カースト越えて恋


 

 

第2話


「すごいよな。やっぱ夢じゃねぇよ。可愛い子ちゃんたちが、みんなして俺たちの言うこと聞いてくれるぜ」

 ノリユキはご機嫌の様子でシュンタと肩を組んでくる。シュンタが早退したいと言い出したのを聞いて、何かを感じたマコト。休み時間に3人して早退することにした。廊下をすれ違う女子たちにお願いをすると、誰もがノリユキのお願いを快く聞き入れてくれる。スカートをめくってパンツを見せてくれたり、制服のシャツをまくり上げてブラジャーを披露してくれたり、ノリユキに胸を押しつけてくれたり、頬にチューしてくれたり、フレンドリーとか物分かりがいいとかいうレベルを超えて、何でもしてくれる。目の前で繰り広げられる異常で素敵な状況に、シュンタも何と言っていいのかわからず、ドギマギするだけだ。

「いや………、みんなしてって言うけど、微妙に反応が違うぞ、やっぱり」

 RKBの中では一番冷静でシャープなマコトは、意外と落ち着いて観察している。根っからの研究者気質なのか、趣味のアイコラを極めすぎて女の子のエッチなショットに慣れてしまっているのか。パンチラやブラチラよりも、すれ違う学生たちの反応を見ていたようだった。

「ちょっと試してみよっか。シュンタ、よく見ててくれよ。………どうせだから男子も………」

 マコトがフーっと息を吸いこむ。

「おーい。お前ら、みんな犬になれ。四つん這いでワンワン吠えてみろ」

 廊下に桂木マコトの声が響き渡る。友達と談笑していた女子たちや、ダルそうに歩いていた男子たちが、マコトの言葉を聞いて足を止める。即座に四つん這いになった先輩。困ったような顔をして、友達同士視線を交し合いながらゆっくりと膝を床につけていく女子たち。恥ずかしそうにワンワンと声を出し始める子、逆に恥じらいも理性も一瞬で失ったかのように、舌を突き出して大声で吠える子。10秒後には廊下中、見渡す限りが犬の真似をする学生たちで溢れていた。けれど、それぞれの犬へのなりきり度合いは少しずつ違うようだった。

「はい、もういいよ。もとに戻って。………でも俺らに文句とか言ってこないでね」

 マコトが声を張り上げると、少しずつ鳴き声が収まってくる。ホッとした様子で立ち上がる男子、キョトンとした顔で、まだ四つん這いのまま周りを見回している女子。廊下には、気まずい表情、照れくさい表情、わけがわからないといった茫然自失の表情、いろんな顔が溢れていた。

「いや、みんな反応一緒じゃん。マコトが犬になれっていったら、みんな犬になったぞ。すっげえじゃん。俺たち無敵? 神?」

 ノリユキは興奮して飛び跳ねる。肩を組まれているだけだが、デブが跳ねると、シュンタの肩が重い。そしてウザい。マコトはノリユキを無視して、シュンタに視線を送る。

「シュンタ、なんか気づいた?」

「………うん。なんかみんな、犬へのなりきりかたには、違いがあったような………。本気で犬になっちゃってるみたいな人と………。仕方がなく犬の真似事をしてたみたいな奴と………」

 ノリユキはシュンタの言葉を聞いても、まだピンと来ていないようで、首を傾げていた。マコトはシュンタに顔を近づけて話す。

「反応に違いがあるのは俺もさっき気づいた。それ以外にもあるぞ。その違う反応を見せる奴らって、共通点あると思わない?」

 言われてシュンタも考える。それでも特に何も思いつかなかった。

「………惜しいけどお前も、ノリユキグループかな。………あとできちんと証明してやるから、みんなでこのまま、俺んちに行くぞ」

 マコトの何かに気がついたらしい様子を見て、シュンタは少し迷った。シュンタの自宅には藤沢美緒が待っているはず。目の前の異変を見て、本当はすぐに自分の家に帰って、昨日恋人になれたばかりの大切な美緒の無事を確かめたかった。それでも、マコトについていかなければ、美緒を守るヒントを逃してしまうかもしれない。そんな不安にかられて、シュンタはしぶしぶマコトの家に直行することにした。

 学校を出るまでに、何回か、マコトはすれ違う女子を呼び止めて、耳元で何か囁きかける。マコトに話しかけられた女の子はみんな、頷いて歩き去っていった。


。。。



「よし、これで全員だな。さっそく実験始めるぞ」

 マコトの両親はお医者さんで、家は広い。マコトの部屋には立派なデスクトップと3画面のモニターがある。シュンタも写真が好きだったころは何回も通って、静止画ファイルの加工をさせてもらったものだった。そのマコトの部屋に、RKBの3人と、4人の今日初めて顔を合わせる女子たちがいる。1人はマコトと同じクラスの上村美知佳。同学年なのでフルネームくらいはわかる。あと2人は先輩のミチルさんとメグミさん。もう1人は1年生のシホちゃんとのこと。初対面の女子を下の名前で呼ばせてもらうのも、久しぶりな気がした。

「あの………、私たち。なんで貴方の家に呼ばれたのかな?」

「午後の授業も、部活もあるのに………。帰ってもいい?」

 微妙に違和感を隠そうとしながら質問するミチル先輩。迷惑そうな様子をかくさないメグミ先輩。シホちゃんはモジモジしながら様子を伺っている。

「…………まさか桂木。あんた得意のアイコラの素材か何かに私たちをしようっていう気じゃないでしょうねっ」

 上村美知佳はクラスメイトだけあって、マコトの情報を他の女子たちよりも多く持っているようだった。

「アイコラ素材? …………それも、まぁまぁいいアイディアかもね。でも皆さん、俺のお誘いを断ることも出来たのに、なんで来たの? 学校早退してまで」

「…………」

「俺、住所教えて、うちのお客になりましょう。すぐ来てねって伝えたよね。………来たら何するとか、一切教えずに誘った俺の言葉に従った。でも、どんな気分で来た? 正直に答えてね。まずはミチル先輩から」

