左目の悪魔

〜 イビルアイ 〜


 

 

第一話 紅の瞳


 俺は大きなあくびをしながら、二年D組の扉をくぐった。

 今日は四月十日。俺達は新高校二年生というわけだ。

 ぐるっと、教室を見回すと見知った顔は5、6人ほどだ。

 クラス替えのおかげで知り合いがばらばらになってしまったのだ。

 俺は適当な机に鞄を置いて、椅子に座った。

 ホームルームまではゆったりさせてもらおう。

 俺の名は峰岸志狼(みねぎししろう)という。あだ名は「師匠」

 久慈流護身術という無名の流派の免許皆伝なのだ。

 まあ、隠しているわけではないが、知っている奴もそんなにいない。

 むしろ「志狼」とそのまんま呼ばれることが多いかな。

 幼い頃から近所のじいさんの道場で教えてもらったものだが

 別に有名でもなんでもないので自慢できるようなものではない。

 そもそも合気と仙術を合わせたような怪しげな流派なのだが

 護身術ということで女性なんかも割と多い。

 ただし、護身術はあくまで第一段階。表の顔だ。

 第2段階にすすむと内容はがらりと変わりほとんどが精神修行となる。

 ま、ここではどうでもいい事だ。

 ここは、私立中里高等学校といって、10年くらい前は女子校だったらしい。

 今でもその名残か、女子の割合が約6割と多く、俺達男子生徒には酒池肉林となる

 すばらしい所のはずだったが、現実はそう甘くない。

 女子生徒も集まれば非常にやっかいな生き物になるという事だ。





 突然教室がざわついた。

 なんだ?と思って皆の視線を追うと教室の入り口にひとりの少女が立っていた。

 なるほど、その少女は異彩を放っていた。

 美少女だ。それも半端ではない。

 黒い美しい髪を腰までのばし、対照的な肌は白。

 身長は160pくらいだが、顔が小さいため高めに見える。

 目は大きく愛らしく、その他のパーツ全てがずるいくらいに整っていた。

 化粧もしてないのに、頬はバラ色で、唇は明るいピンク。

 無論、ルーズソックスなど履いていない。清楚な白のハイソックスだ。

 妙に落ち着いた気品があり、上の学年に見えないこともない。

 彼女が愛らしく小首をかしげると、教室中からため息が漏れる。

 ほとんどが、男どものものだが。

 その彼女は、教室をぐるっと見回し俺をめざとく見つけると俺に近寄ってきた。

 まるで、モーゼの十戒のように彼女の前の男どもが道を開ける。

 彼女は、その美貌に柔らかな笑顔を浮かべると俺に向かって言った。

「くす、今年も同じクラスなのね、よろしくお願いします」

 いかにも、彼女に似合いそうな落ち着いた声だ。

 しかし、俺は返事はしない。

「どうしたの?峰岸君?」

 ・・・・峰岸君だあ?

「もしかして照れてるのかな?」

 と、またあの極上の笑み。

 う・・・・。

「ん?」

 などと、かわいく小首をかしげてみせる。

 俺はついに切れた。

 俺は横を向いたまま答える。

「おい」

「え?」

「おい葵」

「なんですか?」

「今すぐその気色の悪い話し方を止めろ」

「あら、怒ってるの?」

「止めないならお前とはもう縁を切る」

「はい?」

「もう、2度とお前とは口を効かん」

 俺が本当に怒ってると知って葵の頬がひきつく。

 しかし、まだその話し方を止めないようだ。

「あたしが何をしたっていうのですか?ううっ」

 ご丁寧に目をぬぐってやがる。

 葵のことを知らないやつとか、知ってはいたがこんな近くで見るのははじめてだといった男どもから憎悪の視線が俺につきささる。

 葵は気をよくしたのか、更に涙の芝居を続ける。

「ごめんなさい。あたしに悪いことがあったならおっしゃって。ううう」

 ほう。

 葵、お前がその気なら俺にも考えがあるぞ。

 俺は、音を立てて椅子から立ち上がると葵に向かった。

「葵さん。僕が悪かったよ」

 葵の目が丸く開く。

「でも、二宮(にのみや)家といえば名門中の名門。そのご息女たる葵さんに僕のような一介の学生は似合わない」

 葵の頬がひくひくと引きつっている。

「天使の羽のごとく繊細な君の心を傷つけてしまったことはあやまるよ。さあ、涙を拭いておくれ、美しい君には涙は似合わない。僕の事は忘れて幸 せになってくれ。葵さん」

 最後の葵さんはもちろん情感をたっぷりこめた。

 やや、ビブラートさせるのがポイントだ。

 ついに葵が降参した。

「うわーーー!やめてーーー!あたしが悪かった!お願いだからやめて〜〜!」

 いまにも泣きそうな顔をして耳を押さえのたうち回る葵に俺は言った。

「ふん。分かったか馬鹿者め」

「うううう気色悪ぅ〜〜〜」

「あたりまえだ、言ってた俺が一番気色悪い」

 こいつの名前は二宮葵。

 俺とは1年の時の同級生だ。

 容姿の方はまちがいなく美人なんだが、性格は明るくてさばけている。

 俺とはウマが合い、いっしょにいろいろと馬鹿な事をやった。

 俺とは「葵」「志狼」の仲なので名字で呼んだり、ましてや「さんくん」付けでは気持ちが悪い。

 あだなは「姫」。

 黙っていれば確かにお姫様のようだが、俺はわがままなところからきているのだと思っている。

 大方、自分のことを知らない新クラスの連中に

 好印象を与えようとか馬鹿なことをたくらんだのだろう。

 どうせ、すぐばれることなのに。

「あんた達相変わらずねぇ」

 そういって笑いかけてきた奴がいた。

「あれ、委員長。委員長もいっしょなクラスなの」

 振り返って葵が気さくに応える。

 いつもの葵だ。

 委員長というのは、宮野圭子のことだ。

 去年俺達のクラス委員をやってたからなのだが、三つ編みに野暮ったい眼鏡といかにも委員長というスタイルなのだ。

 眼鏡を取るとなかなかかわいいのだが、本人曰く

「男どもが寄ってこないからいいのよ」と男避けにそうしているらしい。

 そういえば、大学生の彼氏がいるという噂もちらほら。

 その委員長が言った。

「あんたらさあ、そろそろくっついたら?」

 その顔は「あ〜あ。こいつらホントにガキなんだからしょうがないなぁ」って顔だ。

「はあ、誰が誰と?」

 その返事は俺と葵。見事にハモった。




 俺らの関係筋では俺と葵はつき合ってる。もしくは好き合ってる。

 ということになっているらしい。

 たしかに、葵はかわいいが俺のいう好きは友達としての好きであり

 それ以上の感情はない。

 葵は当たり前だがやたらにもてる。

 多いときは週に2〜3通のラブレターをもらう(男女問わず)。

 結構面食いなので相手がいい男だとつきあったりもする。

 が、今までの最高日数、2週間。

 つきあい始めて、破局を迎えるまでの期間が2週間である。

 早い奴は即日なんてものもあった。

 無論振られた事はなく100%振っているのだ。

 まあ、別にそれだけなら個人の趣味なのでとやかくは言わないが、

 葵は別れる度にその男の愚痴を俺に聞かすのだ。

 俺はいつも強引に、暴飲暴食暴カラオケのフルコースにつき合わされる。

 ま、そんなわけで姫の表だけでなく裏もよく知っている俺は彼女には手を出したことがないし、そんな気も起きるはずはなかった。

 ちなみに俺はラブレターなどもらったことはない。

 中学のときは結構もてたのだが、高校に入ってからはさっぱりだ。

 なんせいつも側に姫がいるから女の子は警戒するらしい。

 やはりこいつは疫病神だ。

 

