蟲の湧く星


 

 

中編


<利岡正樹のビジョン>



 聖果ちゃんと付き合い始めて、3日がたった。始めは、毎朝学校に一緒に行くために、正樹の家まで迎えに来てくれる稲生聖果の献身的なルーティーンに少し戸惑った。聖果の家から学校に行く通学路からは大幅に遠回りになっているからだ。それでも、聖果は全く苦にならないと、笑顔で言ってくれた。

「朝から正樹君と一緒にいられるなんて、本当に幸せ。………実は正直に言うと、正樹君のおうちにお泊りさせてもらって、毎朝正樹君を起こしてあげて、朝ご飯を食べさせてあげたいくらいなの。だから早起きしてここに来るのなんて、何でもないよ」

 腕を絡めて、正樹の二の腕に頬っぺたをスリスリしながら、嬉しそうに歩く聖果。まるで子猫がご主人様になついているような様子だった。彼女の鞄の中には、当たり前のように2人分のお弁当が入っている。昼休みになったら、2人で人目の少ない場所でお弁当を食べさせあっこするためだ。

(聖果ちゃんとうちでお泊りか………。すっごくそそられるけど、今の状況だと、ちょっと手狭になっちゃうかな? あと、シチュエーション的にも受け入れにくいんじゃないかな。)

 正樹が自分の家の状況を考える。もう1人、住人が増えても、家事の負担については「まったく」問題にならないだろう。どちらかというと、スペースの問題だった。今、正樹の家には、叔母の北郷冴子が、泊まりこんでしまっているのだ。

。。


 聖果ちゃんとのお付き合いが始まった翌日、正樹が帰宅すると、リビングには母、春乃と談笑する、叔母の冴子がいた。もうすぐ30歳になるはずの冴子は、独身のまま、ライターとして働いている。外見も人目を引く、美人ライターとして働いている彼女は、正樹にとっては少し苦手な、「バリバリ・オーラ」を放つ親戚だった。外で取材か仕事の打ち合わせの後で姉の家に立ち寄ったようで、高級そうなスーツを着こなしていた。

(いつもながら、圧が強そうな冴子叔母さんだけど、………やっぱりこうして見ると美人だよな………。)

 ゴニョゴニョと挨拶しながら頭を下げた正樹が、顔を上げた時にはもう、運搬係の霊素蜂が冴子の右耳に入りこんでいた。正樹には鱗粉のようなものが後から描く曲線しか、見ることが出来なかった。

「あっ、レイナ。違うってば。………この人、僕の叔母さんだよっ?」

 一瞬無表情になって、食卓テーブルにゆっくりと突っ伏していく冴子叔母さん。キッチンで紅茶を準備していた正樹の母、春乃が心配そうにカウンターにトレイを置いた。

『別にセイカちゃんと同じように、恋人にしなくったって良いのよ。マサキが興味、関心を持ったから、運搬係が反応したの。あとは何か、叔母さんを使役するためのロールを授けたら?』

「お………叔母さんを、使役って、言ったって…………」

「冴子? ………どうしたの? 気分が悪いの?」

 母親が狼狽える。早く何かの役割を与えなければ、叔母さんがおかしくなってしまうということに気がついた正樹は、慌てて、頭に浮かんだ役割を口に出した。

「…………じゃ………、メ………、メイドで。叔母さんはうちのメイドで」

『マサキは異性としての関心をこの叔母さんに持ったわよね。………ウフフ。この人はマサキのためのエッチなメイドにしましょうか。』

(…………え、エッチな? ………ロールが少し変わってるじゃないか。)

 レイナに反論しようとした正樹は、「エッチなメイド」という言葉にドキッとした自分を意識する。スタイルが良くて、バストも大きな美人ライターの冴子が、エッチなメイド服のコスプレをする姿を、一瞬思い浮かべてしまった。レイナは正樹の脳の奥深くで、深層心理まで熟知しているようだった。

「…………あ、………私は大丈夫。………ちょっと寝不足が続いてるのかな? …………それより、お姉ちゃん、ここのおうち、もうちょっと掃除をした方が良いんじゃない?」

「………ごめんなさい………。そうかしら?」

 気丈な笑顔を取り繕った冴子が、まだ少しよろめきながら立ち上がって、ジャケットを脱ぎ始める。カッターシャツの袖をまくり上げて、掃除の道具を探し始めた。

 ハタキを手に、姉の家のリビングを掃除し始める冴子叔母さん。春乃は妹の様子に戸惑っていた。

「冴子、貴方、疲れてるんだったら、ちょっと横になるなりして、休んでいったら? 急に掃除とか、おかしいわよ。………どうかしたの?」

 春乃の声が少しずつ大きくなっていく。女性の勘だろうか?

『叔母さんの変貌が始まったら、お母様も不審に思うんじゃないかしら? ………この際、お母様も一緒に、霊素蜂の幼虫の宿主になってもらったほうが、貴方の新しい生活も安定すると思うわよ。』

「姉さん、雑巾がけもさせてちょうだい。………ちょっと動きにくいから、脱がせてもらうわね」

 美人ライターの冴子が嬉しそうに鼻歌を歌いながら、カッターシャツも脱いでいく。キャミソールもめくりあげると、豊満なバストを包んだ、シルクのブラジャーが顔を出した。

「冴子っ。やめなさい。正樹もいるでしょっ」

 春乃が激しく叫ぶと、正樹はいたたまれなくなって、両手で耳を塞いだ。

(ゴメン、母さん。静かにしてっ!)

