TEST


 

 



********** EPILOGUE **********




【 東京台場『St.ミハエル女子大学病院』外科病棟 911病室 】




 病室は廊下の突き当たり、一番奥にあった。
 東西南の三方が窓の病院にとっては程度のよい病室だ。
 出入り口は一箇所、しかも9階で外部からの進入が困難な隔離された場所といってもよかった。
 関係者以外立ち入り禁止のプレートがかけられているが廊下には警備の警官が立っているわけではない。

「ん、んぅ・・・・」
 焦点が定まらない視界に真っ白な天井が飛び込んでくる。
 耳元でゲーム音が鳴っているのに気づく。
「気がついた?伊部奈津美さん」
 彼女のベットの脇に琥南がPSPを持って、ちょこんと座っていた。
 2人部屋の病室、いるのは自分と琥南だけだった。
 片方のベットは空いていた。
 この部屋は他に入院患者がいない部屋のようだ。

「琥南・・・・わたしは、助かったのか。至近距離であれだけ喰らって・・・・」
「ボクが琥南ってわかるってことは、ナイトホークなんだね。あなたは良くも悪くも助かったんだよ」
「良くも悪くも?」
 ナイトホークは琥南の言葉の意味をはかりかねた。
「鏡、見る?」
 琥南はあっけらかんとした態度で彼女に携行用ミラーを渡した。
 ケガのせいか全身はまだ思うようには動かなかった。痛みも若干ある。

 ナイトホークは寝たまま受け取ったミラーを自分に向けた。
「な・・・・・・・」
 彼女は鏡に映る自分の顔を見て声を失った。
「だぁっ、しーっ!落ち着いて。大声出さない。今、あんたが意識を取り戻したことがわかれば、ボクは追い出されちゃうし、アンタも検査だ、事情聴取だと一気に予定が詰まってくるんだから・・」

 琥南はゲーム機の音声をそのままに彼女の枕元まで来て囁いた。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
 ナイトホークは琥南に目もくれず鏡に見入ったまま、思うように動かない包帯だらけの右手で自分の頬を触ってみる。

「助かったんだから。それに識者会もアンタの今回のパーティに及ぼした影響は不問に付すとさ、よかったね」
 彼女が琥南の言葉を受け入れ、冷静な態度で押し黙ったので琥南は彼女の問いかけに答える準備があることを告げた。
 幼い手でベットまわりのカーテンを引っ張って廊下から直接二人が見えないようにした。 
「・・・・これが、これが識者会の与えた罰か」
 ナイトホークはは声を震わせた。
「感謝しなきゃ。あんたの体は伊部奈津美の撃った銃弾の当たり所が悪かった。至近距離だったしね。重大な血管損傷と弾丸貫通時の脊髄の部分破砕が決定的だったとか、聞いた噂だけどね」

「私の体は・・・本当の体は?鷹野美夜子の肉体はまだこの世に存在するのか?」
「んー、わかんない。どこかで生かされてるのか、廃棄処分になったのか。いずれにせよ、それが今のあなただよ、ナイトホークの魂が宿る伊部奈津美の姿がね」

「くっ、私が、私がどうして伊部奈津美の体なんかに・・・・」
 承服しがたい処置にナイトホークは唇を噛みしめた。
「それはあなたの元の本体と、組織が回収した伊部奈津美の体の損傷度合いを比較して、ナイトホークを生かすための究極の選択の結果だったってコトじゃない?」

 ナイトホークは琥南の言葉もそぞろに、改めて鏡に映る自分、伊部奈津美の顔を見つめる。
「ボクは識者会の命令であなたの記憶の全てを伊部奈津美の体にコピーした。人格コピーはボクの十八番だからね。感謝してね」

「感謝だと?識者会の罰ではなく、善意の取り計らいとでもいうのか・・・。お前は自分どころかヒトの人格までコピーできたのか・・・」
「何言ってんの?まだ混乱してる?今まで幾度となく見てるでしょ。明智祐実のときだって、彼女に他人の技術的才能なんてモンを断片的にもやったし、以前の琥南は陣内瑠璃子を襲うために人格コピーをしたでしょ(5th−day Vol.7・Vol.9)。あの技術は新生・琥南のボクにも継承されているんだよ。でもそのへんの手法経過は悪いけどあなたにはきれいさっぱり忘れてもらったよ。この技のおかげでボクは組織の中で生かされている。いうなれば企業秘密だね。そのかわりそれ以外の下手な小細工は一切してない、約束するよ。識者会の立会人も確認してる」

「そうか・・・」
「だから・・・気の毒だけど、組織の楔もそのままコピーされたはず。あなたもボクも今もって組織の一員ってワケだね」
「組織なんてぇのは、どこだってそういうところさ。管理したがる、人もモノもな」
 ナイトホークはそういって琥南が悪いわけじゃないと言った。

「識者会の真意は不明。でも今のナイトホークは自分自身の記憶のほかに、その体の持ち主、伊部奈津美の記憶も自由に覗けるはずだよ」

 琥南に促され、ナイトホークは目を瞑って心の奥を探るように精神を集中する。
 伊部奈津美の記憶、仕事、交友関係、家族、学生時代、幼少期、全てが手に取るようにわかる。
 
「わかった?じゃぁ、識者会の指示を伝えるよ。ナイトホークは今後、伊部奈津美となってチームに復帰、レディスワットに潜入すること」

「・・・・・そうか。それが罰なのか、新たな使命なのか、判断に迷うところだ。しかし・・とにかく組織の指示には従うことにする」
 奈津美となったナイトホークが言った。
 ナイトホークにとって伊部奈津美であることは外見と記憶の両方が必要だが彼女の記憶が手に取るようにわかる。
 伊部奈津美の記憶と意識が手に取るようにわかれば、伊部奈津美自身になりきることは容易かった。
「賢明だね。退院するまで伊部奈津美の意思のコントロールとパーティの時の記憶の改ざんを進めることだよ。実は彼女の意思も死んではいない。指令があるまで彼女の芯を支配したまま、行動を身を任せてナイトホークは心の奥底で休んでいればいい。組織の利益に反する時にだけ伊部奈津美を支配してナイトホークとなって動けばいいだけさ、楽だろ?そ・れ・と、伊部奈津美の意思自身にも自分が助かったことを自覚させないとね」

「融合して私の精神が奈津美に乗っ取られるようなことにならないか」
「それはないよ。僕のコピー技術はオリジナルへの上書きかアペンド。つまりナイトホーク、あなたが伊部奈津美の精神も肉体にも支配的立場でいられるはず。まずはあの事件を伊部奈津美の意思にただの訓練による事故だったと刷り込んでおいてね。シナリオは識者会が渡してくれたし、枕元に置いてある新聞や週刊誌にも載っているから目を通しておいてね。今そのカラダにはあなたと伊部奈津美の2人格が共存する、世の中の事実は情報として2人で共有しといてね。特に今回のパーティーに関しては特に」

 琥南はファイルをベットの上に置いた。
「わかった。いずれ私の本物の本体が捨てられず残っていることが確認できたら、回復ができることがわかったらお前、知らせてくれるか?」

「識者会の指示があればね。識者会はメデューサとSNOWを、そしてバイヤーに張られたスワットの罠から大事なお客様を守ったあなたの一連の行為には好意的な評価をしているようだから、多分あなたの肉体は捨てられてはいないと思う」

「そう願いたい・・・な。だが、識者会は今までの経験からも我々ブリーダーに対しても冷徹だ」

 そのとき看護士のひとりが病室へ入ってきていた。
 「あら?話し声、患者さんのほかに誰かいるのかしら?」
 彼女の声に琥南とナイトホークは話を止めた。
 看護師は琥南の閉めたカーテンを開ける。
 琥南は看護士を見て目の色が変わる。
 それを看護師はまったく気づかないが奈津美であるナイトホークは見逃さなかった。
「あっ、伊部さん、気がつかれたんですね!大変、今すぐ先生をお呼びしてきますね」
 看護士は奈津美の回復を素直に喜んで医師を呼ぶために踵を返す。
「わっあ〜っ、お姉さんとっても綺麗!ボクの好み!ねぇねぇ、おねえさん。ボクと遊んでよ」
 琥南は看護士のスカートの裾を引っ張って医師を呼びに行こうとするのを引き止めた。

「あのね、おませなボク。お姉さんはお仕事中なの。すぐに先生を呼びにいかなきゃならないのよ。遊んでなんかあげられないわ。あなた伊部さんのご家族お方?」

「じゃあさ、じゃあさ、これだけさせて。ガン!ドン!ズドーン!今からお姉さんはボクのようなコドモを犯すことしか考えられない、童貞喰いのショタコンになーあれっ!」

 そういうと琥南は看護士の眉間と胸と股間の経穴を人差し指で一気に突いた。
「あぅっ・・・きゃうんっ!・・は、はぁ、あ〜んんんんん」
 小さな声を上げ、看護士は抱えたカルテを取り落とした。
 一瞬にして看護士の表情がフリーズした。
「お姉さんはボクを相手に貪欲にセックスすることしか考えられなくなるよ。そしてそれは自分の意思できめたこと、いつもやってる男の子のツマミ食いさぁ〜っ」

 まるでビデオの静止画のように看護師はしばらく動かなかった。
 やがて、落としたカルテには目もくれず、憑かれたような表情でそのまま静かにふらふらと病室を出て行くのか出入り口のドアへと向かう。

 彼女はドアを閉めて鍵をロックして振り返った時、彼女の表情は一変していた。
 上目遣いで舌を唇の周りを舐めとるようなエロチックな仕草で琥南に近づく。
 ナース帽をとり、ヘアピンを抜いて頭を左右に振ってロングヘアーの髪に戻すとなかなかの美形だ。
 ゆっくりと白衣をはだける。
 白衣の下に隠れていた豊満な胸とスレンダーな足、純白で統一されたブラジャーとパンティ、ストッキングが一瞬にしてあらわになった。

(コイツ!ガキのくせに見る目もっってやがる。十分ブリーダーとしてやっていけるな)
 ナイトホークは妙なところで感心していた。 

 看護士の琥南を見る目つきは、すでにオスを求める欲情したメスの獣のように豹変していた。

「誰にも邪魔させない、させるもんですか。逃がしはしないわ!あなたは、私が、絞りつくすまで私とSEXするのよ、逃がさない。覚悟しなさい、小さな男の子だからって許さない。それが私の好みなんだから」

