ふらっぴんぐ・すり〜ぱ〜


 

 

後編




《6》



「ああ、が……っ、うううっ……!」

 思いの外、痛みはなかった。それでも自分の下半身が収縮し、その侵入者に対して反応をしていることが分かった。
 ギリギリと引きつるその中を、熱を持った杭が脈打ちながら突き刺さっている。

「はあ……早乙女さんの中、凄く気持ちいいよ」

 耳元でささやく、熱い息。
 言い返すことなんて、とても出来ない。初めて受け入れるそれは、経験の全く無い舞華にとってはあまりに大きくて、肺の中の空気すら押し出してしまうほどに、彼女の中を満たしているように感じた。

「じゃあ、動くね」

 表面に凹凸をもったそれが、舞華の中を前後し始める。攣(つ)ったように収縮した彼女の胎内は、その表面をぎっちりと締め付け、彼女には少年のモノの形そのものが感じられるようだった。
 机の端を関節が白くなるほどに握りしめ、耐え難い未知の感覚に、耐える。

(もう、もう止めて……っ!)

「ぎ……、あ……っ!」

 喰いしばった歯の間から洩れるのは、そんな声にならない音のみ。

 そのとき舞華は、涙でにじんだ視野の向こうに、さっきの眼鏡をかけた小柄な女の子が彼女の顔を覗き込んでいることに気がついた。

「うぐっ、あ……っ!」

 ほんのちょっとでも冷静に考えれば、その女の子が舞華の味方であるはずがなかった。
 しかし今の舞華には、そんな余裕はなかった。目の前に現れた同性である少女に、懸命に視線を送る。

「あがっ……あ、た……たすけ、て……。
たすけて……おね、がい……おねがい……ぃ」

「うん、そうだね」

 少女は舞華の顔を見ながら、うんうんと頷いた。

「え……?」

 今、彼女は何と言ったか。
 舞華を助けてくれると、そう言ったのか?

 だけど彼女のそんな期待は、次の瞬間に残酷にもうち砕かれた。

「もう、そろそろ初めての気分は、十分に味わってくれただろうし。
 それじゃこの辺で、舞華ちゃんにもきちんと気持ちよくなってもらおうか」

 にっこりと笑う、その幼さの残る顔。
 しかしその中心にある少女の目は、妖しく輝いていた。

(え……いや、あ!?)

 少女の顔が近づき、そして再びその唇が、舞華の唇に重ねられる。
 ぬめったような柔らかな舌が、舞華の上下の唇をこじ開けて口内へと入り込み……

"ドクンッ!!"

「ひっあ!? ああああああっっっっ!!」

 信じられない感覚が、彼女の脊髄を貫いた。
 冷たい電撃が体中を走り抜けるような、痛みとも冷気ともつかない感覚。
 一瞬、思考が真っ白になり、脳が焼き尽くされたかと錯覚する。

 そして、それが去った後には、

「あ、ああ、ああああああ……っ!?」

 誤解など仕様のない、これ以上ないほどに明確な、津波のような『快感』が舞華を襲った。

「ふあ、あ、あ、ああ!」

 少年が彼女の中を前後するたびに、舞華の体内はギュッギュッと蠕動する。焼けた鉄予納に熱い欲棒の膨らんだ部分が、そんな肉の壁に強く擦りつけられ、そうして生まれた濡れた摩擦が、舞華の背筋を快感として駆け上がり、脳髄を揺さぶる。

"ぐちゅ……、ぶちゃ……!"

 彼女が分泌した粘液が、擦り合わされる粘膜と粘膜の間であふれ出す音が、やけに大きく耳に届く。
 その音が、鼓膜をゆする振動さえもが、今の彼女にとっての刺激だった。

「あ……あっ、ああ……あっ!」

 もはや、否定することなど出来なかった。
 舞華は──彼女は今日初めて出会った見知らぬ少年に犯され、そして快感に声を上げているのだ。

「あ、ふ……あ、いや……いやだよう……」

 涙と、そして口元からだらしなく垂れ落ちる唾液と共に、舞華はむせび泣く。

「わた、わたし、いやなのに……こんなの、ひどいようっ」

 机の上に押しつけられた頬と机の間に、唾液と涙が混ざったものが染み通り、気持ちが悪かった。
 それでもそんな下らない感触など、今の彼女を蹂躙する暴力的な快感の前には、一瞬で掠れ飛んでしまう。