 正樹がそう、心の中で叫んだ時、部屋を飛び回っていたもう一匹の運搬係が、滑らかな光る曲線を描きながら、春乃の耳の中へ入っていった。瞬時に表情を失って立ち尽くす正樹の母。黒目だけが小刻みに震えた。静寂が訪れる。

『マサキ、お母様に授けるロールは?』

「そんな、急にあれもこれも、思いつかないよっ。………母さんも………メイドでっ!」

『………同じロール? ……………。まぁ、良いわ………。時間も無いし…………。』

 レイナが正樹の頭の中で、少し含み笑いを押し殺すようにして囁いた。羽が擦り合わさる、高い摩擦音。ゆっくりと、母さんの目に生気が戻ってきた。

「………冴子、この家のことは、私が一番分かっています。私が片付けるから、邪魔をしないで」

「姉さんより、私の方が、冷静な第三者の視点で、綺麗にお片付けを出来ると思うわ。………そう思いませんか? 旦那様?」

 スカートも落として、下着と黒のパンティストッキングだけを身につけた姿になっていた冴子叔母さんは、正樹にそう言うと、ウインクをしてみせた。

「………私は旦那様と16年一緒に生活してきているの。旦那様の好みに合わせて家事をするのは、私が一番適役よ。………そうですよね? 旦那様」

 お辞儀をしたあとで、恭しく正樹を上目遣いで見上げる母、春乃。姉妹同士の口論は激しさを増していた。普段温和な性格の母の変貌ぶりに、正樹は心配になる。

『同時に複数人に幼虫を植えつける時には、同じロールを与えても大丈夫。集団として同じロールを持った自分たちを受け入れられるからね。………だけど、マサキ。一人ずつ、別のタイミングで幼虫を入れたのに、ロールが同じものっていうのは、幼虫が混乱するわ。ロールは自分を規定してくれるものだから……。貴方は今、ハルノもサエコもメイドにした。2人は、自分こそが優れたメイドであることを証明しないと、自身の存在意義を失ってしまうという、強迫観念に追い立てられているの。』

(そんな説明、無かったよ………。………母さんたちを、どうすればいいの?)

『せいぜい、仲良くするように指示してみたらどうかしら? 心の底で燃え上がるライバル心は完全には押し殺せないとは思うけれど、旦那様の前で見苦しい争いを見せることくらいは自制させられると思うわ』

 正樹は無言で首を横に振りながら、しばらく悩み、やがて顔を上げた。お互いの鼻がくっつきそうな至近距離で言い合いを続けている母と叔母に、指示を投げかけた。

「2人とも、喧嘩は止めて。うちのメイドでいたいなら、平和に家事をして欲しい。いい?」

「………はい………。もちろんです、旦那様」

「…………畏まりました。旦那様」

 少しまだ不服そうにしながらも、正樹の母と叔母は申し訳なさそうに俯いて、丁寧に答えてくれた。


 それ以来、冴子叔母さんは正樹のうちに住み込みでメイドとして働いている。ライターという仕事の性格上、比較的自由な働き方が可能なようだが、正樹としては極力、冴子さんの本職に悪影響のないかたちで、3週間、メイドをしてもらおうと思っている。男である正樹を、あらゆる方向から喜ばせるメイドであろうとして、秘かに競争している春乃と冴子は、正樹が隙を見せると、すぐに男性としてのご主人様へのサービスを試みて来る。正樹がお風呂に入っていると、バスタオルだけを身に着けた冴子がバスルームに忍び込んできて、体を洗わせてくれと懇願してくる。春乃は春乃で、自分の年齢も気にせずに、裸にエプロンだけ身に着けて料理をしていたりする。2人で競い合うようにして、露出多めのメイド服に身を包んで、掃除中も正樹へのマッサージ中も、隙あらばセクシーなポーズで正樹を挑発しようとする。表面上は平和に家事労働をこなしながら、2人は内心では、自分こそが優秀でエッチなメイドであると証明するために、全てを賭けて正樹に奉仕しているような様子だった。

 この状態を正樹の父親が疑問に思わない訳がない。そう思った正樹は、父、俊樹にも『正樹の家の執事』というロールを授けることになった。こうして3LDKの中流家庭の住宅に正樹が帰ると、そこには2人の肌も露わなメイドと、タキシードに身を包んだ執事が出迎えるようになっている。

 この状況で聖果も家に泊めるのは、さすがに正樹の気が咎めた。


。。



『マサキは今日、セイカちゃんに何をしてあげるのかしら? ………忘れないでね。最低でも1日1回は、私の子供たちが、与えられたロールを自覚することが出来るように、貴方が指示を出してあげないと駄目よ。貴方は君主なんだから、無視したままだと、役割を持て余した臣下たちは、実感を求めて行動を過激化させる。彼らの普段通りの生活を壊さないまま3週間やり過ごそうと思ったら、細目に彼らに、ロールに適した指示を与えてあげることが大切なの。』

 歌うように囁くレイナ。正樹はその言葉の重みを、最近実感出来るようになっていた。

 聖果が塾に通う日、たまたま一緒になる授業が少なかったので、2人でいる時間を持てずにいた。昼休みも、教室移動と重なっていたので、2人でゆっくりお弁当を食べることが出来なかった。その日の夜、正樹の携帯には聖果からの愛の誓いのメールが30件も届いた。最後は全裸で愛を叫びながらオナニーしている聖果の動画が送られてきた。

「私、世界中に正樹君への思いを知ってもらいたいから、この動画、Youtubeに上げても良いかな? こんな彼女、嫌い?」

 というメールを見た正樹は慌てて聖果を夜の11時に呼び出して、セックスをした。聖果が「普通の恋人でもするようなエッチじゃ、安心できない」とねだったので、初めて聖果のお尻の穴も使わせてもらって、「特別な恋人」だとわからせた。ようやく安心して落ち着いてくれた聖果を、家に帰らせる。少しだけぎこちない歩き方で家路についた聖果を見送ると、疲れた正樹は行為の後のペニスを、冴子と春乃に口で綺麗にしてもらいながら眠りについたのだった。


