BLACK DESIRE


 

 



2.


 春原との契約に成功した僕は、早速彼女の契約者としての性能を確認した。黒い本の彼女のページに記載された内容は、「統制権:13 恒常発動:有効」とある。それを見てニヤリと笑う。よし、思った通り。
 春原が僕に対してどのような経緯で好意を抱くに至ったかは知らないが、せっかくの2人目の「リタルデーション」能力者だ。有効に使ってやらないとな。

 春原の統制権は13ということはつまり、13人までしか春原に書き込んだ内容は伝播しない。3年椿組全員支配するとなるとあと13人分……4、5人ってところか。僕は日直交代の儀式で既に契約者になっていた娘を5人選ぶと、春原への追加統制者(ドミネーター)として設定する。このように、例え統制権が小さい者やリタルデーションが発動していない契約者であっても、他の契約者の統制能力補強に使うことができるのだ。
 クラス全員をコントロールするに十分な人数に達したので、あとは目的の書き込みを実行するだけだ。僕は春原が当直なのを良いことに言伝を伝えるフリをして彼女に有りもしない常識を植え付けていった。よし、準備完了だ! 次の休み時間が楽しみだなぁ。

 春原に書き込んだのは、「椿組の生徒はトイレに行くときは中央階段側の男性来客用トイレを使用する」って事だ。女子トイレは他のクラスの生徒が使うため、そうするように先生から指示されたって言ってね。そして、男性用トイレを使用するのが初めての人には、僕が正しい使い方を教えるようにサポートを頼まれたってのも伝えた。
 春原は当然、僕からのこの異常な内容の指示を当たり前のなんでもない事と信じ込み、休み時間が始まると同時に僕が喋った通りの事をみんなに伝えた。早速、いつも固まっている4人くらいのグループの娘達がまとまって僕の席に近づいてくる。

「達巳君、今ちょっと良いかな?」
「うん、いいよ。何かな」

 こっちは待ちかねていたんだけど、そこは堪えて何食わぬ顔で返答する。

「あのね、さっき日直の春原さんが言っていた事なんだけど……」
「ああ、階段のところのトイレの話ね」
「そう。それで、ウチだけ代わりに隣のトイレを使うでしょう?」
「そう言っていたね」

 そこで、その娘は少し恥ずかしそうに下を向いた。

「あのね、私たち誰も男の人のトイレでしたことないの」

 そりゃそうだ。ちょっと意地悪してみようかな。

「そうなの? 簡単だよ、立ってするだけだし」
「う、うん……そうなんだけど……」
「大の方は女子と変わらないし、大丈夫だよね?」
「うん……」

 眉をハの時にして後方に目をやるその娘。後ろに控えていた3人の内、右端の娘が一歩前に出て代わりに口を開く。

「先生からの伝言でも言ってましたよね。初めて使う人は達巳君に教えてもらいなさいって。今時間が有るのでしたら、正しい使い方を教えて欲しいのですが」
「うーん、そんなに難しいところは無いんだけどなぁ……」
「お願いします、達巳君」
「わかったよ」

 僕はそう言いながら立ち上がった。こんだけ熱心に言われたら手取り足取り詳細に教えざるを得ないね。「ありがとう」とお礼を言う女の子達を引き連れ、僕は目的のトイレに移動するため教室を出た。



 さて、ここで夢魔の能力、「夢世界から物を取り出す力」について解説しておこう。といってもこれは全部エアリアからの受け売りなんだけど。

 ブラックデザイアのドミネーション能力では統制権で制限された人数までしか書き込みを伝播させられない。これは前に述べた。では、同時に発動する夢魔の物品はどうなのか。今の状況のように、椿組の人間にだけ通用する『特別制服』は、支配の及ばない者達にはどの様に見えるのか。

 実のところ、夢魔の能力の実体は夢や欲望によって想像される光景を現実に「重ね合わせる」力であって、単純にそこから物を持ってくる力ではない。
 確かに『特別制服』のデザインは僕が決めたが、それを着ているところを想像するのは、ブラックデザイアで認識を書き換えられたそれぞれの女の子達だ。夢魔は、その娘達の「『特別制服』を着ている自分」の想像力の扉を開けて現実世界に解放する鍵を持っていると考えれば良い。そして、解放された夢世界は、同じ夢を見ている者達……書き込み内容を共有している者達にしか認識することはできない。

 『特別制服』に関する認識は、「制服の代わりにそれを着る」という設定になっている。つまり、普通の制服を着ている現実世界に『特別制服』を着ている夢世界が重なっていることになる。
 だから、ブラックデザイアの効果範囲外の者が椿組生徒を見た場合、夢世界側の光景を認識することができず、あくまで現実世界側……普通の制服を着ている姿が見えるだけだ。

 集団で同じ光景を見る催眠のようなモノと考えてもらっても良い。ただし、かかっている人間の想像力の及ぶ限り物理的な影響力を持つから、例えば想像で生み出した水道から水を汲み、冷蔵庫で氷を作ったり、それでジュースを冷やして飲んだりもできるんだけど。



 とにもかくにも、この着ている人間の正気を疑うような破廉恥な制服は、ドミネーションの影響下に無い他の生徒達には通常の制服にしか見えないって事だ。だから廊下に出てもまったく問題ない。他の組の生徒達が同じ様にトイレに向かうためか、こちらに向かってきているが普通に挨拶などの声を交わしている。

「みんな揃ってどこ行くの?」
「うん、達巳君に男性用トイレの使い方を教わろうと思って」
「そうなんだ。椿組だけ大変だね」
「仕方ないよ」

 この書き込みはある程度の人数的マージンをとって椿組と来客用トイレ、その間の通路を領域指定しているから大丈夫。ここに踏み込む者は自動的にドミネーションの支配下に組み込まれていくため、会話にずれが生じることも事も無いし、そこに存在する異常に気付かれることもない。
 僕と4人の女の子たちは、まったく躊躇する事も、訝しがられる事もなく目的のトイレへと入った。

「へえ……こんななんだ……」

 男性用小便器を初めて見たのか、1人が小さく感嘆の声を上げる。ここに設置してあるのは、TOTOの縦長で胸の前から足下まである白い奴だ。便器の中には蛍光色の丸い芳香剤が放り込まれ、仄かに匂いを発している。
 上部には感知センサー付きの水道のパイプが壁から繋がっている。僕はトイレの扉が閉まったことを確認し、みんなには便器に人が近づくと自動で水が流れるから、最初は離れて説明すると言って集まってもらった。おヘソから下がパンツまで丸見え、上着の合わせの隙間からブラジャーもちらちら見えている凄い格好の女の子4人がズラリと並ぶ。

