TEST


 

 



********** exhibition 『TEST』 6 **********




【晴海『Zton(ゼットン)』店内 地下舞台 】



 銃を握った祐実は躊躇うことなく銃口を自分の耳元に向けたのだ。

「ごめんなさい、奈津美先輩。江梨子先輩、ごめんなさい。先輩のみなさん、ごめんなさい。みんな、みんな・・わたしのせい。私のせいで・・・」

 泣きじゃくりながら祐実は手元にあった自分の銃をこめかみにあて、一気にトリガーを躊躇なく引いた。

 暗示でママと瑠璃子に対して銃を撃てないようにコントロールされていた祐実の指に、ママは祐実が自分自身を撃つためのそのリミッターは想定していなかった。

「ちっ、しくった」
 ママが舌をうつ。
 銃声の残響が劇場内に響いた。
 祐実はばったりとその場に倒れこんだ。
 銃口をあてた側頭部のこめかみ付近からゆっくりと舞台の床に血が広がる。
 劇場は一瞬にして静まり返った。

「かわいそうに。ママも酷なことするよ」
「・・・・弱すぎたのよ、ココロが。知ってるの?この子の経歴、所詮この程度のお嬢ちゃまがスワットなんて無理だった。最年少でチーフになれて、有名にもなり、功績も残したし彼女には幸せな去り方だわ」

「お・・・怒ってもいい?」
 瑠璃子は自分への非を全く認めていないママに感情の起伏を抑止きれないでいた。

 操られ、自分の人格を歪められ、慕う先輩を嵌めては死地に追いやり、自我を失わせていいように捨て駒にしてきた。そのことをわざわざ思い出させて精神的苦痛を味わっているのを好んで見ているママの姿に少なからず敵意がわいた。


 その時、ゴトっと鈍い音が祐実の倒れた舞台の背後から静まり返る劇場に響いた。
 はっとして二人が同時に振り返る。
 場内がざわついた。
 意外なことに祐実の頭部を打ち抜いた拳銃は、彼女の手元ではなく、遠く離れた舞台の奥へと舞い上がっていって、それが今転がったのだ。
 重層構造で吹き抜けのある高い天井にある舞台照明の一つが砕け、ガラス片が祐実の周りを囲むように散りばめられるように落下する。
 きらきらと光る照明の破片と鮮血が動かなくなった彼女を綺麗に飾った。
 それは照明を破壊する何かが、天井に作用した。おそらく天井の舞台照明に銃弾があたったに違いないと思わせる結果だった。

「もしかしたら今の銃声は・・2発?」
 瑠璃子が呟いた。
「えっ・・・」
 気づかなかったとママが瑠璃子に視線を向けた後、周囲を見渡した。
 さっきからの場内のざわめきが自分たちの意図する疑問と同じ思いを共有するバイヤーたちの騒然さとばかり思っていたがどうもそうではないことに気づいた。

 場内のざわめきは向正面に位置する花道の先にある雛壇状の2階へと続く階段の近くからだ。
「あぁっ・・・・・・・・・あれは」
 ママの驚く声に瑠璃子はママの視線の先に目を向ける。
「・・・・ウッソ!、マジ?」
 瑠璃子もそのざわめきの原因を目にとらえて驚きを隠せなかった。




【晴海『Zton(ゼットン)』店内 地下舞台 向こう正面 花道階段上】


「は、はぁ・・はぁ・・はっ・・・は・・」
 奈津美にとって、まさにギリギリの賭けだった。
 さっきまで殺すしかないとまで思っていたのに、ここに至っては殺してもいいとは、到底思えなかった。
 舞台を一望できるここに来るまでの長い廊下、そこまで通るように聞こえてきた舞台での会話。
 あの祐実でさえ操られていたという事実は事態を収拾してチームの仲間を守るという奈津美の意思に微妙な変化をもたらしていた。

 ここにたどり着くまではチームのみんなを守るのため、たとえ祐実を殺してしまうことも、もはややむを得ないと思っていた。

 目の当たりにしたのは、自分が教官として鍛えていたあの頃の、素直でかわいい、ひたむきな努力を続けていた後輩、明智祐実の姿だった。
 奈津美がチーム6への祐実の編入を賛同しなかった理由、それは訓練生として彼女が徐々に奈津美のフォローを拒み、猛烈な速さで高度な技術を短期間で習得していった異様さからだった。

