BLACK DESIRE


 

 



3.


 星漣学園の敷地内には多数の花壇が設置してあるが、それらの管理は各クラスの生徒達に任されている。星漣学園の制度では生き物係のようなクラス役職が無いため、たいていの場合は各クラスの委員長か風紀委員が何名かのクラスメイトを選んで花壇の管理をさせるのが通例になっていた。

 1年椿組の担当の花壇は校舎から一番遠い、プールと文化部棟の間にあった。夏休みの間は土を休ませていたため、他のクラスに比べて楽をしていたが、そろそろ新しい花を植えなければならない。風紀委員の姫野朝顔(ひめのあさがお)はクラス委員長の五十崎華恋(いそさきかれん)と相談し、土作りのためのメンバーをあと3人選出した。
 全員に放課後体操服などの汚れても良い服装で集合をかけ、受付の事務員に頼んでシャベルやスコップを貸してもらう。それらを石灰肥料の袋と一緒に猫車に載せ、計5人の1年生達は図書館の脇を抜けて自分達の花壇へ向かった。全員、上は体操着のシャツ、下は指定赤ジャージを履いて手には用意した軍手を付けていた。

「うー、やっと着いたー。うちの花壇は何でこんなに遠いのかね?」

 ソフトボール部の安田茉希(やすだまき)がげんなりした様子で猫車を止める。体操服からすらりと伸びた手足はもうじっとりと汗をかいていた。額の汗を軍手の甲でぐいっと拭う。

「仕方ないですよ。校内の北側から順番に割り当てられてるんですから」

 朝顔は下ろしたスコップを他の1年生達に手渡しながら答えた。星漣のクラスは各学年4つずつクラスがあり、それぞれ椿・榊・柚・柊のクラス名を持つ。その順でいくと、確かに一番北側の花壇を受け持つ1年椿組は1番目であり、最後の3年柊組は最南端の校舎前の花壇が割り当てられていた。
 スコップを持った九条院真利亜(くじょういんまりあ)は――彼女は長い髪が汚れないよう、今日は髪を後ろで結んでいる――首を傾げ、「どのくらい掘ればいいの?」と朝顔に質問した。

「30センチくらいです。スコップの先が潜るくらいで」
「石があったら退けておけばいいのね?」
「はい、隅っこの方に集めておいて下さい」

 全員に行き渡ったので朝顔は周りの者の顔を見渡し、頷いた。

「5人いるから、私と夏目さんが向こう側からやって、残りの人がこっちからって事でいいですか?」
「いいんじゃないかな? じゃあ、ちゃっちゃとやっちゃおー!」

 華恋の号令で全員が「おー!」とかけ声を上げ、それぞれの作業に取りかかる。朝顔はちょこちょこと小走りに寄ってきた夏目文紀(なつめみのり)を引き連れ、花壇の反対側に向かった。




 花壇の雑草は小まめに抜いていたので草毟りの手間は省けたが、夏の間の雨のせいで思ったよりも土は硬くなっていた。休憩を挟みながら全員がふうふう言いながら土を掘り起こしていく。15分もすれば全員汗だくになっていた。
 見知らぬ少年が5人のところに通りがかったのは、ちょうどそんな時であった。

『花壇の整備かい? お疲れさま』
「あ、ども」

 一番近くにいた茉希が作業の手を止めてぺこりとお辞儀をする。見たこと無い少年だ……いや、見たことが無いどころか、その少年の顔付きはぼんやりと光を放ったようになっていて見通すことが出来ず、はっきりとしない。声もどことなくエコーがかかったようで、本当に少年の声なのかどうかも怪しいところだった。
 だが、不思議と茉希の心にその事に対する疑問は湧いてこない。ただ、その少年に以前どこかで会った事があるような印象を持っただけであった。

 少年は内心首を傾げて黙った茉希の様子も気にせず、軽い口調で言葉を続ける。

『暑いねぇ。まだまだ残暑は続きそうだ』
「そうですね。でも、作業が終わるまで夕立はこないで欲しいけど……」
『そりゃね。濡れれば涼しくなるだろうけどそうしたら泥んこになっちゃうからね』
「ええ。まあ、今でも十分泥だらけですけど」

 そう言って茉希は両手を左右に広げた。汗でじっとりと湿った体操服のあちこちに土が付き、軍手も泥だらけだ。その手で無意識にこすってしまったのか、鼻の頭にも土が付いていた。

『頑張ってるね』
「選抜メンバーですから」
『ふ〜ん……』

 少年がじろじろと茉希の全身を眺める気配がある。顎に手を当て、少し思案する素振りの後に少年は唐突にこんな事を言い出した。

『そこまで汚れたんなら、いっそのこと脱いじゃえば?』
「え?」
『その方が涼しいでしょ?』
「……それは、そうですけど……」

 何かすごい事を提案された気がする。だが、茉希には少年の提案のどこが特異なのかわからなかった。暑いから服を脱いで作業する……別に変な事じゃないよね?
 いつの間にか他のみんなも手を止めて少年の周りに集まって来ていた。少年と話し込んだままの茉希の様子を見に来たのかもしれない。代表して朝顔が話しかけた。

「どうしたんですか?」
『うん。みんな暑そうだから脱いでやったらって言ってたところなんだ』
「そう……ですね。別におかしくはないですよね……」

 朝顔も若干違和感をおぼえた様で、首を捻りながら周囲の少女達に視線を送る。

「どうします?」
「暑いし、脱いじゃえばいいんじゃない?」

 クラス委員長の華恋が納得した事で、とりあえずアドバイスを受け入れる事になった。少女達の体熱の発散を一番妨げているのは、間違いなく厚ぼったい赤ジャージだったからそれを脱ぐことにする。いったん土の外に出て、靴を反脱ぎにしてズボンを下ろした。

「うーん、やっぱりジャージを脱ぐと涼しいねー」
『でしょ?』
「教えてくれてありがとうございます」
『どういたしまして』

 下はパンツ姿になった華恋がはしゃぎ、朝顔は会釈をして礼を言う。少女達はジャージの下にブルマを履いてこなかったので、全員上はシャツ、下はパンティーだけの無防備な姿になった。体操着の裾が股上の5センチくらいまでは隠していたが、長さが足りないので薄い色の下着が立っているだけで見えてしまっている。少女達は自分で脱いだにも関わらず、心の内から湧き上がる羞恥心に顔を赤くして裾を手で押さえた。真利亜も居心地悪そうに自分の下半身を気にしながら皆に声をかける。

「じゃあ、服も脱いだし……再開しましょ」
「はーい」

 少し涼しくなって元気を取り戻した少女たちは大きく返事をして、それぞれの地点に散っていく。少しお尻に食い込んでいるパンティーに指を入れて直したりしながら元の位置に戻り、再び軍手を付けてスコップを手に取った。その様子を、おぼろな姿の少年は片手を顎に当ててじっと見つめていた。

 僅かに残っていた雑草の新芽を摘み、掘り返した土から石をより分けてまとめて花壇の外に出す。腰を屈めればシャツの裾がずり上がって背中の下の方と下着のお尻の部分が丸出しになり、そこは汗で湿っていた。だが、無心に働く少女達からはいつしか恥じらいの気分が抜けて、およそ年頃の少女がすべきでない姿でいる事を半ば忘れかけていた。

 それから30分も作業を続けたところで花壇の2/3ほど掘り返しが終わり、全員で一回休憩を取ることにした。
 茉希はスコップを地面に突き立て、それに手を置いて立ったまま持ってきた水筒に口を付ける。タオル代わりに自分のシャツの裾を持ってそれで頬のあたりを拭くと、少し日焼けしたお腹と薄水色のスポーツブラがその下から見えた。

