BLACK DESIRE


 

 



5.


 教室を出た後、僕らはいったん受付に寄ってリヤカーを借りた。10キロくらいあるウォータージャグをえっちらおっちら運ぶのは骨が折れるし、先に行ったユニフォームの箱もある。有る物は有効活用しないと。校舎の裏口に回してきたリヤカーにジュースと紙コップと念のため沢山持ってきたタオルを乗せ、まずは食堂へ。

 先ほどドミネーションの設定をする時、寧名と一緒に残った2人だけでなく先にソフトボールに行ったユニフォーム運搬メンバーも追加統制権として設定していた。領域も教室だけでなく食堂とソフトボールグラウンドを追加済みだ。だってそうしないと、このカクテルカルピスを運んでいる間に領域支配が解けちゃうからね。

 食堂では製氷機から小さなチリトリみたいなスプーンで氷を掬って豪快に容器内へとぶち込む。蓋を開けた際内部からカルピスの甘さと精子の臭さの吐き気のする混合臭が立ち上ったが、エリアが支配下なので異常とはとられない。それどころか、付近を通った娘達はこの異臭を好ましく感じたようで興味津々でこちらの作業を眺めていた。
 この学園の娘達って精液の臭い、ほとんど知らないはずなんだけど。それでも良い匂いだと感じるって事は、言葉での意味だけでなく感覚も上手く書き換えられているって事なんだろうな。

 そんなこんなで、特に問題も無く目的地への運搬完了。僕らがリヤカーを引っ張ってグラウンドに入ると、ちょうどソフトボール組も休憩のためにベンチの方へと集まってきているところだった。グッドタイミングだね。

「お疲れさま。飲み物持ってきたよ」

 リヤカーを止め、ソフトメンバーのユニフォームの入ったダンボールを乗せているベンチにジュースも乗せる。すぐに一緒に来た2人が紙コップを出して配る分のカルピスを注ぎ始めた。辺りに例の異臭が漂い始める。僕にとっては正直げんなりするような臭いなのだが、書き換えを受けた娘達には堪らない芳香なのだろう。蜜に群がる蝶のように匂いに誘われて集まってきた。その中に案の定ハルもいる。

「もう、遅いよイクちゃん」
「ちょうど休憩に間に合っただろ」
「リヤカーとイクちゃんが見えたから休憩にしたんだよ。もう喉カラカラ」
「あ、そう。用意に時間かかった分、自信作だから好きなだけどうぞ」
「うん。貰うね」

 ハルは白い液体の入ったコップを受け取ると、くんくんと犬のように鼻を近付けて匂いを嗅いだ。

「あ、もしかしてイクちゃんの精子入りなの?」
「そういう事」
「ありがとう! いただきまーす」

 何の違和感も感じず、大喜びでコップに口を付けるハル。そのままくぴくぴと喉を動かしてそれを飲み込んだ。そしてぷはーっと親父臭く息を吐いてぺろっと唇を舐める。

「おいしいよ。さすがイクちゃんの精子だね!」
「さいですか」
「喉越しも、匂いもすごく良いよ」

 コップの底の方に固まりが残っていたのか、それをずずっと吸い込んでぐちゅぐちゅと噛んで味わい、んぐっと飲み込む。そして空のコップを振りながら「お代わりしよっ」と、ジャグの方へ歩いて行った。
 他の娘達も口々に「懐かしい味だね」とか「このトロッとしてるのがいいね」とか、大変にご満足の様だ。うむ、寧名と一緒にガンバったかいが有ったってもんだ。

 さて、ぐるりとグラウンドを見渡してもこの周囲にはハルの統制権を越える人数の生徒はいない様だ。これで、さっき仕込んでいた「ユニフォーム」のキーが使えるね。ハルを含め、付近にいた数人をダンボール箱の近くに集めて説明を開始する。

「さっきも言ったけど、『ユニフォーム』のサイズが合うかどうか今日中に調べて変更があったら交換したいから、この休憩が終わったら袋から出して着替えてみてくれる?」
「うん。いいけど……」