 姫は委員長の提案に少し考えたあと言った。

「やっぱ、辞めとく。もし志狼とつき合って別れたら愚痴いう相手がいなくなるし」

 しょせんこんな仲なのだ。

「でも志狼はあたしとつき合いたいんでしょ。そんであたしの胸とかおしりとか触りたいと思ってるんでしょ。あああ、あたしの純潔が汚されてゆく ぅぅ」

 俺は妄想中の葵を無視して委員長にいった。

「俺は、ストレートだ。葵は外見は女だが中身はオヤジだ。故に俺は葵とはつき合わん。以上、証明終わり」

「なるほど」

「委員長納得しないでよーー」




 と、その時ふいに委員長が気づいた。

「あれ?峰岸君、その目どうしたの?」

「ん、そういやアンタさっきから左目閉じてるわね」

 葵と委員長が見ている俺の左目はぴったりと閉じられていた。

 葵が来てからずっとだ。

 いや、俺はこの左目を春休みからこっちずっと閉じて過ごしている。

「ああ、ちょっと休み中に病気でな。別に大した事じゃないんだ」

 姫は俺の顔に顔を近づけて(こうしてみるとやはりキレイだな)閉じた目を見てから心配そうに言った。

「気をつけてよぉ。あんたが死んじゃったらあたしの愚痴る相手がいなくなるんだからね」

 別におまえに愚痴られるために生きてるんじゃないよ。

 そう思ったが敢えて口には出さない。

 葵は葵なりに心配しているのだろう。

 去年の1年間で俺は処世術というのを学んだのだ。

「ああ、すまんな心配掛けて」

 そうこうしている間にベルが鳴りHRが始まった。


 俺の左目は病気ではない。

 あるいは病気であればどれだけましな事か。

 俺はこいつのおかげでこれからの人生設計の変更を余儀なくさせられたのだ。

 このイビルアイのおかげで!



 *

 どうして、こう世の中の男って奴は馬鹿ばっかりが多いのだろう!

 あたしの名前は葵、二宮葵。高校は2年生。

 7月が誕生日だからまだ16歳、憂いの多い年頃だ。

 いましがた、3日つき合った男と別れてきたところだ。

 男の名は・・・・、忘れた。

 もうあたしのメモリから消去した。

 顔はまあいい、背もあたしより高ければ文句は言わん。

 が、頭の中身は良くなくちゃならん。

 会話をしていて楽しいかそうでないかは頭の回転と知識の豊富さによる。

 ただ、知識だけを垂れ流しでもいかん。

 相手の興味を誘いつつ、時々笑わせ、たまに驚かせ、会話の妙に感心させる。

 そこまでできてこそ、話術というものだ。

 今の男は女を口説くことしか考えてない。

「君ってキレイだね」

 はん。そうだよ!あたしはキレイだよ。そんな事は知っとるわい。

 そのくせすぐに触ろうとしてくる。

 べたべたべたべた。あー気持ち悪い。

 だいたい、強くなくっちゃならない。

 あたしを守れる力が無い奴は却下だ。

 あたしの言う「お付き合い」っていうのはそこらへんを見極めるための

 お試し期間なのだ。

 つき合ってもいい=Hしてもいいなどと考えるな馬鹿。

 世の中にはクリーンオフ制度っていう、気にくわなかったら返品OKという制度がちゃんとあるんだ。馬鹿者め。

 怒り心頭でづかづか歩いていたあたしの前を、見知った顔が通りかかった。

「志狼くーん」

 あたしの全力の猫なで声に峰岸志狼くんはなぜか全身を悪寒に震わせた。

「なんだ、姫か。気持ち悪い声出して誰かと思ったぜ」

「今日の午後開いてるわよね」

 あたしが何を言いたいのか一瞬で理解したようだ。

 あたしの心からのお願いにいやそうな顔をする。

「おいおい、もうかよ。まだ新学期始まって3週間たってないぞ」

「1週間あれば二人は振れるわ」

 言っててちょっと悲しくなるがそれはそれだ。

 志狼はふぅと小さくため息をつくと、

「はいはい分かったから、ハンコあげるから10個貯まったらまた来てね」

「あたしの失恋はラジオ体操じゃない!」

 ああ、どうしてこいつはぽんぽんと・・・・。

「とにかく、今日は土曜日で予定もないあなたにこんなとびきりの美女が
 つき合ってあげようというのだから、断ったら神罰が下るわよ」

「しんばつ・・・・」

 志狼はあきらめたようだ。

 何をいっても無駄だと悟ったようだ。

 そう、それでいいのだよ志狼君。

 なんか情けなさそーな顔で聞いてくる。

「なあ、前から聞こうと思ってたんだが、なにゆえ君はそんなに偉いんだ?」

「若くてきれいな女には男に命令する権利があるのよ!」

 あたしは間髪入れずに答えた。

「なんだそりゃ?」

「豹のおじさんもそういってるわ」

「・・・・・・・」

 ふん勝った。

 まあ、いいや。

 今日は志狼相手にたっぷりと愚痴を振りまいてくれよう。

 なんだかんだでこいつはいつもあたしの愚痴につき合ってくれる。

 先日の委員長の言葉が思い出された。

「あんたらつきあっちゃえば?」

 うーん。志狼が相手かぁ・・・。

 いいやつなんだが、こいつは結構ガードが固い。

 心の奥をあまり見せない。

 しかもさりげなくごまかせる程頭もいい。

 でも・・・。

 あたしは、志狼があたしを女として見ていないっていう点を評価しているのだ。

 どいつもこいつもみんな下心付きで寄ってくるが、こいつだけは違う。

 ホモかと思えばそうでもない。

 なんか変な奴だ。

 ま、いいか。今は巧くいってるのだから。

 あたしは、未だにあきらめきれず「道場が・・・」とか「今日のドラマが・・」

 とかぶつぶつ言ってる志狼を引き連れて街へ繰り出した。


 あたしら二人の関係は当分変わらない。

 そう思っていたが実は今日こそが運命の日だったのだ。


 *


 俺、峰岸志狼は二宮葵、通称「姫」と渋谷に来ていた。

 学校から1時間弱でやってこれる。

 とりあえず、カラオケだ。

 流石に制服はまずいので途中で着替えている。

 今の学生のたしなみといえるだろう。

 俺はジーンズにシャツと麻のジャケットとラフに決めている。

 姫は黒と白を巧くデザインしたワンピースだ。

 スカートは膝上10pとなかなか微妙な位置にある。

 すらりと伸びた生脚はやたら白かったが、別に不健康な感じはしない。

 なんで、これだけいい女なのにこの性格なんだ?

