BLACK DESIRE


 

 



0.


「おお〜、晴れたなぁ……!」

 屋内プールの外にあるテラスから空を見上げ、僕は感嘆の声をあげた。紺碧の天井には端に僅かに白い霞が残る程度で、雲らしい雲は1つも無い。
 初夏の爽やかな風が陽にあぶられた新緑の匂いを運んでくる。

 星漣には金のかかっていそうな様々な施設が多数存在するが、それと同等に緑に覆われた場所も沢山ある。
 中でも屋内プールと屋外プールが存在するこの辺りは特に緑が濃く、高台の上に作られた50mの屋外プールだけでなく隣接する25mプールを納めた2階建てのプール施設も、それらの作るスポットの中にすっぽりと収まってしまっていた。

 そのおかげで、今僕がいるテラスからでも見ることができるのは運動部棟の4階や時計塔などの背の高い建物だけだ。たぶん、そこから双眼鏡で覗いたりしない限り両方のプールの様子を外から見ることはできないのだろう。
 僕にとって非常に都合のいい条件だ。

「さて、と……早速だけど説明に入ろうか」

 ひとしきり朝の空気を堪能した僕はそう言いながら振り返る。

「いいよー。いつでも準備OKだから」

 そこにいるのは清純を絵に描いたような星漣の純白の夏服を身にまとう黒髪の少女だ。
 きちんと切りそろえられた前髪、細く整った眉、切れ長の目、小さな口。体つきは若干小柄ながら年齢相応に発達し、生地を内から押し上げてそのやわらかさを主張し始めている。

 誰が見ても清楚可憐純情乙女の判を押したくなるような見事なお嬢様ルックス。この外見からその小さな身体の奥に秘められた歪んだ願望を誰が見抜けようか。

 星漣学園3年柚組、哉潟三繰。今日の作戦の発案者であり主犯でああり、メインゲストでもある少女だ。

 僕は制服のポケットからメモ用紙を取り出して三繰に作戦の内容を説明する。

「僕には人の認識を操る力がある。知ってるよね?」
「ナナちゃんからも聞いたよ。それで、今日はプールに来るコ達みんなに力を使ってくれるんでしょ?」
「そう。三繰さんを中継してね」

 結局、僕は今日の作戦で第5能力のコアに三繰を使うことにした。理由はあの日以来七魅が僕を警戒してしまったからと、三繰があっさりと乗り気になってくれたからだ。

 本当は七魅以外の者に力の事を言うつもりはなかったのだが、成り行き上仕方なく受容(アクセプタンス)契約を三繰としてしまった。七魅にその気がない以上、三繰に協力を頼むしかない。そして円滑に事を進めるには本人にも内容を把握してもらうのが一番だ。

 そういう訳で僕は早々に三繰に能力の事を打ち明け、事前準備のために今日は少し早めに舞台となる屋内プールに来てもらったのだ。
 ちなみに七魅も一緒には来たのだが、着いた早々に準備をすると言い残してこの場から消えてしまった。相当警戒されてるな、僕。

「それでね、本来プールを学生が使用する時は監視員が必要なんだ」
「監視員? 生徒でもいいの?」
「本当は駄目なんだけど、まあ先生がいないからね。今日は僕が『監視員』をやるよ」
「達巳クン、遊ばないの?」
「遊ぶよ、みんなの様子を見ながらね」

 三繰に今日の予定を話しながら言葉の中にキーワードを滑り込ませていく。三繰に伝えて納得させた内容は全て、今日、ここに来る参加者達の共通認識となる。ここでしっかりと下準備をしておかないとね。

 ブラックデザイア第5の発動ステージ。能力名『領域支配(ドミネーション)』。
 この力が契約者をコアにした不特定多数への無差別支配能力だという事は以前説明したが、この能力にはいくつかの制限がある。いきなり誰でも好きなようにコントロールできるわけではない。

 まず、ドミネーションが発動するのは特定の領域内だけだ。こちらの指定した場所に立ち入った人間、そしてこれから入ろうとする人間に対しトラップのように相手の認識に異常を起こすことができるのだ。
 その領域の規模はコアにする契約者によって変わってくる。領域内であれば例え僕の認識範囲外であってもコントロールは持続し、能力を解除するか領域から外に出るまで途切れることはない。

 そして非常に便利なのが、上の立場の者からの一方通行だったインフェクションと違い、一度発動してしまえば情報はその場にいる全員で共有されるという点だ。インフェクションの時は新しい認識を書き込む時は源となる対象者にキーワードを聞かせる必要があったが、ドミネーションには必要ない。誰でも良いから書き込みを行えばそれで全員の共通認識となる。
 ただし、強力な効果の半面、制約もある。それは効果を及ぼすことのできる最大許容人数だ。

 今回初めて契約を行ってみてわかった事なのだが、ブラックデザイアに表示されるコントロール対象者の情報には隠しステータスがあったんだ。
 その内の1つが今回問題となる領域支配能力、『統制権(ドミナンス)』だ。ここに表示される数値はそのままドミネーションを発動する領域が許容する人数を表している。

 三繰の場合ドミナンスの値は23。つまり本人を含めて24人までは同時にコントロールすることが可能って事だ。今回の作戦で20人の女の子達を呼んだのも、これを元に余裕を残して決定したものなんだ。

 ちなみに、普通の人間でドミナンスの値は2〜5程度らしい。三繰はそれに比べてずいぶん強大な権力を持っているって事になる。さすが、有力商家のお嬢様は違うね。

「……で、それが終わったらみんなで着替えて今日は終了、って感じなんだけど」
「うん、いいね……すっごく、いい」

 何だかんだで説明が終わり、目を輝かせながら僕の計画にうなずく三繰。やれやれ、お姫様に気に入ってもらえたようで何より。
 僕は確認のつもりでポケットから鍵束を取り出して三繰にそれを見せてやる。

「これは何かな?」
「鍵? 屋内プールのかな」
「うん。なんで僕が持ってるんだろうね」

 正解は、七魅に合い鍵を借りたからだけど。

「達巳クンはプールの監視員でしょ? 持ってるのは当然じゃないの?」

 ビンゴ! ザッツライト!
 当然だと感じている理由が普通じゃない事に全く気が付いてない。書き込み成功だね。

「そうだね。僕は監視員だからプールの使用には全ての権限がある。だから、僕の指示にはちゃんと従ってね?」
「当たり前だよ」

 確かに、当たり前の事を言っている。しかし、先ほど三繰に説明したその従うべき内容は我ながら良く思いつくと思う様なとんでもない指示だったんだけどね。
 三繰は先ほどの内容を思い出したのか、少し頬を染めながら笑みを浮かべて言葉を続ける。

「ま、ちょっと恥ずかしい決まりもあるけど。みんなが気持ちよくプールを使うためだもんね、監視員さんの言う事にはちゃんと従うよ」
「三繰さんはどう思う?」
「うん、少し……いや。凄く、かな? 楽しみだよ」

 そう、顔を赤くしながらも言い切った。

 これだ。
 これが三繰の持つ歪んだ欲望、露出性癖。
 今日の一大作戦はこの願望を実現するために計画されたと言っても良い。その為に僕は2週間もの激務を耐え抜いたのだ。

 もちろん、それは僕の力だけで達成できるモノではなかった。七魅の作りあげた星漣の裏操作体制が有っての事だ。
 時に必要な道具を調達し、時に使う場所を人払いし、時に知りたい情報を入手して流してくれた。僕が1人でやるにはどれも困難極まりないやっかいな事柄ばかりだ。今日だって万が一この施設に規定人数以上の人間が入らないよう調整してくれている。

 色々としんどい目にも遭わされたが、その点には感謝しておくべきだろうな。協力者としてこれほど有能な人間はそうそういないだろうから。

 その七魅が偏愛(……だろうな、やっぱり)する姉の三繰。彼女が発したたった一言の露出願望。

 『プールでみんなと遊びたい』

 それが今日、ついに実現する。七魅の整えた舞台に、僕が能力を使った三繰が立つことによってたくさんの女の子達が操られて。自分が異常な行為をしているなんて夢にも思わず、素肌を晒して。
 僕の思い通りに、僕の決めた通りに、僕の望み通りに、ね。

「そろそろみんな来る頃だね」
「うん、そろそろかな」

 時計を見れば集合時間の15分前。
 さあさあ、女の子20人による大露出水泳大会、プール大作戦が始まるよ!




BLACK DESIRE


#6 プール大作戦!(後編)




1.


「おはようございます」
「おはようございます」

 時刻は8時52分。爽やかな朝の挨拶が屋内プール施設前の道路でこだましている。
 うーん、やっぱり朝は「おはようございます」だよなぁ。「ごきげんよう」なんて言ってるのは紫鶴だけじゃないのか?

「ごきげんよう、みなさん」
「ごっ、ごきげんよう、紫鶴さまっ!」

 おおう、噂をすれば影、ご本人の到着だ。一番端っこにいた女生徒を皮切りに次々と連鎖的に「おはようございます」が「ごきげんよう」に塗り替えられていく。それにいちいち律儀に紫鶴が返すものだからますます勢いが増していく。

 挨拶のすんだ者達は後ろの方に固まってなにやらキャーキャー言っている。こんなところはお嬢様学校でも変わらないんだな。対象が男か女かの違いはあるけどさ。

 紫鶴本人はそんな中涼しい顔で真っ直ぐに僕に向かって歩いてくる。もう、こんな反応には慣れっこなのかもしれない。

「ごきげんよう、郁太さん」
「……ごきげんよう、紫鶴さん」

 ちぃ、その微笑みは反則だよ。おはようを返そうとしたのに僕の口からは自然に例の言葉が出てきてしまっていた。恐るべし、元セイレン・シスター。

 さて、そんなこんなで時間は集合時間の1分前。現在集まった人数は19人、つまり後1人だ。来てない人間は……お恥ずかしい話だが参加者の中では僕にとって一番身内の人間だ。つまり、ハルね。
 あーもう、仮にも星漣のお嬢様の一員なんだから休日も猫を被っておけばいいのに。

「おーい、イクちゃーん!」

 あ、来た来た。時間には間に合ったな。
 この際、みんなの前でその馴れ馴れしい呼び方を使ったのはツケにしておいてやる。

「みんなごめん! お待たせ、イクちゃんおはよう! あ、紫鶴さまごきげんよう!」

 最後の方は軽く走ってプール前に駆け込んできた。そんなに距離は無かったはずなのに息を切らせているのは、その肩に掛かった大きな荷物のせいかもしれない。

「落ち着け、深呼吸しろ。いっぺんに言ってもみんな反応できないよ」
「はぁ、はぁ……すぅ……はぁ〜……うん、おはよイクちゃん」
「おはよう。その荷物は何?」

 僕はその巨大なバッグを指さしてたずねる。揺れ方を見るに大きいだけでなく、結構重量も有りそうだ。

「これ? これ、お弁当。イクちゃんと食べようと思って」
「食べ物は七……こっちで用意が有るって言ったよね?」
「いーじゃない。遊びに行くときはおべんと! ぐー!」

 親指を突き出すな。
 まあ、持ってきたものはしょうがないな。持って帰れとは言えないしな。

「……中身が潰れてたら食べない」
「あ、イクちゃんいけずー! いいじゃない、少しくらいー!」
「あの走り方で少しくらいって事は無いと思うよ」
「うぬぅ……」

 いつも通りハルを膨らませたところで、そろそろ本題に入ろうか。
 みんなに呼びかけて注目を集め、今日先生の監視員が来ていない事を告げて僕が代行をすることを伝える。

 そしてプール使用上の諸注意として先ほど三繰に告げた内容をもう一度読み上げた。まぁ、これはもうみんなにとってもう常識だから再確認でしかないんだけどね。

 最後にみんなに質問がないか聞いて全員が理解してる事を確認する。よし、問題なし。

「じゃ、行こう」

 僕の先導で女の子達がぞろぞろと移動を開始する。
 玄関で靴と靴下を脱いで素足になり、それを下駄箱にしまう。スノコの上を歩いていけばそこはすぐに更衣室だ。僕は監視員だから当然、プールの施設にはどこに入っても問題無い。みんなと一緒に扉をくぐった。

 女の子達はおしゃべりをしながら適当なロッカーを開け、自分の荷物をそこに置いてタオルなどを取り出す。
 だけど、貴重品などをポケットから出して扉に鍵をかけると、そのまま制服を脱がずに出した荷物だけ持ってプール入り口の方に進んでいく。ただし、全員持ってきた水着はロッカーの中に残したまま。これは僕の指示なんだ。

 今日は更衣室は使用できない事になっている。荷物を置く事はできるけどね。理由はここで着替えると使い終わった後に掃除するのが面倒くさいから。
 それと、せっかくなんでこんな狭い場所じゃなくてもっと広々としたところで気持ちよく着替えてもらおうと思って。

 そして、来週から水泳の授業が始まるから今日水着を使うと万が一の時替えが無いかもしれない。だから今日はみんなには(七魅に注文して用意してもらった)替えの水着を貸し出すって言っておいた。だからみんな水着を持って行かないんだ。

 僕はみんなが荷物をしまっている間に素早く制服を脱いで近くのロッカーに放りこんだ。下にはTシャツと海パンの上に短パンを履いている。完璧な監視員スタイルだ。みんなと一緒に着替える必要は無いので先に着替えといたんだよね。

 みんなが向かう先は階段を上って2階のプール……じゃない。こんなところで衣服を脱いだら湿っちゃうし、塩素の匂いがつくかもしれない。
 もっと着替えに最適の場所があるでしょう? 周りに何も無くて広々としていて、風通しも良く、そして身を隠すものが何も無いような絶好の場所が。

 プールサイドをみんな並んでぐるりと移動し、先頭の娘が西側のガラス扉を押し開ける。即座に外から涼しい風が吹き込んで少女達のスカートをはためかせた。その先にはタイル張りの床に長椅子が設置された広々とした屋外スペースが存在する。

 そう、さっき僕が三繰と今日の予定を話し合ったテラスだ。
 屋内プールは施設の2階部分東半分しか使っていないんだ。残りのスペースはこうやって解放された休憩場所になっている。
 ちなみに、この下にはウェイト器具の並んだトレーニング室と屋外プール用の更衣室が存在し、更にテラスの西端からは下り階段でそのまま屋外プールに繋がっている。プール開きが過ぎれば2面を行き来できるようになるんだね。

 女の子達は思い思いの場所に荷物を置くと、何事もないように白い制服を脱ぎ始めた。陽光の下、初夏の風に乙女の柔肌が晒される。おやおや、みんな無防備だねぇ。

「達巳クン♪ 水着、下さいな♪」

 僕が設置しておいた机の下から全員分の貸し出し用の水着の入った箱を引っ張り出していると、さっそく下着姿になった三繰がやってきた。さすが元祖露出癖持ち、いい脱ぎっぷりだ。

「ちょっと待ってね。すぐ準備するから」

 バッグからデジタルカメラを取り出してカバーを取り、試しにシャッターを押してみる。後ろの液晶画面にテラスのあちこちで服を脱ぐ少女達の光景が表示された。
 うん、動作良好、バッテリーも充電良し。

 この間写真部でミドリ達を相手にしてわかったことだが、露出による羞恥心は他人にただ見られるだけでなく、何かの媒体にその姿が保存されてしまう事でより一層刺激されるものらしい。
 せっかくの露出大会なんだ。今日はみんなにその快感をたっぷり味わってもらおうと思って僕は再度このカメラを七魅に借りていた。

 今回このカメラは証明写真撮影に使う。水着はあくまで貸し出すのだから使い終わったら必ず返却されるよう、身につけてきた下着の上下と交換になる。その際、確実にそれを証明できるようにするため下着を脱ぐところを撮影するってわけ。

「OK。じゃ、撮るね」
「はぁい、お願いします」

 ファインダーに少女の全身を捉え、シャッターを押す。後ろを向かせてもう一回。

 三繰が身につけている下着はスキャンティというのだろうか、股間部の布地の角度が浅く腰骨のかなり下の方しか覆わないタイプのものだ。彼女のものは特に小さいタイプのようで股間の茂みが隠れているのが不思議なくらい下腹部が露わになっている。もしかしたらはみ出ないよう処理してるのかもしれない。お尻側も上端の位置は変わらないから、背中のラインの延長、尾てい骨のすぐ下の窪みから始まるお尻の割れ目が少し顔を出していた。

 また、下着のフロント側には花をあしらったようなレース飾りがついている。おかげで肌色が透けるような薄手の生地にもかかわらず股間の様子はその後ろに隠れてしまっている。ま、後ろを向けばお尻のラインはうっすら見えてるんだけどね。

 ブラジャーの方もその構造は変わらず、要所は必要最低限のレースが隠しているためふくらみの先端の様子は見ることはできない。でも、大きくもなく小さくもない、形の良いお椀型の様子は生地の上からでも良くわかる。七魅よりちょっと大きいのかもしれないな。双子なのにこういうところも違うのか。

「じゃ、脱いでるところを撮るから」
「うん……はい、どうぞ♪」

 三繰は最初に指示しておいた通り、ブラジャーをたくし上げて胸を露わにし、下着を少し下ろして股間が見えるようにする。
 僕はカメラをマクロにして接近し、まずは色づいた頂点を持つ少女の2つのふくらみを生地が写る程度にアップで撮影した。続いてしゃがみ込んで茂みの奥のひだに焦点を合わせ、さらにシャッターを切る。

「あと、後ろからも撮るからパンツに指をかけた状態でお尻を突き出してくれる?」
「こう?……お尻の穴も、見えちゃってる?」
「ばっちり、写っちゃうよ」

 この間ミドリ達にもさせた姿勢だ。ただし、今日は陽光の下と言うことで光量が全然違う。逆光にさえ気をつければ中央のすぼまりの皺の様子までくっきりとメモリーに保存されることだろう。

 男にはおっぱい派とおしり派の2大派閥が有ると言うけど、僕の場合は触るなら胸、見るならお尻のハイブリッド派だ。まあだから、剥き出しのお尻を突き出して上半身を捻って胸のふくらみが横から見えているこのポーズは、僕のツボをついているわけなんだけど。

 そんな訳で僕は個人的趣味も手伝って数枚その姿勢での写真を撮り、証明写真撮影を終了した。ダンボールの中から三繰のタグの振られたパッケージングされた水着を取りだして手渡してやる。

「へぇ、なんかかわいいね」

 三繰に渡したのは紐で結ぶタイプのピンクのビキニ水着だ。僕が七海に指示して用意させたものだが、別に水に濡れたって透けたりしないし裏地もちゃんと付いているから形が丸わかりになったりもしない。彼女がどこからか調達した体型情報を元にしているので小さ過ぎたり大き過ぎたりもしないはずだ。怪しいところなんか全くない、凄く良心的で健全な水着でしょ?

