黒と白

−終章−


 

 



01.研究所



 もうこの山奥のハイウェイを走り続けて1時間にもなるだろうか?その間、人や車どころか獣一匹見かけていない。
 片側2車線、幅員20mのこれだけ立派な道路であるにも関わらず、だ。

(税金の無駄使い...か)

 マスコミの見出しが目に見えるようなこの道路に車を走らせながら堂島は一人苦笑する。

(もうそろそろの筈だが...)

 そう思い始めて5分程後、頭上に”生物化学研究所”と書かれた白い看板が見えた。

 その看板を右折して尚20分、曲りくねった道路の突き当りには大きく人を威嚇するようなゲートがあり、停車した車を目掛けて警備員が飛び出してくる。

「お待ちしておりました、長官。申訳有りませんが念の為身分証を拝見出来ますでしょうか?」

 その言葉に一瞬は気を悪くした堂島だったが、緊張しきっているその警備員の表情に仕方なく内ポケットから一枚のカードを取出し、掲げた。

「ありがとうございます。こちらが館内のパスになっております。紛失されますとこちらまで戻って頂く事になりますのでご注意下さい。ご苦労様です」

「ん」

 最敬礼している警備員にそれだけを返すと、物々しいゲートを潜り未だ遠くに見える建物へと車を発進させる。

(いくら山奥とはいえこれだけの敷地が必要なのか?)

 久しく自分で運転などしていなかった堂島にとって片道3時間のドライブは苦痛以外の何物でも無く、敷地の入口での出迎えが若い警備員一人という事にも若干腹を立てていた。

 だがようやく到着した玄関前のピロティに車を寄せると、ガラス張りの玄関ホールから年若い一人の女性が駆け出て来た。
 白いビジネススーツを軽やかに着こなし、やや低めのハイヒールを鳴らしながら長く美しい黒髪を揺らしている彼女は、似つかわしくは無いがここの主である。

 ”野島小夜子”弱冠31才にしてこの研究所..正確には”内閣情報部国家保安局科学対策室付生物化学研究所”の所長を務める才女である。
 海外で過した留学時代にはすでにいくつかの学位と博士号を取得し、学会での評価も高く、民間企業では高額な報酬を約束されていた彼女を現在の地位と比較的大きな権限を持つ研究開発を条件に政府が引抜いた形でこの研究所を任されている。

「ようこそ当研究所へ、長官。お疲れ様でした。快適なドライブでしたでしょうか?」

 客の長旅を心から労おうかという小夜子の微笑みは堂島を少なからず驚かせた。
 というのも堂島にとって彼女との出会いはあまり心証の良い物では無かったからだ。

 いくら政府が引き抜いた逸材であろうとも 一技術者がわざわざ視察に来た内閣官房長官に向かって”難しいお話はお互いに時間の無駄ですわ”と言ってのけたのである。
 当然それは政府の連中の度肝を抜いたばかりではなく、マスコミや研究所員達の失笑を買い、彼のプライドをいたく傷つけた。

 当初はこの研究所自体の取り潰しまでぶちあげる程に怒り心頭であった堂島だが、ここの恩恵に預かっている後援者達からの口添えによりようやく事なきを得たのだった。
 
 それ以来堂島がここに来る事は二度と無いと思われていたのだが、今回ばかりはそうも言っていられない事情がある。代理にまかせるどころかSPや運転手さえ同行させられない様な事情だ。

 それでもいぶかしげな表情を崩さず車を降りると、ジロジロと彼女の様子を伺う。
 よく見ると以前にはあった全てを見下す様な視線も今は無く、堂島を心から労うかの笑顔が満面に溢れている。
 そして彼女への不信感が取り除かれると堂島は”実は心の底では彼女を認め、憧れてもいたのだ”という事に気付いた。



「こちらへどうぞ。鮫島様がお待ちでいらっしゃいます」

 彼女の引き締った尻が左右に揺れるのに見とれながら、長い廊下を歩きエレベーターに乗り込む。以前の視察では案内されなかったようなかなり深い所まで下りて行く間も、堂島の視線が彼女の尻から離れる事は無かった。

「お疲れさまでした。こちらでございます」

 ようやく..いや、いつの間にか着いたその部屋のドアをノックし、小夜子が告げる。

「堂島様がお着きになりました」

 返事を待たずに小夜子がドアを開けると、そこには堂島の予想とはあまりにも掛け離れた光景が広がっていた。


 部屋の中央に置かれた応接セットのソファーに腰掛けた男の上に、全裸の女が跨がり一心に腰を振っている。横に寄り添う二人の女は男の胸や首筋に舌を這わせながら自らの股間を弄っている。そして中央のテーブルに乗せられた男の足先をもう一人の女が熱心に舐めしゃぶっている。

「こ、これは..どういう事だ!」

「おっ、長官!お早いお着きでしたね。どうですか?一緒に...」

「鮫島君!こんな山奥にまでわざわざ呼びつけてなんの悪ふざけかね!ただの接待なら許さんからな!」

「まあまあ、そうおっしゃらずに。これは接待なんかじゃありませんよ。まあ、言うなれば経過報告と言った所ですかな」

 鮫島が促すと、怒りと疑問に呆然とする堂島を小夜子がソファーまで丁寧に誘なう。

 鮫島は上に跨がっていた女を降ろし、横の女に股間の粘つきを嘗め取らせると服装を整えて堂島に向き直った。

「いやいや、失礼しました。長官にお見せしようと用意しておりましたらついムラムラと来ちゃいましてね。お恥ずかしい...」

 いまだに憮然とした表情を拭えない堂島は苛つきを隠さずに言い放つ。

「いい加減にしたまえ!私は君が『先日の物質の解明が出来たのでどうしても内密で報告したい』などと言うからこんな山奥にまで来たんだ。しかもこの私が運転までして、だ。用件があるならさっさと言いたまえ」

 堂島の剣幕に、少々浮かれ過ぎたかと頭を掻きながら鮫島は小夜子に合図を送る。

 すると部屋の明りが落ち、プロジェクターの電源が入ると同時に、奥の壁際にスクリーンが下りてきた。

 その横でパソコンを操作する小夜子の美しい横顔がモニターの光に妖しく浮かび上がると、堂島は思わずそれに見とれてしまった。

 そのせいもあり最初の説明をこそ聞き逃したが、あまりにもショッキングなその内容に彼の耳のみならず思考の全てが奪われていく...。


「..........と、言う訳で人の精神、主に性的な感覚を操る事の出来るこの物質は現在の地球上には存在しない、そして合成や開発も理論上は不可能、しかも揮発した後は全く痕跡を残さないという性質を持ち、その為諸外国のどこもが絶対に入手不可能と言うことであります。
 ....続きましてこれの予想される使用用途についてですが...長官、何か思い当たる事はございますか?」

「ん...まずは兵器利用だな。通常兵器と併せて使えばそれとはばれずに生物兵器として利用出来る.....政治犯やテロリストへの自白剤としても使えるし.....後は要人を地道に洗脳していく.....!!なるほど、それでこの女達が経過報告と言う訳かね?」

 ようやく謎解きをこなした堂島をニヤニヤと眺めながら鮫島は言う。

「おっしゃる通り、政府の要人を...例えば米国大統領を洗脳出来れば、苦労して兵器開発する事も、議会に叩かれながら派兵する事も有りませんな。
 まあ、それは非常に難しいでしょうが...国防長官程度ならば不可能ではありますまい、あなたならね...」

 目を合わせ、お互いの腹の底を探る様に含み笑いを交わすと次に堂島が急かす。

「...で、その経過報告にこのような女性達を使った理由はなんだね?」

 分かり切った質問に鮫島はやれやれといった風で答えをこぼした。

「長官、彼女達は官僚、財閥の息女や芸能界など、いわばプライドの塊のような女性達ばかりを選んで洗脳してあります。後で全てご覧にいれますが長官のお顔見知りも少なく無いと思われますが...
 その女性達をお好きになさる事でこの物質の凄さを実感して頂こうという訳ですな。出来るだけ彼女達のプライドを引き裂く様なやり方で...」

「な、なるほど...それは是非視察していく必要があるな...ああ、それで..君...」

 堂島は鮫島の耳元に顔を寄せそっと囁いた。

「ちなみにここに居る野島所長は洗脳しておらんのかね?」

「.....あっはっはっはっはっはっ!」

 鮫島はこらえ切れずに大声で笑ってしまった。

「あ、いや失礼しました...長官、あなたもでしたか?彼女とのここでの付き合いは私の方がずっと長い...初めて出会った時から彼女には随分悩ませられた物です。当然こいつの一番最初の被験体は彼女に決まっているじゃないですか。最もプライドが高く、そして美しい..これ程この実験に相応しい人間はおりませんからな。
 今までさんざん使い古しましたが良ければどうぞお使い下さい。しっかり全身を仕込んでありますから。
 只 彼女はまだこのプロジェクトに必要ですのでお持ち帰りがご希望なら他の者達をご用意致しましょう」

 そう言って鮫島が指をパチンと鳴らすと、着ている物を一枚ずつ落としながら小夜子がソファーに近づいて来る。
 間もなくして現れた彼女の透き通る様な肌はその引き締まった体型と相俟って妖しく男を吸い寄せる。
 すぐに全裸になった彼女が鮫島の足元にかしづくとズボンのチャックに手を掛けた...が、その途端に鮫島に思いきり蹴飛ばされ、テーブルと一緒に引っ繰り返ってしまった。