「もう少しだね。終わったところから肥料を蒔いていったらどうかな?」
「そうですね。じゃあ、九条院さんと夏目さんでそっちからやってもらえますか?」

 朝顔の指示に、真利亜と文紀はスコップを猫車に戻して小振りなシャベルを取り出した。石灰肥料の袋を開け、朝顔に蒔く分量の指示を受ける。その一方、華恋は額に汗と疲労を滲ませ、ぐったりとしゃがみ込んでいた。

「うー……まだこんなにあるの〜?」
「交代で蒔く人と変わればいいよ」
「もう夕方だよー。それなのに暑いしー……」

 華恋は茉希から飲み物を貰う。上を向いて水筒を傾けると、少女の細い喉がごくごくと動くのが見て取れた。

『あとちょっとだよ。頑張れ』
「ちょっとは手伝ってくださいよー」
『無理だって。それより、暑いならまた脱いだら?』
「……そーしよっかなー」

 立ち上がり、うーんと伸びをする華恋。白いお腹の真ん中のお臍がちらりと見えた。そして、そのままの勢いで「よいしょ」とシャツを脱ぎ捨て、両手で持ってパタパタとはたく。薄い申し訳程度の胸の膨らみを覆う小さなブラジャーが露わになった。

「私、もうこの格好でやっちゃおーっと!」
「いいね。私もそうしよっと」

 華恋に続いた茉希に習い、次々とシャツを脱いで下着姿になる少女達。肩や背中やお腹が風に晒されるようになり、一様に涼しそうにふうっと息をついた。

「じゃ、水分補給もしたところで続きをしようか」

 そう言って茉希は突き刺していたスコップを持ち上げた。





「……だぁーっ! 終わったぁーっ!!」

 茉希がスコップを放り出して万歳の姿勢をする。その隣では途中で完全にへたばった真利亜がしゃがみ込んでいた。

「みんなー、お疲れさまー」
「ふみぃ……」

 声をかける朝顔と声を出す元気もないのか、妙な鳴き声の返事をする文紀。最後までスコップ要員だった華恋などはそれを地面に突き立てて手と顎を乗せ、はあはあと肩で息をしていた。

 途中で一回、「ぁあっちぃいい!」と茉希が切れたので、今は全員ブラジャーまで外してパンツ一丁になっていた。結局花壇全域を掘り返すのに2時間近くかかり、今はもう日が沈みかけている。今更ながら夕暮れの涼しげな西風が少女達の体を優しく撫で始めていた。

『うん、みんな良く頑張ったね』
「もう、腕とかぱんぱん。明日は筋肉痛間違いなしね……」

 真利亜は自分の細腕を恨めしそうに揉みながら言った。軍手をしていたのにその手は泥だらけになっており、今触った二の腕の辺りにも新しい土汚れが着く。少年はそれを見て、朝顔に声をかけた。

『みんな泥だらけだね。シャワーを浴びた方がいいよ』
「ええ、そのつもりで着替えも持ってきてます」
『どこのシャワーを使うの?』
「そうですね……」

 朝顔は人差し指を顎に当てて首を捻った。泥だらけで入っても怒られない場所……運動部棟だろうか? しかし、それを告げると少年は首を振った。

『ここからだと遠いし、土の泥で建物の中が汚れるよ。屋外プールのシャワーを使えばいい』
「でも、水着が無いです」
『何で? シャワーを借りるだけなら水着を着る必要は無いんじゃない?』
「あ……そうか」

 確かに屋外プールの横には入水前に浴びるための簡素なシャワーが幾つか並んでいる。プールに入るわけでは無いのだから、そのシャワーだけ借りるなら別に水着を用意する必要はない訳だ。朝顔は頷き、他の4人に呼びかけた。

「じゃあ、片づけたら屋外プールのシャワーを借りに行きましょうか」
「わかったわ」

 真利亜が頷き、よいしょっと重い腰を上げて立ち上がった。

『あ、そうだ君たち』
「何です?」
『せっかくだからもう一種類肥料を蒔いておいてくれないかな』
「? そんなの持ってきてないですよ?」
『持ってるじゃない』

 そう言って少年は真利亜の腰の辺りを指さした。

『人の尿は肥料になるよ』
「あー、そうですね」
『みんなずっとトイレに行ってないし、ここでしちゃったら?』
「……どうする?」

 真利亜が見渡すと、パンティーのみの少女達は顔を見合わせて思案した。そして朝顔が先ほどのように顎に人差し指を当てて呟くように提案する。

「……私は我慢できないこともないけど……でも、せっかくだから、やっちゃいましょうか?」
『それがいいよ。どうせこの後シャワーを浴びるなら、何処でしようが変わらないしね』
「そうですね。それなら、ちょっとでも肥料になるここでやった方がいいですね」

 少年と朝顔の言葉に、全員が納得した。少女達は自分の身につけた最後の衣装となるパンティーに手をかけ、それをするすると下ろしていく。全員脚の下の方は土が付いているため、それが下着の内側に着かないようゆっくり、慎重に足から抜いた。

『石灰を蒔きすぎたところがあったでしょ? 中和も兼ねてその辺でしたらどうかな?』
「じゃあ、この辺りですね」

 放置した土は酸性に傾くため、それを中和する為に石灰肥料を使用する。尿は弱酸性だから、石灰肥料と一緒に使用するのがいいだろう、と漠然と朝顔は考えて頷いた。

『蒔く位置は自分でも確認してね。提案した僕も手伝うけど』
「位置を確認してくれるんですか?」
『うん。僕にも見えるように脚を開いてしてね』
「わかりました。この辺でいいですか?」

 朝顔が自分の位置を決め、しゃがみ込んだ。通常の放尿のしゃがみ方ではなく、股間が見えるように両手を膝に置いて脚を左右一杯に開いている。脚の内側の筋に引っ張られて肉付きの薄い割れ目が僅かに口を開いていた。

「じゃあ、私はここ」
「私、華恋ちゃんのとなりで」

 華恋、文紀が朝顔に習ってその左に同じように脚を開いてしゃがんだ。右側には茉希と真利亜が並んで座る。

「よかったー。ちょっと我慢してたんだよねー」
「これでいいでしょうか?」

 少年は5人の正面側に回ると、少女達の股間部を眺められるように自分もしゃがんだ。順々に端から割れ目を見つめていくと、視線を感じるのか徐々に少女達の頬が赤くなる。

「あの……そんなに見られると……」
『恥ずかしい?』
「ええ……」
『花壇に肥料をあげるだけだよ?』
「でも、おしっこですし……」
『大きい方の方が良かった?』
「それはちょっと、今は……」
『うん、おしっこの方は準備良しだね』

 裸の少女達の腹部が呼吸に合わせて上下している。しゃがんでいる姿勢が負担になるのか、内腿が少しぷるぷる震え、その揺れがまだ発展過程の乳房とその先端を振動させていた。

 少年に見つめられ、先ほどまでのものとは異なる羞恥の熱が少女達の体温を高めていく。じっとりと背中に浮いた汗の玉が流れ落ち、むき出しのお尻を通って地面にぽたりと落ちた。

「あの、もういいですか?」
「もう出しちゃっていい?」

 朝顔と華恋が問いかけると、少年は黙って頷いた。ほっとして少女達は下腹部に籠められていた力を緩める。最初、股間部からぽたぽたと滴になって落ち始めた水流は、やがて勢いを増して地面に勢い良く当たり、じょろじょろと小さくはない音を放ち出した。同時に、周囲に土とアンモニア臭の混じった独特の臭いが立ち上り始める。
 その音と臭いに、まだ陽も有る屋外で裸で並んで放尿しているという非現実的な状況を再認識し、少女達の顔が耳までさあっと赤くなる。

