TEST


 

 



《前回までのあらすじ》
 組織売春のシンジケート『セルコン』の大規模な人身売買オークションの情報を掴んだレディースワット チーム6は、いよいよ当夜の組織壊滅作戦に向けて着々と準備を進める。自身の昇進に固執するチーフの明智祐実は非合法な洗脳薬まで用いてチーム内の掌握を謀っていた。
 
 元・チーフであり、過去の事件で責任を取り降格となった伊部奈津美は祐実の不審な行動を察し、隊員たちを守りたいと考えていた。各チームの統括である局長の伏見紀香はそんな奈津美の意を汲んで彼女を作戦に帯同し一部始終を監察する監査官に任命する。
 
 一方で組織『セルコン』は陣内瑠璃子の名を騙る得体の知れぬ女子校生が持つ、人を操る異質な能力に興味を示し、彼女の力を試すため「TEST」と称して課題を与える。陣内瑠璃子を騙る彼女はその力を使い、たびたびレディースワットに接近していた。
 
 いよいよ作戦実行が当夜という日、本庁所属でレディースワットの監視役でもある特務局の石原から、伊部奈津美に別件捜査の動員要請があり奈津美はやむなく承諾する。ただし、彼女に出た動員要請の指示には男装での参集が条件となっていた。

 一方、明智祐実のもとに別機関から深夜に届けられたものとは・・・・・・。



**********5th−day Vol.2 **********






【 PD(通称:パドック) レディースワットチームの拠点 】


 ETCシステムを応用した敷地内の無人検問システムを3箇所すり抜けて1台の白い商用車バンが最後の有人検問所にたどり着いた。

「どうも、科警研科情第1研(かけいけんかじょうだい1けん:科学警察研究所・科学情報第一研究室)藍本です」

 検問所の窓から上半身を出して車内をうかがう警備担当に身分証を渡して壁に設置された指紋認証スキャナに指を押し入れた。

 すでにETCでの情報取得で車種識別と搭乗者情報はモニターに表示されている。
 指紋のスキャニングと身分証の照合はさしてかからなかった。
「用向きは?」
「チーム6の明智チーフからの要請によるもので機器搬入です」
「こんな時間に?」
「えぇ、こんな時間に」
 訝る警備担当に藍本も苦笑する。
 すでに時計は深夜3時を過ぎている。
「許可証は?」
「あるわきゃないでしょ、急に呼び出されて。要請されたモノができたとメールを入れたら『今持って来い』、『すぐ持って来い』ですモン」

 藍本は半分怒ったような捨て台詞を吐いた。
 警備担当はいきなり怒鳴り散らした藍本に眼を丸くする。
 脂で汚れて曇る黒ブチめがねにボサボサの長髪と肩にフケが浮き、着崩したワイシャツの襟は茶色く薄汚れている。

 身分証と車だけが本人の身元の確かさを唯一証明しているといういでたちだった。

「本当なら宅配便かなにかで送るつもりが直接持って来いって言われたんですよ」
 落ち着きを取り戻し、藍本は憤然と大きなため息をついてゆっくりと言った。

「時間外なので確認後、この場で入署許可証発行をする。そこで待機を」
 警備担当が所内の携帯電話で署内内線を打ちかけたとき「その必要はない」と声がした。

 視界に入った祐実の姿を見て警備担当は慌てて敬礼する。
 上級官としての威厳が溢れんばかりに祐実の態度は冷たく高圧的だと傍で見ていた藍本は感じた。

「本日の作戦のための緊急手配だ。時間が惜しい、私のサインでよろしいか」
 祐実はそういうと警備担当の脇にある申請書類に眼を移した。
「い、いいえ。明智チーフのIDパスで結構です」
 警備担当は祐実の身分証をカードリーダーに通して記録を終えると検問のバーを上げた。

 祐実は「ありがとう」と、うって変わって優しく微笑むと手に持っていた缶コーヒーを警備担当に手渡す。

「あっ、ありがとうございます、いただきます」
 明らかに自分より年下である祐実に警備担当は恐縮しながら缶コーヒーを受け取る。
 優しく微笑みかけて「はい、どうぞ」と渡された祐実と先ほどのギャップに警備担当は戸惑いを隠せない。