 ハルが箱からパッケージングされた赤いユニフォームを手に取り、首を傾げる。

「ここで?」
「ソフトボールグラウンドのベンチは選手の控え場所でしょ? 控え場所で『ユニフォーム』の着替えをするのは当たり前の事だよ」
「それもそっか」
「ああ、あと、サイズがもし合わなかったらきれいな内に『ユニフォーム』を返したいから、今練習して汚れた服は全部脱いでから着てね」
「汗かいた下着も?」
「当然。『ユニフォーム』に下着から汗が染み込むでしょ」
「りょーかーい」

 ハル達数人に対して書き込んだ常識変換だが、ドミネーションの効果によってそれらの内容は速やかにこの場にいる3年椿組の生徒達に伝播していく。結果、こんな真っ昼間のグラウンドで裸になって着替えようというのに誰も反対しない。それどころか気を利かせて1人がこんな進言までしてくれた。

「ねえ、達巳君。汗で汚れちゃいけないなら、体操服脱いでからタオルで拭いた方がいいよね?」
「あ、そうだね。『ユニフォーム』を汚さないために、裸になって汗が引くまで待った方が良さそうだ」
「だね」

 よし、予備タオルも持ってきた甲斐があった。僕はタオルの入った箱をリヤカーから降ろすと、みんなに向かって大声で呼びかけた。

「はいはーい! みんな、服を脱いだらこのタオルを使ってね。裸になって、完全に汗が引いてからユニフォームに着替えるんだよ」

 「はーい」と元気の良い返事があちこちから返ってきて、みんな一斉にジャージや体操着を脱ぎ始める。気が早い娘は僕に言われる前から始めていたのか、早速肩から膝の範囲まで真っ裸という変態的な格好でタオルを受け取りにやってきた。靴下と運動靴を脱がさないってのがいいんだよ、わかる?
 裸になった娘達は思い思いにタオルを使ったり、木陰で涼んだりして休んでいる。ハルは脚を投げ出してベンチに座って、またカルピスを飲んでいたので近寄っていくと、気が付いてこっちににっこり笑いかけてきた。

「風が涼しいね」

 その言葉通り、適度な風がハルの茶色っぽいくせっ毛と、ついでに剥き出しの股間の茂みをさわさわと揺らしている。僕は剥き出しの腰回りから伸びた適度に肉の付いたハルの長い脚を無遠慮に眺めた後、顔の方に視線を戻した。

「ハル。『ユニフォーム』着る前にトイレ済ましときなよ?」
「あ、そっか。汚さないためだよね」

 勝手に納得してくれたハルが周りに声をかけると、一緒に行きたいと5人くらいの娘が集まってきた。まったく、女の子はいつもトイレに集団で行くんだから。
 さて、『トイレ』についても何か書き込んでやろうかな、と頭を巡らせ始めたところで思いがけず女の子側から持ちかけられた。

「私たちのおトイレ、達巳君も見る?」
「ん……見るけど、何で?」
「達巳君が見てくれるなら、せっかくだしこの向こうの排水路でしようか?」

 それって、野外プレイって事だよね? そう言えば、この娘は朝の相談の時に寧名のグループにいた娘だ。なるほど、早速の実践ってわけだ。

「おしっこするのに良いところがあるの?」
「うん。ちょっと行くと雨水を流す水路があって、そこならみんな並んでできるよ」
「じゃあ、達巳君に全員がするところ見てもらえるんだ?」
「なら、早く行ってやりましょう」

 みんな、すごく乗り気で僕に放尿姿を見てもらおうと張り切っている。あー、そっか、椿組にとってはもう新しい書き込みは必要ないのか。「放尿姿を僕に見せて楽しませる」のはこの組の常識なんだねぇ。

 活気に満ちたお喋りをしながら草を踏み分けていくと、すぐに細い水路が前方に現れた。緩やかにグラウンドの縁に沿ってカーブしているので、外側にみんなが並んでくれれば内側から一望できそう。

「イクちゃんはそこね」

 ハルも同意見だったのか、生意気にも僕に観察ポイントを指定してきた。まあいいけどね。今回の主導権はハル達女の子の側にある。君達がここまで立派に成長してくれて僕は嬉しいよ。

