Animalize Heart


 

 

Act−2 【change】


 ・・・

 ・・・ドクン

 ・・・・・・ドクン

 心臓の鼓動が聞こえる。
 普段は気にも留めないそれは、今この瞬間、大きく脈打ち、その身体を振動させる。
 
 ・・・ドクン

 部屋の中に蠢くのは、一人。
「・・・くぅっ・・・ぅんっ、はぁっ・・・」
 遥はベッドの上で悶えていた。
 下腹部を襲う鈍い苦痛と、自らが与える快楽と。
「んんっ・・・!」
 花弁に指を這わせ、花芯をつまみ、弾いて断続的に刺激を与える。
 乱れて開いた寝巻きの胸。
 強引にブラをずらして、はけ如く乳房を揉みしだく。
 じんわりとしたもどかしいような、そんな感覚が自分を狂わせていく。

 ドクン・・・!

 ひときわ大きく鼓動が聞こえる。
「うっ・・・ふ・・ふぁ、ふぁあああーーーーっ!」
 同時に―遥は達した。
 クぅーっと身体をのけぞらせて、精一杯快楽をむさぼる。
「―――――っ」

・・・ 

 ひとしきり行為を終えて―遥はぼうっとした頭で考える。
 ・・・今、何時だろ・・・
 枕もとにあるはずの時計を手探りで探して、顔の前に持ってくる。
 午前一時。
「・・・・・・・・・」
 こんな時間になにやってるんだろう・・・あたし。
 突然、身体が疼いてきて、どうしようもなくなって・・・
 気づいたら、無意識に体が動いていた。
 もうそれからは記憶がない。
「・・・くっ」
 ズン、という鈍い痛みに、一気に意識が現実に引き戻される。
 達したせいで暫く感じていなかったが、また痛みがこみ上げてきたようだ。
 なんなのよ・・・もう。
 痛む腹を押さえながら、遥はごろんと横になった。
 
 と。

『―――――』

「え?」
 今・・・何か聞こえたような・・・
 遥は少し身を起こして、あたりをきょろきょろと見回す。
『―そう、あなた遥っていうの』
 今度ははっきりと聞こえた。
「誰!?」
 遥は今度はしっかりと立ち上がって、声の主を探した。
『ふぅん・・・おもしろい娘ね』
「ちょっと・・・何処にいるのよ・・・出てきなさいよ・・・ねぇ・・・」
 遥の声から徐々に自信が失われていく。
 遥は気づいていた。
 この声は・・・自分の頭の中に直接響いてきている・・・!
「や・・・嫌ぁ・・・」
『怖がらなくてもいいわ、遥。別に・・・怖がるほどのものじゃないんだから』
 パニックを起こしかけている遥に、声の主は語りかける。
「あ・・・ぁ・・・」
 がくがくと膝が振るえ、その場にぺたんと座り込む。
 両手で耳を押さえても、その声は途切れることなく聞こえてくる。
『遥』
 その名を呼ばれると同時に、遥の体がぴくりと反応する。
 それは、遥の意思ではなかったが。
『私があなたを気持ちよくしてあげる』
 そう聞こえた。
 ふいに・・・遥の乳房に妙な感覚が走る。
「・・・ふぇ?」
 一瞬、それがどういう感覚なのか理解できなかった。
 否、理解しようにも、遥にとっては生まれて初めて味わう感覚だった。
 自分の体内―体の内側から乳房を愛撫される感触。
 それはやがて乳房全体・・・そして乳首にまで到達する。
 その頃には、流石の遥もそれが一体どんな感覚なのかを理解したようだった。
「いやっ・・・! なにこれぇっ」
 思わず両手で乳房を押さえつけるが、それでも一向に収まることはない。
 むしろ、触れた部分から、今度は外側からの愛撫が加わった形になる。
「んひぃっ」
 その感覚は遥の許容限界を超えていた。
 とぷっ、と秘裂から汁がにじみ出る。
「ん・・・んんっ、うあー・・・っ」
『どう? 気に入ってもらえたかしら』
 声が聞こえる。
 遥の頭の中で響いている。
 遥は快楽に霞む思考をなんとかねじ伏せて、一言だけ言葉を絞り出した。
「・・・あなたっ・・・ん・・・誰よっ」

