超越医学研究所HML


 

 

砂の記憶(後編)


 ――皆さん、私は超越医学研究所・主任研究員神保美紀です。
 私は、決心しました。キャシーさんのために。自分自身の信念のために……。
 
 大学時代の友人、秋葉君からの連絡を受けた私は、大佐と呼ばれる人物の影を追い求めて、指定された東京都内のホテルへと向かったのです。
 そこには……。
 
 ベイエリアホテル東京のロビーに着くと、秋葉君が出迎えてくれました。
「やあ、神保君」
 その時、なぜか彼の笑顔が少しひきつっているような気がして。
 そこは海外からの宿泊客も多い、湾岸の高級ホテルでした。表玄関にはハイヤーや、黒塗りの乗用車がひっきりなしに停まり、訪問者を乗降させていきます。広々としたホテルの1階には、フロントの他に喫茶ラウンジや、ショッピングのための専門店まで並び、多くの人達が行き来していました。
 だけど、私には周囲に気を取られている心の余裕はありませんでした。これから立ち向かわなければならない運命を思うと。
 私は大きな不安を抱いたまま、エレベーターホールに向かいました。
 チン! とベルが鳴ってエレベーターの扉が開く。二人きりになったエレベーターの中で、秋葉君は私に「あの男を知っているのかい?」とだけ、訊いてきましたが、私は首を横に振るしかありませんでした。
 最上階のスイートルームが私達のめざす場所だったのです。
 
 秋葉君に導かれて部屋の中に入ると、そこは居間でした。広々とした室内には東洋風のじゅうたんが敷きつめられ、ソファーやひじ掛け椅子、クラシックな家具まで配置してありましたし、高い天井には装飾がほどこされ、シャンデリアがきらめいていました。
 そして、窓際に一人の男性が立って、外を眺めているのが目に入りました。
 
「ここは眺めがいい。海が見える……平和な海が」
 私の方を振り向いた男性は、背が高く、がっちりした体格で、マオカラーのダークスーツが、軍服を連想させました。
 人種はよくわかりません。彫りが深く、鼻が高い顔立ちは、欧米人のようでもあります。
 髪をオールバックにまとめ、年の頃は、40歳から50歳ぐらいにも見えるのですが、実際はもっと年を取っているのかもしれません。
 この人が「大佐」なのでしょうか?
 男性の、薄い唇がわずかに微笑んだように見えました……。
「ようこそ」
 どこかつくったような笑顔でしたが。
「あなたが……」
「大佐――。そう呼んでくださって結構です」
 

 
 
 男性――大佐は、美紀にソファーにかけるように勧めたが、美紀は警戒するかのように、突っ立ったまま、それ以上近づいてこようとはしなかった。
「ドクター秋葉から、あなたのことは聞いています。非常にすぐれた医師であると。それにとてもお美しい……。あなたにお会いできて光栄です」
 口元に笑みさえ浮かべて……しかし、目は笑っていなかった。
 
「何も心配することはない。あなたがなぜここに来たのかはわかっている。が、いちおう君の話を聞いておこうか」
「ええ、でも……」
 美紀は隣に立つ秋葉にちらりと視線を向けた。
「ドクター秋葉、悪いがしばらく席をはずしていただきたい。これから私はドクター神保と重要な話がある」
 きっぱりした調子で大佐が言った。
 
 秋葉は愛想笑いを浮かべ、
「あとで迎えに来るよ。時間があいたら食事でもしよう」
 美紀のことを気づかうようなそぶりを見せながら、秋葉は立ち去る。
 バタン、と音がして、美紀の背後でドアが閉じられた。
「さて、邪魔者はいなくなった。この部屋には私と君の二人しかいない」
 
 微妙な空気が二人の間に流れていた。
「単刀直入に聞こう。君はキャシー竹橋の居所を知っているね?」
 美紀は無言であった。
「答えなくてもいい。目を見ればわかる。答はイエスだね」
「………………」
「そして君が私に言いたいこともわかる。君は私にキャシーにかけられたマインド・コントロールを解除せよと」
「いいえ」
「?!」
「あなたには、キャシーさんには会わずに、このまま帰っていただきたいのです」
 
「これは……意外なことを聞く。しかしそれでは、キャシー竹橋の症状は根治しない」
「と、おっしゃいますと?」
「現在、キャシー竹橋の精神は非常に不安定な状態にあるはずだ。覚えがないかね?」
「入院の初期段階で、とくに爆発音に対してひどく怯える様子を見せました。
 それに極端な、せ……」
 ――性衝動、と言おうとして、美紀は言葉を飲み込んだ。
「戦闘時のトラウマが、彼女の心に恐怖を植えつけてしまったのだろう。
 このままでは兵士として使い物にはならない」
 美紀はゆずらない。
「日常生活を送るのになんの支障もないレベルまで回復しています。
 いま、彼女を苦しめている精神症の原因は、過去の記憶、そして失礼ですが、あなたの存在かと……大佐」
「……………………」
「私はキャシーさんの主治医として判断します。彼女の症状は現在までの段階で、完全に治癒したと。今後、長期のアフターケアが必要となるかもしれませんが、それは私が責任をもって行わせていただきます!」
 
 まいったな、というように大佐は首をふった。
 
「ところでドクター神保……。ドクターMの研究について、君はどの程度情報を得ているかね?」
「!!」
 なぜ、大佐は突然にドクターMについて持ち出してきたのか?
 いや、実は神保美紀は、大佐が核心に触れる話をしようとしているのがわかっていた。
「ドクターMの研究……。命令に対して従順な人間をつくる化学物質の開発とか、そんな噂をうかがっていますわ」
 ウィーンのエリノア財団本部で、ニコライ・ケルセンブロックから得た情報の断片である。
「その表現は正確ではないが、まあ似たようなものと言えなくもない。
 簡単にいうと、脳内の情操をつかさどる神経系を抑制する物質の人工組成に関する研究だ。同情や憐憫、愛情といったつまらぬ感情を化学療法により抑制し、恐怖や迷いを克服することにより、人類は彼岸に到達することができる。すばらしいことだとは思わないかね?」
 
「おそろしいことを……。そしてあなたはそれを軍事目的に利用しようとした」
 大佐は押し殺したように笑った。
「仮に、ドクターMの研究と、私の研究が合わさっていれば、キャシー竹橋は完全な兵士になりえたかもしれない」
「いまの彼女は兵士ではありません!」
「ドクター神保、キャシー竹橋の身柄を私にひきわたしたまえ。それがお互いのためだ」
「お断りします!」
「私に逆らおうというのか? そのか弱い肉体で……」
「人が人の心を操る、そんなことがあっていいわけはありません。キャシーさんはあなた方の実験の気の毒な犠牲です。だけどもうこれ以上……彼女を苦しめないでほしいのです」
 美紀はひるまなかった。
 
「ドクター神保、君は水道橋マサムネの命令でここまでやって来たのかね?」
「いいえ、自分で決めてきたことですわ」
 水道橋所長の名前が出て、美紀はわずかに動揺した。やはり大佐は個人的に所長のことを知っている。
「人にものを頼むには、それなりの対価が必要だよ、ドクター神保」
「おっしゃる意味がわかりませんわ!」
 美紀は身を固くした。
 