「下着はここにとめればいいの?」
「うん、水着のネームタグを外してそれと一緒にね」
「りょーかい♪」

 下着を脱いで素っ裸になった三繰は僕の指示通り、後ろにかかっているクリップ付きハンガーを2つを選んでそこにブラジャーとパンツを広げてとめ、ネームタグを引っかけた。これで今日みんながどんな下着をつけてきたか全員にまるわかりってわけ。お嬢様20人の生ランジェリー展示会だね。
 あ、別に下着に悪戯しようとか考えているわけじゃない。ただ、女の子達の下着がずらりと並ぶ光景は胸の躍るものがあるからね、趣味で飾らさせてもらうよ。

 三繰が水着をつけるために下着かけを離れると、それがきっかけになったのか女の子達がどっと押し寄せてきた。はいはい、並んで並んで、水着も写真も逃げないからね〜。

 お嬢様学校ということで下着はおとなしめのものが多かったが、それでも結構冒険気味のをつけて来ている娘も数人いた。胸やお尻の大きさ、形やそれを構成するパーツも様々で1つといって似たものが無い。

 そうそう、ハルも真ん中へんで水着を取りに来たが、相変わらずの縞パン装備で思わず笑ってしまった。ほんと、なんかこだわりでもあるのかな。

 七魅の姿を見かけないのでテラスを見渡してみると、ちゃっかりともう水色のビキニに着替え終了している。ちぇっ、事前に自分だけ取っておいたんだな。
 姉を見習えよ。率先して脱ぐ気っ風の良さを少し分けて貰え。

 そんなこんなで大体の水着を配り終わる。最後にやってきたのは紫鶴だ。見れば、あの長い髪は結い上げられて頭の後ろで団子状になっている。これを作っていたから遅くなったんだな。……でも、あれだけの量が良くこのサイズに縮まったな。

「郁太さん、遅くなって申し訳ありません。撮影、お願いできますか」
「もちろん、喜んで」

 僕は2つ返事でカメラを構える。
 紫鶴の下着は驚くべき事に黒だった。しかも大人っぽく透けレース入りだ。しかし、この色でよくあの夏服を透けないものだ。

 初めて見る紫鶴の肢体はスラリとしていてまるでモデルのようだ。他の凡百とは根本的に身体の構造が違うんじゃないかとまで思えてくる。
 しかも、長く伸びた手足の繋がる胴部は凹凸がかなりハッキリと形作られ、豊満という形容詞が当てはまる胸のふくらみ、それを含めた上体を支えきれるのか不安になるくらい細いウエスト、そして見たことがないくらい滑らかな曲線で構成された腰つきと造形の神が完璧なプロポーションのリファレンスを作ったのかと思うくらいに完成されている。

 後ろを向いた紫鶴のうなじから背筋、そして臀部へと続くラインがひどくなまめかしく、それを見ているだけで脳みそが熱くなりそうだ。僕は気付かれないように唾をごくりと飲み込んだ。

「し、紫鶴さん。次は脱ぐところをとるから、半脱ぎになってくれるかな」
「はい、わかりました……んっ」

 紫鶴の黒いブラジャーは遠目に見てもかなりのサイズなのだが、それでもまだ彼女には小さいようだ。かなり窮屈そうにカップの部分をまくり上げると、まさしくプルン!という擬音と共に押し込められていた乳房が弾け出た。反動でたゆんたゆんしているのを思わず激写してしまう。

「こっちも脱ぐんですよね?」
「はい、お願いします」

 レースのパンツに指をかけて太股の付け根と平行な位置までそれをずり下げる。茂みの色は髪と同じ黒、まるで他人に見せることを前提にしているかのように綺麗に整えられ、僕は思わず紫鶴が脚を開いて使用人達に手入れをさせているところを想像してしまった。
 うう……落ち着け、落ち着くんだ、僕!

「どうかしましたか?」
「い、いえ、なんでもないです」

 紫鶴の身体を接写しながら考える。
 もう少し、この少女の肉体を堪能したい。もうちょっとだけ、この体の色々な側面を撮影してみたい。幸いもう水着を受け取りに並んでいる者はいない。少しくらい時間がかかっても問題無い。

「紫鶴さん、ちょっと乳首を摘んでみてください」
「? はい」
「少し、痛くない程度に引っ張って」
「こう……で、よろしいでしょうか」

 ファインダーの中の2つの膨らみがふにょんという感じで形を変える。持ち上げたり、開いたり、何かを挟むようにしてみたり。僕は夢中でシャッターを切る。

「じゃ、じゃあ次はパンツの方撮りますね。お尻に手を当ててさっきみたいに動かしてみてください」
「はい」

 手の動きに合わせて少女の羞恥の中心が卑猥に形を変化させる。左右に、上下に、斜めに引っ張られ、時には少しだけ口を開いて皺の奥をほんの僅かに見せつけてくれる。

 うう、やばいな。変な性癖に目覚めてしまいそうだ。こんな美の象徴のような曲線の中央に淫猥な排泄器官が存在しているなんて頭がおかしくなりそうだ。
 本当にこの紫鶴が食べ物のかすをここから排泄しているのか、そこを無理矢理拡げて確認したくなってしまうよ。今度七魅にそういう器具を用意させてみようか。それをやったら完全に変態の仲間入りだろうけどね。

「……ふう、ありがとう。紫鶴さん、もういいよ」
「はい」
「じゃ、これ紫鶴さんのね」
「ありがとうございます、郁太さん」

 紫鶴の水着は……黒、か。わかってるじゃないか七魅も。確かに紫鶴には黒が良く似合う。

 一番最後になってしまったせいか、紫鶴は荷物のところに戻らず僕の視線を気にしないで目の前で水着を身につけてくれた。股間に黒い布地をあて、サイド2カ所で紐を結んでそれをとめる。
 胸はやっぱりちょっと小さかったのか、明らかにカップの中に膨らみが入りきっていない。首の後ろと背中の2カ所をとめ、位置を直してはい、できあがり。

 紫鶴を最後に全員の着替えが終了した。見渡せばテラスには紐ビキニを身につけた20人の女の子と彼女たちの盛大なランジェリーショー。壮観、壮観。
 さあ、プールに行こう!




2.


 ピピーッ!

 準備体操終了、監視員たる僕の笛でいよいよ自由遊泳時間が始まった。みんなの待ちに待った時間の到来だけど、「若干1名の馬鹿を除き」ほぼ全員が星漣の生徒らしくプールサイドにしゃがんで行儀良く爪先からゆっくりと中に入っていく。

「イークちゃーん! やほーっ!」

 笛と同時にいきなり頭から飛び込んだその馬鹿は、もう半分くらいまでプールを泳ぎ切るとそこでコースロープにつかまって僕の方にぶんぶんと手を振っている。お前、絶対この学園の生徒じゃないだろ? そして人の話は良く聞けよ?

 僕はハルに向かって笛をピリピリ鳴らしてプールから上げるとお説教してやった。今は僕が監視員だし、職権乱用じゃないよね、これは。

 まあそんなネタもあったけど、現在女の子達は全員元気にプールの中だ。半分くらいがハルと同じく4コースある遊泳用コースでそれぞれ好きなスタイルで遊泳中。来週からの授業に向けての自主練習をしているのかもしれない。真面目だなぁ。
 で、あとの半分は遊びに来た学生らしく残り4コースのフリースペースで水遊び中だ。

 星漣の屋内プールは実に金がかかった作りになってて、驚くべき事に底面フロアーが電気で動くんだ。スイッチ1つで上下に動いて半面づつ深さを変えられるようになっている。
 ちょっと思うところがあって、僕は今日みんなより先に来て1〜4コースを練習用に1.3mの深さに、残りの4コースを水遊び用に60cmの深さに設定してコースロープを巻き取っておいた。

 だって、ずっと泳いでるだけなんて普通の人にとっては疲れるだけでしょ。僕たちはプールに遊びに来たのであって水泳練習をしに来たんじゃない。幼児用プール並の浅瀬ならちょっとしたボール遊びなんかもできるしね。

 もちろん、水深を浅くしたのはそれだけの目的じゃない。せっかくの女の子の水着姿だ。それが全部水面下に隠れてしまってはつまらない。瑞々しい乙女達の肢体を十分に堪能するためにも浅瀬は必要なんだ。

 それにあと数分で、水遊びにはつき物のあのイベントが起こる予定だしね。その決定的瞬間を見逃したら勿体ない。

 僕は監視用の双眼鏡を使ってフリースペースで遊んでいる娘達に注目する。うん、あのボール遊びをしている3人なんかいいね。あれだけ体を動かしていたらそろそろだろう。

「いっくよー!」

 女の子の1人、ロングの髪の娘がビーチボールを片手に構える。かけ声と共に軽く放り、下手打ちでボールを弾いた。
 と、同時にその動きで胸が揺れる。ゆさゆさと体の動きにワンテンポ遅れてついていくその2つの物体に僕は眉間に力を込めて念を送ってみる。
 果たして、その思いが届いたのかどうか。次の瞬間、ぷるんと弾けるようにそこを覆う生地から2つのふくらみがこぼれ出ていた。

 グゥーッド! さっきの着替えの時は気にしなかったけどずいぶんな大きさだ。着やせするタイプなのか? ボールを打った時の体の捻りの影響で胸部が綺麗な弧を描き、色付いたさきっちょから雫が周囲に飛び散っている。健康的な表情とその半裸以上の格好の対比が実に卑猥だ。

 さて、いつまでも1人にこだわってはいられない。僕は双眼鏡をボールを追うように動かして次の少女を視界に捉える。お次はそのボールを受けようとしているショートボブの娘だ。

 バレーボールのトスの姿勢を作ろうとその娘が両手を頭の上にあげる瞬間、肩の動きにつられてビキニの紐が引っ張られる。一瞬胸が吊り上げられるように縦に押し上げられ、だけどやっぱり堪えきれずに生地の下からピンク色の可愛い突起が滑り出てくる。

 うん、この娘は大きさは並サイズなんだけど形がとても良い。紡錘型の頂点が僅かにツンと上を向き、その張り具合を主張しているようだ。弾力もあるようで体が動くとお皿に出したプリンのようにプルプルと振動する。そんなのを見ると思わずその先端を摘みたくなっちゃうね。

 最後の1人は下級生かと思うくらい小柄な女の子だ。そしてその体格に合わせたように体つきも控えめで、あどけない表情にプラスしてツーテールというのだろうか、頭の左右で髪を束ねてお下げにした髪型が子供っぽさをさらに助長している。軽量なせいで水の中をうまく動けないのか、それとも単に運動が苦手なのか。他の2人に比べて1人だけボールが来るたびにあたふたと無駄に大きく動き回ってやっとのことで返している。

 胸元に目をやると引っかかりが無いせいかブラはいつの間にか外れてしまっていて、手を置いたらすっぽり隠れてしまいそうなささやかな膨らみがむき出しになっていた。ピンクのちっちゃな突起が可愛らしい。

 3人ともボール遊びに熱中している。自分達ががどんな格好になっているのかまるで気にしている様子が無い。

 それもそのはず、僕が監視員としてそういう風に説明してあるからだ。
 『水着が脱げても直そうとしないでいい。恥ずかしくてもそれは楽しんでいるって事だから裸でも気にしない』ってね。今の彼女達は水着が脱げて羞恥を感じる状況になればなるほど楽しいと感じるよう、ブラックデザイアの力で認識を書き換えられているのだ。

 それはこの3人に限った話じゃない。現在このプールは完全にブラックデザイアの支配下だ。見渡せばほら、あっちこっちで。

 水泳コースで背泳ぎしてる娘はまるでウキのように胸の丸い膨らみを2つ水面から顔を出させながら泳いでいるし、プールサイドに両肘をついておしゃべりしている女の子達は上半身と両腕の間に挟まれた胸部をひしゃげながらはみ出させている。

 恥ずかしさを忘れたわけじゃない。みんな普段通りの笑顔を浮かべながらも少し頬を赤くしている。ただ、それを異常だと感じずに楽しいと思い込んでるってだけで。

 もう一つ種明かしをすると、実はこの状況の原因は今彼女達が着ている水着にもあるんだ。僕が七魅に注文して作ってもらった哉潟家特製紐ビキニ、そこには彼らの持つサイエンスの粋が込められている。

 例えばビキニのカップ部分を吊っている紐だけど、そこには水に濡れて一定時間経つと徐々に縮んでいく特殊繊維が使われているんだ。だいたい15分で反応して元の長さの50%まで短くなってしまう。だから、乾いた状態でピッタリの位置で紐を結ぶと、水に濡れて吊り紐が縮んでブラが引っ張られてポロリ!ってわけ。

 この技術はボトムの方にも使われている。ただし、こっちは縮むんじゃなくて逆に伸びる方なんだけどね。パンツをサイドでとめている紐は水に濡れるとだんだん柔らかくなっていき、最後には輪ゴム並の伸縮性を持つようになる。そうなるといったいどうなってしまうのかというと……。

「あ、ごめんなさい!」

 さっきの3人組の小柄な娘がボールをこぼしてしまった。プールサイドで弾んだボールは転々と壁際へ転がってしまって戻ってこない。

「取ってくるね」

 その娘はそう言って縁に手をつき、いったん膝を曲げてから勢いよく水から上体を抜く。ふふふ、ゆるゆるになったパンツでそんな風にするとどうなるか。もう、わかるよね?
 
