悪魔の流儀

〜堕天使たちの挽歌〜


 

 



 ……ずっと、戦ってきた。
 物心がついたときには、もう戦い方を教えられていた。
 それから、どれだけの戦闘をこなし、どれだけの敵を倒してきたことか。
 仲間たちは言った、全ては世界のため、主のためだ、と。
 しかし、我が主はあまりに遠い存在で……。
 戦いの日々の中、時々、漠然とした不安に襲われて立ちすくみそうになる。
 本当は何かにすがっていたかった。
 私は、誰かに頼って生きていきたかったのかもしれない……。


第1話


 ――ここは、人間界、大門武彦の家
「ん……」
 朝、目を覚ますと、フニ、とした感触が顔に当たる。
「ん〜……」
 俺は、目の前のそれを、フニフニといじる。
「あ…んん…おはようございます、ご主人さまぁ……」
 梨央の甘ったるい声が聞こえる。
 ……昨日の晩はこいつが相手だったな。
「ん……いいんですよ、ご主人様、もっと梨央のおっぱい触っても」
 そう言うと、梨央はぐいぐいと俺の方に胸を押しつけてくる。
 ……これじゃ、触ると言うか、埋もれる、だ。
 うちのファミリーで最年少ながら、最大の巨乳を誇る梨央。
 もう二十歳を越えたというのに、そのガキっぽい見かけも性格も相変わらずだ。
 しかし、胸には栄養がいくのか、もとからでかい乳が、ますます大きくなっている。
「ぶっ!ぷはっ!こ、こら梨央!苦しい!」
 俺の顔を塞ぐ巨大なマシュマロのような物体を、ムニュ、と押しのける。
「ああん!ご主人さまぁ!」
 それだけで、甘い声をあげて喘ぐ梨央。
 しかし、俺は、こいつは甘やかさないと心に決めている。
「ほら、仕事行くから起きるぞ」
「でも、今日は日曜日ですよ」
 ……そうだった。
 まあ、会社での俺の仕事は問題が発生したときや、交渉が難航したときなどのイレギュラーなものが多いから、土、日でも仕事が入るときはあるが、基本的には週末は休みだ。
「だからぁ、朝のおつとめです。ご主人様」
「朝のおつとめってな、おまえ……」
「だってぇ、ご主人様のここ、こんなに大きくなってますよぉ」
 そう言うと、梨央は俺のモノを、ギュッ、と握る。
「あ、いや、これはだな、男は朝になるとこうなっているものでだな……」
「でもご主人様、こうすると、ホラ、もっと大きくなりますよ」
「あ!こら、やめろ!」
「でも、もったいないですよぉ〜」
「もったいないってどういう意味だよ!」
「ダメですか?ご主人さまぁ」
 ダメですか、とかいいながら、返事も待たずに俺の上に跨ってくるんじゃない。
「おい、梨央……」
「あ……んん!」
 俺の言葉には耳を貸さず、体を沈めて俺のモノを挿れる梨央。
 どこの世界に、ご主人様を逆レイプするメイドがいるんだ。
「ん……はああんっ!」
 ……結局、こうなるのか。



