回路


 

 



 河川敷の土手、電車が川を渡るところが一番良く見渡せる位置まで来て、僕は腰を下ろした。手にはファミチキ。川向こうでは草野球の掛け声が響いている。僕が、湿った草の上に腰かけると、制服のズボンを通して生暖かい、雑草の湿り気が尻に伝わってきた。

「ふぅ・・・・。駄目でした。」

 陸橋をボーっと眺めながら、思わず独り言が漏れる。僕はファミチキのジューシーな脂と一緒に、失恋を噛みしめていた。

「七海ちゃん・・・。僕とは価値観が合わないと思うんだってさ・・・。ふぅ・・・。」

 電車が大きな音を立てて通り過ぎる。その金属音に紛れさせるようにして、僕は頭を掻きむしりながら、大声を出した。

「うわーっ、やっちゃったーーーー! 何の勝算もないのに、思わずコクって、玉砕しちゃったよーーーーーっ。クラスの笑いもんだこりゃーっ。」

 腹に力を入れて、電車が通り過ぎるまでの間に、精一杯大声を出す。溜まったものを吐き出すと、少しだけ気持ちが楽になった。ペプシを飲む。ファミチキをもう一齧りすると、ジュワッと口の中に塩気と油と鶏の味が溢れる。

 旨い。

 ファミチキもペプシも、僕を裏切らない。当分はコイツらを心の支えに、生きていけばいっか。

 そんなことを考えていると、後ろから不意に声をかけられた。

「一輝、失恋の痛みも、チキン食って忘れちゃうって? ・・・相変わらず、単純だよな。」

 ボソボソとつぶやくような、くぐもった声。よくこもる割に、妙に高い声だった。久しぶりに聞く、僕の兄貴分の声。

「シンニィ、聞いてたの? ・・・っていうか、いつからいたの?」

 僕が振り返ると、天然パーマがきつい、ポッチャリした大人の男が下っ腹をポリポリ? きながら僕を見ていた。

「最近、ネトゲにもログインしてこないし、フリマにも鑑賞会にも顔を出さないから、どうしたのかと思ったら、好きな子出来てたんだ。一輝。・・・青春だなぁ・・おい。」

 シンニィの声にはあまり感情がこもらない。青春だなぁ、とか、一回りも年下のオタ仲間をからかっていながらも、声からは羨ましそうなニュアンスすら感じ取れなかった。シンニィはいつも、何を考えているのか、良くわからない。もう30過ぎているはずだが、実家に籠って趣味の世界に生きている。妹尾晋平というのが彼の名前。「シンニィ」というアダ名の由来は「兄ちゃん」ではなく、「ニート」だと、別のオタ仲間が言っていたことを思い出す。

「シンニィ・・・、聞いてたのかよ。はずいなぁ・・・。僕、色々作戦を練って、準備万端の状況で気持ちを伝えるはずだったのに、ついうっかり、コクっちゃったんだよね。」

 頭を掻きながら、僕が説明する。自分の鼻の頭が、少し赤くなっているのが見えた。

「クラスメイト?」

「ん・・・。うちのクラスの学級委員。勉強も出来るし、めちゃ美形なの。・・・でも、あっさり振られちゃったよ。」

 シンニィに訊かれるままに、僕は自分の心に秘めておくつもりだった失恋体験を、うっかりポロポロと答えてしまう。シンニィが、他人の恋愛話に興味を示すということも意外だった。三次元で生きてる女の子には、興味が無いと聞いていたからだ。

「何でふられたの? 一輝が馬鹿だから? オタクだから? 運動神経悪いから? ・・・顔?」

「いや・・・どれも、そうかもしれないけど・・・。七海ちゃんは、・・いや、・・・委員長の言うには、僕とじゃ価値観が合わないと思う・・・だってさ・・。・・・あれ、僕、今、シンニィにずいぶん悪口、言われてない?」

 シンニィの、よく感情がこもっていないような眼は、僕をジーッと射貫いていた。まるでモルモットを観察する、研究者みたいな目だ。とても恋バナを聞いている友達っていう雰囲気ではなかった。

「じゃあさ・・、一輝、その七海ちゃんっていう優等生の美少女。すっごくお前と気が合うようになったら、付き合えると思う?」

「いや・・・、それは、わかんない・・・。桂木さんは、僕と興味や趣味が合わないと思うからゴメンナサイって言ってきたんだけど、・・・もしかしたら、それも、僕を傷つけないように、言ってるだけかも・・・。」

 シンニィは無表情のまま、2回瞬きをする。

「へぇー。一輝もそれぐらいは、わかるんだ。・・・ちょっと意外。」

 だんだん馬鹿にされてる気がしてきて、僕は口を尖らせた。

「なんだよ、シンニィ。失恋直後の僕をからかってるんだったら、帰ってよ。いくら馬鹿だって、それくらい考えられるよ。」

 シンニィが腹をまた、ポリポリと掻いた。

「いや、ゴメン。別に一輝を痛ぶってるわけじゃないよ。・・・俺、前からお前の単純さには、一目置いてるんだよ。・・・俺の個人的な実験にも、付き合ってもらえたらって、ずっと考えてた。・・・ちょうどいいや・・・。その七海ちゃんって子と、すっごく気が合うようにしてみよっか? ・・・色々見えてくるものもあんでしょ、そっから。」

 シンニィが思わせぶりな話をする。七海ちゃんと気が合うようになる方法・・・。それは失恋直後のブロークンハートを微かに疼かせる、甘い撒き餌だった。シンニィが考えてることだから、どうせろくなことじゃぁないだろうけど、単細胞の僕は、思わず首をブンブンと縦に振っていた。

「商談成立だな・・・。ま・・・、ちょっと俺も様子見ながら、色々試してみっから、一輝も2、3日、様子を見ててよ。」

 癖の強い天然パーマの頭をポリポリ? きながら、僕の13歳上のオタク仲間が背中を向ける。Tシャツの背中には、丸坊主の男の子のデルフォルメされた絵と、『働いたら負けだと思ってる』というセリフが書かれていた。相変わらず、パンチの効いたファッションをしている。僕はこのオタ先輩の行き切った雰囲気に、実は密かな敬意を感じていたのだ。

「シンニィ・・・。一体、何する気? ・・・モテ講座でも開いてくれるのかな? ・・・でもシンニィは童貞で、彼女無し歴=年齢って聞いてたんだけど・・・。」

 ボンヤリとシンニィを見送った僕は、ファミチキが冷めかけていることに気がついて、慌てて残りを口に入れた。この土手に来る前の重い気持ちよりは、少し心が軽くなっていた。やっぱり、頼りにならないオタ仲間でも、話をするだけ気は楽になる。あるいは、僕は評判通りの馬鹿なのだった。

 家に帰って鏡の前に立つと、口の横にまだ、ファミチキの衣のカスが付いていた。道草して買い食いしていたことが母さんにバレないように、顔をゴシゴシ洗った。


。。。



 好きなアニメの録画を見て、12時過ぎにはベッドの中。携帯をちょっと弄っているうちに寝オチする。僕の至福のナイトライフだ。夢の中では、スペースオペラと中学の頃の思い出がゴッチャになっていた。シュールな夢・・・。その僕だけの夢の世界に、妙に違和感を感じさせる人影がウロウロし始める。

「・・・え・・・? ・・・シンニィ?」

 シンニィが夢に出てきたことは、確か前にもあったと思う。友達が多くない僕のことだ、シンニィみたいなキャラの立ったオタ仲間は、夢にも出てきてしまう。でも、今夜のシンニィは、他の夢の登場人物よりも、圧倒的な存在感がある。まるで藤子不二雄アニメに、劇画の人物が紛れ込んだような。物質感というか、重量感の違いがある。おまけにシンニィは僕の夢の中で、水色の作業服を着て、黄色いヘルメットを被っていた。完全ニートのシンニィには、あまりにもミスマッチな服装。何かのコスプレだろうか?

「・・・おうっ・・・。一輝。お前の夢の構造、やっぱりシンプルだな。作業もはかどるわ。」

「・・・って、何してんの? 俺の夢の中で・・・。もしかして、シンニィ、・・・僕の夢の一部じゃなくて、本物のシンニィが、入ってきてる・・・わけじゃないよね?」

 地図を握ったままの左手を挙げて、甲でオデコの汗を拭ったシンニィ。意味深な笑いを、ニヤッと浮かべた。

「なんだ、お前、馬鹿だけど勘がいいな。・・・今夜お前の深層意識に、回路作って、入力用のトランジスタ埋めっから、よろしくな。」

「・・・え・・・? ・・・何それ・・・、痛いの?」

 最初に聞くべき質問は、それじゃなかったかもしれない・・・。それでも僕は、夢の中で精一杯、自分の身に危害が与えられないように、無いアタマを絞って考えようとしていたんだ。

「痛みなんて感覚が及ぶ階層よりずっと下が設置場所だから、痛くは無いよ。・・・いや、俺も自分で試したことはないから、絶対とは言えないけど・・・。多分大丈夫だろ? ・・・少なくとも計算上はな。・・・ま、夢だから痛けりゃ覚めるかもしれないし、心配いらないんじゃね?」

 シンニィは、ニヤッと唇を傾けて、右手を突き出してポーズを取った。右手にはスパナが見える。腰には他にも色んなゴツイ工具がぶら下がってる。ドライバーや、半田ゴテ。バールにニッパー。どれも、僕を安心させてくれそうなアイテムでは無かった。

「いや・・・、多分大丈夫とか、言われても・・・。痛いのは、嫌だよ。」

「あのさ、俺、この後、お前の大好きな七海ちゅあんのところにも行って、出力回路、開かなきゃいけないから、こっちの作業はチャッチャと終わらせたいの。悪いけど、質問あったら、明日聞きに来てくれよ。お前は宇宙戦争の続きがあるんだろ? ・・・一旦、解散な。」