「馬鹿野郎!俺より長官の方に決まってるだろうが!ったくインテリの癖に何回躾りゃ分かるんだ?」

「もっ、申し訳ございません!ご主人様」

 慌てて立ち上がり、堂島の前に跪くと三つ指を着き、頭を下げる。

「堂島様失礼致しました。お詫びに小夜子の体を使って一生懸命ご奉仕させて頂きます。もしお怒りでしたらどのようなおしおきでもお受け致しますので、どうか小夜子をお側に置いて下さい」

 しばらくは呆気に取られていた堂島であったが、拒否されるのを心底心配しているような瞳で下から見上げる小夜子を見るにつけ、奥底から湧き上がる笑いを押さえ切れなかった。



 それからというもの、視察の間中 堂島は小夜子を片時も離すことは無かった。或る時は彼女を嬲りながら歩き、或るときは報告させながら後ろから貫く..といった風に、とても高齢とは思えない絶倫ぶりで小夜子の体を堪能していった。

 しかしさすがにその体に溺れきってしまう事は無く、必要な所では休止して小夜子の説明を促している。
 中でも特に実験体の経過日数別に分けられた独房の前では興味深く一つずつ眺めていった。

 1日目....2日目....3日目....4

「!!おじさまっ!堂島のおじさまじゃありませんかっ?私っ、私です!三田詩織です!お願いです、助けて下さい!ここから出して下さい!おじさまっ」

「おや?三田財閥のお嬢様じゃありませんか。こんな所でどうされました?」

 全裸で監禁された女性を前に『どうされました』も無いものだが、詩織の必死の哀願をよそに堂島はニヤニヤと薄笑いを浮かべている。

「私、先日のパーティーの時にトイレで何者かに襲われて...それで気が付いたらここに..ここはどこなんですか?お願いです!ここから出して下さい。お金でしたらお父様に今までよりももっと出して頂くように私から言いますから...出して下さい!家に帰して...」

「ああ、君のお父様には大変お世話になってるからね...でもここに連れて来られたのは君にも責任が有るんだよ。君はあまりにも周りの男達を蔑ろにし過ぎた。ひょっとしたらこれは”バチが当たった”って奴じゃないのかね?はっはっはっはっ」

「そ、そんな......いいわ...見てらっしゃい!こんな事が知れたらお父様も黙ってらっしゃらないわよ..私の一族全てを敵に廻して政治家がやっていけるとでもお思い?!」

 泣きっ面を精一杯引きつらせて堂島を睨む視線は流石に生まれついてのサラブレッドだ。一瞬は堂島をたじろがせたが、これまでの報告を見る限りこの状況からの失敗は有り得ない。

「おっと、それは怖いな...まあ、心配しなくとも後2週間もすればここから出られるよ。おじさんが約束しよう..その間 君には指一本触れさせないし、服も着させてあげる。ただしここの人の言う通りに食事と運動だけは続けなさい。その後は君の自由だ...家に帰って俺を失脚させる算段をしてもいいし...そう、君が望めば私の元で暮らすのも自由だ」

「そ、そんな事有る訳.....本当に約束してくれるの?服と自由を...」

「もちろん!ここで少しの間不自由を我慢すれば、その後君は今まで感じた事の無い程の幸福を満喫できるようになる。保証しよう」

 そう言うと小夜子を呼び、耳元にそっとつぶやいた。

「小夜子、こいつは俺が調教する。洗脳だけできたら俺の所に送ってくれ」

「かしこまりました。もし今日にもお持帰りされるのでしたら洗脳済の者はあちらにございますのでご覧ください」

「ああ、そうだな。これで帰りのドライブは退屈しないですみそうだ」


 無造作に開かれたドアの向う、豪華な絨毯が敷かれた来賓室では女達があちこちで、思い思いのポーズを取っている。
 全ての者達が素晴しい容姿の持主でテレビや政財界のパーティーで見知った顔もいくらか有った。
 艶やかに着飾られたドレスは露出された肌を引き立てる為だけの物で、現に乳房や性器を満足に隠せている者は殆どいない。

 堂島は何人かの柔肉に指を這わせ、具合を確認すると、その中から3人を選び引連れて先程の応接室に戻る。

 そこでは鮫島が未だに女達と絡み合っていた。

「ああ、長官..いかがでしたか?視察と...小夜子は」

「はっはっはっ。申し分無い、としか言えんな。君は保安局の課長などより調教師にでもなった方が良かったかもしれん。...しかし、これで君の将来は約束されたも同然だ」

「お互いに...ですな?」



 一通りの打合せと”接待”が終わり再び地上に上がると、一応通常の設備の視察も簡単に済ませる。
 
 そこでの小夜子は昔のように毅然とした態度で年上の部下達に厳しく指示を出していた。スカートの中では彼女の愛液と堂島の精液が太股を伝っているというのに....。
 
 来た時にはただ妄想しながら眺めていた小夜子の尻肉が、いつでも掴み取れる所にあるという現実との対比に年甲斐も無く思わず興奮してしまう堂島だった。



 他に一台の車も走っていないだだっ広いばかりの高速道路で、連れ出した女の一人に運転させ、後部座席で三人の男女がもつれ合っている。
 その内の一人は同じ政党の仲間の末娘でもあり、何度か食事を共にしたものであったが、その輝くばかりの清楚さは既に失われ、堂島の肉棒をねだるばかりの薄汚れた牝犬と化している。

 長い黒髪と細くしなやかな四肢、以前にはあった筈の鋭い視線を思い出すにつけ、堂島は4年前に失踪した自分の娘に思いを馳せていた。

(........綾香...今頃はあいつも......)

 頭の隅にも置きたくない妄想を無理矢理振り払うと、何かに復讐でもするかの様に目の前の少女を弄び、貶めていく堂島であった。







02.闇の者達



 冷えきった空気がどんよりと重くのしかかっていた。
 
 どれだけの広さか、どれだけの深さかも計れないその闇の中で、掠れた話し声だけが響いている。
 一人はしわがれた老人の、そしてもう一人はそれだけでは男女の区別もつきにくい、中性的な声の持主だった。


「それで...使えそうなのか?」

「はい...恐らくは....」

「何を戯けた事を言っている!次に失敗すれば我々は存在ごと消されてしまうやもしれんと言うのに”恐らく”では話にならんぞ!」

「しっ、しかしながらお方様、あれが保管されております所は...何故か、私共闇の住人を拒む力がございまして...幾らかの使い魔があそこへ入ったきり戻っては来んのですじゃ...」

 その中性的な声の荒ぶり様に老人の側の声には確かに怯えの色が滲んでいる。

「.....そこに入れれば確かな事が判ると言うのか?」

「はい..左様で...」

「それならばおるであろう...そこに入る事の出来る 闇の者が一人...」

 老人の方は恐らくすでに考え及んでいたのだろう。その提案にさして驚きも感服もしなかった。しかしそれをするにはいくらかの不安もあるようだ。

「恐れながらお方様...あの者にそれを命じるにはいささか蔑ろにし過ぎましてございます。素直に動くとは思えませぬが....」

「ふん、闇の者と言えどもたかだか人間であろう。いくらかの餌か、さもなくば恐怖を与えてやれば容易い筈だ」

「....私もその事については思い当り、あの者の様子を見てまいりましたが、恐らくあの者に”恐怖”は通用しますまい...。死ぬ事を恐れるような様子は全くございませぬ。そして餌の方も殆どの欲望を持ち合せてはおらん様で...。いわば生ける屍という奴でございます」

「...そうか...屍では使い物にもならんが....?..お主、今”殆ど”と言った様だが、なにかあやつの望みに思い当る物でもあるのか?」

「は、唯一つ...あの者がこの世に身を置いている理由がございますが....」






「 ...はぁ、はぁ、はぁ....」

 荒い息を吐きながら一人の女が歩いている。
 両手に買物袋を一杯に下げ、右足を引き摺りながら賢明に歩いている。

 その数メートル先を男が歩いている。
 両手はポケットにしまい込まれ、何を見つめるでもない視線は真っ直ぐに前を向いている。

 ふいに男が立ち止った。
 ただ立ち止っただけであるが、その男の昔を知る者にとって、女を気遣うかの様なその振舞いは驚嘆に値する物であった。

「はぁはぁ...こっ、こしゅしんはま..もうひわけありません..おまたせひてしまって...」

「別にお前を待った訳じゃ無い...ちっと疲れただけだ」

 男はそんな女を振返るでもなく、地面に向って冷たく言うと側に置かれたベンチに腰を下ろした。

「俺は少し休む事にする。お前どっかで茶でも買って来い」

 そうは言っても自販機は目の前だ。

「は、はい...もうひわけありません」

「何 謝ってんだ。俺が休むと言ってんだろ。喉が乾いたんだ、早く買って来い」

「は、はい」

 慌てて買い物袋をベンチに置き、小銭を取り出すと缶入りの茶を一つ買う。
 その口にあたる部分をハンカチで丁寧に拭き取り、蓋を開け、男の足元に跪くと恭しく差し出した。

