ふらっぴんぐ・すり〜ぱ〜


 

 

前編




《1》



 放課後、カバンを背に下駄箱に向かう正田 春人(しょうだ はるひと)に、後ろから声がかけられた。

「ハ〜ルく〜ん! ちょっと待ってよ〜」

 ちょっと舌っ足らずな、子供っぽい声だ。
 制服の裾を揺らしながら、トテトテと廊下を走って近寄ってくる小柄な姿。

「そんなに急いで帰らなくったって、いーじゃない」

 真っ直ぐのショートボブの髪に囲まれた、やっぱり小さくまとまった可愛らしい顔。その上には、どこでこんなものが売っているのか、マンガに出てくるような、まん丸な大きな眼鏡が乗っかっている。
 細いフレームの眼鏡は妙にユーモラスで、それが高校生とは思えないほど低い身長とも相まって、彼女の子供っぽさを更に強調していた。

「なんだよ、山倉。何か用か?」

 山倉 里美(やまくら さとみ)。春人とは同じ1-Cのクラスメイトだ。
 彼女のファンは多い。
 ちみっこい可愛いらしさと、そうそう見られないほど整った顔つきとが同居したルックス。古い歴史を持つこの高校は、制服も古風なセーラー服であるが、それがまた彼女の外観と相まって、ある種の趣味を持っている人間には堪らないらしい。

 そんな彼女は、まるで子犬のように春人の前まで走り寄ってくると、大きな瞳をキラキラさせながら、なにやら興奮気味に口走った。

「ねえ、ねえ。今日の夜、ヒマ? ハル君の家、行っていい?」

 そのセリフにぎょっとして、春人は慌てて彼女の口を手で塞ぐ。確認のためきょろきょろと辺りを見回したが、幸運なことにすぐ側には誰もいなかった。

『フグ〜ッ、ングググッ!?』

 頭を抱え込まれ、手の平で口を覆われた里美は、ングングと妙な声を上げながら、手足をジタバタさせて暴れている。
 やがてなんとか春人の腕から脱出すると、『ぷは〜っ』と大きな息をつきながら、顔を真っ赤にして文句をつけてきた。

「ハアッ、ハアッ、……ひどいよ、ハル君! もう少しで、窒息死するところだったじゃない!」

「お前がバカなんだ! こんな場所で、なんてセリフを吐きやがるんだっ」

「え〜、だってぇ……」

 不満そうな顔を浮かべる、里美。上目づかいに春人を睨み上げるその表情は、ぶーたれた子供そっくりで、彼はそれ以上強く言う気力を無くしてしまった。

「あ〜、わかった、わかった。俺が悪かったよ。だけどそういうことは、せめて小声で話そう。
 んで? 今晩なにかあるのか?」

「あ、そうそう、それなんだけどね……!」

 里美はやはり妙にテンションが高めだったが、一応言われたとおりに声のトーンを落として、ボソボソと言った。

「昨日、すっっっっ──っごくキレ〜な女の子を見つけてぇ」

「へえ、それで?」

 春人も、ついつい引き込まれるように彼女の言葉に耳をすませる。
 間違いなく百五十センチはいっていないであろう、身長の低い彼女に合わせて、腰をかがめて顔を寄せた。

「それで、さっそくそのこの娘とを調べたら、幸運なことに自宅の場所まで確認できたんだよ〜」

「でかした。……つまり今晩云々っていうのは、そのことだな?」

「えへへ。さすがはハル君。察しがいいねえ」

 顔をつきあわせて、にんまりと笑顔を交わす。──正直、怪しいことこの上ない。

「じゃあ、今晩、行くからね。ちゃ〜んと、早寝して待ってるんだよ?
 もし夜更かしなんかして、いつまで経っても眠っていないようなら、置いてっちゃうんだから」

 なにやら、他人が聞いたら意味不明に感じるであろうそのセリフに、

「おお、まかせとけ。酒をつぶれるまで飲んででも、早寝しとくさ」

 春人は親指を立てて、了承の合図をしてみせたのだった。



《2》



 ──慣れ親しんだ浮遊感が、春人を包んでいる。

 部屋の中は、真っ暗だ。カーテン越しに僅かに入ってくる街路灯の明かりだけが、唯一の光源だった。
 ぼんやりと下を向くと、そこには『春人自身』が横になっていた。

(我ながら、相変わらず間抜けな寝顔だよなあ)