「ねえ、武彦さん、せっかくのいいお天気ですから、今日はみんなでおでかけでもしませんか?」
 みんなでテーブルを囲んでの朝食の後、幸が提案する。
「ハイ!賛成です!奥様!」
 さっそく手を挙げて賛成する梨央。
「駅北口に新しくできたタワービルなんかどうかしら」
「ああ、それはよろしいですね、奥様。あそこは、日本初進出のブランドや有名レストランの支店も入っていて、すごい人気らしいですよ」
 朝食の後片付けをしながら、メイド姿の冴子も話に入ってくる。
「駅北口のタワービルって、たしか……?」
「はい、我が社が中心になって開発したものです」
 秘書モードで答える薫。
「あら、そうだったかしら?」
 いや、いちおうおまえの実家で、旦那が重役の会社のことだから知っておいてくれよ、幸。
「あ!じゃあ!なにか割引とかサービスとかあるんですか、ご主人様!?」
 セコい話をせんでくれ、充分贅沢に暮らせるだけの稼ぎはあるはずだぞ、俺。
「まあ、梨央ちゃんったら」
 幸が笑いながら梨央の頭をポンポンと叩く。
「ほらほら、早く片付けを済ませて、冴子も梨央も着替えてこい、出かけるのにメイド服じゃなんだろう」
「はーい!」
 元気良く返事をして、梨央が冴子を手伝いにキッチンの方に行く。
「では、車を出しましょうか、局長?」
 普段、俺の運転手も兼ねている薫が尋ねてくる。
「いや、天気もいいし、今の季節ならみんなで歩いていってもいいだろう。あの辺りは道路も混むし、案外車止める場所少ないしな」
「わかりました」
「それより、おまえたちも出かける準備をしてこい」
「はい」
 俺は、薫と幸が、それぞれの部屋に戻るのを見送る。
 それは、いつもと変わりのない、大門家の休日の光景のはずだった。



「ご主人さま〜!奥様も!はやくはやく!」
 梨央が、向こうの方で飛び跳ねながら手を振る。
 梨央のいでたちは、黒いミニスカートに、リボンとフリルの付いたブラウス……なんか、メイド服の時とあんまり印象変わらんが……。 
「なんか、えらいはしゃいでるな、あいつ」
「そうですね、最近、武彦さんのお仕事が忙しかったですものね」
 水色のワンピースに白い日傘をさした幸が、俺の方を見て微笑む……いつの時代のお嬢様の格好だよ、それ。
 それはともかく……別に幸に悪気はないんだろうけど……すいませんね、家族サービスのできないご主人様で。
「それにしても、本当にいいお天気ですね、旦那様」
「ええ、いい息抜きになります、局長」
 俺たちの少し前を歩く冴子と薫も笑顔で振り向く。
 冴子は濃紺のロングパンツに、白のチュニック。
 薫はカーキ色ののカーゴパンツにサンダル、Tシャツの上からチェックのシャツを羽織っている。
 うんうん、ふたりともスラッとしていて背も高いからこんな格好がよく似合うな。
 ていうか、ショートヘアの薫がそんな格好してると、なんかカップルみたいだぞ……。
 俺が、完全にオヤジ目線で、うちの下僕たちを眺めていると、
「ご主人さま〜!せっかくだし、公園の中を通っていきましょうよ〜!」
 先を歩く梨央が、駅近くの大きな公園の入り口を指さしている。
 何がせっかくなんだか……まあ、散歩には丁度いいか。
 そういえば……ディー・フォンの実験で、はじめて冴子を堕としたのはこの公園だったよな……。
 それだけじゃない、幸を堕としたのも、薫を堕としたのも……。
 ん?なんだ、梨央以外、みんなここで堕としてたんじゃないか。
 俺が、昔のことを思い出して、感慨にふけっていた時。

 ――ガサァッ!ドサッ!
 茂みの向こう側からなにか、何人かの人間が争うような物音がした。
「きゃ!」
 その物音に混じって女の悲鳴のような声が聞こえる。
「ほらぁ!早く捕まえるんだよっ!」
 今度は、男の怒鳴り声。
 なんだ?あっちの方はほとんど人の行かないところだぞ?
「あ!武彦さん!」
「ちょっとそこで待ってろ!」
 追いかけて来ようとする幸たちを制して、茂みの向こう側を覗く。
 そこで俺が見たのは……。