 年頃の女性の屈託のない微笑みに警備担当も思わず相好を崩す。

 すぐに助手席に祐実が座った。
「検問システムであなたの来たのがわかったから出迎えてあげたの。行きましょう、この先のC駐車場に入れて」

 目も合わさずに前を向いたままで祐実は藍本に指示する。
「はい、はい。千葉県警の科捜研研修で知り合って以来の再会だって言うのに挨拶もなしですかい!」

 呆れながら藍本はアクセルを踏み込んだ。




【 PD(通称:パドック) レディースワットチームの拠点 待機・宿泊フロア 】


 チームスタッフは作戦の開始に合わせてPDに寝泊りをする。
 そのためビル内にはベットとデスクだけ置かれた15平米ほどの個室が50室ほど用意されている。

 今日そこには作戦を直前にひかえているチーム6の面々のみが待機していた。


「うぅ・・・あぐ・・・・・・うぅ・・・・」
 窓のサンシェードの隙間から漏れる遠く繁華街のネオンの明かりに照らされて奈那は部屋のベッドでうなされていた。

 全身は異常なまでの発汗に襲われていて、ブランケットはずり落ち、タンクトップもショーツも汗が滲んでいる。
 
 室内空調は切っていた。
 真冬の狭い部屋の暗がりの中、無意識のうちにスウェットの上下も脱ぎ捨てて奈那は下着姿のまま汗みどろだった。

「はっ!はぁぁーっ、はぁーっ、ううううぅ」
 上半身を起こして肩で息をする。
 体は高レベル訓練の後のように鉛のように重く、激しい頭痛に表情が歪む。
 全身が別人のもののように動かなかった。

 不快感はそれだけに留まらない。
「うっ、うぇ、えぇえゲええええ」
 トイレに行くこともままならずにベットに倒れこんで床に向かって嘔吐する。
 口からは胃液の不快感だけが込み上げる。
 吐瀉できるものなど何もなかった。

 奈那がゆっくりと顔を上げる。
 しばらく自分の手のひらを見つめながら、汗に滲んだ手を握ったり開いたりを繰り返す。
 自分の思い通りに動くことを確認するかのように。


 やがて震えの収まらない右手でぎこちなく額の汗を拭った。
「ち、ちく・・・しょう・・・、祐実のヤツ!」
 脂汗の流れる頬、しかし奈那の眼には自分を取り戻した意思の光が戻っていた。

 作戦決行当日、午前4時25分。



【 レディースワットチーム6 チーフ室 】


「大体ね、壊れた古いパソコンのハードディスクの復活なんて、自分でやるべきなんだよ」
 藍本は怒りが収まらない。始終愚痴りっぱなしでもってきた旧式のパソコンと真っ白なCDを取り出した。

「ごめんなさい。私にはできないからあなたを頼ったの」
 淹れたてのコーヒーを藍本の前において祐実は顔を曇らせた。

「ま、まぁキライじゃないからな。それに祐実ちゃんのたっての頼みって言うのなら、僕『レディースワットおたく』でもあるし、デヘへへ」

 祐実の困った顔一つで藍本を黙らせるには十分だった。

「これがディスク内のファイルをコピーしたものだよ」
 透明なケースに入った真っ白なCDをヒラヒラと見せびらかす。

「ありがとう、藍本さん」
 祐実が差し出した手のひらにCDが載るかどうかのタイミングで藍本は、すっとCDを戻した。

「おっとぉ、ヒトにもの頼んどいて、しかもディスクの内容に干渉しないように条件までつけさせて、完了するや否やわざわざ僕に持参させて、「ありがとう」で終わらせるってかい?」

 パソコンチェアにふんぞり返りくるくると回転しながら藍本は意味深な笑みを浮かべた。

「・・・・」
「このパソコン、僕たちが研修中に脳梗塞で死んだ研修主任の草野さんのパソコンだよね」

 祐実の藍本を見る表情が凍る。

「そう驚くなって。宅配で祐実ちゃんから送られてきたボロパソコン、ちょっと気になって見てみたら備品番号の打刻があったから調べたのさ」

「備品番号?」
「どこの管轄の持ち物なのか、誰が使っているのか、導入時期、廃棄時期、全部管理されてんだよ。なにせ官品ですからねぇ。祐実ちゃんの個人パソコンかと思ってたから、調べてみて2度びっくりだね」