 男はそれを一口だけ飲むと女の頬を片手で掴んで口を開かせ、排水口にでも捨てるかの如く流し込む。

 ゴクッゴクッゴクッ

 渇ききっていた喉には少し冷たすぎたのか、食道へ入りきらなかった分が半分以上こぼれて女の衣服を濡らしている。

 それは他人が一見すると酷い扱いにも見えるのだろうが、その男の全てを知る女にとってはまさに感涙物の施しであった。

 その缶の中身を全て”捨て”終わった男に対し、女は文字通り涙をこぼしながら男に向かって頭を下げた。

「こしゅしんさまのおくちにめされたものなどをめくんでいたらき、ありかとうこらいました」

「あゆみ、お前には以前言った筈だな...俺の世話をしたいなら体を直す事だ..とな。それをこんな町中にまで買い物なんざ、まだまだ早い。買い物や掃除などやる者はいくらでもいるのに、お前のお陰で俺までがこんな所に駆り出されちまう。
 お前は今でも俺の奴隷だが昔の様な奉仕を望んでいる訳じゃ無い。俺が本当に望んでいる物はお前にも分かっている筈だ」

 男は足元で正座する女に向かって冷たく告げた。...が、瞳に小さく宿る優しさだけは隠しきれない。

 あゆみはボロボロと涙をこぼしながら、本来奴隷にとっては許されない筈の反論をぶつけた。

「れも、れも、こしゅしんはま...いまはもう、あかねさんもまりさんもいなくて..わたしのこほうしだけれ..わたしのからだだけれ..こまんそくいたらけているとはおもえなくて...こしゅしんはまのおせわもれきなくて..もう..わたしは..ほんとうは..もう..いらないのれは..ないかと..いつも..おもってて...だから...せめて...こしゅしんはまの..おしょくじを..つくりたくなって...こめんなはい......こめいわく..おかけしまひた....」

 あゆみを責めているわけでは無い...
 いや、影一にとって彼女の世話を焼くのは心地良かった。自分の中の罪悪感を和らげてくれた...なのにどうしても優しくは振る舞えない。そうすれば彼女をより追いつめる事になるのは分かっていたし、今まで苦悩全てが無意味になってしまうような気がしていた。



 あの”月食の日”...影一は転がっていた全ての女達を丁寧に拭き上げ、寝室に運び、一人ずつと口付けを交わしながら、労いと謝罪の言葉を、彼女達の耳と、自らの心に流し込んでいった。
 時間を掛け、全て自分の手だけでそれらを施していく主人の姿をつぶさに見取っていたあゆみにとって、影一の心に刻み込まれた深い傷は癒される事があるのか?それが自分に出来得る物なのか?そんな思いがいつまでものしかかっていた。
 そして今はそれを成すどころか影一に気を遣わせ、時には世話までを掛ける自分を苛立ちと焦りが押潰そうとしている。


 あれからしばらくは二人きりの生活が続いていたのだが、あまりに広大な館の手入れと女達の世話をする為に何人かの人間が一緒に住むようになった。
 と言っても影一の身の回りの世話はあゆみ以外には命じられはしなかったし、あゆみ以外の身体を求める事も無かった。片時もあゆみが傍から離れる事は無く、夜も影一の足元に丸まって眠り、主人と共にベッドで朝を迎える事さえあった。
 夜中にでも叩き起こされ体を使われる事もしばしばあったが、あゆみはそれを主人の優しさなのだと感じている。
 それが無ければ自分に存在意義は無くなるし、辛く冷たい仕打ちであればある程 大事な主人に我慢を強いてはいないのだ..と思わせてくれた。


 影一もあゆみの不安を分かってはいたが今はただ互いの傷を嘗め合う事しか出来ないでいる。
 館で眠り続ける女達を救うことも、唯一人残ってくれたあゆみの苦悩を取去る事も、償う事すら出来ない...。
 影一はあまりにも無力な自分に嫌気が差してもいたが、そんな素振りをあゆみにだけは見せられず、夢中で出口を探して足掻くばかりの毎日だった。




 その日の夜...あゆみが眠った後...あの”血の狂宴”が催されたホールで影一は一人椅子に腰掛けていた。

 どこに流れるという事もなく、只たゆたい、霞んでいく紫煙を虚ろな瞳で追いながら...。

「!?」

 と...突然、影一はその煙草を部屋の隅に向って投げつけた..そして、その方向へ大股で詰寄る。

「てめぇ!よくもこんなところまで顔を出せたもんだな!」

 闇に向って吐出すように言葉を投げると”力”を込めた視線で睨み付ける影一。

「ちょっ、ちょっと待て!...少し位話を聞かんか!」

「うるせぇっ!俺は今イラついてんだ、そんな陰気臭い顔なんざ見たくもねぇよ。とっとと消えねぇと今度はおめえを”俺の女達”みたいにしてやるぜ!」

 あの”月食の日”以来、自分の中でどんどんと闇の力が膨れ上がるのを感じていた影一は、この老人程度の使い魔では既に太刀打出来ない程の”闇の使い手”になってしまっていた。
 それは言換えれば”あいつ”が力を付けて来ている..と言う事だ。その事も影一が不安と苛立ちを募らせている原因の一つである。

「わしはお主を助けに来たんじゃぞっ!...お主、あの女達を救いたいとは思わんのか?」

「.....何っ?」

「あの、精気を抜かれた女達を助けてやれるやもしれん..と言っておるのじゃ」

 影一は一瞬見えた希望の光を掻き消すと、もう一度怒りに髪を逆立てる。

「てめぇ...もうお前らの言う事なんざ誰が信じるかよ!..これ以上戯言をぬかすと...」

 バチバチッと閃光が走り、老人の足下の闇が渦を巻きながら蒸発し始めた。

「うわっ!ちょっ、ちょっと待たんか!本当じゃ!あの女達は元に戻れるんじゃよ!」

 それでも逃げ去る事無く説得を続けようとする老人に、影一は怒りの表情をこそ崩さなかったが、その火花を飛ばすのをやめた。

「一応聞いてやるよ。どういう事だ?ハッタリなんかかますんじゃねぇぞ」

 ふぅー と老人は溜息を一つつき、自分の足下を確認している。

「実は”お方様”からの御用命があってな。また一つ仕事をしてくれればお主の願いを聞き入れようと言うておられるのじゃよ」

 影一の目がまた一段と釣上がる。

「てめぇ、まぁた俺の女を使おうってんじゃねぇだろうな!」

「い、いや...今度は違う。ある所に行って調査をしてくるだけじゃ。わしらでは入れん所へな...。そこに居る者達はやはりこちらに差出してもらう必要があるが、そやつらは別に殺したり、精気を抜いたりはせんよ...わしらの計画の為に働いて貰うだけじゃ。お主がこの館で使っておるのと同じようなもんじゃよ」

 影一は少し怒りを納めると、今度は食いつく様に言った。

「仮にそれを俺がやりゃぁ”俺の女達”はどうなるんだ?」

「精気は”お方様”が戻してくださる。そうなれば以前の様に歩いたり、話したりは出来る様になるわい。ただ身体の壊れた者はしようが無いのお...後は人間の”医学”とやらで直すしかないのじゃ」

 影一の頭にあゆみやぼろぼろになっていた茜と麻里の姿が浮び上がる。しかしこのままではそれすらも叶わぬ夢となってしまうのだ。

(どうする...?こいつらを信じていいのか..?又、騙されて利用されるだけだったら....しかしもう俺には何も手立ては無い...身体はいつか治るかもしれん、精神や頭の中なら少しは俺でも....)

 影一の中では藁をも掴む様な気持の他に、怒りと猜疑心が渦巻き、堂々巡りがいつまでも続いていた。

「....で...何をするんだ?」

 意を決してこぼれた言葉は、自分でもやはりこれしか無かったのだと分ってはいた。







03.追憶



 ”闇の契約”を終えた影一は女達の寝室にやってきた。

 いくつかの部屋を一つに改築され、最新式の医療機器や介護設備で彼女達の容態が逐次管理されている。
 すやすやと寝息をたてている女達は、無惨だった体も一部の痣や傷跡を残し殆どが美しい肢体を蘇らせていた。
 だが目の光だけが戻らない.....。

 いつものように一人ずつ皆を覗き込み頬に触れた後、その内の一つの傍に腰掛け..そっと手を握り、胸元に顔を埋めた。

 少しだけ肩が震えているようだったが、それが何故だかは分らない...。
 
 やがて影一は久しく見せた事の無かった安らかな顔で寝息を立てていた。




「....っはぁっ、はぁっ、はぁっ....」

 夢中で駆けていた...

 何故なのだろう?...やけに低い..この目線は...子供?

 やがて前方に数人の少年が立ち塞がり、その後ろに5〜6才位だろうか?一人の少女が泣き伏せっている。

(そうだ...俺はあの子を助けに来たんだ)

 駆け寄る..と同時に少年の一人に飛び蹴りを食らわせる。
 その後も次々と他の少年達に殴り掛かり、乱闘が続く。
 中には自分より大きな体の者もいたが、場慣れしている自分に勝てる者はどうやらいない様だ。

 程なく事は終り、逃出す少年達に目を腫らし傷だらけになりながらも「ふんっ」と鼻息を向けると一人小さく震える少女の髪に手をやり、クシャッと撫でてやる。
 少女がその大きな目をこちらに向けると、俺の好きだった愛らしい笑顔が一気に広がりこちらに抱き着いて来た。

「えいちゃんっ!やっぱり来てくれたんだ!うれしいっ」

 俺は得意げに鼻を擦りながら言っている。

「あったりまえだろ!約束したじゃんか、まりはいつでも俺が守ってやるって」

「うん、うんっ、そうだね...ありがとう!ずっと一緒にいてね、えいちゃん」

 ...しかし俺はその約束を守る事は出来なかった..。

 二人が育った施設が廃止される事になったのだ。
 それぞれ遠く離れた別々の施設に引き取られる事になった二人は、もう二度と会う事は出来ないと思っていた。
 ....あの時まで...。




 それは俺が二十歳を少し過ぎた...食う為に町のチンピラの使い走りをしていた頃だ。
 俺はいつもの様に債権の取り立ての為にボロボロのアパートに踏み込んだ。

 そしてその部屋の片隅で犬コロの様に丸まって震えている麻里を見つけた...。



 麻里が引き取られた施設はかなり酷い所だったらしい。
 
 まともに動ける子供は全て働かされ、反抗的な者は暴力で従わされ、虐待を受けていた。

 そして10才の時...施設の大人達によって麻里は、心に消える事の無い傷を刻み込まれる事になる。

 その後、数年にも及び度々続けられたその仕打ちにやがて耐え切れなくなった麻里は、一人夜の街へと逃げ込んだ。

 だが...そこも幼い少女が一人で生きるには辛過ぎる所だった。なまじ美し過ぎる事が彼女の不幸を助長してしまったのだ。

 美味しい食事と暖かい部屋を餌に獣達が麻里の体を次々と通り過ぎて行く...。

 そして俺が見つけた時には既に体はボロボロで、覚えのない借金に追い回され、麻薬に犯された頭は正気を失いかけていた。
 うつろい、濁った瞳は、その美しい顔と相俟って妖しく男を引き付けている。

 俺は麻里の腕を掴み、夢中で駆け出していた。麻里をここまで墜としめた男達と、約束を守れなかった自分に対する怒りの言葉を呟きながら...

