愛欲の鬼


 

 



 而る間、此の鬼の魂、后を惚らし狂はし奉りければ、后いと吉く取り繕い給ひて、打ち笑て、扇を差し隠して、御帳の内に入り給ひて、鬼と二人臥させ給ひにけり。
 女房など聞ければ、只日頃恋しく侘しかりつる事共をぞ鬼申しける。后も笑嘲(えみあざけ)らせ給ひけり。
『今昔物語集』、巻第二十、第七話より


其の一


 ――その頃、都では。
 智泉の起こした騒動の後、后はしばらく何かに怯えた風であったが、近頃になり、ようやく落ち着きを取り戻していた。
 そうして、宮中も平穏を取り戻しつつあったある日。
 それは、突然のことであった。

 バリッ!ガラッ!
 何かが、内裏の屋根を突き破り、后の座所の近くに墜ちた。
 それは……漆黒の膚にざんばら髪。頭には角を生やして、目は鋺(かなまり)の如く爛々と光り、大きく裂けた口と、鋭い牙と爪を持った鬼であった。
「ひ!」
「ば、化け物!」
「あ、あ……!」
 奥向きの、后の身辺のこととて、辺りには侍女しかおらず、ある者は鬼の姿を見て気を失い、ある者は腰を抜かして、恐怖に声をうわずらせるばかり。中には、衣を頭から被って震えるだけの者もいる。
 鬼は、そんな侍女には目もくれず、后の几帳の中に入って行く。

「ひいいいぃっ!」
 突然現れた鬼の姿を見て、后が恐怖に目を見開き、叫び声をあげる。
「后よ、会いたかったぞ」
 そう言いつつ后に歩み寄る、鬼の目が強く輝く。
「ひ……」
「后よ、我がそなたに会えず、いかに侘びしかったかわかるか?」
 鬼の目が輝きを増し、それを見つめる后の目からは、反対に光が失われていく。
「愛しい后よ、私が、この智泉が、そなたに会いに来てやったのだぞ」
「ち……智泉様……」
 一旦光の失われた后の瞳に、徐々に光りが戻っていく。
「そうよ、そなたの想い人の智泉が会いに来てやったのだぞ」
「ああ……智泉様……嬉しゅうございます」
 后は、にこやかに微笑んで鬼に歩み寄る。その瞳には、正気の色はなく、妖しげな光に満ちていた。

 一方、后の几帳の外では、ようやく一人の侍女が心を励まし、后は大丈夫であろうかと、中を覗き見る。
 すると、あろうことか、后は鬼にしなだれかかり、にこやかになにやら話しているではないか。
「あ、あれ!誰か!誰か!」
 己の見た景色に驚愕し、侍女は、助けを求めて走り去る。

「后、后よ、我がそなたをどれほど愛おしく思っていたことか」
「ああ、わたくしも智泉様にお会いしとうございました」
 鬼となった智泉は、后の顎に手をかけて己の方に向かせ、自分の顔を寄せる。
 その、恐ろしげな鬼の顔を、后はまるで想い人に対するように、愛おしげに見つめる。
「あ……んん……」
 智泉が口を寄せると、后は自分から舌を絡めてくる。
「……ああ、后よ」
 智泉は、后の単衣をはだけさせ、毛むくじゃらの腕で乳房をつかみ、もう片方の手で后の肌を撫で回す。
「ああ、この肌だ、后のこの肌に触れたかったのだ」
「ん……ああ……わたくしの身体は智泉様のものでございます」
 智泉が、胸を揉み、肌を撫でる度に、后は艶めかしい声をあげ、瞳を潤ませる。
 が、その時。