 作業服に身を包んだシンニィは、心なしかいつもよりも口調が荒っぽくて、働く大人の男みたいな雰囲気になっていた。シンニィも、気分が大きくなっているのかもしれない。僕が元クラスメイトを巻き込んだ宇宙戦争の途中だったことを思い出した時には、もう夢は別の場面へ進んでいた。僕は小さな戦闘用シャトルの窓から、シンニィを見る。シンニィはいつの間にか隕石みたいに小さな星の上に乗って、こちらに手を振りながら小さくなっていった。


「うーん・・・。ここらで、講和に持ち込むか・・・。」

 ピピピッ・・・ピピピッ・・・ピピピピピピピピ。

 僕が、寝言を口にしている自分に気が付きながら、ベッドから手を伸ばす。目覚まし時計のボタンを押すと、世界は朝になっていた。起き上がろうと腹筋を使って頭を枕から離すけれど、途中でまたダウンしてしまう。今朝はなんだか頭が重い。いつも朝には強い方なのに、僕は目覚まし時計をスヌーズモードにしたままで、ベッドで寝がえりをうつ。

「変な・・・夢、見たからかな? ・・・・頭が・・重くて・・・腫れぼったい・・・。シンニィに昨日、変なこと言われたから・・・、そのせいで夢に出たのかも・・・。変な夢だったな。」

 僕は自分の見ていた元のクラスメイトとの宇宙戦争の夢のシュールさは棚に上げて、シンニィが出てきたシーンの違和感だけを思い出していた。

(七海ちゃんの話とかしてたよな・・・。七海ちゃん・・・。どうせならシンニィより、七海ちゃんが夢に出てきてくれたら良かったのに・・・)

 とびきり美形の学級委員長。ちょっと勝気にツンと伸びた高い鼻と、聡明そうな目。整った顔立ちに、肩にかかるくらいの長さの綺麗な黒髪。クラスのリーダー。スーパー美少女七海ちゃん。布団の中で彼女のことを考えていると、さっきまでも朝立ち気味だった僕の股間は、すっかりハッスルしてしまっていた。

(僕・・・、七海ちゃんに昨日、フラれたんだよな・・・。早かった・・・。・・・そろそろ、良いかな?)

 僕がしょうもない迷いを感じながら、オズオズと下半身に手を伸ばす。実はこれまで、桂木七海学級委員長への恋心を自覚してから、ずっと彼女をオカズに自分を慰めるのは我慢してきたんだ。別に、ピュア男子を気取るわけじゃないけれど、何だか彼女をネタにオナニーするっていうのが、大切な片思いの相手を汚してしまうような気がして、気が引けていた。それでも、僕はフラれた・・・。こうなったら、多少の腹いせも兼ねて、七海ちゃんのことを想像しながらヌイちゃおうっ。

 冬のベッドの中で、モゾモゾしながら自分を慰める。掛け布団から手を伸ばしてティッシュを3枚引き抜くと、僕はパジャマのズボンとトランクスを膝まで下して、寝そべったままでセルフサービスに励んだ。



 少し切ないような快感の余韻にポーっと浸りながらも、僕はようやく体を起こす。ティッシュをさらに新しいティッシュで包んでゴミ箱へ。タンスのハンガーに吊るしていた制服に着替えて、下に降りる。1Fは兼業主婦の母さんと父さん、中学の部活がある弟が、慌ただしい朝の風景を繰り広げていた。

「カズキッ、トースト覚める前に食べてっ。」

「兄貴、ハンターハンター最終巻借りてくよっ。友達が読みたいって言ってるから。」

「カズキ。父さん、もう出るけれど、忘れ物するなよ。」

「ほいー・・・。」

 僕がまだボンヤリしたまま椅子に体をのっけて、トーストを齧り始める。志原家の朝はいつもバタバタしている。冬は身支度も多いし、布団から出にくいから、どうしてもこうなる。僕が数少ない友人たちから「いいヤツだけど、単細胞」って言われるのは、きっと遺伝のせいだと思った。


。。。


 ガラガラガラッ・・・ガンッ!

 教室の扉が勢い良く開かれる。勢いがつき過ぎて、大きな音がたってしまった。3分遅刻してHRに駆け込んだのは、僕だけじゃなかった。偶然2人の手が同時に扉の取っ手に手をかけて引っ張ったから、扉に勢いがつき過ぎたのだ。

「すみませんっ。」

「すみませんっ、遅刻ですっ。」

 弾む息を抑えながら、2人同時に頭を下げる。隣の聞き覚えのある声に、僕は思わず頭を下げながら横を向いてしまった。髪が顔にかかっているが、その色の白さと、美人オーラでわかる。うちの学級委員長だった。

「おう、志原はたまにあることとして・・・。桂木も仲良く一緒に遅刻か。桂木にしては、珍しいな。・・・どうした。何か事情があったか・・・。」

 僕もキョトンとしながら、隣の委員長の様子を伺ってしまう。七海ちゃんはまだ僕の横で、ハァハァと息を切らしていた。

「すみ・・・ま・・、せん。・・・事情が・・・。ありました・・・。はぁ・・・・。」

 少し俯き加減になって、髪の毛を手で弄る。いつもはハキハキとしている桂木七海の口調がどもって、モジモジとしている。顔は真っ赤になっていた。

「・・・ま・・・、色々ある・・・かもしらんが・・、遅刻はいかんぞ・・・。早く座りなさい。」

 僕は密かにガッツポーズを小さく取った。世にも珍しい、優等生七海ちゃんの遅刻と同じ日だったせいで、僕まで説教を免れたんだ。先生のあの感じ。七海ちゃんの事情を想像して、男性教師として、深追いしたくなくなったのかもしれない。朝からラッキーだった。


。。。



 授業中も、僕は朝、教室に入る瞬間を思い出して、うっとりと現実逃避していた。扉に同時に手をかけた、僕と七海ちゃん。偶然とは言え、クラスのアイドル、桂木七海と、手がくっつきそうなくらい接近したんだ。思い返すだけで幸せだった。

 って、よくよく考えると、僕は昨日、彼女にキッパリと振られていたんだ。やっぱり告白はもう少し様子を見てからしたほうが良かったのかもしれない。あんなに可愛い子と、もう普通に話すことは出来ないかもしれない。振られた直後にまた何度もこちらから話しかけたら、ストーカーかと思われるだろうし・・・。そう考えると悲しくなる。あんなに可愛い子・・・、つぶらな瞳で、僕の横で恥ずかしそうに遅刻を謝っていた。朝からシャワーを浴びていたのだろうか、石鹸っぽい、いい匂いがしていたなぁ・・・。

 悲しんだり、陶酔したり、授業中の僕は授業以外のことで色々と忙しい。それに、今日に限っては、委員長の七海ちゃんまで、先生に当てられた時に、きちんと答えられず、「ボーっとしてました、ごめんなさい」とか謝っていた。彼女みたいな優等生でも、授業中に他ごとを考えている時があるのだろうか・・・。


。。。



「・・・あの・・、志原君・・・。ちょっといいかな? ゴメンね。」

 休み時間中、ノートに宇宙船の落書きをしていた僕を、呼び止めたのはクラスのリーダーだった。

「・・・委員長? ・・・どうしたの?」

 僕は生唾を飲み込んで、背筋を伸ばす。子供っぽい落書きを、無意識のうちに隠していた。

「・・・ちょっと、最近、私、・・・もっと自分の興味の幅を広げた方が、成長出来るかと思って・・・。その・・・、志原君、SFとか・・・詳しいんだよね?」

 いつもは颯爽としている七海ちゃんの物腰が、今日は落ち着かない。視線をあちこちに飛ばして、明らかに迷いながら、僕に質問を投げかけてくれた。

 ・・・完全にSFオタク認定されてる・・・。でも、さっき夢見ていた、彼女とのお喋りが実現できて、僕は幸せだった。

「う・・・うん・・。その、スペースオペラとかは、夢に見るほど・・、好きだよ。」

「夢に・・・。あ・・、そっか・・・。そうなんだね・・・・。あはは。」

『夢』という言葉を聞いた瞬間、彼女の表情が曇った気がするけれど、それを取り繕うかのように、笑顔になった。百万ドル? ・・・円安が進んでいたって、95万ドルくらいは価値がありそうなスマイルだった。

「いや・・、その、SFっていっても、ジャンルは大きくて、僕が守備範囲としているのは正確には宇宙美少女モノなんだ。最近は『星間連絡船デミローン』っていうアニメにハマってて、そこに出てくるチュルルっていう操縦士が超可愛いんだ。」

「・・・そ・・そうなんだ・・・。」

 七海ちゃんの表情が複雑に変化する。こわばって一歩引いたように見えたけれど、少しずつ興味も掻き立てられているような・・・。そして今度はそのことを隠そうとしているような・・・。

「あ・・・あの、今度、DVD貸そうか? 1話目から見てみるといいよ。」

「う・・うん・・。あの・・・」

 七海ちゃんが物凄く迷ってキョロキョロしている。

「変なこと言って、ゴメンね。・・・最初からじゃなくていいから・・・、16話目が見たくて・・・さっきから、勉強に集中が出来ないの・・・。その、変なSF美少女アニメ。16話目を、出来れば今日、見せてもらえないかな? ・・・ゴメンね、変なお願いして・・。」

