バイト研修


 

 



 彼女、秋本麻衣(あきもと まい)は、どこにでもいる今時の女子大生だ。
 明るい性格で、肩まである、ふわっとウェーブのかかった明るい茶色の髪に丸顔でくりっとした大きな瞳の愛くるしい顔立ちの子だった。

 バイトをしようと思った彼女は、ある喫茶店のバイト募集に応募した。
 そこでバイトしようと決めた理由は、その喫茶店のウェイトレスの制服が気に入ったからだった。

 その店は何度か来たことがあって、そこの店員が着ているフリルの付いた白いブラウスに、白い前掛けの付いた茶色と黒のチェック柄のエプロンドレスが可愛らしくて素敵だと思っていた。
 そして、その店の前にあった「バイト募集」の張り紙が目に止まって、彼女もなにかバイトをしようと思っていたところだったので応募したのだった。

 履歴書を持って喫茶店を訪れ、店長の面接を受けて無事に採用が決まった。
 そしてその日、研修があるからと麻衣は店に呼ばれたのだった。



「いらっしゃいませっ!」

 店に入ると、ウェイトレス姿のお下げ髪の少女が弾けるような笑顔で麻衣を迎える。

「おひとりですか?」
「あ、いえ、私、ここでバイトすることになった秋本ですけど、今日は研修をするって言われて……」
「ああ、そうだったのね。……店長!研修の子が来てますよ!」

 少女に呼ばれて奥から出てきたのは、口髭を生やした、小太りの中年男。
 前に面接してくれたこの喫茶店の店長だ。
 たしか、柳沢という名前だった。

「ああ、よく来たね、秋本さん。それじゃあ、研修場所はここの2階だから、ちょっと裏に回ってくれるかな」
「はい」

 柳沢の後について、麻衣は従業員用出入り口から裏に回って階段を上がる。

 ビルの2階に上がると、ホールを挟んで部屋がふたつあった。
 片方には。『喫茶メリー 事務所』、もう片方には『更衣室』という札が貼ってあった。

「ちょっとここで待っててね」

 柳沢はそう言うと、事務所の中に入っていく。

 少しして、ビニールの袋に入った真新しい制服を手に出てきた。

「じゃあ、そっちが更衣室だから、これに着替えて事務所に来てもらえるかな。ロッカーは、一番奥が空いてるはずだから。貴重品と筆記用具だけ持ってきてね」
「わかりました」

 渡された制服を手に、麻衣は更衣室に入った。

 さっきの少女も着ていた、この店の制服。
 一度着てみたいと思っていたその制服を広げて、少しの間眺めてから着替えはじめる。

 着てきた服を脱ぐと、まず、袖口と胸元がフリルになった真っ白いブラウスに袖を通していく。
 首元までボタンを留めたら、白いエプロンが付いた、茶色をベースにしたチェック柄の釣りスカートを穿き、背中でクロスしたサスペンダーに腕を通して肩に掛ける。
 そして、膝上まである白いニーソックスに足を通す。

 着替え終えて、麻衣は部屋の中にあった鏡に映った自分の姿を確かめてみる。

 どこから見ても、エプロンドレスを身に着けたウェイトレスそのものだった。
 スカートの丈が少し短い気もするけど、ニーソックスで足が隠れてるのでそれほど気にはならない。

 やだ、お人形さんみたい。

 鏡を眺めながら、自分で自分をそう思ったことがちょっと気恥ずかしくなる。

 でも、急がないといけないよね。

 ふと我に返ると、麻衣は筆記用具と手帳を手に更衣室を出て行った。





「ああ……よく似合ってるね、秋本さん」

 ドアをノックして事務所に入ると、待っていた柳沢が立ち上がった。

 そこには、応接机を挟んでソファーがふたつ置いてあり、その脇には液晶テレビとレコーダーが設置されたラックと、その隣に大きな鏡があった。
 奥の方はパーティションで仕切ってあってその向こうにまだスペースがありそうだ。

「あ、そうだ、次に来るときまでに用意しておくから靴のサイズを教えてくれないかな?」

 柳沢が、麻衣の足許を見ながら言った。
 彼女が履いていたのは、ピンクのスニーカーだった。

「えっと……23.5です」

 なにも考えずにお気に入りの靴を履いてきたけど、よくよく考えたらまずかったような気がして麻衣は俯きがちに答える。
 だが、別に柳沢の口調は咎めるものではなかったし、柔らかい笑みを浮かべていた。

「まあとにかくそっちに座って」
「はい」

 勧められるままにソファーに腰掛けると、柳沢はその向かいに座った。
 なぜか、目の前の応接机の上には、メトロノームが置いてあった。

 どうしてこんなところにメトロノームがあるんだろう?

 麻衣の頭にそんな疑問が浮かんだが、柳沢がさりげなくそれを脇に退けて話を始めた。

「面接の時にも訊いたけど、たしか秋本さんはバイトは初めてだったね?」
「はい」
「改めて説明すると、秋本さんの仕事は下の喫茶店での接客ということになるね」
「はい」
「細かい業務のことはこれから説明していくとして、秋本さん、お客様相手の仕事で一番大切なものはなんだかわかるかい?」
「……いえ」

 柳沢に尋ねられて、麻衣は首を横に振る。

「まあ、初めてのバイトだからしかたがないかな。じゃあ、覚えておくといい。お客様相手の仕事で一番大切なのは笑顔だよ」
「はい」

 柳沢の言葉を、麻衣は手帳にメモしていく。
 実のところ、彼はそんなにたいそうなことは言ってないのだが、なにぶんバイト経験のない麻衣にはそんなことはわからなかった。
 その後も、麻衣は柳沢の話を生真面目にメモしていく。