「何をしておるか!この化け物」
 そこに飛び込んできたのは、またもや当麻鴨継であった。
「おお、鴨継か、この間はよくも我を取り押さえてくれたな」
「何を……!?さ、さては貴様、智泉か!」
「おお、その智泉よ。こうして、后を我が物にしに来てやったぞ」
「この破戒僧が!あさましくも鬼道に堕ちたか!」
 そう叫んで飛びかかる鴨継を、智泉は軽く腕で払う。
「ぐはぁ!」
 それだけで、鴨継の身体は几帳の外に跳ね飛ばされる。その胸から腹にかけて数条の傷が走り、床に血溜まりが出来る。
「まぁ、そう急くな、鴨継。そなたは後でゆっくり料理してやる」
「ぐうっ!」
 傷の痛みに膝を折る鴨継の背後から、十数人の衛士が駆け寄る。
「鴨継殿!後は私共に任せて、ここはお引きなされよ」
 二人の衛士に抱えられるようにして、鴨継が出ていくと、残った衛士は智泉を取り囲む。
「さてさて、無粋な奴らよ」
「化け物が!何をほざく!」
 逆上した衛士の一人が、矢を弓につがえる。
「馬鹿者!弓は使うな!御后様に当たったらなんとするか!」
 首領格の衛士が叱りつけ、太刀を抜く。それに合わせるように他の衛士も太刀を抜き放つ。
「仕方のない……后よ、しばらくここで待っていてくれぬか?」
「はい、智泉様」
 このような状況にも関わらず、后は笑顔で頷く。

「ぐはぁ!」
 智泉の身体が弾丸のように跳ね、取り囲んだ衛士の一人の喉をつかんでそのまま、表向きの方に走る。
「な!?追え!追えぇ!」
 それを追いかけて、再び衛士が取り囲む。
「后の几帳の中を血で汚すわけにもいかぬでな。まったく、几帳の中で太刀を抜くとは、貴様らは何を考えておる」
 衛士を嘲笑うように、わざとあきれた口調で言う智泉に、衛士はますます逆上する。
「おのれ!斬れ!叩き斬れ!」
 しかし、智泉の腕が一閃すると、瞬く間に数人の衛士が血を吹いて倒れる。
 智泉は舞を舞うように跳ね、その度に血しぶきが上がる。
 
 鬼となった智泉の前に、人の力はあまりに無力であった。
 その日、内裏で繰り広げられた惨劇により、御所詰めの衛士のうち、少なからぬ者が死に、残りも重傷を負った。衛士以外では、鬼に立ち向かう勇気のあった殿上人も同様の運命を辿った。
 帝をはじめ、重臣達は、御所から逃げ出すのがやっとであり、程なくして、御所の内にいるのは、智泉と后のみになったのであった。

「さて、戻ったぞ、后よ」
 智泉が、井戸の水で返り血を洗い流し、后の元に戻ってくると、后は満面の笑みで出迎える。
「お帰りなさいませ、智泉様」
「うむ、これでそなたと我が睦み合うのを邪魔する者はおるまい」
「ああ、嬉しゅうございます」
 后は、縋り付くようにして智泉に抱き付く。
「ああ……んん!」
 そのまま、后の方から舌を絡めてくる。
「……のう、后よ、これが欲しくはないか?」
 そう言うと、智泉は、己の股間から黒光りしてぬめる肉棒を出し、后に見せる。
「ああ……智泉様のそれが……欲しゅうございます」
 后は、智泉の肉棒を押し頂くと、愛おしそうに頬ずりする。それだけで、后の身体は上気し、湯気が立ち上ってくる。
「いいだろう、では股を開くがよい」
「はい、智泉様……」
 もはや、貴人としての気品は微塵も感じられず、后は潤んだ瞳で智泉を見つめ、嬉々として己の股を押し開く。
「では、いくぞ、后!」
 智泉は、后の腰を抱え上げるようにして抱き寄せると。黒く光る肉棒を突き挿す。
「はああぁ!……ち、智泉様ぁ……」
 后は、上半身を仰け反らせてそれを受けとめる。
「あああ!愛おしゅうございます、智泉様ぁ!」
 鬼の、人間離れした太さと長さの肉棒を挿れられながら、后は苦しむ素振りもない。
「后よ……我もそなたが愛おしいぞ!」
「はいぃ!嬉しゅうございます……はぁっ!」
 后の玉の肌は薄桃色に染まり、汗の粒が浮かぶ。
「はあぁ!……ああん!……ん……んんん!……はぁはぁ……はあんっ!」
 智泉が顔を近づけると、后の方から智泉の口に吸い付き、再び口を離して大きく喘ぐ。その唇が濡れて妖しく光る。
「あああ……ち、智泉……さ…まぁ……あ゛あ゛あ゛!はぁ!……はうっ!」
 やがて、后の動きが跳ね踊るように激しくなっていき、
「あ゛あ゛!がぁっ!がっ!……ぐふっ!ぐううぅ!」
 后の発する言葉が、次第に意味を持たなくなり、次第に苦しげな呻き声になる。
 智泉は、もはや何も言わず、黙々と腰を突き上げる。そして……、
「う゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁッ!」
 智泉の精を受けると、后は白目をむいて叫び、身体を硬直させる。
 そして、后はそのまま意識を失った。

