キャッツ・アイ


 

 

第3章


 某所、猫の館:大広間―――
 男は左手で優雅にワインの入ったグラスを傾けた。右手は傍らで男に抱きつくようにしている一人の奴隷猫に伸びている。
 レオタードを脱ぎ捨て、裸となったその猫は、男の首に巻きつくように腕を絡ませ、男の右手が身体を撫で回すのに身を任せていた。その眼は男がまさに飲んでいるワインのように、妖しい、艶やかな赤に光っている。

「ああ…あぁん…ミャウン…」猫は可愛らしい喘ぎ声を上げながら、男に身を任せる。
「サツキ、気持ちいいか?」男は微笑みを浮かべて聞く。その顔は嘲笑しているようにも見えた。
「はい…ご主人様…。とても…ああっ…気持ちいいです…」サツキは答えながらも喘ぎ続けている。

「こうやって私の玩具となるのは愉しいだろう?お前はそのために存在しているんだよ」
「は…い…ご主人様…。とても…愉しいです。あぁん…私は…ご主人様の…玩具です…」
「そうだ。お前たちは私の奴隷だ。私の玩具なんだ…」

 その時、玄関の扉が開いた。何人かが館に入ってくる音が聞こえる。
「帰ったか…」男はニヤリと笑うと、サツキを弄ぶ手を止めた。サツキはまだ喘ぎ続けている。
「サツキ、『ハウス(戻れ)』」男が囁くと、途端にサツキから表情が消え、赤い眼光は元の闇のように深い虚ろな黒に戻っていた。
「はい、ご主人様。失礼致します」サツキは「猫の礼」をすると、脱ぎ捨ててあったレオタードを着て、大広間を出て行った。

 入れ違いになるように、次のターゲットの捕獲に向かったミカコと、その群れの猫たちが入ってきた。
「ただいま帰りました。ご主人様」ミカコが猫の礼をすると、後ろに並んだ他の猫たちもそれに習って礼をした。

「ご苦労。連れて来たか?」
「はい、ご主人様」
 ミカコが言うと、後ろにいたミキに手を引かれて、一人のパジャマ姿の少女がフラフラと男の前に歩み出てきた。明美だ。

「報告しろ」男はマネキンのように立ち尽くす明美を見たまま言った。
「はい、ご主人様。ご命令通り、催眠誘導はミキが行いました。途中、命令外の行動をしましたが、すぐに修正し、その後は異常なく進みました。現在ターゲットは催眠状態です。意識はありません。命令に従うよう暗示をかけていますが、記憶、自我共に完全に存在しています。よって、長時間放置すれば催眠は解除されます」ミカコが明美に催眠を書けたときの様子を淡々と報告した。

 単純に催眠をかけて連れてくるのはいつものやり方だ。拉致するだけなら催眠状態にして一時的に言いなりにさせるだけでいい。本番はこれからだ。特殊な方法を使って催眠を深め、記憶と自我を削除し、永遠に支配される奴隷猫にするのだ。

「よし。『教育』を始めろ」男はそう言って、明美の顎を持ち上げた。明美の虚ろな目が男の方へ向けられる。
「可愛い猫になるんだぞ」男はそっと呟いた。
「はい…」明美がゆっくりと答えた。
「私について来なさい」ミカコが言うと、明美はくるりと踵を返し、ミカコに従った。「教育部屋」に向かうのだ。

「ミキはここに残れ」男が言うと、ミキが男を振り返った。
「はい、ご主人様」ミキが答えた。
「他の者は『ハウス』」
「はい、ご主人様。失礼致します」残りの猫達は礼をして大広間を出て行った。大広間には男とミキだけが残った。

「ミキ、こっちへ来い」
「はい、ご主人様」男が呼ぶのに答えて、ミキは椅子に腰掛ける男の正面に立った。
「初仕事、ご苦労だったな」男は虚ろなミキの目を見つめて言った。切れ長の瞳がジッと男に眼差しを返している。