 七海ちゃんは、周りを気にしながら、僕の耳元に顔を近づけて、そう囁いた。彼女の息を感じて、僕の耳はゾクゾクして痙攣しそうになった。

「変な」アニメって言われた・・・。そのショックよりも、僕は彼女との急接近と、もう一つの偶然にドギマギしていた。

「え? ・・・16話? ・・・僕、昨日ちょうど15話目を見たところだよ。16話だったら、今日、帰ってから見ようって、さっきからずっと考えてたんだ・・・。偶然・・・だね・・・。ハハッ・・・。」

 喉が渇いて、声が上ずってしまっていた。

「・・・そっ・・・そう・・・なんだ・・・。16話目・・・。私も、・・・何だか、さっきから、見たくって、しょうがなくって・・・。・・・変だよね。1話も見たこと、無いのに・・・。」

「あの・・・。どうせなら、家で、一緒に見る?」

 お気に入りのアニメを、七海ちゃんと2人っきりで鑑賞したいっ! 僕が心の中で叫んでいてた。その思いに突き動かされて、昨日僕をフッたばかりの女の子を、無謀にも翌日、自宅に誘ってしまった。七海ちゃんは整った顔が歪むくらい、葛藤を全身で表してしまっていた。

「どうしよう・・・でも・・・、あの・・、ウン・・・。その、迷惑でなかったら・・・。私もSF美少女アニメの、16話目を見に伺ってもいい?」

 桂木七海ちゃんは、葛藤の末、まるで観念するかのように、僕の申し出を受け入れてくれた。

 心の中で、僕がガッツポーズ。なぜか、同時に七海ちゃんも小さく拳を握りしめていた。

 キーンコーンカーンコーン。

「・・・あ、いけないっ。古文の授業始まっちゃうっ。じゃ、あとでね。」

 あとでね・・・。超ハッピーな言葉。授業のチャイムに邪魔されたけれど、僕は、幸せだった。最高にワクワクしながら、七海ちゃんの華奢だけれどスタイルのいい後姿を見送る。なぜか、彼女の足取りも、小さくスキップをしてるみたいな、軽やかなステップだった。


。。。



 学級委員長、桂木七海ちゃんが僕の家にやってくるっ。僕はこの大事件の前に、大慌てで帰宅した。どうなっているんだろう。部屋の掃除を大至急始める。七海ちゃんは委員長のお仕事を終わらせてから、僕の伝えた住所を頼りに、あと30分もすればやってくる。片付けながら、携帯を手に取った。コール先は、シンニィだった。

「おう・・・一輝ね。・・・そろそろ電話してくる頃だと思ったよ。」

 絶対に準備していた、一度は言いたかったセリフに違いない。

「シンニィ・・・。昨日シンニィが言ってた話って、一部でも本当? ・・・っていうか、シンニィ、僕の夢の中に出てきた?」

「おう、ちゃんと覚えてるんだな・・・。メモメモ。・・・そうだよ。お前の夢の中に入って、そこから深層意識まで降りてって、回路を取り付ける工事したんだ。」

「だから『夢に入った』って、どうやって? あとその、『回路』って何? あと、」

「一気に色々質問すんなよ。・・・俺の部屋の床下に、俺だけの実験室があって、そこの通路から、色々なところに抜けられるようになってんの。お前、俺が一日の大半を家に引きこもって、ゲームだけしてると思うなよ。回路は・・回路だよ。難しいことお前に言っても、わかんないだろ? 簡単に言うと、お前の精神の一部に入力装置を入れたの。あと七海ちゃんっていう可愛い子ちゃんには、出力装置入れといた。これで、お前の感情とか欲求とか、うまくすると考えてることとかが、七海ちゃんにも伝播するようになってるの。」

「僕の気持ちを送信して、七海ちゃんが自動受信してるっていうこと?」

「ま、シンプルに言えばそうだな。・・・でも、実際はそれだけのことにも結構手がかかってるんだぞ。まず自分が自然に持つものでない感情や思いには違和感が出て抑え込もうとするのが人間の意識だから、それに負けないように、ブーストをかけてある。お前の思いを1.5倍から4倍までの間でブースターが倍増させて送ってるんだ。」

「ブースター・・・。それって・・・、彼女は僕以上に、僕の思いを感じてたりするの?」

「・・・ま、そういうことだ。フラれた相手だって言ってたから、拒絶反応に負けないようにしないとな・・・。あと、これはちょっと俺も自慢したいところなんだけど、単純感情じゃなくて、指向性欲求に現実的に対応出来るように、対象を持った欲求は主体・客体を反転させたりして出力するようにスイッチが機能してる。」

「うんうん・・・。全然わかなんない。」

 片付けをしていた僕の手は、完全に止まっていた。

「だろうな。・・・ええっと・・・。お前がサッカーやりたいと思う。そうすると、七海ちゃんも、お前以上にサッカーがしたくなる。結果、一緒にサッカーが出来る。ここまではわかるな?」

「うん。大丈夫。」

「サッカー始めたよ。七海ちゃんがボールを持った。お前は『七海ちゃんからパスをもらいたい』って思う。七海ちゃんは『私も七海ちゃんからパスをもらいたい』って思う。これだと、サッカーが進まないだろ?」

「・・・そうだね。」

「だから、お前が『七海ちゃんから僕にパスをしてもらいたい』って思うと、回路が対象にお前や七海ちゃんがいる思いだと判断して、『私、七海は一輝にパスを出してあげたい』っていう思いに変換したうえでブーストかけて出力してるんだよ。これは、言うほど簡単な構造じゃないぞ。この機能の開発に半年近くかかったんだから。」

「多分だけど・・・、そのスイッチ機能だけじゃなくて、夢に入るとか、感情を出力するとか、ブーストするとか、全部が今の科学を超越してるんじゃない?」

「おう。だんだん一輝もわかってきたじゃないか。俺も童貞のまま30過ぎると、世界のいろんな構造が見えたり弄れたりするようになってきたんだ。お前は俺の道は辿れないと思うけど、まぁ七海ちゃんと上手くやれ。・・・そろそろ来るだろ? それじゃぁな。」

 シンニィの部屋って、2階にあったよね。その床下の実験室って、一体、何のこと? そんな場所、実在するの? 僕が質問をしかけたところで・・・。

 ピンポーン。

 シンニィが一方的に喋って、電話を切ってしまう。それとほぼ同時に、家のチャイムがなった。まだ片付けが終わっていないことに気が付いて、軽いパニック。とりあえず要らないものは全部、弟の部屋に押し込んで、階段を降りて玄関に向かった。

 ドアを開けると、憧れの学級委員長はなぜか、ドアの前で息を切らしてグルグルとその場で回転するように駆けていた。

「い・・、いらっしゃい。・・・委員長、どうしたの?」

「ゴメンなさい・・・。急に、気持ちが落ち着かなくなって。バタバタしちゃった。・・・私、今朝から、変なのかも・・・。」

「とりあえず、入って・・・。」

 シンニィの言っていたことを思い出す。話がぶっ飛び過ぎていて、まだ信じた訳ではないけれど。もし、もしも、シンニィの言う通り、僕と七海ちゃんの深層意識というものが、不思議な回路で結びつけられているなら、僕が焦って片付けにバタバタしていた気分が、彼女にも伝わってしまったのかもしれない。僕は深呼吸をして、気持ちを落ち着けるようにしてみた。

 不思議な偶然の一致。礼儀正しく一礼して家に入り、僕の後ろから階段を上っていた七海ちゃんが、僕と同時に深呼吸をした気配。僕はかすかな希望を抱きながら、自分の部屋へ、初めて親戚以外の女の子を呼び入れた。

 学級委員長を部屋に待たせて、僕は1階のキッチンに降りる。今度は慌てたりパニくらないように、気持ちを落ち着けながら、お茶菓子の準備。オレンジジュースと、「うまい棒」8本しか買い置きが無かった。しょうがないから、お皿にうまい棒を並べて、2階に戻る。ドアを開けると、学年トップクラスの美少女。彼女が座布団の上に正座して、部屋の真ん中にいてくれるだけで、僕の部屋はすべてが違って見えた。幸せな部屋。

「ごめん・・・。こんなお菓子しか無いけど・・・。好きな味、選んで。」

「お構いなく・・・。ホントに急に、ゴメンね。」

 七海ちゃんが、緑の包装の「やさいサラダ味」に手を伸ばす。よく考えると、不思議な名前の味つけだ。僕は彼女の後で、赤い包装の「たこやき味」に手を伸ばす・・・と、急にやさいサラダから手を放した七海ちゃんが、僕と同時にたこやき味を掴んだ。

「あれ? ・・・ゴメン。・・・急に、こっちが、欲しくなって・・・。私、お行儀悪いよね。」

 七海ちゃんが、恐縮しながら手を膝の上に重ねる。ちょっとギクシャクした時間。

「いいよ。たこやき味、どうぞ。・・・本当は僕、『めんたい味』が一番のお気に入りなんんだけど、最初にめんたい味を食べちゃうと、匂いが強くて、他のうまい棒の味がわかんなくなっちゃうから。だから、たこやきにしようかと思っただけで。」

「え? ・・・私も、今、同じこと考えてた・・・。」

「そ・・そっか。・・・僕ら・・・、気が合うね・・・。アハハ・・・。違うか。」

 気が合うねと僕が言った瞬間、七海ちゃんの表情が、申し訳なさそうに曇る。昨日、彼女から、2人は合わなさそうだという理由で、交際をお断りされたばっかりだったことを思い出した。僕は本当に馬鹿だ。これじゃあまるで、嫌味を言っているみたいじゃないか。


「えーっと、DVDは・・・。」

 空気が重くなるのに耐え切れなくて、僕は彼女に背を向けて、DVDのセットを始める。本当にうちの学級委員長は、オタク向萌えアニメを16話目から見始めて、楽しんでくれたりするのだろうか? ・・・不安な気持ちを抱えながら、僕はトップ画面からPlay Allを選択して再生を始めた。