「どうやろっか?」
「しゃがんで、達巳君に向かって指で開いて見えるようにしたらどうです?」
「でも、草で見えにくくなっちゃわないかな」
「せっかく達巳君が教えてくれたんだし、立ってやろうよ」
「ですね。立ったポーズでも、腰を突き出せばおしっこの出るところは正面から見えるでしょうし」
「立ちションするのに反対の人?」
「いない?……じゃ、決まり!」

 更に喜ばしいことに、女の子達は自分で立ちションを見せてくれる事を話し合いで決めた。「お待たせ」とハル含む6人の少女達が対岸にずらりと並んで立ち、外側に足先を開いてがに股になると腰をこっちに思いっきり突き出した。そしてみんな一斉に両手の指を使って股間の茂みをより分け、割れ目の肉をぱっくりと外へ押し開く。

「ほらぁ、イクちゃん。おしっこするとこ見て」

 ぐいっと開かれた膣口まで丸見えな、とんでもなくはしたない格好をしながら笑顔のハルがアピールすれば、周りの娘達も口々にそれに続く。

「そこから私のおしっこの穴見えてます? もっと開きますからちゃんと見てくださいね」
「クリトリスも剥くから、一緒に見ていいからね、達巳君」
「赤ちゃんの穴、広げて奥まで見せてあげるね。ここ見せるの、達巳君が初めてなんだから」

 ハルに負けじと尿道口を拡張する勢いで上下左右から指を使って引き延ばして見せつける娘もいれば、陰核をつまみ出して扱き上げて尖らしてみせる娘もいる。更にはちっちゃな膣口の縁に指をかけて一杯に開き、処女膜すら見えそうなくらいぱっくりと開けてみせる娘もいた。陽光に濡れた襞がきらりと光る。
 みんな本当に真面目で良い娘達だなぁ。おしっこの前に一所懸命に僕の興味を引いて喜ばせようとしてくれている。こりゃ、この光景は永久保存版だよ。スマホを取り出しつつ、大満足で僕はみんなに満面の笑みとグッジョブの親指立てサインを送った。

「いいねえ、いいねえ。写真も撮っておいてあげるからね」
「お願いね。じゃあ、おしっこするね! みんないっくよー!」

 ハルの音頭でみんなの下腹部にきゅっと力が入り、間もなく僕が見つめるみんなの股間の小さな穴からぴゅうっと一本水流が放たれ始めた。僕が椿組前の男性来客用トイレで教育した成果か、男子と変わらぬ勢いとまとまりのある見事な放物線だ。それらはあやまたずにきちんと水路の中に飛び込み、ぼちょぼちょと半分水に浸かった落ち葉に弾けて大きな音を立てた。僕は思わず「おおー」と感嘆の声を上げ、すかさず6連放尿の絶景をカシャカシャと撮影した。

「すごいすごい。芸だな、これ」
「えへへ。イクちゃんが立ちションの仕方教えてくれたお陰だよ」
「いや、みんなの努力と練習の成果だよ。上手いもんだ」
「ふふ。ありがと、イクちゃん!」

 全裸でがに股で立ったまま放尿を僕に見せつけながら、ちょっと顔を赤くしてはにかんだ笑みを浮かべるハル。表情と体勢のギャップがもの凄い事になってしまっているな。その笑顔をズームでパチリ。そしてカメラを突き出し、今まさに放出中の尿道口の部分もマクロでパチリ。

「私も撮ってください、達巳君」
「私も私も!」
「撮って撮って、終わっちゃうよ〜」

 はいはい。もちろんみんなの事もちゃんと撮影するからね。素早く横歩きで移動しつつ、あられもない女の子の姿をスマホのメモリーに記録していく。最後にはパノラマ撮影でずらりと並んだ連れ立ちションの光景も激写した。はあ、良い仕事した。後世に残したい素晴らしい情景だ。

「よっ……と」

 出し終えた女の子達は僕に習った通りに腰を振って尿の滴を落としている。男みたいな「竿」が無いから腰全体を動かすんだよと教えたが、捕まるところも無く柔らかい土の上で、がに股のまま腰を上手に動かすのは大変そうだ。

