TEST


 

 

**********BLACK X’mas  Before PartyVol.1**********




Hほとんどないです
そのわりに長いです
すみません











【にゃんにゃんハウス 表店 店内】



「・・・私は、祐実チーフのためだけに行動します。私の精神を蝕んで、私の大切な祐実チーフを襲わせた憎むべき陣内瑠璃子を刺し違えてでも連行します。瑠璃子が私を再び取り込もうとしたら、祐実チーフから頂いたショック弾のスイッチを躊躇することなく押します。私は、祐実チーフのためだけに行動します。祐実チーフの命令は絶対・・・」
 深田茶羅は明智祐実から刷り込まれた暗示を何度も無表情のまま繰り返し口にした。
 近くにあったベルトパーテーションのスタンドポールに手を伸ばす。
 客待ちを行列立てて誘導するステンレス製ポールを、まるで傘でもさすかのように茶羅は片手でひょいと振り上げ肩に乗せる。
 茶羅はゆっくりと、ゆっくりと、そしてあくまで静かに、瑠璃子と静香の死角である背後からにじり寄った。

 琥南の精神をコピーされ、琥南と化した静香は全神経を瑠璃子の篭絡に費やしていた。
 周囲の人間は瑠璃子の言葉に絡め捕られた傀儡と化している。
 傀儡と化した店員と客達はまるで蝋人形のように瑠璃子の命令がない限りは動かない。
瑠璃子の篭絡が目の前に迫る今、すでに静香を邪魔する者などいるはずがない。
 瑠璃子の後ろから抱きつきように寄り添って耳元で囁く静香が、瑠璃子の篭絡に集中するあまり茶羅の接近に気づかなかったのは油断に違いなかった。
「ウフ、もう強情はっちゃダメよ、瑠璃子。これからは大好きなおにいちゃんのため、おにいちゃんの使いである私のため、言うことを聞く素直なイイ子にならなきゃダメよ」
 静香は瑠璃子を諭すように囁く。

「ふ、ふぁい・・・・ボク・・は・・言うとおりにするの・・し・・ます。素直ないいコになるよォ」
 まるで今までの不遜な態度がウソのように瑠璃子は目の焦点が定まらない酔ったような弛緩しきったニヤけた表情でうなずいた。
 皮肉たっぷりに人をからかうような態度はすでに微塵もない。だらしなく口元から涎が糸を引いて垂れている。

「フフフ、私の靴の裏舐めてくれる?キレイにしてくれるかな、あなたの舌で」
「靴の裏?うん、なめるよ。瑠璃子がキレイにする」
 呆けた表情のまま瑠璃子は抵抗することなく従う意思を示す。
「あなたは人の靴の底を舐めるのが、スキ・・よね。以前から」
 静香は瑠璃子が口にするであろう言葉を期待してイヤらしいい笑みを浮かべる。
「うん、ボクは前から・・・・人の靴のウラを舐めるの大好き・・」
 静香の言葉に何の疑問も持たずに瑠璃子は復唱した。
(フフフフ、堕ちたわね。陣内瑠璃子)
 瑠璃子が静香の靴裏を舐めるために上体を起こそうとするのを静香が止める。

 瑠璃子のの素直な態度に静香は満足して再び瑠璃子の耳元に口を寄せる。
「瑠璃子の中に入った蟲は、おにいちゃんが瑠璃子が寂しい思いをしないためにプレゼントしてくれた蟲よ。あなたをいつも幸せな気持ちにしてくれる。どう?うれしい?」
 妖しく微笑みながら静香は瑠璃子の胸を制服の上から揉む。
 ブラジャーのレース柄が制服のブラウスの上に浮かび上がる。

「うふぅん、うれし〜いよォ。気持ちよくって、全身とろけちゃうぅ。おま○こジンジン感じちゃうの、みんな、みんな、おにいちゃんのおかげ・・・・」
 そう言って瑠璃子は呆けた表情で微笑む。

「おにいちゃんの言うことをよく聞いて、おにいちゃんを喜ばせるようなことをすれば、蟲はあなたに快感を与えてくれる、こんなふうに・・」
 静香が瑠璃子のおま○こに指をあてる。
 下腹部の内側に這うような舐めるような擦るような快感が襲い始めた。

「きゃんっ!蟲いい、あぁぁぁ、蟲いい。蟲きもちいいよぉーっ、いっちゃあうう、また、いっちゃうよぉ、おにいちゃん、おにいちゃんーっ」
 瑠璃子はフロアに倒れ、快感に体を激しくビクビクと痙攣させる。

「そうよ、あなたの大好きなおにいちゃんは琥南、琥南があなたの大事なおにいちゃんよ。忘れちゃダメよ、絶対!忘れちゃダメ!」
 静香の語気が荒くなる。

「あーっ、忘れないっ!忘れないよォーっ、蟲もっと、もっと!もっと蟲で弄って!おま○こかき回して!もっと、もっ、もっと気持ちよくしてぇーっ!!!!!」
 瑠璃子は請うように両手を一杯に広げて静香を招きいれようとする。

「反抗しちゃダメよ。琥南を裏切るなんてもってのほか、あなたの中の艶蟲はそれを許さない。あなたが少しでも変なことを考えれば蟲があなたの意思を支配する、いいわねっ!」
 強い口調で静香が瑠璃子に囁いた。

「うん、うん!うん、、わかったから、わかったからっーっ!なんでも言われた通りにするよぉ。だから、だから、琥南おにぃちゃん!もっと!もっと!もっとぉーっ!」

 瑠璃子の狂声があたりに響く。
 その瑠璃子の声に傀儡として絡めとられた店内の客達が喜悦の表情を浮かべて悶えていた。
「ククク、店内のヤツラも反応してヨガリ狂ってやがる。コイツらもオマケでオレの捨て駒にするか、さながら戦闘員ってトコだな」
 静香は翳りのある不敵な笑みを浮かべる。