(しばらくの間、姫様は目をお覚ましになるまい……)
 そう考えながら、智泉は気を失った后を見下ろす。
 鬼と交わるということは、鬼の持つ瘴気をその身に受ける、ということ。
 いくら淫らな身体にしたとて、生身の人間がそうそう耐えられるものではない。
(それにしても、あさましいものだな、私は。このようにして姫様を手に入れるとは)
 鬼にまでなって、このようなことをした己を嘲笑う。それだけの理性は残っていた。
(このようなことをしておきながら……いや、だからこそか)
 姫様、と呼ばず、后、と呼ぶのも、自分を智泉として認識させたのも、全ては、自分が朝行であることを知られるのを怖れてのこと。
(欺瞞だな……自分が朝行であると知られるのが怖いのではない。朝行が鬼にまで身を堕としたことを知られるのが怖いのだ)
 后の中では、朝行は美しい想い出でなければならない。この鬼の姿の自分が、朝行であることを悟られてはならない。
(フ……このような姿になっておきながら……心に鬼と書いて愧じるというが……そんなにこの鬼の姿が愧ずかしいのか……)
 心なしか、爛々と輝いていた智泉の目の光りが弱まった様に思えた。
「ぐっ!」
 突然、智泉はよろめいて膝を突く。
(くっ……力を使いすぎたか……。姫様は当分目を覚ますまい、この間に精気を補わねば……)
 智泉は身を翻すと、夕闇に紛れて京の町へと向かった。