 ベッドの上で眠る自分の顔を、今更ながら確認する。

 数年前から毎晩体験するようになった、この感覚。
 俗に言う《幽体離脱》というヤツだった。眠っている間にタマシイ、というか意識が身体の外に出てしまう。

 超能力モノのマンガとかだと、この能力をもった登場人物は自由に幽体でもって飛び回ったりするが、そんな器用なことは春人にはできなかった。ただ、フワフワと浮いているだけ。

 とはいえ、これが彼と里美とつるむようになった、その理由だった。

『あ、いたいた。ちゃ〜んと、早く寝てたんだね』

 声に振り向くと、そこにはやはり宙に浮かぶ里美の姿があった。
 服は動きやすそうな、パーカーとキュロット。肉付きの少ない、少年のように細長い手足が、裾から伸びている。
 身体の輪郭をなにやら淡い光が包んでおり、彼女の姿を薄暗い部屋の中ではっきりと見せていた。

『よう、山倉』

『お待たせしちゃったかな?』

『うんにゃ、大丈夫。ちょうど今、寝付いたところだったからさ』

 山倉 里美──彼女は、《夢魔》だった。まあ、というのは、彼女が春人に語ったところであるが。
 霊体となって、家々を渡り歩き、人の夢に干渉しながら生きる存在。それが夢魔というものなのだそうだ。

 数ヶ月前、彼女がたまたま春人の部屋の近くを通りかかり、窓からお互い目が合ったのが始まりだった。
 以後、春人(の幽体)は、何かある度に里美に連れ回されるようになったのだ。

『じゃあ、さっそく行こうか』

『なんだ? 今日は、妙にせっかちだなあ』

 そう感想をもらす春人に、霊体の里美は、ニシシシと笑ってみせる。

『だってだって、ほんと〜に綺麗な女の子なんだからねっ!
 もう、楽しみで楽しみで……』

 里美は、綺麗な女性とか少女だとかが、大好きなのだ。そしてその趣味は、春人ととてもよくフィーリングが合う。彼女がここまで言うからには、きっと本当に美少女なのだろう。
 ご相伴に預かる春人としては、里美を拝んでもいいくらいだ。

『じゃ、手を貸して』

『あいよ』

 春人は、差し出された里美の手を握る。すると彼は、里美と一緒に壁を突き抜け、空に舞っていた。

 空には、満天の星。眼下には、夜の街の灯り。
 自分では宙に浮かんでいるしかできない春人だったが、彼女に連れられてならば、色々なところに一緒に行くことができた。

『え〜と、たしかこっちの方角のはずだったね』

 ひとりごとを言いながら、空を滑る里美。
 彼女は、ずっと一人だったらしい。なんでもご先祖様が夢魔だったそうで、彼女は先祖帰りだと言っていた。親兄弟は別に普通の人間で、だから彼女は、いつも一人で夜の街を彷徨っていたそうだ。

 そこに現れたのが、春人だった。
 彼と出会ったときの彼女の嬉しそうな笑顔を、春人はよく憶えている。

『あ、多分、あの家だよ』

 そうこうしているうちに、目的地に近づいたらしい。里美は高度を下げていく。
 下には周りの家々とは根本的に違う敷地を持った、大きな屋敷があった。たくさんの木々と、手入れされた日本庭園をもった、和風作りの建物だった。

 その正面、立派な木製の門の前に、二人は降り立った。見上げるばかりの大きさで、ご丁寧に瓦の乗った屋根までついている。
 表札には、《早乙女家》の文字があった。

『早乙女……って』

 春人は思わずゴクリとツバを飲み込み、声を漏らす。

『もしかしてお前が言ってる女の子ってのは、早乙女 舞華(さおとめ まいか)のことか!?』

『あれ〜。そうだけど、ハル君、ひょっとしてお知り合い?』

 首を傾げて言う里美に、春人は突っ込んだ。

『"知り合い?"……って、ムチャクチャ有名人じゃないか!』

 早乙女 舞華。まるでマンガの中に登場してくるような名前だが、その現物もマンガの中に出てきそうな美少女だ。
 春人達とは別の、隣町にある名門「白凰女子学園高等部」に通う2年生だが、その噂は二人の通う高校まで鳴り響いている。

 腰までとどく綺麗な髪に、白い肌。品のいい日本人形のように整った目鼻立ち。ほっそりと優雅な肢体。春人も何度か街で見かけたことがあり、その度に振り返って彼女のことを見つめてしまった。
 成績は優秀で、美術部に所属。そちらの方でも、絵画で全国的な賞を取ったことがあるという。
 そのうえ性格も良くて、周り中の女の子達から慕われているらしい。