 みるみる別人のように変貌し、冷徹なマシンのようになっていく彼女を奈津美は自分の訓練方針の歪みがJ班のチーム意識を崩壊させ、結果として祐実の人柄を歪めしまったのだと悔いていた。

 そんな、変わり果てた彼女をチーフとして仲間の一人に加えて、初めてチームのリーダーとして部下を率いていく自分に統率がとれるのか自信が持てなかったからだ。
 
 祐実は奈津美にあこがれて、奈津美を慕い、奈津美と一緒に仕事をしたいと、思う純粋な気持ちからレディスワットへの夢を抱いた。
 だが、それが彼女を追いつめてしまったのなら、彼女には今一度、もとの優しい彼女らしさを取り戻す意味でも、チームどころかスワットにさえ加わるべきではない。
 
 奈津美はそう判断したのだ。
 しかし、その選抜結果とともに満場一致でなかった選考結果は祐実の知るところとなり、入隊時には祐実の奈津美に対する態度はいっそう硬化していた。
 いつの間にか悪態をつくまでに敵愾心とさえ思えるほど態度を顕わにしていた。

 でも、それは本当の彼女の心を映したものではなかった。
 彼女は陣内瑠璃子のセルコン組織のたかだかTESTのための舞台装置のの1部品として捨て駒にされたのだ。

 奈津美が長い廊下を必死の思いで進み、ようやく舞台が視界に入ってきた頃、祐実は、自分が操られていたと知り、その間、とった自分の行動を、嘆き、詫び、悶え苦しみ、泣いた。

 そして自ら命を絶つことで奈津美や江梨子に詫び、操り人形のまま痴態を晒すチームの皆に詫びようとした。
 奈津美が知る本来の心根の優しい祐実の姿だ。
 奈津美の心の中で祐実を死なせてはならないという気持ちがはっきりと固まった瞬間だった。

 銃口を狙って撃った弾は、祐実の側頭部を掠めて銃身先の銃口を弾き、こめかみから反れた祐実の銃から発射された弾は祐実の頭部を貫通することなく天井の照明を破壊した。

「・・・・・・神様・・」
 柄にもなく、奈津美は自分の力以外の奇跡が生んだ結果が良であれと願った。
 早く祐実の無事を確認しなくては。
 奈津美の心の中にはすでにあの高慢で不遜な態度をとり続けた祐実の姿はない。
 奈津美の叱咤激励に耐え、応え、一人前になろうとひたむきな努力をしていた、後輩の姿だけが映っている。
 

 息が上がってきている。
 確実に自分の最期が近づいている。
 奈津美はそう感じずにはいられないところまで来ていた。
 (早く、早く、なんとかしなくちゃ) 
 銃を握る手に力があるうちに。
 奈津美はゆっくりと2階から花道に下りる扇形に広がる階段に足を進める。
 その姿はすでに衆人の目に留まるところとなっている。
 誰も舞台に近づくことを止めに来ないのは、祐実の指示でほとんどのセルコン護衛が倒されていたこと。
 そして、いま闇に蠢いて自分を見ているやつらはこれからの展開を興味本位で期待している魑魅魍魎たちだ。
 かえって奈津美の行く手を阻む者があればそちらの方こそ排除されかねない、そんな雰囲気が全体を包んでいる。
(外の、外の応援さえいたら・・・・・・)
 もはや、自分ひとりの残された力でどうにも事態を収拾できないことは奈津美の中でもわかりすぎるくらいわかっていた。

 足の動きは美夜子の不思議な力をしても食い止めることができないほどに思うように前には進まないが、まだ十二分に前へと進んでいる。
 たどたどしく、ゆっくりと、それでも確実に舞台に近づく。
 眩しいほどに照らされた舞台、そこに横たわる眠り姫のごとき祐実と、自分を見て驚きを隠せなずに立ち尽くす陣内瑠璃子と祐実を操っていた女のいるところへ。