「こん、なの……うあっ、ああああ……っっ!」

 激しい動きに、机がガタガタと震える。
 そんな机に、必死でしがみついた。

「うそ、だよ。んあっ……こんなの、こん……なの、わたしじゃあ、ない……っ」

 何度も、何度も、子供が泣きながら言い訳を繰り返すように、そう口にする。
 だがそんな言い訳に、どれほどの意味があるというのか? そんなものが彼女を助けてくれるとでもいうのか?

 ──そんなことは、舞華自身がいちばんよく分かっていた。

「うあ、ああ、くんっ……あ!」

 股間から立ち上るぐちゅぐちゅという音が、いっそう大きくなる。
 彼女から溢れた恥ずかしい粘液は、既に内股を垂れ落ち、ふくらはぎの辺りにまでを濡らしていた。

(あ……わたし、気持ちがいいんだ。気持ち……いい)

 もう舞華には、快感を否定するような思考能力は、残っていなかった。
 それと合わせるように、少女の躰も、より快感を得るために自然と動き出す。

 無意識のうちに、彼女の腰は繰り返し突き上げる少年の肉茎を迎えるように、彼の動きに同調しながら動いていた。
 膣壁はリズミカルに収縮し、熱のような快感を汲み上げると共に、内部を突き上げる男性の象徴を激しく愛撫する。

「う……くっ!」

 後ろから舞華の躰を揺さぶる少年が、そう声をもらすのを感じる。
 それは彼女が彼に与える快感故のものだ。
 自分をねじ伏せるように覆い被さる彼にそんな声を上げさせたという事実が、更に舞華の下腹部を熱くした。

「わ〜、ハル君、気持ちよさそうだねえ」

「ああ……すごい、よ。本当に、絡みついてくる……っ」

 二人が何かを話していたが、そんなことは、もうどうでも良かった。
 性器と、そして子宮とを揺するこの快感さえあれば、他の世界はもう無くなったっていいとさえ感じた。

「じゃあさ、ハル君」

「ん……?」

 なのに、急に彼女の中を行き来する感触が止まった。
 まるで虚空に放り出されてしまったかのような、喪失感。

「え……なんで」

 そう呟いた彼女の身体が、ひょいっと持ち上げられた。
 そのまま今度は、テーブルの上に仰向けで寝た体勢に変えられてしまう。

(私、欲しいのに……なんでっ!?)

 気が狂ってしまいそうなむず痒さを抱えて、身をよじる舞華。
 だがそれほど待つ必要はなかった。
 仰向けになった彼女の両足を、抱えるように高く持ち上げると、少年は再び彼女を責めはじめた。

「ああ、ん……ふぁっ!」

 再び与えられたものに、舞華は歓喜の声を上げた。
 もはや彼女は、快楽の為だけに存在する、快楽の虜だった。

 そんな彼女の顔に、影が落ちる。

(え……?)

 見上げるとそこには、机の上に上がった先程の少女の姿があった。
 履いていたキュロットは脱がれており、薄い体毛で飾られた、まだそれほど成熟していない女性器が晒されていた。

 少女は舞華の顔をまたぐようにして、腰を沈めてきた。

「んっ……んぐっ!?」

 口を塞がれて、混乱する舞華。その頭上から、ちょっと舌っ足らずな声がかけられた。

「舞華ちゃん。わたしも、気持ちよくして欲しいなあ」

 そう言いながら、腰を無遠慮に舞華の口に押しつける。

(や……だって、女の子の……なんて)

 首を左右に振り、なんとか逃れようとする舞華。
 だだっ子のように首を振る彼女に、少女は言い聞かせるように話しかけてきた。

「ひどいよ、舞華ちゃん。わたしは舞華ちゃんのこと、凄く気持ちよくしてあげたのに。
 なのに舞華ちゃんは、わたしのこと。気持ちよくしてくれないの?

