ドアラっぽい何か

原作:nakami


 

 

一話


 俺、倉島修吾。
 ある日、見るだけで相手を発情させる能力に目覚めた俺はフェロモンショットを打ちまくって藤沢すらも陥落させた。
 という夢を見た。

「ん……んぅ……」

 何だよ、藤沢にエクスタシーショットを食らわせて、ドキドキモードに突入って言う所だったのに……良い所で目が醒めちまった。
 しかし、何なんだ? 腰が妙にムズムズする。いや、腰って言うか俺の凶器? なんか、妙に温かいような感じだ。チュンチュンとか雀の鳴く声が外から聞こえてくる。雀とか、いったい何時なんだよ……って、六時!? なんでそんな時間に目が覚めてんだよ、俺。二度寝だ、二度寝!

「んん……ちゅぅ……」

 おおぅ。なんだ、寒気がしたぞ。つか、何かぞわぞわする。もう六月だからって布団を薄くし過ぎたか? 風邪なんかひきたかねえぞ。夜はまだちょっと寒いからな。肌がけ布団ではなくまだ毛布にしておくべきだな。うん。美結にも言っておかないとな。あのバカ、たまに布団を剥ぐ癖もあるし。

「ペろ……あむぅ……」

 やべ、ほんとに風邪かも。寒気が止まんねぇ。熱は無いみたいだけど、こんなに寒気がするなら学校に行くのは止めた方がいいかも。くそ、折角渡辺や三森の夏服が見れるかと思ったのに。ついてねー。いや、待てよ。渡辺や三森に見舞いに来てもらえるんじゃね? 俺がメールで来てって言えばきっと来てくれんだろ。っていうか三森は頼まなくても押しかけてきそうだけどな!

「んっ……むぅっ……っ!?」
「ぬぁっ!?」

 ビクッときた。俺の凶器が寒気にやられてビクッときた。一瞬、腰を通過したやばい感覚に思わず腰が引けちまったぜ。最近の風邪は寒気が過ぎるとびくってくるのか……ってんなわけあるかっ!
 さっきからもぞもぞと俺の足の間でもぞもぞと動いているものの正体を暴いてやろうと肌がけ布団を引っぺがすと、案の定、足の間には俺の妹が居て、俺の凶器をパクリと飴かアイスのように咥えていた。
 美結の奴は俺と視線を交錯させると、「お兄ちゃん、おはよ」なんて満面の笑みを浮かべて、再び俺の凶器を咥え始める。

「う゛お゛お゛お゛ぉぉぉぉいっ!?」

 何やってんだぁ、お前ぇ!
 ヴァリアーの剣士みたいな声、出しちまったじゃねぇか。
 俺は慌てて美結を引き剥がす。ぷはっと息を漏らした美結の口からつうっと伸びた唾液がてらてらと光る俺の相棒へと繋がっていた。

「な、な、なにやってんだよお前っ」
「なにって……お兄ちゃんにごほうし」

 そう言って再び相棒を咥えようとする美結の頭をがっしと掴んで止める。
 途中で止められたのが不満なのか美結はぷぅと頬を膨らませていた。そんな顔しても駄目。お兄ちゃんそんな事許しませんよ。てか、俺達は兄妹だろが。つーか、ご奉仕なんて何処で憶えたんだお前はっ。

「ご奉仕じゃないっ。お前は何だ。俺の恋人か? 奴隷か? 違うだろ、お前は俺の妹だろ」
「むー。妹だってお兄ちゃんにごほうしするよっ。だってお兄ちゃん大好きだもんっ」

 大好きだもんっ、大好きだもんっ、大好きだもんっ……
 美結の言葉が俺の頭にリフレインする。頬をぷくっと膨らませて、じっと下から上目遣いに見上げる美結の姿が不意に可愛らしく見えた。小さな唇が、大きめの瞳が艶やかに濡れている。朝、妹がフェラをしてくれるシチュも含めて、まるで昨日も読んだ妹アンソロジーvol.3のカラーページのミクちゃんようだった。
 って、違うだろ! 落ち着け、惑わされるな。あれは架空の妹だ。非実在青少年だ。リアル妹がそんな事していい訳無いだろ!

「お前は何処のエロゲーだっ。普通、妹はお兄ちゃんにご奉仕なんてしねーよっ。つーか、ご奉仕なんて言葉何処で憶えたんだよっ」
「マンガ」
「なんて漫画読んでるんだよっ。よーし、それをここに持ってこい。そんな危険なものお兄ちゃんが処分してやるっ」
「うん、わかった……」

 美結はこくりと頷くと俺のベッドから下りて、自分の部屋に……ってあれ? 行かないの?
 美結の奴は俺のベッドから下りると廻れ右してその場に伏せた。そして、這いずるようにしてベッドの下へと手を伸ばす……っておい、待て。そこにはあれが……
 焦りを感じた俺が止めに入る前に美結は目的のものを取りだしてしまったようで、すくっと立ち上がる。

「はい」
「のーーーーぉぅっ!?」

 なんて、満面の笑みで美結の奴が取りだしたのを見て、俺はその場に悶絶してしまった。

『妹アンソロジーvol.3』

 いや、美結の取り出した本のタイトルなんですけどね。僕の隠していた本のタイトルでもあるんですよはははは……
 乾いた笑いしか出て来ない。家族に、しかも妹にエロ本を見つけられるとか、これなんて羞恥プレイ? つーか今、美結の奴にした説教の説得力が皆無になっちまったじゃねぇか。

「どうしたの、お兄ちゃん。処分するんじゃないの?」

 にこにこ顔で聞いてくる妹。
 もしもし、妹が妹アンソロジーを処分しろって言ってくるんですけど、俺はいったいどうしたらいいですか?
 お昼の生電話で浅黒い司会者におもいっきり相談したい気分なんだけど、あれはもう大分前に終わってしまったからなぁ……しかたない、こども電話相談室に相談しよう。この年でこども電話相談室に相談するのは恥ずかしいけど背に腹は代えられない。
 もしもし、こども電話相談室ですか? うちの妹が隠していたエロ本を処分しろって言ってくるんですけど、俺はいったいどうしたらいいですか?

「ほら、お兄ちゃん。ここ。妹がお兄ちゃんにごほうししてるんだよ。ね、妹だって、お兄ちゃんにごほうしするんだよ」

 処分出来ないことを確信したのか、美結がミクちゃんのページを開いて説明してくる。ミクちゃんはご奉仕と称して、朝っぱらからお兄ちゃんのベッドへと潜入。フェラをして、最終的にはお兄ちゃんの上に跨ってエッチまでするフルカラー十六ページの超大作だ。
 だが、待て、早まるな美結。お前にはご奉仕はまだ早い!

「待て待て、ちょっと待て! 美結、お前は重要なことを忘れている!」
「何?」
「ここをよく見ろ! ミクちゃんは女子校生、つまりは十八歳以上なんだ。だからご奉仕してもいいんだよ。つまり、お前にはまだ早い!」
「異議あり! ミクちゃんは女子校生とは書いてあるけど十八歳以上とは書いていませんっ。だから十八歳以上だとはわからないでしょっ」

 このバカ、非実在青少年に向かってなんて事を言うんだ。

「バカ野郎、お前は児ポ法や青少年保護育成条例を敵に回す気か。ミクちゃんは十八歳、十八歳ったら十八歳なんだよ。だからお前には早いんだ!」
「だったら、お兄ちゃんはあたしが十八歳になったらご奉仕させてくれる?」
「それはない」
「なによそれーっ。あたしだってお兄ちゃんとエッチしたいんだよーっ」
「ばっ」

 慌てて美結の口を塞ぐ。
 なんて台詞を吐きやがるんだ。うちの鬼母に聞かれたら三時間説教の上、一日飯抜きコースへ連行されてしまうだろ! 下手すると、俺のお宝とかも全て処分されかねない。聞こえてないだろうな……
 美結の口を塞いだまま、じっと部屋の外に気を配る。俺の形而上能力で操ってしまえばいい問題なんだろうが、美結の事や藤沢の事もあり、肉親には極力使いたくなかった。
 息を潜めて一分。怒ることを躾だと思っているうちの鬼母が怒鳴り込んでこない所を見るとどうやら聞こえてはいないようだった。
 一安心しつつ、美結を睨む。むー、むー、と俺の手の中で暴れている美結に「母さんに知られたいのか?」と言ってやると、美結の抵抗も急に止んだ。鬼母が怖いのは俺も美結も一緒だ。っていうか、こんな禁断の果実は誰が見たって怒るだろ。
 落ち着いた美結をそっと放す。

「いいか美結。俺とお前は何処まで行っても兄妹でしかないんだ。恋人同士にはなれないんだよ。だから、兄ちゃんはお前とエッチは出来ない。わかってくれ」

 静かに、諭すように美結へと宣告する。わかってくれ美結。俺もお前の身体は将来性という意味でこっそり魅力的に思ってるけど、俺はお兄ちゃんなんだ。妹の処女を奪うわけにもいかない。
 ましてや、恋人になんかなれるわけがない。なぜなら、俺は学校の支配者、倉島ハーレムの主なんだからな。美結以上に魅力的な女子達が俺を待っているんだから、お前の恋人になれるわけもないんだ。

「……ぐすっ」

 う゛お゛ぉぉい、ちょっと待てぇ。なんだその貌は。いかん、これはいかんですよ。美結の奴、今にも泣き出しそうだ。最近は思春期の反抗期に入ったせいかそっけない応対をしていたが、こいつ、昔は泣き虫で、一度泣くと自分の要求が通るまで周囲の迷惑なんて顧みず、延々と泣き続けるのだ。