。。



「毎日、少しでいいから指示に変化をつけたり、指示をわずかにエスカレートさせるだけで、皆は安心して、ロールを抱えながらも普段通りに近い生活を送ることが出来る。そうだね?」

『さすがはマサキ。私が選んだ宿主。理解が早いわね。その調子なら、セイカもサエコもハルノもトシキも、霊素蜂が成虫になって飛び立つ日まで、無事に守ることが出来るわ、きっと。』

 3週間は21日。聖果でいうとあと14日だ。原理は理解出来ても、最後までこの生活を続けられるのか、正樹は不安を感じている。毎日少しだけ要求を変化させたり、わずかなエスカレートをさせる。すでに正樹と聖果の2人は、同じリストバンドをして、カップル用のペア下着を通信販売で買って、校則に違反してラブブレスまで身に着けて登校している。授業の合間にも必ずキスをしていると、人目を避けているつもりでも、クラスメイトの噂になりつつあった。

 自宅は既に埃1つ見つからない、モデルハウスのような綺麗な状態になっている。料理も毎回、手の込んだオードブルのお皿が並ぶ。それでもそのままにしておくと、勤勉なメイドたちは、もっと旦那様を喜ばせられないかと、奉仕をエスカレートさせてくる。朝起きたらローションまみれでペニスもふやけてしまう程の肉体奉仕を受けていた自分に気がついたりする。メイドたちの暴走を避けるために、正樹は新しい作業を作り出してあげなければならない。別にしたくもないのにスープをカーペットにぶちまけて、料理も堪能したのにお皿を割る。するとメイド服の母と叔母は、目を輝かせて部屋の掃除をする。Eカップだと言う冴子のオッパイを、何の脈絡もなく、ギューッと握ってやる。驚いて恥ずかしがる冴子叔母さんだが、次からは正樹の近くを通る時、オッパイを突き出すようにして、わざと掴みやすい姿勢を取ってくる。

 ゴシック調のメイド服と執事のタキシードに合わせて、夜は少し変態チックな催し物を企画させる。コルセットと髪飾り、顔に仮面をつけた大人たち3人は、旦那様を楽しませるためだけに、下半身裸の姿で運動会に励んだり、少しSMチックなパーティーを披露したりした。

(SMっぽいのも、面白いな。…………今度、誰かにロールを与えなきゃいけなくなったら、考えておこうか)


。。



 前夜にハードでビザールな宴会を堪能した正樹は、翌朝、聖果に気を配るのが少しだけ、億劫になっていた。既に付き合い初めて1週間を超えている。普通の高校生カップルだったら有り得ないスピードで恋人のすることを駆け抜けてきたせいで、ほんの少し、マンネリを感じていたのだ。

(聖果ちゃんは相変わらず可愛いけれど、このオッパイももう千回以上は揉んだよな………。アソコもお尻の穴ももらって、AVでやってるようなことも、そこそこやって…………。………聖果ちゃんに飽きるなんて、考えられないけれど、毎日このペースで恋人ごっこをエスカレートさせるのって、少ししんどいかも…………。)

「………だから、私は朱美に、好みのタイプとかそんな、カテゴリーみたいなものないよって言ったの。私は正樹君そのものなの。正樹君だけなの。正樹君そっくりのタイプで正樹君とおんなじような体でも匂いでも、正樹君自身じゃないと駄目なのって言ったんだよね。そうしたら、朱美がね…………」

 横を歩く聖果ちゃんの口調はいつもと変わりのない、純度100%の正樹への熱愛に満ちている。毎日喋っていて、トーンや感情の起伏が変わらない人と会話を続けるのが、少し疲れることだと、正樹は初めて実感し始めていた。それがどんな美少女だったとしても………。

「正樹君、………聞いてる? …………、あ、ゴメンなさい。私、自分のことばっかり話しちゃってて、つまらなかったかな? ………私、何でもするから、私に飽きないで。…………ここで私、急に制服脱いで、裸になっちゃったら、みんなびっくりするかな? ………正樹君も、面白がってくれる?」

「ごめん、聖果ちゃん…………。ちょっと静かにしていて………。普通で良いんだ。………普通のカップルで………」

 正樹が申し訳なさそうに言うと、聖果は目に大粒の涙を溜めて謝る。どこまでも健気で献身的で愛くるしい恋人だったが、毎日のように相手をするには、この朝の正樹は疲れすぎていた。


。。



『…………マサキ………。………起きられる? …………貴方の、恋人…………。ちょっといつもと違うわよ。』

 脳内で優しく囁く声。優雅に響くの高音は、穏やかで、正樹を起こすのに時間がかかった。

『………周りのクラスメイトも気がついたみたい…………。そろそろ、セイカちゃん………、ピンチかもね………。』

「………聖果ちゃんに何がっ。僕が守らないと…………。……ふへっ」

 ヒロイックファンタジーの夢から覚めたかのような寝言を口にしながらウトウトしていた正樹が、急に肩をビクッとさせて起き上がる。水川先生の英語の授業中に、一瞬だけど寝落ちしていたようだ。自分が涎を垂らしていないことを確認しながら、正樹は斜め後ろの、可愛い恋人の席の方角を振り返る。すでに聖果の周囲はザワザワと不穏な音を立てていた。