「い、伊部奈津美・・・・・生きてたの、あなた」
 ママと瑠璃子は穴だらけの血まみれのスーツで向こう正面階段から花道へと下りてくる奈津美を見た。

 意外だった。
 祐実の言葉に奈津美の死を信じ込んでいた瑠璃子は肩で息をして近づいてくる弱々しい彼女に異常なほどの執念を感じていた。
 上半身はボディラインがくっきりとするフィットした血まみれの防刃ロングスリーブ。
 そこかしこに見える穴は祐実から銃弾を撃ち込まれたものなのか。
(一体、何発食らったんだ。アレ・・・・)
 瑠璃子は息を呑んだ、思わず口走る。
「ゾンビか・・・」
 あれだけおびただしい流血の跡を見て生きていることが信じられない。
 しかも瑠璃子のもとへ自らの足で歩み寄ってきているのだ。
 ゾンビより、よっぽどしっかりした足取りで、ただしゆっくりと。

「あ、ああん、いい、いい、もっとォ〜」
「キモチいいよォ〜、ひゃふん、あん、さわってぇ〜、もっと感じさせて」
「あん、感じるぅ〜、イッちゃう、また、イク、イクゥーっ」
「もっと、もっと、オまめ、スリスリし合おうよぉ〜。くちゅくちゅさせよっ!キモチよくなろうよぉ〜」
 イヤでも奈津美の視界に瞳、涼子、雪乃、小雪、京香、奈那、麻衣子たちの痴態が飛び込んでくる。
 おそらくは、瑠璃子の操りの糸に動かされた人形と化して、決して彼女たちが望んでしていることではない。
 奈津美の眉間に皺が寄る。
 目を一瞬瞑り、白い歯を喰いしばって見せたのは傷みをこらえてか、彼女たちの望まぬ痴態を嘆き悲しんでなのか。
 あの頃の祐実ならオペレーションの遂行のため、命を顧みないで事件を収拾する指示しか与えないはずだ。
 
 その祐実も、その実は瑠璃子の横にいる女に心を染められて、人格をつくり変えられていた。
 それもその性格は彼女が憧れていた奈津美自身のコピーだと、あの女は言った。
(コイツらは・・どこまでヒトのココロを玩べば気が済むんだ・・・・)
 怒りに噛み締めた奥歯が軋む。
 ナイトホークこと、鷹野美夜子の言った祐実が自分だと言ったのも、そのことだったのだ。
 チーム6の一連のオペレーションも、セルコン殲滅という大義も、この劇場にいる下卑た人の皮をかぶった獣たちの欲望を満たすためにつくられたシナリオの一部にすぎなかった。

 この舞台にたどり着くまでの間に、花道の上の2階の回廊にやっとの思いでつくまでに聞こえてきた信じがたい舞台でのやりとりは奈津美の創造さえも絶するものだった。
  
 瑠璃子とママを無視するように、二人の前を無言のまま通り過ぎた奈津美は、自分に対して数時間前まで敵意さえ見せた祐実の脇にしゃがみ込む。

 一変して穏やかな表情に戻り、眠るように倒れている彼女の上半身を優しく抱え起こし、側頭部の傷を確かめた。

「祐実・・・・」
 死を免れていてほしい・・・。血に濡れた祐実の側頭部の髪をかき分けて傷の程度を確認する。
 トリガーにかかっていた指は腫れ、第一、第二関節の向きからおそらく骨折は疑うべくもない。
 銃弾はかすかな接触痕を一直線に引いている。頭蓋の損傷と脳への衝撃による損傷は心配すればきりがない。
「ん・・・・・」
 気を失いながらも、痛みに反応して祐実が顔をしかめ、かすかに声を漏らした。
 奇跡としか思えない。奈津美の弾道は彼女の狙いどおり、こめかみを掠めるようにして祐実の拳銃を弾き、波動の衝撃をもって彼女を失神させた。

 奈津美にとって『自分が目をかけた可愛い後輩』に戻った祐実の命が助かってくれたこと、彼女の口からはもう仲間を死地に追いやる命令が発せられないことで充分だった。

「よ、よかった・・・・生きててくれて・・・・本当によかっ・・たぁ・・・」
 彼女は肩を震わせ涙を浮かべながら心からその言葉を絞り出す。
 彼女に与えた傷がこのあとの彼女の任務や生活に影響を及ぼしていないことを、今はもう祈るしかない。
 哀しみと怒りにかすかに肩を震わせて奈津美は静かに祐実を横たえた。