「ドクター神保、君はひじょうに聡明だ。感服する。
 しかし、君も医者ならばキャシー竹橋が外部に及ぼす影響が、いかに深刻なものかわからないことはあるまい。それとも君はキャシー竹橋を、一生研究所に閉じ込めておくつもりかね」
「閉じ込めるなんて、そんな……」
 
「『サイコ戦』を、知っているかね?
 キャシー竹橋が、自らの近接した領域において特定の相手に対し、精神攻撃を加えることができる能力のことだ」
 美紀には覚えがあった。キャシー竹橋と初めて会ったとき、彼女は怒りにまかせて、自分の心に干渉しようとしてきた。それは、すさまじい恐怖の体験だった。
 
「君たち常識的な医者は、感応精神病の類と考えるかもしれないが、それはサイコマンダーの特殊能力でもあるのだ。そのことひとつをとっても、サイコマンダーがいかに危険な存在かわかるだろう? キャシー竹橋に一般人と同じ日常生活を送らせるなどしょせんは無理なのだ」
「嘘です!」
「わからないのであれば、教えてあげてもいい……。
 むろんサイコ戦に関しては、キャシー竹橋よりこの私の方に一日の長がある。私は彼女の師であり、上官であるのだからね。たとえば……」
 
 美紀の正面に立った大佐は、おもむろに襟元に手をやると、マオカラーのホックをはずした。
 さらに、上から下へと、服のボタンをはずす。ひとつ、ふたつと。
 大佐はスーツを無造作に脇に放り投げた。ソファーの上に、それはふわりとかぶさった。
 部屋が暑いから? 美紀はけげんそうな目で大佐の動作を追った。
 
 だが、大佐の行為はそれで終わりではなかった。シャツを脱ぎ捨てると、たくましい裸の胸があらわれた。さらに、ズボンのベルトに手をかける……。
 
 大佐が裸になるまでの間、美紀は身じろぎひとつしようともしなかった。
 逃げ出すこともせず、目をそらすことさえもせず、叫び声ひとつあげようとしなかった。
 ただ、服を脱いでいく大佐のことを、あ然としながらじっと見つめていただけだ。
 
 毒蛇のように鎌首をもたげたペニス――。
 まっすぐに自分を見つめている大佐の視線が強烈だった。
 
「あ……。あ、あ……」
 押しつぶしたうめき声が、喉の奥から絞り出された。
 ショックのあまり言葉を失ってしまったのか?
 いや、違う。その時美紀は、まるで立ったまま金縛りにあってしまったかのように、身動きがとれなくなっていたのだ。
 視界の一部が「ぐにゃり」と、ゆがんだような気がした。そのまま血の気が引いて、倒れてしまいそうな……。
 だが、美紀は必死に踏みとどまった。
 
 ――逃げなくては。
 
 おぞましい状況に立ち至ってしまっていること、自分の身に危機がおとずれていることは理解できた。
 
 しかし、いつの間にか大佐は入口のドアを背にして立っており、美紀は逃げ場を失っていた。
 
 身体が思うように動かない。足がすぐには出なかった。
 なんとかもつれる足取りで、じりッじりッと、回り込むようにして逃げた。
 
 大佐がまるで散歩にでも行くような調子で、一歩、二歩と足を踏み出した。
「ひッ……!」
 近づいてくる。
 赤黒く充血した大佐のペニスが、竿のようにふるんとしなった。
 
 ――いやッ!
 
 後ずさりをしたとたん、背後の壁につきあたった。
 ひどく気分が悪い。吐き気がする。
 美紀は壁づたいに這い回るようにして、必死に逃げ場を探した。
 ふと、指先に固い金属質のものが当たった。ドアノブだ!
 
 隣室へと続くドアを、思い切り開け放ち、中へ飛び込んだ。
 足がもつれ、美紀は前のめりに倒れこんだ。が、大きな衝撃はなかった。目の前に真っ白な色が広がり、ふっかりとした弾力で美紀の身体を受け止めた。
「!!」
 自分が倒れこんだものが何なのかに気づいて、美紀はがく然とした。
 そこは白いシーツに覆われたダブルのベッドで、美紀が飛び込んだのは寝室だった!
 
 いきなり、背後から太い腕でベッドに抑えつけられた。
 大佐は、美紀の背中のファスナーを一気に下までおろした。
「いや―――――――――ッ!」
 堰を切ったように叫び声をあげた。
 
 乱暴に頭が押しつけられ、あっという間にワンピースが脱がされた。
 手足をばたつかせて抵抗しようとするが、思うように身体が動かない!
 身体をまるめて着衣を脱がせまいとしても、ムダだった。
 
「やめて……! やめてくださいッ……!」
「おとなしくしたまえ! ケガをしたいのかね?」
 
 真っ白なブラジャーとショーツだけの下着姿にされた美紀が、ベッドの上にころがされた。
 逃げる暇もなく、大佐の裸の巨体がおおいかぶさってきた。
「はなしてッ!!」
 美紀は激しく身をよじって、逃れようとした。
 
「君のような知的な女性が身悶えするのを見るのは実にいい。もっと抵抗してみたまえ」
 言われなくとも、渾身の力をふりしぼり抵抗し、苦しそうに手足をばたつかせた。
「私は紳士なのでね。女性の意思を無視して無理やり事に及ぼうとするような真似は本意ではない。ドクター神保、最後の下着は自分で脱ぐがよかろう」
 自分を押さえつけていた大佐の力が急に弱まったので、美紀は大佐の腕の下からするりと抜け出した。
 だが、彼女が逃げたのはそこまでだった。ぼう然と、ダブルベッドの上にへたり込んで、裸の男と向き合って大きく肩で息をしている。
「はあ……はあ……はあ……はあ」
 
 美紀は、ゆっくりと背中にあるブラのホックに手をまわした。
「?!」
 自分で自分が何をやっているのかわからなかった。
 自分はこの場から逃げたいのだ!
 なのに、腰を抜かしたまま動こうとしないばかりか、手が勝手に動いて、下着をはずそうとしている!
 まるで、自宅の部屋で、着替えでもしようとするかのように!
 
「あ……? ああ?」
 奥歯が鳴るほどにガクガクと震えがきて、額から汗が噴き出した。
 何かに操られるかのように服を脱ごうとする力と、それに抵抗しようとする彼女の意思の力がせめぎ合い、美紀の腕の筋肉がぶるぶると震えた。
 大佐はというと、青くなった美紀の様子を、腕組みをしてニヤニヤと笑いながら見下ろしている。
 
 プツッ!
 
 弾けるようにホックがはずれ、86のFカップ……ほっそりとした美紀の身体つきには、似つかわしくないほどに豊かな乳房がこぼれ出た。
 
「ほう……!」
 大佐が賛嘆するかのような声を出した。
 
「なんで?! どうして?! やめて……! やめてぇ……!」
 泣き喚きたいほどのパニック状態! じっさい、眼鏡の奥の美紀の瞳からは涙があふれ出していた。
 しかし、震える美紀の両手は、たった一枚最後に残った下着にかかった……!
「いやああ……!!」
 じれったいぐらいにゆっくりと、下着が引きおろされていった。
 値踏みをするような大佐の視線が肌を刺す。恥ずかしさに全身の血が逆流するようであった。表情は冷徹だが、発情しているのはひと目でわかる。
 
 ――見られてる! 見られてる!
 