「では、お願いします」

 さっき教室で2番目に話した娘がペコリと頭を下げたので、他のみんなもそれに倣う。僕は「うん」と頷き、まず初めに言っておかないといけない事を口にした。

「あらかじめ言っておくけど、これは男性用トイレの使い方を勉強してもらうためやってることだから、みんなは恥ずかしがらなくて良いからね」
「はい」
「僕もトイレの使い方が間違ってないか確認するためにみんなのするところを見るけど、おかしな事じゃないからちゃんと見せてね」
「わかりました」

 みんな、素直に同意してくれる。全員が真面目な顔つきで、授業中みたいな雰囲気になっているな。

「じゃ、最初は便器の前に立たないでこのまま準備と説明をしちゃおうか。まずはおしっこの用意をするんだけど、男ならパンツに穴があるけど、みんなには無いよね」
「うん。無いよ」

 僕の正面にいた娘が下着の前の部分を指で持って持ち上げてみせる。その際下腹部との間に透き間が空いて繁みの一部が丸見えになるが、「恥ずかしがらない」約束なのでまったく動じない。

「仕方がない。それじゃ、下着は脱いじゃおうか? 僕が預かるよ」
「そうだね。お願い、達巳君」

 みんなはそれぞれに身を屈めるとパンツを引き下ろし、片方ずつ上履きごと足を穴から抜いた。ボトムレス状態になった女の子たちは自分の下着をきれいに小さく畳むと、股間の毛を動きに合わせさわさわ揺らしながら前に出て1人ずつ僕にそれを手渡す。まだ彼女たちの体温がこもっているそれの手触りを僕は楽しみつつ、ポケットに入れた。

「じゃ、みんな脱いだところで次いこうか」
「はい」
「次は、男なら便器に向かっておチンチンを構えるんだけど、女の子には無いからね」
「そう……ですね」

 突然飛び出た単語にみんな目を丸くしているな。でも、恥ずかしがっている様子はない。ただ、聞き慣れない単語でビックリしたって感じだ。

「保健の授業でやったけど、女の子にはその代わりにクリトリスがあるよね? それを摘んで、少し刺激して便器に向けられるように大きくしてね」
「え!?」
「男子と同じように正しくトイレを使うためだよ?」
「そうなんですか……」

 最初は驚いていたが、僕の重ねての言葉に納得してくれたようだ。4人の女の子たちは俯いて自分の手を股間にやり、割れ目を開いてそこにある小さな突起を指でいじり始める。

「ん……」
「うくっ……」

 少女たちの唇からため息のような吐息が漏れた。僕はニコリと笑うと、彼女たちの腰の高さに視線が来るようにしゃがみ込んだ。

「ちゃんと大きくできたか確認するからね。指で開いて見せて」
「は、はい……」

 自分の指で秘部を割り開き、陰核を愛撫するさまを見せつける少女たち。指の腹で撫で、さすり、親指と人差し指で摘んでその小さな粒を伸ばすようにしごいていく。1人の少女が「ああっ……」と唾の絡んだ熱い息を吐き、内股気味の足先の指が上履きの中できゅっと縮む様子が見て取れた。その娘のクリトリスは小さいながらもピンと尖り、つやつやとした粘膜を輝かせている。

「うん、いいね」

 僕はわざとその部分に顔を接近させて笑いかけた。僕の息が剥き出しの突起に触れ、その娘はびくっと腰を震わせる。指で開いたその内側は粘液でとろとろになっていた。

 順番に4人の股間の様子を覗き込み、様子を確認する。全員が自分自身で与えた刺激によって開かれた割れ目の中から愛液をこぼし、大小や形の差異は有れ、充血した突起が剥き出しになっている。全身の皮膚が紅潮し、瞳が潤んで半開きの唇の間から乱れた熱い吐息が漏れていた。

「みんなちゃんと準備できたね」
「んくっ……はい……」

 言いつけ通り、指で摘んだ姿勢のままさっきの娘が健気に返事する。僕は笑いを崩さず次なる指示を出した。

「じゃあ、いよいよ本番だ。みんな、便器の前に立ってくれるかな? そしたら僕が位置を確認するから」
「わかりました……」

 女の子たちは股間に両手をやったまま、内股気味に歩いてそれぞれの場所に移動する。ちょうど4つの便器の前に4人が過不足無く位置に着くことができた。

「んーと、そうだな。今日はみんな、片足上げのポーズでしてみようか」
「えっと……足を上げるんですか?」
「うん。いったん手を離していいから、君からやってみようか」

 僕は一番右の娘を選ぶとその娘に手を壁に付かせて、右足の膝裏に手を添えた。

「ほら、僕が手を添えてあげるからやってみようか。肩に掴まっていいから」
「は、はい……」

 片手を壁、片手を僕の肩に置かせ、僕はその娘の右膝を外に開き気味に高く上げさせた。そして、便器の右側の壁の、彼女の腰くらいの高さのところに上履きの底を着地させる。体重を右脚にかけさせ、安定するのを待つ。

「大丈夫かな? じゃあ、位置を確認するからね」
「はい……お願いします」

 膝を曲げて肩に掴まっていた腕をくぐり、彼女の脚に触れながら移動する。しゃがみ込んで彼女のお尻の下に潜り込み、すべすべの右太腿の裏に手を当てて支えながら上を見上げた。

 そこには、まさに絶景とも言える光景が広がっていた。右脚を限界まで持ち上げる為に彼女の腰は若干右に捻られ、僕の位置からその部分を真っ正面に捉えることができる。引っ張られた筋によって割れ目は完全にぱっくりと開き、膣口まで小さく口を開いて中の空洞を露わにしている。小さなお尻も脚の皮膚に引っ張られ、控えめなお尻の穴が丸見えになっていた。そして、それらの部位は少女の呼吸にあわせて収縮を繰り返し、さらに時折ぴくっと何かに反応したかのように震えていた。

 僕はその光景に満面の笑みを浮かべ、突起の下で控えめに口を開ける尿道口を指でさっと撫でた。

「ひゃんっ!」
「あはは、位置もいいみたいだね。これならおしっこもまっすぐ飛ぶと思うよ」
「あ、ありがとうございます」
「じゃあ、空いてる手でさっきみたいにクリストリスを摘んで」
「これで……いいです?」
「うん、いいよ」

 少女の細い指が突起を摘んだとき、強い刺激が走ったのか内腿の筋がピクピクと動くのが見えた。それに引っ張られ、膣口や肛門の周囲が震えるのが分かる。僕はその光景を目に焼き付けると、すっと立ち上がってその娘の脇に立った。

「……えっと?」
「最初は正しいトイレ姿勢は難しいだろうから、僕が支えてあげるね」

 片手は前側から柔らかな繁みの覆う下腹部に置き、反対の手はその後ろ側のお尻に。尻たぶのお肉の片方を持ち上げるように掴んだため、人差し指の先に中心部の窄まりの作る凹凸が感じられた。すりすりと指を動かして緊張したその部分の感触を楽しむ。そんなスーパーセクハラ状態なのに、その娘は、

