超越医学研究所HML


 

 

カメレオンガール



「点呼を取ります! 番号、いち!」
「にィ!」
「さん……」
「キャシーさん! 元気がありませんわ!」
 怒られちまった……。
 
 よお、みんな、元気かい? あたしはすこぶる元気がない。
 あたしの名前はキャシー竹橋。信じてもらえないかもしれないが、もともとの仕事は職業軍人、女兵士ってやつだ。
 ここは超越医学研究所。東京のどこかにあるらしい。海が近い、つまり湾岸にあるようなんだが詳しいことはわからない。機密に関する部分が多いってのは、たぶん後暗いことでもやってるんだろう。
 
 いまの状況を説明しておこうか。
 あそこでテンパってる白衣着て、メガネかけた女は、この研究所の主任研究員のドクター神保美紀。
 んで、あたしの隣でうれしそうにしているのが、看護婦の小川もと子。
 美紀のヤツがなんでご機嫌ななめで、あたしに当り散らすかというと、それは今朝の話なんだが……。
 実は美紀は、海外出張だとかいって、しばらく研究所を留守にしていたのが、今朝になってふらりと舞い戻ってきた。
 あたしの部屋に現われて、みやげ話でも聞かせてくれるのかと思いきや、開口一番「検査です」ときたもんだ。
 あたしはいちおうここの入院患者ということになっているが、いたって健康だ。
 だからこうしてリハビリと称して見習い介護士ということで、美紀の手伝いもしている。
 検査なんぞいらぬお世話だと断ったんだが、勘弁してくれる気はないらしい。
 
 それでもって定期検査の結果、血中脂質がえらく上昇しているとか、血圧が上がっているだとか、美紀のやつは運動不足が原因だと、えらくご立腹で、あたしのことをカルテの束でバシバシしばきゃあがったんだ。
「いて! いて!」と逃げ回るあたしにさらに追い打ちをかけ、美紀は掃除用のモップを振り回して部屋からあたしをたたき出した。無茶をしやがる。
 そのままの勢いでここまで連れてこられたってわけだが、まったく暴力反対だぜ。
 まあ、美紀の出張中、あらかたゴロ寝をして過ごしたあげく、5キロがとこ体重を増やしちまったあたしも悪いんだが、ガキじゃああるまいし、自分の美容と健康ぐらい自分で管理できるってもんだぜ。
  
 ところで、ここ超越医学研究所は水道橋なんたらという年食ったオヤジが所長をやっている怪しげな研究機関だが、いちおう臨床治療もやっているらしい。
 どこの病院でも扱いかねるような病気の患者ばかり集まるもんだから、隔離病棟なんてもんが用意されている。
 まあ、あたしも以前そこに放り込まれたクチだが……。
 
「さて! これより、22号室の患者の治療行為を行います!」
 で、ここはその22号室の前の廊下だ。
 美紀はメガネのフレームをつまんでポーズを決めると、高らかに宣言した。はりきってるなあ……。
 額に青筋までたてて、緊張しまくっているのがアリアリなんだが。
「今から私が病室に踏み込みますので、キャシーさんは臨戦体制を、もと子ちゃんは何かエモノを持ってください!」
 
 ?????? 穏やかじゃねえな。
 たかだか診察に武器がいるのか? しかし、美紀ももと子も真剣な表情だな。
 どうもこの研究所にいると、自分がいちばんまともな人間に思えてくるから不思議だ。
 まあ、ここじゃあ別に珍しいことでもないので、あたしはとりあえず身構えた。
 もと子はモップを持ってドアの脇にへばりついた。さっき美紀が振り回していたやつだな。
「七瀬さん、入りますわよ」
 22号室の患者は七瀬というのか……。
 美紀がノックをして、ゆっくりとドアを開けると……。
 
「ギック! ゲッコ! ゲッホ!」
 何か白い人影らしきものが、いきなり病室の中から、おかしな声をあげながら、ものすご勢いで飛び出してきた。
「ぎゃっ!」
 真正面に立っていた美紀を踏み潰していった。電車道だな、まるで。
 ついで、もと子が柄の長いモップをバットのようにぶん回したが、見事に空振りして、一回転すると腰を抜かした。タイミングが遅すぎる。まったく何をやってるんだか。
 あたしがすかさず右フックを繰り出して、すぐ脇を駆け抜けようとした「それ」に、一発くらわせると、「それ」は、勢いあまり、もんどりうってひっくり返った。
 