 そうやって仕事の内容について一通り説明した後で、柳沢は立ち上がった。

「まあ、言葉で説明してもなかなかわかりにくいところもあるから、次はお手本を見ながら勉強してもらおうか。……じゃあ、こっちに立ってくれるかな」

 そう言うと、柳沢は麻衣をテレビの前に立たせる。
 そして、自分はテレビの脇に立ち、リモコンを手に取った。

「じゃあ、教材のビデオを見せるから、同じことをしてくれるかな」
「……わかりました」

 麻衣が頷くと、柳沢はリモコンを操作する。
 すると、画面に店の制服を着た少女の姿が映し出された。

 あ……この子、さっきの子だ。

 その少女の黒いお下げ髪には見覚えがあった。
 さっき店に入ったときに元気のいい笑顔を見せてくれた子だ。

『いらっしゃいませっ!』

 画面の中で、少女が軽く頭を下げて元気よく挨拶をする。

「さあ、やってみて」
「はい……いらっしゃいませっ!」

 柳沢に促されて、麻衣は画面の中の少女と同じようにぺこりと頭を下げる。

「うん、まだ何回か繰り返すからどんどん続けて」
「はい」
『いらっしゃいませっ!』
「いらっしゃいませっ!」
『いらっしゃいませっ!』
「いらっしゃいませっ!」

 テレビ画面の少女が挨拶するのを真似して、麻衣は繰り返し頭を下げた。
 そうやって、5回ほど繰り返すと、不意に柳沢がビデオを止めた。

「うん、悪くないんだけどやっぱり表情が硬いね」
「す、すみません……」
「いや、初めてのバイトだししかたないところはあると思うよ」
「はい……」
「ちょっと、こっちの鏡を見ながらやってみてごらん」

 そう言って、柳沢はテレビの横の鏡を指さす。

「はい……いらっしゃいませっ!」

 鏡に映った自分の姿を見ながら、小さく頭を下げる。
 たしかに柳沢の言うとおり、鏡の中の自分が浮かべていたのは、ぎこちなくて硬い笑顔だった。
 自分では頑張って笑顔を作ってるつもりなのに、ビデオの少女の弾けるような満面の笑みとはほど遠い。
 もちろん、自分の表情が硬いのは麻衣自身もわかっていた。
 初めてのバイトの研修で緊張しているというのもあったし、憧れていた制服とはいえ、鏡に映ったウェイトレス姿の自分を見るのはやはり気恥ずかしくもあった。

「どう思う、秋本さん?」
「はい……私も、ちょっと表情が硬いと思います」
「そうだね。さっきも言ったけど、初めてのバイトだから緊張するのもしかたがないと思うよ。でも、ちょっと緊張しすぎかな。もっとリラックスしないと、実際にお客様の前に出るともっと緊張するよ」
「はい」
「じゃあ、ちょっと緊張を解そうか。ちょっとそこに座って」
「……はい」

 柳沢が、麻衣を促してソファーに座らせる。
 そして、その目の前にメトロノームを置いた。

「緊張を解す、いいリラックス法があるから僕の言うとおりにしてね」
「はい」
「じゃあ、まず深呼吸をしようか」
「はい……すぅー……はぁー……」

 言われるままに、麻衣は深呼吸をする。

「そうそう。そうやって深呼吸を繰り返して、肩の力を抜いて」
「すぅー……はぁー……」

 柳沢の言葉に小さく頷いて深呼吸を繰り返す。
 そうやって落ち着いて深呼吸をしてみると、肩に力が入っているのがよくわかった。
 だから、体から力を抜くようにして深呼吸を続けた。

「うん、いい感じだね。じゃあ、深呼吸をしながらこのメトロノームを見つめて」

 そう言うと、柳沢はメトロノームを動かしはじめる。

 カチッ、カチッと正確なリズムを刻むメトロノームを見つめながら、麻衣は深呼吸を続ける。

「そう。メトロノームをじっと見つめて。集中して見つめてると、このテンポと自分の気持ちが重なってくるよ」

 柳沢の声を聞きながら、麻衣はじっとメトロノームに集中する。
 そうしていると、メトロノームのテンポと自分の気持ちがシンクロするような気がしてくる。

「じゃあ、テンポを下げるよ。そうしたら、それに合わせて気分もゆったりしてリラックスできるからね」

 柳沢が、メトロノームを弄るとそのテンポが遅くなった。

 このテンポ……50くらいかな?
 だいぶゆっくりしたテンポだよね。

 子供の頃にピアノを習っていたことがある麻衣は、そんなことを考えながらメトロノームを見つめる。

 でも、そうしているとたしかに気分がゆったりしてきたような気がした。
 本当に、メトロノームの刻むゆっくりしたテンポと自分の気持ちが重なってくるようだった。

「どう?リラックスできてると思うでしょ?」

 柳沢の言葉に黙ったままコクリと頷く。
 実際に、とてもリラックスできてるように思えた。

 じっとメトロノームを見つめている麻衣の耳に、カチッカチッと正確にリズムを刻む音と、柳沢の声だけが聞こえる。

「そう。そうやってるとすごくリラックスできて、いい気持ちになれるよ。じゃあ、もっと遅くしようか。そうしたら、もっとリラックスできてもっとゆったりした気持ちになれるから」

 そう言って、柳沢はさらにメトロノームのテンポを遅くする。
 おそらく、このタイプのメトロノームの下限いっぱいのテンポ40まで。

 ゆっくりとしたリズムを刻むメトロノームを、麻衣はじっと見つめる。
 それに合わせて、気分もさらにゆったりしてくる。
 いや、気分だけじゃなくて、思考さえもゆっくりしてくるみたいだった。
 だって、こんなにゆったりしたテンポの中で、細かいことなんか考えられない。

「ほら、とってもゆったりした気分で、すっごく気持ちいいよ」

 黙ったまま、柳沢の言葉に小さく頷く。

 そう言っている柳沢の声を聞くのもどこか心地よく感じられる。

「今は、そうやってリラックスしていればいいから。なにも考えなくていいからね」

 うん……。
 私はリラックスしていればいいの……。
 なにも考えなくていいの……。

 じっとメトロノームを見つめる麻衣の瞳から、徐々に光が失せていく。
 実際、彼女の目にはゆっくりと揺れるメトロノームの針しか映らなくなっていた。
 その、ゆったりとしたテンポに身も心も任せていた。