 ざばーっと背中を流れ落ちる水の下からつるりとした白いお尻が現れた。水着は水の抵抗に耐えきれずに股下のあたりまでずり下がってしまっている。
 そのまま膝をついて四つん這いでプールから這い上がるものだから、後ろからはむき出しになった部分の様子が丸見えだ。決定的瞬間なのに双眼鏡越しなのが勿体無いなぁ。

 あれ?……そういえば、この娘は今日来ている20人の中で唯一「生えてない」コだったっけ。ずれた水着と腿の空間に黒い影が存在せず、肌色の股間部がちらりと見えている。
 ふふっ。いいね、あの娘。いい事思いついた。

 僕は双眼鏡を目から放すと3人がボール遊びしている方のプールサイドに歩いていく。えーと、何て名前だったっけな……、まあいいか。
 目当ての少女が近づいてきたところでタイミングを見計らって声をかけた。

「はーい、なんですか?」
「ちょっといい? この後の休憩時間にお願いしたいことがあるんだけど」

 僕はそう言ってちょいちょいと手招きして少女を近寄らせると、先ほどの思いつきを告げた。とたんに真っ赤になる少女。

「えー!? 私にできるかなぁ……」
「大丈夫大丈夫。君にしか頼めないことだよ。心配しないで、難しい事なんて何もないから」
「うーん……わかりました」

 少し首を傾げて悩んだけど、最後には承諾してくれた。頬を染めながらもにっこりと笑って僕のとんでもない依頼を引き受けてくれる。うなずくときにお下げ髪が揺れるのが愛らしい。
 顔を赤くしたまま残りの2人の方へ歩いていく少女のかわいいお尻を眺めながら、僕は心の中でほくそ笑んだ。う〜ん、楽しみ、楽しみ♪

 さて、少女と約束を取り付けた僕はまたプールの監視に戻った。双眼鏡を使って遊んでいる少女達の艶姿を堪能する。
 そう言えば、遊泳時間を開始してからまだ何人か見ていない生徒がいるな。いったい何処で遊んでいるのやら……と、見渡してみれば。

 いた、七魅だよ。僕のいる場所から一番離れたところで白いプラスチック椅子に座ってハードカバーの本を読んでいる。しかも水着を普通に着ているって事は水に入ってないな。プールに来ているんだからプールで遊べよなぁ。
 さっそく注意しに行ってやるか。

「……何してるのさ。プールまで来て」
「おかまいなく。体調が優れませんので読書していました」

 嘘付け。全然涼しい顔で僕の方をちらりとも見やしないじゃないか。

「監視員としては、水の中でみんなと遊べば体調不良も吹っ飛ぶと進言したいな」
「ご忠告どうも。自分の身体の事は自分が一番良くわかっていますので気にせず職務にお戻り下さい」

 ちぇっ、僕からの書き込みはもう絶対受け付けないつもりか。それならこっちにも考えがあるぞ。先生ぇ〜、出番です!

「三繰さ〜ん! 妹さんが水に入りたくないってダダこねてますよ〜!」
「!?」

 僕の呼び声に身の危険を感じたのか素早く本を閉じて逃げようとする七魅。だけどその動きは予測済みさ。僕はその行く手に回り込んで通せんぼしてやった。
 七魅はすぐに踵を返そうとするがその先にはもう三繰が歩いてきている。ふっ、僕が三繰との位置関係を確認してから声をかけた事に今頃気付いたか。もう遅いよ。

「ん〜? どうしたのナナちゃん?」
「いえ、別に。何でもありません」

 妹と対照的に三繰の態度は立派なものだ。剥き出しの胸や股間を隠す素振りも見せずに、いや、それどころか腰に左手を当てて見せつけるようにモデル立ちしている。そんなに堂々とされるとこっちの方が恥ずかしくなってくるよ。
 七魅は見つからないよう手に持った本を後ろ手に隠そうとしたけど、好奇心の塊の三繰アイから逃れられるわけがない。

「あれ? 駄目だよナナちゃん、せっかく遊びに来たのに1人で本なんか読んでちゃ」
「あ、これは……」
「ほら、行こ? お姉ちゃんが一緒に遊んであげるから、ね?」
「……」

 ふふん、睨みつけてきたって全然怖くないもんね。君が姉に強くでられない事はもう確認済みだ。そして三繰はブラックデザイアの支配下にある。僕に逆らうのが間違いなんだよ。

 七魅は姉に腕を取られて文字通り引きずられてプールに連行されていく。はっはっは、いってらっさ〜い♪ だから、そんな怖い顔しても痒くもないってば。

 ──ビュッ!

「ぅぼあっ!?」

 七魅に向かって手を振っていた僕の眉間に、何か硬くて尖ってそこそこの重量物が音を立ててめり込んだ。一瞬世界がモノクロになったかのような停止感の後、襲ってきたあまりの衝撃的激痛に僕は倒れ込んで悶絶した。

「ぐほぁあああ! な、なんだ一体っ……?」

 滲んだ視界に分厚い赤い背表紙の本が中途半端に開いて転がっている光景が映る。な、七魅の奴、こんなモノを投げつけたのか!? 当たり所が悪いと死ぬぞ、これ。ていうか良く生きてるな、僕。

 痛みが引くまでたっぷり2分はかかっただろうか。辛うじて七転八倒する以外の活動能力を取り戻した僕は目尻に浮かんだ涙を擦って身体を起こし、その本を手に取った。
 うう、コブになってるじゃないか。一体どんな本なんだよ? 表紙に目を走らす。

 『完全犯罪実行マニュアル 〜あなたも今日からインビジブル・マーダー〜』

 ……あまり、七魅を怒らせない方がいいのかもしれない。背筋を伝わった汗の冷たさに僕はぶるっと身震いしたのだった。




 結局その後、三繰に連れられて七魅は水遊びをするはめになって予定通りにポロリを披露してくれた。遠目に見ていたのだけど胸を隠しつつ顔を真っ赤にしてこっちを睨んでくるから、僕は明後日の方を向いて興味のないふりをしておく。
 ……お、転んだ? 胸を抑えながら水の中で遊ぼうとするのが間違いなんだよなぁ。あらら、ずっぽしパンツまで脱げちゃったよ。今度は何が飛んでくるか怖いからすぐに目を逸らしたけどね。

 脱げた水着を直したいところだろうけど、『脱げても直そうとしない』っていうのは三繰に直接書き込んだ事だから彼女も抵抗する事はできない。中途半端なのが一番いけないっていう典型的な例だよね、うん。

 さてさて、時計を見れば遊泳時間が始まってちょうど1時間経った。一応約束事として毎時間15分ずつ位は休憩を取らなくてはいけない。これは監視員の責務だ。
 それに大事なイベントもある。僕は笛を吹いてみんなに休憩時間を告げて水から出るように指示した。

 プールサイドに見事に半裸になった女の子達が続々と上がってくる。胸を剥き出しにし、ほとんどの娘がお尻と股間を丸見えにしながらぽたぽたと髪や胸や手足から雫を垂らしている。
 ずり落ちたパンツが歩く邪魔にならないかと思ったけど、あんまり下まで落ちてしまった娘は無意識のうちにサイドのとめ紐を片方解いているみたいだ。内腿にぷらんと垂れ下がる布と紐が何とも言えない倒錯感を醸し出しているね。

「あの……」
「あ、来たね。協力どうもありがとう」
「はい」

 さっきのお下げの娘がおずおずと僕のところにやって来た。さっきの約束を憶えていてくれたんだね。
 これから自分がする事に顔を赤くしている少女に僕はちょっと待つように言い、全員に大きな声でテラス側のガラス扉から外に出るように伝える。
 さてさて、ショータイムの始まりだ。




「さっきも言いましたが、本日はプールのトイレが使えません。だから屋外トイレの使い方を説明します」

 まぶしい初夏の日差しの中、テラスから階段を下りればそこはまだ水の入っていない屋外プールだ。僕はプールサイドに女の子達を座らせて、自分はスタート台の上に立ってみんなに向かって説明を続ける。

 今朝僕は三繰への説明の際、屋内のトイレを使用禁止にした。
 排泄行為って言うのは自分の「汚れ」を放出する人間にとって最も他人に知られたくない行為の1つだ。露出趣味ってのは露悪趣味に通じるところがあるから、こういった見られたくない姿をオープンにしてやる事でとてつもない羞恥を与えることができる。三繰もこの提案には大いに賛成してくれたしね。

 あ、ちなみにおっきい方の処理はいつも通り個室付きのトイレでしていい事になっている。ここの屋外トイレは水洗とはいえ固形物は処理されにくい構造だからね。
 トイレは使えないはずなのにその矛盾には誰も気が付かない。認識破壊って怖いねぇ。

「誰かここの屋外トイレを使ったことはありますか? いませんね。屋外トイレは基本的に休憩時間しか使えません。使う前に準備が必要なんで必ず監視員が付き添いますから行きたくなったら僕に言ってください。それじゃ、準備をしますね」

 え? それでどこにトイレが有るのかって? そこにあるじゃないか、目の前にさ。
 あ、そうか、まだ水を流していないからわからないよね、これじゃ。

 僕は台を降りてプールサイドにある30cm四方くらいの金属製の蓋を開け、そこに隠れていたバルブを回す。すると、回転にあわせてプールの壁面に開いた循環用の放水口から水が出始めた。
 流れ落ちた水は乾燥していたプールの床を塗らし、陽光を反射させながら一番低い中央部に向けての水流を形作る。

 はい、できあがり。ちょっと広いし敷居も無いけど、特製屋外水洗トイレの出来上がりだ。オープンで気持ちよさそうなトイレでしょ?

「番号の付いている台が便座です。9番まであるので9人同時に使えますね」

 僕はしゃがんでスタート台に描かれているナンバーを指さす。普段は人が飛び込むこの場所が、今日は女の子達の小水の発射台だ。

「それじゃ、細かい使い方の説明をします。なお、ここからの説明は後でみんなが参考にできるようにビデオ撮影しておきますから遠くで見えない人も安心してください」

 僕がそう言って場所を譲ると後ろで待機していたさっきの小柄な少女が前に出てくる。先ほどの約束はこの屋外トイレの使用法の実演の依頼だったってわけ。

 七魅に借りたハンディサイズのデジタルビデオカメラを取り出して撮影を開始する。液晶画面に表示された少女の顔は、羞恥心とそれを上回る増幅された楽しさで頬を染めながら笑みを浮かべている。

「それでは、実際に使うところを順を追って説明します。まず、便座の後ろに立ったら水着を脱いで監視員からの合図を待って下さい。勝手に座っては駄目です」

 少女はそう言い、言葉通りにほとんど脱げていたパンツの紐を解いてそれをスタート台の横に置き、自分はその後ろに立った。僕はその一連の動作を撮影し、ついでに前に回って少女の無毛の股間の様子も撮ってからおもむろに笛を吹いた。

「この笛で初めて便座に座ります。落ちない程度になるべく端に寄って座って下さい。また、この時はまだ足を閉じたままで次の合図を待ちます」

 ぷらんとプール側に足をぶらつかせながら少女がスタート台に座った。台の両サイドを掴み、ずりずりとお尻を動かしてぎりぎりの位置まで腰を前に出す。

「全員の準備ができたら監視員の達巳君が『用意』の合図を言ってくれます。そしたら、足を出来るだけ開いて姿勢を作ってください」

 少女が僕の方に向いてこくんとうなずく。それに応えて僕は「よーい」とまるで水泳大会の審判のように厳かにかけ声をかけてやった。
 その合図で少女は両脚を外側に開く。まるでプールに向かって腰を突き出しているような格好だ。

「この時、出来るだけ遠くに飛ぶように角度を調節して下さい。おしっこの穴の位置を確認して下に垂れないようにします」
「あ、ちょっと待って」

 僕はそこで少女にストップをかける。ここは重要なところだ、ちゃんと撮影する必要があるね。

「どれくらいの角度がいいか見せてくれるかな? 記録しておきたいからさ」
「あ、はい……」

 要望に応え、少女は台に掴まっていた片手を前に持ってきた。そして人差し指と中指を使って覆う物の何もない股間のひだを左右に割り開く。
 僕はズーム機能を最大にしてその場所の詳細を記録した。覆いに包まれている突起、よほど近づかなければ存在に気付かない排泄口、そしてまだ何者の侵入も許した事の無いであろう女性の神秘の穴の様子すら微細な部分が確認できるほど間近で撮影する。

「ここにあるのがおしっこの穴です。えっと、そっちからじゃ見えないですか?」
「ん、じゃあみんな順番に来て確認してくれるかな。こっちに近い順に2人ずつ」

 それまで真剣に説明を聞いていた女の子達が立ち上がってぞろぞろと少女の股間の様子を見にやってくる。少女は律儀にそのひとりひとりに穴の位置と腰の向きを教えてやっていた。

 少女とさっきボール遊びをしていたロングの娘とショートボブの娘は来たついでに「がんばって」と励ましの言葉をかける。それに、赤い顔をしながらも嬉しそうにうなずく少女。

 僕の方は一通りの撮影をしたので少し後ろで待機中だ。そこに三繰がなぜか膨れた表情でやってくる。

「……」
「ん? 何?」
「……私がやっても良かったのに」
「……ああ、そういう事」

 この筋金入りの露出狂には恐れ入るね。だけどさ、これはこの娘にしか出来ないことなんだよ。
 だって、これからのシーンの撮影には無毛のこの少女ほど適している娘はいないじゃないか。

「剃ってもいいんだよ? 達巳クンにやらせてあげようか?」
「……遠慮しとくよ」

 怪しく微笑む三繰が僕の手を捕まえて股間に誘導しようとするのをすんでの所で躱す。魅力的な申し出だけど今はまずいでしょ。

 何とか三繰をなだめすかしてから僕はみんなに向かって説明の続行を伝えた。せっかくだから良く見てもらえるように、撮影のためのスペースを残して女の子達には少女を取り囲むように周囲に立ってもらう。

「さっきの続きからいきますね」

 少女はそう言うと手を戻して台の縁を持ち直した。ずっとその姿勢だったから疲れたかな? がんばれ、もう少しで終わりだ。

「姿勢ができたら、監視員がそれを確認して笛を吹いてくれます。そしたら便座に座っている人は全員一斉におしっこを出してください。できるだけ力を入れて遠くに飛ばすようにします。……じゃ、やって見せますね」

 19人の少女達が全員身を乗り出し、固唾を飲んで少女の股間のスリットに注目する。僕も放出の瞬間をしっかり捉えられるよう、少女の斜め上の位置から股間をズームで捉えた。
 そして息を大きく吸い込み、首に下げた笛を口に咥える。少女が緊張に身を固くする。

 ──ピッ!

 僕の合図と同時に少女が「んっ」と可愛く呟く。下腹部に力が入り、直後、その股間から一筋の水流がびゅうっと音が出るくらいの勢いで飛び出る。

 それは少女の小柄な体には不釣り合いなほどの勢いで、全員が見守るなか大きな弧を描いて床面に落着する。壁から流れる大きな水流音の中に、新しい細い水流が高い位置から落ちてはじける音が混ざってプール内にこだまする。

 小さな彼女から放出される小さな水の流れ。それはこの広大な空間にとって比較にならないくらい微少な存在。
 だけど、うるさい蝉の鳴き声、広い青空、水色の底を晒す屋外プール、そこを流れていく大量の水……そういった夏の日常の中に紛れ込んだ小さな小さな非日常が、今はこの場を完全に支配している。

 そこにはじょろじょろと跳ねる水音と少女の作る水流のアーチしか存在しない。2つを除いて時が止まったかのよう。

 やがて、急激にその弧が小さくなる。少女が再び「うんっ」と呟きを漏らしながら力を入れると、ぴゅっぴゅっと2回ほど水鉄砲のように股間から水流が飛び、そして後はぽたぽたと雫を垂らすだけになった。

 少女はずり落ちそうなくらい前に出ていた体を引き上げ、左右に限界まで開いていた脚をそのままスタート台を大きく跨ぐようにして股を突き出した姿勢を維持する。そしてプールに向かって上下に腰を振り股間の雫を振り落としてみせた。

「ここのトイレには紙が用意されてないのでこうやっておしっこを切ってください。全員が終わったところで監視員がまた笛を吹きますから、その合図で待っている人がいたら交代です」

 少女がこっちに顔を向けたので僕は撮影を止めて笛を吹いてやる。少女はほっとしたような表情で足を閉じるとようやく立ち上がった。

「えっと、これでお終いです。何か質問はありますか」

 何人かの少女が手を挙げる。プールの方を向いていたせいで見えなかった所もあるからな。
 少女はそれに丁寧に、時に実演を交えて説明をする。当然、その光景も僕はビデオに録画する。

 ティッシュを持ってきたのでそれを使いたいという娘がいたけど、残念ながらそれは許可できない。万が一排水溝が詰まったら処理が大変だからね。

「うまく雫を切れるか心配な人がいるみたいですね。では、もう一回そこだけやります」

 僕は少女に耳打ちしてもう一度実演させる。今度は良く見えるようみんなの方を向いてだ。がに股に脚を開いて身体を後ろに倒し、台を掴んで腰を突き出した少女の股間を真正面からカメラにとらえる。さっきの雫はもう乾いているので水が飛ぶ心配は無い。

「動きを見てて下さいね」

 そう言って少女はみんなの視線に股間を晒しながら先ほどの卑猥な動きを再現してみせる。あはは、まるでナニかにまたがって腰を振っているようだよ。みんなもこんなのを真剣に見つめちゃって、吹き出しそうになるのをこらえるのが大変だ。

「え〜と、あと、屋外トイレを使った後はシャワーを浴びて、その後で水着を元通りにつけ直してください。他にはありますか?」

 幾つ目かの質問に答え終え、辺りを見回す。もう手は挙がっていないな。
 それを確認し、少女はペコリとお辞儀をした。

「これで説明を終わります。ありがとうございました」

 その言葉と同時にみんなから拍手がわき起こった。少女は今度は照れのために顔を赤くしながら一段高くなった段差を降りた。さっきのロングの娘が頭をぐりぐりと撫でてやっている。少女はそれに幸せそうな笑みを浮かべていた。実に感動的な光景じゃないか。

「はい、それじゃ早速トイレを使いたい人は便座の後ろに立ってくださーい。空いている所にどんどん並んでね」

 僕がスタート台に垂れた分を落とすためのホースを用意しながらそう言うと女の子達の何人かがぞろぞろと移動し始める。そして先ほどの実演通りにパンツを外して台の横に置いた。

 凄い光景だねぇ。プールのスタート台の後ろに少女達がずらっと並んでいるのは一見すれば水泳大会のように見えなくもない。だけど、その女の子達は胸はだけたまま、下については履いてすらいない。

 ピピーッ! 笛の合図で並んでいた娘達がプール側に足を出して腰掛けた。お尻をずらしてぎりぎり縁にお尻を乗せる。ふふっ、フライングは失格だから気を付けてね。

「よーい!」

 女の子達が一斉にぱっと足を開いた。腰を突き出すようにして角度を調整する。その表情は赤らんでいて、恥ずかしがってはいるが同時に笑顔も浮かんでいる。そうそう、これは遊びなんだから楽しまないとね。

 ──ピッ!