 家は古くから続く、いわば旧家で、莫大な財産を保持していると聞く。この屋敷を見ただけでも、その一端がかいま見られた。

『……というわけで、この辺じゃあいちばん有名な女の子だよ。
 山倉は、知らなかったのか?』

『ふ〜ん。ぜんっぜん、知らなかった』

 里美は感心したように、春人の説明に聞き入っている。

『でもまあ、これでわたしの目は確かだってことが証明されたわけだね。
 ハル君だって、嬉しいでしょ?』

『……はい。今晩はお誘いいただき、ありがとうございました。山倉サマ』

『よろしいっ♪』

 深々とお辞儀をしてみせる春人の頭を、満足そうにぺちぺちと叩く。いつもは遙か高いところにある彼の頭が、彼女の手の届く高さにやって来たことが、嬉しくて仕方がないらしい。

『じゃ、さっそく行こうかね』

『おおよ』

 そして二人は門をすり抜け、屋敷の中に入っていった。



《3》



『広いね〜。すごいね〜。ご〜かだね〜』

『まったくだ。一体、俺ン家がいくつ入るんだか』

 二人はそんなふうに軽口を叩きながら、屋敷の中を巡っていた。

『舞華チャンの部屋は、ドコかな〜?』

 もう10以上の部屋を巡ったが、目的の部屋はまだ見つかっていなかった。
 途中、門を入ってすぐのところで警備員と、あと屋内で老人と出会ったが、特に騒ぎにはならなかった。霊体&幽体のコンビの姿や声は、普通の人間には知覚できない。二人は傍若無人にドアや壁を通り抜けながら、建物の中を闊歩(いや、正確には浮いているわけだが)していた。

『ここなんて、怪しいんじゃあないか?』

 屋敷のいちばん奥まったところ、廊下を進んだ先にあるドアをさして、春人が言う。

『どれどれ』

 里美に引かれて、ドアをすり抜けて入ったそこは、寝室だった。
 全体的に柔らかな色でコーディネイトされたその部屋の中には、大きなベッドがあった。ベッドサイドにはいかにも女の子が好きそうなぬいぐるみがいくつか並び、そしてベッドの上には、薄手の毛布にくるまって眠る人影。

『ビンゴッ♪』

 白いシーツの上には、艶やかな長い髪が広がっている。柔らかそうな大きな枕に頭を乗せ、顎の辺りまで毛布を被って眠る少女。
 確かにそれは、春人が街で何度か見て、その度に目を奪われた少女、小此木舞華の寝顔だった。

『うわ〜、やっぱきれ〜だねえ。見て見て、すっごくカワイイ寝顔だよ』

 舞華の顔をのぞき込みながら、感無量といった表情の里美。

 実際、彼女のもらした感嘆は、それほど大げさなものでもなかった。
 軽く空気を含んふんわりと広がった髪。形のいい眉。長いまつげ。すらりと通った鼻筋。
 あまりに綺麗な顔立ちは、一歩間違えれば冷たい印象を与えてしまいがちだが、その無防備な寝顔は、愛らしいという表現こそがふさわしかった。

『ああ……』

 だが、そんな、テンションが上がっている彼女に対し、春人の返事は短いものだった。

『……? どしたの、ハル君』

『いや、』

 顔を上げ、いぶかしげに彼を見る里美に、春人は答える。

『その、なんか突然、昂奮して来ちゃって……』

『──プッ』

 吹き出す里美に、春人は(幽体のくせに)真っ赤になった顔をしかめながらも、何も言い返せない。

『あははは……まあ、しょうがないよね。ハル君、ここについてからこっち、期待しまくって、ずっと緊張してたみたいだし』

 お見通しである。確かに春人は、相手がこの舞華だと知ってから、頭に血が昇りっぱなしだったのである。
 手をつないでいた里美には、そんな彼の緊張が丸わかりだったとしても、不思議はない。
 それが実際にこの美少女の無防備な寝顔を前にして、突発的に噴出してしまったのだ。

『ま、でもいいや。ハル君のリクエストにお応えして、ちゃっちゃと本来の目的に移ろうか』

『そうだな、頼むよ』

『うん!』

 里美は、つないだ春人の手を強く握った。そしてもう片方の手は、舞華の頭に伸ばす。
"スッ"と、その実体を持たない手は、舞華の頭の中に吸い込まれるように差し込まれていく。

