キャッツ・アイ


 

 

第9章


某所 使用人室 AM0:00――――――

 窓の無い広めの部屋に、得体のしれない音が響いている。広めと言っても、ベッドが8つもあり、8人が寝泊まりするには狭い中途半端な広さであった。男がこの屋敷を手に入れた時、前の住人が使用人の寝室として使わせていた部屋の一つで、女性の使用人の部屋だった。使用人達が朝晩寝起きするだけの部屋だったので、当初はベッドがあるだけのシンプルな部屋だったが、今ではすっかり様変わりしていた。

 縄やボールギャグ、様々なサイズのボンテージ……部屋のいたるところにSMやプレイに使われるような妖しいアイテムが豊富に置かれ、8つのベッドは全て拘束具が取り付けられ、うち3つのベッドは既にそれぞれ新入りの奴隷猫が捕らえられていた。奴隷猫たちは上半身を起こした状態で後ろ手に縛られ、懸命に何かを咥え、頭を揺れ動かしていた。彼女らの前にはやはり全裸の奴隷猫が立っており、その股間には大きなペニスバンドが取り付けられている。彼女達が咥えている「何か」はまさにそれであった。

 ここは奴隷猫が主人への「奉仕」などを訓練させるための部屋と化していた。いくら催眠にかけても、根本的な技術が無ければ上等な奉仕は出来ない。男が集めている娘達の中には、まだ経験の無い者も多い。そういった技術をここで開拓し、さらに奉仕への欲求、奉仕することの悦びをここで刷り込まれるのだ。

 先程からの不気味な音は彼女らが奏でる淫乱な音だった。彼女らが頭を揺らす度、ペニスバンドを咥えた口から「クチャクチャ」と卑猥な音が響く。それに混じり、喉を突かれた口から「ングッ……ゴ……」と無意識に出る声が淫乱なハミングを作り出す。

「奉仕すればするほど気持ち良くなる」という暗示を埋め込まれた3匹の奴隷猫は、顔を上気させ、うっとりとした表情でフェラチオを続ける。だが、3匹のうち一番最初に奴隷猫化した59号、トモミの動きはひどく緩慢だった。長期にわたる教育と、3匹の中で最も長くこの訓練を受けているため、その疲労は既に限界まで来ていた。

「アカリ、トモミを手伝いなさい。仕上げてもいいわ」
 冷たい声が響く。
「はい。『チーフ』」トモミのフェラチオを受けているアカリは答えると、無表情のまま両手でトモミの頭を掴むと、激しく前後に揺らし始めた。
「ウグ…ガッ…ゴゥ…」激しい揺れに伴い、トモミの挙げるいびつな声も激しさを増す。グチョグチョと、生々しい音もより一層大きく響いた。

「アガ、ガ、アァッ……」
 やがてトモミは声を挙げなくなり、グルン、とその眼は白に裏返った。完全に脱力した口からドロドロと流れ出るトモミの涎が、彼女が完全に失神したことを表していた。
 それを見て、アカリはトモミの頭から手を離した。彼女の口とペニスバンドの連結は、どろりと糸を引いて解かれ、トモミは白目のまま、ベッドに取りつけられた拘束台に倒れかかった。

「御苦労さま。貴方は下がりなさい」
 不意に現れた一人の女がアカリに言った。
「はい。『チーフ』」アカリは猫の礼を一つすると、後ろへ下がって行った。

 白銀の地に煌びやかな飾りと、手首、ハイネックの首筋に白いファーのついた、某ミュージカルを思わせる豪華なレオタードと、猫をあしらったような濃いめの化粧を施した女、「チーフ」は、「ティーチャー」と同じく、男によって最初に捕らえられた女性達、つまりキャッツの幹部の一人で、盗賊「キャッツ」を実質的に取り仕切るリーダーで、洗脳後の奴隷猫達の訓練、教育などを任されている。強力な催眠暗示によって作られたサディスティックな人格から来るリーダーシップと、他の、ただ操られているだけの奴隷猫達の比ではない身のこなしで盗賊「キャッツ」を牽引する奴隷猫だ。

 チーフは男やティーチャーが持っているのと同じ、小さな金色の鈴を取りだすと、軽く振って、チリーンと澄んだ音を奏でた。
 すると、ぽっかりと口を開けて失神していたトモミが、ピクン、と一度反応したかと思うと、何かに引っ張られるようにムクリと状態を起こした。後催眠暗示で、この鈴の音を聴くと、奴隷猫達はどんな行動をしていても、鈴の持ち主に侍り、指示を待つようになる。男と、幹部の猫達だけが持つ、特殊な鈴だ。