「・・・・・・・・・・・・・」
 祐実は表情を変えない。

「草野さん、祐実ちゃんに研修中ベタベタくっついてセクハラまがいのことしてたよねぇ」
 藍本は楽しむように思い出し笑いをする。
「そう怖い顔すんなって。ただ思い出話をしてるだけじゃないか。僕たちが一緒に働いていた頃の・・」
「時間がないの。早くそのディスクをちょうだい」

 祐実の言葉を藍本は無視する。
「いっつも祐実ちゃん廊下やトイレで泣いてたんだって?仕方ないよね、先生と研修生のペアの組み合わせは決められちゃってたし、あのヒト、あれでも主任だったから」

「いつも自分ひとりだけ残されて、ひどい思いをしたわ。誰も助けてくれなかった」
「あのヒトはその辺、狡猾だったからさ。我われの前の研修生はそれで職場に訴え出たものの逆に左遷の憂き目に遭った、研修態度不良のレッテル貼られて。だから草野さんの同僚たちもうかつに注意できなかったんだとさ」

「それも、それも聞いてる。しかも草野本人から・・・」
 祐実が知っていたことで期待通りのリアクションじゃなかったのが不満だったか藍本は「ふ〜ん」と鼻を鳴らせた。

「あの頃の祐実ちゃんは、まるで新人アイドルみたいに可愛くて、従順で、純粋にみえたなぁ。それが今や泣く子も黙るレディースワットのチーフにまで昇りつめちゃってる。『ネンネ』なんてアダ名で呼ばれてたコがさ、ここ数年で大出世」

「私の努力よ」
 祐実は冷たく言い切った。
「ホホ、言ってくれるじゃないか。あの時、祐実ちゃんに草野さんと「なにか」あったんじゃない?」
「なにかって?」
「僕が聞いてるんだよ。ここまで使われた『ご褒美』をもらわなきゃ」

「なにが望みなの?お金?時間がないの、さっさと言って」
「またまた、すぐ結論を急ぐんだから。草野さん、祐実ちゃんに何したの?教えてよ、お尻触られた?胸も揉まれたのかな?キス?それとも食べられちゃった?グフフフ」

「話す必要なんてない」
「あーあ、つれないんだぁ。ディスク渡してあげてもいいけど草野さんのファイル、全部暗号化されてるよ」

「えっ・・・・」
「パスワード2回違えるとファイルが消滅する過激なオプション付」

「藍本さん、じらさないで。私に力を貸してよ、協力してくれれば悪いようにはしない」

「さて、解読に何日かかるかなぁ?それとも見られちゃマズい内容だったり〜?祐実ちゃんと草野さんの嵌め撮り写真とか」

「あ、藍本さん、ファイルを見たの?」
「あっれぇ〜?図星かい?だったら余計見たくなるなぁ。単純なディスク情報の復旧だったらなにも僕に頼まなかった、暗号化されてることがわかって僕に頼んできたんだろ?」

「中身、見てないのね」
「僕ならすぐにココでファイルをオープンにできるよ。それだけの準備はもうしてあるし解除コードは共通の1種類」

「や、やっぱり開いたのね、ファイル」
「ぶっちゃけ開かなきゃ解除キーが合ってるかどうかなんてわからないだろ。君に敬意を表して一番当たり障りのなさそうな研修報告のファイルを選んで試したけどね。ほかにも薬品成分の配列ファイルなんかあったようだよ」

「薬品成分の配列表・・・・・・」
「あのおっさんの分野だったろ。薬品名がファイル名になってた、OXGとかLDとかEZとか。でもたまたま開いた研修報告に興味を引く超極秘内容を発見したんだ」

「ふぅん・・・」
 祐実の眼光が光る。
「さて、パスワードと引き換えに祐実ちゃんは何を僕にくれるのかな」
 ふふんと藍本は鼻の下を指でこすった。
「ずるいわね、自分から条件を何も提示しないなんて」
 祐実はデスクの上に腰掛けた。

「お互い様さ、祐実ちゃんだって僕にこのディスクに何の目的があって復旧させたいんだか説明がないもんね〜ぇ」

「あなたには関係ないわ」
「おうおう、ひねくれたもんだ。あの清純だった祐実ちゃんがどこをどうすればこんなになっちゃうんだか」

「余計なお世話よ。私は偉くなりたいだけ」
「このまま帰っても僕は一向にかまわないんだけどね」
「男の欲望なんて、えてして似たり寄ったり。お金か女、地位か名誉」
「オタクの価値観はそう簡単にはいかないかもしれないよ。金なんてシケた金額言ったとたんに帰っちゃおうかな、交渉決れつぅ〜なーんて」