 アンダーヘアのデルタが、じょじょに姿をあらわし、逆三角形の頂点が尽きたところで、女性器がむき出しになった。
 一糸まとわぬ裸……。正確には近視の美紀は、眼鏡だけはかけたままなのだが……。
 
「きたまえ、ドクター神保」
 大佐の呼びかけに導かれるように、全裸になった美紀は男の胸の中に倒れこんだ。
 むろんそれも、美紀の意思とは無関係に。
 
 大佐が美紀の乳房をむにゅ、と鷲づかみにする。節くれだった指のあいだから、白い肉がはみ出しそうになる。
「人並みよりやや乳輪が大きめで、くっきりとしている。色はきれいなピンク色」
 大佐が乳首のまわりをぐるりとなぜ回した。「ひッ!」と鋭い悲鳴をあげる美紀。
「ほう、乳首がたってきた。感じているのかね?」
 感じているはずがない……! しかし、刺激に対し身体が反応してしまう女の生理が恨めしかった。
 押しのけ、突きのけようとするが力が入らない。
 下腹部にあたる、怒張した男根が、おそろしかった。
 コリコリと乳首をまさぐられ、指先でつままれる。
 美紀の豊かな胸をもてあそんでいた大佐は、乳首を口にふくみ、舌の上で珠のようにころがした。
「ひゃあッ……!」
 
 大佐の舌は、美紀の胸からみぞおち、へそから下腹を這いまわり、そして、さらに熱く、敏感な部分へと……。
「いやッ! いやァッ……! そこはいやあッ……!!」
 大佐が美紀の股間に顔を埋めていた。
 なにこれ?! 信じられない!! なんてイヤらしい!!
「いいニオイだ。手入れが行き届いている」
「や……やだッ……!」
 神保の乱れるさまを愉しむかのように、大佐は舌使いを激しくし、ピチャピチャといやらしい音をたてた。
「いひッ……! やッ、やッ! いやああッ!!」
 身をよじり、暴れて、ふりほどこうとするのだが、下半身は大佐にがっちりと抑えられていた。
 舌先でなぶり、肉を吸い、唇でヒダヒダを甘くかみ、鼻をこすりつける。
 太もものつけ根を唇が這いまわったときは、背中に電流が走ったような気がした。
「ん―――ッ……!!」
 大佐のクンニが一段落しても、美紀は軽くイッてしまったのか、横たわったまま動けなかった。
 ぜいぜいと息が荒く、裸の胸が波打っている。
「どうやら十分濡れてきたようだ……。そろそろいいだろう」
 
 大佐が美紀の腕をつかまえ、ぐいと引っぱると、美紀は力なく、男のされるがままに身体を起こした。
 ひどくけだるそうな動作だった。口元からだらしなく垂れたヨダレをぬぐおうともしない。
 大佐はベッドの上でゆったりと仰向けになると、美紀のヒップを引き寄せて、迎え入れようとした……。騎乗位の体勢である。
 女性の協力がなければうまくいくはずのない体位なのだが……。
 
 またあの感覚である。
 頭の中が痺れて、全身を脱力感がおそう。大佐の意のままに美紀は身体の向きを変える。
 自分の意思の力で、必死に抵抗しようとするのだが、まるで蟻地獄に落ちていくように、逃れることができない。
「いや……。いやあ……」
 ぎこちないながらも、美紀は大佐の上にまたがる。
 大佐の巨大なペニスが、美紀の腹の下で脈打っている。
「来たまえ、ドクター神保……」
「いやッ! こわいッ……!!」
 
 逃げようとしたが、ムダな努力だった。すでに美紀の身体は自分の思い通りには動かなくなっていた。
 ――助けて……! 助けて、キャシーさん……!
 心の中で叫びつづけた。
 ――助けて! 所長……!!
 水道橋正宗の顔が脳裏に浮かび、すぐにはじけるように消えた。
 ペニスの先端が、膣口のやわらかなヒダ肉に触り、クチュ、としめった音がしたような気がした。
「ひッ……! ひいいッ……!」
 それはじょじょに侵入してくる。美紀の処女膜のありかをたしかめるように。
「痛いぃ! いたあああぃ……!!」
 美紀のあえぎが、突然絶叫に変わった。
 ブチブチッと、引き裂かれるような感覚があり、破瓜の激痛が、股間から脳天にかけてつらぬいた。
「ぎゃあ―――――――――ッ!!」
 振り絞るような悲鳴が寝室に響き渡り、美紀は大佐の上で、ビクン! ビクン! と、身体をふるわせた。
 
 大佐の男根は、そのままずぶずぶと根元まで呑みこまれていく。
「死ぬぅ! 死んじゃううぅ!!」
 大佐は、バカなことを言うものではないとでも言いたげに、不敵な笑いをつくり、荒い息を吐いた。
「お願い! 動かないでぇ! 痛い! いたあいい!」
 美紀の哀願にも耳を貸さず、とらえた獲物を、なぶり殺しにするのを楽しむかのように……。
「もっと腰をつかいたまえ。ドクター神保」
 大佐が両手で美紀の尻肉を抱えこみ、より深い結合を求めて腰をつきあげた。
 ズヌゥ〜〜……ズチュッ……。
 巨根が思い切りお腹の中に侵入してきて、子宮にあたるほど奥深くまで貫かれたかと思われた。
「いた……痛いよぅ……!!」
 ガクガクガク……。
 大佐が尻を浮かせるようにして、腰を揺さぶった。
 美紀の乳房もリズムを合わせるように上下に揺れる。
 操られるように、自分もわずかに腰をふっているのに気づいて、美紀はゾクっとした。
 ――これがSEX? 男と女の愛の営みなの?
 おぞましい、ケダモノの行為に過ぎないと、美紀はふと思った。
 
 寝室の壁に頭のてっぺんからつま先まで映すことができる、大きな鏡がはめこまれていた。
 大佐は、美紀を後抱きにして、ベッドからおろすと、まるで幼児におしっこでもさせるように、膝をかかえて鏡に向かって股を開かせた。
「いやあッ!!」
 今しがた、大佐によって無理やりこじあけられた美紀の女性器が、濡れて真っ赤に腫れあがっている。処女のしるしの出血が、股間を汚していた。
「ひどいッ! やめてぇッ……!!」
 大佐は、乱暴に鏡に手をつかせて美紀を立たせると、背後から無造作に挿入した。
「ああ―――――――――んッ!!」
 立ったまま後から犯される自分。
 ヒップが持ち上げられ、乳房がぶるんぶるんと揺れた。
 大鏡に痴態が映し出される。
 その変態的なプレイが、大佐の情欲をかきたてているかのようであった。
 腰の動きが激しさを増し、大佐はようしゃなく腰骨をぶつけてくる。
 
 ブチュゥッ……グチュッ……チュプッ……。
 結合部からイヤらしい音がひびく。
 生暖かい血液が、美紀の内腿をつたって流れ落ちた。
 かまわずに、大佐は腰を激しくグラインドさせ、美紀の膣内をえぐった。
 あまりの痛さに、腰を落とし、膝をついてしまいたかったが、それは許されなかった。
 