 そして、その耳に柳沢の声だけが聞こえてくる。

「そう、きみはなにも考えなくていい。頭の中を空っぽにして、気分を楽にしていればいい。そうしたら、すごく気持ちよくなれる」

 ……なにも考えなくていい。
 頭の中を空っぽにして、そうしたら……すごく気持ちいい。

 虚ろな瞳をメトロノームに向けたまま、麻衣の口許にうっすらと笑みが浮かぶ。

「どうだい?気持ちいいかい?」

 柳沢の言葉に、麻衣は小さく頷く。
 その反応は、メトロノームのテンポのようにゆっくりとしていた。

「じゃあ、もっと気持ちよくなってみようか。メトロノームが止まったら、きみの思考は止まって頭の中が空っぽになる。でも、なにも怖いことはないからね。そうしたら今よりもっと気持ちよくなれるし、空っぽになった頭には、いろんなことがすっと入ってくるから、きみにとってもいいことばかりだよ」

 止まる……止まる……。
 メトロノームが止まったら……私の思考は止まる……。
 思考が止まると……頭の中が空っぽになって……もっと気持ちよくなれる……。

 もう、ほとんどなにも考えられなくなっている麻衣の頭の中に、柳沢の言葉がすっと入り込んでくる。

「いいかい、僕がメトロノームが止めると、きみの思考は止まるよ。よかったら頷いてくれるかな?」

 止まる……止まる……私の思考は止まる……うん……。

 ぼんやりとした表情のまま、麻衣はコクリと頷く。

 それを確認して、柳沢の指がメトロノームの針を押さえると、ピタッと針の動きが止まった。

 すると、麻衣の思考も完全に止まる。
 まるで、目を開けたままで意識を失ったように全てが真っ白になった。





「さてと、うまくいったな……」

 そう呟くと、柳沢はメトロノームを脇に退ける。
 麻衣は、虚ろな視線をぼんやりと前に向けたままソファーに座っていた。

 そんな彼女を見下ろして柳沢は口を開いた。

「秋本さん、今、とても気持ちいいよね?気持ちよかったら、ちゃんと返事をしてくれないかな?」
「……はい」

 麻衣の口から、ぼそりとした返事が返ってくる。
 しかし、それにはなんの意志も感じられなかった。

「いつでも、そんな気持ちになりたいかい?」
「……はい」
「じゃあ、いつでもその気持ちになれるように約束事を決めておこう。僕が"真似っ子人形の秋本さん"というと、きみはいつでもその気持ちのいい状態になれるよ」
「……はい」

 虚ろな目をした麻衣が、柳沢の声にぼそりぼそりと返事を返す。

「で、さっきも言ったけど、今、きみの頭の中は空っぽだから言われたことがすうっと入ってきて、それはきみの中で絶対になるよ。きみは、自分の意志とは関係なく言われたとおりに行動してしまうんだ。わかったかい?」
「私の……頭の中は空っぽだから……言われたことが……すうっと入ってきて……私の中で……絶対になります……。そして……自分の意志とは関係なく……言われたとおりに行動します……」
「うん、そうだね。それじゃあ、きみはこれから見せられるビデオの中の女の子とまったく同じことをするよ。ビデオが映っている間きみは、その子と同じ姿勢、同じ行動をして、同じことを言うよ」
「私は……ビデオの中の女の子と……まったく同じことをします……。ビデオが映っている間……私はその子と同じ姿勢をして……同じ行動をして……同じことを言いいます……」
「それとね、ビデオの中で女の子が"気持ちいい"って言うと、きみの体もどんどん敏感になって気持ちよくなってくるよ。きみの気持ちや意志とは関係なくね」
「ビデオの中で女の子が"気持ちいい"って言うと……私の体もどんどん敏感になって気持ちよくなってきます……私の気持ちや意志とは関係なく……」

 ぼんやりとした表情のまま、抑揚のない口調で麻衣は柳沢の言葉を繰り返していく。

「きみの思考は今は止まっているから、今、こういうことを言われたってことは、元に戻ったときには覚えてないよ。でもね、空っぽの頭の一番深いところに入ってきたから、覚えていなくても言われたとおりのことをしてしまうよ」
「私の思考は止まっているから……今、こういうことを言われたことは……元に戻ったときには覚えていません……。でも……空っぽの頭の一番深いところに入ってきたから……覚えていなくても言われたとおりのことをしてしまいます……」
「よし、じゃあ僕が手を叩いたら、きみはすごくリラックスして、すっきりした気持ちで元に戻るよ」

 そう言って、柳沢はパチンと手を叩く。
 すると、麻衣の瞳にふっと光が戻った。
 そして、少し驚いたようにキョロキョロと周囲を見回す。

「あれ?」

 私……バイトの研修中だったよね?
 で、店長さんが緊張を解すって言って……。

「どうかな、秋本さん。すごくリラックスできてるんじゃないかな?」
「はい、そういえば……」

 たしかに、柳沢の言うとおりにすごくリラックスできてるような気がした。
 さっきまでは自分でも肩に力が入ってるのがわかったのに、今はそれがすっかり解れていた。

「じゃあ、緊張も解れてきたところで研修を再開しようか。さあ、テレビの前に立って」
「はい」

 もう一度麻衣をテレビの前に立たせると、柳沢はリモコンを手に取った。

「それじゃはじめるよ」
「はい!」

 柳沢がリモコンを操作すると、テレビ画面に少女の姿が映し出された。

『いらっしゃいませっ!』
「いらっしゃいませっ!」

 画面の中の少女が頭を下げると、即座に麻衣もペコリとお辞儀をする。
 麻衣自身も信じられないくらいの反応の早さで。

「うん、いいよ秋本さん。すごく良くなったよ!じゃあ、続けてやってみようか」
「はいっ!」
『いらっしゃいませっ!』
「いらっしゃいませっ!」
『いらっしゃいませっ!』
「いらっしゃいませっ!」

 テレビに映った少女に合わせて、元気よく挨拶を繰り返す。

 やだ……嘘みたいにスムーズに体が動く。
 これも、緊張が解れたからなのかな?