 たっぷりのための後、僕は勢いよく笛を吹く。
 青空の下、少女達の股間から一斉に飛び出した水流が綺麗な連続アーチを描いた。




3.


 ブラックデザイアの第5の能力、ドミネーションにはこれまでの力と決定的に違うところがある。それは、ブラックデザイアの使用者が能力発動の現場にいなくても良いという事だ。

 ドミネーションはコアとなる契約者と能力を発揮する領域を組み合わせる事で発動する。今回のように三繰にプールという場所を組み合わせた場合、本当は僕がいなくても彼女が到着した時点でドミネーションは発動し、23人までなら自動的に書き込みが行われていたはずだ。
 詳しく説明をしておけば、先ほどまでの事は僕がいなくても多少の差異はあってもおおむね実行されていただろう。

 つまり、ドミネーションは僕から能動的に状況を仕掛けていくのではなく、受動的に設定しておいた場所が使用されるのを待つ、いわばトラップ的な使い方をすることができる能力なんだ。

 使い方の例を考えてみよう。
 今回のプール作戦のようにこちらから人を選抜して招くという方法は数を制限する事が容易い代わりに実施までに時間がかかる。お手軽に使うためには、もともとそんなに多くの人数が一同に会さない場所を選べば良い。

 例えば、トイレなんかはどうだろう。個室の数は制限されているし、順番待ちをしたとしてもせいぜい10人がいいところだろう。三繰にここを発動領域に設定してやるとする。そうだな、『トイレでは相手の顔を見て積極的にお話ししましょう』なんてのはどうだろう。

 この場合、普段は何の変化も無いが、三繰が『トイレに行こう』とした時にだけ能力は発動する。同時に、彼女が向かうトイレを同時刻に使おうとした者にも無差別にその書き込みは伝播し、個室を使用中の娘も待っている娘もみんなが顔を見ておしゃべりしたくなる。いや、それが当然だと認識する。

 結果、排泄中にも関わらず個室の扉を開け放ち、和やかに談笑する女の子達の姿を見る事ができるというわけだ。
 会話の邪魔だから無駄に水流音を鳴らす娘もいないだろう。そして、その娘達はトイレにいる間ずっとそれが当たり前で全くおかしい事ではないと思い続けるのだ。

 書き込み内容を工夫すれば多人数が利用する場所も人数を制限することが可能だろう。今度は三繰をバスに乗せてみようか。あらかじめ『通学バスには22人しか乗れず、23人目はあきらめて次のバスを待つ』と書き込んでおく。

 こうすれば、三繰の乗ったバスだけは定員22名、運転手含めて23人しか乗れないことになり、24人目に乗車しようとした人間は自動的に書き込みが伝播して乗ることをあきらめるようになる。誤認による人数制限ができるわけだ。
 この状態なら人数オーバーを気にせずバスの中で好きなことをさせる事ができる。『運転手はお客が何をしてても気にしない』と書き込んでおけば完璧だ。

 さらに僕が現場にいなくて良いという事は、何カ所でも同時に発動することが出来るという事でもある。この先三繰以外に契約者を増やしていけば学園内のあちこちに支配領域を作ることができるだろう。

 また、同じ領域にいる契約者同士の『統制権(ドミナンス)』は合計することができる。1クラスの生徒数はだいたい26〜7人だから、教師の分を含めてあと3人分のドミナンスを持つ女生徒と契約できれば三繰と2人で3年柚組を完全な支配下に置くことができる。
 万が一見回りに来た人間の分も考えてドミナンスの合計値に余裕を持たせておけば、授業中制服を脱がそうが、官能小説を朗読させようが、保健で性技の実習をさせようが誰もおかしいとは認識できないだろう。

 最終的に目指すべきなのは学園の完全支配だ。十分な量のドミナンスを集めれば1クラスと言わずに校舎丸ごと、あるいは星漣の敷地全部を支配できるかもしれない。そうなればもはやこの学園内に常識の通用する場所は存在しない。全て、僕の考えた事だけがルールとなるのだ。

 その為には強い統制力を持つ女生徒と契約しなくてはならない。統制権の強さは周囲の人間へ与える影響力の強さだ。権力と言い換えてもいい。ちまちまと並の女生徒と契約していたら時間がいくら有っても足りないし、魔力の無駄だ。
 必要最小限の魔力で最大規模の常識破壊を行い、魔力の回収効率を最高にする。そうなって初めて星漣学園は僕の魔力牧場となる。

 現在、僕が目をつけている学園の権力者は2人。
 1人は生徒会長の安芸島(あきしま)だ。まだ顔も見た事は無いが、今年度のセイレン・シスターが存在しない以上実質的にこの学園の独裁者と言って良いだろう。統制権の持ち主としては最大級の人物のはずだ。

 もう1人は昨年度セイレン・シスター、優御川 紫鶴(ゆみかわ しづる)だ。留年というアクシデントで今年度も残った彼女だが、今朝の様子からもわかる通り2、3年生からの支持は相変わらず高い。根強い崇拝生徒もいるという事だし、安芸島にひけを取らない統制権を持っているはずだ。

 第3ステージ能力『受容(アクセプタンス)』を使って契約するためには相手が僕に一定以上の興味か好意を持っていなければならない。つまり、インサーション可能な相手でなければ受け入れられないって事だ。
 顔も下の名前も知らない生徒会長は論外として、紫鶴とはこうやって一緒に遊びに来るくらいの仲にはなれた。興味とは言えないが気にはしてくれているのかな? もう少しアプローチをかければブラックデザイアに彼女の情報が載るようになるかもしれない。

 そう言えば、休憩時間以降彼女の姿を見ていない気がする。プールの中で戯れる女の子達の中にもその姿は無い。
 あのすらりとした長身に1人だけ黒の水着だからいればすぐに気が付くはずだ。どこに行ったのだろう。

 僕は座っていた椅子に双眼鏡を置いて、プール付属の施設を見に行くべくぶらぶらと歩き出した。




 サウナや浴槽などを覗いた後、最後に見た採暖室に紫鶴はいた。白い壁に囲まれた部屋の中に並べられたビーチベッドに1人で仰向けに寝そべっている。

 採暖室はプールで体の冷えた人が暖まるための部屋で、湿度は低いが室温が35度と若干高めに設定されている。サウナやプールサイドの湿気た空気で汗をかかずに暖まりたいならここを利用するのが良いだろう。まあ、僕ならどうせだったらお風呂の方に入るけどね。

 それにしてもサウナだ何だとここは本当に学校の施設なのだろうか? お金をかけるにも程があるだろう。
 心の中でこの学園の成金趣味に辟易しつつも閉め切られていた扉を開けると、紫鶴はすぐに気が付いたようでこちらに顔を向けて微笑みを浮かべた。

「ごきげんよう、郁太さん」
「ごきげんよう。紫鶴さん、寒いんですか?」

 別段プールの水温は低くはないはずなんだけど、紫鶴は今年の2月に手術をするまで半年間病院生活を送っていたらしいからな。泳ぐのも久しぶりだろうし身体が冷えやすいのかもしれない。
 でも、彼女の水着は着替えた時同様きちんと身につけられたままだ。水の中にほとんど入っていないって事だけど……。

「いえ、ちょっと疲れてしまって休んでいました。もしかして、探されましたか?」
「まあ、姿が見えなかったので……」

 うーん。やっぱり病気の影響で疲れやすいのかな? まあ、無理をするような事じゃないよな。できれば目の届くところに居て欲しいけどさ。

 そんな事を思いながら何気なく会話していると、僕は紫鶴の胸元に何かほのかに赤くなっている部分がある事に気が付いた。

「あれ? 紫鶴さん、ここ、赤くなってますよ?」

 爪で引っ掻いてしまったのだろうか? だが、軽い気持ちでそう言ったにもかかわらず紫鶴は急にぱっと両手でそこを抑えてしまう。

「え?」
「あ……」

 思わず2人で動きを止めて見つめ合う。あ、あれ? 何か変な事言った……?
 僕が状況を掴めないでいると、紫鶴は何故か困ったような表情で曖昧な笑みを浮かべながら恐る恐るといった感じでその手を放す。

「運動したりするとやっぱりちょっと見えちゃうんですよね」
「は、はぁ……?」
「お医者様はひと月もすれば元通りになるとおっしゃったのですけど……」

 ……?
 えっと……?

「……あ!」

 遅まきながら、やっと僕はその赤い痕が何なのかに気が付いた。そうだよ、なんで気が付かなかったんだ。自分で紫鶴が手術したからとか言っておきながら。
 胸の中央に縦に走る赤いすじ。これが胸の手術の痕跡だというのなら、紫鶴が病んでいた部位はその中央、つまり心臓だ。紫鶴の入院はこの命の源の臓器を治療するためのものだったんだ。

「あの、郁太さん。気にしないで下さいね。私も今言われるまで忘れていましたので」
「は、はい……すみません」
「謝られる事はありませんよ」

 紫鶴の顔に浮かぶ微笑みが痛い。
 僕は馬鹿だ。女の子が身体に残る傷跡を指摘されてショックを受けない筈が無いじゃないか。物腰の落ち着いた紫鶴があれだけ過敏に反応したんだ。気にしていないなんて嘘だ。

 そもそも、本来今日使うはずだった紫鶴本人のスクール水着なら胸の谷間なんて見えないし、僕にそれを気付かれることも無かった。それを僕は欲望を満たすためだけに彼女に露わな水着を着せ、あまつさえ人気のないところにいたところを見つけてカサブタを剥がすような事を言ってしまったんだ。
 もしかして、たった1人でプールから上がってこんなところにいたのも他人に肌を晒すことを無意識に嫌ったからかもしれない。

 こんな曖昧な表情の彼女は見たくない。紫鶴はいつだって余裕を持って微笑みを浮かべているはずだよ。それが全校生徒の憧れのお姉さま、元セイレン・シスターの優御川紫鶴だろ?
 紫鶴はもう胸の手術なんていう普通の人間には相当な試練を乗り越えたんだ。いつまでもその縛鎖を引き摺ってて良いはずがない。彼女を縛り付けるものはもう無いはずなんだ。

「紫鶴さん、それ、僕が治しますよ」
「え? 何ですか?」
「『監視員』は怪我の処方も知っているんです。手術跡くらい消せますよ」

 そもそも、赤く見えるのだって紫鶴の肌があまりにも白く色が薄いせいだ。医者の言う通り普段なら元通りに何も見えないのだから、この赤い痕だって時間と共に見えなくなるはず。今はそれに対して自信を持たせるのがいい。
 病は気から。紫鶴自身が気にしなくなれば、これだってそのうち本当に誰も気が付かなくなるはずさ。

「僕に任せてください。なんたって監視員ですから」
「……はい。お願いします、郁太さん」

 神妙にうなずく紫鶴。よし、第1段階はクリアだな。
 もちろん、ここで紫鶴の認識をコントロールして傷のことを忘れさせることはできる。だけどそれは問題の解決にはならないんだ。ブラックデザイアの魔力で植え付けられた認識は効果を解除した瞬間に忘れてしまうのだから。

 だけど、幎は言っていた。記憶は「思い出せない」だけで決して「失われる」わけではないって。
 認識を狂わせている間に、少しでも良い印象を植え付ける。傷をいたわり、元通りに回復することを信じさせ、無意識にそこに感じる引け目を取り除いてやる。
 そうすれば、紫鶴は1人でいるよりもずっと早く立ち直ることができるはずだ。セイレン・シスターとしての、あの慈愛に満ちた微笑みを曇らせることは無くなるはず。

 半年間学校を休み、留年した紫鶴にはこの学園内に一緒の時間を過ごした人間はほとんどいない。立場が邪魔して悩みを相談する相手だっていないんじゃないだろうか。
 そんな紫鶴が、僕の前で初めて少しだけ弱みを見せてくれた。これはきっと彼女の心情を知る好機なんだ。ブラックデザイアにはこういう使い方だってできるはずだ!

「あの、まず何をしたらいいでしょうか?」
「そうですね……じゃ、まず、診察しますから水着を取ってもらえますか? これは治療だから恥ずかしいことはありませんよ」
「はい」

 僕の言うとおりに紫鶴は首後ろと背中に手をやって結び目を解くと、するりと水着を外す。どうやったらこんなに大きくなるんだと思うくらいたわわな2つの膨らみがまろび出て、僕は一瞬その光景のまぶしさに立ちくらみまで感じてしまった。
 いけないいけない、これは治療なんだ。紫鶴を椅子に寝そべらせ、僕は少し考える。

「えっと……片方の膝を立ててもらえますか?」
「はい、こうですか?」

 紫鶴の股に空いたスペースに片膝をつき、僕は脚の間に入り込んだ。こうしないと大きなふくらみに隠れた患部を見るために横から不自然な体勢で覗き込まなくてはならなくなるからね。
 垂直に立っていた片膝に手を乗せて少し外側に傾かせる。そして、そこから煽り気味に見上げた光景に絶句してしまった。なだらかな腹部の上、自重で少し潰れて左右に広がってはいるが張りを失わずに天井に向かって突き出ている2つの紡錘型の姿が視神経を貫通して僕の脳髄を焼く。

「あの、どうかしまたか?」
「な、なんでもありません! す、少し触りますね」
「はい」

 恐る恐る両手を伸ばし、その上に両手を置いてみた。ふぅにょん、とでも表現すれば良いのだろうか、10本の指を許容して沈み込ませる柔らかさと、体重のかかった手の平を支えてくれる弾力とがいっぺんに僕に応えてくる。そのまま指でやわやわと揉み込むと究極の感触の中に少女の暖かさとトクトクと鼓動する生命の源の存在を感じ、僕は言い様もない感動に襲われた。

「んっ……郁太さん、そこは……場所が……」
「き、傷を消すには、周りの肌の具合を見ないといけないんですよ」
「そうなんですか……うんっ……」

 紫鶴の胸はその大きさの割にとても敏感なようだ。僕がそれの形を歪ませようと指を動かす度にぴくぴくと身体を震わせる。
 試しにその頂点部の周りをぐるりと掴んでみると、長さの足りない指からこぼれた部分が色付く蕾を頂点にもう一つ小さな紡錘を形作った。軽く左右に揺すると薄紅色の部分が自在に形を変える丸みの上を振り子のようにぷるぷると振り動かされる。

「……あはぁっ……」

 紫鶴がため息のように熱を持った息を吐いた。気温のせいか顔が赤らみ、僕の手の平にうっすらと汗ばんだ柔肌が吸い付いてくる。
 息を吸い込むとかすかに鼻孔に女の汗のにおいが感じられる。紫鶴の身体から立ち上るそれはまるで媚薬のように僕の情欲をかき立てていく。

「……傷口に唾をつけると早く良くなるって言いますよね?」
「ええ。そう言いますね」
「唾液には、傷を綺麗にする力があるんです」
「郁太さん……? あ……!」

 舌を伸ばし、赤くなった胸元に触れる。舌先にほんの僅かな塩味と酸味。
 でも、汚いとはまったく思わない。それどころか極上のできたて苺ミルクを舐めたかのような甘美な錯覚さえ感じてしまう。

「刺激を与えて回復力を高めます」

 とりあえずの欲求を正当化する言い訳を呟き、その場所に吸い付いた。ぬらりと舌を擦りつけるように喉元近くまで舐め上げれば紫鶴はそのこそばゆさに身を震わせる。
 両頬に触れている2つのふくらみの感触が僕の思考を蕩けさせていく。両手で先ほどのように乳房を掴んで上方に持ち上げ、その谷間を広げて隅々まで舌を這わす。徐々に舌の侵攻範囲を広げていけば時折僕の耳や頬の辺りに反対側の膨らみの頂点がかすかに触れる。我慢できなくなった僕の舌はその丘を一気に駆け登り、終着点の突起を弾くように小突いた。