 そういうと空いた隣のベットに琥南を抱いて覆いかぶさるように琥南の顔に自分の豊満な乳房を押し当てた。
「あなたの精液、全部搾り取ってあげるわ。あなたはもう私のペットよ、逃がしはしないわ」
「は〜い、ボク、看護士のお姉さんのペットで〜す」
 色欲に支配され妖艶な笑みを浮かべて看護士はあっという間に全裸になって琥南の子供に似合わぬ巨大なマラにむしゃぶりついた。
「ひゃっほ〜っ!きんもっちイイーっ!」
 琥班は雄たけびを上げた。
「ごめんね、ナイトホーク。でもあんたが起きるまでずっとメッセンジャーとして待機させられてたボクにもお駄賃くらいもらう権利、あるよね」

「なにが、あるよね・・だ。よそでヤレよ、このスキもの!」
「そこのPSPでゲームかオナニーでもやっててよ。ボクがこのお姉さんに遊んでもらってる間。そうだ、アンタもせっかく回復したんだ、オナニーでその体の感度を確かめてみて」
「バカが!無用の心配だ」

(ったく、コイツは人格融合しても本質は変わらないな)

 そう言って奈津美の体のナイトホークは琥南と琥南に操られて一瞬で自分がショタコンと思い込まされた看護士の狂態に背を向けた。

 2人を無視して鏡を手に奈津美の顔をナイトホークはしげしげと見つめていた。
「私が伊部奈津美・・・・か。皮肉なもんだな」

 そういうと、ナイトホークはゆっくりと両手を乳房と股間に這わせて琥南の指示通りオナニーを始めた。
「はう、あん、あぁん、いぃ、あぁ、感じる、かんじちゃぁう。おま○こに指入っている、ヌレヌレだよぅ。乳首も硬くなって勃ってるぅ」
 彼女には自分が自慰をしていることも、声に出して何をいま自分がしているのか話していることも、その意識は全くなかった。
 ただ琥南のいたずらなつまみ食いに呆れて背を向けただけだと認識している。

「フフフ、ナイトホーク。アンタを手中に収めることは以前の「とっちゃんボーヤ」の頃の琥南からの野望だったからね。無意識下でアンタの意思をボクの自由にできるように組織にも気づかれないようにいじらせてもらった。いずれボクが識者会の中で好き勝手できるようにアンタには手駒になってもらうんだ」

 琥南はカーテンの隙間から垣間見える伊部奈津美の姿をして自慰に耽るナイトホークの姿を見てニヤけた。
「ちょっとぉっ!何してんのよォ!早く、私のおま○こに、そのぶっといの突っ込みなさいよ。コドモのくせに随分りっぱなモン持ってるじゃない」

「うん、おねえちゃんにも入れてあげなきゃね。これが入った瞬間、おねえちゃんは素の自分に戻る。戻ると同時に今までに感じたことのない快感に襲われてボクのことが大好きで大好きでたまらなくなる。今までの誰よりもボクのことを愛してボクとSEXをしたくてしたくてたまらないボクの下僕になるんだよ」

「なに戯言言ってるの?さっさと突っ込んで私を満足させなさい」
「フフフ、じゃあ入れちゃうね、ズッゴーンっときたぁーっ!どっぴゅーっ!」
「あっああああああああああっ、ああああああああああああーっいっくううううーっ!・・・・えっ?はっ、わ、私、今まで何を・・」

「フフフ、お目覚めかな、お姫様?」
「あ、ああぁ、な、なんて素敵な人なのーっ!運命よ、これはきっと運命の出会いなんだわっ!スキ、スキです、心から愛してます」

「フフフ、こんなガキでも?」
「そんな、年の差なんて関係ないっ!愛させて、尽くさせてっ、私のこと好きにしていいよぅ!もう私の全部があなたのものよっ」

「おっっとぉ!もう一突き分残ってたな、それ止めの一撃、抜かずの2発目だっ、ずっごーん!」
「ひふぁぁぁぁぁぁぁーっ、いっちゃう、わけわかんないーっ!あ、がががあががが・・っががが」
 看護師は全身を痙攣させるようにして白目をむいて琥南の上に覆いかぶさるようにして果てた。

「ひゃふん、まっしろ、頭の中、まっしろになちゃうーっ!」
 琥南が隣をみるとすでにシーツが床に落ち、ベットの上で自ら全裸に剥かれた奈津美の姿をしたナイトホークが同じように昇天して小刻みに体を震わせていた。

「ふふん、首尾は上々。ナイトホーク、さらに琥南のために働いてもらうための無私の心を埋め込ませてもらうよ。ボクが識者会に君臨するためにね」

 琥南が看護士を押しのけてナイトホークに近づこうとした時、廊下を駆け込む音が聞こえ勢いよく扉が開いた。
「琥南!」
 そこにいたのはSNOWこと輝美だった。
「おっ?なんだ、お前か」
 琥南は別に驚きもしない。
「クク、部下に見張らせて正解だった。お前は絶対ココに来ると思ってた」
「そうかい、そうかい。で?なんか用かい?」
 駄洒落のようなことを琥南がいうとSNOWは琥南に近づきザマ、琥南の頬を両手で掴むといきなり濃厚なキスをした。

「な、なな、ななななな、なんでーっ!」
 驚きの声を上げたのは琥南、ではなくSNOWの方だった。
「何、驚いてんだよ 。驚くのはこっちだろ!なに会うなりいきなりべろチューなんかするんだよ、オレに!」
 そう言いながら琥南は冷静だ。
「違う、違う。お前だ!お前の顔がキーなんだ。お前の顔を見れば、私の呪縛は、楔は外れるはず。な、なんでお前にキスなんか・・・・」

「おっ?おまえ、まだ組織から抜けるつもりでいやがるのか!反逆者だぞ!それ」
 瑠璃子は一歩あとずさって首を大きく左右に振った。
「うるさい!うるさい!うるさい!お前になんかわかるもんか!私は自由だ!組織なんかに縛られてなんかいられない!お前の顔をみて呪縛は解けたはず。私は、組織を木っ端微塵にぶっ潰して―――――、あーっ」

 急にSNOWは頭を抱えてその場にしゃがみこんだ。
「はははん、どったの?SNOW」
 意味深な含み笑いを浮かべて琥南はSNOWを覗き込んだ。
「あぁん、SNOWはぁ、悪いコですぅ。組織の壊滅なんていけないこと考えるなんて身の程をわきまえないメス豚です。おしおきしてくださぃ、琥南さまぁ〜」

 そう言って瑠璃子は近づいた琥南に抱きついて頬擦りをした。
 すぐに一瞬にしてもとの表情に戻る。
 自分で抱きついておきながら、力任せに琥南を突き飛ばした。
「いってぇーなっ!このおたんこなす!」

「ば、馬鹿な。そ、そんな、お前の顔を、キーが・・・、呪縛が、私は自分で自分にキーを・・」
 SNOWはすっかり混乱していた。
「馬鹿だな、お前が自らにかけた呪縛解除キーも組織はまるっとお見通しなんだよ」
「そ、そんなぁーっ」
 SNOWの顔に望みを絶たれた悲しげな表情が浮かぶ。

「その代わりといっては何だが、キーの効能は呪縛解除から変えて残ってるんだな、これが」
「な、なにっ、なにそれっ!だれが、だれがそんなコト、一体いつ・・・」
 SNOWの混乱は収まらない。
「フフ、それ、それ。いいよぉ〜っ、実にいい表情だぁ。今まで誰にも見せたことのないお前の真顔ってヤツだな。キーのすり替えは、若干遅効性なんだけど、お前へのトドメの一撃にして、オレの組織掌握のアイテム、SNOWの入手なんだな。キーはオレへの絶大なる恋愛感情に変えたんだな、これが。けけっけけ」

「あ、あああああああーっ。すきぃーっ!琥南!琥南!スキ、大好きなのぉーっ!」
「オレはお前の彼氏だよね」
「うん、うん!琥南、あなたは輝美の愛するただ一人の大事な彼氏!なに、今さら当たり前のコト聞いてるの?」

「いや、オレはお前のこと大好きだからね。聞いてみただけ」
「それを言ったら、私だって!琥南のこと大好きだし!琥南の彼女は私だって大声で叫びたい気分だよ」
「いいね、いいねぇ〜。お前はとっても利用価値のある女なんだな、これが」
「うれしい、琥南の役に立てるなら私、何でも出来る」
「ほうっ!嬉しいコト、言ってくれるじゃん!いつからそう思ってたの?」
「ずっと前からに決まってるでしょ!わかりきってること、いちいち聞かないでよ。私の琥南への気持ち、わかってるくせにぃ〜」

 SNOWはしなだれて琥南の二の腕をつねって惚気た。
「イテッ!ってぇなーっ!つねんじゃねえよ!お前はオレのモンなんだからな、オレの言うことさえ聞いてればいいんだよ」
「うれしいーっ!そうよっ!私は、心も体も琥南のものよ!だから、何でも言って!」
「大体、お前は馬鹿なんだよ。組織の壊滅?レディスワットみたいなこといってんじゃないよ。そんなことだから、良心回路が発動するんだろ!少しは考えろ、ばーか。オレみたいに組織の中でのし上がって君臨する、そこに意識を集中すれば、上昇志向、組織への献身ってことで良心回路は微妙に発動しないんだな、これが」

 そう言って、琥南はケラケラと笑った。
「ス・テ・キ。なんて素晴らしい考えなの琥南」
「琥南じゃない、琥南さま!これからは二人のときはそう呼べよ。誰かいるときは、恋人モードで琥南って呼んでもいいぜ。わかったな」

「はい。SNOWは琥南さまのいうことには素直に従いますっ!」
「よぅしっ!なら、お前はこれからオレをセルコンの識者会で権力者にのし上げることを考えるんだ。わかったな!」
「はいっ!琥南さまっ」
 SNOWはそう言ってぎゃははっはっと声高らかに笑い飛ばした。
「SNOWも、ナイトホークも、もうオレのもんだ。キモチいいーッ!痛快!オレ様帝国設立の第一歩ってトコだな!SNOW、脱げよ!一発やらせろよ」

「あん、全然、ムードもなにもあったもんじゃない。いやな彼氏」
「逆らうな。一匹の盛りのついたメス豚になれ。お前はしたくてしたくてたまらない!オレのものを咥えこみたくてたまらなくなる」

「あ、あーっ。したい、したいのっ、いれて!琥南さまのぶっとくておおっきいの欲しいのっ!いれてぇーっ」
 SNOWは一気に服を脱ぎはじめた。


【 東京台場『St.ミハエル女子大学病院』外来患者駐車場 】


 黒いセダンに乗った黒いサングラス男が耳につけた小型のイヤフォンを外した。
 無表情のその男は携帯を手にナンバーを入力すると目の前にそびえる病院を眺めながら発信ボタンを押した。
 電話はすぐに繋がった。
「SNOW1号です。SNOWさまのご指示により識者会へご報告します。SNOW様、ハンターとしての初仕事、ブリーダー『とっちゃんボーヤ』琥南様の封印に着手確認しました。ただ、未だSNOW様の組織への忠誠レベルは未知数です。以上、報告終わり。はい、SNOW1号です」