「ありがとうございます。助かります」

と、頬を紅くしながらもにっこりと笑ってくれた。僕も思わず目を細めて笑いかけてしまう。

「あはっ。じゃあそろそろ、出しちゃおうか」
「このままでいいんですか?」
「うん。一応、僕に言ってからしてね」
「わかりました」

 少女はこっちを向いていた目を正面に戻し、ふっと小さく息を吸った。お腹に触れている手の平に、その部分に力が入ったのが感じられる。同時に柔らかいお尻にも緊張が走り、きゅっと窄まりが締められたのが感触でわかった。

「……えっと……では、おしっこ、しますね」
「どーぞ」
「……んっ」

 やがて、僕が見つめている少女の股間の中央から、ひとすじの小水の放出が始まった。大人しい少女のイメージから僕が勝手に思っていたよりも勢いが良く、便器の白い壁面に跳ねて「じょおお……」と音がし始める。それだけでなく、その勢いでおしっこが尿道を通る振動が皮膚を通して僕の手にも感じられた。少女と男性用便器の間から芳香剤とアンモニアの臭いが混ざった独特の臭気が漂い始める。

 こんなにあからさまに他者の前でするのは慣れてないからか、放尿中の少女はちょっと狼狽したようにちらっと視線を送ってきた。そうだよな、女の子にとってトイレは普通、個室で1人でするものだからね。僕は安心させるために口元に笑いを浮かべた。

「いいんだよ。出来るだけ勢いよく、遠くへ飛ぶようにするのが正しい仕方なんだ」
「わかりました」

 安心したように更に息んで勢いを増す放尿。びゅぅーっと水流そのものの音も聞こえ始めた。なかなかたくさん溜まっていたようだね。全部絞り出しちゃってくれ。

 勢いのお陰でその娘の放出は比較的短時間で終了した。まっすぐ飛んでいたおしっこのラインがふっと力を失って放物線に変化し、すぐに重力に従って滴り落ちる様に途切れ途切れになる。やがてちょろっと最後の息みの後、完全に止まった。少女が息を吐き、触れてたお腹やお尻も元の通りに柔らかくなる。

「おしまい?」
「はい。終わりました」
「じゃ、そのまま。そのままね」

 僕はその娘に姿勢を崩さないように言って手を離し、トイレの個室からトイレットペーパーをくるくるといくらか巻いて持ってきた。

「そのままでいてね。拭いてあげる」
「あ……ありがとうございます」

 再度、しゃがんで脚と脚の間に潜り込む。片手でぐいっと既に薄く開いている割れ目をひっぱって押し開き、紙で微妙な部分を細かく拭いていく。

「あ……ん……」
「こっちも、垂れてるかもしれないからね」

 そういいながら、お尻の方も穴の口が開くまで指で引っ張って伸ばしてすりすりと紙越しに撫でてやる。少女は押し殺した熱い息を吐いた。

「よし……! 終わり!」

 膝を抱えて下ろしてあげる。念入りに拭いてあげたお陰で腰砕けになったのか、その娘は僕に体重を預けたような格好で大人しく抱き抱えられている。自覚があったかどうかわからないけど、お尻が僕の微妙なところに当たっていてちょっと気持ち良かったよ。

 ……そんな感じで、次々と4人の女の子の立ちションを手伝ってあげた。最後の娘の番になり、膝を持ち上げたところでその娘はちょっと勝ち気な眉をつり上げ、支えはいらないと僕に言う。

「それより、ちゃんとまっすぐ行ってるか見てて」

 なんと、おしっこが出るところを見て欲しいとおっしゃるか! これは是非とも従わせてもらうよ。

 開ききった脚の間を下から見上げる絶好のポジション。少女の割れ目はめいいっぱいに開かれ、クリトリスは指に摘まれてピンと立っている。膣の中もお尻の穴も尿道口も丸見え、というより僕に見せつけているようなこの姿勢。思わず荒くなった吐息がその付近にかかる。

「あん!……ちょっと、くすぐったいよ」

 ん? 股の間から覗くその娘の顔が紅潮している。もしかして、そういう趣味の娘なのかな。なら、よ〜っく見てあげないとね。

 体勢を維持するために緊張し、あるいはクラスメートの男子に見られている事による興奮からか、ぷるぷると震えている少女の内腿。指先に引っ張られて開いた膣口は呼吸に合わせて僅かに伸びたり窄まったりしている。ピンク色の突起は痛そうなくらい張りつめ、ジンジンと少女の脈に合わせて振動していた。

「いつでもいいよ」
「じゃ、じゃあ……出すね? ちゃんと見ててね?」
「オッケー」

 僕がそう答えると、その娘は可愛くぷるっと身体を震わせた後、ちょろちょろと放尿を始めた。股間の小さな穴から飛び出した色づいた放物線は、やがて勢いを増して便器の壁面にまっすぐに飛ぶようになる。しかし、この娘の尿道は最初の娘より細いのか、勢いが増してもちゃーっと軽い音しかしなかった。

 しゃがんでいて便器が近いせいか、今までの3人より強く少女のおしっこの臭いが感じられる。水流にこもった少女の高めの体温まで感じられそうだ。でも、まったく嫌じゃない。女の子の体内から出るものの臭いだからかな?

「悪くない臭いだよ」
「え!? あ……汚いよ」
「汚くなんてないよ」

 見られていることより臭いを嗅がれたことの方がよっぽど恥ずかしいのか、その娘は放尿しながら顔を真っ赤にした。キミ達のおしっこが汚いと思ってたら最初からこんな書き換えしてないって。

 放尿が終わった後は、お定まりのコース。僕がトイレットペーパーを取ってきて、その娘が割れ目を開いているところを往復させて拭ってあげる。出している間なんとなく気が付いていたけど、僕が股の間から手を離すとそこからぬちゃっと濡れた音がして、ペーパーに透明な粘液の糸が伸びた。膣口がひくつき、後から後から内部の欲求を吐き出していく。その娘は「あっ」と狼狽したように再度顔を紅くしたけど、僕は気が付かないフリをしてあげた。いいものを見せてもらったことには変わりないから、そのお礼だよ。

「……さて、これで終わりだね。みんな、わかった?」

 僕が少女たちの顔を見渡して聞くと、みんなコクリと頷いた。そして、「ありがとう」と口々にお礼を言ってくれる。

「みんなの役に立てて嬉しいよ」

 僕はみんなににっこりと笑いかけ、1人1人にそれぞれの下着をポケットから出して返してやったのだった。



 その後、4人がトイレから出た後に右目を瞑って捜索してみると、便器の側に『世界の欠片』が2つも落ちていた。今の娘たちの中の2人が持っていたか、それとも2つも取り憑かれてた娘がいたのか。どちらにしろ、思わぬ収穫だ。
 さて、この欠片は何に使おうかなぁ?