「きゃんっ……!」

 紫鶴の口から可愛らしい声が漏れる。それが15センチほどの空気を伝って僕の鼓膜に届いた瞬間、思考が一気に白く上り詰めた。
 紫鶴もこんな声を出すのか! その声をもっと聞きたくなった僕は舌の先でその部分を転がすように何度も何度も執拗に舐りこね回す。残念ながらもう声は出さなかったけれど、眉を寄せ頬を赤くしながら指を口に当てて我慢している様子がいじらしい。

 舌に感じる感触が徐々に変化してきた。芯の方から張りつめたように膨らんできた感じ……これが良く言う乳首が立ってきたって事なのかな。もしかして、感じている?
 気が付いてしまうともう止まらなかった。自己主張する紫鶴の敏感なその部分を唇に含み、欲望のままに強くきゅうっと吸い上げる。

「あうんっ!」

 今度こそ明らかに喘ぎ声ととれる声を紫鶴は漏らした。尾てい骨の辺りからぞくぞくとした快感が這い上がる。もっと感じさせたい! 先ほどよりも強く、頬をへこませながら周囲の色付いた部分ごと口の中に吸い込んでいく。

「いっ……郁太さん、ちょっと痛いですっ……!」
「我慢して! これくらいの刺激じゃないと効果がでませんから」

 まるで子供に戻ったかのように夢中で紫鶴の乳房にむしゃぶりつく。出るはずもない乳が染み出ないかと吸い上げ、舐め回し、転がし、時に軽くはんで歯跡をつける。手の平は乳房をまるでおもちゃのように弄び、鷲づかみにして何かをその先端から絞り出そうとする。女性にとって敏感で大切な部分を扱うにはあまりに乱暴で無体なやり方だ。
 だが突然、ぽん、と僕の髪に手が乗った。

「……?」
「ふふっ」

 落ち着いた笑い声に我に返り、動きの止まった僕の頭をまるで大切な何かを慈しむように撫でる。見上げた紫鶴の瞳は、深い海のような藍色の慈愛を浮かべていた。

「なんだか赤ちゃんみたいですね」
「えっ!?」

 思わず顔を紫鶴の身体から離そうとする。だが紫鶴はそんな僕の頭を今度は両手でやわらかく包み込み、そしてその温かい胸の間にそうっと抱え込んだ。

「郁太さんはそんなに一所懸命に私のことを案じてくださってるのですね」
「……」

 紫鶴の言葉に血が上って熱くなった頭がゆっくりと冷やされていく。
 顔を動かして目をやれば、僕が力一杯吸い続けていた部分は軽く鬱血し、なだらかな膨らみには赤い手の痕が残ってしまっている。

 なんてことだ……紫鶴を元気づけるつもりが逆に抱きしめられてしまう事になってしまうなんて。僕はゆっくりと上体を起こし紫鶴の腕の中から抜け出した。

「ごめんなさい」
「? どうして謝るのですか?」
「その、熱中してしまって……」

 不思議だ。
 今まで目上の人間にだってまともに目を向けて謝ったことの無いこの僕が、心底申し訳ないという気持ちになっている。どうしてだろう、紫鶴に対しては僕自身のペースを保つことができない。
 「気にしないでいいのですよ」と微笑む紫鶴に僕は、言葉を口にせず赤くなった部分をそっと唇で愛撫することでもう一度謝罪した。

 ……さて。再度紫鶴から離れて思案する。予定通りというわけではなかったがこれで紫鶴に回復の自信を与えることができただろうか。

(いや、最後は紫鶴の寛大さに助けられた形になったし、まだ僕のことを完全に信頼させたわけじゃない。もう一つパンチが必要だよな)

 ベッドサイドに立って天井を見上げながら考えあぐねていると、紫鶴はそんな様子を見て身を起こした。

「あの、これで終わりでしょうか?」
「いえ……」

 そう、まだまだだ。僕は紫鶴の下腹部を覆っている黒い水着を見て思いつく。
 そうだよ、今ので身体の外からの治療は終わった。なら、次は内側からだろう?

「最後は薬を出します」
「お薬……ですか?」
「はい」

 僕は真剣な表情を作ってうなずく。ブラックデザイアの力があるとはいえ、後々まで無意識に働きかけるには本人が心底僕を信頼してくれなくてはならない。
 「監視員にだけ教えられる治療法なのですが」と僕は前置きをしてから僕はさっき考えついたばっかりの治療法を口にする。案の定目を丸くして驚く紫鶴。

「そんな効能があったのですか? まったく知りませんでした」
「はい、特別な方法だから世間にはあまり知られていないんですよ。治療者にも負担がかかりますから普通の病院ではやってくれないですし」

 紫鶴は僕のでまかせを完全に信じ込み、眉根を寄せる。

「そんな大変な事をやっていただくわけには……」
「いいんですよ。紫鶴さんのために、僕がやりたいんです」
「郁太さん……わかりました」

 そう言って紫鶴は両脚をそろえて座り直し、僕に深々と頭を下げた。

「お願いします、郁太さん。その治療法をやって下さい」
「もちろんですよ。それじゃ、まずはそこにうつ伏せになってもらえますか? 腰は高くしたままで」
「はい」

 ビーチベッドの角度を調節して水平近くになるようにする。そこで紫鶴は四つん這いになると、次にお尻を高く突き上げるように残したまま上体を伏せた。
 グラビアなんかでよく見る下半身を強調する扇情的なポーズだ。目の前に薄布一枚に守られた紫鶴のお尻が突き出される。それだけじゃなくベッドの背もたれ部分に押しつぶされた豊かな胸のふくらみが身体の下に収まりきらずに脇からはみ出している。あまりの非現実的光景に僕はカーッと湯が沸きそうな発熱を頭部に感じた。

「郁太さん? 体調が優れないのですか? 顔色が……」
「気にしないで下さい、これくらいの方がいいんです。それより、そのまま水着を脱いでもらえますか?」
「わかりました」

 紫鶴は僕の指示通りに腰を強調した不自然な格好のまま両手を後ろに伸ばし、指を水着のサイドの紐にかける。そして、ためらう素振りも見せずにそれを太股の辺りまで引き下ろした。間近でそれを見ていた僕の前に少女の秘密の部分が晒される。

 真っ先に目に入るのはその中央に位置する少女の不浄の穴だ。いや、不浄なんて言い方はこの少女のこの部分には当てはまらないかもしれない。乳首と同等に色付いたそこは完全な円上に均等な皺を作りながら窄まり、まるで一度も排泄に使用されたことが無いかのように静かなたたずまいを見せている。先ほども着替えの際に散々近接撮影したというのに、僕はあらためてその光景に感嘆のため息をついてしまった。
 ここを菊に例える場合があるが、確かにこれ程ならば花で形容したってばちは当たるまい。

 視線を下ろせば整った毛並みの中に閉ざされた少女の秘所が見えている。こちらも著しく興味を引かれる場所ではあるが、これからのメインはここではない。下手に好奇心を出して心証を悪くされないよう今回はお預けにしておこう。

「それじゃ、紫鶴さん。お尻を自分でひろげてもらえますか?」
「はい……これでいいですか?」

 紫鶴は素直に僕の言う通りに両手を使ってお尻の肉を左右に割りひろげる。均等だったすぼまりの皺が形を崩して楕円形に引き延ばされた。僕はその縁の方が少しめくれてピンク色の内壁が露出する様に激しく興奮する。たまらずに短パンの中で窮屈に膨張したものを取り出す。

「こ、こっちの用意はOKです。紫鶴さんも良かったらさっき言った通りに……」
「はい」

 紫鶴はもぞもぞと体を動かしてビーチベッド上での位置を真ん中になるように調節すると、何の疑問も持たずに僕が先ほど説明した通りの台詞を口にする。

「……準備できましたので、郁太さんの精子を私のお尻の中にいっぱい注ぎ込んで下さい」

 言った! 本当に、躊躇せずに言ったよ!
 くくく、そんな風に自らお尻をひろげておねだりされちゃしょうがない、いっぱいいっぱい出してあげるよ。

 そう、僕が紫鶴に告げた「治療」というのはお尻から男性の精子を座薬のように入れる事なんだ。腸から吸収されたそれが肌に作用して内側から治癒を助けるってわけ。さっきの台詞はその為に必要な手順だと教えたら、疑う事もせずに信じ込んでくれたんだ。

 僕は張りつめたモノを紫鶴の股間にあてがう。ここまでの少女の痴態とさっきの台詞でやばいくらいに興奮した僕のそれはもう既に先走りの液体をこぼしていた。手を添えてぬるぬるとした粘液をすぼまりの皺をなぞるように擦り付けてやると、「んっ」と紫鶴は鼻にかかった熱い息を吐く。ゆるゆると周辺を刺激しながら僕は自分の手で怒張を扱き上げる。

 もちろん、今日いきなりこのままこの場所に挿入しようと考えているわけではない。僕もそれなりに性知識はあるのでお尻でやる性交渉がある事は知っているが、それには事前に入念な準備が必要なはず。
 欲望に任せて強行したって先ほどの胸の時のように痛がらせては目的を果たせないし、下手すると取り返しのつかないことになるかもしれない。

 僕は別に紫鶴で性欲を処理したいわけじゃない。遠大な星漣の牧場化計画のために彼女のカリスマ性が必要なだけなんだ。その為になら目下の獣じみた性欲なんて些末事だ。

 それに、僕は性欲を満たす快楽よりずっと強烈な快感を知っているからね。
 目の前の少女の常識を破壊し、あり得ない日常を具象化して本人にも気付かせずに支配する。魂を蕩けさせるようなあの達成感は世界中でただ1人、このブラックデザイアの持ち主である僕しか体験出来ない究極の快楽だ。その効力は、この星漣の女の子達の憧れの存在である紫鶴ですら例外では無い。

 急速に射精感が迫り上がってくる。何も知らない無垢な少女を欲望のままに汚すあの至福の瞬間を、また味わうことが出来るのだ。手の動きが自然と性急なものになる。

「し、紫鶴さん、出る! もう出るよっ!」
「は、はい、お願いします……!」

 手の動きでモノの先端が紫鶴のお尻に強弱をつけて押し付けられる。それくらいでは硬くすぼめられたその部分は外部からの侵入を許したりはしない。

「もう少しひろげて、もっと力一杯に!」
「ぅんっ……!」

 紫鶴が眉根を寄せながら両手に力を込める。頬を押し付け腰を持ち上げ、まるで後ろから犯されているかのような格好をしながら流し目で僕を見詰めている。後ろから押されて少し苦しいのか、吐息をつくために僅かに開かれた口から覗く白い歯と赤い舌が、何故かとても淫靡なもののように目に映った。

「郁太さんっ……中に……中に出して下さいっ……!」
「うぁ!?」

 突然、強固だった抵抗が緩んだ。押し付けられた先端部がぬちゅっと粘った音と共にホンのわずかばかり沈み込む。モノの最先、本当に鈴口の存在する小さな部分だけだが、確かにこれまでとは違う粘膜に包まれている感触がある。

(お尻が開いた!? 自分で力を抜いたのか?)

 こんな状況にも関わらず、紫鶴は言いつけ通りに僕自身を招き入れたというのか。その事実を認識した脳と、僅かな粘膜同士で紫鶴と繋がった部分からの快感が一緒くたになって僕のたがを粉々に打ち崩す。もうっ、限界だっ!

 既に破裂しそうなほど張りつめていたモノがさらに一回り大きくなったようだった。僕は勢いのまま紫鶴の腰を掴んでぎゅうっとそれを押し込む。散々あふれた先走りが潤滑液となって更に潜り込み、かさの部分の半分くらいまで皺の引き延ばされた紫鶴の尻に入り込む。
 その光景と感触を最後に、僕の意識は一気に真っ白に灼熱化した。

 腰から駆け上る吐き気がするほどの快感に身体をくの字に折って紫鶴の上体にしがみついてしまう。マグマのように湧き上がる白濁は股間から竿の部分を急加速し、敏感な少女の体内にビチャビチャと音を立てているのではないかと思うほどの勢いで噴出する。ドグンドグンと乱暴なモノの律動に合わせて紫鶴の身体が痙攣しているのが抱きついたその背中からはっきりと伝わってくる。

 勢いが強過ぎるのか一部が中に入りきらずに逆流してびゅるりと外にあふれ出た。真下に垂れた粘液はそこに存在する紫鶴の秘部を守る茂みにからみつき、自らの流れをせき止めてそこに精液だまりを形成する。

 紫鶴はその強烈すぎる刺激に対し必死に眉を寄せて耐えている。いつの間にかお尻から左手を口元に持ってきていてその指を噛んで声が漏れるのを堪えている。

 白色のぐにゃりと曲がった思考の中でぼんやりと少女の喘ぎ声を聞きたくなり、僕は無意識に腰を動かす。円を描くようにぐりっと先端に圧力をかけると、僕自身の精液が滑りを良くしたかさらに少しだけ前に進む。

「〜〜〜! 〜っ! 〜〜〜っ!」

 僅かに喉の奥の方からくぐもった声が聞こえたが、それだけだった。紫鶴はその刺激にも懸命に耐える。残念だけど……これ以上は無理だろう。
 だんだん血の上った頭に正常な思考と感覚が戻ってきた。紫鶴の背中に抱きついたまま呼吸を整える。

 契約のための射精では無いのだからブラックデザイアの魔力の介入は無かったはず。にもかかわらず、恐ろしく長く続いたそれは僕のキャパシティを明らかに超える量を吐き出した。いったいどこにこんなに溜まっていたのやら。

 身体を離すと元のサイズに戻り始めたモノと紫鶴のお尻との間に白色のアーチが作られる。伸びきって切れたそれは紫鶴の股間部の真下に丸まった状態で脱ぎかけになっていた水着に垂れ落ちた。

 紫鶴のお尻から僕が最後に注ぎ込んだ精液が溢れ出る。固形に近い特濃のそれは勢いが無いせいで入り口付近に留まっていたんだ。ゆっくりと先行者達の通った道を辿って垂れていき、股間の茂みにからみついた粘液溜まりを乗り越え、最後にまたも水着の内布にぽってりとした塊のまま落下した。

「……あの、郁太さん?」
「少し待ってて下さい」

 紫鶴の股間を伝って次々と粘液が水着の上に落ちていく。ふむ、僕は思うところあってまだ出しっぱなしだったモノを扱いて中に残っていた白濁液をそこに振り落とす。そして最後にクロッチ部で先端を拭った。これで紫鶴の水着の内側はまるで精液に浸かったかのようにどろどろだ。

「……はい、終わり」
「もう、起きてもよろしいですか?」
「ええ。ただ、水着に少し垂れた分が勿体ないからこぼさないようにそのまま履いてください。匂いとか染みとかは気にならないでしょう?」
「そうですね」

 量が量なだけにその匂いもかなりきつい。けれど、あらかじめこう言っておけばブラックデザイアの支配下にある者達はこの強烈な臭気に気が付くことはない。

 紫鶴は僕からの指示通り水着のあて布に溜まった粘液をこぼさないよう注意しながら上体を起こすと、元通りにそれをずり上げて履き直した。股間と大量の精液が接触した瞬間、ぷちゅっと淫猥な液体音が奏でられる。あふれた白濁が水着と肌の隙間から内股にどろりと垂れた。
 僕はそれを見ながら何食わぬ顔で説明を続ける。

「こうやってお尻に入らなかった分も塗りつけておけば効果が上がるんですよ」
「そうなんですか。外用薬としての効能もあるんですね」
「ええ、まあ……あの、お尻の方、大丈夫ですか?」

 ちょっと気になってたずねてみた。
 最後の方、やっぱり少し我を忘れて乱暴になってしまった。紫鶴にはやはり僕の心を乱す何かわからない魅力がある。僕の自制心が足りないだけってわけでは無いと思うんだけど……。

 膨張した先端部を無理に押しつけたせいでお尻の皺が伸びきってしまったりはしていないだろうか。血は出ていなかったけど、結構苦しがっていたようにも見えた。
 こんなことで紫鶴に自信をつけてあげられたのか非常に怪しいところだ。

 心配そうな口調の僕に、紫鶴はいつもの人を安心させる微笑みを返す。この笑顔を見ると僕の胸裏のわだかまりはあっさりと流れていってしまうんだ。

「ええと、正直ちょっとまだ違和感がありますけど痛くは無いので大丈夫ですよ」
「そうですか……あ、そうだ。この後はすぐにはプールに入らない方がいいかもしれません。サウナとかで汗を流した方がいいかも」

 せっかく紫鶴が僕の精子漬けになってくれたのに、あっさりプールで流されてしまったらもったいない。マーキングというわけじゃないけど、もう少し僕の匂いに包まれていて欲しいな、紫鶴には。他に誰も気が付かないだろうけどさ。
 紫鶴はそれを了解するとペコリと頭を下げた。

「本当にありがとうございました、郁太さん」
「いや、どういたしまして。大丈夫、きっと直りますからね」

 再度丁重にお辞儀をし、紫鶴がこの場所を去っていく。見送る後ろ姿はいつも通り凛としたこの学園の姉の威厳を感じさせる。だが、その内股にどろりと垂れる粘液の反射光が見えてしまっているのがなんとも淫猥極まりない。
 離れてみてわかったが彼女から発せられる精液の匂いもかなり強烈だ。まあ、そんな紫鶴に僕の股間が再度大きくなってしまったのはご愛敬だけどね。

 僕はサウナで蒸された後の紫鶴が一体どんなになっているのかを考えてニヤニヤしつつ、換気のために全ての窓を全開にしてこの採暖室を後にした。




4.