 携帯を持った男と、6人の女たち。
 しかも、女たちの格好は、メイド、セーラー服、巫女……何のコスプレだ?
 その中にひとり、一際目立つ、長い白銀の髪の女がめまぐるしく動き……。
「ハッ!」
「きゃう!」
 銀髪の女は、他の5人の女を確実にひとり、またひとりと倒していく。
 ……あの動き、ただ者じゃない。
 しかし、一度倒されたはずの女たちは、すぐにまた立ち上がってくる。
 よく見ると、女が倒れるたびに、男がなにやら携帯を操作している。
 ……あれは!
 しかも、倒れた女が立ち上がるたびに、格好が変わっている。
 ……間違いない、あれはディー・フォンだ!
 たとえ気を失っても、シチュエーションを変えると意識が戻る、それを利用しているのか。
 しかし、銀髪の女は休みなく動き回り、コスプレ女たちをひとりずつ倒していく。
 あの女、ディー・フォンのレンズで捉えられないようにしているのか!?
 ……いや、単にコスプレ女たちの攻撃をかわしているだけかもしれない。
 俺が見ていると、銀髪の女は、腰から何か棒のような物を引き抜き、
「わっ!」
「きゃ!」
 コスプレ女たちを次々と倒していく。
 速い!これならディー・フォンの操作も追いつけないか!
 その時!
「くそう!なんなんだよ!」
 男が悲鳴のような声をあげて、ディー・フォンを操作する。
 すると……。
 ――ガシャ。
 コスプレ女たちの格好が一斉に迷彩服になり、マシンガンを構える。
 なんてアプリ作ってんだよ!マシンガンって!倍紋あたりのアイデアか!?
 さすがに、5つのマシンガンを向けられて、銀髪の女の動きが止まる。
 ……まずいな、これは。
 男は、勝ち誇った表情でゆっくりとディー・フォンを銀髪の女に向けていく。
 別に、助ける義理はないけど、ここまで見てて放ってはおけないよな……。
 しかし、ここからじゃ距離がありすぎるぞ。
 なんか手はないか…………。
 ……はぁ、しかたない、あれを使うか。
 腹をくくって、俺は掌に魔力を集める。
 もう、悪魔の力を使うことはないと思っていたが、ここで見捨てるのも寝覚めが悪い。
 ――ボウッ……。
 俺の手から、オレンジほどの大きさの魔力の弾が浮かび上がる。
 まあ、悪魔なら誰でもできる基本的な技だ。
 中級悪魔の俺じゃ、この大きさが関の山だが……それでも、人間相手には充分だろう。
 ……とりあえず、あのマシンガン軍団はやっかいだ。
 俺は、男のディー・フォンを狙って弾を放つ。
 ――カシャンッ!
 狙いは外さず命中し、地面に落ちた男のディー・フォンが砕け散る。
 それと同時に、女たちのコスプレが解除され、そのまま全員気を失う。
「あ……」
 砕けたディー・フォンを見て、呆然と立ちつくす男。
「このッ!」
「ぐはっ!」
 俺は、一気に男に駆け寄り、顔面を蹴り飛ばす。
「もう一丁!」
「がはぁ!」
 仰向けに倒れた男のみぞおちに思い切り突きを入れると、男は泡を吹いて気を失う。
「何をボサッとしてるんだよ!逃げるぞ!」
「え!?」
 俺は、展開について来れず、俺が男を倒すのを見ていた銀髪の女の手をつかんで走り出す。
 アプリのシチュエーションが解けたのは見てわかるが、ディー・フォンが破壊された場合、登録された女の洗脳が解除されるかどうかは、正直俺にもわからない。
 とにかく、早く逃げた方が賢明だろう。
「あ!ご主人さま!」
「おまえらも来るんだっ!早く!」
「え!?た、武彦さん!?」
「いいから!」
 待ってろと言ったのに、茂みのはしに寄って来て、こっちを見ていた幸たちを急かす。