「わかった、わかったから。ちょっと待て美結。泣くなっ!」
「……」

 赤く潤ませた瞳でじっと俺を見上げる美結。ふるふると震える肩がいつもと違い弱々しさを演出する。いつだったか、近所の縁日に二人で行った時の事を思い出す。あの時は舐めていたりんご飴を落としてしまって、同じように泣き出してしまったんだよな。もうわんわんわんわん場所も考えずに泣きじゃくるからどうしていいか困った末、俺のりんご飴をあげたんだよな。その時もこんな風に赤く潤ませた瞳で俺を見上げてたっけ……
 ああもぅ、仕方ねえなぁ。

「わかったよ。じゃあ、キスとフェラチオだけな。本当は兄ちゃんはお前といちゃいちゃするわけにもいかないんだからそれで我慢してくれ……な?」
「……うん」

 ぐすっと鼻水を啜りつつも頷く美結。良かった。本当に良かった。泣き出すのを止められて。こいつが泣き出したら、絶対に鬼母にばれるし。

「ところでお兄ちゃん。ふぇらちおって何?」
「知らないでやってたのかよっ!」

 美結の奴の質問に思わず突っ込みを入れてしまった。きょとんとしている美結に「はぁ」と溜息を吐く。そんな俺を見て、美結は首を傾げていたが、フェラチオがなんなのか気付いたのか、突然「あぁ」と手を打った。

「やってたって……そっか、お兄ちゃんのおちんちんを舐めることをふぇらちおっていうんだね」

 俺の台詞でフェラチオがなんなのかを理解した美結は「フェラチオっていうんだぁ」とかいいながら、さっきまで泣いていた癖ににこにこと満面の笑みを浮かべていた。
 ああ、そうだよ。こいつはそう言う奴だよ。りんご飴を落とした時だってあんなにわんわん泣いていた癖に、俺がりんご飴をやった途端ににこにこと笑い出しやがったんだよな。嘘泣き何じゃないかと何度疑ったことか……だけど、こいつは嘘泣きなんかじゃなくマジ泣きから一瞬で笑顔を取り戻すんだよな。そんな所も子供っぽいっていうかなんていうか。
「はぁ」ともう一度溜息を吐く。そんな俺に気がつかず、美結はにこにこ顔のまま質問してくる。

「お兄ちゃん、フェラチオがいいなら、あたしがお兄ちゃんにフェラチオをしてる時にお兄ちゃんにあたしのあそこを舐めて貰うのは?」

 なん……だと……!?

「なんて事言い出すんですかお前はっ!?」

 我が妹ながらなんて恐ろしいことを思いつくんだ。フェラチオすら知らなかった癖にシックスナインだと……駄目だ駄目だ。そんなエッチなことはお兄ちゃん許しませんよ。

「ねえ、駄目?」

 じっと俺を窺う様に上目遣いで見上げる美結。そんな可愛い仕草で懇願しても駄目。駄目なものは駄目です。お兄ちゃんはそんなエッチな行為は許可出来ません。

「駄目です。あれはとても危険な行為なので十八歳まで禁止です」
「ぶー」

 美結は頬を膨らませて不満を漏らす。だけど、今度は我慢出来ているのか、それだけで泣きそうになることはなかった。わかってくれたか。美結。

「じゃあ、キスとフェラチオで我慢するよ」

 そう言って、美結は再び俺の相棒を咥えてくる。って、俺ずっと相棒晒しっぱなしだった。きゃー恥ずかしー。下半身を晒しっぱなしで説教をたれてたって事だよな。なんて説得力のない……おおう。
 ぴちゃぴちゃと音を立てて、俺の相棒を舐めていく美結。その瞳はじっとこっちに向けられて、上目遣いで俺を見ながら、必死に頭を動かしていた。

「んっ、んくっ、んっ、ちゅっ、お兄ちゃん、んっ、んっ、きもひいい? んっ、んっ、あたし、がんばるからね。あんっ、んっ、んっ、お兄ちゃん、んっ、んっ、んっ、ちゅぶ、お兄ちゃん、んっ、好き、好き、ちゅっ、ちゅぶ、ずずっ」

 このバカ、なんて健気なことを言ってくれるんだ。お兄ちゃん、じーんと来ちゃったよ。正直、渡辺と比べてしまうから、気持ちよさは全然無いけど、心が温かさでいっぱいになる。美結の頭をぐしぐしと撫でると、美結はくすぐったそうに目を閉じつつ、必死に頭を動かしていた。

「んっ、んっ、ちゅっ、んっ、ふっ、んんっ」

 前後へと美結の頭が動いてく。ど素人の美結なので渡辺のような口技は望むべくも無いが、スキンシップという点でこれ以上ないくらいに心が満たされていく。

「んっ、んっ、ちゅっ、んんぅっ、お兄ちゃん、お兄ちゃんっ、んっ、ちゅっ、ちゅぷ、毎日、毎朝、あん、んぅっ、ん、ちゅぅ、これで、んん、起こしてっ、んっ、ちゅ、あげる、ん、ね」
「まじで?」

 なんですかこの可愛さは? こいつ本当に美結ですか? そんなバカな、あの生意気な美結が、俺の妹がこんなに可愛いわけがない。俺の妹はもっとこう、生意気で、本当はお兄ちゃん大好き何だけど、でもそれは隠してて、いつも生意気に振る舞ってる。でも本当にお兄ちゃんが大好きで俺が困るのなんかお構いなく、ベッドに入ってきて、キスとかフェラチオとかしてくるんだ。ぺたんこの胸もつるつるですべすべの肌も一生懸命俺に擦りつけて、お兄ちゃんである俺に初めてを捧げたいなんて思ってる。兄妹だって言うのに俺と結ばれたいと思ってる。
 あれ、すっげー可愛くね?
 雑誌のモデルじゃないけど、成績優秀でもないけど、わがままな妹だけど、うちの妹はこんなに可愛い。
 やべ、すっげードキドキしてる。なにそれ、どうしちゃったの俺? 落ち着け、落ち着くんだ俺。よく考えろ、妹だぞ妹。相手は美結だぞ。何バカなこと考えてるんだ。しっかりしろ、お前はお兄ちゃんなんだぞ。

「んっ、んぅっ、ちゅ、ぅ、お兄ちゃん、んぅ、あたし、きゅんきゅん、んぅ、するよぉ、んんっ、ちゅぅ、舐めてぇ」
「おう、任せろ」

 美結の身体を俺の相棒を支点に反転させる。お子様仕様のパジャマに包まれたあそこを俺の目の前に持ってくる。パジャマのズボンと共にするすると美結パンを下ろし、その先に隠されていた妹の大事な所をさらけだした。まだ誰も知らないあそこはぴっちりと閉じられていてまだ見ぬ思い人を待っている。微かな毛が生え、大人の階段を踏み出し始めているそこに、俺はぺろりと舌を這わせた。

「んんぅっ」

 俺の舌が触れた瞬間にぴくんっ、と美結の身体が震える。きゅうっと締まるあそこからつうっとエッチな汁が零れた。

「お兄ちゃん、お兄ちゃんぅっ!」

 ふりふりと誘う様に腰を振ってくる美結のあそこに俺はもう一度舌を這わす。くにくにと閉じられたあそこを抉るように舌をねじ込んでいく。あそこから零れる汁が舌を伝って喉を潤していく。美結は快感に打ち震えてぷるぷると体を震わせていた。

「ほら、止まってるぞ」

 ぱんと軽く尻を叩いてやる。

「ひゃんっ」

 可愛らしい声を上げて美結が体を震わせる。そして、一瞬だけ抗議の目を俺に向けたが、俺がアイコンタクトで舐めてくれよと返すと、むぅと頬を膨らませたもののパクリと俺の相棒を咥え直した。

「ちゅ、んっ、ぢゅぅ、あむんっ、んぅ、ん、んぅっ」

 仕返しのつもりなのか、美結の動きが急に強くなる。だがまだまだだな。渡辺で鍛えた俺の相棒はそんな程度では満足出来ないんだぜ。
 俺も美結のあそこへと舌を伸ばし、美結を挑発するようにぺろぺろと舐めていく。

「あっ、んっ、んぅっ、おっ兄ちゃん、お兄ちゃんんぅ! んっ、ん、んんぅっ!」

 びくびくと体を震わせながら美結は必死に俺の相棒へと奉仕する。ずるずると吸い込まれる快感が俺に良い感じの刺激を与えてくれる。
 全くこれじゃ妹アンソロジーvol.3じゃないか。非実在青少年じゃないか。いや、もう俺の存在が非実在青少年か? 我が校でもトップクラスの美少女達をものにしたっていうか、学校そのものが既に俺の支配下だ。昨日支配したばっかりだけどな!

「んっ、くっ、んんぅ、ぢゅぅ、んっ、むぅっ、ん、んんぅっ」

 そんな俺のリア充どころかエロゲ主人公も真っ青な学園ライフは非実在青少年レベルだぜ!

