TEST


 

 



********** exhibition 『TEST』 2 **********





【晴海『Zton(ゼットン)』店内 地下第2層 非常階段】



「発表します。課題『我々、セルコンの活動を妨害し続けている警視庁特務機関レディースワット現役隊員を1名堕とし、本日の最終舞台としてオークションに提出すること!商品として差し出された生贄は完全なる調教済みの聖隷と化していること―認定難易度ランク特A』以上が課題ですーっ!」

 会場内が一斉にざわめいた。

「なんですって!」
 祐実は思わず司会者の言葉に背筋を凍らせた。
「まさか・・・」
「ANGEL(祐実)落ち着いて下さい。おそらくCAT(美香)のことじゃないですか」
 隣で舞台を注視したままの奈那がつぶやいた。
 祐実がヘッドセットのマイクをOFFにして奈那へと向き直る。

「CAT(美香)や園美でも驚きはしない。けど、このチームの中に対象がいて、私の命に反するようなら美香や園美以外でも迷わず殺しなさい。奈那、涼子、いいわね。命令よ」

 祐実の言葉に奈那の瞳も涼子同様意思の光の消えたトロンとした眼差しに変わる。
 祐実の暗示を受け入れる状態に変貌した。
「はい・・・・・祐実さまのご命令のとおりに」
 奈那と涼子の復唱に祐実は満足げにうなづいた。
「あなた達は私のためだけに行動し、私を全力で守り、私の命令を最優先に遂行するのよ。そうすることであなたたちが望んでやまない気持ちよさを味わえるのよ」

 奈那と涼子の2人は蕩けた微笑みさえ浮かべて、悦びに身を震わせてうなづいた。

「それでは、課題の発表と参りましょう!作品を舞台へ!」
 司会の声に祐実は銃を握りなおして舞台を凝視する。
 やがて舞台のうしろの幕の合わせ目から金色のマントに身を包んだ女がゆっくりと司会者と瑠璃子の間に歩み寄ってきた。
「あっ・・・・あれは!」
 祐実の頬に脂汗が一筋流れる。



【晴海『Zton(ゼットン)』店内 地下舞台】



「それでは、課題の発表と参りましょう!作品を舞台へ!」
 司会の声に祐実は銃を握りなおして遠目に舞台を凝視する。
 やがて舞台のうしろの幕の合わせ目から金色のマントに身を包んだ女がゆっくりと司会者と瑠璃子の間に歩み寄ってきた。

 女は無表情、自我を奪われて操り人形化されているのは明らかだ。


「提出された課題出品は『KYOKA』 AGE:27 」
 司会者の手によってマントが勢いよく取り払われると、京香のあられもない無駄な肉のひとつもつかない艶やかな全裸が露になった。

 バイヤーのテーブルに置かれたモニターには京香の全身や部分ごとのアップがデータとして映し出されていく。
 オークションではないと前置きされていたにもかかわらず、インジケータが100万・・・120万・・・150万と跳ね上がっていく。

「『KYOKA』は警視庁特務機関レディースワットの・・・・・・レディースワットの・・・・・・・・・・・・・」
 何度も口ごもるマスクマンの司会者に場内が静まり返る。
 何事かとやがてざわめき立つ。
 司会のマスクマンは明らかにうろたえている。
 誰もが提出課題の女に何か問題があると考える。

「私は悪くない、私は悪くない・・・・・・私は悪くない・・・」
 舞台の袖では、瑠璃子から隠れていたママがまるで貧血でも襲われたかのように右手で目頭を覆い、ふらふらと崩れかけた。
 周囲の客席係の黒服たちが「ママ、しっかり」と支えに入る。



【晴海『Zton(ゼットン)』 階層回廊】



「おねえちゃん!ま、まさか・・・そんな!」
 小雪の動揺は計り知れなかった。
 思わず身を乗り出しそうになるのを樹里が肩を掴んで押しとどめた。
「だめよ、今はダメ!無理無策で飛び出したらあなたも京香さんも危険に身を晒す」
「でも・・・おねえちゃんが・・・・・おねえちゃんが」
 いてもたってもいられない、小雪の心境を樹里は十分理解していたがどうすることもできないでいた。
(いけない、彼女の動揺は少なからず作戦に影響する・・・・)
 樹里は無線で祐実へ舞台の女があの陣内瑠璃子であり、作品として現れたのが小雪の姉、筒見京香であることを告げた。
「わかってる、こっちでも目視で確認できてる、静観しろ。指示あるまで決して動くな」
 祐実の言葉に樹里は従う。
「弘美と美穂はまだ戻らないの!」
 浮足立つメンバーにつられるように祐実も冷静さを欠きつつある。
「まだです。しかも二人との交信は不能。反応がありません」
 険しい表情で祐実の背後に控える瞳が祐実を見つめる。
「二人の居場所はっ!」
 瞳はPad上におとされたマップで弘美たち二人の位置を確認する。
「まだ第1ポイント。地下第2階層の非常階段、応答も動きもまったくなし」
「チッ、やられたのか。すべて見張りは駆逐したと思ったのに。それとも新手?」
 祐実の顔色に焦りが見え隠れする。