「やだ……音大きいよ」
「こんなに勢い良く出すつもりないのに」
「な、なんか……恥ずかしいね……」

 自分の放出する水流への羞恥の気持ちが思わず口をついて出る。そんな少女たちの思いを余所に、その勢いはますます量と勢いを増し、閑静な敷地の外れに場違いな音を立て続けた。それは掘り起こされた土の凹凸に沿い、5つの流れとなって花壇の端へ滔々と流れていった。



 じょろろろ……という水の音も、やがて木々の中に染み込んで行くように静けさの内に飲み込まれていく。全員が放尿を終え、ぽたりぽたりと落ちていた残滓が切れてからも、少女達は立ち上がるタイミングを逸して戸惑ったような顔をしていた。

『……ん、お疲れさま』

 少年が「よっ」と腰を上げると、5人の少女達も脚を閉じて立ち上がった。今更ながら恥ずかしさに胸とまだ汚れたままの股間に手を当て、所在なさげな頼りない顔付きで立ち尽くす。ちょうど吹いた西風に少女達はぶるっと体を震わせた。それを見て少年がかすかに笑いを浮かべる。

『早いとこシャワーを浴びて着替えた方がいいね』
「プールって解放されてましたっけ?」
『屋外プールは西側のフェンスの閂に鍵がかかってなかった筈だよ』
「なら、大丈夫ですね。行きましょう」

 少年と朝顔達はプールに向かって移動を開始した。猫車は来た時と同じく茉希が押していく。違うのは、少女達が誰一人衣服を身につけておらず、汚れた運動靴と靴下のみの倒錯的な格好で歩いているというところだけだ。

「あー疲れたー」
「もう泥々だよー。髪も砂っぽいし」
「早くシャワー浴びたいね」

 口々にお喋りしながらプールへの石畳を歩いていく一団。西日に白い肌が映える。前から見れば彼女たちの胸の膨らみが歩調に合わせて上下し、股間の茂みが半ば汗で肌に張り付いているのが見えている。後ろからなら、風にそよぐ髪と揺れる小さなお尻、そしてその下の太股の間の隙間にまたも薄い茂みがちらっと覗いているのを見て取れた。

 プールの西側に到着し少年がフェンスの門を確認すると、確かに棒状の閂は穴に刺さっているだけで錠前が付いていなかった。

『やっぱり開いてるね』
「じゃ、開けちゃいます」

 華恋がフェンスの隙間から手を突っ込んで閂を外し、屋外プールの入り口を引いて開ける。猫車と衣類はそこに置いたまま、少女達は靴と靴下を脱いで全裸でプールサイドへと入っていった。

「誰もいないね」
「せっかくだから泳いでいく?」
「それはまずいでしょ。それより、シャワーは使えるのかな?」
「うん……あ、出た!」

 壁際のシャワーの下に行き、バルブを開に回すと勢い良く水が出始めた。少女達が歓声をあげる。

「きゃぁーっ!」
「冷たーい!」

 シャワーは冷水だったが、火照った体には丁度いい刺激である。健康的な若い少女の肌に水滴が弾かれ、宙に飛び散った。
 肩から腕、指の間、爪の先まで手のひらを使って土汚れを落とす。また、たくさん汗をかいた喉の下から胸の谷間、乳房や脇の下、お腹と臍、そして太腿、膝の後ろ、ふくらはぎに足の指先まで水流の流れに沿って洗い流した。背中側の手の届かないところはお互いに手で洗い合い、髪の長い真利亜や華恋には進んで茉希や文紀が一緒になって間に入った砂を落としてやった。そして、ついでに放尿してから洗えていなかった股間部や内腿の汚れも指先を使って綺麗にする。いつの間にか砂がお尻の谷間にも入り込んでざらついていたので、そこやお尻の穴の周りも綺麗に洗い流した。

「ふぅ……さっぱりしました」

 朝顔が片目でバルブをキュッキュッと回して自分のシャワーを止める。軽く髪や手足の水を払うと裸のままプールサイドから先ほどの門のところまでぺたぺたと歩いていき、手を伸ばして用意しておいたタオルを取った。

「あ、私のも取ってー」
「いいよー」

 ついでなので朝顔は全員分のタオルを持っていくことにした。

 シャワーを終え、体をタオルで拭いて髪を乾かし、持ってきていた制服を身につけると、もはや外は薄暗く宵の口となっていた。最後に靴下と靴を履いてプールの門を元通りにすると、少女達は猫車を押してまっすぐ校舎へと歩き出す。土を落とし、水浴びして潤いを取り戻した肌に当たる夕暮れの風が心地よい。華恋と朝顔は道すがら今後の事を話し合った。

「後はどうするの?」
「うん。1週間位したら小屋から堆肥を出して、今日作った土と混ぜておくんです。そうしたらお花を植えても大丈夫」
「花はどうするの?」
「もう注文してあるから、それまでに花壇を用意しないと」
「大変なのね、花の世話って」
「ふふ。だって、生き物ですから」

 微笑みを浮かべながら朝顔は自分達の花壇の方向を振り返る。そして、そこに白い人影を見てドキリとした。

「あ……」
「え? どうしたの?」

 華恋は朝顔の視線の方向へと自分も顔を向ける。薄闇のなか目を凝らし、おかしな物が無いか見極めようとする。

「……何があったの?」
「ううん、たぶん見間違い」

 朝顔は首を振った。一瞬花壇のところに誰か居たように見えたが、気のせいだったのかもしれない。茶化すように華恋は笑いながら言った。

「もしかして、イチタロウさんだったんじゃない?」
「やだ、幽霊なんていないですよ」
「さあ、どうかな〜? 噂じゃ今くらいの時間でしょ?」

 丁度そのとき、星漣学園の中心部にある時計塔が下校時間を知らせる鐘を鳴らした。猫車と一緒にだいぶ前に行っていた茉希達が「お〜い、早くしないと置いてっちゃうぞ〜」と声をかける。朝顔と華恋は顔を見合わせ、小走りでそれに追いついた。

「遅いよ」
「ごめん、ちょっとイチタロウさんの話をしていたの」
「イチタロウって、幽霊の?」
「うん、そう」
「あれってホントなのかな……」

 受付の事務員の元へ道具を返しに行くまで、少女達は学園内で噂の白い少年の霊の話題で盛り上がった。その話の中に、先ほどまで自分達が一緒だった見知らぬ少年の話題は出てこなかった。何故なら、そんな少年が居た事も、そして自分達がどんな格好で作業をしていたかの記憶も、少女達の頭の中からすっぽりと消え失せてしまっていたからであった。





4.


 織園美穂(おりぞのみほ)は1年柚組の図書委員である。図書委員の主な仕事場はもちろん星漣女学園図書館であるが、全学年の図書委員が毎日毎日そこに詰めている訳ではない。委員会のある日を除き、委員の中から2名ずつが図書や物件の貸し出し、整理、その他の業務のために当番制で放課後に置かれていた。

 その日、美穂の相方は3年の弓岡天奈(ゆみおかあまな)であり、2人は静かな図書館の雰囲気を壊さぬよう小さな声でやり取りしながら処々の業務を片づけていた。

 美穂は委員会内においてはただのヒラ1年生であり、それに対して天奈は備品係として図書委員会の管理するおよそ700件の図書以外の貸出物件とその10分の1程度の非貸出物件を管理する立場にある。そのため天奈の業務はいつでも多忙で猫の手を借りたいほどであり、当然のように相方の美穂はそれを手伝った。

 陽が傾き、図書館の閉館時間が近づくころになってようやく仕事に目処が付く。天奈は美穂の協力を労い、2人して控え室の図書館の出入り口が見えるところにいったん引いて遅いティータイムとした。新しい養護教諭が物珍しそうな顔で図書館のガラス戸を開けたのは、そんな時であった。