「イエ〜イ。東京都民のみんな見てる〜?」
「ん、んんんんぅっ!?」

 結局俺は必死にごほうししてくる美結にご褒美をあげたのだった。
















形而上の散歩者ドアラっぽいなにか


〜相変わらず大変なうちの妹だが最近では俺のパンツが大変な事になってる件〜














「ふーんふふーんふーん」

 廊下を歩いていたら自然と鼻歌が出る。それはそうだ、今日から俺の毎日はこれ以上ないくらいに充実するんだから。
 昨日、藤沢を攻略する時についでに学校を支配した。その時に色々と仕込んだが、一番の目玉は各クラスのトップスリー選抜ユニット倉島54クラブだ。各クラス共に倉島54クラブのためのメンバー選出をしていたはずだし、今日にも倉島54クラブが結成される。そして、その美少女達が俺に一生懸命奉仕してくれる。こんな素晴らしい男の浪漫ににやけるなと言うのが無理ってもんだ。ちなみにうちのクラスからは藤沢、渡辺、三森が選出される。かねてからのうちのクラスのトップスリーだし、藤沢はまだだけど、渡辺も三森も学校支配以前から俺が支配している。当然と言えば当然すぎる結果だぜ。
 おっといかん、またボッキして来ちまった。朝、美結に突入させてもらった賢者タイムはとっくに過ぎていたらしい。渡辺か三森にでも抜いて貰うか?
 そう思って、二人を捜していると、後ろから声を掛けられた。

「倉島君」

 綺麗な声に振り向くと、そこには見るも眩しい今世紀最大の美少女が歩いてくる所だった。藤沢は今日も綺麗。歩いてくる道は華やいで、後光すら見えてしまいそうだ。
 しかもあれですよ。夏服ですよ夏服。真っ白なブラウスに染み一つ無い真っ白な肌が非常に眩しいですよ。見た目変わらない夏服のスカートも、すらっと伸びた足に穿いている真っ白な靴下も、余す所無く藤沢の可愛さを引き立たせている。きっと着こなすとはこういう事を言うんだろうな。藤沢はきっちりと指定された制服だけでアクセサリーの類は何一つとして付けていない。だというのに、藤沢の魅力はこれでもかと言うくらいに引き立てられていた。どれだけの男子がこの姿に悶えたか。きっと、ここに来るまでに沢山の男達を魅了してきたに違いない。
 あ、やべえ、射精しちまいそう。あまりにも藤沢が可愛すぎて、その姿を見ただけで俺の相棒が暴発しかけた。

「ふじ、藤沢っさん!? おは、おはっおはよっ」

 俺の下半身はとんでもない事になりかけているけど、それを出さないように必死に平常心を装ってみた。……結果は惨憺たるものだったが。そんな俺の姿にくすくすと藤沢が笑みを零した。やべえ、やっぱ、藤沢マジやべえ。

「ふふっ、おはよう、倉島君。相変わらず面白いねー」
「おも、おも、面白いですかっ?」
「うん、面白いよー。なんていうか動きが面白いよね」
「そ、そんなに変かな?」
「変だなんて言ってないよー。リアクション芸人みたいで面白いなーって」
「いやいやいやいや。何それ、熱湯風呂に入らなきゃいけないの?」
「生着替えもするんだよね?」
「半ケツ見せるの?」
「それは放送コードに引っかかるでしょ」
「大丈夫大丈夫、みんな半ケツくらい見せてるから」
「もう、倉島君ったら、何言ってるのよー」
「あれ、藤沢さんが振ったんだよね?」
「私はそこまで言ってないよー」

 あははと藤沢が笑い飛ばす。藤沢は普段からどんな奴にも当たり前に声を掛けてくるので、今世紀最大の美少女と引きこもりの気のあるオタ入ってる俺が会話しているという、ある種異様な光景を誰も異様と思わない。思うことはきっと俺に対する羨みとやっかみだろう。俺だってそうだ。前に何度か藤沢が他の奴と話しているのを見て、何で俺じゃないんだと思ってたっけな。
 そういや、藤沢から声を掛けてきたんだよな。何か用事でもあるのか?

「ねえ、藤沢さん」
「ん、なあに?」

 うぉ、やべえ。聞き返してきただけだってのにすげえ可愛い。流石藤沢、女子力がパネェ。藤沢との何気ない会話でどこかへ行ったと思っていた性欲が再び戻ってくる。一気に俺の凶器が臨戦態勢を整えて、藤沢を貫こうと構え出す。

「あ、あのさ、何か、用事があったんじゃないの?」
「ああ、うん。そうだったそうだった。倉島君、ちょっと良いかな」

 そう言って、藤沢は廊下の端を示す。
 え、何、内緒話?
 俺は藤沢に誘われるまま、廊下の端へとついていく。そこで藤沢は軽く身を屈めて、筒状にした手を口に添えた。なんて完璧な内緒話スタイル。しかもそれがすげえ可愛い。もちろん俺は誘われるままに身を屈めて藤沢に耳を寄せた。ここで「わ!」とかすげえベタな事をやられても、きっと許せる。驚いた俺を見てふふって笑う藤沢の笑顔を見てしまったら誰だって許してしまうだろう。断言出来る。それほどに藤沢の笑顔は可愛いのだ。可愛いは正義だぜ!
 しかし、藤沢はそんなベタな事をせずに鈴の音のようなアニメ声を密やかに俺の耳に届けてくれた。

「あのね、倉島君」
「うん」
「放課後、空いてる?」
「え?」
「だから、放課後。空いてる?」

 え、何? 何それ? 何なの? どういう事。放課後空いてる? もちろん空いてる。つか、どんな用事があったって、藤沢からの頼みだったら全部キャンセルする。例え、美結が泣いて縋っても藤沢を選ぶ。

「あ、空いてる……空いてますよ?」
「よかった」

 え、よかった? よかったって言いましたか? すげ嬉しそうじゃね? マジ、もしかして、俺モテ期? 形而上能力で渡辺と三森を落として学校まで支配しちゃったけど、そんな事しなくても恋人が出来たんじゃね? しかも相手が藤沢って、俺、どんだけリア充なの?
 わくわくしながら藤沢の次の言葉を待つ。藤沢はそんな俺の期待を感じ取ったのか、ふふっと楽しそうに笑う。耳にかかる息がくすぐったい。やばいやばい。藤沢の声がやばすぎる。藤沢の声を聞いているだけでビンビンと股間が張り詰めて来る。これもう、声だけで俺のことイカせられるんじゃね? あれか、セイレーンか? 綺麗な声で男を誘い、海に引きずり込んで殺すって言うあれか? だが、それでも全然問題じゃない。藤沢の海に引きずり込まれても本能だ。いや、本望だ。

「放課後、商店街で待ってるから。来てね」

 キタ━━━━━━━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━━━━━━━ッ!!
 ちょ、マジ? マジですか? これ、現実? 夢じゃないよな。藤沢、思いっきりつねってくれ。渡辺でも三森でも美結でもいい、誰か俺の頬をつねってこれが夢じゃないことを証明してくれ!

「行く行く。もちろん行く、絶対行く。妹を質に入れてでも行く」

 俺は二つ返事っていうか、脊髄反射で返事をしていた。もう当然。藤沢からのお誘いに断るなんて選択肢はノーだぜ。言われなくてもはいかイエスで返事してやる。そこが地獄の一丁目でも藤沢と一緒なら行ってやる。むしろ連れてって。

「ほんと、ありがとー。でも、妹さんは質に入れなくてもいいからね」
「うん、大丈夫。どんなことがあっても行くから。妹がだだ捏ねたって、ダダになったって行く」
「もう何それー。やっぱり倉島君っておかしな人だよねー」
「そりゃもう、昨日俺たちは学校一の変人を競い合った仲じゃない」
「あ、そう言えばそうだったね。じゃあ、放課後、商店街で待ってるから」
「うん、絶対に行くよ」

 くすくすと笑った後にもう一度耳元で声を潜める藤沢に俺ももう一度耳を寄せる。そして、藤沢はとんでもない一言を言い放った。

「お母さんが」
「え?」

 え? なに? お母さん? お母さんって誰? 藤沢じゃないの?  藤沢のお母さん? 藤沢のお母さんって誰? 布団ババア? 布団ババアだろ? もしかしてこれ、藤沢からの誘いじゃなくて、布団ババアからの呼び出し?
 ああ、そうだ。これは藤沢からの誘いじゃなくて布団ババアからの呼び出しなんだよ!

 な、なんだってーっ!?Ω ΩΩ
 嘘。嘘だろ? 嘘だと言ってよ藤沢。思いっきり蹴飛ばしてくれ。渡辺でも三森でも美結でもいい、誰か俺を思いっきり蹴飛ばしてこの悪夢から叩き起こしてくれ。

