戻れない、あの夏へ


 

 



第6話 後編 ユイ




〜20〜




 ――深夜。

 その日も、遅くまで激しい情事を重ねて、何度も絶頂に達した結依は、すっかり果てて泥のように眠っている。
 ベッドの上に、体を寄り添わせる相手の姿がないことにも気づかないほどに。



 そして、リビングの方からぼんやりと灯りが漏れていた。



「……ミホか?」

 そこでは、津雲が携帯を耳に当て、声が漏れないようにもう片方の手で口を覆っていた。

「……明日、こっちに来れるか?……ああ、そうだ、制服を持ってきてくれ」

 結依が目を覚まさないように、小声で話している。

「……時間は……そうだな、昼過ぎくらいに。じゃあ、頼む」

 必要なことを手短に伝えて話を終えると、携帯を切る。
 そして、部屋の灯りを消すと寝室に戻り、ベッドの中にそっと体を忍び込ませる。


 すると、引き寄せられるように結依が擦り寄ってきた。


「んん……んふうぅ……」

 津雲がその柔らかな肌をそっと撫でて、結依は幸せそうな寝息を洩らす。

「んにゃ……ん、ゆーじさん……」

 むにゃむにゃと寝言を言いながら、背中を丸めて津雲の胸に体を埋めてくる結依を、津雲は優しく撫で続ける。

「おまえに雄司さんと呼ばれるのも明日で最後だな、ユイ」

 そっと囁く津雲の言葉は、もちろん結依には届かない。
 ただ、すやすやと、穏やかな寝息を立てているだけだった。





* * *






「起きたかい、ユイ?」

 朝、目を覚ました結依の耳に、愛しい人の声が飛び込んでくる。

 結依が声のした方に視線を向けると、優しい笑顔がすぐ目の前にあった。

「あ、おはようございます、雄司さん。ん、ちゅ……」

 おはようと返す代わりに、津雲の顔がこっちに近づいてきて、そのまま口づけを交わす。
 そのまま、互いの頭を抱えるようにして、舌を絡める。

「んむ……むふ、ん、んふう……むふうううう……」

 ねっとりと舌を絡めて愛撫するような、目覚めの挨拶にしては濃厚すぎるキス。
 ゆっくりと、時間をかけて口づけをするうちに、結依は津雲の体に足を絡めていた。
 熱い吐息を洩らしながら、体をくねらせる結依。
 ほんのりと赤くなった胸が、大きく波打っていた。

 ん……こうしていると、雄司さんの温もりをいっぱいに感じる……。

 津雲の唇を吸いながらぴったりと体を密着させていると、それだけで胸が高鳴って幸せな気分になってくる。

「んん……んふうう……ひゃっ、あふううっ!」

 津雲の指が、いきなりアソコの中に潜り込んできて、結依は思わず首を仰け反らせた。

「ユイったら、キスだけでこんなに濡らしてるのかい?」
「やだっ、もう、雄司さんったら!」

 津雲が意地の悪い笑みを浮かべて、ヌラヌラと鈍く光る指を目の前に突き出すと、顔を真っ赤にして、結依は悪戯を見つけられた子供みたいに口を尖らせる。

「起きたばっかりだってのに、もうして欲しいのかい?」

 津雲の言葉に、結依は恥ずかしそうに黙ったまま、それでもコクリと首を縦に振る。

「本当にいやらしいな、ユイは。でも、そんないやらしいユイが好きだよ、僕は」
「雄司さん。……あっ」

 結依のももに、固くて熱いものが当たる感触。
 ドクンドクンと脈打っているのが伝わってくる。

「やだ、雄司さんのもこんなに固くなってるじゃないの」
「それは、朝っぱらからそんないやらしい姿を見せつけられたらね」
「もうっ、雄司さんった、ら……」

 間近で見つめられて、津雲の軽口に耳の先まで赤くして言い返そうとした結依の言葉が、途切れた。
 そのまま、睫毛の一本一本まで見える距離で見つめ合う。
 高ぶった胸からこぼれ出る自分の吐息が、やけに大きく聞こえる。

「いいかい、いくよ?」
「うん……あっ、んくううっ!」

 囁くような言葉に頷くと、津雲のそれがアソコの中を押し広げて入ってきて、結依はぎゅっと津雲を抱きしめる。
 もう、毎日、幾度となく繰り返してきたのに、何度経験しても挿入の瞬間のこの感覚は堪らない。
 はじめはゆっくりと、アソコの中を固い肉棒が擦る。
 それだけで、一気に体が燃え上がるように熱くなってくる。
 
 そして、一度、ずん、と奥まで入ってくる鈍い衝撃が、背骨を伝わって頭の芯に響く。
 また、結依のアソコの襞を擦りながら戻っていき、またずん、と突かれる。
 その間隔が、次第に短く早くなっていくと、アソコだけでなく、全身がひくひくと震え、頭の中がじんわりと痺れてくる。
 そして、結依の全神経は、アソコの中を抉り、突いてくる肉棒のもたらす快感を脳に伝えることしかできなくなっていく。

 ああっ、雄司さんで私の中がいっぱいになって……これさえあれば、私、もう何もいらない。、

 津雲のことだけを考え、津雲を自分の中に受け入れる喜びで満たされていく。
 こうして、津雲と体を重ねている時は何も考えずに、ただ快感に身を委ねていられる。

「あんっ、はああんっ!あっ、雄司さんっ!雄司さあああんっ!」

 結依は、甘く切ない声をあげながら、より強い快感を求めて自分から腰をくねらせていた。





* * *






 起き抜けのセックスの後、シャワーを浴びてからリビングで津雲とふたりでコーヒーを飲む。

 キッチンには、道具も豆もひととおり揃っていて、津雲のコーヒー好きを窺わせる。
 さすがに、毎日のように”チャイム”に通っていただけはあって、津雲自身も相当凝っているようだった。
 だけど、もちろんコーヒーは結依が淹れた。
 結依にしてみたらコーヒーを淹れるのはお手の物だし、なにより、津雲のためだけにコーヒーを淹れるのが嬉しくてしかたがなかった。

「うん、やっぱりユイが淹れてくれたコーヒーは美味しいね」
「ふふっ、ありがとう、雄司さん」

 津雲に褒められて、白い歯を見せて笑う結依。
 裸の上から、薄手のブラウスを羽織っただけの格好も、彼の前では全然恥ずかしくない。




 ふたりだけの、贅沢な時間を過ごす幸せを結依がかみしめていた、その時のことだった。




 インターホンが鳴ったかと思うと、津雲が出るのも待たずに玄関が開く気配がした。

「……ええっ!?……美穂ちゃん?」

 リビングに入ってきた人物を見て、結依が驚きの声をあげる。
 それは、”チャイム”のバイトの美穂だった。

「……なんで、美穂ちゃんがここに?……きゃっ!」

 茫然として美穂を見ていた結依は、ようやく自分の格好に気づいて小さな悲鳴を上げると、腕で胸を隠す。
 だが、美穂はそんな結依に軽く一瞥をくれただけで、すぐに津雲の方を向いて頭を下げる。