【晴海『Zton(ゼットン)』店内 地下舞台】



「いいじゃない。口ごもらずにはっきりいいなよ!司会者」
「だ、だって・・・・・・」
 堂々とする瑠璃子とは裏腹にマスクマンの方が明らかに動揺していた。
「だっても、くそも、あるもんか!お客さんたちが変に思うよ」


「もう知らねェからな!」それだけ吐き捨てるように瑠璃子に向かって言うと、マスクの司会者は声を高らかに言い放つ。
「『KYOKA』は警視庁特務機関レディースワットを担当するカウンセラー。メディカルサイエンスセンターの医師です」
 会場内は静寂の後、一気にざわめきと怒号に変わった。
「課題出品「KYOKA」は課題対象となったレディースワット隊員ではありません!」
 畳み掛けるように司会者が声を荒げる。
 騒然とする会場内がブーイングに変わるまでいくらもかからなかった。

 大ブーイングの中、舞台の袖からたまらず血相変えてママが瑠璃子に駆け寄った。
 まくし立てるように早口に言い放つ言葉は瑠璃子の胸につけられたピンマイクから観客に筒抜けだった。
「今からでも遅くはないわ!事情を説明して飛鳥井園美を篭絡していることをお客様にご説明なさい。課題はクリアしていると!だから次回まで審査を待っていただくよう今ここであなたから皆様にお話しするのよ!でないと・・・・そうでない・・・・・・と」 

 舞台脇にある巨大な審査投票用棒状カウンター(仮装大賞で使っている)のインジケータ脇の赤い回転灯がまわり、不気味なサイレンが鳴り始めた。

「いやぁーっ!私、私は・・・悪くないわ!全部このコが・・・・このコが・・・」
 腰砕けにその場にへたり込んで頭を抱えてママが泣き始めた。

 その時、舞台の袖から黒服がコードレスフォンをもってママに駆け寄った。
「ママ、至急だとのコトでパンプキン様からお電話が」
 決まりですから、と機器の横に小型マイクをつけてママに渡した。
 パーティ中は会場にいるバイヤーや識者会に隠し立てはしないことがルールのようだ。
「はっ、あ〜い。お元気ぃ?パンプキンよ〜ォ」
 声高なキンキン声が会場内に響く。
「なんなのよ。今、超取り込み中なのよ!」
 ママの声の背後から聞こえるサイレンにパンプキンは状況をすぐに察した。

「あらぁ〜ぁ、だったら、このまま切っちゃおうかなぁ〜、あなたへの心遣いのつもりだったんだけど〜。あなたでもTESTでスベルような低能力なのを連れてくるんだぁ〜、意外ねぇ〜」

 ノー天気なパンプキンはママの焦り具合を電話越しに感じ取って十分楽しんでいるようだ。
「い、言いなさいよ!わざわざ電話までかけてきて。聞くだけなら、聞いてあげる」
「飛鳥井園美を回収したの〜ォ。今、車でそっちに向かってるんだけど、そこここで変な警察沙汰が起きてて思うように車が進まないのよぉ〜。まったく、イヤねぇ〜」

「えっ、園美を・・」
 ママの声に希望の光が宿る。
「どう?私ってイイヒトじゃないかしらぁ〜?ねぇ〜、どう思う?園美?」
「・・・はい。パンプキン様は・・・いいひとです」
 鷹揚のない声で電話越しに園美がパンプキンの掌中にある状態で同行しているのがわかる。

「お願い、困ってるの。今すぐにでも園美が欲しい!連れてきて!すぐに!」
「車代と手間賃取るわよぉ〜。私の言い値で、ウフフフ。お店もう1件増やそうかと思って。今度はランジェリーショップのほかにビューティーサロンもくっつけて。私の薫陶を受けたチカラの使える美しいスタイリストの人形たちが、お客を『働き蜂』へと染め替えるの。どう?いいアイデアでしょ」

 今のママが置かれた状況などお構いなしにパンプキンは楽しげに話している。
「と、とにかく、連れてきて!一刻も早く!私の命がかかっているのよォーっ!」
「お店の名前はサロン『パンドラ』、どう?いい名前でしょう。お金がいるのよねぇ〜」
「わかったわ、わかったから。話はあとでゆっくり聞く。だから、お願い」
 ママにはパンプキンの夢物語を聞いている余裕などなかった。
「ウフフ、そこにいるお客様の前での約束よ。反故にしちゃ、イヤよ」
 パンプキンはそういって電話を切った。