 男は電話終えると再びイヤフォンを耳に当てる。
(あん、ああああん、いい、いいよぉ、すき、大好き、琥南、こなんさまぁ〜)
 イヤフォンからはSNOWのあえぎ声だけが漏れる。
「自我を乗っ取らせて油断させる、ミイラ取りがミイラになりはしないのか・・・・。能力者の力ってのは凡人の我らの理解を超える・・・な」
 SNOW1号はSNOWの指示通り、識者会への報告を終えると黒いセダンとともに病院を去っていった。
 




********** The day After・・・・ **********



【 レディスワット 局長室 】



 2ヵ月後、局長室に伊部奈津美の姿があった。
「ご迷惑をおかけしました。本日付で復職します」
 奈津美は局長の紀香に向かって深々と頭をさげた。
「さすがね、瀕死の重傷から2ヶ月で復帰だなんて。回復力があるのはそれだけ若いってコトよね」
「局長、ただこの徽章は・・・」
 奈津美は自分の制服に付いた胸章と肩章に戸惑っていた。
 燦然と輝くゴールド4本ライン、チームのチーフを意味する。
 しかし胸章のゴールド4本ライン中央に輝く銀の数字は、チームナンバーは6ではなく、「Z」。

「見たままよ。これから補佐官室での辞令交付、私も同行するけれど、チームZEROのチーフとして復職よ。おめでとう。これで私もやっとチーフの兼務解除、ただの局長に戻れる」

 紀香は席を立ち、補佐官室に奈津美を伴うたまに制服の上着を羽織った。
「チームZEROなんて聞いたことありません。それにいきなりチーフだなんて」

「あなたはもともとチーム6でチーフ格を十二分に務めていた。力量には誰も異存はない。チームZEROは補佐官直属のスワットチーム、その任務にはほかのチーム以上に秘匿性が求められるトップ集団の集まりなの。あなたはその初代チーフになるのよ」

 チーフとしてしばらくぶりの現場はきつかったぞ、と紀香は凝った肩をほぐしながら言った。

 『休め』の姿勢をとりながら奈津美は紀香にずっと抱いていた疑問を投げかけた。
「入院中、誰も教えてくれなかったのですが、祐実は・・明智チーフはどうなりました?」
「異動よ。しかも、本人の強い希望でね。お台場署の地域課」
「・・・所轄の?」
 奈津美は首をかしげた。

「無理もないわね、彼女はスワットを続けていくココロが砕けてしまったの。あれだけ組織のいいように操られたら人格破綻を招かなかっただけでも・・・はっ」

 紀香はそこまで話しかけて口元を手で押さえた。
「ちょっと待ってください!」
 先を急ごうとする紀香の腕を取り、奈津美は紀香を振り向かせた。
「何ですか、人格破綻って・・」
 奈津美の中で今の紀香の言葉が反芻される。

「いいえ。べ、別事件と混同したわ。あ、謝る、訂正するわ。彼女は独断で大規模動員を伴うスワットの訓練を企画実行し負傷者を出した責任を取って・・・・」

 紀香の狼狽ぶりがかえって奈津美の不信感を増長させた。
(なにかが違ってる、自分の知る何かが・・・。そうだ、今の今まで抱いていた違和感は自分が訓練事故だと思い込んでいたあの日の出来事が本当はもっと重要なことだからだったんじゃ・・・)
 奈津美の思考は急速に失われた過去に遡っていく。

「ちがう、ちがう。そうだ、私、私もそう・・・思い込んでた・・。でも違う、違う。そうだ、あの日確かにセルコンの事件でチームは所轄の援護を立たれたまま突入して・・・」

 奈津美の表情が過去のわずかな記憶の糸をたどるように、虚空を見つめて真実の記憶を呼び覚ましていく。

「なんで、なんで、そう思い込んでいたんだろう。そうだ、祐実は、いえ、祐実も、祐実もセルコンに操られていた。私の傷は装備品実験の暴発ではなくて、組織に操られた祐実が私を憎むあまりに薬で操った涼子を使って・・そうだ、あの日、確かに事件が」

「ちょ、ちょっと、奈津美、落ち着いて。あなたはケガの影響で記憶障害を起こしていている。そんな事件はない、あなたは死地をさまよう中で自分で勝手に頭の中でありもしない事件を作り上げてしまったのよ」
 奈津美が言い訳がましく台詞を並び立てる紀香の腕をひねり上げるように掴んだ。
「痛っ!ちょ、ちょっと、奈津美」

「思い出しましたよ。局長、あの日、確かに事件はあったんです。それをなぜか私は思い違いのように別の記憶を・・・・あっ、あぁぁぁ・・」

 紀香を掴んだ腕が緩む。
 奈津美は耳をふさいで壁にもたれるようによろけてしまう。

「い、いやあ、だ、だれ、こ、来ないで。私に入ってこないで!私を奪わないでっ!ココロに、私の心に干渉しないでっ!あぁぁぁーっ」

 まるで誰かが奈津美の目の前にいるかのように彼女はそれを拒絶して振り払うように腕を振り回しよろけたあと、急に落ち着きを取り戻して背筋を伸ばし凛として落ち着いた表情で紀香に正対すると凍れるほどの視線で睨みつけた。

「貴様、まだ不安定な奈津美の感情を揺さぶってどうする。今はまだ、私自身が彼女の意思を組み伏せるのに十分慣れていないと報告が行っているだろう」

 奈津美は紀香を睨みつけて叱りつけた。

「も、申し訳ありません。ナイトホーク様。私の失態です。口がついすべってしまいました」
 紀香は部下である奈津美に平身低頭でうろたえたまま謝罪を繰り返す。

「伏見。今はまだ私自身が伊部奈津美の中で表層意識だけを彼女に預けて、組織の利益のために思考を奈津美自身がさも自分で思って決していると信じ込ませるのに慣れていない。わかるな」

「聞いております。そのために、私や私のご主人様である霧山がナイトホーク様を補佐する役目を組織から仰せつかっておること十分理解しているつもりです」

 紀香は青ざめたまま奈津美の体でいるナイトホークに言い訳がましく言葉をつないだ。

「まぁ、いい。しばらくはお前たちの力に頼らなければならない身だ。伊部奈津美として、そしてナイトホークとして、な」

「失礼しました。ナイトホーク様。主人である霧山が待っております。補佐官室にご案内いたします」

「わかった。ただし、廊下を出たらお前は私の上官だ。周囲の目に十分気をつけろ。私はまた奈津美に意識を預ける」

「承知しました。ナイトホーク様」
 紀香は自ら進んで局長室から廊下へのドアの電子ロックを解除する。
 振り返った時、奈津美はすでに虚空を見つめて呆然としていた。
 ナイトホークが意思を奈津美に返したのだとわかる。
 それをわかって紀香は奈津美の意思を呼び戻すために声をかける。
「どうしたの?奈津美。辞令交付に行くわよ。補佐官の前なんだから、シャキっとなさい」
「ん・・・あれ。わたし、一体・・・」
 奈津美は我を取り戻した。すっかり直前の記憶は消除され、紀香に詰め寄った怒りの表情もそこにはない。
「ほら!いくわよ!」
「は、ハイ!申し訳ありません、局長」
 慌てて奈津美は紀香のあとについて局長室を後にした。
「局長。祐実は、なぜスワットを降りたんでしょうか」
 すでに何事もなかったように奈津美の興味は祐実の異動に関心が移っている。


「あら、知らなかった?自己判断による勝手な演習企画であなたを含めた負傷者を出した引責もあるんだけれど。スワットでいる以上、恋愛は禁物。彼女はそれを守れなかったからでしょ」

「あ、そうでしたね。まさか、石原クンとなんて・・・・惜しいなぁ」
 奈津美は疑うことなく作られた事実を平然と受け入れて独り言のように呟いた。

「なぁに?それは、祐実と石原さんじゃ釣り合いがとれないってこと?それともあなたが狙ってた?石原さんを・・」

「ち、違います。あそこまで育てたんです。彼女にはもう少しスワットで頑張ってほしかった、たとえ我々に反抗的であっても」

「そうね、そういった意味なら賛同するわ。惜しい人材だったわね、減らず口叩く小憎らしい後輩だったけどね」

 紀香はそういいながら、あっという間に奈津美に対してニセ記憶への復元がされたことで安堵しつつ、恐怖を覚えていた。

 すでに伊部奈津美は伊部奈津美自身としての意思をもちながら、組織の操り人形としていいように記憶を瞬時、瞬時に書き換えられている。

 本人もまったくそれを意識しない。まぎれもなく自分の意思として自覚しているのだ。

 しかし、紀香もまた自分が霧山に牝奴隷にされたことなど微塵も感じることなく、霧山を心から全身で愛し、その命令には、たとえ任務ではなく性的なものであっても従うことが自分の意思と信じて疑ってはいない。

 組織の一員であることも、霧山のためなら警察組織内に身を置き、裏切りをおこなっていることなど罪悪感のかけらも、もはや持ってはいなかった。

 自分のすべては霧山のためにある。霧山のために自分のすることが霧山への愛を伝える自分の忠誠であり、そのためになら誰でも犠牲にして構わないと平気で思っていた。

 それが紀香自身の幸せと信じて疑うことなく。

「負傷させた中でも石原さんは彼女自身が負わせた傷がもとで生死の境をさまよった。好き嫌いの感情はそれ以前からだったのかどうかはわからないが、彼女は誰が見えも人が変わったように献身的に石原さんの回復を信じて支え続けていたわ。それが恋愛に転化したとしても自然の流れだったんでしょうね」

 二人は喋っている間に補佐官室のまえに来た。
「霧山補佐官、伏見、伊部入ります」
 身分証明カードをセンサーにかざす。
 扉が開いた。
 紀香の後ろから入室した奈津美に浴びせられた拍手に奈津美は驚いて周囲を見渡す。

 補佐官の机へと向かうわずか数メートルにチーム6の全員が両壁をつくって奈津美を迎え入れていた。
「み、みんな・・・」
 奈津美に笑顔が浮かんだ。
「お帰りなさい、奈津美」
「お帰りなさい、伊部チーフ!」
 皆が口々に笑顔で彼女の復帰を祝福した。