「わ………私は、学校をサボるのは良くないから、来たくなかったけど、………なんだかどうしても、来なくちゃいけないような気分になって、………嫌々、来ました」

「メグミ先輩は?」

「アタシも部活に命かけてるから、絶対休みたくなかったけど、最後はほとんど足が勝手にって感じでここまで来ちゃった」

「………ふーん。そっか。………ミチカはどうよ?」

「私は…………。マコトがお客さんになりましょうっていうから、………お客さんとして、お誘いを断るのも失礼だと思って………。でも、今考えると、なんでそんな気になってたんだろ?」

「シホちゃんは?」

「………私も、お客さんだし、遅れちゃいけないと思って、………一生懸命、人に道を聞いたりしながら、やっと来ました」

 シホちゃんの様子からして、あまり知らない人に道を尋ねたりするのも苦手そうなタイプに見えた。それでも、一生懸命、マコトの家を探して、辿り着いたようだ。

「全員、俺たちにオッパイ見せて。見られるとすっごく気持ちいいよ」

「なんだよ、俺のアプローチとあんま変わんなくね?」

 ノリユキが文句を口にするけれど、本気で非難するようなトーンでは全然なかった。この天然パーマは結局のところエロが供給される限りはいつもゴキゲンなのだ。

 メグミ先輩が「はぁ?」と不快そうに声を出そうとして、そのまま動きを止める。眉が吊り上がって、怒りに震えながら、シャツのボタンに手をかける。ミチル先輩も泣きそうな顔をしながら、おずおずとボタンを外していく。上村ミチカはモゾモゾとシャツを脱ぎながら、鼻息がドンドン荒くなっていく。シホちゃんは高熱にうなされるように、ボーっと潤んだ目をさまよわせながら、赤い顔のまま白くて小ぶりのブラジャーを男子たちの目に晒す。

 シュンタは唾液を飲み込むのを忘れていた。今日、女子の下着を見るのは10回目を超えていたが、友達の家というパーソナルな密室で、女子3人が服を脱いでいくのを間近で見るというのは、興奮の度合いが違っていた。

 シャツが次々とカーペットに落ちて、ブラジャーのホックが外される。ミチカの丸いオッパイが、ミチル先輩の大きなオッパイが、そしてメグミ先輩の離れ目のオッパイと、シホちゃんの小さなオッパイがシュンタの目の前に曝け出された。

「隠さないでね。俺たちにしっかり見せて。今………どんな気分? 正直に答えてね」

「恥ずかしい…………。隠したい………。でも………隠したらいけない………」

 ミチル先輩が消え入りそうな声で訴える。

「超最悪………。でも、隠せない………。アンタに、隠すなって言われたから………」

 メグミ先輩が言ったあとで唇を噛む。

「恥ずかしいけど…………。見られてるのが………、気持ち……………いい………」

 ミチカが悔しそうに口を開いて、それだけ言うと、顔をそらす。ミチカの乳首が立っているのがはっきりとわかる。

「こんな…………の、………変なのに…………。気持ちいいです…………。わたし………どうして、こんなことに………」

 目に涙をためて、顔をぶんぶんと横に振るシホちゃんは、悶えるような荒い鼻息になっている。小さなオッパイの真ん中で、乳首が痛そうなくらい起立していた。全員、「気をつけ」の姿勢のまま、上半身裸で立ち尽くしているが、確かにその反応は同じではなかった。

「シュンタ。シホちゃん、可愛いよな。多分、そこそこのお嬢様だ。………俺の見立てじゃ、スクールカーストはAグループ。ミチカはまぁまぁ普通の女子だよな。それでもうちの高校って平均のレベルが高いとは思うけど。でもCグループかな? ………ミチルさんは多分Bグループ。メグミさんはD? いや、部活で目立ってそうな雰囲気だからCなのかもな。………言ってる意味わかる?」

「………いや、可愛さ評価は、間違ってないと思うけど………。それがどんな意味かってのは。ちょっとわかんないよ」

 シュンタは正直に答える。目の前の可愛い女子たちの生オッパイに気がとられて、頭がまわる状態ではなかったのだ。

「可愛さも女子には重要な要素だけど、俺はカーストのことを言ったんだよ。カースト高めの子ほど、俺の言葉の伝わり方が深いっていうか………、なんか心の芯から、影響されてる感じしないか?」

 マコトに言われて、シュンタはシホちゃんを見る。この中では一番可愛らしい顔立ちで、お嬢様っぽい雰囲気のあるシホちゃんは、乳首をビンビンに立てて、見られるだけですでに喘いでいた。内膝を擦り合わせながら、悶えるシホちゃんは、確かに一番感じているようだった。

「お前が黙れと俺たちに言った時も、俺たちは黙らなかった。おんなじカースト、Eグループだからな。でも俺たちの言葉に上のカーストの連中はみんな従う。同じように従うか? 違う。俺たちと格差がある連中。ずっと上のカーストの連中に対するほど、俺たちの命令は強い影響力を持つ。そういうことじゃね?」