「あむ……んふぅ……んちゅ……ぅん……」
「んんぅ……くぅん……ふぅん……あん……」

 少女達の鼻にかかった吐息とくちゅくちゅという粘質な液体音がそこかしこから聞こえてくる。ぐるりと周囲を見渡せば、遮る物の無い解放されたテラスにて十数人の裸の娘達が未成熟な胸を擦り付け、お互いの口をむさぼるように唇と舌を絡ませ合っていた。
 真正面で僕に見せつけるように絡み合う2人がいる。口元からお互いの唾液が混ざった粘液が顎を伝い、たらりと胸元に流れ落ちた。

「あん……もったいない」

 一方の少女がもう片方の少女の胸のふくらみを覆うように広がっていくその液体を追って口をつける。小鳥がついばむように、何度も何度も口付けしてやわらかな皮膚を濡らす液体をすくい取っていく。

「ん……おいし♪」

 そう呟き、少女はにっこりと笑みを浮かべた。




 まるでサバトか同性愛者達の乱交パーティーの現場のようなこの惨状。これが閉鎖された薄暗い屋内で行われていたら誰だってそう思うだろうね。
 だけど、現在時刻午後1時、場所はプールから出てすぐのテラスにてサンサンと初夏の陽光の下で公然と実施されているこれは、もちろんそんな怪しげな催しではない。

 実はね、これはただのお昼ご飯。
 午前中散々プールで遊びまくったので、先ほど僕はみんなに今日の集まりの終了を伝えた。3時間も体を動かせばそろそろみんなくたくただろうしお腹もすいてくる。なにより裸ばっかり見てるだけってのも飽きてきちゃうよ。
 それで、僕はみんなに帰る前に昼食をとるように勧めたんだ。もちろんこれは予定のうち、そのために七魅に言ってわざわざ特製の料理を用意させたんだからね。

 その際みんなには濡れたままで風に当たると体に悪いから着替えるように指示した。プールはもう終わりだし、借り物の水着を汚しちゃったらまずいでしょう? 何もおかしいことは無いよ。ただし、水着と引き替えで返却された下着を身につけることが出来るのは帰りに玄関まで行ってからだけどね。

 これは今日だけの特別ルールなんだ。みんなにはプール内で水着から着替える時はまず最初に靴下と靴を履かないくてはいけないと偽の認識を書き込んである。制服の前に下着を身につけるように、靴の前に靴下を履くように、今日この場にいる女の子達にとっては下着を着る前に靴を履くというのが常識になっているんだ。だから、靴がある玄関までは彼女たちはみんな他の衣服を着ることはできないし、しようとも思わないってわけ。

 そしてもう1つ、本日の特別ルール。今日のお昼ご飯は特別な食べ方をしなくてはならない。スプーンで掬ってそれを口に入れてもいいけど、歯で噛み砕いてはいけない。
 じゃあ丸呑みするのかというと、そこまで無茶はさせないよ。歯以外の唇や舌や体を使って細かくすることは可能なんだ。
 ただし、「他の人の」唇や舌や体を使って、ね。

 ふふふ、もうわかったよね。そう、今日この場で食事をするためには、誰かとペアを組んで2人で舌を擦り付け合って飲み込めるサイズまで潰して細かくし、唇で相手の口の中の食べ物をすすって食べるしかないんだよ。
 もちろん食事にはその為にやわらかいフルーツのシロップ漬けやゼリーやケーキやヨーグルトなんかをたくさん用意させた。ちょっとバランスが悪いかな? でも女の子は甘い物が大好きっていうし気にしない気にしない!

 口からこぼれたって大丈夫。なにしろ相手の体は食器なんだ。スポーツでも審判は石と同じってルールがあるでしょ? 胸元についたクリームやお腹に垂れるヨーグルトはスプーンに乗ったデザートだ。遠慮無くそのまま食べていい。

 先ほどの少女がしゃがみ込んで相手の内股のあたりを舐め始めた。あーあ、随分微妙なところまで流れていったもんだ。赤い舌が白い何かにまみれた敏感な部分を舐め上げる度に、もう1人の少女は体をぴくぴくさせながら眉を寄せて感触に耐えている。ここまでされてもお互い何かおかしいと気が付く様子もない。

 それどろか、まだキスもしたことの無いような箱入りお嬢様方ですら自分から舌を挿し入れてディープに甘〜いのをキメている。ほんと、認識書き換えってのは怖いねぇ。

「……イクちゃん、さっきから何ニヤニヤしてるの?」

 それなのに、だ。

「あー、達巳クン鼻の下伸びてる?」
「不埒な男は女性に嫌われます」

 それなのに……。

「もー、イクちゃん! あっちの方が美味しそうだからって私のおべんともちゃんと食べてよぉ!」
「……へいへい」

 僕はしぶしぶと勧められた通りお弁当箱の中から三角おにぎりを1つ取って端っこからかじってみせた。さすがにお米や中の具を噛まずに飲み込むのは体に良くなさそうなんで、こっちにある弁当に関してはいつも通り歯で噛んで食べてもいい事にせざるを得なかった。

 うん、別にまずくはないね。時間が経ってるから冷めちゃってるし、箱の中で寄ってたせいで形がちょっとおかしいけど、ちゃんと炊けてるし味だって食えない物じゃない。

「……どうかな?」
「ん、おいしいよ」

 とたんに不安そうな顔に花が咲いたような華やかな笑顔が浮かぶ。「じゃ、これもこれも!」とずずいっと卵焼きの入ったおかずBOXを寄せてきた。いや、だから、さ……。

「……ハルは向こうのご飯は食べないの?」
「なんで? 私、ここの分でお腹いっぱいだよ?」
「そりゃそうだろうな……」

 僕は改めて自分の周りをぐるりと見回す。10人は座れるピクニックシート上には、ハルが朝4時に起きて作成したと白状した膨大な量の料理が詰まった弁当箱やバスケットや重箱がずらりと武装展開されている。いったいどこにこんなに入ってたんだ? ハルのバッグは四次元にでも繋がっているのか?

「でも、男の子ならこれくらいよゆーだよね?」
「これが日本男子の平均的摂取量ならこの国はもうすぐ食糧難で滅びるだろうね」
「だいじょーぶ! わたし輸入米でも我慢するよ」

 そういう問題じゃないだろ。
 僕の斜め後ろの別の女の子から声がかけられる。

「期待されちゃってるねぇ。がんば! 達巳クン♪」

 気楽に言ってくれるな。振り返って恨みがましそうな視線を送ってみるが、当然のようにそれを歯牙にもかけない三繰。「ほら、カニさんおいしーよ?」とその隣に座った七魅と2人だけの世界に浸っている。これだからお嬢様って奴はさぁ。

「郁太さん、微力ながら私もお手伝いしますから……」

 とハルの反対側、左隣の少女が僕にこっそり耳打ちしてくる。うう、僕の味方は君だけだ……と、見上げるそこには女神のような微笑みを浮かべている紫鶴。

 だからね、紫鶴さん? 僕は女の子達が淫らに絡み合っている光景を見たくてこの昼食をセッティングしたのですよ、それなのに。

 それなのに!

 どうして君達はハルの作ったお弁当を食べにこっちのシートに来てるのかなあ!?

「達巳君の思惑には一切乗るつもりはありませんので」

 とは後方の七魅の弁。うう、徹底的に嫌われてるなぁ、僕。

「ナナちゃんが行かないなら行かなーい」

 三繰よ、そんな時こそお姉ちゃんパワーの出番だろ? くそぉ、このシチュエーションは三繰の趣味に合わなかったのか。計算外だ。

「あら。私はお邪魔でしたか、郁太さん」

 あはははは。紫鶴さん、そんなわけないでしょう。別に現状に不満なんて有るはずがありません。なんたって、裸の美少女4人に囲まれてのお昼ご飯なんてウハウハの環境を体験できる男が、そうそう存在するはずもないですからね。まさしくここはハーレム、欲望の殿堂。
 だけど、入魂のお膳立てをあっさりと躱されてしまうとそれはそれで悲しいものが有るわけでして……。

 フルーツの有る方のシートからまた新しいチャレンジャーがやってくる。手にはヨーグルトの和えられた何かが盛られた皿を持ち、若干緊張気味の表情で顔を赤くしつつぎくしゃくと寄ってくる。

「あ、あの、紫鶴さま。ご、ご……ご一緒してもよろしいでしょうか!?」

 おお、今度の娘は根性有るな。ちゃんと紫鶴の側までやってきてやりたいことも口に出した。これまでの数人は紫鶴の顔を見るなり真っ赤になって引き返していったからなぁ。

 紫鶴の表情に注目する。
 この誘いを受け入れるって事は、つまり僕の作ったルールに沿った食事をするって事だ。つまり、紫鶴とこの少女は例のディープな絡み合いをしなくてはならない。
 さっきから度々こっちに寄ってくる少女達も狙いは当然紫鶴だったのだろう。なにしろ、憧れの元セイレン・シスターと一緒に食事するだけじゃなく、それこそいろんな所を深ーく知り合うチャンスなんだから。

 紫鶴はにこやかな笑みを絶やすことなく口を開く。さて、どう答える?

「ごめんなさい、実はもうここのお食事でお腹いっぱいなんです。でも、よろしければあなたも一緒にこちらのお弁当をいただきませんか?」

 ……そう来たか。

 少女の表情が見る見る青くなっていく。あー、まあこの、はっきりいって正気を疑うような弁当の軍勢には戦いの前に白旗を上げたくなるのもしょうがないよなぁ。ここで引き受けたが最後、二度と平和なあちら側には戻れなくなることは必至だ。
 10秒ほどその少女はあーとかうーとか葛藤した後、がっくりと両肩を落とした。

「い、いえ、せっかくですけど……お邪魔しました」

 そう言ってすごすごと退散していく。そして、帰った先で同じように撃沈していった先駆者達に慰められていた。はい、ご愁傷様。

「ねぇ、イクちゃん。ちゃんと食べてる? お箸が止まってるよ?」
「食べてるよ? っていうかハルこそ責任取ってもっと食え」
「責任? 何の?」

 たった今、夢見る乙女の野望を圧倒的物量という名の無慈悲な暴力で無惨に叩き潰した責任、だ。

 ハルは「むむむ? むむ?」とか変なうなり声を上げながらさっきから箸の動きが緩慢になってきている。そろそろ、自分が如何に理不尽な大々々部隊を召喚したのか理解し始めたようだな。はっはっは、今頃遅いんだよ。

 現実的に考えれば今からでも他の娘達を呼んで弁当箱を分配、各個撃破を狙った方が遙かに勝率は高いだろう。如何に源川弁当箱戦車部隊が大兵団であろうと、こっちは育ち盛りの学生20人だ。みんなで一斉にかかれば打ち倒せない筈がない。

 だけど、そうなると当然七魅の用意した方の昼食は中止にせざるを得ない。この食事でどれだけ魔力が稼げるかわからないが、ハルの弁当ごときで×20の倍率の魔力供給チャンスを見逃すってのも馬鹿な話だ。

 うん、そうだよ、そもそも今日の目的は集団コントロールによる魔力の荒稼ぎだったはずだ。ハル、残念だけどお前の弁当はゴミ箱行きだ。さっそく新しい書き込みをしてやろう。

「あのさ、ハル……」
「あう〜、イクちゃんごめんねぇ。なんか作り過ぎちゃったみたい」
「やっと気が付いたか」

 しょんぼりと肩を落とすハル。しめしめ、自分から言い出してくれるなんてラッキーだ。インサーションキーの選択が楽になるからね。

「ごめんね。イクちゃんのおべんと調子に乗って作ってたら、なぜか冷蔵庫のなか空になっちゃった。あははは……」
「あっ……そう……」

 ハルが苦笑いしながら弁当箱を片付け始める。半分以上がまだ手もつけられていないままだ。まあ、自業自得だよな。捨てるにしろ、持ち帰るにしろ後は作り主のハルに任せればいいか。僕には関係の無いことだし。

 手に持った弁当箱を置き、お茶でも飲もうかと周囲を探していると何故か七魅が微妙な表情でこっちを見ている。なんだよ? 言いたいことが有るならはっきり言え。無視して水筒の捜索を続けているとあきらめたのか僕への視線を外した。

「……よろしいのですか?」
「何がです?」

 今度は紫鶴か。
 なんで僕に言うかなぁ、ハルだって子供じゃないんだし自分の失敗の後始末は自分でやらなきゃいけない事ぐらいわかってるはずだろ?

 ハルの前に集められた弁当箱に目をやる。手のつけられた箱の中身が他の箱に移される。カニやタコの形に切られたウインナーや、アスパラのベーコン巻、茹でたウズラの卵などなど、色とりどりの典型的なお弁当の具がハルの箸で一個一個詰められていく。

 ……。

 ちぇっ。

「ハル」
「ん? なに?」
「僕、まだ食べ終わってないんだけど」
「え?」

 ふん、ここで紫鶴の心証を悪くするわけにもいかないからな。それに大局的に見て女の子達の僕へ対する評価を下落させるのは得策じゃない。
 僕はハルの手から詰め込み途中の弁当箱を奪い取ると、口に付けてそのまま流し込むようにおかずを口の中に放り込み始めた。

「イクちゃん……」
「ん、ちょっとお茶もちょうだい」
「え、う、うん!」

 他の3人が何故かにこにこと僕達の方を見ている。ふ、せいぜい大和男児の特攻魂を見ていてもらおうじゃないか。骨は拾ってくれよな!




 それから30分後。
 あれほど大量にあった弁当は見事に片付けられていた。

 ふう、人間死ぬ気になればできるもんだな。半分くらいはみんなに協力してもらったとはいえ、あれだけの量が僕の腹の中に収まってしまうのだからまさに人体の神秘。出された料理を残せない貧乏体質が恨めしいぜ。

 とは言ってもさすがにこれは食べ過ぎた。腹の中が全て胃になった気分だ。ちょっとでも刺激が与えられたら色々とまずいものがハミ出しそうである。しばらく動けそうにない。

「郁太さん、郁太さん」
「はい、なんですか?」

 上機嫌でいそいそと空になった弁当箱を片づけているハルを後ろに手をついて腹を圧迫しないような格好で眺めていたら、横から紫鶴に声をかけられた。窮屈な体を動かしてそっちに首を向ける。
 その瞬間。

「んむ!?」

 !? え……何これ!?
 目の前に人の顔がどアップで映ったと思った次の瞬間、唇に柔らかいものが押しつけられた。それだけじゃない、なんか酸っぱい味のどろどろした冷たいものと一緒に弾力のあるあったかいものが口の中に入り込んできて、僕の舌の上を無造作に動き回る。
 あっけに取られた僕は思わず流し込まれた何かをゴクンと飲み込んでしまった。これは、えっと……ヨーグルト?

 目の前の顔が急速に離れていく。唇と唇の間に白みがかった唾液のアーチができる。え? え? え? 何で?
 何で僕、紫鶴とキスしてるの!?

「し、紫鶴さん!?」
「おいしいですね」

 紫鶴は平然とした表情でそう言い、手に持ったガラス容器の中のスプーンをかき回す。あれは……七魅の持ってきたヨーグルトか!

「な、なんで?」
「郁太さんがあちらの食事も気にされていたようでしたので、持って来ちゃいました」

 いや、それは別に料理が気になっていたわけじゃなくて、それを食べてる女の子達を見ていただけなんですけど。

「はい、今度は郁太さんの番」
「はい?」

 僕の手にポンと容器が乗せられる。紫鶴は膝を動かして僕の方に向き直ると、顎を上げ、軽く目を閉じてあ〜んと口を開けた。
 え? え? え? 僕に何しろと?

