TEST


 

 

**********5th−day Vol.9**********


【 台場 DEX内 にゃんにゃんハウス(裏店)】



「お、おい。ちょっ・・ちょっと、ふざけて耳を舐っただけだろ!」
 客の男の声は焦っていた。

 いきなり可愛がっていた自分の仔猫が悲鳴をあげて騒ぎ始めたのだ。
 自分ではどうすることもできない。
 あわてて仔猫の悲鳴を抑えようと無理やり口を塞いで仔猫はさらに喚き散らす。
 男の焦りようは周囲から失笑をかっていた。

「な、なんなのコレーっ!どうして私こんなかカッコしてるのよ。いやーっ近寄らないで!触んないで!」
 
 女の声はヒステリックに響いている。
 朦朧としている友子を隠れ蓑にシートから体をずらして奈津美が前のテーブルを窺う。
 テーブル上でネコ耳だけのほぼ全裸の女は身を屈めて必死に胸と局部を隠そうとしている。

 周囲を見渡して非常口を示す緑色の照明灯を見つけた彼女はテーブルを降りて、急に放り込まれた別世界からの脱出を試みようとする。

 3人のウエイターが彼女を取り囲むようにして行く手を遮った。

「なんなのよ!あんたたち!どいてよ!私をココから出して!ここはどこなのーっ!!」
 彼女は大声で叫び取り押さえようとするウエイター達の手を振り切って激しく抵抗した。

(自我を回復した?やはり、本当の彼女の素の状態は自分が今まで何をしていたのかまったく認識していない・・・・)

「チッ!仔猫がキーを誤解釈をするなんて・・・あの客、余計なことを!」
 すでに奈津美たちのもとを去って奥のシートの客の機嫌をうかがっていた支配人のジュンが舌を鳴らして足早に前方のシートに駆け寄っていく。
 
 奈津美はジュンの独り言を聞き逃さなかった。

(キー?キーワード?・・やはり催眠か何か・・)
 奈津美は逆に薬物によらずここまで人の人格操作をしているこの犯罪組織にあらためて恐怖した。

「いやーっ!放して!帰して!私を家に帰してーっ!一体なにをしているのっ!訴えてやる!警察呼ぶわっ!」
 足をバタつかせ、大の男が三人がかりで手もつけられぬほど暴れている彼女の前にジュンが歩み寄った。
 胸元のドレスの合わせ目からライターを取り出して手早くつける。

(催眠だ、ライターの火で催眠をかけるんだわ。いい機会、見逃すもんか)
 友子を盾に奈津美は前の席を興味深々に見つめた。

「リリーちゃん、リリーちゃん」
 ジュンが彼女を呼んでも彼女は暴れるのをやめない。
 呼ばれても必死に抵抗を続けてジュンの方など見向きもしなかった。

 彼女はすでに自我を取り戻して自分が飼い猫『リリー』であることなど覚えているはずがなかった。

「困ったわね」
 ジュンがこぼした言葉に客が反応する。
「お、オレは何もやっちゃいない!急にリリーが暴れ始めたんだよぅ」
「お客様、お席にお戻りください。さぁ、お前たち」
 ジュンが手の空いたウエイターを顎で促して客を席へと戻させる。
 ファンタジータイムの和やかな音楽がかえって空しく響いている。
 周囲の客は意に介さぬ者、興味本位で覗き込む者、さまざまだが、店内の動揺した空気は誰が見ても明らかだ。

 恐らくは客たちの一部もこの仔猫と呼ばれる女性達が半ば自分の意思を剥奪され、捻じ曲げられて動いているとは思っていないのだろう。

「仕方ない・・・・。麻美さん、氷川麻美さん。氷川麻美さん」
「えっ、だ、誰?」
 ジュンの問いかけに「氷川麻美」と本名で呼ばれた『リリー』は、はっとして今度はジュンへと振り向いた。

「あっ、香山センセぇ・・・」
 麻美は小さく声をあげたかと思うとその表情が見る間に和らいでいった。
 陶然とした表情でじぃっと飽くことなくジュンを見つめている。
 その変貌を見届けてウエイター達は麻美の手を放して離れていく。

 和らいだと奈津美が見えた彼女の表情はよく見ると抑揚のない忘我の表情だ。

「あなたは解放されるために私のところへ来た。忘れたの?」
「忘れるわけない」

「あなたは苦しんでいたわ。そうでしょ?」
「私は・・・私は2課のトップであり続けなければいけないの。そのために努力も人一倍したし、遊びだって我慢してきた」

 麻美の表情が何かに取り付かれたようにきつい表情に変わる。
「そうね、あなたの営業成績は男性陣も遠く及ばないほど郡を抜いているわ。でもそのために誹謗中傷もかなりのものだったわね」

「えぇ、私が納入先の医長や院長にカラダを売ってまで販路を拡大していると平気で言いふらすヤツラもいたの」

 麻美が製薬会社か医療機器関係の営業であることを奈津美は会話から察した。


「実力で開拓したのにね」
「そう、そうよ。実力よ。私は会社のために、自分のために頑張ってきたのよ」
 麻美はジュンの問いかけに頷く。

「そうね、会社のためだったらあなたは何だってできるわ。営業2課のトップであり続けるために」
「ええ、なんだってできる。私がトップであり続けるためなら・・」

「ウフフ、そうよ。あなたはおしもおされぬ営業部のエースにして若手営業のカリスマだわ。そうでしょ?」
「ええ。もちろんよ。誰にも譲るもんですか」

「なんだってできるわね」
「なんだってできるわ。営業のトップでい続けるために、当然よ。ババアだお局だなんて言わせやしない!」
 麻美の顔には一種の病的な思い込みのような表情が浮かんでいる。