「マジでぇ〜、マグレにしちゃ上出来、出来すぎのご都合主義でしょ。いくらなんでもありえない。作為的よ。ほとんど作り話の世界だわ、こりゃ」
 瑠璃子が茶化すように両手を頭の後ろで組んで「こりゃ、失敬」と睨みつけた奈津美に向かってふざけて言い放った。


 そして客席に向かって痴態を演じるチームメートのもとへと歩み寄った。
「みんな、もうやめて!お願い、自分を取り戻してっ!目を覚ますのよっ」
 全裸でお互いを求めて絡み合う者、観客席にむかって大きく開脚して、自分の快感を口にし自慰に耽る者、誰の耳にも奈津美の言葉は届かない。

「みてぇ、もう、おツユでぐちょぐちょォ〜、入れて、誰か入れて、濡れ濡れのココに入れてください。自分の指なんかじゃ何度イッテも満足できないのォーっ!」

「麻衣子、やめて!やめなさい!」
 麻衣子の肩を思い切り揺すって制止する奈津美、胸がぷるん、ぷるんとエロチックに揺れるばかりで観客は歓声を上げても麻衣は一向にやめようとしない。
「イヤよ!邪魔しないで!奈津美は引っ込んでなさいよ!」
 肩に手をかけた奈津美の腕を憎しみの感情を持って振り払った。
「あああぁぁぁぁんんん、おま○ちょ、ぐちょ、ぐちょよォ〜、つっこんでよォ、誰でもいいから、麻衣子のココに固くてぶっ太いのぉ突っ込んでぇ。指なんかじゃ満足できないのよぅ〜」

 麻衣子は奈津美の見ている前で四つんばいで客席に尻を向けて誘うように目一杯両足の幅を広げて濡れそぼった秘部を差し出すように腰をくねらせた。

「あん、あぁん、もっと、摘まんで、噛んでぇーっ、乳首かんじちゃう」
「フフフ、こう、痛いでしょォ、それでもキモチいいのぉ?奈那先輩っってマゾだったんですぅ〜?」
「涼子ぉ〜、下もぅ、下の方も苛めて、思い切り指突っ込んでぇ、おま○こ合わせてスリスリしようよぉ」
 奈津美は無理やり二人を引き剥がす。
「涼子!奈那!やめなさい!二人とも、服を着て!武器をとるのよ!事件はまだ終わっていない!目の前に、私たちの目の前にセルコンがいるのよ!」
 涼子が奈津美に誘うような視線を投げる。その目は妖しく淫猥な表情を顕わにしている。
「あれぇ〜、奈津美さん、死ななかったんですかぁ〜。惜しいなぁ、私、本気で撃ったのにぃ〜。十分ご臨終に足る時間経過なのにぃ〜」
 快楽の波に溺れた涼子には正常な判断能力も、再び奈津美にとどめをさそうという祐実の命令の再実行の意思さえなかった。
「涼子ォ〜、なに無駄な話をしてるのよぅ。そんなヤツ放っておいて、私だけ見てよォ、私のだけ、舐めて、可愛がって、感じさせてよぉ」
「もう、いけない先輩ですねぇ〜、奈那さんわぁ〜。じゃぁ、もうちょっと苛めてあげますね、えへっ、おま○ちょにぺろぺろ」
「キャフン!いい、いいよォーっ、もっと、もっと!」
「・・・・・・・・・」
 奈津美は言葉を失った。

 いくら二人に呼びかけて、面と向かって言葉にしても、あまつさえ目を覚まさせるために頬を張っても二人の心には届かない。

 レズ行為に夢中になり、目の前に奈津美がいることさえ気づいていない。
(奈那、奈那!あれだけ祐実の呪縛から必死に脱して私に助けを求めてきたのに。涼子、涼子、あなたをかばい切れなかった私、私の力不足・・んぅぅーっ)

 体にみなぎる怒りと悲しみに奈津美は自責の念に駆られる。
 自分の気持ちの動揺が残された自分の時間を急激に減らしていくのではないかと奈津美は思った。
(だったら、くよくよなんかしてられないっ)

 
「無駄だよ。伊部奈津美さん」
 瑠璃子が奈津美に声をかけた。
「那っ智ん(なっちん:那智瞳)の病院で京ちゃんと三人であって以来(4th−day Vol.2)だね。そこにぶっ倒れてる姉さんが殺しちゃったと言ってたからもうとっくにオダブツになった信じてたよ。生還おめでとさん」