「おはようございます、社長」
「ああ、よく来たね、ミホ」

 そう言って、鷹揚に返事をする津雲。

「社長って?いったいどういうことなの、雄司さん?」

 どうして、美穂がここに来たのか、そして、どうして津雲のことを、社長、と呼ぶのか、結依にはまったくわけがわからない。

 そんな結依の質問に、津雲は答えることはなかった。
 その代わりに……。

「”人形になれ、ユイちゃん”」

 その言葉に、結依の瞳から光が失せる。
 そんな彼女の姿を見て、美穂がクスッ、と笑ったように思えた。

「それでは、着替えて参りますね、社長」
「ああ」

 改めて津雲に向かって頭を下げると、持ってきた大きめのバッグを抱えて美穂は隣の部屋に入っていく。

 そして、津雲は虚ろな表情で座ったままの結依に向き直る。

「いいか、よく聞くんだ、ユイ。おまえは僕のことが好きか?」
「……はい」
「このままずっと、僕の側にいたいか?」
「……はい」

 質問に、結依は虚ろな表情のまま返事を返す。

「僕もそうしてやりたいけど、そのためにはいくつか条件があるんだよ、ユイ}
「……条件?」

 結依が、ぼんやりと霞んだ瞳を津雲に向けて首を傾げた。

「ああ。まずは、僕に奉仕する女のひとりだっていうことを認めるんだ」
「……雄司さんに奉仕する……女のひとり?」
「僕のために尽くす女はたくさんいるからね。自分がその中のひとりだっていうことを認めるんだ、ユイ」
「……」

 その言葉に返事をすることなく、結依は眉を顰めて下を向いた。
 虚ろで、変化に乏しい表情ながらも、どこか悲しそうに見える。

 しかし、津雲はそんな結依の素振りに心を動かされる様子はない。

「それが嫌なら、僕のことは忘れて、ひとりで生きていくんだね」
「……そんなの……嫌です」

 結依が、ふるふると頭を振った。
 そこに、間髪を入れずに津雲は指を突き出す。

「だったら、僕のために尽くす女になるんだ」
「……でも」
「他の女たちと一緒に、僕のことだけを考えて、僕のためだけに生きていくんだ。そうでないと、きみは僕と一緒にいることなんてできない」
「……あ、ああ……ああ」

 目の前に突き出された津雲の指を見つめたまま、結依の瞳孔が小刻みに震え始める。

「考えてもみてごらん、みんなと一緒に僕のために尽くすのは素晴らしいことだと思わないか?」
「……う……ああ……は、はい」

 せわしなく視線を動かしながら、だが、結依はゆっくりと首を縦に振った。

「それに、心配しなくても、おまえが頑張りさえすれば僕に可愛がってもらえる。僕が、幸福と快楽をたっぷりと与えてやる」
「……はい」

 こんどははっきりと返事をする結依。
 津雲の指を見つめたまま、緩んだ笑みを浮かべている。

「よし、じゃあ、誓うんだ。これから、僕のためだけに、僕のことだけを考えて生きると」
「……はい……誓います」
「おまえには、僕の言葉は絶対だ」
「……誓います」
「うん、じゃあ、ご褒美だ。これからは、僕の言葉に従っていると、とても気持ちよくなれるよ」
「……はい」
「いい子だね、ユイ」

 津雲が、結依の頭を撫でてやると、頷いた結依の口の端がにやっと吊り上がって、心地よさそうな笑みを浮かべる。
 と、不意に津雲の声のトーンが変わった。

「でもね、ユイ。もうひとりのおまえは、まだ賛成してくれてないんだよ」
「……もうひとりの、私?」
「ああ。今まで、そうやってずっと僕の言うとおりにして、僕に気持ちよくしてもらっていたおまえとは別の、もうひとりの自分。目が覚めているときのおまえだよ」
「……目が覚めているときの……わたし」
「ああ。彼女が、同意するように、きみが説得するんだ」
「……わたしが?」
「そうだ。今まで、心の奥にしまっていた、僕とやってきたことの記憶があるだろう?」
「……はい」
「言ってごらん」
「”チャイム”で、雄司さんのおちんちんしゃぶって、いっぱい精液を飲ませてもらって……そう、あのレストランの中でも……自分でアソコを弄りながら、雄司さんのおちんちんをしゃぶってた……すごく、気持ちよかった……」
「ういん、いい子だ。よく覚えているね。じゃあ、それを使って、彼女を説得するんだ。なに、難しいことじゃないさ。もう、おまえは、僕に誓いを立てたんだし、僕と一緒に気持ちよくなりたいのは彼女も一緒だろうからね」
「……はい」
「それと、彼女を説得するいい方法を教えて上げよう」
「……なんですか?」
「僕以外の人間のことは全て忘れてしまうんだ。そうすれば、僕のことしか考えなくて済むし、何も悩むことはなくなる。ものすごくすっきりした気持ちで僕に奉仕することができるよ」
「……はい、そうします」

 津雲の提案を、結依はふやけた笑みを浮かべて受け入れる。

「おまえが説得に成功するまで、おまえの体は動かない。だから、頑張って説得するんだよ、ユイ」
「……はい」

 虚ろな瞳で津雲の指先を見つめて、結依は何度も頷く。
 そうして、ようやく津雲は指を引っ込めると、ふううぅ、と大きく息を吐いた。





 それを待っていたかのように、背後から声が聞こえた。






「準備は整いましたか、社長?」
「ああ」

 津雲が振り向くと、そこには、”メゾン・ドゥ・プッペ”のウェイトレスの制服を着た美穂が立っていた。
 胸元が大きく開いて、袖口にフリルの付いたブラウスに、濃い茶色のスカート、そこにエプロンをつけ、膝上までの白いストッキング、少しウェーブのかかった、明るい茶色の髪をリボンで留めて、その上にカチューシャを付けていた。
 ただ、その顔に浮かんでいる笑顔は、”チャイム”で見せている人懐っこい笑みではなくて、津雲のオフィスで見せていた、いやらしくも妖しい笑みだったのだが。

