花の帝国


 

 



「えっと、カツ丼とオムライス、エビドリアにクラムチャウダー・・・と。これで全部だな。先生、全部持てる?」

 川島シゲルがメモを出して確認する。ビニール袋を両手にぶら下げた諸井佳世先生は若干不満そうだが、大人しく荷物を全部1人で持ってくれる。

「・・・はい。走ったらちょっとクラムチャウダーがこぼれてしまいそうですが」

「そうしたら、ご主人様からお仕置き受けるしかないね。」

 シゲルと諸井先生は、どちらもタカノリア帝国の購買・物流部隊。つまりパシリに違いないのだが、シゲルの方が2ヶ月ほど先輩だ。元・不良生徒と厳格な生活指導担当教師という関係性を超えて、先輩・後輩の縦社会は絶対だった。(おまけに諸井先生は最近、命令を受けると腹立たしそうに唇を噛みながらも、ちょっと顔を赤らめて、興奮しているような様子を見せる)

「あの、シゲル先輩は一緒に学校に戻らないのですか?」

「俺はちょっと野暮用があってね・・・。ねぇ? 店員さん。」

 レジのカウンターに馴れ馴れしく肘をかけて話すシゲル。テイクアウトの会計を済ませてお辞儀をしていた、ファミレスの可愛らしい店員さんは笑顔のまま首をかしげた。

「ま、・・・いいから、いいから。佳世ちゃん先生はダッシュで孝典たちのもとにこれ、届けるんでしょ。さぁ、行った行った。」

 シッシッと、犬でも追いやるような仕種で手を払うシゲル先輩。佳世は、生徒の舐めた態度に怒りを覚えながらも、秘かに呼吸を荒くしながら回れ右をして走り出した。孝典陛下が懇意にしているファミリーレストラン。テイクアウトの昼食を持った諸井先生はダッシュで店を出た。

「パシリの仕事は大変なんだよ。・・・ちょっとだけ、サボって遊ばせてもらってもいいよね? マドカさん。」

 シゲルがレジカウンター越しに店員のマドカの耳元まで顔を突き出して、何か囁く。マドカの顔から表情が消える。まるで電球のスイッチが切られるように、意識がプツッと途絶えた。


「お待たせいたしました。当店の新商品。マドカ・バーガーでございます。こちらで完成させて頂きますね。」

 カートを押して持ってきたマドカは、顔に張り付いたような笑顔を浮かべているが、頭の中は完全に空っぽの状態。ただただ、シゲルに言われたことを忠実に遂行するためだけに体を動かしていた。カートの上のお皿には、ハンバーガーを挟むはずのパン2切れとレタスが何枚かあるだけ。マドカはその場で当然のように制服のシャツのボタンに手をかけて、一つ一つ外していく。シゲルはレストランの隅にある喫煙席のボックスで偉そうにソファーに寝そべっては、それを見ていた。使いっパシリの仕事を円滑に貫徹するために、ここのファミレスはシゲルの言うことを、孝典や千沙の伝言として扱い、従ってくれるようにプログラムされている。シゲルはそれを悪用して、たまに息抜きをさせてもらっていた。

 目の前で、美人でスタイルのいい、もち肌のお姉さんが制服を脱いで裸を見せてくれる。それだけでも相当な役得と思えたが、最近のシゲルはそれ以上を求めてしまっていた。なにしろこのマドカさん。孝典や千沙、それにパシリ中のシゲルが何か言うたびに、真っ白な状態になってその言葉に従ってくれるのだ。男子に生まれて、こんな可愛い子の裸の前で、大人しくしていられるわけがない。

 制服のシャツもスカートも床に落としたマドカさんは、パンストも丁寧にクルクルと巻き下すと、清潔感のあるレモン色の下着姿を拝ませてくれた。目を見ると、ガラス玉みたいに無機質になっている。それでも営業スマイルはシゲルの注文どおり、保ったまま。ブラのストラップに手をかけて、シゲルの前で下着も脱いでいった。小さくシゲルが口笛を吹く。何か指示があるかと一瞬手を止めたマドカさん。2秒待った後で、パンティーも下して足を抜き取った。丸いオッパイの尖端と、アンダーヘアーが淡く生え揃う股間に、レタスをつけて、過激なグラビアアイドルのような姿になったマドカさんは、テーブルの上に置いたお皿と、1切れのパンの上にうつ伏せに寝そべる。自分の腰の上にもう一切れのパンを置いたあと、まるで水泳のバタ足を習っている子供のように、うつ伏せのまま両手両足をピンっと伸ばした。

「マドカ・バーガーでございます。ごゆっくりお召し上がりください。」

 丸いオッパイがテーブルに押しつけられて潰れているのも気にせず、それだけ口にするとマドカさんは営業スマイルのまま一切の動きを失った。シゲルが満足して食べ終わってくれるまで、ハンバーガーの具となって、されるがままになるのが、伝えられた指示だった。その指示を嫌だとか嬉しいとか、異常だとか当たり前だとか判断する意志もない。ただただ、実行するだけのために、この時のマドカは呼吸をしている。

「へへへっ。それじゃー、遠慮なく。いっただっきまーす。」

 シゲルが待ちきれないといった様子で、マドカの体にむしゃぶりつく。綺麗な背中の、スベスベした感触をしばらく楽しんでから、おもむろにマドカをテーブルの上で転がして、仰向けにさせた。営業スマイルのまま、ビニール製の人形のように固まっているマドカは、バンザイの姿勢を崩さずに丸太のように転がる。ゴロリと仰向けになったマドカさんの体。口を開けさせて、放り出されたパンを2切れ、強引に押し込んでみた。重力のせいで丸みが若干失われているマドカさんのオッパイ。右側の乳首に吸いついてみる。舌で転がしたり、チュウチュウ吸ってみたり、軽く噛んでみたりしても、マドカさんは表情を変えず、営業スマイルでパンを頬張っているだけだった。シゲルが口を離すと、涎のついた右の乳首だけが硬く起きている。左の乳首は大人しいまま。空気に触れて周りの肌が少しだけ鳥肌になっていた。