「お得意先には奴隷のように傅いて御用聞きのマネまでしていたのよね」
 ジュンは同情するような悲しげな表情でつぶやく。

「そう、医師ほどわがままなヤツラはいないもの。製薬の営業なんて奴隷以下だわ」
 憎しみにも似た麻美の表情、憎悪の根深さを物語っているようだった。

「フフフ、奴隷以下のあなたは気に入られるためにはなんだってしたのよね」
「そうよ。犬の散歩もキャバレーでの接待だって請われれば嫌がらずにセットした」

「フフフ、フェラチオやイマラチオだって喜んで受け入れた」
「えっ?」
 一瞬躊躇った麻美の前でジュンは再びライターの火をともして自らの顔を照らした。
 そのジュンを見て麻美の瞳がさらに泳ぐように焦点を失っていく。


「だってあなた営業のプロだもの。できないことなんてない。できないことを同僚に悟られたら追い落とされるわ」

「ダメ、ダメよ。あんな技量もない仲間に抜かされるなんてそんなことあってはいけない!」

「SEXだって、SMプレイだって、相手の要求をあなたは難なくクリアーできるわ。できる、あなたなら絶対できる」

「え、ええ!でき・・る。できるわよ。それしきのこと!」
 麻美は少し表情を曇らせたもののジュンに絶対できると言われた直後にはなんの躊躇いもなくなっていた。

「だってあなたは、できるオンナだものね」
「ええ、ええ、そうよ。私は私のプライドに賭けてどんな難題だってクリアしてみせる」
「その意気よ!あなたのお得意様はそこにいる」
 ジュンは客の男を指差した。
「カレは大病院の医局長。そして大のフェラチオ好き」
「医局・・フェラチオ・・・・」


「あなたが独自に調査した。さすがね、あなたの情報網は。チョロイもんよね。そこまでわかっていれば、あとはあなたの手の内でカレを喜ばせてあげれば、後の商談は思いのままよ」

 そう言われると、麻美はまるで自分が優位に立ったようなヒトを小馬鹿にしたような表情を浮かべ始めた。

 ジュンのさりげない言葉が麻美の歪んだプライドをくすぐる。

 男は思いもよらぬ展開に鼻の下を伸ばした。

「麻美さんにこっそり教えてあげる。カレは激しいフェラが大好きよ。そして出された精液は全部飲むの、勿論あなたは知ってるだろうけど」

「馬鹿にしないで。そんなのとうに知ってるわ。私の手にかかればカレだって十分満足するはず」

「おかしいわね。さっきまであなたココから帰るとか警察に訴えるとか裸を見せることを恥ずかしがっていたのにねぇ。せっかくあなたが用意したシチュエーションなのにね」

 ジュンが含み笑いを浮かべて麻美の肩に手を置いて寄りかかる。
 麻美はその手を払いのけた。
「変なこといわないでよ。すべて計画通りよ、私の計画は完璧だわ」
「そうよね、麻美。私は危機感を募らせ精神的に病みかけて相談に来たあなたの心の奥底にアドバイスしただけよ。あなたには武器があると・・戦うための武器が。わかる?」


「フン、私を見くびらないで。何が武器なのか、どこにあるのかなんて聞くつもりもないわ。これは私の営業戦略、セックスなんて、ただのスキンシップ程度のことよ」

 そう言ってジュンを一瞥すると麻美は自ら男のところへ全裸のまま戻っていく。
 豹変した不遜な態度はまったくの別人といってよかった。

「せんせぇ、これから私がたっぷり飲み干してあげるからカ・ク・ゴしてね」
「お、おお。でもオレだってすぐには気をやんねえよ」

「どうだか。わたしのフェラチオにかかればどんな男だってすぐにイクんだから」
 そういうと男のソファににじり寄って麻美はあっという間に股間に頭をつけた。

「おっおぅ、おおっお」
 男の嬌声と麻美の喉と口から漏れる卑猥な音が静まり返った店内に漏れる。

「フン、結局飽きられて30過ぎたあなたは、後輩のコにお得意とられて心病んだのよね、麻美」
 ジュンはフェラチオに没頭する麻美の背後から彼女をせせら笑った。

「どほぉ〜、だひて、もっと勃ててよぉ。喉の奥ふぇ飲んれあげりゅんだからふぁ」
 激しく頭を動かして男のものをしごき上がるようにして吸い付く麻美にはジュン声など何一つ聞こえていない。

「フフフフ、結局は誰だってババァになるのよ、麻美ぃ。アハハハハハ」
 ジュンは高らかに笑った。

「さぁ、お客様、お騒がせしました。ファンタジータイム残りわずかですよ」
 ジュンは妖艶な笑みを浮かべて舞台袖に去っていく。


「あれはアタシの仔猫じゃないよ。どこの誰だい、支配レベルの低い、いい加減な仔猫を作ったのは。まったく、この店の品位も落ちたもんだねぇ」

 潮招きは舞台のそでから様子を見守っている。
 その後ろで数人の男女が萎縮して言葉をなくしていた。
 ジュンは一礼をしてその脇を去っていく。



「それは酷い。ここの仔猫たちは、みな我々組織の中でも駆け出しの『ビギナー』の訓練の場、あなたのような『ブリーダー』が調製を許されるような品位のある場ではない」

 背後からの声に振り向くとそこに人影はなく、ただ1台のパソコンがある。
「おや、ココでの音声は聞こえて、会話もできるのかい。てっきり監視だけが目的課と思っていたけれど」
 潮招きはママに向かって言った。

「お店のほとんどはモニター映像で事足りるわ。でも非常時対応が必要なトコだけはテレビ電話並みに使えないとね」
 ママもモニター越しに潮招きを見て言う。

「あんた今夜のパーティーの準備で忙しいんだろ。こんなところを盗み見しているヒマなんてあるのかい。フン、腰巾着の『クラッカー』も金魚のフンよろしく、くっついてるじゃないか」

 パソコンの画面には、ママとクラッカーが映っていた。

「いつもながら品のないババアだこと。あんたが趣味でその店に肩入れするのはいいけれど、大切な組織の金の卵を萎縮させるような言動は謹んで欲しいわね」

 画面の向こうのママの言葉は落ち着いて丁寧でありながら、どこか潮招きの気に障る言い方をする。
「フン、なら、その金玉がどれだけ組織のためになってるって言うんだい。あんたが多角経営だとか何とか言っておかしな店ばかり増やすから、私達がこき使われてんだよ」