 ふざけた挨拶に奈津美は立ち上がってママと瑠璃子の二人に対峙した。
「見てわかるでしょ、生還なんて代物じゃないわ。残された時間はあとわずかなの。まさか、那智瞳の妹・いずみだなんてよくいけしゃあしゃと言えたもんだわ。自分自身、陣内瑠璃子だったと見破ったのに京香の言葉に圧されて目を曇らせてしまった。後悔してる、今は心から」

「誰にだって”過ち”と”初めて”はあるもの。自分を責めないことだよ」
 瑠璃子は同情的に奈津美に言った。
「あなたに・・・あなた言われたくないわ!でも私にはやらなければいけないことがある!」
「みんなに何を語りかけても無駄だよ。彼女たちはボクの可愛い妹たち。今は自分たちの世界に入っちゃってる。あなたがいくらそこで叫んでも同じ世界にいないあなたからの声は誰の心にも届きはしない」

「彼女たちを元に戻してっ!」
「彼女たちはボクの言うことには、とっても素直に従うよ。でも、元に戻してと言われてボクが素直に戻すと思う?言っとくけど、ボクを殺したら彼女たちは一生あのままだよ、食べることさえ忘れて死ぬまで快楽を求め続ける。まぁ、今はあんたに殺されないための今は保険でもあるんだけどね」
 瑠璃子は奈津美に向かって素っ気なく言い放った。

 痴情に耽り、観客の慰みものになっているチームメイトを見て奈津美は肩を落として俯いた。
 そして顔をあげたとき、氷のような冷たい表情で瑠璃子とママを睨みつけた。
「もう一度言うわ。彼女たちの気高く純粋な心をを、あなたのどす黒く穢れた支配から解放しなさい。レディスワットとして最後の通告よ」
 物言わぬ刺すような冷たい視線。その視線の先にママと瑠璃子がいる。
 とりわけママに向ける奈津美の視線には憤怒の炎さえ目に見えるかと思うほどの凄みのある威嚇的な目を向けていた。

「な、なによ。死にぞこないが、たった一人で何ができるって言うの。諦めなさい、くだらない正義感を振りかざすのは」
 ママは思わず奈津美を刺激する言葉を口にした。
 その時、奈津美がママを睨みつけた殺気に満ちた目つきは瑠璃子が今まで見たこともないような凍れる剣のように鋭かった。
(マジヤバい。こいつ本気だ)
 瑠璃子は一瞬で感じ取った。凍れる刃のような殺気が冷気となって伝わってくるようだ。
(ママだって感じ取ってるはず・・・なに馬鹿な挑発して対抗意識燃やしてんのよ。でも彼女のケガの状態じゃ痛みが全身を支配していて、こちらに気を集中させることはムリだ。手負いのヤツは、誰のチカラでも一瞬では絡め取れない・・・ママの力を持ってしても伊部奈津美を操れないはず)

「あなたたち二人が組織の首謀者だとは思えない。セルコンがこれほどの組織だったなんてね。でも、でも、あなたたち2人さえいなければ、一時でもチームのみんなを救えるのかもしれない。私には時間がないの」

(ごめんね、みんな。でも、彼女の操り人形のまま生きる選択をあなたたちならしないはず!きっと稲垣クン(2nd−day)がみんなを元に戻してくれる、外科だけどきっと八方手を尽くしてくれるわ。今はそう信じるしかない!)

「ここの場はセルコンのコーディネータである私の仕切り、たかだか賑やかしとして来てもらったアンタにとやかく言われる筋合いはない。それにそんなにお肌を汚すような傷を負ったキズモノにはオークション価値もない。100均以下よ。おバカさん」

 目一杯の皮肉を込めてママは奈津美を見下した。
「貴様の血は何色だぁーっ!」

 奈津美はそれだけ言うと何の躊躇いもなく、スワットで鍛え上げた早撃ち動作で一瞬にして銃口を向けるとトリガーをためらい無く連続で引いた。
 ママと瑠璃子に向けて。
「えっ?」
 2人ともあまりにも一瞬の出来事に自身を庇うような動きさえ取れなかった。
 祐実を護る盾となる暗示を埋め込まれていたチームのメンバーも瞬間的に体勢を立て直すまでにしか至らないうちに銃声は響いた。