「ドクター神保、君は見かけによらず淫乱だ。クリトリスが充血してまるでグミの実のように固くなっているし、ピンク色の肉がはみ出してしまっている」
「う……うそぉッ!! うそよッ……!!」
 大佐の巨大な男性器が出たり入ったりするたびに、吸いつくように膣肉がはみ出しそうになるのである。
 その卑猥なさまは、鏡には映らないが、バックから挿入している大佐からは丸見えである。
 大佐は絶倫……そのこってりとしたピストン運動は、美紀の肉体を引き裂かんばかりに責めまくる。
 痛いばかりで全然気持ちよくなんかない。
 
 突き上げてくる、大佐の腰の動きが最高潮に達し、美紀の感じる激痛がようやく麻痺しかけてきたころ。
 筋肉質の、鋼のような太ももから尻肉にかけて、さらにかたく引き締まったかと思うと、大佐は声をあげた。
 
「おお! おおお! みなぎってきた! 来る……! 来るぞ……!
 私のスペルマが……出る……! 君の体内に、男と女の肉の契約のしるしが!」
 美紀はぞおっとした。越えてはならない最後の一線だけは残しておきたかった。
 後を振り返るようにして必死に哀願した。
「やめて、それだけは! お願い!! お・ね・が・いッ……!!
 中だけは……やめて―――――――っ!!」
 
 ドクン……!
 
 熱く、どろりとしたセーエキが、体内に勢いよくそそぎこまれた。
 ドク……ドクン……!
 驚くほど大量に……。大佐の肉棒が、ビクンビクンと脈打つたびに、かたまりが吐き出されるように、それは発射されたのだ。
「ああ……あ……」
 神保美紀は、鏡に映った自分が、眼鏡越しに大きく目を見開いているのを見た。
 自分の身に起こったことの重大さに、さっきまでの自分とは違ってしまったことに、美紀は気づかされていた。
 絶望と、虚脱感が全身を支配する。
 ようやく、お腹の中の異物が萎縮し、下半身をとらえていた大佐の手がゆるむと、美紀はずるずると力なく床に崩れ落ちた。
 涙がとまらなかった。
 
 
 
 奥の寝室からきこえてくる女性の喘ぎ声を耳にして、秋葉仁は青ざめた。
 
 あとで迎えに来る、と約束して、秋葉は神保美紀と、大佐と呼ばれる謎の男を、二人きりでホテルの一室に残して外に出たのだ。
 小一時間ほど町を歩き回り、秋葉は胸騒ぎをおさえられなかった。
 あの男……大佐と呼ばれるあの男とは、今日初めて会ったばかりである。
 自分が在籍する、T大医学部の恩師・岩本博士に引きあわされたのだ。「医学者である」とのことだったが、医者というより軍人のようなイメージだった。
 博士の命じるまま、割り切れない思いを抱きつつも、自分は大佐と神保美紀を会わせることに同意したのだが……。
 
 不幸な予感は見事に的中していた。
 寝室に足を踏み入れたとたん、目に飛びこんできたものは……。
 ベッドの上でからみあう裸の男女。大佐の浅黒い肉体と、色白の美紀の裸身。
 いやがる神保美紀を、大佐がレイプしている……!
 秋葉は瞬時に頭に血がのぼり、我を忘れた。
 
「や……約束が違う! あんた確か神保君の身柄は僕にまかせると……!」
 大佐は面倒臭げに顔をあげた。
「見てのとおり、私はいまドクター神保と愛し合っていたところだ。
 まあいい、君も一緒に楽しまんか?」 
 背後から美紀の乳房を揉みながら大佐は言った。美紀の口元からは切なそうな喘ぎ声がもれている。秋葉に向かって大きく開かれた股間の、陰唇はぱっかりと口をあけ、ピンク色のぬめぬめした媚肉が、血と精液で汚されていた。
 秋葉は目まいを感じた。
 そこにまるで悪魔のような大佐の囁きがきこえてきた……。
「欲望の命ずるままに生きてみないかね。欲しいものを手に入れるのは、簡単なことだよ」
 
 打算、ためらい、性欲、恋愛感情……。さまざまなドロドロした思惑が、秋葉の頭の中でうずまいた。
 目の前に全裸の神保美紀が、虚脱した表情で、男に身をまかせている。
 自分が好きだった異性。憧れた女性……。
 おまえが欲しかったものではないのいか――。ささやく声が聞こえる。
 
「ドクター秋葉、ドクター神保は処女だった。しかし、すでに処女でなくなった女が悪いわけではない」
「………………?!」
「君は彼女を、ガラスケースに入れて飾っておきたいわけではあるまい? さあ、来たまえ。男と女の関係ほどわかりやすいものはない」
 
 その時、秋葉の脳裏に浮かんだのは、初めて出会った頃の神保美紀の姿だった。
 T大の医学部に合格した春――。
 大学のキャンパスで出会った美紀は、地方から上京してきたばかりの、野暮ったい眼鏡をかけたうつむき加減の少女だった。
 決して多くはない医学部の女学生の中で、彼女は特段目立った存在ではなかった。
 しかし、秋葉はひと目見て、美紀が実はとびきりの美人であること、磨けば光る玉であることに気づいていた。
 それに、名門校出身の自分でさえ一年浪人した末に入学できたT大医学部に、地方の公立高校から現役で合格してきた彼女の秀才ぶりも気になった。
 
 東京での生活に馴れ、サークル活動にも精を出すうちに、思ったとおり彼女は美しく変わっていった。だがそれは、都会風のお洒落に身を染めたというわけではなく、あくまでも彼女の内面の美しさが表にあらわれてきたものだった。
 むろん競争相手はいた。
 彼女の美しさが明らかになるにつれて、恋愛の対象に、あるいは生涯の伴侶に、と思う男子学生は二人や三人ではなかったはずだ。
 露骨なモーションをかける金持ちのボンボンもいたし、ジャニーズ風の美形であることを鼻にかける軽薄な男もいた。
 
 嫉妬に似た思いを感じることもしばしばだったし、夜、彼女のことを思いながら、ひとりオナニーにふけることもあった。
 しかし、秋葉は、常に学部で最優秀の成績を修めていた彼女の気を引く最も有効な方法が、学問に打ち込んで頭角をあらわすことであると知っていた。
 だから、彼女に負けないようにと必死に勉強した結果、最難関の脳神経外科・岩本研究室で「秋葉仁、神保美紀……二人の俊英あり」と並び称されるまでになったのではなかったか。
 彼女にプロポーズする資格のある男性は自分しかいない。そんな確信があった。
 
 秋葉は何かにとりつかれたように、ベッドに近づくと、ベルトをゆるめ、ズボンをおろした。
 秋葉のペニスは、大佐のモノよりひと回りほど小さかった。半分くらい皮をかぶった亀頭の先から、ピンク色の部分が顔をのぞかせていた。
 
 好きにしろ……というように、大佐は美紀の肉体を秋葉の方に押しやった。
 目を血走らせ、ケダモノと化そうとしているという自覚もなく、秋葉はむしゃぶりつくように裸の美紀におおいかぶさった。
「やめて……やめて……」
 美紀は弱々しく拒絶した。
 