「そのための戦力増強策、若手育成の場ですよ、ここは。あなたの仕事を楽にする将来の担い手達の揺籃の場なのですからぁ」

「フン、聞こえはいいけどね。中途半端な連中を野放しにしてるだけじゃないか!」
 潮招きは語気を荒げた。

「あらぁ、勿論、『ブリーダー』の養成は急務、手当たり次第に素質のありそうな原石を囲えば発育不良のおバカさんたちも多少は出ますわ。そのために我われは最高レベルの使い手を『ハンター』として雇って粗悪品を駆逐してます」

「小さくやってればよかったんだ。お前さんだろう、こんなに馬鹿デカイ組織にしやがって」
 まるで人対人が面と向かって言い争いをしているように潮招きの語気は液晶画面に向かってだんだん荒くなる。
 舞台袖奥のそのやり取りに、ビギナーと呼ばれた未熟の使い手たちが震えながら2人のやり取りを固唾を呑んで見守っている。

「多くのお客様のご要望にお答えしていくには組織の拡大は避けられません」
「ママ、あんたが識者会を言いくるめたんだよ。過去は敏腕のイベントプロデューサーかなにか知らないが好き勝手やってると痛い目見るよ」

 ストレートな言葉が潮招きの口から漏れた。

「それは脅迫と受け取ってよろしいかしら?」
「知らないネェ。ただ常人の事務能力だけでこの組織に食い込もうとしているアンタをよく思っていない技術屋もいるってコトだよ」

「人並みだけの事務能力でここまで成り上がったノーマルと、特殊能力を持ちながらブリーダーの上位ランク『ハンター』にもなれないアブノーマル、この組織ではどちらが重用されるのかしらね」

「あ、あんたっ!!!!!」
 潮招きの顔が一気に真っ赤になった。
「冗談よ。そう怒りなさんな、からかってみただけ」
「ったく、最近の若いもんは・・・。覚えておいで、あんたには一度きっちり口の利き方ってもんを教えてあげるようだね」

 潮招きは肩を震わせて怒りをあらわにしていた。

「よろしくお願いしますわ、ご老体。では、そのお礼にいいこと教えてあげる」

「なんだい。あたしは今日のパーティーにはでないよ。年寄りに夜更かしは禁物だ」
「知ってるわ。そのパーティーのための警察機構の撹乱として都内近県にビギナーたちの力で事件を起こします」

「そう。それはまぁご苦労なこったね」
 憮然としたまま潮招きは聞き流す。
「図らずも、このお店もその一連の事件の発生場所と警察側に疑われることになります」

「な、なんだって。ここでお前、なにか起こそうってのかい!やめとくれよ」
「残念、もう起きちゃったのよ。の店で客同士のケンカ発生、モニター見て」
 ママの言葉に潮招きは舞台袖から液晶を覗き込む。

「あぁっ」
 あとは言葉にならなかった。
 そこには店内で取っ組み合いの喧嘩をしている 陣内瑠璃子と琥南のコピー体・南條静香の2人の少女がいた。


「信じてもらえないかもしれないけれど私のせいじゃないのよ。あの片っぽ、今回のTESTの対象よ」

「な、な、なンてことしてくれるんだい!店がめちゃくちゃになっちまうじゃないか」

「すぐさま手をお打ちなさい。いずれ警察だって駆けつける。今日の警察は終日ピリピリモード、そうしたら裏店だって見つかってしまうわよ」

「あんただね、あんたの謀だね!」
「言ったでしょ、あいつらが勝手にバカやってるの」
「ただでおくもんか!」
「あの2人に言ってよね。そう、もう片方は『とっちゃんボーヤ』のコピー体だから」
「よりにもよって、なんてヤツが来てるんだい。本人もいるのかい!止めておくれよ」

「さぁ?ホラホラ、裏店の責任者としてさっさと収拾なさいな。技術屋としての腕の見せどころよ、アハハハハハ」
「チぃーっ!このオタンコなす!」
 潮招きは舌打ちをした。

「ちょいと!お前たちっ!」
 振り向きざま潮招きは遠巻きに事態を見守りしかなかったビギナーたちを呼びつけた。
 ビギナーたちは潮招きのその声だけで竦みあがる。
 だれも返事すら返せない。
「ココを引き払うよ。お客様だけは丁重に安全にお帰しするんだ。その後、仔猫たちを狂わせるよ」




【 台場 DEX内 にゃんにゃんハウス(表店)】




「また性懲りもなく、私にもお前をコピーするつもり!」
 思いがけぬ展開に劣勢を強いられて瑠璃子は声も弱々しく叫んだ。
 琥南の特異な能力は自分のキャラクターを他人にそのままコピーして、他人を琥南自身が乗っ取ってしまうものだった。

「へへへへへ、知ってるだろ、コピーのコピーじゃ劣化が激しいんだよ。お前には、この南條静香じゃなく、オレ様自身の手でファーストコピーしてやるって決めてんだ」

 清楚ないでたちの静香の口から、ぶっきらぼうな男言葉が出てくるミスマッチに周囲は驚いていた。

「ビデオのダビングじゃあるまいし!あんた結構時代遅れの人間じゃない?」
「へっ、減らず口たたいてんじゃネエ!」
「フン!その言葉そっくりそのままお返しだねっ!『とっちゃんボーヤ、眠れ!よい子』」
 再び瑠璃子が口にしたのは暴走した琥南の回収に学園に現れたブリーダー『ナイトホーク』(4th−day Vol.4)が使ったキーワードだった。

「あぁ〜、あ・・・あ・・・あ・・ん・・んんんん」
 南條静香はそのキーワードで一瞬のうちに瑠璃子の脇へ崩れ去った。
 一瞬にして形成を逆転した瑠璃子はほっと安堵のため息をつく。
 琥南のお守り役『ナイトホーク』が埋め込んだキーワードはコピー体に対しても有効だったことが瑠璃子をピンチから救った。

「ほっんと!進歩のないヤツ!どうしてやろうか!まず、この女から琥南本体の居所を白状させなきゃね」
 やっと落ち着いて瑠璃子はテーブルにあったおしぼりで顔の生クリームを拭う。