「こんにちは」

 スラリとしたその養護教諭は、タレ目がちの眼を細めてにっこりと挨拶した。ウェーブのかかった髪を背中に垂らし、薄い桃色のワンピースを着ている。その上にちょっと大きめの白衣を袖をまくって羽織っていた。化粧は薄めだが十分美人の域にあり、目元にある泣きボクロが雰囲気を作る手助けをしていた。

 天奈と美穂は控え室から出てきてそろって「こんにちは」と頭を下げる。そしてこの女性が2週間前に何と紹介されていたが、思いだそうとする。それが顔に出ていたのか、養護教諭は笑いながら自己紹介した。

「羽ヶ崎。羽ヶ崎葉子(はねがさきようこ)です。見ての通り昨日から保健の先生をやってます」
「3年の弓岡天奈です。図書委員です」
「1年の織園美穂です。私も図書委員です」

 3人でそろって「よろしくお願いします」と礼をした。

「羽ヶ崎先生は今日はどうして図書館に?」

 葉子に椅子を勧め、座ったところで天奈が質問した。美穂は先ほどのお茶の片付けのため控え室に引っ込む。

「ええ。まだ来てすぐで不案内だから、建物を見て回ってたのよ。ここ、本当に大きいわね」

 葉子は心底感心したという感じで図書館の高い天井を見上げた。天奈もそれに同意の相槌を打つ。

 説明によれば、昼間はさすがに保健室を長く空ける訳にもいかないし、前任者が退職してからの空白の時間で溜まった業務処理でずっと籠もりっぱなしだったらしい。だからこんな時間になって校内見学をしているのだ。その話を傍耳で聞いていた美穂が奥の部屋から首だけ出して口を挟む。

「保健室って、校舎の1番奥のところですよね?」
「そうよ?」
「あそこ、ちょっと寂しく無いですか?」
「ん……まあ、そうかしら?」

 葉子は一瞬視線を宙に浮かばせ、そしてはたと何かに思い当たった顔付をした。

「ああ、あの噂のこと?」
「もうお聞き及びでしたか?」
「さすがに現場の真っ正面だと、いろいろ入ってくるから……」

 天奈の驚きに葉子は肩をすくめた。

 噂とは、もちろん「トイレのイチタロウ」の事である。最近校内をうろつく白い少年の人影。目撃証言は後を絶たず、失神してしまった生徒もいる。そのイチタロウの最初の目撃場所が、どうやら保健室前の職員用トイレであるらしいのだ。

「先生方の間でも話題になっているんですか?」
「そうね、結構話に出てるみたい。これだけ生徒達が騒いでいるんですもの」

 まだ、大きな問題にはなってはいない。何しろ相手が幽霊だ、つかみ所の無い話に対して現実的な対応策が取れる筈がない。
 だが、いろいろな部活や同好会が放課後の活動を自主的に切り上げる等、少しずつ影響は出始めている。秋が深まれば陽が落ちる時間はだんだん早くなるし、星漣祭が近付けば準備のために活動の延長をせざるを得ないところが出てくるだろう。あまり長く騒ぎが続くなら根本的な対策が必要になるかもしれない。それがどんな物になるかはひとまず置いておくとして。

 噂についてのお喋りが一段落付き、葉子は思い出したように話題を変えた。

「そうそう。そう言えばこの図書館の部屋ってあなた達に言えば使う事ができるんでしょ?」
「会議室の利用ですか? はい、予約することもできますよ」
「使い方を教えてくれるかしら?」
「わかりました」

 天奈は頷き、受付の後ろにある本立てから1冊のファイルを取ってきた。

 図書館の2階には、授業で使ったり、生徒達も使うことのできる様々な部屋が存在する。図書館に入ってすぐの階段を上り、その正面にあるのがパソコンルームだ。ブースで区切られた調べ物用のパソコンや、貸し出ししているDVD等を見るためのテレビ、ヘッドホンが設置してある机がある。つい最近も古くなってきた機材の更新のため、最新のテレビとレコーダーを4台ずつ導入していた。
 その隣は2部屋続いて視聴覚教室になっている。各机にマイク付きのヘッドセットと高価なAVシステムが入っていて、英語のリスニング教材を使用する授業などで活用されている。
 他にも部外の講師を呼ぶ時に使用する大講堂や、反対に少人数で何かやる際に便利な小会議室など、多種多様な要求に応えられるようになっている。
 それらの教室は図書館にあるため、管理は図書委員会が行うことになっていた。先ほど天奈が持ってきたファイルには各教室毎に使用時間と使用者を記録する為のもので、事前に申請しておけば予約することもできた。

「この小会議室は鍵がかかるの?」
「はい。事前に言ってもらえればホワイトボードやプロジェクターなんかも用意できますよ」
「へえ。何でもあるのね……」

 葉子が会議室を気にしているのは、前任からの引継の書面にここの事が記載されていたからだ。保健室には養護教諭を頼り、その方面の悩み事の相談に年頃の少女達が訪れることがある。保健室はその目的上常にオープンにしておかなければならないため、内密な相談毎にはあまり向かないのだ。
 校舎には生徒指導室が有るが、そこに呼び出すのは生徒の心情を考えると少し体面が悪い。そこで、前任の養護教諭は図書館の小会議室を使用していた。ここならちょっと本を探しに行く様なフリをして入っていってもおかしくないし、会議室内は片付けをする事を前提に飲食も可能となっている。生徒達にも好評だったらしい。そういう訳で、葉子もそれに倣おうという心づもりなのであった。

 天奈の説明を聞いていると、壁掛け時計がぽーんと間延びした時報を鳴らした。2人は言葉を止め、その時計を見上げる。もう下校時刻が近かった。

「あ、私戸締まりを確認してきます」

 いつの間にか戻ってきていた美穂がそう言って机から2階の部屋の鍵束を取り出した。部屋数が多いため重そうにじゃらりと音を立てる。

「うん、お願いね。今日は借りてるところは無かったけど、一応窓も確認してね」
「はい」

 美穂は頷くと、受付を離れて2階への階段を上っていった。それを見送ると、「さて」と葉子は椅子を立つ。

「そろそろ私も行こうかな」
「まだお仕事があるんですか?」
「ううん。今日はもうおしまい。どうして?」
「いえ……」

 葉子は天奈の視線が自分の白衣に向いていることに気が付き、肩をすくめた。

「これを着てれば、それなりに先生らしく見えるでしょう?」

 そう言って眼を細めて笑うと、葉子の印象は先生と言うより、それと反対の気心の知れたお姉さんというイメージになったのだった。




 図書館の2階はしんと静まり返っていた。もともと静謐を好む図書館という場所で、さらに人気も無い空き教室ばかりの階であるからそれは道理である。
 美穂は手前のパソコン室から順に中に残っている生徒がいないか確認していった。1つ1つのブースを覗いていき、窓のカーテンが開いていたらきっちりと閉める。ここに置いてあるパソコンは時間になったら自動でシャットダウンするからそれに関しては放っておいて良かった。一番後列まで確認し、きびすを返して入り口まで戻る。最後に電気を消し、扉を閉めて鍵をかけた。

(ここも……カーテン良し、整頓良し……鍵、良し)

 引き続き、どんどん同じように各教室の中を確認しては鍵をかけていく。天奈がさきほど言っていた通り今日は教室の利用者がいなかったから、閉館時間を告げて生徒を引き上げさせたりする必要もなくスムーズに進んでいった。

