全自動恋人訓練機


 

 



「では、我が研究所最新の発明品を公開しよう。
 その名も《全自動フェラチオ訓練機》!! 名の通り、全自動でフェラチオの練習をさせる装置だ!!」
 この研究所の主(ぬし)である絵理衣(えりい)が、白衣を舞わせて、胸を張りながら言った。
「博士。今とても信じられないような発言を耳にしたような気がしたので、もう一度言ってみてください」
 セーラー服を着た女の子、由香(ゆか)が応える。
「なんども言わせるな。あたしだって女なんだ。これでも、けっこう恥ずかしいんだぞ。
 だから! 全自動……フェラチオ訓練機! 全自動で……その……フェラチオ……をさせる装置だっ! これで満足か、助手よ!?」
「恥ずかしいなら、はじめからそんな名前つけなければいいのに」
「命名は『全自動フェラチオ訓練機』と『あなたの大切な場所をお掃除しちゃうぞ壱号ちゃん』とどちらにしようと迷ったのだが……」
「というか、そんな発明自体しなければいいのに。
 で、なんでそんなものを作ろうと考えたんですか、博士?」
「インターネットでおもしろい小説を読んでな。アマチュアが書いたものなのだが、アイデアが優れていたんだ。それに触発されてな」
「すぐに影響されるんだから」
 博士の発明品はつまらない物ばかりだが、今日の発明品は心底くだらない、と由香は思った。彼女はあきれながら、研究所で一番広い部屋である研究室に、山となって置かれている発明品という名のガラクタを見まわした。絵理衣は秋葉原のビルの一室を借りて、研究所として使っている。こんな家賃の高い場所をガラクタでうずめているなんて、あまりにももったいないと由香は思った。
「博士に呼び出されて放課後に研究所に来てみれば、また例のごとく――いや今回は特に、つまらない発明品でしたね。予想通りですが」
 由香は軽蔑(けいべつ)しきった目でを絵理衣を見た。白衣を押し上げる巨大な胸。黒のタイトスカートから伸びる長い足。しかも、頭脳明晰でアメリカの工科大学院を主席で卒業。さらに実家は資産家らしく、卒業後はこうして秋葉原にあるビルの一室を借りて、道楽のような研究をつづけている。
(特徴だけ挙げれば、容姿端麗、才色兼備。非の付けどころのないの帰国子女の令嬢なんだけれどな……)
 と由香は思った。
(問題は、変な発明ばかりしている、このぶっとんだ性格。一日中、時には徹夜までして、研究所にこもって変な発明品ばかり作っている。そんなんだから、浮いた話一つ聞かないんだ。
 こんな人のそばにいると、変な性格が伝染して、わたしまで彼氏にふられるんじゃないかって気がしてくる)
 いっぽう絵理衣は新たな発明品の発表に浮かれ、由香に向けて自慢げな含み笑いをしつづけている。
「どうした助手よ、だまりこんで。えんりょなく、新しい発明に対する賛美(さんび)と称賛(しょうさん)をあびせまくってもよいのだぞ」
「そろそろ帰っていいですか? 発明品の名前も聞きましたし」
「待て! 待つのだ! 助手がいなくては、実用試験ができないではないか!」
「まだなんかあるんですか。博士の家はお金持ちなんですから、多額の報酬金を出すとかして、わたし以外の人に頼んでください」
「おまえはこの研究所の助手だろう。だったら助手の義務として、あたしの実用試験を手伝え」
 由香は助手になる気などまったくなかった。しかし絵理衣が頭を下げて懇願するので、情にほだされて所員になったのだ。年上の人にこれ以上ないほど深々と頭をさげられ、承諾しなければその場で土下座でもしかねかねない勢いで懇願されれば、由香の性格からして断りきれなかった。
「わかりましたよ。まったく助手なんかになるんじゃなかった」
「ぐちは発明品を見てからいいたまえ!」
 絵理衣は由香に向けて自信満々に胸を張ってから、研究室に散らかるガラクタをかき分けた。
「確かこの辺に……」
「まったく、最初から準備して置いてください」
 由香はあきれた表情で絵理衣を見た。