「しとめたぜ、美紀」
 美紀が頭を振りながら、のろのろと立ち上がった。
 踏み倒されたとき、イヤな音がしたが大丈夫か?
「え……ええ、すみません。キャシーさん……」
 ふだんなら「なんて乱暴な!」とか激怒されるところだが、美紀のやつ意識がモーローとしているらしい。
 さて、あらためて見ると、あたしがなぎ倒したのは普通に人間だな。
 仰向けにひっくり返って泡を吹いているが……。
 しかも、年のころ17〜18歳といったところの若い女だ。長い髪を後ろにまとめて三つ編みにしている。けっこう可愛らしい顔をしてるんだがな。
 服装はというと、白っぽいパジャマを着ている。
「さ……さあ、キャシーさん、もと子ちゃん。クランケ(患者)を処置室まで運ぶんです」
 はいはい、神保先生のおおせのままに。
 
 あたし達は気を失った女の患者を、処置室まで運んできて、ベッドに横たわらせた。
 あたしは時々思うんだが、この研究所はどうも設備が大げさすぎる。
 最先端の医療だかなんだか知らないが、患者を拘束するベッドといい、大砲みたいな形のバカでかい器具といい、得体の知れない薬液のつまった水槽といい、見ただけで病気が悪化しそうだ。
 そういえばこのあいだは、患者を高速回転させてGをかける装置なんてのもあった。
 宇宙飛行士の養成所じゃあるまいし。
 まあ、あたしが犠牲になるわけじゃないからいいけどね。
 
「彼女は七瀬彩子さんといって、当研究所の入院患者です」
「ああ、そう」
「彼女は多重人格という症状で、身体の中におおむね10から12の人格が共存していると考えられます」
「ふ〜〜ん、まだ若いのに気の毒なこった」
「たまたま危険な人格が表面に現れていたりすると、さきほどのような凶暴な行動に出る場合があるので注意が必要なのですわ」
「さっきの動きは、人間離れしていた気がするがな」
「今から催眠療法により、患者の固有の人格を表面に導き出したうえ、治療を試みることとします!」
 
 さて、多重人格だそうだが、治療と称して美紀が持ち出したのは、なんたらコントローラーとかいう得体の知れない機械だ。
 ヘルメットのようなものに、無数の電極とコードがつながっており、こいつを患者の頭にすっぽりとかぶせるらしい。まあ、お約束だな。
 しかし催眠療法とかいった、穏やかなものじゃないような気がするんだが。
 もと子がその妙なヘルメットを女にかぶせた。早く正気に戻ったほうが身のためだと思うがな。
 
「もと子ちゃん、スイッチ・オンですわ!」
「らじゃー」
 もと子がレバーを引くと、ガコン! とすごい音がして機械が動き出た。電極かぶった女はぶるっと身を震わせたが、すぐ静かになった。
 一瞬あたしは、大電流が患者に流れて、ガイコツが透けて見えるという図を想像したんだが、そこまで不真面目なものでもないらしい。
 美紀のヤツは、ディスプレイをじっと見ている。なにやら波形が出てきたかと思ったら、それが伸びたり縮んだりして、波紋のように丸くなったり、四角くなったり、色が変わったりしている。
 さっぱりわからんな……。
 ベッドの上の女は目をつむったままだが、なんだか身体をぶるぶると細かく震わせている。
「あれ? あれ? あれ?」
 美紀が妙に難しい顔をしているので、あたしともと子は、後から額を寄せ合って、ディスプレイを覗きこんだ。
 いつの間にか画像は、ゾウリムシみたいなけったいな形になって、ウゾウゾと蠢いている。
 なんかヒワイな形だな。
「お、おかしいですわね」
 美紀がエンター・キーを連打する。
 すると急に、ディスプレイ上の波形がぶち切れて、画像がものすごい勢いで左から右へと流れ出した。
「ひッ!」
 美紀のメガネがずり落ちそうになった。
 