 どれだけ走っただろうか……もう大丈夫だと思えるところで俺は足を止める。
「ハァハァハァハァ……」
 ついてきたみんなも、すっかり息が上がっている。
「ハアァ〜……もう走れませんよ〜、ご主人さまぁ〜」
「……いったい、何があったんですか、武彦さん?」
「何か、喧嘩みたいな感じでしたよ、旦那さま」
 しばらく呼吸を整えた後で、みんな一斉に尋ねてくる。 
「ああ、ちょっとな、なんか面倒そうなことになってたから」
「それに、なにか、局長から光る物が飛んだように見えたんですが……?」
 訝しげな顔で俺を見る薫……ち、見られていたか。
「い、いや!俺、実は昔拳法やっててな!ホラ!気功法ってのがあるだろ!あれだよ、あれ!」
「……初耳ですが」
 ジト目で俺を見つめる薫。
「そういえば、私も聞いたことないわね……冴子さんは?」
「私も初耳です」
 くそ、大人組はなかなかごまかされないな……。
「わー!すごいです!ご主人様!そんなこともできるんですね!」
 ……こいつはなんでも信じてくれるから楽だ。
 などと、俺がうちのファミリーの対応に追われていると。
「……あの」
 後ろから、クイ、と手を引っ張られる。
 ……そういや、もうひとりいたのを忘れていた。
「あ、ええっと……日本語わかるのか?」
「はい、日本人ですから……」
 そんな銀髪の日本人がどこにいるんだ?
「……あの、私、助けてもらったんですよね?」
 俺を見上げるその顔は大人びても見えるし、少女のような雰囲気もある。
 その白銀の髪といい、不思議な感じのする子だ。
「うん、まあ、そういうことになるな」
「あ、ありがとうございます。私、大神綾(おおが あや)といいます」
「おう、俺は大門武彦。で、こっちにいるのが、うちのヨメと使用人たち。まあ、みんな俺の家族みたいなもんだ。」
 俺がみんなを紹介すると、大神綾、と名乗る女の子は、そちらを向いて、ペコリ、と頭を下げる。
「それにしても、変な奴らに絡まれたもんだ」
「あの……日本ではこういうことがよくあるんですか?」
「……ん?日本では?」
「あ…私、ずっと外国にいて、日本に来たばっかりなんです」
「でも、さっき日本人だって……」
「ええ、両親とも、国籍は日本人です。ただ父方の祖母が北欧の人らしくて、そのせいか、私は生まれつきこんな髪なんです」
 ……いや、北欧だろうがどこだろうが、銀髪ってあまり聞かないぞ。
「ふ、ふうん、それで、日本に帰ってきて、いきなりあんな目にあったと?」
「はい」
「そりゃ災難だったな。まあ、あんな事は滅多にないとは思うから……。」
「それに、さっきの女の子たち……あれは、いったいどういう仕掛けなんですか?」
「いや〜、なんだろうな、あんなの俺も初めて見たよ、ハハハ……」
 とりあえず、笑ってごまかす……つうか、言えない、あれが悪魔のアイテムで、しかも、その開発に俺も関わってたなんて、絶対言えない。
「ところで、これから親御さんのところかどこかに?」
「親は…いません。母親は私が小さい頃に亡くなって……」
「あ、ご、ごめん……。まずいこと言ったかな……」
「いえ、それで、先日父が戦死して……頼れる身内も親戚もないんですけど、父の遺灰は母のところに埋めて上げたくて」
「はあ……て、戦死!?」
「ええ、父はこの業界では名前の知られた腕利きの傭兵でした」
「よ、傭兵……て、この業界では?」
「私も、父について、ずっと傭兵をしてきましたから……」
「はあーッ!?」
 あまりに現実離れした、突拍子もない話に、俺がポカンとしていると。
「あのう……ずっとここで立ち話をするのもなんですから、一度家に戻りましょうか?ね、大神…綾さんでしたっけ?あなたもどうですか?」
 幸が横から話に入ってくる。
「あ…でも……」
「いいんですよ、話を聞けば、行くあてもないみたいですし、うちはかまいませんから。ね、武彦さん?」
「あ、うん、そうだな」


 ……で、ここは俺の家。
「はい、お茶をどうぞ」
「あ、ありがとうございます」
 冴子と梨央が淹れたお茶がテーブルに並ぶ。
「ええっと、どこまでお話ししましたっけ……」
 そう言って、口を開いた、彼女の身の上話は、にわかには信じがたいものだった。