「ちょっと聖果、やめなよっ。何してんのっ」

「うおっ………。稲生さんが………、マジで?」

「やだっ………聖果ってば………」

 クスクスと笑うような女子、心配する友人。色めき立つ男子。その騒ぎの中心で、正樹の彼女は、両足を机に開いて乗せて、スカートの裾から手を入れて股間を弄っていた。椅子が後ろに倒れそうなくらい仰け反って、あごを上げて喘ぐ。すでに稲生聖果は周囲の目など全く気にならないといった様子で、自分の行為に没頭してしまっていた。

「稲生さんっ。何をしているのっ。今すぐやめなさいっ」

 水川先生の、悲鳴にも似た叱責の声が飛ぶ。

「先生っ。私、正樹君のことを愛しています。他のことは全部、どうでもいいんですっ。皆にも、そのことを知ってもらいたくて…………。正樹君………。大好きっ!」

「やめろぉぉおおっ」

 正樹が立ち止まって大きな声を出すと、聖果はそのままの姿勢で固まった。黒目も指先も完全に静止する。まるでプラスチックの人形になってしまったかのようだった。

「聖果、大丈夫?」

 後ろから木山朱美が聖果の肩に手を伸ばす。

「触るなっ…………。みんな、今見たものを忘れろっ」

 正樹がそう言った瞬間に、数十のキラキラとした光の曲線が、教室中に散らばっていくのが見えた。

『大事な恋人の社会生命を守る、立派な君主ぶりね。………でもマサキ、早くここの生徒たちに、ロールを授けてあげないと、このクラスは崩壊するわよ。』

 聖果のもとに駆け寄って抱きあげた正樹は、レイナの言葉に反応する。聖果のために、クラスメイトたちを犠牲にするわけにもいかなかった。

「………じゃ………。1−Fの生徒たちは全員、僕の兵隊になって」

 クスリと脳内で優雅な笑みが響く。

『もちろんよ………。でも、マサキ。ここにいる「みんな」の中には、生徒以外もいたわね。………ちょっと違うロールを上げないと………、ほら、もう間に合わないわよっ。』

 正樹が慌てて見回す。教卓にはユラユラと立ちすくむ、美人教師、水川弥重先生の姿があった。無表情でゆっくりと体を揺らしている。彼女がもうすぐ、色情魔になってしまう。少しキツめの美人だけれど思いやりのある、人気の女教師が、人格を壊されてしまう………。正樹はパニックの中で、最初に思い浮かんだ言葉を口にした。

「水川先生は………マゾ………、マゾ奴隷に……」

『ウフフフ。昨日のエロメイドとの変態プレイが記憶に焼き付いていたのかしら。随分ピンポイントなロールね。』

「あ……、いや、ちが…………、やっぱり…………」

 訂正しようとした正樹だったが、脳内で羽音が、祝福のベルのように鳴り響いた。肩を震わせるようにして、水川先生の目に生気が戻る。まだ少し方向感覚が狂っているかのようにふらつきながらも、教卓に手を当てて、体勢を保った。

「みんな…………どうしたの? …………何か、あったのかしら?」

 不意に白昼夢から覚めたかのような表情で、水川先生が生徒たちに尋ねる。立ち上がったり中腰になっていた生徒たちも、自分で首を傾げながら、着席する。全員が、さっきの聖果の醜態を忘れている。正樹が聖果を見ると、彼女も少しキョトンとしながら、正樹と目が合ったことを喜ぶように、右手を振った。彼女も含めて、さっきの痴態のことを、誰も覚えていないようだった。



<水川弥重のビジョン>



(今日は目標よりも授業の進みが遅かったわ。明日の授業で挽回しないと。………それほど質疑に時間を取られたという気はしないのだけれど………。)

 水川弥重教諭が職員室で1−Fの授業のまとめ作業をしていると、1−Fの優等生、稲生聖果が職員室に入ってきて、弥重に相談を申し出てきた。パッチリとした目と整った顔立ち。女性の弥重から見ても、欠点のない美少女だった。性格も良くて人気があり、授業態度も真面目。担任として文句のつけようのない生徒だった。なので、彼女から折り入って悩みがあると言われると、少し意外に感じた弥重だった。

「先生、ここでは話しづらいことなので、生徒指導室でお時間を頂いてもよろしいですか?」

 まっすぐな目で弥重を頼ってくれる稲生を見ていると、何とかしてあげたいという気持ちがこみ上げる。昼休み中だったが、弥重は快く承諾した。

(生活態度も全く問題ない稲生さんが、どんな悩みを持っているのかしら。まぁ、年頃だから、色々あるのだとは思うけど………。)

 颯爽と歩く弥重とすれ違う男子生徒たちは、通り過ぎてから弥重の後ろ姿を振り返ったり、チラチラと彼女の姿を視野に収める。思春期の男子たちの視線には弥重はかなり慣れつつあった。派手な服装はしないように気をつけているが、20代中盤の水川弥重を、「美人教師」として拝むように扱う生徒は多い。男性教諭のなかにも、彼女のプロポーションや胸元をチラチラと気にする人がいるのだから、年頃の男の子にはコントロール出来ないことなのかもしれない。