 ごくごく自然に体が反応しているのに、麻衣は少し驚いていた。

「うん、本当に良くなったよ。ちょっと鏡を見ながらやってみて。そうしたら自分でも違いがわかるはずだから」

 そう言われて、テレビの横に置かれた鏡をちらりと見る。

『いらっしゃいませっ!』
「いらっしゃいませっ!」
『いらっしゃいませっ!』
「いらっしゃいませっ!」

 鏡に映った自分は、驚くほどに爽やかで明るい笑みを浮かべていた。
 画面の中の少女、今も、下の喫茶店で仕事をしている子と同じか、それ以上の弾けるような笑顔。
 最初に練習したときの、強ばった笑顔とは全然違っていた。

 本当に全然違う。
 私って、その気になったらちゃんとできるんだぁ……。
 あ、でも、店長さんに緊張を解してもらったからだよね。

 鏡の中の自分の笑顔にビックリするのと同時に、麻衣は少し楽しくなってきていた。
 この調子なら、すぐにバイトにも慣れることができそうな気がした。

「よし、じゃあ、挨拶の練習はそれくらいでいいかな。それじゃ、次のステップにいこうか。次はお客様が席に着いてからの接客を見てもらうよ」
「はい」
「これは、今はまだ完璧にできなくてもいいから、接客の流れを掴むつもりでざっとビデオに合わせて動いてみてくれるかな」
「わかりました」

 麻衣が返事をすると、柳沢はまたリモコンを操作する。
 すると、さっきの少女が水の入ったグラスをお盆にのせて立っている映像が映し出された。
 麻衣も。それに合わせてお盆を持つ振りをする。

 テレビ画面の中では、少女がグラスをテーブルに置く動作をする。
 すると麻衣もごく自然にコップを置く動作をエアでやっていた。

 挨拶の練習がうまくいったことに気をよくしている麻衣は、すっかり自分でそうしているつもりになっていて、体が勝手に動いているとは夢にも思っていなかった。

 そして、少女がお盆を抱えて伝票を手にした。

『ご注文はお決まりですか?』
「ご注文はお決まりですか?」

 少女と同じようにお盆を抱える格好をして、麻衣も注文を取る振りをする。

 しかし、ビデオに映った少女の次の言葉は麻衣の予想の範囲外だった。

『え?ご注文は私ですか?……かしこまりました!』
「え?ご注文は私ですか?……かしこまりました!」

 ……って、どういうこと?

 その言葉を疑問に思ったのは、麻衣が鸚鵡返しで少女と同じ言葉を口にした後だった。

 しかも、そんな彼女の疑問にはかまうことなく、ビデオの中で少女は次の行動に移る。

 腰を曲げると、エプロンスカートの裾を捲りあげてわざと見えるようにショーツに手を掛ける。

 ちょっ!?ちょっと、なにやってるの!?
 て、ええっ!?

 少女の行動にビックリした麻衣は、自分の体が同じように腰をかがめてショーツに手を掛けたことでさらに驚くことになった。

 画面の中では、少女がショーツを下ろしていって足を抜いていく。
 そして、麻衣も……。

 なんで!?体が勝手に動く!?
 いったいどうなってるの!?

 意志とは関係なく自分の体が勝手に動いていることに、麻衣はパニックに陥っていた。
 しかし、そのパニックは表情にも行動にも表れない。
 それどころか……。

『これがお客様のご注文のおまんこです!よろしいですか!?』

 少女が両手でスカートの裾を持ち上げ、女の子の大事な場所を丸見えにさせる。
 その顔には、さっきと同じ弾けるような笑顔が浮かんでいた。

 それは当然……。

「これがお客様のご注文のおまんこです!よろしいですか!?」

 麻衣も同じようにスカートの裾を持ち上げて、自分のアソコをさらけ出していた。
 それだけではなくて、テレビ脇の鏡をちらっと見ると、麻衣も同じように満面の笑みを浮かべていた。

 やだっ、こんな格好恥ずかしいのにっ、どうして!?
 それに、なんで私ったらそんなに嬉しそうに笑ってるの!?

 そんな格好で恥ずかしいところをさらけ出して、笑うどころじゃないのに弾けるような笑顔を見せている自分を見て、麻衣は恐怖を覚えていた。
 自分の体が自分の思い通りにならず、ビデオの少女と全く同じ行動をとっている。

 心の中ではどうしてそんなことになっているのかわからなくて背筋が寒くなっているというのに、鏡の向こうで自分は満面の笑みを浮かべている。
 そればかりか……。

『それじゃあ、準備をしますね!』

 そう言うと、少女は床に腰を下ろして大きく足を広げてみせる。
 そして、ブラウスのボタンを外すとブラをずり上げて胸を露わにさせた。

「それじゃあ、準備をしますね!」

 麻衣も元気よく少女と同じ言葉を口にすると、床に座り込んで大きく両足を広げてみせる。

 だめっ!
 こんなのだめよっ!
 だめなのに……お願いっ、こんなことしないで!

 そんな麻衣の願いも虚しく、自分の手が勝手に動いてブラウスのボタンを外していく。

 やだっ、どうして体が言うことを聞いてくれないの!?

 心の内で悲鳴をあげている麻衣の目の前で、少女の片手が大きく開いた股間に、もう片方の手が自分の胸に伸びていく。

『んっ……はんっ、ああっ、気持ちいいっ!』

 自分の胸を掴んだ少女の指先が乳首を指で弾き、もう片方の指がアソコをなぞる。

「んっ……はんっ、ああっ、気持ちいいっ!」

 うそっ!?
 なんでこんなっ!?