3.


 放課後、とりあえず喉の渇きを潤すためにランチハウスのジュースの自販機に駆け込んだ僕は、やることもないのでぶらぶらと苺ミルクの紙パック片手に校舎へと戻ってきた。中央の渡り廊下を通ってきたので、正面玄関のガラス戸の向こうに校舎前の花壇が見えている。あれって、紫鶴のいる3年柊組が育ててるんだっけ?

 僕がそんなことを考えながらとりあえず教室に一回戻ろうかと中央階段前まで来たところで、正面玄関脇の受付の前でこっちに手招きしている人物が目に入った。僕? と自分を指さすと大きく頷く。誰だ?

 近寄って見ると、その人は初めて見る女性だった。赤と紫が混ざった臙脂色をベースに模様が入った着物を身につけ、その上から白いエプロン……いや、割烹着と言った方が良いか、それを羽織っている。時代がかった格好だがその人の顔付きは意外に女の子オンナノコしており、可愛らしい人なつっこそうな笑顔を浮かべていた。
 首筋が隠れる程度に髪を切りそろえていて、前髪も綺麗に整っている。だが、くせっ毛か、それともそういう髪型なのか、頭の左右の辺りだけ髪がピンと飛び出て、シルエットで見るとネコミミを付けているような形になっていた。

 そんな外見と衣装がアンバランスな、それでいて着物+割烹着が不思議としっくり似合っているその人は、僕が寄っていくと思わぬ行動に出た。あと数歩、というところでたたっと小走りに近づくと、突然僕の腕を取ってぎゅっと抱え込んだのだ。

「捕まえました!」
「のわっ!?」

 その女は「ささ、こっちこっち」と強引にぐいぐいと僕を引っ張り、何処かに連れて行こうとする。な、何、この人? 初対面で馴れ馴れし過ぎないか? しかも、「巨」という程ではないがそれなりに柔らかさと弾力のある2つの膨らみが引っ張られた僕の二の腕に押しつけられ、2重にへどもどしてしまう。

 泡を喰っている間に、僕はその人に受付横のドアから中に連れ込まれてしまった。内部はこの星漣に似つかわしくなく骨董品みたいな木製の棚やキャビネットや机が設置されており、一瞬ここがどこだか分からなくなる。受付の中ってこうなってたのかよ。ここだけ時代が大正時代みたいだ。
 壁際の小さい机に置かれた電話なんて黒電話ですらなく、木製の箱型の奴だった。あれでホントに使えるのか? この空間で、唯一現代の香りを感じさせるものは外から見えない位置に置いてある大きな棚の上に行儀良くズラリと並んだドラやニャースといったヌイグルミ達だ。いや、学校の受付内にそんなものが並んでて良いのかどうかは置いておいて。

 受付内部のタイムスリップ具合に3度目の衝撃を受けている間に、その着物を着た得体の知れない女は僕を連れたまま受付の奥にある引き戸をからからっと開き、そこに引っ張り込んだ。

「はい、ご案な〜い」
「あれ? 結構早かった」

 脳天気なその女の声に反応したのは、僕も良く聞き覚えのある人物の声だった。

「あれ? 春原……と、ええ!?」
「久しぶりね」
「は、早坂さん!?」

 引き戸の中は上がり框で、そこに2人の少女達の靴が外向きに綺麗に並んでいた。その先は畳敷きの広い部屋で、手前には昭和の家族ドラマにありそうな丸い卓袱台と座布団のセット、奥側は壁にビッチリと隙間無く本棚が並んでいる。卓袱台の上には2人分の湯飲みと茶請け、そしてそこの座布団には1人の少女が何か読んでいた雑誌から顔を上げてこちらを見つめている。

 金髪、つり目、ツインテール、お嬢。彼女の特徴を語る単語はいくつもあるけれど、それらを総合すると途端にUMA並の存在確率に落ち込む絶滅危惧種。体育会運動部連合自治会の……たぶん「元」会長、早坂英悧(はやさかえいり)だ。涼やかな目元にうっすらと笑みが浮かんだ口元。こんな場所にいるのに場違いなくらい存在感を醸し出している。湯飲みの側に、彼女の長い金髪の一房が8の字に重なっていた。

 もう1人、春原は壁際に座布団を寄せてそこに背中を預け、同じように雑誌を読んでいたようだ。今は脇にその本を寄せ、こっちを向いている。

 ぐいぐいと背中を押され、僕も否応無く靴を脱いでそこに上がらされた。仕方なく、早坂からある程度距離をとって座布団にあぐらをかいて座る。春原もこっちに自分の座布団を持って寄って来た。
 さっきの不可思議な女は、「では、ごゆっくり」とにっこにっこしながら僕らを放置して引き戸を閉めて出て行く。結局、誰だったのよ?

「……何なの、これ?」

 腰が落ち着いて開口一番、春原に向けて僕は正直に思っていることを言葉にした。せざるを得なかった。

「達巳君、第2図書館は初めて?」
「第2図書館?」

 卓袱台を巡って僕と早坂と等距離、ちょうど正三角形のもう1つの頂点の位置に座った春原が僕に向かって笑いかけてきた。何だそれ、聞くのも初めてだよ。
 春原の言葉を早坂が引き継ぐ。

「そう。星漣第2図書館。受付の奥に存在する、知る人ぞ知る秘密の図書館よ」
「……ここが?」

 奥側の本棚をぐるりと頭を巡らせて眺める。まあ、図書館と言うのは言い過ぎだけど、確かにこの蔵書量は……って、おい。

「漫画しかねぇ!」
「あはは」

 春原が僕の突っ込みにカラカラと笑った。
 なんか分厚くてカラフルな背表紙が並んでるな、と思ったら何の事はない。全部マンガ雑誌ばっかりじゃないか! しかもジャンプ等の週間少年漫画、りぼん等の少女漫画だけじゃなく、月刊や季刊、青年漫画、どういう需要か麻雀専門誌まで有るでやんの。あ、あそこの段に有るのビームじゃないか! マニアックに集めてるなぁ。

 まるで漫画雑誌特化のまんが喫茶だ。何でこんな趣味的空間が星漣の中に存在してるんだよ。素直にその疑問を口にすると、春原が自分の分の湯飲みに口を付けてから答えてくれた。

「館長の趣味だからじゃない?」
「館長?」
「ゆーかちゃん」
「ゆーか?」
「あれ? 達巳君ゆーかちゃん会ったの初めてだったの、もしかして」
「……今さっき僕をここに連れてきた女の人の事なら、今日初めて会ったよ」

 あれま、という感じで驚きの顔をする春原。早坂の方も「そうだったの?」と端正な眉を寄せて呆れた表情だ。

「ここをあなたと渚とで使いたいって言ったら、さっき見かけたから捕まえて来るって出て行ったのよ。てっきり面識が有るものだと思っていたわ」
「こっちは初対面だ」
「達巳君、星漣来たの5月からだったよね?」