「よく戻ったな、伊部。以前のとおり、思う通りにやってくれ」

 霧山補佐官の前まで進むと彼は堅い表情のままでねぎらいの言葉をかけると辞令を読み上げる。 

「伊部奈津美、レディースワットチームZERO 本日よりそのチーフに任ずる」
「伊部奈津美、本日よりレディスワットチームZEROのチーフを拝命し、復職します」

 敬礼の後、辞令を受け取る。
 奈津美が辞令を受け取ると再び拍手が沸いた。

「みんな、ありがとう。会いたかったよ」
 奈津美はチームの面々を見て簡単な挨拶をした。
(みんなの笑顔を見てると・・・・なぜだろ、こんなにも気持ちが落ち着くのは・・・)
 奈那、瞳、弘美、樹里、涼子、雪乃、小雪、美穂、園美、美香。
 一人ずつ顔を見渡していく。

「伊部に紹介しなければならないな。お前の目の前にいるのがチームZEROのメンバー、君の部下だ」
「えっ・・・・・」
 霧山の言葉に奈津美は驚くと同時にうれしくなった。
 これなら、チーム6で一緒にやってきた仲間たっとなら新しいチームの任務でもやっていける、そう思った。

「奈津美、私から説明するわ。チームZEROは3か月前に新たに結成された要人警護のスペシャリストチーム。いわばレディスワットだけで編成したSPチームよ」

「そうだったんですか・・・」
 奈津美は紀香の言葉にチームの任務を理解した。


 はっと奈津美は改めて全員をじっくりと見てあることに気がついた。
 涼子と雪乃の耳にピアスが光る。
 他の仲間たちも以前とは比較にならないほどのメイク。ネイルアートも信じられないといったように凝視した。

「みんな、なぜ勤務中なのよ。休日のように化粧なんか・・・・」
 えっ?っとメンバー全員が奈津美の言葉に一様に驚いて見せた。
「だって、我々は組織のマスコットとしての活動があります。そしてチームZEROの使命はあらゆる状況下での要人警護、我々は一市民や要人の家族、愛人、どんな役柄もこなさなくてはならないのです」
 涼子が不思議そうに奈津美に言い聞かせる。
「そう、スワットとしての一面とマスコットとしての一面、これを両立させるために日々身だしなみ、メイクアップもチームZEROの大事な基本」

 美香がそういいながら、さりげなく胸ポケットからコンパクトサイズの化粧道具をひけらかす。

「ちょ、ちょっと待ってよ。みんな、我々は女性を犯罪被害から守るために組織化された女性だけのスワットチーム、レディスワット。その気高き精神は・・・・あ、あぅっ」

 そこまで言いかけて奈津美の目が虚空を泳いだ。

「気高き精神・・・そう、私たちはスワットである前に美しい女性でなければならない。美しく、強く、そして大切なものを守る!それが任務、それが正義!」

 奈津美はそう言って語気を強めた。

(そうだ、何を不思議に思ったりしたのだろう。私たちは体を鍛え、美を追求し、レディスワットであることを誇りに美しき娘や妻、一般人や秘書を装い、要人警護にあたらねばならない。メイクはそのための不可欠な技術なのに)

 紀香が間髪を入れずに命令を伝える。

「みんな、今日は奈津美がチーフに復帰しての初出動よ。ワールド・サイバーワークス社の日本支部会頭、大童寺準星様の護衛警護」

「はい!我々は大童寺準星様の完璧な護衛警護にの任に就きます!」

 奈津美を含めた全員が声をそろえて紀香に向かって復唱する。

「大童寺会頭は今夜、欧州シンジケート『メフィラス』および米国シンジケート『ジャミラ』との取引に赴かれる。我々はその密着警護と大童寺様への心をこめたご奉仕をおこなう」

「はい、一生懸命、大童寺様を警護し、ご奉仕します」
 誰もが一糸乱れぬ統一された行動で命令を反芻する。
 その中に奈津美の姿はすっかり溶け込んでいた。

「各人、用意されたブラ、ショーツなどのランジェリーからドレスに至るまで専属メイクと十分なチェックと装備、護身用武器、身だしなみのすべてぬかりなきよう!」

「はいっ!」
 紀香はそれだけ言うと奈津美に視線を移す。

「奈津美!あなたはチーフとして部下たちの統率に努めること。大童寺様のご意思のままにあるよう部下たちに気を遣いなさい」

「わかりました。私は彼女たちを統率し、必要に応じてメンタルコントロールで管理します」
 意外にも自分で意識しない言葉がスラリと奈津美の口から自然と発せられた。
 一瞬、不思議と思いながら次の瞬間には当然のことと思い、またどうすればいいのか、そのテクニックまでも今までやってきたことのように思い浮かんでくる。

 すでに奈津美はそれを当然お琴と受け止め、不思議とも思わなくなった。

「みなも、自分が何をすべきか、十分に理解していると思う。第一に大童寺様のために尽くすこと、これが最優先よ。セルフコントロールに努めなさい」

「はい、私たちは大童寺様に尽くすことを任務の最優先とし、セルフコントロールに努めます」
 全員が命令を復唱した。
 最後に奈津美がまるで以前から何度も任務に際して必ず口にしていたと信じて疑わない言葉を、口にする。

(そうだ、私はチーフとして皆をチームとして束ねていくためにも心の結束を言葉にしなくてはっ!)
「私たちは組織のために身も心も捧げ尽くします」
「私たちは組織のために身も心も捧げ尽くします」
 全員が何の疑問もなく喜んで復唱する。
 皆の復唱で更に奈津美の心に以前のチーフとしての自覚と自信が蘇ってくる。
「組織に幸あれ!我々レディースワット・チームZEROは組織の繁栄とともにあり」
「組織に幸あれ!我々レディースワット・チームZEROは組織の繁栄とともにあり」
 全員が一斉に誓いの言葉として胸に両腕をクロスして組織への忠誠の証の姿勢をとって傅いた。
 組織が表立って自らが所属する警察組織でないことを誰もが何の疑問もなく理解していた。

 そこには、セルコンを犯罪シンジケートと敵視し、その殲滅のために命を懸けた以前のレディースワットの姿はなく、セルコンのクライアントのために武力をもって警護し、愛以上に崇敬の念をもって性の限りを尽くして奉仕する気高く強い淑女集団があった。

「みんな、行くわよ!作戦開始はヒトハチマルマル!後ほど最終ブリーフィング」
 奈津美の号令に全員が局長の紀香と霧山補佐官に敬礼すると補佐官室を後にした。
「今日は誰が大童寺様のそばにつくのかしら」
 奈那の声が弾んでいる。

「あら、奈那はこのあいだ加賀様のおそばで尽くしたばかりじゃない。しかもご寵愛までいただけて役得だったりゃありゃしない。今度は駄目よ、周辺警護に回ってよね」

「あん、今でも子宮の奥の奥まで突き上げていただいた快感が忘れられないの。奥の壁まで届いて攻め立てて頂いたの。頭真っ白になっちゃった。御側目警護が一番いいわ」

 恥じらうこともなく、彼女たちは要人と思わされているセルコンの警護クライアントに心惹かれている、これも任務と信じて全く疑いの念がなかった。

「それを言ったら先月の宗像さまのおち○ぽなんて弓なりにせりあがって、硬くて私の内壁にガンガン擦れて、突き上げてきて、あれを味わっちゃうとあの方を命に代えてでもお守りしなきゃと使命感がメラメラ燃えました」

 樹里が嬉しそうに話す。

「だからってホテルのスイートルームに押し入ったヤツラを全部瞬殺しちゃったのは行き過ぎでしょ。あれで、敵の手がかりが一発で消えちゃったのよ。あなた宗像様へのご奉仕を邪魔されて逆上したのよね」

 園美が樹里をからかった。
 園美は先のオークションで陣内瑠璃子のTESTの成果物としてただ一人競り落とされた。
 「私はもう野仲様の私有物だから、野仲様のご命令のないところでは私の体は提供できないから今回も後方支援担当ね」
 園美はそう言って自分が総合商社アレキサンドロス株式会社の取締役となった野仲(4th−day Vol.7)のモノであることを仲間内では何の疑問も抱くことなく公言している。


「だってぇ〜、もう少しでイクとこだったのにぃ。あいつらのせいで宗像様は大事をとって帰っちゃうし、みんなの警護が甘かったのがいけないんですよぅ!」
 樹里はまるでお預けを喰らった犬のように駄々を捏ねて子供のように膨れっ面になった。

「ハングライダー使って屋上からロープワークで外窓からの飛び込みは確かに想定外だったものね・・・」
 みな作戦の反省をして同じ過ちを繰り返すまいとする姿勢はチーム6の時と変わっていない。


(これなら、うまくやっていけそう)
 奈津美の心は緊張感から解きほぐされる。
 彼女自身、チームの中で交わされる会話に何の違和感も感じなかった。

 チームZEROの部屋、奈津美は初めて足を踏み入れる。
 そこにはチーム1名に1人の専属のへメイクやスタイリストたちが今や遅しと待ち構えていた。
「今日のセッティングに入らせていただきます」

 スタイリストたちがそう言うと皆自分の場所が決まっているのかすぐに決められた場所に腰掛けた。まるでファッションショーの舞台裏かTV局の楽屋のようなメイクの光景に奈津美は一瞬戸惑った。

「伊部チーフですね。こちらでお願いします、伊部チーフの担当をさせていただくスタイリストチーム、サロン『パンドラ』から派遣された一人、野高弥見子です」

 椅子を用意してメイクスタッフの一人が待っていた。
 野高弥見子と名乗ったスタイリストの女を見た瞬間、奈津美の心の奥から何かが湧き上がり、一瞬にして頭が真っ白になり気が遠のいていった。

「貴様、貴様は誰だ!」
 奈津美は顔つきが一瞬で険しくなって弥見子に声を荒げた。
 奈津美の体を、精神を一瞬にしてナイトホークが支配した瞬間だった。
 ただそれは野高と名乗った若いスタイリストにはわかるはずもない。
 いきなり腕を掴まれて凄まれた彼女は驚きの色を隠せない。