「このハンバーグ。もっとお肉が捏ねてあると、美味しさがますんじゃねーかなー?」

 シゲルが嬉しそうに、両手の指先を伸ばして、マドカさんの胸からお腹、腰の辺りまで軽いチョップを繰り返す。オッパイやお腹の肉を掴んで捻り込むように揉みしだく。太腿もマッサージするみたいにモミモミした後で、両足を大きく広げる。バンザイの姿勢のまま、両足が開けっぴろげになったマドカさんは、口を大きく開けていることもあり、まるでダッチワイフのような姿になってしまっていた。カートの上からケチャップのチューブボトルを取ったシゲルが、キャップを外して、細くなった尖端をマドカさんのお尻の穴に突っ込んでみる。

「こんなことしても、全然抵抗しないのな・・・。変なの。」

 ケチャップを押し入れても、沢口マドカは少し両手をプルプルさせただけで、抵抗も反応もしない。ケチャップボトルを引っ張り出すと、小ぢんまりとしたアナルからはケチャップの一部がブブっとはみ出た。

「じゃ、今度はこっちね。」

 黄色いチューブボトルを手に取って、マスタードもミチミチとマドカさんのお尻の穴の中に入れてみる。さっきよりも体の震えが大きめになったが、それでもバンザイと両足おっぴろげのまま、笑顔でパンを頬張るマドカさんはほとんど動かなかった。

「そろそろ、仕込みも十分かな? ・・・じゃ、本格的にいただきますね。」

 シゲルが沢口マドカの大切な部分を遠慮なく指で開いて、オリーブオイルを塗りこむ。ベルトをカチャカチャ言わせてズボンとトランクスを下すと、テーブルの上にのしかかって、正常位の体勢で挿入した。温かくてネットリとした膣の中を押し進むと、圧迫されたお尻の方から、調味料がまた少し、ププッとはみ出た。荒々しく腰を振る、体力自慢のシゲル。マドカさんは顔を赤くしながらも、張りついたような笑顔を浮かべたままで、テーブルの上で少しずつ上にずれていった。しまいにはテーブルから落ちそうになるマドカの体を掴んで、引きずり下す。シゲルが一言指示すると、マドカさんは表情を一切変えずに床に足をつけ、左足をピンッと持ち上げてV字バランスの体勢になる。右手はテーブルに置いて、なおも腰を突き上げる、シゲルの動きに耐える。乳首はいまや両方硬く起き上がっていて、耳まで赤くなっているが、マドカさんは喘いだり悶えたりすることもしない。ただただ、オリーブオイルに混じって愛液を垂れ流しながらシゲルのピストンに体の反応だけを返していた。

 パンパンと音がする店内。バイトチーフのオバサンもコックさんも、怪訝な顔を見せるが、シゲルたちに注意は出来ないようになっている。彼女らやシゲルには見えないが、頭にピュピレの花を咲かせているのだった。

「おぉおおう、もうすぐイクぜ、俺のマドカさん。自分でも乳首摘んで弄ったりして、盛り上がってくれよ。イッタら正気に戻っていいからな。うおっ、もうすぐ出るっ・・・」

 シゲルが震えかけた瞬間。足首にまとわりついている学生服のズボンがウー、ウーッと震えだした。チューリップの花の着信音。シゲルの体は一瞬にして強張った。皇帝陛下、孝典からの電話だ。最優先で電話に出なければいけない。もうちょっとで射精するという、いいところなのに、シゲルの体は忠実にいつかの孝典の指示に従ってしまう。シゲルは悔しそうに体をマドカさんから離して、電話に出た。

「はいっ。シゲルです。」

「僕だけど。・・・佳世ちゃん先生、もう着いてるのに、シゲルは何してるの?」

「いや・・・その、ちょっと野暮用でな・・・。もうちょっとしたら、イクから・・・いや、行くからさ。ちょっとだけ待ってて欲しいんだけど。」

「ダーメッ。何してるかわかんないけど、ただちに今してることを全部止めて、すぐこっちにダッシュで来て。」

「おっ、おう。すぐ行きます。」

 眉をハの字に垂らして、悔しそうにシゲルがズボンをズリ上げる。マドカに一言指示をしたいと思ったが、シゲルはそれも諦めて、ダッシュでファミレスを出た。後に残されたのは左足をピンと上げたまま、両手で自分の乳首を責めている可愛らしい店員さん。やがてバランスを失って、ゆっくりと床に、顔から倒れるが、それでも姿勢は変わらない。笑顔のままパンを加えて乳首オナニーを1人続けていた。

 そして15分後・・・。

「うっ・・・・ウウウウンッ・・・・・やだっ・・・何これ? ・・・また・・・・っ。おっ、お尻が熱いっ・・・・熱いよ〜っ!」

 乳首オナニーを粛々と続けた結果、やっとエクスタシーに達した、裸のマドカさんが両手でお尻を押さえながら、店内を走り回る。マドカさんが跳ね回るたびに、後ろに調味料が飛び散った。チーフのオバサンは、この娘をクビに出来ない自分に無力感で一杯。ベソをかきながらトイレに駆け込むマドカ。チーフはせめて、あとでマドカさんをコッテリお説教してやろうと意気込みながら、トイレの前で待ち構えていた。


。。。



 11月7日(金)