『私? 私は―あなた自身』

「え・・・?」
 その言葉にどんな意味が含まれるのか、遥には理解できなかった。
 が―次の瞬間。
 遥の腹の中で『何か』がぶるんと震えた。
「きゃっ!」
 腹の中の『それ』は、長い間停止していたが―。
 それが、今まさに本格的に活動を開始したのだった。

 遥の直腸内に挿入されていた、黒いバイブ。
 それは一つ大きく震えると、解けて無数の黒い糸に形を変えた。
 それらは・・・まるで意志を持っているかのように、場所を移動させ始める。
 直腸から大腸へ。
 大腸から小腸へ。
 小腸の吸収壁から血管へ。
 血管から、あるものは心臓へ、あるものは四肢へ、またあるものは膣へ―そして、脳へ。
 脳へ入ったものは、脊髄を介して全身の神経という神経に融合する。
 そうしてバイブは、ゆっくりと、しかし確実に遥の体内を網羅していった。

「なにを・・・したのっ」
 遥は、乳房を襲う快楽と、腹部を襲う痛みからは解放されていた。
 しかし、それがこの声の主の仕業であることは疑いようも無い。
「あなた誰よ、あたし自身ってどういう―」

 ドクン

「うぁっ!」
『こういうコトよ』
 脈打つ心臓に『快楽の刺激』が走る。
 ドクン、ドクンと鼓動を刻むたびに、淫核を弾くかのような刺激が起こる。
 さっきまでとは段違いの快感が、背中を駆け抜けていく。
 しかし、それは危険な快楽だ。
「・・・ちょっ・・・お願い、やめてよ・・・わかったから・・・わかったから・・・っひぃ!」
 涙を流しながら懇願する遥に、声の主はいかにも残念そうに言った。
『あれ・・・? もう限界なの』
「限界もなにも・・・っひぁああっ」
 快感に脳を焼かれながらも、遥は恐ろしい想像をしていた。
 もしかしたら・・・この声の主は、その気になれば全身の何処でも性感帯に為しえるのではないか。
 遥はそんな考えを浮かべたが、すぐに振り払おうとした。
 しかし・・・現に今『心臓で感じている』自分がいる。
『・・・それじゃ、限界を超えさせてあげる』
 そんな声が聞こえた。
 ―と。

「ひゃぁああああっ!!」
 
 遥の右手が、左手が、両足が、顔が・・・それぞれ別のベクトルで快感に襲われる。
「う゛わ゛ああああああっ!!」
 数箇所で同時に発生した快感の波は、それぞれぶつかり合ってその大きさを増していく。
 その上、高まった波は発散されることなく、次々と蓄積されていった。
「嘘ぉっ!? イケないっ、イケないのぉ―――ッ!!!」
 高まった行き場のない絶頂感。
 遥は脂汗をにじませて絶叫した。
 見開かれた目からは、止まることなく涙があふれ、必死で喘ぐ口からは涎が糸を引く。
 遥は全身を突っ張らせて悶え苦しむ。
「はっ・・・がぁっ・・・た・・助けてよぉ・・・っ」
 遥は必死で声の主に助けを求める。
『・・・・・・・・・』
「お願いっ・・・イカせてっ、お願いだからぁっ」
『いいの? 望むのなら止めはしないけれど』
「早くぅっ、もう・・・あたしっ・・・」
『それじゃ・・・』
 パァン―とはじけるような音がした。
 体内で限界まで増幅された性感は、さながら決壊したダムのように一気に流れ出す。
「あっ、う゛ああっ、ひゃうあああああああ!!!!」
 一段と目を見開き、苦悶とも快楽ともつかぬ形相の遥。
 もっとも、それも当然だろう。
 人間が感じることのできないほどの高さの快楽の波。
 それは、飲み込んだ人間の精神を壊してしまうにはいささか充分すぎたのだから・・・

・・・

『遥』
「・・・はい」
 頭の中に響く声に、遥は虚ろな声で返事を返す。
 その瞳にはすでに何も映ってはいない。
『あなたの身体と記憶、それに残った心を私に預けなさい。そうすれば、あなたに至高の悦楽と幸せを与えてあげる』
「・・・・・・は・・い」
『いい娘ね・・・遥』
「・・・は・・・ぃ・・・ありがとう・・・ございます」