「イクちゃん、拭くものあったら貸してくれる?」

 ハルがもどかしげに腰を揺すりながら聞いてきたので、仕方が無くティッシュを貸してやることにした。

「ほら。返さなくてもいいからな」
「わかってるよ」

 ハル達のいる対岸に渡り、ズボンのポケットからティッシュを出して1枚渡してやる。ついでに他の娘にも回すように言ってハルの隣の娘に袋ごと手渡してしまった。

「ありがとうございます。おしっこ、よく見えましたか?」
「うん。写真も撮れたし、すごく興奮した」
「ふふ。良かったです」

 とても嬉しそうに笑うその娘。喜んでもらえて僕も満足だ。

「あれ? イクちゃん何か紙が落ちたよ?」
「ん?」

 股間を拭いていたハルが僕の横の地面を見つめながら言う。下を向くと、ティッシュと一緒に落ちたのか折り畳まれた紙片が僕とハルの間くらいに落ちていた。ああ、朝のあれか。忙しくて捨てるのもすっかり忘れていた。
 ハルは僕が動くより先に膝を曲げてしゃがむと、その紙を拾い上げた。

「何これ?」
「ただの拾ったゴミだよ」
「ふーん……」

 そう呟きながら、何気なくハルはその紙を開く。そして急に驚きの声を上げた。

「あれ!? これ那由美さん!?」
「えっ!?」

 思いがけないハルの言葉に僕も叫声を上げてしまう。

「イクちゃん! これ、大事な物なんじゃないの?」
「な、なんで那由美が出てくるのさ?」
「え!?」
「そこで何でハルが驚くんだ?」

 ハルはそのメモをじっと見つめ、次に僕の顔を同じくらい真剣な表情で見て、再度手元に視線を戻す。何が何やら。僕もハルの真横に移動してそのメモをのぞき込んだ。ハルは首を傾けて僕を横目で視界に入れる。

「……これ、イクちゃんが那由美さんから貰ったものじゃないの?」
「どうしてそう思うんだよ?」
「だって、『NYM』って那由美さんがよく使ってたサインだし」

 ハルが片手でメモの下端にあるアルファベットを指さす。

「え、そうだったの?」
「知らなかったの? それに、この矢印……8193って」

 その数字に指をスライドさせた後、ハルは首を捻って僕の顔をマジマジと見つめた。

「これって、イクちゃんが昔っから使ってたサインだよね?」
「……は?」
「まだ家にも有るよ。小学校の頃の、イクちゃんのサイン入りの時計とか」
「……本当に?」
「うん。覚えて無い?」
「……」

 まったく、心当たりが無い。いや、僕は小学校の頃ハルと近所に住んでいた時代の思い出が全く無いんだからそれを覚えていないのは当然なんだけど。だけど、それじゃこのメモに書かれた「8193」は僕を表してるって事なのか? ハチイチキューサン……19は「イク」とも読めるけど、これで何で僕のサインなのさ? それに、本人すら覚えていない昔のサインがどうして今、この星漣に存在しているんだ? 訳が分からない。

「……これ、ハルが書いたものじゃないよな?」
「違うよ! こんな10の18の18とか、意味わかんないもん!」
「10?」

 あれ? メモにそんな数字書いてあったっけ?
 ハルの手からメモを奪い返すと、僕はもう一度じっくりとそれを見直した。


「 + 18ー18

      NYM → 8193 」


 2行目はハルに言わせると「那由美から郁太」という意味になるらしい。そして、1行目の計算式。改めて良く見ると、「+(プラス)」の字の立て棒の下側が少し長く、その次の18との間にスペースが空いている。確かに、漢字の「十(10)」に見えなくもない。
 だけど、漢字とアラビア数字を並べて書くか? それならまだプラスマイナスの方が並びとして違和感が無いと思うんだが……。

「これ、漢字の十かぁ?」
「でも、プラス18マイナス18も意味が分からないよ」
「じゃあ、十って何だよ?」
「わからないけど……イクちゃん、これ。どこで拾ったの?」
「何処って……そりゃ」

 礼拝堂。

 その言葉を口にしようとした瞬間、僕の脳裏に電撃のようにあるイメージが走った。どうして気が付かなかったんだ。ステンドグラスを背景に浮かび上がる、あのシルエット。そのまんまじゃないか。
 「+ 18ー18」は計算式じゃなかった。これは或る場所を示す暗号だったんだ。何て迂闊なんだ。すぐ側にそれが意味するポイントが在ったのに、素通りしてしまっていたなんて。