 発明品が見つからない絵理衣は、とうとう前かがみになってガラクタの山をあさりはじめた。絵理衣の胸は重力によって垂れ下がり、そのために大きな胸がますます巨大に見えた。しかも、動くたびにその大きな胸が揺れる。
(博士の胸、大きいな。お尻の形もきれい)
 ガラクタをあさって尻を突きだしている絵理衣をながめながら、由香はそうおもった。
 背も低く幼児体型で胸も薄い由香は、絵理衣の胸を羨望のまなざしで見つめていた。
(でもわたしは発展途上! 成長しきった博士の胸と違って、わたしの胸はまだまだこれから大きくなる可能性を秘めているんだからっ!
 ――なんだか考えていて、むなしくなってきた)

「あったあった。見たまえ! これが、全自動フェラチオ訓練機だっ!」
 そういって絵理衣が天高々と掲(かか)げたのは、うさぎの耳のカチューシャだった。研究所の蛍光灯に照らされて、黒い光沢がまぶしく輝く。
「バニーガールとかがしている、うさぎの耳のカチューシャじゃないですか」
「一見ただのウサ耳カチューシャに見えるかもしれないが――百聞は一見にしかずだ」
 絵理衣はすばやく、由香の頭にカチューシャをはめた。早足で研究室の隅においてある姿見を運んでくると、由香の背中を押して鏡の前に立たせる。
「似合うぞ?」
 由香の目に、ウサギ耳のカチューシャを着けた自分の姿が映る。
「やれやれ……。まんぞくしましたか。それじゃ、はずしますよ」
 そういって、由香がカチューシャに手をのばしたその時だった。
「待て! 実用試験につきあってもらう!」
 絵理衣はするどく叫ぶと、白衣のポケットからテレビのリモコンのようなものを取り出して、由香に向けてボタンを押した。
「あっ……」
 すると、由香の目から光が消えてゆく。顔も無表情に変わる。彼女の体は直立したまま、固まったように動かなくなった。
「聞こえるか助手」
「……。はい……聞こえます……博士」
「感情のこもっていないしゃべり方。
 まずは成功したようだな」
 絵理衣は由香の頭をなでた。本来の由香であれば「やめてください!」といって絵理衣の手を払いのけるはずだが、いまの彼女はまったくの無反応だった。
 絵理衣は由香の胸を揉み、スカートをまくった。だが由香はマネキン人形のように、直立したまま眉ひとつ動かさない。
「今日の助手のパンツはピンクか……。
 第一段階は成功だな。
 助手のしているウサ耳カチューシャは、装着した者の脳を刺激して、その肉体を操るのだ。まあ、催眠術みたいなものだと考えればいい。そして、装着した者に、全自動でフェラチオの訓練をさせる装置なのだ!」
 絵理衣の声のテンションが上がる。
「さっそく第二段階、試験開始だっ!!
 まずは手始めに、バニーガールの服に着替えてもらおうか。せっかくウサ耳のカチューシャをしているんだ。バニーガールにならなければな。
 ちなみに、どうして全自動フェラチオ訓練機がウサ耳カチューシャのかたちをしているのかと問われれば、単にあたしの趣味だ。
 では裸になれ。服を全部脱ぐんだ」
「……はい」
 由香はうなづくと、ロボットのような無駄のない動作で、とまどいもせずに服を脱ぎだした。
「あいかわらずの幼児体型だな。助手はその点を気にしているようだが、幼児体型のバニーもなかなかよいものだぞ。
 もちろんあたしはレズビアンではないから、助手の着替えを見てもなにもおもわんよ。
 彼氏が居ないのは、レズビアンだからじゃない。今は発明が彼氏だからだぞ? 勘違いするなよ?」
 同性とはいえ、目前で脱衣をして裸になる姿を見るのは恥ずかしいのか、由香を着替えさせている間、絵理衣は語りつづけた。
 一方由香は、絵理衣の存在などないもののように、平然と服を脱ぎつづけ、ついに下着まで脱ぎ去って全裸となった。
「つぎはこの服を着るのだ」
 絵理衣はバニースーツを差し出した。
 由香はバニースーツを受け取ると、服を脱いだときと同じように無表情で身につけた。
「着替えたな。
 しかし、せっかく助手をバニーガールにしたのに、人形のようにただ突っ立っているだけというのはつまらんな。
 すこしのあいだだけ、元に戻してみるか」
 絵理衣はリモコンを由香に向け、ボタンを押す。すると由香は体を小さく振るわせ、まぶたを何度かまたたかせた。
「……あれ? わたし立ちながら眠っていたんですか? なんか夢の中で、博士の目の前でバニーガールに着替えていたような……。
 ――って、本当にバニーガールになっているし。
 それじゃあ、さっきの夢は夢じゃない!?