「うぅうううう、もう、我慢できないっ。君たちみんな、スカートもパンツも脱いで、裸になってよっ!」

 ノリユキが、マコトの話をさえぎって叫ぶ。ミチルさんたちが目を丸くして驚く。それでもおずおずと、スカートのボタンに手を伸ばす。マコトはため息をついた。

「しゃーねぇな。じゃ、君たちみんな、全裸で踊る、ヌードダンサーだ。楽しくハイテンションに踊りまくれっ」

 マコトが指示を追加すると、ミチカがスカートを宙に放り投げる。普段は大人しそうなシホちゃんが、「フォーーーーーッ」と陽気に叫んだ。スカートが、パンツが、振り回されたあとで宙を舞う。マコトの部屋が破廉恥なダンスフロアに変貌してしまった。

 肌の白いミチル先輩が、腰に手の甲を当てて腰を左右に振る。固い笑顔を浮かべているが、目は困っているような表情だ。顔は赤くて、膝や肩は小刻みに震えている。メグミ先輩も床に寝そべって大きく開脚したり、セクシーに腰をくねらせたりして挑発的なダンスを見せるが、笑顔と怒り顔の中間くらいの表情で踊っていた。上村ミチカは、シュンタが見たことがないような屈託のない笑顔で、楽し気なダンスに興じている。そこまで運動神経は良くないのか、動きはそれほど俊敏ではないが、人目を全く気にしていないかのように、心底踊りを面白がっている様子がわかる。同学年の女子が素っ裸でヒョコヒョコ踊っているのを見て、ムラムラと湧き上がってくるものがある。けれど彼女の表情があまりにも幸せそうで、微笑ましくもあった。そして圧巻はシホちゃん。ツヤツヤした黒髪を振り乱して、いつの間にかマコトの勉強机の上に登って踊り狂っている。小ぶりなオッパイが上下左右に乱暴に揺れる。お嬢様はまるで、ヤバいクスリでもやっているかのような弾けっぷりで、踊り狂っていた。

「最低でもカーストが1階層違うと、相手の行動を支配できる。2つ以上、上の階層にいる奴は、行動だけじゃなくて、感情も支配できる感じ? ………ミチル先輩の反応を見てると、俺と同じクラスなのかとか、コミュニティの距離もちょっと影響してるのかな?」

 マコトの分析は、正しいような気がした。全裸の女子たちと一緒になって踊っているノリユキの横で、シュンタは小さな不安が膨らんでいくのを感じていた。

「あのさ、たまたま俺たちがラッキーですごくいい目にあってるとかじゃなくて、これ、カーストが起点になってるっていうこと?」

 シュンタが尋ねると、マコトは即答せずに少し考え込んだ。そして口を開く。

「はい、ダンスタイム終了。お前らみんな元に戻って」

 我に返って、急に体を隠そうとするミチカ。さっきのマコトの言葉を思い出したかのように、胸を隠そうと交差させた腕を、ゆっくりと体の横に伸ばした。肩で息をしている。ミチル先輩もメグミ先輩も、汗でビッショリになっている。茫然とした様子で立ちすくんでいたシホが机から降りるのを、シュンタが手伝う。

「ミチル先輩。メグミ先輩に馬の鳴き真似をするように命令して」

「………権藤さん、馬の鳴き真似をして」

 ミチル先輩が、迷いながら言う。メグミ先輩は、怪訝な顔をする。

「………ヤダけど………」

「今度はメグミ先輩がミチル先輩に馬の鳴き真似をするように命令して」

「………ミチルちゃん、馬の鳴き真似してよ」

「…………ヒヒーーーーンッ!」

 大きな声を上げたミチル先輩が、赤くなる。

「メグミ先輩、シホちゃんに馬になれって言って」

「シホ……ちゃんって言うの? ………馬になって」

「ヒヒヒーーーーーンッ。………ブルルルッ、ブルルルッ」

 ミチル先輩とはリアルさが一段違う様子で、馬になりきったシホちゃんが四つん這いになって部屋を跳ねまわった。

「シュンタ…………。少なくとも俺らの学校では、カーストがひっくり返ってる。………頂点のSグループにいた美緒ちゃんは、たぶん今、誰の命令にも逆らえなくなってると思うわ」

 マコトの言葉が終わらないうちに、シュンタはマコトの部屋を飛び出していた。背中からノリユキの浮かれた声が聞こえる。

「シュンタ、この子たちのことは俺らに任せとけっ!」


。。。



 マコトの家からシュンタの家まで15分走った。横腹を押さえながら自宅に駆け込むと、自宅には学園で評判の超絶美少女、藤沢美緒が大人しく座っていた。リビングの床になぜか正座して、ずっと背筋を伸ばしてシュンタの帰りを待っていたようだった。「大人しく待っていて」というメールの美緒のストレートな解釈が、この状態だったらしい。

「美緒ちゃん、誰からも変なこととか言われてない?」

「………あ………、シュンタ君………」

 小声で遠慮がちに答えようとする美緒。シュンタが気がついて声をかけた。

「美緒ちゃん、楽にして。………大丈夫だったんだね」

「うぅぅぅ…………ちょっと………足が、痺れた………かも………」

 藤沢美緒が、やっとリラックスした表情で、姿勢を崩して伸びをして、ふくらはぎを揉みながら答えた。

「………み………。美緒ちゃんの足の痺れは、一瞬で治るよ。………ほら」

 シュンタが指を鳴らしてみる。辛そうだった美緒の表情が瞬時に一転した。

「あれ? …………ほんとだ………。凄いっ。シュンタ君の………、言う通り………」

 美緒の行動も、感情も、感覚もシュンタの言葉の通りになる。改めて、マコトの仮説が証明されたように感じた。

「美緒ちゃんは僕に、オッパイを触られたくてたまらなくなる」

 気がついたら、エロ方面に引っ張られている。シュンタはノリユキのことを馬鹿に出来ないと、感じていた。マコトのため息が聞こえてくるようだ。

「そ………そんなこと…………。………はぁ……………。ある………の、かも…………」

 美緒はいつの間にかシュンタとぐっと距離を詰めていた。赤い顔、表情が少しボンヤリとして、目の焦点がぼけたような眼差しになる。シュンタの右手を両手で取ると、グッと自分の胸の膨らみに押しつける。昨日の感触が甦ってくる。