 俺はどちらかというと大人しい女性がタイプなのだ。

 もっとも、こんな性格でもなければこれほど親しくはならなかっただろうけどな。

 カラオケの後は軽く飯を食った。

 学生の身分だ、ファーストフード。

 それからゲーセンを3件はしごしてUFOキャッチャーで

 なんだか不気味な人形を手に入れた。

 何がいいんだか、葵は喜んで名前まで付けていた。

 姫を連れて歩くと、やたらと男どもの視線が痛い。

 別に俺のもんじゃないんだけどな。

 いいかげん、俺も慣れたが。

 その後、もう一度カラオケへ行こうと言うことになったのだが

 土曜の夜ということもあってどこも満席だった。

 で、結局俺達は居酒屋に落ち着くことにして現在ここにいる。

 二人とも、私服を着れば大学生で通るせいか酒を注文しても文句を言われなかった。

 

 みょーに葵のペースが早いなと思っていたら急にこいつ絡みだしやがった。

 めずらしいな。

 俺達は自分のことは自分で責任を持つ。をモットーとしている。

 従って酒を飲むのも相手に迷惑をかけないことが前提にある。

 しかも、葵は酔っぱらうといろんな意味で危険なのだ。

 だからこんなに酔ってる葵はちょっとめずらしかった。

「さー志狼!呑め!」

 あ、いかん。葵の目が完全に据わっている。まじに酔ってやがる。

「だいたいあによ、最近の男ってやつは!馬鹿で軟弱でック」

「ああ、そうだな。」

「頭悪い癖に、Hなことばっかしよーとしやがって。この葵様に勝手に触れていいと思ってるの!?」

 つき合ってるんならいいんじゃないか?とは思ったが、無論黙っていた。

「だいたい、軟弱よ軟弱!もっとしゃきっとしなさいよ!ねぇ志狼聞いてる?」

「ああ、聞いてるよもちろん」

「くそあんの馬鹿、思い出しただけで腹が立つ。って誰だっけ?」

 俺が知るかよ。

「うぃーん。あ、お兄さんジョッキもう一杯!」

 これ以上飲むのか・・・・。

「そんでさ、頭悪いんだよ・・・」

 すでに3回目に入っている話題に適当に相づちを打つ。

 しかし、姫がこんなに酔っぱらうとは思わなかった。

 普段は適当なところで切り上げるのだが、今日は余程腹が立ったらしい。

 老人と酔っぱらいの愚痴はエンドレスだ。

 うーん、葵のかあさんにどうやっていいわけしよう。

「だいたいあんたが悪い!」

 お、いつのまにか、俺が悪者になってるようだ。

「あんたはさぁ、あんたはいつになったらあたしを口説くのよぉ」

 は?

 なんだ?

 なんか今こいつとんでもない事を言わなかったか?

 姫の話をてきとーに受け流していたらなんだか妙なことを言われたような?

 が、そのとき姫の顔が真っ青になった。

「う、気持ち悪・・・」

「わ、馬鹿!ここで吐くな!」

 *

 夜の十時。

 ここ渋谷では宵の口だ。

 まだまだネオンは消えないし人通りも途切れない。

 俺達は駅に向かってゆっくりと歩いていた。

 あの後、葵をトイレに連れていって吐かせて、店の人に謝って大変だったのだ。

 葵は俺に身体を半分預けるようによたよたと歩く。

「うわぁ、風が気持ちいい。んふふ」

 こいつはまだ酔ってるようだ。言動が怪しい。

「ねぇねぇ、志狼ちん。ホテルニュー越谷だって。うぷぷぷぷ」

 一体何がおかしいのか、さっきからラブホテルの看板を見つけては笑っている。

 しかも、ふらふらと動き回るので危なくてしかたがない。

「いいから、まっすぐ歩け。人にぶつかるだろ」

 どん!

 ああ、言わんこっちゃない。向こうから来たやたらチャラチャラしたお兄さん達にぶつかってしまった。

 う、なんかやばげな人たちだ。俺は咄嗟に謝った。

「すいません、こいつ酔ってるもので」

 お兄さんズはふんと鼻を鳴らしながら行こうとしたのだが、わざわざ呼び止めた馬鹿が居る。

「どけよ、邪魔なんだよ!でけー図体しやがって!」

 葵・・・・・。

 俺は天を仰いだ。

 神様は何も答えてくれなかった。





「いけ、志狼!ちゃっちゃとやっつけちゃってよ」

 お兄さんズは3人居たが、どうやら一人が葵の顔に気が付いたようだ。

 顔つきがみるみる獲物を狙うハイエナのようになる。

 酔っぱらってるいい女がここにいる。

 連れは一人だ。

 どうやら方針が決まったようだ。俺達にはありがたくない方向で。

「志狼〜ちゃんとあたしを守りなさいよ〜。極端流とかいう免許皆伝なんでしょ」

 アホ。そりゃまんがだ。

 どうやら、こいつらを倒さない限り動いてくれないようだ。

 こいつらも逃がしてくれそうにないが。

 はあ、俺はため息をひとつ付くと男達に対峙した。

「ねえ、俺強いから、やめとかない?」

 やめてはくれなかった。




 久慈流には構えというものが無い。

 強いて言えば、身体も心もリラックスし周りじゅうに気を巡らせ

 いつでもどのようにでも動けるように、というのが構えだ。

 はじめから1対1ではなく1対多を想定しているのが変わったところだ。

 俺は足を軽く開き、両手は脇にゆったりと下ろした。

 久慈流の本質は調和にある。

 人間とは全てがバランスでできている。

 骨と筋肉がバランスを取り合って静止していられるのだ。

 人間が動く場合、そのバランスを自ら崩すことで動作に入る。

 そして、新たなバランスを生み出すことで次の静止状態に入る。

 それを繰り返しているわけだな。

 久慈流はそのバランスの崩れを見極め、力を補うことで相手を倒す技なのだ。

 まあ、簡単に言うと相手の力を利用して倒すってことだ。

 3人のうち、真ん中の男は少しできるようだが、他の二人は弱い。

 動きが素人だ。

 まず左側から襲ってきた。

 左目を閉じているので、見えないとでも思ったのだろう。

 あいにくこちらの目は瞼を通してでも見ることができる。

 結果はあきらかだった、うちかかってきた瞬間にそいつは地面に転がった。

 コンクリートに背中を打ち付ける。

 本人はなにが起こったかわからなかっただろう。

 なぐりかかってきた腕に手を添えて力のベクトルを変えてやっただけだ。

 別に超能力でもなんでもない。久慈流の師範クラスなら誰でもできることだ。

 これが達人となると相手に触れずに己の体重移動だけで投げてしまえるようになる。

 いわゆる空気投げというやつだが、さすがに俺にはそれは無理だ。

 続いて右の男が突っ込んできた、俺は身体を開いてそいつをかわすと、足をひっかけて転ばしてやった。

 なんだ受け身もとれないでやんの。

 無様に転ぶ。

「ほぉ。少しはできるようだな。合気かなんかか?」

 正面の男が声をかけてきた。

 そういいながらも構えを取る。クラウチングスタイル。ボクシングだ。

「まあね」

 いいながら、相手の分析は怠らない。

 立ち技で最高のスピードを誇るのがボクサーのパンチだ。

 こいつを受けるのはかなり難しい。

 なんせ、無拍子で飛んでくるし、手打ちのパンチでもそれなりに力がある。

 奴はゆっくり前進し、俺はゆっくり後退した。

「こらー志狼負けたら飯抜きだぞー」

 後ろから無責任な応援が飛んだ。おい。俺がいつお前に飯の世話をしてもらったのだ?