「おっぱい感じちゃうよぉーっ、おっぱいがぁぁぁーっ。おま○んこも、おま○んこも痺れちゃってるのォーっ!」
 ビクン、ビクンと電気ショックでも浴びたかのように瑠璃子は全身を震わせる。
 瑠璃子は鼻の頭に汗を滲ませる。
 店内の傀儡化した客達もその瑠璃子の声に操られ、快感にのた打ち回っていた。
 それを見て静香に得意げな笑みが浮かぶ。

「フフフ、コピー体とはいえ、オレの傀儡である木偶人形の静香に堕とされてヨガる気分はどうだ?瑠璃子よぉっ!ケケケ」
 静香を通じてもたらされる琥南の言葉も瑠璃子には耳に入らない。
「もうヌルヌルだよぉーっ、あそこがトロけてびしょびしょォーっ、触ってぇ、弄ってぇ、感じさせてよぉぅーっ、気持ちよくなりたいよ〜ぅっ!」
 瑠璃子はまるでもがくようにカラダを七転八倒して快感を自ら貪った。
 蟲の与える快感がすでに瑠璃子の常人の意思を突き崩して、快楽を貪欲に求める若い牝に変えてしまっていた。


「ケッケケケ、瑠璃子、これでオメエもオレ様のもんだ。おまえのおま○こはオレ様のためにあるんだぞ」
 静香は琥南の喋り言葉で下卑た笑いを漏らした。

「うん!うん!!!ボクのおま○んこは、おにいちゃんを悦ばせるためにあるの。おにいちゃんが悦んでくれるなら、どんなことにだって・・・」
 満足げな表情を浮かべて静かは新たな暗示を刷り込むために瑠璃子の耳元に口を寄せる。
「フフフ、瑠璃子。琥南兄ぃからの最初のお願いを伝える」


「言って、何でも言ってヨォ。ボク、お兄ちゃんのお願いならどんなコトだってかなえちゃうんだからぁーっ」
「お前の持てる全ての力を使って一人の人間を下僕にするんだ」
 静香の口元は意味ありげな邪気に満ちた笑みを浮かべる。
「やる。やるよ、ボクの手にかかればどんな人間だって、お兄ちゃんの奴隷さ・・あん、いい、いい、そこ、もっとぉ」
 静香にお○んこを繰り返し刺激されて瑠璃子が全身をくねらせて身悶える。
「そいつの名をしっかりと頭に刻み込むんだ。そいつの名はナイトホー・・・・ぐぁっ!」
 瑠璃子が言葉を聞き終わらぬうちに、重い鈍器から来る強烈な衝撃が一瞬にして静香の頭部を襲った。

「ぐぅ・・うぅっ・・・!だ、誰だ」
 静香がその衝撃と猛烈な痛みに襲われひざまづく。
 屈んだ視界のそのすぐ横に制服のチェック柄のスカートにスラッと伸びた足、白いソックスとローファーがあった。

「・・・・た憎むべき陣内瑠璃子を刺し違えてでも連行します。瑠璃子が私を再び取り込もうとしたら・・・・」
 祐実から与えられた命令を何度も口にしながら深田茶羅は再びポールを振り上げて重い土台部分を瑠璃子目がけて振り下ろそうとしていた。
「お、お前・・・あのサツのスパイ女(4th−day Vol.3)か。(ちくしょう!せっかくこの難物をここまで堕としたのに邪魔されてたまるか!)」
 静香は精一杯の力で瑠璃子を庇うように茶羅に飛びつく。
 振り下ろされたポールは再び静香を襲った。

「ぎゃっん!」
 短い静香の悲鳴、額から細く鮮血が頬を伝い始めた。
 目の前が一瞬暗くなったかと思うと視界は大きく歪んで鮮血で紅く染まった。

「・・・躊躇することなく押します。私は、祐実チーフのためだけに行動します。祐実チーフの命令は絶・・・・」
 茶羅は再びポールをフロアに横たわってよがり狂う瑠璃子の頭部目がけて振り下ろそうとしていた。
 その表情はまるで人形のように無表情だ。

「くっ、誰かに狂わされてやがる。すっかり人形に成り下がりやがって。ざけんな!てめぇーっ!今大事なトコなのにーっ!」
 静香が再び茶羅に飛びついた。
 2人ともその場に倒れこむ。

 静香が容赦なく拳を振り上げて組み敷いた茶羅に殴りかかる。
 殴られても茶羅は目を大きく見開いたまま静香を無表情で見つめている。
 痛み、苦痛そういったものは一切感じない傀儡と化した茶羅の脳裏にあるのは主である祐実の命令のみ。

(いいこと、茶羅。私の命令を邪魔するものはすべて敵よ。そいつらは瑠璃子の手に落ちた自我を失った人形たちのはず。気にすることはないから処分しなさい。私の命令、陣内瑠璃子の確保のためには邪魔者はすべて排除なさい)

 茶羅の脳裏にまるでプログラムのように祐実の言葉が浮き出してくる。

「祐実チーフの命令は陣内瑠璃子の確保・・・・その命令を邪魔するものはすべて排除します・・・」
 茶羅の鼻先に迫った静香の拳を掴み取ると一気に握りつぶすように力を込める。

「い、痛い、痛い、痛い、痛い!」
 静香の表情が苦痛に歪む。
 操られた茶羅の握力は常人離れしていた。
「祐実チーフの命令は陣内瑠璃子の確保・・・・その命令を邪魔するものはすべて排除します・・・」

 茶羅の拳が静香の鳩尾を強打する。
「ぐぅ・がっ・・・・・チ・・クシ・・ョウ」
 苦痛は静香の意識を奪うには十分だった。
 静香は声もあげられずに腹を抱えるようにうずくまり、倒れこんで気絶した。

「・・・その命令を邪魔するものはすべて排除します・・・・・・私は、祐実チーフのためだけに行動します。私の精神を蝕んで、私の大切な祐実チーフを襲わせた憎むべき陣内瑠璃子を刺し違えてでも連行します。瑠璃子が私を・・・」