 夢の中で聞いた、わたしの体を操るって話は、事実なんですか?
 は、博士! 体を操って、バニーガールのかっこうをさせるなんて最低です!!」
 由香は怒りの目を向けながら、頭につけてあるウサギ耳のカチューシャに手を伸ばす。
「まずい!」
 絵理衣はあわてて、ふたたびリモコンのスイッチを押した。
 すると由香の動きが止まり、怒りの表情も無表情になる。
「あぶなかった。助手は怒ると怖いからな。だが、あたしも科学者のはしくれ。どんなに困難であろうとも、どんなに助手が怖くても、研究のためならば、危険をかえりみず進むのだ。それが科学者の道なのだ。
 ということで、試験を続行するぞ」
 絵理衣はそう言うなり、白衣を脱いだ。タイトスカートをおろす。シャツを脱ぎ、色気あふれる上下黒のお揃いの下着姿になる。
「同性とは言え、目の前で全裸になるのは少々はずかしいものだな」
 絵理衣はためらいながら、下着を脱いだ。
 体を隠す物がなくなった絵理衣は、棒立ちにされたままの由香にいった。
「残念ながら、女の私には、男の一物はついていない。ゆえに、このままではフェラチオの試験ができない。
 そこで、このような物を用意した」
 絵理衣は、ペニスバンドと呼ばれる作り物のペニスを由香に見せた。
 作り物とはいえ男性の性器を模したものを目の前に突きつけられれば、本来の由香であれば激しく恥ずかしがっただろう。が、発明品に操られている状態の今の由香は、うつろな目でペニスバンドを見つめているだけだった。
「いまからこの疑似ペニスを使って、フェラチオの試験を実施する。
 なお、念のために言っておくが、幼児体型の由香なんかにフェラチオをされてもうれしくなどないぞ? ほんとうだからな。これはあくまで試験だ」
 照れ隠しのためか、絵理衣はやたら饒舌に語りながら、股間にペニバンを装備した。
「ここからが本番だぞ!
 さあ助手よ、フェラチオをはじめるのだ」
「……わかりました」
 由香はペニスをつかみ、唇を近づける。そして疑似ペニスの先端を、ていねいに舐めはじめた。しばらくして、由香は怒張した卑猥な形をした男の物を口の中に入れ舌先で愛撫する。
「うむ。なかなかうまいではないか。
 しかもこの全自動フェラチオ訓練機、ただフェラチオをさせるだけじゃないぞ。なんとこのリモコンで、口の開け具合やすぼめ方、頭を前後に動かすストロークの速さや、舌を動かす速さまで調節できるのだ。つまり、お好みの動きをさせることができるのだ。
 ……とは言え、ペニバンをどんなに舐められても、まったく快感が得られないな。当然だが」
 絵理衣は、リモコンのスイッチを押した。
「……!!
 キャー! わたし、なんてことを〜」
 由香はあわててペニスから口をはなす。
「安心しろ。これは作り物だからな。フェラチオとしてはノーカウントだ。
 というわけで、実用試験第二段階は終了だ。
 作り物のペニスでは、しゃぶられていても快感が得られないからつまらん。だいいち射精ができないから、精液を飲み込んでから、おいしい言うとわせるところまで試験できない」
「こんなことをさせておきながら、なに冷静に感想をのべているんですか!」
「評価するために試験をしているのだ。
 だいたいそんな心意気では、男とフェラチオできないぞ」
「そんなのできなくていいです」
「ほんとうにいいのか? フェラチオは男のロマンだぞ。フェラチオのひとつもできないようでは、彼氏がなげくぞ? 助手は彼氏が大切ではないのか? 彼氏の喜ぶ顔が見たくはないのか?」
「そっ、それは……」
「男なら誰でもフェラチオが大好きなはずだからな。助手のことだ。彼氏にフェラチオをしたこともないのだろう。そんなことでは、彼氏に落胆されてしまうぞ?
 ちょうど良いではないか。これで技術を鍛えれば、彼氏も手なずけられて助手からはなれられなくなるはずだ」
「と、とにかく、大きなお世話です! プライベートの侵害です! 博士のへっぽこ発明は最低です!」
「へ……へっぽこ発明!?
 ふん! いいだろう。へっぽこではないことを証明してみせる!
 実用試験の続行だ。街に出てフェラチオをする相手の男を捜しに行くぞ」
「もういやですよ! だいたいバニーガールの姿で、外に出られるはずがないじゃないですか」
「問答無用!」
 絵理衣がリモコンを押す。
「また意識が遠のいていく……」
「助手、フェラチオをする男を捜すために街に出るぞ」
「はい……」
 由香は命令どおり、絵理衣の後について研究室から出た。