 前戯ももどかしかった。
 仰向けになってもほとんど型崩れしない、美紀の豊満な乳房を、秋葉は両のてのひらでつつみこむ。美紀のセックスアピールである、はりきった胸の弾力が、手にじかに伝わってくる。
 たぷんたぷんと波打つように乳が揺れる。
 これが神保美紀のおっぱいの触りごこち……。
「んんっ……」
 美紀が身体をねじる。
 嫌がっているようだったが、まるで全身が性感帯になっているかのように、美紀は敏感に反応した。
 たしかめるように、美紀の裸体のあちらこちらをまさぐる。
 うなじ、肩口、乳首、くびれた腰、尻、もものつけね……。
 美紀のアソコは、しっとりと濡れていた。
 なんだ、やっぱり感じているんじゃないか……。
 女なんてこんなもんさ。自分が医学部卒の肩書きをふりかざすだけで、女なんて簡単についてきたじゃないか。
 この女だって……。
 
 ゴクリ、と秋葉は唾液を飲み込んだ。
 自分のペニスは、痛いくらいに膨張していた。もうガマンできない。
「い……いれるよ」
「や……」
 憧れのオマ×コに……。
 神保美紀のオマ×コに……!
 
「いやあッ!!」
 太ももを抱きかかえるようにして、一気に挿入した。
 感触を味わうように、はじめはゆっくり、しだいに激しく腰を使う。
 ヌチュッ……クチュッ……ジュポッ……。
 神保美紀の身体の中は、小さくて、あたたかくて、締めつけがスゴかった。気を抜くとたちどころに射精してしまいそうだった。
 キスを求める秋葉から、美紀は顔をそむけた。
 秋葉はかまわずに、ヌルヌルと軟体動物のような腰の動きを続ける。
「ああ……キモチ……いい」
「やめ……て……秋葉……くん。お願い……だから」
「あうぅお……!」
 チュクッ……ヌプッ……ズプッ……グチュ……!
 すでに美紀は人形のように抱かれるばかりである。
 男の腰の動きが最高潮に達し、奇妙なうなうめき声が発せられた。
 青臭い、濃い目のザーメンを大量に吐き出し、秋葉は美紀の中で果てた。
 
 
「早すぎるぞ、ドクター秋葉! そんなことではドクター神保は満足できないそうだ」
 精も根も尽き果てて、ぐったりとした美紀の身体を、大佐が引きずり起こした。
 ベッドの上で、女の身体を四つんばいにさせると、尻を秋葉の方に向けさせた。
「ほんとうの獣のように交わってみないかね?」
 大佐が挑発する。
「私は口を使わせてもらおう」
 もういや……もういや……。心では拒絶していても、美紀は大佐の命令に逆らうことができなかった。
 
 ヌルリッ……!
 口から、どす黒い肉棒が突っ込まれ、喉元までとどいたかと思った。
「ん――――――ッ! んぐぅ――――――ッ!」
「歯をたてるな。舌先を使って、亀頭の裏側をなめまわすのだ」
「んふッ……んぐう……うふん……」
「そうだ、なかなかうまいではないか、ドクター神保」
 
 大佐の腰がピストン運動をし、巨大なイチモツが神保美紀の小さな口を割るようにして、出たり入ったりするのはたまらなくエロチックだった。
 口腔に分泌されるよだれが、どろーりと垂れ流される。
 
 美紀の尻が目の前に突き出され、女性器が丸見えになっているさまは、秋葉の勃起中枢を十分に刺激した。
 彼女の唇が、他の男の性器をくわえこんで、たどたどしい舌使いでねぶっているのもコーフンものだった。
 今しがた射精したばかりであるにもかかわらず、見る見るうちに秋葉のペニスは充血し、固さを取り戻していった。
 秋葉は膝立ちでにじり寄ると、美紀のヒップをつかまえる。
 キュッとすぼまったアヌスの、やや下に位置する、膣口にペニスの先端をあてがうと、えぐり込むようにインサートした。
「うぐぅ――――――――――うッ!!」
 声にならない叫びが、寝室に響きわたった。
 ・
 ・
 ・
 美紀は顔を押さえてわあわあ泣いていた。
 無理もない。見ず知らずの、愛してもいない男に、レイプ同然に処女を散らされたうえ、3Pまでも強要されたのである。
 性欲を満足させると毒気が抜けたのか、秋葉は取り乱している美紀を、なだめようとして手を伸ばしかけた。
「こんなことになるなんて……僕はどうかしていたんだ。申し訳ない、神保君……。
 でも、こうなった責任は……ぼ、僕が……」
 
 ――バシィッ!
 
 美紀の平手がとび、秋葉の頬を打った。
「二度と私の目の前に現れないでくださいますこと……!」
 憎悪と軽蔑を含んだまなざしを向けて、美紀はきっぱりと言いはなった。
「神保……くん」
 大佐は二人のやり取りをニヤニヤしながら傍観している。
 秋葉は叩かれた頬をおさえ、ぼう然としていたが、やがてがっくりとうなだれたまま、背広の上着とネクタイをかき集め、最低限の身だしなみだけを整えると、顔をそむけるようにしてベッドルームを後にした。
 
 
 秋葉仁が悄然として、スイートルームの扉を開け、廊下に出たまさにその時、目の前に何者かが立ちはだかった。
 180センチはあろうかという長身の女。Tシャツの上に、アーミージャケットを羽織り、迷彩をほどこしたズボンをはいている。
 平和な日本だからファッションですむが、戦地にあれば兵士そのもというかっこうをした女の、その瞳は怒りに燃えていた。
「なんだおめえは?」女が口をきいた。
「ひッ!!」
「どきな、クズ野郎。あたしは中にいる男に用があるんだ」
 ガッと、胸倉をつかみ、高々と持ち上げた。秋葉は足をバタつかせ身をよじった。
 そのまま後に放り投げると、秋葉の身体は無様に床にたたきつけられた。
「ひいいッ! ひゃあッ! ひ、ひ、人殺しぃ〜〜〜ッ!」
 ほとんど意味をなさない叫び声をあげ、秋葉は転がるようにしてその場を逃げ出した。
「チッ!」
 軽蔑のまなざしを一瞬投げかけると、もはや彼女は逃げ去った男にカケラほどの関心も示さなかった。
 キャシー竹橋は、部屋の中に入ると後手にドアを閉めた。
 ジャケットの内ポケットの感触を確かめると、警戒しながら歩みを進めた。
 
 キャシーの敏感な鼻は、スイートルームの奥から、人間の体液が混ざり合った、すえたような匂いがただよってくるのを嗅ぎとっていた。
 居間を抜け、半開きになったベッドルームに足を踏み入れるとそこには……。
 
 素裸の男と女。
 血痕と精液で汚されたシーツ。オスとメスの体臭がまざりあった、どろどろしたにおい。
 立ち上がれないほどに弱りきった美紀がベッドの上で、苦しそうにあえいでいる。
 精液で汚された美紀の股間から、出血はまだとまっていなかった。
 あまりにも凄惨な光景を目の当たりにして、キャシーは顔をそむけた。
 