 植村さん。さっそくペルベルタ・ヴィゴラの花を試してみました。効果はてきめんと言いますか、実に微笑ましいものになりました。学園内で病気がちで留年しているという中等部3年生の女の子が、会ってみたら色白でほっそりとした、薄幸そうな美少女だったので、病室で種を植えさせてもらいました。妹尾瑞穂ちゃんという名のその子に、3日連続で面会に行って、「元気になるよ」、「病気はすぐ治る」、「今日は調子良さそう」と語りかけていたら、見る間に血色も良くなり、主治医の先生もびっくりしていました(この先生はなかなか美形の女医さんだったので、看護婦さんともども、ペルベルタの種を植えてみました。今はみんな、病人、怪我人のシモのお世話専門の熱烈なボランティアです)。

 今週中に退院に至るとは思わなかったので、ご家族も喜んでいたようです。心も体も元気ハツラツになった彼女は、性欲も人並み以上に出てきたようで、初体験で4回イっても、なお僕を求めてくる持久力を見せてくれました。

 嬉しい発見は、彼女が咲かせているヴィゴラの花。よく見ると、かすかに空中を浮遊するのが見える程度の、粉みたいな花粉を常に噴いているみたいで、この花粉に触れると周りの人たちも健康で元気に、そして性欲がぐっと増すみたいでした。このことに気がついて、僕に指摘してくれた千沙は、説明の間も恥ずかしそうに片手で自分のスカートのなかに手を入れてモゾモゾしていました。琴子は女子トイレに籠もったっきり、なかなか出てきてくれませんでした。

 ヴィゴラの種、佳代ちゃん先生と香織奥様、そして婦警さんたちのリターンマッチをさせたらまた採取出来たので、トランシアの種とあわせて、こちらもお裾分けさせて頂きます。例のお尻にボールを入れての綱引き大会。今度は団体戦をして、前回括約筋の強さを見せつけたお姉様にはちょっとローションを塗ったボールを入れて、ハンデとしたところ、意外なほど接戦になって盛り上がりました。佳代ちゃん先生にはハンデのローションに加えて、千沙がトロロ汁を加えてみたところ、痒い痒いとお尻を振りながら運動場まで走っていってしまったので、ちょっと可哀想でしたが笑ってしまいました。

 千沙は最近、如何に女性を辱めたら効率的に種が採取できるか、試行錯誤を繰り返しています。郊外にある聖ジョセリン女子高が最近の千沙の攻略拠点。青梅台学園と並んでお嬢様学校として有名なミッション系の高校ですが、ここであれこれと女の子を責めて珍しい種を採取することに没頭しています。先日、授業参観というか視察に行かせてもらったら、「授業終りのチャイムがなったら、それぞれ動物に変身する」とか、「チャイムを聞くと全員オシッコを漏らすけれど次の授業終りまで誰もそれに気がつかない。気がついた後は2回イクまでオナニーする」とか、「全員チャイムでサディスト・レズビアンに変身。シスター先生に襲いかかる」とか、トランシアをベースに色々な実験をしていました。教室にカメラが付いている厳格な学校なので、放送室のモニターを使って、僕に各クラスの様子を見せてくれます。全クラス、チャイムと同時にそれぞれ違った非常事態が発生するのを見ているのはちょっと面白かったですが、ちょっと見ているのがシンドイようなモニターもありました。

 念のため妹尾瑞穂ちゃん(最近、ジムのインストラクターを目指して筋トレにはまっているようです)も同行させて、千沙が万が一暴走したら止めさせようと思っていたのですが、案の定、途中で千沙が我慢できなくなってオナニーに没頭しはじめている間に、いくつかのドン引きするような光景の教室には、より穏健な暗示を与えてあげました(美少女たちが全員パンツ一丁になってパンツの前後を汚しながら馬跳びしている教室は、次のチャイムでみんなが我に返ったら、ちょっとしたトラウマものだったと思いますので・・・)。

 千沙は僕が青梅台学園で「喜び組」と遊びに耽っている間に、街の各所に実験室を作っているそうです。トランシアをベースにしたラボは、聖ジョセリン女子高の他にも青梅台総合病院やイヤンモール青梅。お洒落なレストランやカフェが建ち並ぶ北青梅台イチョウ通りはロボタを集中的に栽培してお姉さんたちに早食い、大食い、犬食いさせてポッチャリ系美女を育成中。新青梅谷駅前のブティックストリートはペルベルタを生やしたヤングミセスたちの野外露出行為の主戦場として、人目を奪い合う仁義とモラル無き戦いが繰り広げられているそうです。他にも続々と、特定の種を集中的に栽培して、色々な交配実験を進めているとのことでした。


 今朝、僕は、御前会議の場で、千沙に僕の不安と最近の懸念を伝えました。

「何って言うか、千沙みたいに上手く考えをまとめて説明出来ないんだけど、女の子たちから種を採取する時のやり方って、もう少し自然には出来ないものかな?」

 僕が聞いてみると、千沙は素直に僕の言葉に耳を貸してくれるのですが、冷静に反論します。

「自然に・・・。ちょっと最近の私のやり方が、システマチックってこと? それとも臣民たちを追い込み過ぎてるってことかな? システマチックっていう点では、ご主人様の帝国拡大を速やかに進めたいってこともあるし、例の「ガーデナー」さんだって取引き上、沢山の種を必要としてると思って。あと、追い込みすぎっていう点では、普通に接していたら、種は頻繁には撒布されないし、特殊な追い込み方をしないと変種とか新種が採れないでしょ? ご主人様の命令だったら拡大路線も転換するし、もうちょっと大人しいやり方に変えるけれど・・・。」