 ――洛中の西の外れ近く、一条と二条の中ほど。
(ん?ここは……?)
 智泉は、一軒の屋敷の前で足を止めた。
 都の中でもこの西の辺りは、早くから寂れ、所々空き地や草叢も目に付く。
 その寂れた中に、門前に、煌々と灯りを点した屋敷が一軒。しかし、中に人の気配がほとんど感じられない。
 だが、智泉は何かの波長のようなものを感じ、中に入る。
(……この屋敷は……使用人がいないのか?……ん、あれは?)
 人気のない屋敷の中を歩いていた智泉は、前方に、灯りの漏れる部屋があることに気付いた。
 智泉は部屋の前に忍び寄り、襖の隙間から中を窺う。
 中では、姉妹と思われる二人の少女が、薬研を使ってなにやら薬を調合している風であった。
 二人とも、白の小袖に打袴(うちばかま)という、巫女の装束に近い姿。ただ、巫女の緋袴ではなく、白の打袴を穿き、代わりに赤い単衣を上から羽織っている。
 おそらく妹であろう、少し幼さの残る丸顔の少女が容器を押さえ、姉であろうか、やや面長の少女が車軸を押している。
「あふ……」
「あら、欠伸なんかして。気が緩んでいますよ、順子(のぶこ)」
「しかし、姉上、お昼のお稽古が大変で……」
「情けない事を言うものではありません。いいですか、順子。我が当麻家は、今でこそ医師(くすし)として陛下にお仕えしていますが、古来より、武をもって代々の帝に仕えてきた家です。父上には男子がいない以上、女の身ながら私達が父上を支えなければならないのです」
「それは私も承知しています、姉上」
「先日も、父上が、内裏で狼藉を働いた悪僧を取り押さえて、陛下から太刀を賜ったそうです。それを誇りとして励まねばなりませんよ」
(そうか!ここは当麻鴨継の屋敷か!しかし、侍医の屋敷ならば、使用人なり、弟子なりいても良いものを?)
「……それにしても姉上、お弟子の皆様はいずこに?」
「私も詳しいことは知りませんが、手の空いている医師は皆集まるべし、とのことです。なんでも御所の方で大変なことがあって、怪我人が多く出ているとか」
「それでは、私達も行った方が良いのでありませぬか?」
「しかし、父上が、断じて御所の方に行ってはならぬ、と。それに父上もお怪我をなさってますし」
「……父上のあの傷、まるで獣か何かに引っ掻かれたような……それに、あの傷で、手当だけして少し休んだらまた御所に向かう、と」
「それだけ事態が深刻なのでしょう。……さて、忙しくてすっかり遅くなってしまいましたが、今日は他に人もいないので、私が夕餉の支度をしてきましょう。父上にも、出立の前に湯漬けなりとも食べていただかないと」
(成る程、昼の立ち回りのために、この家の者は皆出払っているのだな。今いるのは娘二人と鴨継だけか)
 智泉は身を隠し、部屋を出ていく姉をやりすごす。

(これで、今、部屋の中には妹だけだな……)
 智泉は、今は娘一人になった部屋に入る。
「あら、どうされたのですか、姉う……ひっ!」
 調合した薬を収め、薬研を片付けていた娘が、姉が戻ってきたと勘違いして智泉の方を見る。
 娘に悲鳴を上げる暇も与えず、智泉の目が輝きを増す。
「ひ……あ、ああ……」
 短く、声にならない悲鳴を上げ、娘の瞳から忽ち光が消え失せる。
「おまえの名は?」
「の…ぶ…こ……、当麻順子……」
 智泉の問いかけに、娘は、焦点の合っていない虚ろな目のまま、抑揚のない声で答える。
「よし、順子。では、おまえの姉の名は?」
「と…も…こ、当麻朝子です……」
「今、この屋敷にいるのはおまえ達と父親だけか?」
「は…い」
「他に使用人はいないのか?」
「家の……事は……私…たちと……父…上のお弟子……さんが…して……います…から」
「で、その父親の弟子は皆出払っているんだな?」
「は…い」
「おまえ達の父親…鴨継は今どこにいる?」
「傷の…手当を…して……奥の部屋で……休んで…います」
「そうか」
 短く頷くと、智泉の瞳の輝き具合が微妙に変わってくる。
「あ!あああ!」
 順子の瞳が、虚ろなまま大きく見開かれ、身体が小刻みに震えてくる。
 これは、后に使ったのと同じもの。いや、それよりも強力だろう、たとえ生娘であろうとも、遊女のように淫らにしてしまう程に。
「う!あひ……あああ!」
 身体を震わせ、口からは涎を垂らしながら、順子の目の焦点が徐々に合っていき、
「あ……」
 そこには、少女というには、あまりに淫らに欲情しきった目で、智泉を見つめる一人の女が立っていた。
「順子……、俺の名は智泉だ」
「ああ……智泉様……」
「これからおまえは我の物になる」
「智泉様の……物に……嬉しゅうございます……」
(私の物、と言ってもそれはつまり、糧になるということだがな……)
「さあ、順子、服を脱いでこっちへ来い」
「はい、智泉様」
 順子は、うっとりとした表情で装束を脱ぎ、ゆっくりと智泉に歩み寄る。
 智泉の眼光を受けただけで、とろりとした液が太股に垂れるほど濡れている。
「あ、んふう……」
 まだ完全に育ちきっていない胸を、軽く握っただけで順子は甘い喘ぎを上げ、股間の割れ目から液体が溢れ出す。
(こいつは糧だ……。愉しむのが目的ではない……)
 端から、そう割り切りっている智泉は、胡座をかくような格好になり、その上に順子を乗せて肉棒を挿し込む。
「んん!あっ!はあぁ!」
 さすがに、三十を過ぎ、子供を産んでいる后とは違って、いまだ成長途上の順子は苦しげな声をあげる。
「ああん!はああぁ!ああ!智泉様ぁ!」
 しかし、すぐにその喘ぎ声は快感に蕩けた甘いものに変わる。
「はぁ!はぁ!ううん!」
 胡座をかく智泉に抱きかかえられながら、自分から腰を振って乱れる順子。
「はううん!あ!……ち、智泉様ぁ!」
(ん?これは?)
 順子の動きに合わせて腰を突き上げながら、智泉は、順子が自分の瘴気を受けとめているのに気付く。
 それほど強いものではないが、今の順子には、確かに霊力が感じられる。
(当麻家といえば、遥か昔から帝に仕え続ける家。……そういえば、当麻家の出自は、大和の葛城の近くだと聞いたことがある。成る程、祖先から霊力を受け継いでいるのか……。これは存外楽しめそうだ)
 この屋敷の前で感じたかすかな波長は、これだったかと、智泉は合点がいく。
「はぁ!ち、智泉様!もっと!もっと!」
 これほど激しく犯されながら、順子は、呂律が回らなくなることもなく、ますます智泉を求めてくる。
「ああ!智泉様のお恵みを順子に!……はあああああぁっ!」
 そのまま、智泉の精を受けて、順子は身体を仰け反らせる。
「あああぁぁぁ……はぁはぁ……ち、智泉様ぁ……ん……んん……」
 あれ程の瘴気をその身に受けたというのに、順子は気を失うこともなく、智泉の肉棒にしゃぶりついてくる。
(これは、なんという……この娘の精気を吸えば、相当に力が補えよう。……ん!?)
 その時、智泉は、部屋に人が近づいてくる気配を感じた。