「さて。ここなら、他の誰にも聞かれないわよ。………稲生さんの悩みって、何かしら?」

 小さな部屋に入って引き戸を閉め、着席してから稲生聖果に質問する。稲生はまだ人目を気にしているのか、閉じられた戸を何度も振り返っている。

 コンコン。

「…………先生。………あの、稲生さんだけじゃなくて、僕からも話がありまして」

 扉が開かれると、稲生聖果と同じクラスの、利岡…………正樹が入ってきた。

「利岡君。………今、先生は稲生さんとお話をしているの。貴方には後から………」

 利岡正樹が手をヒョコンと挙げて、弥重の言葉を制する。弥重はピタッと話をやめた。

「僕と稲生さん、実は先生におんなじ話をしたかったんです」

 正樹が言うと、聖果も首を縦に振る。聖果が正樹の真横に立つ。少し距離が近すぎるくらいの立ち位置にいる。

「先生…………ゴメンなさい。………僕、水川先生を、マゾの奴隷にしてしまいました」

 キュンッと下腹部の奥辺りがヒクつく。弥重は思わず前屈みの姿勢になりそうになったが、何事もなかったかのように、直立した。

「利岡君、貴方、一体何を言っているの? ………ふざけるのは止めなさいっ」

「先生、少し小さな声で話してください」

「えぇ。いいわよ」

 とっさに、声を荒げていた自分をたしなめる。自分は教師なのだから、冷静にしていなければいけない。弥重はそう考えた。

「僕、さっき聖果ちゃんにも全部話したんですけど、実は先月から、変な蟲がついていて、そのせいで、変な力を持ってしまったんです。さっきは、その力で、水川先生を、思わず………マゾの奴隷にしてしまって………」

「利岡君、静かに………。落ち着いて話して。………それって、貴方の妄想っていうことはないかしら?」

「水川先生。私も多分その力で、正樹君の恋人にしてもらっているんです」

(恋人にしてもらっている? …………利岡君だけじゃなくて、稲生さんもどこか、おかしいわ。…………妄想の………共依存状態? ……と、言うのかしら………)

 弥重が美少女の優等生にも心配と同情の混じったような視線を向ける。こめかみを指で押さえながら、口を開いた。

「稲生さん、お願い。少しだけ静かにしていてもらえるかしら? ………私、利岡君は今、ちょっと混乱していると思うの」

「先生、聖果ちゃんはまともだったんです。でも、僕のせいで………」

「お願い、2人とも。少しでいいから、静かにしてよっ…………。…………さっきから、クチュクチュクチュクチュ。うるさいのっ。2人の言葉が聞き取りにくいから、やめてちょうだいっ」

 正樹と聖果は押し黙った。…………それでも、水川弥重は雑音が気になって、集中出来ない。苛立ちながら見回して、………やがてその音が、弥重の頭の中だけで響いていることに気がついた。震える目で、利岡正樹を見る。

「…………これって………。貴方の言ってる…………」

「先生………。ゴメンなさい。なかなか信じてもらえないと思うから、先生自身に体験してもらいます。そうしないと、これからのこととか、相談出来ないと思うから」

「………どういうこと?」

「先生、立って、こちらに背中を向けて、スカートを後ろから捲り上げて」

「はい……………。………これでいいの? ……………え? …………私、なんで?」

 気がついたら、弥重は正樹の言葉通り、生徒指導室の中で後ろからスカートをめくりあげて、ベージュのパンストに包まれた、水色のショーツを生徒たちに見せつけていた。止めようとすると、脳の奥が疼く。ずっとこうしていたいという衝動が、教師としてのモラルをあっさりと突き破ってしまう。

「ストッキングもパンツも下ろしてください」

「………はい…………」

 左手でスカートを腰まで捲り上げたまま、震える右手でパンストとショーツを同時にズルズルと下ろしていく。お尻の皮膚が、外気に触れてヒンヤリとした。

「先生、学校でこんな格好して、恥ずかしくないですか?」

 少しぎこちない口調で、正樹が言う。恥ずかしいという思い、情けない思い、恐怖。全てが燃料のように、弥重の心身を燃え上がらせる。

(私………なんでこんな…………。恥ずかしい…………。私は、恥ずかしいオンナ…………。)

 完全に尻を露出させて、太腿までショーツを下ろした時、手が太腿に垂れる液体の存在を感じる。弥重は今、生徒の前でお尻を丸出しにしているだけでなく、その行為に興奮して、愛液を垂れ流しているのだった。

(なんで私、こんなことに? ……………いやっ…………。誰かっ……………。)

「先生、お仕置きです。…………1回だけね」

 パチーンッ

 晒されたお尻を直接、担任の男子生徒に引っぱたかれた。その姿を、優等生の女子生徒にも見られている。その屈辱を押さえつけようとした瞬間。弥重の脳の中で通低音のように鳴り響いていたクチュクチュという粘性の音が止み、同時に脳のシナプスをギュッと握りしめられたような感触を感じ取った。絞り出されるように溢れ出す熱い液体。大量の脳内麻薬が一気に噴き出したかのように、水川弥重の視界が真っ白に弾け飛ぶ。股間からおびただしい量の液体を噴射する。そのまま机に突っ伏するように倒れ込んだ弥重は、ズルりと仰向けに床に転がる。涙と涎と鼻水でクシャクシャになったその顔は、エクスタシーの炸裂に呆けていた。床に転がったまま、体をエビのように反らしたり、屈めたりを繰り返して、さらに激しく愛液を噴射させる水川弥重。人生最大、最多のオルガスムスに襲われて、失神したまま、なお体を反らしたり、屈ませたりという動きを、反射運動のように繰り返していた。


。。



「先生、今日はもう、ちゃんとした会話とか無理だと思うから、明日相談をさせてください。奴隷にしてしまったのは申し訳ないと思うんですが、僕たちは水川先生の生徒だから、この状況からどうしたら皆無事に助かるか、先生の指導が必要だと思うんです。………もちろん、先生としても、自分の変わりようを受け止めるまでに時間が必要だと思うから、明日の朝、この生徒指導室でもう一度お話しませんか?」