「ふ―――――――っ」
 あたし達はぎょっとして、視線を向けた。
 ベッドの上で横になっていた女が、大きなため息をついたのだ。
 震えが止まったかと思うと、今度はくねくねと身をよじり出した。
 それだけじゃねえ、パジャマのズボンに手ぇ突っ込んで、股間に指をはわせてやがる。
「はぁん……うふん……あはッ……」
 ヘンな声出しやがって!
「いや―――――っ! どうなってますの――――っ?!」
 美紀が顔を真っ赤にして、必死にキーボードを叩きまくった。
 キーボードをやたらと叩くと、ディスプレイの波形がなんとか元に戻ろうと、伸びたり縮んだりするのだが、どうもムダな努力らしく、やがて一切合財ぶち切れると、画面が真っ白になった。
 美紀はがっくりと、キーボードに突っ伏した。
 
 すると、喘ぎ声がとまり、静かになったかと思うと、女は、おもむろにがばっと半身を起こして、ぱっちりと目を開いた。
「直ったんじゃ……ねえのか?」
「い、いいえ! 別の人格が出てきてしまったのですわ!」
 たしかに様子が変だ。
「うふん……」
 女は、あたし達の方を見て、色気づいたような流し目をくれた。
 17、8の娘の色香じゃねえな。一人前にシナをつくってやがる。
 
「お姉様がた、そんな目で見つめちゃ、いやあん」
 と、言いやがったもんだ。
 お姉様てなあ、あたし達のことかい?!
「そんなに見つめちゃって……あたしって、そんなに魅力的?」
 たしかにあたし達はその時、鳩が豆鉄砲くらったような顔して、じっと女に見入っていたと思う。
「好きモノのお姉様がたに……あたしの裸……見せてあ・げ・る」
 プチプチと、パジャマのボタンをはずすと、がばっと前をはだけた。
 勢いよく脱いだもんだから、おっぱいがぷるんと揺れた。
 ノーブラかよ! まあ、そんな気がしてたんだが。
 美紀が「キャッ!」と言って顔をおおった。
 このアマ、ストリップを始めやがった。
 
「い、い、いけませんわ! 踊り子さんの人格が現われてしまいましたわ!」
 多重人格というより露出狂の気がするが……。言うに事欠いて「踊り子さん」もないもんだ。
 女は中腰になって、尻を振りながらパジャマのズボンを脱ぎだした。
 全部脱ぐつもりらしいな。
 
 パンツをツツツっと器用にずり下ろし、右足を抜くと、パンツはくるくると丸まって、左脚の太ももにまつわりついた。
 ちょうど太ももに、バンダナでも巻いてるあんばいだ。
 どうしてこんな中途半端な脱ぎ方をするかというと、ストリッパーが舞台の上でパンツを脱ぎ捨てると、盗んで帰る客がいるのと、警察に踏み込まれた時に「いや、全部脱いでいない。パンツは身につけていた」と弁解するためだと水道橋のオヤジが教えてくれたっけ。
 嘘かホントか知らねえけど。
 
 女はベッドの上でのけぞると、股をM字におっぴろげて、おいでおいでをした。
 微妙に浮かした腰を挑発的に振りやがる。
「そこの看護婦のお姉ちゃん。あたしのココに、指を挿れてぇ! 触診してぇ!」
 看護プレイかよ!
「あわわわわ!」
 もと子のヤツ、何をトチ狂ったのか、手を伸ばして、女のマ×コに指をすべらせた。
 なんだか湿ったような音がした。
「もっと奥までぇ……! 感じちゃうぅ……!」
 女はヨガって、三つ編みにした髪を振り乱した。
 もと子のヤツ、あたしの目を見て、
「し……締めつけてますぅ!」
 真顔で言われてもあたしも困るが。
 たしかこれは「花電車」とかいう技のひとつだと、水道橋のオヤジが教えてくれたことが……いや、そんなことはどうでもいい。

「な、な、な、な、なにをしていますの?! もと子ちゃん!」
 美紀が烈火のごとく怒って、口から泡をとばしながら、装置のレバーを片っ端から引き倒すわ、あわててプラグを引っこ抜くわ、えらいことになってやがる。
 バリバリバリバリバリバリ!!
 女のかぶったヘルメットの電極から火花がとび、女がベッドの上で、きりきり舞いした。
「きききききききききき!」
 おっと、急に暴れだしやがった。
 