 私の父親が傭兵だったのはお話ししましたよね。
 父は、元々自衛官だったそうです。
 その頃に、母と結婚して私が生まれました。
 私が生まれてすぐに父は退官して、傭兵になりました。
 だから、私は傭兵の父しか知らないんですけど、傭兵になってからは、世界中飛び回っていて、家には滅多に帰ってきませんでした。
 でも、たまに帰ってきたら、女の子の私にナイフの使い方や、格闘技を教えたりして、今考えると変な父親だったと思います。
 そして、私が11歳の時に母が死んで……、その後、父は私を連れてアメリカに渡りました。
 それからしばらくは、父は仕事を抑えて、私を育てるのに専念しました。
 もっとも、教えられたのは、専ら戦闘の技術ですけど……。
 でも、父は学もあったので、世間に出て困らないくらいの勉強も教えてくれました。
 そして、私がひと通りの訓練をこなすようになると、父は、私を連れて傭兵稼業に出るようになりました。
 それからは、世界各地の紛争地を回り、ずっと戦場で暮らしてきました。
 父は、傭兵としての名前も知られて、ひとつの部隊を任されることも多かったですし、私もそんな父を補佐してきました。
 それが……父が亡くなって、ぽっかりと心に穴があいたような気がしたんです。
 それまでは、私もいっぱしの傭兵として、ひとりでも充分にやれる自信はあったのに、なんだか、足がすくむような感じがして……。
 父の遺灰を埋めに来たっていうのは、きっと、ただの口実にすぎないのはわかっているんです。
 今まで頼ってきた父を失って、戦場にいるのが怖くなったんです。
 だから、母が死んでから一度も戻っていないこの国に、頼るあてもないのに帰ってきたんです。
 そうしたら、あんな目にあって……そして、大門さんに助けられたんです。


 これが、彼女の話した全てだった。
 ていうか、そんな話、簡単に信じられるか!?
 しかし、さっきの戦闘で見せた彼女の身のこなしを考えると、そんな話でもないと説明がつかないものもある。
「ふーむ……」
 俺が、腕を組んで考え込んでいると、幸が口を開いた。
「それで、大神さんは、これからどうなさるんですか?」
「どうするといっても……日本には親戚もいませんし……私は戦うことしか生きる術は知りませんから……」
「それでは、また傭兵に?」
「今はまだ……さいわい、傭兵として稼いだ貯金が多少ありますから……」
「じゃあ、しばらくの間、ここで過ごしませんか?」
「え?」
「どのみち、行くあてはないのでしょう?」
「おい、幸……」
「いいじゃありませんか、武彦さん。こんな話を聞いて放っておけないでしょう?」
「あ、ああ……」
「それに、一番最初に大神さんを助けたのは武彦さんですよ」
 そりゃ、そうだが……。
「みんなはどうです?」
 なんか、すっかり幸に仕切られてるな……。
「奥様がそうおっしゃるのなら、私はかまいませんよ」
「梨央も、奥様とご主人様にお任せします!」
「薫ちゃんは?」
「え?み、幸がそう言うのなら私も賛成だよ……」
 幸のやつ……薫が幸に反対なんかできないのをわかってて、わざと訊いてやがる。
「じゃあ、決まりね。……大神さん、しばらくの間、ここにいらっしゃい」
「あ、あの、でも……」
「ああ、別に無理に引き留めはしないわ。それは、あなたの判断に任せます。でも、もし行くところがないのなら、やることが決まるまで、ここにいていいから。それで、その気になったらいつ出ていってくれてもいいのよ」
「本当に……いいんですか?」
 そう言うと、彼女は俺の方をうかがう。
「そうだな、子どものとき以来で、日本のこともよくわからないだろうし、実際に行くあてがないんなら、何かと大変だろう。ま、あそこで助けたのも何かの縁だ。俺もかまわないから、君さえよかったらしばらくうちにいたらどうだい?」
「それでは……お言葉に甘えさせてもらいます」

