黒と白


 

 

05. 調教


「あ、あぁ、ぁふぅ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁああっ、くぅっ、あんあんあんあんあああっ」

 いつから続いているのだろう。
 打放しのコンクリートの壁に反響する淫靡な喘ぎは、時々はトーンを変えながら、その本人以外は誰もいない部屋を彩っている。

 麻の荒縄で脚をM字に固定されたまま床上10cmの所に吊り下げられゆらゆらと揺れている様は、まるで蝋燭の炎に作り出される陽炎のようだった。


 数日前までは、きらびやかなステージの上を元気一杯に飛び回る正統派アイドルとして全国の男子を心酔させていたというのに...一体何が彼女の人生を変えてしまったのか?




 それはある少年誌に掲載する為に撮影された数ページのグラビアだった。
 周りの関係者が皆絶賛する程の素晴らしい出来で、躍動的で溌剌とした笑顔にもかかわらず、少女らしい色気をもたっぷりと含んでいるその表情と肢体は、見る者に元気と欲情を与えずにはいられない。
 彼女の成功を周りの誰もが確信したがそれが掲載される事は無く、本人の失踪という歯切れの悪い形で幕を閉じた。

 むろんそれは彼女が、芸能界にも当然のごとく張り巡らされた天野影一のクモの巣に引っ掛かってしまったという事だ。


 そして今は...スポットライトよりも妖しくきらめく蝋燭の灯が、派手なステージ衣装よりも美しく裸体を飾る荒縄が、そして満場の拍手よりも極上の快感が彼女を包み込んでいる。

 淫部には巨大なバイブがうねうねとリズムを刻み、体中に飾られたクリップが、白い肌と共に踊っている。
 アナルでは軟体動物の様な物体が膨張と収縮をゆっくりと不規則に繰り返し、痛みと快感のハーモニーを奏でていた。
 しかも、体中の感覚は通常の数倍にまで上げられており、空気のうねり一つで軽くいってしまう程にも、敏感になっている。
 床には、汗と涎と淫液の水溜りが広がり、時折 ぴちゃっ という音をたてて滴を落としている。
 もう、何十回といってしまったのか、それともずっと絶頂の極みを彷徨っているのか...本人にも分からなかった。




 キィィィィィ、ガチャッ

 ひどく耳障りな金属音と共に古びた鉄製のドアが開かれた。

 女はけだるそうに顔を上げ、潤んだ瞳でこの部屋の主人を見上げる。

「どうだ..楽しんだか?思う存分いけただろう..満足したか?」

 その男に表情は無く、冷たく、蔑む様な視線だけが感じ取れる。

「あぁ、もう..お許し..ください..二度といたしません..これからはご主人様の..許しなく..気をやってしまわないように..気をつけます。申し訳..ありません..でした...」

「そうだな。おまえはもう、俺の飼犬になったんだ。一度躾けたことは、簡単に忘れるんじゃない。あんまり覚えが悪いとここにはいられなくなるぞ」

 今までのどんな肉体的、精神的苦痛も、自らの至らなさへの戒めと受け入れて来た彼女であったが、主人のその一言には、溢れ出す涙を止められなかった。

「そっ、そんな!あぁ。すみません。申し訳ありません!気をつけます。一生懸命頑張りますから、どうか、捨てないで、下さい!お願いです。...どうか......くすん、うぅ、ひっく、ひっく」

 とめどなく溢れる涙に顔中をくしゃくしゃにしながら、未だ少女の様なアイドルは哀願を繰り返す。

 ひとしきり彼女がしゃくり上げるのを眺めた後、影一は作られた笑顔を浮かべながら短い黒髪をくしゃくしゃと撫でると、戒めを解き、一つ一つ全身のクリップを外していく。

「心配するな。お前は俺のかわいい飼犬だ。多少出来が悪くとも一生懸命ならそれでいい。ただ、お前は何の為にここに居るのか?誰の為に生きているのか?それだけは忘れるな。お前は、身も心も俺に捧げると誓った。それは自分が気持ち良くなる為の方便だったのか?」

「ちっ、違います!私は本当に、本当に、ご主人様の物です。身も心も捧げました。ただ、まだ、ご主人様の、御心に、添えない事が、少し、いえ、たくさんあるので、本当に申し訳なく思っているのですが、体が勝手にご主人様を感じてしまって...。どうかお願いです。もっと、もっとご調教して下さい。私が、いたらない時は、いっぱいおしおきして下さい。もっと、血も、涙もいっぱい出るくらい、体に教えて下さい。そしてもっと、ご主人様に喜んでいただける様な体に、ご主人様に捨てられない様な牝犬に、どうか、して下さい...お願いします」

 彼女は主人の胸に顔を埋めながら、自らの奥底にある慟哭を胸の奥にまで届かせるかの如く、叫んだ。

 影一は冷笑を浮かべながらも優しげに言い放つ。

「優子。それには俺を想うことだ。
 今よりも深く、片時も忘れず...。
 俺の為に眠り...俺の為に貪り...俺の為に体を磨くことだ。
 そして俺を想う心を磨けば、お前は立派な奴隷になれる。俺はそれを待っている...」

「うわぁぁぁぁぁん...」

 優子は抱えていた不安と絶望を解き放ち、しかし今度は喜びの涙をさっきよりも激しく影一の胸に染み込ませていく。

「ありがとうございます。どうか末長くご主人様のそばに居させて下さい。優子はきっとご主人様の望まれる奴隷になってみせます」

「ああ、そうだな。だが、そんなに長くは待っていられない。これから調教のやりなおしだ。しっかりついて来い」

「はいっ。よろしくお願いします!」

 この部屋に似つかわしくない、明るく元気な声が響いたのも束の間、数分後には彼女の呻きと叫びと、喘ぎ声が流れだす。


 その声が、明け方まで止む事はなかった。

 
 


 

 

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