『星間連絡船デミローン』が始まるまでの緊張と不安感は、オープニングテーマが流れた瞬間に打ち消された。僕が大好きなオープニングテーマ。いつもは下手くそなダンスをしながら一緒に歌う歌。それを僕が聞いているうちに、隣の七海ちゃんは肩を揺らしてリズムを取っていた。いつもはもっと落ち着いている委員長が、知らないはずの歌を、薄っすらハミングして追いかけながら、体を右に左に動かして、ノッている。彼女は、僕と同じくらい・・・。いや、僕以上に、オープニングの歌を楽しんでくれていた。奇跡だった。

 悪徳銀河税関係員にデミローン号が襲われるシーンでは拳を振って憤慨する。病弱キャラの悲しい家族との思い出シーンでは、ボロボロと泣いてティッシュを沢山消費した。そして僕のお気に入りキャラ、猫耳星人のチュルルちゃんが登場すると、拍手で迎えて、テレビの画面に向かって、「可愛いーっ」と、僕と一緒に掛け声をかけてくれた。僕とツボが同じだったみたいで、コミカルなシーンでは一緒に笑い転げる。彼女はドタドタと踵で床を叩くぐらい、笑ってくれた。今回の事件が終盤近くのどんでん返しで一通りの解決に向かうころには、僕と七海ちゃんは、手を取り合って、一緒に飛び跳ねながら喜んでいた。番組が終わる。すると我に返ったのか、委員長は僕と固く握っていた手を離して、恥ずかしそうに両手をお膝の上で重ねた。

「ご・・ゴメン。・・・ちょっと、夢中になっちゃってて。」

「いや・・、楽しんでくれて、良かった。・・・中身がオタク向け過ぎるかと思って、心配してたんだ。」

「私も・・・、自分でも意外なほどハマっちゃって、びっくりしているの。・・・前は、こういうの、どちらかというと敬遠してたというか・・。私の視野にも入ってこなかったくらいなのに・・・。デミローン。私も乗りたいっ。チュルルちゃん、神可愛いっ。メカ設計、すっごいリアルッ。作画も神っ。」

 興奮気味に話しているセリフは、僕が以前、弟に説明してドン引きされていた内容と同じだった。・・・好きなものを一緒に楽しんで、感想を言い合う楽しみ。これを女の子と共有出来るなんて、僕の人生の中でも指折りの楽しい一時だった。

「明日、17話を見ようと思うんだ。僕、一気に全部見るんじゃなくて、一日一話ずつ、噛みしめて楽しむタイプだから。」

「うん。私も一緒のタイプ・・・なんだと思う・・かな? ・・・。もし、ご迷惑じゃなかったら、明日も、その、ここに遊びに来させてもらってもいい?」

 感動シーンで号泣してたせいで、七海ちゃんの目はまだ潤んでいて、瞼は赤くなっていた。その顔がまた可愛くて、なんというか男心をそそられる雰囲気で、僕は彼女のお願いを、何も考えずに受け入れていた。

「あれっ? でも、明日って、土曜日だよね。」

「・・・うん。一日、遊べるから・・・。その、志原君の知ってるアニメとか、マンガとか、映画とか、・・・もし良かったら、もっと教えてくれるかな?」

「う、うんっ。」

 僕は1回頷けば良いところを、焦って何回も頭を上下に振って、危うく脳震盪を起こしそうになった。僕に影響されたのか、七海ちゃんまで一緒に眩暈を感じて、座布団に座り込むほどだった。

 彼女が帰ってからも、僕の部屋には、清潔そうで優しい、いい匂いが残っていた。



。。。




 土曜日。僕は朝から落ち着かなかった。部屋はきちんと片付けた。お菓子は、うまい棒以外の、もうちょっと高級そうな洋菓子も準備した。準備は一通り整ったけれど、ドキドキが止まらない。

 父さんはゴルフ。母さんと弟が家にいる。2人は僕が女友達を家に呼ぶと聞いて、他の予定をキャンセルしたらしい。肉親ながら、アホ家族だ。ベッドに腰を下ろして、七海ちゃんのことを考える。

 今日初めて、私服姿の七海ちゃんと会えるんだ。正統派美少女の整った顔立ちと、スタイルのいい体。きっとどんな服でも似合うと思う。ワンピースで来るだろうか? 冬だから、コートも着てるはず。運動もそこそこ好きだったはずだから、カジュアルにジーンズで綺麗な足を見せてくれるかも・・・。いや、今時の女の子だから、意外と冬でもミニスカート? 年頃の女の子のデータが少ない僕は、貧困な想像力を精一杯張り巡らして、桂木七海のコーディネートを思い描いていた。それだけで、約束の10時は、簡単に過ぎていった。

 10時半を回る頃、僕が不安を覚え始めたあたりで、やっと玄関のチャイムが鳴ってくれた。僕が階段を降りるより先に、母さんがドアを開こうとダッシュ。なんでこんなところで、親子で競走しなきゃいけないんだ。僕より一足先に、ドアを開けて応対する母。いつもより半オクターブ高い声になっていた。

「まぁ〜。可愛らしいお嬢さん。・・・うちの一輝なんかに、もったいないわ〜。一輝、友達少ないの。仲良くして頂けると助かります。」

「いえ・・・あの、いつも志原君とはクラスメイトとして仲良くさせて頂いてます。今日は、お休みの日にお邪魔してしまって、すみません。」

 オバサンパワー全開になった母さんに、恐縮しながら赤くなっている、委員長。僕が間に入ろうとすると、リビングのドアの隙間から、覗き見している弟の顔が見えた。兄の友達の、予想を遥かに超えた美少女っぷりに、口をポカンと開けて、見とれている。これは、素直に嬉しい瞬間だ。

「あ・・・、七海ちゃん、いらっしゃい。上がってよ。」

「う・・・うん。遅くなってゴメンね。か、一輝君。」

 弟と母さんの前で、こんな可愛い女の子と下の名前で呼び合って見せられたら・・・。そう強く願って、思い切って口に出してみた。結果は大成功。こうなったら僕は、絶対に昨日よりも攻めるよ! ・・・今、七海ちゃんとしたいことは・・・。

「僕の部屋、こっちだよ。」

「あっ・・・。うんっ。ちょっと待って。」

 七海ちゃんは、スリッパを出した母さんにお辞儀をしながら、ちょっと俯いて動きを止めた。でもそのあとで肩をプルプル震わせたかと思うと、スリッパを履くや否や、一気に僕との距離を詰めてきたんだ。そして、赤くなった指先を僕に向かって伸ばす。

 ギュッ。

 僕たちは階段を上って僕の部屋までという、とっても短い距離を、固く手をつないで、肩を並べて歩いていった。母さんも弟も、顎が落ちるほど驚愕の顔になって、僕を見上げてる。特に弟の、僕を崇拝するようなあの顔。僕は笑いを? み殺して、部屋のドアを閉じた。

「遅くなって、本当にゴメンなさい。家を出ようとするところまでは、予定の時間通りだったのに、・・・急にその時に着ていた服が、違うような気がしちゃって、お部屋に戻って、着替えなおしていたの。それも何回も・・・。なんだか、次から次へと、違う服装になりたくなっちゃって・・・。いつもはこんなに優柔不断じゃないし、約束の時間はキチっと守るのに・・・。最近私、本当に変なの。」

 申し訳なさそうに謝りながら、七海ちゃんがチャコール色のピーコートを脱ぐ。僕はニンマリと、「そんなに謝らなくてもいいよ。僕のせいだもん。」と危うく、口に出しそうになった。七海ちゃんの服装を見て、僕のせいだったのだと、確信したからだ。

 七海ちゃんが何度も何度も着替えたくなって、結局遅刻しちゃった理由。それは僕がさっき、彼女がこんな服で、来たら、いや、こんな服もいいな、と妄想を繰り返したからだ。その証拠に、今の彼女の服はノースリーブの白いセーターに、チェックのプリーツスカート。僕が最後に、「こんな服装が最高かも」って思い浮かべた格好そのもの。季節感と女の子らしさと、何よりちょっとエッチな感じが出るくらいの露出度のベストバランスだった。タータンチェックのスカートが、特に短いのが目を引きつけて止まない。白い太ももが、眩しすぎるよ。

「・・・ちょっ・・・。そんなに、見ないで・・よ。スカート・・。やっぱり、短すぎるよね・・・。昔の、子供の頃のスカートしかなかったの。普段短いのって、はかないから・・・。どうして、今日に限って・・・。やだ・・・。」

 赤くなってスカートの裾を伸ばそうとしたり、顔を隠したりと忙しい七海ちゃん。モジモジと髪に手をやると、セーターの肩口から脇の下までしっかり見えた。二の腕までピンク色に染まっている。

「見ないほうがいいかな? ・・・ゴメンね、エチケットがわかんなくって。」

 僕が顔を背ける。でも、本心では、見たい見たい、見たい。七海ちゃんの、セクシーに攻めちゃった私服がもっとみたい。

「・・・あの・・・、ちょっと見るのは・・・その・・・いいよ・・・。」

「いいの?」

「やんっ。」

 目を皿のように見開いて、僕が振り返ると、その余りの形相にビックリした七海ちゃんが体を隠すように縮こまる。でも、少しずつ背筋を伸ばして、腕も胸元から下して体の横に伸ばしてくれる。スタイルのいい体が上から下までじっくり堪能できる状態だ。