 藍本はフフンと笑って祐実の左横にぴたっと肌を寄せて立つとおもむろに腰に手をまわした。。
「イジワルね」
「どっちが意地悪だい?」
「少しムチが必要かしら?」
「ありゃりゃ、怖いね」
 藍本の手は祐実の腰骨のあたりからヒップを撫で回し始めた。


「藍本政樹、28歳、独身。警察庁科学警察研究所の科学情報第一研究室主席研究員。犯罪心理解析の卓越した技量の持ち主」

「はいはい、なんですか?今さら僕のプロフィールなんて」
「裏では会員制の盗撮・盗聴サイト「ピーピン愚 キラー愛(EYE)」の管理人」
「えっ・・・」
「休日や深夜に1人暮らしの女性宅に忍び込んで盗聴器やライブカメラを設置してサイト上で私生活を公開している盗撮マニア」

 血の気の引く藍本の顔を見ながら祐実は口元に薄ら笑いを浮かべる。
「現在サイトカメラは都内を中心に60人の女性宅に設置され、約500人の会員から毎月1万ずつの会費を得ている。うわぉう、月500万よ、リッチぃ〜」
 祐実はおどけて見せたが眼は笑っていない。

「ま、まさか・・・・・」
「カメラは月に1、2台ペースで増設を目標にし、四半期に1度は『ライブ』と称してライブ中継強姦を敢行する強姦魔でもある」

「麻布クロロホルム強姦事件、道玄坂ビューマンションクロロホルム強姦未遂事件、市ヶ谷、代々木上原、自由が丘の事件もみんなあなたでしょ、どう?」

「い、言いがかりだ!」
「最近は会員からの要望から盗撮女性のタイプもかなり多岐にわたってきたけど、こと強姦する女の好みは自分の趣味なのよね、藍・本く・ん」

「か、帰る!」
 藍本はパソコンチェアから勢いよく立ち上がるとドアに向かって逃げるように歩き出した。

「巨乳でストレートのロングヘアー、それに制服フェチでしょ。クロロホルムを使って女性を昏睡させるのは持参した制服を着せるためともう一つの理由から」
 
 藍本がノブに手をかけたがノブはびくともしない。
「く、くそっ、開かない」
「無駄よ、ドアの開閉制御は私のデスクからできるの」

「と、とにかく知らない。僕は知らない。いくら君だって名誉毀損で訴える」
「あなたが生きがいを感じているのは用意周到に調査した女性に制服を着せるとき、見立てた制服のサイズがぴったり合ったとき。そして鋏で制服姿の女性を裂きながら犯すとき」

「ウソだ!でっち上げだ!い、い、いい加減にしろ!」
「制服は2着用意していくのよね。切り裂きながら楽しんで犯すために1着、犯したあと着せ替えて撮影してコレクション用にもう1着」

「・・・・・・・・・」
 藍本は顔面蒼白で何も言えない。
「制服は歌舞伎町のアダルトショップ『ギエロン』で主に購入」
「な、な・・・・・」

「犯した女性の携帯番号やアドレスを盗んで警察に知らせないよう強請りもした。本人が昏睡状態で嵌め撮りされた画像添付で」

「・・・・・・・」
「そして特筆すべきは眠って無防備な女性を犯すことでしか、あなたは射精することができない。体液を残さないためコンドームは欠かさない。犯したあとは女性の寝顔やオマ○ンコの写真を採取してデータベース化している。これは会員にも見せない自分ひとりだけの趣味」

「ちくしょう!ちくしょう!言いがかりだ、策略だ!陰謀だぁ!」
 藍本はドアを背にズルズルとその場にへたり込んでしまった。
 動揺して泣きじゃくり、先ほどの余裕など霧散してしまっている。
 祐実はゆっくりと藍本に歩み寄る。

「脱がせた制服や下着は自室に持ち帰って自分が着て楽しむのよね」

「しょ、証拠があるっていうのかっ!犯人が僕だって言う証拠がっ!」
 祐実は手にしたリモコンをテレビに向けた。
 そこには自室で外資系ディーラーの制服を着てマスターベーションをする自分のビデオ映像が映し出された。