 弥重の脳内に、さっきの正樹の言葉が繰り返し響く。弥重は結局、体調が悪いと言って、午後の授業を自習に切り替えてもらい、早く自宅に帰った。ジャージを着て帰った彼女は、ナップサックに入れた汚れ物を洗面所で洗う。スカート、シャツ、ショーツ、カーディガン。全て洗濯機には入れたくなかったので、手洗いにして、下着以外はクリーニングに出すことにした。途中で洗いものの手を止めて、さっきの出来事を振り返る。恥辱、屈辱、無力感、羞恥心。色々な感情が弥重を襲ったが、それらが混じったあとで、彼女の胸に残っていたのは、性的高揚だった。そんな自分が許せなくて、自分の汚れをしごき落とすかのような勢いで、汚れ物を洗う。その後、熱いシャワーを浴びた。お尻をお湯が流れる時に、少しヒリヒリとする。さっき担任の生徒にスパンキングされた感触の尻尾を捕まえたように、弥重は我慢できなくなって、バスルームでオナニーをした。

 部屋着に着替えて、バスルームでの痴態を忘れた振りをしてベッドに転がる。食欲は無かった。それでもさっき正樹に「水分をちゃんと補給して」と言われたことを思い出すと、冷蔵庫からポカリスエットを取り出し、ペットボトルに直接口をつけて、飲み干した。

 夜になる前から、テレビもつけずにベッドの上で寝がえりを何度も打った弥重は、途中何度も、携帯を手に取って、誰かにこの事態を説明し、助けを求めようかと考えた。110番へコールする寸前までもいった。それでも手が止まり、弥重は何度も携帯を投げ捨てる。そこには利岡正樹の不利になるようなことは、一切したくないと考えている自分がいた。そして、何かを伝えようにも、今日起きたことを思い出すだけで、はしたなく股間をまさぐりはじめている自分の姿に気がつくのだった。結局弥重は12時過ぎまで眠ることが出来ず、途中、4回もオナニーで果てて、最後に思い立ったように机の引き出しから、学級写真を取り出した。目立たないポジションで伏し目がちに立ちすくむ正樹の写真を切り出して、ベッドから見える壁の高い位置に貼り、その下で裸になって土下座をしてみたら、やっと心からリラックスして眠りにつくことが出来た。


。。



「先生、おはようございます。昨日はゴメンなさい。霊素蜂の幼虫が安定化するまでは、夜とか寝にくくて大変だったと思うけれど、大丈夫でしたか?」

 心配そうに尋ねてくる正樹と、その肩にへばりつく、恋人の聖果。2人の、弥重が担任する生徒の前に立った美人教師は、生徒指導室の中で、服を引きちぎるようにして脱ぎ捨てていった。

「正樹君…………いえ、ご主人様…………。私に、謝らないで。…………私を、貴方のマゾ奴隷にしてくれて、本当にありがとう。…………だから、私をもっとブッてください。………汚らわしい私を、もっと苛めて欲しいんです」

 チョーカーというよりは、首輪そのものに見える革のベルトを首に巻いている他は、完全な全裸になった水川先生が、正樹の前に正座する。キューティクルの輝く黒髪と白い肌は、赤い首輪に、残酷なまでに良く似合っていた。恭しく頭を下げながら、正樹の上履きの爪先にキスをしようとする。

「先生、そんな恰好しなくても………」

「ご命令ですか? ………弥重は何でも致します。命令してくださいっ」

 よく躾けられた猟犬のような勢いで、水川先生は跳ね起きてご主人様の命令に待機する。正樹は何か話そうとして、首を横に振った。

「正樹君。先生、マゾ奴隷らしいことを半日も出来ずにいるから、なかなか正気に戻れないんじゃない? 私の経験から言っても、一回、与えてもらったロールに相応しいことを貴方にしてもらえると、ちょっと落ち着くと思うよ」

「…………マゾ奴隷らしいことっていっても、………何させればいいのか、困るなぁ………」

『マサキが決めて、ヤエをマゾ奴隷にしたんでしょ? もっと正直に振舞いなさい。貴方の潜在的な欲求のなかでは、色々と変態的なイメージが浮かんでいること、私が知らないとでも思って?』

 正樹の脳内で女王が囁く。正樹は心の奥底の暗い願望まですべて見通されることを理解すると、溜息をついた。

「………先生。せっかく犬みたいな首輪つけてるんだったら、そこの隅で足上げて、ワンワンみたいにオシッコしてみたら? 学校で、トイレ以外の場所で四つん這いになってオシッコしてる先生の姿、動画撮ってあげるよ」

「はいぃぃぃっ。…………よろこんでっ………」

 弾かれるように跳ねあがって、生徒指導室の隅で、喜びに打ち震えながら放尿した後で、水川弥重は潮を噴いて昇天し、その2分後にやっと少し正気を取り戻して、理性的に振舞うことが出来るようになった。そして、冷静になったように見えた弥重はあえてもう一つ、ご主人様にお願いをした。



<クラスメイトのビジョン>



「皆さん、とてもショックなことかもしれませんが、大事なことなので、よく聞いてくださいね」

 美人だがピシッとクラスを締める水川先生の言葉に、1−Fの生徒たちは集中する。

「このクラスは、利岡正樹君の支配下に入りました。いえ、正確には、利岡君に寄生する、不思議な蟲の支配下にあると言った方が良いのかもしれません」

 生徒が隣同士や前後のクラスメイトと目を合わせ、怪訝そうな顔でコソコソと喋りだす。

「利岡君、お願いします」

「……はい………。全員、静かにしようね」

 正樹が一言告げると、教室中に冷たい水を打ったかのように、一切のお喋りが止まる。人の動く音すら止まり、時計の針が動く音だけがクラスに響いた。

「皆さんのなかで、誰か。自分は利岡君の支配下になんていない。自由に行動出来る、って思う人がいたら、試しに利岡君の席まで行って、彼を叩こうとしてみなさい。絶対に出来ないはずよ。彼は私たちの絶対的なご主人様だから」