「それじゃ、倉島君。よろしくね」

 可愛い声でそう言い残して、藤沢は教室の中へと入っていく。後には呆然としたままの俺だけが残されていた。









 放課後、商店街、布団ババア、待ってる。放課後、商店街、布団ババア、待ってる。放課後、商店街、布団ババア、待ってる。放課後、商店街、布団ババア、待ってる。放課後、商店街、布団ババア、待ってる。放課後、商店街、布団ババア、待ってる。放課後、商店街、布団ババア、待ってる。放課後、商店街、布団ババア、待ってる。放課後、商店街、布団ババア、待ってる。放課後、商店街、布団ババア、待ってる。放課後、商店街、布団ババア、待ってる。放課後、商店街、布団ババア、待ってる。放課後、商店街、布団ババア、待ってる。放課後、商店街、布団ババア、待ってる。放課後、商店街、布団ババア、待ってる。放課後、商店街、布団ババア、待ってる。放課後、商店街、布団ババア、待ってる。放課後、商店街、布団ババア、待ってる。放課後、商店街、布団ババア、待ってる。放課後、商店街、布団ババア、待ってる。放課後、商店街、布団ババア、待ってる。放課後、商店街、布団ババア、待ってる。放課後、商店街、布団ババア、待ってる。放課後、商店街、布団ババア、待ってる。放課後、商店街、布団ババア、待ってる。放課後、商店街、布団ババア、待ってる。放課後、商店街、布団ババア、待ってる。放課後、商店街、布団ババア、待ってる。放課後、商店街、布団ババア、待ってる。放課後、商店街、布団ババア、待ってる。放課後、商店街、布団ババア、待ってる。放課後、商店街、布団ババア、待ってる。放課後、商店街、布団ババア、待ってる。放課後、商店街、布団ババア、待ってる。放課後、商店街、布団ババア、待ってる。放課後、商店街、布団ババア、待ってる。放課後、商店街、布団ババア、待ってる。放課後、商店街、布団ババア、待ってる。放課後、商店街、布団ババア、待ってる。放課後、商店街、布団ババア、待ってる。放課後、商店街、布団ババア、待ってる。放課後、商店街、布団ババア、待ってる。放課後、商店街、布団ババア、待ってる。放課後、商店街、布団ババア、待ってる。
 あ゛ーーーーーーーーーっ!
 もうやだ、もういや、もう帰りたい。帰って布団を被ってずっと引きこもってたい。確かに昨日、布団ババアを許せないと思ったけど、よく考えたらあんなのに勝てるわけねー。
 布団ババアに形而上能力を引き出されたあの日。俺のだか、布団ババアのだかよくわからないあの心の中。あの田舎の風景で布団ババアの圧倒的な力を思い知らされた。あの時は何が何だかわかんなかったけど、今だったらよくわかる。俺も美結ギャラクシーの再生の時にパワーアップしたけど、そのパワーアップした俺と比べても布団ババアは圧倒的だ。最初に渡辺を落とした時、自分の形而上能力に気付いたあの日の俺の力を1万8千としよう。すると、今の俺、美結ギャラクシーでパワーアップした俺の力は18万となる。単純に10倍になった。界王拳10倍だ。だけど、布団ババアの力は53万だ。戦闘力が全然違う。しかも、それはスーパーなんたらになって髪の毛を金髪にしたって勝てるかどうかわからない。きっとあの地球人のように殺されてしまうだろう。そしたら、美結が俺の仇を取ってくれるかな?
 ってちがうだろ。俺がやられちゃ意味ねーじゃん。
 いっそ逃げる? 渡辺三森を引き連れて。藤沢も拉致って。布団ババアの眼の届かないような所、三森の家の力で何処か海外に高飛びするか?

「倉島、よろしく」

 そうして四人で南の島にでも逃げて、そこで現地の奴らでハーレム作る? バカンスにきた奴らも片っ端から操って、一大倉島帝国でも作る?

「これが倉島の……男の人のって初めて見た」

 うるさい相澤。初めて見るなら色々驚くのはわかるが、俺は今考え中なんだ。もうちょっと静かにしてくれ。一大倉島帝国を作って、みんなでエロエロな生活を送るのも良いな。毎日、誰かとやって。好きなだけ中出しして、好きなだけ遊んで暮らす。そんな楽しい暮らしをずっと続けるのは本当に楽しそうだ。

「これ、大きくなるのよね」

 とはいえ、藤沢をあのままにもしておけない。あんな状態の藤沢を見てしまったら放っておく訳にも行かない。藤沢に自分の状態を気付かせる事はできるが、それでは藤沢が壊れてしまう。藤沢の事を考えるとやっぱり布団ババアと対決するしかない。ないけど……

「はぁぁ〜〜〜〜」

 相手はあの布団ババアだぜ? こっちの言う事なんて全く聞きやしねーだろーし、あの圧倒的な強さだ。マジどうしようもねぇ。

「わ、ほんとに大きくなってきた。しかも結構温かい」

 何当たり前のこと言ってんだ。お前だってボッキするだろ。オナニーした事ねーなんて言わせねーぞ。エロい事考えれば、エロい事すればボッキする。これは自然の摂理だ。だから、そんな俺の欲求を吐き出すのも自然の摂理なんだよ。いいからお前は良い感じの刺激を送り続けろ。
 そんな事より布団ババアだよ。あいつからの呼び出しだし、逃げるわけにもいかないはずだ。つか、逃げてもババアのことだからコンビニや下手すると学校まで来かねない。そんな事になったら終わりだ。ババアがこんな状況になっている学校を見て何もしないわけがない。もちろん、正常化させるなんて言う訳ではなく、逆に混沌の渦に巻き込んで色んな奴を壊してしまうだろう。それこそ、藤沢にやったようなことをやってしまうかも知れない。学校中の人をクラスタ化して学校にMCフィールドを形成しているが、布団ババアにそんなものが効くわけがない。むしろ、それを利用して逆に学校中をMCするに違いない。きっと、布団ババアが来たら学校は阿鼻叫喚の地獄絵図と化すだろう。
 そんな事をさせるわけにもいかないし、やっぱり布団ババアの呼び出しに応じるしかないのか……ああもう、逃げてぇーっ。

「すご……こんなになるんだ……」

 相澤は俺の相棒を握りながら顔を真っ赤に染める。見るのが初めてなら当然触るのも初めてだろう。渡辺みたいに上手というわけでなく、三森みたいに奴隷心全開でもない。おっかなびっくり動かしていく手は全然、快感を与えてくれない。もちろん、今まで俺の事なんて何とも思っていなかった奴が一生懸命俺のものを扱いてくれているという事実は高揚感を与えてくれるが、マジでそんなの今更だ。だって、俺の初めてはあの渡辺だぜ。そして、次に三森だぜ。あまりにも凄い二人の時に高揚感はいきなりゲージを振り切っていたからな。あの二人を超える高揚感を与えてくれる奴なんて、もはや藤沢しかいない。そして、藤沢のためにもあの布団ババアをどうにかしないと……って、ループしてるんだけど。

「あ、あれ? ど、ど、どうしたの? え? どうして?」

 あー、ちくしょー。どうしろって言うんだよ。つか、どうなるの? 布団ババアの意図が全く読めない。俺のことを潰そうって言うんだったら、もっと早くできるだろうし、あのババアが俺に手を貸してくれるなんて絶対にない。いったいどうするっていうんだ?
 はっ、まさか、あいつは俺に倒されることを望んで、俺があいつを倒せるようになるまで待っていたと言う事かっ。俺は強くなりすぎた。誰一人として俺の強さに対抗出来るものはいない。お前を除いてはな。それは孤独だ。自分の周りに誰も居ないなんて気付かなければ良かった。だから、俺はお前に倒して欲しかったんだ。だが、忘れるな。俺を倒したと言う事は今度はお前が孤独になる番だ。歴史は繰り返す。これは連綿と繋げられてきた呪い。誰よりも人を愛する戦士が誰よりも人に愛されたいと思う人になるんだ。そしてお前もいつかは俺と同じように更に強い誰かに倒される。最強という名の呪いをそいつに掛けることになるんだ……なんて厨二な話を考えてみたけれど……ねーよ。ぜってーねーよ。布団ババアがそんな殊勝なことを考える奴かよ。
 そんな事を考える奴だったらそもそも藤沢にあんな事してねーし。

「ねえ、倉島。どうしたの? あたしの奉仕、気持ちよくなかった? だったらもっと頑張るからさ、何処をどうして欲しいか言ってよ」

 やっぱり行くしかねーんだろうな。藤沢を放ってどこかへ逃げ出せれば、それで済むんだけど、そんな訳にも行かねーし。きっと、俺自身も布団ババアは避けて通れない相手だって事だよな。布団ババアのおかげで……いや、布団ババアにおかげなんて言葉使いたかねーな。布団ババアのせいで俺はこのへんてこな形而上能力に目覚めた。そのせいで今の状況を手に入れたんだから、きっとどこかでそのつけというか、幸せの分の支払いをしなければならないんだろう。試練の時、きっとそれが今なんだよな。

「ねぇ、くらしっ、んんぅっ!?」

 するりと相澤の中へと入って俺の相棒を扱くと自分のあそこが挿れられているように感じる様に感覚をリンクさせた。ちなみに相澤は心の底から弓道一筋の堅物みたいで心の中は縄文杉並の巨大な木が一本、この木何の木気になる木みたいに草原のど真ん中に立っていて、その木に向かって胴衣を着た小さな相澤が正座していた。昨日入った時に一度見たけど、改めて見ても壮観で殺風景な景色だった。

「んっ、なぁっ……んぅ、くぅっ」

 公然の秘密だが、一応、ばれないことを前提にしているので、相澤は必死に喘ぎ声を抑える。俺の相棒から手を放してしまえば済むのだが、そもそも俺に奉仕することが大前提なので、そんな事は考えられない。結果、自分から俺に犯されてしまっているような状況を作っている。

「ぅ……くぅ……ぁっ、んんぅ……ぅっ……はぁっ」

 絶対に逃げられない相手。俺が超えなければならない相手。撃ち倒さなければならない相手。それが布団ババアだ。俺はあいつに打ち勝たなければならない。例えどれだけ力の差があったとしても、どれだけ絶望的な戦いになったとしても、俺は絶対に布団ババアに勝たなければならない。藤沢のためにも、俺のためにも……

「んぅぅっ、んくぅ、ど、どうしっ、んんぅっ!」

 蟻の王に戦いを挑むネテロ会長やピッコロ大魔王に対峙した亀仙人はこんな気分だったんだろか?
 ……なんて、無理矢理理由付けしてみたけど。やっぱり行きたくねー!!
 渡辺、三森、藤沢……俺がみんなを幸せにしてやるから、誰か俺を守ってくれ――

「んんんぅ、んぁぁぁぁぁぁっ!!」
「うわぁっ!?」

 なんだぁっ!?
 あれ……? 何で相澤が俺の隣にいるの? ってか、これ、どう見てもイッてるよね? ブルブルと震えながら顔を真っ赤にしてハアハアと熱い吐息を漏らす。そんな相澤の姿がやばいくらいにエロいんですけど。
 こんな顔を藤沢でも見たいぜ……って、相澤の手がこっちに伸びてると思ったら、俺の相棒をがっしりと掴んでるんですけど。授業中に手コキって、これなんてエロゲ?

