キャッツ・アイ

〜Cats eyes〜


 

 

第2章


「どうも、お疲れのところお邪魔致しました」美希の家の玄関で、体格の良い男、岸田が言った。横で細身の若い男、山口も並んで頭を下げた。二人は、美希の失踪を捜査するために来た刑事だ。先日から起きている、女子生徒の失踪事件の捜査に当たっていたそうだ。
「あの、刑事さん。美希は、やっぱりさらわれたんでしょうか?それとも…」美希の母、幸枝が控えめに聞いた。明美は後ろから岸田を見つめた。
「まだ何も言えません。美希さんの部屋や、あなた方の話からも、美希さんが誰かにさらわれたにしても、あるいは自分で窓から出て行ったにしても、不自然な点がいくつかあります。」岸田は厳格な顔で言った。
「そうですか…」俯いて言った幸枝の声は、疲れきっているように聞こえた。
「何度か、お話を聞きに伺うと思います。そのつもりでいてください。では、失礼します」二人の刑事は一礼すると、パトカーに乗り込んだ。
「ごめんね、明美ちゃん。こんなことに巻き込んで」パトカーが去ると、幸枝は申し訳なさそうに明美を振り返った。
 学校から帰るとすぐに、山口刑事が訪ねてきた。美希の家で、幸枝に話を聞いているから、明美にも来てほしいとのことだった。
「いえ、そんな。私も、おばさんの力になれたらうれしいです」明美はそう言って微笑んだ。本当に自分の顔が微笑んでいるかは分からなかった。
「ありがとう。急にこんなことになって、もう、どうしていいのか…」幸枝は顔を手で覆った。
「元気出してください。きっと、美希はすぐに帰ってきます」明美は幸枝の方を抱いて言った。幸枝に言いながら、自分にも言い聞かせていることを感じた。
 警察は、美希の失踪が、他の少女の失踪事件と関係しているのかはわからないと言っていた。しかし、美希がいなくなった時の様子が、他の少女達のそれと酷似していることは明美にもわかった。ニュースで報道されていたことに限って、だが。他の少女も、美希と同じように、自宅の、自分の部屋で忽然と姿を消したのだ。
「どうして、どうして美希が…」幸枝は肩を震わせて言った。明美も心の中で、何度も繰り返していた言葉だった。