(あ……)

 少女の言葉に、ハッとする舞華。
 確かに、今舞華が感じている快感は、この少女がくれたものだった。

「ねえ、おねがい舞華ちゃん。わたしのここ、舞華ちゃんの舌で、気持ちよくして欲しいなあ。
 そしたら舞華ちゃんのことも、今よりもっと気持ちよくしてあげる」

「あ、んん……っ、今より……もっと?」

 自然と口が動き、そう質問していた。

「うん、今より、もっと」

 にっこりと、少女が微笑む。
 それは、純粋な笑顔だった。──たとえその中に、純粋な残酷さを含んではいても。

(………)

 観念するかのように、舞華の口から赤い舌が突き出された。
 目の前にある少女の割れ目を、舌先で舐め上げる。

 何度も何度も腰を突き上げられる舞華は、その度に身体が揺すられ、上手く少女のそこに舌を当てられない。
 それでも懸命に、彼女は少女に対する奉仕を続けた。

「うん……っ、そう。気持ちいいよ、舞華ちゃん」

 愛玩動物に話しかけるような、それと同種の愛情が込められた、その声の響き。
 そんな声に励まされるように、なにやら篭もったような匂いがするそこを、舞華は夢中で舐める。

(私のここも、こんな匂いなのかなあ……?)

 そう想像したとたんに、身体の熱がまた高まるのを感じた。

「ん、んんんぐぅ……っ!」

 顔の下半分を塞がれたまま、その息苦しさに、舞華はくぐもったうめき声を漏らす。
 そんなふうになりながらも、舌の動きは止めようとはしない。

「あ、……んっ」

 少女がそう小さく漏らしたその時、舞華は口にそれまでとは違う『味』を感じた。

(あ……濡れてきたんだ)

 舞華の口の周りは唾液だけではあり得ない、ぬめりをもった液体で汚されていた。

(わたし……この娘のを、飲んでるんだ)

 その事実が、一気に彼女を昂めた。
 少年のモノで責められている下半身が、きゅうっとなる。
 ただでさえ頭を焼き尽くしてしまいそうだった痺れが、更に深さを増した。

「ふんっ、……ん、んん……っ!」

 それまで以上の熱心さで、舞華は少女の割れ目に奉仕する。
 身体を揺すられ、舌では上手くいかないと悟ると、口全体を少女の性器に押しつけるようにして愛撫を始めた。

「んあっ、舞華ちゃん、気持ちいいよっ!」

 その言葉が嬉しくて、更に口元に力を入れる。
 口の中に垂れてくる匂いのある液体を、舞華は夢中で啜り、飲み込んだ。

「ん……あっ、どう、ハル君? ハル君も、いいよねえ?」

「ああ、凄く良くて……もう、持たないか……もっ!」

 ハアハアと荒い息をつきながら、舞華を組み伏せる二人が会話している。
 彼女の意見など聞こうともしない彼等にとって、舞華はただの道具なのだろうと漠然と理解する。

 快感を得るための、ただの道具。

 ──それでも、いいと思った。
 そうやって、こんなにも彼女を気持ちよく、今まで彼女が知らなかった、想像もできなかった悦楽の世界に連れて行ってくれるのであれば。
 この頭が焼けきれるほどの快楽の世界で、自分の自我が一体どれほどの意味を持つというのか……!

(あ……わたし、いく……いっちゃ、うっ!)

 そう思った瞬間、舞華の全身の筋肉が硬直し、背中がガクガクと痙攣するかのように震えた。

「ん、あ、ああああああああっっっっっ!!」

 同時に、

「くう……うっ!」

 今まででいちばん深い突き上げと共に、背後から少年のうめき声にも似た声が聞こえた。

"どくんっ、どくんっ"

「あ、あ、あ、ああ……」

 彼女の胎内に、熱が降り注ぐ。それは脈動するように、何度も、何度も、彼女の中に放出された。

(あ……わたし、わたしのなかに、だされちゃってるんだ……)

 そして彼女は、意識を手放したのだった。



《7》



「はあっ、はあっ、はあっ……」

 荒い息をつきながら舞華の身体に体重を預けていた春人が、ゆっくりと体を起こした。
 そのまま、腰を後ろに引く。

"ぬちょ……"