 茶羅は壊れた機械のように同じ言葉を繰り返しながら瑠璃子へと振り返る。
 その視線の先に抜け殻のように意思のない瑠璃子を見据える。
 茶羅の口からお決まりのような言葉が止む。

 そして初めて今までとは違った言葉が口をつく。
「陣内瑠璃子、お前をチーフの元へ連行します。立ちなさい、立たなければ強硬手段に・・・」
 茶羅の命令口調に瑠璃子は素直に立ち上がった。
「は・・い。立ち上がります」
 

 静香が瑠璃子に与えた服従暗示が不十分のまま定着せず茶羅の邪魔が入ったことで、瑠璃子は茶羅の言葉にも同様に隷属した。その茶羅の命令を復唱する瑠璃子の言葉に店内の人間たちまでが反応する。

「陣内瑠璃子、おとなしく私について来るのよ」
 自分の邪魔をしない限りは周囲を気にも留めない操り人形の茶羅は周囲の客達が一斉に立ち上がったことなど意に介さなかった。

 茶羅の命令を瑠璃子が復唱する。
「はい。おとなしくあなたについていきます」

 茶羅が瑠璃子の服従を確認した後、背を向け、店の出口へと歩き出す。
 瑠璃子も素直にそれに付き従った。
 瑠璃子の言葉に堕とされた店内の全員が瑠璃子の復唱を命令と受け取って全員が店外へと歩き出す。
 店内の客も店員も、気を失って倒れている静香以外の全員がゾンビの集団移動のようにのっそりと動き始めた。






【 新宿 会員制喫茶SEA-BOSE 】



「なんか、意外な展開。あのコはどうやら琥南のコピー体ではないようだよ」
 にゃんにゃんハウスを映すモニターを凝視してクラッカーが言った。

「サツよ。スワットのチーフの密命で瑠璃子を追って学院に潜入捜査していた新米駆け出しの婦警ちゃん。逆に瑠璃子に取り込まれた人形のはずなのに・・・」
 ママは予想外の展開に親指の爪を噛みながら忌々しげに画面を凝視する。
「どこから仕入れるんだよ、そんな情報」
 クラッカーが半ば呆れるようにつぶやいた。
「イヌよ、私が組織内に飼っているイヌ。あん、それよりもこの不測の事態、どうしたらいいの。考えがまとまんないじゃない!」
 ママのぼやきは止まらない。

「まったく仔猫だとかイヌだとか、ワケの分からないヤツラを潜りこませるもんだね」
 感心した素振りでクラッカーは画面に見入っている。
「あっらぁ?今回のTESTのお題目から考えたら、舞台になる組織にこっち側の裏方を潜り込ませないわけにいかないでしょ」
 ママは自慢げに言う。

「そんだけ余裕ぶっこくヒマあるんだったらこの事態もなんとか収拾してくれるんだろうね」
 クラッカーは人事のように言い捨てる。
「あん、そうよ、あんたが変な口出しするから進まないじゃない。ナイトホーク、ナイトホークはどこいったの」
 ママは連絡をとろうと慌てて携帯を開く。

「ママ、もうモニターに映ってるよ。あの女のすぐ後ろ・・」
「えっ?」
 ママは慌ててモニターに駆け寄った。

 すでにナイトホークの手が茶羅の肩に掴みかかろうかという距離まで近づいていた。




【にゃんにゃんハウス 表店 店内】



 ナイトホークの手が茶羅の肩を掴む。
 レジ前のその場所は、かろうじて店外からの視界がおよばないギリギリのところだった。
 茶羅は意志のない目でナイトホークを凝視すると抑揚のない声で言い放つ。
「は・な・せ。邪魔をするなら排除する」
 瑠璃子が相手の時とは違い、茶羅は胸の谷間にあるショック弾の起爆スイッチには手を触れなかった。すでに瑠璃子の回収から連行への段階までことが進んでいたために茶羅の使命遂行のためのとるべき選択肢から自爆は消え去っていたといっていい。


 茶羅の胸元のショック弾、どこか懐かしげな気持ちを隠しきれず、ナイトホークはまた、茶羅を哀れむような眼差しで見据えた。
「辛かったろう。今、楽にしてやる。悲しい記憶はすべて忘れるんだ・・・・Dispel」
 そう言ってナイトホークは人差し指で茶羅の眉間を強く突いた。
「は・・あぁ、あ・・」
 言葉を発する隙さえ与えずに瞬時に眉間を突かれた茶羅は一瞬大きく目を見開いて一瞬静止した後、涙を一筋頬に引いて糸の切れた人形のようにその場にがっくりと崩れ落ちた。
 倒れこんだ茶羅の表情は打って変わって柔和だった。
 瑠璃子たち自我を奪われ絡め捕られた者達のゾンビの行進は、先導者の停止とともに兵馬俑のように立ったまま動かぬ人形になった。

「こんな新卒の、まだ夢も希望もあるコに忌々しい薬を使いやがって」
 ナイトホークは茶羅から起爆スイッチをむしりとると、手馴れた手つきで破壊した。
「フン、小型化されているとはいえ、基本構造に進歩はまったくないな」
 茶羅の胸元のショック弾はナイトホークによって無力化された。

「すっごーい。先生、ゲームの魔法使いみたい!」
 脇で琥南が子どもっぽく無邪気に騒ぎ立てた。
「フ、おふざけだ。力の発現に呪文なんかいるもんか」
「なんだ、つまんないの。魔法使いみたいだったのに・・」
 琥南は子どもっぽい仕草でほっぺたを膨らませる。

「さあ、琥南。お前のいたずらの後片付けだ。そこに立ってる制服姿の女の子にかかったお前のコピー体の暗示を解け。それからあっちで倒れているコピー体もDispelだぞ」
 ナイトホークはポンと琥南の肩を叩く。
「うん!わかった。ボクも魔法使いだぞ。まっ!ほうのマンボ、パッパや」