 そのとき床に倒れている南條静香に嘲りの表情を浮かべ笑いを租費殺していたのを瑠璃子は気づかなかった。

 周囲の視線は瑠璃子と静香に注がれていた。
 瑠璃子は静香のブレザーのポケットから音叉を抜き取った。

「まいっちゃう!暇つぶしにしては最悪だわ。さて、みなさんっ!」
 瑠璃子は大声をあげて周囲の視線をひきつけると音叉をテーブルの隅に打ち付けた。
 共鳴音が周囲を包み込む。

「この音は心の奥深く、奥深く染み込んでいくよ。とても優しくて気持ちがいい。とても気に入る。みんな気に入る・・・・」
 周囲に目配せをして1人づつ視線を合わせるようにして瑠璃子はゆっくりと体を動かしていく。
 瑠璃子に視線を向けたまま誰一人として動く者はなかった。

「染み込んだ心は解きほぐされて、もう何もなにも考えられない。うぅん、考えなくていいよ。みんなの心は私が守ってあげる」
 ゆっくりと歩き出して近づいた者の肩に瑠璃子が触れていく。
 触れられたものはそのままテーブルの上に眠り込むように上体を突っ伏した。

「なんの心配も要らないよ。もう自分で何も考えなくていい。みんなの心は私が預かったから。私の言葉がみんなの意思になる」
 
 まるで鈴を振るように何度も音叉を共鳴させ、瑠璃子は最後の1人まで堕とした。
 調理場のコックやウエイトレスに至るまでピクリとも動かずにフリーズしている。

「あなたとキミは外で新しいお客さんが入店しないよう止めておいて。満席だからって」
 ウエイトレスとウエイターの中から2人をチョイスして店の外に向かわせる。
 表情のない2人がふらふらと店頭へと出て行った。

「ふぅー、やれやれだ。あとは起きたら何も覚えていないようにし・・て・・・・・・あぅっ痛」
 瑠璃子は急にこめかみを襲った激痛に近い圧迫感に思わず声をあげた。

「ギャハハハ、油断しやがって。進歩のないヤツで悪かったなぁ」
 瑠璃子の背後から静香の声が響く。
 その口ぶりは間違いなく琥南のべらんめぇ口調。
 
「う、うそ!なんで・・・・」
「一昔前の暗示キーなんて通用すると思うほうが馬鹿なんだよ。瑠璃子ネェ、お前ぇの方がよっぽど進歩がねぇんだよん」

「ま、まさか。い、い、い、痛い!痛ーっい!!!」
 瑠璃子は静香の両親指にこめかみを押さえつけられて身動きがとれない。
 その力はすさまじく静香の指は爪の先端まで瑠璃子の頭部に食い込もうかという勢いだ。
 偏頭痛以上に頭の芯にまで刺激が与えられ気が遠のいてしまいそうになる。
(ま、まず・・・い・・)
 朦朧としてきた意識の中で瑠璃子は危険を察知していた。

「予定変更だ。お前はやっぱり超危険だから、ひとまずはオレ様のコピー体・静香の従順な下僕になれ、この南條静香の命令に従え」

「イツツツ、な、なるもんか、お前の・・・奴隷なんかになるもんか!」
 出せる限りの力を振り絞って静香の親指を振り払った。
 こめかみへの圧迫が瑠璃子の平衡感覚を狂わせているのに気づいたのはそのときだった。

 瑠璃子は不安定な足取りで静香と対峙する。
 視界がおぼつかない。
 目をしばたたかせ、何度も頭を振っても視界がまるで歪んだ鏡のように流れる。
 聴覚もエコーがかかったように現実感のない耳鳴り音が続く。

「従うんだ。それがお前には気持ちいい。私の言葉に従うのよ、それがあなたの幸せ。もう従わずにはいられない」

「はぅっ・・・・うぅぅ・・・や、や・・・・やっめぇろぉ・・」

「へへへへ、強がる割にはフラフラよ。足もがくがく震えてるしね、瑠璃子」
 南條静香はイヤらしい笑いを浮かべる。その笑みはまさに琥南そのものだった。

「ち、ちがう、そんなことない。え、えぇっ・う、ウソっ!・そ、そんな馬鹿な」
 今までなんともなかった足が静香の言葉とともに膝が笑ったようにガクガク振るえ支えきれずにその場に両膝をついてしまった。

「ね、言ったとおり。ん〜ん、あなたはもう私に従い始めているの。抵抗はあなたを不安と孤独のどん底に陥れるもの、わかった?瑠璃子様。ウフフ」

 不敵な笑みを浮かべてゆっくりと静香が囁いていく。
「そ、そんな・・・わ、私が・・」
 自分の体が思い通りにならない感覚に瑠璃子の表情は焦りの色を隠せない。

「まさかとは思ってみたってそれが現実、お前はもう・・堕ちている。腕も重くて上がらない。音叉なんて重くて持ってられない」

 静香の言葉が言い終わらぬうちに瑠璃子の腕はダランと下がりきる
 右手から取り戻したばかりの音叉がこぼれ床に小さな金属音とともに転げ落ちた。


「クッ・・ば、馬鹿な・・」
 悔しさに唇を噛みしめて瑠璃子は目の前にまで迫った静香を憎しみのこもった鋭い目で見上げた。
「私には逆らえませんことよ、瑠璃子様。オホホホホ。聞き分けのいい素直なコですわね。そのままそこにお座りなさい」

 琥南は静香の言葉を使って瑠璃子をせせら笑った。
 瑠璃子は苦悶の表情を浮かべて必死に抵抗するが腰からペタンとその場にへたり込んでしまった。
「うっぐぅーっ!どうして、どうしてっ!しっかりしろー足!立て、立つんだよぉーっ!」
 必死にもがこうとするものの瑠璃子の体は頑として瑠璃子の思い通りには動かない。