「おまえも準備はできているかい、ミホ?」
「もちろんですとも」

 津雲に歩み寄ると、美穂はその肩に手をかけて寄り添い、ぼんやりと椅子に座っている結依の姿をにやつきながら見下ろす。





 そして、それが合図だというように、津雲が結依に向かって口を開いた。

「”目を覚ませ、ユイちゃん”」
「あ、あれ……雄司さん……あっ!」

 我に返った結依の視線が、津雲を捉える。
 同時に、彼に体を寄り添わせている女の姿にも気づく。

「ええっ!?雄司さん、これは!?」

 戸惑いながら、津雲に問いかける結依。
 しかし、彼女が戸惑っている理由はそれだけではなかった。
 津雲の傍らにいる、ウェイトレス風の女性。
 その顔を、自分はよく知っているような気がするのだが、誰なのか思い出せない。

 と、結依の顔を見て女がにやりと笑うと、津雲の前に膝をついた。

「よろしいですか、社長?」
「ああ、始めてくれ」
「それでは、ご奉仕させていただきます」

 女がズボンに手をかけてずり降ろす。
 そして、露わになった津雲のそれに手を添えて、愛おしそうに口づけした。

「ど、どうして、雄司さん?……きゃっ、なんでっ!?体が、動かない!?」

 目の前の光景に腰を浮かそうとした結依は、自分の体が動かないことに気が付いて悲鳴を上げた。
 そんな結依には構うことなく、女は津雲のそれに口づけをし、舌を伸ばす。

「ちゅ、んちゅ……ぴちゃ、ぺろ……」

 女にしゃぶられて、それが次第に膨れ上がってくる。

 ……いや、なんで、こんな?いったい、どうなってるの、雄司さん?

 その様子を、結依は身動きもできずに見つめることしかできない。
 
「んふ、あむ、えろろ、じゅ、ちゅるっ。ああ、社長、もうこんなに大きくなって……それでは、次はここで……」

 大きくそそり立った肉棒をうっとりした顔で眺めると、女は服の胸元をはだけると、両の乳房で肉棒を挟み込んだ。

「ん、んんっ!いっ、いかがですか、社長?」
「あ、ああ、さすがだな、ミホ」

 ミホ、と呼ばれた女に乳房で肉棒を扱かれて、心地よさそうに津雲が唸る。

「お褒めいただいて、ありがとうございます、社長……んっ、んくうっ、ああっ、こうしてるとっ、私も、おっぱいが熱くてっ、あああっ!」

 両手を使って胸で肉棒を挟み込み、ミホは激しく肉棒を扱きあげていく。
 その顔はいやらしく蕩け、頬はすっかり紅潮していた。

 そんな、こんなことって……。
 私、雄司さんにも裏切られたの……?

 目の前の光景を見つめたまま、打ちひしがれている結依。



 その時、誰かが話しかけてきたような気がした。



(雄司さんにも、ってどういうこと?だいいち、あの方はあなたのことを裏切ったりしないわ)

「……え?」

 思わず、周りを見回すが誰もいない。
 そもそも、今のは自分の頭の中に響いてきたような気がする。
 それに、あの声は、自分の声と似ていたような。

 誰!?いったい誰なの?

(私はユイ)

 そんな結依は私よっ!

(そうよ、わたしはあなた。あなたはわたし)

 な、何を言ってるの……。

 愕然としながらも、その声が心にすっと入ってくるのを結依は感じていた。
 まるで、自分自身と対話しているみたいに。
 困惑している結依をよそに、その声は、どこか楽しげに結依に語りかけてくる。

(いいこと、あの方のやっていることは当然のことなの。だって、あの方に奉仕する人はたくさんいるんですもの)

 間違いない、これは自分の声だ。
 まるで、自分の中にもうひとり自分がいるように、頭の中で自分の声が響く。
 結依は、戸惑いながらももうひとりの自分の言葉に耳を傾けていた。

 奉仕するって、何を言っているの?

(ほら、あなたもやってきたでしょう、そう、こうやって)

 もうひとりの自分の声がそう言うと、結依の知らない自分の記憶が頭の中に鮮明に甦ってきた。

 ……え、ええっ……これは?

 喫茶店の中で、店員の制服を着たまま、うっとりとした表情で津雲の肉棒を口に咥えている自分の姿。
 その、匂いと味、そして、喉の奥を突かれる快感までをはっきりと思い出すことができる。

(ほら、あなたもこうやってあの方にご奉仕してきたじゃないの)

 そ、そんな、これは……。

(それに、こんなこともあったわ)

 結依の中に、また別な記憶が浮かび上がってきた。
 レストランの個室で、津雲に愛撫されながら激しく自慰をしている自分の姿。

 そんな……あれは夢じゃなかったの!?

(夢じゃないわ。現実にあったことよ)

 そんな、そんなことって。

(ほら、思い出して。あの時もあんなに気持ちよくしてもらったじゃないの)

 そんな……そんな……あれが、夢じゃなかったなんて……。
 本当のことだったなんて……。

 錯綜する記憶に結依は混乱する。
 自分はあの時、現実にそんなことをしていたのか?
 だが、よく考えたら、あの時そうしていたのはたしかに自分で、その時のうっとりとした気持ちを思い出して、体が熱くなってくる。



 と、その時。



「んっ、んぐぐぐぐっ!」

 ふいに、大きな呻き声が聞こえてきて視線を向けると、ミホが肉棒を乳房で挟み込んだまま、その先っぽを口に咥えていた。
 体を小刻みに震わせて呻いているミホの口許から、白い汁がとろりとこぼれ落ちている。

 あ……ああ、あ……。

 その姿が、また頭の中の記憶を呼び覚ます。

 自分の口の中に注がれる精液の、噎せかえりそうになるほどの濃厚な味と匂い。そして、全身を蕩けさせるほどのその熱さ。
 受けそこねた精液が、制服に飛び散って染みを作っていく。
 そして、顔にこびりついたそれを、舌を伸ばしてすくい取る自分。
 たしかに、そうしている時の自分は、津雲への愛情でいっぱいになっていた。

(ほら、あなたも立派にご奉仕してきたじゃないの)

 そ、そんなわけない!
 私が、そんなことするはずが……。
 じゃあ、なんで?
 私にいったい何があったっていうの?

 もしかして、雄司さんが?
 だって、今もこうして知らない子といやらしことしてるし……。
 雄司さんが私になにかして?

(だったらどうするっていうの?)

 ど、どうって?

(じゃあ、あの方のことを嫌いになるっていうの?)

 いや……そんなのいや……。

(そうよね。わたしたち、こんなにあの方のことが好きなんですもの)

 でも、でも……。

(もうっ、じれったいわね!いったいどうしたいっていうのよ?)

 もうひとりの自分の声が、苛立ったように問い詰めてくる。

 どうって、私、私……。

 混乱している結依の視線が泳ぐ。

 私……いつからそんなことをしてたの?
 いつから、そんなにいやらしいことを雄司さんにしていたの?
 いつから、そんなに雄司さんのことを好きだったの?