「大人気ないよ、おばさん。そんなにうろたえて。それになんなの?このパトカーのようなランプ」
 瑠璃子はまったく動じずに司会者に問いただした。
「そ・・・・それは・・・・・・・審査を受けた者が審査制限時間内に規定投票数に達せずに失格になったときにつくんだ」
 マスクマンは焦燥しきってこれから起きるであろう惨劇に怯えていた。
「ふーん」
「ふーんって・・・1票の得票もなく・・・っていうか投票タイムまで至らずに、いや課題不十分で失格するなんてキミだけだ。識者会はお怒りだ、殺される・・・キミは絶対殺される」

 司会者さえすでに恐怖でおびえていた。
「今からでも遅くはないよ、キミ、識者会と会場のバイヤーの皆様にお詫び申し上げるんだ。寛大な処置を、と。聞けば課題はすでに出来ていてこっちに向かってるっていうじゃないか」

 マスクマンは心底、瑠璃子の未来を、というよりは今日のパーティーの先行きを心配していた。
「フン!だいたい、気に入らないんだよね。人に指図されたり、組織に入るとか、試されるとか、そんなのムカつく!」
「き、君は一体何をしにここへ来たんだ・・・・」
 恐怖に襲われながらもマスクマンは一切の動揺を示さない瑠璃子にあっけにとられていた。
「ん〜、この自分勝手にモノゴト進めるおばさんが気に入らないから、最後の最後で失態を演じさせたろうかなって。おっ仕置きだべぇ〜〜だよね。アハハハハ」

 瑠璃子はカラカラとヒトゴトのように笑った。

「今、こちらへこのコが堕とした本当の課題が向かっています。ですから、ですから、皆さま、どうか、どうか寛大なご処置を。もう一度チャンスを」

 ママが大声で周囲にむけて叫んだ。

 別にどうでもいいけどね、そう言って瑠璃子はまったくTESTの結果など気にする風でもない。
 現にママの訴えでも事態がなんら変わることはなかった。
 それを悟ってママはその場にへたり込んで肩を落とした。

 それを見て瑠璃子は少し気が晴れたのか、ふふんっと鼻を鳴らして京香のもとへ歩み寄った。
 瑠璃子は京香に話しかける。
「京ちゃん、わたしの京ちゃん」
 瑠璃子の言葉に京香はすぐ反応した。
「あぁ、おねぇさまぁ〜、私の瑠璃子おねえさまぁ〜っ」
 全裸のまましなだれかかるように京香はフロアに膝をついて瑠璃子の上腿の辺りに頬ずりをする。
「おねが〜い。おねぇさまぁ〜、京をかわいがって。かわいがって気持ちよくしてぇ」 
 誰が見ても異常なまでの盲目的な隷従の態度に瑠璃子が京香の支配主であることは間違いなかった。

「フフフ、いいコだね、京ちゃん。京ちゃんはこれから・・・・・・・」
 瑠璃子の意味深な含み笑いと京香の耳元への囁き。
「はい、おねえさまから言われるに従うことが京香のしあわせですぅ。京香は一生懸命みなさんに歓んでもらえるようHになります」

 京香の忠誠の言葉も瑠璃子の制服につけられたピンマイクで会場全体に流れる。
 京香の顔に一瞬にしてエロチックな表情が浮かび上がる。
 瑠璃子に向けられていた恋慕以上の眼差しがくるっと観客席へと向けられる。
 その妖艶な表情と蛇のようにゆっくりと向き直る。
 各テーブルのモニターや舞台の大型スクリーンに京香のなまめかしい顔がアップになる。
 その表情だけで心を射抜かれたように画面に食い入り唾を飲み込む者さえいた。

「ね・え!」
 京香は舞台の一番前に歩み出てテーブル席のバイヤーに目線を投げた。
 演出用に用意されているポールダンス用のポールに手をやり、倒れ掛かるほど斜めになって客席に媚びる。
「ワ・タ・シ、美味しいよ。フフフ」
 そういうとまるでポールダンサーのように腰をくねらせ、濡れてめくれ始めた性器を両手でさらに押し広げて踊り始めた。
 サイレンが雰囲気を壊さぬように鳴り止んだ。

 思い出したように会場内になまめかしい音楽が踊りに合わせて流れ始めた。
 バイヤー達のブーイングが一瞬にして静寂にかわる。そして京香に釘付けになった。
「悪くない。いい素材じゃないか・・・」
 モニターを睨んで何人かが言葉を漏らす。


「ワ・タ・シを、あなたのモノ、にシテ、いい、ョォ〜。フフフ、ここにあなたの硬くて熱いのを、イっ・レっ・テっ」
 妖しい含み笑いを浮かべ、腰をしならせ、溢れんばかりの瑞々しい体を惜しげもなく見せつける京香に騒然とした場内が次第に落ち着きを取り戻していった。