「さあ、夕餉の支度が出来ましたよ、順子。父上を呼んで……!順子!」
 部屋の中に、裸で倒れている妹を見て、朝子が駆け寄る。
「何があったのです!順子!順子!」
 とりあえず、落ちていた赤い単衣だけを上から羽織らせ、朝子は妹を抱きかかえる。
「ん……。あ!姉上!姉上!」
 目を開けた順子が、何かに怯えたように朝子に縋り付く。
「もう大丈夫です。どうしたのです?順子!……順子?」
 朝子は、順子が、縋り付くというよりも、強い力で押さえ込んでくることに当惑する。
「ああ!姉上!」
「何をするの!止しなさい!順子!」
 順子は、朝子の両腕ごと、締め付けるように強く抱きしめ、朝子は、体の自由を失い混乱する。
「……良くやった、順子」
 背後から声がして、朝子が振り向くと、その目に、強く輝く二つの光が飛び込んできた。


「あああぁ!ち、智泉様ぁ!」
 智泉が突き上げる度、朝子は、順子よりも大分大きな胸を揺らして喘ぐ。
(やはり、こいつも霊力を持っているか……)
 腰を突き上げながら、智泉は朝子にも弱い霊力を感じていた。
「ぴちゃ……ああ……智泉様ぁ……姉上ぇ……」
 傍らでは、順子が、智泉と朝子の口を代わる代わる吸い、身体を舐め回す。
「ち、智泉様……お慕いしております!智泉様ぁ!はああうん!」
 朝子の腰を振る動きが激しくなっていき、
「いくぞ、朝子」
「はひ!お、お願いします!智泉様ぁ!……あ゛あ゛!はああああああぁぁ……!」
 智泉が精を放つのは、朝子と順子、合わせて何度目であろうか。
「あああ……智泉様ぁ……」
 そのまま、智泉に身体を預ける朝子。その時、