 2階の通路の端まで鍵をかけて回った美穂は、最後に非常口の戸締まりを確認した。……OK、全て問題なし。さて、と美穂はその非常口前の壁に眼を向ける。そこには、2つのスイッチが並んでいた。この2階通路の照明のスイッチである。
 実のところ、この図書館の造りはほとんどの点で素晴らしいと賞賛の言葉しか出てこないのだが、このスイッチの場所についてだけは図書委員の誰もが口を揃えて苦言を呈する。何しろ、2階通路の照明の入り切りはこのスイッチでしか出来ないのだ。だから、必然的に2階の電気を点ける時も、あるいは消した後も、暗闇の通路を行き来しなくてはならない。

(これ、絶対設計ミスだよね)

 美穂は心の中でぶつぶつと文句を言いながら、そのスイッチに手を伸ばす。スイッチに触れる瞬間、ふと先ほどの天奈と葉子の会話が頭によぎった。

(……トイレのイチタロウさん……だっけ)

 嫌な事を思い出してしまった。スイッチに触れた手がそのまま止まってしまう。だが、このまま電気を消さなければ帰ることは出来ないし、だからといって怪談話が怖いからと助っ人をお願いしたらそれこそ天奈に笑われてしまうかもしれない。5秒ほど美穂はそのスイッチを睨みつけ、そして心を決めてえいっとばかりに2つのスイッチを一遍に切った。

 周囲が一気に暗くなる。通路を照らすのは美穂の頭の上の非常口を知らせる白と緑の明かりと、ずっと先にある1階へ降りる階段から漏れる光のみとなった。各部屋もしっかり遮光カーテンを閉めたからドアの隙間から陽光が漏れることは無い。美穂は一息大きく吸うと、急ぎ足で元来た方へと歩いていった。

(次からライトを持って来ようかな)

 ナイスアイデアだった。せいぜい歩いて1分足らずのお化け屋敷にもならない暗闇だが、一人で見回らなければならない以上それは心強い味方となるだろう。何か見落としが有った時もそれで発見できるかもしれないし、是非とも採用すべきだ。美穂はそうやって自分の気を紛らわせる事を考えながら通路をほとんど走るように戻った。

 ごとん、と何処かの扉の向こうで音がしたのは、そんな時だった。ギクリと美穂は足を止め、反射的に後ろを振り向く。

(い、今の音は?)

 どきどきと心臓が早鐘のように鳴っている。何か物が倒れたり、落ちたりしたんだろうか。例えば、壁掛け時計がフックから外れたとか、視聴覚教室で使っているマイクが転げて落ちたとか。少なくとも、誰かが残っていたなんて事は無かったはずだ。

 何かあったのか、見に行くべきだろうか。その考えが頭に浮かび、とんでもないと美穂は首を振った。鍵はかけた。これ以上何をしろと? そこまで一ヒラ図書委員に要求されてたっけ?

(うん……きっと、気のせい)

 美穂は心の葛藤を積極的に消極的な結論に落ち着け、帰ることにした。くるりときびすを返して階段に戻ろうとする。その目の前に、白い人影があった。

「……びっ……くりしたぁ」

 後少し、その人影が美穂自身の心中を語ってくれるのが遅かったら、少女はそのまま意識を失ってしまっていたかもしれない。美穂は口から飛び出しそうになっている心臓をなだめつつ、「びっくりしましたよ」と辛うじて呟いた。

 人影は、先ほどまで天奈と談笑していた養護教諭の羽ヶ崎葉子であった。彼女は帰る前に一度会議室を確認しておこうと思って2階まで上ってきたのだという。「電気、点かないの?」と気味悪そうに辺りをうかがう葉子に美穂はこの図書館の設計ミスについて説明してやる。

「どうしますか? 鍵、開けます?」
「どうしよっかなぁ……」

 葉子は通路の暗さと、それと鍵を開けるために美穂の手を煩わせる事を気にして及び腰になっている。美穂としてもさっさと帰りたいのでそっちに大賛成だ。だが、そこに第3の声が入り込んだ。

『せっかくなんですから、開けてもらいましょう』

 美穂はあれっと思った。いつの間にか……いや、もしかしたら最初からいたのかもしれないが、葉子の後ろにはもう一人、少年が立っていたのだ。全く気が付かなかった。

「……そうね。じゃあ、せっかく閉めた後で悪いんだけど……」
『開けてもらえます?』
「わかりました」

 こんな時間に、少年と養護教諭が図書館の2階で何の用だろう、と普通なら思うのだろうが、不思議とこの時の美穂はその疑問を思いつかなかった。先ほどまであれほど美穂を悩ませていた恐怖心はいつの間にか鳴りを潜め、「保健の先生って大変だなぁ」と暢気な感想を抱いていた。





5.


 少年は小会議室ではなく、講堂を開けるように注文した。美穂が鍵を開けて3人が中に入ると、何故かそこは電気も点けていないのに明るく、そして少年と同じ雰囲気の男子生徒が十数人椅子について待っていた。

(あ……れ……?)

 今、私、鍵開けて入ったよね? と首を捻るが、その疑問も一緒に入った少年の声で中断した。

『じゃあ先生、お願いできますか?』
「はい、わかったわ。あ、そうだ織園さん」
「……あ、はい」
「あなたにも手伝ってもらっていいかしら?」

 美穂は周囲の少年たちを見回した。何か、期待するような視線を感じる。少しくすぐったくなって美穂は身を僅かによじった。

「……はい。何をするんですか?」
「補習が必要なんですって。保健のね。私が来るのが遅くなったから、その分取り返さないとね」
「保健の授業ですか」
「そう……今日は女性の身体のお勉強」

 そうなんだ、と美穂は納得した。横から最初の少年も口を出す。

『出来れば実際に見て勉強して、納得したいんだ』
「実際に……ってことは、私のを見たいって事ですか?」
「お願いできるかしら、織園さん」
『勉強なんだよ。助けてほしいな』

 女性の身体って事は、たぶん裸も見られるのだろう。それも、ここにいる同年代の十……何人かの少年達に。それはとてもじゃないが普通なら受け入れられる要求ではない。倫理的に問題があるし、何より美穂の羞恥心が許さない。だが、その少年の言葉には不思議な力があった。

『ほら、早くしないと終わらなくなっちゃう。まずは服を脱いで、女の子の身体の特徴を教えて』
「あ、はい……わかりました」

 少年に言われると、そうするのが当たり前のような気がしてきた。美穂は沢山の視線が見守る中、顔を赤らめながら制服を脱いだ。

「下着も……ですよね?」
『うん』

 美穂は小さくため息をつき、背中に手を回してブラのホックを外した。肩紐を外し、カップの部分が落ちると同年代の中では大きめの形の良い胸の膨らみがこぼれ出る。近くの少年が「へぇ」と感心したような声を出したので、美穂は恥ずかしさに身を縮めた。

「あ、隠さないで気を付けしてくれる? ちょっと説明するから」
「……はい」

 葉子はパンツ一枚の少女を直立させると、どこからか持ってきた指示棒で美穂の胸を指した。

「女の子は二次性徴が始まると、身体が変化して明らかに男の子と違う特徴を見せ始めるの。乳腺が発達して、胸が膨らんでくるのね」
『乳腺って言うと、赤ちゃんのおっぱいを作るところですよね』
「そうよ。良く勉強しているわね」
『じゃあ、織園さんもおっぱいが出るんですか?』

 少年の言葉はむしろ美穂に直接問いかけているようであった。思わず口を挟んでしまう。

「え、私、まだ出ません」
『そうなんだ』
「ふふ。発達すると言ってもまだ準備だけなの。実際に母乳が作られるようになるのは、赤ちゃんを産んでからよ」
『へえ〜』

 少年達は納得したようであった。美穂としては、彼らの視線がじろじろと自分の胸の膨らみやその先端部を突き刺すように降り注いでいて、身の縮まる思いで立ち尽くしていた。葉子はそんな美穂の葛藤に構わず先を続ける。