「美緒は乳首がすっごく敏感になる」

「………ひゃんっ………。やっ……………」

 まるで感電したような反応を見せて、シュンタの手を振り払う美緒。モジモジしながら胸の前で両腕を、かばうみたいにクロスさせた。

「敏感過ぎて、ブラに触れてるだけでイキそう。擦れたらもう、イッちゃう」

「…………くぅぅううっ………。へんっ………なの………。なんで…………」

 身をよじりながら、慌ててシャツを脱いで刺繍入りの柔らかそうな白ブラジャーを出してしまう美緒。ホックを外そうと両腕を背中に回したところで、不意に胸を大きく反らせて、痙攣するように天井を仰いだ。

「………っっぅうううっ」

 あごをあげる美緒。腰がビクビクっと前後した。やっとずり落ちたブラジャーのカップの中から、柔らかそうな丸いオッパイが顔を出す。真ん中の乳首は狂おしいほど膨れあがって背伸びしていた。

(感覚というか………体質みたいなものまで、簡単に僕の言う通りになる。………これが、Eグループの底辺とSグループの頂点まで格差が広がった時に起きる現象なんだ………。いや、もっと色々、出来ちゃうのかな?)

 シュンタはボーっと上気した頭で、精一杯考える。マコトの研究熱にでもあてられたのだろうか。

「美緒ちゃんはパンツもスカートも大嫌い。体に衣服が触れていることが、生理的に受け付けないよ」

「………やっ………。こんなの。いつの間にっ」

 さっきまで温和だった美緒の表情が一気にキツイものになる。完成されたように整った美形だけに、不快な気持ちを隠さない時は、近づけないような厳しいオーラを醸し出していた。首を何度も左右に振りながら、スカートを下ろして、スラっと長い脚から刺繍に縁取りされた白いショーツを下ろしていく。股間からベットリ濡れた布地が剥がれる瞬間の様子から、やはり、ついさっき、イっていたということが伝わってきた。叩きつけるようにショーツをフロアリングに投げ捨てる美緒の仕草から、本当に下着を憎んでいるということがわかる。なりふり構わず裸になった彼女に、ウットリとみとれながら、シュンタは目の前で起きている異常事態というか奇跡に、改めて感謝した。

 実験はもう充分だった。これ以上確認することなどない。これからは真剣に、明日からの対策を考えるべき………。頭の中では、はっきりとわかっているのに、シュンタは美緒への命令を止めることが出来なかった。このモデルのように見事なプロポーションの裸の美女を、言葉一つで思い通りに操ることが出来る。そんな状況に、シュンタの思考回路はショートしてしまっていたのかもしれない。

「美緒ちゃんは僕とキスをするのが大好きだ。僕が君にキスしようとしていると感じると、自分からも求めてしまう。そして僕にキスされると、最高に幸せな気持ちになって、イってしまうんだよ。………嘘だと思う? 試してみよっか?」

 顔を赤らめた美緒が、拝むような姿勢になってシュンタに懇願する。

「駄目っ。試さないで。シュンタ君に何か言われると、その通りに………。……………うっ………………。もうっ………」

 シュンタがわざとらしく薄目になって、唇を突き出してみる。ビクッと背筋を伸ばした美緒は、裸の自分を隠そうとすることも出来ず、反射的にシュンタの胸元に飛び込んできた。抱き合って唇を重ね合う2人。口の粘膜が触れ合った瞬間に、ビクンビクンと美緒の体が反り返る。美緒の心の動きも、体の反応も、あっけないくらい簡単に、シュンタの言葉通りに変貌する。シュンタが美緒の首すじに、肩に、そしてオッパイに唇を当ててキスをする。美緒はシュンタの意図を感じ取ると、自分から体を押し出してシュンタに差し出すような姿勢を取る。そして体にキスされるたびに、小さくイッた。

 美緒の顔を見る。顔は上気しきっていて、潤んだ目はどこか遠くを見るように彷徨っている。口元は少しだらしなく開いて、緩んだ笑みを漏らしている。押し寄せる快感と幸福感に浸りきっているような表情だった。その顔を見て、シュンタの下半身がさらに、いきり立つ。美緒を持ち上げるように、押し倒すようにしてソファーに倒れ込むと、ズボンをもどかしげに引っ張り下ろす。内膝までトロトロに蕩けていた美緒の股間は、あっさりとシュンタのモノを迎え入れた。サルになったように腰を振るシュンタ。ペニスを押し込んだまま、美緒の乳首にキスをすると、熱い膣の中が痛いくらいに締め付けられる。その収縮が気持ち良くて、また、彼女の体を完全に征服したような満足感があって、シュンタは止められなくなる。4回目の乳首へのキス。ヴァギナがキュッと締め付けられたところでシュンタは我慢できなくなって、溜め込んでいた精を放出する。美緒の顔を見下ろすと、彼女は笑顔のまま失神していた。失神したまま、キスされるたびにイっていたようだった。