『いくよ?』

 そして春人の意識は、真っ白な霧の中に飛び込んだ。



《4》



 春人にとっては何度体験しても馴れることのできない、この独特の感触。
 上下感覚を失った上で、重く体中に粘り着いてくる乳のように真っ白な霧を分け入っていくようだとでも、表現すればいいだろうか。
 一瞬でひどく乗り物酔いをし、そのまま無理矢理どこかへ引きずっていかれるような、そんな感覚。

『着いたよ』

 耳元で、そのくせどこかひどく遠くから聞こえてくるような声が、彼にささやいた。
 次の瞬間、春人は里美に手を握られ、どこかの建物の中に立っていた。

「ここは……」

「うん、たぶん学校だね。美術室なんじゃない?」

 二人がいるのは、どこかの学校の中と思われる教室。
 緑っぽい色の壁と、正面に据えられた大きな黒板。リノリウムの床の上に、いかにも学校用という机と、椅子。そして美術に使うイーゼルや、デッサン用の石膏像等が、雑然と並んでいる。
 多分、油絵用だろうか。どこからとなく漂ってくる油の匂いが、僅かに鼻についた。

「まあ、ここは舞華ちゃんの夢の中なんだしね。当然、白凰女子だと思うよ?」

「そっか。そりゃあ、そうだよな」

 白い世界を越えて二人が辿り着いた先。そこは、舞華の『夢の中』だった。
 夢魔である里美は、眠っている人間の意識の中へと侵入する能力がある。それを使って、ついでに春人も連れた上で、ここに入ってきたのだ。

 ここは舞華の夢の世界。
 彼女の意識の中にある、仮想の空間だった。

 そして……

「貴方達は……?」

 そこにはイーゼルの前に筆をもって座る、早乙女舞華の姿があった。

 この夢が、学校の中という設定からだろう。今の彼女は、白凰女子高の制服姿だった。
 高級そうなブレザータイプのその服は、あつらえたかのように彼女によく似合っていた。

「こんにちは、舞華ちゃん。わたしは里美で、こっちの男の子がハル君だよ」

「はあ……」

 きょとんとしたその顔は、夢の中にまったく知らない人間が出てきたからか。それとも、女子校にパーカー&キュロットの中学生(ヘタしたらそれ以下)にしか見えない女の子と、いかにも寝間着という風のスウェット姿の男子が、並んで現れたからか。

「まあ難しいことは考えないで、とりあえずよろしくねっ!」

 ちょっと惚けたような顔の舞華に、天真爛漫を絵に描いたような笑顔を顔に浮かべた里美が歩み寄って、右手を差し出す。
 何がなんだか分からない舞華だったが、握手を求められて、反射的にその手を握り返した。

 その瞬間──

「あ……っ、あああああああ!?」

 カクンッ、と舞華の膝が崩れ、そのまま硬い床に両膝を着いてしまう。

「なに……な、に?」

 全身がぶるぶると震え、脚に力が入らない。全身がカッと熱を持ち、胸の中ではドキドキと鼓動が高鳴っている。
 そして何より彼女を怯えさせるのは、身体の最も奥まったところからにじみ出てくるもの。激しく、そのくせもどかしい熱い塊が、下腹部から沸き上がってきた。

「や……、なに、これ……こんなのっっ!?」

 混乱し、目尻に涙を浮かべながら、自身をぎゅっと抱きしめ、悶える舞華。
 自分よりも目線が低いところに来た彼女を見下ろしながら、里美は嬉しそうに言う。

「ごめんねぇ。ホントはもうちょっとロマンチックに盛り上げてあげたいんだけどさ。
 でもハル君が、もういっぱいいっぱいってことなもんだから」

 床に崩れ落ち、顔を真っ赤にしてハアハアと息をつく年上の美少女。彼女を見る里美の目には、ある種純粋な、獲物をいたぶる猫のような歓喜の輝きが浮かんでいた。

 ───これが、里美が持つ能力であり、そして摂食のための手段だった。
 夢魔である彼女は、他人の夢の中に潜り込み、それに干渉することが出来る。
 そうやってその人間の性的欲望を心の奥から引きずり出し、そこに含まれる人間の原始的な欲求と生命力、いわば『淫の気』を吸い取ることで、活動エネルギーを得るのである。

「ふっ……ふあ、あ、あ、あ、あ……っ!」

 里美の声は、しかし舞華の脳にはまともに届いてはいなかった。
 暴力的な手段で引き出された性欲。まだ異性を知らないその身体と心では、つきあい方などとうてい分からない程のそれに、舞華の頭はパニックに陥っていたのだ。