 そんな音をたてて、やや力を失った彼の肉茎が、舞華の肉唇の間から姿を現し、そして引き抜かれた。

"こぽ……"

 無惨に充血した少女の割れ目から、体内に溜められていたものが零れ出す。
 白濁した粘液の中に何筋かの赤い筋が混ざったそれは、彼女の会陰を伝わって机に流れ落ち、一部は床へとしたたり落ちる。

"びくんっ" と、上体を机に預けたまま弛緩しきった舞華の身体が、一度だけ震えた。

「ずいぶんいっぱい出したね〜」

 感嘆するように、里美が言った。
 確かにその精液の量は、通常では考えられないほど多かった。

「まあ、なんつーか、すげえ気持ちよかったもんで……」

 ちょっと照れたように、言い訳にもならない言い訳を口にする。
 しかし里美はそんな彼を特にからかうでもなく、言った。

「別に変じゃあないよ。ここは意識の世界だからね。昂奮すればするほど、こういう形になって現れるんだと思う」

 里美は舞華の内股に手を伸ばし、そこに垂れる粘液を指ですくった。
 そのまま指を広げると、人差し指と中指の間に粘液が糸を引いて、橋を作った。

「わたしは嬉しいから、いいんだけどね♪
 そうなればなってくれるほど、お腹いっぱい、美味しく頂けるもの」

 彼女は夢魔であり、それこそが彼女の生きる糧である。

 里美が粘液が絡みついた指を口元へと持っていき、春人に見せつけるように、ペロリと舐めた。
 春人が出した精液と、舞華が分泌した愛液、そして彼女の純潔の証が混ざり合い、グチャグチャになって泡だった粘液を……

「ん、美味し。……あれ?」

 何かに気づいたように声を上げた里美に、春人は「え?」と問い返す。
 しかし彼女の目線の先を確認し、苦笑いを浮かべた。

 つい今し方性交が終わり、力を失いかけていた彼の腰のモノ。
 それが再び、天に向かって力を蓄えていたのである。

「おや〜、ハル君。もしかして、わたしに欲情しちゃった〜?」

「おお、まーな」

 ニヤニヤと見上げる里美に、春人は素直にそう認める。
 しかしやはりそれだけでは悔しくなったのか、ひとこと追加した。

「ホントはそれで、もうちょっと胸があればいいんだけどな〜」

「ムネ、ね。もう2年もすれば、大きくなるよ?」

「お前、またそんな何の根拠もないことを……」

 そうからかおうとする春人に、しかし里美は確信のこもった顔を向けた。

「本当だよ? だって高校を卒業してもこの外観じゃあ、いろんな意味で困るもの。
 わたし達は、いつだって周りの人たちに、魅力を感じさせる外観でなくちゃいけないの。だから、あと2年もすれば、わたしはスタイルのイイ女の子になるよ」

 絶対の自信が込められた、その台詞。

「だってわたしは、そういう種族……そんな存在だもの」

 口元に淫らな粘液を残した唇が、急に艶やかな色を持ったように見えた。年齢より遙かに幼いはずの彼女の表情は、今では淫蕩な、妖しく、限りなく深い闇を湛えてるようにさえ感じる。
 春人は、目の前の少女が突然違う存在になってしまったような不安を感じた。頭のどこか奥の方に、畏れにも似た思いを感じながら、彼女を見る。

 ……そんな彼の表情をどう取ったのか、里美は再びニンマリとした笑顔に戻った。

「ま、それはその時になってのお楽しみということでぇ。
 とりあえず今日のところは、ハル君には舞華ちゃんの胸で楽しんでもらうことにしよ?」

 鼻歌でも歌い出しそうな上機嫌な声で、そんなことを言う。

「ほら、ハル君。舞華ちゃんの服を脱がすの、手伝ってよ。
 わたしの見立てでは、舞華ちゃんは着痩せするタイプだね。きっと脱ぐと凄い、ってふんでるんだあ」

 喜々として、舞華のブレザーの上着を脱がせにかかる里美。春人はゴクリ……とひとつつばを飲み込んだあと、それを手伝いだした。

「わたし、今日はまだイかせてもらってないし、今度はきちんと最後までご奉仕してもらおうかなあ。
 ハル君は、どうするの? ──って、ほらあ、やっぱり。見て見て、舞華ちゃん、結構ムネ大きいよっ!?」