 それが、彼女、大神綾が大門家に転がり込んできた事の次第だった。


 ――その夜。
「ああんッ!武彦さん!」
 ベッドの上に四つ這いになって喘ぐ幸。
 俺は、バックから腰を突きいれる。
 今の幸と俺の関係だと、まあ、きっかけはどうあれ、健全な夫婦の営みだ。
 ただ、俺が挿れてるのはアナルの方だが……。
「あんッ!イイのッ!武彦さんのが!お尻の穴にっ!ズンズン来てっ!」
 幸を堕としたときに、ちょっとイタズラしたせいで、今では、1回は後ろでやらないと許してくれない。
「んん!はあっ!武彦さん!たけひこ!さあんんッ!」
 高ぶると俺の名前を連呼するのは相変わらずだ。
「く!いくぞ!幸!」
「ああっ!きてっ!武彦さんのっ!いっぱい!ちょ!ちょうだい!あああああっ!たけひこさああぁぁん!!」
 幸は、これまたいつも通り、俺の名を叫んでイってしまう。
「んんん……はぁ……ん…好きよ…武彦さん……」
 荒い息をしながらベッドに突っ伏す幸。
「……なあ、幸」
「なんですか、武彦さん?」
 俺は、幸の横に寝ころびながら、昼間思った疑問を口にする。
「どうして、あの大神って子を受け入れる気になったんだ?」
「だって、可哀想じゃないですか、あの子」
「そりゃあ、そうだが……。若い女の子がうちにいて気にならないのか?」
「フフッ…何を言ってるんですか、武彦さん。うちにはもう、薫ちゃんもいるし、冴子さんも梨央ちゃんもいるじゃないですか」
 たしかにな……。
 それにしても幸は、ここ数年でだいぶエロくもなったが、その一方で、他の奴らに妬くことがないような気がする。
 むしろ、戸籍上は俺の妻というのが、精神的な余裕を生んでいるのか、うちの女主人として家を切り盛りして、他の連中を気遣うようなところもある。
 まあ、俺としてはありがたいことなんだが。
「しかし、元傭兵だぞ?」
「あら、でも、気だては良さそうな子ですよ」
 うーん、なんて度量の広い奴だ。
 まあ、冴子も大人の女だから、そういうところは寛容だし、薫は半分幸が堕としたようなもんだし……やっぱり、一番ややこしいのは梨央だな……。
 それよりも、俺が気になっているのは、彼女、大神綾の経歴ではなくて、彼女自身だ。
 まあ、経歴も信じがたいものだが……あの銀髪、そして、ディー・フォンで撮られるのを避けるかのような動き……なにより、俺の眼鏡に何の反応もない。
 ……傭兵なんかやってると、そういった感情をコントロールできるようになるものなのか?いや、そもそも、そんなことで、この眼鏡をごまかせるのか?
 単に、俺のことなんか完全に意識してない……いや、あの状況でそれはあり得ないか。
 いったい……。
「ん……ちゅ…んふ…んん」
 寝ころんで、天井を見ながら考え込んでいた俺の下腹部に、突如快感が走る。
「う……み、幸?」
 見ると、幸が俺のモノにしゃぶりついている。
「んむ…ふん……あ、武彦さん、ほら、また大きく……」
 いや、そりゃおまえがしゃぶるからだろ。
「ね、武彦さん…今度は前の方で…」
 こんなにエッチになったのも俺のせいか?
「しようのない奴だな、幸」
「あ…武彦さん…」
 俺は、体を起こし、幸を抱きかかえる。
「ん……んんんッ!ああッ!た!武彦さん!」
 幸の甘い喘ぎが耳をくすぐる。

 ま、今あれこれ考えてもしかたないか。
 何かあったときは何かあったときだ……。

 
 


 

 

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