 まさか!?
 彼に裏切られたから、彼と別れたから雄司さんを好きになったんじゃなくて、その前から私、雄司さんのことを?
 そんな、別れる前から私、雄司さんと……。
 もしかして、彼が私を裏切っていたんじゃなくて、私の方が彼を裏切っていたっていうの?

(彼?彼って、誰のこと?)

 そんなっ、決まってるじゃないの!
 ……え?なんで?どうして思い出せないの?

 忘れるはずがない宏平の名前が、結依の中に浮かんでこなかった。そして、その顔も。

(ねぇ、誰が誰を裏切っていたって言うの?)

 それはっ……それは……。

 宏平の姿どころか、その印象すら薄れていく。
 自分には大切な人がいたという記憶はあるのに、どうしてもその人のことが思い出せない。

 いや……なくしたらいけないのに……消えていく……。

「あ……ああ……あ……」

 結依の目が大きく見開かれて、瞳孔が小刻みに震え始めた。

(あなた、何を言ってるの?私にとって大切な人は、今、目の前にいるあの方だけじゃない)

 ……うん……でも。

(あの方が私の全て。他の人のことなんて全て忘れてしまっていいの。だって、あの方なしでは生きていけないでしょう?)

 ……うん。

(さあ、安心してあの方に全てを任せるのよ)

 ……うん。

 結依の瞳孔の震えが次第に収まっていく。
 それが、完全に収まったときには、自分に大切な人がいたという記憶は結依の中から消え去ってしまっていた。

 いや、結依にとって大切な人はいた。
 今、自分の目の前に。

 ……雄司さん。

(そうよ、あの方のことだけを考えていればいいの。他の人のことは考えなくていいの)

 ……うん。

 もうひとりの自分の声に、結依は素直に頷く。
 その瞳は、うっとりと津雲を眺めていた。



 そんな様子を窺っていたミホは、結依を嘲笑うようにこぼれた白濁液をペロリと舌で舐め取ると、立ち上がって結依の正面まで来た。
 そして、結依の方を向いたまま椅子に手をついて、後ろに腰を突き出す。

「では、お願いします、社長。ミホの、いやらしい体を、たっぷりと味わって下さい」

 一度、津雲に顔を向けてそう言うと、ミホは誘うように腰をくねらせている。
 津雲は、結依にも見えるように大きく頷くと、ミホの背後に立って、その腰を掴んだ。

「ああ……社長……」

 アソコに肉棒を宛われて、ミホの顔に期待に満ちた表情が浮かぶ。

「あっ、あああっ!あふうううんんっ!」

 津雲がミホに向かってぐいと腰を押しつけていくと、甘い喘ぎ声とともにその体が反り返った。

「んっ、ああ……社長のおちんちんが……私の中…いっぱいに……」

 たちまちミホの顔が蕩け、口の端から、つ……と涎が垂れ落ちた。
 そして、津雲がリズムよく腰を動かし始める。

「はうっ、んんうっ!あっ、中っ、擦れてっ!あうんっ!ああっ、そこっ、そこですっ、社長おおおっ!」

 ミホの体がガクガクと弾み、寄りかかっている椅子が軋んだ音を立てる。
 津雲のリズミカルな動きに合わせて、フリルの付いたカチューシャがふわふわと揺れていた。

「んふうっ、あうっ、ああんっ!イイっ、すごくっ、気持ちいいですっ、社長!あふうっ、あああーっ!」

 自分から津雲に向かって腰を突き出すように動かしながら、快感に悶えるミホ。
 と、その時、ミホが真っ直ぐに結依の方を見た。
 そして、津雲とのセックスを見せつけるかのように、挑発的な笑みを浮かべる。
 見せつけることで結依の劣情を煽り、体を燃え上がらせるような、淫靡で、そして、少しサディスティックな笑みを浮かべ、挑むように結依を見つめている。

「ああっ、んふううううっ!あっ、そこっ、深いいいぃっ!」

 だが、津雲が腰を強く打ちつけて肉棒で奥まで抉られると、ミホの表情はたちまち緩み、蕩けきる。

「はあんっ、あふうっ、あっ、ああっ!もっとっ、もっといっぱいっ!奥までっ、突いてっ、下さいっ!」

 さっきまでとは一転して、ミホは、結依のことなどまるで眼中にないかのように髪を振り乱して喘いでいた。 

 しかし、それがかえって結依の体を火照らせる。
 椅子に座ったままで、結依は無意識のうちにふとももを擦り合わせていた。

(欲しいのね、あの方のおちんちんが)

 ……うん。

(だったら、自分に正直になればいいのよ)

 でも……。

(安心して。あの方は分け隔てなくみんなを可愛がって下さるわ。こんなにいやらしい私を満たしてくれるのはあの方だけなんだから)

 ……うん。

 もうひとりの自分の声が、津雲とセックスしたときの、あの満ちたりた思いを甦らせる。
 あの、身も心も押し流していく、圧倒的な快感の奔流を。
 それだけで、アソコから止め処なく蜜が溢れてきていた。
 それが、自分は津雲とのセックスなしでは生きてはいけない体になったことを思い知らさせる。

(何も心配しないで。わたしが頑張れば、それだけいっぱい愛してもらえる。あの方とセックスする快感と幸福感を、たっぷりと感じることができるの)

 でも……。

 もうひとりの自分の声が、優しく言い聞かせるように頭の中に響く。
 しかし、目の前で自分の大切な人が他の女性とセックスをしている。
 それが、結依の心をわずかに躊躇わせていた。

 だが、諭すような声が、結依の躊躇いを振り払っていく。

(しかたがないのよ。あの方は私ひとりだけのものではないのだから)

 ……うん。

(でも、素晴らしいと思わない?みんなであの方にお仕えするの。みんなで、あの方にご奉仕して、みんなで愛してもらうの)

 ……そうかも……しれない。

(いい子ね。やっぱりあなたも私……。あの方に愛してもらいたくてしかたがないのね)

 ……うん。

(そうよ、いつもあの方に奉仕して気持ちよくなっていたのも、あの方とセックスして気持ちよくなっていたのも、どちらもわたしだもの。みんな同じ、あの方に愛されて、気持ちよくしてもらいたい。……それだけなの)

 ……うん。

 頭の中に響くもうひとりの自分の声が、すっと心に染み込んでいく。
 喫茶店で津雲の肉棒に奉仕して、レストランでその肉棒にしゃぶりついて自慰をしていたもうひとりの自分。
 ほんの数分ほどの間にその記憶を頭の中で追体験し、津雲と毎日セックスしていた自分と重なっていく。