「麻里、麻里...もう大丈夫だ!今度こそ俺が守ってやるからな。もう怯えなくていいんだ。もう誰もお前を傷つけたりはしない」

 俺の言葉が届いたのか..路地裏の汚いゴミ箱の間で、麻里は俺に精一杯の笑顔を見せると頭を擦り付けて来た。

「あなたがあたらしいご主人様ですか?私なんでもしますから痛いことはしないでね...おねがいします...」

 そういって俺の股間に顔を埋めると、その可憐な唇にファスナーを咥え、降ろし始めた。

「やめろ!やめてくれ、麻里。俺だ!影一だ...頼む!思い出してくれよ...」

 俺は麻里を強く抱き締め、涙を流し続けた。

 だが一向に意思を取り戻さない麻里を仕方なく抱き上げると自分のねぐらの一つに連れ帰った。そこでようやく落ち着いた麻里は、長い間泥の様に眠り続けた。



 それから二人の闘病生活が始った...。
 
 身体から麻薬の中毒症状が消えるのに約2週間..その間は俺がつきっきりで、薬を欲しがって暴れ自傷する彼女を抱きしめ、時には縛り着ける事さえあった。
 だがそれが過ぎ去ると、身体の傷は思ったより早く直り始めた。傷ついた性器は今も痛々しいが、体中に着いていた鞭や注射針や拘束の跡は次第に消え、白く透き通る様な肌が蘇ってくる。

 そして体の震えが治まった頃、彼女はようやく俺を思い出してくれた。


「影ちゃん...なの...?」

「そうだ、俺だよ、麻里...思い出してくれたかい?」

 麻里は今までの嫌な事を全て洗い流すかの様に、俺の胸で泣き続けた。

 ずいぶんと長い間俺の胸を濡らしていたが、それは、それだけで流せてしまう程軽い人生では無かった。

「ばか..影ちゃんのばか!なんで治したりしたのよ...なんで..なんで..あんな...人生を...思い出させたりしたのよっ!私...このまま...真っ白なままずっと......居たかったのに...」

 俺は言葉が無かった。麻里にとって、こんな人生など思い出すべきでは無かったのかもしれない...良いことなど一度も無かったのだから。俺は..自分の為に..自分の寂しさを紛らす為だけに..麻里が必要だったのだ...。

「麻里..すまなかった..そうだな..俺は自分のわがままで又お前を苦しめてしまったのか....。
 俺の人生も良いもんじゃ無かったが...俺の心にはいつもお前が居た..だがお前には誰も居なかったんだな、麻里。....でもこれからは俺が一緒だ。昔約束したろう、俺が必ず守ってやるって。だがそれも..もし、辛いのなら...一緒に死んでやることも出来る。どっちになろうとも もう俺たちは離れなくていいんだ、麻里...どうしたい?」

 俺の言葉に麻里は生まれて初めて感じる暖かな安らぎに包まれていた。
 零れる涙をグイッと拭い、今彼女にできる精一杯の笑顔を俺に向けてくれた。

「影ちゃん...あたしね...もし..出来るなら...悲しいとか..寂しいとか..そんな事感じない...お人形になりたかったんだ...きれいでかわいい..おにんぎょう....。
 そう、影ちゃんだけの...影ちゃんだけが可愛がってくれる...そんな人形がいいな.....
 ねぇ、誰かに一生懸命可愛がってもらえたら、幸せになれるよね?私幸せってよく判んないけど、寂しく無かったら幸せなんだよね?
 それで...私がお人形になったら....一杯可愛がってね。私、ご奉仕上手だからきっと気に入るよ」

 麻里の言葉に彼女が歩んできた人生の悲惨さを思いながら、俺は、今俺が出来る事の全てを頭の中から掘り起していた...。

「麻里..人形にはしてやれないけれど、俺が必ず幸せにしてやるさ。きっと嫌な事は忘れさせてやるよ...」


 その夜、俺達は始めて結ばれた..。

「影ちゃん、あたし...SEXって初めてなんだよ...だから..影ちゃんはあたしの初めての人...」

 そう言って俺の胸に顔を埋め、涙と喘ぎ声を恥ずかしそうにこぼしていた....。


 その後もしばらくは二人で傷を舐め合いながらひっそりと暮していたが、このままこの街にいる訳にはいかない。麻里を連れ去った事がバレればただでは済まない筈だ...。

 麻里が人並に体を動かせる様になると、俺はこの町を出る準備をし始めた。
 必要な物を買込み、今まで仕事を廻して貰っていた友人に預けてあった金を取りに行った。

「お前、街を出るのか?」

「ああ、ちっとやばい事になってな...」

「仕事のトラブルか?それとも女絡み?」

「昔の女がトラブってな...一緒に逃げる事にした。落着いたら連絡するよ。」


 ...しかしそれが甘かった。この街に信用に値する人間などいる筈が無かったのだ。

 買い物や列車の手配を済ませ、部屋に戻った時...数人の男に囲まれた麻里は、あぐらを掻いた男の上に跨がり、腰をがむしゃらに振りたくっていた。

 ようやく取り戻せた透き通るような白い肌は男達の精液にまみれ、男の首に必死でしがみつきながらも白目を剥き、涎と愛液と喘ぎ声をとめどなく流し続けている。
 
 部屋のあちこちに散らばる器具や道具から、麻里がこの数時間にどれだけの陵辱を受けたのかが窺い知れた。
 そしてなにより俺に絶望をくれたのは、麻里の尻に今も針を残したまま砕けた注射器、そしてフローリングに散乱する白い粉....。
 
 
「よう、影一...しばらく見ねぇ間にずいぶんと出世したもんだなぁ。俺の借金ごと女ぁ連れて逃げるなんざ、なめてんのか、死にてぇのか、どっちだ?」

「工藤...さん...」

 俺もこの街で生きる以上、顔役の一人であるこいつにだけは逆らえなかった...今までは。

「だが許してやってもいいんだぜ。これだけの上玉ならすぐに借金なんかチャラにできるって。俺もこいつが気に入っちまったし、しばらくは俺が飼ってやるよ。こいつの身体、よく仕込んであるよなぁ...お前がやったのか?大したモンだ。」

(....麻里は..俺が......守る!)

 俺はズボンのポケットから取り出したバタフライを軽い金属音と共に開くと、真っすぐに工藤に突っ込んで行った。

 しかしその切っ先はそいつにかすり傷一つ負わす事すら出来なかった。子供の喧嘩とは訳が違う。

 1時間後、指一本動かせないほどボロボロに殴られた俺は、裏のどぶ川に浮かんでいた。

 たまたま通りかかったサラリーマンの通報で一命は取り留めたが、その後半年間はベッドに縛り付けられる事になっちまった。




(また俺は...あいつを守れなかったのか...)

 怒りと罪悪感で眠れない夜を無数に過ごしながら、俺はこの街でのし上がる為に心を捨てようと決意した。

(力が欲しい!大事な物を守れるだけの力が...どうすれば..俺は..その為なら悪魔にでも魂を売るのに!!)