 春原が指折り数えて再度驚く。

「……4ヶ月もゆーかちゃんに会えてなかったんだ」
「そう。私の聞いた中でも最長記録ね」
「だから、ゆーかって誰なんだ」

 その後、なんとか2人の説明を交互に聞いて統合させ、僕を文字通り捕まえてここに連れてきた謎の人物の正体を理解した。

 名前は、古式川遊華(こしきがわゆうか)。星漣女学園の唯一の事務職員にして受付嬢、そして自称星漣第2図書館の館長である。マジかよ、ホントにこの学園にはちゃんと受付が居たのか……。
 先ほどの初遭遇の様子から分かる通り、かなりの変わり者ではあるが、人なつっこい性格。生徒にちゃん付けで呼ばれてもかえって喜ぶくらいだ。

「だけど、ゆーかちゃんはああ見えて人見知りが激しいんだ」
「あれで!?」
「害が無いって判断するまで受付に行ってもすぐ隠れてしまうのよ。人によっては何週間も会うことが出来ないことがあるわ」

 そう言って、春原と早坂は「私、3週間かかった」とか「私は一月後に、運動部棟で偶然」とか入学時に古式川嬢に出会うまでの期間を比較しあう。って、何か。僕が4ヶ月かかったってのはよっぽど危険人物だと思われてたって事かよ。……否定できない。

「そんなんで、良くクビにならないな」
「結構長くやっているようだし、要所は押さえてるんじゃない?」

 春原も首を傾げながら言う。うーん。生徒達から文句が出ないならいいのかな。でも、受付奥の部屋を完全に私物化して漫画図書館にするのはいかがなものか。僕はもう一度この「図書館」内を見渡した。……貸し出しとか、してくれるのかな?

 僕がそんなこんなでようやく落ち着き、手に持ったままだった苺ミルクにストローを指す余裕ができた頃、件の遊華嬢がからからと戸を開けてひょこっと顔を出した。

「それじゃ、ちょっと見回りに出てきますので自由にしてて下さいね」
「はい」
「よろしくお願いします」

 遊華さんは戸の前で少し思案気に何か考えていたが、うん、と頷くとその隣の棚の上からヌイグルミの1体をひょいと取り上げた。そして、いつもの「代行中」の札をそいつの首にかけると、受付机の上にちょこんと据え付ける。なるほど、そうやっていつも留守番を置いていたのか。今日は魔女宅の黒猫君ね。
 代行者が決まって安心したのか(安心していいのか?)、遊華さんはいそいそと受付から出て行った。見回りって言ってたけど、校内で見かけた事なんて一度も無いんだけどなぁ。ただのサボりじゃないのか?

 変わり者の受付嬢が退出したことで、僕ら3人の会話も1回仕切り直しだ。改めて僕は2人の少女に向かって問いかけた。

「で、何で僕をここに呼んだの?」

 2人が顔を一瞬見合わせる。すぐに早坂の方が「ここは私が」と説明をかって出た。

「あなた、2学期の最初の日に会長から祭事運営委員長に選ばれたこと、覚えてるかしら?」
「うん? あー……一応」
「一応、なのね」

 早坂は僕の答えに「案の定ね」と再び眉を寄せる。

「あのね、体育祭の開催期間まであと3週間も無いのよ。だから、そろそろ実施の草案だけでも作っておかないと本気でマズい時期に来てるのよ」
「ああ、そうなんだ……それ、僕の仕事なんだ」
「説明を何もしなかった会長もマズいとは思うけど、任された以上あなたに音頭をとってもらうわ」

 ぐへぇ。ついに来ちゃったよ、生徒会特別役員の仕事! 今更辞退とか、無理だよなぁ。
 僕の考えを読んだように早坂が言葉を続ける。

「言っておくけど、今更離任願いを出したって執行部は受理しませんからね」
「ああ、やっぱりか」
「しっかりしてよ」

 激励なのか、嘆息なのか。微妙な雰囲気で息を吐くと、早坂は座布団の側に置いていたブルーの分厚いファイルを卓袱台の上に置いた。

「ここ数年の体育祭の資料よ。しっかり読んで、必要文書作成の参考にして」
「なんだこの電話帳は……鈍器じゃないのか」

 僕は目の前にずずいと差し出されたジャンプ3冊分くらいの高さの書類の束にげんなりする。これなら枕にだってなりそうだ。いや、読んでる途中に絶対そうなるな。

「誰もあなた1人でやれとは言ってないでしょう」
「手伝ってくれるの?」
「仕方がないわね」

 あれ、ほんとに手伝ってくれるのかな? そう考えたとき、唐突に僕は根本的な疑問が存在することに気が付いた。なぜ……それを春原と早坂が僕に伝えに来たんだ?

「そもそも、どうして君らが僕にそれを言いに来たの?」
「私は……まあ、言い出しっぺの法則っていうのかしら」
「ええ!? 君が僕を特別役員に推したの!?」

 僕のとんちんかんな早合点に、早坂のみならず黙っていた春原までもぷっと吹き出す。

「違うの?」
「違うわ。私も運動部の元締めなんてやっていたから。少し気になってたら会長が『それなら、これを持ってサポートしてあげて下さい』ってね。用意周到なんだから」
「私はその付き合いかな」

 早坂は笑いながらファイルを指さし、春原がそれに付け足す。ああ、言い出しっぺってそっちの方ね……。しかし、必要資料を用意しておきながら早坂が言い出すまで澄ました顔をしてるなんて、まったく宮子らしいな。

 僕にもようやく事情が飲み込めた。前に生徒会執務室に呼ばれて特別役員に任命された時、宮子が言っていた僕の「サポート」ってのが早坂と春原なんだ。それならそうと言ってくれれば良いのに、いきなり説明をすっ飛ばして連れ込み宿みたいな事をするから混乱するんだ。あ、いや、そっちでも僕はぜんぜんオッケーだったけどね?