 琥南は楽しそうにナイトホークの指示に従う。
 さっさと静香の呪縛を解いたあと、立ったまま動かない陣内瑠璃子のもとへトコトコと走っていく。

「陣内瑠璃子、意外にもろいな。そうやすやすと堕とされるとは・・まだガキ、か」
 ナイトホークは以前の学園であった瑠璃子を思い出しながら、今の堕とされて人形と化した瑠璃子に失望の念を隠せなかった。
 瑠璃子を琥南に任せてナイトホークは琥南のコピーに成り果てた静香の解放を始める。


「さぁって、おねえちゃん、先生のいうとおり今、僕が魔法をといてあげるからね。へへーっ、ボクも魔法使いみたいだ」
 あどけない琥南が瑠璃子の前に立ってその支配を解こうとしたときだった。瑠璃子の目に光が宿り、ピクリと表情に動きが戻る。

「ぎゃーっ!」
 琥南の悲鳴によそ見をしていたナイトホークが慌てて振り返る。
 視線の先には2〜3メートルは蹴り飛ばされて転がっていく琥南と、蹴り上げた足を戻し、パンパンと手を払う瑠璃子の姿があった。

「痛ったい、いたいよーぅ。僕はお姉ちゃんの魔法を解除してあげようとしたのにーっ」
 琥南は真っ赤になった右頬を押さえて泣きじゃくる。その頬は瑠璃子の足の形にくっきりと赤くなっていた。
「あんた、許さないからね!ボクにあれだけ恥ずかしいマネさせといて、『・・何が解除してあげよう』だ!」
 自らの意思を取り戻した瑠璃子の表情は怒りに溢れていた。

 足元に音を立てて滑り落ちた体液まみれの音叉を見て瑠璃子はさらに表情を引きつらせる。
「あーっ、ボクの音叉。琥南!蟲の正体がこれっ?酷い!ボクの大事な体の中、壊れたらどうすんだよ」
 音叉を拾い上げながら瑠璃子の腕までも怒りに震える。

「ぼ、僕じゃないよ。そこの女の人がやってたんじゃないか。お姉さんだってもっと、もっと、もっと・・って。音叉だって先の丸い方を挿れてたから怪我だってしてないはずだよ」
 琥南はべそをかきながら瑠璃子に怯えた。

「る、瑠璃子、お前いつからシラフに戻ってたんだ」
 歩み寄ったナイトホークがこれ以上の報復を瑠璃子がしないように琥南と彼女の間に割って入る。
「あっ、ナイトホークさん。これどういうこと、説明してくれる?」
「その前に教えてくれ、いつから自分を取り戻した?」

「たった今だよ。この馬鹿が絶対いつかは仕掛けてくると思ったから、もしもの時のためにこいつの顔をキーにして自分に呪縛がかかっていたらそれを強制解除できるように自分で自分に暗示をかけてた」
 さっきまでの呆けた表情がウソのように瑠璃子には強い憤りの表情が浮かんでいる。
「まったく、お前さんの力と洞察力には感服するよ」

「お世辞はやめてよ。まさかコピー体から支配されるとは思わなかった。ボクの落ち度に自分で腹が立つ」
 瑠璃子の鼻息は荒い。
「まだTEST中だろ。一人称『ボク』は、なりすましの課題で注意を受けているはずだ」
「フン!なにからなにまで、どこもかしこもテスト、テスト、テスト!ボクは他人に縛られたり試されるのが大っ嫌い!そしてコケにされるのも!」
 そう言って瑠璃子はナイトホークを押しのけて、その背後で泣き叫ぶ琥南にさらに掴みかかろうとする。

「よせ。このコはお前の知っている琥南とは違う」
 瑠璃子が一瞬顔をしかめるほど強い力でナイトホークは瑠璃子の肩をおさえた。
「どういうこと?」
「お前の知っている琥南は、ブリーダーとしては規格外として組織が持て余していた存在。このコの第2人格にあたるんだ。今は聞き分けのある主格のよい子の琥南なんだ。痛めつけないでやってくれ」

「でもこのコ、いまボクにかけられた呪縛を解こうとしていなかった?」
「私が第2人格の琥南を深層下に埋没させた。ただし組織はその能力を高く買っていたのでその能力部分だけ主格のよい子琥南に融合させた。処置は非常に時間がかかったがな」
 ナイトホークは表情も変えずに淡々と語った。

「あんただって凄いコトできるんじゃない。あんな原爆みたいなヤツさっさと抹殺すればよかったんだよ」
 瑠璃子は怒り心頭の様子で語気を荒げた。
「ひどい!ボクだって体の支配権をとられていいように使われていい気持ちじゃなかったけど、抹殺なんてひどいよ。わざわざ助けに来てあげたのに」
 琥南は真っ赤になった頬をなでながら言った。
「すべては組織の決定だ。私はそれに従うだけだ。第2人格を抹殺したわけではない、深々層まで埋もれさせただけ。第2人格があるからこそ、このコは能力を保持できる。組織の分析はそうだ」
 ナイトホークはべそをかく琥南を助け起こして赤くなった琥南の頬を撫でさすってやる。

「そんなこと言ったって、いつまた憎ったらしい琥南が出現するとも限らないじゃないか。第2人格なんか破壊してただのガキにしちゃえばいいんだ」
 瑠璃子は仕返しし足りない様子でナイトホークを睨む。

「心配には及ばない。もし第2人格が表層に出ても、すでに人を操る能力は主格にある。第2人格はただのマセたガキだ」
「いやだ。ボクをここまで辱めた琥南を絶対許すもんか。今潰す!」
 瑠璃子は琥南へとにじり寄る。
 琥南は瑠璃子の気概に押されて一歩退いた。
 だがその表情には余裕がある。
 自分を庇おうと近づくナイトホークを制して琥南は袖をあげて腕時計を引き出した。