 もう、結依には迷いも戸惑いもなかった。

(わかったら、さあ、行きましょう、わたしたちの大切な、あの方のところに)

 ……うん。

 ゆるゆると、結依は椅子から立ち上がる。
 まるで、さっきまで体が動かなかったのが嘘みたいに。



 そして、ゆっくりと津雲とミホに歩み寄る。



 その先では、パンパンと乾いた音を響かせて津雲がミホの腰を激しく突いていた。
 椅子に突いているミホの手はぶるぶると震え、突かれる度に顎がガクガクと跳ねあがる。

「あんっ、ああっ、あああああっ!わたしっ、もうイキそうですっ!ですから、たっぷりとっ、私の中にっ、注いで下さいいいいいっ!」

 喉の奥から嬌声を振り絞りって快感に身を悶えさせているミホの体が、びくん、と大きく震えた。
 髪を振り乱して喘ぐその体越しに、津雲が結依を見つめる。
 まるで、もう少し待っていろとでも言うように。

 そして、腰の動きをさらに早く、激しくしていく。

「ああんっ、あんっ、あっ、社長っ!私っ、もうっ!あっ、ああああああああああーっ!」

 津雲が深々と肉棒を打ち込むと、ミホのからだがきゅっと反り返る。

「あああっ、社長の精液っ、いっ、いっぱい、来てますううううっ!」

 緩んだ口許から涎を垂らし、体を何度も跳ねさせて、ミホは注がれる精液を受けとめていく。

「あああっ!はあっ、はあああぁ……あぁ、しゃちょおおぉ……」

 津雲がその腰に添えた手を離すと、ミホの体がずるずると崩れ落ちていく。
 そのまま、椅子に縋り付いて大きく肩で息をしているミホの頭を撫でてやると、津雲が真っ直ぐに結依を見た。

「ユイ、ここまで来たということは」
「はい。私、他の人と同じように、雄司さんに奉仕したくて……そして、雄司さんに可愛がってもらいたくて……」

 瞳を潤ませて、うっとりとした表情で津雲を見つめる結依。

「……待ちなさい」

 その時、椅子を支えにしながら、よろよろとミホが立ち上がった。

「……この方のことを……雄司さんなんて馴れ馴れしく呼ばないで。……社長、と呼びなさい」

 まだ荒い息の下で、ミホがそう結依に命令する。

「ええ?社長?」

 たしかに、さっきからミホが津雲のことを、社長、と呼ぶのを結依は聞いていた。
 それがなぜかは、彼女にはまだわからない。

 戸惑っている結依に向かって、畳みかけるように津雲が口を開いた。

「うん。ミホの言うとおりだね。今日から、僕のことは、社長、と呼ぶんだ、ユイ」

 だが、それだけではなかった。

(……そうよ。この方の言うとおりにしなさい)

 追い討ちをかけるように、もうひとりの自分の声が頭の中に響く。

 そこまで言われては、抗う理由は結依にはない。

「……はい、社長」

 素直にそう呼んで頭を下げる結依。

「うん、これでおまえも僕のものだよ、ユイ」

 そう言われて頬を撫でられただけで、ゾクゾクずるほどの快感が走った。

 ……そう。私は、社長のものなのよ。

 さらに、自分が津雲のものだと言われた喜びがその快感に拍車をかける。
 快感に恍惚とした顔で、結依は津雲を見つめていた。

「それと、今日から、このミホがおまえの指導役だ。僕の女としては彼女が先輩だからね。僕のために働くのに必要なことは彼女に教えてもらいなさい」
「はい。よろしくお願いします、ミホ先輩」

 そう言って、結依は素直に頭を下げる。
 すでに、彼女には”チャイム”で美穂と働いていた記憶は消え失せている。
 だから、ミホのことを、先輩、と呼ぶことになんの躊躇いもなかった。

 すると、ミホが結依に体を密着させてアソコに指を挿し込んできた。

「いあああっ!せっ、先輩!?」
「ふふ、相変わらずいやらしい体をしてるのね」

 自分の指がするりと入っていくほどに湿っているのを確かめて、ミホがにやりと笑みを浮かべる。

 相変わらず?相変わらずってどういうこと?
 先輩と会うのは今日が初めてなのに……。

「ああっ!いあああっ!」

 アソコの中を指で掻き回されて結依が切なそうに喘ぐ。

「それに、感度もいいじゃないの。ふふっ、いいこと、ユイ。私の指導は厳しいわよ」
「あああっ!はっ、はいっ、先輩っ!」

 敏感なところを弄られて喘ぎながら、それでも素直に返事をする結依の姿に、ミホと津雲は笑みを交わす。
 そして、結依の甘い声が響く中、ミホはいかにも楽しそうに結依への愛撫を続けた。





〜21〜






 その、同じ日。

 仕事終わりにちょっとした惣菜を買うと、飛鳥は宏平の部屋を訪ねていた。
 このところ、飛鳥は毎日のようにそうやって宏平の部屋に来ていた。

「知り合いに何人か当たったけど、あの津雲って男と似た人を見かけたっていう話をいくつか聞いたわ」
「……うん」
「”チャイム”のマスターも、前は毎日のように来ていたって言ってたし……。間違いないわ。その男はこの辺りにいると思うの」
「……うん」

 飛鳥の言葉に、宏平は力なく頷く。

 体調不良を理由に、宏平が仕事を休んでいることを飛鳥は知っていた。
 この数日の間にその顔はやつれ、無精ヒゲが伸びていた。
 こうして、飛鳥が様子を見に来てやらないと、食事すら摂らないのではないかと思えた。

 見回すと、以前は、男の一人暮らしにしては几帳面に片付いていたはずの部屋の中は、物が乱雑に散らかっていた。
 そんな部屋にひとり、憔悴しきった顔でうずくまっている宏平の姿は、見ているだけで痛々しい。

 だが、飛鳥にはそれと同じくらい結依のことも心配だった。

 きっと、結依はその津雲とかいう男に何かされているに違いないと飛鳥は思っていた。
 そうでなければ、結依が宏平と別れるはずがない。
 宏平から聞いた、最後に会ったときの結依の態度。
 飛鳥の知る限り、結依は、そんな態度で、そんなことを言う子ではなかった。
 それも、その数日前まで結依があんなに宏平のことを心配していたのを知っているだけに、なおさら、何かがあると感じていた。

 ……もしかしたら、変なクスリを飲まされたとか……麻薬みたいなのを。

 そんな風に、悪いことばかり考えてしまう。

 だから、早く結依を助け出さなければならない。
 なにより、結依さえ戻ってくれば、宏平にも元気が戻るはずだ。

「きっと、その男を見つければ結依を取り戻せるはずよ」

 そう言って、飛鳥は宏平を励ます。
 しかし、宏平の顔は暗く沈んだままだ。

「ちょっと、聞いてるの、宏平?」
「……なあ、飛鳥」
「なによ?」
「結依は、本当に心変わりしてしまったんじゃないか?あの男のことを本当に好きになってしまって……ううっ!なっ、何をっ!あ……飛鳥?」