 舞台の袖から飛び出してきた人影は瞬間的に瑠璃子たち2人と奈津美の間に横っ飛びで飛び込んできた。
 ママと瑠璃子を狙った銃弾はその影がもろに喰らう形で二人の盾になった。
 盾になった影は音を立ててその場に崩れ落ちた。

「いやぁ〜っ、イタタタタタタタ、痛い、痛いのよーっ、バカバカーっ。急に撃つなんて、この卑怯者!」
 ママが崩れ落ちるように床に這いつくばって悶絶した。
「卑怯?何処を突いたら貴様のようなヤツから、そんな言葉が出るんだ」
 怒りの言葉で奈津美は吐き捨てるように言った。
 その奈津美でさえ瑠璃子の支配下にあるチーム6の仲間にすでに取り押さえられて、羽交い絞めにされ舞台の冷たい床にねじ伏せられていた。

 ママは前を遮った影が庇いきれなかった弾と、その影を貫通した弾が右半身、腕そして足にめり込んだ。
 青いチャイナドレスが血で滲んでいく。
「ひどいわ!正義の組織が丸裸の、しかも女性を拳銃で撃つなんてっ!レディスワットは女性の見方だったんじゃないのっー?」
 支離滅裂な物言いでもママは気丈に自分で大腿部や腕を縛り上げて手だれた動作で自ら止血の応急手当をしていく。 

 おどけてはいるがママが深手であることは明らかだった。
「大丈夫なの?」
 瑠璃子がママの傷を覗き込む。
「大丈夫なワケないでしょうっ!でも、あんたが無事なら安心よ。識者会はホッとしているでしょう」
 痛みに歯を食いしばりながらも、ニィっと歯を見せて笑って見せ、よろめきながら立ち上がった。
「まさか、あなたが私たちをかばってくれるなんてね。礼を言うわ、ナイトホーク」
 立ち上がりざま、目の前に血まみれで横たわる彼女たちをかばった影の主、ナイトホークにママは素直に礼を言った。

 
 悲しいことに、奈津美が何を言っても届かず痴態を晒していたチームの面々は、瑠璃子に銃口が向けられたのを見るや瞬時に行動を起こした。

 すぐさま瑠璃子の周囲に駆け寄ってヒト壁となって防御した涼子、瞳、雪乃、樹里。
 瑠璃子を組み伏せて銃を取り上げ犯人確保の基本通り後ろ手に腹ばい拘束した奈那、麻衣子。
 小雪と京香の二人は暗示がかけられていなかったのか、そのまま動揺すらせずに痴態を演じ続け絡み合っている。

 こと、ここにあって、チームはいまだに瑠璃子の支配から脱してはいないことを奈津美は思い知らされた。
 二の矢を放つことなく奈津美はチーム6の仲間たちに取り押さえられてしまった。

(せめてあの女と陣内瑠璃子さえ消せれば、それだけでもできれば、チームメイトの呪縛を解くか、しばらくは誰にも命令ができないと思ったのに・・・。もう、無理・・か)

 押さえつけられ舞台の冷たいフローリングに半分顔をつけて無抵抗のまま奈津美からがっくりと力が抜けていく。

(できたことは・・・結局、祐実の死を食い止めた、それだけだったか・・・祐実、祐実、祐実、ごめんね。みんな、ごめんね)

 すでにどうしようもない状態に自分が陥り、今までを回想した時に、最期まで振り絞っていた気力が萎えたのか、気が遠くなるのを感じた。

(みんな、ごめん。本当にごめん、お別・・れ・・みた・・い・・ごめんね・・ごめんね、ご・・・め・・・・・)
 奈津美はぐったりとして二度と動かなくなった。 
 それを確認して無表情のまま奈那と麻衣子は奈津美の拘束を解いて瑠璃子に歩み寄った。
 こと切れたに違いない奈津美をチームメイトたちが陣内瑠璃子を守るようにして見下ろしている。
 その痛ましい姿に誰一人表情を変えず、無表情のままで立つ彼女たちが慕い続けた感情のかけらさえ顕れていなかった。

 
 


 

 

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