 某所―――
 山奥にある、廃れた洋館。都会から離れたこの場所が、男にとっては第二の住処、とでもいうものだろうか。
 黒のポルシェを止めると、男はスーツを正して、ボロボロになった扉を開けた。
 長い廊下の奥から、薄いベージュのレオタードを着た、8人の少女達が駆け足で現れ、膝を曲げて屈み、手を猫のようにこまねいた、「猫のポーズ」で跪いた。
「ご主人様、お帰りなさいませ」少女達は声を揃えて言った。
「ただいま、私の可愛い猫たち」男はそう言うと、一人の少女の額にキスをした
「ミャウン」主人のキスを受けた少女は気持ちよさそうに声をあげた。その首に巻かれた首輪の鈴が、チリン、と揺れた。首輪には「48」と書かれている。少女たちは皆揃いの青い首輪が付けられており、それぞれに番号が書かれている。
 男が廊下を進むと、少女達はそれに従った。やがて男は、この館に人が住んでいた時には、食堂として使われていたであろう広間に入った。
 そこには巨大な空間が広がり、壁には、かつて掛けられていた肖像画を取り外して新たに取り付けた、巨大な液晶モニターが見下ろしていた。ディスプレイには「CATS」と、ロゴマークが表示されている。
 男は部屋の中央に置かれた肘掛け椅子に腰掛け、テーブルの上に常時置かれているビスケットの入ったカゴに手を伸ばした。
「もういいぞ、持ち場に戻れ」男はモニターに目をやったまま、後ろに控えている少女達に言った。
「はい、ご主人様、失礼致します」少女達はそう言って、膝を曲げて手をこまねく、「猫の礼」をすると、部屋から出て行った。
 男はテーブルに置かれている8つの鈴から一つを選び、鳴らした。やがて扉が開き、一人の女が入ってきた。20代前半程で、やはりお揃いのレオタードを着て、「猫のポーズ」をしている。首には鈴のついた赤い首輪が付けられ、金字で「3」と書かれている。
「お呼びでしょうか、ご主人様」猫の礼をして、女が言った。
「ミカコ、様子はどうだ」男は言って、テーブルに取り付けられたリモコンを操作した。モニターの両サイドに、10個の小さな映像が表示された。そのうちの8つには、小さな部屋に、一列に並んで、体育の三角座りのような形で座ったままピクリとも動かない、5人ほどの少女達が映し出されている。少女達は皆虚ろな目で虚空を見つめている。
 この館にいる少女達は皆、催眠術によって猫にされている。自分の名前も、友人達のことも一切忘れ、この男に奴隷として服従する猫となっているのだ。
「はい、私を含む奴隷猫48名、以上はありません。お望みであれば、いつでもご主人様の仰せの通りに動きます」ミカコという女は淡々と報告した。
「結構。『教育』のほうはどうだ」男はまたリモコンを操作した。一つの映像が拡大表示された。
 今度は少し広めの部屋に、10人弱の裸の少女達がいた。彼女らは、等間隔に立てられた鉄の板状の柱に、1枚につき一人ずつ、「大」の字に磔にされている。鈴のない黒い首輪をつけている。その首輪からは鎖のようなコードが伸び、それはそれぞれと向かい合うように立っている、大き目のまねき猫のようなオブジェに繋がっている。
 音声は聞こえないが、少女達は虚ろな目でその猫を見つめ、何事かをブツブツと言っている。時々その目を見開いて、喘ぐような顔をすると、性器からトロリとした液体を垂れ流した。どの少女の足元も、自分の愛液でびしょびしょだった。
「全員、順調に教育が進行しています」ミカコがまた淡々と言った。
「そうか。一番進んでいるのは誰だ?」男はリモコンを操作して、「教育部屋」の様子を様々な角度から見ながら聞いた。
「4日前に加わったユイかと思われます。本日16時現在で、記憶削除率87%、自我抑制率92%です」
「早ければ明日にでも『仲間入り」か…。ミキの様子はどうだ?」
「予定よりも若干早く進行しています。本日16時現在で、記憶削除率28%、自我抑制率39%です」
「そいつはなかなか…」男はいつもの癖で、右手の親指で顎を撫でながらニヤリと笑った。再びリモコンを操作すると、一人の少女がアップで映し出された。美希だ。
 美希は他の少女と同じように裸で鉄板に磔にされ、虚ろな目で猫のオブジェを見つめて、何かを呟いている。
「具体的な状況は?」
「先程、自分の名前を完全に忘却しました。同時に、西村 美希という存在が除々に失われています。これに伴い、西村 美希の身辺の人間、環境などに関する記憶の忘却が始まると思われます。自我も、催眠導入時の猫化の暗示も手伝ってか、次第に消失しています」
 モニターの中の美希は頬を紅潮させ始めた。
「ほう、思ったよりもかなり早いな。スムーズに計画が進みそうだ。『教育』が完了したら、すぐに仕事を与える」
 美希は身体をピクン、ピクンと痙攣させ始めた。その度、小振りの胸が小さく揺れた。
「かしこまりました。準備を整えておきます」
「ああ。ところで、二人目の方はどうなっている?」
「偵察猫が常に監視しています。情報によると、T区では朝から警察が巡回しているようです」
「娘が一人消えたのだからな。まぁ、やつらは何も気づくまい。それに、偵察猫はやつらから見れば、ただの迷子の飼い猫だ。犬のお巡りさんでもないかぎり、そんなものは目に付かん。既にT区は私のテリトリーだ」男はミカコを振り返った。ミカコはジッと立ったまま、虚ろな目で男を見つめている。
「さてと、ミカコ、お前の会に久しぶりに仕事を与えよう」男はポケットから数枚の写真と紙を1枚取り出して、ミカコに見せた。紙には地図、写真にはそれぞれ1軒の宝石店の外観が写っていた。
「店の名前はジュエリーショップ・ヒロセ。C区。お前の故郷だ。もっとも、今は覚えていないだろうがな。この店から、いつもの物を頂いて来るんだ。最低10個。そんなに繁盛していないから、品数もしれているだろうから、それくらいでいい。時間はいつも通り午前2時だ。それまで部屋で待機していろ。時間になったら、私が部屋へメンバーを選びに行く」
「はい、ご主人様。仰せのままに致します」ミカコは猫の礼をして部屋から出て行った。美希が虚ろな目を見開いて、身体をいっそう痙攣させた。既にネトネトの床に、トロトロと愛液が流れ落ちた。