 今すぐにでもこのメモの示すポイントに向かって何がそこに存在するのか確かめたい。僕の閃きが正解なのかどうか確認したい。だが、それは駄目だ。できるだけ那由美に関する事は人目に付かないように行動したい。あの場所は、放課後の下校時刻近くまで使用されているはずだから、それまで待たないと内緒の捜索なんてできない。

「……サンキュー、ハル。ようやくわかったよ」
「え? イクちゃんこれの意味わかったの?」
「ああ」
「えー? どんなどんな? 何の暗号なの、これ」
「後でね。それより、もう休憩も終わりでいいんじゃないの? 練習時間、無くなるよ」
「あっ! そうだった!」

 思い出したようにハルは僕にお尻を向けると、グラウンドの方へと急いで戻り始める。僕はその背中に声をかけつつ、さっきのメモをもう一度折り畳んで、今度は学生手帳の中に大切にしまい込んだ。

「ユニフォームの試着も忘れないでよ」
「わかってる。去年と変わってないんだから、大丈夫と思うけど」
「念のためさ」
「うん」

 前方のベンチの側には、もうユニフォームを着てみたソフトボールメンバーがお互いにチェックしあっている。赤地に白いラインの、背中には「Red Raccoons」のロゴ入りユニフォーム。下は同じカラーのショートパンツ、そしてロゴ入りのキャップもセットだ。特にパンツはほとんどホットパンツくらいの丈しか無く、剥き出しの健康的な太腿が凄くセクシーだ。ま、全裸での6連立ちションを間近に見た後だと何とも思わないけど。

 みんなの衣装合わせを横目に見ながら、スマホで今撮った写真を確認する。それぞれの写真は顔が写っていれば自動的に顔認識して人物タグ付けが行われるし、写っていなくても前後の写真から候補となる娘のタグを選択できるようにしてくれる。この機能でタグ付けしておけば、いつでも好きな娘の写真をアルバムにして連続閲覧できるのさ。いやあ、便利だなあ、最近の機械は。

「達巳君、何してるの?」

 ソフトボールユニフォームを可愛く着こなしたクラスメートの1人が、僕の方に上体を傾けて尋ねてくる。さっき水路に一緒に行った娘だな。

「うん。さっきの写真を整理してたの。ほら」

 背後で練習再開の声を聞きながら、僕はその娘の放尿中の性器をどアップで撮った写真を表示して見せてあげた。ぽっとその娘は頬を赤らめて笑う。

「わあ、綺麗に撮れてるね。ありがとう」
「モデルが良かったんだよ」
「もう、達巳君ったら!」
「本当だって。カメラ写りが良いよ」

 画面を親指と人差し指で引き延ばしてズームする。ただでさえアップの写真が、毛穴すら見えるほどに拡大された。画面が粘膜のピンク色で占領される。当然、尿道口が尿を放出中で少しめくれ気味にぱっくり穴があいている様も問題なく観察できた。「うわあ」とその娘は感嘆の声を上げる。

「私のおしっこ、こういう風に出てるんだ」
「うーん、まさに一瞬の美だよね。素晴らしい」
「えへへ、ありがと。その写真大事にしてね」
「もちろんだよ」

 僕の誉め言葉にその娘は散々照れながら練習に戻っていった。喜んでもらえて大変結構。

 このアルバムが有れば時間潰しに困ることはなさそうだ。気は急くが、今は大人しくクラスのみんなと過ごして下校時刻を待とう。

 3年椿組は今や完全に僕の支配下だが、みんなに僕に対する強い好意を持たせてリタルデーション(恒常発動)能力者を増やしておく事は無駄ではない。他クラスの攻略にも使えるし、魔力の消費効率もアップする。こうやってクラスのみんなと交流するチャンスは積極的に利用していかないとね。全てはブラックデザイアの最終段階能力の発動の為に、だ。





6.