 その瞬間、奴が大きく前に出た。いきなりの右ストレート。

 そいつは、随分と力がこもっていたが、こいつ全然歩法がなってないの。

 ボクシングだからフットワークか?

 スムーズな体重移動が巨大なパンチ力を生むのだ。

 お前やり直してこい。

 俺はあっさりパンチをかわし(やつにはすりぬけたように見えただろう)男の前に出た。

 左手を男の腰に置き、そこを支点にぐるりと回す。

 頭から地面に突っ込んだ。




 しかし、状況は全然思わしくなかった。

 いつのまにか敵が増えていたのだ。

 どうやら、ここいらのチーマー連中だったらしい。

 一人が携帯で仲間を呼んでいた。

 こいつらは、俺に近寄らないがゆっくりと周りを包囲していった。

「はあ、・・・・」

 今日何度目になるかわからない嘆息を俺はもらした。



 *

 暗闇。

 暗闇の中に俺と奴がいた。

「俺を使え」

 奴がいう。

「この封印を解け」

「俺を使えば、こんな奴らなど一瞬で殺せるぞ」

 俺は否定する。

「だめだ」

「お前は災厄だ。封印は解けない」

 奴の舌打ちが聞こえる。

「忌々しい奴だ。何故お前は落ちない」

「お前は力を手に入れたのだぞ。男を殺せ。女を抱け」

「何故耐えられる。この誘惑に」

 俺が答える。

「悪いな。これでも久慈流は精神も鍛えるんでな。おいそれと悪魔なんぞの誘惑には乗れねぇんだよ」

 奴は押し黙った。

「・・・・・・・」

「この娘。犯されるな」

 はじめて俺の精神に動揺が走る。

 奴はそれを逃さなかった。

「いいのか、こんな奴らにくれてやって」

「いい女だ。まだ男を知らんようだな」

「お前の女じゃないのか?」

 俺の心は大きく喘いだ。

「どうせ、奴らに犯られちまうんだ、お前が抱いて何故悪い」

「俺を使え。力を解放しろ。男を殺せ。女を犯せ。全てはお前のものだ」

 奴の笑い声に、俺は何も答えることができなかった。





「うっ・・・・」

 気が付くとそこはどこかのクラブのようだった。

 あの後ざっと20人のチーマーに囲まれた俺はぼこぼこにされた。

 葵を人質に取られたからだ。

 どうやらご丁寧に連れてきてくれたらしい。

 薄暗い照明。たゆたう煙。けだるい音楽。

 まずいな、奴が鏡の向こうで笑ってるようだ。

「志狼!」

 葵の声の方を向く。

 くそ、それだけでも痛い。全身がずきずきと痛んだ。

 葵はソファに男二人がかりで押しつけられている。

 どうやら、まだ貞操は無事なようだ。

 すっかり酔いは醒めて、顔が青ざめている。

 周りにはチーマーの男達。何人か女もいるようだ。

 誰もが血に飢え興奮しているようだ。

 これから始まるレイプショーを楽しみにしているのだろう。

 その時リーダー格の男が高らかに言い放った。

「みんなまたせたな。ようやく騎士のお目覚めだ。さあ、ショータイムを始めようか」

 男達の目は餓えた獣のようだ。

 なにせ今日の獲物は極上の美少女だ。

 あちこちで唾を飲み込む音が聞こえる。

 そのとき、葵がのたまった。

「志狼!なんとかしなさいよ!あんた男でしょ!」

 なんとかしろって・・・。せめて助けてくらい言えんのか?

 こういう場合嘘でもいいからしおらしくしろよ。

 笑いがこみ上げる。やはり葵は葵だ。

 俺は葵を失いたくない。

 ここで、輪姦されれば、葵から笑顔が消えるだろう。

 そんな葵など見たくない。

 少ししゃくだが、俺は奴の力を借りることに決めた。



 俺はなんとか身体を起こすと葵に声をかけた。

 今は二人の男に組み敷かれ服がはだけやばい状態だ。

「おーい。葵!なんとかしてやろうか!」

 俺が出した声に連中の動きが止まる。

「や、ちょっと早く助けなさいよ!」

 息も絶え絶えという感じで葵が答える。

「その前にひとつ条件がある」

「な、なにいってんのよ!」

「助ける代わりに抱かせろ」

「は?」

「助けてやるから葵、お前の処女を俺によこせ」

 俺は言い切った。

 葵はしばらく顔を真っ赤にし口をぱくぱくしていたが、口をかみしめるとくやしそうに言った。

「いいわよ!こんな連中に奪われるならあんたにくれてやるわよ!この馬鹿!」

「OK。契約成立だ」

 俺の周りを殺気だった連中がぐるりととり囲んだ。



 自分でかけた封印だ。自分で解くのはなんてことはない。

 俺は閉じた左目の上を左手で軽くこすった。

 俺の左目が開く。

 俺の頭に奴の笑い声が響きわたった。

 それは奴、イビルアイの解放された喜びを表す声だった。



 イビルアイの力と意識が流れ込む。

 あれだけ痛かった身体が痛みを覚えなくなる。

 笑いがこみ上げてくる。

 周りの男達が虫けらの様に思える。

 破壊衝動と性衝動が高まってくる。

 待ってろ、葵。今抱いてやるからな。

 くく・・。くくくくくく・・・・。




 はじめは何が起こったかわからなかった。

 志狼が、閉じていた左目を開いたのだ。

 それは、人の目じゃなかった。眼球は赤。

 それも、暗い赤。クリムゾンってやつだ。光彩が猫のように細長い。

 まるで、・・・。そう、まるで悪魔のようだった。

 (なに・・・。なんなの・・。)

 思考が空回りする。

 意味のある物を生み出さない。

 あたしは恐怖した。

 その悪魔の瞳が与えたのは恐怖だった。

 純粋な恐怖。

 恐怖そのもの。

 誰も動けなかった。

 喉がからからになり、手に汗をかいている。

 心臓を冷たい手で鷲掴みにされているような恐怖に誰もが支配されていた。

 ここを逃げ出したくて堪らない。

 だけど足がすくんで動けないのだ。

 彼は、志狼はそんなあたし達を見回すと満足げに笑った。

 とてつもなく邪悪な笑みだった。

 彼の声が聞こえる。

 その場で命ずる声。

 人間に命令できる声。

 それはこう告げた。

「お前ら全員で殴り合え。いいか、誰も動けなくなるまで徹底的にやれ」

 そして壮絶な殴り合いが始まった。




 彼は人の渦をかき分けるようにわたしの元にやってきた。

「よう、葵。まだ、処女みたいだな」

 目の前に志狼がいる。

 でも、本当に志狼なの?