「そこ、なにしてる!」

 うわ、やべ、ばれた。って、よかった、安達か。安達なら大して怒られないだろって、あれ? なんかいつもと様子が違う? っていうか、服装がいつもと違わね? つか、なんだよそのエロい格好!
 真っ赤なロングのセクシードレスを着て毛皮のショールを肩に掛けた安達は黒い長髪と合わせてアマゾネスな女海賊の様だった。

「相澤、それに倉島。この私の授業を邪魔するなんていい度胸ね。退学にでもなりたいのかしら」
「はい、あ、いえっ!」
「なら、次からは邪魔にならないようにもっと隅の方でこっそりやりなさい」

 あまりにも似合ってしまっているので思わず返事をしてしまった。海賊女帝恐るべし……

「さて、じゃあ、授業を邪魔したお仕置きをしないとね。相澤と倉島のオナニーショーでもしてもらいましょうか」
「え?」
「私の授業をそっちのけにして、そう言うことをしている位にエッチなことが大好きなお猿さんなんでしょう。お望み通り、いっぱい気持ちよくなって良いわよ。みんなに自分のお猿さんっぷりを見て貰いなさい」

 あ……ありのまま、今起こった事を話すぜ!

『授業中に隣の奴に手コキされていたと思ったら、教壇でオナニーすることになった』

 な……何を言ってるのか わからねーと思うが俺も何をされたのかわからなかった……
 頭がどうにかなりそうだった……
 催眠術だとか超スピードだとかそんなチャチなもんじゃあ、断じてねえ。
 もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……

「倉島、相澤! 早くしなさい! ここで、あなたたちの恥ずかしい姿をみせなさいっ」
「先生! 見下しすぎて、逆に見上げてますっ」

 結局、俺と相澤は教卓の両側でそれぞれオナニーをさせられた。相澤には男子が興味津々で群がっていたが、恥ずかしいのか俺の方には山口の他、数名しか集まっていない癖に、藤沢と渡辺を除く女子がそれぞれの席に座りながらもちらちらとこっちを見ているので(つーか、三森、お前もか)、俺の快感とリンクさせて俺が射精するのと同時に藤沢と渡辺を除く女子全員をイカせてやった。









 来ちまった。
 来ちまったよ。
 ついに来ちまったよ、商店街。
 放課後、一日中ガクブルしていた俺は様子がおかしいことを察知してくれた渡辺と三森のお誘いを断ってきた。非常に残念で仕方ないが、布団ババアの呼び出しに遅れたらそれこそどうなるかわからねーし。
 正直超帰りてー。
 この後の事を考えると足だって全然前に進まねーし、脂汗がだらだらと流れてくる。布団ババアに会う前から心臓がばくばくと物凄い早さで動いていて、恐怖が俺の心に溢れてくる。
 どーなんの俺。いったい何されんの?
 疑問と恐怖がぐるぐると頭を巡り、視界が狭くなる。周りに何があるのか全くわからなくなり、何処を歩いているのかと言うのもわからなくなっているが、目の端に映る人物を見間違うことはなかった。
 藤沢だ。
 まさに地獄に舞い降りた天使。何も見えないくらいになっている俺の視界の中で、藤沢だけがきらきらと輝いている。書店の店先でなんでもない風に立ち読みしているが、きっと俺と布団ババアのことが気になって来たのだろう。そうでなければ、布団ババアも俺も嫌っている藤沢がこんな所にいるわけがない。
 そうだ。俺は何のためにここにいるんだ。布団ババアをどうにかして藤沢を助けてやりたいからだろ。絶対に負けられない闘いがあるからだろ。絶対に許せない奴がいるからだろ。
 布団ババア。
 負けられない――いや、勝たなくちゃいけない。
 俺は絶対にお前を倒す!











「あ?」

 ぎぃゃぁぁぁぁぁぁっ!
 すいません、ごめんなさい、僕が間違ってました。
 布団ババア超怖ぇーっ!

「ふん、来たね」

 ジロリと俺を見た布団ババアは吐き捨てるように言うと、布団叩きを持ったまま俺へと近づいてくる。商店街でも有名人な布団ババアはその一挙手一投足が衆目を集め、その布団ババアと何やら関係がありそうな俺も注目されていく。もちろん、俺にそんなのを気にする余裕なんて無く、ただ、布団ババアを見るだけだった。いや、布団ババアから目を逸らすことが出来なかった。
 がしっと頭を掴まれる。そして近づいてくるババアの顔。
 え、待って。またなの?
 なんて考えている間にも近づいてくるババアの顔を俺は必死に抑える。相変わらずババアの力はものすごく、突っ張るようにしてババアを押し返そうとしたが、そんなの関係ねえとばかりにどんどんババアの顔が近づいてくる。
 途端に気分が悪くなった。
 胸がむかついてきて、胃液が遡ってくる不快さと目の前がぐるぐると回っていく感覚。あの日と同じ感覚。あの日初めてババアの世界へといった時の感覚が甦ってくる。
 そして、もう視界がババアで埋め尽くされるほどにどアップになった時、いつもの相手の精神へと入り込む感覚が湧いてきた。


 やっぱりあれはババアの中へと入っていたのか。

 そう思った時、俺はあの田舎の川原にいた。


 前に見た時のままの光景。
 遠くでは鳥が鳴き、近くの木々からは蝉の声も聞こえる。涼やかなせせらぎを響かせる川では時折思い出したかのように魚が跳ねている。空を見上げれば青空に入道雲がわいていて爽やかすぎる田舎の風景だ。

 そして――

 ちらりとそちらへと目を向ける。この綺麗な田舎の風景でそこだけが澱んでいる。
 まるで不良グループのたまり場にあるトイレみたいに避けて通りたい空気がそこから滲み出ていた。
 前の時と同じく、そこからぴょこんとウサギが跳びだしてくる。前みたいに徐々にではなく、今度は一気に溢れかえった。

「ババアッ!!」

 激流。土石流のように川原を埋め尽くすウサギの洪水に押し流されまいと踏ん張りながら叫ぶ。

「ババアッ出てこいっ!!」
「いい度胸だねぇーっ!!」

 俺の叫びに答え、ババアの姿が現れる。そして、すぐにこの間のように巨大化を始めた。ぐんぐんと大きくなって雲を身体にまとわりつかせる。雲の代わりに太陽の光を遮り、巨大な影を川原に落とす。
 まるででいだらぼっちだ。シシガミ様か!
 全くデケェよっ!!

「このアタシに勝てるってええええ! 舐められたもんだねえええええ!」

 ビリビリと声を響かせて、ババアは足を持ち上げる。既に川原全体が影に落ちているのでわかりづらいが、その動きで次の行動が予測出来た。

「ふざけんなクソババアァァァァァッ!」

 慌ててその場から逃げ出す。精一杯走って、その足の範囲から飛び出した。次の瞬間、真後ろで物凄い轟音と衝撃が響いてくる。それに押されるようにして吹き飛ばされた俺はごろごろと川原に転げ回った。だけど、次の瞬間には体勢を立て直して走り出す。転がりながら、ババアの足が上がるのを見たからだ。
 ズドンズドンと際限なくババアの足が下ろされてくる。巨大な落石、いや、隕石のように降り注いでくるババアの足をぎりぎりのところで何とか避ける。
 まるで相手にならない。藤沢はまだ俺と同じサイズだったから、俺と同じ能力値だったから、戦いようもあった。あいつになくて俺にあるものがあったから勝てた。だけど、こんなでかい奴相手にどう戦えっていうんだ。蟻が一匹で象に挑むみたいなものだ。避けるだけで精一杯だ。

「ほら、勝てるものなら勝って見せろおおおおお!」

 世界中に響くババアの声。見ると、更に大きくなったババアがその上半身を溶かしている。解けたババアの身体は真っ黒なドロドロになって世界中に降り注ぐ。
 マジででいだらぼっちだろっ!!
 命を吸い取られるドロドロを避けて、俺は走っていく。
 頭は何処だ。頭を返さないと! って、最初に溶けてただろっ!
 そんなバカなことを考えているうちに、周囲をドロドロで取り囲まれてしまった。
 近くにあった岩の上へと駆け上がり、ドロドロを避けたが、それも時間の問題だ。上半身が溶け尽くしたババアの身体は下半身も溶け出し、周囲の田舎の風景を洪水で呑み込んでいく。見る見る間に真っ黒な泥だらけになる世界。世界を呑み尽くした真っ黒のドロドロは鉄砲水のように一気に俺も呑み込んでいった。

「ハハハハハハハハハハ!」

 世界を震わせるように――と言うか、世界そのものが震えてババアの声となす。耳で聞くとかそう言うレベルではなく、直接頭に叩き込まれるようにババアの声が響き渡るが、俺の意識はそれが全く遠くの世界のことのように聞こえた。
 正直それどころではない。あの、自分が自分でなくなる感覚。美結を助ける時に入ってしまったあの更に上の世界のような感覚が莫大な情報の渦が俺のなかへと無理矢理詰め込まれていく。

「ああああああアアアアアア!!」

 訳もわからず声を上げた。がちがちと歯が鳴ってる。がくがくと足が震えて、この場から逃げ出したがっている。

 死ぬ――
 助けて――
 痛い――
 助けて――
 怖い――
 助けて――
 辛い――

 溢れ出す感情が俺の外から内から押し寄せてくる。
 壊れる――
 美結の時は自分で飛び込んだから、ぎりぎりのところで帰ってこれたが、今回は違う。ババアが俺を沈めたんだから、命綱もないし、身動きも取れない。膨大な感情、莫大な情報、激烈な奔流が俺の身体を押し流し、ドロドロの中へと押し沈めていく。

「アアアアアアアアアアアア!!」

 駄目だ。
 死ぬ。
 絶対死ぬ。
 やっぱり勝てるわけがなかったんだ。圧倒的すぎる。あの上の世界。ババアもあそこへと行っていたんだ。俺が数分と持たなかったあそこの力を行使出来るんだ。そんなの勝てるわけがない。

 ―――!