「ほらぁ〜、見てぇ。私のココ、ぱっくり開くと桃色で濡れ濡れの艶々だよぉ〜っ。フフフフ、あははは」
 大きく開脚して両手でぱっくりと陰唇を開いてカメラ目線の京香にバイヤーの多くが魅かれた。
「濡れてきちゃったよぅ〜、オマメ、ポールにスリスリしちゃう。ああああんん、ちゅるちゅるスベッてヒヤッとして感じちゃうよぅっ」

 京香は肩を時折ビクっと感電したように震わせては濡れそぼった妖艶な視線を客席に投げる。
「ほっらぁ〜、ポールだってヌレヌレのツルツルピカピカぁ〜っ。京のおツユで濡れちゃったぁ、ウフフ。オマタ気持ちイイよぉ〜」

(これがただの素人の付け焼刃な演技なのか・・・。ここまで調製できるのか、あんな短時間に・・)
 京香の艶っぽい肢体のうごめきと卑猥な媚と言葉に客席は圧倒された。
「誰かに鎮めてもらわないと、京、おかしくなちゃっちゃう〜、ねぇぇぇぇ、だれかぁ、突いて、私を気持ちよく、イ・カ・セ・テ」

 京香は客席から誰かを舞台上へ呼び込むように手に平を上に細く長い艶やかな指を1本1本折り曲げては伸ばしては「おいで、おいで」の誘うような仕草をする。 


「やっぱり、対象は園美だったのね」
 祐実はひとまず落ち着いた。京香は意外だったが今作戦行動中のチーム内の人間ではなかったことに安堵したのだ。
 京香の信じられない狂態に小雪はわなわなと震えていたがやがて意を決したように後ろの仲間を振り返る。
「樹里さん、雪乃!ごめんなさい、わたしもう我慢できない!おねえちゃんは私の手で助ける!」
 小雪は一瞬のうちに京香に向って走り出した。
「あっKJ(小雪)!・・・ANGEL(祐実)!ANGEL(祐実)!緊急事態です!KJ(小雪)が、KJが舞台に飛び出しました!指示を!」

 一瞬のことに祐実自身も命令に一拍の遅れが出た。
「とまりなさい!KJ!、とまらないかっ!小雪!命令よ!」
 すでに銃を引き抜いて第2階層から舞台の袖奥まで一気に飛び降りた小雪には祐実の静止はきかなかった。
(ウソ!私の命令が効かないなんて!)
 小雪の暴走よりむしろ祐実は自分の命令に盲従するはずの1人の部下が命令に反応しなかったことに驚いていた。
「奈那!なぜ小雪に私の命令が通じない!」
「・・わかりません」
 奈那は無表情、依然として祐実の支配下にあることは明白だ。
 その彼女が全員にLADY−DOLLを服用させて祐実への服従暗示を刷り込んでいないはずはない。
 今も奈那をはじめ涼子たちも自我を残しつつも作戦遂行の上で素直に命令に従っているのは薬による効果のはずだ。
「考えたくはないですが、体質的なものかも。薬は間違いなく飲ませて祐実さまへの忠誠も完璧に刷り込みました」
 無表情のまま奈那が冷静に分析する。 

「やめろぉー!!!!!!」
 舞台の袖から、いきなり大声を上げて小雪が飛び出した。

 姉の京香の露になった全裸を隠すように彼女の前に仁王立ちになると、客席と舞台袖、瑠璃子とママ、司会者を銃で威嚇して睨みつけた。

「ウソ!本物のレディースワットがなんで出てくるのよ!」
 ママが信じられないといった表情で顔を上げた。
「フフン!なにとぼけてるの?ママがリークしたんでしょ、バレてて当然じゃない」
 瑠璃子は「何を今さら・・」とママに向かって吐き捨てた。
「あなたは一言、ひとことが本当にかわいくないわね」」
 芝居じみたママのヒステリックな悲鳴が周囲の客を巻き込むようににて浮き足立たせた。
「ふん、泥臭い田舎芝居もそろそろ終わりにしたら?やっとシナリオが元に戻り始めたんで実は安心してるんでしょ」
 瑠璃子の言葉にママはキッと彼女を睨みつけた。

「レディースワットだ!お前達は完全に包囲されている。全員その場から動くな!武器は手の届かないところへ捨てろ!」

 場内によく通る小雪の声はオークション会場のバイヤー達を震撼させた。
「ねえさん!京香姉さん!しっかりして!私よ!小雪よ!」
 京香は小雪のことなど眼中にないようにいまだに踊り続けている。