 由香はバニーガールのかっこうで、街の中を平然と歩いていた。
 秋葉原といえば人通りの絶えない電気街のイメージがあるが、それは駅前や大通りだけのことで、奥に入れば生活臭の漂う普通の町だった。
 すれ違う通行人は、白衣姿の絵理衣とバニーガール姿の由香を見て一瞬おどろくが、秋葉原という土地柄のため趣味の店のコスプレ宣伝とでも思うのか、一瞥しただけでそれ以上の関心は抱かないようすだった。
「ここならば、たまにしか人が通らないので、試験にはちょうどいいだろう」
 住宅街でも特に人通りの少ない公園の前で絵理衣が立ち止まる。
 ここで絵理衣は、リモコンを押した。
 由香が正気に戻る。
「はっ!? いままで見ていたのは夢……じゃなくて、現実なんですよね?
 それじゃあわたし、バニーガールの姿で街をあるいていたんですか? これじゃ変態ですよ……」
 由香は顔を真っ赤にして、その場にしゃがみこむ。
「博士、なんてことしてくれたんですか! これじゃあもう、清司(せいじ)くんのお嫁にいけないじゃないですか!
 ――って? 博士? あれ? いない」
「助手よ、なかなか堂々とバニー姿で街をあるいていたぞ」
「まぢかで声がするのに。博士、どこにいるんですか?」
「ここだここだ」
「あんな所に隠れている!」
 由香がしゃがんだままで辺りを見まわすと、公園に植えてある樹の陰でリモコンに向かって話している白衣の絵理衣の姿が見えた。
 絵理衣は由香が気がついたことを知ると、笑顔で手を振った。
「そのカチューシャには通信機能もついているのだ。だから離れていても、リモコンをつうじてあたしと通話ができるのだ。いたせりつくせりだろう?」
「それで博士と会話が出来るんですね……。
 ――って、そんなことよりも、なんでこそこそ隠れているんですか。ひとりぼっちじゃ、ますます恥ずかしいじゃないですか!」
「あたしがそばで見ていては、男がフェラチオをしにくいだろう」
「やっぱり、やらせる気なんですね……」
「まあ、バニーガール姿で野外にいるような奴のそばにはいたくないというのが、本音なのだが」
「博士のしわざでしょう!!」
 そう言って、しゃがんでいた由香は、怒りにまかせて立ち上がった。
「もう復活したのか。バニーガールの姿に恥じらう助手の姿が見たいがために、こうしてリモコンの解除していると言うのに」
「あきらめました。どうせ嫌だといっても強制するんでしょう?」
「ようやく、あたしという人間が分かってきたようだな。
 ……と、ちょうどいいタイミングで若い男がきたな。
 よし試験開始だ。スイッチ・オン!」
 由香の目の光がなくなる。そして由香は、歩いてくる青年に向かって進み出した。