「ひどいなぁ。だったら僕だって生きる権利があるのに」
 腕時計の文字盤を瑠璃子からみえるように自分の口元に左腕を寄せる。
「あるもんか、琥南には消えてもらったほうがボクのためになる。不安要素は躊躇わず消去」
「できるかな?瑠璃子おねえちゃん」
「できる。でき・・・・はぅっ!」
 琥南が腕時計の文字盤に照明を反射させて瑠璃子の目に当てた途端、瑠璃子の動きが止まった。
「瑠璃子おねえちゃん。やめてよ、お願い。琥南は瑠璃子おねえちゃんの大事なおにいちゃんなんでしょ?ウフフ」
「はぅっ・・・・」
 瑠璃子の表情に苦悶の色が浮かぶ。
 何かに対して必死に抵抗している表情だ。
「我慢しなくていいんだよ。瑠璃子は一人ぼっちじゃない。おにいちゃんにココロを開くんだ」
 琥南はそう言いながらもう一度瑠璃子の瞳に腕時計の反射光をあてる。
「ココロ・・・ひらく・・」
「僕は瑠璃子の味方だから」
 琥南が瑠璃子に優しく微笑む。
 その微笑に瑠璃子が敏感に反応した。
 苦悶に歪んだ表情が引きつり、目は鋭く睨みながら、やがて口元に笑みが浮かぶ。
 そうなるともう瑠璃子の目も潤み始め、最後にはとうとう切なげな吐息をもらすともの欲しそうな淫欲の表情に豹変する。
「あああああぁぁ、おにいちゃん。おにいちゃーん、私の、瑠璃子の、おにいちゃぁん」
 瑠璃子は琥南に駆け寄るとひざまづいて小柄な琥南を思い切り抱きしめる。

「おにいちゃん、おにいちゃん」
「ぐ、ぐ、ぐるし〜い。抱きつくな、きつくだぎじめるなぁ〜」
 瑠璃子のココロの渇きを表すような、きつい抱擁に今度は琥南が苦悶の表情を浮かべる。
「大したもんだな。第2人格の暗示を瑠璃子は解除しきれていなかったのか」
 ナイトホークはひとまず緊迫した状況を脱したと息をつく。
「こ、このお姉ちゃんはブラザーコンプレックスなんだよ、きっと。そこをくすぐれば崩すのはたやすいんだよ。殺されるのはごめんだからね、取り込む。イテテテテ」

「もう大丈夫なのか?」
 ナイトホークが2人を見下ろす位置まで近づくと声をかけた。
「うん。僕はこのおねえちゃん好きだモン。じゃなかったら第2人格から助けに駆けつけたりしないよ。仲良くやっていきたい。バカな第2人格に体を乗っ取られているときから見るだけしかできなかったけどずっとおねえちゃんを心配してた」

「信じていいんだね?お・に・い・ちゃ・ん」
 琥南の胸元で瑠璃子の声がする。
「えっ、えーっ?」
 琥南は絶句した。
 琥南の代わりにナイトホークが言葉をつなぐ。
「瑠璃子、お前がコピーに狙われ危険だということは、融合後の琥南が第2人格の記憶をトレースしてわかったことだ。しかもお前を助けたいとこのコは言った。だから私が来た、これだけは組織の意思を確認しないままな」
 ナイトホークはそれでも無表情のまま淡々と語るだけだった。
 確かにコピー体から襲われてあのままだったら瑠璃子は間違いなく堕とされて自我を持たない傀儡に成り果てていただろう。そこから脱する手立てはなかったと言ってよい。

「重ねて言うなら、組織すら琥南のコピー体の存在を把握できていなかった。あいつは組織からの束縛を嫌って本気で組織からぬけることを考えていたようだ」
 ナイトホークはさりげなく瑠璃子に組織の指示で救出しにきたのではないと言いたいのだろう。
 瑠璃子はすでに琥南への敵愾心を解いて琥南への抱擁をやめた。
「でもオリジナルである本体があんたに捕まって改造されてるんだから、どっちにしたってヤツの目論見はうまくはいかなかったんでしょ」
「結果論だ。コピー体が、しかも複数体、あの凶暴な性格のまま野に放たれていれば、オリジナルはいずれコピー体の手によって助け出され、再び復活するに違いなかった」
「ふ、複数体?」
 瑠璃子は驚きを隠せない。
「それもこの主格の琥南の記憶検索のおかげだ。今、組織がそのすべてを回収し琥南のキャラをもった女子校生はすべてその危険要素を消去した」
「でも、コピーがさらにコピーを作ってる危険は?」
「それはヤツの能力的にも無理なようだな」

 ナイトホークの言葉に瑠璃子は先ほどの会話を思い出していた。

 あの時、瑠璃子は焦りを悟られぬように大声で怒鳴った、『また性懲りもなく、私にもお前をコピーするつもり!』と。
 琥南はこう切り返した筈だった、『へへへへへ、知ってるだろ、コピーのコピーじゃ劣化が激しいんだよ。お前には、この南條静香じゃなく、オレ様自身の手でファーストコピーしてやるって決めてんだ』と。

「ちょ、ちょっと待ってよ。おねえちゃん、僕の催眠にかかってなかったの?かかったフリして抱きついてきたの?」
 琥南は信じられないといった表情で瑠璃子とナイトホークの2人を交互に見る。
「言ったでしょ、琥南。あなたの顔をキーにボクにかかる暗示の強制解除の自己暗示をかけてたって。だから琥南の顔を見るたびにどんな暗示だって解除だよ」
 瑠璃子は得意げに説明した。
「そ、そんな〜」
「でも琥南の本心はわかったから、とりあえず今は消さないでいてあげる」
 悔しがる琥南に瑠璃子は少し心を許した。