 1−Fで一番コワモテの西沢リョウが立ち上がる。筋肉自慢の腕を見せつけるようにシャツの袖をまくって、正樹の前まで歩いてきた。相当な体格差だった。

「………………………………………………………ぅぅ…………」

 拳を握りしめて、20秒ほど正樹の前に立ち尽くしていたリョウは、低い声を漏らすと、そのまま床に片膝をついて、握っていた拳も床につけると、まるで戦士が王様の前で蹲踞するような姿勢になった。

「貴方たち、1―Fの生徒は皆、利岡君の兵隊になってしまったの。………あ、稲生さんだけは利岡君の恋人ね。………そして、担任の私は、マゾヒストの奴隷になりました。皆さんの中には認めたくない人や抵抗したい人もいるかもしれないけれど、これは受け入れるしかないことなの。それが霊素蜂という不思議な蟲の力だから」

 生徒たちは静まり返ったまま、正樹の横にかしずくように蹲踞するリョウと、信じられないことばかり口にする水川先生とを、交互に見つめていた。

「………もう一つ、見せましょう。………年頃の貴方たちには少し刺激が強いかもしれないけれど、………これも大切なことだから、自分の目できちんと見て、理解してください」

 先生は穏やかな口調で告げると、スカーフを取って、カーディガンを脱ぎ、カッターシャツのボタンを外していく。白い肌が見えていく。スカーフの下からは赤い首輪が顔を出す。シャツの下に見えると思った、オトナのランジェリーはそこには無く、豊満なバストがそのままみんなの目に晒された。男子生徒の半分くらいは机で前屈みに座ったまま、先生の姿を凝視している。丸く大きなオッパイと、濃いめの肌色の乳輪、乳首はポテッと腫れるように膨らんでいた。生徒たちはハッと息を飲む。右のオッパイの乳輪回りに、赤い点線のような円が見えた。

「ここを見てください。利岡君にさっき、生徒指導室で噛んでもらった後です。先生から、お願いして、オッパイの柔らかいところに歯を立ててもらったの。…………痛かった。………でも、ここに触れて、痛みを思い出すと、先生はとっても幸せな気持ちになれるの。………マゾ奴隷だから。………今日一日、他のクラスでも授業があるけれど、ご主人様から離れた場所で、教師面で授業なんかしている自分が歯がゆくて仕方がなくなったら、先生はここに触れて、自分の役割を思い出すの。きっと少しだけ安心できるはずよ。そうやって、これからしばらく、先生は生きていくことになります」

 赤い点線のような輪を指で愛おし気に撫でながら、教卓で上半身裸になっている美人教師は、幸せを噛みしめるような表情を見せた。

「3週間だったかしら? …………皆さんの人生も、これまでとは大きく変わってしまうと思います。けれど、抗おうとしても、どうしようもないことは、先生自身が良くわかっているので、皆さんに伝えておきたいと思います。あとは、出来るだけ皆さんの人生を、生活を壊さないで3週間しのぎ切れるように、皆で協力しあっていきましょう。皆さんも………、利岡君も…………、よろしくお願いします」

 それだけ告げて一礼すると、水川先生は名残惜しそうに指先でオッパイの輪をなぞりながら、服を着始めた。



<利岡正樹のビジョン>



「………あの、………みんな、普通にしてて良いよ」

 しばらく生徒たちは視線を交わしあったり、近い席の友人とヒソヒソ話をしたりしていた。やがて、正樹の席に、数少ない友人の近藤エイタが近づいてくる。

「………マサキ………。今の、全部マジ? …………俺、まだ、信じられないんだけど」

「利岡君の、目的って何なの? ………私たちを一体どうしたいの?」

 エイタに続いて、級長の小松美佑も質問してくる。級長の質問の方が、的確で建設的な問いのように感じられた。

「エイタは信じられなかったら、さっき先生が言ってた、僕の秘密を、誰かクラスの外の人に伝えようとしてみたら? メールでもLineでも、親に電話するのだって………。なんなら、紙に大きく『助けて』って書いて、窓に張り出してみるっていうのはどう? ………多分出来ないと思うよ。兵隊は上官の不利になるようなことはしないし、したくないはずだから………。小松さんの質問には、僕まだ、全部答えられないと思う。こうなったのは、部分的には僕の願望のせいだと思うんだけど、それ以外の要素もあったような気がしていて。………僕に明確な目的があってこうなってる訳じゃないんだ。………だけど、その場、その場の選択は、多分僕が選んでいて、………だから、僕のせいには、違いないんだけど………。まだ、どうしたいとか、よくわかんなくて………。とにかく、皆には、いつも通り、普通にしていて欲しいんだ」

 最後の語尾を少し強めに言うと、エイタも美佑も、上履きの踵をカッと揃えて、直立不動の姿勢になった。まるで命令を受け取った兵隊さんのようだった。


。。



 2限目の授業が終わる。休み時間のクラスの空気は、1限目の後よりも、落ち着かない雰囲気になっていた。ソワソワと回りを見回す男子。椅子から腰を浮かせて中腰になったり、また腰かけたりしている女子。自分の机をハンカチで何度も拭いている女子。………正樹と目が合うと、嬉しそうにペアのリストバンドを見せて微笑む聖果以外は、1−Fの誰もが、落ち着きを失っているように見えた。

「………エイタ……。みんな、どうしたのかな? ソワソワしてて………。やっぱり、変な力で僕に支配されているっていうのが、嫌なのかな? ………それとも、皆で反抗手段とか、こっそり企ててる? ………正直に教えてよ」