「おっ、ほんとだ。思ったより……て、これじゃあ俺達、まんま変態だな」

「だいじょ〜ぶだって。どうせいつもの通り、最後にはわたし達の記憶は消しちゃうんだから。街で会ったときに指をさされるようなことはないよ。
 それにわたしも、ハル君が変態だってことは、みんなに内緒にしててあげるし♪」

 ブラを外し、その下から現れた白い柔らかな膨らみを、弄ぶ二人。
 その刺激に意識を取り戻しつつあるのか、

「あ……はぁ……」

 小さな吐息が、舞華の口からこぼれ落ちる。

 ………宴は、まだ終わってはいなかった。



《8》



「ふぁ〜あ……」

 翌日、放課後になり、春人と里美は二人で街に遊びに来ていた。
 二人でぶらぶらと、あちこちの店を冷やかしながら歩く。

「ハル君、でっかいアクビだねえ」

 春人を見上げながら、妙なことに感心するように里美が言った。

「いや、今日は朝から、身体がだるくってなあ。なんだか、眠いし」

「そっか。まあ、仕方が無いやね。昨日は、あんなに頑張ってたし。
 全部でぇ、いち、にぃ……5回?」

 指折り数える彼女に、春人は渋い顔を向ける。

「って、あれって現実じゃないんだから、そんなの基準になるのかよ。
 つ〜か、それ全部、お前に吸い取られてるのか?」

「えへへへ〜〜、ごちそうさま、ハル君」

 里美のエサ場で行われる出来事である。当然、そういうこともあるだろう。
 とはいえ、里美曰く『ほんのちょっと生命力を分けてもらうだけで、風邪を引くほどにも影響はないよ』と言っているし、実際にいつも一日二日で体調も元に戻るので、そういうものかと春人も納得していた。

「あ、あれ……」

 そんな彼の視界に、見覚えのある人影が入ってきた。
 数人の女子に囲まれて歩く、スラリとした姿。歩くたびにたなびく長い髪が、人目を引きつける。

 早乙女 舞華だった。

「あれ、舞華ちゃん?」

 里美も彼女に気づいた様子だ。

(やっぱ、美人だよなあ……)

 昼間見る彼女はやっぱり綺麗で、春人はつい彼女を見つめてしまった。
 しかも彼は、現実とは違った世界でだとはいえ、その彼女を、昨日好きなだけ抱いたのである。

(おっと、あんまりじろじろ見てると、変なヤツと思われるしな)

 向こうは、こちらの二人のことは、憶えていないはずだった。

 コトが終わったあと、里美はいつも夢の記憶を操作して、全てを忘れさせるのがいつものことだった。
 彼女の正体がバレることなど無いだろうが、あまりあっちこっちに痕跡を残すのは望ましくない。そうした判断からだ。

 それで彼が視線を外そうとした、その瞬間。舞華の目が、たまたま春人達の方に向けられた。

「え……!?」

 春人は戸惑った。
 目があった瞬間、舞華が驚いたような顔をしたのだ。
 彼女はそのまま目を大きくして彼の方を見つめていたが、その顔が見る見る、紅く染まる。

「あれ、どうしたんですか、舞華先輩?」

 彼女の取り巻きの一人が、怪訝そうな声あげた。
 舞華は慌てた仕草でその娘の方を向いて、誤魔化すように何かを言っている。

「おい、ちょっと、山倉っ。こっちに来い!」

 春人は小さな相棒を引っ張って、コソコソとその場を去った。
 そして通りからは物陰になって見えない場所に隠れると、彼女に問いだたす。

「お前、いつも夢にもぐり込んだあと、その人の記憶は消すんだったよなあ?」

「うん。そうしてるよ」

 頷く、里美。

「じゃあ、今の早乙女さんの表情は何だよ! あれって、まるで昨日のことを、憶えてるみたいだったぞ!?」

 さっき舞華が見せた、あの反応。見ず知らずの人間に対して見せるものでは、けっしてあり得ない。
 あれは確かに、彼女は少なくとも彼のことを憶えている。その証拠だった。