「あ〜! イクちゃんわたしもわたしもっ!」
「ナナちゃん、私達も一緒に食べよ♪」
「姉さん、それはちょっと……」

 片付けを放りだしたハルと七魅を引き摺って三繰まで回り込んで僕のところにやって来た。3人ともちょこんと女の子座りして餌を待つ雛鳥のように口を開ける。
 何これ? 何これ? 何、このハーレム? みんなに口移しでヨーグルトを食べさせろって言うの、僕に? いったいどこでこんな流れに?

「郁太さん?」
「イクちゃん、あ〜ん」
「達巳クン、ちょ〜だいっ♪」
「……ふぅ」

 若干一名を除き、なんだその期待に満ちた視線は。君達、実は僕をからかってないか? っていうかね、はっきり言わせてもらうともう無理。物理的限界。

「待って! 実は僕もう腹一杯なんだ。もう食べられないよ」
「あら、そうだったんですか? すみません、郁太さん」

 慌ててそう言うと、紫鶴はあっさりと引き下がった。残り3人もそれぞれの表情でしぶしぶと、あるいはほっとした表情でそれに倣う。ふう、据え膳食わねばなんとやらというけど、生命の危機を前にしては致し方ないだろう。なにせさっきの紫鶴のヨーグルトがもう喉のすぐそこまで来てるんだから。これ以上腹に何か入ったら僕はきっとえらいことになってしまう。

 僕は紫鶴に残りのヨーグルトを押しつけ、後ずさりしてシートから退却した。戦域離脱成功、太陽が眩しいぜ。

 ……さてと、これからどうしようかな。腹も膨れたし(比喩ではない)、あっちの昼食もあらかた無くなった。そろそろ撤収かな……でも、その前にやることが1つある。

 僕は下着を集めたり配ったりする時に使用した机に向かい、その下に置いてあるバッグからデジカメを取り出した。「証明写真」撮影に使用した奴だ。最後はこいつにもう一働きしてもらおう。

「おーい、みんな。帰る前に記念撮影しない?」

 そう女の子達全員に声をかけて回る。まあ断る娘がいるはずもないよな。食事を終えた娘達がぞろぞろと僕の元に集まってきた。

 僕は全員そろったところでみんなに撮影ポーズの指示を出す。さあ、本日最後の露出イベント、全員参加ヌード記念撮影大会の始まりだ。

「前の列のコはシートの上で……後ろの列はベンチの上に座って……うんそう、僕がハイチーズって言ったら両手はVサインね」

 記念写真にVサインなんて全然ひねりがない、そう思うでしょ? でもね、この写真のVサインはひと味違う。

 女の子達は10人ずつ前後2列に別れ、前列はさっき僕たちがいたシートの上、後列がその後ろにある長椅子の上でしゃがみ込んでいる。お尻をつけ、膝を左右に開いて前が見えるような格好でね。そう、いわゆるM字開脚さ。
 そして、彼女たちの片方の手は僕の指示で自らの股間に添えられている。ふふふ、この状態で撮影したらどうなるかなぁ?

「はい撮るよー。さん、にぃ、いち……ハイ、チーズ!」

 みんなが一斉に笑顔でVサインを作る。片手はカメラに向けて、そして股間のもう片方はそのまま人差し指と中指の間を開いて……ほらね、彼女たちの大事な部分がその指に押し開かれてぱっくりと丸見えだ。
 自分の格好に何の疑問も持たず、にこにこと自分の恥ずかしい場所をカメラに曝す20人の乙女達。もちろん僕は遠慮無くシャッターを切った。カシャッカシャッと、念のために2枚分。

「……はい、もう1枚いってみようか!」

 この調子でどんどん扇情的なポーズをとってもらおう。
 今のM字開脚から手を後ろについて腰を浮かして突き出したポーズの写真。後ろを向いて座って開脚後転を途中で止めたポーズ、いわゆるまんぐり返しでお尻と秘部を自分でくつろげている写真。立って膝に手をついてこっちにお尻を突き出し、振り返っているポーズの写真。そのまま体を前に倒して脚を開き、股の間から顔を出してピースしている写真、等々。

 これだけの数の正真正銘のお嬢様達が無邪気に無防備な姿を晒してくれるなんて、ブラックデザイアの力でもなければまず不可能だろうね。ほんと、いい記念写真だよ、これ。

 みんなによつん這いで横を向いて並んでもらい、カメラの方の片足を高く上げさせて犬のオシッコのポーズの写真を撮影したところで少し考える。

(裸で恥ずかしい格好を撮影するだけじゃ芸がないな。なんかもう少しインパクトを出せないかな……ん、犬のオシッコ?)

 ! ふふふ、思いついたよ。とびっきりインパクトのある構図をね。

「最後にもう1枚、場所を変えて撮ろう」

 みんなを従えてテラスの先の階段を下りる。そこにあるのは水を張っていない屋外長水路プールもとい、本日限定特設屋外トイレだ。ここで最後の記念撮影をするよ。

「みんなは連れションってしたことある? 休み時間とかに親しい友達と一緒にトイレに行くでしょ、連れションは友情を深める重要なコミュニケーションだよね」

 プールサイドに女の子達を並べて説明する。いきなりの下ネタに最初は顔を赤らめたみんなだけど、すぐに疑問を感じることもなく僕の話を受け入れ始めた。みんな素直でいい娘だなぁ。

「今日来てくれたみんなもプールやお昼でだいぶ親しくなったと思う。だからね、最後に記念にみんなで連れション写真を撮ろう!」

 僕のとんでもない申し出に対しても即座に女の子達の中から賛成の声があがる。ふぅ〜、馬鹿だなぁ。いくら連れションが友情を深めるったってそれを記念写真にする露出狂がいるわけ無いじゃないか。あ、いや、1人いるか。この中に。

「うん、それいいよ達巳クン♪ ほらみんな並んで並んで」

 言わずもがな、ノリノリでみんなの整列をとりしきっているのは三繰だ。僕はそっちは任せておいて脇に置いてある椅子をプールの中へと降ろしておく。この上から撮影すれば足下を流れていく液体に濡れることもないしね。

 スタート台は9人分しかない。だからみんなにはプールサイドに座ってもらう事にした。脚を左右に広げられるだけのスペースを空けて20人の裸の少女がずらりと等間隔に並んでプールの縁に腰掛ける。

「できるだけぎりぎりに座ってね。お尻の位置が良かったらみんな脚を開いて準備してくれるかな?」

 ファインダーの中の少女達が僕の言葉に次々と開脚して僕に股間を見せつける。それぞれの肌、それぞれの胸、それぞれの秘部。陽光の下に全てが曝され、そしてこれから乙女として最も恥ずかしい排泄姿を披露しようと待機している。うん、準備オッケー。

「3、2、1でみんな一緒に出してね。それを確認してからハイチーズで撮るから、Vサインと笑顔を忘れずに!」

 最終確認し、ファインダーを覗き込む。おっと、一応用意しておいた三脚付きビデオカメラの撮影も開始して、と。
 こんな光景、静止画だけじゃ勿体ない、始まりから終わりまでの全部、表情や身体の微妙な変化や、排出される一部始終、その音声まで含めてぜーんぶ記録しておかないとね。

「ハイじゃ撮るよー……3!」

 少女達が顔を見合わせ、そして真剣な表情になって下腹部に力を込め始める。いよいよだ。

「2ぃ!」

 股間の毛並を整えていた何人かがその手を離す。視界クリア、もうレンズとその空間を遮るものは何もない。初夏の風が彼女たちの髪と、そして秘部の茂みを僅かに揺らす。

「1!」

 カウントを言い終わった直後、ワンテンポ置いてみんな一斉にぴゅるっと秘所から水流を放ち始める。ちょっと恥ずかしそうな、ほっとしたような微妙な表情。うん、いい顔だ! これが撮りたかったんだよ!

 全員が赤らんだ顔でにっこりと笑いを作り、こっちに向かってVサインを出した。周囲には独特の匂いが漂い始め、じょろじょろと20人分の不協和音が響き渡っている。
 OK、シャッターボタンにかかる指に力を込める。

「ハイ、チーズっ!」

 ──カシャッ!

 ファインダーの中には笑顔でピースしながら放尿する女の子達の艶姿×20! 世界にまたとない究極の記念写真が撮れましたよ!




 こうして、お嬢様20人によるヌード連れション写真撮影を最後に、僕のプール大作戦は大好評で終了したのだった。




5.


──……ちゃん……いくちゃん……ねえ……いくちゃん……

 遠くの方から、かすかに僕を呼ぶ声がする
 誰だよ、僕を起こすのは……眠いんだよ、ほっといてくれよ

──いくちゃん……ねえおきてよ……いくちゃん、もうおきようよぉ……

 うるさいなぁ……その声はハルだな?
 ハルごときが僕に指図するのか? いい度胸だな?

──だって……いくちゃん、やくそくしたじゃない……きょういっしょにあそぶって……

 決めたのは僕、そしてそれを実行するかどうかも僕が決める
 ハル、お前は僕が来いと言った時だけ来て、帰れと言ったらすぐいなくなればいいんだよ

──そんなぁ……いくちゃん、あそぼうよ……おもちゃももってきたよ……ごほんもいっしょによもうよ……

 うるさいな……おい!

──わっ!

 ハル……お前は僕の何だ? 答えてみろ

──わたし……わたし、いくちゃんのおとなりさんで、おともだち……

 違うだろ、もう忘れたのか? 僕とお前は友達なんかじゃない

──あう……

 僕とお前は何だ? ほら、“けいやく”の言葉を言ってみろ

──…………

 言えよ!

──わ、わたし……みながわはるは……いくちゃ……たつみいくたの……

 ……続きは?

──……しょ……しょゆうぶつです

 そうだ

──しょゆうぶつは……しゅじんのいうことをなんでもききます……

 そう、その通り
 わかったか、ハル? お前は僕のモノだ
 だから僕の言うことは何でも聞き入れなくちゃならない
 口答えするな 反抗するな 僕が居ろと言ったら居ろ 消えろと言ったらいなくなれ

──……うん

 うんじゃない、「はい」だ わかったか、ハル?

──う、あ……はい……

 ふん、わかったならもう僕の邪魔をするな 僕は眠いんだよ

──え……や、やだよ! ねえ、あそぼうよ……ねえ、いくちゃん……いくちゃん……

 あーうるさいうるさい モノが僕に要求するな!
 黙って静かにしてろ!

──うー……ねえ、おきてよ……おきてよいくちゃん……

 ………

──おきてよ……おきなきゃだめだよ……ねえ……ねえ……いくちゃん……

 ………

「イクちゃん、起きてよ!」




「……うるさいなぁ……え?」

 目を開くと、何故かすぐ鼻先にきょとんとしたハルの顔があった。一瞬、状況がわからずに体が硬直する。

「あ、やっと起きた」
「……はい?」
「もー、何でイクちゃんこんなところで寝てるの?」
「こんなとこ?」

 ハルが身を離したので体を起こして辺りを見回してみる。
 ここは……プールの採暖室か? ああ、そうか。

 思い出してきたぞ。そうだ、プールの入り口まで帰るみんなを送った後、一応監視員代行ということで後片付けのために僕だけ残ったんだった。
 だけど、食べ過ぎでだんだん気持ち悪くなってきて、ちょっと休むつもりでここのビーチベッドに横になったんだっけ。どうやらそのまま眠り込んじゃったみたいだな。
 時計を見れば今は午後3時ちょっと過ぎ。なんだ、30分も経ってないじゃないか。

「ふぁあ〜……で、なんでハルがここにいるのさ?」
「ああ〜っ! そういう事言うの!? 待ってたのにぃ」
「待っててくれなんて言ったっけ?」
「むっきぃ〜! 人がせっかく〜!」

 頭がアンパンの人のごとく膨れ上がるハル。はぁ〜あ、なるほどね。三繰が帰っちゃったからドミネーションの効果も切れて、僕が監視員として残らなくちゃいけないって言った事もすっかり忘れてしまったわけか。
 それなら何とか言いくるめてハルも連れて帰ってくれればいいのにさ、三繰も七魅も気がきかないな。

「心配したんだからね! いつまでたっても出てこないし、様子を見に来れば椅子で寝込んでるし! 滑って転んでカドに頭でもぶつけたんじゃないかって心配したんだから!」
「そんなコントみたいな奴そうそういないって」

 まったく、こいつは本当にお節介焼きだな。以前星漣内を案内してくれた時にしても、今回の事にしても、僕をなんだと思ってるんだ。誕生日が僕よりちょっと早いからって姉貴気取りなんじゃないだろうな?

 そこでふと先ほどの夢のことを思い出した。夢の中のハルは声だけだったけど随分幼い印象だった。あれは僕の妄想? それとも現実に有った出来事?
 ちょっと聞いてみようか。

「ねえ、ハル?」
「えー? なにー?」

 開けっ放しだった採暖室の窓を閉めながらハルが生返事をする。ふう、それは僕がやろうと思ってたのにさ。まあ、楽ちんだから文句は言わないけど。

「あのさ、僕とハルってどんな関係なんだろうね?」
「何、いきなり」

 こっちを振り返って目を丸くするハル。それだけでは足りないのか僕のところまで小走りでやってきて顔をマジマジと凝視する。

「なにさ?」
「……イクちゃん、やっぱりどっか頭打った?」
「失礼な、人を異常者みたいに言うな」
「でも……何で急に?」
「どうでもいいだろ、そんなの」

 お前の夢を見たから、なんて恥ずかしくて言えるか。それに内容を告げたら僕は変態扱いされてしまうだろう。

「で、どうなのさ?」
「そりゃ、クラスメイトで教室では席がお隣の……幼なじみ、でしょ?」
「そうだよなぁ」
「変なイクちゃん」

 勝手に言ってろ。

 考えてみれば現実に有ったにしてもハルがあんな些細な出来事を憶えているはずがない。声の感じからすれば随分昔の事のような気がするし。

 無かった事だとしたらそれはそれでやばいけどね。なにもあんな小さな頃のハルが出てこなくてもいいのにさ。
 さっきの夢の内容はさっさと記憶の中に封印してしまう事にしよう。

「ほら、窓閉めたよ。早く帰ろ、イクちゃん」
「あーちょっと待って、一応ここの鍵全部確かめてくるから」

 そう言って採暖室を出る。一つ二つ閉め忘れたって問題にはならないだろうけどね。

 屋内プールの施設の扉を歩き回って確認していく。その中の1つの前に立った時、ふと僕の中にある思いつきが浮き上がってきた。振り返ってハルの顔を見る。

「ハル、ちょっと時間いいかな」
「え?」
「『幼なじみ』のハルにしか頼めない事があるんだけど」

 ドクンと蠢動する魔力の心臓の感触に、僕は思わず笑いを浮かべてしまった。




 ざばーっ

「ふぅーっ! いい湯だーっ!」

 肩まで一気に湯船につかり、僕は感嘆のため息をついた。日本人に生まれて良かったと心から思える瞬間だね。

「ハルー、何してるのさ? 早く来なよ」
「う、うん……」

 入り口の扉に半分体を隠しながらハルはこっちの方を覗き込んでいる。何恥ずかしがってるのかな、今更。

「ほ、本当に大丈夫かな……?」
「大丈夫だって。今日はもう誰もこないからさ、ほら貸切だよ?」
「うん……」

 お湯の中でバチャバチャとバタ足してみせる。普段ならこんなこと行儀悪くて絶対できない。
 ハルは僕の言葉にようやく吹っ切れたのか、こっくりうなずくと扉の影からゆっくりと中に入ってきた。

「今行くね」

 湯船から立ち上る湯気にハルの姿が揺らぐ。
 今日何度も見た女性のやわらかな丸みを帯びたシルエットの上に、紺色の古くさい形の水着を身につけている。胸の中央には長方形の白い「源川」の名札。
 そう、今ハルはプール遊びでは使わなかった星漣女学園指定スクール水着を着ているんだ。

 僕は今日、名目上監視員の役をやっていたのでプールには入れなかった。ずっと湿気のあるプールサイドでみんなの様子を見続けたせいで体は汗でベトベトだ。
 だから帰る前に汗を流したかったんだよね。幸いここの施設には暖をとるための広ーい浴槽があったから、ひとっ風呂浴びてくことにしたんだ。

 短パンの下にはいざという時のために水着をすで着ていたし、ポポイと脱いで湯船にドボンさ。ハルにはその付き合いを頼んだわけ。

 桶がないので手でぱちゃぱちゃとかけ湯したハルがそろりそろりとお湯の中に入ってくる。前の学校ではプールの授業は男女別だったから間近でスクール水着を見るのは初めてだ。結構新鮮。

「? なんでそんな端っこに入るのさ」
「え、だって……」
「話しづらいだろ、こっちに座りなよ」
「うん」

 お湯の中をそろそろと歩いて僕から人1人分くらい離れたところで再度座り込む。ま、水着着用とはいえ女の子と2人でお風呂なんざ初めての経験なんで、実は僕もドキドキしてるんだけど。

 側に座ったはいいがお互いに言葉が出てこない。ちゃぷちゃぷと水面の揺れる音と、換気扇が回るこーっという音だけがこの熱気のこもった空間に鳴り響く。

「ね、ねえ」
「ん?」

 沈黙に耐えかねたのか多少どもりながらハルが口を開いた。

「イクちゃんって、髪の長い人が……好き?」
「はあ?」

 驚いて横を見れば耳の横でショートカットの毛先をいじくっているハルが居る。いきなり何を言い出すんだこいつは?