「探したよ、キャシー。やっと会えたね」
 大佐が言った。
 恋人同士なら、素直に再会を喜ぶ言葉であったろう。
 しかし、一年余りの時間を経てめぐり合った二人の間には、明らかに越えられない溝が横たわっていた。少なくとも、女の方が男を見つめる目には、冷え冷えとした憎悪が浮かんでいた。
「ドクター神保に干渉すれば、必ず君が姿を現すと思っていた」
「久しぶりだな。スルーガ・ダイ軍医大佐殿」
「キャシーさん、来てはいけない……! ここは私が……」
 キャシーの登場に驚いた美紀が、声をあげた。
「美紀よ……悪かったな、間に合わなくて。このオトシマエはこいつの命でつけさせてやるぜ」
 
 キャシーは大佐の真正面に立ちはだかった。
 大佐の股間のイチモツは、すっかり精気を取り戻し、まるで今の情況を楽しむかのようにそそり立っていた。
「変態野郎、粗チンをしまいな。レディーの前で失礼だぜ」
 
 キャシーは全身に殺気をみなぎらせていた。
 怒りが頂点まで達していて、いまにも爆発しそうであった。
 
「再会を喜ぶ心の余裕もないのかね? キャシー」
「な〜に、あたしは喜んでるぜ。この手であんたをブチ殺せるんだからな」
 ひと言ひと言、かみしめるようにキャシーは話し続ける。
「あたし達が殺し合うのを、あんたは高いところからニヤニヤしながら見てたんだ」
「手を血で汚したのは君だろう」
「因果な商売だからな。だが、あんたの悪どさには負けるぜ、大佐」
「そうかね? しかし、親友だったリンダとジェシカをも、君は手にかけた……」
「違う! あれは……!」
 キャシーは口をつぐんだ。
 これ以上、大佐のペースに乗せられる義理はない。こういう時は一気にカタをつけるに限る。
 
 キャシーはジャケットの内ポケットに手をさし入れ、金属製の「何か」を取り出すと、まっすぐ大佐に向けた。
 それは、拳銃だった。しかも、一発で人を殺傷するに十分なだけ大型の自動拳銃……。
「スチェッキンAPS……。いい銃を持っている。たしかこの国では銃の所持は一般的には認められていないと聞いたが……。旧ソ連邦製ということは、ロシア、それとも中国経由か……?」
「便宜を図ってくれるヤツがいてね」
 キャシー竹橋は大佐に向けて照準を合わせたまま、不敵な笑いを浮かべた。
 
「だめ……キャシーさん」
 神保美紀が、怒りにふるえるキャシーに向かって必死にうったえる。
「黙ってな、美紀。おまえは何も心配する必要はない」
「キャシーさん……あなたは人を傷つけたりしてはいけない」
「お人よしにも程があるぜ、美紀。この世には死んで当然という人間がいるんだ」
 
 キャシーは再び殺気だった調子で、大佐に語りかける。
「あんたをぶち殺すには素手で十分だが、敬意を表して鉛弾を用意してやったんだ。ありがたく思いな」
「君に恨まれる覚えはないが」
「ぬかしやがれ! あたしと、仲間を見捨てて、皆殺しにした張本人はあんただ! 大佐!」
 いまにも引き金をひかんばかりのキャシーの怒り。しかし、彼女は爆発するのをギリギリで抑えつつ、言葉を続けた。
「あたしなりにない知恵をふり絞って考えたのさ。タニア・シティでのことについてな」
「ほう、それでどんな結論に達したね?」
 短い沈黙ののち、キャシーは決意したかのように話し始めた。
 
「あんたはあの日、反政府ゲリラと行動をともにしていたドクターMの拉致を指示した……」
 タニア・シティは、砂漠のオアシスに建設された町だった。そこは、少数部族が独立を求めた内戦で、政府軍に追われて転戦したゲリラ勢力が最後の拠点にしていた。
 ゲリラの指導者は、なぜかドクターMという医師。その日の作戦の目的は、ゲリラがアジトにしている元医療施設の防衛網を破り、そこにいるであろうドクターMの身柄を確保せよ、つまり拉致せよというものである。
 政府軍の空爆が繰り返される中、キャシー竹橋ら13人のサイコマンダー部隊は、ゲリラのアジトに強硬突入し、すぐに銃撃戦となった。
 
「ところが、銃撃をかいくぐり、あたしが部屋に踏み込んだとき、ドクターMはすでに拳銃で自分の頭をブチ抜いて死んでいた。
 あんたが何の目的でヤツを拉致しようとしたのかは知らねえが、あたし達の作戦はムダに終わったってことさ。
 さて、ドクターMの身柄確保に失敗したことで、あんたは国際法上ヤバイ立場に立たされることをおそれ、証拠の隠滅を図った。どうだ? 図星だろう」
 
「私は手を下していない」
 フン、とキャシーは鼻で笑った。
「あたし達はサイコマンダーだ。あんたのマインド・コントロール下で動かされるおもちゃの兵隊だった。悔しいがな」
 
 キャシーはたたみかけるように続けた。そろそろ日が傾きかけてきたようである。
 
「あんたはあの時、部隊員の深層意識に細工をして、仲間同士で殺し合いをさせた……。ゲリラの逆襲なんて最初からありゃあしなかったんだ」
 自分で自分の頭をぶち抜いたヤツもいた
 リンダも、スティーブも、イカれちまったのはそのためさ。
 あたしはあの時、戦闘であんたとの通信手段……ヘッドギアとワイヤレスを失っていた。だから、少なくともリンダ達より正気でいられた」
 
 神保美紀ははっとした。
 ――キャシーさんの目に涙が……。
 
「あんたを信じていたあたしがバカだった。あんたはあたし達の部隊を見捨て、まるで虫けらのように殺したんだ。政府軍の空爆が迫っている状況下でな……。
 すべての証拠をこの地上から消し去ったつもりだったんだ。
 だが、あいにくだったな。あたしは生きてるぜ……。あんたを処刑場に送る生き証人がな。
 あんたを公の場に引きずり出して、ふさわしい刑を受けさせてやる……!」
 
「言いたいことはそれだけかね? キャシー」
 この期に及んで、大佐は冷静だった。口元が、わずかにゆがんだような気がする。
「君が考えたことが本当なら、私は君を消さなければならないことになる」
「そのとおりだろうが……!
 あたしが生き残ったことは、あんたにとって最大の誤算だったはずだ。
 あたしのことを血眼になって探し回ったらしいな。ご苦労なこった」
 その時、大佐の肩口がわずかにふるえ、くぐもった声が口からもれた。大佐は……笑っていたのである。
「私が君を殺す……? 君はそんなことをおそれていたのかね?! これは傑作だ。ククククク……ファ――ッハッハッハ!」
 大佐ははじかれたように笑い出した。
 
「なにが可笑しい?!」
 キャシーが拳銃を握る手に力が入る。
「てめえ……」
 大佐の笑い声はやまなかった。
 彼女の中で、何かがはじけとんだ。
「とりあえず生かしておいてやるつもりだったが、気が変わった!
 くたばりやがれ!!」
「だめえ!!」
 美紀が制止する叫びが響き渡ったが、次の瞬間、キャシーの手にしたスチェッキンが火を噴いた。
 至近距離からの発砲である。射撃の名手でもあるキャシーの狙いは、万にひとつも外れることはない……はずだった。
 