 ヘルメットをかなぐり捨てると、ベッドの上で四つんばいになって、ぴょんぴょん跳びはねた。
「私はバッタ! 私はバッタ! スイ――――――ッチョン! スイ――――――ッチョン!」
 
 これにはさすがのあたしもたまげたね。
「今度はバッタの人格が現われてしまいました!」と、美紀。
 それは「人」格じゃねえだろうが! ちなみにこいつはバッタ目のキリギリスの一種だ!
 女は思い切り身を深く沈めたかと思ったら、自分の身長より高くまで跳びあがった。
 落ちてきたところに、もと子がいたもんだから災難だ。
「ぎゃあ!」
「スイ――――――ッチョン!」
 もと子を踏み潰したことになんか、まったく意にも介さず、女は尻を振りながら、さらに2回、3回とキリギリスのようにとびあがって、そのまんま部屋の外へ出ていった。
 
 跳ねていっちまいやがった。
「おい、もと子。だいじょうぶか? しっかりしろ!」
 今日はよく人が踏み潰される日だ。
 だめだ、完全に白目をむいてやがる。
 世も末だな。
「キャシーさん! ただちにクランケを取り押さえるんです!」
「おう!」
 あたしと美紀は、気を失ったもと子をおっぽり出して、あわてて処置室から走り出した。
 廊下の突き当たりまでくると、パンツが一枚脱ぎ捨ててあったんだが、女の姿はどこにも見えない。
 美紀はまるまったパンツを拾いあげると、くんくんと匂いをかいだ。
 気は確かか? 美紀。
 
 妙だな……。このフロアから外には簡単には出られないはずなんだが。
 すると美紀が真顔でこう言ったもんだ。
「カメレオンの人格が現われて、周囲の環境に擬態したようですわね」
 
 だからそれは人格じゃあねえっつってんの!
 
「キャシーさん、二手に分かれましょう」
 廊下はここから先、左右に分岐している。なるほど、それが合理的ってもんだ。
 美紀は右へ、あたしは左へと進んだ。
 ちなみにこの研究所は大部分が地下にある。よって、病室も廊下もほとんど窓がない。
 非常事態には、隔壁で特定のブロックを閉鎖することも可能だ。なんだか宇宙船の中でも歩いているような気分になってくる。
 
 さて、いっこうにあのメスガキの姿は見えんな。
 しかし人間が、擬態するってのは、マジな話なのか?
 あたしは、野良猫でもとっ捕まえるくらいのつもりで、鼻歌を歌いながら、歩いていたんだが……。
 
 ドサッ!
 
 突然天井から、何か大きなかたまりのようなものが降ってきた。
 ?????? なんだこりゃ?!
 
 あたしは反射的に、その何者かを、ひっつかんで一本背負いに放り投げた。
 すると、そいつは空中で一回転すると、猫のように四つんばいになってふわりと着地した。
 間違いなくそいつは、さっき処置室から逃げ出した彩子とかいうガキだ!
 まさか?! どこから湧いて出やがった?! 少なくとも直前まであたしの視界にとらえてはいなかったはずだ!
 あたしとしたことが油断したぜ……。この女完全に気配を消してやがった。
 上から落ちてきたってことは、天井にへばりついてたのか?!
 彩子は、床に這いつくばるようにして、トカゲかヘビが獲物に襲いかかるような姿勢をとっている。
 攻撃してくる気か? こうなりゃ、先手必勝だ!
 あたしは、一気に間合いをつめて、女の下顎を蹴り上げてやった……つもりだった。
 
 しかし女は、あたしの想像を超えるスピードで、横っ飛びにとんで蹴りをかわしやがった!
 小生意気な!
 