「あ、あんた誰よ。志狼・・・くんなの?」

「ああ、俺は峰岸志狼だ。少なくとも半分はな」

 彼はそういうとあたしの腕を掴み引き起こす。

「ついてこい」

 その命令は逆らうことを許さない支配者のそれだ。

 逆らえない。

 あたしは、ふらふらと彼についていった。




 そして今あたしと彼はここ、ラブホテルの一室にいた。

 いきなり襲われると思ったけど「汗かいた」というと

 彼はシャワーを浴びに浴室へ入っていった。

 おかげで考える時間ができたんだけど。

 これから志狼に抱かれるんだと思うと顔が赤くなる。

 今の内に逃げるって選択肢もあったが、自分で却下した。

 約束もしたし、悪魔に取りつかれたような志狼をひとり放っておけなかったのもあるし、それにさっき気が付いたのだ。

 志狼があたしをかばって殴られてる時に。

 あたしは・・・。

 そのときシャワー室の扉が開いて声がかかった。

「おい、葵何やってんだ。早く来い」

 え〜〜〜〜〜!!





 多分このままここにいても強制的に服脱がされるんだろうな。

 それに、やはり汗やらなにやらでちょっと匂う。

 あたしは覚悟を決めた。

 くそー、16年間誰にも見せたことのないこの身体を!

 玉のお肌を!

 あたしはてきぱきと服を脱いでから鏡に自分を映してみる。

 胸は大きくはないが形がいい。ウエストはきゅっと締まってるし腹も締まってる。毎日腹筋してるもの。

 おしりなんかはきゅっと上がっててかっこいいし、肌にはシミひとつない。

 はあ、つくづくDNAの勝利だわね。

 無論努力もあるけどね。

 中学の頃から水泳で鍛えている引き締まったいい身体だ。

 髪を手で少し鋤く。ちょっと乱れてたから。

「よし!負けるもんか」

 あたしは顔を上げ、敢然と胸を反らし浴室に入っていった。




「あ」

 志狼の躯。すっぽんぽんの身体が目に入った。

 まだ、シャワーを浴びてる。

 着やせするのか、結構筋肉質で、かといってボディビルダーみたいにむきむきじゃなくって

 若くてしなやかで引き締まって・・・・・思わず見とれてしまった。

 ・・・ってこれじゃあたしが変態さんみたいじゃないか。

 志狼は、やっときたかという感じでこっちを見た。

 やだ、見られてる。あたしはとっさに手で隠す。

「手をどけろよ」

「やだ」

「隠さなきゃならないような貧相なもんなのか?」

「立派だもん」

「じゃ、見せろよ」

 彼はそういうとシャワーを止めこっちに向き直った。

 やだ、見えるじゃない。もろに、アレが〜。

 こういう場合、きゃーとかいって手で顔を覆うわけだが、今は手が放せない。

 だから、しかたなく、あくまでしかたなく、それを・・・もろにみてしまった。

 うーん。なんか、棒が垂れてる。

 変なかんじだ。

 と、見てるまにそれが立ち上がってきた。

 え、え、え、ええぇーーーー!!

 なんで大きくなるのよぉ。ってあたしをみてるからか。

 でも、でもさ、大きいよ!こんなに大きいもんなの!?

「お前・・・。何じろじろ見てんだ?やっぱ葵は葵だな」

 あ、ちょっと今志狼が笑った。

 悪魔モード終了したか?

 そう思ったがやはり甘かった。

 志狼はあたしのそばに来ると、あたしの腕ごと抱きしめた。

 やだ濡れる!

 ってシャワーの水で濡れるって意味だからね。

 そして強引に唇を奪われた。

 ファーストキス。

 じゃないか。

 既に小学生で経験済みでした。

 でも、あくまでキスだけだからね。

 裸で抱きしめられてキスって経験は今がはじめてだからファーストキスっていえなくもないわ。

 ああああ、何言ってるんだ。あたしは。

 パニックしてるんだ。あたしは。パニックしてるんだよ〜。

 だってだってだって志狼の固い筋肉が密着してるんだよ。

 力強くあたしを抱きしめてんだよ。

 キスしてんだよ〜。

 そうやってあたしがうろたえていると、ようやく身体を離してくれた。

「よし、俺が洗ってやる」

「いや、いいっす」

「遠慮するな。気持ちよくしてやるから」

「力一杯遠慮しときます」

 志狼は、ちょっとため息をつくと、しゃーないなってかんじで浴槽から出てくれた。

 が、入り口で振り返ると

「いいか!10分だ。10分で出てこなかったら俺が強制的に身体の隅々まで洗うからな!」

 と捨てぜりふを残し出ていった。

 ええええ、女の子はそんなに素早く洗えないのよ〜!