 ただ瑠璃子の『立て!』の声に反応して気を失っていた周囲の客達が一斉に椅子から立ち上がった。

 異様な光景だった。
 客達はまるで人形のように立ったまま動かない。
 瑠璃子の視線がそれを見逃すはずもなかった。
 静香は瑠璃子を篭絡することに必死のあまり瑠璃子の絡めとった人形達にまで気をとめなかった。


「ムダムダ、抵抗するだけ損だわ」
 静香は笑う。
「そ、損かどうかは私が決めるぅーっ!」
(店の客達を使って逆転できるかも・・・)
 瑠璃子の思考は一気に高回転に回り始める。

「ホントに強情ね。芯が強い女だこと、いたずらのし甲斐があるわね。体の力全部抜けちゃうわよ」

「勝手なこと言わないで!あ、あ、く、くそーっ」
 静香の言葉で瑠璃子はとうとう店の床に突っ伏すように横臥してしまった。
 静香の余裕に満ちた表情で自分を嘗め回す視線に瑠璃子は怒りを顕わにする。


「今まであなたは何人を好き勝手に操ってきたのかしら、瑠璃子さまぁ」
「し、知るもんか!」
「答えるわ、言いたくなくても言わせてあげる。あなたは絶対答えるわ」
 自身タップリに静香は俯いて視線を逸らす瑠璃子の顎を指で掬うように自分へと向かせた。

「・・い、いっぱいいすぎて、お、覚えてま・・ませ・・ん・・・30人はいるかも・・・」

「アハハハ、素直に答えるじゃない。瑠璃子様」

 静香はフフンと鼻を鳴らしてせせら笑う。
 瑠璃子の中に琥南のコピー体である静香の言葉に抵抗できないなにかがあのこめかみへの強力な圧迫で刷り込まれたとしか思えなかった。

「チクショウ!琥南!どこだぁーっ、いるんだろぉーっ、オリジナルぅっ!お前のち○ぽ、踏み潰してやる!」
 語気を強め凄んでもても瑠璃子の体は思うように動かない。

「まぁ、はしたない。いけませんわ、レディがそんな汚い言葉使っちゃ」
 南條静香は余裕の表情でカラカラと笑った。

「見てろ!絶対ただじゃおかないんだからっ!お前たち!この女を捕まえ・・・・」
「私の質問以外に声は出せないっ!勝手に動けない」
「っ・・・・・・・」
 瑠璃子は自分が堕とした店内の客やウエイトレス達に静香を取り押さえさえようとしたのを逆に止められた。

「気づかないと思って?タダじゃおかないですって?そのセリフ、あなたも今までヒトから何度も聞いてきて、どれほど根拠のない負け惜しみかわかってるんじゃない?」

「っ・・・っ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 瑠璃子は唇を噛みしめた。
 静香の呪縛は完全に瑠璃子の声を奪っている。

「どう?自分が弄ばれる立場に立った気分は?」
「・・・・・・・・・」
「いやだぁ?シカト。おら、瑠璃子、答えろよお前ぇ、気分はどうなんだ、あん?オレの命令には逆らえない」

「・・・いいわけない。悔しい・・・。お前なんかの好き勝手にされるなんて我慢できない」
 静香に促されると瑠璃子は答えずにはいられずに本音を吐露する。
 相手の思うままに答えてしまう悔しさに瑠璃子の目は潤んでいた。

「フフフ、そう。悔しい?私に堕とされて。私の質問には答えることができるわよ、ウソつくことなくね。それが快感に変わる」
「決まってるじゃない!」
 心に浮かんだことが堰も切らずに口を突く。それに違和感を伴う爽快感、瑠璃子の思いは乱れる一方だ。
「でも、悔しがるのはまだまだこれからよ。私はあなたにこんなこともさせられるのよォ。おい、瑠璃子立て、立ってオレのためにパンティ脱げよ」

「な・・・・・」
 静香の言葉に今まで力の入らなかった膝がぐっと反応してすぐさま立ち上がった。

「あなたのパンティーは何色かなぁ?ククク」
 静香は再び琥南口調でイヤらしい眼つきを瑠璃子の下半身に投げた。
「あ・・・ぐ・・・・パ・・・・・」
 必死に抵抗する瑠璃子の体は意に反してスカートの裾から両手を中のパンティのゴム部分に指をかける。

「ムダムダ。抵抗できないのは自分自身がよく知ってるでしょ。今まで自分だってそうやって楽しんできたんだから」

 静香は笑いをこらえている。

「わ・・・わたしの・・私の・・パンティーは・・」
 瑠璃子の意に反して口は質問に答えようと勝手に動き出す。
 瑠璃子にとってそれは受け入れ難いものだ。
 ただそれが今現実に自分の身に起きていることにすさまじい怒りが湧き立っていた。

「さぁ、しっかりと答えなさいよ、瑠璃子様?ウフフ柄はついてるの?それとも無地?」
「は、はい。私のパンティーは犬キャラのライトブルーです」
 答えた後は今までの不快感が一瞬にして霧散して爽快感さえ覚える。
 決して受け入れてはならない禁断の感覚、瑠璃子は大きく首を左右に振って否定する。
(チクショウ!思考はまだ私のもの、これ以上アイツに取り込まれたらアタシがアタシじゃなくなっちゃう!)

 焦りがひしひしと瑠璃子の心に沸き立ってくる。
 肉体支配だけで相手が自分を弄んでいるうちに何とか形勢逆転をしなければと瑠璃子は必死だった。

「見せてくれよ、お前のワレメをノーガードでよ。さぁ、めくってみろよ制服のスカートを」
 静香の言葉の端々に琥南のべらんめぇ口調が見え隠れする。
 静香に促されると瑠璃子は何の抵抗も出来ないまま制服のスカートをゆっくりと両手で捲り上げた。

 瑠璃子のおま○こが静香の前に晒される。
 静香に、そして琥南に対する憎悪が瑠璃子の中で燃え上がっていく。

 静香はゆっくりと瑠璃子に歩み寄る。
 静香の細くキレイな指が瑠璃子のあらわになった割れ目をゆっくりとなぞっていく。
「フフフ、不快感は一切感じない。痺れるような快感だけが全身を突き抜けていくわ」
(はぁぁぁぁ・・・あぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・)
 全身を襲うえもいわれぬ快感に瑠璃子の表情が緩みだす。
 それを屈辱という怒りが必死にかき消して瑠璃子の強い意志の目が静香を貫く。