(……来たか)
 智泉が入り口の方に目を遣ると、襖を開けて、当麻鴨継が部屋に入ってくる。
「しまった!うっかり寝てしまったらこのような時間になって……!な!」
「おお、鴨継か。挨拶が遅れてしまったな。邪魔をしているぞ」
「貴様!智泉!」
「動くな!」
 智泉の目が輝き、腰の太刀に手をかけようとした鴨継の動きが止まる。
「な!ぐっ!……と、朝子!順子!……こ、これは!」
 体を動かそうともがいていた鴨継の視線が、裸で智泉にしなだれかかる自分の娘を捉える。
「うむ、おまえの娘にしては、なかなか良い女ではないか、鴨継」
「お、おのれ!外道が!」
「まあ、そう言うな。こいつらも望んでいることだ。な、そうであろう?」
 そう言って、右手で順子の顎を持ち上げ、左手で朝子を抱く智泉。
「はいぃ、智泉様ぁ……」
「ああ……智泉様……」
二人の娘は、熱っぽい目で智泉を見つめ、身体を摺り寄せる。
「と、朝子!順子ぉ!……おのれ!おおかた貴様がたぶらかしたのであろうが!」
「それは、そうだが……この二人には我の役に立って貰わねばならぬのでな」
「な!?どういうことだ?」
「こういうことだ……来い、順子」
「はい、智泉様ぁ」
 智泉は自分の膝に乗ったままだった朝子を脇に寄せ、そこに順子を座らせる。
「さあ、順子、おまえのやりたいことを父親に見せつけてやれ」
「はい、智泉様……くっ!はああぁっ!」
 顔を蕩けさせたまま、順子は、自分から智泉の肉棒を己の裂け目に挿し込む。
「は!はぁっ!ああん!智泉様!」
 そのまま、順子は激しく腰を振り出す。
「の、順子!……智泉!貴様ぁ!」
 しかし、その声は娘には届かない。
「はう!ふうんっ!はっ!はあうん!ち、智泉様ぁ!」
「さあ、順子、おまえを完全に我の物にしてやる。……我の糧となるが良い!」
「はぁ!ああ!ち、智泉様の糧に……順子は嬉しゅうございます……」
 糧になる……その意味を理解しているのかいないのか、順子は、蕩けた目のまま微笑む。
「ああん!ん!……んん!んむむ!」
 腰を突き上げながら、智泉は順子の口を吸い、接合部と口から精気を吸い上げる。
「んんんーっ!う゛う゛う゛!んん!むう゛う゛う゛!」
 相変わらず、腰だけは激しく動かす順子の、薄紅色に火照ったからだが徐々に蒼ざめていき、瞳からは光が失せていく。
「う゛う゛う゛!んん……ん!……ん……ぅぅ……ぅ……」
 智泉に口を吸われたまま呻く声が小さくなっていき、腰の動きが緩くなっていく
 ――ドサッ。
 完全に動きの止まった順子を離すと、順子は力無く床に崩れ落ちる。
 その身体は血の気が失せて、真っ白になり、すでに息をしていなかった……。