 麻衣が戸惑っていたのは、自分も同じように自分の胸をまさぐってワレメを指でなぞったせいだけではなかった。
 自分の意志とは関係なくそんなことをしているというのに、その瞬間、ゾクゾクするような快感が快感が駆け巡ったからだ。

『あんっ、いいっ、気持ちいいっ!』
「あんっ、いいっ、気持ちいいっ!」

 少女が自分の胸を揉みしだきながら、アソコの入り口に指を擦りつける。

『でもっ、もっと気持ちよくしないと!……んふっ、ああんっ、これっ、すっごく気持ちいいっ』

 少女の指が、ずぶっとアソコの中に入っていく。
 すると、少女の腰が軽く浮いてブルッと震える。
 白いニーソックスの向こう、大きく開いた足の奥でアソコがヒクヒク震えているのが丸見えだった。

「でもっ、もっと気持ちよくしないと!……んふっ、ああんっ、これっ、すっごく気持ちいいっ」

 少女の動きを写し取ったように、麻衣もワレメの中に指を潜り込ませて、体をビクビクと震わせる。

『あんっ、気持ちいいっ!気持ちいいのぉっ!』
「あんっ、気持ちいいっ!気持ちいいのぉっ!」

 少女と麻衣が指先でアソコをかき混ぜ、激しく乳房を捏ね回して喘ぐ。

 やだっ!
 こんなところで自分でするなんて!
 そんなのおかしいのに、なんで気持ちいいのっ!?

 さっきから、少女が気持ちいいというたびに、痺れるような快感が走るのを麻衣は自覚していた。
 そればかりか、少女がその言葉を言うたびに体が熱くなって、どんどん敏感になっているように思える。
 そんなの、自分は望んではいないのに。

『ああっ、気持ちいい気持ちいいっ!こうして自分のエッチなところ弄るのっ、気持ちいいっ!』

 膝を立てて、充血して震えているアソコを見せつける少女。
 その指が、ズブズブとアソコを入ったり出たりしている。
 そして、その画面を見つめる麻衣も、全く同じことをしていた。

「ああっ、気持ちいい気持ちいいっ!こうして自分のエッチなところ弄るのっ、気持ちいいっ!」

 だめっ、これ以上言わないで!
 これ以上気持ちよくさせられると、私っ、イッちゃう!
 こんなのでイキたくないのにっ!

 口では快感を叫び、しかし心の中では嫌がりながら麻衣は画面の中の少女と同じように激しくオナニーを続けていた。
 ただでさえデリケートなところを弄っているというのに、そこは敏感になりすぎていて、少し指先を動かしただけで目の前で火花が爆ぜる。
 理性や感情とは裏腹に、体と感覚は正直に反応してもう絶頂寸前だった。

『ああんっ、気持ちいいっ!気持ちよすぎてっ、私イクッ、もうイッちゃううううっ!』
「ああんっ、気持ちいいっ!気持ちよすぎてっ、私イクッ、もうイッちゃううううっ!」

 少女が、きゅっと体を反らせてヒクヒクと震わせる。
 同時に、麻衣にも限界が来た。

 頭の中が真っ白になったかと思うと、体が硬直する。
 ヒクヒクと震えるアソコから、ブシュッと派手に潮を吹いていた。




 やだ……私、こんなところでひとりエッチしてイッちゃった……。
 なんで、なんでこんなことに……。

 絶頂の余韻で半ば放心状態になりながら、麻衣は泣きそうな思いだった。
 しかし、彼女が泣くことは許されなかった。




 画面の中で、少女が笑みを浮かべて立ち上がる。
 同じようにヨロヨロと立ち上がりながら麻衣がテレビ脇の鏡を見ると、自分も同じように笑みを浮かべていた。

 そして……。

『では、準備ができましたのでどうぞお召し上がりください、お客様!』

 実際に接客しているような元気のいい笑顔で、少女が腰を引いて尻を突き上げるような姿勢になる。

「では、準備ができましたのでどうぞお召し上がりください、お客様!」

 麻衣も同じように叫ぶと、全く同じ姿勢で、嬉しそうな笑みを浮かべて後ろに腰を突きだしていた。

 お召し上がりくださいって……?
 ……あっ!?

 テレビ画面の中、少女の後ろに立つ男の姿が映った。
 それが店長の柳沢だと思った瞬間、自分の腰が背後から掴まれたのを感じた。
 そして、アソコに固いものが押し当てられる感触。

 やだっ!?
 まさか、これってっ!?

 麻衣は、嫌な予感を感じる。
 いや、この状況でされようとしていることなんて、他に考えられない。

 やだっ!それはやめてっ!

 必死に抵抗しようとしても、自分の意志ではひと言も発することができない。
 それどころか、全く正反対の言葉を口にしていた。

『お客様、遠慮せずにどうぞ美味しくお召し上がりください!』
「お客様、遠慮せずにどうぞ美味しくお召し上がりください!」

 次の瞬間、その固いものがアソコを押し広げて入ってくる。

 いっ、痛いいいっ!

 思わず悲鳴をあげたくなりそうな破瓜の痛みだというのに。

『んふううううっ!気持ちいいっ!あんっ、お客様のっ、大きくてすごく気持ちいいですぅっ!』

 バックから男に挿入されて、少女がうっとりとした表情を浮かべる。
 いかにも気持ちよさそうに喘ぐ少女と、同じ反応を自分も示していた。

「んふううううっ!気持ちいいっ!あんっ、お客様のっ、大きくてすごく気持ちいいですぅっ!」

 本当は痛いはずなのに、いや、実際に痛いのにそれを口にすることもできない。
 それどころか、痛みの奥からビリビリくるほどの快感がこみ上げてくる。

 なんでっ!?
 こんなに痛いのにっ、こんなに……気持ちいいっ!?
 やっ、そんなっ、今動いたら!ああああっ!

 アソコの中に入ってきた固いものが動き始めて、目も眩むほどの刺激が走った。

『あんっ、ああっ、ふああっ、気持ちいいですっ!どうですかっ、お客様っ!私のおまんこっ、美味しいですかぁっ!?』

 麻衣の目の前で、少女の体がガクガクと揺れている。
 それに合わせて、その乳房がぷるんと前後に揺れていた。
 そして、同じようにズンズンとアソコの中を突かれて、麻衣も体を揺らせていた。

「あんっ、ああっ、ふああっ、気持ちいいですっ!どうですかっ、お客様っ!私のおまんこっ、美味しいですかぁっ!?」
「ああ、すごく美味しいよ」

 麻衣の発した言葉に答えるように、背後から聞き覚えのある声が聞こえた。
 テレビ画面の中で少女を犯している店長の柳沢の声だった。

 この人っ、私にいったいなにをしたの!?
 なんでこんなことに!?……あうっ!やあっ、そんなに突かれたらっ!