「うう〜ん、悶える顔もまた、カワイイなあ」

 里美はもう堪らないという顔で、顔を舞華に寄せる。
 手を伸ばし、舞華の顔を上に上げさせると、そのピンク色の唇に、唇を寄せていった。

「ふぐっ!? んんんんん……っ!」

 顔を真っ赤にして荒い息をつく長い髪の美しい少女と、幼い外観に似合わない淫靡な表情をしたショートカットの少女。
 二人の唇が、重ね合わせられる。

"ぴちゃ……ちゅ……"

 押しつけられた二つの唇の間からもれる、そんな淫らな水音。
 その音は、これがただの軽いキスなどではなく、舌をうごめかし相手の口の中を蹂躙するような、深い口づけであることを示していた。

「ん……ぷはあっ。……んふふふ、ごちそうさま、舞華ちゃん」

 顔を離し、舌でペロリと口の周りを舐めながら、満足げな笑みを浮かべる里美。
 だが舞華は、ただ呆然とするばかりだ。唇からは口吻の名残である唾液が、つつ──と彼女の綺麗な顎へと垂れていった。

「んじゃあ、お待たせ、ハル君。そろそろ、いいよ」

「ああ」

 目の前で行われる少女達の淫らな姿を、息をのんで見守っていた少年は、その一言でハッとする。気がつけば、彼の肉茎はズボンの中でいきり立ち、その狭苦しさに抗議の声をあげていた。

「………」

 春人はズボンを降ろすと、その興奮した欲棒を解放する。
 起立したモノは跳ね上がるように、喜び勇んでその姿を外気の中に現した。

「あ……」

 そんな少年を、不安そうな、だが間違いのない期待を含んだ濡れた目で見上げる、年上の美少女。

 彼は無言で、そんな彼女に歩み寄った。



《5》



(な……んで?)

 舞華は混乱していた。突然自分をおそった感覚に、全く対応できていないのだ。

「はあっ、はあっ、はあっ」

 身体が、熱い。耳の脇の動脈が、ドクドクとうるさく脈動している。
 そして何より強く存在を主張しているのは、下腹の奥から起こる疼きだった。

「………」

 そんな彼女の前に、さっきの男の子が無言で進み出てきた。
 彼は下半身裸で、そこには舞華が初めて目の当たりにする、欲望に張りつめた性器がそそり立っていた。

(やだ、怖いよう……!)

 しかし同時に、彼女の中の熱は、その猛りきったモノに呼応するように高鳴っている。
 それが少女に、少年の欲望から目を離すことを許さない。

(すごい……あんなになってる)

 もちろん舞華にも、男性のそれに対する知識はあった。彼女とて今の時代の女子高生である。興味が全くないと言えば嘘になるし、同級生の友人にその類の写真を見せられたこともあった。
 インターネットから拾ってきたというその写真には、男性と女性の露骨なそれが、なんの隠し立てもなくそのまま写っていた。

 だが初めて見た実物は、そういったものとは全く違って見えた。

「くっ……うんっ!」

 そんな舞華の思考と連動するように、彼女の下半身がキュンっと収縮した。
 何か、彼女の知らない感覚が、背筋をぞわぞわと這い上がる。

「早乙女さん……」

 ハル君、と呼ばれていたその男の子が、彼女に手を伸ばす。
 身をよじって逃れようとした彼女だが、実際には足腰がまったく立たず、身体が動かなかった。

 少年の手が、彼女の脇に差し込まれる。

「ん……ああっ」

 彼の手が触れた瞬間、彼女の身体に電撃のような痺れが走り回り、舞華はたまらず声を漏らしてしまった。
 その声には自分自身で聞いてもイヤらしい響きが篭もっていて、彼女は赤い顔を更に紅潮させた。

 だが男の子は何も言わずに、彼女を支えて立ち上がらせる。
 ふらつく足で、彼の手にすがりながらなんとか床から腰を上げる舞華。
 そんな彼女を、この見ず知らずの少年は突然強く抱きしめ、口づけしてきた。

「ん、んんんっ!」

 拒む間もなく、重ねられる唇。異性とする、初めてのキス。
 しかもそれだけでは終わらず、少年は彼女の唇を割り、舌を口内に侵入させてきたのだった。

(や……だっ)

 しかし舞華の躰は、彼女の拒絶の心を裏切る。

"ドクンっ"