 あたしは、彼に隅々まで洗ってもらうのはまだ、遠慮したかったので10分以内に浴室を出た。

 髪は洗っていない。

 長いから濡らすと面倒なのだ。

 志狼はでかいベットに寝っころがっていた。

 じっとあたしを見てる。

 やだ、なんかすごく恥ずかしい。

 彼の左目がにぶく光った。

 あ、あれ、動けない。

 やだ、またあの術にかけられたみたい。

「バスタオルを脱いで」

 彼の声にあたしの手はのろのろと動く。

「手は後ろに組んで、足を半歩開いて」

 やだ、全部見えちゃうじゃない。

 でも、あたしの身体は勝手に彼の言うとおりに動くのだ。

 顔から火が出るほど恥ずかしかった。

「葵、お前いい身体してんな」

 なにいってんのよ。

「すまん。お前がこれほどいい女だと知らなかったよ」

 ・・・・・。

「なんで、今まで抱く気になれなかったのか不思議だな。来いよ葵」

 あたしは、彼の腕の中に落ちていった。





「・・・・」

 意外なことに彼の愛撫は優しかった。

 まず、ぎゅっと抱きしめられ身体が密着する。

 キスされた。

 やさしいキス。

 そして抱きしめたまま動かない。

 あ、あたしが落ち着くの待ってくれてるんだ。

 でも心臓が爆発しそう。

 どきどき言ってる。

「葵、お前ほんとにかわいいな」

 志狼の声。

 普段から聞き慣れた言葉なのに、何故か心地いい。

 彼はまずあたしの左の耳たぶをくわえた。

 口にはさんで、舌でなぞる。

 やだ、くすぐったいような変なかんじ。

 左手でやさしく頭をなでてくれる。

 うーん。それやばいなあ、気持ちいいよ。

 彼はあわてずにゆっくりゆっくりとあたしを愛撫してゆく。

 けして力は加えない。

 手と舌が体中を触れてゆく。

 なんか薄皮を一枚一枚はがされてゆく、そんな気分。

 内腿を舐められたときはさすがにびくっときたが、彼の舌は付け根には向かわず下に降りていった。

 足先まで舐められる。

 足の指を一本一本丁寧にしゃぶられた。

 なんだか、くすぐったい。

 ときどきぴくぴくする。

 それから、彼はあたしの右足を持ち上げ、くるぶしから膝裏まで舐めあげた。

 あ、やだ。

 見られてる。

 あたしの大事なところがじっとみつめられている。

 頬がかっと赤くなる。

 でも、隠したくとも身体が動かないのだ。

「やだ、みないでよぉ」

 彼はくすっと笑うと逆に顔を近づける。

「ん、葵、少し濡れてるな」

「う、うそ!」

「それに匂いがする。女の匂いだ」

「やだ!やめてよ!匂いなんてかがないでよ!」

 あたしは顔中が火が出るほど真っ赤になった。

「ひっ・・・・。やだ、やめて!いや!」

 彼は突然あたしのあそこに顔を埋めるとそこを舐めたのだ。

 あたしの言葉に彼はやめるところか、さらに深く舌をのばしてくる。

 あたしの中に電流が流れた。

 思わず息が漏れる。

「っ・・・・・」

 頭が変になりそうだった。

 彼の口は電流の供給源なのか次々にそれが流れ込んでくる。

 股間から頭に。

 あたしは必死に口を噛んだ。

 そうしないと言葉が漏れそうだからだ。

「お、少し開いてきたな」

 やだ、変なこといわないでよ。あ。

 今までひだの両側を舐めていた舌がついに中心をえぐりはじめた。

「ふ、・・・・あ」

 こらえてもこらえても声が漏れる。

 やだ、すごく恥ずかしい。

「葵我慢は身体に悪いぞ、ちゃんと声を出せよ」

「や、やだぁ」

 彼はふんと笑うと顔を少し持ち上げ、あたしの突起を口にくわえた。

「やあぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 それまで以上の激しい電流があたしの脳を焼いた。

「やだ、やだ、やだ!」

 あたしはまるでだだっ子のようだ。

 涙が出る。

 なんか女であることがくやしかった。

 志狼に弱みを見せるのがくやしかった。

「すん、ぐすん・・・・」

 あたしが泣き出すと志狼は困ったように愛撫をやめてくれた。

 あたしの顔をのぞき込む。

「わりぃ葵。でもいまさらやめられないんだ。契約は破れない」

「え?」

 目を開けるとそこには彼がいた。

 右目は志狼、そして左目はあたしの知らない志狼が。

 左目から何かがあたしの中に入ってきた。

 え?なに?今のなんなの?

「快楽中枢を支配した。これで、葵は何されても気持ちよくて仕方ないよ」

 え、やだ。

「せめて快感の中で奪ってやるよ」

 そしてキスをされた。強引なキスを。





「はぁん」

 なまめかしい声があたしの口からひっきりなしに出ていた。

 気持ちいいのだ。

 彼の宣言通り、あたしは何をされてもどこを触られても気持ちよくて堪らなかった。

 いじわるな志狼はあたしの肩にかみつく。

 歯形が浮かぶほどぎゅっと噛む。

 それなのに、痛くないのだ。

 知識は痛いはずだと訴えるのに感覚は快感として捉えてる。

 甘くみだらに疼くのだ。

 しかも、噛んだあとをさするように舐める。

 そうされるとせつなくてせつなくてたまらなくなる。

 もっと強くかんで欲しかった。もっともっと。

 あたしはとうとうその誘惑に負けた。

「ね、お願い。もっと・・・もっと強く」

「ん?」

「・・・・強く・・・・強く噛んで!」

 彼は笑うと

「ああ、かわいい葵の頼みならなんでもしてやるよ」

「でも、こっちの方がいいんじゃないか?」

 そういってさっきから揉んでいるあたしの胸を指し示した。

 え、そんな。そんなとこ噛まれたら・・・・。

「ん。いいよ、胸噛んで。乳首噛んで。思いっきり噛んで!」

 もう、押さえられなかった。

 いきつくところへ行きたかった。

 火でゆるゆるとあぶられるような快感では、もう満足できない。

 もっと、槍で突き刺されるような強烈な快感が欲しかった。

 志狼はくすりと笑うと、あたしの乳首を思いっきり噛んだ。

「あああ!」

 乳首から全身に爆発的な快感が走る。

 あたしの身体は大きく反り返り、足の指がきゅっと内側に引きつけられる。

 性器から、恥ずかしい液が大量にあふれた。

 あ、なに?いくの?!いくの?いや!いく!いくーーーーー!!