『あっ、気持ちいいっ!すごく気持ちいいですっ、お客様!どうかっ、もっといっぱい突いてくださいぃいい!』
「あっ、気持ちいいっ!すごく気持ちいいですっ、お客様!どうかっ、もっといっぱい突いてくださいぃいい!」

 やめてっ、それ以上その言葉を言わないでっ!
 これ以上気持ちよくされたらっ、私っ、おかしくなるぅ!

 少女が嬉しそうに気持ちいいと叫ぶたびに、脳天を衝くような快感が駆け抜けていく。
 ただでさえさっきのオナニーの時に敏感にさせられていた体が、さらに快感に敏感になるのを感じる。
 もう、処女を失った痛みよりも、快感の方がはるかに大きくなってしまっていた。



 と、その時、不意に画面の中の少女の動きが止まった。
 いや、少女の動きが止まったのではなくて、ビデオに一時停止がかかったのだ。

 ……え?なに?
 あ、れ?体が、動かない!?

 画面の中で静止した少女と同じく、麻衣もピクリとも動けなかった。
 背後から犯されたままだというのに、まるで、自分自身に一時停止がかけられてしまったみたいに体が固まってしまっていた。
 
「うん、いいね。実にいいよ、秋本さん」

 背後から、柳沢の声が聞こえた。

「すごくいやらしくて、いい体をしてるね、きみは」

 ち、違うのっ!
 私はいやらしくなんかないのに!

 柳沢の声に逆らいたくても、体は固まったままで口を動かすこともできない。

「ん?ああ、そうか、体を動かせないんだね。じゃあ、声を出すのだけは許してあげよう。さあ、しゃべりたまえ、秋本さん」
「……やっ!?あっ、あなたっ。私になにをしたの!?」
「なにをって、研修じゃないか」
「こんな研修あるわけないわっ!あなたが私になにか変なことをしたんでしょ!?」
「んー、まあ、たしかにしたことはしたけど、きみも気持ちいいだろ?」
「なっ……!こんなの気持ちいいわけがないじゃないっ!」
「そうかな?それにしては、きみのここはさっきから愛液を垂れ流しっぱなしだし、きみの顔だってそんなになってるじゃないか」

 そう言うと、背後から伸びた手が麻衣の顔を鏡の方に向かせる。
 そこに映った自分の顔は、言葉とは裏腹に蕩けたような笑みを浮かべていた。
 静止したテレビ画面の中で固まっている少女の笑顔と同じように、頬を紅潮させて目をトロンと緩ませた笑みを。
 そして、溢れ出た蜜が麻衣の両足を伝ってニーソックスに染みを作っていた。

「こっ、これだってあなたがっ!……こんなことをしていいと思ってるの!?」
「そうは言ってもね、形としてはきみの方から誘ってきたことになるしね」
「だからそれもあなたがっ!」
「まあ、いいから続きをしようじゃないか。さあ、いくよ」

 柳沢がそう言うと、画面の中の少女が再び動き始める。
 するとたちまち、背後から突かれる快感が押し寄せてきた。

『はんっ、ああっ、いいわっ、もっと私のおまんこおちんちんでズボズボ突いてぇえっ!』
「はんっ、ああっ、いいわっ、もっと私のおまんこおちんちんでズボズボ突いてぇえっ!」

 やあっ!やめてっ!そんなに突かないでっ!
 私っ、体が敏感になりすぎてるのにっ!

 再開された、ビデオの少女の淫らな言動。
 そして、麻衣はそれをそっくり同じにコピーしていく。

 そのまま、敏感になった麻衣の体はいとも簡単に快感に飲み込まれていく。

『はぁんっ!いいっ、いいです、お客様ぁ!気持ちいいから、私も動いちゃいますね!』

 そう言うと、少女は立ちバックで突かれながらくねらせるように腰を動かしはじめた。
 すると、麻衣の体も即座に同じ行動を取る。

「はぁんっ!いいっ、いいです、お客様ぁ!気持ちいいから、私も動いちゃいますね!」

 あっ!だめぇっ!
 だめなのにっ、あんっ!これぇ、気持ちよすぎっ!

 後ろから突かれる動きに、麻衣自身が腰をくねらせる動きが加わって、アソコの中をかき回されるように感じる。
 固くて熱いのがあちこちにぶつかって、そのたびに目の前が白くなっていく。

『あぁんっ、すごいっ!気持ちいいですっ、お客様ぁ!んっ、はんっ!』
「あぁんっ、すごいっ!気持ちいいですっ、お客様ぁ!んっ、はんっ!」

 だめ……。
 気持ちいい……気持ちよくて、もうわけがわからない。
 頭の中が真っ白になって、どうにかなっちゃいそう……。

 麻衣の意識は、押し寄せる快感の波に飲み込まれかけていた。
 頭の中がぼんやりしてくると、感覚だけが剥き出しになったみたいに快感が体を埋め尽くしていく。
 どのみち、意識がはっきりしてもしていなくても、麻衣の姿は傍目には蕩けた表情でいやらしく腰をくねらせているようにしか見えないのだが。

 ぼやけていく意識の中、画面の中の少女と自分の区別がなくなりそうになる。
 無理矢理そうさせられているのではなくて、自分から望んでいやらしいことをしているのではないかと錯覚しそうになる。

『あんっ!私っ、もうイキそうです!どうかっ、お客様の熱い精液をいっぱい中に注いでくださいっ!』

 ……ふえ?……中に?
 やっ!それだけはだめぇっ!