 チーフが合図すると、側に控えていた別の奴隷猫達がトモミの拘束を解いた。腕が自由になると、トモミは立て膝をして、「猫のポーズ」になった。
「なかなか良かったわ。でも、ご主人様のお楽しみになるには、まだまだ訓練が必要ね。でもまぁ今日はいいわ。少し休んだら、あなたにはトレーニングに参加してもらうわ」
「はい、『チーフ』」
「チーフ」がパチン、と指を鳴らすと、トモミの身体はグラリと崩れ、そのままベッドにうつ伏せにボフッと倒れた。先週まで大学のチアリーダーとして笑顔を振りまいていた彼女の、鍛えられた豊かな太股と尻がプルン、と揺れた。

 眠りに付いたトモミから眼を外し、その隣で、相変わらずの痴態を繰り広げる二匹の奴隷猫に眼をやった。アケミと、その直前に奴隷猫化したマナミだ。両者はトモミと全く同じ体制で、しかし、先程から訓練を始めたばかりの二人は圧倒的なスピードでペニスバンドを貪るように咥え、頭を振っていた。
「むっ…むーーーっ、んん〜〜〜!!」
「おっ、うぅっ、ごっ…んう〜っ!!」
 やはりトモミに比べて色っぽさは劣るが、キーの高い透き通った少女が奏でる、ペニスバンドで喉を突かれる淫猥な音は、十分「チーフ」のS性を刺激した。

「いいわ……二人とも、すごくいいわよ…。もうすぐご主人様がお帰りになられるそうだから、それまでこのまま続けなさい。ご主人様がお帰りになられたら、二人のこの姿を見て頂きましょうね」
「チーフ」は母親のように優しい声で言った。二人は返事こそしなかったが、恍惚の表情でオレンジの眼をうっとりと細めたので、喜んでいることが分かった。心なしか、二人のフェラチオが勢いを増した。


ポルシェ車内 AM0:00――――――

 男の胸は、珍しく踊っていた。ようやく、そう、ようやくここまで来たのだ。長年のこの計画が、次のステップへと移る時が。キャッツ・アイの成果を証明する奴隷猫を「あの方」に差し出せば、「あの方」は褒美として自分を……。
 男は「あの方」に言われた交換条件を思い出していた。そして、フロントミラー越しに、後部座席に横たわる少女を見た。裸で、ぐっすりと眠っている。キャッツ・アイの見返りとして、蛇島から譲り受けた、「マーメイド候補」の上玉の一人だった。

 キャッツ・アイの効果が、試行を繰り返せば繰り返すほど上がるのなら、この娘を「あの方」への献上品として奴隷猫に仕立てるのも悪くは無い。いずれにしろ、次の定例会まで時間はある。その間に、もう一つの目的を果たしておこう。

 男は再びほくそ笑みながら、車のスピードを上げた。


T区署 AM0:00――――――

 誰もいなくなり、ひっそりとした署内では、資料室の灯りだけがポツリと灯っていた。
 いくつも置かれたパソコンのうちの一つを捜査しているのは山口、それを傍らで見つめるのは岸田であった。

「この大学で間違いありませんね」
 山口がパソコンの画面を見つめながら言った。画面には国内有数の医科大学、K大学のホームページの一部で、卒業生のその後の数々の功績を記録したページが開かれていた。

 そのページで紹介されているのは、他でもない、岡崎 直紀であった。岡崎は、大学を優秀な成績で卒業した後、精神医療の若きホープとして、いくつもの学会に出席し、その精神医療論は多くの名医から称賛を受けていて、このページでも頻繁に取り上げられているようだった。

「でも、妙ですね」
 山口が言った。
「何がだ」
 岸田が聞き返した。
「岡崎の話では、その論文を書いた学生は卒業を認められなかったんですよね。でも、岡崎 直紀は在学中からの成績も含めて、絶賛されている。とても、そんな危険な発想を表すような人間には思えないですけど」