 瑠璃子の刺すような視線に気づいて静香はにやけながら口を開いた。
「瑠璃子さま?今何を考えていたのか教えて」
「えっ・・・・」
 瑠璃子の背中に冷たいものが走る。焦りはさらに加速度的に増していく。
 静香に向けた敵意に似た視線から危険な思考を察したからに違いなかった。
 瑠璃子の焦りから来る落ち度だ。

 抵抗空しく口はさっきよりも緩やかに瑠璃子の思考を言葉に代えた。
「思考はまだ私のもの、肉体支配だけで相手が自分を弄んでいるうちに何とか逆転をしなければ・・と」

 そして言い終わった後に瑠璃子を襲う静香への服従を示した爽快感。
「チッ」
 思い通りにならない自分に瑠璃子は舌打ちをする。
「そうよね。今はまだ感情はあなた個人のもの。なら、そのココロも早々に頂いちゃおうかな。どぉ?あなたもそろそろ私に心を預けてみない?」

 さっき瑠璃子が店内の客に言ったのと同じようなセリフに瑠璃子自身が戦慄をおぼえる。

 瑠璃子の意図がわかった今、琥南にもはや瑠璃子の精神に自由を与えておくつもりもなかった。

「や、やだ。やめて・・」
 瑠璃子の表情に暗い絶望という陰が浮き立つ。
「大丈夫、あなたほどの使い手だもの。大事に使ってあげるわ。オレのオリジナル体を組織から守るボディーガードとしてな、ククククク」

「声を返してあげる。ただし、あの人形達への命令は許さない。そうでもしないとあなたがあなたでなくなる最後の瞬間も声が出ないと面白味半減だもんね」

「や・・いやぁーっ」
「そう思うのも今のうち。カラダもココロも琥南に捧げるいたいけで従順なデリカシーのある女の子になるよう作り変えてあげる」


 ポケットに手を入れるとゆっくりとその中で何かをつまんだ。
「あなたに珍しい蟲を見せてあげる」
「む・・・むし?」
「変幻自在、七色に輝き、外皮の突起を自由に伸縮形成する特異な蟲。あらゆる毒素を出して相手に刺激を与え、寄生した動物の行動・思考を操るの。人にも寄生する珍種、艶蟲(あでむし)」

「あ、あでむし?」
「フフフ、すっごくグロテスクだよぉ。瑠璃子様の恐怖心を刺激すること間違いなしっ!ちゃ〜ん、ホラ!」

 静香は一瞬もったいぶった後にパッと蟲をつまんだ右手をポケットから引き抜いて

「い、いっやぁーっ!な、なにそれっ、い、イヤっ!お願いだから近づけないで!あたし、そういう変てこな形で動く虫キラいっ!」

 瑠璃子は思わず目の前に出された静かの手から悲鳴をあげて体を捩るように必死に遠ざけようとする。

 その蟲の形状といい、動き方といい、色といい、瑠璃子にとっては最も嫌悪感の湧く条件をそろえていた。


「ほらぁ、よく見なよぉ。ほらっ、見ろっつってんだろ、このアマ!ギャハハハ、楽しいぜぇ」

 静香は面白がって瑠璃子の目の前に自分の手を近づけていく。
「やめて、やめてってば!そんな気持ち悪いの近づけないでぉーっ!」
 瑠璃子の毛嫌いの仕方はまるで普通の女子校生そのもので、あの自信と身勝手さを隠そうともしないふてぶてしい彼女の一面は垣間見ることすらなかった。

 静香はそれをまたからかうように蟲を持った手を瑠璃子に近づけては面白がった。






【 新宿 会員制喫茶SEA-BOSE 】



 2人の男女がモニター画面の映像を食い入るように見ていた。
「なんか見えるんですかね、瑠璃子には」
 クラッカーがモニターに映る怯えきった瑠璃子を見ながら言った。
「なにしてんの、あの馬鹿ムスメたちは」
 ママもクラッカーも音声のない画像だけをモニター越しに見ながら首をかしげた。

「多分、あの琥南のコピー体が手に持ってる何かを瑠璃子が嫌って逃げ惑ってるってトコなんじゃない?」
 クラッカーはママの問いかけに答える。

「何かって?何?あのコは何も持ってないじゃない、カメラに映らないほど小さいのかしら?」

 確かにママの言うとおり、店内の監視カメラを利用したモニター越しに、静香が瑠璃子の前にかざす右手には蟲どころか何も映っては見えなかった。

「違うね、ママ、瑠璃子には見えるんだよ。あれほど身を逸らしてまで逃げ惑うほど嫌いな何かが琥南のコピー体の手にあるように見えるのさ」

 クラッカーはそういうとため息をついた。
 勝負が見えた、そんな印象を受けたのだろう。
「そう考えれば合点がいく。おそらく・・・・堕とされたね、瑠璃子は」
 瑠璃子はすでに琥南のコピー体・南條静香に堕とされて、脱出する糸口すら掴めず、どっぷりとその呪縛に填まっているように見えた。

「幻滅だわ。だったらあのコは琥南の馬鹿に自分の大事なところを掴まれたまま、それを跳ね返せずにからかわれてるって言うの?」

 ママはため息どころか怒りさえ覚えている。
「見てごらんよ。あれは演技には見えない。おそらく彼女は琥南に運動機能と視覚・聴覚・触覚・嗅覚、まあ味覚はどうかわからないけれど五感は完全にとられたね」

 モニター越しに映る怯える瑠璃子の表情を指差してクラッカーは言った。
 以前の自信たっぷりの憎たらしい高飛車な女子校生の姿はそこにはない。
「ほんとぉ?」
 ママはさらにモニターを凝視する。
「圧迫催眠法、古典的な方法だよ。血流を鈍らせて貧血状態を引き起こし意識を遠のかせたところで意識の深層域に暗示を埋め込む」