「自分から男に近づいていったな。全自動の機能はしっかりと働いているようだな。なにしろ全自動だからな。あとは自動でフェラチオの訓練をするはずだ」
 絵理衣は公園の樹の陰から、由香の行動を観察していた。
「おチンポ、しゃぶらせてください!」
「正常に作動しているな。やはり、ちゃんと許可はとらないとな」
「フェラチオさせてください」
「痴女だー! 変質者だー!」
 と男は叫ぶと、走って逃げてしまった。
 絵理衣が樹の陰から出てきて由香のそばに立つ。スイッチを切る。
「男が行ってしまったぞ? これでは試験が続けられないではないか」
「びっくりして、逃げて行っちゃったんですよ。
 昼間の住宅街の道ばたでいきなり、バニーガールがフェラチオさせてくださいとか迫ったら、そりゃあ誰だってどん引きしますよ」
「そういうものなのか? 難しいものだな」
「だから、もうやめましょうよ」
「とか言っていたら、また若い男が来たぞ。助手と同じくらいの年齢だし、ちょうど良いだろう」
 由香はふりむいて、歩いてくる人物を確かめた。彼女の顔が青ざめる。
(清司くんじゃないですか〜っ!!)
 そう、向かってくる人物は、由香の恋人の清司だったのだ。
「やばい、やばいですよ博士! あの人はやめましょうよ! ね、あの人の次の人ならば試験していいですから」
「いや、あの青年でとりおこなう。あの青年こそ、助手のフェラチオの試験にピッタリだと、天才の勘が訴えかけるのだ」
 絵理衣はリモコンのスイッチを入れると、公園に隠れてしまう。
「ややや、やめてください! お願いです博士。本当に、あの人だけは……。ああっ、意識が……」
 由香の意識が遠のいていく。
(だ、だめ、ここで意識をうしなったら……清司くんにフェラチオをせまってしまう。街中でこんなかっこうでフェラチオを迫るなんて。そんなことしたら間違いなく嫌われちゃう!
 絶対に……絶対に意識を失わせるものかっ! 博士のへっぽこ発明品なんかに、わたしは負けないっ!!)

「え? 由香ちゃん? 何そのかっこう? え? え?」
 由香の彼氏の清司がいった。
「おチンポ、しゃぶらせてください!」
(どうにか意識はたもてているものの、口が勝手に動いてしまう……。
 ああっ、手が勝手に、清司くんのズボンのベルトを!?)
「失礼します」
 由香の手は清司のベルトをはずすと、ズボンをおろしにかかる。
「ちょっと!? 由香ちゃんやめてよ!」
 清司はあわてて、脱がされまいとズボンをおさえた。
(博士のばかーっ!!)
 由香は心で叫んだ