 画面の中の少女が叫んだ言葉に、ぼやけていた頭がはっきりする。
 だからといって、なにも変えることはできなかった。

「あんっ!私っ、もうイキそうです!どうかっ、お客様の熱い精液をいっぱい中に注いでくださいっ!」

 そう叫ぶと、少女と同じように自分から腰の動きを激しくしていく。
 体を一気に絶頂へと押し上げるかのように。

 やっ!だめっ!
 そんなに腰動かしたら中に出されちゃう!
 出されちゃうのにっ、止まらない!

 お腹の中の固いものがビクッと震えるのを感じた。
 心では射精の予感に怯えているのに、快感も腰を振るのも止まらなかった。

『ああっ!イクイクイク!お客様の中出しでっ、イッちゃううううううっ!』

 絶叫と共に少女の体が激しく痙攣する。
 それと同時に、麻衣も絶頂に達していた。

「ああっ!イクイクイク!お客様の中出しでっ、イッちゃううううううっ!」

 背筋が反り返って、アソコ全体で入ったままの固いのを締めつけてヒクヒクと震える。
 と、次の瞬間、噴き出してきた熱いものがアソコの中に叩きつけられるのを感じた。

 ひゃううううううううううっ!
 ふああっ!熱いっ、熱くてっ、おかしくなるぅうううううっ!

 ただでさえ絶頂しているところに射精されて、頭の中が完全に真っ白になる。

 ふぁあああ……。
 出てる、まだ出てるのぉ……。

 テレビ画面の中では、少女がその場にぐったりとへたり込むのが見えた。
 麻衣も同じようにくたっと床に崩れ落ちる。
 きっと、画面の中の少女の行動とシンクロしていなくても彼女はそうしていたに違いなかった。
 それほどに激しい絶頂の後で、体に全く力が入らなかった。

『ふぁああああ……どうでしたか?私のおまんこは美味しく召し上がっていただけましたかぁ……?』

 床にへたり込んだまま、少女がふにゃっとした笑みを浮かべる。

「ふぁああああ……どうでしたか?私のおまんこは美味しく召し上がっていただけましたかぁ……?」

 絶頂の余韻と中出しされたショックで呆然としながら、麻衣は少女と同じ台詞を言った自分の口角が上がって、笑みを浮かべているのを自覚していた。





 そして、そこでビデオ映像が終わった。
 次の瞬間、頭上から柳沢の声が降ってきた。

「"真似っ子人形の秋本さん"」

 その言葉を聞いた麻衣の顔から表情が消え失せ、瞳は虚ろになって焦点が合わなくなる。

「うん、なかなかいい体じゃないか。これならまだまだ楽しめそうだ」

 焦点の合わない視線を横に向け、ぐったりとうつ伏せになっている麻衣を見下ろして柳沢が呟く。

「ふっ……こんなにぐっしょりと濡らして、研修のやりがいはあるけど後始末が大変だな……」

 スカートの裾を持ち上げると、麻衣の股間から太ももにかけてぐっしょりと濡れて、溢れだした精液混じりの愛液が床に水溜まりを作っていた。

 柳沢は、部屋の奥から持ってきたおしぼりを手にすると、ドロドロに汚れた麻衣の肌を拭いていく。
 敏感な部分を拭ったときに、麻衣が「んん……」と鈍い声を上げたが、ぼんやりと虚ろな表情を浮かべたまま、その意識が戻る気配はない。
 そうやって麻衣の体をきれいにすると、エプロンドレスやニーソックスにこびりついた愛液を拭い取る。

「こんなものかな……。まだ服が少し湿っているだろうけど、まあ、すぐに乾くだろう」

 最後に、床にこぼれた愛液を拭い取ると柳沢は立ち上がり、麻衣に向かって口を開いた。

「聞こえるかい?秋本さん?」
「……はい」

 麻衣の口がゆっくりと動いて、力のない返事が返ってくる。

「今、きみは空っぽの、気持ちのいい状態だよね?」
「……はい」
「その状態の時に言われたことは、すうっときみの中に入ってくるよね?」
「……はい」
「じゃあ、よく聞くんだ。今、その状態の時のきみは、必ず僕が命令したとおりに動くよ」
「この状態の時の私は……必ず店長さんが命令したとおりに動きます……」
「それでね、その状態の時に僕に言われたことは、目が覚めた後もきみ自身の考えとしてそのとおりにしてしまうよ」
「この状態の時に店長さんに言われたことは……目が覚めた後も私自身の考えとして……そのとおりにしてしまいます……」

 柳沢が暗示を仕込んでいくと、初めの時と同じように麻衣は抑揚のない声でその言葉を繰り返していく。

「うん、じゃあ、立ち上がるんだ、秋本さん」
「……はい」

 柳沢が命令すると、麻衣はのろのろと体を起こして立ち上がった。
 次に、柳沢は麻衣のショーツを拾い上げてそれを手渡す。

「さあ、これを穿いて、ブラウスのボタンをきちんと留めるんだ」
「……はい」

 柳沢の命令したとおりに、麻衣はゆっくりとした動作でショーツに足を通し、はだけていたブラウスのボタンを留めていく。

「それじゃあソファーに座るんだ」
「……はい」

 麻衣が服装を整えたのを見届けると、柳沢は命令して麻衣をソファーに座らせる。

「いいかい、秋本さん?きみは、目が覚めたらビデオを見始めてから起きたことを全く思い出せなくなる」
「私は……目が覚めたらビデオを見始めてから起きたことを……全く思い出せなくなります……」
「きみは今日体調が悪くて、僕の話を聞いている途中で眠ってしまったんだ」
「私は今日体調が悪くて……店長さんの話を聞いている途中で……眠ってしまいました……」
「研修中に居眠りしてしまって僕に怒られるけど、きみはこのバイトをやめようとは思わない。きみはどうしてもこのバイトをやりたいから、絶対にやめたくないと思うんだ」
「店長さんに怒られてしまうけど……私はこのバイトをやめようとは思いません……。私はどうしてもこのバイトをやりたいから……絶対にやめたくありません……」
「よし、じゃあ眠るんだ、秋本さん」

 最後に柳沢が命令すると、麻衣はソファーに座ったまま、深い眠りに落ちていった。






* * *







「秋本さん……秋本さん!」

 名前を呼ばれながら体を揺さぶられて、麻衣は目を覚ました。

 ええっと……私、なにしてたんだっけ?