「ほ乳瓶の形を見て勘違いしやすいんだけど、母乳が出る乳口は乳頭……乳首の先に一個だけ有る訳じゃないの」
『えっ? 違うんですか?』
「そうなの。乳腺は汗をかくための汗腺から変化したものだから、乳首の辺りには母乳の出口がいくつもあるの。えっと、例えは悪いけど如雨露の先みたいな感じかな」
『なるほど……』

 少年の一人が納得して頷いたので、葉子はぐるりと他の者を見渡した。

「他に質問は無い? じゃあ、次ね。織園さん、下も脱いでくれる?」
「は、はい」

 来てしまったか、という思いであった。下着のサイドに指をかけ、数秒動きを止める。やがて美穂は目をつぶって周囲の視線を精神から遮り(だが、結果としては少年達が自分に注目する気配はますます強く感じられた)、えいやっと一気にそれを膝の辺りまで下ろした。今まで隠されていた部位に周囲の空気が触れ、すうっとそこが涼しくなった。目線を逸らしたまま片方ずつ足から下着を抜き、制服と一緒に机の上に置く。

「それじゃ、みんなに良く見えるように今度は足は肩幅で」
「はい」
「みんなは見える?」
『見えてますよ』
「はい、注目」

 少年達の視線は、指示棒の先にある美穂の股間部に集中した。

(うわ〜、見られてるんだ……)

 美穂は恥ずかしさのあまり、逆に他人事の様に思って自分の心を誤魔化した。

「二次性徴で起こるもう一つの外見的な変化は、この部分に発毛がある事です。ここを恥丘といって、この部分に生える毛を恥毛、あるいは陰毛と呼びます。これは男の子も一緒ね?」
『ですね』
「織園さんはこの年齢の娘では平均的な方かな。もちろん、個人差が有るからもっと濃い人もいれば、全く生えない人もいるの」
『先生はどうなんです?』
「私? 私は……大人ですから、もう少し濃いとだけ、言っておきます」
『ふーん』

 想像の中の葉子のそれと見比べようと言うのか、じろじろと美穂の股間部を見つめる視線が強くなる。よけいな質問しないで、と美穂は祈るような気持ちであった。
 その願いが通じたのか、それ以上は質問が続かず、授業は次に進むことになった。

「それじゃ、もう少し詳しく女の子の大事な部分を勉強しましょう」
『お願いします』
「織園さん、この机の上に座ってくれる?」
「は、はい」

 美穂は講堂の一番前にある演台の上に座らされた。そこだと丁度少年達の視線が美穂の膝と同じ高さになり、つまりその先には少女の秘部が存在することになる。

「足も台の上にあげて、左右に開いてみんなに見せてあげてくれる?」
「う……わかりました」
『手で膝の裏を持って開くようにすればいいよ』
「こう……ですか?」

 演台の上で美穂はM字開脚の姿勢をとった。しかも自分の手で膝を左右に開き、正面の少年達に見せつけるような格好である。美穂にとっては、自分の手が自由なら顔を覆ってしまいたくなるようなはしたない格好であった。

(ああああ……み、見られてる……これは勉強……勉強だから仕方ないの……見られても仕方ない……)

 美穂は頭の中で呪文のように葉子と少年の言葉を繰り返し、強引に理性と羞恥心を納得させた。いや、させようとした。そこに、少年が声をかけたのだ。

『具合が悪いの?』
「えっ!?」
『顔、真っ赤だよ』
「う、いぇ、あう、な、なんでもないですっ!」
『そう。大丈夫、君のおかげで凄く勉強になってるよ』
「はい」
『嬉しいよね? みんなの役に立つんだもの』
「え、そ、そうです……ね」

 少年に笑いかけられた気がしたので、美穂もなんとか口の端を曲げて笑って見せた。

(そうだよ……みんな喜んでくれてるんだもの。恥ずかしがってばっかりじゃ、勉強にならないもの)

 美穂は自分で自分にそう言い聞かせ、出来るだけ見やすいように手に力を籠めて一杯に脚を開いた。内腿の筋がぴんと張る感触がある。

「これでいいですか?」
『見やすくなった。ありがとう』
「はい」

 美穂は顔を赤らめたまま、再び笑顔を浮かべた。

「協力ありがとうね、織園さん。後で少し触るけど、もうちょっと我慢してね」
「はい、大丈夫です」

 葉子はその返事に安心させるように笑うと、授業を続ける。

「じゃあ、女の子の性器の、まずは外から見える部分、外性器の説明をするわね。さっき説明した恥丘の下の部分が左右に2つに割れているのが見える? ここが大陰唇。外性器の一番外側になっている部分」
『その他の部分はその内側にあるんですね』
「そうよ。でもそれを説明する前にもう少し紹介するところがあるわ。女性器の割れ目からまっすぐ下にあるここは何て言うのかしら?」
『肛門……ですね』
「正解。そして肛門と性器の間の部分を会陰と呼びます。覚えておいてね」
『試験に出ますか?』
「せっかく織園さんが協力してくれてるのに、適当に授業を受けたら失礼じゃない?」
『なるほど、しっかり覚えておきますよ』

 無数の視線がお尻の穴の皺の一本一本まで確認し、覚え込もうとしている気配がある。美穂はじっと身体を動かさないようにして羞恥に耐えた。

「じゃあ、続き。ちょっとゴメンね」
「はい……」

 葉子が股間部に手を伸ばしたので、美穂は思わず目を瞑ってしまった。ちょっとひんやりとした大人の手が美穂の大事なところを左右に割り開く感触がする。すうっと講堂の空気と、そして沢山の視線が体内に入り込んだ気がした。

「はい、見えるかな? 複雑な形をしているから一個一個説明するわね」
『ええ、お願いします』
「大陰唇より内側は口と一緒で、皮膚ではなくて粘膜で覆われた繊細で敏感なところになっているわ。まず、大陰唇の一つ内側に左右に広がっている襞のようなもの……これを小陰唇といいます」

 葉子は手で押さえる位置を変え、今説明した小陰唇の部分ごと左右に押し開くようにした。

「これで少し見やすくなった? どう?」
『ええ。真ん中に穴が開いているのが見えます』
「うん。じゃぁそこから説明するわ。今君が指摘した部分が膣口です。女の子の体の中……内性器につながる部分ね」
『そこから赤ちゃんが産まれてくるんですね』
「そうよ。……えっと、織園さんは男性経験は……」

 葉子の問いに、顔を真っ赤にして耐えていた美穂は黙って首をぶるぶると左右に振った。

「そうなんだ。良かった、なら、はっきりと処女膜も確認できるはずよ」
『この奥にあるのですか? 穴が開いてますけど』
「それが普通なの。穴がないと月経の時におりものが出ていかなくて、病気になっちゃうから……うん、織園さんのは綺麗に残ってるわね。スポーツをやってる娘は時々運動中に自然に破れちゃったりするの」

 葉子が少年達と一緒に覗き込むと、拡がった膣口の内部にそこを塞ぐような膜が見え、その中心よりやや下よりに半円形の穴が開いているのが見えた。

『へえ……じゃあ、初めての時に必ず血が出るって訳じゃないんですね』
「そうよ、人それぞれなの。何でもかんでも一緒くたにこうだって決めつけたらダメよ?」
『肝に銘じます』

 少年の真面目腐った態度に葉子はくすっと笑う。美穂も少しそれで和んだようで、ぎこちない微笑みを口元に浮かべていた。

「ふふ……じゃあ次ね。小陰唇で囲まれた範囲が船みたいな形になっているでしょ? この部分を膣前庭と呼びます。その一番前、船の舳先に小さい突起が有るのがわかる? これがクリトリス、男の子の陰茎にあたる部分」
『僕たちのと一緒って事は、そこも大きくなるんですよね?』
「その通りです。ここは神経が集中している部分で、女の子の性器の中でも特に敏感なところなの。そして、君のいった通り性的な刺激によって膨張します」
『へえー……』