 正樹の、「正直に」という言葉に特に反応したように背筋を伸ばすと、エイタは数秒のためらいの後で、口を開いた。

「………みんながどうか、わからないけど、俺はマサキからの………命令が欲しくて、苛立ってるんだと思う。………普通にしてろっていう命令は拝命したんだけど…………。俺はもっと、兵隊っぽい、忍耐や服従の姿勢が試される、強めの命令が………欲しい……、であります」

 正樹の胸が、股間が、締め付けられるよな感触。友人を支配下に置いたという背徳感と征服感。そして、対等だった友人関係を失いつつあるような不安感が、同時に正樹を掻き立てる。しばらく迷った後で、正樹が指示を出す。

「………だったら、その場でスクワット20回」

「はいっ! ありがとうございます、上官殿!」

 急にエイタの目が輝いて、溌剌とした表情でスクワットを始める。クラスメイトたちはなぜか、羨望と嫉妬の混じったような視線をエイタに送っている。級長の小松美佑ですら、そうだった。クラスメイトたちを見回した後で、正樹は1つため息をついて、口を開く。

「お前らもボヤボヤするな。1−Fの雑魚兵隊たちは全員、スクワット50回。途中で汗かいたら、制服脱いで、下着だけになって続けろ」

「はいっ。ありがとうございます、上官殿!」

 全員の声が、ビシッと揃う。正樹の脳内では女王の微笑が漏れ聞こえて来ていた。

『3限目の授業は数学? ………もうすぐ先生がいらっしゃるんじゃないかしら?』

 正樹はあえて、レイナに返事をしなかった。それでも数学の杉田先生が教室に近づくと、運搬係を使って新しい幼虫を植えつけて、教室の扉を開きもしないうちに『書生』となった杉田先生に3限目を自習に変え、職員室で他の業務を行うよう、『課題』を与えた。杉田先生はその日一日、職員室を出ることはなかった。


。。



「級長。もう一度、自分の課題をはっきりさせて、今、何の目的でこの特訓を行っているのか、生徒たちに伝えて」

「畏まりました! 上官殿」

 正樹の体に跨って、唇を合わせていた小松美佑は、キスの後で正樹に指示されると、弾かれたように立ち上がって、両足を開いて正樹を跨いだ姿勢のまま、両手を腰の後ろで組んで、胸を突き出すように直立した。

「私たち女子兵士は、オンナの武器も最大限使えるように、上官殿に訓練頂いておりますっ。自分のような処女は、上官殿にオンナにして頂きます。これは大変光栄なことでありますっ」

 読書とピアノが趣味という、文科系美人の級長、小松美佑が、細い声を振り絞るようにして叫ぶ。白くて華奢な裸に、腱が浮き出るほど力をこめて唾を飛ばす美佑の姿を、同じように全裸の状態で見守っているのが、輪を作って直立不動の姿勢を維持しているクラスメイトの女子たちだった。男子生徒たちは下着姿で壁に向かって正座をして、精神修養に勤しんでいる。これから正樹が気に入っている女子や、裸を見て気になった女子たちと、順番に性行為をすることにした。聖果は多少は動揺したものの、愛する恋人の性的欲求を全て理解して受け止めるのが、特別な恋人の証明だと納得して、今は慈愛の目で全てを見守ってくれている。一通りの準備は整ったと思えたので、スレンダーな級長の体を、これから堪能させてもらうことにした。

「うぅっ…………」

「級長、痛い?」

「いっ………いえっ………、あの、………光栄な、痛みでありますっ」

 真剣な表情で、美佑が答えるが、顔は赤く強ばっている。両手を頭の上で組んだ、ヒンズースクワットの体勢で、下に寝そべる正樹の体に、自分の体重をかけないように苦慮しながら、美佑は腰を上下させ、結合した自分の正樹の生殖器を擦り合わせる。破瓜の痛み、苦しい体勢、処女を失う瞬間をクラスメイトたちに見られているという恥ずかしさ。全てが、お淑やかな文科系お嬢様を苛んでいる。それでも、それ以上に兵隊としての職業倫理が、彼女を鉄の忍耐へと突き動かしている。痛く、辛く、恥ずかしい状態も、職務を全う出来ているという喜びに比べると、はるかに些末なことに感じられた。

「美佑………。気持ちいいよ。………ほら、オッパイも可愛い。小さいけどね」

 なだらかな丘にポコリとあらわれるような2つの膨らみは、小ぶりだったけれどスレンダーで華奢な美佑の体型に良く似合っていた。そのオッパイを、無造作に正樹が揉む。

「………はうっ………。光栄ですっ。自分の、………小さいオッパイを、可愛がって頂き、自分は幸せですっ」

 慣れないスクワット運動を全力で繰り返しながら、美佑はされるがままにオッパイを弄ばれてなお、上官にお礼を言いながら股間の痛みと不思議な快感に耐えた。やがて美佑の中でもう一段階膨らんだと思った上官のペニスが熱い精液を放ったのを感じて、美佑はさらに股間の締めつけを強めて応対した。

「うん。上出来。気持ち良かったよ、級長。勲章ものだね」

「うふぁぁあああっ」

 美佑の我慢が途切れ、入り混じった感情、感覚が花火のように炸裂した。美佑は勲章という言葉を聞いて、悶絶して果てたのだった。

「気絶した級長をあっちに連れて行って、休ませてあげて。僕の元気もいつまでもつかわからないから、僕の指名が途切れたら、自分の体の魅力に自信がある女子から順番に、僕の上に跨るように」

「はいっ。畏まりました!」

 女子たちの声が綺麗に揃う。クラスの統制がこんなに綺麗にとれている光景は、正樹の目にも珍しいものだった。

 
 


 

 

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