「古ぅ〜。今どきショー催眠でも使わないわ」
「驚愕法よりも確実性は高いし、肉体支配なら容易だよ」
 クラッカーは冷静だった。

「どうしましょう。TEST前の大事な時だってのに直前でTEST生が堕とされるなんて、識者会になんて報告したらいいのよ」

 ママは困惑の表情を隠せない。
「規定によればTESTは中止、素材は廃棄処分。それに、選出者はペナルティ・・・」
 クラッカーの顔が曇った。

「きゃーっ、い、イヤよ。それじゃ私、識者会からお仕置きになっちゃうじゃない」
「まぁ、そうなるか・・と」
「なんとかしなきゃ!私が破滅するぅっ!なんとかしなきゃ、なんとかしなきゃ、なんとかしなきゃ、なんとかしなきゃーっ!」

 ママは本気でうろたえる。

「TESTの規定では我われは直接手を出せない」
 クラッカーは冷静。
「いや、いやよ。いやいやいや!」
 ママは駄々をこねる子どものように体を左右にねじって騒ぐ。

「でも、なんとか事態は打開できるかも」
 モニター越しの映像を見ながらクラッカーはつぶやく。
「えっ、ほんと?」
「ホラ、裏店に動きが出てきた。そろそろ自爆解散だね、オレの店と同じように・・・。表店に裏客が逃げ込んで紛れ込み一気にパニックになる」

「あなた、まだ自分の店を潰された(4th−day Vol.5)ことを根に持ってるの?」
「オレは結構執念深いんだ。ん?」
 クラッカーは表店の店先のモニターに見覚えのある人影を見つける。

「マ、ママ!ママ!こ、コレ見て!ちょっと!」
「なによう。それどころじゃないのよ、私は今・・・ん?」
 モニターには瑠璃子に操られ店内への入店を断る命令を受けた店員の指示を無視して押し入る2人の人影が映っていた。

「こ、ここここっこっ、琥南!」
 そこにはあの『とっちゃんボーヤ』琥南の姿があった。

「ナイトホークも一緒だよ」
 クラッカーは映像越しにその本人を指ししめす。
「ど、どォーしてココに来てるのよっ!まさかナイトホークのヤツ!琥南のオリジナル体の回収に失敗して逆に堕とされたんじゃないでしょうねぇーっ」

 ママの焦りっぷりはさらにテンションが上がっていた。
「ど、ど、どうする?ママ、規定では何があろうと俺達には手が出せない」
 ナイトホークは半ば楽しんでいるかのように動じない。
「まずいじゃない!まずいじゃない!まずはナイトホークに連絡を取るの!あいつは無事なの?それとも堕ちちゃってるの?それ次第で展開が変わるわ」

「ママ!こっちのモニターにもう一つ」
「なに!なんだっていうの?」

 店内の別モニターにはナイトホーク達より先に1人の女子校生が入店して来た姿が映っている。
 彼女は明らかに誰かを探して周囲を見渡している。

「だれ?だれなの?なんで勝手に入ってきてんのよ」
 ママはヒステリックな声をあげる。
「知らないよぉ。でもあの制服、瑠璃子のヤツと同じだぜ」
「また琥南のコピー?どうなっちゃうの?もぉイヤーっ」

 そこには高卒新人婦警の深田茶羅(5th−day Vol.1)の姿があった。
 モニター越しには茶羅の口から漏れる言葉は伝わらない。
 彼女はまるで歌のように何度も繰り返し同じ言葉を口ずさんでいた。

「私は、祐実チーフのためだけに行動します。私の精神を蝕んで、私の大切な祐実チーフを襲わせた憎むべき陣内瑠璃子を刺し違えてでも連行します。瑠璃子が私を再び取り込もうとしたら、祐実チーフから頂いたショック弾のスイッチを躊躇することなく押します。私は、祐実チーフのためだけに行動します。祐実チーフの命令は絶対です」

 彼女の操られた冷徹な目が店内のターゲットを探し出す。



【 台場 DEX内 にゃんにゃんハウス(表店)】



「ふ、ふぅぅぅぅぅ、いっやぁ〜、やだ、蟲ぃ、蟲が入ってくるぅぅぅぅ」
 瑠璃子は立ったまま腰をグラインドさせている。
「か、こ、こ、腰が・・・・あんん、腰が・・勝手に、ひゃんっ・・動いちゃぅぅぅ〜」
 手は虚空を掴んだり、自分の胸や股間へとのびる。
 蟲を取ろうとあがく手はどうしようともその実体なき蟲のシッポさえ掴むことはできなかった。

 スカートはすでに静香によって外されていた。
 すでに瑠璃子の下半身はなにもつけていない。
 上半身さえ前を剥がされて形のいい乳房があらわにされ、ピクンと乳首を固く立たせて快感の波とともに揺れていた。

「いっやぁっぁっ!動かないでっ!私の中で動かないでぇぇぇーっ!」、
 チリチリと頭の芯が灼けるように痺れ、その周りを今まで感じたこともないような幸福感が支配していた。
 全身には未経験の快感という快感が間断なく押し寄せていた。

 瑠璃子の動きは少しづつすこしづつ鈍くなった。

 身の毛もよだつ奇怪な蟲が自分の膣からゆっくりと中に押し入っていく不快感はすでにまったく感じない。
 その蟲が引き起こす自分のカラダの変化をいつの間にか受け入れてしまいそうになっている自分をとめることもできずにいる。

「大丈夫。その蟲はすぐにあなたと同化する。あなたのクレバスから子宮の奥深くに住み着いてあなたのココロを導くわ」

 静香は瑠璃子の耳元で囁く。
「きゃっふぅぅぅぅぅんんん、動いてるぅぅ、うにうに動いてるよォ〜。き、気持ちいい、とけちゃうよ〜、とろけちゃうよぉ〜」


 瑠璃子の言葉に店内にいる瑠璃子の堕とされた人々全員が身もだえしていた。
 ある者は床に倒れこみ、ある者はテーブルの上に突っ伏して、快感に昂揚しながら胸を揉みしだき、股間へと手をまさぐり、スカートをズボンを濡らしきっていた。