 祐実は小雪の独断専行で瞬時に敵の護衛が出てこないことを判断してため息をついた。
 おそらくここ、ここに至るまで敵のガードの大半は駆逐できていると安堵する。
「いいわ。奈那が私の命令を実行しないわけがない。なら、奈那。薬が効かないあの娘も交戦中に殉職よ」
「かしこまりました。祐実さまのご命令であれば、私が小雪を処分します。小雪は交戦中に殉職」
 奈那は無表情のまま、こともなげに祐実の命令を復唱し受け入れる。
「タイミングは私が追って指示する。今は少しでも戦力が惜しい。しばらくは利用する」
「かしこまりました。祐実さま」
 奈那は顔色ひとつ、表情一つ変えずに頷いた。
 祐実は表情を硬くして近くにいる全員を見つめた。
「私たちの潜入が発覚した。こうなったら、行動するしかない。すでに相手は袋のねずみ。全員、武器を手に舞台へ突入!抵抗する者は容赦なく撃って良し。但し可能な限り殺すな。組織の首謀者逮捕を主眼に作戦開始!Go!」

「はい!」
 全員の復唱の声がヘッドセットに響く。
 隊員全員が持ち場から舞台へ向かって行動を開始した。
 祐実の焦りは少し落ち着いた。奈那もチームも確実に自分の手中にある、それは間違いない。
 そう考えれば、チームの小雪以外は全員手駒として掌中にあると思っていいと祐実は判断した。
「ANGEL(祐実)より命令!総員!最下層舞台周囲へ!抵抗するものは叩き伏せっ!敵の出方を見て最下層の出入り口を各自の判断で押さえぃっ!」

 祐実の命令に全員が迅速に行動に移る。
 祐実もそれを確認して小雪だけがイレギュラーだったと自分に言い聞かせた。

 祐実は舞台で威嚇姿勢を崩さない小雪の背に自分の背を合わせて死角をふさぐ。
 背中越しに祐実は小雪を叱りつける。
「バカっ!オペレーションがめちゃくちゃじゃない!」
 そして小雪がヘッドセットをつけていることを確認する。
(やはり、私の声が届いていたのに彼女には私の命令への絶対的服従心がない)
「申し訳ありません。こらえきれませんでした。どんな処分でも甘んじて受けます。私がこのオペレーションを無事に終局させます」

 敵への怒りを顕わにしながら、祐実には素直に詫びる小雪だった。
 
「レディースワット!警察よ!、その場を動かないで!」
 颯爽と祐実が声高らかに叫ぶ。
 ハスキーな通った声は3層構造のこの地下劇場にこだました。
「KJ(小雪)、あなたにはあとでペナルティーを与えるわ。でも今は任務に徹しなさい」
「・・・・はい。ANGEL(祐実)」
 独断で飛び出した小雪は操られ踊ることをやめない京香をかばうように小雪が覆いかぶさった。
 仲間が彼女を助けるためオペレーションを早めたことに小雪は素直に感謝した。

「出入口哨戒。扉があるなら施錠閉鎖して施錠装置部分を破壊。我々ごと封鎖。逃走経路遮断」
 最下層に配備されていた屈強なセルコンのガード達が舞台めがけて彼女たちに襲いかかる。
 2人、3人、5人舞台の袖から、観客席の脇から、涌いて出るように集まってくる。
 祐実の周りを取り囲むようにして陣形を組んでいチームのメンバーはそれをものともせずに一撃で組み伏せていく。
(最下層にもこれだけいたか。でも上は全部片付いてるようね。こいつらを制圧すれば、あとのスタッフもエロジジイたち観客もおとなしく投降するはず)

 周囲の立ち回りに満足しながらすでに祐実は事件の収拾があとわずかでつくことを確信した。
 各出入り口は施錠されロックされ、ノブやキー部分がナイフ、小型の爆破装置で破壊されていく。
「RISE(涼子)、閉鎖した扉をストロー(専用ボーガン)で床に固定するように打ち抜きなさい」
「・・はい・・・祐実さまのご命令のとおりに」


 ガードの男たちもなぎ倒され、小雪をはじめ、瞳も奈那も涼子も、まるで組手か乱捕りのように叩き伏せ、敵の数は見る見るうちに減っていく。

 会場からは彼女たちの華麗で鮮やかな立ち回りに驚きと歓喜の声が上がり、拍手までが起こり始めた。
「こいつら、自分たちの置かれている立場も忘れて私たちの動きを楽しんでるっていうのっ!」
 周囲の状況を逐次把握しながら司令塔としてチームに指示を与えながら祐実はこの組織の秘めた力に不安を覚えた。

 客席の客は誰一人としてうろたえることもせずにまるでアトラクションショーを観戦でもするかのように目を輝かせて顔をほころばせている。

 いくら今日ここで起きている現場をおさえても、見えざる大きな力は警察の力をも歪ませ、ここでの検挙をなかったことにすることが可能なのかもしれない。

(だとすると、私がいくら気負ったところで捕まえられるのはトカゲの尻尾だけなのか。いいえ、そんなことさせやしない!)