 僕を諭すように話す千沙。一々指摘がごもっともだし、もともとは僕が千沙にお願いしていることなので説得が難しいのですが、それでも僕はもう少し話してみました。

「いや、千沙には感謝してるんだよ。(ここで千沙が軽くイッたので、回復を待ちます)
 千沙だけじゃなくて、琴子にも感謝してる。(こっちはサービスです)
 だけど、ちょっと最近、僕が女の子に好奇心から悪戯したり、性欲からエッチさせてもらったりするのとはかけ離れた場所で、僕も知らない女の子たちが一方的に辱められたり、人格を否定するようなことをさせられたりしてるっていうのが、気が咎めちゃうんだ。もちろん、僕がしてることだって、酷いことなんだけど、その、僕が知らないところで何十人、何百人もの人たちが普段だったらしない、されないようなことをされているっていうのが、どっか引っかかるって言うか・・・。」

「ちょっとわかるかも。」

 琴子が、膝に両手をついて、エクスタシーに耐えながら、僕に助け舟を出してくれました。嬉しそうに琴子を見返す僕に、彼女はちょっとだけ口元を緩めて、目を合わせてくれました。

「わからない。納得しかねます、ご主人様。」

 僕と琴子が視線を交わらせていると、千沙はさっきよりも強い口調で反論してきました。

「ご主人様の、恋愛感情や性欲がベースにある行為は許されるけれど、それの埒外で行われる悪戯は非道っていうの? その発想がもう、ストーカーと一緒じゃないですか? 動機がピュアだったら許せる、そうでなければ許せないって・・・。女の子は相手の動機がどうであれ、本来意に沿わないことをされたら、同じように嫌なんですけど。」

「千沙。貴方が正しいんだと思うけど、私はちょっとご主人様の言ってることわかるよ。私は・・・、変な考えかもしれないけど、不思議なことがおこってご主人様の召使いになっちゃったけど、ご主人様にそこまで思われたり求められてたっていうのは、悪くないっていうか・・・、なんっていうか。」

「琴子にはわからない話だから、口を挟まないで。今は私が、ご主人様と話をしているの。私が出過ぎた言動をしたら、私がご主人様から罰を受けるの。私とご主人様の関係に、ズカズカ入ってこないでよっ。」

「千沙っ。琴子っ。ちょっと黙って!」

 僕が耐え切れなくなって、ちょっと大きな声を出したら、千沙も琴子も口をパクッと閉じて「気をつけ」の姿勢をとると、一切物音を立てなくなりました。僕がゆっくりと自分の考えをまとめようとしている間も、2人は視線を交わしながらも、口にチャックが閉められたかのように唇を口の中に隠して、綺麗に閉じたままでいます。

「あの、論理的にも倫理的にも、千沙が正しいんだと思う。だけど、・・・なんっていうかこれ、僕のあやふやで気まぐれな、生理的な話なんだ。この、魔道植物って・・・凄い不思議な力と効用を持っていて、それを使って僕の好きな子や、待ち行く綺麗な子に悪戯をしちゃうって考えると、凄く興奮するし、僕は勃起するんだ。これは間違っているかもしれないけれど、本当に勃起するの。だけど、僕の知らないところで、千沙や僕の臣民が何十人も何百人も辱めていく、僕はそれに責任を負えない・・・っていうのは、ちょっと萎えるんだ。これも僕の生理が間違っているかもしれないけれど、今はとにかくそうなんだ。・・・わかってもらえないかもしれないけれど、これは命令じゃなくて、僕のやり方を千沙にも受け入れて欲しいんだけど。無理かな?」

 僕はこれまで千沙や琴子の前で何回も勃起したり射精したり他の女の子にむしゃぶりついたりしてきたけれど、こうして話をするのが一番照れくさい気がしました。それでも、千沙は深い溜息を鼻から漏らした後で、少し微笑んでくれました。ちょっとだけ諦めを含んだような、それでも優しい笑み・・・。

「んー。んー!」

 千沙が自分の閉じた口を指差しながら、僕に何かを訴えようとします。僕は最初、不思議そうに千沙を見つめるだけでしたが、ようやく気がついて、2人に言います。

「あ・・・、ゴメン。もう喋っていいよ。」

 プハッ。千沙と琴子がやっと口を自由に開けられるようになりました。琴子は気持ち良さそうに深呼吸で口から息を吸ったり吐いたりします。千沙は、腕を組んで斜めから僕を睨みます。

「別に私だって、正しいこととか、論理的とか、拘ってるばかりじゃないし、もともとご主人様の帝国なんだから、孝典がしたいようにすればいいのよ。私にも、こんな説得しなくたって、ただ命令すればいいのに・・・。もう、わかりました。全てご主人様の御心のままに。帝国は一旦今の均衡を守る路線に変換して、新種や変種も自然な発生に任せるようにします。」

 千沙がそう言ってくれて、僕は心底ホッとしました。
 結論が最後になってしまって申し訳ないのですが、僕の花園の急拡大はしばらくの間、控えたいと思うのです。新種や変種にしても、自然に出てきたものはこれまでどおりお送りしたいのですが、無理に捻り出そうとはしないようにします。僕自身のキャパシティを少しずつ広げていって、それに合わせて帝国の管理も拡大、進展してみたいと思います。植村さんはご理解頂けますでしょうか?