「さぁ行け。お前は今夜TESTの結果を出さなければならない」
 ナイトホークが瑠璃子の背中を押して店の外へ出て行くように促す。
「やる気ないんだけど、ボク。ツルむのだってスキじゃないし」
 床に投げ出された自分のショーツを拾い上げて瑠璃子は言い捨てた。

「組織をなめるな。おとなしく従っておくほうが身のためだ。慣れればブリーダーの身分も、組織も悪くない」
「あんたが以前にいた組織よりも?」
 瑠璃子のその言葉でナイトホークの顔色が変わった。

「貴様、どこまで知っている!」
 無表情のナイトホークの顔に怒りの表情が浮かんだ。
「ボクは1度見た顔は忘れない特技を持ってるんだ」
「お前に会った記憶など私にはない」
「病院でだよ。看護士さんだったよね、ボクの手当をしてくれたもの」
 瑠璃子はナイトホークがわずかに感情の波の起伏を表に出したことにいたずらっけを出した。

「ふざけるな。私はそんなところでお前なんぞに会ってはいない!正直に言え、さもないと貴様の意思に関わらず無理にでも言わせてやる」
「フフフ、やっぱりあなたも人間だ。ナイトホークさん、正直に言うよ。とある病院のパソコンであなたの顔を見たのさ」
 それ以上は言わない、と瑠璃子は口にチャックをしておどけて見せた。

「病院のパソコンだと・・・・・」
 ナイトホークの疑念が瑠璃子の言葉で晴れたわけではなかった。
 そのときだった、店の奥にある非常用階段から一気に人があふれ出し、店外へ向かった流れ始めた。
「な、な、な、どっから湧いて出たの、このひとたちーっ。うぅわぁーっ」
 人の波に押し流されるように瑠璃子はいやがおうにも店外へと流されていく。
 立ち尽くしたゾンビ集団化した表店の客や店員達は押し流されるもの倒れるものとちりじりになる。

 瑠璃子とナイトホークの間はあっという間に人の波に裂かれ、ナイトホークの視界から瑠璃子は消えていった。


「ふっ、裏店でも何かあったな。ドル箱のこの店を放棄して、今夜の本パーティーのカモフラージュに巻き込むとはな」
 琥南はあまりの人の流れにナイトホークのスーツの端にしがみついていた。
 ナイトホークはあたりを見渡して天井についていた監視カメラへと視線を投げる。
 ナイトホークの携帯が震えた。携帯をすぐさま耳にあてる。

「ナイトホーク、私よ!もういいわ。あのコを解放してくれただけで十分よ。あなたはすぐそこから離れて。そこにとどまってはいけない!店にあなたの素性を知る者がいる。遭遇の危険があるわ」
 電話の主は新宿の会員制喫茶SEA-BOSEにいるママからだった。

「瑠璃子のことか。彼女はなぜ私の過去を知っているような口ぶりをする。ママ、あんた話したのか」
 ナイトホークの怒りの矛先がママへと向けられる。その間にも人の波は幾重にもナイトホークの周りを店外へと流れている。

「違う、あのコじゃない!早く、琥南を連れてその場から離れなさい。そうじゃないとあなたは・・・も、もしもし!もしもしっ!」
 ママはこときれた携帯をゆっくりと耳元から離すと店内モニターの画面を凝視した。
 逃げ惑う裏店からの客達の波の中、ナイトホークのほかにその横で立ち止まる3つの人影がママの視界に映る。
 その中の1人がナイトホークの携帯を持つ手を掴んでいた。




【 新宿 会員制喫茶SEA-BOSE 】



「まったく。コレだから計画以外の行動は禁じてるのよ!それを許した私もアマちゃんだわ!」
 携帯をテーブルに放り投げてママは鼻で息をした。
「でもナイトホークが手を出さなければ、あの陣内瑠璃子の回復はなかったはずだよ」
 クラッカーが言うのももっともだった。

「会ったヤツが悪い。すぐ忠告を察しない愚鈍なオトコオンナも始末に悪い。私が拾ってやったの恩を忘れてすぐ勝手なことをする!」
 ママはモニター越しの展開に舌を鳴らして悔しがった。
「ナイトホークがオンナなのは知ってたけど、あれは何?お友達?」
 クラッカーがモニターに映るナイトホークを指差す。
 そこにはナイトホークの携帯を持った右手を掴む人の姿がはっきりと映し出されている。
「見りゃぁわかるでしょ。見ず知らずの人間が、パニック状態にあるあの場所で他人の腕を掴むと思う?」
 ママは不機嫌さを隠そうともしない。
「と、いうことはサ、ナイトホークってそのスジの人だったってわけ?へぇ〜っ」
 興味深々でクラッカーが聞き返す。
「知らないっ!知るもんですか!さぁ、そんな馬鹿放っといてそろそろ来客の準備に入るわよ。クラッカー一緒に来て!」
「へいへい、おもてなしの準備ね」
 クラッカーも未練気にモニターを最後まで見守りながら席を立ってママを追いかけた。
「事態の収拾に失敗するようならナイトホークもビギナークラスへ落とすか廃棄処分にしてやるわ!パーティーのあとでねっ」
 ママはヒステリックに叫び続ける。



【にゃんにゃんハウス 表店 店内】



「知り合いか?だったら一緒に早く出よう。こんなトコにいたらウチの身内に見つかっても、ヤツラに内偵だとバレてもどちらもヤバイ。現場から離れるに限るよ!」
 石原は半ば泣き叫ぶように奈津美に訴える。
 加藤も余裕のない表情で頷いている。
 裏店でのハプニングから主催者側が突如として決めた緊急閉店で客はあっという間に誘導される形で裏店の入場口ではなく非常用の表店へ続く非常用階段から逃げることになった。

 ナイトホークと、その腕を取る奈津美だけが周囲の時間から隔絶されたようにお互いを見据えて凍りついたように動かなかった。
「どうして、あなたがココにいる!」
 奈津美は周囲を気にも留めずにナイトホークを睨みつけた。
 ナイトホークは奈津美を見据え無表情のまま一言も発しなかった。