 硝煙がたちこめ、鼻をつく。
 だが、キャシーが撃った弾はギリギリのところで、大佐の身体をかすめ、当たらなかったのである。
 二発、三発とたて続けにキャシーは引き金をひいた。しかし、弾丸はことごとく大佐の身体をかすめ、背後の壁にめり込んだ。そして、大佐はというと、まるでそうなるのが当然とでも言いたげに、身じろぎもせずに立ったまま、不敵な笑いを浮かべている。
「当たらない……。どうした、キャシー? 私は一歩も動いていない」
 わざと外したのか……? いや、違う。
 いちばん驚いたのはキャシー竹橋自身であった。
「あ……あ……?」
「君に私を殺すことはできない。それはサイコマンダーとして、君の深層意識に刻み込まれた掟なのだ。君の視覚、君の聴覚、君の筋肉は、おのれの意思とはかかわりなく、この私に生命の危機をもたらす攻撃を加えることはできない」
 
 マインド・コントロールの狂気に、美紀は今さらながら思い至った。もちろん、そのことに最もショックを受けていたのはキャシー本人だった。
「バカな……」
「知りたいかね? タニア・シティで起こったことの真実を?!」
「な……?!」
「君がたった一人生き残ったのは偶然ではない。仕組まれたものだったとしたら?」
「?!」
「君は、自分自身の記憶の一部を無意識のうちに改ざん、もしくは封印している。それは……」
「言わないで!!」
 美紀が叫んだ。
 
 ――私は思わず声に出して叫んでいました。それは、絶対に触れてはいけないキャシーさんの秘密……。
 
「ドクター神保は優秀な医師だ。うすうす君の秘密に気がついている。
「ど……どういうことだ?」
「兵士達の深層意識をコントロールし、部隊に内紛を起こさせたという君の指摘は正しい。証拠隠滅のため、といえばそうだろう。
 作戦行動が失敗した以上、彼らの命を犠牲にしてでも、守らねばならないものがあった。
 そのことで君が私を非難するなら、それもいいだろう。しかし、君もまた罪を負っていることを思い知るがいい。
 私が彼らの深層意識に向けて出した命令はこうだ。『最優先事項として、キャシー竹橋一人を生かして帰せ!』」
 
「…………!!」
「その瞬間、彼らは自らの好むと好まざるとにかかわらず、無意識のうちに君を殺すことができなくなってしまった。君を除いたお互い同士で殺し合い、君の標的になるだけの存在となってしまったのだ!」
「嘘だ……!」
「嘘ではない! 思い出してみろ。なぜリンダや、他の兵士達の弾丸が君に当たらなかったのか。その理由はいま君自身が証明してみせたはずだ」
 大佐は美紀を振り返った。
「ドクター神保、君はタニア・シティで発見された遺体の情況に関する記録を調べたのだろう?! ならばすでに察しはついているはずだ。なぜ、キャシー竹橋の記憶と、実際の遺体の損傷が食い違っているのか」
 
「お願い……! これ以上、キャシーさんを、いじめないで……!」
 美紀は、それだけ言うのがやっとだった。
「思い出すがいい、キャシー! リンダは君が撃った弾丸で頭を撃ちぬかれたのではなかったのか?!
 手術台に縛りつけられたまま、命乞いをするジェシカの喉笛をナイフで切り裂いて殺したのは君ではなかったのか?!」
「嘘だあ―――っ!! 嘘だあ―――っ!!」
 キャシーの額に脂汗が浮かんでいた。冷静なはずのキャシーが、哀れなまでに混乱し、おびえていた。
 あの時、はじめはゲリラの生き残りが自分達を狙っているのかと思った。
 しかし、仲間が一人、また一人と消されるうちに、実は敵は自分達の中にいるのではないかという疑いが、お互い同士の中にめばえてきた。
 疑心暗鬼になって、味方に発砲したヤツもいたはずだ。
 錯乱したスティーブは……。ええい! あとは思い出したくもない!
 キャシーは、最後まで生き残り、自分と対決した親友のリンダが、大佐に操られていたのかもしれないと疑っていた。
 しかし、今の大佐の話が事実であるとするなら、実は「敵」は自分自身だったことになる!
 
 信じられない! そんなことは信じたくない!
 キャシーの目は、大きく見開かれていた。
 
「君は自分に都合のいいように記憶を書き換えている。感傷にひたるのはやめたまえ!」
「なぜあたしだけが?! 何のために?! 何のためにそんなことをする必要があった?!」
 キャシーは必死に反論した。もし真実がそのとおりなら、自分が今までよりどころにしてきたものはどうなる?! 
「それは君が、生前のドクターMに接触した唯一のサイコマンダーだからだよ。キャシー竹橋!」
 大佐は冷たく言い放った。
 
「ドクターMと……? バカな、やつはあたしが部屋に踏み込んだ時にはすでにくたばっていたんだ……」
「違うね……。わずかだが君と話をするだけの時間はあったはずだ。それが真実だ」
「いったい……何を?」
「この世の終わりについての会話だよ」
 
 引き金にかかった指が、すでに真っ白になって震えていた。
 その時、まるで急に明るい場所に引き出されたように、キャシー竹橋の脳裏に、あの日のことが浮かび上がってきた。
 
 銃弾の雨をくぐり、敵ゲリラをなぎ倒してたどり着いた、ビルの一室。ドアを破り、中に入ると、急に静寂があたりを支配したような気がした。
 壊れかかった医療機器、散乱した書類、ホワイトボードに書きなぐられた化学式……。
 机に向かっていた男が、ゆっくりとキャシーの方を振り向いた。
 
 ――なんだって? あいつは死んでいたんじゃなかったのか?
 
「君はサイコマンダーだね? 目を見ればわかる」
「あんたがドクターMかい? 取り込み中のところ申し訳ないが、一緒に来てもらおうか」
 小銃を構えたキャシーが、初老の男に向かって言った。有無を言わせない調子だった。
 
「よく訓練されたサイコマンダーだ。しかし、まだ完全ではない……」
「何を言ってるのかわからねえなあ。下での騒ぎはもうすぐカタがつく。あんたのお仲間のゲリラどもは皆殺しさ……。残念だったな!」
 
 もうこの男に逃げ場はない。しかし男は拍子抜けするほど冷静だった。
「アドレナリンの分泌をコントロールできないでいるな。なるほど、これは考慮に値する」
「動くな!!」
 ドクターMは、席を立つと、まるで散歩にでもでかけるかのような足取りで、キャシーの目の前を横切り、マジックペンで、ホワイトボードに数式を書き足した。
「完成だ」
 満足そうに笑い、そしてホワイトボードをキャシーにみせつけるかのように、彼女の方に向き直った。
「わかるかね?」
 でたらめに書きなぐったとしか思えない無数の数式、アルファベットがホワイトボードの表面を埋め尽くしていた。
「あいにくあたしは、ろくすっぽ学校にも通ってないんでね。小難しい算数の問題なんざわかりたくもねえな」
「まあいい……。君に託すことにしよう。私の最後のメッセージを」
「おい、何を言ってる? おまえはあたしと一緒に……」
「君の名前は?」
「キャシー……竹橋」
 名前を訊かれて、答えるつもりはなかった。しかし、なぜかその時、自分の名前が口をついて出てきた。
 そしてドクターMは、どこに隠し持っていたのか、拳銃を取り出すと自分のこめかみに当て、最後にこう言った。
「逃げるんだ」
「おい! 待て!!」
 ・
 ・
 ・
 ――そこでいったん記憶が途切れた。
 