 言葉の途中で思い切り頬をはたかれて、宏平は驚いて飛鳥の顔を見る。
 その表情を見て、宏平の口から出かかった言葉がそのまま止まった。
 宏平を睨みつける飛鳥の目からは、涙が今にも溢れそうになっていた。

「あの子がほいほいと男をかえるような子じゃないってこと、一番知ってるのはあんたでしょうが!」
「飛鳥……」
「あの子はっ!結依はそんな子じゃない!きっと、何かおかしなことをされてるのよ!だから、あの子を助けないと!」
「だけど……」
「あんたが結依を信じてあげなくてどうするのよ!」

 宏平の胸ぐらを掴んでそう言い切った飛鳥の目から、大粒の涙がこぼれ落ちる。

「……ごめん、飛鳥」
「結依を取り戻さなきゃ……あの子を助けてあげないと……ね、あたしも手伝うから……」
「……ああ……そうだよな……そうだったよな。……ごめんな、飛鳥」
「……うん」

 宏平は、そのまま泣きじゃくっている飛鳥の頭をそっと抱いてやる。




 だが、ふたりの知っている椙森結依は、今はもういない。
 そのことを、宏平も飛鳥も、まだ知らなかった。





〜22〜








 その翌日、食事に行くと言われて、結依は津雲と外出していた。

 結依には、歩いている街並みが初めてのものに思えて、妙に新鮮な気持ちで津雲の後について行っていた。
 
 実際に、昨日から結依は、津雲以外の人との記憶が一切ないことは自覚していた。
 自分がどこで生まれなのか、今まで、どこで何をしていたのか、一切わからない。

 ……だけど、いいの。
 私は、社長のことだけ考えていればいいんだから。

 過去の記憶がほとんど失われているというのに、結依にはあまり気にならなかった。
 少なくとも、津雲に関する記憶はある。
 自分は、津雲に奉仕をして、そして、セックスをして、それだけを楽しみにしてきた記憶はある。
 そして、今の自分は津雲のもので、自分は津雲のことだけを考えて生きていればいい。
 だから、津雲に関する以外の記憶がなくても不安はない。





 ……あれ、ここは?

 連れてこられたのは、1階にブランドショップが入っているビルの地下。
 結依には、そこに来た覚えがあった。

 ここは、前に社長に連れてきていただいたところだわ。 

 入り口のドアには、”本日貸し切り”の札が下げてあったが、そのレストランの佇まいに、結依は見覚えがあった。

 間違いないわ。私、前にここで社長のおちんちんをしゃぶりながら自分でアソコをいじってた。

 結依は、以前そこで自分がしたことをはっきりと思い出していた。

 ……レストランでそんなことをするなんて、変だけど、でも、本当だもの。

 さすがに、どうしてそんなことになったのかはよく思い出せない。

 少し戸惑っている結依を促すと、津雲はドアを開けて中に入っていく。



「いらっしゃいませ!」

 店に入ると、整然と並んだ店員が一斉に頭を下げた。

 右側には、ワイシャツにベスト、そして蝶ネクタイを付けた男装の女性が。
 そして、左側にはスカートにエプロン、そしてカチューシャを付けたウェイトレスが並ぶ。
 その、全員が整列して津雲に向かって頭を下げている。

 その時、その中からひとりのウェイトレスがふたりの前に進み出た。

「いらっしゃいませ、お待ちしておりました、社長」

 心底嬉しそうに、満面の笑みを浮かべてミホが津雲に向かって頭を下げる。

「……え?ミホ先輩?」

 面を上げたミホが、今度は結依の真正面に立つ。

「ユイ、あなたもよく来たわね。歓迎するわ」

 歓迎すると言いながら、ミホの目は笑っていなかった。
 もっとも、津雲に対して見せていた笑顔とは対照的な、業務的な作り笑いを口許に浮かべてはいたが。
 そして、その口から出てきた言葉も、真剣な目つき同様に手厳しかった。

「でも、今日あなたはここに遊びに来たわけじゃないのよ」

 結依の顎の先をくいっと指でつまむと、ミホは、にやりと意地悪く微笑んだ。

「せ、先輩……?」
「近いうちに、あなたもここで働くことになるわ。だから、今日は勉強のつもりで私たちが仕事をする様子をしっかりと見ておくのね」

 そう言って、ミホはぐりぐりと結依の顎を指で弄り回す。

 そうか……私、ここで働くことになるんだ……社長のために。

 結依は、ようやく、皆が津雲のことを、社長、と呼ぶ理由がわかった気がした。
 自分は、ここで働かなければならない。
 そして、ここの社長が彼なのだ。
 だが、津雲のために働くのだから、全く嫌な気はしない。
 それどころか、自分のなすべきことがはっきりして、むしろ清々しい気がする。
 なにより、ミホをはじめ、ここにいる皆が津雲に向けているうっとりとした眼差し。
 自分もその仲間に入れることが、とても素晴らしいことのように思えてくる。

「ちょっと、聞いているの、ユイ?」
「あっ、は、はいっ、先輩!」
「はぁ、まったく、こんな調子じゃ先が思いやられるわね。まあいいわ……。さあ、社長、お席に案内します。どうぞ、こちらへ」

 わざとらしくため息をひとつ吐くと、気を取り直してミホは津雲を先導する。
 言葉づかいはもちろん、表情も結依に対する時とは全然違っている。





「では、今日はこちらの席でございます、社長」

 津雲と結依が案内されたのは、奥の個室ではなく、カウンターの側のテーブル席。
 ごく普通のテーブル席の代わりに、その場所からだと店内全体を見渡すことができる。

 まず、テーブルに来たのは、男装の店員だった。

「ワインはいつもの物でよろしいでしょうか?」
「ああ」

 いちおう、ワインリストを手に訪ねてきた店員に、鷹揚に頷く津雲。
 彼女は軽く一礼すると、すぐにボトルを持ってきて津雲の前のグラスにワインを注ぐ。

 結依は、そんな店員の所作のひとつひとつを見逃すまいと、真剣な眼差しで見つめていた。
 そして、たまに店内を見渡しては、ミホに言いつけを守って、他の店員の様子も観察している。

 もちろん、その日は津雲の貸し切りなので他に客はいない。
 だから、観察するとは言っても、テーブルに来る数人と、カウンターの中の数人しか仕事をしている様子はないのだが、それでも結依は大真面目だった。