 星漣学園内の敷地内に下校時刻を知らせる鐘が鳴り響いている。秋の日が落ちるのは速く、辺りはもうすっかりとっぷりと暮れ、空には星が瞬き始めていた。月の姿は見えず、明かりが無ければそこかしこに真の闇が潜み、昼の光景とは別世界のような不穏な雰囲気が漂う。これから冬に向かうにつれ、この時間帯は夜の側の侵食を受けてその一部となっていくのだろう。

 人気の無くなった校舎前の道を1人で南下する。道の右手に、いつものセイレン像が見えた。だけど、僕はまだ帰るわけではないからお祈りはしない。その像の場所から分かれた小路に進路を変える。

 このセイレン像の場所からは3つの場所に道が繋がっている。1つは、校舎の正面玄関、今来た方角だ。もう1つは星漣学園の正門。登下校の際はこの正門を使う事が決められているから、こっちも学園生徒には馴染みの道だ。
 最後の3つ目の方向、これが現在の僕の目的地へ繋がる道だ。人によっては毎日だって通う道だが、僕みたいな不心得者でも星漣にいる限り1週間に1回はこの道を往復するから、誰だってこの先に何が在るのか知っている。目を上げれば、真っ直ぐ続く道の先に紫色の空を背景に屋根に掲げられた「十字」のシルエットが浮かんでいる。

 そこは、礼拝堂だ。朝も来たこの場所こそ、メモにあった「+」が意味する場所に違いない。

 重い両開きの扉の片方を引くと、きいっと軽いきしみを上げて隙間が空いた。良かった、鍵はかかってない。内部は明かりがついていないのか外よりも暗いが、夕日の残滓を大きなステンドグラスが取り込んでいるのか真の闇ではない。何とか物の位置くらいは確認できるだろう。後方確認した後、50cmくらい空いたスペースから中に滑り込んで後ろ手に扉を閉める。誰も僕がこんな時間にここに忍び込んだ事に気が付いていないはず。

 胸ポケットから生徒手帳を引き出し、その中にしまっていたメモを取りだした。畳んであるそれを開き、携帯の画面の明かりでそれを照らす。
 「+ 18ー18」……「+」が礼拝堂を意味するとして、その後の数字はこの中のあるポイントを示しているはず。僕は礼拝堂内に2列に並んだ長椅子の数を数え始めた。
 1つの長椅子は9人掛けで、それが2つ横に並んでいる。そして、それが全部で……18列。つまり、この礼拝堂は18×18で324人まで入れるんだな。この学園の生徒数は300人強、ミサの時は前から詰めて座るから必然的に最後尾にあたる18列目はめったに人が座らない事になる。僕はその最後尾列の、一番右側の席に向かった。最前列最左翼を1ー1とするなら、この末席が18ー18、つまりメモで指定された場所のはず。

 まずは座席そのものを確認する。さっきの要領で携帯の明かりをかざし、木製の座面や背もたれ、念のため前の席の背もたれの裏面を目を近付けて調べていく。汚れや傷、塗料の剥げ等も丁寧に何かメッセージが隠れていないか観察していった。

(……座席自体には何も無いか)

 5分ほど席に潜り込んで調べた結果、僕はそう結論した。次は、座席の下の引き出しだ。この中には各座席用の聖書類が納められている。取っ手を掴み、慎重にそれを引き出した。

「……あれ?」

 一目でその中身の異変に気が付いた。他の所より、明らかに本の量が多い。というか、一番目立つ分厚い聖書が2冊入っているのだ。そのせいで引き出しの中はぎゅうぎゅうに詰まっていた。
 念のため隣の席も空けてみるが、そこには聖書が1冊しか入っていない。隣の聖書を間違って入れたって事でもなさそうだ。僕はその2冊の聖書を取り出して椅子に置いてみた。

 片方はだいぶすり切れ、使い古した感じだ。これは隣の席の聖書と雰囲気が良く似ている。もう1冊の方は、まだ新品の初々しさが残っていて、あまり使われた形跡が無い。予備の聖書をここに入れていたのだろうか?