「こんなの・・・変・・・だよね・・・。なんか・・・、志原君に見られたくて・・・仕方がないの・・・私、馬鹿みたい・・・。」

 顔を真っ赤にして、目を潤ませた学級委員長が、心底恥ずかしそうに、それでもちょっとだけ嬉しそうに、トコトコとその場で回転を始める。僕の前で露出度高めの服に身を包んで、じっくりとスレンダーな体を見せつけてくれる。

 今度、逆回転ターン。高速でお願いっ。

 僕が祈るように強くそう思うと、桂木七海ちゃんはピタッと足を止める。

「え・・・エイッ。」

 右足を軸にして、逆時計回りに勢いよくターン。プリーツの入った裾の短いスカートが、空気の抵抗を受けて、フワッと浮き上がる。白地の神聖な布地が僕の目に閃光のように突き刺さった。七海ちゃんのパンツが見えたっ。チラッと端だけじゃない。結構、しっかり見えた! ・・・今のところ、16年間生きてきた中での、僕の人生のハイライトです。

「わわっ・・・もうヤダッ・・・。なんでこんなこと、したくなっちゃうの?」

 七海ちゃんがスカートを押さえつけながら、内股の姿勢で床に座り込む。恥ずかしさで、消え入りそうな勢いだった。

 コンコンコン

「お母さんです。カルピスとお菓子持ってきたよー。」

 早い。息子と初めてのガールフレンドの様子が気になるのか、母さんが早速邪魔しに入ってきた。僕と七海ちゃんは、向かい合って床に座っていた状態から、慌てて立ち上がってテレビの方を向いて隣り合った。不自然な状態で立ち尽くしている2人。母さんは、じっくりと間を取りながら、ジュースとお菓子の載ったお盆を、僕の勉強机の上に置いて、「ごゆっくりどうぞ。何かあったら呼んでね」と馬鹿丁寧に言って、部屋を出て行った。その間、僕と七海ちゃんは、赤面しながら咳払いばかりしていた。


「し・・志原君っ。星間連絡船デミローンの17話を見ましょっ。私、昨日から、続きが楽しみだったの。」

「七海ちゃん。これから2人でいる時は、下の名前で呼び合おうよ。」

 僕は腹に力を入れるみたいにして願いをこめてみた。

「で・・でも、私、一輝君とはお付き合い出来ないっていったのに、一輝君って呼ぶようになったら、まるでお付き合いしてるみたいじゃない。」

 そう答えたあとで、七海ちゃんは狐につままれたように、キョトンとした表情になる。この優等生のキョトン顔もまた、可愛い。

「え? ・・・私いま、一輝君って言った? ・・・どうして・・・。」

「デミローンのDVDは見るけど、本編じゃなくて、まずはボーナストラックから見ようよ。チュルルちゃんがオープニングテーマを踊る、ダンストラックがついてるんだ。コアなファンはこの振付けを完コピ出来るよ。七海ちゃんもそうなろうよ。2人で完全に動きを揃えて踊れるようになったら、とっても楽しいから。」

「一輝君と? ・・・・う・・・うん・・・。わかった・・・。」

 少しだけ疑問を感じているような表情の七海ちゃんだったけれど、僕のありったけの願望を感じ取ったのか、受け入れてくれた。僕を一輝と呼ぶことも、もう抵抗を感じていないみたい。

 イントロが流れる。チュルルちゃん登場。

「チュルルちゃーんっ。うぅ〜。萌える〜。」

 色んな疑問を感じながら立ち尽くしていたはずの七海ちゃんも、チュルルがアップで出てくると、足をドタドタさせながら、萌え狂う。僕も全く同感だ。2人はこんなに趣味が合う。萌えポイントも完全一致だ。

『チュルルと銀河へ出航よっ。ワン、ツー、スリー。チュルリラーッ!』

 声優さんの鼻にかかったような可愛い声が響くと、僕も七海ちゃんもテレビの前で、チュルルと同じポーズ。左手は腰に、右手は斜め上を指差す。

「ヘイッ、ヘイッ、チュルリララーッ。クルッと回ってお尻をプリンッ。後ろのスケベにビンタ、ビンタ。ダーリン大好き、チュッ、チュッ、チューッ。」

 僕一人だったら、地獄絵図のような光景になっていると思うけれど、隣の天使ダンサーのおかげで、かなり中和されていると思う。アイドル顔負けの美少女が、元気一杯、弾けるようなダンスを披露してくれている。動きも僕と息がピッタリ。修練を積んできた僕に、ちゃんと付いてきてくれる。体の動きの指示ですら、僕が無心に動いている間は、回路を通ってシンクロされているみたいだ。

「クルッと回って、投げキッスー。・・・決めっ。」

 画面のチュルルちゃんが掛け声を入れながら動きを見せてくれる。その動きを懸命に追いかけながら、僕と七海ちゃんが投げキッスのポーズ。そして最後にキュートな決めポーズ。一人でやっている時は、曲の終了後に虚しい思いに襲われることもあった。けれど隣にこんなに綺麗なダンス仲間がいる今は、全然恥ずかしくなかった。真面目な優等生の桂木さんが、弾ける笑顔で元気一杯踊ってくれる姿を横から見ていると、こっちもどんどん楽しい気持ちになる。その気持ちがまた伝わるのか、委員長もどんどん弾けて、キレッキレのダンスを見せてくれる。もはやパンチラなんか、構っていられないようだった。パンチラ・・・。僕のスケベ心に、もう一つ火がついた。

「デミローンのテーマダンスはもうマスターしちゃった感じだね。・・・他には、深夜のバラエティ番組のダンスとかコピるのはどう?」

「・・・え? ・・ハァ・・・ハァ・これから17話を見るんじゃないの?」

 僕より激しく踊ってたからか、七海ちゃんは肩で息をしている。今の僕の興味はチュルル以上に、七海ちゃんだった。チュルル、ゴメン・・・・。シンニィ。僕はアニメも好きだけど、今は三次元のスーパー美少女に行かせてもらうね。

「タモレ倶楽部って、見たことない? 色々マニアックな特集をやる深夜番組なんだ。」

「私・・・ハァ・・・、深夜は・・・、テレビ、見ないから。」

 七海ちゃんを置き去りにしそうになりながら、レコーダーの録画番組を再生させる。大丈夫、これまでの異常事態を考えれば、今回も七海ちゃんはついてきてくれるはずだ。大切なのは、僕がシンニィの変な回路と、自分の願望を信じ切ること。・・・勝手にそう思った。

 ピィッ・・・ピューイ

「え? ・・・何、これ・・・。ちょっと・・・やだ・・・。」

 タモレ倶楽部の長い歴史と伝統を知らない子にとっては、なかなかインパクトのあるオープニングの画面だ。Tバックのお尻がドアップになって、英語の曲をバックにお尻が左右にスイングする。七海ちゃんは2、3歩、画面から後ずさっていた。

 七海ちゃん、やっぱりドン引きだよね・・・。でも、すっごい面白い番組だから、好きになって欲しい・・。この番組のオープニング曲も、ダンスを完コピして欲しい。頼む頼む頼む〜。

 僕が下っ腹に力を入れるようにして願望を強く念じると、後ずさりしていた七海ちゃんは、ゆっくり、体でリズムを取り始めていた。

「わ・・・私・・もう・・・。どうなってるの?」

 ベソをかくような表情になって、両手で口を覆う七海ちゃん。でもお尻は小刻みに左右に揺れ始めていた。

 七海ちゃんのお尻を近くで見たい。間近でパンツを見たい。

 コメカミが痙攣するほど、強く思う。上半身を倒しながら、徐々にお尻を振る動作を大きくしていっている七海ちゃんが、リズムに合わせて少しずつ僕の方角に背中を向けてくれる。上体を倒しているから、ミニスカートの裾から白地のパンツはハッキリと目に入っている。

「うぅ・・・ヤなのに・・・。こっちに・・・行きたいよぅ・・・。」

 右、左、右っとお尻をブンブン振りながら、七海ちゃんが後ろに進んでくる。膝立ちになっている僕の顔に風が当たるほど、近づいてくる。しなやかな太腿のつながる部分にプリッと丸い、可愛いお尻。白地に刺繍で縁取りがされた、清純そうなパンツが僕の視界を埋めるくらいに近づいてきた。

 スカートの裾が鼻先をかすめる。

 イタッ。もう、スカート邪魔っ

「わぁっ。」

 僕がそう考えたと同時か、僕が考え終わらないくらいのタイミングで、後ろに回った七海ちゃんの両手がスカートの裾をつかんで、ガバッと捲り上げた。遠慮の一切ない、手つき。パンツ丸出しの学級委員長。こうなってくると、向こう側を向いている七海ちゃんの顔がどんな表情になっているのかも、気になってくるくらいだ・・・。それでも、ここまで来たら、最後までお尻鑑賞でしょう。

 僕は七海ちゃんの生尻が見たいっ。パンツ下してっ!