「えぇ・・・・・・・っ!」
 藍本は絶句した。
「これ、ほら。つい先月の西葛西ロイヤルシャトーで犯した小池悠子さんの時のよね」
「・・・・・・・・・」
「だめよ、盗撮する側の人間が自分の家の盗撮に気がつかないなんて。マニア失格じゃない?あと大切なあなたのデータベース、プリントアウトしたのがコレ」

 藍本は祐実からむしりとるようにその中身を見てワナワナと震えた。
「照会してみようか。チーム4は凶悪な性犯罪、特に強姦事件のエキスパートチームよ。そこのデータベースにこのコたちの情報かけてみようか。頭髪だってあなた結構部屋に落としてるみたいよ」

「・・・・・・・・・・・・・・・」
「最近の女の子たちも強くなってきたから泣き寝入りしないの。あなたが彼女たちにかけた強請りの声も証拠として残ってるはずよ。今までの会話もレコーダーで録ってみたから声紋チェックしてみましょうか、あなたのお仲間の情報科学第三研究室に依頼して・・・・DNA鑑定もいいかな」


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁあっぁぁぁぁっぁ」
 藍本はほとんど声にならないような嗚咽を漏らしてその場にうずくまった。

「あなた、本当に犯罪心理学のプロ?笑っちゃうわ」
「教える、パスワードは教えるから、警察には、警察には言わないでくれ」
 藍本は祐実の足にすがりついた。

「あらぁ?奇遇ね、私も警察よ。もちろん、あなたもね」
「頼む、この通りだ。金もやる、パスワードも、何もかも・・・・」
「あら?交渉決裂じゃなかったの?」
「頼む、たのむぅぅぅ、助けてくれ、助けてくれよ、見逃してくれよぉうぅ」


「私には今後も協力する?」
「する、約束する。できることなら何でもするよ」
「ムチも十分効いたようだし、今後も協力してくれるって言うのなら少しはアメもあげようかな」
「えっ?」
「言ったでしょ、協力してくれるんなら悪いようにはしないって」
 祐実は藍本にソファに座るよう促し、デスクへと立ち戻った。

「今日の当直は誰か」
 祐実はデスクのインターフォン越しにセンターにつなぐ。
「はい。私です、不破美穂です」
 すぐさま回答が帰ってきた。
「美穂ね、ちょうどいい。私のところに来るように」
「はい・・」

 1分もしないうちに美穂がチーフ室へと入ってきた。
 自分が何をされるのか不安な色を隠せない藍本はソファの隅で小さく体を震わせている。

「不破美穂、参りました」
「美穂、あなたにお願いがあるの、命令よ」
「はい」
 そう言うと祐実は美穂に耳打ちをした。
「・・・・・・・・はい。祐実さまの言葉のままに」
「あなたがリードするのよ」
「はい」
「藍本さん、紹介するわ。かつて私の先輩で今は直属の部下、不破美穂よ」
「不破美穂です」
 美穂の挨拶にも藍本は呆然と彼女を眺めるだけだ。
「美穂、こちら科警研の藍本政樹さん。私の協力者よ」
 意味深な『協力者』と言う言葉に藍本ははっと我に帰って祐実を見上げる。
 祐実の視線と口元には意味ありげな笑みが浮かんでいるようにも思える。


 その藍本の座るソファの前に美穂が立った。
「ねぇ、藍本さん見て。コレがレディースワットの制服よ」
「・・・・・・知ってるよ、それくらい。署内用の平時制服だろ」
 藍本はまだ投げやりな口調で言い捨てた、「だからなんだ」とぐらい言い捨てるような自嘲気味な態度だ。

「いいわよ、切っても」
 そう言うと美穂は祐実から渡された鋏の持ち手を藍本に差し出す。
「えっ・・・・・・・・・」
「好きなんでしょ、制服。私が着てるの、これレプリカじゃなくって本物のレディースワットのユニフォーム(制服)よ、ウフ」

 中腰でヒップを突き出した姿勢で振り返る美穂はそのまま卑猥に腰をくねらせた。
 目の前で腰を振り挑発する美穂を見て藍本は言葉も出せずに唖然としている。
 視線の先で美穂はまるでモデルのように微笑みかけ、一方で祐実の表情は藍本の表情を楽しむかのように不敵に笑んでいる。