 一人、また一人と叩き伏せながら祐実の怒りは頂点にのぼる勢いだった。
「抵抗しなければよし。逆らったり、逃亡しようとする者がいれば―」
 祐実の言葉が言い終わらぬうちに舞台袖から新手の屈強な男が2人、銃を手に飛び出してきた。
 一瞬の銃声の後、舞台脇に遺体が2体転がる結果となった。
 倒れた男の銃が床を滑って祐実の足元でとまった。
「すみません、ANGEL(祐実)。手元が狂ったようです」
 まるで人形のような無表情で奈那が言った。
 涼子も無表情のまま銃の引き金を引いていた。
 祐実の暗示にも近い命令は彼女たちを冷酷な処刑者に仕立て上げている。
(雑魚に用はない)
 祐実はそれを見て安堵の表情を浮かべた。
(大丈夫、少なくとも他の部下たちは間違いなく私の下僕のようね)

 湧き上がっていた卑しい歓声は銃声と転がった遺体で一瞬にして静寂に変わった。
 事件現場、その真っ只中の今、似つかわしくないゆっくりとした拍手が周囲に響く。
 拍手の主は祐実だった。
「よくやった、NANCY(奈那)、RISE(涼子)も上出来ね。わかったでしょう?我々はただの警察とは違う。抵抗すれば容赦なく撃つ!全員観念してその場から離れるな!」

 言い放つと祐実は足元に転がった男の銃を手に取ると自分の銃を左手に持ち替えた。
「他人の銃の方がなにかと都合がいいわね。オペレーション帰りに奈津美にまだ息があるならこれでトドメをさしましょうか」

「おーっ、コワ」
 舞台の隅でマスクマンの司会者と立ち尽くしていた瑠璃子が聞こえよがしに言った。
「あなたにもキッチリお礼をしなくちゃね。随分恥をかかせてもらったわ」
 祐実は手に持った拳銃を愛しげに眺めながら瑠璃子につぶやいた。
「恥?お姉さん、何のコト?」
「しらばっくれないでくれる?新宿のホテルでのコト、美香の卑猥なビデオ撮影や美香を『仔猫』とかいうスパイにしたてて我々の情報を盗んでいたこと、園美をあんな狂人に変えてしまったこと、あなたが全部絡んでるのはとっくのとうにお見通しだわ!」

「じょ、冗談でしょ。それ全部私のせいだって思ってるの?」
 瑠璃子は真面目に驚いた表情を浮かべる。
「当然よね。それ以外誰がいるって言うのよ」
「あのねぇ!わたし、まだいたいけな女子校生なのよ。そんな年頃の女の子つかまえて、お前がやったんだろうってナニその横暴!」

「その態度が気に入らないのよ。ふてぶてしいにも程があるわ」
 そう言って祐実は瑠璃子を睨みつけた。
「気に入る気に入らないの問題で決めつけないでよ。お姉さんは私が首謀者だとでも思ってるワケ?ありえない!絶対ありえない」
 二人の会話に会場の全員が固唾をのんで事態を見守った。
「決めつけるわ。私は好き嫌いでヒトを平気で判断するの。あなたの存在自体が私にとって目障りよ。だから死んでもらうわ」
 祐実は平然と言い放つ。

「ヒッドーい!大人気ないと思わない?未成年相手に」
 瑠璃子は頬をぷーぅっと膨らませて怒りのポーズをする。
「言いたいことはそれだけ?なら、苦しまないように1発で殺してあげる、頭がいい?それとも心臓?」
 挑発的な瑠璃子の子供じみた態度にも祐実は眉ひとつ動かさない。
「そう、そうやって私の言葉を無視するワケ?」
「本気よ、私。さっき気に入らない仲間を殺してきたばかりなんだから」


 おおおっと場内から驚愕の声が漏れた。
 祐実と瑠璃子の会話は舞台と瑠璃子の胸元につけられたピンマイクで場内の全ての階層に届いていた。
 観衆は自分らの危機的な立場を忘れ、瑠璃子と祐実の会話に固唾をのんだ。
 瑠璃子が右手をゆっくりと動かしてスカートのポケットへ指を伸ばす。

「その手!あと少しでも動いたら撃つわよ」
「チェっ!どうせ撃つくせに・・・・・可哀想にあのお姉さん殺しちゃったんだ」
 瑠璃子の言葉に祐実はまるで少女のような屈託のない微笑を返した。
「あなたもすぐに会えるわよ。あの伊部奈津美のバカに」
 祐実もまるで世間話でもするかのような余裕のある笑顔を返す。
(伊部奈津美・・・)
 瑠璃子はその名前を頭の中で反芻する。