「はい、ありがとうございます。ご主人様」ミキは礼をして言った。
 主人の命令に従い、褒められることは奴隷猫にとって最大の「喜び」なのだ。もっとも、自我を無くした奴隷猫達が「喜び」を自覚することはない。ただ、「教育」された時にそういう意識を刷り込まれているのだ。

「仕事でよい働きをした者は褒美がもらえる。今回はお前に褒美をやろう」男はミキの全身を見渡して言った。小柄だが、十分な体つきだ。見たところさっきの明美も同じくらいだろう。彼女の方も楽しみだ。男はそんなことに思いを巡らせた。
「ありがとうございます。ご主人様からご褒美が頂けるのは光栄です」ミキはもう一度礼をした。
「それじゃあ始めようか。ミキ、『エサの時間だ』」
 男がそう呟いた途端、ミキに変化が起きた。ビクンと一瞬痙攣すると、大きく身体をくねらせて、自らを抱きしめるように腕を身体に巻きつけた。身体は紅潮し、苦しそうな、しかし快感に酔うような表情になった。

「あ…あぁ…ん…」ミキは一声喘ぐと、天を仰ぐように上を見上げた。そしてしばらく動かなくなった。
 やがてミキが再び直立になった。しかしその目は妖しい赤い眼光を帯びている。
「さあ、ミキ、始めろ」ミキの変化を見届けた男はゆっくりと言った。
「ミャウ〜ン…」ミキは嬉しそうに鳴くと、着ている薄いレオタードを脱ぎ始めた。

 裸になったミキは男の前に跪くと、表情無く男を見上げて言った。
「ご主人様、ミルクを飲ませて頂きます」ミキが言うと、男はニヤリと笑って頷いた。
「ああ。飲むがいい。だが、ミルクは私の忠実な奴隷猫しか飲んではいけない。そして、ミルクを飲んだ者は私に更なる忠誠を誓わなければならない。お前は私の忠実な奴隷猫か?」
「はい。私は、ご主人様の忠実な奴隷猫です。ご主人様に忠誠を誓います」ミキは淀みなく言った。その赤い瞳は完全に男への服従と忠誠心で支配されている。

「ククク…いいぞ。自分で好きなだけ飲むがいい」男は満足そうに笑った。
「はい、ご主人様」ミキは言うと、跪いたまま男のズボンのファスナーを下ろし、男のモノを出した。少しの間それをうっとりと見つめると、ゆっくりそれを口に咥え、口をそっと動かし、男のモノを刺激し始めた。
「ほう…中々上手いぞ、ミキ。これだけは『教育』でも教えることは出来ないんだ。お前は素質があるのかもな…」男はミキの刺激を味わいながら言った。ミキはまるで憑かれたように、赤い虚ろな目で男の股間を見たまま、無言で口に咥えたモノを刺激し続けている。

「くっ…ミキ…いいぞ…そろそろお前の飲みたいミルクが出そうだ…」男のモノを快感が燻り、「その時」が近づいていた。
「おおっ…!出るぞ…ミキ…。さあ、存分に…味わえ!」男のモノはミキの口の中で果てた。

「ん…んくっ…んくっ…」ミキは口の中に溢れ出てくるミルクをゴクゴクと飲んでいった……。
 全て飲み終えると、ミキは男のモノから口を離した。ミキの口から、白い糸がツーッと伸びた。
「ふう…ミキ、よかったぞ」興奮が落ち着くと、男は風呂上りのようにすっきりとした顔で言った。
「ありがとうございます。ご主人様」ミキはまだ男のモノを見たまま言った。
「ミキ、きれいにしてくれ」男が言うと、ミキは再び男のモノに口を寄せた。
「はい、ご主人様」ミキは男のモノをペロペロと舐め、ミルクとミキの唾液でトロトロになったモノを手入れしていった。