。。。



<ガーデナーさんからのアドバイス>

 孝典君は少し、環境のあまりにも激しい変化に戸惑っているのでしょうか。それであれば、数日休んでみることも良いアイディアだと思います。ただ、これまで順調に進められつつある路線を急に転換するのは、いかがなものでしょう? せっかく千沙さんの才能も十分に駆使して、孝典君としても想像も出来なかったような面白い非日常空間を創り出せているのだから、ここで一気に縮小路線を選ぶのはもったいない気もしますね。

 何より、貴方の採取しているタカノリアの種には、海外の顧客からも高い評価を得ています。トレーダー、ブローカーともに、私としても新たな販路を拡大しつつあるという状況です。ここで一気に供給が絞られてしまうと、正直申しまして、こちらも少々辛い状況になります。迷ったり落ち込んだりしたら、色とりどりの美女や美少女に癒してもらいながら、一度考え直してもらえませんでしょうか? よろしくお願いします。


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 11月9日(日)

 植村さん、ご心配おかけしていまして、申し訳ありません。週末もちょっと考えてみたのですが、僕にはやっぱり、マイペースで小ぢんまりと、花壇の世話をしているくらいが一番合っているように思えてしまいます。もう少しお待ち願います。

 本当にゴメンなさい。


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<ガーデナーさんからのアドバイス>

 孝典君、一度会って、直接お話出来ませんか? 君に迷いがあれば、もっと効果的に相談に乗れるかもしれません。


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<ガーデナーさんからのアドバイス>

 孝典君、このメッセージを見てもらえていますでしょうか? こちらは少々困っています。


。。。




<ガーデナーさんからのアドバイス>

 孝典君、2週間以上、ご連絡をもらえていないので、少々私も焦り始めています。ご存知ないと思いますが、魔道植物の業界は普通のクリーンでソフトなビジネスの世界とは少し異なります。取引には信用があり、リスクがあり、リスクが大きくなれば、それを排除しようとする動きが出てきます。そしてそうした人たちは、法律を守ってくれないし、現代の科学技術ではとても対抗できないような力で、仲買人を追い詰めていきます。私にも危機が迫るとなれば、自衛のために何らかの手段をとらなければならない。

 私を助けると思って、連絡をください。もしくは今私と話しにくい心境であれば、少量で構いません、貴方が採取した種を送ってきてください。

 よろしくお願いします。


。。。



 11月28日(金)

 植村さん。平賀孝典です。3週間以上、花の成長日記も更新せず、種も送らず、連絡もしていなくて本当にごめんなさい。植村さんの気分を害したり、嫌な思いをさせたり、仕事の上でも困らせたんだと思います。許してください。僕は、本当に自分の帝国が自分でも手が届かないほど大きく強力に、恐ろしい勢力になるのが怖くて、引きこもっていたんです。植村さんの期待も裏切ってしまったと思います。申し訳ありませんでした。

 今になって、植村さんの助けを求めるのは、本当に都合の良い話だと思います。でも植村さんしか頼れません。もう一度だけチャンスをお願いします。

 千沙が、香村千沙が見つからないんです。ご両親は、11月24日(月)から帰っていないと言います。香村一家は千沙のピュピレになっていて、「たまに帰らないけど、心配しないで」と僕との夜遊びが問題にならないように伝えていたようで、ご両親もお兄さんも、木曜になるまで千沙と連絡がとれないことを不審に思わなかったようです。

 僕は前の御前会議以来、ちょっと千沙に対して気まずい思いを持っていたので、彼女が教室に顔を見せない間も、「何か新しい国家プロジェクトでも始めているのかな?」と、楽観的なたかのくくりかたをして、喜び組の子たちと遊びやエッチに耽っていました。水曜日になって、3日も顔を出さない千沙を心配しはじめたのは琴子でした。それでも僕は千沙に対しての後ろめたさをまだ拭いきれていなくて、琴子には「千沙のことは気にせずに楽しんで」と一言、軽い気持ちで言ってしまいました。僕は自分でそう言ったことすら忘れていたのですが、琴子は水曜から今日まで、千沙の名前も出さずに、ハイテンションにはしゃいでいました。僕のミスです。

 気がつくと今日で5日も千沙の行方がわからない状態になっていました。昨日気がついた僕が、思い当たる方面に連絡を取りまくったのですが、彼女の消息が掴めません。僕が一番恐れていることは、僕の代理として帝国の領域拡大や有望な新人のスカウトをしていた彼女が誰かから恨みを買って、拉致されているのではないかということ。もしそうだとしたら、彼女や僕らにとって、最悪のシナリオすら考えられます。植村さんもどうか、僕の非礼を一旦脇に置いて、千沙を探すことにご協力頂けませんでしょうか? 彼女が助かるためなら、僕は何でもします。

 どうかよろしくお願いします。


。。。



<ガーデナーさんからのアドバイス>

 孝典君、心のこもったメッセージをどうもありがとう。君を追いつめることは僕の意図ではないので、そこまで考え込ませてしまったのなら、逆に申し訳ない気持ちです。もっと言うと、この申し訳ない気持ちにはさらに理由があります。君の周囲。よく見てみると何か微妙な変化がありませんか? 体育館で、運動場で、裸で走り回ったり、レズプレイに没頭している子はいませんか? グルメ通りは? ファッション通りは? モールは? 病院は? お嬢様女子高は今、どうなっていますか? 千沙さんを探すなら、千沙さんの姿だけ追っていてはいけません。もっと他の人たちの変化も見てください。以前と同じように、魔道植物の実験場が稼動している気配はありませんか? 以前より過激に、以前より大きな規模で・・・。

 大変申し訳ないとは思ったのですが、千沙さんを手にしているのは、貴方たちに恨みを持つ敵ではなくて、ガーデナーである私です。マザリアが派生的に手にすることの出来る特殊な効用の一つで(貴方には教えることが出来ませんでしたが)、自らの体から蔦を伸ばして、他人のディシプレを一時的に支配下に置くということが出来るのです。私の蔦に絡められている千沙さんは、私の指示を、本当のご主人様である貴方からの命令だと認識して、行動しています。今、彼女は、帝国再膨張と新種、変種の量産を己の使命であると心得て、「貴方のために」これまで以上に尽力しています。