「ん、んん……っ!?」

 少女の口腔内を無遠慮に動き回る少年の舌。歯茎や舐めあげ、彼女の舌に絡みついてくる。
 その刺激一つ一つが信じられないほどの刺激を生み、舞華の思考を奪っていった。

 気がつけば舞華は、縋り付くように男の子の身体を両手で抱きしめていた。
 口の中に送り込まれる彼の唾液を、無我夢中で嚥下する。
 そして、

"くちゅり……"

 唇と口内に与えられる刺激に身もだえしたそのとき、彼女の脚の間で、そんな水気を感じさせる感触があった。

(あ……やだ。私、濡れてる……)

 そう意識したとたん、舞華のその場所の疼きは、急に強くなる。
 力が入らない両脚をもじもじとこすり合わせ、そのたびにその部分が"ジュン"と濡れていくのが分かった。

「いや……、こんなの、いやだよう」

 なんとか少年の唇から逃れ、そう訴える。
 そんな彼女を、彼はただ、相変わらず怖い、妙に平面的な表情で見るだけだ。

「早乙女さん。ちょっと、こっちへ」

「え……?」

 訳が分からなく、抵抗も出来ない舞華は、少年に引きずられて動く。
 ふらふらと足元のおぼつかない彼女を、彼は教室の脇に置かれた、大きめのテーブルのところに連れて行いった。そのまま彼女の上体を、卓の上に伏せるように屈ませた。

「あ、や……っ」

 ちょうどお尻を彼の方に突き出した格好を取らされ、羞恥に頬を染める舞華。
 だが自由を奪う疼きに侵された彼女は、彼に逆らうことなど出来ない。されるがままだ。

 その間にも少年の手は動き、制服のスカートの裾をめくり上げてしまう。

(ああああ……)

 見られてしまった──と、思った。
 自分のその場所が今どんなになっているか、それは舞華にもよくわかっていた。

 拒絶の意志とは関係なく、彼女のショーツはにじみ出てしまった粘液で、既にぐっしょりと気持ち悪く濡れてしまっていた。しかもそれだけでは済まずに、その湿り気は太股の方にまで広がっている。
 それらが全て、この知らない少年の目に晒されてしまったのだ。

「凄い……こんなに、濡れてる」

「う……うううっ」

 耐えきれない羞恥と屈辱に、舞華の口から嗚咽の声がもれた。
 涙がぽろぽろとこぼれ落ち、机の上に伏せられた頬に滲む。

 自分のその部分に、彼の視線を感じる。ヒリヒリと、痛いくらいに。
 なんとかそれから逃れようとする自分と、逆にそれに対してある種の期待を覚える自分と。そんな対極する心が、舞華の中でせめぎ合っていた。

 だから少年の手がショーツに覆われた腰の部分に触れたとき、彼女は嫌悪と安堵とを、同時に感じた。

「あ、あ、ああっ」

 怒ったような表情とは正反対の優しい仕草で、彼は舞華の双丘をなでる。その手の平の感触は、彼女の官能を更にはっきりと燃え上がらせた。

 やがてその手がショーツの端に掛かり、それを降ろしていく。
 熱く蒸れた彼女のその部分に冷ややかな外気が触れ、舞華はその後に起きるだろうことを、初めて、はっきりと認識した。

「いや……いやっ」

 そう声に出して、口にする。しかし舞華はまた、自分の躰がもはや耐えきれないほどに、それを期待していることも感じていた。
 二つの相反するものが、彼女という一つの存在の中で、荒々しく争っている。

 引き裂かれそうな苦痛と……そしてそれを圧倒するほどの淫らな欲望。

「ごめんね、早乙女さん。でも、もう我慢できないよ。
 これだけ濡れてればきっと大丈夫だし、ね」

 彼女の意志を全く考慮に入れていない、そんな勝手な台詞を、少年はかける。それでも舞華には、彼に反論するだけの余裕など全くなかった。
 ただ小さく、首を横に振るのが精一杯だった。

「ありゃ〜、ホントに余裕無いね、ハル君」

「うるさいな。黙ってろよ」

 そんな会話と共に、テーブルの上に上体を突っ伏す彼女に、彼が後ろから覆い被さって来る気配。
 そして、

"くちゅ……"

 彼女の中心に、熱く湿った粘膜同士が触れ合う感触。

「いくよ」

 その言葉が耳に届くと同時に、

「あっ、あああああああっっっ!!」

 舞華の身体の中に、信じられないほどの存在感をもつ「異物」が侵入してきたのだった。



 
 


 

 

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