 山口の意見も最もだった。それは、このページの岡崎の紹介文を読んだ時にも、岸田は感じた。だが、
「こいつが犯人(ホシ)だったら、連続誘拐事件と連続強盗事件をいくつも企てた相当なやり手だ。そう考えたら、表向きには健全真面目な名医ってのは、むしろ怪し過ぎるくらいだろ」
 という結論に結び付く考えを、拭い去ることはどうしても出来なかった。山口も納得しているようで、岸田の意見に反論してくることは無かった。

「とにかく、岡崎がこの大学の出身だということは分かった。だとすると、この大学に奴の言っていた論文が残っているはずだ」
「そうでなくても、それに繋がる大きな手掛かりがあるはずってことですね」
「間違っていたらその時に引き返せばいいんだ。今はこの可能性に賭けるほかに無い」
 そこで急に山口は不安げな感情を露わにした。それは自分達の捜査に対するものではなく、岸田に対してだった。
「岸田さん、わかっていると思いますが……」

 山口が言いかけると、岸田はうっとおしそうに言葉を遮った。
「わかってるよ。これからは『歩き』はお前の役目。俺はお前からの報告を聞いて、家で考えと策を練る。それでいいんだよな?」
 山口は無言で頷いた。その眼差しは、未だ岸田に念を押すようだった。

 捜査線の分割。そう言えば格好は良いが、要するに、山口が岸田に持ちかけたのは、岸田の直接的な捜査からの一時離脱だった。もちろん、寸暇を惜しんで捜査にのめり込み過ぎている岸田の体調を気遣ってのことだったが、部下から上司・先輩にこんなことを要求するのは極めて異例で、無礼も千万であった。それでも、岸田が山口の意見を呑んだのは、やがて訪れる、「動くべき時」のために、余力を残しておこうという考えがあってのことであり、何より山口を、部下として、仲間として信頼しているからだった。

「じゃ、帰るとするか。俺の相棒貸してやるから、送ってくれや」
「あ、はい」
 パソコンをシャットダウンしていた山口は、岸田が放り投げたキーを受け取った。
「しばらく自宅待機なんて言ったら、女房と娘、ビックリするだろうなぁ。あ、ガッカリ、かな」
 ボヤキながら歩き出す岸田の後ろを追って、山口も駆けだした。
「安心させてあげてください。自分は朝イチでK大学に向かいます」
「逐一連絡入れるの忘れるんじゃないぞ」
「わかってますって」


某所 使用人室 AM2:00――――――

 男は目の前の光景に呆然としていた。しかし、その目と口には、欲しかった玩具をやっと手に入れた子供のように、喜々として、且つ邪悪な笑みが溢れるのを抑えようともせず、浮かび上がらせていた。
 男の前では、ベッドの上で激しくフェラチオをするアケミとマナミの姿があった。もう2時間近くもペニスバンドを咥えているらしいが、その激しさは、まったくその疲労を感じさせなかった。

「素晴らしい」男は言った。
「アケミだけでなく、マナミもこの出来栄えか。想像以上だな」
「本当に。もうずっとこの勢いで続けていますわ。私もこんなコ達見たことありません」
「チーフ」の芝居がかった賛辞に、男は満足そうに頷いた。
「もう一匹、トモミは一時間程前から『トレーニング』を受けさせています」
「チーフ」が言って、男は隣の開いているベッドを見た。数時間前の痴態の痕跡がくっきりと残っていた。
「そうか。あれはこの二匹には及ばずとも、キャッツとしても、私の玩具としても扱える上玉だ。しっかりと鍛えろ」

「もちろんですわ。ご主人様」
 男は再び二匹に眼を向けた。
「うれしい誤算だ。『献上品』が二つになった」
 男の言葉に、「チーフ」は目を剥いた。
「ご、ご主人様?この二匹を『あの御方』に捧げるのですか?」
 男はニヤリとして「チーフ」を振り返った。

「そうだ。今週末にも『献上』する。もちろん、コイツらへの褒美も兼ねて、身体の最終チェックはするがな」
「し、しかし、このコ達は稀に見る傑作です!マナミはまだしも、アケミまで差し出すなんて……」
「俺に意見するな。奴隷猫め。こいつらのように自我の無い性奴隷にされたいか」
 男がギンと鋭い視線を送ると、「チーフ」は黙りこんだ。
「も、申し訳ありません。ご主人様」