「美穂、カレは巨乳が好きらしいわよ、あなたの胸いかがかしらね」
「藍本さん、美穂の胸の大きさじゃお気に召しません?これでも一応Fカップなんですけど、これでは不満?」

 美穂は藍本に近づくと両手で胸を寄せあげて彼の目の前に差し出した。
 美穂の息遣いが目の前に迫り、視線の30センチ先には制服に包まれた肉感の十分なバストが差し出されている。

 制服の上から皺になったシャツの奥からブラジャーの柄がくっきりと浮かび上がるさまは藍本のツボをチリチリと刺激する。

「なに真面目な顔してるのよ、ほっらぁ」
 藍本の右手を強引にとって美穂は自分の制服のシャツの上から豊満な胸をあてがった。
「男なら好きにしたら?ウフフ」
 ぶつからんばかりに前のめりになって美穂は藍本の鼻の頭をペロンと舐めて妖艶に自分の唇の周りを舌で舐めとるような挑発的な仕草を見せる。
 
 戸惑いを隠せない藍本の手は美穂の胸に置かれたまま一向に揉む気配さえ見せない。
 美穂はチラッと祐実の顔を窺うと祐実は顎を少し突き出すように美穂を促した。
 美穂が頷く。
 いきなり白くて美しい美穂の手が藍本の股間に差し込まれた。
「お、おぅっ!」
 びっくりして藍本は嬌声を上げた。
「元気のない男は嫌われるゾっ!ウフフ」
 美穂は鋏を取るとスカートにスリットを入れるように乱暴に切り裂き、ネクタイを取って胸元からシャツもすっぱりと切り裂いた。

「好きにして、い・い・の・ヨ」
 そういうとスリットで楽になった腰を絨毯敷きの床に下ろして、藍本のズボンのチャックをつまんでゆっくりと下ろしにかかる。

「わたしが藍本さんを元気にしてあげる」
 藍本の股間に美穂の顔が近づくと藍本は生まれて初めて風俗嬢以外からのフェラチオにいきなり勃起した。

「すごい、すぐ元気になっちゃったね。ね、ね、しよ」
 藍本は呼吸も荒くいきなり素手で美穂の服を引き裂き始めた。
「あん、激しいんですね」
 脇からの不気味とも思える祐実の鋭い眼差しに、はっとして藍本は一瞬動きを止めると祐実に視線を投げる。
 互いの視線がぶつかった。

「言ったでしょ。協力してくれれば悪いようにはしないって。そのコ、あなたと最後まで悦んでするつもりよ、ココでね」

「か、彼女になにかをしたのか、薬物とか・・・」
「あら?なにかをするのはあなたでしょ、藍本さん。それともココでやめて秘密を暴露されて破滅する?私に協力し続けてくれるなら秘密もばれず、サイトも継続できて、それにレディースワットのコを好きにできるのよ」

「あるわけないだろっ!こんなのデキ過ぎてるっ。スワットにいるような人間が他人相手に簡単にカラダを許すもんか」

「あらそう?私のチームでは上司の命令は絶対服従なのよ。で、なければ我われの仕事は勤まらない。残念ね、彼女、しっかりあなたのモノ咥えて悦んでるっていうのに」
 祐実はせせら笑った。
「信じられないねっ」
 藍本の敵意が祐実に向けられた。

「シテ、してよ、美穂もう我慢できなぁい」
 美穂はしなだれかかるように藍本をソファに押し倒した。

「ねぇ〜、とろけさせて、ドロドロに溶かしちゃってぇ。私、スキなの「オ・ト・コ」」
 そう言いながら妖艶な笑みを浮かべて美穂は楽しげにチロチロと舌を藍本の亀頭に這わせている。

「彼女もああ言ってるんだから、食べちゃったら?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」

「仮に彼女が何かの要因で自我を失っているとしたって、これからの人生、あなたがこれほどの特上の女を抱ける機会ってあると思う?」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「しかも、お店でもない、本物のレディースワットのユニフォームを着た、本物の隊員が、本署で、あなたの趣味に合そうっていってるのに、もったいないと思わない?」