 美穂は自分の股間をさらけ出した格好のまま、心の中でほっと胸をなで下ろした。話の流れ的にこのままそこが大きくなる様子を観察しよう、なんて方面に行くのではないかと冷や冷やしていたからだ。養護教諭と少年達はそこにそれほど拘らず、先に進んだ。

「さてと、今説明したクリトリスと膣口の間に、もう1つとても小さな穴が開いているの。ちょっと見つけてみようか」
『えっと……どこですか?』
「見あたらない? もう少し近くで良く観察して」
『……あ、有りました』
「うん、OK。それが女の子がおしっこするところ……尿道口よ」
『ここからするんですか』

 よほど接近していたのか、少年の息が敏感な粘膜に吹き付けられて、美穂は思わず「ひゃっ」と小さな声をあげた。ぞわぞわと背中に寒気が走り、二の腕に鳥肌が立った。

『あ、ごめん』
「寒かったかしら?」
「いえ、ちょっとくすぐったかっただけです」

 脚を開く手にぐっと力を入れ直し、姿勢を戻しながら美穂は答えた。

(勉強のためだもん……我慢、がまん)

 葉子はそんな健気に頑張る美穂に微笑みかけ、小声で「あとちょっとだから」と励ました。小さく頷く美穂。

「……外性器についての説明はこれで終わり。ここまでで何か質問は有る?」
『……』

 少年達は黙って何か考え事をしているようだった。葉子は美穂に「お疲れさま」と言うと、秘部を開いていた手を離し、そして両足を机の上から下ろしてやった。窮屈に身体が折り曲げられていた姿勢から解放され、美穂はようやく大きな息をつく。

「このままで少し待っててね」
「はい」

 足が真っ直ぐに下ろされたため、今の美穂は裸で演台の上に座って膝を左右に開き、手を後ろに付いた姿勢になっている。お尻の穴が見えなくなったとは言え、股間が視線に晒されている事には変わりがなかった。少し眉根を寄せ、ばつの悪そうな顔付きで待ち続ける。

「質問、無いかしら」
『あ、いいですか?』
「どうぞ」

 葉子が再度問いかけると、少年達の一人から反応が有った。

『女の人って、1日にどれくらいの男性と性交出来るんですかね?』
「おっと、これは予想外な質問ね」

 葉子は意表を突かれたという様子で笑って言った。

「それこそ、人それぞれとしか言えないわ。相手にもよるでしょう?」
『じゃあ仮に、織園さんが何十人もの男性と24時間ずっとセックスし続けるとしたら?』

 「えっ」と美穂は顔を上げた。何て想定を出すのだ、この少年は。そもそも、男性経験の無い美穂を題材とする時点で現実味が無い。しかし、葉子は仕方ないと息をついて真面目な解答を模索し始めた。

「1回の性交は、ペニスの挿入から射精までの間でいいわね?」
『そうですね。そうなると、その時間を決めないといけませんね』
「そうねぇ……平均的な射精までの時間はどうしようかしら……」
『僕なら、1時間に7回までならOKですよ』
「あらあら」

 葉子は呆れたように呟いた。美穂は内心首を傾げる。1時間に7回は、平均的な男の子としてはどうなんだろう?

「じゃあ、それでいきましょう。1時間に7回なら24時間で……168回。これが答えね」
『ちなみに、織園さんの受ける精液はどれくらいです?』
「男性の平均射精量は約3mlだから、3×168で……504mlね」
『なるほど』

 少年は美穂に向かって笑いかける。少女の内でドキリと1つ胸が鳴った。

『だってさ?』
「え? あ、はい」
『僕と同じくらいの人が沢山いれば、1日でペットボトルが溢れるくらい出されるんだって』
「……そうなんだ」

 ぞわぞわと体の中心線に沿って震えが走る。それは先程の体表に散って鳥肌を立たせたものとは違い、内側に押し込められて下腹部の辺りに熱の澱を残した。
 「理論値だけどね」と隣で言う葉子の声も意識の上を滑っていく。美穂の脳裏には同じ年頃の少年たちが何十人も自分を取り囲み、組伏せて、延々とひたすらに少女の中に欲望を解き放っていく想像の光景がこびり付いていた。全身が白濁にまみれ、秘部にぽっかりと空きっぱなしの穴からそれこそペットボトルからこぼれるように白い粘液が溢れていく。知らずに少女は唾を飲み込んだ。

「他に質問は?」

 葉子の声に、美穂は目を瞬かせた。夢から覚めたような気がした。

『……これくらいでいいと思います』
「そう? じゃ、次は内性器についてなんだけど……これは流石に実際に見る訳にはいかないから、絵で我慢してもらえるかしら?」

 授業は次のステップに進んだようだった。美穂は座り直そうと腰を動かし、そしてお尻の下の濡れた感覚に愕然とした。

(うそ……私、見られて……)

 かーっと顔が火照った。思わず膝を閉じて手でそこを覆い隠したくなる。しかし、下手に動くと葉子達に感付かれてしまうかもしれないし、そして何故か美穂の膝も何かに固定されたかの様に動こうとしなかった。美穂は息すら潜めて体を動かさず、ひたすら気付かれないことを祈った。

 少年の方は美穂の様子を知ってか知らずか、元の明るい調子のまま『ちょっと待ってください』とごそごそと何かやっている。

『これを使いましょう』

 少年が見せたのはペンライトの様なものだった。

「それをどうするの?」
『これは透視カメラです。【見たいものを透視して周りの人に見せることが出来る】特別なカメラなんですよ』

 そんなものがあるんだ、と美穂は素直に納得した。そして一瞬後に、その意味に気が付く。

(え、もしかしてそれで私のお腹の中まで見ちゃうの!?)

 美穂は慌てたが、葉子の方は「いいものを持ってるわね」と感心した様子で、すっかり乗り気のようであった。

『じゃあ、これでお願いできますか?』
「もちろん。織園さん、またお願いできるかしら?」
「うう……わかりました」

 渋々と美穂は頷く。「ありがとう」と葉子の笑い顔に、ぎこちなく笑顔を返した。

『じゃ、照らすね』

 少年がそのカメラのライトを点けて美穂の下腹部に向ける。少女の白いお腹がぽうっと暗がりの中に浮かび上がった。続けて少年はペンライトの真ん中の辺りを捻るような仕草をした。

『ほら、見えてきた』
「うわ……」

 少年の言葉通り、白いお腹の皮膚がすうっと薄まり、その下にある筋肉すら透けて内部が露わになり始めた。

(……教科書の絵のまんまだ……)

 不思議な事に、本来近くにあるはずの膀胱や腸などの臓器は見えてこなかった。今は女性器の授業だから、見たいものだけを透視して見せているという事なのかもしれない。美穂の目は自分の体の内部の姿に吸い寄せられ、視線を外すことが出来なくなっていた。

「じゃあ、続きね。」
『はい』

 頃合いと見て葉子が解説を始めた。

「今織園さんのお臍の下辺りに見えているのが、女性の内性器です。一番下にある筒のような物が膣、さっき見た膣口と、この次に説明する子宮をつなぐところね。長さは一般的には7、8センチくらいかな」
『ちょうど僕の人指し指くらいですね』
「そうね。次、膣の上にある鶏の玉子くらいの扁平な形のものが子宮。赤ちゃんはここで出産までの間、大事に育てられるのよ」
『ずいぶんちっちゃいんですね』
「うん、妊娠して赤ちゃんが成長するとそれに合わせてどんどん膨らむんだけど、最初はこれくらいなのよ」
『へえー……』

 葉子と少年の会話を美穂はくすぐったそうに聞いていた。いや、実際になんだか自分のお腹の中の部分を丁寧に撫でられるような気配がある。みんなの視線を感じているとでも言うのだろうか……?