 それに、前菜からスープ、サラダ、肉料理、魚料理と、そのたびに、男装の店員から、スカート姿のウェイトレスまで、次々と入れ替わりにテーブルに来て対応したが、皆、そつのない立ち居振る舞いで接客態度は申し分なかった。
 それだけでなく、全員が津雲に奉仕する喜びを隠そうとしない。
 そんな彼女たちの姿を見るだけで、結依は気持ちが高ぶるのを感じていた。

 私も、早くここでお仕事をしたい……社長のお相手を務めることができるように……。

 いつの間にか、結依は頬を紅潮させて店員たちに見とれていたのだった。





「いかがでしたか、社長?」
「うん、料理も接客も申し分ないね」
「ありがとうございます」

 食後のコーヒーを飲み終えると、津雲はカップを下げに来たウェイトレスを労う。
 その店員は、嬉しそうに頭を下げるとカウンターの中に戻っていく。

「さてと、それじゃあメインディッシュといくかな」
「……え?食事は今終わったところですよ、社長」

 津雲の言葉に、結依が訝しげな表情をする。

「いえ、いいのよ。これからがメインディッシュなんですもの」

 だが、津雲が答えるよりも早く、テーブルに近づいてくる声があった。

「ええっ?先輩……?」

 声の主はミホだった。
 胸に、何か抱え、意地の悪そうな笑みを浮かべて結依の方に歩み寄る。
 そして、腕に抱えていたものを結依に向かって突き出した。

「これは?」
「あなたのよ」

 結依がミホから手渡されたものは、袖口にフリルの付いたブラウスに、濃い茶色のスカート、それと白いエプロンにストッキング。
 ミホが身につけているウェイトレスの制服と同じものだった。

「さあ、それに着替えるんだ、ユイ」

 まじまじと制服を見つめている結依に向かって、津雲が命令する。

「社長のおっしゃる通りよ。ここで働く第一歩は、それに着替えることから始まるんだから」

 結依は、津雲とミホの顔を交互に窺う。
 津雲は、力強く頷き返し、ミホは、結依を試すかのようにニヤニヤと笑みを浮かべていた。

 無論、結依にはそれを着ることになんの躊躇いもなかった。
 むしろ、それでみんなの仲間になれる、津雲のために働くスタートラインに立てる喜びで胸が高鳴るのを感じていた。

「わかりました」

 結依は、立ち上がって制服を椅子の上に置くと、まず今着ている服を脱ぐ。
 そして、制服を手に取ると、ひとつずつ身につけていく。

「違う違う、そこはそうじゃないの、こうよ」
「は、はい……」

 制服を着ている結依に、ミホが横から口を出して、おかしなところを手直ししていく。

「まあ、こんな感じね。次からは自分で着られるようにするのよ」
「はい。ありがとうございます、先輩」
「じゃあ、最後にこれを付けて」
「はい」

 結依はミホから手渡されたカチューシャを頭に乗せる。
 ミホをはじめとする、他のウェイトレスたちと同じ格好で、頬を染めて立っている結依の姿は、着替えただけで少し興奮しているようにも見えた。
 少し息が荒くなって、胸が大きく上下している。

「さあ、社長にご挨拶するのよ」
「はい」

 ミホに促されて、結依は津雲の方を向く。
 いつの間にか、津雲が食事をしていたテーブルは脇に寄せられ、腕を組んで椅子に座った津雲がこちらをじっと見つめていた。

「あの、いかがでしょうか、社長?」

 少し恥じらいながら、津雲に伺いを立てる結依。
 津雲は、その姿を眺めて大きく頷いた。

 実際、津雲は制服に着替えた結依の姿に満足していた。





 1年ほど前に、街で初めて彼女を見たときから、きっとこの格好が似合うに違いないと思っていた。
 そして、こっそりと後をつけて、”チャイム”で働いている姿を見たときに、その予感は確信に変わった。
 小さな喫茶店の、そんなに垢抜けているわけでもない制服とエプロン姿でも、結依の可愛らしさは十分に引き出されていた。

 よし、決めた、この子を手に入れよう。

 ”チャイム”できびきびと働いている結依の姿を眺めながら、そう心に決めたのだった。
 ちょうど、男装の似合う凛とした美人の充実具合に比べて、スカートの似合う可愛らしい娘が物足りないと感じていたときだった。
 彼女が入れば、ウェイトレスのコレクションもより充実する。

 そのために、津雲は”チャイム”に通って、結依やマスターと親しくなりながら様子をずっと窺ってきた。
 そうしているうちに、たまに結依が店を任されている日や時間帯があることに気づいた。
 だから、この春からミホをバイトとして”チャイム”に送り込んだ。店に結依とミホのふたりだけで、他に客もいない時を狙って結依をじっくりと調教するために。
 それと並行して、ミホと結依を仲良くさせて、いろいろと情報を聞き出させた。
 家族と実家で暮らしていて、しかも家が厳しかったりするとなにかと面倒なのだが、一人暮らしだとわかった時点で方針は決まっていた。
 彼氏がいることもわかったが、そんなことは障害にもならない。
 むしろ、彼氏に裏切られたと思わせることで、結依を自分へと走らせるのに利用したくらいだ。
 結依を調教するかたわらで、彼氏への不満や不信感を植え付けていくことすらゲームのように楽しんでいた。



 そして、今、完全に自分のものになった結依が、ウェイトレスの制服を着て自分の目の前に立っている。
 津雲が予想したとおり、”メゾン・ドゥ・プッペ”の制服は、結依によく似合っていた。
 丸みのある童顔に、軽くウェーブのかかった淡い色の髪の先をリボンでまとめて、フリルの付いたカチューシャをかぶっている姿は本物の人形のようだ。
 恥じらいと期待で潤んだ、その大きな瞳には、今は津雲しか映っていない。



「うん、よく似合ってるよ、ユイ」
「あっ、ありがとうございます!」

 褒められて、結依は満面に笑みを浮かべる。
 その時、背後から抱きすくめられて結依が悲鳴を上げた。

「きゃ!ええっ!?ミホ先輩?」
「うふふ、本当にいやらしいのね、ユイ。服の上からでもわかるくらい乳首がカチコチになってるわよ」
「あんっ、あうっ、せっ、先輩っ!」

