それとも神聖タカノリア帝国に立ちはだかる、強敵国を打ち建てるのか。今の孝典にはどちらであっても、退屈を紛らわせる、絶好の観察対象になってくれると思えた。

「陛下、今日は10時から、初期メンバー再集結での懇親会がございます。参加者は美冬さん、佳世さん、ツカサさん、マドカさん、恵美里さん、成美さん、香織さん、マイさん、萌香さん、瑞穂さんと私たちです。このメンバーが揃うのは・・・。先回の懇親会以来だから、半年振りです。」

「ありゃ、そんなにいたっけ? 何人か、・・・また忘れてる子がいるなぁ。ま、おチンチン入れてみたら、思い出すかな? ・・・こんな感じで。」

「・・・ちょっ・・・。まだ報告の途中ですっ・・・ってば・・・もう。」

 孝典が、中等部1年の美少女のひたむきなフェラを中断させて、千沙におチンチンを向ける。帝国宰相は皇帝陛下の求めていることを、その賢い頭で瞬時に察知すると、口では抗議しながらも急いでスカートを捲り上げて股間を突き出す。孝典のモノを、ほとんど反射的に咥え込んで奥まで飲み込む、瑞々しさは失わないがしっかりと使い慣れた千沙の膣。すでに3年のお付き合いと睦みあいの中で、肌の相性もしっかり合うようになっている孝典と千沙と、横に立つ琴子の性器。結合するとすぐに孝典がニンマリしてしまうようなフィット感と、絶妙な安心感を与えてくれた。

 孝典のモノをパックリ咥えた割れ目の上には、アンダーヘアーが『タ』の字を残して刈りこまれていた。琴子とお揃い。仲良し3人組の印だ。孝典が満足そうに振り返ると、琴子に向かって唇をすぼめてみる。髪留めを使って今日もオデコを露出している神聖帝国将軍は、慌てて突き出された唇に、自分の唇を重ねた。プルンとした感触の唇をこじあけると、おたがいの体内から分泌された唾液が交じり合う。琴子との熱烈なキスの合間に、息継ぎしながら孝典は千沙に話しかける。

「千沙のアソコは相変わらず気持ちいいね。いつも忠勤、ご苦労様。」

「・・・フッ・・・ふひっ!」

 孝典のアソコがギューンと締めつけられる。千沙はアゴを突き上げて喘いでいる。

「陛下っ。私たち、このあと10時からの懇親会もあるんでしょっ。今、オイタは駄目だって。・・・『褒めゴロシ』はやめてあげてよ。・・んちゅっ」

 琴子が千沙を思って、キスの合間に抗議する。今日の孝典はいつもに増して悪戯に興じたい思いだった。弟子の発見が、自分の思うよりも嬉しいことだったのかもしれない。

「千沙、イッてる顔も、セクシーだよ。僕を満足させてくれる。こっちの締めつけも凄くいい。本当にいい召使いだ。」

「フーーンッ・・・・フウウウウーーーンッ」

 褒められるたびに千沙が昇天する。秀才のその媚態を、陛下がまた褒めるから、千沙の連続オルガスムは、際限なく続いてしまう。経験上、このまま続けると、泡を吹いてしまうから、注意は必要だが、いざという時のためにはヴィゴラの花粉を気付け薬代わりに常備させている。涙を流して女の喜び、帝国臣民の喜びに打ち震えている千沙を見下ろして、孝典は琴子にウインクする。将軍は孝典陛下の舌を自分の舌で奉仕しながらも、たじろいで少しだけ顔を後ろにずらした。ディープキスのせいで間近に迫っている孝典を見つめる、琴子の両目は寄り目のままパチクリと目をしばたかせた。

 口を離した孝典の表情からは、悪戯に熱中する、意地悪な笑顔が浮かんでいる。琴子が許しを乞うような笑顔を取り繕ってみせたが、最近昔以上にサディスティックになってきているエロ男子高校生、平賀孝典は止まらない。

「君たち・・・みんな、ほんっとうに最高だよ。」

 孝典が呟くと、春の校舎に美少女達の可憐な喘ぎ声がいくつも響き渡る。その歓喜の叫びは、何度も何度も繰り返されて、青梅台の街にこだました。

 
 
< おわり >


 

 

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