 美少女の体内に精子を放ってから、シュンタは少しずつ冷静さを取り戻していく。急に美緒のことが可哀想に思えて、ソファーに寝そべるその姿勢を整えてあげる。開ききった長い脚を揃えようとすると、クプッと音がして、股間の割れ目から2人の粘液の混ざり合ったものがダラダラと流れ出た。ティッシュ箱を取ってきて、美緒の大切な部分を丁寧に拭って綺麗にしてあげる。充血した性器は、さっきまでの結合と発情の記憶を、シュンタに見せつけるように熱く腫れていた。


 ピロロン。

 脱ぎ捨てたズボンの中から、スマホの着信音がする。美緒の体を綺麗にするのも一段落ついたところで、シュンタが着信に気がついて、スマホを取り出す。着信は4つも貯まっていた。

 スマホの画面を開くと、えげつないエロ画像が飛び出す。

「またマコトの新作アイコラかよ?」

 独り言を呟いたシュンタが、すぐにエロ画像に違和感を覚えて、指で拡大する。嫌な予感を感じたシュンタは、着信の履歴を一つずつ遡ることをせずに、直接マコトに電話をかけた。エロ画像は、シュンタの英語教師、経堂志保里のハメ撮り写真だった。通常のマコトのアイコラはもう少し、被写体への愛情というか、品があるのだが、この写真はどこまでもハードコアで実録的。スーツを肩に掛けた経堂先生がシャツもパンストもビリビリに破かれて、スレンダーな裸を晒しながら、大股開きになってヴァギナを貫かれている。全身に白くおぞましい粘液が飛び散っているのがいたましい。それなのに、経堂先生は両手でピースサインを作って、満面の笑顔で舌を出していた。スーツにも見覚えがある。画像からは、コラとは思えないリアリティと、ヤバい雰囲気が漂っていた。

「お………、シュンタ。………やっと出たか」

「マコト、……これお前がやったの? ………コラには見えないんだけど、お前、正気?」

「………。俺な訳ないだろ。俺、普通に志保里先生、いいなって思ってたぞ。………こんな風にしたいなんて、一度も言ってないよな? ………これ、クラスの裏掲示板で出回ってる写真だよ。今、どこのクラスのサイトも、凄いことになってるぞ」

 こんな写真を撮ったのが、親友のマコトじゃなかった。そのことに一瞬ホッとしたシュンタだったが、少しずつ、事態のヤバさを実感していく。

「俺たちじゃないっていうことは………。他の奴らも、こんなことが出来るんだ。………やっぱり」

 電話の向こう側で、マコトが少しの間、黙った。

「さっき女子たちの間でも、馬になれって命令が効いてただろ? それに、よくよく考えたら、学校には生徒たちのカーストがあるだけじゃない。先生って言ったら、普通は生徒より上の立場だ。それごとひっくり返ってたら、大抵の生徒は、先生たちを自由に出来るってことだろうな。志保里先生の表情見ただろ。単に行動を操られてるってだけじゃない。なんか、人格ごといじられてるみたいな様子だよな。仮に教師はSグループと同等って考えると、Bグループ以下のカーストの奴が操ってるっていうことになる」

 学園内でBグループ以下といったら、ほとんどの生徒がそこに含まれるはずだ。その中の誰でも、先生をこんな風に操ることが出来るようになっているとしたら………。シュンタは背筋に冷たいものを感じていた。

「俺たちの学校………。どうなっちゃうのかな?」

 シュンタが不安をそのまま声に出してしまうと、マコトはまたしばらく、沈黙した。そして電話の向こう側で、ゆっくりと口を開く。

「崩壊するだろうな。………俺たちが何とかしない限り」


 。。。


 翌日の朝、シュンタは思いっきり早く学校に向かった。マコトやノリユキとの待ち合わせも6時半にしたのだが、シュンタ自身はそれよりもさらに早く、6時前には学校の北側へ到着していた。校舎裏の路地にあったはずの古い祠を探す。記憶を辿って祠があったはずの狭い路地を見つけようとグルグル歩き回ったが、一昨日の夕方にシュンタがお参りしたはずの祠は、見つけることが出来なかった。

 約束の時間間際になって、正門の脇へ行く。マコトが軽く手を上げる。ノリユキはアクビをしていた。

「よう。……シュンタ、変な方向から来たな」

「………ん……。ちょっと確かめたいこととかあって」

「朝からさっそくお楽しみかよ。………俺っちも色々やりたいことあったんだけど、夢精しちゃってた。SSD。ソウチョウ・セクシュアル・ドリームな」

 残念なお報せを伝えてくるノリユキを無視して、マコトがシュンタに言う。

「やることはわかってんな。学校の様子見ながら、目に余る酷いことになってるとこだけ、俺たちの命令で止めさせていこう。あんまり張り切って守備範囲を広げるな。目立った行動も避けよう。俺たちにどこまで出来て、他にどんなことが出来る奴がいるのか、まだはっきりとは、わかってないんだからな」

 シュンタは無言で頷く。マコトは鋭い観察力を持っているし(これまでアイコラマスターとしてしかその能力が発揮されていなかったのは実に残念だが)、学校の掲示板やチャットグループなども巡回して、色々と情報を集めているようだ。この事態の起源に関しては、唯一シュンタがわかっている。それでも、今、マコトやノリユキに、この騒動の原因がシュンタにあると伝えてしまって良いかどうか、まだ判断出来なかった。心の端にわずかな罪悪感を抱えながら、シュンタはマコトの言葉に頷く。今、持田駿太が一番守りたいのは藤沢美緒。次にマコトたちとの友情。そしてこれまで文句を噴出させながらも、毎日過ごしてきた、シュンタの学校だった。