「おい、立ち止まったままは危険だ。将棋倒しになりかねない勢いだ。出よう、とりあえず出ないと」
 加藤が声高に叫ぶ。
 確かに奈津美たちが逃げ惑う人の波の流れを二分するように邪魔している。
 だが奈津美は気にも留めない。

「あなたがココにいる理由を教えて」
 奈津美は威圧感のある声で尋問する。
「・・・・・・・答える必要はない。お前は誰だ」
 表情を変えずにナイトホークはやっと一言切り出した。


 奈津美たちにも何度となく人がぶつかっては脇目も降らずに店外へ出ようと走り去っていく。
 瑠璃子に操られた人形達は命令のないまま立ち尽くし、さらに逃げる客達の動きを遮った。
 倒され、踏みつけられ、いたるところで怪我をするものが出て悲鳴が上がり、さらにパニックに拍車をかける。

 ネコ耳をつけた上半身裸のホットパンツ姿の女たちが店に溢れ始めた。
「にゃん!」
「にゃ、にゃん!」
「な〜お、にゃふ〜ん」
 口々にネコの鳴き声を真似する彼女たちは当たり構わずじゃれあっている。

 中には怒りをあらわにだれかれ構わず引掻いているネコ女もいた。


 人の波に押され店外へとはじき出されたネコ女たちは、今度は周囲に集まった野次馬に抱きついて無理やり男達のペニスを引き出すとフェラチオを始めた。

「おいおいおいおい、何なんだ、何があったんだ」
 店外の野次馬の数はさらに増えだし、ネコ女たちはその野次馬相手に抱きついて倒れこむと本番にまで誘い始めた。
 店内にいた客達が雑踏に紛れて野次馬とわからなくなるのをまるでサポートするかのように店外の野次馬だけに狙いを定めて組みしいていく。
 その間中も彼女たちはネコなで声を上げるだけで言葉というものを発しなかった。


「せんせぇ、怖いよぅ。気持ち悪いよう」
 奈津美は足元から聞こえた子どもの声にはっとして視線を落とす。そこにはナイトホークの足にしがみついてベソをかく男の子がいた。

「だ、だれなの?ま、まだ子どもじゃない・・・・」
 奈津美がそう呟いたとき、思わずナイトホークを掴む手が緩んだ。

「うわっ!だ、だめだ!もう立ち止まってなんかいられないよ!」
 奈津美の腕を引き剥がすように人の波に押されて石原が2人の間に割って入ってしまった。
 その機を逃さずナイトホークと琥南が人の流れに埋没するように流されていく。

「だ、ダメ!彼女にはまだ話が・・・聞きたいことが・・」
 奈津美は悲鳴にも似た声で石原にすがる。

「さようなら、エンジェル・・・・・。よく化けたな、わからなかったよ」
 奈津美が今一度ナイトホークを捕まえようと伸ばした手はあっさりと彼女に振り払われてしまった。
「待って!答えて!あなたは何をしていたのっ!」
 ナイトホークは琥南を抱えるようにしてあっという間に人の波の奥に飲まれていく。
「そこに倒れている彼女を手当してやってくれ。そのままではケガをする」
 ナイトホークの指す先に人の波が分かれている場所、そこには茶羅が倒れていた。
「さ、茶羅!あなた、一体どうしてっ!」
 倒れている茶羅を見つけた奈津美が慌てて抱きかかえるようにして茶羅を庇う。

「石原クン、加藤さん!だめ!彼女を、あの子連れ2人を逃がさないで!」
「む、無理だ!出よう!踏みとどまっては危険だよ!出てから追いかけて探すんだ!」
 石原が伸ばした奈津美の手をとって、すぐに奈津美に代わって茶羅を抱き上げた。
「行こう。まずは店の外だ」 
 石原は出口へと誘導する。加藤もそれに従う。
 すでに緩やかになりつつあった人の流れがネコたちが店外で繰り広げる淫靡なじゃれ合いに邪魔されて店の出入り口は人でごった返す。

 周囲ではお台場の人気スポットとは到底思えない酒池肉林の奈津美には堪え難い光景が展開している。
 あたりへの注意などどこへやら、自らすすんでネコに自分のイチモツを突き出す野次馬までいた。
 奈津美はいち早く店外へ飛び出すと周囲を必死に探し始めた。

 濁流と化した人の流れから石原が茶羅を抱きかかえて抜け出した。
 そのあと将棋倒しになった人の山から加藤が這いずりだしてくる。
 顔のそこここに擦り傷がついていた。

「加藤、無事か。生きて帰ってこれたのは・・・どうやら俺達だけのようだな」
 石原が芝居っ気たっぷりに言うと背後から鉄拳が飛ぶ。
「やめんか、どあほう!そんな心配をするくらいなら目の前の茶羅を心配したらどうなんだ!」
 涼しい顔で難を逃れていた奈津美が石原の頭を小突いた。

「い、伊部ちゃんか。無事だったのねん。あの子連れは?」
「・・・だめだった。見失った・・」
 残念そうに奈津美は首を左右に振った。
 店外でナイトホークを見つけることはとうとう叶わなかった。

 そこで初めて奈津美は茶羅の胸元にショック弾が着けられているのを見て驚くと同時に怒りが込み上げる。
「なんてことウチの装備品のショック弾。これじゃ人間爆弾じゃない。ま、まさか・・・祐実のヤツっ!」
 奈津美は唇を噛みしめる。
 はなっから茶羅がこうなったのを祐実のせいだと決め付ける。


 店を出てコンコース脇のベンチに石原は茶羅を寝かせる。
 遠くからサイレンの音が聞こえ始めていた。
 にゃんにゃんハウスは黒山の人だかりでさらに騒然としている。
「ここまで出れば安心だ。この騒動だ。所轄が連絡を受けないわけないよな。我われは戻ろう。伊部ちゃん、すまない。騒動に巻き込んでしまった」
 そう言って石原がすまなさそうに頭を下げる。