 と、そこで事務室の方で「すみませーん」と女の子の声が聞こえた。あの気ままな受付嬢に用かな? 手慣れた様子ですぐに春原が立ち上がり、「私が出る」とさっさと引き戸の向こうへ消えていった。

「春原、ここに良く来るのかな?」

 僕が思わずそう訊ねると、早坂は「そうね」と頷いた。

「主将なんてしてると学校内じゃ滅多な事では気を抜けないから、こういうところで息抜きするのよ」
「早坂さんも?」
「ま、ね」

 ふうん、と僕は頷いた。確かにここは管理人が管理人だし、お嬢様学校らしく堅苦しい星漣の中ではゆる〜く暇つぶしもできる秘密の憩い場になっていてもおかしくない。でも、それならここは他の生徒も遊びに来るんじゃないのか? 僕がその疑問を口にすると、早坂は笑いながら首を振った。

「いくらここが緩いと言っても、遊華さんに無断で入り込むような生徒は流石にいないわよ」
「そりゃそうか」

 さらに早坂は、自分も春原も引退した身だし運動部棟の施設を利用するのはなんだか後輩達の視線もあってやりづらい、かといって図書館の会議室を借りるのは大袈裟過ぎる、生徒会執務室近辺でやるのは今度は僕が後込みするだろうとこの場所を選んだ経緯を説明してくれた。へいへい、お気遣い感謝ですよーだ。
 そこまで喋ったところで、先ほどの遊華さんの様にひょいと春原が戸から顔を出した。

「あのさ、1年生が花壇を整備する道具を借りに来てるんだけど」
「どこの組?」
「椿組。ゆーかちゃんには言ってあったらしいけど、倉庫に鍵がかかってるんだって」

 おいおい、ますますまともに事務員やってるのか不安になってきたぞ。だが、春原と早坂はこんな事態には慣れっこなのか特に動じた様子は無い。春原は顔だけ出した格好で続けた。

「勝手に鍵を借りられないし、私ちょっと探しに行ってくるよ。2人でやっててくれる?」
「わかったわ」
「帰りに飲み物買ってこようか?」
「ダージリン」「バナナオーレ」

 僕と早坂は同時に要望を口にし、そして同じタイミングで顔を見合わせる。春原がくすっと笑った。

「仲がおよろしいことで。じゃ、留守番お願いね」

 そう言い残すと春原は戸を閉め、姿を消した。通りの良い彼女の声と1年生達数人の声がだんだん小さくなる。やがて、室内がしんと静まりかえると、残された僕たちはもう一度顔を見合わせた。

「……良くあるの? こういう事」
「ま、たまにね」
「駄目じゃん」
「そうよね」

 早坂は僕の表情にふふっと笑った。

「ま、それより。時間が無いのは確かなんだから先に進めときましょう?」
「わかったよ。でも、まず何から手を付けていいやら……」

 僕がお手上げのポーズを見せると早坂も思案気味に頬に指を当てる。

「そうねぇ……まずは人集めじゃないかしら」
「サポートを増やすの?」
「私も渚もこういう文書仕事は得意じゃないし……できればそういった事に長けた子がいれば良いんだけど。あなたの知り合いにいないかしら?」
「文書仕事ねぇ……」

 僕の脳裏に1人の写真部2年生の少女の姿が思い浮かぶ。あの娘なら確かにこういった事には慣れていそうだ。ただ、7月の騒動の時の感じでは生徒会を嫌っていたようだし、今の僕が頼んで協力してくれるだろうか……。

「それより、生徒会側からもう1人借りられないかな?」
「会長から書記を借りてみる?」

 げ、と僕は声に出してしまった。あのメガネの生徒会書記はバリバリの宮子の信奉者らしく、僕に敵意感情剥き出しだった。できれば5m以内には近付きたくない。僕のその思いは早坂も承知だったのか、

「なら、やっぱり自分で探すしかないわね」

 と既定路線の様に告げたのだった。むむむ……。



 人探しは置いておき、とりあえず2人で顔を付き合わせて資料をひっくり返していると、だんだん飽きが来る。何処まで探しに行ったのかまだ春原は帰ってこないし、僕はふう、と大袈裟に息を吐いてゴロンとあぐらを掻いたまま後ろに転がった。

「もう飽きたの?」
「僕だって文書仕事には向いてないんだ」
「そうみたいね。少し休憩しましょう」

 早坂も同意し、ファイルを横に退ける。よし、目下の懸案事項が視界から退いたので、僕は現金にも勢いを付けて起き上がった。そして、そのままの勢いで思いついた事を早坂に喋りかける。

「そう言えばさ。早坂さんは生徒会長選挙に立候補したんだよね?」
「急に何?」
「いや、僕は5月からだからさ、どんなだったのかなって。えっと……確か、『銀の騎士』」
「やめてよ」

 早坂は苦笑いしながら手を振った。

「私達は一度もそれ、名乗ったことは無いのよ」
「あれ? でも、安芸島さんの黄金の騎士団と戦ったんでしょ?」
「だから、その名前も新聞部が勝手に付けたのよ」

 またあの弾丸ブン屋か! 改めて責任感の無いメディアの恐ろしさを思い知るな。

「選挙で立候補したの、君と安芸島さんの2人だったの?」
「そうよ。まあ、私は半ば成り行きみたいなものだったけど」
「成り行き? ほんとは立候補するつもりはなかったって事?」
「連合の方が盛り上がっちゃってね」
「祭り上げられた?」
「まあ、期待されたら応えないといけないから」

 自分の話題に気恥ずかしさもあったのか、早坂は「渚、何処まで行ったのかしら」と言いながら自分の湯飲みを持って座布団から立ち上がった。

「しょうがないわ。お茶、煎れるわね」
「責任感強いから、春原」
「そうね」

 ふふ、と口に出して笑いながら早坂はからからと戸を開けて向こうの事務室へ消えていった。僕は再度後ろにごろんと転がる。

 隣から、お茶缶を開けたり、急須を用意する音が聞こえる。僕はそれを聞きながら早坂がエプロンを付けてキッチンに立つ姿を想像した。……んー、可愛い。そして、あれ? と気が付いた。

(僕……早坂とこんなに気軽に話せる仲だったっけ?)

 早坂の中では7月生徒総会中の寮訪問は黒い本の力で無かったことになっているから、今日はその前の生徒会執務室での接触以来の会話って事になっているはずだ。なのに、妙に気軽に話せてないか?

 ……いや。これは、記憶が無いからこそ、なのかもしれない。

 夏合宿の際、梓や朝顔があからさまな好意を僕に見せ始めたのは、彼女たちをコントロールしてエッチな事をした後からだ。その時感じた気恥ずかしさ、そしてそれを変換した楽しさ、そういった感情はブラックデザイアの支配下を抜け、記憶が消えても後遺症のように残る。

 6月末に寮に行った時、早坂は僕を寮母代行と認識していたが、そのせいもあってか自分が実家を飛び出た身の上話をしてくれた。そして、僕もどうせ忘れるからと、他の誰にも話していなかった、親父との確執について喋ってしまった。
 それが、記憶には無いがお互いの内情を知った者同士のある種の親近感となって残っているのではないか?

 そう言えば、さっきの春原も、時折言葉を止めて僕と早坂の様子に戸惑って……いや、訝しがっている様な感じがあった。早坂は僕の方を見ていたから気が付いてないかもしれないが、あれはきっといつの間に僕が(あるいは早坂が)距離を縮めたのかと驚いていたのかもしれない。だとしたら、あまりベタベタとしないで、ビジネスライクに付き合うのがベターなのかな?