 心からそう願う。

 入力装置からその願望が入って、回路を通る時に、
『私、桂木七海は、一輝君に生のお尻を見せたいっ。パンツをおろしますっ。』

 と変換されてブーストされる。
 その過程が、意識の深い部分で感じ取れたような気がした。

 スカートの裾を背中まで捲り上げていた七海ちゃんのしなやかな指先が、有無を言わさずパンツのゴムの部分に指の腹を引っ掛ける。手がお尻の丸みをなぞるようにクルッと手首返すと、桃のようなお尻がプルッと・・・出かかった。

「ヤダッ・・・・イヤイヤッ!」

 七海ちゃんがパンツのめくり降ろされるのと同じくらいの速度でしゃがみ込む。その下半身に、ファサッとミニスカートの裾が下りる。気が付いたら、オープニングテーマは終わって、CMが始まっていた。この番組のオープニングは比較的短かった。僕がそう気づいた時には、目の前にあったはずの七海ちゃんの生お尻は、再び布のガードに隠されてしまっていた。

 腰骨からプックリと肉が盛り上がった、お尻の半球。お尻の谷間の始まったあたりまで見えたのに、完全には、委員長のお尻を目に焼き付けることは出来なかった。僕は自分の決断の遅さを悔やんだ。

「・・・こんなの・・。私じゃないっ・・・。ヤダッ、もうっ・・・。どうなってるの?」

 体操座りになって、顔を膝につけ、突っ伏する七海ちゃん。僕は悔やんでいるより、彼女のフォローが先決だと気がついた。

「七海ちゃんっ・・・。これは、別にそんなに異常なことじゃないっ。僕たち、すっごく気が合うんだよ。赤い糸で結ばれた運命の恋人同士みたいに、僕の願望が君に伝わってるんだよ。」

「か・・一輝君とは、私、お付き合い出来ないって・・・言ったでしょ?」

 七海ちゃんは、悲しそうな顔になる。目からポロリと涙が零れた。ヤワヤワな僕の心は、すぐに挫けてしまう。両膝から崩れ落ちた。

「本当に、ゴメンなさい。私、恋人って、気が合って、趣味が合って、て、いうだけじゃ、駄目だと思うの。・・・私、恋愛をするなら、もっと大人になりたい。本当に私、みんなが思っている以上に子供なの。成長出来る・・・、尊敬出来る人でないと・・・。私、好きになれない。今のは・・・・。私が変な衝動に振り回されているだけ。志原君まで振り回してしまって、本当に本当にゴメンなさい。」


 指の間から、温かくて柔らかくて凄く素晴らしいものが、すり抜けていく感触がある。あと少しで手に入れていたはずのものが、僕の手を逃れていく。僕の手のひらが、温度を失っていく。謝るのは、僕の方だと言いかけて、それを言うのもやめた。七海ちゃんは今、僕を一輝ではなく、志原君と呼んでいた。多分もう、魔法の時間は終わったんだろう。

 チャコールブラウンのピーコートに袖を通して、ボタンを大事に一つ一つ、留めていく桂木七海ちゃん。目はまだ腫れていたけれど、涙はもう拭われていて、泣き顔ではない、気丈な学級委員長の表情になっていた。

「帰るから・・・。もう・・・、良くわからない、変なことは、終わりにしてね・・・。」

 ドアを開いて、僕の部屋を立ち去ろうとする七海ちゃん。僕は振り返って見送ることもなかった。この部屋で、僕はまた一人ぼっちになる。一人で萌えアニメを見て、プラモを作って、オタ芸に磨きをかけて、オタ仲間とアイドルの経年劣化を揶揄したりして・・・。


「・・・いやだ・・・・。」

 やっと、一声出た。かすれ気味だったけれど、僕の声だ。今度は心から願う。不純な思いでも、乱暴な願望でも、僕の本当の気持ちを全力でぶつける。

「も・・う・・・。やめよう・・・よ。」

 振り返った七海ちゃんが、懇願するように囁く。さっきの僕は、ここでもう一歩が踏み込めなかった。でも今度は突き破る。

「七海行くなっ。帰るなっ。僕の恋人にっ・・・。僕のモノになってよっ。」

 初めて告白するほど好きになった人だったから、本当にこれが片思いなのか、これまで僕自身、不安に思ってきた。僕では釣り合わない、僕では彼女を幸せに出来ないかもしれない。そんな棘が、ずっと僕の心に刺さっていた。でも今だけ、一生に一回でいいから、余計なことを全部吹き飛ばして、好きな気持ちをぶつけてやる。ブースターが機能しなくても、回路が閉ざされても届くくらい、全身全霊で桂木七海にぶつかってやろうとした。

「し・・・はら・・・君・・。お願い。一つだけ、お願い・・・。」

「ん?」

 僕は思いを弱めずに、七海ちゃんの様子を伺った。七海ちゃんはまるで、乗り物酔いにやられた人が嘔吐する瞬間みたいに、よろめいて、ベッドに寄りかかる。

「お願い。耳を閉じてっ。あっち向いててっ。一生のお願いっ。」

 七海ちゃんはベッドに顔を突っ伏したまま、大声を出し始めた。

「帰りたくないーーーーぃいいいいいいっ。一輝君のっ、彼女になるっ。一輝君のモノになっちゃうっ。裸も見てほしいっ。触ってほしいっ。無茶苦茶にされたいっ。エッチしたいっ。初めてを一輝君にあげたいっ。どうにでもしてぇえええええっ。」

 ベッドの掛布団に顔をめり込ませて、声を漏らさないように絶叫しながら、七海ちゃんは乱暴にコートのボタンを外していく。僕は彼女のたってのお願いを聞いて両耳を塞いでいたかれど、だいたいのことは聞き取れてしまっていた。

 倍増された僕の暗くて自分勝手な欲望が、彼女の清らかな理性を吹き飛ばしてしまったことを理解した。覚悟を決めるしかなかった。

「七海ちゃん。こっちにおいで。キスしよう。」

 ベッドからゆっくり顔を上げると、目を潤ませた七海ちゃんは、震えながら立ち上がって、一歩ずつ、弱々しい足取りで僕に近づいてきた。

「大人になるとか、成長できるかとか、わからないけど、君を変えるよ。僕も変わるから。」

 首を横に振ろうとした七海ちゃんが、動きを止めて、僕の胸元に飛び込んできた。唇がぶつかる。衝撃で僕の唇の裏側が、前歯に当たって少し切れたみたいだった。そのせいで、ファーストキッスは、鉄みたいな味がした。キスなんて優しいものじゃないかもしれない。気がついたら2人とも、夢中になってお互いの口を貪りあっていた。涎も吸う。ベロも絡めながら絞り上げる。七海ちゃんが僕の口の中の、少し血の混じった唾液の中を泳ぐ。彼女の舌は柔らかくて温かかった。2人の鼻息が荒くぶつかり合う。いつの間にか抱き合って、触れるところをところ構わず掴みあって握りしめあっていた。

 こんな卑怯な手で、非現実的な技術で七海ちゃんを奪う。七海ちゃんに尊敬される男には到底なれないかもしれない。でもこうなった以上は、彼女を足の爪先から脳天まで僕色に染めて浸してやろうと決めていた。七海ちゃんがもどかしそうに僕の体を掴み、爪を立てる。僕のTシャツに手をかけると、思いっきり引き裂いてきた。構わずにまだディープキスを続けながら、彼女の大切なオッパイをギュッとワシ掴みにする。七海ちゃんは両手を腰にやって、白のセーターを、千切れるくらいの勢いで高く引っ張り上げた。華奢なお腹、ソフトボールの半球くらいの大きさのオッパイがブラジャーに包まれて顔を出す。彼女がセーターから頭を抜き取ろうと胸を張っている間に、ブラジャーを上にズリ上げた。ピンクと肌色の中間くらいの色の乳首がこぼれでる。プクッと前に突き出ていた。

 セーターを脱ぎ捨てて、髪の毛が散らばっているのを整えようともせずに、七海ちゃんはまた僕に唇を押し付けてくる。わざと口の横から涎を垂らすような、唇同士のズレたキス。そのまま彼女に押し倒された。オッパイを下から両手で揉みあげる。ムニュムニュと柔らかい肉が、僕の指の間を逃げる。指を交互に押し付けると、胸の中で柔らかい肉が躍る。手のひらに、乳首が硬さを増して押し出してきた。

「は・・・初めて・・・だから・・・、優しく・・・・・ね・・・。」

 ジュパッと下品な音を立てて口を離すと、委員長はそれだけ僕に言う。音の上に馬乗りになっていうセリフとしては、あんまり座りが良くないセリフだった。

「七海ちゃん・・・・。グッチャグッチャにセックスするよ。全部忘れて、一つになるんだ。」

「ハイッ!」

 とてもいい返事だった。そうだ、僕らはどこまでも気が合うんだ。

 桂木七海に、僕の男らしいところを見せてやるっ。抱きついて、オッパイを目いっぱい口に入れた。舌で乳首をレロレロと転がす。肺活量の限界までオッパイを吸い上げる。七海ちゃんの方がアグレッシブに攻めていたんでは、彼女に恥をかかせてしまう。僕の方が思いっきり変態になって、イヤラシイことをしてやる。2人でゴロゴロと寝転がりながら、激しい愛撫を全身に描いた。憧れの七海ちゃんの裸。全身を舐め回してやる。足の指の間から足の裏から、脇の下から股間まで。全部僕の唾液でドロドロにしてやる。舌が擦り切れるまで、舐めつくしてやる。

 必死に舌を這わせていると、彼女も負けじと返してくる。僕のオチンチンの先っぽに舌をつけたと思うと、驚くくらい奥まで口に咥えこむ。ベロを這わせてオチンチンを離すと、今度は僕のタマに吸いついた。思わず腰が浮きそうになる。僕も彼女の股間に顔を埋める。ネットで見たことがある。シックスナインだ。お尻の穴近くまで舌を伸ばしてくる彼女。僕も七海ちゃんのお尻だったら、穴まで舐めたって汚くない。鼻を割れ目に突っ込むくらい顔を埋めて、今度はクリトリスを舌で攻撃する。七海ちゃんも負けじと僕のオチンチンの裏筋あたりをベロンベロンと愛撫する。彼女よりイヤらしく、彼女より恥知らずに、彼女より動物的に。僕があの手この手で責め立てても、七海ちゃんも負けずに破廉恥な行動に出る。変態競争はどんどんエスカレート。途中から僕も、自分で何をしているのか、わからなくなっていった。ただ気持ちいいだけ。ただ相手を感じさせたいだけ。学級委員長も馬鹿オタクも、処女も童貞も、美少女も非モテも、正常も変態も、本当の気持ちも嘘の気持ちも、全部が真っ白い、イタガユイ光の中に溶けていった。僕たち2人は人間を辞めるくらいの狂おしい気持ちで、ただ一つになろうとしていた。