 最初は寝ぼけていた麻衣が、自分のいる場所となにをしていたかを思い出すまでには少し時間がかかった。
 部屋の中を見回し、自分を起こした男の顔を見る。

 この人は……バイト先の店長だよね?
 そうだっ!私、今日はバイトの研修に来て店長さんの話を聞いていたんだった!

「困るね、秋本さん、研修の途中で寝てしまったら」

 店長の柳沢が、そう言って険しい表情をする。

 ……やだ!?
 私、途中で寝ちゃったんだ!

「すっ、すいません!」

 研修の途中で自分が寝てしまっていたことに気づき、麻衣は慌てて頭を下げる。

「まったく、最初からこんなことじゃ本当に困るよ。やる気がないんなら、別にやめてもらってもいいんだけどね」
「ごめんなさい!もうこんなことはしませんから続けさせてください!お願いします!」

 やめさせられると思った麻衣は、ひたすら謝るしかなかった。
 ここの制服がすごく気に入ってバイトに応募して、せっかく採用されたというのにやめさせられたくなかった。
 どうしてもこのバイトを続けたかった。

「とは言ってもね、中途半端な気持ちでやられるとこっちも困るんだよ」
「本当にすみません!もうっ、もう本当に居眠りなんかしませんからお願いします!」

 ひたすら謝り続けて、やっと柳沢は許してくれた。
 ただし、少し長めの説教を受けることにはなったのだが。





「とにかく、今日はもう時間もないし、着替えて帰りなさい。きみには改めて研修を受け直してもらうからね」
「わかりました。本当に今日はすみませんでした……」
「次はこんなことのないようにね」
「はい」

 説教が終わると、柳沢は麻衣を帰らせる。

 どうにかクビは免れたものの、怒られてすっかり悄気返っていた麻衣は、着替えるときにニーソックスやスカートに染みが付いていて、少しごわごわしていることにも気がつかなかった。






* * *







 着替え終わって喫茶店のあるビルを出ると、麻衣は重い足取りで家路につく。

 手帳を見ると、途中まではちゃんとメモを取っていたし、そこまでのことは全部覚えている。
 しかし、時計を見たらかなりの時間が経っているのにその後なにをしていたか全然覚えてない。
 きっと、そこで寝てしまったのに違いなかった。

 だったら、かなりの時間寝ちゃってたことになるよね?
 それは、店長さんも怒るはずだわ……。

 自分が居眠りしていた時間を考えると、改めてよくクビにならなかったものだと思う。

 ……ちゃんと寝て来たはずなのに、どうして居眠りなんかしちゃったんだろう?
 そういえば、今日は起きてから体調が悪かったような気がするし……。

 よく考えると、思い当たる節があるような気がした。

 それに、今だって妙に体が火照っていて、気怠い気がする。

 ……熱でもあるのかな?
 それに、なんだかお腹の奥の辺りが痛い気がするし……。

 さっきから体が熱っぽくて、下腹部の辺りに鈍い痛みを感じる。
 それがセックスをしたせいだとは、なにも覚えていない麻衣は夢にも思わなかった。

 帰ったらお薬飲んで今日は早く寝なくちゃ……。
 次の研修までに元気になっておかないと、今度こそやめさせられちゃうかもしれないし。
 そんなのやだよね、せっかくあの可愛らしい制服を着てお仕事できるのに……。

 そんなことを考えながら、麻衣は日の傾いた街をトボトボと肩を落として歩いて行ったのだった。









 あとがき

 ワタシはあんまりあとがきは書かないんですけど、ただ、このお話はこの間みゃふさんの『コンピューター室のリンク』を読み返していて、やっぱりこういう肉体操作っていいなぁ、と改めて思ったのであとがきに書くことにしました。
 肉体操作って、操られている対象が嫌がったり戸惑ったりしてる反応とか、そういう心理描写みたいなものがあってこそだと思うんですけど(それがなかったら人形化とそんなに変わらないですし)、ただ、そういう嫌がっている描写があるせいで単に相手の子を犯すだけじゃレイプ感が強すぎるといいますか、せっかく肉体操作しているのにただ女の子とやるだけっていうのも興醒めな気がするんですよね。で、操っている対象の子に本人が思ってもいないことをさせたり、やりたくないこととかやるのが恥ずかしいことをさせるのがだいたいのパターンだと思いますし、自分で書いたのも肉体操作ものはそんなシチュが多いはずなんですね。それに対して、『コンピューター室のリンク』みたいに、感情や思考と切り離して行動と感覚だけなにかとリンクさせるのってありだなぁ、って改めて思ったんです。『コンピューター室のリンク』ではエロゲとリンクさせてましたけど、こうやってゲームや映像とリンクさせるのってそれらの一連の流れがあって、リンクさせるものによっていろいろバリエーションができるんじゃないかと……。しかも、リンク先のものの流れが続いている間はオートマチックに肉体操作の支配下にあって、体が勝手にそのとおりに動いてしまう戸惑いとか、怯えみたいなものを(しかも、それで体が勝手に感じてしまってる様子も)その流れに合わせられるのがいいなぁ、と。それと、今回はリンクさせるものが接客業の研修用ビデオ(中身はただのえっちしてる映像ですけど)なので、当の本人は戸惑ったり嫌がったりしてるのに、表情はリンクしてるビデオに合わせて営業用の満面の笑顔を見せてるのがゾクゾクするなぁ……とか思ってる時点でワタシも末期症状ですが(笑)。
 だめだ……自分の言ってることの方が鬼畜すぎて、初めの方で「単に相手の子を犯すだけじゃレイプ感が強すぎてどうか……」とか言ってるのに説得力が全然ないですね。

 
 
< 完 >


 

 

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