「あ、あの・・ですから、あなたを担当させていただくスタイリストの野高弥見子です・・・す、すみません、腕、痛いです」

 弥見子は奈津美の射るような激しい怒りのこもった様な声と表情にたじろいだ。

「クっ!こ、これも組織の善意だとでも言うのか。貴様は一体誰なんだ。それは、そのカラダは『鷹野美夜子』、この私のものだ!」


 奈津美の、いや、この時は奈津美の体に宿っていたナイトホークこと鷹野美夜子が自分の体を目の前に、野高弥見子と名乗るスタイリストに怒鳴りつけた。

「あ、あの・・・伊部チーフが、私に向かって怒ってらっしゃる意味が・・・す、すみません、わたし、よく、わからないんですが・・・・・クスッ」

 たじろぎ、恐れおののいているスタイリストの言葉の語尾の最後の含み笑いを奈津美の体に宿るナイトホークは見逃さなかった。

「お前、今、笑ったろう?知っているんだな、私が誰なのか!言え!さっさと言え!誰だ!貴様は!」
 ナイトホークの声はさらに大きくなった。
「伊部チーフ、落ち着いてください。みんながびっくりします・・・・・って言っても、もう誰一人聞いちゃいないかぁ〜。みんな、すっかりトランス状態の夢の中だもんね」

 はっとしてナイトホークは部下たちに目をやる。
 スタイリストたちはメイクを施しながら、すでに隊員の全てが顔を緩ませ、彼女たちのささやく暗示に反応して身もだえしながら意思を失い、自慰さえ始めている。

「き、貴様、組織のブリーダーかっ!なぜ、私の体を乗っ取っている。なにが目的だ」

「乗っ取る?それは言いがかりだわ。心外な言葉ね。私の方こそ、いい迷惑なのよ。あなたのせいで、パーティの予定を狂わされた挙句に、私はあなたが生きながらえさせた伊部奈津美のせいで自分の体を再起不能になるほど傷つけられたんだもの」

 ショートカットにして女らしくイメージを変えた鷹野美夜子の姿をした彼女はそう言って、お前のせいだ!と指でナイトホークの胸の中心を突いて後ろへと仰け反らせた。

「・・・・メデューサ、お前、メデューサだな」

「そうよォ。私よォ〜。鷹野美夜子のカラダに居候させてもらっているのはメデューサである、ワ・タ・シ。そして、伊部奈津美の体に巣食うあなたが本物の鷹野美夜子。可哀想よね、自分の体と心がバラバラに存在するなんて。お互いに」

 そう言って美夜子の姿でメデューサは見下すように蔑んだ笑みを見せた。
 ナイトホークは自分のそんな表情や態度を見て愕然として言葉も出ない。

「彼女たちチームZEROはSNOWの支配から私に支配を移管して、組織に忠実なボディーガード兼セックスドールになりきってもらうため反復的にトランス状態に誘導し、自らが悦んでクライアントの盾となり性の奴隷となるよう教育させてもらっている」

「フン、結局、私は娼館の女主人ってとこなのか。いいザマだ、畜生!」
 ナイトホークは自嘲気味に言った。

「命があるだけありがたいと思いなさい。そして自分自身もまたクライアントの性の対象として犯される、それが組織が与えたあなたへの罰」

「つまりは、そういうことか・・・・」
 琥南はおそらくメデューサの人格をナイトホークのカラダに転移させることも組織の指示でしているはず。
 それを伝えなかったのは組織の命令か、それとも琥南自身も組織に記憶を消されたか操られてかはすでに聞くこともない。

「嫌なら伊部奈津美の意識を表に出して、最低限彼女をコントロールすることね。自身が犯される感覚をそれでもあなたは彼女に悦びとして刷り込む必要がある。結局あなたも犯されるのよ」

「黙れ。それが組織の与えた罰なのなら受けてやる」
「あらまぁ、殊勝なこと。でも、いい心がけよ。いずれ私は別の素材へ人格を移してもらう。そのとき、晴れてあなたは、この元のカラダに戻れるわ」

「貴様は元の自分の体に執着がないのか?」
「もう、馬鹿ねぇ〜。わたしの元のカラダなんてとうの昔に朽ち果ててるわ。前のカラダに執着なんてあるもんですか。わたしはそうしてずっと組織とともに生きてきてるの。オカマちゃんだったことだってあるんだからぁ〜」

「チッ、潮招きと変わらぬババァだったのか、あんた」
 負け惜しみのようにナイトホークは吐き捨てるように言った。
「私もあんたのおかげで識者会付「トップコーディネーター」のポストをパンプキンに奪われたのよ、ナイトホーク。今の私はただのハンター。でも識者会はパンプキンが組織とは別に識者会に隠れてヤバイ仕事をしていると疑っている。それを暴くのが私に課せられた「コーディネーター」復帰へのTEST」

「それは、悪いことをしたな」
 表情も変えずに伊部奈津美の体でナイトホークが口にする。
「フン、悪いとも思ってないくせに。でも、気をつけなさい。あなたにだって罰が与えられた以上、何かが課せられている。殊勝な態度で識者会に従順であっても識者会の信用は勝ち取れない」

「課す?何をだ」
「自分で考えることね。それをクリアしてこそ、初めてあなたの心はこの体に返されるのだわ、きっと。このカラダにはあなたのキャラは残されていない。100%今は私のものよ」

「・・・・・・・・・・・・」
 自分の体をもつメデューサからの言葉にナイトホークは真剣な面持ちでそれを考えはじめた。


「ま、私からしたら、琥南だって同じ。組織から逃れようとあの手この手、でも組織はあの能力を高く評価しているから手放さない。アイツも転移しすぎて人格があんなふうに暴走するみたいだけれど」

「琥南も何度もカラダを取り替えて生きながらえているハンターなのか?」
「・・・・・さぁ、無駄話はこれくらいにして。あなたのメイクに入りましょ。綺麗、綺麗にしてあげる。さぁ座りなさい。妙な暗示なんか刷り込まずにメイクだけしてあげる」

 弥見子はそういって椅子にナイトホークである伊部奈津美を座らせた。
「いいコト教えてあげる、多分、琥南も識者会付の一人。あんたが暴走をとめて人格融合した優等生の琥南。SNOWを堕としたキーワードはあの『にゃんやんハウス』で艶蟲操りを仕掛けた琥南しか知らないはずだもの。識者会はそのことも評価して、あなたを殺さずに生きながらえさせた」

 彼女の言葉を聞き流しながら、すでにナイトホークも抵抗するような気にもならず黙って座った。
「もう、今はあなたと話すことは何もないわ。ナイトホーク、いえ、伊部奈津美さん」
 そう言うと弥美子はパンッパンと手を叩く。
 一瞬にしてチームの全員がトランス状態から覚める。

「今日のお召し物は大童寺様のお好みに合わせたもので、大童寺さまから皆様へのプレゼントになります。ランジェリーからドレス、装飾品の指輪、ネックレスも全部」

 弥見子の伝言にチームのみんなは歓声を上げた。
(あれ?わたし、いま、どうしたんだっけ)
 奈津美は一瞬、自分がボーッとして何をしていたのか覚えていなかったことに気づいた。
 ナイトホークに乗っ取られた意識が奈津美に戻された瞬間だった。
 スタイリストの弥美子の言葉に自分もアクセサリーを見渡す。
 どれも買えば相当の品であることは誰の目にも明らかだった。
 過激でエロチックなこのランジェリーの数々も自分の好みとはかけ離れているが、要人本人の希望であるなら何らつけることに抵抗はない。

 いや、むしろ自ら進んで身に着けて対面した時にはしっかりとお見せして心の緊張を少しでも解きほぐして差し上げなければ――。

 男性スワットには不可能な、レディスワットだからこそ可能な任務だと奈津美は自信を持った。

 大童寺からの施しでチームの士気は、さらに高まった、と奈津美は警護すべき大童寺に心から感謝し、弥美子のメイクに身を任せた。

 そこには金品を受け取ることが厳しく禁じられている警察官としての基本的な職業モラルさえ捻じ曲げられたことにさえ気づかない女たちがいた。



【レディスワットPD 補佐官室】



「ご苦労だった。紀香、これで一連のショーは幕を下ろしたわけだ」
 霧山はチームを見送る紀香の背中に声をかけた。

 男は応接ソファにどかっと腰を落とした。
 紀香はソファに座る男の脇に立った。
「よかったのでしょうか?」
「何がだ?」
「彼女も、伊部奈津美もオークションにかかれば、きっとお客様にご満足していただける商品になると思いましたのに・・・・・」

「伊部奈津美はナイトホーク様の依代である間はそのままだ。またいずれ新卒が来ればいつでも網にかけられる。お前がここにいるのだからな」

 そういって霧山は紀香の制服のスカートから手をまさぐり入れた。
「あん!」
「フフフ、もう濡れているのか」
「もう!お分かりになってるクセに」
「よく悟られず、我慢したものだ」
 そういいながら霧山は紀香のショーツの隙間からバイブレータを引き抜いた。
「あん、もう我慢できませぇん、紀香を、紀香を早く可愛がって、補佐官、いえご主人様ぁ〜」
「フフフ、いいのか誰かが入ってくるかもしれんぞ」
 霧山補佐官は好色そうな笑みを浮かべて紀香の胸を制服の上から揉んだ。
 紀香はすぐに廊下へつながるドアのロックをすると、霧山補佐官に向き直って制服のボタンを外すとブラのホックを急いで外してFカップほどの豊満な両胸を揉みながら体をくねらせた。

「ご主人さまぁ〜、はやく、はやく紀香を・・・のりかをた・べ・て」
「フフフフ、さあ、おいで」
 霧山の言葉に紀香は霧山の腿の上にまたがると、濡れきったショーツをすり合わせるように腰をグラインドさせた。

「チーム6も、いやチームゼロも、もはや我われ組織のモノとなったな。紀香にはまた時期を見て新たな仕事をしてもらおう」

「はい、紀香はよろこんでご主人様と組織のために働きます。あのチームもこれからは組織のために働くことでしょう」

 先ほどまでの凛とした紀香の表情はなく、淫乱に高潮したメスの表情だけが紀香に浮かんでいた。

「彼女らが組織に請われたのはそのレディスワットとしての美貌と能力だ」

 チャックを開いて紀香がやさしくまさぐりだした霧山のイチモツはすぐに霧山にまたがった紀香の濡れ切ったおま○んこに呑まれていく。

「あ、あぁぁんんん。光栄です、ご主人さま。彼女たちはきっと期待を裏切らないことと思います」

 そう言いながら紀香は霧山の首に両手を回してゆっくりと腰を振り始める。

「公然とSPやボディーガードを帯同できない場所に取引や遊興に赴くバイヤー達にとって、彼女たちは正に信頼の置ける最も他のもし頼もしい最強のボディーガードにして最高の娼婦だ」

 霧山はそういって紀香の乳首を甘咬みする。
「あん、あ、あ、もっと、あん、いい、あぁ〜っ。もともとチーム6はルックスと護衛能力の総合評価では全チーム中、もっとも高いチームです、あああぁん」