 T区―――
 美希がいなくなってから3日が過ぎた。が、美希についての手がかりは何も見つかっていなかった。いや、美希だけでなく、他の少女に関する手がかりも、警察は見つけられていないのだ。
 明美はすっかり気を落としてしまっていた。家族や友人達の前では極力いつも通り振舞うようにしていたが、一人のときは何もせず、塞ぎこむことが多くなっていた。
 自分の部屋で制服に着替えると、髪を結わえるゴムを取り出そうと引き出しを開けた。ハラリと、ピンクの可愛らしいリボンが落ちた、去年の冬、誕生日に美希がくれた物だ。
 ―――明美はそういうの、似合うでしょ。
 そう言って、美希が選んでくれた。明美が、「美希だってきっと似合うよ」というと、「ないない。私って、明美みたいに女の子らしいの、ダメだから」と、少し残念そうに言うのだった。
 明美は今年の春、美希の誕生日に、自分がもらったのと色違いのブルーのリボンをプレゼントした。
「こんなのもらったって、私はショートカットだし」美希は照れくさそうに言った。
「伸ばせばいいじゃない。絶対似合うって」明美は笑ってそう言った。
「伸ばさないわよ。この髪型、気に入ってるもん。でも、まぁ、ありがと」
 結局嬉しそうに受け取ってくれた美希を見て、やっぱり女の子らしいの、好きなんじゃない。と明美は思った。
 口では言わなかったが、その後美希は密かに髪を伸ばし始めていたのを、明美は気づいていた。今ではだいぶ長くなっていた。きっと、お揃いのリボンをつけて歩ける。と明美はその時を思い浮かべて楽しみにしていた。―――
「グス……美希…美希…」
 明美はリボンを胸に抱きしめて泣いた。
「美希…会いたいよ…」涙が次々と流れ、明美の頬を伝い落ちた。
 明美の気持ちを映したように、曇った空から、静かに雨粒が降り始めた。

 某所―――
 広間には男が椅子に腰掛けて待っていた。横には数人の猫達を従えている。
 ゆっくりと扉が開くと、二人の猫が入ってきた。一人は、黄色の首輪に「T」と書かれている、20代後半の女だ。「TEACHER(ティーチャー)」と呼ばれる、猫達の「教育」プロセスを専門に担当する猫達だ。もちろん、催眠で男の奴隷と化している。
 もう一人は、美希だった。美希は何も映していないような虚ろな目を、ボーっと正面に据え、「猫のポーズ」を取って歩いていた。完全に猫となっている。微かに肌は紅潮し、脚はヒクヒクとして足取りが危うい。最後に絶頂を迎えてからまだ間もないようだ。
「ご主人様、『教育』が完了しましたので連れてまいりました」ティーチャーの猫が言って、美希を男の前へ進むよう促した。
 美希は素直に従い、フラフラと男の前へ歩み出た。
「ミキです」ティーチャーが言った。
「ミキ、ご主人様の前では跪きなさい」赤い首輪に金字で「3」と書かれた、3群のリーダー、ミカコが抑揚のない声で諭した。
「はい……」美希も抑揚のない声でゆっくりと言うと、猫のポーズで跪き、虚ろな目で男を見上げた。まるで飼主が遊んでくれるのを待つ猫のように。
「ふふふ、『教育』が行き届いた猫だ」男がニヤリと笑って美希を見下ろした。「思ったよりも早く終わったな。では早速『仲間入り』をしてもらおうか」
「はい、ご主人様」そう言ってミカコと、その周りの青い首輪の猫達が美希の周りに歩み寄った。
「ミキ、ご主人様に『猫の誓い』を捧げなさい」ミカコがいうと、美希はピクッと反応し、口を開いた。
「私、ミキはご主人様の奴隷猫です。私はご主人様に永遠の忠誠を誓います。私はご主人様に服従します。私はご主人様のご命令に必ず従います。私はご主人様に私の体と全てを捧げます。私の全てはご主人様の物です」美希は「教育」された時に暗示で刷り込まれた言葉を棒読みで淡々と言った。
「『しつけ』、正常です」ミカコが男の方を見て言った。
「結構。ユイ」
「はい、ご主人様」男に言われて、昨日「仲間入り」したばかりのユイが、ミカコに近づき、「50」と書かれた青い首輪を手渡した。ミカコは、その首輪をしっかりと美希の首に取り付けた。
「これで『仲間入り』は果たされた。ミキ、お前は私の丁度50番目の奴隷猫だ」
「はい、ご主人様。ありがとうございます」美希は跪いたまま一礼した。
 この瞬間、美希は完全に男の奴隷猫、「ミキ」として生まれ変わった。
「お前は『3群』に入る。リーダーはこのミカコだ。お前はミカコのしもべとなる。リーダーの命令は私のと同様、絶対だ。忠実に従うように」
「はい、ご主人様。リーダーの命令に従います」ミキは立ち上がると、ミカコに「猫の礼」をした。
「では、ミキ、早速お前たちは今からT区に向かえ。初仕事だ」男が言うと、3群のメンバーは一列に並んだ。
「はい、ご主人様。仰せのままに致します」猫達は「猫の礼」をして広間を出て行った。
「ニャーン」
 入り口のところで、ミカコが声高に鳴いて、暗い森へ、T区に向けて飛び出した。他の猫達も後に従った。
「ミャーン…」ミキも一声鳴いて、館を飛び出した。
「可愛い鳴き声だ…」男は満足そうに言うと、赤ワインのグラスを傾けた。