「あ、そのことね」

 焦って質問する春人に、里美はけろりとした顔で答えた。

「舞華ちゃんはね、記憶は消さなかったんだ。
 ほんのちょこっとだけ、別のいじり方はしたけれど」

「な……っ!」

 思いもしなかった答えに、混乱する春人。
 そんな彼を、里美は「まあ、まあ」と言って落ち着かせようとする。

「大丈夫だって。みんながみんなに憶えられてたら、それは問題があるけど。一人くらいなら、何の問題も無いっしょ?
 だって、なにせ夢の話なんだし」

「まあ、それはそうだけど……」

 やっと冷静になった春人だったが、やはり腑に落ちないこともあった。

「それで、なんでお前、早乙女さんの記憶だけ消さなかったんだ?」

「ん〜とねえ」

 疑問を口にする彼に、里美はニンマリと笑顔を向ける。露骨な悪だくみを感じさせる、例の笑顔。
 彼女は上目使いに彼の顔を覗き込むと、突然訊ねてきた。

「ところでハル君、気づいてた?」

「気づいて、って……何をだよ」

 唐突な質問に、流れが理解できない春人。
 里美はそんな彼の手を取ると、セーラー服に包まれた自分の胸に、その手の平を押しつけてきた。

「なっ、なんだよ、何の真似だっ!?」

 あまりにも不意打ち的な彼女の行動にうろたえる春人の顔を、里美が見上げている。
 頬をちょっと染めたその顔には、昨日一度だけ見せた、あの妖しい影が浮かんでいた。

「ハル君、気づいてなかったの? わたしのムネ、この1ヶ月で大きくなってきたんだよ?
 それまではブラなんかいらなかったのに、ハル君と一緒にいるようになってから、だんだん大きくなってきたんだ」

 目を白黒させて混乱する春人の顔を、面白そうに見上げながら続ける。

「昨日言ったでしょ? もうちょっとすれば、わたしもスタイルのイイ女の子になるよって」

「それと、早乙女さんのことが、どう関係……」

 ろれつが回らない舌で、何とかそう応える春人。
 そんな彼に更に身を寄せるようにしながら、里美は言った。

「ほら、わたしってさ、あの世界ではエッチの経験はいっぱいしてるけど、本当の身体を使ってエッチしたことは、一度もないんだよねえ。
 だから、さ……」

 ピンク色の唇の間から赤い舌先が姿を現し、ペロリと、唇を舐める。

「山、倉……」

 彼女のその仕草だけで、春人は自分の中心が昂奮しそうになるのを感じた。

「舞華ちゃんには、そのお相手をしてもらおうと思ってさ。せっかくするなら、綺麗な娘がイイじゃない。
 だから都合のいい記憶だけ、残しておいたんだぁ。後で舞華ちゃんを誘いやすいように、ね」

 幼い顔立ちの上に浮かんだ、その淫猥で、熱く、そして薄暗い表情。
 春人は、この自分の相棒であるはずの少女を、呑まれたように見つめていた。

 黙り込んでしまった彼を見て、里美がクスリ……と小さく笑い声をもらす。
 それが合図となったように、彼女の顔からそんな妖淫な影は消え去った。

 いつもの表情を取り戻した里美は、いたずらっぽい顔で、彼にささやいた。

「ハル君も、もちろん手伝ってくれるよね?
 そしたら──わたしと舞華ちゃんの、処女のオマケ付きだよ?」

「………この、悪魔め」

「へへ〜ん、まあちょっと似てるけど、違うも〜ん」

 甘えるように腕に抱きついてくる里美を、ため息と共に諦めたような顔で迎える春人。
 自分の胸までの高さしかないその頭をぐしぐしと撫でてやると、里美は「ひゃ〜」と嬉しそうな悲鳴を上げた。

「ま、そういうことなら仕方がないか。なあ、"里美"?」

「あ……うん、そうだよ! ハル君はやっぱ、そうこなくっちゃ!!」

 ぱあっと、明るい笑顔を浮かべると、里美はそう満足げ声で言う。

 じゃれつく里美を適当にあしらいながら、春人はこれから来るだろう起伏に富んだ生活に対し、期待に心を躍らせるのであった。




 
 
< 終 >


 

 

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