 僕はまず、古い雰囲気の聖書を手に取って裏表紙を開いてみた。携帯の明かりをかざし、そこの下部に星漣学園の判子と通しのナンバーが振られていることを確認する。うん、これは間違いなくこの座席に備え付けの、もともとあった聖書だ。
 では、こっちの新しい方はどうだろう? 古い方を椅子に置き、手に取った新しい方の裏表紙を開いて光を当てる。そこに浮かび上がった文字が目に入った瞬間、僕の呼吸が止まった。



 「 高原那由美 」



 流暢な読み易い字で、その名が書かれている。僕の2つの目玉はその5文字に吸い寄せられたようになり、それ以外の情報をシャットアウトしてしまった。呼吸が驚きに止まり、瞬きすることすら忘れ、もしかしたら心臓すら停止していたかもしれない。30秒か、1分か……じわりじわりとその意味が眼球から脳味噌に到達し、途中で踏んづけられたホースの水が解放されるように、ようやく止まっていた全ての肉体活動が爆発的に再開する。僕は咳込むように空気を貪った。

「はっ……はぁ、はぁ……な、何で……?」

 何で、ここに那由美の聖書が出てくるのさ!? 完全に予想外の出来事に僕の思考が追いついてくれない。ドキンドキンとこれまでの人生で初めてなくらい大きく心臓が鼓動し、その勢いで身体から飛び出てしまいそうだ。
 もう一度、その聖書をひっくり返して外観を確認してみる。見た感じ、僕が転校した際に用意した物と寸分違わず同じ物だ。那由美は2年生に上がる時に星漣に来たらしいから、その時に用意したものとしてほぼ1年半、いや、あいつが死ぬまでだから1年ちょっとは使用しているはず。その割には新品の様に綺麗に見える。殆ど開かなかったか、それとも今の僕の様にミサの時は礼拝堂備え付けの物を使用していたのか。

 この聖書には紐の栞が付いている。そして、那由美の聖書は一番後ろの方に挟まっていた。その辺りは何が載っているんだっけ? 僕は慎重にその栞の場所を開いた。聖書は内容が多いので分厚い見た目に反してぴらぴらの極薄い紙を使っている。下手に勢いよく栞を引っ張って開くと、ページが破けてしまう可能性があるのだ。

 一般的な聖書の構成は、前半部分が創世記から始まる「旧約聖書」、後半にキリストに関する何編もの福音書がまとめられた「新約聖書」となっている。栞は、その新約聖書のさらに後ろのページに挟まっていた。
 そこは、それまでの物語調の内容と一変した予言風味の「黙示録」のエリアだ。有名な7つのラッパで発動する最終戦争を予言した内容のページに、その栞は挟まれていた。

(これ……何か意味が有るのか?)

 那由美の聖書が置かれていた事自体意味不明なのに、その中で栞が挟まっていたのがよりにもよってこのページとは……何とも思わせぶりじゃないか。ざっと見たところ線が引かれたり書き込みが行われた形跡は無いようだ。
 僕はもっと詳細にこの聖書を検分するべく、古い方の聖書を隣に動かして席に座った。膝に問題の聖書を乗せ、俯いて携帯の明かりを頼りに前後のページの内容を読んでみる。

(うーん……何も無い……かな?)

 以前読んだときの記憶が曖昧なので内容に違いが有るのかどうかすらわからない。もう一冊の聖書と読み比べてみようか、と思い立ち、顔を横に向けてそちらに手を伸ばした。

 その瞬間だった。

 がんっ!と首がガクッとなるくらいの衝撃が後頭部から走った。ビリッと電撃の様に一瞬痛みが走り、即座にそれが霧散して一気に視界が狭まる。手を離れて床に転がった携帯が大きな音を立てる。
 ヤバい、と脳の奥の方で何かの警鐘が打ち鳴らされたが、それが何なのか理解するよりも早く、周囲から闇に閉ざされつつある視界が斜めに流れ出した。きーんと耳が鳴って何も聞こえない。肩からけっこうな勢いで椅子の座面に落ちたように見えたが、何の痛みも感じない。しかし、その衝撃で狭い視界がぐるりと上を向き、こちらを覗き込むざんばら髪が見えた気がした。が、その瞬間に目玉に暗闇の幕が落ちる。

「……ごめんなさい」

 意識が消滅する直前、耳鳴りが消えて時計仕掛けの少女の声が聞こえた気がした。そして、すべてが真っ黒になり、僕は消える。

 ……何も、わからなくなった。

 
 


 

 

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