 七海の手が、僕のオチンチンを掴む。両手で、握りしめるのかと思ったら、指には力を入れず、下の方向へと誘導する。僕も腰を落として、その手の導く方に腰を動かす。モノの先っぽは、早紀のアンダーヘアーをかき分けて、一段深い、柔らかい部分を探り当てた。膝に力を入れて押し入ろうとする。肉の抵抗を感じた。いつの間にか、僕は七海の体の上に乗っていた。七海は両膝を開いて、ぐっと鎖骨のあたりまで引き上げる。僕は彼女を上から見下ろしながら、腰をグッと突き出して、彼女の抵抗を破り割いた。

「ぐ・・・・ぐぅううぅ。」

 七海が歯を食いしばる。可憐な少女に似合わない、低い声で苦悶していた。

「痛い?」

 僕が聞くと、七海は、固くつむっていた両目をゆっくりと開いた。

「うんん。・・・気持ちいい。・・・これ、一輝君の気持ち? ・・・どんどん、気持ちいいのが、私の中に入ってくる。痛さが、追い出されちゃうくらい。」

 七海のナカに入って気持ちいいという気持ちが、七海の意識に流入して、七海自身を気持ち良くしている。僕はまるで、自分自身が七海のオナニーの道具になったような、不思議な気持ちになった。それは決して悪い気持ちではない。僕が無理やり七海にオナニーさせていながら、僕はそのツールになっている。自分が彼女の快感を循環させる回路で、彼女の性感を倍増させるブースター。優等生の彼女を性の探究者に変換させるスイッチ。激しく腰を振りながら、僕はそんな自分を一瞬、遠くから冷静に見守っていたような気がした。

 すぐに冷静さは荒々しい快感の突き上げに消し飛ばされる。少しでも気を緩めると、自分が七海の中で暴発してしまう気がする。それでもこの性器が切なく繋がりあって擦れあう快感を、少しでも長く少しでも多く貪って噛みしめるために、僕は懸命に堪えながら腰をグラインドさせる。

「もうっ・・・もうっ・・・駄目っ・・・・。」

 僕の快感がブーストされて送り込まれている彼女は、僕より先に昇天しそうな様子だった。

「いっ、一緒にイクよっ。」

「ハイィィイイイイッ。」

 引きつけをを起こしたかのように、七海のあごが上がる。僕は彼女がイッテいることを彼女の膣の締まり方で感じ取ると、自分の我慢も解くことにした。彼女の一番奥の奥で。

 デュッ、デュッ・・・デュゥゥッ、デュッ。

 お尻の筋が、こむら返りを起こしそうなくらい、強く締まる。僕は七海の初めて開かれた膣の中。たぶん子宮の口の近くあたりまでオチンチンを突っ込んで、気が遠くなるほど激しく、精液を、何回にも分けてドップリと放出した。七海は頭で体を支えてブリッジをするくらい背中を弓なりにして、僕の精を大切な部分で全部飲み干した。

 七海はまた涙を拭っている。僕が「悲しいの?」と聞くと、笑顔を作って首を横に振った。しばらく2人で折り重なって床に寝転がって、呆然と天井を見ていた。

「一輝君のおうちの方、心配して入ってこないかな?」

 急に七海が、現実的な話を呟く。

「いや、あれだけあからさまにセックスしてたら、かえって気づかない振りをしてるんじゃないかな?」

 僕が言うと、七海は恥ずかしそうに僕のベッドに上がって、掛布団に包まった。僕も同じ布団のもう片方から包まる。

「私・・・。初めてだったのに・・・。凄いことばっかりしてたね・・・。一輝君もだけど・・・、私、女の子なのに・・・。恥ずかしいな。」

「気持ちよかったんでしょ? ・・・別にいいじゃん。」

 僕は慌ててフォローをしていて、やっと気がついた。初エッチの時、僕は男がリードしようと思って、七海よりもエッチなことをしよう。もっと変態になって彼女を楽にしてあげようと、思っていた。けれど回路が働いているうちは、僕がそう思えば思うほど、彼女はもっとヤラシくて、変態的になりたいという衝動に掻き立てられてしまうということを忘れていた。結果的に、初めてなのに、2人でとことんハードなプレイをエスカレートさせてしまっていたんだ。・・・シンニィに言われなくても、僕はやっぱり馬鹿だった。

「エッチの、怪獣になっちゃったみたいだった。」

 僕の隣で、七海がつぶやく。

「いいじゃん。エッチ怪獣2匹で。」

 僕がそう言うと、七海は僕の顔を横から覗き込む。

「ガオ」

 それだけ言って、桂木七海は、僕の二の腕をカプッと噛んだ。僕は今、何も願ったり求めたりしていない。これは七海ちゃんが自然に、そして僕の前で初めて、ふざけて見せた、新しい素顔だった。


。。。



 僕の生活は、申し訳なるくらい、楽しいものへと変わっていく。七海ちゃんは僕が求める時、僕の期待通りの恋人として振舞ってくれる。健全な学生の交際も。不謹慎な火遊びも、僕の思いのままだった。

 付き合い始めて2日目。僕が学校のつまらない授業中、現実逃避をしていた時のことだ。初めて肌を合わせた時のことを悶々と、生々しく思い出していた。

 あの時は本当に余裕が無かったけれど、今度は七海ちゃんの綺麗な体、恥ずかしい部分。全部ゆっくりと見せて欲しいな。

 そんな都合の良い妄想を、昼休みまで思い浮かべては、ニタニタしていた。するとお昼休み、学級委員長は僕を呼び止めて、化学の実験室まで引っ張っていった。

「一輝君っ・・・。私が授業に集中出来なくなるから、貴方も授業中に変な妄想に浸るの、やめて欲しいんだけど。」

 プリプリ怒り出した七海ちゃんに、僕は謝る言葉を考えた。でも七海ちゃんは、ふてくされたままスカートに両手を入れると、水色のパンツをスルスルと下ろしていく。

「はいっ。これ。思う存分、私を見てよ。」

 パンツを脱いだ七海ちゃんが実験室の引き出しから取り出して突き出してきたのは、大きな虫眼鏡。ちょっと顔を赤らめて、ふくれっ面を横に向けながら、床に腰を下ろした七海ちゃんは体操座りの姿勢から足をゆっくり開いてくれる。

「私の恥ずかしいところ、全部見たいんでしょ? ・・・私も、・・・その、・・・一輝君に隅々まで、じっくり舐め回すように見てもらいたいの。・・・多分また、2人とも、おんなじこと考えちゃってるんだよね?」

「う・・・うん。」

「早くしないと、お昼休み終わっちゃうよ。」

 虫眼鏡を突き出しながら、赤い顔でそっぽを向いて、僕と視線を合わせてくれない七海ちゃん。僕はお許しが出た上は、お弁当を食べるのも忘れて、昼休み時間を生物の観察で丸々潰してしまった。


 お弁当で思い出した。付き合い始めて1週間目以降、僕のお弁当は七海ちゃんが作って持ってきてくれるようになったんだ。

「どうせ毎日、お昼に食べたいものも偶然一緒になるんだったら、私が2人分作った方が、効率いいでしょ?」

 僕の彼女はそう言って毎日、愛情満載の手作り弁当を振舞ってくれるようになった。まだこの時期は外で食べるのが寒いので、渡り廊下の日当たりのいい場所で2人きりで食べる。僕はアーンと口を開いているだけで、七海ちゃんが一口ずつ食べさせてくれる。頬っぺたにご飯粒がくっついていたりすると、七海ちゃんの柔らかい唇が僕の頬に密着。ご飯粒を取ってくれる。僕がそのまま調子に乗ったりすると、七海ちゃんの方から飲むヨーグルトの口移しサービスを仕掛けてくる。何も言わなくても、2人の息はいつでもピッタリだ。

 食後は七海ちゃんの膝枕でウトウトする。彼女はその間に僕の爪を切りたがったり、磨きたがったり、耳掃除をしたがったり。色々と世話焼き女房だ。外が暖かくなったら、校舎裏の芝生の上で、こんなことをしたい。学校中の羨望を集めることだろう。


 そう。僕たちの交際は、いつの間にかクラスや学年で噂になっていた。クラスメイト(とは言っても、七海ちゃんの親友だけど)の発案で、休みの日にたこ焼きパーティーが開かれた。その日に僕がうっかり、たこ焼き作りに集中しはじめてしまったのが、原因だ。気軽に皆と話すことが出来なくて、職人ばりにたこ焼き作りに没頭して、気がついたら七海ちゃんと超絶コンビネーションを見せてしまっていた。僕がタネを鉄板に流すと、七海ちゃんがタコを入れる。刻みネギ、紅ショウガ、僕がたこ焼きをひっくり返している間に、オデコに汗をかいたら、絶妙なタイミングで汗を拭く。一心不乱のアシスタント、七海ちゃんが、気が付いたら横にいた。

「なんかアンタたち、何十年も一緒に屋台を切り盛りしてきた職人夫婦みたい・・。」

 七海ちゃんの親友は、呆れ顔でそう言っていた。勘の良い女子たちは、そこで何かを気づき始めたのかもしれない。

 僕が七海ちゃんを不意にからかいたくなって、教室移動の時に打ち合わせ一切無しで、「アルプス一万尺」を彼女と初めて見た。子供っぽい歌も天真爛漫に歌いながら、オタク男子と、息ぴったりで手をパチパチ合わせる学級委員長。歌が終わると恥ずかしそうに咳払いしていたけれど、周りの疑惑は高まっていった。