 やっぱり逃げ出せば良かったんだ。渡辺と三森、そして――を連れて。南の島でのハーレム生活をすれば良かったんだ。美結辺りが駄々を捏ねるだろうから、軽く叱って、一応願いは聞いてやる。俺は兄貴なんだから妹には甘かったりもするんだ。
 そんで、軽く美結の機嫌を取ってから、渡辺と濃厚なキスをして、三森に羞恥プレイをさせるんだ。渡辺のすげえ上手いキスも、羞恥に身を震わせる三森も俺をすげえ興奮させてくれる。渡辺と三森で一回ずつ抜いて、――とするんだ。

 ――て!

 あれ? ――って誰だっけ? 顔も朧気だし名前もでてこない。校内でトップクラスの美少女の渡辺と三森を前座にするくらいの美少女だっていうのに。何で名前が出て来ないんだ。
 大切なことを忘れている気がする。そもそも、俺はなんで布団ババアと戦っているんだ? バトルなんて必要ない。わざわざ危険に手を出さなければ俺はこんな目に合う事なんて無かったのに。君子危うきに近寄らずなんて言う諺だってあるって言うのに、俺は何だって布団ババアに闘いを挑んでいるんだ?

 ―けて!

 確かに布団ババアに呼び出された。だけど、そんなの無視することだって出来る。そもそもあの日、商店街で能力を引き出された後、二度と布団ババアに会っていない。ババアだって、俺はコンビニの店員くらいにしか知らないはずだ。だって言うのに、なんで俺は布団ババアに呼び出されて、あまつさえ、待ち合わせなんて出来たんだ?
 思い出せ。思い出すんだ。
 誰が俺にここの指定をしてきた――
 誰が俺に時間の指定をしてきた――
 誰が俺にババアの呼出を伝えた――

 助けて!

 藤沢――!
 聞こえた。確かに聞こえた。
 ババアの碌でもない行為のせいで苦しんでいる藤沢の声が。
 必死に完璧であろうとする藤沢の声が。
 助けを求める藤沢の声が。
 他の声、俺の声に埋もれてしまいそうな微かな、しかし確かな藤沢の悲鳴――
 そうだ、退くわけにはいかない。藤沢が見てるんだ。藤沢が助けを求めてるんだ。
 俺は藤沢を助けたい。
 俺はババアを許せない。
 俺はこの相手に負けられない。
 絶対に勝たなくちゃいけない。
 意識をしっかり持て。自分を見失うな。この渦は意識の集合体だ。気を抜くと一つにまとめられ、自己を見失う。境界が曖昧なためにすぐに混じり出す。自分と他人を明確にしろ。呑まれるな。
 これは人の意識。ババアに捕らえられ、混ぜられ、捏ねられ、膨大な形になった人の意思だ。あの上の世界で見たものと同じ。
 いや、
 あれとは勢いが違う。
 あれとは密度が違う。
 あれとは深さが違う。

 信じろ。自分を信じろ。自分の信じる自分を信じろ。

 俺はあの中から逃げ帰れた。
 俺はあの中から美結を見つけた。
 俺はあの中から美結を連れて帰れた。

 だったら、この中からだって藤沢を助けてみせる!

 俺は――
 絶対に――
 ババアに勝つ!

 ババアの世界に罅が入る。真っ黒のドロドロに包まれて、あの林も、川原も、青空も、田舎の風景は欠片も見えないが、俺は確かにババアの世界に罅が入ったのを見た。

「ババアァァァァァァァァァァッ!」

 まるでガラスが割れるようにババアの世界が割れ、そこから俺のペニスが飛び出してくる。巨大なペニスが次々と飛び出し、次々とババアの世界を破壊していく。ドロドロもガラスのように破壊され、真っ黒な破片が世界へと降り注いだ。

「このクソガキがアアアアアアアアアア!!」
「ハハハハハハハハハハッ! ババア、これで終わりだっ!」
「なめんじゃないよ。このクソガキがアアアアアア!!!」

 世界に響き渡るババアと俺の絶叫。勝負はこれからだ。藤沢とも戦ったがあれは結局、藤沢が俺の能力を利用していただけだ。だが、今回は違う。ババアも俺も覚醒者。互いに何が出てくるかわからない。どんな闘いになるか想像も付かない。
 だが、絶対に勝つ。絶対に負けられない。俺は勝って藤沢を助けてみせる!
 覚醒者同志の闘いが今、始まる!!









 そして、俺は長閑な風景を歩いていた。右手に林、左手に川原を眺めて山道を登っていく。林からは鳥の鳴き声が聞こえ、川ではぱちゃんと魚が跳ねる。道にはぴょんぴょんとウサギが跳ねて、はっきりと澄み渡った青空は傍らに真っ白な入道雲を控えさせ、眩い陽光を世界へと降り注がせていた。
 原風景と言うのだろうか。さわやかな風が吹いてくるこの光景を見ているととても心が癒される。その中を俺は進んでいく。何があるわけでもない自然の中だが、俺の感覚がこっちだと示している。やがて、山道すら外れて林の中、獣道へと分け入って行く。どんどん進んで行くにつれて、ウサギの数が増えていった。
 近いな。
 何となくそう思う。きっとこの近くにいる。身の丈くらいまでに伸びている草を分けて前へと進んでいく。何か気分が昂揚してきた。この先に探しているものがいるのかと思うと、すっげえ楽しみになって来た。
 ウサギの数が増えていく。草に視界を阻まれて見えないけれど、既に疎らなどではなく、辺り一帯に集っているであろう事が草を揺らす音から想像出来た。
 この先だ。
 そんな確信的な予感に押されて、足を出すと、草の中から抜け出した。
 草が途切れたそこはいきなり地面が露出していて、一気に草の生えない荒れ地がひろがっている。そこに数百匹、いや、数千匹ものウサギたちを従えている少女がいた。

「見〜つけた」
「見付かっちゃった」

 そう言って、ショートカットの美少女はあははと笑う。
 うおぉぉぉぉぉっ!
 やばい、超可愛い。ショートカットの髪型も、真っ白なタンクトップも、そこから伸びている小麦色の腕も、ギュッときつく紐が縛られた運動靴もタンクトップや短パンの下に隠されている慎ましい胸やお尻も何もかもが超可愛い。
 待て、これは孔明の罠だ!
 落ち着け、落ち着け俺。確かに目の前にいる彼女は超可愛い。流石に藤沢の家系だ。だが、目の前の彼女はあの布団ババアだ。よく考えろ、あの布団ババアなんだぞ。そうだ、あの布団ババアだ!
 危ねぇ、危うくババアにボッキする所だったぜ……

「あ〜あ、残念。やっぱりボクの負けか」
「ボクッ娘かよ!?」

 ババア! お前、この俺が五人の姉妹と占いでいちゃいちゃするゲームでは四女のボクッ娘が大好きだったと知っての狼藉か!
 完全にボッキした。もう完全にボッキしてしまった……
 いくらロリ状態だからって、ババアにボッキしちまったよ……
 ……もうだめだ。死のう。
 俺は四つん這いになってがっくりと項垂れる。ババアはそんな俺のことを気にしていないのか、何の変化もなく話を続けた。

「ま、最初からキミが勝ってたからね。しょうがないと言えばしょうがないか」

 え?
 ババア、今なんて言った?
 俺が顔を上げて、ババアを見ると、ロリッ子ババアは俺の顔を見て驚いたように目を丸くした。

「何、知らなかったの? ボクやキミのような能力者、いや、能力者は色々いるね、ボクやキミのような種類の能力は先に相手の心へと入った方が勝ちなんだよ。どんなに力が強かろうが関係ない。認識して固定するって事は支配するのと同じだからね。ボクも何人か同じような能力を持った相手を倒してきたんだけどね−。油断しちゃったよ」
「俺が……お前に勝ってた?」
「そ、残念だけどねー。要はボクを見つけられるか、られないかの勝負だったんだ。世界は固定されてもボクを見つけられなければ、勝てないけど負けにはならない。ボクを見つけて認識を固定した時点で勝負が決まるんだ。だから、隠れるためにこの子達も使ったのにね」

 そう言って、ロリッ子ババアは辺りに控えているウサギの群れを示す。
 地面を埋め尽くすほどにいる大量のウサギたちは一様に赤い眼をこちらへと向けていた。その瞳が助けを求めるように見え、俺はこのウサギたちの正体を理解した。

「このウサギ……」
「そ。キミが感じた通り。このウサギたちはボクが今まで集めた人の心さ。ボクはこの力に目覚めてから気に入る人、気に入らない人関係なく、見知った人間の心を削り取ってきたんだ。そうすればボクは落ち着けたし、ボクの力も強くなったしね。視界に移る人、片っ端から削り取っていったらこんな数になっちゃった」

 これ、全部がババアがその力を使った相手だって言うのか。昨日俺がやった学校支配なんて比じゃねえ。まるで町一つの人間全てを支配した様な数量だった。

「おいババア、こいつらを全部解放しろ。二度とこんな事をするな」
「? それはボクに命令してるの?」
「そうだよ。お前に命令してるんだ。絶対にもうこんな事するな」
「そうだねぇ、ボクはキミに負けちゃったことだし、やっぱり従わないといけないのかなぁ?」
「従う従わないじゃない。そんな事関係ない。お前も能力者ならわかるだろ。お前は俺の命令を拒絶出来ないんだよ」
「そっか、そうだよね……」