 彼女は霧山に咬まれて体を一瞬震わせたあと更に強く腰をグラインドさせる。

「だからTESTの舞台装置に選ばれた。彼女たちの意識は表の仕事と心から愛するものへの性奉仕をもって雇主を認識しているはずだ、そうだな紀香、おまえがそうであるように」

「あん、イクぅーっ、いっちゃう。そう・・ですぅ、ごしゅじんさまぁ。紀香もあの娘たちも組織のため、ご主人さまのためココロもカラダも・・あぁぁぁ」

 紀香は言い終わらぬうちに高みに昇りつめてカラダを小刻みに痙攣させた。




【成田空港 出発ラウンジ】


 成田空港出発ロビー、明智祐実の姿はそこにあった。
「ふふ、もう少しで出発だよ」
 祐実はしなだれかかって男の胸に頬ずりをした。
 どこから見てもハネムーナーにしか見えないようないちゃつきようだった。
 それも相思相愛どころか、女の方が男にぞっこんであることが誰の目にも明らかなデレようだ。
「何でも言ってね。わたし啓ちゃんのためなら何でもしてあげるから。してあげられるからっ!」
 そう言って祐実は椅子に腰掛けた男の太ももに跨り、自分の豊満な胸を男の顔に撫でつけている。
 祐実の手は股間のイチモツをジーンズの上から揉みしだいた。

「ホント?」
「ホントよ。今、何して欲しい?キス?舌入れる?フェラでもいいよ、わたし啓ちゃんのだったら全部飲んであげる。やさしく、やさしくしゃぶってあ・げ・る」

 そう言って祐実はぺたんとフロアに腰を落とすと男のチノパンの上から卑猥な舌使いで縦になぞるようにペロンと舐めあげた。
 
 周囲にいた同じハネムーナーたちもあまりにも度をこした女の態度に視線が釘付けになる。
「オレ、祐実をずっと憧れで見てた。食事でも誘って、デートもどきで手でもつなげたらどんなにかハッピーだろうなって思ってた」

「あん、そんな寂しいコト言わないで。私はココロもカラダも啓ちゃんのものなのよ。これから長い時間飛行機の中でSEXできないなんて私、我慢できない。だから、ここで、1回しよ」

「馬鹿だなぁ、我慢できないのかい。さっきホテルでもやってきたばかりじゃないか」
 祐実はそう言ってミニスカートのまま男の太ももに跨ると局部を擦り付けて前後へ動かす。

 スカートの裾が簡単にめくれ上がった周囲から祐実のパンティは丸見えだ。
 隣に座っていた新婚のカップルは祐実の言葉と行動に驚いて目を丸くする。
 
「こっち見ないでよ、あなただって大事なご主人様なら今すぐここでフェラぐらいしてみなさいよ。わたしはこの自分が愛する人のためだったら今すぐここでSEXだってできるんだから!おち○ぽ生で嵌めるのだって一瞬でできるのよ」

 カップルはすごすごと席を離れていった。
「だめだぞ、祐実。まわりの人たちがびっくりするじゃないか」

「あ〜ん、啓ちゃんごめんなさい。でもわたし啓ちゃんのためなら本当になんだってできるの。だって、啓ちゃんは本当に私の理想の人なんだから。啓ちゃんが望むことだったら、人殺しだって、売春だって喜んでやるわ」

「くくくく、本当に痛快だな。憧れの高嶺の花、レディスワットチーフ明智祐実がオレの彼女、いやメス奴隷なんて」

 石原啓司はこぼれ出る笑みを隠せないでいた。まだ祐実に蜂の巣にされて蹴り上げられた体は全快せずに、所々に痛みが走る。
 だが今、自分にしな垂れかかる明智祐実は嘘のように盲目的に自分に尽くしている。
 隷従しているといってもいいほど、過激なことも人目をはばからず口にしていた。
「昨日だってわたし啓ちゃんのことを思いながらあなたが疲れて起きてくれないから寝ている間に10回もオナニーでイッたんだよ」

「ふふふ、それだってオレが言ったからだよな」
「そうよ。でも啓ちゃんが悪いことじゃないわよ。私は自分からすすんで啓ちゃんのために尽くしているの。そうすることが祐実の喜びであり幸せなの。これからもいくらでもわがまま言ってね」

「じゃあ、体を売って金を稼げといったら?」
「するわ!喜んで!啓ちゃんのためですもの。誰とだって寝るわ、この体で稼ぐ自信、あるわよ」
「首相を暗殺しろといったら?」
「できるわよ、私を誰だと思っているの?もとレディースワットの女よ。どんなVIPであろうと自然死に見せかけることだって、暗殺だって思いのまま。狙撃する?」

 祐実の言葉に力がこもる。
「アソコにいる外国人のスッチーを抱きたいといったら」
「拉致するくらいなら私の力をもってすればワケないもの。それにホラ、瑠璃子お姉さまから頂いたLDがあるのよ、これさえあればあなたのためにあの女だって喜んでSEXしてくれるわよ。私は外国語だって堪能なんだからいくらでも啓ちゃんごのみの淫乱な女にあの女を変えて見せるわ、私の暗示で」

「完璧だね」
 石原は祐実の劇的ともいえる豹変ぶりに征服感をじっくりと味わっていた。

「完璧よ、あなたのために生きる女なのよ、わたし」
 祐実は石原の完璧の言葉を自分が石原にとって完璧な女だと理解する。
「浮気も?」
「浮気なんていわないで!啓ちゃんは自分の思うままにしてくれることが祐実の喜びなのよ。いくらでも他の女と遊んでね。高めの女だって私が捕獲に協力するから」

 あなたの望みはなんでも私が叶えてあげる、祐実はそういって石原に唇を重ねて舌を絡ませた。



【レディスワットPD 屋上デッキ】


 すでにきらびやかなドレスをまとい、およそチーム6当時のオペレーション前とは思えないメイクを施された奈津美はコートをまとって屋上にひとり佇んでいた。

 オペレーション開始までにはまだ少しの待機が必要だった。
 ドレスに付いたブローチタイプのエース徽章がいくら着飾っていてもこれが任務なのだと告げているようだ。
 復帰後にして、チーフへ返り咲いた最初のオペレーション、気負わぬように自分に言い聞かせる。

 見渡せば屋上からの景色に東京湾がビルの谷間からかすかに顔をのぞかせている。
 羽田から飛び立つジェットが空を横切っていく。
 奈津美の心の中には祐実のことがなぜか気がかりとして残っていた。
 奈津美の心の中には上司に楯突き、自信過剰のチーム6チーフの祐実の姿が残っている。
 その彼女が、なぜ大規模な無許可演習の責任をとってチームを、レディスワットを去ったのか。
 あれほど上昇志向をもち、緻密な行動を部下に要求していた彼女が、開発武器の無許可試用まで強行したのか。

 なぜ、所轄まで動員させるような無謀な演習計画を補佐官の名を騙り実施に移したのか。

 セルコンの全貌を掴み、壊滅させることに燃えていた。それは決して悪いことではない。
 彼女は過去に女性犯罪の被害者となった、その撲滅が自分のトラウマを払拭させる唯一の手段だと、それが上昇志向の原動力だと言っていたのを思い出す。

 チーム6はすでに新たなメンバーで組織され、今その任務は新しい仲間たちが引き継いでいる。
 いいことか、悪いことか、ここ数ヶ月はまったくセルコンの動きはないとのことだ。
 それが奈津美には不思議でならない。
 タレコミが頻繁にあり、以前にもましてチーム6の検挙率はそのおかげで向上しているという。

 新興組織はことごとくそのタレコミにより壊滅させられ、また暗躍し手を焼いていたシンジケートもこの数ヶ月の間に2つも摘発された。
 
 タレコミによって、そしてそのタレコミには1度としてセルコンの情報はない。
 そしてこのチームZEROの存在。
 上からの命令での要人警護、SPの仕事に憧れていたこともあったのでこの仕事に生きがいを持てていけると奈津美は思っている。
 
 ただ、要人に付かず離れず、身辺警護と合わせて夜伽の相手まですることは本当に必要なのか。
 一瞬、目の前の風景が歪む。いや、なにかココロを自分の手の届かないところから歪められるような感覚が起きるときがある。
 
 今もそうだ。
 さっきまでの自分の考えを、今はすでに、なんて愚かなことだと奈津美は自嘲した。
「馬鹿ね、私って。何考えてるんだか、当たり前じゃない。要人警護の任務なのよ。守るべき大事な人をリラックスさせ、安心を与えるのにSEXがもっとも効果があるのは男と女の関係である以上当然のことじゃない。いや、作戦上、要人が女性であったとしても肌を合わせ、相手の心を解きほぐすのはチームZEROの大事な使命だわ」
 
 その考えにいたると決まって霧が晴れたように爽快な高揚感に包まれる。
 自分が間違っていない証拠だと彼女は思った。
(今日、警護する大童寺様には私自身がココロをこめて、不安感を和らげて差し上げなければ。彼の不安を少しでも和らげるためにどんなリクエストにも応え、誠心誠意、任務に忠実に尽くしていこう)
 
 奈津美は澄み切った心の底からそう思った。
「チームZEROの任務については決して他のスワットチームであっても漏らさぬこと。要人警護の任務の重要性を胸に十分刻み込みなさい。話していいのは要人警護の一言に尽きる」
 
 チーフを引き継ぐ際に紀香からキツく言われた申し送り。
 奈津美が言うまでもなくほかの仲間たちはすでに紀香に徹底的にそれを叩き込まれていたようだ。
 チーム6時代以上に秘匿性が求められる任務だと奈津美は実感した。
 それなのに、今日だけで、何度この任務への疑念の思いにとらわれたのか。

 そしてまた祐実のことに思いが及ぶ。
 なぜ、祐実のことをそうまで気にする必要があるのか。
 すでに彼女は所轄で周囲に溶け込みうまくやっている、あのとげとげしい態度はなりを潜め、一婦警として仲間とともに励んでいるという。

 石原の存在、恋愛の感情が彼女を変えたのか。
 石原が生死を境をさ迷うほどのケガを演習でさせた祐実が、石原を献身的に介護することで恋愛感情が芽生えたとしても決しておかしいことではない。

 今日からは休暇をとって石原の転地療養にさえ同行すると伏見から聞いた。

 愛するヒトを作ることは自らに新たな弱みを作る。
 それを犯罪者に利用されることは極力回避する。
 そのためにレディスワットに任ぜられた者は家族を遠ざけ、恋愛を戒める、国家と女性に対する聖職なのだ。