 退院し、ようやく歩けるまでに回復すると、俺は真っ直ぐに工藤の元へ向った。
 闇夜の中で息を潜めながら、あいつが、街が、寝着くのをじっと待つ..。
 マンションの鍵を軽く開け、まず他の人間がいない事を確かめると工藤の首筋にナイフを当て、布団を剥取った。

「だ、誰だ!....え、影一?てめぇ..性懲りもなく...今度こそ命は無いと思っとけよ!」

「工藤さん、あんたには随分世話になった...お陰でいい勉強させて貰ったよ。だがこいつばっかりは譲れねぇんだ。麻里は返してもらうぜ...」

 俺は工藤の横で素っ裸のまま寝息を立てている女を優しく揺り起す...。

「麻里、麻里..迎えに来たぞ...一緒に行こう、この街を出るんだ」

 だが、眠そうな目を擦りながら見上げるその顔は..麻里ではなかった。

「麻里は、どこだ!どこにやった?」

「へっ、残念だったな。麻里はもうここにはいねぇよ。使い物にならなくなったんでな、分家の組に払下げだ。どこで稼いでるのかも判らんよ」

 またしても俺を怒りと絶望が浸食し、そこで俺は初めてのコロシを経験した。
 闇に響き渡る悲鳴と血飛沫の中、俺は人ならぬ闇の領域に踏み込んでいった....。



 俺を殺そうと必死で探し回る追っ手達から逃げまどう中...俺が闇の力を手に入れたのはそれから数週間後の事だった。

 空腹と疲労を背負い、恐怖と絶望に苛まれ、怒りと憎悪に全てを委ねていた頃、狭い路地裏をどぶネズミのように這いずり廻っていた時だ。
 恐らくは一生陽の光は当たらないだろう路地裏のどん底から一人の老人が俺に手を差し伸べた。

 その後、それまではちっぽけで、少し粋がるとすぐに踏み潰されていたチンピラは瞬く間にその街を支配した。

 だがその力を使い、ようやく麻里を見つけた時には、山奥の温泉宿でボロボロの体を引きずり、僅かな食事と引き換えに命を削っていた。

 以前の様に..いやそれ以上に、闇の力を持ってしても修復の出来ない程心を壊された麻里は、どんな下賎な男にも媚びた目で肉棒をねだる、今や男の精液を絞る為だけに生きる家畜の様な存在だった。

「うわあああああああああああああああああああああっっ!」

 俺の轟く様な咆吼と共に体中の毛穴から真っ黒な瘴気が吹出し、やがてそれはその建物全てに充満すると、中にいた連中の精神を次々に蝕んでいった。
 俺の目からは黒い涙が、僅かに残っていた心と共に流れ出していく。

「麻里..麻里...すまない...やっぱり俺は約束を守れなかった...許してくれ。」

 昼間だというのに真っ暗な空を見上げ、俺は一人麻里を抱きしめながら虚ろなつぶやきを繰返していた。

「そのかわり..いつかお前が言っていた望みを...今なら、かなえてやれる....。
 俺だけの人形になって...俺だけの為に生きてくれ...もう二度と離さないから...。
 そして約束しよう..お前をここまで貶めた男達を必ず地獄に送ってやるよ..お前以上のな...」

 麻里を抱き起し、虚な瞳に視線を交えると、麻里の表情から苦悶と寂しさが抜けていき、昔の、少女のような、暖かく幸せそうな笑顔が戻ってきた。
 もう彼女の中には暗い過去も苦い感情も一片たりとも残っていない...俺の傍に居るだけで、それを至上の幸福と感じる...人形になった....。



 そして俺は、麻里を貶めた男達への復讐を始めた。
 女衒の者達、ヒモだった男達、そしてなにより、最初に麻里の人生を狂わせた施設の男達にはより深い地獄を....。
 簡単に殺してやりはしない。麻里の味わった幾倍もの地獄は一瞬の恐怖では生ぬるい...

 そうやって、人を一人、また一人と葬る度に、俺の心もより深い闇へと取り込まれ...やがて麻里への愛さえも闇の彼方へ置き去られてしまっていた。





「.....麻里...すま..い...また俺は....お前を....なかった.......くれ」

 眠っているのか、醒めていたのか、本人にも判らないまどろみの中で、麻里の胸に埋ったままの影一の口から、呻きの様な呟きがこぼれた。







04.招かれざる客



 厳めしい鋼鉄製のゲートの前に真っ赤なコンバーチブルが横付された。

「あー、すみません、どちら様でしょうか?こちらはあらかじめお約束頂いた方しかお通し出来ませんが..」

 その車の助手席に座っていた男がサングラスを外し、その指先を目の前に持ってくると、屈強な警備員と僅かに視線を交わす。

「申し訳ありませんでした。こちらが館内パスになっております。お気を付けて...」

 ゲートが静かに開くと、運転席の女はたいした表情の変化も無く車を発進させる。



「あの..ご主人様?今日はお供させて頂けて大変嬉しいのですが、私はこちらで何をさせて頂けばよいのでしょう?」

「いや、すぐに済むとは思うが...もし手間取るようならお前は内部資料に目を通して極秘で進められているプロジェクトとやらを探ってくれ。」

 ここまであゆみを連れて来る訳に行かなかった影一は、館の中から他の女を一人選んだ。

 ”山村亮子”彼女は影一の持物..資産や”駒”達の管理を任されている一人である。
 いわば茜の後釜ではあるが、あまりにも優秀だった茜の後を引継ぐには3人の専門家が必要となり、亮子はその中でも化学技術関連の企業を取りまとめている為、今日の同行となった。
 当初は主人と二人きりの外出に飛上がって喜んでいた彼女であったが、ここまでの道中ずっと黙り込んだままの影一に緊張し、話しかける事も出来ず、ようやく今の会話が交わされたのみだ。

「ここの責任者は誰だったかな?」

「はい...野島小夜子,31才,女性,広島県出身,現地公立高校中退後,17才オックスフォード大学留学,18才博士号取得,19才修士,MIT特別招待研究員,NASA技術客員を経て27才当生物化学研究所所長就任,個人所有の特許31,国内外の各賞ノミネート数48,受賞数は..0です....」

「ああ、もういい。ようするに”そういう奴”って事だな。よく”Shiratori”の情報網に引っ掛からなかったもんだ...マスコミには出てこなかったのか?」

「はい、私も今回初めて知ったのですが...驚くばかりです。恐らく若い頃から政府が育て、隠蔽してきたのではないでしょうか?ご主人様のネットワークが無ければここまでも判らなかったでしょう...」

「ふん...そいつもようやく年貢の納め時って訳だ。」

 話を続けながら影一は、まず受付に座る女二人を墜とした。

「野島所長は居るか...」

「申し訳有りません...所長は只今外出しておりまして、間もなく戻る予定ですが...副所長でしたら研究棟におります。お呼び致しましょうか?」

 影一は少し考えると

「いや、いい。自分で見て廻る...館内の見取図でもあるなら貰っておこう」

「はい、少々お待ち下さい.....こちらでございます。お気を付けて。」

 館内に居る数百人を墜として廻るのも面倒だ。出来れば責任者から始めて効率良くいきたかったのだが..やむを得ず二人で館内を順に見て廻る。

 副所長を初め、各所に居た所員からいくらかの情報は得られたが、目当の物にはまだまだ程遠い。

「亮子...どう思う?ここでそんな”極秘プロジェクト”なんかやってると思うか?少なくともこの中に居る奴らは全く知らないみたいだな。」

「はい、それがどのような物かも判りませんが、もしそうならかなりの..”国家の安全..若しくはバレたら政府の転覆”といった位の物ではないかと...」

「ふん..国家や政府がそんなに大事とは思えんが...どうしても守りたいらしいな」

「ご主人様?ここへはどのようなご依頼でいらっしゃったのですか?もし、差支えなければ...ですが..」

「ここにある”ある物”を持帰る...そしてその研究に携った者を洗脳して差出す...と言った所だ。素直にやるとは限らんがな...どっちにしろそいつを手に入れん事には話にならん」

「先程乗ったエレベーターには鍵付のプレートが有りました..その中にボタンが有るとしたら恐らくは...地下に?」

「ああ、それは気付いていたが、これだけのセキュリティーだ。そいつをこじ開けりゃ入れるって事も無いだろう...」

「文字通り野島所長が鍵を握っている...という訳ですね」

「しょうがない..待つしか無いな」


 そう言いながら所長室の机を物色していた時、ふいにその扉が開かれ女が一人入ってきた。

「だ、誰っ?貴方達..何をしてるの!」

「こいつが野島か?」

 特に慌てる素振りも見せず、二人は話を続ける。

「申しわけ有りません、顔写真までは入手出来なかったもので...しかし恐らくは...」

「な、何を言ってるの!ここは所長室よ!関係者以外は....」

 そう言いながら館内電話を手にする女を片手で制しながら影一が視線を合わせる。

「お前は野島小夜子か?」

 電話に指を掛けたまま夢遊病者の様に固まった女に問いかける。

「はい。私がここの所長を務めております野島です。ご主人様宜しくお願いいたします。」

 影一は彼女の容姿を見るにつけ、若干の驚きを隠せなかった。いくら政府が隠していたとはいえこれだけの素材がこんな穴の中で潜んでいたと言う事に...

(俺のネットワークもまだまだだな...しかしそのお陰でこいつは命拾いした..という事か...)

 影一はドカッと所長の椅子に腰掛けると指先で小夜子を呼寄せ、もう一度問いかけた。

「ここで政府要請の極秘プロジェクトってのが有るだろう、そいつはどんな物なんだ?」

「はい、一言で言うと”精神に干渉する事の出来る未知の液体の研究”です。
 昨年ある男が起した猟奇的監禁事件を調査していた機関の報告で判明したのですが..その男が一人の女性を洗脳するのに使用していたと思われるある液体が発見されました。
 当初それは麻薬の一種と考えられていましたが、その中に含まれていた成分が全く未知の蛋白質から派生した物で、それと他の成分を合成する事により人の精神に様々な影響を与えられる事が今までの調査で判っています。
 その後それらの事実を隠蔽し、それを軍事若しくは裏の外交政策で利用する為の研究が行われています。
 現時点では多様な臨床実験も行われ、各個別にはほぼ確実に洗脳出来ますし、人間の精神を破壊するだけなら数百万人程度まで同時に可能であると推察できます。
 それに伴い、それらを実際に行う為の兵器開発や証拠を残さない為の手段も別の機関で併行して研究されており、そちらの方はほぼ整っていると聞及んでおります」

 影一にしては珍しく、驚きと興奮の表情をありありと浮べながら亮子の方を見やった。

「亮子..こいつは...」

「ええ、ご主人様...間違いなくこれには”闇の住人”が絡んでますわね」

「そいつを人間が..厄介な事に政府が手に入れちまった.....面倒な事になりそうだな...」

 その後の振舞いについてしばらく考えていた時、手元の館内電話が鳴り響いた。

「誰からだ?」

「恐らく地下におられる保安局の鮫島課長だと思います。戻り次第うかがう様に仰せつかっておりましたので」

「”仰せつかった?”お前、先に洗脳されていたのか?」

「はい先程まで私はあの方の奴隷でした。申しわけ有りません...」

 小夜子は少し寂しそうに頭を下げる。

「まあいい、とりあえず電話にでろ。来いと言うなら行ってやるさ」

「わかりました......はい、私です..申しわけありませんでした..はい..すぐにうかがいます..」

 そう言って電話を切ると、小夜子は俺達を丁寧に促してエレベーターへ案内していった。


 乗ってからの時間とスピードから考えてもかなりの深さまで降りているのが判る..恐らく百メートル以上はあるだろう。

(こんだけ深けりゃ”あいつら”の方が近いんじゃねぇのかよ?)