 ロリッ子ババアははぁと俯いて溜息を吐く。そして、近くにいたウサギを一匹拾い上げて立ち上がる。そのウサギを一撫で、二撫でして俺へと視線を戻した。

「だが断る」
「なっ……お、俺の命令を拒絶……だと……?」

 そんなバカな。目の前にいるロリッ子ババアはさっき相手にしていたでいだらぼっちとは違う。ババアの無防備で無垢な心のはずだ。無防備な心は疑うことを知らないから俺のどんな言葉でも受け入れるはずだ。だと言うのに、ババアはそれを断りやがった。お前のもっとも好きなことの一つは自分で強いと思ってる奴に「NO」と断ってやることか!
 俺の驚愕を尻目にロリッ子ババアはしたり顔を向けて来た。

「そう、ボクはキミの言う事を断れる。キミの言う通りにしてあげても良いけど、それには条件がある」
「条件?」
「うん。そもそも、ボクは最初に君と会った時にボクじゃキミに勝てないことに気付いていたんだ。綾音を使って呼び出したのも、キミと話がしたかったからなんだ」
「話? だったら、最初からそう言えばよかったんだ。つーか、わざわざこんな所に来る必要だって無いだろ?」
「キミはボクが現実世界で話がしたいって言ってきてくれた? 来ないでしょ? 来たとしてもボクの話を信じてくれた? ここならキミだってボクの話を聞いてくれるし、信じてくれるでしょ?」

 確かに。
 現実世界ではババアになんて近寄ろうとも思わなかったし、能力に目覚めた後とは言え、婆の話を全部鵜呑みにするなんて絶対にないだろう。そうなると、このババアの世界での話し合いは正解に思える。だが、ババアの条件ってなんだ?

「キミもこの上の世界を見たんでしょ。あの集合無意識の世界を」
「ああ」

 あまり思い出したくないあの感覚。あの俺が俺じゃなくなるような感覚を思い出す。あそこは人のいていい世界じゃない。いやあんな所にいられる奴は人間じゃない。

「でもね、ボク達の精神、形而上の世界はあの集合無意識の世界で終わりじゃないんだ。あれもまた、別世界への入口に過ぎないんだよ」

 何……だと……!?
 あのとんでもない世界。ものの十分で廃人になってしまいそうなあの意識の奔流の先がまだあるって言うのか?
 俺は眼を見開いてロリッ子ババアをみる。ババアはそんな俺の視線を受け、こくりと頷いて先を続けた。

「次に待っているのはね、快楽と恐怖の世界。どんな願望もそこでは即座に叶うんだ。そして、あらゆる快楽が押し寄せてくる。でもね、人はそれに心から溺れることが出来ないんだ。有り余る快楽は人の心に不安を生むんだよ。自分がこんなに幸せで良いのか、どこかに落とし穴があるんじゃないかってね。そして、人は終わりを求める。それもまた、人の願望なんだよ。でも、そこで一瞬でも不安に囚われれば、今度はあらゆる恐怖と死となって、その世界は襲ってくる」

 そこでババアは言葉を切って、俺からも視線を外した。
 その時のことを思い出しているのだろうか、ババアはぎゅっと自分の身体を抱きしめ、ブルブルと震える体で何かに耐えるようにして言葉を紡ぐ。

「ボクは……ボクはそこで何度も死を体験し、苦しみ、快楽に救いを求めて、そしてまた不安を感じ死を体験した。何度も何度も繰り返し打ち寄せてくる快楽と死の波に押し流されて抜け出せなくなった……」

 ギュッと目を瞑り、ギリッと歯を食いしばる。ブルブルと震えて、身体を縮こまらせるその姿はあの布団ババアだとは思えなかった。

「天国と地獄は同じ場所にあるんだ。そこは生ある人間の行ってはいけない場所だったんだよ。そんな事に気付かずに行ってしまったボクはそこで、こんな人になってしまった」

 おもむろにロリッ子ババアは自分の髪へと手を掛ける。ギュッと髪の毛を掴んだかと思うと、ポスターでも剥ぐように乱暴にその手を下に引いた。

「……っ」

 何……だよ……それ。
 息を呑む。
 カツラのようにずるりと動いた髪の毛の下から出てきた顔は半分、何もなかった。のっぺらぼうとかそう言うことではなく、輪郭から何もないのだ。まるでそこを抉られたようにババアの頭から首までの半分が欠落していて何もない。その断面も血が出てるとか内部の構造が露出しているとかではなく、そこが境界面だというように真っ赤な膜みたいな物が中を隠していた。

「これが、ボクの本当の姿。人が行ってはいけない場所に行ってしまった代償だよ。でもね、本当に怖いのはそれでもまだ終わりじゃなかったって言う事だよ。ボクがこんなになってしまった、人が行ってはいけない世界でもまだ次の世界への入口に過ぎないんだ。世界はもっと先に続いている。ボク達は世界というものの入口の入口にようやく立っただけなんだ」

 そこまで言って、ロリッ子ババアは自分の頭を元に戻す。頭半分抉れた姿からスポーティな美少女に戻ったババアは真剣な眼で俺を見つめた。

「その向こう側へ、ボクの代わりに行くんだ。キミのそのバカみたいに速い能力で世界を突き抜けろ。そして、ボクの代わりに探してくるんだ。本物の天国を。このクソみたいな現実をぶっ壊せる世界を。ボクのつぶれた頭を埋める何かを。それが条件だ」

 そんなロリッ子ババアの声を聞きながら、俺は違う光景を見ていた。視界が半分遮られ、片方は正面のロリッ子ババアを。もう片方は河原の汚い小屋を移していた。
 これはババアの過去か?
 さっきの河原にあった物と同じような汚い小屋。こっちも同じく河原の近くに建てられている。いや、ババアの世界の方がこっちを元にしているんだろう。大まかには同じ、しかし細部は微妙に違うその河原の汚い小屋でババアが犯されていた。いや、現実のババアでも目の前のロリッ子ババアでもない。丁度、今の俺達くらい、藤沢ほどではないにしろ、渡辺や三森に匹敵するくらいの美少女がいかにも頭が悪いですと言っているような格好の男達に囲まれて穢されていた。
 そこにいるのは男達だけではない。同じように頭が悪いですと言っているような女達も混ざって、ザーメンや汚物に塗れている美少女ババアを笑いものにしていた。そんな事をされて、しかしババアは逆らうことが出来ない。なぜならババアは妾の子だから。リーダー格の少女はババアの父親の本妻の孫娘だから。母親は死に、リーダー格の少女の家に引き取られていたから。この辺りの大地主である父親は幾人もの妾を持っていて、その中の一人の娘であるババアを何とも思っていない。母親を亡くしたババアを世間体のため引き取りはしたが、その扱いは下女同然。義務教育は受けたが、高校には行かせてもらえず、労働力として扱われていた。炊事洗濯は当然のこと、家の掃除や果てには親子ほど年の離れている異母兄弟達や同い年くらいの甥達の夜伽までさせられていた。
 そんな扱いをされてなお綺麗に成長していくババアに嫉妬を憶えた女達は更に嫌がらせをする。言いがかりというレベルのいちゃもんを付けて、何度も同じ作業をさせる。気にくわないことがあったらぶん殴る。部屋を納屋へと移し、ないも同然の麻の布を寝具として押しつける。そして、ガラの悪い連中に犯させる。
 そんな青春時代を過ごし、ついにその日ババアの能力が発現した。ババアを犯していた男達が絶叫を上げたかと思うと、ぐりんと視線をリーダー格の少女に向けて一斉に襲いかかる。泣き叫ぶ少女。意味不明な叫び声を上げる男達。そして、その中でバカみたいに高笑いをする美少女ババア。
 そんなババアの過去を見て、ババアの世の中を憎む気持ちや現実から逃げたい気持ちが痛いほど伝わってきた。ババアは引き取られた家の人間を残らずぶち壊し、自分の居場所を無くしていた。
 そんなババアの気持ちがわからないでもない。俺だって、痛い高校デビューに失敗して、家では美結に疎まれ、あと一歩間違えれば引きこもりになっていた。この現実を、人間をひっくり返すような能力は、現実に、人間に耐えられない弱い人間達の心の叫びに違いない。きっと、この能力はそんな俺達にだけ目覚める能力なんだ。
 そんな事を考えて、ふと、ババアの話であることが気になった。

「でも、その快楽と恐怖の世界の更に向こう側なんて、本当にあるの? ババアだってその世界で苦しんだだけで見たわけじゃないっしょ?」

 ババアは俺の質問に真剣な眼で答える。

「見てないけどある。確かにあるんだ。ボクはあの快楽と恐怖の世界で男の子と出会った。天使みたいな男の子だ。彼は平気な顔で向こうから帰って来たんだよ。まだまだ向こうにも扉があるって言ってた。彼は友達を捜して一番向こうまで行って来たんだって。タイヨウっていう名前の男の子を捜してるって言ってた……ボクは彼に助けられて、こっちの世界に戻ってこれたんだ」

 あのとんでもない世界の向こう側が更にあるって? しかも、それもまだまだ入口に過ぎないって? そこへ行って来いっつうのか。でも、そんなとんでもない世界の向こう側まで言って来た奴がいるって? 平気な顔して戻ってきたって? だったら別に行く必要もねーだろ。

「だからあるんだ。間違いなく先はある。ボクの代わりに君が行け。そうしないと綾音は戻さない。早く行けよグズグズしないで……イテッ!?」

 なんか生意気になって来たロリッ子ババアにチョップを喰らわせてやる。たまに美結の奴にも喰らわせてやってるが、思いの外綺麗に入った。相当に痛かったのか、ロリッ子ババアはしゃがみ込んでチョップの当たった場所を抑えていた。
 そんなババアを見下ろしながら言ってやる。