 寝転がって考えていると、からからっと戸が開く音がしたので僕は身体を起こした。見ると、早坂がお盆を手に戻ってきていた。

「はい、お待たせ」

 早坂は自分のお茶の入った湯飲みを元の位置へ、そして新しく用意した湯飲みを僕の前にことっと置いた。その際、俯いた彼女の頭が接近する。

 ドキッとした。
 早坂の頭の動きにつられて彼女のツインテールの一房が僕の腕に微かに触れたのだ。夏服の袖から出た僕の二の腕を、しゅるっとまとわりつくように金糸のような彼女の髪が撫でていく。一瞬、思わず早坂の方を凝視してしまう。

 ……睫毛が長い。伏せられた目元が凛々しくて美しい。眉毛まで金髪なんだな、早坂って。当たり前か、前の学校にいた髪を染めているニワカの奴らと違って、彼女はハーフで地毛だ。
 耳後ろの髪の生え際が色っぽいな。鼻が綺麗な形だ。高いんじゃない、すらっと伸びて、それでいて少女っぽい可愛さも持っている。唇がピンクで、柔らかそう。肌が白い。体育会系なのにあまり日焼けしないのかな。それも外国の血のせいかな……。

 一瞬の内に、僕は眼に飛び込んできた光景から早坂についていろいろな事を考えた。そして、最終的に達した結論は……なんて可愛い娘なんだろう、だ。

「……どうかしたの?」
「え!?」

 僕は一瞬惚けた様に彼女のことを見つめていたらしい。慌てて視線を誤魔化すために湯飲みに手を伸ばす。

「!? ぶわっちぃっ!!」
「あっ、ちょっ!」

 思ったよりお茶は熱くて、指先がビックリしてちょっとこぼしてしまった。うわ、みっともない。卓袱台に広がったお茶が畳に滴となって落ちていく。

「早く座布団を退けて!」
「う、うん」

 素早く筆記具を下ろして待避させた早坂は、手早くお盆の布巾で卓袱台上を拭う。

「もう、気を付けてよね」
「ごめん……」

 僕も急いでポケットティッシュを取り出し、畳に落ちたシミを拭った。すぐに濡れ濡れになり、代わりの物がないかと辺りを見回す。

「大丈夫だった?」
「え?」
「火傷、しなかった?」

 視線を下ろすと、俯いて布巾を使う早坂のうなじと、薄手の制服の背中側にうっすらと浮かんだブラジャーのラインが眼に飛び込んできた。うぐ、と言葉に詰まる。

「やっぱり火傷したの? 冷やすもの取ってくるわ」
「い、いやいやいや、大丈夫! どこも怪我してないよ!」

 しどろもどろに弁明。顔を上げた早坂の首筋の制服の隙間に鎖骨のラインを見つけて、またも狼狽える。

 僕は、今の一瞬で、寮訪問中に早坂と一緒にお風呂に入った光景を何故か思い出してしまったのだった。スレンダーな身体つき、形よく尖った胸、なだらかなお腹とおヘソ、腰回りの柔らかなライン、そして股間に張り付く金色の繁み……それらが水に濡れ、雫が流れ落ちる様までリアルに脳裏に再現された。

 僕を見上げる早坂の顔が近い。近い近い! こぼしたお茶の匂いに混ざり、僅かに早坂自身の匂いが制服越しに鼻孔を擽る。一瞬でその皮膚の艶めかしさを想像できるような好い匂い。乗馬をやっていたという筋肉と脂肪のバランスの取れたその身体は、細く柔らかい少女と女性の中間の魅力が充満している。抱いたらすごく気持ち良さそうだ。

 僕は懸命に理性を総動員し、視線を少女から引き剥がした。目の前の少女に重なった記憶の中の裸体を、ぎゅうっと圧縮して全力で投げ飛ばす。
 なんだってんだよ、僕! ちょっと可愛い女の子と接近したからってこれじゃ、発情したサルじゃないか……。

 畳を綺麗にし、卓袱台も新しく絞ってきた布巾で拭ったところで僕と早坂は座布団に座り直した。僕の元々いたところの畳が濡れているので、位置がずれてさっきより早坂の身体が近い。これ、僕が近付いたみたいで春原に邪推されないか?
 気にはなったが、「座らないの?」と見上げてくる早坂に何も言えず、結局どぎまぎしながら彼女の隣に着席したのだった。



 その後、お茶を飲みながら自然に先ほどの話の続きになった。早坂もお茶を煎れながら思い出していたのかな。

「去年の冬休み前かな? などかと今回の生徒会長選挙は盛り上がらないかもしれないって話してたのよ」

 などか、というのは今年度の季刊文芸誌「やまゆり」編集長・天乃原などかの事だろう。運動部と文化部の長同士と言うことで、その頃から付き合いが有ったのか。

「それは、どうして?」
「ちょっと、その時期にごたごたがあったから」

 記憶を辿る。もちろん、僕はその時期星漣にはいなかったけど、あのブン屋から昨年の冬休み前後に有った事柄について何か聞いていたはずだ。あれは、確か……。

「……生徒の失踪騒ぎが有ったんだっけ?」
「うん。1年生の子でね。まあ、そういう事で色々な課外活動も自粛モードで、とてもじゃないけど毎年の選挙前みたいにお祭り騒ぎをする雰囲気じゃなかったのよ」
「ふーん……」

 今から考えると、僕が転校してきた直後も学園内の雰囲気が沈んでいた感が有った。あれも、那由美の件があったからなのだろう。

「それで、立候補者の話もまったく出ないから、私が出るしかないわねって冗談を言ってたんだけど」

 生徒会長への立候補者がいなければ、次期運動部連合自治会長かやまゆり編集長のどちらかが出馬するのが星漣の伝統らしい。前年度の生徒会長・荒巻冴子はその伝統通りやまゆり編集長兼務だ。だから、順当に行けば今度は早坂の番だった。

 そこに、唐突に現れたのが安芸島宮子だったのだ。と言っても、早坂的には電撃的に立候補という訳ではなかったらしい。

「最初は、私のところに来たのよ」
「君のところに? 何しにさ」
「冬月の事でね」

 3年柊組の相良冬月(さがらふゆつき)は現生徒会副会長であり、風紀委員会委員長でもあり、そして当時は新体制になったばかりの剣道部で1、2を争う実力者だった。その冬月に関して相談が有ると、宮子は早坂の元を訪れたのだという。

「いえ、相談というより、助言、だったかな」
「どういう状況だったのさ」
「その時はまだ、誰のことかは隠してたから冬月の事とはわからなかったんだけどね」

 早坂に対し、宮子は近々自分に関わる事で運動部方面に迷惑をかけるかもしれない。その際、出来るだけ当事者を寛大に見守って欲しいと、そんな趣旨のことを言ったのだという。
 早坂が何のことかと聞いても、まだ決定ではないから話せないと首を振る。とりあえず、運動部の一員として出来るだけのことはすると約束し、その場は別れた。その後、1週間しても何も起こらないので、宮子の取り越し苦労かと早坂も忘れかけていたのだという。