 あたしは初めての絶頂を彼から与えられた。



 *

 気づくと彼はあたしの髪をなでながらあたしの顔をのぞき込んでた。

「気持ちよかった?」

 うっ。いじわるだ志狼。

「き、気持ちよくなんかないもん」

「うそつけ!お前嘘付くとき目をそらすからすぐわかるんだよ」

「つーん」

 あたしはそっぽを向いた。

「ひゃ!」

 いきなり志狼があたしの大事なところに触れたのだ。

「もう、すっかり準備はいいみたいだな」

「やだ、やっぱりするの?」

「とーぜん」

「なんか痛そう」

「あ、全然痛くないよ。痛みは全部快感に変換されるから」

「う、それもやだなあ・・・」

「じゃあ、痛い方がいい?話によると、傷口に指突っ込んでぐりぐりされるくらい痛いってことだけど」

「あう・・・・。どっちもいや」

「わがまま言わないの」

 そういうと志狼はあたしの左足を持ち上げて足の間に入ってきた。

「あああ、あの、もうちょっとムードだして欲しいんだけど」

「ほんとに、わがままなお姫様だねえ」

 彼はあたしを抱き寄せるとキスをした。

 同時に胸ももまれる。

 すぐにあたしの心は快感に溶けていった。





 志狼のアレがピトリとあたしのあそこにあてがわれた。

 彼が上からのしかかるような姿勢、正常位ってやつだな。

 いよいよだ。

 ちょっと緊張する。

 ぐいっと力が加わる。

 なかなか入らない。

 でも、志狼はあせらずにゆっくりゆっくり押し入ってきた。

 一瞬痛い。と思ったが気のせいだった。

 肉がめりめりと裂ける感触がある。

 それが不思議と痛くない。

 それよりも彼が入ってくるという感触の方が重要だった。

 自分の中に男がいる。

 奇妙な感じだ。

 いまさらながら、あたしって女なんだなあと感じてしまった。

 そしてついに根本まで飲み込まれた。

 途端に今まで押さえていた快感が爆発した。

 痛みが快楽に変わるんだっけ。

 それ以上は何も考えられなくなった。

「うわああああああああああああああ!」

 あまりの強烈な快感に脳が拒否をした。

 ブレーカーが落ちた。

 つまりはいってしまったのだ。

 堪らなかった。

 少し回復するとまた快楽が襲う。

 まだ、彼は入っただけで動いてないっていうのに。

 あたしは小さな絶頂を何度か迎え、ようやく少し落ち着いた。

 気づくと志狼にしっかりしがみついてる。

「おい、葵。大丈夫か?ちょっとやりすぎたか?」

「ぜん・・・ぜん。だい・・じょうぶ・・じゃ・・ない・・わよ・・はぁはぁ」

「んあ、はぁはぁ、気持ち・・・よすぎる。はぁん・・・こわい・・よぉ・・・。どう・・・ん・・・なっちゃう・・・の・・あたし・・・」

「馬鹿、余計なこと考えるな」

「快楽に身をまかせろ。好きなだけ気持ちよくなれ」

「だって・・だって・・・そしたら・・・あたし・・・・」

 志狼なしじゃいられなくなっちゃうじゃないという言葉はかろうじて飲み込んだ。

「いいから」

 志狼はあたしの髪をやさしくなでた。

「ん。・・・んは!あふぅ、んはんは、・・・ふぅ、・・・はぁ・・・」

 気持ちいい、すごいすごい気持ちいい。

 あたしは、言われたとおり貪欲になることにした。

 彼のものはまるで灼熱に熱せられた鉄の棒のように固くて熱い。

 それを意識するとすぐにいきそうになる。

 あたしは志狼にしがみついているので目の前に肩がある。

 それに噛みついた。

 そうすれば耐えられるような気がしたからだ。

「うっ・・」

 志狼がうめく。

 けど文句は言わなかった。

 あたしはしばし、そうやって耐えていたが、とうとう耐えられなくなった。

 口を放した途端声が出る。

「ああ、ううぅ、うぅ・・・あは・・・ん・・はぁ・・・」

 あたしの口からいやらしいうめきが勝手にあがった。

「葵、動くぞ」

「え、うん」

 ぐちょぐちょぐちょぐちょ!

 なんかいやらしい音がする。

 彼が動き出した途端、今までの快楽が最高では無かったことを知った。

 さらによくなる。

 彼の1ストロークごとに更に高いいや深い位置に連れ去られる。

 志狼から離れたらどこかにいってしまいそうで必死にしがみついた。

 無意識に爪をたてる。

 いまや、あたしのあそこは、血と愛液とでぐちゃぐちゃだった。

 そこを固いペニスが力強く出入りする。

 ずりゅ!ずん!ずりゅ!ずん!

 あたしの襞はそれを少しでも多く感じようとからみつく。

 すごいすごい。すごく気持ちいい。

「葵、腰が動いてるな」

「え?やだ、そんなことないよぉ」

「ほんとか?じゃあ」

 そういって志狼があたしの中に深く埋めたまま動きを止める。

 え?え?え?

 深い快楽が途切れてあたしは戸惑った。

 もっと、粘膜をこすりつけたいのに。

「やだ、ねぇ、ねぇ、もっと・・もっとしてよぉ」

 志狼におねだりしながらもあたしの腰はぐいぐい動き摩擦を得ようとする。

 自分でも腰が動いているのがわかった。

 はしたない。

 でも、もうどうにもならないのだ。

 志狼の灼熱した肉棒があたしを変えてゆく。

 どんどんいやらしくなる。

「ねえ、お願いもっともっと欲しいの、ねえ、動いてよ志狼。なんでも言うこと聞くから!」

 素面では絶対に言えないセリフも簡単に口を付いて出る。

 肉の奴隷という言葉が頭に浮かんだ。

 そうだ。肉の奴隷だ。もうこれのない世界なんて考えられない。

 あたしが屈服したことに満足したのか、志狼がまた動き出す。

 そしてまた何も考えられなくなった。




 何度いかされたのかもう覚えていない。

 快楽の悦楽境にあたしはいた。

 今はよつんばいにされて後ろから激しく突かれている。

 身体はくたくただが、それでも快楽をむさぼろうとしていた。

 彼の先端が膣に当たっている。

 その度にどうにかなっちゃいそうだ。

 また、いきそう。

 また、大波がやってくるのだ。

 あたしの中の彼も変化している。

 膨れてきて、もう出そうなのがわかった。

「葵!いくぞ!出る!」

「来て!来て!中に、中に来て!!」

 あたしは大きく叫んで腰を合わせた。

 妊娠の心配?もうどうでもいい。

 どうせさっきから何度も中にだされているのだ。

 理性なんかどこを探しても見あたらなかった。

「いやあ!いく!いく!いくぅーーーーー!!!!」

 最後に深く付き込まれた。

 びくびくびく。

 身体がまるで痙攣するかのように引きつる。

 膣に精子が当たるのを感じた。

 あは、気持ちいいぃ。

 ああああああぁぁぁぁぁぁ。

 あたしの意識はそこで途切れた。



 *

 あたしはゆっくりと目が覚めた。

 なんだか気分がいい。

 身体はほどよく疲れていたが気持ちよかった。

 ぼうーっと天井を見上げる。

 ん?

 知らない天井。

 どこだ?ここ?

 確か昨日は志狼と飲みに行って・・・・・。

 はう!

 全部思い出した。

 血の気が引いていく。

 あたしはまるでこわれた人形のようにぎぎぎと首を横に回した。

 寝てる。

 志狼が寝てる。

 気持ちよさげに寝てる。

 すると、やはり、昨日のは夢とか幻とか電波だとかそういうものではなかったらしい。

 あたしは複雑だった。

 無理矢理犯された。でも気持ちよかったし。

 相手は志狼だ、でもなんか悪魔付きだったし。

 うーーーん。とか唸ってたら、志狼の目がぴくぴくする。

 起きそうだ。

 志狼はうつぶせになって顔をあたしの方に向けて寝ていた。

 こうしてみるとかわいい顔じゃないか。

 そして、彼は目を開いた。

 なんかまだ寝ぼけてるようだ。

「おはよう・・・。葵」

 それだけ言うとまた寝る。

 おい、こら、それだけかい。

 あたしがムッとしてると、志狼の肩がびくっと震えた。

「んわ!なんで葵が俺の部屋にいるんだ!?」

 おお、慌てちょる、慌てちょる。

「ここは、あんたの部屋じゃない、ここはラ・ブ・ホ・テ・ル」

 どうやら、ここにいたって昨夜のことを思い出したようだ。

 志狼はあわてて向こうを向いた。

 あたしに背中を見せて言った。

「ごめん。その、いろいろと」

 あたしは、まあいろいろ言いたい事もあったが取りあえず質問した。

「あのさ、その目だけど、一体なんなの?」

「これは悪魔だ。俺はイビルアイって呼んでる」

 ごまかすかと思ったがちゃんと応えてくれた。

 普通の状態でんなこと言われても笑い飛ばすだろうが、昨日の今日だ。

 実際に有ったことは覚えてる。

「大丈夫なの?」

「ああ、今は満足して眠っている」

 ふーん。じゃあ、いつもの志狼ってわけね。

「で、なんでそんなもんにとり憑かれる事になったわけ?」

「ん、あのさ、俺の親父が貿易商だって知ってるよな」

 といって語りだしたことをまとめると。

 オカルトマニアの親父さんが買ってきた呪いのルビーに封じられていた悪魔を偶然復活させてしまった。

 そんで目の中に取り憑かれたのを自分で封印したってことらしい。

「はあー、あんたも無茶やるわねぇ」

「まあ、久慈流の中にそういうのがあったからな」

「へぇ〜。じゃあ、昨日みたいに人をあやつったりできるって事?」

「ああ、こいつを使えば、人を殺すこともできる」

「こわ〜。え!?じゃあ、昨日もとっととやっつけてくれればよかったじゃない!」

 そうだ、何もあたしが抱かれることはなかったはずだ。

「いや、こいつは悪魔だからな。こいつの力を使うには贄が必要だ」

「にえ?・・・あの生け贄とかの贄?」

「ああ、こいつの場合は女なんだ」

「へ?」

「こいつの食い物は、その、女がエクスタシーを得る時に発する氣っていうかオーラ
 みたいなもんなんだ」

 なんだかスケベな悪魔ねぇ。

 ん?満足してるってさっき言わなかったけ?