「そんなの行く必要もねぇよ。行って戻ってきた奴がいるんだろ? そいつが戻ってきたって言うんなら、そこには大した天国はないんだろ。友達一人のために戻ってこれる程度の価値しかないんだから。つまり、一番楽しいのは現実。ここの後ろにある世界だよ」

 俺の言葉にしゃがみながら俺を見上げていたババアの表情に怒りが点る。やっぱり、可愛い子はどんな顔をしてても可愛いな。

「そんな訳無い。あんな所が一番な訳が無い」
「俺も知らないけど、でも、そう言うことなんだろ。実際に戻ってきた奴だっているんだし。てか、この一個先の世界でも死にそうだったのに、そんな先に行って戻って来れる自信ねーしな。俺はみんなのいるところに帰りたい」
「男の癖に探求心はないのかよ。このゆとりが!」
「ゆとり言う奴がゆとりだ、ブース!」

 大体にして、ゆとりも改善されてきてるんだぞ。授業数が多くなって困るが。七時間目って何だよ。

「じゃあ、この頭をどう穴埋めしてくれるの? ボクはここが欠けてる限り、ウサギ集めを止められない。綾音だってそのままだ」

 真剣な眼で見つめてくるロリッ子ババア。その眼を見つめ返して、俺は「はぁ」と息を吐いた。

「僕の能力をお食べ」

 愛と勇気が友達の子供のヒーローの真似をしてみた俺をロリッ子ババアは真顔でじっと見つめている。
 うけねーしっ。ってか、少しは反応返してくれよ。恥ずかしいだろ!
 顔が熱くなるを感じながら俺はゴホンと咳払いをして、改めてババアに言う。

「俺の余分な形而上能力をやるから、お前の欠けた場所を埋めろ。そうすりゃ、お前もまともに戻れるはずだろ。その代わり、もう能力を悪用はするな。他人を不幸にするなよ」

 俺の言葉にロリッ子ババアは呆然としていた。そして、すぐにその意味を理解する。

「それだと、キミは今の能力を失っちゃうけど、大丈夫なの?」
「大丈夫だよ。問題ない。確かにまあ、俺みたいな喪男は、この力なしじゃ二度と女と付き合えないんだろうけど、でも十分に楽しい数日だったよ。俺はもう誰も不幸にしたくない。あんな思いは沢山なんだ。こんな力はあって良いものじゃないんだ。だから頼む、頼むよババア……」

 ぎゅっと目を瞑り、俺は祈るように言葉を吐く。そして数秒、不意に頬に暖かい物が触れた。眼を開くと、ババアの手が俺の頬に触れていた。涙なんて流れてないのにそっと涙を拭うように親指を動かす。

「わかったよ。じゃあ、キミの能力を貰うね」
「ああ」

 俺は胸の辺りを軽く掴み、掴んだ物をババアへと差し出す。差し出した手の上で掴んだ何かは小さなウサギへと形を変える。それは俺の形而上の力だ。俺と同じようにババアは手を差し出す。俺のウサギはぴょんと跳ねて俺の手からロリッ子ババアの手へと移り、ババアはそれを愛おしそうに軽く撫でた。
 瞬間、世界にぶわっと強い風が吹く。その風は夏特有のじめっとした風ではなく、春風のようなからっとして暖かい、爽やかな風だった。その風に乗って周りの草や木に一斉に花が咲く。ロリッ子ババアはとても気持ちよさそうでとても安らかそうな顔で風を感じていた。
 ババアの眼が開く。その眼はとても優しく、俺を見つめた。

「……ボクの中がキミでいっぱいになった。キミの事が大好きになったよ」

 いやいやいや、何言ってんの? 確かに美少女だけど、お前ババアじゃん。あの布団ババアじゃん。現実に戻ったらあれじゃんよ。

「はぁ? ババアにそんな事言われても、キモいだけなんですけど」
「でも好き、凄い好き。ボクの全てをキミに捧げてもいい。この力は、これからはキミのためだけに使うって約束するよ」

 ロリッ子ババアはそう言うと、手の上の俺のウサギを後ろのウサギの群れへと放してやり、代わりに一匹のウサギを拾い上げた。そして、そのウサギに何やら耳打ちをする。
 ん? なにやってんだ?
 俺はその言葉を聞こうとしたが、その前にババアがウサギを放してしまう。ウサギはぴょんとババアの手から地面へと着地するとウサギの群れに紛れ込む。何となくそのウサギを追おうとした俺の進路をロリッ子ババアが塞いだ。
 ロリッ子ババアはニコニコと楽しそうな笑顔を向ける。そして、突然とんでもない事を言い出した。

「ねえ、キスしようよ」
「冗談じゃねえ。だからお前はババアじゃねーか。ババアとキスなんてできるかよ」
「確かにボクはおばさんかも知れない。でも、今のボクならそんな事関係ないよ。ほら、今のボクなら出来るでしょ?」

 そう言ってロリッ子ババアは眼を瞑って口を突き出す。その姿を見ながら俺はどうしようか悩んでしまった。

「むむ、そう言われると……」

 はっきり言ってロリッ子ババアは可愛い。現実はアレだが、ここではそうではない。ババアだってロリ少女なのだ。しかも、ただのロリ少女ではない。ババアはあの藤沢の母親なのだ。現実ではアレだが、ここでは超が付くほどの美少女だ。顔は小さいし、小麦色に焼けた肌も染み一つない。パーツの配置は藤沢と同じように黄金比と言えるくらいに完璧な配置。眼はくりくりっと大きく、鼻梁は綺麗に伸びている。そして、口は現実のアレから想像が出来ないくらいに小さく、唇は化粧も何もしていないのに鮮やかな赤をしている。そんな美少女が俺に向かって唇を突き出している。それだけでも十分すぎるほどだって言うのに、背が足らないので背伸びもしているのが更に可愛くて、しかもボクッ子だ。
 あのババアがここだとこんなに可愛い。
 だが、ババアだぞ。本当に良いのか?
 いや、何を悩むことがあるんだ。ババアも言ってるだろ。今のババアなら十分すぎることに可愛いんだ。
 よし、やってやる。据え膳食わぬは男の恥とも言うしな。
 俺は意を決すると、唇を突き出しているババアの顎にそっと手を添えると、俺も眼を閉じてロリッ子ババアの唇に唇を重ねる。その直前、眼を閉じる前に、ロリッ子ババアの周りのウサギたちが一斉に散っていくのを見た。そして、ふにっというババアの唇の感触が俺の唇から伝わってきた。
 静かなキス。ただ唇を重ねるだけのシンプルで子供っぽい、だけど爽やかなキス。
 唇を重ねて数十秒。美少女とのキスをたっぷりと感じていたんだけど、なにやら周りがうるさい。ざわざわと何かがざわめいている。風が草を擦らせているのかと思ったけど、何か様子がおかしい。
 なんなんだよ、まった……く……!?

「――――っ!?」

 目の前の光景を見たくなかった。
 目の前の光景を否定したかった。
 目の前の彼女を信じたくなかった。
 目の前の彼女を見た瞬間、俺の思考は数秒止まった。
 バ、ババアーーーーーーーーーーーーーーッ!!
 そう、俺の目の前にはロリッ子ババアなんていなかった。その幻想をぶち壊すように布団ババアが俺の唇を奪っていた。

「〜〜〜〜〜〜っ!!」

 ババアの顔を見た瞬間、自分がババアとキスしているのを認識した瞬間、気持ち悪さと嘔吐感が綯い交ぜになって込み上げてきた。突き飛ばすようにしてババアから離れた瞬間に、それは口から溢れでた。

「うぅえっ……え゛っ……えぅっ……おぇぇっ……」
「はははははははははははっ!!」
「ちょっ、な、なにしてるのっ!」

 俺のゲロを皮切りに辺りで一斉に声が飛び交う。それは高笑いだったり、悲鳴だったり、恐怖や嫌悪の声だったり、様々な声が絶叫のように大音響でこだました。だが、俺はそんな事を気にしている余裕なんてなく、どんどん込み上げてくる気持ち悪さに何度も何度もその場をゲロ塗れにしていく。

「ははははははははははははははっ!!」

 近くで聞こえていたババアの高笑いが徐々に遠ざかっていく。ゲロを吐きながら、何とかババアを見ると、ババアは自分のトレードマークとも言うべき布団叩きを放り投げて、商店街を悠々と歩いて行く。ババアの進行に合わせて商店街の人達の逃げ惑い、恐怖の渦を形作っていた。
 その光景を呆然と見ている俺の近くに人の気配を感じる。目の前じゃないのは俺の目の前は吐き出されたゲロが池を作っていたからだろう。見上げると、そこには藤沢がいた。
 藤沢……可愛いよ、藤沢……
 まさに地獄に舞い降りた天使。こんなにも汚れてしまった俺は藤沢によって浄化されてしまうに違いない。そんなさっき見たロリッ子ババアの上を行く美少女は何故か顔を赤くしていた。

「ド変態ッ!」

 藤沢はぎゅっと目を瞑り、ぷるぷると震えていたかと思うと、そう吐き捨てて、脱兎の如く走って行ってしまった。
 藤沢……待ってくれ……頼むから、俺を浄化していってくれぇ……俺は、俺はもう……だめ、だ……
 ただ一人、取り残された俺はついに力尽き、ごろんとその場に転がった。
 俺はショックで呆然としたまま商店街の真ん中に取り残され、その周りにはそろそろ夏だというのにとても冷たい風が延々と吹いていた。

 
 


 

 

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