「ひぃー・・・・・・・・・・・!」
 その場の押し殺されそうな雰囲気に息が詰まって我慢のできなくなったマスクマンが舞台から客席に向かって逃げ出した。
 パンっと乾いた破裂音が祐実の左手から響く。
「あっ」
 瑠璃子も観客も声を失った。

 祐実は瑠璃子を見据えたまま左腕を逃げるマスクマンに向けて目視もせずに銃弾を撃ち込んでいた。
「あっ・・・あが・・・・・あが・・・・あがぁ・・・」
 右腿を撃ち抜かれたマスクマンは舞台の縁を転がりながら客席に落ちた。
 落差のある客席の床でマスクマンは苦悶に呻いている。
「どう?本気だってコト、分かってくれた?瑠璃子ちゃま。おまえたち!客席にいるお前たちも同様だ、すでに逃げ道はない。観念しろ!」

 祐実の透き通る声に客席は静まり返った。

「慣れた自分の銃でなら気配さえつかめれば左手でも十二分に使いこなせる。でもこの素性も定かじゃない銃だとたとえ右手でもどこに弾が跳ぶか確信もてないな。即死にできなかったらゴメンね、瑠璃子ちゃま、フフフ」

「本気なんだね・・・」
 瑠璃子の顔色に初めて余裕がなくなるのを見て、祐実は嬉しくなった。
「もちろん!覚悟してよね」
 そういって祐実はまるで瑠璃子に友人と世間話でもするかのような屈託のない微笑を見せた。
「レディースワットなんてやってると、みんな似てくるのかなぁ〜?」
 瑠璃子の言葉に祐実は再び警戒心を高める。今の言葉からは瑠璃子は完全に祐実への不利を認めていない。
「何を言ってるの、あなた。私の動揺を誘ってるつもり?ハッタリでもかましてるの?それとも時間稼ぎかしら」
「お姉さんも自分が誰かに似てると思わない?」
「はぁっ?何のはなし?誰のこと言ってるの」
「お姉さんがさっき殺しちゃった伊部さんってヒト・・・に似てるってこ・・・」
 瑠璃子の言葉は祐実の琴線に触れた。
 瑠璃子が全部言い終わらぬうちに、あろうことか祐実はお門違いのマスクマンめがけて銃のトリガーを引いた。
「ぐっぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁあーっ」
 左腿まで打ち抜かれマスクマンは苦痛のあまり気を失った。
「言葉に気をつけることね、瑠璃子ちゃま」
「なにぶちギレして!他人にあたるなんてサイッテ―っ!」
 瑠璃子が怒りをあらわにする。
 瑠璃子が真の感情を表に出したのが嬉しかったのか祐実は不気味なほどの黒い笑みを浮かべた。

(コイツ・・絶対・・壊れてる)
 瑠璃子の頬を汗が伝う。
 自分のチカラが及ぶまでのわずかな間に撃たれたら瑠璃子でさえ危うい。
 祐実が見せた早撃ちの残像が瑠璃子の脳裏をよぎる。
「じゃあね、ウザいお馬鹿さん。一瞬にして『さよなら』よ。痛いと思うころには地獄に着いてるわ。アディオ〜スっ・アミ〜ゴォ」

 そう言いながらも祐実は銃を持ったまま、銃身を下にし瑠璃子に向けない。
 チームも逃走経路を遮断し終えて包囲を狭めていくように舞台へと近づいてきていた。
(やなヤツ!この女、いつでもすぐに撃てると思って私の顔色見て楽しもうとしてる・・・逃げようとしたところを撃つ気だ)

 瑠璃子は内心、今の状況をどうしようか考えあぐねていた。
 手はある。
 そして、それはすぐにでも今置かれた立場を瞬間的に逆転できるだろう。
「ふうぅ・・・・面白くないわね、期待はずれの反応だわ」
 そう言ってため息まじりに舌打ちをしたのは祐実の方だった。
「あなた、ぜんぜん動揺していないでしょ。なぜ?・・・・客席にでも紛れて逃げ出せば生き残る確率だってあるかもよ」
「ヤな女。私が命乞いでもして泣き叫ぶのを楽しもうとでも思ってたんでしょ」
 今度は瑠璃子が舌打ちをする。図星だ。
「すごいわ、あなたって人を不機嫌にする才能ある。ホント、そのとおりよ。逃げてくれれば足でも撃ち抜いてみようと思ってたの、あんたでも痛がって転げまわるのかしら、あなたの体に何色の血が流れてるのかしらってね」

「まったく!ヒトを宇宙人みたいに・・・。思ったとおり。どМだね、隊長様は」
「もう、屈強な『戦闘員』たちは地上階から最下層のココまで誰一人としてまともにはいないはず。ましてここにいるヒョロいちんけな奴ら何十人いたって私たちに敵うはずないし」