 T区、明美の家―――
 明美は何度も寝返りをうっていた。眠りは浅いようだ。美希がいなくなってから、明美は寂しさと不安で、いつもよく眠れずにいた。
(谷崎…明美…)
(あなたが術を掛けなさい)
 明美はなにか話し声が聞こえ、うっすらと目を開けたが、すぐにまた閉じた。
(この子を猫にしなさい)
(はい、リーダー…)
 明美はやはり話し声を聞き、起き上がった。暗い部屋に、6人の人影が目に入った。
「だ、誰…」
 明美が言うが早いか、人影はキラッ、と目を光らせたかと思うと、明美めがけて飛びかかり、あっという間に明美はベッドに仰向けになり、手足を抑えられ、身動きできなくなった。
「きゃっ!な、何…?」明美は驚きと恐怖で声を上げた。よく見ると、自分を取り押さえているのは皆、薄いレオタードを着た女性のようだった。女性達は暗闇にきらりと光る眼光を向け、明美を見つめていた。
「な、何なの?あなたたち…」
 明美が言うと、女性達は「ニャーン」と一声鳴いた。
 更にもう一人、明美に近づいてきた。明美が目を凝らすと、その女性の顔が次第に見えてきた。
「み、美希!?」
 それは紛れもなく美希だった。しかし、どこか様子がおかしい。美希は他の女性達と同じレオタードに身を包み、その目は異常なほどに切れ長の瞳と不気味な光を持ち、近づいてくるその身のこなしはまるで猫だった。
「美希、どうしたの?その格好…。何があったの?」
「ミキ、はじめなさい」
「はい、リーダー」女性の一人が言うと、美希は抑揚のない声で返事をした。
「答えてよ美希!」
 美希は明美の呼びかけなど聞こえる風でもなく、ベッドにぴょんと跳び乗ると、明美に跨るように乗り、顔を近づけた。
「谷崎 明美…」美希が抑揚のない声で呟く。
「どうしちゃったの、美希…」明美はほとんど泣きそうだった。
「アナタはご主人様に選ばれた…」明美にかまわず、美希は続けた。
「アナタは猫になる。キャッツの仲間になる…」
「キャッツ…?」美希の一言に、明美は、はっ、とした。
「美希、キャッツなの?キャッツの仲間になったの?」明美は以前美希がキャッツをかっこいいと言っていたのを思い出した。
「私はキャッツの団員。アナタも今から猫になる」
「い、いやよ、私、猫になんかなりたくない!」
 しかし、明美の言うことを歯牙にもかけず、美希の目が怪しい紫に光始めた。その光を見つめると、不思議な陶酔感か虚無感のようなぼんやりとした気持ちが明美を支配した。一瞬だった。明美は瞬く間に身体の自由を失い、美希の目から視線を離せなくなった。
「あ…あ…」何とか声を出し、身体を動かそうとするが、心を覆うようなぼんやりとした心地よさが、それを許さず、美希の目を見たまま、明美は声にならない声を上げるばかりだった。
「アナタは猫…アナタは猫…」美希が暗示を掛け始めた。これは美希が意図的に言っているのではなく、「教育」されたときに、新たな奴隷猫を作り出すために「しつけ」られた暗示が、テープを再生するかのように発せられているのだ。催眠を掛ける状況になると、この暗示が発動し、その猫はターゲットが猫化するまで延々と暗示を囁き続ける。
「アナタは猫…アナタは猫…」
「あっ…あぅぅ…き、気持ち…いぃ…」明美は暗示にかかり始め、心地よさに身をゆだね始めた。もう美希やキャッツがどうなど、どうでもよくなってきた。
「私の言うことを復唱しなさい。そうすればもっと気持ちいい…」美希はどんどん暗示を掛けていく。