 校門をくぐると、そこは別世界だった。

 早朝から、通学してきた生徒たちを生活指導のユカリ先生と英語の経堂志保里先生、そして保健の世那先生が迎え入れる。学園でも評判の美人教師たちの前にはすでに行列が出来始めていた。

「元気な男子生徒は先生たちの前に並んでね。ユカリ先生かシオリ先生のフェラチオ。それかセナ先生のパイずりか、どれかで君たちの目をシャキッと覚ましてあげます。朝からクリアな頭で授業に出ましょう。先生たちからのサービスです」

 セナ先生がにこやかに呼びかけている。話しながらも豊満なオッパイに挟んだ、男子のイチモツを両手で胸を揉み上げるようにして擦っていた。ユカリ先生とシオリ先生も、みんなに何か言いたそうにフガフガと喉から音を出しているが、口いっぱいに、列の先頭に立った男子のモノを咥えこんでいるので、ほとんど言葉になっていない。隣り合ったユカリ先生とシオリ先生は、お互いをチラチラ確認しながら、頭の前後運動をスピードアップさせたり、より濃厚に口の中のモノを吸い上げたりしている。その様子からすると、今朝フェラチオ出来る男子生徒の数か何かで、競い合っているようだった。

 登校してきた男子生徒たちは、美人教師たちのモーニングサービスに、目を輝かせて列を作っている。長くなりつつある列を、微妙な表情で通り過ぎていくのは、女子生徒たちや、カップルの男女たちだ。

 正門をくぐり抜けたところで、立ち止まる女子がいる。大抵は見た目が可愛い子たちだ。制服のスカートをスルスルと脱いで鞄にしまい、ショーツ丸見えの姿で校舎へ歩いていく美少女たち。あるいはショーツを脱いで、端のところを口に咥え、アンダーヘアーを見せつけるようにスカートの裾をめくり上げながら歩いていく可愛い女子。横でノリユキが口笛を吹いた。きっと、この天パ・デブと似た嗜好のエロ男子に、Lineか何かで一斉に指示を受けて来たのだろう。

 いつもよりもカップルの登校が多いような気がする。みんな腕を絡めるどころではない、体を密着させて、お互いを見つめ合いながら、頬ずりしたり、頬にキスをしたり、あるいは頬っぺたを舐めたりしながら、幸せそうに登校する。組み合わせを見ると、男女でビジュアルに格差が激しいカップリングが多かった。これも一昨日か昨日からの即席カップルだろう。

「掲示板の色んな報告を見てると、俺一人であれこれ観察するよりも、よっぽど色んな仮説や検証が進んだよ。まるでスクールカーストが逆転しちゃったみたいに、下のカーストの奴らの命令が上の奴らに拘束力を持ってる。しかも、カーストが何階層も上がると、より強力な効果を持った命令になってるんだ」

 マコトが腕組みしながら話し始める。

「階層1つ越えの指示は、相手の行動だけを支配する。ほら、あのカップル見てみろ」

 マコトが指さした、登校中のカップルは1年生だろうか。男はフツメン。女子はちょっとした可愛い見た目。ニヤニヤして歩いてる男子にまとわりついて歩く女の子は、嫌そうな顔をしながらも、横の「彼氏」に胸を押しつけて、頬っぺたにチューを繰り返している。時々、恥ずかしそうに周囲をキョロキョロと見回している。友達に見られるのを心配しているような様子だった。

「階層2つ越えの指示は、相手の心も支配する。感覚・感情・思考………。あのカップルとか、そうだよな」

 シュンタたちと同学年の、陰キャ男子が歩いていた。確かマイナーなアイドルの追っかけをしている奴だ。今は2−Bで人気のアイドルっぽいビジュアルの美少女、牧野ヒロミちゃんと仲良く歩いている。ヒロミちゃんは男ものの白ブリーフを、男子はフリル付のパンティーを頭にかぶって、腕を組んで歩いている。男子がヒロミちゃんのスカートの中に手を入れるが、ヒロミちゃんは「もーっ。ショー君ってば」とか口では嫌がってみせるものの、顔は笑顔で受け入れている。多分下着越しではなく、直に股間を弄られているが、照れ笑い一つで許している。マコトの言った通り、陰キャ男子に心から操られてしまっているようだ。

「階層3つ越えで指示が来ると、心だけじゃなくて、記憶や常識、モラルとか行動様式も塗り替えられるらしい。あのへんなんかそうなんじゃね?」

 女子の集団が登校してくる。仲良しグループだろうか。同じ部活の仲間だろうか。みんな快活に挨拶を交わしながら、校門をくぐったところでスカートを下ろしていく。畳んだスカートを鞄にしまうと、ショーツを膝まで下ろす。狭い歩幅でヨチヨチ歩きながら、お互いに笑顔で昨日のドラマの話や、好きな芸能人の話など、とりとめのないお喋りをしている。まるでこの子たちにとっては、学校の敷地内でこんな格好で歩くのが、当たり前のことのように、自然に振舞っている。駆け寄っていこうとする隣のノリユキを、シュンタが奥襟を掴んで制する。

「階層4つ越え。ここまでいくとレアな関係性だよな。同じクラスのAグループに対するEグループからとか、Sグループに対するDグループからの命令。それか違うクラスのSグループに対するEグループからの命令。ここまでくると、相手の社会的な存在まで書き換えられるみたいなんだよ」