 このことは私の過ちだと反省しているのですが、貴方の花園拡大が余りに急ピッチで、あまりにも興味深い希少種が早いペースで採取されつつあったため、私はある、大口のブローカーと、かなり巨大な規模の取引きを請け負ってしまっていました。私がそんな取引きを勝手にまとめようと無理をしてしまったのも、つい先日、中南米に拠点を置くそのブローカーが、ある非常に特殊な種を入手したという噂を耳にしたからです。それは私が長年この業界で追い求めてきた種で、有史以来、数回しか確認されていない、大変に貴重で偉大な種なんです。どうしてもその種を一粒。サンプルで良いので入手したい。私が熱望している最中に、貴方の花園からは希少で質の高い種が安定して供給されるようになりました。私はここで取引きをしかける誘惑に勝てませんでした。その後のことは、タイミングが悪かったとしか言いようがありません。

 とにかく香村千沙さんは安全です。彼女は今、これまで以上に張り切って貴方の帝国の拡張のために働いている。もう数ヶ月・・・いえ、もう数週間、私の指南の元で交配実験を続ければ、裏ブローカーが食指を動かすほどの、見事な希少種の採取に成功してくれると思うのです。そうすれば、千沙さんは貴方のもとへ戻しますし、その後の孝典君の花園の運営方法には口を出しません。どうか、この私を許してください。


。。。



 学校の視聴覚室でPCの前から立ち上がった孝典は、穂波琴子に行く先も言わずに駆け出した。視聴覚室のある3階から階段を駆け下りて、廊下を走る。琴子が孝典の名を呼びながら、必死に後を追った。廊下で孝典を見た男子生徒や男性教師は慌てて道を開けて跪く。女子たちはにこやかにスカートの裾を持ち上げてお辞儀をする。その誰にも構うことなく、孝典は校舎を飛び出した。

「陛下っ。・・・ちょっと孝典ってば。どこに行くの?」

 琴子が後ろから声をかける。孝典自身、自分がどこに行こうとしているのか、良くわかっていなかった。それでも、裸で一列になって乾布摩擦をしているハンドベル部の横を通り過ぎて校門を出ると、街の雰囲気が少し変化していることに気がついた。

 優雅な雰囲気を身にまとった、綺麗な若奥様が裸の体に首輪だけをつけて散歩をしている。リールの先には、口で咥えて奥様の散歩に付き合っているヨークシャーテリアーがいた。綺麗な若奥様は散歩が嬉しくてたまらないといった様子で、舌を突き出してハッハと息を吐いている。

「ね、琴子。・・・こんな暗示か指示。僕ら出したっけ?」

「・・・私は、してないけど」

 立ち止まった孝典と琴子の前で電柱を見つけた奥様は、片足を上げて電柱にマーキングを始めた。ブラウンの毛並みを綺麗に整えてあるヨークシャーテリアーは、少し困ったように首をかしげながらも、裸の女性のマーキングを見守っている。

「僕らじゃないとしたら?」

「千沙!」

 孝典と琴子は顔を見合わせて声を上げた。孝典はもう一度走り出す。余裕で琴子に追い抜かれた。日頃の運動不足が身に染みた。腰はずいぶんと強化されたのだが、足が追いついていかない。学校の坂を駆け下りてバス停の脇も抜けて市街地へと走っていくと、いつもと違う風景は少しずつ増えていく。裸でスキップしながら脇に抱えたカゴから下着類をばら撒いている嬉しそうなお姉さん。ストッキングだけを身に着けた状態でブリッジの体勢で会社に向かうアクロバチックなOLさん。頭にパンティーをかぶって、ヒーローもののようなポーズを屋根の上でとっている半裸の女の子。電信柱の上で出初式のような軽業を披露している綺麗どころの店員さん。みんな陶酔したような表情で、奇行を繰り広げていた。頭にはかすかに点滅する小さな花。トランシアだった。

「千沙が凄い勢いでトランシアを量産しながら散布してるのよ。でもどうして? ・・・陛下に自重するように言われたのに。」

「ガーデナーの植村さんが、何か、特別な、やり方で、千沙を支配してるんだと思う。ふぅっ・・・急いで2人を見つけないと、騒ぎがどんどん大きくなっちゃう。」

 両膝に手をついて、呼吸を整えながら、苦しそうな孝典が呟く。琴子は困ったように周りを見回した。

「騒ぎには・・・なってないみたい。みんな、当たり前のものを見てるみたいに、通り過ぎていってる。」

 琴子がキョロキョロしながら話すのを聞いて、ようやく孝典も頭を上げた。確かに、視界に入る限りの通行人は、平然と歩いたりスマホをいじったりしていた。よく見ると、この人たちにもトランシアの花は植わっている。

「みんな、タカノリア・トランシアの花を咲かせてるから、千沙の支配下にあるんだ。・・・ん? ・・・タカノリア?」

 孝典は自分で話していて、ある疑問を頭に浮かべた。千沙はもともとタカノリア・ディシプレの花を咲かせている孝典の召使い。ディシプレとして余りにも優秀だったので花の帝国の皇帝である孝典に代わって帝国宰相として色々な花の栽培や成長促進、散布を代行しているが、元はと言えば、花は全部タカノリアだ。

「・・・ってことは・・・。ねぇ、そこのお姉さん。正気に戻って。」

「・・・・はい。・・・え? ・・・私なんで、こんな恰好で・・・イヤーーァアアア」

 Vの字を描く紐みたいな青い水着を着て、大きな磁石の模型みたいなものを持ってポーズを決めていた、真面目そうなお姉さんが、孝典に声をかけられて急に我に返る。目をパチクリさせた後で自分の破廉恥な格好に気がついて悲鳴を上げた。