「祐実・・・・・・・」
 なぜか、それでも彼女のことを考えずにはいられない、理由は自分自身にもわからない。
 
(自分の思うとおりにすればいい。心残りのないように)
 声にはっとして奈津美は後ろを振り返った。
 夕暮れのビルに照り映える太陽の淡い光だけがそこにある。
 人の気配などなにもない。
「気にかけるばかりだからいけないのか。だったら一度話してみればいい。彼女の声さえ聞けば、憎まれ口を叩かれたってそれで自分が安心するんなら・・・」

 まるで自分以外の自分が奈津美自身に言い聞かせているような言葉が口から飛び出した。
「そ、そうだよね」
 独り言を呟いて、そう決めると奈津美は携帯電話を手に祐実と連絡を取るためキー操作を始めていた。




【成田空港 出発ラウンジ】


「ん、もうっ!啓ちゃんといいトコなのにぃ〜、邪魔しないでよ」
 携帯の呼び出し音に怒りを顕わに、石原との濃密な口づけから離れて祐実は携帯を耳に押し当てた。
「もしもし」
「祐実。わたし、伊部奈津美・・・・」
「あっ・・・」

 祐実は奈津美の声にはっとして言葉を失った。
「何も言わなくていい。ただ私が電話したかっただけなの。その、つまり、怒らないで聞いて。かけた理由、自分自身でも、よくわからないのよ」

 奈津美の声に聞き入って祐実は声すら出なくなって動けなかった。
「あの、あのね。祐実は・・・祐実は悪くないから。祐実は悪くないよ。・・・・・ごめん、意味わかんないよね。でも、なぜか、どうしても、それだけ言いたくて、伝えたくて。自分でもよくわからないんだけど・・。じゃぁ・・・切るね」

 一方通行の独りよがりのような電話は祐実が返答する間もなく奈津美の方から一方的に話して切られた。

 顔色を失った祐実を診て石原が心配そうに祐実を覗き込んだ。
「どうした、大丈夫?」
 祐実の目から溢れんばかりに涙がたまり、あっという間に両目から涙がこぼれはじめた。

「うぅ、ふぇぇ、ええええぇぇっぇぇ、ふぇぇっぇぇぇ〜ん、うううぅぅぅぅぅ」
 祐実は人目もはばからず大声を上げて泣き始めた。
「ど、どどどどどど、どうしたの。どうしたの一体、ねぇ」
「わ、わかんない、じぶんでもわかんんあいのぉ〜っ。でも、でも、なぜか涙が止まらなくなっちゃって、泣きたくてなきたくてーっ!!!!!!!!!」

 しわがれ声で声を上げて子供のように泣く姿は、さっきまでの過激なまでのいちゃつきぶりを見せつけられていた周囲にとっては何事かと思わせるのに十分な彼女の激変振りだ。

 しかも、彼女自身が泣く理由をわからない以上、彼女はおろか、石原にもどうする手立ても見当たらない。
 
 そのときだった。
 石原の携帯が鳴った。
「もしもし?」
「ヤッホー、犬さん。瑠璃子だよ」
「あ、瑠璃ちゃん・・・・い、いや『SNOW』さま。犬でございます、御用をなんなりと」
「いやだなぁ、身構えないで。ニューカレ(ドニア)に療養休暇だって?いいなぁ」
「祐実の金でね。こいつ結構溜め込んでてさ、しかもそれなりにいいトコのお嬢だった。これからずっぽし楽しませてもらおうかと思ってる・・・じゃない、ます」

「いいよ、犬さん。私に対する敬語もやめて!これは『SNOW』からの命令!どうだ!」
「マイリマシタ。本当にいいのかい?こんなに良くしてもらっちゃって」
「気にしないで、瑠璃子の心ばかりのお礼だよ。犬さんの夢、叶えてあげたのサ」
「だって、ペットのマスターになるのと一緒なんだぜ。しかもハンターにまでなっている瑠璃ちゃんが調製してくれた超1流の素材でだよ、カスタマイズ費用だけで数千万だよ。恐縮しちゃうよ」

「いいの、いいの。そのコは私がTEST合格のご褒美で貰い受けたんだ。今までそのコにいじめられてきた分、ゆっくりと元とってよね・・・って、なにその泣き声、メス奴隷が取り乱してるの?」

「あ、うん。困っちゃって。さっきまでベタベタいちゃついてたと思ったら誰かからの電話で激変、一変して手がつけられない状態でさ。もうパニック状態!」

 電話越しに瑠璃子にも石原の困惑振りがうかがえる。
(アイツからだ、きっと。まだ祐実の『石原ご奉仕メス奴隷キャラ』を定着し終えてないうちに揺さぶりやがって!ナイトホークは何してんだい!)

 瑠璃子は忌々しげに電話主が誰なのかさっしながら、それを止めさえしなかった伊部奈津美を支配しているはずのナイトホークをなじった。

「犬さん、この電話、メス奴隷に持たせて」
「う、うん。祐実、祐実、電話。SNOWさまから」
 祐実はなきながら携帯を持つと耳に当てた。
 その瞬間だった。
「ほぇ・・・・・は、あ、ああ・・・・・ふぅ〜にゃぁぁぁぁぁ〜」

 携帯を耳に当て、いくらもたたないうちに祐実の嗚咽がやみ、目が泳いだかと思うと、ゆっくりと石原に向き直ると、涙目のまま、祐実は再び熱い視線を石原に向けた。

「えっ・・・・・」
 声を上げるあもなく祐実は飛び込むように石原にしがみつくと再びキスを石原の頬や首筋に連発し、胸と股間を石原の体に押し当てて「スキ」を連発し始めた。

「スキ、スキ、スキ、スキスキスキスキスキ!啓ちゃん、大スキィーっ!祐実の理想!祐実の好み!祐実の欲しい全てが啓ちゃん!愛してる、愛して。愛してる、愛して。愛してる、愛してーっ!」

 祐実は人目もはばからず石原を抱きしめてる。
 服を脱ぎ、スカートのホックに手をあてて脱ぎ出そうとするのを石原が必死に止めた。
「いや、いや、敬ちゃんとSEXするのが祐実の生きがいなのにぃーっ!」
 そう言いながら祐実はやっと諦めて石原に体を摺り寄せてべったりとくっつくとやっと落ち着いた。
 石原は祐実から携帯を取り戻す。

「も、も、もしもし。よかった、びっくりしたけど。あっという間に泣き止んだ。さすがSNOWさま」

「そのコが命を張ってボクを守ってくれた犬さんへの瑠璃子からの気持ち。その女は犬さんに尽くすようにいじってある。あと、伊部奈津美とは会わせたり、会話させたりしないでね。1ヶ月は今みたいに動揺するから」

「えっ、電話の主は伊部さんだったの、今の」

「犬さんのご希望通り、そのコ、犬さんが好きだったメデユゥーサが絡め取った後のキャラ設定にしてるから、本当の彼女の地じゃないからサ。そしてアイツに操られて仲間を死に追いやったり、道具として出世の踏み台にしたことが心の奥底で大きなトラウマになってるからキーマンである伊部奈津美との接触は本物の祐実の気持ちを動揺させるんだ」

「うん、わかった。気をつけるよ。祐実の携帯番号変えるし、伊部さんのデータも削除するよ。連絡入らないようにする」

 石原は安堵の表情を浮かべ、そういえば、と瑠璃子に話を続けた。

「もう知ってるかもしれないけれど、実は瑠璃ちゃん、一昨日、にゃんにゃんハウスのオーナーがビルの階段から足を踏み外して亡くなったんだよ」

「うん、聞いてる。ばかだねぇ〜。年よりは足腰弱いんだから、注意しないと」
 瑠璃子は全く動揺することなくカラカラと笑った。
「そう、女子校生に追いかけてまくられて交錯して落ちたらしい。大丈夫かい、彼女が死んで・・・」
 石原はストレートに瑠璃子に尋ねた。
「ん?なにが〜ぁ?フフフ」

「心配は2つ。目撃者によるとオーナーは集団で追い立てられた女子校生を避けて階段から落ちたか、突き落とされるように見えたって」

「ほんとぉーっ?それじゃぁ、不良女子校生のババア狩りってこと?あ〜ぁ、怖い、怖い」

 瑠璃子は全然気にも留めていない。

「女子校生たちは真面目な子ばかりで、オーナーなんか見ていない。店に入り込んだガラの悪いノラ猫を必死に追い出そうとしただけって、供述は終始一貫。でも、逃げた猫は見つからないし、目撃証言でも猫は誰も見ていない」

「ふふん、不思議な話しだねぇ〜。彼女たちには見えていたのかもね、逃げる年寄りのガラの悪いドラ猫ちゃんが」
 瑠璃子はまるで石原の話を楽しんで聞いているかのようだ。

「心配その2、『潮招き』様に絡めとられた人間は、彼女のゴッドハンドであるあの潮吹きテクで定期的にイカされないと禁断症状を起こして色狂いの廃人になるって言うよ」

「アハハハ、じゃぁ、近いうちに都内の病院はその原因不明の色ボケジャンキー対処で大変だぁ〜」
 瑠璃子はヒトゴトのように電話の向こうでカラカラと笑って見せた。
「事実、都内の各地で痴女騒ぎが起きてる。清楚なOL、真面目な学生などなど、狂ったように一瞬にして豹変して電車内だろうとオフィスだろうと目の前の男に襲いかかる。不運にも勃起して嵌められた瞬間、膣痙攣を起こし、あわれ一心同体で救急搬送、その間も女は自由になる上半身で別の男のモノをしゃぶろうとするほど欲情しまくり、手がつけられない状態が何件も続いてるよ」
「うわっ、こわいねぇ〜、女のヒトでも欲求不満になると野獣だね」
「誰もまだ気づいてないけど、オレが調べた結果はみなにゃんにゃんハウスの潮招きの洗礼を受けた者ばかりだよ。大丈夫かい、本当に」

 かえって石原の方が心配そうに言葉を続ける。
「いや・・その、オレがパーティ会場から退場した後、瑠璃ちゃん、識者会のお仕置きを受けた挙句、『潮招き』様の潮吹きの洗礼まで受けたって聞いてるから・・・・・・」

「アリガト、本当に心配してくれてるんだね。そのキモチ、嬉しいな。でも大丈夫、1度だけ受けた快感支配なんてさ、自己暗示でいくらでも何とかできる。ニードルハビット、犬さん的に言うなら快感支配の脳内補完かな?でももう、犬さんは脳内補完の必要はないんだからね。アレからだってボク、あいつのところへなんか1度も行ってないよ。悔しいから。要は快感だけで人が操れると思ったら大間違いってことサ」