「じゃあ続きね。子宮の上の方から左右に細く延びている対の器官、これが卵管。赤ちゃんの大元である卵子はここを子宮に向かって運ばれていく間に精子と遭遇し、受精するの」
『つまり、ここで新しい命が生まれるんですね』
「そうよ」

 ライトの光が子宮から卵管をなぞってつうっと移動していく。その先端の膨らんだ部分まで達したとき、そこにウズラの卵を一回り小さくしたような丸い臓器を見つけた。

「それが卵巣。卵子を作る、ある意味女性にとって最も大切な場所よ」
『そうなんですか』
「卵巣は左右に1つずつ有って、だいたい1ヶ月置きに交互に卵子を放出するの。これを排卵といって、この時期に男性と性交して卵子と精子が巡り会えば、妊娠……赤ちゃんを授かる事ができるわ」
『なるほどねぇ』

 少年はその辺りの事象については余り興味が無さそうだった。美保としても妊娠とか出産とか言われたところで実感がわかない。むしろ年頃の少女としてはさらっと流されたその前の段階の方が遙かに興味の有るところであった。

「さて、内性器に関してはこれくらい。後、質問とかまだ何かあるかしら?」
『そうですね……』

 ようやく補習授業は終わりに近づいた様だった。美保は心の中でほっと胸を撫で下ろし、後少しだからと気を入れ直して今まで通り膝を開いたままの姿勢を崩さないようにした。
 少年は手の中の透視カメラをしばらく弄んでいたが、ふと思いついた様に頷き、口元に笑みを浮かべた。

『最後にちょっと総復習させてもらっていいですか?』
「? どうしたいの?」
『この透視カメラを使って、織園さんの膣口側から観察したいと思います』
「膣の内側を見たいってこと?」
『もちろん、その先もですよ』
「う〜ん……」

 葉子は思案顔であったが、先に少年は美保に向かって微笑み、『大丈夫だよね?』と確認した。

「はい、私は平気です」
「……じゃあ、申し訳ないけどもう少しだけお願いね」
「いいですよ。勉強のお手伝いが出来れば私も嬉しいですから」
『ありがとう、織園さん』

 美保は少年に笑顔を返した。彼らの勉強に協力出来ることが、心の底から嬉しいと感じられるようになっていた。

 先程と同じように美保が演台の上でM字開脚の姿勢を取り、葉子がその股間部を割り開く。少年がカメラを近づけると、その場にいる全員に少女の秘所の様子が拡大されて見えた。

「ああ、これなら尿道口もよく見えるわね」
『ええ。じゃあ奥に進みます』

 流石に透視カメラだった。映像は美穂の処女膜をなんなく潜り抜け、濡れた膣内を奥へ奥へと進む。やがて正面に中央の窪んだ丸い肉厚の円盤が見えてきた。

「それが子宮口。子宮と膣の境目よ」
『この中が子宮なんですね』

 美穂は自分の心臓がばくばくと乱暴に鼓動している事に戸惑っていた。見えている膣壁と子宮口は呼吸に合わせて収縮を繰り返している。自分の大切な場所を他人に、それも同年代の複数の異性に興味本位で覗かれているという状況に恐怖と、そしてそれを押し流すほどの圧倒的な愉悦を感じていた。

(その中……私の赤ちゃんの場所……見ちゃうの?)

 じんじんとその場所から痺れや痒みに似た感触が脳まで上ってくる。美穂は足の指先をきゅっと折り曲げてその感覚に耐えようとした。視界の中の濡れた子宮口はどんどんと接近し、まるで飲み込むようにその中央の窪みが広がっていく。

『……入りましたね』

 一瞬、視界が白く飛びかけた。それは間違いなく快感だった。頭がぐらぐらして思考が細切れになっていく。ぎゅっと膝の後ろに置いた手に力を入れる。

 透視カメラの視線は美穂の子宮の中に潜り込んでいた。上端の肉壁と、その横に小さくぽつりと穴が開いているのが見える。あそこが、右か左かどちらかの卵管に繋がっているのだろう。ぼんやりと美穂は、これ以上進んだら私どうなっちゃうのかな、と人事のような思いを抱いた。

「まだ先まで見たいの?」
『だって、まだ奥が有りますからね』

 遠くの方で葉子の声がする。それに答える少年の声は心底楽しそうだ。カメラの映像がぐんぐんと壁の穴に近づき、そして一瞬暗くなった。視界がとても狭くなったのだ。

『卵管に入りました』

 再び、美穂の意識が飛んだ。今度は体がびくっと震えた。

(あああ……)

 既に思考の中でも呂律が回らず、意味のない叫びしか浮かんでこない。意識に有るのはどこまでも美穂の大事な場所を暴き続ける映像と、その視線のもたらす愛撫のような感触だけだ。

 徐々に周囲の壁が広がってきた。とうとう、卵管の端に近づいたのだろう。行く手に大きく広がった暗闇。そして、中空に浮いた、白い玉子のような丸い物体。

(わたしの……たまご……みられちゃった……)

 『へぇ』と感心した声と共に、その表面をつるりと視線が撫でる気配。『かわいいね』と少年の誉める声。美穂の意識は声にならない叫びと共に一気に頭上へと上り詰め、その直後、そのまま真っ暗な闇の底へとすとんと落ち込んでいった。どこまでも、どこまでも……。





 弓岡天奈がいつまでも戻ってこない相方を心配し、ライトを持って2階に捜索に向かったのは、閉館時間を30分も過ぎた頃だった。そこで天奈は講堂の1つの扉の前で倒れている織園美穂と、その傍らで少女を介抱する羽ヶ崎葉子の姿を発見する事になる。

 葉子の説明によると、図書館の帰り際にふと2階の会議室を見ておこうと引き返し、階段を上った所で美穂の姿を見かけたらしい。しかし、暗かったために美穂は葉子を誰かと勘違いしたのか、極度に驚いた彼女は後ろに逃げようとして転び、意識を失ってしまったのだという。

「今見たところ、頭も打ってないし呼吸も安定してるからたぶんビックリしたところに転んだショックで気を失っただけだと思うわ」

 流石に養護教諭なだけあって落ち着いた判断だった。ただ、その表情はばつが悪そうに曇っていたが。

 その言葉を裏付ける様に、美穂はそれからすぐに目を覚ました。葉子と天奈はひとまずほっと胸を撫で下ろす。
 しかし、美穂が気を失う直前に見たものの話を聞き、その表情は再び青ざめる事となった。

 美穂は、葉子を見て驚いたのではなかった。もちろん驚いて一回は逃げようとしたが、少女が真に驚愕したのはその後だった。
 後ろを振り向いた少女の視線の先、講堂の窓の中に……机についた何人もの白い人影が見えたのだという。そして、そのうちの一番近い一人は、美穂の方に顔を向け、にやりと笑いを浮かべたらしい。
 その話の後、3人は血の気の引いた顔を見合わせ、そそくさと逃げるように、いや本気でその場を逃げ出した。後数秒もこの場所にいられる勇気は持ち合わせていなかった。

 翌日、この話は多少の脚色を付けられながら瞬く間に校内に広がっていった。かくして、トイレのイチタロウさんは遂に「星漣のイチタロウさん達」と、複数系に超進化を果たしたのであった。

 どこまでも広がっていくイチタロウフィーバーに星漣怪奇倶楽部が頭を抱えていたのはこの頃である。そして、その裏で糸を引き、密かにほくそ笑んでいる黒猫1匹がいる事に、誰も気が付く筈もなかった。

 
 


 

 

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