「あ・・・、落ち着いて。あの、そこのオジサン、このお姉さんの体を隠してあげて。」

「はい。落ち着きます。」

「はい。隠します。」

 頭のてっぺんから髪が薄くなっている、グレーのスーツを着たサラリーマン風の男性に孝典が声をかけると、男性は素直にスーツのジャケットを脱いで、悲鳴を上げていたお姉さんの体にかけてあげる。お姉さんはさっきまでの慌てっぷりが嘘のように、真顔で直立したまま深呼吸をして落ち着いていた。琴子が嬉しそうに頷く。

「みんな千沙に操られているけど、ちゃんとご主人様の言うことも聞いてくれるっていうことね。」

 琴子と孝典が目を合わせて頷く。非常事態だ。多少強引な手段も躊躇ってはいられなかった。


 クリーニング屋のオジサンが運転する白いバンの窓から顔を出して、孝典がハンドスピーカーを使って街に声をかける。

「皆さん、大人しく家に帰ってください。服を着て、今日したことは忘れましょう。」

 選挙カーのようにアナウンスしながら、白いバンが走っていく。街中で白昼堂々、ヘビーペッティングや本番に明け暮れていた男女や同性同士が、バンが通り過ぎて行った後で、おずおずと立ち上がって、それぞれの家路につく。みんな半裸や裸の状態だが、ぼんやりと、大人しく帰宅を始めていく。車の窓から、琴子が小さくガッツポーズを決めた。

「いけるっ。この調子で、千沙を探しながら街の異常を解決ねっ。」

 孝典は、屈託のない琴子の言葉を聞きながら、やはり千沙の注意深さを琴子に求めるのは難しいと自覚した。

「いや・・・、よーく見て。僕の呼びかけに、すんなり応じてくれる人たちばかりじゃないみたい。さっきからちょくちょく、一声かけただけだと、なかなか家に帰ってくれない人たちがいるよ。」

 孝典に言われて、琴子が注意深く車窓の景色を見つめる。確かに10人に1人ほど、すんなり今している行為をやめて、家に帰ってくれない人たちがいるようだった。琴子は腕を組み、首をかしげて考える。こんな時、千沙がいてくれたら、即座に鋭い分析を提供してくれるのに・・・。琴子も孝典と同じく、失踪中の帝国宰相の存在をついつい求めてしまっていた。

「確かに、あの、シックスナインしてるお姉さんたち、まだ止めてくれないみたい・・・。クルマ、もっと近づける?」

「うん・・・。オジサン。クルマをあっちの裸のお姉さんたちのところに寄せて。」

「はい。かしこまりました。」

 自分が忠実な運転手だと信じこんでいるクリーニング屋のオジサンは、仕事そっちのけで孝典たちの指示に従ってくれる。『藤原クリーニング店』と右から書かれた白いバンが、自動販売機の前で全裸になってシックスナインに勤しんでいるお姉さんたちに近づいていった。

「お姉さんたち、大人しく家に帰ってください・・・。ねえ、今していることをやめて、さっさと帰りましょう。・・・・もう、いい加減、そのシックスナインを止めてください。」

 最後は懇願するように、ハンドスピーカーで呼びかけた孝典。その最後の言葉を聞いて、情熱的な舌技を披露しあっていた2人の美女が、ピタッと動きを止めた。

「はい、2人とも、ちゃんとこっちを見て。お姉さんたちは今から、とっとと家に帰りなさい。」

「は・・・はい。わかりました。」

 顔を赤らめながら、美女2人が立ち上がる。2人は道端に散らかした服を拾い上げることも無く、背中まで赤くしながら、回れ右をして走り去った。裸のままなので、まるで冬場にストリーキングが始まったみたいであった。

「あのお姉さんたち、強情だったね。なんで僕の一言で千沙の暗示を塗り替えられなかったんだろう?」

 素朴な疑問を口にする孝典。琴子はご主人様を助けたい思いが高まるけれど、これまで知能系のアドバイスを求められたことも少ないので、困った表情を浮かべる。

「私は・・・千沙みたいに頭良くないから、よくわかんないけど・・・。その、さっきご主人様が、ちゃんと『シックスナインを止めて』って言葉に出した時に、ようやくあの人たちが反応してくれたよね? ・・・そこが気になったと言えば、気になったんだけど・・・。」

 琴子の、自信なさげな指摘も真摯に受け止めて、孝典が頭を捻る。いつものブレーン、千沙がいないことを悔やんでも仕方がなかった。大体この騒動は、千沙が原因のはずだ。その千沙が助けてくれないことを恨んでいても、一歩も前に進めないと思われた。

「うーんと・・・、確かに植村さんも、トランシアは各土壌の想像力に働きかけるから個人差が大きくて、効き方にもバラつきがあるって言ってた。・・・っていうことは、解除のされ方、塗り替えられ方にも、個人差があるってことかな? ・・・暗示がはまって、熱中しすぎている人には、ちゃんと暗示のフレーズを口にして解除しないと、耳に入らない?」

「あと考えられるとしたら・・・、暗示を与えられたばっかりの人は、しばらく前に暗示を与えられた人よりも、解除が難しいとか・・・。」

 孝典が琴子の目を見る。相手が暗示に深くはまっている場合と、つい最近暗示をかけられた場合。その二つが可能性として残る。

「どっちもありえるね。でも、後者のパターンも混ざっているとしたら・・・。」

「そっか。より暗示が強力に残っている人たちが多いところを集中的に探せば、千沙が今いる場所に、たどりつけるかも? ・・・そうよっ! ヨッシャー!」

 琴子の表情が輝いて、右手の手のひらを孝典に見せる。孝典が合わせるように右手を挙げると、琴子からパチンと手のひらを合わせてきた。体育会系の琴子ならではの、軽いノリのハイタッチ。それでも孝典の気持ちはずいぶんと、ほぐしてもらえた気がした。