 それってそれって・・・うーつまりあたしが・・あたしが・・・・。

 あたしは真っ赤になった

「それで、そのーこいつの力を使うと見境なくなるつーか、女が欲しくなるんだよ。」

「けど、いいわけだよなそんなの。ごめんホントにごめん」

 ちょっと空気が気まずくなる。

 あたしは志狼の背中を見つめながら考えた。

 確かに、あたしが望んでそうなったわけじゃないけど、原因はあたしが酔っぱらったからだ。

 はじめっから変な力を使ったわけじゃなくて、ちゃんと戦ってもくれた。

 それに・・、それにさ。

「いいよ、もう。あたし怒ってないから」

「あのね、あたしさあ、いつもあんたに男のことで愚痴ばっか言ってるじゃない」

「ん?ああ・・」

 志狼は急に変わった話の流れに戸惑ってるようだ。

「あれってさ、あたしの中にこう、男の理想像みたいなのがあって、それと比べてたのよ」

「それと比べてあそこが悪い、ああじゃない、って言ってたのね」

「でもさ、昨日あんたがあたしをかばって殴られてるときに思ったんよ」

「ああ、あたしの理想像ってあんただ。峰岸志狼だってね」

「だからさ、だから、あやまんなくていいよ。むしろ初めてがあんたでよかったかなぁって・・」

 お互い無言になる。

 しばらくたって、志狼が口を開いた。

「姫・・・・。それってもしかして告白?」

「ん・・、うん。そう・・、そうかな」





「俺は姫を女としてみていない」

 しばらくたったあと、志狼がぽつりと応えた。

「え?・・やだなにそれ」

 なんだかあたしは悲しくなった。

「まあ、聞いてくれるか」

 そういって志狼はベットから出てはじっこに腰掛けた。

「俺さ、中学の時につきあった女の子がいたんよ」

「え?うん」

「その子もやっぱり、葵みたいな感じでさ、話しやすくて気があって、いつもつるんでたんだ」

「それで、こんなに気が合うんならつき合おうっか、ってことでつき合う事にしたわけ」

「はじめは良かった。女の子といちゃいちゃするのも楽しいもんだって思ったんだ」

「だけど、だんだんその子がベタベタするようになった。他の女の子と話をすると機嫌が悪くなるし、いつもいっしょにいたがる」

「はじめはなんてことなかったのに、だんだん俺はイライラするようになった。
 前はこんなことなかったのに、前はこんな性格じゃなかったのに」

「その子を昔と比べるようになった」

「それで、おしまいさ。彼女とは別れ、それ以来きまずくなって口も効かなくなった」

「その時思ったんだ、大事な友達なら男女のつきあいにならなきゃいい。
 そうすれば、ずっと友達でいられる。ってね」

 志狼の告白にあたしは思い当たる節があった。

 そう言えば、いつも一歩先に入れてくれない領域があった。

「ほんというと、葵の顔みてどきっとしたことが何度もあったよ」

「でもその度に自分を戒めるんだ、葵はただの友達だ。大切な友達だってね」

 そうか、そんなことでうじうじしとるのかこいつは。

 あたしは、その無防備な背中を思いっきりはたいた。

 ばし!

「おーお、でっかいもみじ」

「な、なにすんだこの!」

 そういって振り返った彼の目の前にはあたしの裸があった。

 わっ。といって顔を背けようとする。

「見なさい!」

 あたしは胸をはって自分の全裸を志狼に見せてやった。

「ごらんの通りあたしは女よ」

「これのどこが、男だっていうのよ」

 志狼が目のやり場に困って狼狽している。こんな志狼もめずらしいな。

 なんだかいい気分だ。

「あのね、あたしはもう告白してんの」

「今あんたが断ったらどのみち、あたしらの仲はそれでおしまいよ」

「うっ」

「それに聞いてりゃ、あたしがベタベタするとか、他の子に嫉妬するとかいうわけ?」

「いや、すると思うぞ、葵、結構甘えんぼだからな」

「うっ。冷静に突っ込むな!仮に甘えたからってそれがなんなのよ。嫌ならそういうのやめてくれって言えば済む事じゃない。あたしは簡単に別れる つもりはないからね!」

「・・・・。最長記録が2週間の葵に言われても説得力ないけど」

 ううっ。なんかいつもの調子に戻ってきたみたいね。

「例え別れたってあんたと縁切るつもりなんかないからね!何回でもあんたとつき合うんだから。あたしは一生あんたの友達でいるんだから!」

 うわーくっさいセリフ〜。言ってて自分が恥ずかしくなった。

 思わず志狼の背中に抱きつく。

「あ、葵」

「ごめん、恥ずかしい。あんたの顔見れない」

「いや、その、胸があたって・・・その」

「いいから、そのまま返事してよ。YES以外は却下だけどね」

「いや、あの、俺は、あ、葵の事が、好き・・・だと思う多分」

 がく。

「何よそれ、煮え切らないなぁ」

「だって、今までそうやって思いこんできたんだからさあ、急に言われてもなあ」

「じゃあ、つき合ってくれる?」

「俺なんかでいいわけ?」

 まだ、ぐだぐだ言うかこいつは。

 あたしは、手を前に回すと彼のアレを掴んだ。

「おい、なにすんだ」

 ふふ、もう立ってるじゃないの。

 耳元でささやいてやる。

「あたしはコレがいいの」

「お前大胆になったなぁ」

「ええ、誰かのおかげさまで、昨日女になりましたから」

「う」

「志狼には選択の余地は無いの」

「はあ、謹んでお付き合いさせていただきます」

「よろしい」

 その後、たっぷりキスをしてからいっしょにお風呂に入った。

 身体の隅々まで洗ってもらったのは内緒だが、

 その後ベットで抱かれたときは痛かった。

 初体験の味がした。






あとがき

 な、なんでこーなるんだ!?
 当初の予定ではダークな話だったのに。猟奇物だったのに。
 またも「ほのぼの伝奇小説」になってしまった。
 うううう、こうなったら俺は世界初のほのぼの伝奇小説作家として
 明るく生きていくんだ〜TT

 この話は短編連作の形で毎回ヒロインが変わるってお話の予定だったんですが
 葵、お前主張しすぎ。
 やはりゲストヒロインは華々しく散るってのが鉄則だから、やっぱ殺すか?
 とかいったら葵に蹴られそう。
 あたしはゲストじゃなくてメインヒロインだからいいのよ!
 とか聞こえてきそう。
 てなわけで感想お待ちします。


 

 

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