「ご・もっ・とも!まるっとお見通しだね、えらいや隊長様は。はいはい、えらいえらい」
 瑠璃子はあえて見下したように祐実に悪態をついた。

「それよ。そのあなたのカラ元気とも思えないふてぶてしい態度と自信が何なのか知りたいの」
「はぁ?別に自信もなにもあるもんか。いたいけで無防備な女子校生に向かって何言ってんの?」
 ふてくされるように瑠璃子は斜に構えた。
「いたいけな女子校生は人を好き勝手に操ったりしない。私にもその力を使う気?」
「チカラって?なにSFチックなこと言ってるの?」
 瑠璃子は祐実の言葉を一笑に付してとぼけて見せた。
「私を見くびらないでくれる?一般人の狭い常識であなたを推し量るつもりはないから」
「なんだかなぁ〜。それならチカラ使わせてくれるっていうの?そんな気サラサラないんでしょ。ホンット、やなヤツ」

 二人の会話が進行している間もそこかしこから男たちの悲鳴が上がる。
「ぎゃーっ」「うぐぅわぁーっ」という絶叫が馬蹄型劇場の上階からこだまのように響く。
 ひとつ、またひとつ。
「ふふん、バカなやつら」
 そこかしこで上がる悲鳴を聞いて祐実は場内に響く美しい声で舞台女優のように叫ぶ。
 「舞台より上の個室にいる下種なスケベオヤジどもに言っておく!逃げようとドアに触れれば、我々の設置した電撃装置により感電し負傷する」

 周囲が静寂に包まれる。
 すでに事件の終わりは近いと祐実は確信していた。
 (コイツらにもう抵抗する意志は残ってない。抵抗して傷つくより、拘束された後に身柄を自由にするために自分たちのあらゆるコネを使って今日という日のココにいた事実を消し去るような連中だ。金になんか糸目もつけずにね)

 この中にいる首謀者を特定して身柄を確保して、客たちをまとめて拘束後素性を洗い出す。
 (フフ、どんな大物のオマケがついてくるかしら。長期にわたる捜査の成果、殉職者2名(江梨子・奈津美)だけでセルコン組織壊滅。いいじゃない、祐実、立派よ。霧山補佐官もきっとお喜びになってくださる)


「ANGEL(祐実のコードネーム)、大変です。ショックウェーバーが、地上階から地階層に向かって順に機能停止」

 Pad上におとされたマップに点灯していた客室からの逃亡を防ぐための装置の配置が緑から黄色、赤へと明滅し消えていく。

 明らかに自分たちのオペレーションを阻止する動きがある。
「ショックウェーバーを破壊すれば、付近の破壊者は反射電流のショックで前後不覚になる。すべてが破壊されるわけはない」
 自ら言い聞かせるように祐実は瞳に言った。

「いいえ。違うんです。解除です。解除されているんです。破壊されているんじゃありません。すでに解除率は40%を超えています」

「何ですって!あれを解除できるのは我々か、我々の仲間・・・ま、まさかそれが『仔猫』、弘美か美穂・・・それとも・・」

 祐実の顔色は周囲の者が見ても明らかに蒼白になった。
(ま、まさか、奈津美だって言うの。そんな馬鹿な生きてるわけがない。動けるわけがない)

「涼子、あなたはさっき確実に奈津美を床に打ち込んだわね」
「はい。ご命令のままに。手加減は一切せずに貫通したはずです。常人でも引き抜くことは考えられません」

(奈津美ではない、そうよ、瀕死の状態で串刺しになっている彼女にそんなことができるはずがない。じゃあ誰?!!!まさか、「仔猫」、「仔猫」のしわざ・・一体誰なのよ)

「チッ、この期に及んで不確定要素がっ!」
 祐実は誰に向かって言うでもなく吐き捨てるように言った。
 事件の終息が目の前に迫っているのに自分を邪魔しようとする者がまだ存在する。

(まずは目の前にある邪魔者だけでも排除しておくことが得策のようね。先にこの小生意気なガキを潰しておかなくちゃ)

 意思を固めた祐実は、トリガーにかかる指を一瞬伸ばしてから再びトリガーにあてる。

「はい!はい!はい!はい!はい!はい!そこまで!そこまでぇーっ!明智チーフ、タイム、ターイム!」
「な・・・・・石原・・君。あなた、どうして、どうやってココまで来れたのよっ」
 いきなり舞台の袖から現れた石原に祐実は驚きを隠せなかった。
 石原は瑠璃子を祐実やほかのメンバーからかばう様に立ちはだかった。

「まぁ、まぁ、どこからなんていいじゃないですか。オレは常に特務局の立場としてチーム6の監視勤務があるわけですからね」

 
 


 

 

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