 ”あいつら”がどこに居るのかも知らないが、影一にはそんな気がしていた。


 エレベーターを降り、少し歩いた先のドアを小夜子がノックする。

 返事は帰って来なかったが、それも分り切っているといった感じで小夜子がドアを開け放つと、中ではやはりいつもの痴態が繰広げられている。

 そんな状況に眉一つ動かす事も無く影一は、こちらを振返りもせずに一心に腰を振っている男の側に歩み寄ると パンッ と手を一つ叩きこちらへ視線を促す。

 かなり驚いた様子の男がこちらを振向き、一瞬は固まったのだがその口から放たれた言葉は影一の予想を裏切る物だった。

「だっ、誰だお前はっ!..何故ここにっ!!」

「!...何っ!?」

 亮子と顔を見合わせ、もう一度男に視線を絡めるが全く墜ちる気配は無い。

「どういう事だ?力が..効かない...?」

「小夜子っ!こいつは誰だっ?!」

 男が喚き散らすが、俺が誰だか未だ知らされていない小夜子は黙ったまま直立している。
 それを見た男は下半身を露出させたままの格好で慌てふためきながら、なんとか壁の非常ボタンに辿り着き、押した。

 けたたましく鳴り響く非常ベルの中、特に慌てる素振りを見せはしないが、影一の額に苦渋の色が浮び始めた。

 亮子が影一に近づき耳元に話しかける。

「ご主人様..どうやらここには”闇の力”を中和するような力場があるようですね..ここは出直された方が良くは無いでしょうか?もし脱出されるのならこの場は私が...」

 この場に亮子を残して脱出すれば政府が亮子に対してどんな仕打ちをするのか、想像はつく。
 それにその後、計画の隠蔽工作でもされては厄介だ...計画が頓挫してしまっては元も子もない。

「...いや、せっかくここまで来たんだ..もう少し遊んで帰る事にしよう。まあなんとかなるだろう...」

 影一はふぅと息を一つ吐きながらソファに腰掛けると鮫島に声をかける。

「おっさん、そんなに慌てんなって..とりあえずその見苦しいもんをしまったらどうだ?」

 影一に指摘され、初めて自分の情けない格好に気付いた鮫島は真っ赤になりながらもこちらを睨付け、そそくさと衣服を整える。

 やがてドカドカとやって来た警備員達に抵抗する事もなく取り押えられた影一は、狭く殺風景な部屋に押込められてしまった。



 どの位の時間が経ったのか..影一は冷たいコンクリートの壁にもたれながら考えを巡らせていた。

(まあ一週間も経てばあゆみが政府の駒を動かして調べに来るだろう...それまで生きていられれば..だが..。あいつ...保安局の鮫島とか言ったな..保安局と言えば内閣情報部...綾香の親父が仕切ってる筈だが...)

 カツッ、カツッ、カツッ

 静まり返った廊下の奥から靴音が響いて来た。

「やあ、ご機嫌はどうだね?そろそろ名前くらいは教えてくれてもいいんじゃないのか?目的もな..カップルでデートするにはここは殺風景だと思うがね?」

 さっきの慌てぶりが嘘のように鮫島が冷笑を浮べて覗き込んでいる。

「ふん、俺の名前も調べられないのか..国家保安局も大した事ねぇな、鮫島のおっさん」

「ほう、私の名前は知っている様だが..小夜子が教えたのかね?」

 鮫島は、横で胸をまさぐられながらとろけた瞳で喘いでいる小夜子の方を振返る。

「あうっ..もっ、申しわけ有りません..ご主人様...」

(ちっ、こいつの洗脳まで解けちまったのか?ちっと浅かったか...亮子は大丈夫みたいだったが...)

「おい!亮子は無事なんだろうな?」

 鮫島は白々しく驚いた様な顔を作って見せると

「ほう、彼女は亮子と言うのか..相棒が心配かね?大丈夫、彼女は丁重におもてなししているよ。なにしろあれ程の美女はそうそうお目にかかれないのでね。今じっくりと実験させて貰っている所だ。間もなく出来上るんじゃないかな...この小夜子みたいに忠実な牝犬がね...」

 そう言って小夜子のスカートを捲り上げると、彼女の淫裂に深々と突刺さっている張型をグリグリとこね回す。

「あっ、ああああん....」

 小夜子が嬉しそうに喘ぎながら鮫島の腕にしなだれかかる。

 影一はその胸の悪くなる響きに顔をしかめながらペッと唾を吐き捨てた。

「はははははっ!どこの国の諜報員か知らんが、生きてここを出られるとは思わん事だな。ここでなら捕虜が死のうが拷問されようがマスコミに漏れる事もないんだ。まあ、ゆっくりしていきたまえ。」

 そう言って粗末な食事を差入れると鮫島は戻っていった。




 亮子が囚われている部屋は少し様子が違っていた。

 中央にそびえ立つ巨大な塔の様な容器の中には緑色の液体が半ば程にまで満たされ、そこから延びる何本ものチューブは大型のカプセルの様な独房へと繋がり、その液体の成分を房内に充満させている。その中の全裸の女達は..ある者はガラスを叩きながら哀願を繰返し、ある者は喘ぎながら股間をまさぐっている。
 その中の一つに亮子はいた。特に何かを主張するでもなくただ黙って座っている。

 実験室のガラスを覗き込みながら鮫島は

「彼女..亮子と言うんだそうだが...首尾はうまくいってるのかね?」

「は、房の内部の成分濃度は通常の被験者よりも多くしてあるのですが..何故かあの女だけは何の反応も示しません。
 血液中には多量に含まれておりますので摂取はしている筈なのですが...」

「どういう配合で摂らせているのかね?」

「はっ、ご指示通り..性的感度を通常の5倍まで上げ、記憶はそのままに人格だけを壊すようにしてあります...」

「ふむ..特殊な訓練を受けているか、薬品に耐性のある体にされているのかもしれん...もう少し様子を見て駄目なら...力づく..だな...」

 鮫島のサディスティックな笑みが他の所員の背筋に悪寒を走らせた。



 ここに入ってから数日、影一は出された食事には手を付けていなかった。恐らくこれにも例の”洗脳薬”が入っているのだろう。影一がいくら闇に魂を売払ったとしても、体は人間だ..その薬が麻薬の類だとすれば、亮子の様に精神をより強い力で縛られていない限り冷静な判断力が奪われてしまう..。

 もし鮫島が亮子の色香に惑わされず、影一の方をカプセルに入れていたなら状況は変っていたかもしれない...。しかしこれも神の...いや悪魔の思し召しといったところか。

 だが影一は連日の取調べ..いや拷問ともいえるそれを受けて疲弊仕切っていた。
 体力を少しでも温存する為に、床に寝転がり、丸まったまま微動だにしない影一の生死を、時折監視員が確かめに来るのだが、周到なそいつらを出し抜く事も出来ないでいる。

 そしてこれまでに与えられた責めにより..あと何日もつか、何回の取調べでくたばるか...そんな弱気な思いも否定し切れずにいた。







05.復活のシンフォニー



 夜....影一が眠る事さえも辛そうに床に転がっていると、部屋の外の廊下でペチャペチャと水をはじく様な音が響き始めた。やがてそこに女の喘ぎ声が混ざりだし、ウッという男の呻きと共に再び静寂が戻る。

 コツコツと乾いた靴音が響き、影一の部屋のドアがゆっくりと開かれる。

(やれやれ、またお呼びか..真夜中にご苦労なこった...)

 そう思い顔も上げずに影一は目の端でそれを捉えていたが、そこに映ったのは..血に染まったハイヒールだった。

 その持主..全身を血まみれにした小夜子がしずしずと床に正座すると、顔を伏せたまま話しかけてくる。

「ご主人様...遅くなり、申しわけ有りませんでした。ようやくここの鍵が手に入りましたのでお迎えにまいりました」

 その言葉で全てを理解した影一は含んだ笑みを浮べると、小夜子の手を借りて立上った。

 当初からなんの情報も与えられていなかった小夜子ではあったが、鮫島とのやり取りのあの一瞬で影一の苦境を感じ取り、鮫島に隷属したままチャンスを伺っていたのだ。

(ここら辺の判断力はさすがエリートと言った所か。茜といい勝負かもしれんな...)