。。。



「そこのお姉さんたち、貴方たちはバレリーナではありません。列を組んで踊るのをやめて、服を着て帰宅してください。あと、貴方たちがどっちの方角から来たのか、教えてね。右? オッケー。」

「君たち、アシカじゃありませんよ。ボール遊びも止めましょう。オッパイも隠してズボンも穿いて、家に帰ってくださいね。あと、どっから来たの? ・・・忘れた? しょうがないね。バイバイ。」

「皆さん、網で上がった大量の魚さんじゃありませんよ。ピチピチ跳ねないでください。下の方の人たちが苦しそうでしょ? 服を着て帰ってください。服無くなっちゃった? ・・・じゃあみんなで新聞紙でも拾って、体を隠しながら帰ってください。あとどこから来たか・・・ま、覚えてないよね。いいです。」

「貴方たちは何をしているのかな・・・。交尾? ・・・ただの交尾じゃないな・・・。猫? ・・・そうか。発情した猫の交尾。すぐにやめましょう。貴方たちは発情期じゃないし、猫でもないですね? そうです。思い出した? ・・・どこから来たの? …駅の方? ありがと。」

 クリーニング店の白いバンの窓からハンドスピーカーを出して、孝典が必死に強情なトランシアの持ち主たちに呼びかけて暗示を解除していく。与えられたらしい暗示のフレーズを特定出来ると、解除がスムーズになるようで、街の男女は我に返るとモジモジしながら家に帰っていく。人々の様子を見ながら、どんな暗示が与えられているのか当てるのは簡単なケースばかりではない。孝典と琴子は、ジェスチャーゲームの回答者になったような気分だった。

 オフィス街を横切ると、職場丸ごとニワトリの集団になってしまったらしい会社の人たちが奇声裸で両手をパタパタさせながら奇声を上げて跳ねまわっていた。交差点で美女の集団がオッパイをぶつけ合っているのを止めさせるには、4人がオッパイで餅つきをしているつもりだということを、掛け声から気づかなければならなかったので、相当時間がかかった。なにしろ餅も杵も臼もこねる手も、みんなオッパイで演じているのだから、ただのオッパイのぶつかり合い、捏ねくりあいにしか見えなかった。オフィス街に面する喫茶チェーン店からは店員さんとお客さんたちが裸祭りを始めていた。寒風に晒された素肌に、力水のかわりに、あつあつのコーヒーがかけられていたので、ヤケドをしないように全員に冷水をかぶるように指示をした。オフィス街を抜けると駅前広場。ジャングルなのかサバンナなのか、各人の想像の中での設定はよくわからないが、青梅台の住民たちが野生動物に成りきって、ほぼ全員全裸で動物の生態を見せつけていた。ダチョウのようなポーズで奇声を上げながら走るミセス。甘噛みしあいながらじゃれ合う家族連れ。大っぴらに交尾を繰り広げる学生集団と縄張り争いで体をビタンビタンぶつけ合っている注禁取締りの婦警さんたち。駅前のファーストフード店から投げ散らかされたパンやハンバーグを、地べたに這いつくばって犬食いする大人たち。噴水で水浴びする「カバさん」の横で、器用に鼻の穴から水を噴き上げている「ゾウさん」。みんな普段はすましたOLさんたちだったはずだ。飲食行動も排泄行動も生殖活動も、みんな自由気儘に織りなされる、野生の王国が出来上がっていた。

「これを・・・、1人ずつどんな暗示か当てて、解除していかないと行けないのかな?」

 孝典がウンザリしたような顔でつぶやくと、琴子が声を上げた。

「ご主人様・・・。孝典っ! あれを見てよ。」

 琴子が窓から空の方を指さしている。その先を辿ると、上空に、他の雲とは違う速さで進む、雲のような靄があった。よくよく目をこらすと、それが駅に向かって舞い降りていく大量の綿毛だということがわかった。

「トランシアの種・・・。そっか、駅にはずっと撒いておく必要があるんだ・・・。」

 タカノリア帝国を維持するために、当然と言えば当然の対策だった。駅や主要な幹線道路から次々と街に新しい人が入ってくる。魔道植物で街の支配を維持するためには、こうしたポイントに、常にトランシアを撒いておく必要があったのだ。そんなことを皇帝である孝典にいちいち伝えることもなく、人知れず千沙はせっせと帝国維持のために日々種を散布していたのだった。

「あの靄が来る、方向を辿りましょ。千沙が・・・。私たちの宰相が待ってるわ。」

 琴子が言う。孝典が無言で頷くと、クリーニング屋の藤原さんは、察したようにバンを動かす。「野生動物」たちを跳ねないように気をつけながら、車は駅前の大通りから商店街へ向けて進み始めた。地下鉄で言えば1回乗り換えて、青梅台学園から合計7つ目の駅。『神洲薬師商店街』のそばまでクルマは南へ下った。上空の靄はどんどんと濃く、太く、分厚くなっている。拡散されるトランシアの種はこの地から街全体へと飛び散っているようだった。

「神洲薬師。・・・ここに千沙がいるのね。」

「どう見てもそうだよね」

 商店街付近の路地を行く人々からは、すでに服を着ている人を探す方が難しいほどだった。嬉しそうに裸で駆け回る若い男女。集団で床体操に勤しむ女性たち。列を作って足を蹴り上げて踊る集団。人の素肌の肌色で景色が埋め尽くされていた。

 
 


 

 

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