「キャシー! おい、キャシー!」
「あん?」
 背後からキャシーに声をかけたのは、彼女の援護にまわっていた部隊の同僚・ジョナサンだった。
「死んでいるのか?」
  ジョナサンが訊いた。
「ああ……」
 おかしいな、頭の中がぼやけている……。
 ドクターMは、拳銃で自分の頭をぶち抜き、机に突っ伏していた。死後それほど時間は経っていないようだ。
「目標発見。死んでいる……」
 ・
 ・
 ・
 ぼんやりしていた光景が、急に鮮明になったかと思うと、また暗い海に沈んでいくかのように、タニア・シティでのあの日の記憶の断片が、キャシー竹橋の脳裏に浮かび、そして消えた。
「キャシー」
 名前を呼ばれたような気がして、キャシーは現実に引き戻された。
 そこに立っているのは裸の大佐だった。
 
「知らない……。それ以上何も覚えちゃいない」
 キャシーは首を横に振る。何が何だかわからない。混乱していた。
 
「人間は一生涯に見聞きした、すべてのことを深層意識下に記憶できるという説を知らんかね?
 サイコマンダーはそうした能力に特化した個体でもあるのだ。
 君の大脳皮質は、つまりサイコマンダーのハードディスクとでも言うべき記憶領域は、ドクターMと出会い、見て、聞いたことすべてを記録している。一年前のことであってもね。
 彼との会話の一切、ホワイトボードに書かれた化学式……。
 君はそれらの記憶をドクターMにより封印されている。
 そしてそれは現在の世界の軍事情勢を一変させるほどの機密事項なのだ。
 君には思い出してもらわなければならない。
 私と一緒に来てもらおう!」
 
 大佐はキャシーに向かって、ぐい、と歩み寄った。
 
「いやだッ!! くるな!! あたしに触るなああッ!!」
 あっという間に壁際まで追いつめられ、野良猫のように怯えた目で退路を探し、右往左往する。
 裸の男に追われて逃げ回る自分! さぞかしこっけいな女兵士!
「いやあ―――――ッ!」
 何かにつまずいたように、キャシーは前のめりにがくりと膝を落として、ぶざまにひっくり返った。
 キャシーは、そのまま立ち上がろうともせず、部屋の片隅でうずくまっている。
 
 大佐はキャシーを見下ろし、呪文か何かでもつぶやくかのように語りかけた。
「リンダ、ジェシカ、ケイン……」
「ひいッ!」
 キャシーの背中がビクン! と、震えた。
「ジョナサン、スティーブ、グエン……」
 それは、タニア・シティで命を落としていった、仲間の兵士達の名前だった。
「ゆるして……ゆるして……」
 
 震えるキャシーの背中に、大佐の手が触れた。
 
「すまなかったね、キャシー。つらい思いをさせた。
 今のはみんな嘘だ。タニア・シティでの事件は、不幸な偶然が積み重なった結果にしか過ぎない」
「うえっ……えっ………えっ………えっ……」
 大佐の言葉が耳に入っているのかいないのか。キャシーは床に転がったまま、子どものように泣きじゃくるだけだった。
「君が生きていてくれて嬉しい。私が言いたいのは、ただそれだけのことさ」
 大佐はさりげなく、キャシーが手にした拳銃を取り上げた。それは意外なほど簡単に彼女の手から離れた。
 
「君が最高だ。おいで、キャシー。抱いてあげよう」
「だ……誰がおまえなんかに……!」
 キャシーは大佐につかまれた腕をふりほどこうとした。しかし、彼女の動きに力強さはなく、大佐にかろうじてささえられているようにしか見えなかった。
「私の胸においで、キャシー。君がまだ少女だった頃のように……」
 
 信じられない光景を、神保美紀はぼう然として見つめていた。

 
 ――以前、どこかで聞いたことがあります……。
 条件反射を利用した催眠術では、多くの場合、術者の使うキーワードに反応して、催眠状態におちいった者は、本人の意思にかかわりなく、予定された行動を取るという……。
 キャシーさんは、ずっと前から、大佐によって、あらかじめ約束された結末を仕組まれていたのではないかと、そう思えてなりません。
 それは、世界一残酷なキーワードでした。
 
「キャシー、君を愛している」
 
 キャシーをささえていた最後のプライドが、その時完全に崩れ去った。
 
「抱いて……。抱いて」
「おいで……!」
 
 うわあああああ―――――――!
 
 大きな泣き声をあげて、キャシーが大佐の首にむしゃぶりついた。
 大佐が手際よくキャシーのTシャツをたくしあげると、彼女の巨大なバストがぶるるん! と、こぼれ出た。
 乱暴に乳房を揉みしだく。
 お互いの舌と舌をからめる濃厚なキス。
 
 髪を振り乱したキャシーが、興奮して大佐の肩口にがぶりと噛みついた。
 だが、大佐は何事もなかったかのように、女を絨毯に押し倒し、ズボンと下着を強引に引きずりおろすと、股をぐい、と開かせた。
「んあああッ……!!」
 キャシーが大きく身体をのけぞらせた。
 大佐のペニスが突き入れられ、すぐに腰が大きくグラインドし始める。
「いいッ! いいッ! いいのぉッ……!!」
 キャシーの巨乳が波のように揺れる。
 大佐は腰を使いながら、キャシーの乳房にむしゃぶりつき、乳首を吸った。
「あはあぁ―――――――ん!!」
 かけらほどの恥じらいもなく、キャシーの喘ぎ声は部屋中に響きわたった。
「き……きもちイイぃ……!! もっと……もっと突いてええ!!」
 
 抱き合ったまま、床の上をころがるようにして、二人は体位を入れ替えた。
 上になったキャシーは、大佐の腕をとらえ、自分の乳房にみちびくと、ムニュムニュとわざと乱暴に揉ませた。
「あはぁッ……! はああンッ! うあッ、あッあッあッあッ……!!」
 狂ったように腰を振るキャシー。
 二人がつながった部分から、赤黒い大佐の肉根が、はげしい速さで出たり入ったりしている。
 腰骨がぶつかり合い、肉と肉がぶつかり合う音が聞こえた。
 汗が飛び散り、汁が見る見るうちに絨毯にシミをつくる。
 
 大佐とキャシーの獣のようなSEXを目の当たりにして、神保美紀は、ただおびえたように、ベッドの上で裸の身体を固くするだけだった。
 絶望と、無力感が支配する、どうしようもない情況のなかで、美紀は不思議と自分の身体の芯が熱くなっていくのを感じていた。
 
 
 ――目を閉じ、耳をふさいでいたい……。でも、私は直視せずにはいられなかったのです。その時の、キャシーさんと、大佐の姿を。
 私は時々思うのです。男と女の業の深さについて。
 ケダモノのような交わりでさえ、生殖という宿命的な掟を超えた結びつきを、求めていることには変わりはないものなのではないでしょうか。そんな気がしていたのです。
 
 ふいに、急速に酔いがまわっていくような感覚におそわれ、私は気が遠くなっていくのを感じました――。

 
 


 

 

戻る