「・・・・・・・・・・・・・・・」
 藍本は険しい顔つきのまま祐実からの視線を逸らさない。
 張り詰めた警戒心が顔の表情に表れている。

「やれやれ、あなたには自分の置かれている立場ってモノをもっと自覚する必要があるんじゃないかしら」
「・・・・・・・・・・・」

「美穂、命令よ『起きなさい』、今のあなたの状況はすべてその男のせいよ。命令よ、『私の言うことはすべて正しい』」

 次の瞬間、藍本の腹の上で美穂の悲鳴が上がった。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁあぁぁーっ!」
「美穂、大変なことになったわね。怒りなさい、憎みなさい。すべてその男が悪いのよ!我慢なんてする必要ないわ懲らしめなきゃね、フフフ」
 美穂は不敵に笑いながら藍本を見ている。
「えっ・・・・」
 藍本はたじろいだ。
「許さないっ!私に、私に、無理やりこんな下劣なことさせるなんてっ!」
 美穂の目は涙で潤みながらも憎悪の炎が燃え上がって吊り上るまでに豹変していた。
 およそ、さっきまでの色狂いな表情を想像することさえできない。

「許さないっ!許すもんかっ!」
 美穂は祐実さえも視界に入っていない様子で藍本の両襟を掴みあげて締め上げ始めた。
「許さないっ!許さない!許さない!許さない」
「がっ!あ、あ、あ、あが・・・・・・ひつ・・・ひぃぃぃぃぃぃ」

 祐実は自分を見失って藍本を絞め殺そうかとまで逆上している美穂と蒼白になって体をバタつかせている藍本を見て笑っている。
「今日の夕刊見出し、何社独占できるかしら?『盗撮強姦サイト管理人、実は警察関係者』サブタイトルは『本署に侵入してレディースワット隊員を犯し損ね逮捕』でいかが?アハハハハハハハ」

 苦しみのあまり震える右手を祐実にむかって助けを請うかのように藍本はのばした。

「助けて欲しいの?」
「ぐ、ぐ、ぐ、るじぃ・・だ、だず、だずげで・・・」
「私の命令は絶対。私への裏切りは死よ、いいわね、わかった?」
 すでに声を出せない藍本は必死の形相で首を縦に振った。

「美穂、命令よ。「藍本政樹とのSEXに集中しなさい。他はすべて忘れなさい」

 藍本は一瞬にして苦痛から解放された。
 失いかけた意識を取り戻し、必死に体内へ酸素を送るため大きく何度も息を吸う。

 その刹那、再び甘酸っぱいオンナの香りが再び鼻腔を突いた。
「美穂、藍本さんとSEXしたい、したいの。何度も、何度も、なんどもぉーっ!」
 美穂は自分で自分を抱くように胸の前で腕を交差して悩ましげにカラダをくねらせ、藍本に擦り寄った。
「ホラ、美穂の自由意志でしょ。どうするの?彼女となら起きている女とのSEX、最後までイケるんじゃないかしら?彼女、なんでもわがまま聞いてくれるわよ」

「きくぅ、聞きますぅ、美穂なんでも藍本さんの言うこときくっ!だから気持ちよくして、いっぱい感じさせて」
 憎悪に溢れていた顔つきは消え、美穂の表情はあっという間に艶に酔うオンナの顔つきに変わってしまっていた。
 普通の人間とは思えなかった。

(ふ、ふざけんじゃねぇよ。何が自由意志だ。このオンナ、祐実の操り人形じゃネエか!できるのか、こんなことが・・・・)

 言うや否や美穂は再び藍本のムスコにしゃぶりついた。
 切れ切れになった制服を片手で脱ぎ始める。
 しばらく美穂を凝視していた藍本は意を決したように美穂の手をとった。

「ぬ、脱ぐな!制服を着たままでいてくれ!パンティーもブラもオレが、オレが切る!」
「あんっ!」
 美穂を強引に仰向けにして鋏を取ると腰骨のあたりからパンティーの一番細いところに刃を這わせる。

「いやん、つめたぁい」
「違うな、ここじゃもったいない。股のところで切って腰にパンティーを残した方がいい。クク」
 藍本の顔色からあっという間に戸惑いと不安が消え去っていた。
 美穂の青いパンティーが濡れて群青色になったところに鋏が入ろうとしたとき、その手を祐実が止めた。

「藍本さん、交渉成立でいいわね」
「何言ってんだい、選択肢は一つしかないくせに。殺されかけたんだぞ」
「フフフ、そう。心を決めれば楽でしょ?藍本さんは私に飼われるしか生き残る道はないのよ。裏切れば即破滅」