 公園の樹の陰から実用試験を見ていた絵理衣の耳に、由香の声が響く。
「博士のばかーっ!!」
「なんだなんだ!? 全自動フェラチオ訓練機を解除していないのに、助手の声が聞こえたぞ」
「博士! 聞こえているんですね!」
「助手、意識があるのか? まさか我が訓練機の催眠を抑えたとでも言うのか? なんてやつだ」
「よかった。口が動かせなくても、通信は出来るんですね」
「そうだ。この通信は、カチューシャを通して、助手の脳に直接繋がっている。
 しかし、この天才の発明品、全自動フェラチオ訓練機の制御を――」
「いまはそれどころじゃないんです!
 ストップ! 試験は中止です!
 この人は清司くんといって、わたしの彼氏なんです。
 清司くんとわたしはつきあっているんです」
「彼が話に聞く、助手の彼氏か!」
 絵理衣は目を輝かせて清司を見た。

 由香が絵理衣と通話しているあいだも、清司のズボンをめぐる戦いは続いていた。
 清司の前でしゃがみこんで、両腕に力を込めズボンを引きずり下ろそうとしている由香と、両手でズボンをつかんで絶対に脱がされるものかとふんばっている清司の壮絶な争いが続いている。

「わたしたちは清い仲なんです。清司くんとは、キスもまだなんですよ? このままじゃ、失恋確定ですよ!」
「その声は泣いているのか。
 ……。
 わかった。
 あたしもそこまで鬼ではない。
 なに、男などいくらでもいるのだからな。彼でなければならない理由はない。
 いまリモコンのボタンを押して解除を……あっ!
 ……。
 ……。
 ……」
「急に黙りこんで、どうしたんですか? なにがあったんですか? 何か不都合が起きたんですか? トラブルが起きたんですか?
 博士、返事をしてください!」
「すまん。リモコンを落としてしまった。
 この天才が、手を滑らすとはな」
「なにしてんですか! 早く拾って解除してください!」
「助手に言われるまでもない。すでに拾っている。そしてボタンを押しているのだが……。
 反応がないのだ。どうやら地面に落とした衝撃で、リモコンが動かなくなってしまったらしい」
「なにやってんですか、この年増は!? そんなんだから、婚期逃すんですよ! 年齢=(イコール)彼氏いない歴になるんですよ!!」
「落としたくらいで動かなくなるような、やわなリモコンを作ったのは誰だ〜!?」
「博士でしょう!」
 絵理衣は必死に、リモコンのボタンを連打した。
「動け動け! このっ! このっ! 動け〜っ!!
 ――わっ!!」
 あまりに乱暴に操作したせいか、リモコンから火花が散ったかとおもうと、はでな音を立てて煙が上がった。
「助手。すまん」
「えっ?」
「リモコン……壊れてしまった」
「えっ? えっ? ええ〜っ!?」



 清司のズボンを必死に下ろそうとしていた由香の体が、とつぜん動きを止めた。と思うと、小刻みにふるえはじめる。
「由香ちゃん!? どうしたの? 大丈夫?」
「フェラチオさせロー!」
 由香は清司をにらみつけたかと思うと、咆吼した。
「まさか、暴走したのか?」
 公園の樹の陰から見ていた絵理衣がつぶやく。
 由香は清司を押し倒したかと思うと、驚いている清司のズボンを力ずくでおろしてしまった。下半身がトランクス姿になる清司。
「チンポしゃぶらせロ〜っ!!」
「ちょっと、やめて! やめて! 由香ちゃん、やめやめ……キャーっ!」
「チンポチンポチンポ!!」



「博士博士! 聞こえてますか!? いったい何が起こっているんです!? 清司くんを押し倒してズボンおろしちゃったじゃないですか! ああ、こんどはパンツに手をかけている!」
 由香は必死に語りかけたが、樹の陰に隠れいる絵理衣は、何度も「助手、すまん」と繰り返すだけだった。