「ああ、智泉様の糧になったのね、順子……羨ましい」
 悲しむ素振りもなく、妹の亡骸を見る朝子。むしろ、その瞳は欲情して潤んでいる。
「の、順子っ!順子ぉーっ!……許さん!許さんぞ!智泉!」
「おまえの声もそろそろ聞き飽きたな、鴨継。……朝子」
「はい?智泉様?」
「あそこに立っているのは誰だ?」
「……私の……父上ですが」
「違うな」
 そう言うと、智泉は瞳を輝かせて朝子を見つめる。
「あそこにいるのは、俺を殺しに来た賊だ」
「智泉様を……殺しに……」
「何を言うか!賊は貴様であろうが!この鬼道に堕ちた破戒僧めが!」
「見ろ、あの猛々しい様を。放っておくと、あの賊は俺を殺してしまうぞ」
「……そのようなこと、私が許しません!」
「なら、おまえの手であの賊を殺せ」
「……かしこまりました」
 そのまま、スッと朝子は立ち上がり、鴨継の方を見る。
 その瞳は昏く沈み、憎悪に満ちていた。
「と、朝子……一体何をした!?智泉!」
 動けない鴨継の前に、朝子はゆっくりと歩み寄り、
「智泉様を狙うとは、この許し難い賊めが……」
 朝子は、鴨継が腰に佩いた太刀を引き抜く。そして、その切っ先を鴨継の肋の下に向け、
「な、なにをするのだ、朝子!よ、よせ!……がっ!」
 身体ごと押し込むように、朝子は、太刀を鴨継に突き刺す。そのまま、心臓を抉る様に、下から太刀を捻り上げる。
「と……も……こ……がはっ!」
 その瞬間、鴨継は、朝子の肩をつかむ。が、そのまま身体の力を失い、仰向けに倒れる。
「……ち……ち…う…え?」
 一瞬、朝子の瞳に正気の光が戻る。
 その瞳に映ったのは……血を吹いて倒れている父親と……振り向けば、真っ白になって横たわったまま動かない妹……。
 そして、自分の手元を見れば、血の滴る太刀……。
「い、いやああああああぁっ!」
 太刀を放り出して絶叫する朝子。その瞳は、すでに焦点が合っていない。
(壊れたか……。せめてもの情けだ、快楽の中で家族の下に送ってやる)
「朝子!」
 そう叫ぶと、力を込めて眼光を放つ。順子の精気を吸い、すでに、力は大分回復している。
「あああああぁ!あ!……ああ…あ…」
 焦点が合わないまま、朝子の瞳から光が失われ、叫び声が弱くなっていく。
「さあ、来い、朝子」
 朝子は、フラフラと智泉の下に歩み寄り。
「はぁ!はああぁ!」
 智泉を押し倒すようにして、その上に馬乗りになると、身体を沈めて、智泉の肉棒を己の中に受け入れる。
「んんんー!はああぁ!あうん!はう!」
 そのまま、腰を激しく動かして喘ぐ朝子。
「はううっ!はぁっ!はぁっ!ふううっ!はぁああっ!」
 もう、その言葉は意味を成さず、獣の咆哮のような甲声をあげて腰を振り続ける。
「はがあぁ!はぁ!はううっ!がっ!はああぁ!」
 もはや、よがり狂いながら腰を振るだけの人形のように、身体を悶えさせる朝子。
 最初から焦点を失ったままの瞳には、すでに何も映っておらず、瞳孔は完全に開いて、小刻みに震えている。
「あ゛あ゛!う゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!がはあぁ!」
 腰を振る、朝子の動きが激しくなり、叫ぶような嬌声が一段と大きくなる。
「さあ、来るのだ、朝子」
「あ゛!あ゛あ゛!……ん!んむむむ!んんー!」
 智泉が目を光らせると、朝子は、上半身を倒して智泉の口を吸う。
「んんん!う゛う゛う゛っ!う゛う゛っ!んんん!」
 智泉の口を吸いながらも、腰だけは動かし続ける朝子。
 順子の時と同様に、その身体から、次第に血の気が失せていく。
「んんんん!ん……んん…う゛……ううぅ……ぅぅぅ……ぅ……」
 智泉の口を吸いながら、呻く声が小さくなる。
 緩やかながらも、動かし続けていた腰が止まり、瞳は完全に虚ろになる。
 その目から、涙が一粒落ちたと見えたのは、気のせいであったろうか……。



 侍医・当麻鴨継の屋敷で、刺し殺された鴨継の遺体と、蝋人形のように真っ白になって息絶えた、二人の娘の全裸死体が発見されたのは、翌日の朝のことであった。

 
 


 

 

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