「わ…私は…猫…あ、はぁ…あ…きもちいい…ああぅ…」明美は何も考えずに暗示に従った。暗示に従うと同時に性的な心地よさが与えられることで、更に暗示に従う。こうして、明美に掛けられた催眠は深くなっていく。
「私は猫…私は猫…私は…猫…」明美は虚ろな目で美希の目を見つめ、ひたすら暗示を復唱していた。身体がピクン、ピクンと痙攣し、性器から流れ始めた愛液がパジャマを濡らした。
 そのときだった。突然、催眠を掛けていたミキの動きが止まった。目の光は元に戻り、明美に掛けられた催眠は中断された。半端に催眠に掛かった明美は、停止した心地よさの余韻に身を揺らしている。
 周りでニャーン、ニャーンと歌っていた猫達も、まるで人形のように空を見つめ、ポカンと口を開いたまま停止している。
 ミキは明美の、愛液で濡れた部分を見つめると、ペロペロと舐め出した。明美の愛液に、猫化したミキの本能が興味を示し、「しつけ」による暗示が遮られたのだ。這い回るミキの舌の感触を感じて、明美の性器は激しい快感を感じて、明美の中で膨れ上がった。
「あああああ!あはぁ、うあああああ!」虚ろな目を見開き、全身を痙攣させ、絶頂に向けて明美の快感は増していく。
「ああ…ああああああっ!」明美は正に絶頂を迎えようとしていた。
「ミキ、ご主人様の命令を実行しなさい」明美の腕を抑えていたミカコが言った。いや、暗示に操られて言葉を発した。ミカコ達「群(むれ)」のリーダーには、暗示の解けた猫を再び暗示に支配された状態にするための行動パターンが「しつけ」られている。明美の愛液を舐め回すミキの動きが止まった。
「ご主人様の命令を最優先に実行しなさい」再びミカコが言った。
「はい、リーダー。ご主人様のご命令を最優先に実行します」ミキは抑揚のない声で言うと、再び明美の目を見つめ、催眠を掛け始めた。
「はあ、はあぁ……」既に絶頂の直前にあった明美の暗示はすぐに深められていった。
「アナタは猫…アナタは猫…」
「わ…わたしは…ああ…はあぁ…ね、ねこ…あ、うぅ」明美はゆっくりとミキの暗示を復唱していく。そして何度目かの復唱を終えると、
「あ、あぁ…あああああああ!いああああああああ!あうああああああっ!」明美は快感を破裂させ、十分に深まった催眠の海の中で絶頂を迎え、支配された。
 ぐったりと横たわり、虚ろな目の明美は、何度も溢れ出た愛液で濡れたベッドの上で、天井を見つめていた。
「…ニャーン…」しばらくすると、明美の可愛らしい声が響き渡った。
 ミキたちが開放すると、猫となった明美がゆっくりと立ち上がり、「猫のポーズ」で立った。
「アナタは猫…ご主人様の奴隷猫…」ミキが言うと、明美は虚ろな目をまっすぐミカコに向けた。
「私は猫…ご主人様の奴隷猫…」明美はゆっくりと復唱する。
「アナタはご主人様に従う…」
「私はご主人様に従う…」
「さあ、ご主人様の所へ行くのよ…」
 ミキが指示すると、明美は窓へ近づき、鍵を開けると、静かに開け放った。夜風が明美の長めの髪を揺らした。明美は無表情なまま、糸で操られるかのように窓の外に飛び出すと、人間離れした身のこなしで屋根へと駆け上がった。後に付いて、ミキ達も上がってきた。
 猫たちはミカコを先頭に、屋根から屋根へ飛び移って、あの館へ向けて消え去った。パジャマ姿の新たな猫は、意思を持たず、ただ操られるまま夜の闇へと連れ去られた。

 
 


 

 

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