 表に出ると監視員が一人、椅子に座り下半身を露出させたまま頸動脈を掻き切られ息絶えていた。

「小夜子..お前ヒトを殺した事は...?」

「初めてです..出来れば殺したくは無かったのですが、ご主人様のお体が心配でしたので...」

「そうか..お前も闇の仲間入りって訳だ。俺と一緒に来るんだな」

「いえ、私はご主人様の物でありながら鮫島やこの男に抱かれ、あまつさえご主人様の前ではしたない声をお聞かせしてしまいました。出来ればここで鮫島達と心中させて頂きたいと...」

「そいつは許可する訳にはいかんな..もう俺の女は死なせねえんだ。俺の命令は聞けねぇか?」

 小夜子は一頻り啜り泣いていたが..濡れた顔を上げると、にこやかに言った。

「いえ...寛大なお言葉痛み入ります。汚れた体ではございますが、どうかご主人様のお役に立てて頂ければ嬉しゅうございます」

「ああ、だがそれにはまずここを出る事だな...亮子の居る所は判ってるのか?」

「はい...ですがあそこには研究員がたくさんおりますので...いかがなされますか?」

「警備員はどのくらいだ?」

「廊下に2人、実験室の中にはおりませんが控室に10人は居ると思われますので非常ベルを鳴らされると少々厄介です」

 影一は顎に手を当て少し考えていたが、

「まずは体力の回復だ。食いもんはどこにある?」

「はい、こちらにご用意してございます。」

 小夜子は下げていた鞄の中から水筒とパンを取り出した。

 影一はその準備の良さにククッっと笑いを漏すと、死体の横に座り込みガツガツと食事を始めた。




 長い廊下の突き当り、鋼鉄製の自動ドアの前に屈強な警備員が二人仁王立ちしている。時折は欠伸をかみ殺し、目を擦ってはいるがそれらしい隙を見せる様子は無い。
 だがその眠そうな眼の焦点が廊下の奥に合った時、浮び上がってきた尋常では無い光景に男はもう一度目を擦り、見つめ直した。

 ようやく像を結んだそこには、血まみれで下半身を露出させたままの所長が倒れ、はぁはぁと嗚咽を漏している。
 互いに顔を見合わせた後、警備員達は脱兎の如く駆寄り小夜子を抱き起した。

「所長!どうされました。大丈夫ですか?」

 予想される非常事態の気配に慌てながらも、妖しく誘いかける小夜子の瞳と濡れそぼった淫裂に、一瞬目を奪われてしまった。

 ゴクッ...警備員の一人が生唾を飲み込んだ瞬間、その喉元は血飛沫を上げていた。そして眼前を真っ赤な煙幕で塞がれたもう一人の男も、相棒の背後をよぎった影に気付く事すらないまま息絶えた。

「へっ、死ぬ前にいいモン見れて良かったじゃねぇか」

 スカートを履き直しながら小夜子は、これだけの修羅場にも関わらず主人のその言葉に恥じ入る素振りを見せている。だが頬や耳は別の物に赤く染められ顔色までは伺えなかった。


 小夜子のIDカードが通された実験室の扉が低い機械音と共にゆっくりと開き、二人は明るく広々としたそこへ入っていく。

「ああ、お前達..残業はそれまでだ。そのまま動くな..動いた者は死んでもらう。お前らは研究員なんだろ?命がけでやるようなモンじゃねぇよな?」

 全身血まみれの二人...一人は尊敬し憧れていた女所長..そしてもう一人はそのたおやかな首筋にナイフを突付け冷笑を浮べる男....学問しか知らない者達の決断を待つ必要は無かった。

「よし、賢明だな...それじゃあ手を挙げたままこっちに固まって貰おうか。その辺の物に触るなよ」

 全員を集め手足を縛った後、影一はようやくふうっと一息つくと所員のポケットから煙草を取出し火をつけた。

「ご苦労だったな」

 そう言って小夜子のスカートを捲り上げると、血と愛液にまみれた淫裂に指を這わせる。
 唖然とする所員達を後目に、小夜子は主人の口元から立ちこめる煙が目に染みるのも構わず、陶酔の極みといった表情で賢明に腰を揺すっている。

 褒美の餌を充分に与えた後、影一は壁一面を覆われたガラスの向う側を覗き込みながら尋ねた。

「...で、亮子はどこだ?」

 小夜子は少し残念そうな顔のまま一台の端末に向いキーボードを叩き始める。やがて並べられたモニターの一つに映し出された全裸の女は、壁にもたれかかり俯いたまま全く動こうとしない。

「亮子さん、亮子さん?大丈夫ですか?ご主人様がいらっしゃっ...」

 影一は苛ついた手でマイクを奪い取ると大声で叫んだ。

「亮子..亮子っ!どうした、返事をしろっ!」

 影一の声にようやく反応した亮子は微かに顔を上げ目元に笑みを浮べると、再び俯き、止った。

 胸の中にあの日の悪夢が蘇り、血の気が引いて行くのを感じながら影一は部屋を飛び出していた。

 小夜子がIDカードを通すのをもどかしく待ち、扉が開くと同時に亮子の入ったカプセルに駆寄って行く。
 ぶつかる様にその表面のガラスに張付いた影一の目に映ったのは正に、二度と見たくないと思っていた”あの日”と同じ光景だ。

「開けろっ!早く!」

 小夜子が側の端末を操作し開くまでの数秒の間、影一は祈っていた。彼には祈るべき何者も無いというのに、何かに願わずにはいられなかった。

 プシュウゥゥゥー

 ようやく開いたカプセルの中からは影一のよく知っている、闇が女を取込む時の淫臭が一気に溢れ出して来る。

 彼女の透き通る様だった肌は無惨な火傷と鞭の跡が蹂躙し、投げだされた美しい両足の間はそれ以上に酷かった。

「亮子!亮子!しっかりしろっ!頼む、帰ってきてくれ!」

 必死の思いで彼女を抱き起し、頭を締めつける。

「ごしゅ....んさま...もうしわけ...ありま...ん...わたし..ほかの...ものに..だかれ....できれば...そのまえ......して..いただき..かった....」

(何度...何度俺は、同じ事を繰返せば.....)

 あゆみとの生活で薄まりかけていた闇の心が沸々と影一を浸食し、満たしていく。
 影一の全身から吹出した黒い瘴気がカプセルの中に充満する。外に漏れだしたそれは一瞬で中和され霧散してしまうが、その内部は闇に包まれ既に外からは窺う事が出来ない程だ。

 やがてその創られた闇の中から響き渡っていた咆吼が止み、中から亮子を抱え出てきた影一の貌は、昔の...闇に全てを明け渡していた頃の影一のそれだった。

 次第に影一の濡れていた頬は乾ききり、エレベーターに乗込む頃には冷やかな笑みすら浮んでいる。そして上に昇るにしたがい漲る力は、辺りを闇に染上げていく。


「ヒト...如きが....」

 微かに響くエレベーターの機械音の中で、低く唸る様な呟きを小夜子だけが聞いていた。



 地上に降り立った影一は...黒いオーラを身に纏い、髪は逆立ち、メイクを施したかと思える程の薄青い貌には見るものを寒からしめる笑みが浮かんでいる。

 本人にも想外な程に大きく膨れ上がったその”力”で、全ての職員を瞬く間に支配し、送り込んだ警備員達によって地下も制圧された。

 影一の”仕事”はこれで完了したかのようにも見えたのだが...。







 閑静な佇まいを保つ住宅街の一角。豪邸が建並ぶ中でも一際威厳を見せつけるその屋敷へ、疲れ果てた顔の男が一人帰って来た。
 鍵を取出し、大きな木製の扉を潜り中へ入っていく。
 だがそこには、いつもなら元気よく出迎えてくれる筈の妻の声も無く、静寂の中に妙な匂いだけが漂っていた。

「加奈子!居ないのか?....おかしいな、出かけるなら連絡がある筈だが...」

 だが男がネクタイをほどきながら入ったリビングでは異様な..いや彼にとっては見慣れている筈の光景がそこに広がっていた。

「はぁはぁはぁ..んぐっ...うぅん..ぐっ..うんっ、んっんっんっ....んぐっ....」

「よう、鮫島課長..今お帰りかい?お疲れさん」

 そう声を掛けた男の股間では、優しい笑顔で自分を出迎える筈の家内が夢中で肉棒を舐めしゃぶっている。
 旦那の帰宅にも気づかず、媚びた瞳を男の方へ向けたまま髪を振乱して頭を前後させている。
 激しく振立てられる丸くふくよかな尻の間では、両手の指が中身を掻き回し小便のように愛液を滴らせている。

「おっ、お前...生きていたのか..どうしてここに....加奈子をどうしたんだ!」

「おいおい、今更何言ってんだ?お前もさんざんやってたんだろ、あの研究所で。あそこでは随分世話になったんでな、ちょっとお礼しとこうかと思ったんだよ。亮子の分もな...」

「そっそっそんな...馬鹿な...加奈子を返せっ!この野郎っ!」

 影一に掴みかかろうとする鮫島の前に小夜子が立ちふさがる。

「ぐわっ!」

 小夜子の持つスタンガンで股間を直撃された鮫島は泡を吹きながら倒れ込んだ。

「おい小夜子、殺すなよ。まだこいつには用があるんだ」

「申しわけありませんご主人様。先日ご主人様の物であるこの身体をこの男が弄んだのがどうしても許せなくて...ご用が済みましたらどうか私に頂けませんでしょうか?」

「いや、こいつには一生地獄を味わって貰おうと思ってる。手足程度なら構わんが...取り敢ずそいつを叩き起しな」

「はい、分りました」

 残念そうに小夜子は言いながら鮫島の髪を引張り上げ頬に往復ビンタを繰返す。

「.......!...小夜子...お前もか...」

「あら、課長?小夜子なんて気安く呼ばないで頂きたいわ。私の心も体も、名前だってこちらにいらっしゃるご主人様の物なのよ。あなたに自由に出来る物なんて一つも無いわ..この家の中にはね」