「決めたよ。美穂ちゃんほオレのモンだ」
「あん、うれしい。入れて、入れて」

「えらい切り替えの早いこと。『僕』から「オレ」?一皮むけた?藍本さん」
「コードは『MIRROR』、M・I・R・R・O・R。これですべてのファイルが開くはずだよ」

「嬉しいわ、協力的で。ついでにさっき言ってた研修報告の極秘内容ってなにがあったの」

「プロジェクト L−2。成田空輸ルートの薬物対策のため警察庁と千葉県警が合同で推し進めていた幻の捜査プロジェクトだよ」

「「L」なんてプロジェクトコードはないはずよ」
「ないよ。「L」はLOSTの「L」、起草計画事実さえも抹殺されたプロジェクトの整理コードの頭文字「L」さ」




【 PD(通称:パドック)5階職員専用通路 】


 早朝、伊部奈津美は署内の特殊用度課へと向かっていた。
 特務局からの動員要請を受け、作戦監査の任務がある当日にも関わらず2時間だけの依命に応えるためだった。

「なんで、なんで男装なんて命令・・・・」
 承服しかねる命令に奈津美は何度も不満を口にする。
 通路で行き交う職員への挨拶もそぞろに真っ直ぐ前を見て歩いていた奈津美の右腕が喫煙ブースから伸びた手に無理やり引っ張られた。

「えっ」

 バランスを崩して前のめりになった奈津美の足を簡単にはらってブース奥の自動販売機の影にうつぶせに倒し込む。
 
 分煙のためのブースの扉が無機質な音を立てて閉じていく。
 

 予測外の事態に奈津美はどうすることもできず、いとも容易く組み伏せられた。
 利き腕の右手を捻りあげられ上に、覆い被さり首を押さえつけられては相手を確認することもできなかった。

 両手、両足ことごとく相手の五体に押さえつけられ組み伏せられ、密室状態の中に奈津美はいる。

「ちぃっ!」
 油断とスキのあった自分に今さらながら腹立たしさを覚える。

「伊部奈津美、あなたをこの場で抹殺します」

 聞き覚えのある声に奈津美は愕然とした。
「奈那・・・・その声は奈那ね。一体どうして!」

「・・・・・・わたしは明智祐実さまの命令に忠実に従う下僕。祐実さまの命令は私にとっては絶対」

 抑揚のない声で奈那は淡々と言葉を吐いた。
「くっ!祐実、祐実のヤツ!やっぱり、やっぱりぃっ!」
 悔しさが込み上げてくる。
 祐実が非合法な手段で仲間の一部を掌中に収めて手駒としていいように使い捨てている想像はこれで紛れもない事実だと確信した。

 思い切りもがいても奈那の拘束は緩まない。
 奈那は柔術、逮捕術にあっては、チームの中でも最も高度な技量の持ち主だった。
 たとえそれが何のため、誰のために使われるのであっても奈津美のかなう相手ではない。
 サイレンサーの硬く冷たい感触が奈津美のこめかみから伝わる。

「奈那、眼を覚まして!あなたは、あなたは・・・・」
「伊部奈津美、祐実さまの命令を伝えます。『抵抗をやめて、おとなしく、この松永奈那に殺されなさい』。あなたが祐実さまの下僕なら、祐実さまのご命令に従うことがあなたの幸せのはず」

「な、なにが『幸せ』よっ!ふざけるのもいい加減にしてっ!殺されてたまるもんですかっ!それも、それも・・親友のあなたにぃっ!」

 必死に奈那から逃れようと抵抗を試みるが、奈那はそんな奈津美の抵抗を利き腕をさらに捻りあげることで制した。

「痛っ!」
 堪えがたい激痛が頭の奥にまで走り、奈津美の抵抗する気力を簡単に奪い去る。
 体の痛みより奈那によって殺される哀しさに涙が滲んだ。

「祐実の・・・祐実の命令なんかきけるもんかっ!私は、私は・・以前のあなた達を取り戻したいのっ!」

 奈津美にできることは悪態すらつけずに叫ぶしかない。

「言いたいことはそれだけ?」
「くっ・・・・」
「なら、死になさい。伊部奈津美・・・・・・・さようなら」
 乾いたサイレンサーの音が奈津美の耳元で聞こえた。

 
 


 

 

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