「蟲は琥南に飼われる艶蟲(あでむし)。その蟲に同化されるあなたもすぐに琥南のことを絶対的な主人として崇め従うようになるわ」

「こ、琥南・・・・」
「そうよ、いま、あなたに与えられているその気持ちよさすべては琥南のおかげなの。琥南のために尽くさなくてはね、瑠璃子」

「琥南、琥南、こな〜んんんんんん、気持ちいいよぉぉぉぉ」

 瑠璃子の言葉に店内にいる瑠璃子の堕とされた人々全員が身もだえしていた。
 ある者は床に倒れこみ、ある者はテーブルの上に突っ伏して、快感に昂揚しながら胸を揉みしだき、股間へと手をまさぐり、スカートをズボンを濡らしきっていた。


「その蟲は男と女の混ざった体液が大好物。あなたはその蟲のためにいつも男を自分の中にひきいれずにはいられない」
「うううううう、しびれちゃう、とけちゃう、こわれちゃうよっぉぉぉぉ」
 瑠璃子の意識はすでに遠のいているようだ。

「蟲はあなたのココロを刺激して常に男を求めさせる。この世のものとは思えないこの快感を味わったあなたは、何の疑問も躊躇いもなくこれからはSEXを楽しむ」

「きもちぃぃぃぃぃ、もっと、もっと・・もっっっとぉぉぉぉーっ」
「あなたにとって男を誘うことは快感を得ること。それは疑うべくもない自分の意思。蟲にとって生きる糧を得ることは宿主の意思を操って濡れきった膣内に男の精液を流し込ませること」

「ふぅぅぅぅぅん。ふぅぅぅぅぅんんんんん。いい、あぁぁぁ、いい、いいよぉ」
 瑠璃子の目から涙がこぼれている。
 その顔には悲しみの色はまったくない。
 その表情は快感が駆け巡って微笑んでいるようだ。

「あなたの大事なヒトはだあれ?答えなさい瑠璃子」
「だ、大事な・・ヒト・・ぉ?」

すでに鈍化した意識の中で静香の詰問に瑠璃子の脳裏に浮かぶ人物がゆっくりと鮮明になっていく。

「あなたは今まで誰のことを思って生きてきたのかな」
「ぼ、ぼ、ボク・・ボクは・・・・」
 瑠璃子は意識はすでに快感に絡めとられ静香の問いかけに何の疑問もなく答えていく。

「ボク?アハハハハハ、あなた、自分のことボクって言うの?」
「マ、ママが・・・ママがTESTの時だけは目立つような・・・人物特定されるような言葉遣いは・・・・・ひゃっ、いいいいいいいいいいい、きっもっちいいい」
 瑠璃子は立ったまま全身を振るわせていく。

「フフフ、するなって言ったの?ボクっ子じゃ目立つから」
「し、しらない、知らないよぉ。ボクは、ボクは昔から。おにいちゃんと2人っきりのときからボクって言ってたんだからはぁ・・・・・・・」

 呂律が回らなくなってきていた。
 口元からは涎が垂れて糸を引く。
 内腿からは際限なく開ききった瑠璃子のオンナの部分から滴る液で床が濡れ始めている。

「お兄ちゃん・・・フフフフ、あなたの大切なヒトっておにいちゃんなの?」
 静香はあの傲慢な瑠璃子の堕ちっぷりと予想外の答えに苦笑する。

「あん、あんんんん、あぁぁぁぁぁ、おにいちゃん、おにいひゃん・・・おにいひゃぁぁぁぁん、いいよぉ、きもちいいいよぉ。ボク、ボク、感じちゃってるよォォォォ」

 瑠璃子はすでに抵抗することすらできなくなっていた。ヨガリ声だけが店内に響く。

「ふふふふ、あなたブラザーコンプレックスさなの?あなたもただの人間だったってコトね」
「あん、あんんんん、あぁぁぁぁぁ、おにいちゃん、おにいひゃん・・・おにいひゃぁぁぁぁん、いいよぉ、きもちいいいよぉ。とろけちゃってる、なにがなんだかわかんないよぉ」

「フフフフ、そんなにおにいちゃんが大スキならね、これから琥南の奴隷になるあなたにステキな一言をプレゼントしてあげる」
 静香の笑みは勝ち誇った余裕に満ちたものだ。

「ああああ、もっと、もっと気持ちよくしでぇぇぇぇ、感じちゃう、イっちゃう、イっちゃうよぉ。突いて、奥までグリグリしてよぉ!蟲さ〜ん!!!!!」

 瑠璃子はすでに乱れに乱れ、自信に満ちた先ほどまでの強気な態度は消えうせ、術者に堕ちたただの女子校生に成り果てていた。

 瑠璃子の耳元に静香は息を吹く。
「きゃふっぅ〜ん」
 瑠璃子はそれだけで快感にカラダをビクビクと震わせた。
「おにいちゃんは琥南、あなたの大事なおにいちゃんは実は琥南。琥南があなたの大事なヒト、おにいちゃんだったのよ。それをココロに刻みなさい。蟲はやがてあなたに同化する。そしてあなたは大事なおにいちゃん、琥南のために尽くす」


「おにいちゃん・・・琥南・・・・琥南・・おにいちゃん・・・琥南お兄ちゃん」

 瑠璃子は虚空を見つめて何度もその言葉を繰り返した。
 見えない相手にしがみつくように両手を輪にして抱え込み、ぱっくりと捲れてヌレヌレになった自分の腰を見えないおにいちゃんに押し付けてぐりぐりと動かしていた。


「・・なん・・おにいちゃん・・・・こなん・・おにいちゃん・・・」
 瑠璃子は涙を流しながら、いもしない相手を抱きしめて呼び続けてた。

 その背後からまるで夢遊病者のように独り言を口にしながら深田茶羅が歩み寄ってくるのを瑠璃子は知る由もなかった。

「・・・動します。私の精神を蝕んで、私の大切な祐実チーフを襲わせた憎むべき陣内瑠璃子を刺し違えてでも連行します・・・・・」

 
 


 

 

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