「チンポしゃぶらせロー!!」
(ぐっ、どうしても体が勝手に動いてしまって止められない!!)
「由香ちゃん、やめてよ! やめてくれたら、今日のことはわすれるから。だから、お願いだ!」
(わたしだってやめたいの! わかって清司くん!)
「そうか、やめる気はないんだね?
 由香ちゃんがそんな人だったなんてしらなかったよ!
 ――ぼくたちは、もうおわりだね」
(このままじゃ、破局だー! しかも最悪のかたちで!
 くそっ! ふざけんなー! このっ、へっぽこ博士のへっぽこ発明品がぁぁぁーーっっっ!!
 とぉーまぁーれぇぇぇーーーーーっっっ!!!!)
 由香は意識を集中して、体を止めようとこころみた。
 由香の頭に付けたウサ耳カチューシャから、火花が散りはじめる。
「チンポ……チンポ……チ……」
 やがてカチューシャから煙が昇り始め、由香の体は動かなくなった。
「あわわ……」
 清司は自分のズボンをひったくるようにしてつかむと、あわてながらズボンをはいて、逃亡してしまった。
 呆然としていた絵理衣も、ようやく正気にもどり、樹の陰から出てくる。由香の元に走り、ウサ耳をはずした。
「大丈夫か?」
「体が動く。よかった」
「どうにか事態はおさまったようだな」
「……清司くん……」
 由香の目から涙が流れ落ちる。
「悪かった。今回の件は、あたしのせいだ。
 助手の彼氏には、あたしが責任を持って誤解をといておくから安心しろ」
「本当ですか?」
「だからもう泣くな。
 しかし、おまえたちはつきあっているんだろう?
 助手くらいの年齢といえば、もう初体験をしていてもいいはずなのに。
 まったく、助手の彼氏は奥手だな。
 まあたしかに野外でのフェラチオはハードルが高いかも知れないが」
「そんなんだから、男の人がよりつかないんですよ」
「なんかいったか?」
「いいえ。
 そりゃあ清司くんだって男の子ですから、エッチなことをしたいかもしれませんけれども、それをしないのは、それだけわたしのことを大切に思ってくれているということです」
「そういうものなのか……。
 ふたりの仲は、まずはキスから始めなければならないのだな」
 絵理衣は感慨深そうにいった。



 ――後日。
「君は清司くんだったね」
「そうですけど、あなたは?」
 きれいな人だなと思いつつ、清司はこたえた。
「あたしは絵理衣と申す者だ。先日は助手の由香が迷惑をかけたな」
「絵理衣さん……? ああ! 由香ちゃんからあなたのことは聞いています。
 たしか、アメリカの工科大学院を主席で卒業して、今は自分の研究所を作って発明をしている変人……じゃなかった天才だって」
「その通り天才だ。
 それはともかく、今日は君の誤解を解きにわざわざやって来たのだ。
 先日、助手が失礼なことをしただろう。
 実は先日の助手は、あたしの制作した助手そっくりなロボットだったんだ。街に連れ出して実用試験をしていたのだが、みごとに失敗してしまってな。あんなことになってしまった。きみにも迷惑をかけた」
「ロボット? でも、どうみても人間でしたよ? いくらあなたが天才だといっても、あれがロボットだったなんて信じられない。
 でも……。言われてみれば、なんか動きもぎこちなかったし、しゃべり方も機械ぽかったし。表情もなかったし。煙を吐いて止まっちゃったし。
 それに由香ちゃんがバニーガール姿でフェ……、いや、あんなことをさせろと言って襲ってくるなんて、あるはずがない。
 それじゃあ、やっぱりロボットだったんですね。
 でもすごいなあ。どこから見ても人間そのものでした」
(ふ……? ふふふ! 自分で言うのもなんだが、まさかこんな単純な手に乗ってくるとはな。なかなか素直な奴だな。純粋な性格なのだろう。いかにも助手の好みっぽい)
「そうだろうそうだろう。あたしは超天才発明家だからな!
 そこで相談なのだが、もう一度助手そっくりなロボットの実用試験を手伝ってくれないか。新型を造ったのだ」
「由香ちゃんそっくりなロボットは興味がありますけれど。
 それにぼくも由香ちゃんが通っている研究所を見てみたかったですし。
 でも……」
「わかっている。今度の新型ロボットは大丈夫だ。天才の名にかけて、この前のような事態は起こさないから安心したまえ。
 さあ助手の彼氏よ、あたしについてくるのだ」