 あたしが連続攻撃で、女に一発くらわせようとしたその時だ。
 信じられないことに、女はあたしが見ている目の前で、あっという間に周囲の色に溶け込んで、見えなくなった。
 マジかよ?! おい!
 こうなると、もうオカルトだな。ゲリラにでもスカウトすりゃ戦地じゃ重宝されるぜ。
 
 白状するとその時あたしは、べっとりと全身に冷や汗をかいていた。目に見えない敵を相手にするってのは、勝手が悪い。
 どこだ……?
 あたしは注意深く、一歩、二歩と踏み出した。
 
 あたしは、背後にぞっとするような殺気を感じて、思わず振り返った。
 しかし、一瞬遅かったらしい。
 
 しまった! バックを取られた!
 素っ裸の女が、あたしの背中に飛び乗って身体を密着させると、脚を胴っぱらにからめ、首を締め上げてきた。
「けけけけけけ」
 勝ち誇ったように気味の悪い声を出しゃあがって。
 腕をからめて、頸部を締めつけてきやがる。
 声が出ねえ……。こいつ素人とは思えねえ。
 
 膝をつけばそのまま締め落とされるか、絞め殺されるか……。
 あたしは手を後ろに回してカメレオン女をひっぺがそうとしたが、この女べったりとはりついている。おっぱいを背中に押し付けて、あたしが喜ぶとでも思ってやがるのか?
 意外とデカいな……。美紀ほどじゃねえが、変態中華女よりリッパだぜ……なんてくだらねえことを考えているうちに、いけねえ、気が遠くなってきやがった。
 さて、どうする……?
 こいつあたしが苦しがって床に倒れれば勝ちだと思ってるんだろうが、ひとつ大きな誤算をしている。
 今いるのが、だだっ広い場所じゃなく狭っ苦しい病棟の廊下だってことだ!
 
 あたしは思いっきり後に飛びすさると、背中からコンクリートの壁に全体重をかけてぶつかってやった。
 
 ドガッ!!
 
「うぎゃッ!!」
 どうだい、サンドイッチプレスの味は?!
 あたしはもう一回はずみをつけて、強烈な体当たりをくらわせた。
 グシャッ!!
「ひぎぃッ!!」
 あたしの首を締めつけていた腕がゆるんだ。
 後頭部を強打したようだな。
 カメレオン女はぐったりとなって、あたしの背中からずるずるとずり落ちた。
 フラフラになりながらも、ダウンしねえ根性は誉めてやる。
 あたしはとどめとばかり、当て身を一発くらわせてやった。
 女は床に崩れ落ちた。
 
 それからどうなったかというと、あたしは美紀から「なんて乱暴な!」と、さんざんどやしつけられた。
 死にかかったあたしの身にもなってほしいぜ。
 七瀬彩子は、目をさまして、
「あたし、どうしたのかしら?」なんて、すましてやがる。
 とりあえず正気に戻ったらしい。
 イカれた機械も、たたきゃあ直るってこった。
 まあ、しばらく入院しとくんだな。美紀はウデのいい医者だ。そのうち何とかしてくれる。
 
 
 
 ――やれやれ、疲れたぜ。とんだ重労働をしちまった。
 
 あたしは自分の部屋に戻ってくると、ベッドに倒れこんだ。
 テレビのスイッチを入れて、しばらくボーっとしてたんだ。メシの時間まではまだしばらくあるな。
 
 テレビが流していたのはクソ面白くもない、ただのニュース番組だった。
 だが、そのニュース画面に、あたしの目は一瞬くぎ付けになった。
 それは東京で開催されている医学に関係ある国際会議だかなんだかのパーティーの様子を映した映像だった。
 
 大佐……。
 
 テレビに映った時間はほんの数秒だったろう。
 画面のすみっこの方で、パーティーに集まった各国の年寄り連中に混じって、グラスを傾けながら、冷えた目で周囲を見回していた男をあたしは見逃さなかった。
 どこから紛れ込んだのか知らねえが、日本に来てやがったのか……。
 あいつがわざわざ日本にまでやって来たってことは、このあたしを追って来たってことだな。
 
 ――スルーガ・ダイ軍医大佐。それが本名なのかどうか誰にもわからない。
 国際紛争の裏舞台で暗躍する戦争屋、死の商人。
 人の心をもてあそぶ卑劣漢。
 あたしの元上官、サイコマンダー部隊の司令官。
 
 こいつのツラを見ると、あたしはサディスティックな気分になってくる。
 あたしの心はすっかり冷え切っちまったっていうのに、口元に皮肉な笑いが浮かんでくるのをどうすることもできない。
 いずれお目見えがかなうってことかい? 大佐殿。
 平和な日々も今宵限りってことか。
 だとすれば、きっと明日はいい日だ。

 
 


 

 

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