 動かない下半身を引きずり、影一の元へにじり寄ると鮫島は情けない声で哀願を始めた。

「あんた、すまなかった..許してくれ...どうか、家内を返してくれんか。金ならいくらでもやるよ。頼む!」

 その鮫島の条件に影一は思わず吹出してしまった。

「はははははっ..金?金だって?どう見てもあんたが俺より金持とは思えんがね。だがそんなにコレが欲しけりゃくれてやるよ」

 影一は股間にしがみついている加奈子の髪を掴み、その唇から肉棒を引き抜くと鮫島の方へ蹴り飛ばした。

「かっ加奈子...」

 這い寄り、女房の肩を抱きしめようとした鮫島だったが、その相手から思い切り突き飛ばされてしまった。

「いやっ!触らないで!この身体はご主人様の物よっ!指一本触れたらそいつを噛み切ってやるからっ!今まであんたみたいな男に抱かれてたと思うと虫酸が走るわ!もうその醜い顔を見せないで頂戴っ!」

 唖然としたまま、昨日まで自分の物だった女を見つめ、涙をボロボロとこぼすばかりの元旦那を後目に加奈子はもう一度影一の股間に顔を埋めようとしている。

 影一は腕をソファの背に手を掛けたまま足先で向きを変えさせると、片足で頭を踏みつけ、もう片方では乳首を限界まで引張ってやる。その只乱暴なだけの愛撫にも加奈子は瞳を溶ろけさせ、切ない喘ぎを漏し続ける

「ああん..ご主人様ぁ..どうか加奈子に..お情けを..餌を..お恵みください...どうか...」

「おいおい、調子に乗るなよ。お前程度の牝が俺の物を挿れて貰えるとでも思ってんのかよ。お前には....」

 影一は辺りを見回しながら思案すると

「こいつで充分だな」

 そう言ってテーブルに置かれたビール瓶を取ると、加奈子の淫裂に突き入れた。

「あうっ!かはっ、あっあああっ、くっ...んんんん...あっあっあっああっあああぅぅぅっ」

 それだけで軽くイかされてしまった加奈子の淫裂は、瓶をほぼ中程まで飲込みその隙間からまだ半分程残っていたビールが溢れ出て太股を滴っている。それを片手でグイグイと押込みながら今度はウィスキーの瓶をアナルに差込んだ。
 さすがにこいつは口の所までしか入らなかったが、膣と直腸で味わう強烈なアルコールに侵され、加奈子はたちまちの内に頭の中まで酔いしれてしまった。

「あーあ、酒乱の女房を持つと苦労するな、あんたも....」

「きっ貴っ様ぁーっ!許さん!絶対に許さんぞ!」

「だーれがお前に許しなんか請うかよ。....そうだな、こいつはこれからビール瓶と結婚させてやろう。おいっ、お前これからはこのビール瓶を旦那様と呼べ。今日から毎日愛しい旦那様にちゃーんとご奉仕するんだぞ」

「はいっ、ご主人様っ!私に素敵な旦那様を与えて下さってありがとうございますっ。一生懸命ご奉仕致しますっ」

 加奈子は自分の股間からビール瓶を取出すと、愛液にまみれたそれに愛おしそうに舌を這わせだした。

「それからこのウィスキーはお前の薬だ。毎日ここから飲まないとすぐに死んでしまうからな、気を付けろ」

「はいっ、毎日ここからお薬を戴きますっ」

 立てたウィスキー瓶の上に腰掛け、その先が突き刺さったままの尻を揺すりながら心底嬉しそうにビール瓶を舐め回す加奈子を鮫島はなすすべも無く眺めている。

「心配すんなよ、鮫島さん。お前は明日からも普通に仕事させてやるよ。その間は今まで通り有能な官僚様だよ。だが一歩家に入ったら全てを思い出し、加奈子の言うがままにしか動けない...毎日自分で地獄の様な家に帰って来る、寄り道なんか当然禁止だ。お前はもう死ぬ事も狂う事も出来ずにこの暖かな家庭を守っていくんだよ...」

「ご主人様..私せっかくこのように立派な旦那様を頂いたのに、こんな男と暮さなければいけないのですか?」

「ああ、そうだ。こいつは簡単には死なせるなよ。病気にでもなったらお前がしっかり面倒見てやるんだ..死なん程度にな」

「はい...わかりました.....でもあなた、出来るだけ早く死んでね...」

「かっ、加奈子....おまえ.......!...そうだ!娘は?有紀と佐織はどうした?まさかお前....娘にまで....」

「はあぁーっ?お前今頃なに言ってんだ?娘二人ならさっきからずっとお前の上に居ただろうが」

 這った姿勢から無理矢理首をねじ曲げ天井を見上げると、そこには愛しくて止まない愛娘、有紀と佐織が居た。

 長女の有紀は全裸をM字に縛られた格好で吊下げられ、ず太いバイブで貫かれた両穴は蠢くそれに形を様々に変えられている。
 次女の佐織は逆エビの姿勢でゆらゆらと揺れており、切裂かれた制服の間から覗く未発達の乳房はその先端から下る重りによって、引き千切れるかという位延びきっていた。
 そして二人の口枷の隙間からは涎、大きく見開かれた目からはボロボロと大粒の涙を流し、真っ白な太股には破瓜の証がうっすらと残っている。

 影一が顎をしゃくり、促すと、小夜子が彼女達の口枷を外した。

「お父さんっ!助けて!嫌だっ、こんなの..お願い.....助けてっ!」

 有紀の哀願を心地良く聞いていた影一だったが、しゃくり上げるばかりで声を出さない佐織に苛ついた様に近づき、有紀のアナルに刺さっていたバイブを未だ小さく口を閉じている佐織の淫唇に無理矢理ねじ込んだ。

「あがぁぁぁぁぁぁぁぁっ....くっ、んんんんんんっ.....たっ...たすけ....て..おと...さん」

「うわあああああああああああああああああっ!たっ、頼む。娘だけは、娘達だけは見逃してくれ。俺ならどんな罰でも受ける。頼む、この通りだ!」

「なんでだ?こんなに嬉しそうにあちこちから涎を流してるんだぜ。なんせ感度は5倍にあげてあるんだ。これから毎日加奈子に調教して貰えば、一ヶ月で立派な変態牝犬の出来上りだ。それもあの液体無しで..だぞ。お前の実験にも立派に協力してくれるじゃねぇか。それに娘達はちゃぁんと自分の意思で生きていけるんだ。毎日自分を責めてくれるご主人様を捜して町中を彷徨うんだぜ。良かったなぁ..お前が研究所で飼ってた女達の事を思えばよっぽど幸せなんじゃねえのか?それとも所構わず股を広げる淫乱牝犬の方が良かったか?」

「そうよ、有紀、佐織..あなた達こんなに気持よくて幸せな事を嫌だなんて、お母さんは許しませんよ。さあ、新しいお父様にご挨拶なさい」

 そう言って加奈子は空いている有紀と佐織のアナルへ、順にビール瓶を突き入れながら淫裂のバイブと共に捻回している。

「いっ、痛いっ!やめてっ!ねえお母さん...戻ってよ..私達の事思い出してよおっ!」

「何を言ってるの?お母さんがあなた達の事忘れる訳が無いじゃない。お母さんはいつでもあなた達の事想ってるのよ...だから我が儘言わないで、ちゃんとお父様にもご奉仕するのよ」

 佐織の、今まで誰も触れた事のない愛らしい口に、さっきまで自分と姉のアナルを掻き回していたビール瓶が無理やり喉の奥までねじ込まれ、吐き気と咳が込み上げる。

 今は小夜子に奉仕させている影一がそんな娘達の反応に、苛ついたように声を荒げた。

「加奈子、生ぬるい!そんなんじゃお前の娘は立派な牝犬になれねぇぞ。将来誰かに飼われた時に苦労するのは娘の方なんだ、もっとしっかり調教してやらねぇか。嫌だなんぞとぬかすのは、まだ甘えがあるんだよ。まずは痛みから慣れさせてやれ。そしたらまんこをイジくられるのが気持ちよくて堪らなくなる。ケツも叩かれるよりはホジられる方が良いに決まってるからな」

「はいっ!ご主人様我が儘な娘達にまでご心配して戴いてありがとうございます。そうね...ちょっと私、甘やかし過ぎてたかもしれませんわ。あんまり可愛いものですから...でも有紀、佐織?これからはあなた達の為にお母さんがんばるから...あなた達もしっかりついて来るのよ」

 そう言って加奈子は、影一が用意した鞭を構え、佐織の真っ白な尻に振り下ろした。

 バチィーーン

「ぎやぁあああああっ....!いっ、痛いっ、やめて、やめて、お母さん、お願いそんな事しないで、お父さん助けて!いやっ、やめ...」

 バチィーーン

 今度は有紀の乳房が引き裂かれる...

「あがぁぁああああああああああっ.....」


 影一はまるで心地のよい交響曲が流れてくるかの様に、静かに腕を広げ..目を閉じ..鮫島家に広がる、哀願と悲鳴と鞭の響きを、心の奥にまで染込ませていった。

 
 


 

 

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