 こうなったら腹を括ろうと、僕らは熱烈交際を公のものにした。男子たちはみんな、僕とスーパー美少女との格差交際を疑ったり訝しんだりしたけれど、文化祭のステージの件以降は、文句を言わなくなった。文化祭の最終日。有志によるステージショーで、僕と七海ちゃんがペアでダンスを披露した。今年、話題になった深夜ドラマで『脱げるは恥だが逆に勃つ』という、少し大人な番組あったのだが、そのエンディングテーマで流れるダンスを、完コピしてやって見せたのだ。ステージ上で制服を脱いで、レオタードになった桂木七海ちゃん。意外とテクニカルな踊りを完璧にこなした僕。二人の息ピッタリにシンクロしたダンスに、全校生徒が熱狂した。

「真面目な優等生、桂木に、あんな大胆な演出をオーケーさせた、あのオタク野郎はヤベエ。」

 男子生徒たちの、僕を見る目が、あの日を境に変わって来たんだ。『脱げ恥ダンスの桂木・志原ペア』と言えば、学校のちょっとした有名人になり始めていた。


 クリスマス・イブには、秋葉原へ、ペアルックでデートに出かける。アニメキャラのシャツを着て、ちょっとオタクっぽい服装をしていても、七海ちゃんは良く目立っていた。カメラを向ける外国人もいた。ちょっとした国際貢献だったかもしれない。次の日。クリスマスはコスプレしてもう一度、秋葉原へ向かった。今度は七海ちゃんはメーテルの衣装。僕は鉄郎の恰好をしていたのだけど、あまり注目は集まらなかった。美人の七海ちゃんのメーテル姿に人だかりが出来たところで、うちの学級委員長から僕の同族たちへのクリスマスプレゼント。メーテルのコートを脱ぐと、トラ柄のビキニ。メーテル帽を脱いだら小さなツノ。スレンダーだけどとびきり可愛いラムちゃんの登場に、冬の秋葉原は熱く煮えたぎった。七海ちゃんは『ラムのラブソング』を歌って踊って、最後に僕にチューをしてみせたあとで、恥ずかしそうに、何度もクシャミをしていたけれど、これもクールジャパンだから、仕方がない。君のやりたいことでもあったわけだし・・・。


 七海ちゃんの学業の成績は少し落ち込んだ後で、持ち直しつつある。最初は僕の遊びに付き合って、オタトークに合わせるためにオタク教養値を蓄積させて、僕がムラムラっときた時には僕が精根尽き果てるまでセックスに没頭して・・・ってやっている間、勉強に割く時間なんてなかったせいで、彼女の成績はガクッと落ちた。僕もそのことに責任を感じて、落ち込んだりしたけれど、さすが桂木七海はただのガリ勉ではなかった。その知的な観察力と自由な発想力で、新しい人生にベストフィットした勉強の方法を編み出したのだった。

 僕、志原一輝は、エッチをしたり、オナニーをしたりした後で、1時間から2時間、妙に悟ったように人生に真っ直ぐ向き合ってしまう時間がある。いわゆる『賢者タイム』というやつだ。この気分が回路を通じてブーストをかけられて七海ちゃんの意識で出力されると、彼女にとっては、『スーパー賢者タイム』になる。もともと頭が良くて集中力のある彼女がスーパー賢者タイムをフル活用すると、勉強の効率は恐ろしく上がる。その短時間の集中的な勉強で、彼女はまた優秀な成績を収め始めた。さすがは僕の恋人。僕も一安心だった。(あと僕の、馬鹿というベースの能力不足までは彼女に伝播していなくて、本当に良かった)


 オナニーで思い出してしまった。これは僕と七海ちゃんの回路をシンニィが繋げた翌朝から起こっていたことが後から判明したのだが、僕はこの件でも七海ちゃんに迷惑をかけてしまっていたようだ。健康な男子高校生だから、朝、股間が元気だったりすると、一発ヌイてから登校の準備をする。試験勉強中にも、ムラムラすれば、自分で処理する。これが男は比較的簡単だけど、七海ちゃんにとっては大変な災難だったようだ。『こりゃ、一発ヌかなきゃ、気がすまん』っていう僕の感情が彼女の頭の中にも逆らい難く押し寄せるのだけれど、女の子は男ほど簡単にオナニーを済ませる頃が出来ない。朝早く登校しようとしていた彼女が外で『催して』しまったり、夜に家庭教師の目を盗んでモゾモゾ始めざるを得なくなったり、男子高校生の生理的欲求を無理やり押しつけられた女子高生の悩みは小さいものではなかったみたいだ。

「これから、学校とおうちと、決まった時間に一輝君の性欲は私が先回りして処理させてもらいます。突発的に発情されたんじゃ、私も自己管理が出来なくなって迷惑です。」

 あくまで事務的な通達を装いながら、顔を赤らめ、微かに震えつつ僕に言ってきた時の、七海ちゃんの表情ときたら、もう・・・。彼氏ながら、とってもそそられるものでした。


。。。



 そんなこんなで、僕たちが付き合い始めてから、早いもので3ヵ月が過ぎようとしていた。僕を取り囲む状況は一変した。それでもまだ、オタク仲間との交友も続いている。特に、お世話になったシンニィには、状況を事細かに説明している。ちょうど今も、左手は七海ちゃんと繋ぎつつ、右手でスマホを持って、シンニィに電話をしているところなんだ。スピーカーフォンで、僕も彼女もシンニィの声が聞こえる。


「そんな訳でね、今2人で、下校中なんだけど、さっき彼女と話してたんだ。大人になったら、結婚しようって。」

「ほーう。そりゃメデタいことで・・・。って、お前ら新学期からは受験生だろ? 七海ちゃんは建築の勉強したいとか言ってなかったか? ・・・ま、俺はどうでもいいんだけど。働いたら負けだと思ってるし。」

「シンニィさん。七海です。私、大学の建築学科を目指して、大学でもしっかり勉強して・・。将来の展望が開けそうになったら、学生の間にでも一輝君と結婚したいと思ってるんです。その時は、シンニィさんに仲人と神父さんの二役やってもらおうって、今も一輝君と話してたの。とっても素晴らしいアイディアだと思うから、今、聞いて欲しくなって・・・。」

「ほへー・・・。七海ちゃんは学生結婚して建築士になりながら家庭と両立しようとしてるんだ。ホント、俺とは正反対だね。」

「うちの場合は、彼が・・・、一輝君が、ちょっと頼りないから、私が頑張って稼がなきゃ・・・。」

「そいつは結構なこってす・・・。でも、俺の作った回路、まだ試作品のつもりだったけど、人の人生決めちゃう訳か・・・。ちょっと責任感じるかも・・・。ちょっとだけね。」

「それは・・・、責任は、あると思うけど・・・。でも私、能天気な一輝君の影響のせいか、今はずっと幸せ。それにね・・・。一輝君が浮気でもしようものなら、一発でわかっちゃうから、一生隠れて浮気をしたりしない旦那様を手に入れたと思えば・・・。まぁ、トントンです。」

「トントンですか・・・。浮気は確かにすぐにバレるけど、一輝が許して欲しいって強く思っちゃうと、バレたところで君は怒り通せないはずなんだけどね・・・。ま、いっか。どうせ一輝の性格だと、君を裏切ることなんて出来ないよ。俺がそれまで生きてたら、だけど、君らの仲人でも神父役でも、やったげるよ。」

「一輝です。・・・聞いた? シンニィ。七海ちゃん。ほんっとうに将来、僕と結婚してくれるって。僕のお嫁さんになってくれるんだってさ。・・・全部、シンニィのおかげ。ほんとありがとう!」

「まぁ、リアルが充実するのもいいけど、二次元への愛も、忘れんなよ。」

「もちろんだよ。だって奥さん公認のオタク趣味だよ。奥さんも僕と好みピッタリのオタ仲間になってくれるんだよ。・・・もう、俺。・・・ほんっとに・・・天にも舞い上がる気分だよ。」

「そう・・・か。・・・おい、一輝。お前、今、どんな気分って言った?」

 電話口のシンニィの声が、珍しく緊張したトーンになる。

「・・へ? ・・・だから、天にも舞い上がる気分だって・・。」

 シンニィの心配していることが、ようやく馬鹿な僕にも伝わって、ヒヤッと背筋が寒くなる。僕が左手を確かめようとすると、手を握っていたはずの僕の大事な恋人は、僕の隣から消えてしまっていた。

「え? ・・・嘘・・・。七海ちゃん?」

 僕が慌てふためいて周りを見回す。右、左、後ろ。そして上・・・。

 すると電信柱の真ん中より上の当たりを、真っすぐ空を見上げながらよじ登っていく、女子高生の姿が見えた。

「ひえぇー、七海ちゃーんっ・・・。違うっ・・・今の、比喩っ。比喩〜っ!」

 パニくって、ピョンピョン飛び跳ねながら、叫ぶ僕。出初式の消防士さんみたいな俊敏さで、下からパンツが丸見えになっているのも気にせず、ヒョイヒョイとよじ登っていく七海ちゃん。

「さっさと、止まれって心から念じろよっ。・・・ったく、馬鹿を実験台に使うのって、やっぱりマズかったかな?」

 まだ切れていない電話から、シンニィのボヤく声が聞こえた。


 そんなわけで、僕は今日も、最高の彼女に色々と迷惑をかけちゃってる。それでも、いつかは・・・ね?

 
 
< おわり >


 

 

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