「すごいや。それに脳内補完とは恐れ入りました。いまじゃオレも瑠璃ちゃんのおかげで脳内補完からリア充にめでたく移行してるしね」

「チカラをもった人間なら快感の呪縛から逃れるすべはあるのさ。要は一度受けた快感を、まぁ気持ちよかったけど悔しかったあの快感を、自分のチカラで頭の中に再現すればいいのさ。ヤツの手なんかに頼らないでヤツの呪縛を自分で脳内再現して自己保存する、ボクそうしてるんだ」

「なるほど・・・・・瑠璃ちゃんは強いや。でも命取りになるような組織への反抗的行動は身を滅ぼすよ」
 石原は瑠璃子の答えに納得した。
「あまり変なこというと自分がまたネンネみたいに切り替わって組織に対して従順になっちゃうから、まだまだ組織から離れられないけど。ボクは、ボクに恥をかかしたやつも、バージンを奪ったやつも決して許さないんだ」

「・・・・・あまり無茶しないでね。オレ、まだまだ瑠璃ちゃんを頼りにしたいから・・・」
 石原はそういって瑠璃子の身の危険を心から心配した。

「あ、授業が始まっちゃう、先生に怒られるから切るね。それと、SEXのあと、メス奴隷が気が遠くなっている間、1ヶ月は毎日暗示を刷り込むんだよ。犬さんへの忠誠をネ!」

「了解でっす!あぁ、瑠璃ちゃんも元気で。くれぐれも組織には表立って楯突かないでね。悔しいのはわかるけど、組織は強大だよ」

「へへ、犬さんはお見通しってか。あっ、それから、これからは2人だけのときは瑠璃子じゃなくて輝美って呼んで、それがボクの本当の名前。最近ステキな彼氏ができたんだ。輝美って呼んでいいのは愛する彼氏と犬さんだけだよ。じゃあねー」

 瑠璃子は上機嫌で電話を切った。

 ぐいっと横で祐実が電話に夢中になっていた石原の腕を引っ張って胸に押し付ける。
「啓ちゃん、時間だよ。ファーストクラスでニューカレドニア、私とのエンドレスSEXが待ってるよ」

 一瞬にしてもとの溺愛恋人モードに戻った祐実が石原の手を引く。
「おっし、行こうか。ニューカレドニア」

「むこうに着いたら、まずは啓ちゃんのご要望どおり、浅瀬の海の中でSEXしようね。祐実いっぱい乱れちゃうんだから!」

 祐実は石原の腕をとりぎゅっと豊満な胸を押しつけた。
「えへへへ、祐実のココロもカラダも全部、啓ちゃんのものだからね。全部好きにしてね」

 そう言って微笑みながら、祐実自身も気づいていないのか未だに涙だけは滝のように流れ続けている。
 心の底の本物の祐実の心が間違いなく奈津美の言葉になにかの反応を示したものだと石原は思った。

 明智祐実としての本来のココロは無理やり心の奥底に沈められているに、無意識のうちに心の一部が未だに拒絶と抵抗を続けているのか。

 石原は祐実を見ながらそう分析する。
(向こうについたら、オレのオンナとしてしっかりと洗脳してやるからな)
 石原は偶然にも転がり込んだこの得がたい高価な獲物を絶対に手放すもんかと自分に言い聞かせた。
 2人は出発ゲートへと荷物を抱えて走っていく。

 大好きな恋人と休暇を過ごせる。
 祐実はそれだけで幸せな気分になった。
(でも、さっきなぜ泣いたんだろ。間違い電話なんかで・・・。ん〜ん、関係ない、啓ちゃんと毎日SEXできて、啓ちゃんのどんな願いも私が叶えられれば祐実は幸せだもの)

 祐実は胸を躍らせて石原の手をさらに強く掴むと搭乗口へと走っていった。




【レディスワットPD 屋上デッキ】


 切った携帯をドレスに合わせたヴィトンのポーチにしまう。
「なんだろ。どうして、私、祐実にあんなこと・・・・。それに、なんで?涙が・・・・止まらないの?」
 奈津美は拭っても拭っても溢れてくる涙の意味がわからずにいた。
「伊部チーフ、最終ブリーフィングの時間です」
 涼子がPD(パドック)内には似ても似つかないドレス姿で呼びに来た。
 そのまま外を歩けば、多くの男たちが目を奪われるだろうほどにスタイリストたちの手にかかった涼子のいでたちは同性の奈津美が見ても眩しすぎるほど美しかった。
(フフフ、ブリーフィングで集めると、まるで高級クラブか社交場ね)
 奈津美はこれから始まる緊張感に包まれるはずのブリーフィングを想像して苦笑した。

「ごめん。今行くわ」
 呼ばれてペントハウスの出入口に立つ涼子に振り返り、欄干から手を離して足早に屋上を後にする。
(気は済んだか?)

 はっとして奈津美は声の主に振り返る。
 そこには夕景に染まった都会の眩しいビルの反射だけ、声の主とおぼしき者は屋上の何処にもいない。
(どうしちゃったんだろう、私。まだ、ケガの後遺症?復帰後初任務だ、ガンバ!奈津美!)
 深く気に病むでもなく、奈津美は心の奥底から声をかけられたナイトホークの問いに答えることなく、自身を励まして屋上から去っていった。

「ふぅ、アマちゃんもいいトコだわね。ナイトホーク。伊部奈津美を自由にしすぎだ、ゲホゲホっ」
 くゆらせたタバコを半分以上残して揉み消した。
「もう!このカラダも早くタバコに慣れてもらわないと、私のヘビースモーカーとしての気が満たされないじゃない」

 屋上のペントハウスの反対側に設けられた喫煙のためのスペースでタバコをくゆらせながら鷹野美夜子ことナイトホークのカラダでメデューサが呟いた。

「ナイトホーク、あなたは、私のように1人格に1体ではなく、カラダを伊部奈津美と共有する存在。そうである以上、伊部奈津美が受ける快楽には無関係ではいられない。共に溺れることになる。まぁ、それがチームZEROに課せられた任務だからね。でも奈津美の感じる快感は間違いなくあなたも享受し続ける。するとどうなる?伊部奈津美とナイトホークの人格融解が起きるのよ。2人格の境界線がいつの間にか消え去る。あなたにとっては恐ろしいことよね、ナイトホーク。伊部奈津美の肉体が一命を取り留めたのは、セルコン壊滅と仲間の救出のただ一点の執念から。いくらあなたが伊部奈津美を深層心理の内側から操り、染め上げても伊部奈津美の心の奥底にある組織への憎悪は彼女の生きる支えにして、もはや宿命。組織はそれを危惧しつつも、他の操り人形たちであるチームメイトに全幅の信頼をおかれている伊部奈津美の存在は無視できなかった。それは、他の誰よりも信頼し、心を許す者からの暗示がもっとも効果的だからなのよ。これから組織の大切なお客様の警護中に人形たちが、何かをきっかけに元の自分を取り戻し、大事な取引の場を台無しにしてしまうことなんて到底許されない。そのためにも伊部奈津美の姿で彼女たちにしっかりと暗示を与え、それを疑うことなく受け入れる体制を組織は欲した。だからこそ、ナイトホーク、あなたには伊部奈津美自身をコントロールする支配者として、その人格を彼女の中に組み込んだ。あなたがいる以上、伊部奈津美自身があなたの人格を凌駕して自身に自己復元する危惧は排除されるし、人格融解を起こしても、ナイトホークの能力と組織への忠誠をもったNEW伊部奈津美になるなら組織にはなんら問題がない。今のあなたは伊部奈津美に仕掛けられたBLACKBOX程度の存在にほかならない。あなたに課せられたのはそれに早く気づいて伊部奈津美の人格を完璧に乗っ取り、伊部奈津美のままナイトホークへ戻ること。それがあなたへのTESTよ」

 弥見子の携帯が鳴る。
「はい。はい、はい、パンプキン様、仰せのとおりに従いますわよ!えっ?全然、敬ってない?とんでもない、私はもう、あなたの部下なんだから、しっかりスタッフたちを遣い士に仕立ててサロン「パンドラ」を切り盛りしてるじゃない。わかりました、はい、はい。終わったわよ。すぐにお店に戻ればいいんでしょ。はーい、はい」

 まったく人遣いの荒いっ!と弥見子はベンチ立ち上がる。
「ナイトホーク、私が危惧するのはね。本当は、あなたが伊部奈津美に取り込まれて抹消されるんじゃないかと思っているのよ。彼女の命をつなぎとめた執念は、あなたのセンチな驕りをも許さなかったじゃない。彼女の強い執念ともいえる意志はまだそのカラダの奥底に眠り、虎視眈々と表に出ようとあがいているハズ。それに早く気づきなさい。それが組織の与えた文字通り『TEST』よ」

 弥見子は夕日に染まるPDの屋上を去っていく。携帯電話をコートのポケットに押し込みながら一人ごとを呟いた。
「いずれまた、TESTを受ける素材を探し出して識者会に私の眼力とコーディネーターとしての必要性を認めさせてやるっ!」
 夕日はやがて都会のビル群の中へと落ちていった。




< END >




(さいごに)

遅筆・主人公不明確・話の筋ちぐはぐ その他もろもろ・・総括してお詫び申し上げます。
それでも最後までお読み頂きまして本当にありがとうございます
ご感想・応援のお言葉を頂きました方々、お話の続きを心長く待っていただけた方々に心より感謝いたします。
長い間、どうもありがとうございました。
今読み返しても、犬役の石原が初回の方で「踊る大捜査線」もどきに「都知事とおんなじ名前の・・・」が7年たった今でも通用することにびっくりしつつ
チームの女性たちの名前で引用した、紀香、小雪、祐実など結婚に至ってしまった、年月の経過を感じます。
今までご好意で感想、ご指摘を寄せてくださった方々に深く感謝いたします。
皆さんの声がどれだけ励みになったか計り知れません。
ざくそんさん、abigail(月光蝶)さんにも心から感謝申し上げます。
おくとぱすさんにもメール頂いた事もありました。
びーろく(BOXER6)さんや永慶さんはじめ、多くの先人のみなさんが目標でした。
『永慶的MC小説論』は心のお守りにとっております。

そして、この完結が十分なご満足なものでなく、消化不良での結末と思われましたら平にご容赦ください。

未完のまま、放置し続けることだけは避けたいと思い、この1ヶ月を自分なりに精一杯やらせていただきました。
今まで読んでくださった方々、お言葉をかけていただいた方々、HPにUPしてくださった方々、主宰のざくそん様
大変お世話になりました。ありがとうございます。

【ユキヲ】

 
 


 

 

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