「社会的存在って………。どんだけ?」

「………俺もこの目で見るまでは信じられなかったんだけど、………結局、ああいうことじゃね?」

 マコトの視線を辿ると、美人教師たちのモーニングサービスの現場に行きついた。嬉々として教え子たちのおチンチンを頬張る、厳しかった先生たち。当たり前のように列を作ってモノを咥えさせては、結構ぞんざいに、先生の髪を掴んで、口から喉で奉仕させる男子たち。気まずそうに視線を反らしながら通り過ぎていく女子生徒たち。先生たちのいつものルーティーンを、距離を置いて見守るような、同僚の先生たちの挨拶。みんな、美人教師たちの奇行を、「こういうものだ」と受け入れて、黙認するような素振りに見えた。

「カースト4つ越えの命令は、された側が実行するのを、周りの人たちも止めようとか妨げようとか、思わなくなるみたいだぜ。こんなことになってても、誰も騒ぎ立てようとか、通報しようとか、動いてないだろ? こんなこと、学校の外でも自由に出来るんだったら…………」

「神じゃん。…………それって、Eグループの俺らも、何でも出来るってことなんじゃん………。おい、シュンタ。今すぐ、藤沢美緒様を呼んで来いじゃん」

「断る」

 ノリユキに即答すると、シュンタはポケットの中でスマホを握りしめた。美緒には、シュンタたちが安全を見極めてから登校してくるように、別行動を指示していた。

 校庭に行く。数十人の男子や女子が、下半身だけ裸になってトラックを全力疾走している。肺からキューキュー音をさせて苦しそうに走っている男子や、顔色が白っぽくなってる女子もいる。苦しそうな生徒を見ると、シュンタは声をかけた。

「もう走るのはやめて、教室に入ったら?」

 ホッとしたような表情でスピードを緩めて、シュンタの言葉に頷く人。その場で糸が切れたかのように倒れ込んで、這ってでも教室に戻ろうとする人。とりあえず、みんなシュンタの言葉には従ってくれる。目に見えて辛そうな生徒は、声をかけて解放してあげた。


「やっぱり、シュンタや俺、ノリユキの命令が、このへんじゃ一番優先して、聞いてもらえてるな。俺らカーストEグループの指示が一番拘束力が強いってことだよ」

 マコトが呟く。シュンタは気になっていたことをマコトに質問する。

「………じゃ、俺の指示と正反対の指示を、同じEグループのノリユキが出したら、命令された人はどう反応するんだろう?」

 シュンタはまた、無意識のうちに、スマホを握りしめていた。

「………お前、本気で美緒ちゃんのこと、心配してんだな。………それも、俺とノリユキとで昨日から今朝にかけて、実験したよ。俺がミチル先輩に『他人からの変な命令は聞くな』って伝えたら、その日のうちは、ノリユキが何を言っても、無視した。でも、次の日にはノリユキにメールで指示された通りに、セクシーショットを送り返してきた。同じカーストの奴からのバッティングした命令は、先に入った命令が1日は優先されるっていうことだと思う。ただし、相手にちゃんと、これがご主人様の命令だ。この人の命令を自分は優先するんだって、意識付けしておいた方がいいみたいだけどな」

「1日か。………じゃ、毎朝、僕がクラスメイトに『他の奴らからの理不尽な命令は聞くな』って指示しておけば………」

「お前のクラスはとりあえずの平穏を保てるってことじゃね?」

 シュンタがマコトの顔を見て頷く。ノリユキはトラックを走っている女子たちの生尻をペチペチと叩いて、マラソンコーチのように鼓舞していた。

「ほらほら、まだまだイケるよ。君たちは若いっ。大丈夫!」

 ノリユキに声をかけられると、下半身裸の女子ランナーたちは背筋がもう一段伸びて、体力を回復したかのように加速する。それでも体がついていかないのか、多くの女子はすぐにスピードを落として、フラフラとした足取りになる。そんな中、何人かの美人アスリートたちは、すっかり元気を取り戻したかのように、安定した足取りでラップを重ねていた。

「…………これ、もしかして、EグループからSグループへの命令は、ある程度、体にも直接影響があるのかな? …………。ただの気分の問題を越えてるような………。シュンタ、俺、もうちょっとノリユキとここで様子見てくわ」

 マコトが集中して、ノリユキと女子たちの反応を観察しはじめる。シュンタは先に、自分の教室へ行くことにした。少なくとも、自分のクラスくらいは平和な状態にしておきたい。そうしないと、いつまでたっても、美緒を学校に呼べる気がしなかった。

 シュンタのクラス、2−Fにも、扉を開くと既に半分くらいの生徒たちが来ていた。そしてすでに、そこそこのカオスが出来上がっていた。教卓の上にあがりこんで足を開いてオナニーしている女子。それを囲むように、男子たちが輪を作っている。掃除道具入れの近くで半裸で逆立ちに挑戦させられている男女が6名。やんちゃな工藤は四つん這いになって、地味目の女子を背中に載せ、人間椅子にされていた。友達の女子に肩を揉ませている女子。仲良しグループのリーダーだった男子に土下座させている男子。仲良しカップルにペッティングを披露させて盛り上がっている友人グループ。どこを見ても、一昨日まであった、クラス内のカーストや人間関係が逆転させられていた。

「みんな静かに。僕の言うことを大人しく聞いて。席に戻ってよ」

 シュンタが精一杯の大声を出すと、2−Fは一瞬で水を打ったように静まりかえった。椅子が引かれる音、クラスメイトたちが着席する音だけが、事務的に響く。全員、シュンタの言葉に何の疑問も見せずに従った。………全員がシュンタを一番下の階層にいると思っていたということだと思うと、少しだけ胸が痛んだが、シュンタはとりあえずそのことは深く考えないようにした。黒板を背に、教卓の前に立って呼びかける。