 男はまたフッ、と笑って言った。
「それに、これからいくらでも傑作は生まれる。俺の計画が上手く運べばな。そのためには、『あの御方』に十分に認められる必要がある」
「はい、承知しております。ご主人様」
「『本当の最高傑作』はその後に作る。それは誰にも譲らん。その時はまたお前達にしっかり躾をしてもらう」
「もちろんです。ご主人様」

「ではまずは、こいつらの最終チェックだ。朝までヤる。お前はトモミのトレーニングに向かえ」
「はい、ご主人様」
「それから、『ティーチャー』に新入りの教育を任せてある。『計画』に使う奴だ。そいつの躾も任せる」
「かしこまりました。ご主人様」
「チーフ」は猫の礼をすると、部屋から出て行った。トモミのトレーニングに向かうのだ。

「さて、警察と、『アイツ』も動き出したようだ。先手を打つには、もう動き始めなくてはな」
 男は呟くと、二匹の奴隷猫に向かった。
「そろそろ『ホンモノ』が欲しいだろう?さあ、エサの時間だ・・・」
 男の放ったキーワードを聞くと、アケミとマナミはビクン、と脈打ち、口に押し込んだペニスバンドをズルリと抜き取った。そのまま、獣のように涎を滴らせたまま、男の方に首を向けた。

 二匹の奴隷猫の眼は、妖艶な赤黒い光を放っていた。キャッツ・アイによって完全に支配された精神の中に刷り込まれた躾と言う名の後催眠のうちの一つが、キーワードによって発動したのだ。彼女たちの奴隷猫としての性欲が強制的に増幅され、彼女達は己の中に溢れだした欲望のままに、主人の身体を求め、自らの身体を差し出す。

 ペニスバンドを付けた相手役の奴隷猫達が、二匹の拘束を外すと、二匹はゆっくりと主人に近づいてきた。
 初めはその異常なまでに溢れだす感情を、人間としての本能が拒絶するのだが、既に人間としての自我は消失してしまっている奴隷猫達は、間もなくその感情に完全に呑み込まれ、躾けられたとおりに従順に行動する。暴走する性欲にその眼は血走り、その真っ赤な瞳が、キャッツ・アイのレンズを通して紅の光を放つのだ。奴隷猫は、その身体に埋め込まれたいくつもの暗示により、ただ操られるままに生きるしかない。

「にゃああん・・・ご主人・・・様ぁ」
「にゃおぉん・・・・エサ・・・を・・・。マナミに・・・エサをくださいぃ〜」
 いわゆるSEXモードに支配された二匹は、「エサ」を求めて男の股間に顔を埋めようとしてくる。まだ「仲間入り」の儀式も終わっていないのに、この従順さは、やはり最高傑作か・・・。男はそう思いながら、二匹をなだめた。

「まぁ待て。ひとりずつだ。まずはマナミからだ。やれ」
 男が命じると、マナミはふやけた笑顔を浮かべて応えた。
「はい・・・ご主人・・・様あぁ」
「アケミはこっちへ来い」
 男は左手を振ってアケミに知らせた。「手」の方の奉仕をしろ、という意味だ。
「はい・・・ご主人様・・・」
 アケミはしゃぶりたくて仕方が無い男の股間を、お預けを食らって寂しそうだったが、すぐに男に近づいて、左手の方に、まだ控えめにしか毛の生えていない淫口をさしだした。男は左手でアケミの股間をスラリと一撫ですると、敏感になっているアケミは、それだけで過敏に反応した。
「ひうっ!?」
 その反応を堪能するように、更に何度かアケミの股間をさする。アケミはビクビクと素直に反応したが、嫌がる素振りはなく、むしろ自らその身体を男に預けてきた。

「ああっ、ううん、はうぅん・・・」
 男の一挙手一投足に自在に反応するアケミは、正に男の玩具であった。
 一方で、マナミは男のズボンのファスナーをずらすと、中から男のペニスを手にとって出すと、自らそれをその小さな可愛らしい口に含んだ。

「最初はゆっくりと、だんだん速くしていくんだ。さっきの訓練のようにやればいい。お前達は傑作なのだから」
「むぅ・・・ふぁい・・・ご主人・・・らまぁ・・・」
 マナミは男の表情を、淫らな紅い眼で見つめたまま、ゆっくりと頭を揺らし始めた。
「そうだ。なかなかいいぞ。ククク・・・」
 三人だけの使用人室は、再び淫らな音で満たされていった。

 
 


 

 

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