「そしたら、正月から血相を変えて剣道部から連絡が来たのよ。冬月が退部願いを出したって」
「いきなり退部!?」

 慌てて運動部連合は冬月と面会し、その真意を尋ねた。すると、冬月は次のように答えたという。

 ――私は、安芸島さんを生徒会長にするために、あの人に着いていきます。運動部連合を裏切る事になるので、これ以上剣道部に席を置く事はできません――

「極端だなぁ!」

 僕はその話に思わず突っ込みを入れてしまった。それに苦笑しながら早坂も頷く。当然、当時の連合側もそう思って、どうして安芸島宮子に着いていくことが運動部を裏切ることになるのかと聞いた。剣道部に所属したまま、運動部の代表として生徒会の任に着けば良いのではないかと。しかし、冬月はその言葉に首を振り、理由については、

――まだ、話せません――

 と、頑として口を割らなかったという。

 だが、その答えはやがて早坂自身が思い知る事になった。

「前年度の荒巻会長がちょっとやり過ぎたお陰でね……次は、是非とも運動部関係者からって動きが内外にいつの間にか出来てたのよ」

 それは僕も噂には聞いていた。荒巻前会長はとにかく我の強い人で、やると言ったことは絶対やる、やらないと言ったことは全力でやらないと、良く言って潔い、悪く言えば我が儘な統治を行っていた。
 先ほど思い浮かべた写真部2年生もその被害者の1人らしいと聞いている。それだけに、色々反感を持つ人も多かったのだろう。

 その動きで白羽の矢が立ったのが早坂だった。早くから特別役員に任命されていたから生徒会活動の実績も十分、乗馬部のエースとして運動部内での信頼も厚い。例え早坂が自分で立候補しなくても、推薦という形でリストに載る可能性もあったらしい。

「その矢先に、運動部への裏切りともとれる冬月の離反でしょ? しかも生徒会副会長のポスト付きで。だからみんないきり立っちゃってね」

 その結果、いやがおうにも早坂は運動部連合の面子をかけて生徒会長選に出馬せざるを得ない状況になったのだった。

「流石に、誰かに言われてようやく腰を上げたって思われるのはシャクだったから、最後には自分で生徒会長選挙に名乗り出たけどね」
「……そんな経緯があったのか」
「まあ、お陰で選挙はいつも以上のドンチャン騒ぎになったんだけど」
「不幸中の幸い?」
「毒喰わばのやけっぱちじゃないかしら」

 そんなことがあったのか。執行部も結成直後は決して一枚岩では無かったんだな。外から見てる分には面白かっただろうなぁ。

「でも、副会長が無事に剣道部に復帰できたんだから、結局は運動部も許したんでしょ? 良かったじゃない」
「え? どういう意味?」
「だって、裏切り者だって運動部がいきり立って選挙の対抗に君を担ぎ出したんじゃないか」

 普通に考えれば、選挙の結果がどうあれ運動部に戻ってくる事なんて出来ないだろうし。
 だが、早坂は「違う違う」と手をブンブンと振った。

「冬月は人気が有ったし、こっちでも副会長に推そうとしていたからよ。相手と同じ青写真は見せられないじゃない? それに、その時は自治会長があの子の行動に関しては不問にするって最初から言い渡してたから、選挙後の復帰は決まっていたようなものだったし」
「あれ? でも裏切りだから退部って……」
「それは、あの子の問題。あの子の家、剣術道場やっているせいかそういう武士みたいなところあるから」

 あれ、あれあれ? なんかこんがらがってきたぞ?

「ちょっと待って。その時、早坂さんは自治会長じゃなかったの?」
「? そうよ? 運動部連合の体制更新は生徒会長選挙と同時に行われるから、私も来年の1月まではそのままだけど?」
「そうなの? それなら、さっきの話だけど、なんで安芸島さんは君に『迷惑がかかる』って言いに来たのさ」

 そうだ、混乱の原因は時系列がおかしいからだ。
 運動部の動きが活発になり、早坂が「成り行きで」立候補を決めた後に宮子が「迷惑をかけます」と謝りにきたなら問題無い。だが、そもそも冬月の離反が判明していない冬休み前に、「早坂のところに」挨拶に来るのがおかしいのだ。
 これが、冬月の退部の意志を聞いて運動部連合の自治会長に言いに来たならまだ納得できただろう。「冬月を自分の陣営に貰います」という意味で。僕もそう思っていたから事情が飲み込めていた。だが、その時はまだ早坂は就任前だったという。

「会長が、運動部の動きを完璧に予測して私のところに来てたって言うの?」
「今の話からだと、そうとしか考えられないんだけど」
「……そうかもしれないわね」

 早坂は右手を握って口元に当て、少し考え込む。

「いつの間にかなどかも味方につけてたし、方針説明も私達の主張が完全に読まれていたわ。それにね? あの人、就任後の政策実施スケジュールまで具体的に出してたのよ。まるで、当選するのが確定しているみたいにね?」
「……で、どうなったのさ」
「すべて、予定通りよ」

 早坂はお手上げ、という風に両手を左右に開いた。

「あそこまで完璧にやられると悔しいとも思わないわ。完敗。別に荒巻さんみたいに強権を振るっている訳でもないのに、不思議と期日までには案件が片づいてるのよ」
「安芸島さんらしいね」
「そうね」

 ふふ、と何かを思い出したように早坂は笑い、ちょっとだけ僕に顔を寄せた。まるで、内緒話をするように少しだけ声を小さくする。

「その頃の生徒会で、会長が何て呼ばれてたか知ってる?」
「? 薔薇の姫じゃないの?」
「それは選挙戦。あんまりにもする事が正確なんで、ちょっと良くない意味でも言われてたんだけど……」
「安芸島さんが、何て?」

 僕も、その口調に引かれて顔を寄せた。

「……時計仕掛け」
「時計?」
「そう。正確に時を刻む時計のような会長……『時計仕掛けの生徒会長』って、呼ばれてたのよ」



 その日は、結局春原が帰ってくるのが遅くなったためにあまり進展もなく解散となってしまった。明日までに追加要員の目星を付けておくという宿題を申し渡され、学級日誌を置いて来ると言う春原や、資料をいったん仕舞いに行く早坂と別れる。「じゃ、ね」と小さく手を振る早坂に手を振り返す自分が、ひどく新鮮な物に感じた。

 館に戻った後、自分の部屋でふと思い付き、ちょっとだけ期待して黒い本をめくる。だが、そこにはまだ早坂のページはできていなかった。

 その事実に必要以上にガッカリした事に僕は驚き、そして自分で意識しているよりもずうっと早坂の事を女の子として気に入っている自分自身に、僕は戸惑ったのだった。

 
 


 

 

戻る