「みんな昨日から、明らかに変なことが起きてるってわかるよね? カーストが低かったはずの奴の命令に、勝ち組だった子たちが逆らえなくなってる。………で、このクラスの王様は、カースト最下層にいた、僕。ってことになりました。2−Fのみんなが揃ってから、僕がこのクラスのルールを説明していくけれど。とりあえず、みんな出来るだけ一昨日までの普通を保とうよ。それが僕からのお願いです。………あとから、ちょっとした例外がついてくるかもしれないけど、基本的なルールは、クラスの平和を維持すること」

 ホッとしたような溜息が、生徒たちの何人かから洩れる。何人かの生徒は残念そうな、あるいは恨めしそうな目でシュンタを見た。

「みんな、僕の言ってること、わかった? 返事は?」

「………はい」

「ハイ」

「……は〜い」

 バラバラと、生徒たちが返事をする。これだけでは、みんなが本当にシュンタの言葉に従ってくれるのか、それとも今だけ大人しくして、身を潜めているのか、よくわからなかった。

「ごめんね。皆の忠誠を確かめるために、ちょっとだけ変なことさせるけど………。許してね。………オホン。………僕の言うことに従うって人は、右足の上履きを脱いで、自分の頭の上に載せて」

 おずおずと、生徒たちが足に手をやって、靴を脱ぎ、一人ずつ、自分の頭の上に載せていく。イヤイヤやっているように見える生徒。当たり前のように靴を乗せて教卓のシュンタをまっすぐ見ている生徒。反応は少しずつ違っているけれど、教室の中の全員が、頭に上履きを載せて背筋を伸ばした。

 始業時間前後に、まだパラパラと教室に入ってくる生徒も、シュンタの言葉を聞くと、他のクラスメイトたちと同じく、上履きを頭に載せて着席した。何人かの生徒は欠席しているようだ。もしかしたら、教室まで辿り着けなかった子もいるかもしれない。とりあえず、クラスの大半を支配下に置いたことを確認したシュンタは、やっとスマホを取り出して、美緒に『他の奴からの変な命令を無視しながら』、教室まで来るようにメールで指示を出した。Sグループの彼女は、素のママでは校内のほとんど誰の指示にも従う状態になっていたはずだった。ここまでして、やっとシュンタは自分の彼女を教室に呼び戻すことが出来たのだった。

「先生は………。まだ来ないか。どっかで誰かの指示にでも従ってるのかな? ………あとは、美緒ちゃんが来るのを待つか………。みんな、上履きは足に戻していいよ」

 シュンタが言うと、クラスの全員が頭に載せていた靴を床に置いて、履いていく。美緒が来るまで、20分。………いや、30分はかかるだろうか。そんなことを考えながら、クラスメイトたちを見回す。何人かの優等生たちは、シュンタのことを本当の王様を見るように、恭しく見上げていた。何か言いたそうなヤンチャな生徒も、これまではシュンタのことを見下していたようなギャル系女子たちも、みんな、シュンタの次の言葉を、大人しく待っている。

 不意にシュンタの目が、級長の蔵池チサトの姿をおさめたところで止まった。ストレートの長い黒髪を持つ、大人びたルックスの美少女。スタイルもいいことは、『盗撮王子』が良く知っていた。チサトの体と時計を何度か見返したシュンタは、生唾を飲み込む。

「ごめん。みんな。いつも通りの平和なクラスっていうのは、大体の感じにしとく。主に僕の周りは、ちょっとこれまでと変わってくるかも………。とりあえず、蔵池さん、僕と一緒に廊下に出よっか? あとのみんなは、自習ね」

 級長で美少女。おそらくAグループに属する蔵池さんは、シュンタが言い終わらないうちに起立して、「気をつけ」の姿勢をとったあと、シュンタの後をついて教室を出る。シュンタは背中に、他の生徒たちの微妙な視線を感じながらも、廊下に出た。

 廊下で級長と向き合うシュンタ。不躾ながら、綺麗な顔立ちから胸元の膨らみ、くびれた腰回り、スラリとした足、と、全身を何度も見てしまった。

「蔵池さん………も、2−Fの生徒だから、僕の言うこと、聞いてくれるよね?」

 シュンタが緊張しながら聞く。

 優等生の級長は、先生に応えるように、品の良い笑顔で丁寧に返事をした。

「もちろんです。何でもおっしゃってください」

「全部脱いで」

 言い終わらないうちにシュンタはチサトの唇に吸いつく。左腕でチサトの華奢な背中を抱き寄せながら、右手で胸の膨らみをギュッと掴んだ。チサトは抵抗しようともせずに、胸元のボタンを外していく。廊下でお互いに服を脱ぎながらハードなペッティングを始める級長と、数日前までの底辺男子。その横を、同じ学年の男子2人が通り過ぎていく。マコトとノリユキだった。マコトが軽く肩をすくめて、溜息をつく。ノリユキは親指を立てながら、小さく口笛を吹いた。シュンタは2人の親友を無視して、美少女とのキスを、ペッティングを、そして白い裸を楽しむことに集中する。これくらいの役得は、クラスの統治者には許されても良いのではないだろうか。そんな言い訳を考えながら、R・K…Bの2人が通り過ぎるのをやり過ごして、級長の体を弄んだ。恋人の美緒が来るまで、残された時間で精一杯楽しませてもらうつもりだった。

 
 


 

 

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