 絵理衣は研究所に帰ってきた。
 研究室を抜け、その奥にある居間に入る。
「帰ったぞ、助手!」
「お帰りなさい博士」
「さっそくだが、新しい発明品を作ったので見て欲しい!!」
「また変な物じゃないでしょうねえ? もうこの前のような目はいやですよ」
「こんどは大丈夫!」
 そういって絵理衣はすばやく、由香にウサ耳カチューシャをつけてしまう。
「これって、例の訓練機じゃないですか! 取って取って!」
 そこに、研究室の方から清司の声が響いた。
「おじゃまします。へー、ここが、由香ちゃんが入り浸っているという絵理衣博士の研究所ですか?」
「清司くん?」
「あたしが連れてきたんだ。
 大丈夫だ。約束どおり、すでに彼の誤解は解いてある。
 だが、段取りがあるのだ。しばらくこの部屋に隠れていてくれ」
「言われなくても隠てれますよ。清司くんにあわせる顔なんてありませんから」



 絵理衣は研究室にもどると、清司に会った。
「あれ? 由香ちゃんは、ここにはいないんですか?」
「助手には、ちょっとお使いをたのんでいて、ここにはいないんだ。
 それよりも、さっそく実用試験をしよう。
 このまえのお詫びの意味を込めて、こんな発明品を作った!
 その名も、全自動フェ……ごにょごょ訓練機の二号! その名も《全自動恋人訓練機》だっ!」
 そういって絵理衣は、居間に隠れていた由香を引きずり出して清司の前に押し出す。
「博士、ちょっと。あっ、清司くん? どうしよう」
「これがこの前の由香ちゃんそっくりなロボットの二号なんですね。
 この前のロボットもそうだったけれど、ほんとうに由香ちゃんそっくりだ」
「だがロボットだ。このウサ耳がロボットである証拠だ。前のロボットにも付いていただろう?
 助手から聞いたのだが、助手と清司くんはつきあっているのだろう? これはその名の通り、恋人の訓練をするロボットだ。きみはこの全自動恋人訓練機で、助手とのキスの訓練をするといい。先日のお詫びだ」
「ち、ちょっと博士、あたしたちはにキスはまだ早すぎるような」
「ほんとうだ。由香ちゃんそっくりな反応をする」
「すごいだろう!? 反応・言動・物腰・しぐさ・たちふるまい。その他すべてが助手そのものだ。これを使って本物の助手にできないような恋人の訓練をするといい。
 キスをしたときの反応も助手そっくりだからな。うまくなるまで、何度でも何度でもキスをするがいい。
 では、あたしは退散するぞ。
 あとはふたりで、ごゆっくり」
 そう言って、絵理衣は入り口に向かって歩きだした。
 去りぎわにすれ違いながら、絵理衣は由香に耳打ちした。
「そのウサ耳カチューシャはただのかざりだ。なんの変哲もない、どこにでもあるバニーガールのカチューシャだ」
 そういい残すと、絵理衣は研究室から出ていってしまう。
「博士ー」
 絵理衣を追いかけようとした由香の前に、清司が立った。
「由香ちゃん! ――相手がロボットだとわかっていてもはずかしいな。でも思い切って訓練をするぞ」
 清司の表情が、真顔に変わる。
「由香ちゃん……。いや、由香!」
「よ、呼び捨て!? あっ……」
 清司は由香の両肩をつかむと、顔を近づけた。
「好きだ……大好きだ、由香……」

 ドアをわずかに開けて、隙間からのぞいていた絵理衣は、「よかったな、助手」と満足そうにほほえんだ。

 
 
< おわり >


 

 

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