「どうしてそう言う話になるのさ?」
「だ、だって……紫鶴さまは長いし……」
「紫鶴さんがどうしたのさ」
「あと、哉潟さん達も……」
「???」

 ハルの言いたいことがさっぱりわからん。それでどうして僕の話になるんだ?

「春原さんも今年は髪を切らないかもって言ってたし……」
「? 今年は?」
「うん、いつもは大会前に短くするの」
「そりゃゲン担ぎだろ。最後の大会だしな」
「……」

 黙り込むハル。何を考えてるんだろう。
 僕はため息をついて顔を正面に戻した。

「どっちでもいいよ、長くたって短くたって……ただ、いきなり髪型が変わるのは勘弁だな。せっかくみんなの名前を覚えたのにこんがらがる」
「そ、そんなに急に伸びたりしないから!」
「なんだ、髪伸ばすの?」

 「あう」と髪をいじくる手が止まるハル。図星か。

「……ちょっと、伸ばしてみようかな……って」
「なんで? ハルはそのままでいいじゃん」
「え!?」

 びっくりしたように手を戻してこっちを向く。お湯にのぼせてきたのかちょっと顔が赤いな。

「それって、似合ってるってこと?」
「ん、まあまあそうだね」
「そっか……そうなんだ」

 何だ、急にニコニコしだしたぞ? いや、もうニコニコのレベルじゃないな、「えへへへ」と声まで出ている。お前、僕と2人きりだからって仮面外し過ぎ。

 ……まあいいや。ハルも上機嫌になったことだしそろそろ本来の目的にかかろうか。風呂に入るのも1つの目的だけど、そっちの方のためにハルを連れてきたんだから。

「あー、それよりハル。ちょっと聞いて欲しい」
「えへへ、なになにイクちゃん」

 ……やけにハイテンションだな。
 ちょっと気になるけど、僕は当初の思惑を変えるつもりはない。インサーションキーを織り込んだ魔法の言葉を口に出す。

「『幼なじみの』ハルなら教えてくれると思って聞くんだけどさ」
「うんうん、いいよ。何でも聞いて」

 ふ、本当だな? 二言はないぞ? 何たってお前は既にブラックデザイアの支配下なんだからな。

「えっと……スクール水着には穴が空いてるって、本当?」
「え? 穴?」
「そう」

 これは僕も最近知った事なんだけど、旧いタイプのスクール水着、略して旧スク水は股布とお腹のスカート部分の間に隙間が空いてるらしいんだ。泳いでるときに胸元から入った水がお腹の辺りに溜まって抵抗にならないよう、そっから水を逃がすためのものらしい。

 以前転校する際にネットで情報を集めた時、たまたま検索に引っかかったマニアックなサイトでこの事実を知り、そして星漣の指定水着がこの旧スク水であることも発覚した。
 その時から本当にそうなってるのか事実確認してみたかったんだよなぁ。

「その水着、水抜きの隙間があるんでしょ?」
「うん、あるよ? ああ、穴ってこれの事」

 ざばーっと立ち上がったハルがスカート部分の中央を手で引っ張って見せた。おおう、本当だ。一直線に股布に縫いつけられていると思ってたのに、なんと中央部がぴらぴらとめくれるじゃないか。

「ほらほら、こうやるとここから中に空気が入るの。ぷくー♪」

 ううむ、なんてこった。水泳する乙女の最後の砦であるはずのスクール水着がこんなあけすけな構造になっていて良いのだろうか。外から見えない所が超無防備だなんてちょっと倒錯的だ。

「ちょっと確認してみていい?」
「うんいいよ。触ってみて」

 お湯からあがって浴槽のへりに腰掛けるハル。両脚を開いて僕に問題の箇所が良く見えるようにする。

「無理に引っ張らないでね」
「わかった」

 ハルがさっきめくって見せた辺りにそうっと指を差し入れてみる。人差し指にハルのなだらかなお腹の弾力。上下2層になっている水着の生地にはたった今まで浸かっていたお湯がしみ込んでいて、暖かくて濡れた感触に指が挟まれる。

 世の中の男達はみんなこの事実を知っているのだろうか。いやほとんど知らないんじゃないか?
 僕たち男は一枚布の海パンしか履かないからな。水着に切れ目が有るなんて発想がもともと無いんだ。

「……あれ?」
「あ、そこわたしのお腹」

 指先の感触が変わったと思ったらそういう事か。……って、お腹!?
 すげーっ! 別に脱がしたり、ずらしたりしてないのに素肌に触れることができるのか! 何という脅威のメカニズムだ! ビバ、旧スク水!

「ねえ、そんなに引っ張ったら伸びちゃうよ」
「あ、うん。ごめんごめん」

 言われて僕は指を奥まで突っ込み過ぎた事に気が付いた。ふむ、流石に腕は入らないか。
 指を引き抜けばもうそこには外から見て穴が開いているようには見えない。うーん、いい勉強になったな。
 よし、ついでだからもう1つハルに聞いておこう。

「もう1つ質問してもいいかな? 幼なじみのハルだから聞くんだけどさ」
「うん、何々?」
「女の子って、トイレに行くとき水着ってどうするの?」

 これは僕の長年の疑問だ。女子の水着って上下が繋がってるじゃないか。男子みたいにちょっと下ろせば準備完了ってわけにはいかないでしょ? 個室の中で何が行われているのかすごく興味がある。

「あ、うん。えっと、普通は全部脱いでするよ? 肩ひも外して、下までおろしてからするの」
「えっ? じゃあ女の子ってトイレの中で裸になってるの!?」
「うん、わたしはそうしてるけど」

 こ、これはまたもの凄い事実を聞いてしまった。まさかあの密室の中がそんなえらい事になっていたとは。覗かれたりしたら全部見えちゃうじゃないか。

「そ、そうなんだ。でも、毎回毎回大変だね、それじゃ」
「うん。だから脱がない人もいるみたい」
「え、脱がないで? どうやるの?」
「だから、ちょっとここをちょっとずらして……」

 ハルがさっきのポーズのまま股布に指を引っかけて横にずらしてみせる。うわあ……そんなことすると大事なところがお尻の穴まで丸見えになっちゃってるじゃないか。相変わらずハルはサービスがいいなぁ。……それなら。

「う〜ん? 良くわからないな……ちょっとここで実演して見せてよ。こんなこと幼なじみのハルにしか頼めないしさ」
「いいよ、えっとね……」

 きょろきょろと辺りを見回し始めるハル。ふむ、あそこなんてどうかな。
 僕は湯船から出るとあふれたお湯が流れ込む排水溝の蓋を1つ外した。

「ほら、この上でやってみせて」
「うん」
「あ、そっちじゃなくてこっち向きで」
「これでいい?」

 僕が開けた部分の上でしゃがみ込む。そして先ほどのように股間の布を横にずらして秘部を剥き出しにした。

「出すけど……いい?」
「ちょっと待って。よっと」

 僕はそれが良く見える位置に移動すると浴槽の縁に外向きに腰掛ける。これでゆっくり観察することができるね。

「いいよ。ここからなら見逃さない」
「うん。1回しかやらないから良く見ててね」

 そう言ってハルはお腹の辺りに力を入れ始める。数秒黙って見ていると、やがてその股間からちゃーっと軽い音と共に1すじの水流が出始めた。

「……ハルはどうしていつもは水着を脱ぐの? こっちの方が簡単じゃない?」
「うん。だけどこれって上手くやるの意外に難しいんだよ?」

 放出を続けながらも平然とした表情で質問に答えるハル。
 うん、確かに布を押さえ続けないといけないから、下手すると手にかかっちゃいそうだね。紙で拭くときも片手が使えないし、やっぱり全部脱いだ方が楽なのか。

 記念撮影の時から時間が経っていないせいか、あまり量は溜まっていなかったようだ。会話の途中からその勢いは徐々に弱くなっていき、せいぜい15秒くらいでぽたぽたと雫を垂らすだけになる。

「あ、そのままで。シャワーで洗ってあげるよ」
「ありがと♪」

 こんな事まで男にさせて平気とはね。これなら、アレをお願いしてもOKかな?

 最近はあまりにも忙しくて構っていなかったが、ハルだって星漣の3年生。ミドリ達写真部メンバーにも慕われている。それなりの統制権(ドミナンス)が有るはずだ。そう、ここで契約をしておけば後々役に立つに違いない。
 僕はハルが股間の布の位置を指を使って直すのを黙って待ち、そして最後の要求を口にした。

「後さ、こんなところで悪いんだけど、幼なじみなら男の性欲処理もするのは当然だよね?」
「え……あ、うん。そうだけど、えっと……ここで?」
「今日は誰も来ないって」
「う、うん……でも、どうしたらいいのかな」

 不安そうにハルは眉を寄せる。ま、知ってるわけないよな。

「まずは水着を上だけ脱いで。胸を見せてくれる?」
「うん」

 ハルは僕の言うとおりに肩ひもを外して水着を腰の辺りまで脱いでしまう。紫鶴ほどには大きくないが、それでも同年代の中ではかなり上位に入る弾力のありそうな2つの膨らみが露わになった。
 それを見て僕も海パンを下ろす。股間の僕の分身は今日2回目にも関わらず元気に上を向いていた。

「じゃ、胸を使ってコレを挟んでみて」
「うん」

 指示通りに膝をついて両手で胸を左右から持ち上げ、ハルは僕のモノを谷間の中に挟み込んだ。硬くなったソレを通じてハルの胸部の弾力と暖かさ、そしてまるで僕の高鳴りに合わせるかのように早まる生命の鼓動を感じ取る。

「こう?」
「ちょっと待ってね」

 普通は滑りを良くするためにローションとかを使うのかもしれないけど、残念ながらここにはそんなものは無い。シャワーで良く濡らして……っと。

「これでいいの?」
「う、うん……それで扱いてみて」
「うん……」

 ぎこちなくハルが上体を上下させ始める。
 う〜む、慣れてないせいも有るのかもしれないけど、これって別にすごく気持ちがいいってものじゃないな。柔らかい肌と肌の間にモノが包まれている感触は何とも言えない快感を伝えてくるけど、脳髄を焼くような強烈な性感を誘起するものじゃない。むしろ女の子にその上半身の全部を使って奉仕させてるっていうこの構図自体の方がゾクゾクくるね。

「どう……かな? 気持ちいい?」
「え? ああ、まあ……」
「……ごめんね、下手で」

 いや、それは当然だろう。大した説明もせずいきなり上手にやられてもそれはそれで問題がある。
 あ、でもハルのことだからまたお弁当の件みたいに不必要にへこむかもしれないな。普段何も考えてないくせに、たまに些細なことですごく落ち込むし。

「あ〜……じゃ、先っぽのへんを舐めてみてくれる」
「うん、わかった」

 赤い舌が唇から顔を出し、鈴口の辺りをちろちろと舐め始める。初めは先端だけでおずおずと、だんだん全体を使ってなめ回すように。
 竿の部分は体を揺することができなくなった代わりに手を使って胸全体を上下させて刺激を続ける。おお、お……こ、これは結構……。

「く、唇も使って吸い上げるようにしてみて……!」
「ん……ふぁい……」

 口から唾液をたらたらと胸元に垂らしながら上目遣いでハルがうなずいた。次の瞬間、ストローでジュースを飲むかのように吸い上げ始める。

 う、うわ、これヤバイ。まるで体の中身が全部吸い出されてしまいそうだ。噴き上がる快楽の勢いを必死に押しとどめようとするがもう遅い。ハルの口の中にまるで誘い込まれるように、僕の意志と関係無しに熱い塊がモノの中を走っていく。

「ハルっ! く、口の中に出すよ!」
「ふぇ!?」

 次の瞬間、竿の中を十分に加速した白濁がハルの口内に噴き出した。僕の中心の擬態心臓がフル回転し、モノの脈動に合わせて魔力がこもった精液が止め処なくほとばしる。あまりの快感に腰ががくがくと震えて視界が白黒に点滅した。

「──げほっげほっ! げほっ!」

 突然、下半身のあたりから聞こえたえづきに僕は現実に引き戻された。はっとして目線を下に向ければ、四つん這いになって大量の白い粘液を口からこぼしているハルの姿。
 え? ちょっと?……あれ?

「うえ〜、鼻にも入った〜……いたいよ〜……」

 僅かに燐光をまとったそれはタイルの床にぼたぼたと落下し、さっきから出しっぱなしのシャワーの水流に乗って流れ始める。
 あ、ちょっと、待って……。ぼ、僕の魔力が……ああ〜。

「は、吐き出すなよぉ……」
「うう〜、いきなりなんて酷いよ! 苦いし粘っこいし量多いし気管に入るし! 信じらんない!」

 上体をどろどろにしたまま再び例の人状態にぷりぷり膨れ上がるハル。もっとも、僕はそんなの全く聞いてないし、見てもいなかった。

 僕の生命の源たる魔力がお湯と一緒に先ほど開けた排水溝へと流れていく。僕はそれを、背中からのしかかる強烈な疲労感にがっくりと膝をつきながら呆然と見送った。

 ……ちくしょう……ちくしょぉおお!
 契約……失敗だぁああああああ!!!




6.


「ねーイクちゃん、どうしたの? なんか元気ないね」
「……ほっといてくれ」

 お前のせいだっつーの。

 ブラックデザイアで貯めこんだ魔力は幎からもらった疑似心臓の動力となる。それがなければ心臓が動かず、僕は死ぬ……つまり、僕の生命線なんだ。
 契約はそれのほとんどを一気につぎ込んでしまういわば捨て身の技。失った魔力は今夜幎から供給されるまで帰ってこないし、それまで僕はこの貧血状態で過ごさなくてはならないのだ。
 まさしく精も根も尽き果ててしまった僕は現在、よろめきながらハルと家路を辿っているというわけさ。

「本当に大丈夫? わたし、イクちゃんちまで送ったげようか?」
「いいから、さっさと帰れ。やばくなったら家に電話するから大丈夫」
「うん……」

 歩道橋のところでようやく別れる。ハルはこっちを何度も振り返りながら路地を歩いていき、最後に「イクちゃーん、また来週ー!」と大声を残して見えなくなった。
 まったく、子供かっての。こっちの体面も考えろ。まあ、怒る気力もないけどさ。

 階段を上りきり、欄干に背を預けて一息つく。あー、まるで体力が回復していない。やっぱり魔力が無いとこの不調は直らないのか。

 それにしても、さっきは失敗した。
 前回三繰と契約したときに一発で成功したから過信していたみたいだ。あの時は「食べ物」だと認識させていたから上手くいったんだよな。今回も先に言っておけば良かったんだ。

 手痛いミスだったけど、いい勉強をしたと思え。相手はハルだし、これから先いくらでもチャンスはあるさ。

「……夕立でも来そうだな」

 太陽の向かう先にムクムクと成長する雲が見える。あれがこっちに流れてくるかどうかわからないけど、さっさと帰った方がいいかもしれない。
 ふう、とため息をついて僕は体を起こす。

 なに、最後はあれだったけど、プール大作戦を成功させたことには変わりないんだ。今日の魔力供給はきっと今までとは桁違いに大量になることだろう。
 ボーナス日みたいなものだ。それだけの魔力を星漣でどう使うか、女の子達のどんな艶姿が見られるか今から心が躍る。そう考えれば気力も湧いてくる。

 僕は重い足を引きずりながら、それでも心の中で軽いステップを踏みつつ家への道を急いだ。計画が成功した暁の淫靡な学園生活を頭の中で夢想しながら、ね。




 ──思えば、この頃の僕は手に入れた力の使い方を憶えて有頂天になっていたのかもしれない。念じるだけで女の子の心を自在に操る能力を手に入れ、協力者も得る事ができた。若干の苦労はあったが当初の予定より遙かに前倒しで魔力の蓄積も進んでいる。それで調子に乗るなと言う方が無理だろう。

 しかし、本当は僕はもっと慎重になるべきだったんだ。もう少し目立たないように、慎重に、足跡を残さないように行動していれば、もしかしてあそこまで酷い事にはならなかったのかもしれない。

 6月の中旬、季節は初夏。
 空の向こうからいつの間にか近づいてくる夕立雲のように……僕の学園生活の崩壊はすぐ、そこまで迫ってきていたんだ。

 
 


 

 

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