・・
・・・

 次の日、結局遥は学校には来なかった。
「・・・やっぱり・・・俺のせいなのか・・・?」
 放課後、伊吹は教室の机に突っ伏したまま、ぼーっと考えていた。
 昨日は、目を覚ました遥を家まで送っていったんだよな・・・
 でも・・・
「はあぁ―・・・」
 唯一にして最大の失敗、それはアナルに入れたバイブのことを、遥に伝えなかったことだろうな。
 学校を休んだ理由は、十中八九『アレ』のせいだろーな・・・
 でなきゃ、年中皆勤賞のあいつが学校を休むはずないっつーの。
「よっ、元気ないなぁー。彼女がお休みだからか?」
 ふいに声の聞こえたほうに目をやると、越前皐月(えちぜんさつき)が笑って立っていた。
 皐月は遥とよくコンビを組んでいるので、伊吹も何かと話す機会が多く、クラスの中でも仲のいい友人の一人だ。
「・・・なんだ、皐月か」
「なんだとはご挨拶ね」
 皐月ふくれっつらを浮かべて、じとーっと伊吹を睨んでいた。
 慌てて弁解する伊吹。
「わりぃ、ちょっと考え事をしてたんだよ」
「ふーん、そなんだ。・・・やっぱり遥のことでしょ?」
 にんまりとした顔で、伊吹のほうを見る。
「別に・・・。なんで俺があいつの心配なんてしてやらなきゃならね―んだよ」
「だってぇ、彼氏と彼女の間柄じゃん。普通心配するでしょー」
「あー・・・そのことか」
 ま・・・昨日の今日だしな。
 皐月が知らないのも当然か・・・
「お前には言ってなかったけどな・・・昨日付けであいつとは別れた」
「えぇっ!?」
 大音量で驚きの声をあげる皐月。
 教室の中の視線全てが一瞬こちらに集中する。
「バカ、声がでかい」
「ご、ごめん。・・・でもどういうコト? あんなに仲良かったじゃない」
「はぁ? 仲良かったか、俺ら」
「トーゼン。まったくもう、羨ましいったらありゃしない」 
 一人で勝手にテンションを上げていく皐月。
 いつもきゃあきゃあ騒いでいるので、普段とあまり変わらないといえばそうなのだが。
「わーったわーった、とりあえずなんかムカつくから黙れ」
 ったく・・・。
 それにしても、俺と遥のどこがそんなに仲良く見えたんだろーな・・・
 どう考えたって、ここ最近は険悪ムードだったはずなのに。
「でさ」
「ん?」
「またそのうちヨリ戻したりするよねー?」
 皐月がさも当然といった口調で言う。
「さーな」
「そんなぁー、消極的な男は嫌われちゃうよ」
「知るか。大体、俺から話を持ちかけたんだから、俺からヨリを戻してどーすんだ」
「あ、そっか・・・。でも・・・その、アレじゃない。二人が別れちゃったら、皐月ちゃん悲しいなー」
 皐月がおどけた口調で言ってくるのを、伊吹は適当にあしらう。
「はいはい。んで、結局何が言いたいんだよ」
「よし、伊吹。遥ン家行こう」
「おぃ、ちょっと待て。なぜそーなる」
 えらく話からずれた結論を導き出した皐月に、伊吹はとりあえず聞いてみた。
 もとよりまともな答えなど期待していなかったが。
「伊吹はともかく、遥は別れたいかどうかなんて思ってるかわからないでしょ?」
「そうか?」
「そうなの。まったく、女心がわかってないなぁ」
 別にわかりたくもないが・・・とは思うが、口には出さないでおく。
「で、その辺は実際に遥に会ってみて話さないとわからないじゃない」
「まー・・・そうかもな」
「んで。今日は『お見舞い』っていう都合のいい口実もあることだし」
「お見舞いが口実って・・・さりげに酷くないか、それ」
「いーのいーの。あたしと遥の間柄なんだから。よし、そうと決まったら行こうか」
 そう言って、鞄を持って立ち上がる皐月。
 ま・・・こうなったら俺も行かなきゃならんだろうな・・・
 目的は違うが、遥の様子も見ておかなければいけないだろうし。
「しょうがねぇな・・・行くか」
 伊吹も鞄を肩に下げて立ち上がった。
「よし、シュークリーム買っていこう、シュークリーム。遥の好きな奴」
「はいはい」

 
 
< つづく >


 

 

戻る