「いいよ。私達がいなかったら茶羅がどうなっていたか・・・」
 そう言って奈津美は屈んで茶羅の様子を不安げに見つめる。
「せっかく見つけた『セルコン』の拠点もこれで消えたな・・」
 石原は深いため息をついた。
「この足で彼女をすぐにメディカルサイエンスセンターに搬送して。私は自分で帰隊できるから」
 奈津美は懇願するように石原に言った。
「も、勿論だ。このショック弾はどうする?このままで平気なのか?」
 石原も茶羅の恰好に驚きを隠せない。
 彼女は爆発物を持って、しかも猫を鑑賞するまっとうな表の店にいたことになる。
(俺達がウラにいた間、一体表では何があったんだ・・・)

「起爆装置も無力化、受信部がマニュアルどおり見事に処理されているから爆発の危険はないわ」
「一体、誰が彼女にこんなことを」
 加藤がそう言いながら携帯で彼女のショック弾のついた胸元を撮る。
 胸をはだけた茶羅のブラジャー姿があらわになっている。
「加藤さん、それ趣味じゃないわよね」
 奈津美が携帯を掴みながら加藤を睨む。
「伊部さん、怒るっスよ、オレも。証拠記録、証拠記録です」
 加藤はすぐに携帯をしまう。

「ところで、伊部ちゃん。さっきの男か女か?起爆装置もアイツが壊したのか?」
「・・・・・・・おそらく。彼女はウチの隊員、元だけどね。鷹野美夜子(1st−day)、まさか彼女に会うなんて」
 奈津美は力なく呟いた。
 その名前を聞いて石原は顔色を変える。
「げっ、鷹野って・・」
「そう。レディースワットの不祥事、東京国際空港外交官誘拐殺人事件(1st−day)の時のネゴ(交渉人)よ」



【 台場 DEX付近 公園脇道 】


 1台の黒塗りの国産車が裏通りに止まっていた。
 ナイトホークと琥南の近づく姿を見つけて黒服の運転手が後部座席のドアを開けに車外へ出てきた。
「ふ、わざわざ迎えの車をよこすなんてな。命令違反の私達を逃がさないためか」
 ナイトホークが誰に言うでもなく独り言を言った。
 騒動の最中、人の波が奈津美とナイトホークを分断した直後、ママはナイトホークへ迎えの車を待機させる旨を連絡してきた。

「おかえりなさいませ。ママからの指示でお迎えに上がりました。ブリーダーの皆様にはそろそろ会場入りのお支度をしていただくことになりますので」
 そう言いながら2人が乗り込むのを確認して運転手がドアを閉める。

「勝手なことをした私と琥南は識者会から問責されるべき立場ではないのか」
 運転手が乗りこむのを待ってナイトホークが呟く。
「ママは、個人的には今回のお二人の行動を評価していらっしゃいます、ご懸念なく。識者会にはママがお口添えされるでしょう」

「大そうなことができるんだな」
「ママは今回の主催ですから」
 車は周囲から中を窺い知ることができぬようスモーク張りになっている。
 ナイトホークは外の喧騒をまるで他人事のようにみていた。
「大きな騒動になったな」
「十分です。今日は各地でパーティーのためのカモフラージュにパニックを起こしています。警察は夜までてんやわんやでしょう」
 運転手はそう言うと車をゆっくりと走らせる。

「ねぇ、先生。いや、僕はもうあなたのことをナイトホークと呼ぶべきなのかな」
 琥南が無表情のナイトホークの顔を覗き込むようにして言った。
「好きにしろ」
「じゃあ、やっぱり先生だ。ねぇ先生、さっきのおねえちゃんの言葉覚えてる?」
「なんの言葉だ」
「あのおねえちゃんに僕が力を使っても僕の顔を見た時点で、それが暗示の解除キーになって僕の力は効かないって言ってたよね」

「ん、あぁ、そう言っていたな」
 ナイトホークは静かに頷いた。
「だったらさ、僕が顔を見せずに言葉だけで接近すれば、あのおねえちゃんはまだ簡単に堕ちるよね」
「ん、ククク、そうだな。そうかもしれないな」
 思いがけない琥南の言葉にナイトホークは笑いを隠さない。
「だよね。第2人格があそこまで完璧に堕としたんだもの。スキのあるときに僕が言葉を重ねれば、あのおねえちゃんはまた僕を『おにいちゃん』として何でも言うこときいてくれるよね、そうだよね」
 琥南の目は期待と好奇心でキラキラと輝いている。
「フフフ、ハハハ、琥南。お前、知恵がはたらくじゃないか。以前の子どもらしさとはまたちがった面を見たぞ」
 ナイトホークは琥南の肩をポンっと叩いた。

「へん、先生が僕を融合とか言っていじくったからだろ。まぁ、おかげで僕は忌まわしい第2人格の支配から逃れて力までもらえたけど」
「感謝しろよ、私のおかげだとな」
「うん。だから組織にも素直に従うよ。そのかわり、あのおねえちゃんを携帯かなにかで絡めとって、ウフフ、顔認識の自己暗示を解除させた後、僕を盲目的に愛してくれるおねえちゃんになってもらおっ」

「力を乱用するなよ、組織から消されるからな。弾けるのはパーティーの後にしろ」
「うん。ルールは守る。クラスのかわいい女の子全員の処女を僕のでかチンでもらっちゃうのもいいよね。エリカちゃんや真央ちゃんや・・ウフフフ」
 琥南の後頭部にナイトホークのビンタが飛んだ。

「いったぁ〜い。ひどいよ、正直に言ってみただけなのに」
 琥南はふてくされ顔でナイトホークを睨む。
「注意がわかっているのか。ませ過ぎなんだよ、ガキのくせに。第2人格が染み出してきてるんじゃないか?」

 車は2人を乗せてお台場をあとにする。




 
 


 

 

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