 一通り舐め終えると、ミキはそれを丁寧に男のズボンにしまい、ファスナーを閉めた。
「ミルクは美味しかったか?ミキ」男は跪く裸の猫の髪を撫でながら言った。
「はい。美味しかったです。ご馳走様でした。ご主人様」ミキはそう言って深く礼をした。
「これで約束どおりお前は私に更なる忠誠を誓うんだな?」
「はい。ご主人様。私はご主人様に更に忠実な奴隷猫としてお仕え致します」ミキは礼をしたまま言う。

「よし。じゃあミルクを飲んだお返しとして、私にもお前の身体を食べさせてくれ」男は礼をするミキの顔を持ち上げて言った。
「はい、ご主人様」ミキは立ち上がると、その身体を男に預けていった。
「どうぞ私の身体をお召し上がりください…」
「そうだ、それでいい。お前たちはそうやって私の玩具になっていればいいんだ…」男はニヤリと微笑を浮かべながらも、その目は冷たく光っていた。
「女は皆、オレの奴隷になるんだ…」


 猫の館:教育部屋―――
 ミカコに導かれるまま、催眠で操られている明美は館の1階の奥、長い廊下を歩いた末の小さな一室のドアをくぐった。館にいくつかある使用人用に使われていた部屋の一つだが、他の使用人部屋よりも若干広い。男はこの部屋に10枚の鉄の板を作り、大型なコンピューターシステムを繋げて部屋全体で起動させている。

 その部屋に入る前に、ドアをくぐった先にはもう一つ、狭いスペースがある。その傍らに大き目のカゴが置いてあり、中には色々な種類の女性もののパジャマとブラジャー、ショーツなどの下着類が無造作に入れられている。
「ここで服を脱ぎなさい」部屋に入ると、ミカコが立ち止まって明美に言った。
「はい…」操られている明美は何の抗いも示さず着ているパジャマを脱ぎ始めた。

 上…下…と脱いで下着だけになると、そのままブラジャーを外し、白い小振りの胸を露わにした。そしてショーツも脱いで遂に裸になると、まるで精巧な彫刻のように堂々と気をつけをして支持を待った。
 明美が服を脱ぎ終えると、ミカコは明美の脱いだパジャマと下着を例のカゴに入れた。
 「来なさい」ミカコは明美に言うと、奥の部屋部屋へと進んでいった。明美も従った。

 部屋の中は窓一つ無く、一面金属張りの壁が広がるだけだった。部屋の中央に、10枚の板があり、そのうちの9枚には、一人ずつ、裸の女性が「大」の字に磔にされて拘束されていた。明美と同年代の少女から、成人の女性まで、様々だった。
 女性達は皆黒い首輪を付けられ、それから鎖のようなコードで、それぞれの目の前に一体ずつ置かれた巨大な猫の像に繋がれている。猫の像は女性達と向かい合うように置かれ、それぞれの目が赤や黄色に不快な光を放ち、女性達はその猫の目をジッと見つめている。

 いや、性格には、目はその方向を見つめているのだが、全く焦点は合っていなかった。曇った虚ろな目で猫の目を見つめ、その無表情な顔には全く生気が感じられない。ただ、どの女性も機械のように口だけを開いてうわ言のように何かを呟いているのだ。

「私は…ご主人様の…」
「誓います…私は…」
「することは…私の『喜び』です…」
 9人の女性はまさに今「教育」されているのだ。
 二人が部屋に入ってきたことに気づいて、一人の猫が部屋の奥からやってきた。「T」と書かれた首輪をしている。「ティーチャー」とよばれる猫だ。

「お疲れ様です。ミカコ様。この子ですか?」ティーチャーは礼をして言った。
「はい。すぐに『教育』しろと、ご主人様から言われています」
「かしこまりました。すぐに始めます」
「この方に従いなさい」ミカコは明美に言った
「はい…」明美は答えると、ティーチャーに近づいた。

「それではこれより61号目の『教育プロセス』を起動します。こちらへ」ティーチャーに連れられ、明美は空いている板の方へ向かった。

 
 


 

 

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