 ミホに、ブラウスの上から乳首を摘まれて、結依は甘い喘ぎ声をあげて身体をすくめる。
 そして、ミホがその耳元に口を寄せて囁いた。

「さあ、社長にご奉仕するのよ。昨日、私がするのを見ていたでしょう?」
「社長に……はい」

 背中を押されて、結依は一歩津雲の方に踏み出す。
 結依の脳裡には、昨日見たミホの姿が浮かんでいた。

「どうか、私にご奉仕させて下さい。よろしいですか、社長?」
「ああ、いいだろう」
「ありがとうございます!それでは、ご奉仕させていただきます」

 そう言って頭を下げる結依。
 その胸は喜びに満ちて、期待で心臓がばくばくと高鳴っていた。

 結依は、津雲の前に跪くと、ベルトに手をかけてズボンをずらしていく。
 そして、露わになった肉棒をそっと握って、軽く扱きはじめる。
 すると、すぐにむくむくと肉棒が立ち上がってきた。

「ああ……社長のおちんちん、大きくなって……感じて下さっているんですね」

 結依は上目遣いに津雲の方を見上げて、嬉しそうに微笑む。
 次に、舌を伸ばしてちろりと肉棒の先を舐めると、はむ、と口に咥えた。

「ん……あむ、んふ、ん……社長のおちんちん……とってもおいしいです……んむ、んっ、ちゅる……」

 口の中に痺れる味が広がって、結依は夢中になって肉棒にしゃぶりついている。

「んっ、んふっ、んっ、んむっ、れる、ちゅば、あふ……ふうう、それでは、今度は私のおっぱいを使わせていただきますね」

 いったん肉棒から口を離すと、結依はブラウスの胸元をはだけさせる。

 たしか、先輩はこうやって……ん、んんっ!。社長のおちんちん……熱い……。

 昨日、ミホがやっていたのを思い出しながら、乳房で肉棒を挟み込む。
 すると、肉棒からどくどくと脈打つ鼓動が乳房に伝わってきた。
 それが熱くて熱くて、結依の体まで燃え上がらせる。

 自然と、結依は体を上下に動かして、挟んだ乳房で肉棒を扱きあげ始めていた。

「あっ、んんっ!いっ、いかがですか、社長?気持ちっ、よろしいですかっ!?ああっ、はあんっ!」

 胸を使って肉棒を刺激しながら、結依が悩ましげに喘ぐ。
 上目づかいに見上げている結依に向かって、津雲が満足そうに頷く。
 そして、褒める代わりに結依の頭を撫でた。

「ああっ、ありがとうございますっ、社長!んんっ、こうしているとっ、私も気持ちよくてっ!ああんっ、んっ、ちゅるっ、じゅるる!」

 乳房の間から先端がはみ出すほどに膨れ上がった肉棒に向かって結依は舌を伸ばす。
 実際に、そうやって胸を力強く押さえ込んで熱く脈打つ肉棒を擦るたびに、電気のような快感が全身を駆け巡っていた。
 まるで、自分の胸がアソコになってしまったみたいに気持ちいい。

「あふんっ、ちゅっ、んむっ、じゅるっ、ちゅぽっ、んっ、れるっ!

 胸で肉棒を扱きながら、結依は無我夢中でその先端をしゃぶり続ける。
 そうしていると、アソコがじんじんと熱くなってくる。
 そこから溢れ出した大量の蜜が、膝立ちになったそのふとももを伝って床に水たまりを作り始めていた。

「あむっ、えろっ、んむっ、れるっ、じゅぼっ、じゅるうぅ!……あ?ああ、社長?」

 じゅるじゅると音を立てて肉棒をしゃぶるのに夢中になっていた結依は、不意に、頭にポンと手を置かれて、また津雲の方を見上げる。
 怪訝そうに見上げた結依を笑顔で見下ろしながら、津雲が口を開いた。

「いいね、本当にいい。おまえの奉仕は申し分ないよ、ユイ」
「あ……ありがとうございます……」
「じゃあ、ご褒美をあげよう。これをおまえの中に挿れさせてあるるよ」
「ほ、本当ですか?」

 その言葉に、結依の表情がパッと弾ける。
 だが、その笑顔は期待に満ちたというにはあまりに淫靡で、緩んだ笑みだった。

「それじゃあ、尻をこっちに向けて、僕を跨ぐようにして立つんだ」
「はい。……あっ」



 命じられたとおりに立ち上がって、津雲に背を向けた結依は思わず息を呑んだ。
 いつの間にか、ミホをはじめ、先輩の店員たちがふたりを半円に取り囲むようにして立っていたからだ。



「どうしたんだ、ユイ?」
「あ、いえ……」
「みんなのことなら気にしなくていい。今日は、おまえがみんなの仲間になる日なんだから、おまえの本当の姿をみんなにもじっくりと見てもらうといい」
「……はい、社長」

 さすがに、少し恥じらいながらも結依は素直に返事をする。
 なにより、そのももを滴り落ちる大量の蜜が、結依が気持ちの高ぶりを抑えられないことを示していた。

 津雲が、結依の腰を掴むと、その位置を調節する。

「さあ、腰を沈めるんだ」
「はい……んっ、んんんんんーっ!」

 ゆっくりと腰を沈めていくと、アソコの肉を掻き分けて肉棒が入ってくる感覚が、結依を一気に絶頂近くまで持ち上げていく。

「さあ、自分で動いてごらん」
「はっ、はいっ!あっ、んくうっ、んっ、はんっ!」

 自分で腰を動かし始めると、快感の海に投げ出されたように蕩けそうな快感が全身を包み込むように感じた。
 そのまま、結依はスカートをはためかせて激しく腰を動かし続ける。

「あっ、はああっ、あんっ!気持ちっ、いいですっ、社長!あっ、あああーっ!」

 ああ、みんなが見ていてっ、恥ずかしいっ……でも、気持ちイイっ!気持ちよくてっ、止まらないっ!

 蕩けた表情で、ひたすら腰を上下させている結依。
 小刻みに震えている、その潤んだ瞳には、自分たちを取り囲んでいる店員の姿が映っているのかどうか……。
 だが、皆の視線は肌に突き刺さるくらいに感じていた。
 みんなに見られていることの恥じらいが、さらに興奮を高めて、体の動きが止まらなくなる。

「あぅっ!胸っ、感じちゃいますっ!ふあああああああっ!」

 背後から胸を掴まれて、結依の体がきゅっと反り返る。
 それでも、腰を動かすのはやめない。

「ああっ、そこっ、奥まで当たってっ!ふああっ、ああっ、うあああっ、すごすぎですうううっ!」

 カチューシャを振り飛ばしそうなくらいに激しく髪を振り乱して、結依は体を悶えさせる。
 その喉から漏れる、よがり声がどんどん大きく、そして甲高くなっていく。

「ふあっ、もっといっぱい気持ちよくして下さいっ、社長!ああっ、うあああああっ!」

 整然と並んで取り囲む店員たちの中心で、結依は津雲の上に跨って腰を揺らし続ける。
 まるで、観衆の見守るステージで踊るダンサーのように、その体をくねらせ、快感に身をよじり続けていた。

 
 


 

 

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